説明

ネコの寿命を延長する方法

標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料をネコに与えることによって、ネコの寿命を延長する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年4月29日出願の米国仮出願No.60/676,624、及び2005年6月22日出願の米国仮出願No.60/692,780(これらの開示事項は参照として本明細書に包含する)に関する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、ネコの寿命を延長する方法に関し、特にネコの寿命を延長するために、タンパク質、リン、及びナトリウムの減少したレベルを有する餌料を用いることに関する。
【背景技術】
【0003】
慢性腎不全(CRF)は、中年〜老年のネコにおいてよく起こり、CRFが発生する頻度は明らかに上昇している。2000年においては、10歳以上のネコの間での腎不全の有病率は約27%であり、15歳以上のネコの間では約49%もの高さである。
【0004】
殆どの動物において、その一生の間に腎機能における進行的な低下が認められる。殆どの動物とは異なり、ネコは、その一生の間に腎機能における大きな低下は認められないが、その代わりに晩年における幾つかの時点でCFRの徴候の急激な発症が認められる。CRFは、進行的な構造的病変を特徴としており、これにより、腎臓の排泄、生合成、及び調節機能の機能障害が引き起こされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食餌改善は、ネコにおける自発性CRFの外的徴候を最小にするための治療の中心である。しかしながら、明らかに、「腎臓餌料」、即ち自然発生的な腎不全を有するネコに適した食餌管理の長期間有効性、並びに特にネコの長寿性に対するかかる餌料の効果を評価する、無作為抽出され、マスクされ、制御された臨床試験は、報告されていない。したがって、ネコの腎不全及び腎臓病を治療し、したがってネコの寿命を延長するための新規な方法に対する必要性が存在する。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ネコの寿命を延長する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、ネコの腎不全の発症を遅延する方法を提供することである。
本発明の更なる目的は、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させることである。
【0007】
本発明の他の目的は、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるのに有用な組成物及び器具の組み合わせを含むキットの形態の製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの及び他の目的は、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるための新規な方法を用いて達成される。この方法は、ネコに、標準的な維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料を与えることを含む。
【0009】
本発明の他の及び更なる目的、特徴及び有利性は、当業者には容易に明らかとなるであろう。
「寿命を延長する」という用語は、自然の原因によるか、又は、動物の飼育者又は獣医師の判断で動物についての生活の質が大きく且つ不可逆的に悪化した際の安楽死によるその死亡時の動物の暦年齢を上昇させることを意味する。
【0010】
「ネコ」という用語は、イエネコ(フェリス・ドメスティカス)及びそれらの野生及び野生化同種近縁種を含み、更に制限なしに他のネコ種の野生外来捕獲動物、例えばライオン、トラ、ヒョウなどを含み、科学的、教育的又は娯楽目的で飼育されているものを含む、任意のネコ種の動物を意味する。好ましくは、ネコは、飼いネコである。
【0011】
「維持のための実質的に全ての栄養必要量」という用語は、本発明において規定するような餌料の減少したタンパク質レベルを前提として、少なくとも、NRC(米国学術研究会議)及びAAFCO(アメリカ飼料検査官協会)のような機関によって発表され、時々更新されているガイドラインにしたがう、ネコに必要な主要栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質、及び繊維)の維持量を意味する。場合によっては、餌料は、更に、本発明において規定する餌料の減少したリン及びナトリウムレベルを前提として、少なくとも維持量の1以上の主要栄養素、例えばビタミン、必須アミノ酸、必須脂肪酸、及びミネラルを含むが、主要栄養素は、更に又は代わりに、餌料を構成する1以上の餌料組成物の一部を形成しない1以上のサプリメントの形態で供給することができる。成猫の維持のための栄養必要量に関する更なる情報は、例えば、NRC(2003)イヌ及びネコの栄養必要量、p.431〜434のような情報源において見出すことができる。
【0012】
「ネコに餌料を与える」という用語は、ネコに、消費のために、標準量、例えば日常量の、ネコの維持のための実質的に全ての栄養必要量を一緒に満足する1以上の餌料組成物を与えることを意味する。餌料は、動物の維持のための実質的に全ての栄養必要量が満足され、餌料が本発明において規定するタンパク質、リン、及びナトリウムの減少したレベルを有する限りにおいて、かかる給餌の間に必ずしも一定ではない。例えば、ネコに対して、所望の度に、一つのブランドのキャットフードから他のものに、或いは湿潤組成物(例えば缶入りのキャットフード)から乾燥組成物(例えば顆粒状物)に、或いはその逆に切り替えることができる。
【0013】
「腎臓薬」という用語は、腎不全又は腎臓病を予防又は治療するのに有用な任意の化合物、組成物、又は薬剤を意味する。
本発明は、本明細書において記載する特定の方法論、手順、及び試薬に限定されるものではなく、それらは変化してよい。更に、本明細書において用いる専門用語は、特定の態様のみを説明する目的のものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書及び特許請求の範囲において用いるように、単数形は、本明細書の記載が明確に他のものを示していない限り複数形も包含し、例えば「宿主細胞」は複数のかかる宿主細胞を包含する。
【0014】
他に定義しない限りにおいて、本明細書において用いる全ての技術用語及び科学用語並びに任意の頭字語は、本発明の分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと同様か又は等価の任意の方法及び材料を本発明の実施において用いることができるが、好ましい方法、装置、及び材料を本明細書において記載する。
【0015】
本明細書において言及する全ての特許、特許出願、及び特許公開は、本発明と共に用いる可能性のあるそこで報告されている化合物及び方法論を記載且つ開示する目的で法律によって許される範囲まで、参照として本明細書中に包含する。しかしながら、このことは、先行発明のために本発明がかかる開示に先行する資格がないことを認めるものと解釈されるものではない。
【0016】
種々の態様において、本発明は、(1)ネコの寿命を延長し、(2)ネコの腎不全の発症を遅延し、(3)ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少するための方法を提供する。本方法は、ネコに、標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料を与えることを含む。本発明は、ネコにタンパク質、リン、及びナトリウムが比較的低含量の餌料を与えることによってネコの腎機能を変化させることができ、腎機能を変化させることによって、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、ネコの腎臓病の罹病率及び死亡率を減少することができるという新規な発見に基づく。
【0017】
