ネホパム化合物を使用して、瘢痕およびβ−カテニン媒介障害を治療する方法
ネホパム化合物の投与を含む、β−カテニンによって媒介される障害を治療する方法が提供される。特に、β−カテニンの過剰発現または望ましくない発現に起因する障害の治療が企図される。前記化合物は、ネホパム、その類似体、そのプロドラッグ、ならびにネホパムの塩および溶媒和物を含む。β−カテニン媒介障害は、好ましくは、線維増殖性障害(瘢痕、侵襲性線維腫症、および線維症など)および癌(結腸癌、メラノーマ、肝癌、卵巣癌、子宮内膜癌、髄芽腫、毛母腫、および前立腺癌など)からなる群から選択される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して瘢痕およびβ−カテニン媒介障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
線維増殖性プロセスは、間葉系線維芽細胞様の紡錘細胞の過剰な増殖によって特徴付けられる一群の障害である。このプロセスは、肥大性の創傷から侵襲性線維腫症(AF)などの新生物の発生にまで及ぶ。
【0003】
創傷治癒の間、いくつかの細胞型およびシグナル伝達経路が活性化されて、皮膚の上皮層および真皮層を再構成する。皮膚の損傷に続き、経時的に異なるが重複する3つのプロセス、つまり炎症、増殖、およびリモデリングが開始する。増殖期の間、皮膚の真皮部分に間葉系線維芽細胞様の細胞が蓄積し、一方で上皮細胞バリア層が再編成される(Singer 1999,Martin 1997,McClain 1996)。β−カテニンは、上皮細胞および間葉系細胞活性を媒介し、それによって真皮間葉系細胞における増殖と分化を増加させ、かつ上皮のケラチノサイトにおける移動を減少させることができることが示されている(Cheon 2002)。マウスモデルでは、β−カテニンが生じる創傷のサイズを調節することができ、リチウム処置によって誘発されたβ−カテニンのレベルは、より大きいサイズについて創傷治癒をもたらすことが実証されている(Cheon 2006)。また、テトラサイクリン制御プロモーターの調節下で、間葉系細胞において安定化されたβ−カテニンが発現するトランスジェニックマウスが生み出されている。創傷したマウスは、野生型対照マウスと比較して、過形成性皮膚創傷が治癒した(Cheon 2002)。これは、間葉系細胞におけるβ−カテニンの重要性および創傷治癒におけるその重要な役割を実証している。
【0004】
β−カテニンによって媒介される別の線維増殖性障害は、類腱腫とも呼ばれる侵襲性線維腫症(AF)である。AFは、間葉系線維芽細胞様の紡錘細胞からなる局所浸潤性の軟部組織腫瘍である。AFは、散発性の病変、または家族性大腸腺腫症(FAP)などの家族性の症候群として生じる。β−カテニンレベルの上昇およびβ−カテニン媒介転写活性の増加によって実証されるように、β−カテニンの安定化は、AFにおいて普遍的に発生する。さらに、β−カテニンの安定化は、β−カテニンの安定化した形態を過剰に発現するトランスジェニックマウスモデルを使用して示されるように、AFを引き起こすのに十分である(Cheon 2002)。これは、線維増殖性障害においてβ−カテニンが果たす重要な役割および間葉系細胞におけるその重要性を示唆している。
【0005】
線維増殖性障害におけるβ−カテニンの役割に加えて、多くの研究において、制御解除されたβ−カテニン発現が、結腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌、髄芽腫、毛母腫、および前立腺癌などの多数の悪性腫瘍の発生において重要な事象であることが実証された。β−カテニンの変異は、これらの癌のサブセットの進行における重要なステップであると考えられ、細胞増殖または細胞死の調節における重要な役割を示唆している(Polakis P.The many ways of Wnt in cancer.Curr Opin Genet Dev.2007 Feb;17(1):45〜51で報告されている)。
【0006】
このようなことを考慮して、β−カテニンに関連し得る状態および障害を治療するために効果的な新規な方法を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
ネホパムおよびその類似体が、瘢痕組織の治療だけでなく、線維増殖性障害などのβ−カテニンによって媒介される障害を治療するのに有用であることを見出した。
【0008】
したがって、本発明の一態様において、ネホパム、またはその機能的に同等な類似体、プロドラッグ、塩もしくは溶媒和物を哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害または状態を治療する方法が提供される。
【0009】
本発明の別の態様は、治療有効量のネホパム、または薬学的に許容されるその類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを組織に投与することを含む、瘢痕組織を治療するまたは瘢痕組織形成を低減する方法である。
【0010】
他の態様において、包装と、ネホパムまたはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを含む組成物とを含む製品が提供される。
【0011】
別の態様において、β−カテニン媒介障害もしくは状態の治療、または瘢痕組織の治療のための医薬を調製するための、ネホパムまたはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグの新規な使用が提供される。
【0012】
ここで、本発明を、以下の図を参照してさらに詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】SRBアッセイを使用して、培養された正常な線維芽細胞、および、DMSO(対照)またはネホパムでの処置の後の2つの過形成性創傷由来の培養された細胞における、細胞生存率を示す棒グラフである。細胞生存パーセントを、平均および95%信頼区間として示す。DMSO対照の過形成性創傷細胞培養物と比較して、ネホパムで処置した培養物において生存する細胞のパーセントに有意な低下があるが、しかしながら、正常な線維芽細胞培養物における細胞生存率は、比較的変化がないままであった(アスタリスクは、正常な線維芽細胞培養物と比較した有意性を示す)。
【図1B】過形成性創傷細胞培養物におけるβ−カテニンレベルのウエスタンブロット分析である。ネホパム処置は、DMSO処置対照と比較して、β−カテニンタンパク質レベルを大幅に低減することが示された。
【図2】ネホパムで処置していないそのままの、もしくはネホパムで処置した雄のApc+/Apc1638Nマウスにおいて、またはDMSO対照において形成された侵襲性線維腫症(AF)腫瘍の数を比較し、同じ処置下で上部胃腸管における上皮由来のポリープの数を図示するグラフである。1)処置なし(n=11)、2)0.1%DMSO(n=10)、および3)40mg/kg体重のネホパム(n=10)。
【図3A】0.1%DMSO(対照)またはネホパムのうちの1つで5日間処置した後の、ヒト侵襲性線維腫症(AF)腫瘍(n=5)由来の初代細胞培養物からの抽出物におけるβ−カテニンタンパク質レベル(92kDa)のウエスタンブロットである。ネホパムありまたはネホパムなしで、Wnt3aとともにインキュベートした初代線維芽細胞培養物におけるβ−カテニンタンパク質レベルも決定した。実験を3連で行った。アクチン発現を、溶解物ローディングコントロールとして示す。
【図3B】0.1%DMSO(対照)またはネホパムで処置したヒトAF腫瘍由来の細胞培養物における総β−カテニンタンパク質レベルが、ほぼ1/5に減少したことを示す、タンパク質レベルデータのデンシトメトリー分析のグラフである。平均および95%信頼区間を示す。対照と比較して、統計的な有意差(p<0.05)をアスタリスクで示す。
【図4A】DMSO(n=5)またはネホパム(n=5)で5日間処置した、ヒトAF腫瘍由来の初代細胞の細胞生存率の平均および95%信頼区間を示すグラフである。Trypan Blue Dyeを用いた染色細胞によって、細胞生存率を測定し、生細胞(透明)と死細胞(青)の両方を数えた。ネホパムは、生細胞の数を有意に減少させたが、一方で死細胞の数は変化しなかった。対照と比較して、統計的な有意差(p<0.05)を、アスタリスクで示す。
【図4B】3連で5日間、DMSOまたはネホパムで処置したヒト侵襲性線維腫症腫瘍(n=2)由来の初代細胞の培養物における増殖の程度として、総DAPI陽性細胞と比較した、BrdU陽性/DAPI陽性の細胞パーセントを示すグラフである。ネホパムは、BrdUの細胞中への取り込みを有意に低減する。平均および95%信頼区間を示す。対照と比較して、統計的な有意差(p<0.05)を、アスタリスクで示す。
【図5A】不死化ヒト線維芽細胞から抽出された溶解物のウエスタンブロット分析を示す図である。DMSOで処置した細胞と比較して、ネホパムで処置した細胞における総β−カテニンタンパク質レベルの有意な減少が観察された。GAPDH発現を、溶解物ローディングコントロールとして示す。
【図5B】図5Aのウエスタンブロットデータに相当するデンシトメトリーデータのグラフである。
【図6A】創傷後14日目のTcfマウス創傷由来の細胞培養物におけるβ−カテニンタンパク質レベルのウエスタンブロット分析である。GAPDH発現を、溶解物ローディングコントロールとして示す。
【図6B】担体とともに製剤化されたネホパム(ネホパム)または担体単独(対照)のいずれかで、40mg/kgで2週間、毎日全身的に投与して処置した後、全層円形創傷に供したマウスにおける正常な瘢痕サイズのグラフである。グラフは、4mmの生検パンチを使用して発生させた皮膚の創傷の表面積の直径に関する平均および95%信頼区間を示す。創傷の直径は、対照処置と比較して、ネホパム処置の後で有意に小さい(アスタリスクは有意差を示す)。
【図7】創傷していない組織と比較して、正常な創傷治癒(正常)の間および過形成性創傷(過形成性)において、相対的なβ−カテニンタンパク質レベル(週ごとに測定された)を経時的に示す線グラフである。正常な創傷治癒の間のβ−カテニンタンパク質レベルの上昇および低下の正常なパターンは、過形成性創傷において制御解除され、著しく長引くβ−カテニンタンパク質レベルの上昇期間を示す。
【図8】創傷後4週間の皮膚の過形成性瘢痕の表面積の直径に関する平均および95%信頼区間のグラフである。生検パンチを使用して、直径4mmの全層円形創傷を発生させた。創傷の直径は、mmで示す。アスタリスクは、TGF−βでの処置と比較した場合に注目される、瘢痕サイズにおける統計的な有意差を示す(p<0.01)。ここで、創傷作製時のTGF−β注射は、サイズが増大した過形成性瘢痕を引き起こすことが知られている。
【図9】3つの異なる担体、つまりカルボキシメチルセルロース(CMC)、ペトロラタム、およびヒプロメロースにおけるネホパムの局所的な製剤の異なる濃度のグラフである。3つの担体をマウスモデルにおいてin vivoで試験し、経皮でのネホパム送達において最も効果のある製剤を決定した。ペトロラタムベースの担体製剤は、皮膚および血清におけるネホパムレベルの測定によって決定されるように、強化されたネホパム放出特性を実証した。
【図10】任意の単位で測定した相対的な瘢痕表面積のグラフである(創傷作製における瘢痕サイズは、100任意の単位とみなされる)。直径4mmの全層パンチ創傷を、1日に2回、14日間、担体対照クリーム、またはペトロラタム担体で製剤化した1%ネホパムクリームで局所的に処置した。データは、標準偏差とともに処置ごとに10の創傷の平均を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ネホパムまたはその機能的に同等な類似体を哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害を治療する方法を提供する。
【0015】
本明細書で使用する場合、「β−カテニン媒介障害または状態」という用語は、結腸癌、結腸直腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌、髄芽腫、毛母腫、および前立腺癌などの悪性腫瘍だけでなく、形成中またはすでに形成された、肥厚性瘢痕、過形成性瘢痕およびケロイド瘢痕、ならびに侵襲性線維腫症、例えば家族性大腸腺腫症(FAP)、肝線維症、肺線維症(例えば、珪肺症、石綿症)、腎線維症(糖尿病性腎症を含む)、糸球体硬化症、足底線維腫症およびデュプイトラン拘縮(DC)などの散発性の病変、または家族性の症候群を含む真皮の瘢痕などの線維増殖性障害を含むが、それらに限定されない線維組織の蓄積(「線維症」)により特徴付けられる障害または状態を指す。
【0016】
「ネホパム」という用語は、5−メチル−1−フェニル−1,3,4,6−テトラヒドロ−2,5−ベンゾオキサゾシン、および薬学的に許容されるその機能的に同等な類似体、プロドラッグ、塩および溶媒和物を指す。「機能的に同等な」という用語は、それがネホパムの類似体、プロドラッグ、塩および溶媒和物に関して使用される場合、選択された化合物がβ−カテニンを調節する能力を指す。選択された化合物がβ−カテニンを調節することができる程度は、化合物によって異なっていてもよい。
【0017】
本明細書で使用する場合、「類似体」という用語は、以下の一般式(1)を有する化合物
【化1】
