説明

ネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子

【課題】 液晶表示素子を構成した際に、液晶表示素子としての従来の要求特性を満たしながら、応答速度を改善し、なおかつイオン密度を低減して、表示品位を向上させる事が可能な液晶組成物を提供する。
【解決手段】 一般式(I)、一般式(II)及び一般式(III)
【化1】


を含有する液晶組成物及び当該液晶組成物を用いた液晶表示素子。当該液晶組成物は大きな屈折率異方性を有し、液晶表示素子を構成した際に高速応答性に優れると同時に、イオン密度が低く、室温における駆動電圧の周波数依存性を改善する効果を有する。そのため液晶表示素子の構成部材として使用した場合、応答速度が速く且つ時分割駆動による各画素の周波数分布に対してのムラ発生が少ない高表示画質を実現でき、TN、STN等の液晶表示素子に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電気光学表示素子の諸特性を満足し、広いネマチック温度範囲、高い屈折率異方性、低い粘性及び低いイオン密度を有するネマチック液晶組成物及び、これを用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子の代表的なものにTN-LCD(ツイスティッド・ネマチック液晶表示素子)があり、時計、電卓、電子手帳などに使用されている。一方、表示容量の拡大に伴い、STN(スーパーツイスティッド・ネマチック)-LCDが開発され、パーソナルコンピューター、携帯電話などの高情報処理用の表示に広く普及している。
【0003】
最近、携帯用端末表示(Personal Digital Assistance)などでは高コントラストかつ応答速度の速い表示特性が要求されている。高速応答化は、液晶の低粘性化及びガラス基板間に保持される液晶相の厚み(d)を薄くする事で達成されるが、リタデーション(Δn×d)の変動によるコントラスト低下を避けるために、低粘性かつより大きい屈折率異方性(Δn)を有する液晶が望まれている。一方で、液晶表示素子とした際にガラス基板間に保持された液晶相中のイオン量が多い場合、液晶にかかる実効値電圧がイオンの移動により消費されるため、駆動電圧が周波数によって変動する事がある。そのため、一般的に各画素の実効周波数が異なるという特徴を有する高時分割駆動を行なった場合、コントラストの低下やクロストークと呼ばれる表示消え/表示見えが発生するという問題があった。すなわち液晶表示素子とした際のイオン密度を低減する事が良好なコントラストを得るために重要な因子となる。
【0004】
Δnの大きい液晶組成物としては例えばN-フェニル-3-フェニル-3-ヒドロキシ-2-プロピレン-1-1イミンを含有する液晶組成物(特許文献1参照)や、フルオロトラン系化合物を含有する液晶組成物(特許文献2参照)など開示されている。しかし高いΔnを有する液晶化合物は一般的に粘性が高く、液晶組成物のΔnを増大させることと低粘性化はトレードオフの関係にあるため、液晶組成物の粘性が増大するという欠点があった。そこで、4-置換フェニルクロチルエーテル誘導体を含む液晶組成物(特許文献3参照)トラン-4,4'-ジイル構造を有する化合物を含有する液晶組成物(特許文献4参照)、及びジアルケニルトラン誘導体化合物を含む液晶組成物(特許文献5参照)のように高いΔnに加えて、比較的低い粘性を有する液晶組成物が開示されている。しかし粘性とΔnのトレードオフの改善効果は未だ不十分であり、近年の高速応答、高コントラスト液晶表示素子に要求される特性を満たすものではなかった。さらに表示情報量の増加に伴い高時分割駆動へシフトしたことで、液晶セル中のイオン量の影響による表示品位の低下が問題となってきている。すなわち、高いΔn及びより低い粘性を有し、かつ液晶表示素子のイオン量を低減しうる液晶組成物が望まれていたが、具体的な液晶化合物の組合せでこれらを同時に満たす液晶組成物を得る方法については未だ知られておらず、その開発が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平9−124577号公報
【特許文献2】特開昭63−287737号公報
【特許文献3】特開昭62−277333号公報
【特許文献4】特開平10−88140号公報
【特許文献5】特開平10−017500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明が解決しようとする課題は、低い粘性と大きな屈折率異方性を有しかつ液晶表示素子とした際のイオン密度が低いネマチック液晶組成物及び、これを用いる事により高速応答に優れかつ駆動電圧の周波数変化を抑えてコントラストを改善した液晶表示素子を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、種々の液晶化合物を用いた液晶組成物を検討した結果、本願発明を完成するに至った。
すなわち、一般式(I)
【0008】
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表す。)
で表される化合物1種以上を、2〜20質量%含有し、
一般式(II)
【0009】
【化2】