「標準的なネコの維持餌料」は、例えばここで引用する参考文献においてNRC又はAAFCOによって示されている健康な成猫の維持のための栄養必要量を満足し、タンパク質、リン、又はナトリウムのいずれにおいても「高含量」でない餌料である。タンパク質において「高含量」であるネコ餌料は、乾燥物質で約50%より高いタンパク質含量を有し、及び/又は、100kcal MEあたり約10gより多いタンパク質を与えるものである。リンにおいて「高含量」であるネコ餌料は、乾燥物質で約1.2%より高いリン含量を有し、及び/又は、100kcal MEあたり約0.25gより多いリンを与えるものである。ナトリウムにおいて「高含量」であるネコ餌料は、乾燥物質で約0.5%より高いナトリウム含量を有し、及び/又は、100kcal MEあたり約0.1gより多いナトリウムを与えるものである。タンパク質、リン、又はナトリウムにおいて「高含量」でない代表的な標準的ネコ維持餌料は、乾燥物質基準で、約45%のタンパク質、約1%のリン、及び約0.4%のナトリウムを含み、100kcal MEあたり約9gのタンパク質、約0.2gのリン、及び約0.08gのナトリウムを与える。
【0018】
タンパク質、リン、及びナトリウムの「減少したレベル」を有するネコ餌料は、餌料を消費するネコが、延長した寿命、腎不全の発症の遅延、及び腎臓病に関係する罹病率及び死亡率の減少を経験するような、標準的なネコの維持餌料中のものよりも十分に低いレベルを有するものである。通常は、本発明の利益を達成するためには、餌料中のタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルは、標準的なネコの維持餌料中のものから少なくとも約10%減少させる。
【0019】
餌料中のリン及びナトリウムのそれぞれを標準的なネコの維持餌料と比較して少なくとも約10%減少させる一態様においては、タンパク質は、約12%〜約60%、好ましくは約18%〜約48%、約24%〜約44%、又は約30%〜約40%減少させる。この態様による乾燥物質基準での餌料のタンパク質含量は、約18%〜約40%、好ましくは約23%〜約37%、約25%〜約34%、又は約27%〜約32%、例えば約28%〜約30%である。ME基準で表現して、餌料のタンパク質含量は、約3.6〜約7.9g/100kcal ME、好ましくは約4.7〜約7.4、約5.0〜約6.8、又は約5.4〜約6.3g/100kcal MEである。
【0020】
餌料中のタンパク質及びナトリウムのそれぞれを標準的なネコの維持餌料と比較して少なくとも約10%減少させる他の態様においては、リンは、約15%〜約80%、好ましくは約20%〜約75%、約30%〜約65%、約40%〜約60%、又は約40%〜約55%減少させる。この態様による乾燥物質基準での餌料のリン含量は、約0.2%〜約0.85%、好ましくは約0.25%〜約0.8%、約0.35%〜約0.7%、約0.4%〜約0.6%、又は約0.45%〜約0.6%である。ME基準で表現して、餌料のリン含量は、約0.04〜約0.17g/100kcal ME、好ましくは約0.05〜約0.16、約0.07〜約0.14、約0.08〜約0.12、又は約0.09〜約0.12g/100kcal MEである。
【0021】
餌料中のタンパク質及びリンのそれぞれを標準的なネコの維持餌料と比較して少なくとも約10%減少させる他の態様においては、ナトリウムは、約12%〜約90%、好ましくは約15%〜約80%、約18%〜約70%、又は約21%〜約60%減少させる。この態様による乾燥物質基準での餌料のナトリウム含量は、約0.04%〜約0.35%、好ましくは約0.08%〜約0.34%、約0.12%〜約0.33%、又は約0.16%〜約0.32%である。一態様においては、ナトリウム含量は、乾燥物質基準で約0.2%〜約0.35%である。ME基準で表現して、餌料のナトリウム含量は、約0.008〜約0.07g/100kcal ME、好ましくは約0.016〜約0.07、約0.02〜約0.07、又は約0.03〜約0.06g/100kcal MEである。
【0022】
タンパク質、リン、及びナトリウムのそれぞれを本発明において規定するように減少させた缶入りネコ餌料の実例としては、制限なしに、Hill’s Feline k/d、Hill’s Feline k/d with Chicken、Hill’s Feline g/d、Hill’s Feline l/d、Purina Veterinary Diet NF、及びRoyal Canin Veterinary Diet Renal LP21が挙げられる。例えば、Hill’s Feline k/d缶入り餌料は、給餌基準で8.4%、乾燥物質で28.6%、6.6g/100kcalのタンパク質;給餌基準で0.10%、乾燥物質で0.34%、0.078g/100kcalのリン;給餌基準で0.09%、乾燥物質で0.31%、0.07g/100kcalのナトリウムを含む(平均栄養素含量)と提示されている。
【0023】
タンパク質、リン、及びナトリウムのそれぞれを本発明において規定するように減少させた乾燥ネコ餌料の実例としては、制限なしに、Hill’s Feline k/d、Hill’s Feline g/d、Hill’s Feline l/d、Hill’s Sceience Diet Adult Ocean Fish & Rice Recipe、Purina Veterinary Diet NF、及びRoyal Canin Veterinary Diet Renal LP21が挙げられる。例えば、Hill’s Feline k/d乾燥餌料は、給餌基準で26.2%、乾燥物質で28.3%、6.7g/100kcalのタンパク質;給餌基準で0.45%、乾燥物質で0.49%、0.114g/100kcalのリン;給餌基準で0.23%、乾燥物質で0.25%、0.058g/100kcalのナトリウムを含む(平均栄養素含量)と提示されている。
【0024】
本発明の餌料をネコに与えることは長期間の作業である。例えば、ネコに、本発明による餌料を、少なくとも約6ヶ月、少なくとも約1年、少なくとも約2年、少なくとも約3年、或いは腎不全又は腎臓病の発症又は最初の診断後に開始してネコの寿命の実質的に残りの期間継続して与えることができる。本方法の長期性を前提として、タンパク質、リン、及びナトリウムのいずれかを、ネコの全般的な健康状態と整合する最小値以下のレベルに制限することは一般的に望ましくないことを理解すべきであろう。したがって、一態様によれば、タンパク質は、乾燥物質で約25%以下、或いは約5g/100kcal ME以下には減少させない。他の態様によれば、リンは、乾燥物質で約0.45%以下、或いは約0.09g/100kcal ME以下には減少させない。他の態様によれば、ナトリウムは、乾燥物質で約0.04%以下、或いは約0.008g/100kcal ME以下には減少させない。
【0025】
一態様においては、餌料は、乾燥物質基準で、約27%〜約32%のタンパク質、約0.36%〜約0.54%のリン、及び約0.15%〜約0.32%のナトリウムを含む、かかる餌料は、通常、100kcal MEあたり、約5.4〜約6.3gのタンパク質、約0.08〜約0.12gのリン、及び約0.03〜約0.06gのナトリウムを与える。腎臓病を有するネコにかる餌料量を与えることで、約45%のタンパク質、約0.9%のリン、及び約0.4%のナトリウム(100kcal MEあたり、約9gのタンパク質、約0.2gのリン、及び約0.08gのナトリウムを与える)を含む標準的なネコの維持餌料と比較して寿命を延長することによって本発明が実証される。本明細書において記載する餌料の寿命延長効果は、比較試料として用いる標準的な餌料それ自体がタンパク質、リン、又はナトリウムのいずれかにおいて上記に定義したような「高含量」ではないことを認識すると、特に驚くべきことである。
【0026】
他の態様においては、餌料は、「給餌」基準で、約5%〜約40%の量のタンパク質、約0.01%〜約2%の量のリン、及び約0.01%〜約2%の量のナトリウムを含む乾燥餌料を含む。この態様によれば、「給餌」基準で、乾燥餌料のタンパク質含量は、約10%〜約30%、又は約24%〜約30%であってよく;リン含量は、約0.05%〜約1%、又は約0.2%〜約0.5%であってよく;及び/又は、ナトリウム含量は、約0.05%〜約1%、又は約0.15%〜約0.35%であってよい。
【0027】
他の態様においては、餌料は、「給餌」基準で、約4%〜約12%の量のタンパク質、約0.03%〜約0.2%の量のリン、及び約0.03%〜約0.2%の量のナトリウムを含む湿潤餌料を含む。この態様によれば、「給餌」基準で、湿潤餌料のタンパク質含量は、約5%〜約11%、又は約6%〜約9%であってよく;リン含量は、約0.05%〜約0.15%、又は約0.08%〜約0.1%であってよく;及び/又は、ナトリウム含量は、約0.05%〜約0.15%、又は約0.08%〜約0.1%であってよい。
【0028】