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、Aは、O、CH2またはS(O)n(nは0〜2である)であり、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR3であり、その他がCHであり、R2は、C5〜C6ヘテロアリール、任意選択的にO、NおよびS(O)n(nは0〜2である)から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含有し、任意選択的にR3で置換されたC5〜C10シクロアルキルまたはシクロアルケニルであるか、または任意選択的に1つまたは複数の位置で、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルおよびOR1から独立に選択される1つまたは複数の置換基で置換されたフェニル基、または炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環に縮合したフェニル基であり、R3は、ハロゲン、CF3、CN、OR5、SO2N(R5)2、COR5、CO2R5、CON(R5)2、NR1COR4、NR1SO2R4、NR1CO2R4、NR1CON(R5)2、R3で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたアリール、ならびにNおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環から選択され、R4は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R5は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、別のR5と同じかまたは異なる]または薬学的に許容されるその塩、
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C6アルケニルであり、R2およびR3は、同じかもしくは異なり、H、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルもしくはOR1であるか、またはR2およびR3は、炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族または複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環を形成し、W、X、YおよびZの1つが、N、またはCR4であり、その他がそれぞれCHであり、R4は、ハロゲン原子、CF3、CN、OR7、SO2N(R6)2、COR6、CO2R6、CON(R6)2、NR1COR5、NR1SO2R5、NR1CO2R5、NR1CON(R6)2、任意選択的にR4で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的にR4で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的にR4で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的にR4で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的にR4で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的にR4で置換されたアリール、または炭素もしくは窒素を通して連結された、NおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員もしくは6員の芳香族複素環であり、R5は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、各R6(同じかまたは異なっていてもよい)は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R7は、アリールまたはヘテロアリールである]または薬学的に許容されるその塩、
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、Aは、O、CH2またはS(O)n(nは0〜2である)であり、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR3であり、その他がCHであり、R2は、C5〜C6ヘテロアリール、任意選択的にO、NおよびS(O)n(nは0〜2である)から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含有し、任意選択的にR3で置換されたC5〜C10シクロアルキルまたはシクロアルケニルであるか、または任意選択的に1つまたは複数の位置で、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルおよびOR1から独立に選択される1つまたは複数の置換基で置換されたフェニル基、または炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環に縮合したフェニル基であり、R3は、ハロゲン、CF3、CN、OR5、SO2N(R5)2、COR5、CO2R5、CON(R5)2、NR1COR4、NR1SO2R4、NR1CO2R4、NR1CON(R5)2、R3で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたアリール、ならびにNおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環から選択され、R4は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R5は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、別のR5と同じかまたは異なる]または薬学的に許容されるその塩、
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、Aは、O、CH2またはS(O)n(nは0〜2である)であり、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR3であり、その他がCHであり、R2は、C5〜C6ヘテロアリール、任意選択的にO、NおよびS(O)n(nは0〜2である)から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含有し、任意選択的にR3で置換されたC5〜C10シクロアルキルまたはシクロアルケニルであるか、または任意選択的に1つまたは複数の位置で、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルおよびOR1から独立に選択される1つまたは複数の置換基で置換されたフェニル基、または炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環に縮合したフェニル基であり、R3は、ハロゲン、CF3、CN、OR5、SO2N(R5)2、COR5、CO2R5、CON(R5)2、NR1COR4、NR1SO2、NR1CO2R4、NR1CON(R5)2、R3で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたアリール、ならびにNおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環から選択され、R4は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R5は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、別のR5と同じかまたは異なる]または薬学的に許容されるその塩、或いは
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、R2およびR3は、同じかもしくは異なり、それぞれH、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルもしくはOR1であるか、またはR2およびR3は、炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環を形成してもよく、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR4であり、その他がCHであり、R4は、ハロゲン、CF3、CN、OR7、SO2N(R6)2(ここで、各R6は、同じかまたは異なる)、COR6、CO2R6、CON(R6)2(ここで、R6は、同じかまたは異なる)、NR1COR5、NR1SO2R5、NR1CO2R5、NR1CON(R6)2(ここで、各R6は、同じかまたは異なる)、非置換型R4で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC2〜C6アルキニルおよび任意選択的に非置換型R4で置換されたアリールであるか、またはR4は、NおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環であり、R5は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R6は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであってよく、R7は、アリールまたはヘテロアリールである]または薬学的に許容されるその塩を指す。ネホパムの更なる類似体は、引用することによりその内容が本明細書の一部をなすものとする、WO2004/056788、WO2005/103019およびUS2006/0019940で報告されている。ネホパムおよびその類似体は、当業者によく知られている化学合成方法を使用して作製することができる。加えて、ネホパムは市販されている。
【0018】
「プロドラッグ」という用語は、in vivoで転換され、ネホパムまたはその薬学的に許容される類似体、塩、水和物または溶媒和物の構造を有する化合物をもたらす化合物(例えば薬物前駆体)を指す。転換は、例えば、血液中の加水分解を通してなど、様々な機構(例えば、代謝的プロセスまたは化学的プロセス)によって生じることができる。本明細書で用いられる「(1つまたは複数の)塩」という用語は、無機塩基および/または有機塩基で形成された塩基性塩だけでなく、無機酸および/または有機酸で形成された酸性塩も意味する。他の塩も有用であるが、薬学的に許容される(すなわち、非毒性であり、生理的に許容される)塩が好ましい。「溶媒和物」は、好ましくは薬学的に許容される溶媒中でのネホパムまたはその類似体の混合によって形成される。
【0019】
本発明の方法は、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害の治療を包含する。「治療する」、「治療すること」および「治療」という用語は、本明細書で広く使用され、障害の進行を緩和するまたは逆転させる、障害の重症度を低減する、障害を防ぐまたは治癒させる方法を含む、標的の障害を有利に変化させる方法を意味する。「哺乳類」という用語は、ヒトおよび非ヒト哺乳類の両方を包含するために本明細書で使用される。
【0020】
いずれもβ−カテニン媒介または非媒介であってよい、切り傷、すり傷、感染症、ざ瘡、やけど、外科手術などに起因する瘢痕、肥厚性、過形成性、ケロイド、間葉細胞および間葉由来細胞を伴う瘢痕を含めた、真皮の瘢痕を治療する方法も提供される。本方法は、標的部位に治療有効量のネホパム化合物を投与することを含む。形成中またはすでに形成された瘢痕を治療する方法は、瘢痕のサイズ(例えば、少なくとも約5〜10%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約25%以上)または瘢痕の有病率(例えば瘢痕の隆起、赤みなど)を低減し、それによってその外観を改善することを含む。これに関し、当業者であれば認識できるが、瘢痕評価スケール、例えばマンチェスタースケール(Manchester Scale)を使用して、所与の瘢痕の改善を評価することができる。マンチェスタースケールは、周囲の皮膚と比較した色、無光沢または光沢のある外観、輪郭(周囲の皮膚から瘢痕/ケロイドまでの赤み)、手触り(正常〜硬い)、縁(明瞭または明瞭でない)、サイズおよび数(単一または複数)を評価する(Disability&Rehabilitation,2009,Vol.31,No.25:Pages 2055〜2063、International Journal of Lower Extremity Wounds December 2007 6:249〜253)。
【0021】
したがって、ネホパム化合物は、瘢痕組織を低減し、瘢痕および周辺領域の美しさを改善するために美容治療に利用することができ、更なる美容特性、例えば抗しわ効果を提供することができる。
【0022】
別の実施形態においては、腫瘍を治療する方法が提供される。腫瘍治療は、腫瘍の惹起および腫瘍細胞増殖を抑制することを含む。この方法は、結腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌および前立腺癌などの様々な癌に起因する腫瘍だけでなく、侵襲性線維腫症などの制御解除されたβ−カテニン発現に起因する腫瘍を治療するのに有用である。本方法は、有効量のネホパム、その類似体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを、治療を必要としている哺乳類、すなわち腫瘍を有する哺乳類に投与することを含む。
【0023】
いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、本発明による治療は、核酸レベルでのβ−カテニン発現の制御もしくは調節、またはタンパク質レベルでのβ−カテニン活性の制御もしくは調節によって達成することができる。
【0024】
治療効果のある用量のネホパムが、本発明により哺乳類に投与される。用量に関して本明細書で使用される「治療効果のある」という用語は、許容されない有害な副作用を引き起こすことなく、β−カテニン媒介障害を治療するために有効な用量を指す。「投与された」という用語は、ネホパムを哺乳類に提供する任意の適切な手段を指し、記載されるように、使用する剤形に依存し得る。例えば、用量は、さらに詳細に記載されるように、経口で、注射によって、粘膜的に、および局所的に投与することができる。
【0025】