(式中、R2は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)で表される化合物1種以上を、8〜38質量%含有し、
一般式(III)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、R3及びR4はそれぞれ独立的に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表し、Z1は-CH2CH2-、-CH=CH-、-COO-、-OCO-、又は単結合を表し、Y1〜Y8はそれぞれ独立的に-H、-F又はメチル基を表し、Aは1,4-フェニレン基又は1,4-シクロヘキシレン基を表す。)で表される化合物1種以上を、10〜40質量%含有し、一般式(I)で表される化合物と一般式(II)で表される化合物の含有量の合計が10〜40質量%であることを特徴とするネマチック液晶組成物及び当該組成物を用いた液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本願発明のネマチック液晶組成物は、高い屈折率異方性と低い粘性を有しかつ液晶表示素子とした際にイオン密度が低いという特徴を有する。そのためセルギャップの薄い液晶表示素子の部材として好適であり、液晶表示素子とした時の高速応答性に優れると同時に、駆動電圧の周波数依存性が小さいという特徴を有する。そのため高時分割駆動における各画素の周波数分布に対して一定の駆動電圧を維持でき、表示ムラが大きく低減されるため良好な表示品位を保つ事ができ、コントラストと応答速度に優れ、TN、STN等の液晶表示素子に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本願発明の一例について説明する。
本発明において、第1成分として一般式(I)で表される化合物を2〜20質量%含有するが、その含有率は2〜15質量%の範囲であることがより好ましく、3〜10質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0014】
一般式(I)で表される化合物において、R1の炭素数が少ない場合は液晶組成物の低粘性化に有利であるが、同時にネマチック相-等方性液体相転移温度を低下させる。R1の炭素数が多い場合は液晶組成物の粘性に悪影響を及ぼすがネマチック相-等方性液体相転移温度に与える影響は小さくなる。すなわち、一般式(I)においてR1の炭素数が特定の範囲にある化合物において本願発明の特徴を効果的に実現でき、具体的には以下の式(I-a)から式(I-i)で表される化合物がより好ましい。
【0015】
【化4】

【0016】
一方、R1はアルキル基を表すことがより好ましい。よって、式(I-a)から式(I-i)で表される化合物の中でも式(I-a)から式(I-d)が特に好ましく、式(I-b)及び式(I-d)が最も好ましい。
【0017】
第2成分として一般式(II)で表される化合物を8〜38質量%含有するが、その含有率は8〜25質量%の範囲であることがより好ましく、10〜15質量%の範囲であることが特に好ましい。一般式(II)で表される化合物において、一般式(I)中のR1と同様の理由から、R2の炭素数が特定の範囲にある化合物において本願発明の特徴を効果的に実現でき、具体的には以下の式(II-a)から式(II-f)で表される化合物が特に好ましい。
【0018】
【化5】