場合によっては、餌料は、タンパク質、リン、及びナトリウム以外の栄養素に関して改変することができる。例えば、餌料に、ポリ不飽和脂肪酸、より好ましくはω−3脂肪酸、例えばドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)を補給することができる。多くの他のかかる改変は、当業者に公知である。
【0029】
栄養所要量は、例えばg/MJ又はg/100kcalで、餌料の代謝エネルギー(ME)含量に関連して表現することができる。本明細書においては、タンパク質は、他に示さない限りにおいて、全粗タンパク質として表す。本明細書において、組成に関するパーセントは、他に特に示さない限りにおいて、「乾燥物質」基準で表す。
【0030】
更なる方法は、所定の期間、ネコに対して1以上の腎臓薬を投与しながら、標準的なネコの餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料をネコに与えることを含む。通常、健康管理の専門家、例えば医師及び獣医師が、ネコの腎臓病を診断し、疾病を治療するための腎臓薬(ネコの腎臓病を予防又は治療するのに有用な任意の薬剤)を処方する。症状が治まり、疾病が治癒されたと認められるまでネコに腎臓薬を投与するか、或いは慢性腎臓病に関しては投与を無期限に継続する。本発明においては、タンパク質、リン、及びナトリウムの減少したレベルを有する餌料をネコに与え、ネコに対して疾病を治療するための腎臓薬を投与する。本発明において有用な腎臓薬は、腎臓病と闘うのに有用であることが当業者に公知の任意の腎臓薬である。好ましい薬剤としては、米国特許6,589,748に記載されているもののようなリソソーム活性化化合物、米国特許6,784,159に記載されているもののようなトリテルペンサポニン、米国特許6,559,876及び米国特許出願20020028762に記載されているもののようなアクチビン阻害薬、米国特許6,492,325に記載されているもののようなインテグリン受容体阻害薬及びTGF阻害薬、米国特許6,458,767に記載されているもののようなTGF活性化阻害薬、及び米国特許5,723,441に記載されているインスリン様成長因子(IGF)が挙げられる。最も好ましい薬剤としては、変換酵素(ACE)阻害薬、アンドロゲン、エリスロポイテン、及びカルシトリオールが挙げられる。アンギオテンシン及びエンドセリンは、進行性腎損傷に寄与する特異的な腎臓内効果を有する強力な全身血管収縮剤である。これらの血管収縮剤の効果を緩和するために種々の腎臓薬を用いる。アンギオテンシン変換酵素阻害薬(エナラプリル−Enacard及びVasotec、並びにベナゼプリル−Lotensin)は、タンパク尿症の重篤度を低め、腎不全の進行を遅延するために用いられてきた。ACE阻害薬であるエナラプリル(Enacard、Vasotec)は、糸球体及び全身高血圧症、タンパク尿症、並びに、糸球体及び尿細管質病変を抑止する。アンギオテンシン遮断薬及びエンドセリン阻害薬は、腎臓病において有益な効果を有する。血管ペプチド阻害薬は、ACEと、ナトリウム利尿性ペプチド、アドレノメデュリン、及びブラジキニンの分解に関係する酵素である中性エンドペプチダーゼの両方を阻害する薬剤である。これらの腎臓薬は、アンギオテンシンIIの生成を減少し、血管拡張剤の蓄積を増加させる。全身高血圧症を有する腎臓病患者は、アムロジピン(Norvasc)のようなカルシウムチャンネル遮断薬に反応する。尿毒症性胃炎(食道炎、胃炎、胃潰瘍、及び胃出血)は、H受容体拮抗薬(シメチジン−Tagamet、ファモチジン−Pepcid)、プロトンポンプ遮断薬(オメプラゾール−Prilosec)、細胞保護薬(ミソプロストール−Cytotec)、及び嘔吐中枢に作用する制吐薬(クロルプロマジン−Thorazine、ペルクロルペラジン−Compazine、メトクロプラミド−Reglan)によって治療する。アンドロゲン又はタンパク同化ステロイド(Stanozol、Winstrol−V)は、慢性腎不全に関係する貧血症の治療において用いられている。組み換えヒト(又は他の種)エリスロポイテン(Epoetin−α、Epogen、Procrit)を用いるホルモン補給療法は、腎不全に関係する重度の貧血症に対する最適の治療である。リン酸塩過剰血症及び二次性腎上皮小体機能亢進症を抑えるために、リン酸塩吸着薬(水酸化アルミニウム−Amphojel、炭酸アルミニウム−Basaljel)が用いられている。カルシトリオール(1,25−ジヒドロキシコレカルシフェロール)(Rocaltrol)及びビタミンD類似体は、カルシウム独立性の上皮小体ホルモン(PTH)の抑制を引き起こす。リン酸塩吸着薬、カルシトリオール、及び関連する化合物の投与は、慢性腎不全において、PTHに起因する多臓器毒性を抑制するのに推奨されてきた。カリウム欠乏症及び低カリウム血症は、慢性腎不全を有するネコにおいて通常見られる。カリウムのグルコネート又はサイトレートの形態のカリウムの経口補給が推奨されている。全体的な腎臓薬及び組成物もまた、本発明に包含される。好ましい全体的腎臓薬としては、クランベリーエキス及びマンノースが挙げられる。クランベリーエキスは、腎機能の長期衰退に関する一般的な危険因子である尿路感染症の有病率を減少させると主張されている。腎臓薬としては、通常の小分子薬剤、低分子タンパク質、高分子タンパク質及び高分子、並びに抗体が挙げられ、更に腎臓病を予防するように設計されたワクチンも挙げられる。抗体としては、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、並びに、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)のような免疫グロブリンフラグメント、或いは抗原と相互作用して天然の抗体と同じ生物学的機能を行う他の抗原結合性抗体サブシーケンスが挙げられる。腎臓薬は、腎臓薬に関して適当な任意の方法を用いて、腎臓病を治療又は予防するのに十分であることが当業者に知られている量で、ネコに投与する。
【0031】
更なる態様においては、本発明は、単一の包装内の別々の容器内に、標準的なネコの餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料をネコに餌料を与えるのに好適な餌料組成物、及び1以上の腎臓薬を含む、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるのに有用なキットを提供する。
【0032】
他の態様においては、このキットは、別の包装内に、ネコにおいて腎機能を測定し腎臓病の存在及び重篤度を診断するための1以上の腎臓診断具を更に含む。本発明において有用な腎臓診断具としては、ネコにおいて腎機能を測定し腎臓病の存在及び重篤度を診断するのに好適な任意の器具が挙げられる。好ましい診断方法としては、血清尿素窒素(SUN)、クレアチニンレベル、尿比重、及びDNA損傷、例えば米国特許6,589,748、米国特許6,447,989、及び米国特許出願20050026225に記載されているもののようなアルブミンに関する尿分析、及びコメット痕跡分析が挙げられる。診断方法は、(1)上昇した血中尿素窒素濃度、上昇した血清クレアチニン濃度、高ホスファターゼ血症、高カリウム血症又は低カリウム血症、代謝性アシドーシス、及び低アルブミン血症のような血液マーカー、(2)尿濃縮能障害、タンパク尿症、円柱尿、腎性血尿症、不適切な尿pH、不適切な尿グルコース濃度、及びシスチン尿症のような尿マーカー、(3)寸法、形状、局在部位、及び密度のような身体的、造影的、及び診断的マーカー、(4)WO 2004113570−A2において開示されているもののような一塩基変異多型(SNP)、(5)腎臓病の指標である遺伝子プロファイル、(6)腎臓病の指標であるプロテオームプロファイル、及び(7)腎臓病の指標である代謝プロファイルをはじめとする公知の技術に基づく。これらの診断方法及びかかる方法に基づく器具(例えば、試験片、ELISA分析、コメット分析)は、通常、科学者及び健康管理の専門家のような当業者が利用することができ、多くのものは消費者が利用することができる。例えば、Heska Corporation(Fort Collins Colorado)のE.R.D.−HealthScreen Urine Testsは尿中の少量のアルブミン(微量アルブミン尿)を検出する。
【0033】