したがって、本発明の方法における治療効果のある用量は、約0.0001から約1500mgの範囲内、例えば、約0.0001〜100mgの範囲内である。しかしながら、当業者であれば認識できるが、ネホパムまたはその類似体の治療的有効量は、治療される障害の種類、障害の性質および重症度、治療される哺乳類、治療される哺乳類の症状、治療に使用される化合物、ならびに投与経路を含むが、それらに限定されない多くの要因に応じて変わり得る。
【0026】
ネホパムは、本発明の方法において、単独で、または薬学的に許容されるアジュバントもしくは担体と組み合わせた組成物で投与することができる。「薬学的に許容される」という表現は、薬学技術において使用が許容される、すなわち許容されない毒性がないか、または哺乳類への投与に不適切ではないことを意味する。薬学的に許容されるアジュバントの例には、希釈剤、賦形剤などが含まれるが、これらに限定されない。一般に、製剤に関する指導についての参照として、「Remington’s:The Science and Practice of Pharmacy」、21st Ed.,Lippincott Williams&Wilkins,2005を挙げることができる。アジュバントの選択は、組成物の投与の意図された様式に依存する。本発明の一実施形態において、化合物は、点滴による投与、または皮下もしくは静脈内への注射による投与のために製剤化され、したがって無菌かつ発熱物質のない形で、任意選択的に緩衝されたまたは等張にされた水溶液として利用される。したがって、化合物は、蒸留水で、またはより望ましくは、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水もしくは5%デキストロース溶液で投与することができる。錠剤、カプセル、トローチ剤、水性もしくは非水性液体、水中油型もしくは油中水型液体エマルション、エリキシルもしくはシロップでの溶液もしくは懸濁液経由での経口投与のための組成物が、ラクトース、グルコース、スクロースなどの糖、コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロースおよび酢酸セルロースを含めたセルロースおよびその誘導体、粉末のトラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ラッカセイ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油およびトウモロコシ油などの植物油、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール、寒天、アルギン酸、水、等張食塩水およびリン酸緩衝液を含めたアジュバントを使用して調製される。ラウリル硫酸ナトリウム、安定剤、錠剤化剤、崩壊剤、抗酸化剤、防腐剤、着色剤および調味料などの湿潤剤、滑沢剤もまた存在させることができる。別の実施形態において、組成物は、クリーム、ローションまたは軟膏として局所的適用のために製剤化することができる。かかる局所的適用の場合、組成物は、トリグリセリド基剤などの適切な基剤を含むことができる。かかるクリーム、ローションおよび軟膏は、香料だけでなく、皮膚軟化剤などの界面活性剤および他の美容添加物も含有することができる。例えば、適切な噴霧アジュバントが使用される、経鼻送達のためのエアロゾル製剤も調製することができる。本発明の組成物は、ボーラス、舐剤、またはペースト剤としても投与することができる。経口、経鼻、経直腸または経膣投与を含めた、これらの領域に影響を及ぼす感染症の治療のための粘膜投与のための組成物も包含する。かかる組成物は、一般に、例えば、カカオ脂、ポリエチレングリコール、坐薬ワックス、サリチレートまたは他の適切な担体を含む1つまたは複数の適切な非刺激性の賦形剤または担体を含む。例えば、その有効期間を延長するのを助けることができる他のアジュバントも、それがどのように投与されるかにかかわらず、組成物に加えることができる。
【0027】
本発明の方法において、ネホパム化合物は、経口、皮下、静脈内、腹腔内、鼻腔内、経腸、局所的、舌下、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、吸入、眼内、経皮、経膣または経直腸の手段を含むがそれらに限定されない任意のいくつかの経路によって、便利な方法で投与することができる。ネホパム化合物は、ex vivo治療プロトコールにおいて細胞に投与することもできる。投与経路に応じて、ネホパム化合物を、例えばその治療活性に影響を及ぼすことができる酵素、酸または他の状態による分解を防ぐために、保護物質でコーティングするか、または包むことができる。
【0028】
一実施形態において、例えば、包帯、包帯剤、ポリマーメッシュ、インプラント、デバイスもしくは他の美容上関連のある物品などの、生体適合性のデバイス、ポリマーまたは他のマトリックスに添付された、ネホパムまたはその類似体は、標的部位、例えば形成中またはすでに形成された瘢痕に局所的に適用することができる。ネホパム化合物を発現するように生体工学によって作った皮膚線維芽細胞/ケラチノサイトも、標的部位に適用することができる。代わりに、適切なマトリックスまたはポリマーメッシュ、例えば人工的または非人工的な植皮片に、標的部位に適用するためにネホパム化合物を含浸し、ある期間にわたるその部位の持続的な治療のために、化合物の持続放出を可能にすることができる。
【0029】
本発明におけるネホパム化合物は、例えば、適切な重合体および非重合体の、親水性および疎水性の物質が組み込まれた、溶解または拡散調節モノリシックデバイス、ビーディッドエンカプスレーティッドシステム、浸透圧的に調節されたシステム、および改変されたフィルムコーティングシステムを含む、よく確立された方法を使用して放出制御製剤で投与することができる。適切な放出制御製剤は、アクリルまたはメタクリルのポリマーまたはコポリマー、アルキルビニルポリマー、セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、多糖、アルギネート、ペクチン、デンプンおよび誘導体、天然および合成ゴム、ポリカルボフィル、キトサンを含むがそれらに限定されない、親水性物質を含むことができる。適切な疎水性の物質は、疎水性のポリマー、ワックス、脂肪、長鎖脂肪酸、それらの相当するエステル、それらの相当するエーテル、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。
【0030】
別の実施形態において、ネホパム化合物は、例えば抗瘢痕化剤、上皮増殖因子などの増殖因子、bFCF、PDGFなどの創傷治癒剤、血小板、皮膚線維芽細胞およびケラチノサイト、これらに限定されないが、ラパマイシン、トログリタゾン、ロシグリタゾン、セレコキシブ、レチノイドおよびイレッサなどの化学療法剤を含む、1つまたは複数の更なる治療薬と組み合わせて投与することができる。これに関し、ネホパムは、別々の製剤で、または複合製剤で、更なる治療薬とともに投与することができる。
【0031】
さらに、本発明の方法は、他の治療と組み合わせて、例えば悪性腫瘍の治療における放射線治療と組み合わせて、または正常な瘢痕、過形成性瘢痕組織などの瘢痕組織を治療するためのレーザー治療と組み合わせて利用することができる。
【0032】
本発明の別の態様において、記載されるように、包装と、ネホパムを含む組成物とを含む製品が提供される。包装は、組成物がβ−カテニン媒介障害を治療するのに適していること示すためにラベルが付けられているか、または組成物が形成中またはすでに形成された瘢痕化を治療するのに適していることを示すためにラベルが付けられていてもよい。
【0033】
本発明を、添付の図および特定の実施形態を参照することにより記載するが、本発明を限定的なものと解釈すべきではない。
【0034】
以下で論じる実施例において、以下の材料および方法を使用した。
【0035】
[Apc+/Apc1638NAFマウスモデルおよび処置計画]
Apc/Apc1638Nマウスの作出および表現型は、よく特徴付けられている。これらのマウスは、エキソン15でアンチセンス方向でのネオマイシン挿入の結果として、Apc遺伝子におけるコドン1638に標的変異を有する。雄のマウスは、月齢6カ月までに平均45個のAF病変および6個の胃腸ポリープを発生するが、一方で雌のマウスは、それより著しく少ない数のAF病変を発生する。雄のApc/Apc1638Nマウスを、処置なし(n=11)、0.1%DMSO(n=10)、および40mg/kg体重でネホパム(n=10)の3つの試験群に分けた。毎日の経口の胃管栄養補給による処置を、Apc/Apc1638Nマウスを離乳した後2カ月で開始し、3カ月間継続した。剖検で、AF腫瘍および腸のポリープを、巨視的に点数化した。AF腫瘍および正常な組織を、タンパク質抽出のために採取し、組織学的検査のために固定した。
【0036】
[Tcfレポーターマウスおよび創傷実験]
c−Fosミニマルプロモーターの下流にlacZ遺伝子および3つのコンセンサスTcf結合モチーフを含有するTcf−レポーター構築物を構築した。β−カテニン/Tcf複合体がTcfモチーフに結合すると、lacZの発現が活性化される。Tcfマウスを、先に記載したように創傷させた。皮膚生検パンチ(Miltex Instrument Company,York,PA,USA)を使用して、2つの直径4mmの全層皮膚創傷を発生させた。創傷したTcfマウスを、毎日生理食塩水の腹腔内注射を受ける対照群、および毎日40mg/kg体重の腹腔内注射を受けるネホパム群の2つの試験群に分けた。創傷後14日目に、創傷サイズを調べ、RNAおよびタンパク質抽出のために創傷組織を採取し、組織学的検査のために固定した。
【0037】
[ヒトAF腫瘍および正常筋膜組織試料]
Hospital for Sick Children,Torontoから外科手術時に、ヒト侵襲性線維腫症腫瘍の試料を得た。同じ患者から腫瘍組織および周囲の正常筋膜組織を採取し、外科的切除後すぐに処理した。組織を凍結保存し、液体窒素蒸気中で保管した。
【0038】
[細胞培養試験]
ヒトAF腫瘍および正常筋膜組織試料由来の初代細胞培養物を樹立した。単層培養物を、10%ウシ胎児血清を補充したDMEM中で培養し、5%CO2中、37℃で維持した。コンフルエントに達したら、細胞を分け、第1継代から第5継代の間で実験を行った。実験的な試験に先立って、細胞を播種して一晩放置し、次の日(0日目)に処置を開始し、細胞を、DMEM培地中に調製した250μmのネホパムと共に、またはこのネホパムなしで、ビヒクル対照0.1%DMSOで処置した。
【0039】
[細胞生存率アッセイ、増殖アッセイおよびアポトーシスアッセイ]
Trypan Blue Dye Exclusion法を使用して、細胞生存率を測定した。細胞を、1:1比でTrypan Blue Dyeで染色し、生細胞(透明)と死細胞(青)の両方を計数した。5−ブロモ−2−デオキシ−ウリジン(BrdU)取り込みアッセイを使用して、増殖を測定した。12時間のBrdUインキュベーション後、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたウサギのモノクローナル抗BrdU抗体およびウマの抗マウス抗体を使用して、組み込まれたBrdUを有する細胞を同定した。BrdUの存在を、アルカリホスファターゼ基質を使用して検出した。総細胞核のうち明確に染色された細胞核のパーセンテージを、10高倍率視野で分析した。
【0040】
[タンパク質抽出およびウエスタンブロット分析]
組織試料をPBSで2回洗浄し、Reporter Gene Assay Lysis Buffer(Roche)で溶解した。溶解物を、16,000×gで5分間遠心分離機にかけ、細胞残骸を取り出し、Bicinchoninic Acid(BCA)Protein Assay(Pierce)を使用して定量化した。総タンパク質を、SDS−ポリアクリルアミドゲルを通した電気泳動によって等量に分け、ニトロセルロース膜(Amersham)に転写し、ホスホGSK3β(Ser9、ウサギのポリクローナル抗体、New England Biolabs)、β−カテニン(マウスのモノクローナル抗体、Upstate Biotechnology)、総GSK3β(マウスのモノクローナル抗体、Transduction Laboratories)、およびGAPDH(マウスのモノクローナル抗体、Upstate Biotechnology)に対する一次抗体を用いて4℃で一晩免疫ブロットした。Horseradish Peroxidase(HRP)タグをつけた二次抗体およびEnhanced ChemiLuminescence(Amersham)を使用し、ハイブリダイゼーションを検出した。AlphaEaseFCソフトウェア(Alpha Innotech)を使用して、デンシトメトリーを行った。ウエスタンブロット法を3連で行い、再現性を保証した。
【0041】
[統計分析]
この作業におけるデータを、平均±95%信頼区間として提示した。すべての試験を、少なくとも3連で行い、再現性を保証した。
【0042】
[実施例1]
ネホパム処置は、過形成性創傷細胞の生存率を低減する。
化合物をスクリーニングし、2つの基準を満たすものを同定した。1)β−カテニン活性化を示す過形成性創傷から採取した線維芽細胞の細胞生存率を抑制する、かつ、2)正常な皮膚線維芽細胞培養物に及ぼす影響が皆無かそれに近い。スクリーニングに使用した細胞は、健康な組織だけでなく、過形成性創傷を有する患者から採取したので、スクリーニングの生物学的関連性は考慮すべきであった。各ウェルが、0.1、1.0、もしくは10μΜの間の化合物または対照としてDMSOで処置した細胞を4000個含有する、96ウェルプレート内で実験を3連で繰り返した。Sulforhodamine Bアッセイ(SRB)を使用して細胞生存率を測定した。最初のスクリーニング内で検出された化合物は、ネホパムが同定された試料のより大きいプールを使用して、別の試験を受けた(図1A参照)。
【0043】
ウエスタンブロット分析を使用して、ネホパムで処置した過形成性瘢痕由来の細胞培養物または対照におけるβ−カテニンレベルを分析した。ネホパムは、過形成性創傷由来の細胞培養物におけるβ−カテニンのタンパク質レベルを大幅に低減することが観察された(図1B参照)。GAPDH発現を、ローディングコントロールとして含めた。