式(II-a)から式(II-f)で表される化合物中、式(II-a)、式(II-b)及び式(II-d)が特に好ましい。
【0019】
又、誘電率異方性が大きい化合物である一般式(I)及び一般式(II)の含有量の合計は10〜40質量%であるが、13〜25質量%の範囲であることがより好ましい。
【0020】
第3成分として、一般式(III)から選ばれる化合物一種以上を10〜40質量%含有するが、Aが1,4-シクロへキシレン基を表す化合物で構成される事が好ましく、1,4-シクロへキシレン基を表す化合物及び1,4-フェニレン基を表す化合物の両方を用いて構成される事がより好ましく、Aが1,4-フェニレン基を表す化合物でのみ構成される事が特に好ましい。その含有率は10〜35質量%の範囲であることが好ましく、10〜30%の範囲である事がより好ましい。また、低温域でのネマチック相温度範囲の上昇を防ぐために、第3成分は高い相溶性を有する事が好ましい。この目的のために、一般式(III)で表される化合物は分子短軸方向に小さな誘電率異方性(Δε)を有する事が好ましく、具体的にはY1〜Y8の少なくとも一つが-Fを表す事が好ましく、より具体的には以下の一般式(III-a)から一般式(III-x)で表される構造を有する化合物がより好ましい。
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R3及びR4はそれぞれ独立的に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表す。)
この中でも、一般式(III-a)から一般式(III-d)、一般式(III-f)から一般式(III-i)、一般式(III-o)、一般式(III-p)及び一般式(III-t)から一般式(III-v)がより好ましく、一般式(III-a)及び一般式(III-o)が特に好ましい。
【0023】
一般式(III-a)から一般式(III-x)において、R3及びR4はそれぞれ独立的に炭素数1〜8の直鎖状アルキル基又は炭素数2〜8の直鎖状アルケニル基を表す事が好ましく、炭素数1〜8の直鎖状アルキル基を表す事が特に好ましい。R3及びR4の一方又は両方がアルケニル基を表す場合、以下の式(a)〜(e)で表される構造である事が好ましい。(構造式は右端で環に連結しているものとする)
【0024】
【化7】

【0025】
本願発明の液晶組成物は、第4成分として一種又は二種以上の紫外線吸収剤を0.001〜5質量%含有することも好ましいが、母体液晶組成物の特性に与える影響を極力小さくしかつ液晶セルイオン密度を低減するという目的から、その含有率は0.001から2質量%の範囲であることが好ましく、0.001から1質量%であることがより好ましい。これらの紫外線吸収剤は一般式(IV)及び一般式(V)からなる群から選ばれることが特に好ましい。
一般式(IV)
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、Y9及びY10はそれぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜20のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-N-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置き換えられてもよく、X1は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
一般式(V)
【0028】
【化9】

【0029】
(式中R5は炭素数1〜20のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜20のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-N-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置換えられてもよく、A及びBはフェニル基を表すが、それぞれ独立的にこれらの基中に存在する少なくとも一個の水素原子は炭素数1〜5のアルキル基又はアルコキシ基、炭素数2〜5のアルケニル基、-F、-Cl、-OCF3、-OH又は-NO2に置換されてもよい。)
一般式(IV)で表される化合物は、具体的には以下の一般式(IV-a)から一般式(IV-h)で表される化合物がより好ましい。
【0030】
【化10】

【0031】
(X1は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
一般式(IV-a)から一般式(IV-h)の中でも一般式(IV-a)から一般式(IV-f)がより好ましく、一般式(IV-a)及び一般式(IV-b)が特に好ましい。
一般式(V)において、R5は炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、C及びDはフェニル基を表すことがより好ましい。
本願発明は、第5成分として一般式(VI-a)から一般式(VI-h)
【0032】
【化11】