一態様においては、腎臓病の存在又は進行に関して定期的な診断評価を行う。かかる診断評価の結果に基づいて、餌料及び/又は腎臓薬の投与量又は処方計画を調節することができる。診断評価は、血液マーカー(例えば、上昇した血清尿素窒素濃度、上昇した血清クレアチニン濃度、高ホスファターゼ血症、高カリウム血症、低カリウム血症、代謝性アシドーシス、低アルブミン血症など)、尿マーカー(例えば、尿濃縮能障害、タンパク尿症、円柱尿、腎性血尿症、不適切な尿pH、不適切な尿グルコース濃度、シスチン尿症など)、身体的観察及び測定、造影、SNP、遺伝子プロファイル、プロテオームプロファイル、及び代謝プロファイルから独立して選択される1以上の基準に基づくことができ、1以上の腎臓診断具を用いて測定することができる。
【0034】
更なる態様においては、本発明は、単一の包装内の別々の容器内に、標準的なネコの餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料をネコに与えるのに好適な餌料組成物、及び1以上の腎臓診断具を含む、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるのに有用なキットを提供する。
【0035】
このキットは、更に、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、又はネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるために、本発明の方法及びキットを使用することに関する情報又はそのための指示を含む。
【0036】
他の態様においては、本発明は、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、及びネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるために、標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料を用いることに関する情報又はそのための指示を伝達するための手段を提供する。他の態様においては、本発明は、更に、腎臓病を予防又は治療するための腎臓薬と組み合わせて餌料を用いることに関する情報又はそのための指示を提供する。他の態様においては、本発明は、更に、本発明の腎臓診断具を用いることに関する情報又はそのための指示を提供する。伝達手段は、情報又は指示を含む文書、デジタル保存媒体、光学保存媒体、音声表示、又は画像表示を含む。好ましくは、伝達手段は、かかる情報又は指示を含む、表示されたウエブサイト又はカタログ、製品ラベル、添付文書、広告、又は画像表示である。有用な情報としては、(1)餌料と腎臓薬とを組み合わせるための方法及び技術、(2)腎臓診断具を用いるための情報、(3)存在する場合には本発明を他の薬剤と組み合わせて用いることに起因する副作用に関する詳細、(4)ネコの飼い主が本発明及びその使用に関する疑問を持っている場合にはネコの飼い主が使用するための連絡先情報の1以上が挙げられる。有用な指示としては、用量、投与量及び頻度、並びに投与経路が挙げられる。伝達手段は、本発明を用いることの利益をネコの飼い主に説明するのに有用である。
【0037】
この方法及びキットは、腎不全又は腎臓病に罹病しやすいか又はそれを患っているネコに関する罹病率及び死亡率を減少し、したがってネコの寿命を延長するのに有用である。
【実施例】
【0038】
本発明は、その好ましい態様の以下の実施例によって更に説明することができるが、これらの実施例は例示の目的のためのみに包含されるものであり、他に特に示さない限りにおいて本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0039】
実施例1
軽度〜中等度の自発性CRFを有するネコにおける尿毒症の発症率及び死亡率を最小にすることにおいて、腎臓餌料(タンパク質、リン、及びナトリウムの組成を改変した)と成猫の維持餌料とを比較するために研究を行った。尿毒症クリーゼの発現、死亡率及び腎不全の進行に対する食餌療法の効果を調べるために、CRFを治療するために通常推奨されている食餌改善の組み合わせを含ませた。このタイプのデザインの研究によって、おそらく、個々の餌料成分の治療効力を単独に研究する一連の臨床試験よりも、より有益で有効な評価が与えられるであろう。更に、食餌の改善の組み合わせを研究することは、種々の餌料成分の総合的な相互作用の評価を包含する。本実施例において、「餌料」という用語は、成猫に対して給餌する餌料を意味し、ネコによって消費される餌料の全体を必ずしも表すものではない。
【0040】
材料及び方法
ネコの選択:地域の獣医師に研究の説明を送付して照会を求めることによって、ミネアポリスのセントポール地域から45匹のネコを募集した。また、医療記録の調査及び飼い主への直接の接触を用いて、ミネソタ大学獣医医療センターの患者集団からもネコを募集した。ネコは、1歳よりも大きく、少なくとも4週間の期間の腎臓病に相応する病歴を有している場合に、登録を検討した。最初のスクリーニング往診の間に、規定の病歴、身体検査、間接血圧測定、及び血清クレアチニン濃度の測定によって患者を診断した。血清クレアチニン濃度が2.1〜4.5mg/dLであり、腎前性窒素血症の徴候がない場合に、患者を7〜21日後に再診断した。この時点で、血清クレアチニン濃度が最初の値から>20%増加又は減少しておらず、2.1〜4.5mg/dLで維持されていた場合に、患者を研究のために仮登録した。
【0041】
仮採用の後、ネコを、病歴、身体検査、全血球計算、血清生化学プロファイル、尿検査、間接血圧測定、腹部X線調査、血清T4濃度、及びネコ白血病ウィルス(FeLV)及びネコ免疫不全ウィルス(FIV)に関するELISA試験の結果に基づいて再診断した。次に、表1に示す全ての試験対象/非対象基準を満足するネコに、表2に示す配合餌料を6週間給餌した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
6週間の終了時において、7品種(30匹のドメスティック・ショートヘア、7匹のドメスティック・ロングヘア、4匹のシャム、1匹のメイン・クーン、1匹のバーマン、1匹のヒマラヤン)で2.47〜7.65kg(平均4.27(1.08kg))の範囲の体重の45匹のネコが、全ての試験対象/非対象基準を満足した。これらに対して、無作為に腎臓餌料又は維持餌料を割り当てた。
【0045】
餌料:本研究は、表3に示すように、通常の成猫の乾燥及び湿潤維持餌料を、特にネコの慢性腎臓病の治療のために設計した乾燥及び湿潤餌料(腎臓餌料)と比較するようにデザインした。
【0046】
【表3】

【0047】
いずれの餌料も、AAFCO給餌試験(腎臓餌料)によって実証されるように、又は成猫に関する最小のAAFCO栄養素プロファイル(維持餌料)を超えることによって、成猫の維持のために完全でバランスのとれた栄養素を与えた。それぞれの餌料の消化率は、成分消化率試験に基づいた。タンパク質の消化率は、腎臓餌料に関しては78.8%(乾燥)及び77.3%(湿潤)であり、維持餌料に関しては83.4%(乾燥)及び82.5%(湿潤)であった。腎臓餌料の主要な特徴は、維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムの量であった。腎臓餌料にはω−3ポリ不飽和脂肪酸を補給し、一方、維持餌料には補給しなかった。
【0048】
給餌プロトコル:研究のための資格を与えた後、全てのネコを、腎臓餌料及び維持餌料の平均の栄養素を示すように配合した配合餌料(表2)に6週間順応させた。目標は、標準的な餌料の消費量を徐々に減少し、一方、配合餌料の量を増加して、ネコが、研究餌料に無作為に割り当てられる前に3週間の間少なくとも80%の配合餌料を消費するようにすることであった。ネコにこの配合餌料を給餌して、この研究に参加する前に飼い主によって給餌されていた異なる餌料の消費に関係する変動性を最小にした。また、この方法は、腎臓餌料又は維持餌料の群に無作為に分ける時点での餌料成分における突然の変化を最小にするためにも選択された。研究を通して、飼い主に、研究に参加する前に用いていた給餌方法(自由摂食又は周期給餌)を継続するように求めた。飼い主に、体重及び身体検査の経時的診断に基づく最適の栄養素を維持するのに十分な量の餌料を与えるように指示した。自由摂食給餌は、式:1.5(30×BW(kg)+70)=CR(kcal/日)(式中、BWは体重であり、CRはカロリー必要量である)によって決定される一日のカロリー必要量に基づく所定の餌料量に制限した。
【0049】
印刷物を用いて、飼い主に、消費した研究餌料の量を監視し、消費した全ての他の餌料の量及び種類を記録することを求めた。飼い主に、体重が減少した場合には、患者に与える餌料の量を増加するように求めた。一部のネコにおいては、餌料を加温することによるか、或いは香味添加剤(希釈チキンブロス、希釈マグロ体液等)を用いることによって、餌料の摂取量を向上させた。