【0044】
[実施例2]
ネホパムは、Apc/Apc1638Nマウスにおいて形成されるAF腫瘍の数を減少させる。
ネホパム処置がin vivoでAF病変の表現型を調節することができるかどうかを調査した。ネホパムで処置した雄のApc/Apc1638Nマウスに形成されたAF腫瘍の数は、処置されていないマウス、または月齢6カ月で0.1%のDMSOで処置したマウスに形成された数と比較して、有意に低減した(8.18±1.77対13.2±2.30または12.09±1.31、p<0.03、図2参照)。上部胃腸管における上皮由来のポリープの数に有意差はなかった(図2参照)。これは、ネホパムが腫瘍の惹起を抑制し、さらに間葉系細胞に特異的であることを示す。
【0045】
[実施例3]
ネホパムは、ヒトAF腫瘍細胞におけるβ−カテニンレベルを減少させる。
AF腫瘍は、β−カテニンレベルの増加によって特徴付けられる。ネホパムが、β−カテニンレベルを調節する能力を有しているかどうか調べるために、いくつかのヒトAF腫瘍由来の初代細胞培養物を調査した。総β−カテニンに対する抗体を使用したウエスタンブロット分析は、5日間のネホパム処置の結果として、総β−カテニンと一致する92kDaサイズでタンパク質量の著しい減少を実証した。図3A参照。デンシトメトリー分析は、0.1%DMSOで処置した培養物と比較して、ネホパムで処置したヒトAF腫瘍細胞培養物における総β−カテニンレベルがほぼ1/5に減少したことを示す(図3B参照)。アクチンの発現を、溶解物ローディングコントロールとして決定した。
【0046】
[実施例4]
ネホパムは、ヒトAF腫瘍細胞における細胞生存率および細胞増殖を減少させる。
ネホパムがどのようにAF細胞の挙動を改変することができるのかを決定するために、いくつかのヒトAF腫瘍由来の初代細胞培養物を調査した。まず、ネホパムがヒトAF腫瘍における細胞生存率に及ぼす効果を調査した。0.1%DMSOで処置した培養物と比較して、ネホパム処置後、ヒトAF腫瘍細胞培養物において有意に少ない数の生細胞が観察された(p<0.05)。腫瘍に関するネホパム処置の結果として、数えた死細胞の数に有意差はなかった(p<0.05)(図4A参照)。
【0047】
β−カテニンレベルが、間葉系細胞における増殖速度の制御に関与していることを実証するにあたり、ネホパムが初代細胞培養物における増殖に及ぼす効果を調査した。BrdU取り込みアッセイを使用して、総DAPI+細胞と比較して、BrdU+/DAPI+細胞のパーセンテージを測定した。ネホパムで処置したヒトAF腫瘍は、BrdU取り込みによって決定されるように、有意に少ない増殖細胞を含有することが観察された(p<0.05、図4B参照)。
【0048】
同時に、これらの結果は、ネホパムが、増殖の速度を低減することによって生きたAF細胞の数を選択的に抑制することを示している。
【0049】
[実施例5]
ネホパムは、初代ヒト線維芽細胞培養物におけるβ−カテニンレベルを減少させる。
過形成性創傷は、増殖期の間のβ−カテニンレベルの上昇によって特徴付けられる。本明細書で記載したデータは、ネホパムが、特に間葉系由来細胞においてβ−カテニンレベルを調節する能力を有することを示す。ネホパムが間葉系細胞においてβ−カテニンレベルを調節することができることを確認するために、不死化ヒト線維芽細胞を、ネホパムで処置した(図5A参照)。デンシトメトリー分析によって決定されるように、ネホパム処置は、0.1%DMSOで処置した培養物と比較して、初代ヒト線維芽細胞培養物における総β−カテニンレベルを約1/4に減少させた(p<0.05、図5B参照)。実験に含まれる更なる対照は、細胞のWnt3a処置(β−カテニン発現を増加させることが知られている)およびネホパムがWnt3aで処置した細胞に及ぼす効果であった。
【0050】
[実施例6]
全身性のネホパムは、Tcfマウスにおけるβ−カテニンレベルおよび創傷サイズを減少させる。
次に、ネホパムが、創傷治癒の間にβ−カテニンレベルに及ぼす効果を調べるために、Tcfマウス由来の創傷した組織を試験した。直径4mmの全層円形創傷をもたらす生検パンチ手順を使用して、皮膚の創傷を発生させた。スケールは、mm単位である。総β−カテニンに対する抗体を使用したウエスタンブロット法(図6A参照)は、対照群と比較して、創傷後14日目に、ネホパムで処置したTcfマウス由来の創傷から培養された細胞におけるβ−カテニンレベルの減少を実証した。
【0051】
さらに、剖検での創傷の検査は、担体(生理食塩水)で処置した対照と比較して、創傷後14日目に、ネホパムで処置したマウスが、直径が有意に小さい瘢痕を有することを示した(アスタリスクは、有意差を示す、p<0.001)(図6B参照)。
【0052】
[実施例7]
全身性のネホパムは、TGF−βによって引き起こされる過形成性瘢痕サイズを低減する。
創傷していない組織と比較して、創傷治癒の初期段階の間にβ−カテニンタンパク質レベルが増加し、次いで後期を通して低下することは既知である。β−カテニンタンパク質レベルの正常な上昇と低下は、過形成性創傷治癒の間は制御解除され、著しく長引くβ−カテニンレベルの上昇が観察される(図7参照)。
【0053】
薬物スクリーニング試験後、マウスを使用してネホパムの効果をin vivoで試験した。経口投与経路および腹腔内投与経路の両方を評価した(40mg/kg体重、毎日、対照として0.1%DMSO)。HPLCを使用して検出されるように、両方の投与経路において、ネホパムは血清中で同定された(データは示さず)。4mmの全層パンチ創傷を皮膚に作製し、創傷後、ネホパムまたは対照を毎日投与した。ネホパムが、過形成性瘢痕を治療するのに有効であるかどうかを決定するために、過形成性瘢痕をもたらす創傷作製に先立ってTGF−(登録商標)を注射した、マウス過形成性瘢痕モデルを使用した。重要なことには、上述のように同じネホパム処置計画が、TGF−(登録商標)で処置していない対照瘢痕と比較して、より小さい瘢痕をもたらした(図8参照)。したがって、ネホパムは、過形成性創傷および正常な創傷修復の両方において瘢痕サイズを低減することができる。
【0054】
[実施例8]
ネホパムの局所的な送達のために様々な担体を使用することができる。
皮膚創傷に関して、理想的な製品は、ネホパムの局所的な製剤である。以下の担体を使用した局所的なネホパム製剤を調製し、評価した。カルボキシメチルセルロース(CMC)、ペトロラタム、およびヒプロメロース。3つの担体をin vivoで試験し、製剤が経皮的にネホパムを送達するのに効果があることを決定した。結果を、図9に図示する。
【0055】
[実施例9]
局所的なネホパムは、マウスにおける正常な瘢痕サイズを減少させる。
上述の生検パンチ手順を使用して、皮膚の創傷をTcfマウスにおいて発生させた。直径6mmの全層パンチ創傷を、対照クリームまたは1%ネホパムクリームで、1日2回、最大21日間局所的に処置した。ネホパム処置は、対照と比較して、瘢痕サイズを約1/3に低減することが観察された。表1は、0日目、およびペトロラタム担体で製剤化された1%ネホパムクリームまたは担体単独対照クリームを毎日局所的に投与した21日後での、マウスモデルにおける正常な創傷サイズ(mmで測定された)の平均を示す。群ごとに4つの創傷について平均値を提供する。
【表1】
【0056】
4mmのパンチ創傷を、Tcfマウスにおいて発生させ、次いで創傷を1日2回、14日間、1%ネホパムクリームまたは対照クリームで局所的に処置した。100任意の単位が対照クリーム処置を意味する、任意の単位を使用して、処置の14日後に形成された瘢痕の表面積を測定した。各処置について10の創傷を測定し、データを平均および標準偏差として提示した。ネホパム処置を受けたマウスにおける瘢痕は、0%ネホパムである対照処置に供したマウスにおける瘢痕より有意に小さいことが観察された(p<0.05)(図10参照)。
【0057】
本発明を、説明的な実施形態および実施例を参照して記載したが、記載は、限定的な意味で解釈されることを意図していない。したがって、本発明の他の実施形態だけでなく、説明的な実施形態の様々な変更形態も、本記載を参照すると当業者には明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、すべてのかかる変更形態および実施形態を包含することが企図される。さらに、特許請求の範囲のすべては、好ましい実施形態の記載中に、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0058】
本明細書で参照されたすべての刊行物、特許および特許出願は、各刊行物、特許および特許出願が、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとするというように明確かつ個々に示されているのと同じ程度まで、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して瘢痕およびβ−カテニン媒介障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
線維増殖性プロセスは、間葉系線維芽細胞様の紡錘細胞の過剰な増殖によって特徴付けられる一群の障害である。このプロセスは、肥大性の創傷から侵襲性線維腫症(AF)などの新生物の発生にまで及ぶ。
【0003】
創傷治癒の間、いくつかの細胞型およびシグナル伝達経路が活性化されて、皮膚の上皮層および真皮層を再構成する。皮膚の損傷に続き、経時的に異なるが重複する3つのプロセス、つまり炎症、増殖、およびリモデリングが開始する。増殖期の間、皮膚の真皮部分に間葉系線維芽細胞様の細胞が蓄積し、一方で上皮細胞バリア層が再編成される(Singer 1999,Martin 1997,McClain 1996)。β−カテニンは、上皮細胞および間葉系細胞活性を媒介し、それによって真皮間葉系細胞における増殖と分化を増加させ、かつ上皮のケラチノサイトにおける移動を減少させることができることが示されている(Cheon 2002)。マウスモデルでは、β−カテニンが生じる創傷のサイズを調節することができ、リチウム処置によって誘発されたβ−カテニンのレベルは、より大きいサイズについて創傷治癒をもたらすことが実証されている(Cheon 2006)。また、テトラサイクリン制御プロモーターの調節下で、間葉系細胞において安定化されたβ−カテニンが発現するトランスジェニックマウスが生み出されている。創傷したマウスは、野生型対照マウスと比較して、過形成性皮膚創傷が治癒した(Cheon 2002)。これは、間葉系細胞におけるβ−カテニンの重要性および創傷治癒におけるその重要な役割を実証している。
【0004】
β−カテニンによって媒介される別の線維増殖性障害は、類腱腫とも呼ばれる侵襲性線維腫症(AF)である。AFは、間葉系線維芽細胞様の紡錘細胞からなる局所浸潤性の軟部組織腫瘍である。AFは、散発性の病変、または家族性大腸腺腫症(FAP)などの家族性の症候群として生じる。β−カテニンレベルの上昇およびβ−カテニン媒介転写活性の増加によって実証されるように、β−カテニンの安定化は、AFにおいて普遍的に発生する。さらに、β−カテニンの安定化は、β−カテニンの安定化した形態を過剰に発現するトランスジェニックマウスモデルを使用して示されるように、AFを引き起こすのに十分である(Cheon 2002)。これは、線維増殖性障害においてβ−カテニンが果たす重要な役割および間葉系細胞におけるその重要性を示唆している。
【0005】
線維増殖性障害におけるβ−カテニンの役割に加えて、多くの研究において、制御解除されたβ−カテニン発現が、結腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌、髄芽腫、毛母腫、および前立腺癌などの多数の悪性腫瘍の発生において重要な事象であることが実証された。β−カテニンの変異は、これらの癌のサブセットの進行における重要なステップであると考えられ、細胞増殖または細胞死の調節における重要な役割を示唆している(Polakis P.The many ways of Wnt in cancer.Curr Opin Genet Dev.2007 Feb;17(1):45〜51で報告されている)。
【0006】
このようなことを考慮して、β−カテニンに関連し得る状態および障害を治療するために効果的な新規な方法を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
ネホパムおよびその類似体が、瘢痕組織の治療だけでなく、線維増殖性障害などのβ−カテニンによって媒介される障害を治療するのに有用であることを見出した。
【0008】
したがって、本発明の一態様において、ネホパム、またはその機能的に同等な類似体、プロドラッグ、塩もしくは溶媒和物を哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害または状態を治療する方法が提供される。
【0009】
本発明の別の態様は、治療有効量のネホパム、または薬学的に許容されるその類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを組織に投与することを含む、瘢痕組織を治療するまたは瘢痕組織形成を低減する方法である。
【0010】
他の態様において、包装と、ネホパムまたはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを含む組成物とを含む製品が提供される。
【0011】
別の態様において、β−カテニン媒介障害もしくは状態の治療、または瘢痕組織の治療のための医薬を調製するための、ネホパムまたはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグの新規な使用が提供される。
【0012】