【0033】
(式中、R6及びR7はそれぞれ独立的に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表し、Y11、Y12、Y13、Y14はそれぞれ独立的に-H、-F又はメチル基を表し、Z1は請求項1中に記載のものと同等の構造を表し、Z2は-C≡C-、-COO-、-OCO-を表し、Z3は-COO-、-OCO-を表す。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種以上含有することも好ましいが、これらの化合物を含有する場合1〜20種が好ましく1〜15種がさらに好ましい。一般式(VI-a)から一般式(VI-h)の含有率は20〜90質量%の範囲である事が好ましく、30〜80質量%の範囲がより好ましく、40〜70%の範囲が特に好ましい。一般式(VI-a)から一般式(VI-h)において、R6及びR7はそれぞれ独立して炭素数1から8の直鎖型アルキル基又は炭素数2から8の直鎖型アルケニル基を表すことがに好ましく、アルケニル基を表す場合前述の式(a)から式(e)で表される構造を表すことがより好ましい。
【0034】
又、一般式(VI-a)から一般式(VI-h)の中でも、一般式(VI-a)、一般式(VI-b)、一般式(VI-c)及び一般式(VI-e)がより好ましい。
【0035】
本願発明の液晶組成物は、低い粘性、高いΔnを有し、さらに液晶表示素子を構成した場合においてイオン密度が低く、室温ないし高温における駆動電圧の周波数変化を抑制できるという特徴をもつ。そのため液晶表示素子の高時分割駆動に起因した各画素の周波数分布に対して安定した表示状態を保つ事ができ、高速応答性、高いコントラストに加えて、クロストークと呼ばれる表示見えや表示消え現象を改善した液晶表示素子を提供する事が可能である。ラビング処理されたポリイミド配向膜を有する液晶ディスプレイ用ガラスセルに注入した際のイオン密度は、15[nC/cm2]以下であることが好ましく、10[nC/cm2]以下であることがより好ましく、5[nC/cm2]以下であることが特に好ましい。誘電率異方性(Δε)は、5以上35以下が好ましいが、5以上25以下が特に好ましい。室温における駆動電圧の周波数依存性ΔV/Δf[(Vth[5000Hz]−Vth[64Hz])/Vth[64Hz]×100%]は2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0036】
本願発明の液晶組成物は、前述以外の諸特性にも優れた液晶組成物を提供することが可能であるが、ネマチック相上限温度が60℃以上であることが好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。Δnは0.10から0.26の範囲であることが好ましく、0.10から0.16の範囲がTN-LCDのセル厚の設計に好ましく、0.13から0.24の範囲がSTN-LCDのセル厚の設計に好ましく、応答速度を重視する場合は0.15〜0.22の範囲であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の液晶組成物は、前記の化合物以外に、ネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、2色性色素などを含有していてもよい。又、TN-LCDのリバースツイストドメイン防止のためやSTN-LCDの螺旋構造を誘起するため、カイラル剤を添加しても良い。カイラル剤は通常市販されているものを使用することができる。例えば、コレステリルノナノエート(CN)、メルク社製S-811、R-811、CB-15、C-15などが挙げられる。温度上昇によって誘起螺旋ピッチが長くなるものと短くなるものが知られているが、これらの一方を1種あるいは2種以上を用いても良く、両者を組み合わせて1種あるいは2種以上用いても良い。例えば、TN-LCD、STN-LCD、TFT-LCDにおいては、基板間の厚みdと誘起螺旋ピッチpの商d/pは、0.001から24の範囲から選ぶことができるが、0.01から12の範囲が好ましく、0.1から2の範囲がより好ましく、0.1から1.5の範囲が更に好ましく、0.1から1の範囲が更により好ましく、0.1から0.8の範囲が特に好ましい。
【0038】
上記ネマチック液晶組成物はTN-LCD、STN-LCD、OCB-LCD、高分子分散型液晶表示素子、フェーズチェンジ型コレステリック液晶表示素子に有用であるが、TN-LCD、STN-LCDに特に有用である。また、透過型あるいは反射型の液晶表示素子に用いることができる。
【0039】
本発明のTN液晶表示素子は目的に応じて、ねじり角を80°から130°の範囲で選択することができ、85°から110°が好ましい。本発明のSTN液晶表示素子は目的に応じて、ねじり角を180°から270°の範囲で選択することができ、220°から260°が好ましい。
【0040】
本発明の液晶組成物を使用することにより、1/32から1/400デューティー、より好適には1/60から1/250デューティーの時分割駆動表示において、高速応答性に優れ、かつ低いイオン密度により各画素の周波数分布による駆動電圧変化が抑えられ、これにより表示ムラが低減して情報量の増加やカラー表示に対しより改善した高コントラストの液晶表示素子を提供することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。又、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
TNI :ネマチック相−等方性液体相転移温度(℃)
Δε :誘電率異方性(25℃)
Δn :屈折率異方性(25℃)
η :粘度(mPa・s) (20℃)
【0042】
STN-LCD表示素子の作成は以下のように行った。ネマチック液晶組成物にカイラル物質「S-811」(メルク社製)を添加して混合液晶を調整し、ツイスト角240度のSTN-LCD表示用セルに注入した。なお、カイラル物質はカイラル物質の添加による混合液晶の固有螺旋ピッチPが10.0μmになるよう調整し、表示用セル厚dは5.0μmを用いた。
Vth(STN) :閾値電圧(V)
Vsat(STN) :飽和値電圧(V)
γ :急峻性 Vsat(STN)/ Vth(STN)
τ :応答性(msec)
ΔV/Δf(Vth[5000Hz]−Vth[64Hz])/Vth[64Hz]×100%
ID : 25℃で10V、0.03Hzの三角波形を印加して測定した際の液晶セルイオン密度 (nC/cm2)
【0043】
化合物記載に下記の略号を使用する。
-n 数字 :-CnH2n+1 (アルキル側鎖は数字、代表するときはRとする。)
-On :-OCnH2n+1
-ndm :-(CnH2n+1-CH=CH-(CH2)m-1)
ndm- :CnH2n+1-CH=CH-(CH2)m-1-
-Od(m)n :-O(CnH2n+1-CH=CH-(CH2)m-2)
d(m)nO- :CnH2n+1-CH=CH-(CH2)m-2O-
連結基
-VO- :-COO- -T- :-C≡C-
-2- :-CH2CH2- -Z- : -CH=N-N=CH-
置換基
-CN :-C≡N -F :-F