【0050】
研究計画:無作為抽出二重盲式比較臨床試験を行った。全ての対象/非対象基準を満足するネコの飼い主に、インフォームド・コンセントの書類を精査してサインすることを求めた。次に、6週間かけて全てのネコを配合餌料に順応させた。6週間の後であって、維持餌料又は腎臓餌料に無作為に割り当てる直前に、表4に示す、規定の病経過、身体検査、ボディ・コンディション・スコア、拡張血清生化学パネル(即ち、血清尿素窒素、クレアチニン、グルコース、無機リン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、塩化物、全CO、アルブミン、全ビリルビン及び全タンパク質濃度、並びに血清アミラーゼ、アラニントランスアミナーゼ及びアルカリ性ホスファターゼ活性)、全血球計算、静脈血ガス、尿検査、好気性菌に関する定量的尿培養、間接血圧測定、血清イオン化カルシウム及び血清上皮小体ホルモン濃度を用いることによって、それぞれのネコを診断した。これらの分析物の全てを臨床試験を通して診断したが、腎不全に関係する分析物(血清クレアチニン、尿素窒素、リン、全カルシウム、イオン化カルシウム、上皮小体ホルモン、全CO、及びアルブミン濃度)のみを、二つの餌料群の間で比較した。
【0051】
【表4】

【0052】
1:1の比のブロック無作為化(8ブロック)を用いて、ネコを腎臓餌料又は維持餌料のいずれかに割り当てた。割り当ては、密封した連番付き封筒によって行った。コード化した同一の包装材料を用いることによって、研究の二重盲性を保持した。
【0053】
腎臓餌料又は維持餌料のいずれかに割り当てた1月後、経過、身体検査、間接血圧、限られた血清生化学プロファイル(血清尿素窒素、クレアチニン、カリウム、及び全CO濃度)、PCV、及び全血漿固形分濃度の測定によって、それぞれのネコの状態を診断した。
【0054】
3月の間隔、或いは尿毒症クリーゼを示す徴候が発現した際に、ネコを診断するように計画した。計画にない診断を、飼い主の要求によって行った。0月、6月、12月、18月、及び24月での計画された往診の間に、規定の病経過、身体検査、眼底検査、ボディ・コンディション・スコア、拡張血清生化学パネル、血清イオン化カルシウム及び上皮小体ホルモン濃度、全血球計算、静脈血ガス、尿検査、好気性菌に関する定量的尿培養、並びに間接血圧測定によって、それぞれのネコを診断した。3月、9月、15月、及び21月においては、上記のプロトコルを行ったが、静脈血ガス分析、血清イオン化カルシウム及び血清上皮小体ホルモン濃度は診断しなかった。
【0055】
コンプライアンスを高め、現地での診断が計画されていなかった時に医学的な問題がなかったかを突き止めるために、依頼人に対する電話での面談を月1回行った。同じ獣医学の専門家が全ての電話面談を行った。依頼人には、割り当てられた餌料に加えた全ての餌料を含む各日に摂取した餌料の量を記録するように求めた。
【0056】
血液の採取及び分析
飼い主に、計画された診断の8〜12時間前には餌料を控えるように指示した。それぞれの往診の間に、頸静脈穿刺によって血液試料を採取した。標準的な手順によって血清を30分以内に回収した。生化学プロファイルのための血清を同じ日に処理できない場合には、遠心分離した血液から得た血清を4℃で保存して、次の日に診断した。0月、6月、12月、18月、及び24月に計画された往診の間に、それぞれの採取からの血清のアリコートを凍結(−70℃)し、PTH及びイオン化カルシウム濃度の測定のために保存した。更に、静脈血のアリコートをヘパリン化血ガスシリンジ内に採取し、20分以内にpH及び重炭酸塩濃度に関して分析した。
【0057】
尿の採取及び分析:膀胱穿刺によって尿を採取した。尿比重測定のための屈折計、化学的測定のための市販の試薬片、及び沈殿物評価のための標準的な技術を用いて、尿検査を行った。全ての尿試料について、好気性菌に関する定量的な尿培養を行った。尿タンパク質濃度は、クマシー・ブリリアントブルー染料沈殿及び分光測光法によって測定した。尿クレアチニン濃度は、自動分析装置に基づく動的ヤッフェ反応によって測定した。タンパク質及びクレアチニンの測定のための尿試料は4℃で保存し、採取の24時間以内に分析した。
【0058】
血圧測定:全ての血圧測定は、研究中に他の手順のために用いない専用の部屋で行った。標準的な方法を用いた超音波ドップラーモニターを用いることによって、収縮期血圧の測定値を得た。
【0059】
患者の治療:餌料を除いて、慢性腎不全を治療するのに用いたプロトコルは、全てのネコに関して同じであった。同様に、非尿毒症性事象を治療するのに同じプロトコルを用いた。
【0060】
低カリウム血症:本研究においては、9匹(20%)のネコが、少なくとも一回の往診において低カリウム血症(血清カリウムが<3.7ミリモル/L)であった。これらのネコの5匹(3匹は腎臓餌料、2匹は維持餌料)は、餌料の割り当て時においては軽度の低カリウム血症であった。治療を控え、餌料の割り当ての1月後に血清カリウム濃度を再診断して、新しい餌料がこれらのネコの血清カリウム濃度に影響を与えたかどうかを調べた。この時点において、5匹全てのネコにおいて低カリウム血症が軽快した。残りの4匹のネコのうちの2匹は、12時間毎に40〜75mg/kgの用量でクエン酸カリウムを経口投与し、必要に応じて継続して、それらの血清カリウムを≧3.7ミリモル/Lに維持することによって治療した。他の2匹のネコは、進行性新生物腫瘍に続発する栄養不良状態と同時に低カリウム血症を発現した。
【0061】
高血圧症:7匹のネコ(5匹は腎臓餌料、2匹は維持餌料)が、2年の研究期間の間に高血圧症を発現した。本研究においては、治療的介入の目的で、ネコは、その収縮期血圧が2週間の期間の間の3回の連続する往診において>175mmHgであったか、高血圧性網膜症の徴候が>175mmHgの収縮期血圧に付随して起こったか、或いはその収縮期血圧が200mmHgを超えた場合に、高血圧症であると考察した。治療が必要な全てのネコを、一日一回の0.625mg/ネコのベシル酸アムロジピンの経口投与によって治療した。治療に対する反応を、治療の7日〜14日後に調べた。全てのネコにおいて用量の調節は必要なかった。
【0062】
尿路感染症:本研究の間に、腎臓餌料を給餌した2匹のネコのそれぞれにおいて尿路感染症(UTI)が認められた。UTIの早期発現は、抗生物質感受性試験によって決定された適当な抗生物質を用いて21日間治療した。尿検査及び定量的細菌尿培養によって、治療に対する反応を評価した。尿培養追試験によって再感染が認められ、これは適当な抗生物質を用いて最短で6週間治療した。
【0063】
代謝アシドーシス:<11.0ミリモル/Lの血清TCO濃度を有する全てのネコは、静脈血ガス分析によって更に診断した。代謝アシドーシスを治療するかどうかの決断は、血中重炭酸塩濃度に基づいた。<15.0ミリモル/Lの静脈血中HCO濃度を有する11匹のネコ(2匹が腎臓餌料、10匹が維持餌料)は、血中HCO濃度を15〜24ミリモル/Lの間に維持することを目標として、クエン酸カリウム(12時間毎に40〜75mg/kgを経口投与)によって治療した。治療を開始して10〜14日後に静脈血中HCO濃度を測定することによって、治療に対する反応を調べた。
【0064】
高リン血症:研究中に、5匹のネコ(2匹は腎臓餌料、3匹は維持餌料)において、高リン血症(血清リン濃度が>6.0mg/dL)が認められた。これらの中で、1匹のネコ(維持餌料を給餌)は、餌料の割り当て時において上昇したリン濃度を有していた。経口リン結合薬によるこのネコの治療は控えて、割り当てられた餌料が血清リン濃度に影響を与えるかを調べた。餌料の割り当ての1月後に、血清リン濃度は通常の範囲に戻った。他の4匹のネコにおいては、血清リン濃度を<6mg/dLに維持するために、水酸化アルミニウムを経口投与(12時間毎に50〜90mg/kgを経口投与)した。
【0065】
尿毒症クリーゼの診断:研究の主要評価項目である尿毒症の診断を、餌料の経過を知らず、患者の治療に携わっていない二人の臨床医学者によって行った。尿毒症クリーゼの診断は、以下の三つの基準の全てが明確であった場合に確定した。(1)運動低下、不活発、拒食、嘔吐、輸尿口臭、又は尿毒症性口内炎の徴候をはじめとする尿毒症に関係する少なくとも二つの臨床徴候を飼い主が観察すること、(2)患者に症状がない時点で所定値よりも少なくとも20%大きい血清クレアチニン濃度、(3)病経過及び身体検査、血清化学プロファイル、全血球計算、尿検査、腹部X線検査、及び間接血圧測定によって測定されるこれらの臨床徴候に関するもっともな他の病症がないこと。