ここで、本発明を、以下の図を参照してさらに詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】SRBアッセイを使用して、培養された正常な線維芽細胞、および、DMSO(対照)またはネホパムでの処置の後の2つの過形成性創傷由来の培養された細胞における、細胞生存率を示す棒グラフである。細胞生存パーセントを、平均および95%信頼区間として示す。DMSO対照の過形成性創傷細胞培養物と比較して、ネホパムで処置した培養物において生存する細胞のパーセントに有意な低下があるが、しかしながら、正常な線維芽細胞培養物における細胞生存率は、比較的変化がないままであった(アスタリスクは、正常な線維芽細胞培養物と比較した有意性を示す)。
【図1B】過形成性創傷細胞培養物におけるβ−カテニンレベルのウエスタンブロット分析である。ネホパム処置は、DMSO処置対照と比較して、β−カテニンタンパク質レベルを大幅に低減することが示された。
【図2】ネホパムで処置していないそのままの、もしくはネホパムで処置した雄のApc+/Apc1638Nマウスにおいて、またはDMSO対照において形成された侵襲性線維腫症(AF)腫瘍の数を比較し、同じ処置下で上部胃腸管における上皮由来のポリープの数を図示するグラフである。1)処置なし(n=11)、2)0.1%DMSO(n=10)、および3)40mg/kg体重のネホパム(n=10)。
【図3A】0.1%DMSO(対照)またはネホパムのうちの1つで5日間処置した後の、ヒト侵襲性線維腫症(AF)腫瘍(n=5)由来の初代細胞培養物からの抽出物におけるβ−カテニンタンパク質レベル(92kDa)のウエスタンブロットである。ネホパムありまたはネホパムなしで、Wnt3aとともにインキュベートした初代線維芽細胞培養物におけるβ−カテニンタンパク質レベルも決定した。実験を3連で行った。アクチン発現を、溶解物ローディングコントロールとして示す。
【図3B】0.1%DMSO(対照)またはネホパムで処置したヒトAF腫瘍由来の細胞培養物における総β−カテニンタンパク質レベルが、ほぼ1/5に減少したことを示す、タンパク質レベルデータのデンシトメトリー分析のグラフである。平均および95%信頼区間を示す。対照と比較して、統計的な有意差(p<0.05)をアスタリスクで示す。
【図4A】DMSO(n=5)またはネホパム(n=5)で5日間処置した、ヒトAF腫瘍由来の初代細胞の細胞生存率の平均および95%信頼区間を示すグラフである。Trypan Blue Dyeを用いた染色細胞によって、細胞生存率を測定し、生細胞(透明)と死細胞(青)の両方を数えた。ネホパムは、生細胞の数を有意に減少させたが、一方で死細胞の数は変化しなかった。対照と比較して、統計的な有意差(p<0.05)を、アスタリスクで示す。
【図4B】3連で5日間、DMSOまたはネホパムで処置したヒト侵襲性線維腫症腫瘍(n=2)由来の初代細胞の培養物における増殖の程度として、総DAPI陽性細胞と比較した、BrdU陽性/DAPI陽性の細胞パーセントを示すグラフである。ネホパムは、BrdUの細胞中への取り込みを有意に低減する。平均および95%信頼区間を示す。対照と比較して、統計的な有意差(p<0.05)を、アスタリスクで示す。
【図5A】不死化ヒト線維芽細胞から抽出された溶解物のウエスタンブロット分析を示す図である。DMSOで処置した細胞と比較して、ネホパムで処置した細胞における総β−カテニンタンパク質レベルの有意な減少が観察された。GAPDH発現を、溶解物ローディングコントロールとして示す。
【図5B】図5Aのウエスタンブロットデータに相当するデンシトメトリーデータのグラフである。
【図6A】創傷後14日目のTcfマウス創傷由来の細胞培養物におけるβ−カテニンタンパク質レベルのウエスタンブロット分析である。GAPDH発現を、溶解物ローディングコントロールとして示す。
【図6B】担体とともに製剤化されたネホパム(ネホパム)または担体単独(対照)のいずれかで、40mg/kgで2週間、毎日全身的に投与して処置した後、全層円形創傷に供したマウスにおける正常な瘢痕サイズのグラフである。グラフは、4mmの生検パンチを使用して発生させた皮膚の創傷の表面積の直径に関する平均および95%信頼区間を示す。創傷の直径は、対照処置と比較して、ネホパム処置の後で有意に小さい(アスタリスクは有意差を示す)。
【図7】創傷していない組織と比較して、正常な創傷治癒(正常)の間および過形成性創傷(過形成性)において、相対的なβ−カテニンタンパク質レベル(週ごとに測定された)を経時的に示す線グラフである。正常な創傷治癒の間のβ−カテニンタンパク質レベルの上昇および低下の正常なパターンは、過形成性創傷において制御解除され、著しく長引くβ−カテニンタンパク質レベルの上昇期間を示す。
【図8】創傷後4週間の皮膚の過形成性瘢痕の表面積の直径に関する平均および95%信頼区間のグラフである。生検パンチを使用して、直径4mmの全層円形創傷を発生させた。創傷の直径は、mmで示す。アスタリスクは、TGF−βでの処置と比較した場合に注目される、瘢痕サイズにおける統計的な有意差を示す(p<0.01)。ここで、創傷作製時のTGF−β注射は、サイズが増大した過形成性瘢痕を引き起こすことが知られている。
【図9】3つの異なる担体、つまりカルボキシメチルセルロース(CMC)、ペトロラタム、およびヒプロメロースにおけるネホパムの局所的な製剤の異なる濃度のグラフである。3つの担体をマウスモデルにおいてin vivoで試験し、経皮でのネホパム送達において最も効果のある製剤を決定した。ペトロラタムベースの担体製剤は、皮膚および血清におけるネホパムレベルの測定によって決定されるように、強化されたネホパム放出特性を実証した。
【図10】任意の単位で測定した相対的な瘢痕表面積のグラフである(創傷作製における瘢痕サイズは、100任意の単位とみなされる)。直径4mmの全層パンチ創傷を、1日に2回、14日間、担体対照クリーム、またはペトロラタム担体で製剤化した1%ネホパムクリームで局所的に処置した。データは、標準偏差とともに処置ごとに10の創傷の平均を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ネホパムまたはその機能的に同等な類似体を哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害を治療する方法を提供する。
【0015】
本明細書で使用する場合、「β−カテニン媒介障害または状態」という用語は、結腸癌、結腸直腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌、髄芽腫、毛母腫、および前立腺癌などの悪性腫瘍だけでなく、形成中またはすでに形成された、肥厚性瘢痕、過形成性瘢痕およびケロイド瘢痕、ならびに侵襲性線維腫症、例えば家族性大腸腺腫症(FAP)、肝線維症、肺線維症(例えば、珪肺症、石綿症)、腎線維症(糖尿病性腎症を含む)、糸球体硬化症、足底線維腫症およびデュプイトラン拘縮(DC)などの散発性の病変、または家族性の症候群を含む真皮の瘢痕などの線維増殖性障害を含むが、それらに限定されない線維組織の蓄積(「線維症」)により特徴付けられる障害または状態を指す。
【0016】
「ネホパム」という用語は、5−メチル−1−フェニル−1,3,4,6−テトラヒドロ−2,5−ベンゾオキサゾシン、および薬学的に許容されるその機能的に同等な類似体、プロドラッグ、塩および溶媒和物を指す。「機能的に同等な」という用語は、それがネホパムの類似体、プロドラッグ、塩および溶媒和物に関して使用される場合、選択された化合物がβ−カテニンを調節する能力を指す。選択された化合物がβ−カテニンを調節することができる程度は、化合物によって異なっていてもよい。
【0017】
本明細書で使用する場合、「類似体」という用語は、以下の一般式(1)を有する化合物
【化1】
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、Aは、O、CH2またはS(O)n(nは0〜2である)であり、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR3であり、その他がCHであり、R2は、C5〜C6ヘテロアリール、任意選択的にO、NおよびS(O)n(nは0〜2である)から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含有し、任意選択的にR3で置換されたC5〜C10シクロアルキルまたはシクロアルケニルであるか、または任意選択的に1つまたは複数の位置で、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルおよびOR1から独立に選択される1つまたは複数の置換基で置換されたフェニル基、または炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環に縮合したフェニル基であり、R3は、ハロゲン、CF3、CN、OR5、SO2N(R5)2、COR5、CO2R5、CON(R5)2、NR1COR4、NR1SO2R4、NR1CO2R4、NR1CON(R5)2、R3で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたアリール、ならびにNおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環から選択され、R4は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R5は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、別のR5と同じかまたは異なる]または薬学的に許容されるその塩、
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C6アルケニルであり、R2およびR3は、同じかもしくは異なり、H、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルもしくはOR1であるか、またはR2およびR3は、炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族または複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環を形成し、W、X、YおよびZの1つが、N、またはCR4であり、その他がそれぞれCHであり、R4は、ハロゲン原子、CF3、CN、OR7、SO2N(R6)2、COR6、CO2R6、CON(R6)2、NR1COR5、NR1SO2R5、NR1CO2R5、NR1CON(R6)2、任意選択的にR4で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的にR4で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的にR4で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的にR4で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的にR4で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的にR4で置換されたアリール、または炭素もしくは窒素を通して連結された、NおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員もしくは6員の芳香族複素環であり、R5は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、各R6(同じかまたは異なっていてもよい)は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R7は、アリールまたはヘテロアリールである]または薬学的に許容されるその塩、
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、Aは、O、CH2またはS(O)n(nは0〜2である)であり、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR3であり、その他がCHであり、R2は、C5〜C6ヘテロアリール、任意選択的にO、NおよびS(O)n(nは0〜2である)から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含有し、任意選択的にR3で置換されたC5〜C10シクロアルキルまたはシクロアルケニルであるか、または任意選択的に1つまたは複数の位置で、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルおよびOR1から独立に選択される1つまたは複数の置換基で置換されたフェニル基、または炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環に縮合したフェニル基であり、R3は、ハロゲン、CF3、CN、OR5、SO2N(R5)2、COR5、CO2R5、CON(R5)2、NR1COR4、NR1SO2R4、NR1CO2R4、NR1CON(R5)2、R3で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたアリール、ならびにNおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環から選択され、R4は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R5は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、別のR5と同じかまたは異なる]または薬学的に許容されるその塩、