Ph :1,4-フェニレン基 Ph1:3-フルオロ-1,4-フェニレン基
Ph2:3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基
Ma :ピリミジン-2,5-ジイル基 Cy :1,4-シクロヘキシレン基
また、紫外線吸収剤としては以下の構造を有するKEMISORB71(ケミプロ化成製)及びUvinul3035(BASF製)を使用した。
【0044】
【化12】

KEMISORB71
【0045】
【化13】

Uvinul3035
(実施例1及び比較例1〜5)
本願発明の液晶組成物として表1に示す組成の組成物を作製し物性値を測定し合わせて表1に示す。又、比較例1〜3として、実施例1のΔnに近い値を示すように3種の液晶組成物を作製した。これらの物性値を表1に示す。
表1.実施例1及び比較例1〜3
【0046】
【表1】

【0047】
表1.に示すように、実施例1の液晶組成物は、閾値電圧、TNI、Δn及び粘性を維持しながら、液晶パネル中のイオン密度が低減されている。一般式(II)の化合物を含有しない比較例1の液晶組成物は、Δn及び粘性は実施例1とほぼ同等であるがイオン密度が大幅に悪化している。又、一般式(I)を含まない比較例2及び一般式(III)を含まない比較例3は、Δn及びイオン密度は実施例1と同等であるが粘性の点で実施例1に劣ることが分かる。
【0048】
実施例1の液晶組成物に対して、粘性値がほぼ同等になるように比較例4及び5の液晶組成物を調製しその物性値を以下の表2に示す。
表2. 実施例1及び比較例4、5
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すように、一般式(I)を含有しない比較例3及び一般式(III)を含有しない比較例4の液晶組成物は、粘性とイオン密度は実施例1と同等の値を示すものの、Δnが大きくならない問題を有していることが分かる。
本願発明の液晶組成物として実施例2及び3の液晶組成物を作製しその物性値を以下の表3に示す。
表3. 実施例2及び実施例3
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示すように、実施例2及び実施例3の液晶組成物はいずれも実施例1と同等の優れた物性値を有する。又、本願発明の液晶組成物は駆動電圧の周波数依存性であるΔV/Δfについても優れた特性を有する。
【0053】
以上の様に本願発明の液晶組成物は、駆動電圧の周波数変化が低減され、コントラストが高く、同時に応答性に優れた液晶表示素子を構成する際の部材として非常に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本願発明の液晶組成物のΔnと粘性を示す図である。
【図2】本願発明の液晶組成物の液晶セルイオン密度と粘性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表す。)
で表される化合物1種以上を、2〜20質量%含有し、
一般式(II)
【化2】