【0066】
1匹のネコにおいて、腎外要因によって尿毒症の事象が誘発されたことが明白に認められた。このネコは、冬期の数日間、餌料又は水を与えられずに屋外に放置されていた。非経口で乳酸加リンゲル液を与えるによって脱水状態を治した後は、血清クレアチニン濃度はクリーゼ前のレベルに戻った。このネコは、研究に残した。
【0067】
尿毒症クリーゼの後の患者の治療:研究の主要評価項目(例えば尿毒症クリーゼ)に到達したネコは、非経口液及び他の適当な医療ケアによって治療したが、研究には戻さなかった。しかしながら、維持餌料を予め給餌した全てのネコを含む、尿毒症クリーゼが発現した後の全てのネコに、市販の腎臓餌料を給餌した。2匹のネコは尿毒症クリーゼの発症の30日以内に死亡し、3匹のネコは尿毒症クリーゼの後に30日以上生存した。この臨床試験において用いた分析のタイプ(即ち包括解析)のために、全ての生存したネコは、死亡するまでか、或いは、それらが最初に無作為に割り当てられた餌料群に属するように研究が完了するまで、診断した。
【0068】
罹病率又は死亡率の原因の確定:病経過、身体検査、実験室結果、尿毒症クリーゼを定義する客観的な基準(上記の「尿毒症クリーゼの診断」を参照)、及び入手できる場合には剖検結果に基づいて、死亡又は尿毒症クリーゼの原因を次のように分類した。(1)明らかに腎性ではない、(2)場合によっては腎性である、(3)おそらくは腎性である、(4)明らかに腎性である。カテゴリー1又は2に分類された患者の死亡又は尿毒症クリーゼは、腎臓に関係しない死亡とした。カテゴリー3又は4に分類された患者の死亡は、本研究の主要評価項目である腎臓に関係した死亡又は尿毒症クリーゼとした。
【0069】
剖検に関する飼い主の承諾は、研究中に死亡した全てのネコについて求めた。全体的な解剖検査が完了した後に、組織試料を採取し、10%ホルマリン中に保存した。パラフィン包埋した組織を4μmの切片とし、ヘマトキシリン及びエオシンで染色し、光学顕微鏡によって検査した。
【0070】
統計分析:マン・ホイットニーノンパラメトリック検定を用いることによって、臨床的な特徴を二つの食餌群の間で比較した。研究プロトコルによって患者を定期的な間隔で診断したので(全ての患者をそれぞれの間隔で測定してはいないが)、分散の被験者間/被験者内混合分析(ANOVA)を用いて、時間又は餌料に関して大きな主作用があったか、及び二つの変数の間の相互作用(時間対餌料)が大きかったかを調べた。この分析は、また、分割実験型ANOVAとも称され、これによって、観察結果の間の相関を計上しながら、全てのデータを用いて依存性応答変数を評価することが可能になった。殆どの動物は12月及び24月の期間において応答を有していたので、反復測定ANOVAを用いて、12月及び24月の時間間隔についての、生化学的、生理学的、及び生活の質の測定値に関する餌料群の間の平均的な差を評価した。反復測定分析は、反復観察の間の相関を的確に計上する。全てのデータに関する統計的有意性は、P<0.05に設定した。
【0071】
ログランク(マンテル・コックス)によるカプラン・メイヤー生存曲線を用いて、両方の群における尿毒症クリーゼの発現及び死亡の比率を比較した。更に、コックス比例ハザード回帰モデルを用いて、尿毒症クリーゼの発現の相対危険率(RR)に対する餌料の効果を評価した。同じモデルを用いて、腎臓餌料群対維持餌料群での尿毒症クリーゼの発現に対する共変量(収縮期血圧、尿タンパク質:クレアチニン比及び血清クレアチニン、リン、全CO濃度)の効果を評価した。相対危険率減少(RRR)は、[1−RR]×100%をコンピュータで算出することによって算出した。
【0072】
患者の臨床的特徴:45匹のネコは、全ての適格性基準を満足しており、研究のために容認された。22匹のネコから構成される治療群に腎臓餌料を給餌し、一方、23匹のネコから構成される対照群に維持餌料を給餌した。14匹の去勢されたオスは維持餌料群に属し、8匹は腎臓餌料群に属した。9匹の卵巣除去されたメスは維持餌料群に属し、14匹は腎臓餌料群に属した。
【0073】
餌料の割り当て時においては、表5aに示すように、二つの群の全臨床的特徴(年齢、体重、ボディ・コンディション・スコア、収縮期血圧)又は血液学的特徴における統計的な差はなかった。
【0074】
【表5a】

【0075】
全血球計算(CBC)及び血清生化学分析に関する平均値は、血清尿素窒素、クレアチニン、血中HCO、血液pH、及び血清上皮小体ホルモン濃度を除いて、それぞれの群について、ミネソタ大学獣医医療センターの基準範囲内であった。二つの例外を除き、血清、尿、及び血液の生化学測定値において、二つの餌料群の間に大きな差はなかった。腎臓餌料群においては、維持餌料群(P=0.007)と比較して極めて高い血中HCO濃度が観察された。しかしながら、両方の群における平均血中HCO濃度は、基準範囲内であった。維持餌料群においては、腎臓餌料群(P=0.009)と比較して極めて高い血清尿素窒素濃度が観察された。しかしながら、両方の群における平均血清クレアチニン濃度の上昇度合いにおいては、差はなかった。
【0076】
FIV及びFeLVに関するELISA試験の結果は、餌料の割り当て時においては45匹のネコ全てに関して陰性であった。同様に、血清甲状腺ホルモン濃度に関するRIA試験の結果は、餌料の割り当て時においては45匹のネコ全てに関して通常範囲(2〜4μg/dL)内であった。
【0077】
餌料と血清生化学値との間の関連性:二つの群の生化学的及び臨床的特徴(収縮期血圧、体重、及びボディ・コンディション・スコア)を、餌料の割り当ての3、6、9、12、15、18、21、及び24月後において比較し、一つにまとめて、それぞれ表5b及び5cに示すように、12月まで及び12〜24月の期間中の全体平均値を誘導した。
【0078】
【表5b】

【0079】
【表5c】

【0080】
12月及び24月の期間中、腎臓餌料群においては、血清尿素窒素濃度は非常により低く、血中重炭酸塩濃度は非常により高かった。12月及び24月の期間中、腎臓餌料群においては、血清塩化物及び全タンパク質濃度は非常により低かったが、それぞれの群に関する実験室基準範囲内にとどまった。12月の期間中、腎臓餌料群においては血清リン濃度は非常により低かったが、24月の期間中においては二つの群の間に差はなかった。血清クレアチニン、アルブミン、コレステロール、ナトリウム、カリウム、カルシウム、イオン化カルシウム、又はPTH濃度においては、大きな差は認められなかった。同様に、収縮期血圧、体重、又は尿タンパク質クレアチニン比には差はなかった。
【0081】
餌料と尿毒症クリーゼとの間の関連性:本研究の終了時において、腎臓餌料群のネコのいずれも、維持餌料群のネコの22%(5匹)と比較して、尿毒症クリーゼを発現しなかった(表6)。腎臓餌料を給餌することが、維持餌料を給餌することと比較して、99.9%のRRRと関係していた。尿毒症クリーゼの発現に対する共変数(血圧、血清クレアチニン濃度)の影響を調節することによって、腎臓餌料群におけるRRが維持餌料群と比較して大きく減少したままであったことが示された。
【0082】
【表6】

【0083】
尿毒症クリーゼを有する5匹のネコの中で、2匹は治療に殆ど反応せず、飼い主の要求によりクリーゼの発症の数日以内に安楽死させた。残りの3匹のネコは、クリーゼの10、11、及び20月後に安楽死させた。
【0084】
餌料と死亡との間の関連性:カプラン・メイヤー分析によって、腎臓に関係する死亡率及び全ての原因からの死亡率における、腎臓餌料群及び維持餌料群の間の大きな差が示された(表6)。腎臓病に関係する死亡率に対する餌料を影響を評価すると、腎臓餌料群においては、維持餌料群と比較して99.9%のRRRが認められた。本研究の終了時において、維持餌料群におけるネコの17.4%(4匹)が腎臓の原因によって死亡し、腎臓餌料群においては腎臓による死亡はなかった。腎臓餌料群における死亡又は安楽死の腎臓以外の原因には、ネコ伝染性腹膜炎(1匹)、車に轢かれる(1匹)、及び腎臓癌肉腫(1匹)が含まれていた。維持餌料群においては、腎臓以外の死亡の原因には、脾臓円形細胞新生物腫瘍/汎血球減少症(1匹)、全身性肥満細胞腫瘍(1匹)、リンパ肉腫(2匹)、及び断定されず(1匹)が含まれていた。死亡の腎臓以外の原因は、腎臓餌料群(13.6%)と維持餌料群(21.7%)との間で大きくは異なっていなかった。
【0085】