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、Aは、O、CH2またはS(O)n(nは0〜2である)であり、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR3であり、その他がCHであり、R2は、C5〜C6ヘテロアリール、任意選択的にO、NおよびS(O)n(nは0〜2である)から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含有し、任意選択的にR3で置換されたC5〜C10シクロアルキルまたはシクロアルケニルであるか、または任意選択的に1つまたは複数の位置で、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルおよびOR1から独立に選択される1つまたは複数の置換基で置換されたフェニル基、または炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環に縮合したフェニル基であり、R3は、ハロゲン、CF3、CN、OR5、SO2N(R5)2、COR5、CO2R5、CON(R5)2、NR1COR4、NR1SO2、NR1CO2R4、NR1CON(R5)2、R3で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたC2〜C6アルキニル、任意選択的に非置換型R3で置換されたアリール、ならびにNおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環から選択され、R4は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R5は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、別のR5と同じかまたは異なる]または薬学的に許容されるその塩、或いは
[式中、R1は、H、任意選択的にFで置換されたC1〜C6アルキルまたはC3〜C6シクロアルキルまたはC2〜C4アルケニルであり、R2およびR3は、同じかもしくは異なり、それぞれH、ハロゲン、CN、CF3、C1〜C6アルキルもしくはOR1であるか、またはR2およびR3は、炭素環式、複素環式(O、NおよびSから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)、芳香族もしくは複素環式芳香族(OおよびNから選択される1〜2のヘテロ原子を含有する)であってもよい、5員環もしくは6員環を形成してもよく、W、X、YおよびZの1つが、N、CHまたはCR4であり、その他がCHであり、R4は、ハロゲン、CF3、CN、OR7、SO2N(R6)2(ここで、各R6は、同じかまたは異なる)、COR6、CO2R6、CON(R6)2(ここで、R6は、同じかまたは異なる)、NR1COR5、NR1SO2R5、NR1CO2R5、NR1CON(R6)2(ここで、各R6は、同じかまたは異なる)、非置換型R4で置換されたOC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC1〜C6アルキル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC3〜C6シクロアルキル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC2〜C6アルケニル、任意選択的に非置換型R4で置換されたC2〜C6アルキニルおよび任意選択的に非置換型R4で置換されたアリールであるか、またはR4は、NおよびOから選択される1〜4のヘテロ原子を含有する5員または6員の芳香族複素環であり、R5は、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R6は、H、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであってよく、R7は、アリールまたはヘテロアリールである]または薬学的に許容されるその塩を指す。ネホパムの更なる類似体は、引用することによりその内容が本明細書の一部をなすものとする、WO2004/056788、WO2005/103019およびUS2006/0019940で報告されている。ネホパムおよびその類似体は、当業者によく知られている化学合成方法を使用して作製することができる。加えて、ネホパムは市販されている。
【0018】
「プロドラッグ」という用語は、in vivoで転換され、ネホパムまたはその薬学的に許容される類似体、塩、水和物または溶媒和物の構造を有する化合物をもたらす化合物(例えば薬物前駆体)を指す。転換は、例えば、血液中の加水分解を通してなど、様々な機構(例えば、代謝的プロセスまたは化学的プロセス)によって生じることができる。本明細書で用いられる「(1つまたは複数の)塩」という用語は、無機塩基および/または有機塩基で形成された塩基性塩だけでなく、無機酸および/または有機酸で形成された酸性塩も意味する。他の塩も有用であるが、薬学的に許容される(すなわち、非毒性であり、生理的に許容される)塩が好ましい。「溶媒和物」は、好ましくは薬学的に許容される溶媒中でのネホパムまたはその類似体の混合によって形成される。
【0019】
本発明の方法は、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害の治療を包含する。「治療する」、「治療すること」および「治療」という用語は、本明細書で広く使用され、障害の進行を緩和するまたは逆転させる、障害の重症度を低減する、障害を防ぐまたは治癒させる方法を含む、標的の障害を有利に変化させる方法を意味する。「哺乳類」という用語は、ヒトおよび非ヒト哺乳類の両方を包含するために本明細書で使用される。
【0020】
いずれもβ−カテニン媒介または非媒介であってよい、切り傷、すり傷、感染症、ざ瘡、やけど、外科手術などに起因する瘢痕、肥厚性、過形成性、ケロイド、間葉細胞および間葉由来細胞を伴う瘢痕を含めた、真皮の瘢痕を治療する方法も提供される。本方法は、標的部位に治療有効量のネホパム化合物を投与することを含む。形成中またはすでに形成された瘢痕を治療する方法は、瘢痕のサイズ(例えば、少なくとも約5〜10%、好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約25%以上)または瘢痕の有病率(例えば瘢痕の隆起、赤みなど)を低減し、それによってその外観を改善することを含む。これに関し、当業者であれば認識できるが、瘢痕評価スケール、例えばマンチェスタースケール(Manchester Scale)を使用して、所与の瘢痕の改善を評価することができる。マンチェスタースケールは、周囲の皮膚と比較した色、無光沢または光沢のある外観、輪郭(周囲の皮膚から瘢痕/ケロイドまでの赤み)、手触り(正常〜硬い)、縁(明瞭または明瞭でない)、サイズおよび数(単一または複数)を評価する(Disability&Rehabilitation,2009,Vol.31,No.25:Pages 2055〜2063、International Journal of Lower Extremity Wounds December 2007 6:249〜253)。
【0021】
したがって、ネホパム化合物は、瘢痕組織を低減し、瘢痕および周辺領域の美しさを改善するために美容治療に利用することができ、更なる美容特性、例えば抗しわ効果を提供することができる。
【0022】
別の実施形態においては、腫瘍を治療する方法が提供される。腫瘍治療は、腫瘍の惹起および腫瘍細胞増殖を抑制することを含む。この方法は、結腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌および前立腺癌などの様々な癌に起因する腫瘍だけでなく、侵襲性線維腫症などの制御解除されたβ−カテニン発現に起因する腫瘍を治療するのに有用である。本方法は、有効量のネホパム、その類似体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを、治療を必要としている哺乳類、すなわち腫瘍を有する哺乳類に投与することを含む。
【0023】
いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、本発明による治療は、核酸レベルでのβ−カテニン発現の制御もしくは調節、またはタンパク質レベルでのβ−カテニン活性の制御もしくは調節によって達成することができる。
【0024】
治療効果のある用量のネホパムが、本発明により哺乳類に投与される。用量に関して本明細書で使用される「治療効果のある」という用語は、許容されない有害な副作用を引き起こすことなく、β−カテニン媒介障害を治療するために有効な用量を指す。「投与された」という用語は、ネホパムを哺乳類に提供する任意の適切な手段を指し、記載されるように、使用する剤形に依存し得る。例えば、用量は、さらに詳細に記載されるように、経口で、注射によって、粘膜的に、および局所的に投与することができる。
【0025】
したがって、本発明の方法における治療効果のある用量は、約0.0001から約1500mgの範囲内、例えば、約0.0001〜100mgの範囲内である。しかしながら、当業者であれば認識できるが、ネホパムまたはその類似体の治療的有効量は、治療される障害の種類、障害の性質および重症度、治療される哺乳類、治療される哺乳類の症状、治療に使用される化合物、ならびに投与経路を含むが、それらに限定されない多くの要因に応じて変わり得る。
【0026】
ネホパムは、本発明の方法において、単独で、または薬学的に許容されるアジュバントもしくは担体と組み合わせた組成物で投与することができる。「薬学的に許容される」という表現は、薬学技術において使用が許容される、すなわち許容されない毒性がないか、または哺乳類への投与に不適切ではないことを意味する。薬学的に許容されるアジュバントの例には、希釈剤、賦形剤などが含まれるが、これらに限定されない。一般に、製剤に関する指導についての参照として、「Remington’s:The Science and Practice of Pharmacy」、21st Ed.,Lippincott Williams&Wilkins,2005を挙げることができる。アジュバントの選択は、組成物の投与の意図された様式に依存する。本発明の一実施形態において、化合物は、点滴による投与、または皮下もしくは静脈内への注射による投与のために製剤化され、したがって無菌かつ発熱物質のない形で、任意選択的に緩衝されたまたは等張にされた水溶液として利用される。したがって、化合物は、蒸留水で、またはより望ましくは、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水もしくは5%デキストロース溶液で投与することができる。錠剤、カプセル、トローチ剤、水性もしくは非水性液体、水中油型もしくは油中水型液体エマルション、エリキシルもしくはシロップでの溶液もしくは懸濁液経由での経口投与のための組成物が、ラクトース、グルコース、スクロースなどの糖、コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロースおよび酢酸セルロースを含めたセルロースおよびその誘導体、粉末のトラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ラッカセイ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油およびトウモロコシ油などの植物油、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール、寒天、アルギン酸、水、等張食塩水およびリン酸緩衝液を含めたアジュバントを使用して調製される。ラウリル硫酸ナトリウム、安定剤、錠剤化剤、崩壊剤、抗酸化剤、防腐剤、着色剤および調味料などの湿潤剤、滑沢剤もまた存在させることができる。別の実施形態において、組成物は、クリーム、ローションまたは軟膏として局所的適用のために製剤化することができる。かかる局所的適用の場合、組成物は、トリグリセリド基剤などの適切な基剤を含むことができる。かかるクリーム、ローションおよび軟膏は、香料だけでなく、皮膚軟化剤などの界面活性剤および他の美容添加物も含有することができる。例えば、適切な噴霧アジュバントが使用される、経鼻送達のためのエアロゾル製剤も調製することができる。本発明の組成物は、ボーラス、舐剤、またはペースト剤としても投与することができる。経口、経鼻、経直腸または経膣投与を含めた、これらの領域に影響を及ぼす感染症の治療のための粘膜投与のための組成物も包含する。かかる組成物は、一般に、例えば、カカオ脂、ポリエチレングリコール、坐薬ワックス、サリチレートまたは他の適切な担体を含む1つまたは複数の適切な非刺激性の賦形剤または担体を含む。例えば、その有効期間を延長するのを助けることができる他のアジュバントも、それがどのように投与されるかにかかわらず、組成物に加えることができる。
【0027】
本発明の方法において、ネホパム化合物は、経口、皮下、静脈内、腹腔内、鼻腔内、経腸、局所的、舌下、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、吸入、眼内、経皮、経膣または経直腸の手段を含むがそれらに限定されない任意のいくつかの経路によって、便利な方法で投与することができる。ネホパム化合物は、ex vivo治療プロトコールにおいて細胞に投与することもできる。投与経路に応じて、ネホパム化合物を、例えばその治療活性に影響を及ぼすことができる酵素、酸または他の状態による分解を防ぐために、保護物質でコーティングするか、または包むことができる。
【0028】
一実施形態において、例えば、包帯、包帯剤、ポリマーメッシュ、インプラント、デバイスもしくは他の美容上関連のある物品などの、生体適合性のデバイス、ポリマーまたは他のマトリックスに添付された、ネホパムまたはその類似体は、標的部位、例えば形成中またはすでに形成された瘢痕に局所的に適用することができる。ネホパム化合物を発現するように生体工学によって作った皮膚線維芽細胞/ケラチノサイトも、標的部位に適用することができる。代わりに、適切なマトリックスまたはポリマーメッシュ、例えば人工的または非人工的な植皮片に、標的部位に適用するためにネホパム化合物を含浸し、ある期間にわたるその部位の持続的な治療のために、化合物の持続放出を可能にすることができる。
【0029】