(式中、R2は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)で表される化合物1種以上を、8〜38質量%含有し、
一般式(III)
【化3】

(式中、R3及びR4はそれぞれ独立的に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表し、Z1は-CH2CH2-、-CH=CH-、-COO-、-OCO-、又は単結合を表し、Y1〜Y8はそれぞれ独立的に-H、-F又はメチル基を表し、Aは1,4-フェニレン基又は1,4-シクロヘキシレン基を表す。)で表される化合物1種以上を、10〜40質量%含有し、一般式(I)で表される化合物と一般式(II)で表される化合物の含有量の合計が10〜40質量%であることを特徴とするネマチック液晶組成物。
【請求項2】
一般式(I)において、R1が炭素数1〜8の直鎖状アルキル基又は炭素数2〜8の直鎖状アルケニル基を表す請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
一般式(III)において、Aが1,4-フェニレン基を表し、Z1は単結合を表す請求項2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
一般式(III)において、Y1〜Y8の一つ又は二つ以上が-Fを表す請求項3に記載の液晶組成物。
【請求項5】
一種又は二種以上の紫外線吸収剤を0.001〜5wt%含有する請求項2〜4のいずれかに記載のネマチック液晶組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の紫外線吸収剤が、一般式(IV)
【化4】

(式中、Y9及びY10はそれぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜20のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-N-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置換えられてもよく、X1は水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)及び、
一般式(V)
【化5】

(式中R5は炭素数1〜20のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜20のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-N-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置換えられてもよく、C及びDはフェニル基を表すが、それぞれ独立的にこれらの基中に存在する少なくとも一個の水素原子は炭素数1〜5のアルキル基又はアルコキシ基、炭素数2〜5のアルケニル基、-F、-Cl、-OCF3、-OH又は-NO2に置換されてもよい。)
で表される化合物群から選ばれる請求項5に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項7】
一般式(VI-a)、一般式(VI-b)、一般式(VI-c)、一般式(VI-d)、一般式(VI-e)、一般式(VI-f)、一般式(VI-g)及び一般式(VI-h)
【化6】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立的に炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基又は炭素数2〜8のアルケニルオキシ基を表し、Y11、Y12、Y13、Y14はそれぞれ独立的に-H、-F又はメチル基を表し、Z1は請求項1中に記載のものと同等の構造を表し、Z2は-C≡C-、-COO-又は-OCO-を表し、Z3は-COO-又は-OCO-を表す。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種以上含有する、請求項2〜6いずれかに記載のネマチック液晶組成物。
【請求項8】
誘電率異方性(Δε)が5以上35以下の範囲である請求項2〜7の何れかに記載のネマチック液晶組成物。
【請求項9】
屈折率異方性(Δn)が0.10以上0.26以下の範囲である請求項8に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項10】
屈折率異方性(Δn)が0.13以上0.24以下の範囲である請求項8に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項11】
屈折率異方性(Δn)が0.15以上0.22以下の範囲である請求項8に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の液晶組成物を用いる液晶表示素子。
【請求項13】
捩れ角が180〜270°の範囲である、請求項12に記載の超捩れネマチック(STN)液晶表示素子。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−320985(P2007−320985A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149787(P2006−149787)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】