コックス比例ハザードモデルを用いることによって全ての原因による死亡に対する餌料の影響を評価すると、腎臓餌料群においては、維持餌料群と比較して45.0%のRRRが認められた。本研究の終了時までに、腎臓餌料群のネコの13.6%(3匹)が死亡した。同じ期間中において、維持餌料群に割り当てられたネコの39.1%(9匹)が死亡した。
【0086】
2年の研究期間の間に死亡した12匹(腎臓餌料3匹、維持餌料9匹)のネコの8匹(腎臓餌料1匹、維持餌料7匹)に関して剖検結果を入手することができた。剖検結果を入手することができた腎臓餌料を給餌した1匹のネコは、腎臓組織の殆どを破壊した転移性腎臓癌肉腫のために安楽死させた。維持餌料を給餌したネコに関して入手することができた7つの剖検結果の中で、3つは尿毒症クリーゼを発現したネコからのものであった。この3匹のネコの全てにおいて、腎臓の顕微鏡観察によって、著しい間質性線維症を伴う著しいリンパ形質細胞性腎炎が認められた。剖検報告を入手することができた維持餌料を給餌した他の4匹のネコの腎臓においても、同様の損傷が認められた。これらの4匹のネコは全て、進行した新生物腫瘍のために安楽死させた。
【0087】
慢性腎臓病の進行:血清クレアチニン濃度は研究の開始時においては大きく異なってはおらず、維持餌料群における血清クレアチニンの相互減少の大きさは、腎臓餌料群のものとは大きくは異なっていなかった。
【0088】
議論:本試験の結果は、腎不全の治療用に特に設計された餌料(腎臓餌料)を給餌することは、非タンパク質性で非高血圧性で高窒素血症性の自発性CRFを有するネコにおける尿毒症の発現率及び死亡率を最小にする上で、成猫の維持餌料(維持餌料)よりも優れているという結論を支持する。維持餌料を給餌した23匹のネコにおいては5匹の尿毒症の発症(21.7%)及び4匹の腎臓に関係する死亡(17.4%)があったのに対して、腎臓餌料を給餌した22匹のネコにおいては尿毒症の発症又は腎臓に関係する死亡は起こらなかった。本発明者らの研究において観察された腎臓餌料の有益な効果は、自発性CRFを有するネコの他の食餌臨床試験において報告されたものと同様である。これまでに報告した研究においては、タンパク質及びリンを制限した餌料を給餌した29匹のネコにおける腎臓に関係する死亡率は、制限しない餌料を給餌した21匹のネコにおける52%の死亡率と比較して、約33%であった。
【0089】
自発性CRFを有するネコにおける食餌療法介入の時期に関する基準は、これまでは経験的観察に基づいていた。現在のところ、尿毒症の臨床的徴候が高窒素血症を伴って起こった場合に、タンパク質及びリンの制限などの食餌の改善が有益であることは、殆ど議論されていない。しかしながら、臨床的に安定なCRFを有するネコにおいて食餌療法介入がいつ必要であるかについては、一般的な意見の一致はない。
【0090】
本研究の結果は、腎臓餌料が、早期のネコCRF(血清クレアチニン濃度が>2.0mg/dL)の治療に有益であったことを示す。本明細書において示すデータは、血清クレアチニン濃度が2.0mg/dLを超えた際に食餌療法介入を行うことを支持している。
【0091】
血清クレアチニン濃度における漸増によって示される糸球体濾過率(GFR)の緩徐進行性低下は、本研究のネコにおいては特徴的な所見ではなかった。尿毒症クリーゼを発現した5匹のネコにおいては、3〜21月の期間の安定な血清クレアチニン濃度の後に、血清クレアチニン濃度における急激な上昇(43〜371%)が起こった。5匹の全てのネコにおいて、血清クレアチニン濃度における急激な上昇は、尿毒症に特有の臨床的徴候(即ち、嘔吐、拒食、脱水、及び運動低下)の出現と同時期に起こっていた。尿毒症クリーゼを発現した5匹のネコの病経過、身体検査、CBC、尿検査、及び血清生化学プロファイルの計画された3月ごとの診断中に得られた結果のレトロスペクティブ分析によれば、尿毒症クリーゼを発現しなかった40匹のネコの3月ごとの診断中に得られた結果との差は示されなかった。本発明者らの研究の結果は、腎臓餌料によって尿毒症クリーゼ及び死亡が予防又は遅延されたことを示しているので、軽度のCRF(血清クレアチニン濃度が>2.0mg/dL)を有する全てのネコに腎臓餌料を開始することが推奨される。
【0092】
尿毒症クリーゼを発現した維持餌料群の5匹のネコを除いて、研究に参加させてから18〜24月の間には、腎臓餌料又は維持餌料を給餌したネコの血清クレアチニン濃度における大きな差は観察されなかった。維持餌料を給餌した18匹のネコは研究の18〜24月の期間の間に尿毒症クリーゼを発現しなかったので、代わりの選択肢は、尿毒症クリーゼを発症した後に腎臓餌料による治療を開始するというものであろう。しかしながら、尿毒症クリーゼを発現した維持餌料群の5匹のネコのうちの3匹しか生存しなかった。更に、尿毒症クリーゼの発症に続いて血清クレアチニン濃度における持続的な上昇が起こった。更に、これらの3匹のネコを研究から外した後、体液、電解質、及び酸−塩基の欠乏及び過剰を最小にするために、経口でのリン酸塩結合剤、クエン酸カリウム、非経口液体、及び製造した腎臓餌料による長期間の支持療法が必要であった。これらの観察結果は、尿毒症クリーゼを発症する前に腎臓餌料によるCRFの治療を開始することが推奨されることを支持する。この研究結果により、尿毒症クリーゼが発現するまでCRFのネコに対して腎臓餌料を控えることは、劣った潤滑作用によってエンジンに対する元に戻せない損傷を引き起こす時点までオイルの品質が低下した後に自動車にモーターオイルを補給することに似ていることが示される。
【0093】
血清クレアチニン濃度は、通常、GFRの粗指標として用いられている。単一の血清クレアチニン測定は腎機能の正確な評価を与えないことが示唆されているが、同じ動物において連続的に行われた測定はGFRにおける傾向を定めるのに有用である。尿毒症クリーゼの発症の前に腎臓餌料及び維持餌料のネコにおけるクレアチニンの血清濃度において検出可能な差がないことを、腎機能における変化が起こらなかったことの動かぬ証拠と判断すべきではない。血清クレアチニン濃度とGFRとの間には相互関係が存在し、GFRが50%減少すると血清クレアチニン濃度が100%上昇する。GFRにおける大きな変化が血清クレアチニン濃度における小さな変化と関連している場合には、血清クレアチニン濃度は、CRFの早期におけるGFRの減少の特に感受性の低い指標である。例えば、GFRが50%減少すると、血清クレアチニン濃度は1.0mg/dLから2.0mg/dLにしか上昇しない。GFRが更に50%減少すると、血清クレアチニン濃度は2.0から4.0mg/dLに上昇する。イヌリン・クリアランスの研究を用いてGFRを評価すれば、本研究における二つの餌料群の間の腎機能における差を認めることができた可能性がある。しかしながら、ネコを所有する飼い主に対するイヌリン・クリアランスの研究を行うために必要な技術的困難性、時間、及び血清の容量のために、その使用は本研究からは除外した。
【0094】
餌料の割り当て時においては、維持餌料群(平均=17.45±3.07ミリモル/L)と比較して腎臓餌料群(平均=19.72±2.03ミリモル/L)において非常に高い血中重炭酸塩濃度が観察された。アシドーシスは、病態生理学においてネコ、イヌ、及びヒトにおける尿毒症の要因と考えられている。しかしながら、本研究においては、両方の群における平均血中重炭酸塩濃度は、ミネソタ大学獣医医療センターの基準範囲内であった。その後に尿毒症クリーゼを発現した5匹のネコを分析から外した時点においても、二つの群の平均血中重炭酸塩濃度の間の差はベースラインにおいて大きなままであった。
【0095】
実施例の概要:腎臓餌料(タンパク質、リン、ナトリウム、及び脂質の組成を変更)が、軽度〜中等度の慢性腎不全を有するネコにおける尿毒症の発症率及び死亡率を最小にする点で、成猫の維持餌料よりも優れているかどうかを見出すために、二重マスク化比較無作為臨床試験を設計した。
【0096】
45匹の飼い主が所有するネコを、維持餌料又は腎臓餌料に無作為に割り当てて、24月まで3月毎に診断した。カプラン・メイヤー生存分析を用いて、尿毒症、腎臓に関係する死亡率、及び全ての原因の死亡率を最小にする点で、維持餌料と比較した腎臓餌料の有効性を評価した。
【0097】
【表7】

【0098】
12月及び24月の間隔の間において、腎臓餌料を給餌した群においては、ベースラインにおいて、血清尿素窒素濃度は非常により低く、血中重炭酸塩濃度は非常により高かった。維持餌料を給餌したネコは、腎臓餌料を給餌したネコ(0%)と比較して、非常に大きな数の尿毒症の発症数(22%)を有していた。腎臓餌料を給餌したネコにおいては、腎臓に関係する死亡率において大きな減少が観察された。
【0099】