本発明におけるネホパム化合物は、例えば、適切な重合体および非重合体の、親水性および疎水性の物質が組み込まれた、溶解または拡散調節モノリシックデバイス、ビーディッドエンカプスレーティッドシステム、浸透圧的に調節されたシステム、および改変されたフィルムコーティングシステムを含む、よく確立された方法を使用して放出制御製剤で投与することができる。適切な放出制御製剤は、アクリルまたはメタクリルのポリマーまたはコポリマー、アルキルビニルポリマー、セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、多糖、アルギネート、ペクチン、デンプンおよび誘導体、天然および合成ゴム、ポリカルボフィル、キトサンを含むがそれらに限定されない、親水性物質を含むことができる。適切な疎水性の物質は、疎水性のポリマー、ワックス、脂肪、長鎖脂肪酸、それらの相当するエステル、それらの相当するエーテル、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。
【0030】
別の実施形態において、ネホパム化合物は、例えば抗瘢痕化剤、上皮増殖因子などの増殖因子、bFCF、PDGFなどの創傷治癒剤、血小板、皮膚線維芽細胞およびケラチノサイト、これらに限定されないが、ラパマイシン、トログリタゾン、ロシグリタゾン、セレコキシブ、レチノイドおよびイレッサなどの化学療法剤を含む、1つまたは複数の更なる治療薬と組み合わせて投与することができる。これに関し、ネホパムは、別々の製剤で、または複合製剤で、更なる治療薬とともに投与することができる。
【0031】
さらに、本発明の方法は、他の治療と組み合わせて、例えば悪性腫瘍の治療における放射線治療と組み合わせて、または正常な瘢痕、過形成性瘢痕組織などの瘢痕組織を治療するためのレーザー治療と組み合わせて利用することができる。
【0032】
本発明の別の態様において、記載されるように、包装と、ネホパムを含む組成物とを含む製品が提供される。包装は、組成物がβ−カテニン媒介障害を治療するのに適していること示すためにラベルが付けられているか、または組成物が形成中またはすでに形成された瘢痕化を治療するのに適していることを示すためにラベルが付けられていてもよい。
【0033】
本発明を、添付の図および特定の実施形態を参照することにより記載するが、本発明を限定的なものと解釈すべきではない。
【0034】
以下で論じる実施例において、以下の材料および方法を使用した。
【0035】
[Apc+/Apc1638NAFマウスモデルおよび処置計画]
Apc/Apc1638Nマウスの作出および表現型は、よく特徴付けられている。これらのマウスは、エキソン15でアンチセンス方向でのネオマイシン挿入の結果として、Apc遺伝子におけるコドン1638に標的変異を有する。雄のマウスは、月齢6カ月までに平均45個のAF病変および6個の胃腸ポリープを発生するが、一方で雌のマウスは、それより著しく少ない数のAF病変を発生する。雄のApc/Apc1638Nマウスを、処置なし(n=11)、0.1%DMSO(n=10)、および40mg/kg体重でネホパム(n=10)の3つの試験群に分けた。毎日の経口の胃管栄養補給による処置を、Apc/Apc1638Nマウスを離乳した後2カ月で開始し、3カ月間継続した。剖検で、AF腫瘍および腸のポリープを、巨視的に点数化した。AF腫瘍および正常な組織を、タンパク質抽出のために採取し、組織学的検査のために固定した。
【0036】
[Tcfレポーターマウスおよび創傷実験]
c−Fosミニマルプロモーターの下流にlacZ遺伝子および3つのコンセンサスTcf結合モチーフを含有するTcf−レポーター構築物を構築した。β−カテニン/Tcf複合体がTcfモチーフに結合すると、lacZの発現が活性化される。Tcfマウスを、先に記載したように創傷させた。皮膚生検パンチ(Miltex Instrument Company,York,PA,USA)を使用して、2つの直径4mmの全層皮膚創傷を発生させた。創傷したTcfマウスを、毎日生理食塩水の腹腔内注射を受ける対照群、および毎日40mg/kg体重の腹腔内注射を受けるネホパム群の2つの試験群に分けた。創傷後14日目に、創傷サイズを調べ、RNAおよびタンパク質抽出のために創傷組織を採取し、組織学的検査のために固定した。
【0037】
[ヒトAF腫瘍および正常筋膜組織試料]
Hospital for Sick Children,Torontoから外科手術時に、ヒト侵襲性線維腫症腫瘍の試料を得た。同じ患者から腫瘍組織および周囲の正常筋膜組織を採取し、外科的切除後すぐに処理した。組織を凍結保存し、液体窒素蒸気中で保管した。
【0038】
[細胞培養試験]
ヒトAF腫瘍および正常筋膜組織試料由来の初代細胞培養物を樹立した。単層培養物を、10%ウシ胎児血清を補充したDMEM中で培養し、5%CO2中、37℃で維持した。コンフルエントに達したら、細胞を分け、第1継代から第5継代の間で実験を行った。実験的な試験に先立って、細胞を播種して一晩放置し、次の日(0日目)に処置を開始し、細胞を、DMEM培地中に調製した250μmのネホパムと共に、またはこのネホパムなしで、ビヒクル対照0.1%DMSOで処置した。
【0039】
[細胞生存率アッセイ、増殖アッセイおよびアポトーシスアッセイ]
Trypan Blue Dye Exclusion法を使用して、細胞生存率を測定した。細胞を、1:1比でTrypan Blue Dyeで染色し、生細胞(透明)と死細胞(青)の両方を計数した。5−ブロモ−2−デオキシ−ウリジン(BrdU)取り込みアッセイを使用して、増殖を測定した。12時間のBrdUインキュベーション後、アルカリホスファターゼにコンジュゲートしたウサギのモノクローナル抗BrdU抗体およびウマの抗マウス抗体を使用して、組み込まれたBrdUを有する細胞を同定した。BrdUの存在を、アルカリホスファターゼ基質を使用して検出した。総細胞核のうち明確に染色された細胞核のパーセンテージを、10高倍率視野で分析した。
【0040】
[タンパク質抽出およびウエスタンブロット分析]
組織試料をPBSで2回洗浄し、Reporter Gene Assay Lysis Buffer(Roche)で溶解した。溶解物を、16,000×gで5分間遠心分離機にかけ、細胞残骸を取り出し、Bicinchoninic Acid(BCA)Protein Assay(Pierce)を使用して定量化した。総タンパク質を、SDS−ポリアクリルアミドゲルを通した電気泳動によって等量に分け、ニトロセルロース膜(Amersham)に転写し、ホスホGSK3β(Ser9、ウサギのポリクローナル抗体、New England Biolabs)、β−カテニン(マウスのモノクローナル抗体、Upstate Biotechnology)、総GSK3β(マウスのモノクローナル抗体、Transduction Laboratories)、およびGAPDH(マウスのモノクローナル抗体、Upstate Biotechnology)に対する一次抗体を用いて4℃で一晩免疫ブロットした。Horseradish Peroxidase(HRP)タグをつけた二次抗体およびEnhanced ChemiLuminescence(Amersham)を使用し、ハイブリダイゼーションを検出した。AlphaEaseFCソフトウェア(Alpha Innotech)を使用して、デンシトメトリーを行った。ウエスタンブロット法を3連で行い、再現性を保証した。
【0041】
[統計分析]
この作業におけるデータを、平均±95%信頼区間として提示した。すべての試験を、少なくとも3連で行い、再現性を保証した。
【0042】
[実施例1]
ネホパム処置は、過形成性創傷細胞の生存率を低減する。
化合物をスクリーニングし、2つの基準を満たすものを同定した。1)β−カテニン活性化を示す過形成性創傷から採取した線維芽細胞の細胞生存率を抑制する、かつ、2)正常な皮膚線維芽細胞培養物に及ぼす影響が皆無かそれに近い。スクリーニングに使用した細胞は、健康な組織だけでなく、過形成性創傷を有する患者から採取したので、スクリーニングの生物学的関連性は考慮すべきであった。各ウェルが、0.1、1.0、もしくは10μΜの間の化合物または対照としてDMSOで処置した細胞を4000個含有する、96ウェルプレート内で実験を3連で繰り返した。Sulforhodamine Bアッセイ(SRB)を使用して細胞生存率を測定した。最初のスクリーニング内で検出された化合物は、ネホパムが同定された試料のより大きいプールを使用して、別の試験を受けた(図1A参照)。
【0043】
ウエスタンブロット分析を使用して、ネホパムで処置した過形成性瘢痕由来の細胞培養物または対照におけるβ−カテニンレベルを分析した。ネホパムは、過形成性創傷由来の細胞培養物におけるβ−カテニンのタンパク質レベルを大幅に低減することが観察された(図1B参照)。GAPDH発現を、ローディングコントロールとして含めた。
【0044】
[実施例2]
ネホパムは、Apc/Apc1638Nマウスにおいて形成されるAF腫瘍の数を減少させる。
ネホパム処置がin vivoでAF病変の表現型を調節することができるかどうかを調査した。ネホパムで処置した雄のApc/Apc1638Nマウスに形成されたAF腫瘍の数は、処置されていないマウス、または月齢6カ月で0.1%のDMSOで処置したマウスに形成された数と比較して、有意に低減した(8.18±1.77対13.2±2.30または12.09±1.31、p<0.03、図2参照)。上部胃腸管における上皮由来のポリープの数に有意差はなかった(図2参照)。これは、ネホパムが腫瘍の惹起を抑制し、さらに間葉系細胞に特異的であることを示す。
【0045】
[実施例3]
ネホパムは、ヒトAF腫瘍細胞におけるβ−カテニンレベルを減少させる。
AF腫瘍は、β−カテニンレベルの増加によって特徴付けられる。ネホパムが、β−カテニンレベルを調節する能力を有しているかどうか調べるために、いくつかのヒトAF腫瘍由来の初代細胞培養物を調査した。総β−カテニンに対する抗体を使用したウエスタンブロット分析は、5日間のネホパム処置の結果として、総β−カテニンと一致する92kDaサイズでタンパク質量の著しい減少を実証した。図3A参照。デンシトメトリー分析は、0.1%DMSOで処置した培養物と比較して、ネホパムで処置したヒトAF腫瘍細胞培養物における総β−カテニンレベルがほぼ1/5に減少したことを示す(図3B参照)。アクチンの発現を、溶解物ローディングコントロールとして決定した。
【0046】
[実施例4]
ネホパムは、ヒトAF腫瘍細胞における細胞生存率および細胞増殖を減少させる。
ネホパムがどのようにAF細胞の挙動を改変することができるのかを決定するために、いくつかのヒトAF腫瘍由来の初代細胞培養物を調査した。まず、ネホパムがヒトAF腫瘍における細胞生存率に及ぼす効果を調査した。0.1%DMSOで処置した培養物と比較して、ネホパム処置後、ヒトAF腫瘍細胞培養物において有意に少ない数の生細胞が観察された(p<0.05)。腫瘍に関するネホパム処置の結果として、数えた死細胞の数に有意差はなかった(p<0.05)(図4A参照)。
【0047】
β−カテニンレベルが、間葉系細胞における増殖速度の制御に関与していることを実証するにあたり、ネホパムが初代細胞培養物における増殖に及ぼす効果を調査した。BrdU取り込みアッセイを使用して、総DAPI+細胞と比較して、BrdU+/DAPI+細胞のパーセンテージを測定した。ネホパムで処置したヒトAF腫瘍は、BrdU取り込みによって決定されるように、有意に少ない増殖細胞を含有することが観察された(p<0.05、図4B参照)。
【0048】
同時に、これらの結果は、ネホパムが、増殖の速度を低減することによって生きたAF細胞の数を選択的に抑制することを示している。
【0049】
[実施例5]
ネホパムは、初代ヒト線維芽細胞培養物におけるβ−カテニンレベルを減少させる。
過形成性創傷は、増殖期の間のβ−カテニンレベルの上昇によって特徴付けられる。本明細書で記載したデータは、ネホパムが、特に間葉系由来細胞においてβ−カテニンレベルを調節する能力を有することを示す。ネホパムが間葉系細胞においてβ−カテニンレベルを調節することができることを確認するために、不死化ヒト線維芽細胞を、ネホパムで処置した(図5A参照)。デンシトメトリー分析によって決定されるように、ネホパム処置は、0.1%DMSOで処置した培養物と比較して、初代ヒト線維芽細胞培養物における総β−カテニンレベルを約1/4に減少させた(p<0.05、図5B参照)。実験に含まれる更なる対照は、細胞のWnt3a処置(β−カテニン発現を増加させることが知られている)およびネホパムがWnt3aで処置した細胞に及ぼす効果であった。
【0050】
[実施例6]
全身性のネホパムは、Tcfマウスにおけるβ−カテニンレベルおよび創傷サイズを減少させる。
次に、ネホパムが、創傷治癒の間にβ−カテニンレベルに及ぼす効果を調べるために、Tcfマウス由来の創傷した組織を試験した。直径4mmの全層円形創傷をもたらす生検パンチ手順を使用して、皮膚の創傷を発生させた。スケールは、mm単位である。総β−カテニンに対する抗体を使用したウエスタンブロット法(図6A参照)は、対照群と比較して、創傷後14日目に、ネホパムで処置したTcfマウス由来の創傷から培養された細胞におけるβ−カテニンレベルの減少を実証した。
【0051】
さらに、剖検での創傷の検査は、担体(生理食塩水)で処置した対照と比較して、創傷後14日目に、ネホパムで処置したマウスが、直径が有意に小さい瘢痕を有することを示した(アスタリスクは、有意差を示す、p<0.001)(図6B参照)。
【0052】
[実施例7]
全身性のネホパムは、TGF−βによって引き起こされる過形成性瘢痕サイズを低減する。
創傷していない組織と比較して、創傷治癒の初期段階の間にβ−カテニンタンパク質レベルが増加し、次いで後期を通して低下することは既知である。β−カテニンタンパク質レベルの正常な上昇と低下は、過形成性創傷治癒の間は制御解除され、著しく長引くβ−カテニンレベルの上昇が観察される(図7参照)。
【0053】
薬物スクリーニング試験後、マウスを使用してネホパムの効果をin vivoで試験した。経口投与経路および腹腔内投与経路の両方を評価した(40mg/kg体重、毎日、対照として0.1%DMSO)。HPLCを使用して検出されるように、両方の投与経路において、ネホパムは血清中で同定された(データは示さず)。4mmの全層パンチ創傷を皮膚に作製し、創傷後、ネホパムまたは対照を毎日投与した。ネホパムが、過形成性瘢痕を治療するのに有効であるかどうかを決定するために、過形成性瘢痕をもたらす創傷作製に先立ってTGF−(登録商標)を注射した、マウス過形成性瘢痕モデルを使用した。重要なことには、上述のように同じネホパム処置計画が、TGF−(登録商標)で処置していない対照瘢痕と比較して、より小さい瘢痕をもたらした(図8参照)。したがって、ネホパムは、過形成性創傷および正常な創傷修復の両方において瘢痕サイズを低減することができる。
【0054】
[実施例8]
ネホパムの局所的な送達のために様々な担体を使用することができる。
皮膚創傷に関して、理想的な製品は、ネホパムの局所的な製剤である。以下の担体を使用した局所的なネホパム製剤を調製し、評価した。カルボキシメチルセルロース(CMC)、ペトロラタム、およびヒプロメロース。3つの担体をin vivoで試験し、製剤が経皮的にネホパムを送達するのに効果があることを決定した。結果を、図9に図示する。
【0055】
[実施例9]
局所的なネホパムは、マウスにおける正常な瘢痕サイズを減少させる。
上述の生検パンチ手順を使用して、皮膚の創傷をTcfマウスにおいて発生させた。直径6mmの全層パンチ創傷を、対照クリームまたは1%ネホパムクリームで、1日2回、最大21日間局所的に処置した。ネホパム処置は、対照と比較して、瘢痕サイズを約1/3に低減することが観察された。表1は、0日目、およびペトロラタム担体で製剤化された1%ネホパムクリームまたは担体単独対照クリームを毎日局所的に投与した21日後での、マウスモデルにおける正常な創傷サイズ(mmで測定された)の平均を示す。群ごとに4つの創傷について平均値を提供する。
【表1】
【0056】
4mmのパンチ創傷を、Tcfマウスにおいて発生させ、次いで創傷を1日2回、14日間、1%ネホパムクリームまたは対照クリームで局所的に処置した。100任意の単位が対照クリーム処置を意味する、任意の単位を使用して、処置の14日後に形成された瘢痕の表面積を測定した。各処置について10の創傷を測定し、データを平均および標準偏差として提示した。ネホパム処置を受けたマウスにおける瘢痕は、0%ネホパムである対照処置に供したマウスにおける瘢痕より有意に小さいことが観察された(p<0.05)(図10参照)。
【0057】
本発明を、説明的な実施形態および実施例を参照して記載したが、記載は、限定的な意味で解釈されることを意図していない。したがって、本発明の他の実施形態だけでなく、説明的な実施形態の様々な変更形態も、本記載を参照すると当業者には明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、すべてのかかる変更形態および実施形態を包含することが企図される。さらに、特許請求の範囲のすべては、好ましい実施形態の記載中に、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0058】
本明細書で参照されたすべての刊行物、特許および特許出願は、各刊行物、特許および特許出願が、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとするというように明確かつ個々に示されているのと同じ程度まで、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネホパム、またはその機能的に同等な類似体、プロドラッグ、塩もしくは溶媒和物から選択されるネホパム化合物を哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害を治療する方法。
【請求項2】
前記β−カテニン媒介障害が、線維増殖性障害および癌からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線維増殖性障害が、肥厚性瘢痕、過形成性瘢痕、ケロイド瘢痕、侵襲性線維腫症、肝線維症、肺線維症、腎線維症、糸球体硬化症、足底線維腫症およびデュプイトラン拘縮(DC)からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記β−カテニン媒介障害が、瘢痕形成である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が、結腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌、髄芽腫、毛母腫、および前立腺癌からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ネホパム化合物が、薬学的に許容されるアジュバントと組み合わせて投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ネホパム化合物が、更なる治療薬と併せて投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ネホパム化合物が、局所的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ネホパム化合物が、標的部位への適用のために生体適合性マトリックスに適用されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生体適合性マトリックスが、包帯剤、包帯、インプラントおよびポリマーマトリックスからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ネホパム化合物が、約0.0001〜100mgの用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
包装と、ネホパム、またはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグから選択されるネホパム化合物を含む組成物とを含む製品であって、前記包装は、組成物がβ−カテニン媒介障害を治療するために有用であることを示す、製品。
【請求項13】
前記β−カテニン媒介障害が、線維増殖性障害および癌からなる群から選択される、請求項12に記載の製品。
【請求項14】
前記組成物が、更なる治療薬を含む、請求項12に記載の製品。
【請求項15】
前記組成物が、局所投与に適したものである、請求項12に記載の製品。
【請求項16】
前記組成物が、生体適合性マトリックスに適用されたネホパム化合物を含む、請求項12に記載の製品。
【請求項17】
β−カテニン媒介障害の治療のための医薬を調製するための、ネホパムまたはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグの使用。
【請求項18】
治療有効量のネホパム、またはその薬学的に許容される類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを瘢痕組織に投与することを含む、瘢痕組織を治療するまたは瘢痕組織形成を低減する方法。
【請求項19】
前記瘢痕組織が、線維腫症、ケロイドまたは肥大性の障害と関連している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記瘢痕組織の量が低減される、および/または、前記瘢痕組織の外観が改善される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記瘢痕が、過形成性瘢痕、外科的瘢痕またはやけどの瘢痕からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
有効量のネホパム、またはその薬学的に許容される類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニンレベルを調節する方法。
【請求項1】
ネホパム、またはその機能的に同等な類似体、プロドラッグ、塩もしくは溶媒和物から選択されるネホパム化合物を哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニン媒介障害を治療する方法。
【請求項2】
前記β−カテニン媒介障害が、線維増殖性障害および癌からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線維増殖性障害が、肥厚性瘢痕、過形成性瘢痕、ケロイド瘢痕、侵襲性線維腫症、肝線維症、肺線維症、腎線維症、糸球体硬化症、足底線維腫症およびデュプイトラン拘縮(DC)からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記β−カテニン媒介障害が、瘢痕形成である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記癌が、結腸癌、メラノーマ、肝細胞癌、卵巣癌、子宮内膜癌、髄芽腫、毛母腫、および前立腺癌からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ネホパム化合物が、薬学的に許容されるアジュバントと組み合わせて投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ネホパム化合物が、更なる治療薬と併せて投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ネホパム化合物が、局所的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ネホパム化合物が、標的部位への適用のために生体適合性マトリックスに適用されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生体適合性マトリックスが、包帯剤、包帯、インプラントおよびポリマーマトリックスからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ネホパム化合物が、約0.0001〜100mgの用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
包装と、ネホパム、またはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグから選択されるネホパム化合物を含む組成物とを含む製品であって、前記包装は、組成物がβ−カテニン媒介障害を治療するために有用であることを示す、製品。
【請求項13】
前記β−カテニン媒介障害が、線維増殖性障害および癌からなる群から選択される、請求項12に記載の製品。
【請求項14】
前記組成物が、更なる治療薬を含む、請求項12に記載の製品。
【請求項15】
前記組成物が、局所投与に適したものである、請求項12に記載の製品。
【請求項16】
前記組成物が、生体適合性マトリックスに適用されたネホパム化合物を含む、請求項12に記載の製品。
【請求項17】
β−カテニン媒介障害の治療のための医薬を調製するための、ネホパムまたはその機能的に同等な類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグの使用。
【請求項18】
治療有効量のネホパム、またはその薬学的に許容される類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを瘢痕組織に投与することを含む、瘢痕組織を治療するまたは瘢痕組織形成を低減する方法。
【請求項19】
前記瘢痕組織が、線維腫症、ケロイドまたは肥大性の障害と関連している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記瘢痕組織の量が低減される、および/または、前記瘢痕組織の外観が改善される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記瘢痕が、過形成性瘢痕、外科的瘢痕またはやけどの瘢痕からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
有効量のネホパム、またはその薬学的に許容される類似体、塩、溶媒和物もしくはプロドラッグを哺乳類に投与することを含む、哺乳類におけるβ−カテニンレベルを調節する方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図9】
【図10】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図9】
【図10】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2013−513625(P2013−513625A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543426(P2012−543426)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/CA2010/002014
【国際公開番号】WO2011/072394
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(501181075)
【氏名又は名称原語表記】THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/CA2010/002014
【国際公開番号】WO2011/072394
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(501181075)
【氏名又は名称原語表記】THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN
【Fターム(参考)】
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