本研究において評価した腎臓餌料は、軽度〜中等度の自発性慢性腎不全を有するネコにおける尿毒症の発症率及び死亡率を最小にする点で、成猫の維持餌料よりも優れていた。したがって、標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料は、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延させるのに有用である。
【0100】
本明細書においては、本発明の代表的な好ましい態様を開示し、特定の用語を用いたが、これらは一般的且つ説明的な意味のみで用いており、特許請求の範囲において示す本発明の範囲を限定する目的で用いてはいない。明らかに、上記の教示事項を考慮して本発明の多くの修正及び変更が可能である。したがって、特許請求の範囲内において、本発明は、特に記載したものとは異なる他の方法で実施することができると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネコに、標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料を与えることを含む、ネコの寿命を延長する方法。
【請求項2】
タンパク質、リン、及びナトリウムを、それぞれ少なくとも約10%減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
餌料が、乾燥物質基準で、約18%〜約40%のタンパク質、約0.2%〜約0.85%のリン、及び約0.04%〜約0.35%のナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
餌料が、約3.6〜約7.9g/100kcal MEのタンパク質、約0.04〜約0.17g/100kcal MEのリン、及び約0.008〜約0.07g/100kcal MEのナトリウムを与える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
餌料が、「給餌」基準で、約5%〜約40%の量のタンパク質、約0.01%〜約2%の量のリン、及び約0.01%〜約2%の量のナトリウムを含む乾燥餌料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
餌料が、「給餌」基準で、約4%〜約12%の量のタンパク質、約0.03%〜約0.2%の量のリン、及び約0.03%〜約0.2%の量のナトリウムを含む湿潤餌料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
餌料に1以上のω−3脂肪酸が補給されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ネコに、餌料を少なくとも約6月間与える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
腎臓病の発症又は最初の診断の後から開始して実質的にネコの寿命の残りの間継続してネコに餌料を与える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ネコに1以上の腎臓薬を投与することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも一つの腎臓薬が、ACE阻害薬、エンドセリン阻害薬、血管ペプチド阻害薬、カルシウムチャンネル遮断薬、Hレセプター拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、細胞保護薬、制吐薬、アンドロジェン、エリスロポエチン、リン酸塩吸着薬、カルシトリオール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
腎臓病の存在又は進行に関する定期的な診断評価を行い、診断評価の結果に基づいて餌料及び腎臓薬の用量又は処方計画を調節することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
診断評価が、血液マーカー、尿マーカー、身体観察及び測定、造影、SNP、遺伝子プロファイル、プロテオームプロファイル、及び代謝プロファイルからなる群から選択される1以上の基準に基づく、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該診断評価が、少なくとも部分的に、上昇した血中尿素窒素濃度、上昇した血清クレアチニン濃度、高ホスファターゼ血症、高カリウム血症、低カリウム血症、代謝性アシドーシス、及び低アルブミン血症からなる群から選択される1以上の血液マーカーに基づく、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
該診断評価が、少なくとも部分的に、尿濃縮能障害、タンパク尿症、円柱尿、腎性血尿症、不適切な尿pH、不適切な尿グルコース濃度、及びシスチン尿症からなる群から選択される1以上の尿マーカーに基づく、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
ネコに、標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料を与えることを含む、ネコの腎不全の発症を遅延する方法。
【請求項17】
タンパク質、リン、及びナトリウムのそれぞれを少なくとも約10%減少させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
単一の包装内の別々の容器内に、標準的なネコの餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料をネコに与えるのに好適な餌料組成物、及び(1)1以上の腎臓薬、及び(2)1以上の腎臓診断具の少なくとも一つを含む、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるのに有用なキット。
【請求項19】
餌料が、「給餌」基準で、約5%〜約40%の量のタンパク質、約0.01%〜約2%の量のリン、及び約0.01%〜約2%の量のナトリウムを含む乾燥餌料、並びに、「給餌」基準で、約4%〜約12%の量のタンパク質、約0.03%〜約0.2%の量のリン、及び約0.03%〜約0.2%の量のナトリウムを含む湿潤餌料からなる群から選択される、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料をネコに与えることを含む、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させる方法。
【請求項21】
タンパク質、リン、及びナトリウムのそれぞれを少なくとも約10%減少させる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
情報又は指示を含む書類、デジタル保存媒体、光学保存媒体、音声表示、又は画像表示を含む、ネコの寿命を延長し、ネコの腎不全の発症を遅延し、ネコの腎臓病に起因する罹病率及び死亡率を減少させるために、標準的なネコの維持餌料と比較して減少したタンパク質、リン、及びナトリウムのレベルを有する餌料を用いることに関する情報又はそのための指示を伝達するための手段。
【請求項23】
ラベル、カタログ、広告、添付文書、コンピューター可読媒体、音声表示、画像表示、ウエブサイトページ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項22に記載の伝達手段。
【請求項24】
腎臓病を予防又は治療するための腎臓薬と組み合わせて餌料を用いることに関する情報又はそのための指示、並びに、ネコにおいて腎臓機能を測定し腎臓病の存在及び重篤度を診断するための腎臓診断具を用いることに関する情報及びそのための指示の少なくとも一つを更に含む、請求項22に記載の手段。

【公表番号】特表2008−539274(P2008−539274A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509184(P2008−509184)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/016326
【国際公開番号】WO2006/119049
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(502329223)ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド (138)
【Fターム(参考)】