説明

ノズル板、液滴吐出ヘッド、液体カートリッジ、液滴吐出記録装置、およびノズル板の製造方法

【課題】高解像度化への要求に対応する狭ピッチなノズル加工の場合であっても、低コストで十分な加工精度を実現し、流路形成部材との接合領域の変形を極めて小さくする。
【解決手段】ノズル板のノズル孔が、ノズル板における流路形成部材を接合させる面からのプレス加工を少なくとも含む加工工程により形成される。また、ノズル板における流路形成部材を接合させる面でのノズル孔の淵部には、リング形状の凹部が形成されているようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出を行うためのノズル孔が形成されたノズル板、液滴吐出ヘッド、液体カートリッジ、液滴吐出記録装置、およびノズル板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液滴吐出ヘッドとしては例えば液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、インクを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド等がある。
【0003】
こうした液滴吐出ヘッドを用いるプリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、プリンタ/ファックス/複写機複合機等の各種画像形成装置としては、記録液(例えばインク)の液滴を吐出する液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッド(印字ヘッド)をキャリッジに搭載して、このキャリッジを被記録媒体(以下「用紙」というが、材質を紙に限定するものではなく、また、記録媒体、記録紙、転写材などとも称される。)の搬送方向に対して直交する方向にシリアルスキャンさせるとともに、被記録媒体を記録幅に応じて間歇的に搬送し、搬送と記録を交互に繰り返すことによって被記録媒体に画像を形成(記録、印刷、印字、印写も同義で使用する。)するシリアル型画像形成装置、或いは、ライン型の記録ヘッドを搭載したライン型画像形成装置がある。
【0004】
このような画像形成装置において大きな技術課題として高速化と高画質化があり、高画質化においては画像解像度の高解像化に伴い液滴の小滴化やノズルの高密度化する方法、高速化には液滴吐出の駆動周波数を上げる方法や1ヘッド当たりのノズル数を増やしたライン型の記録ヘッドに代表される記録ヘッドを長尺化する方法がある。
近年、液滴吐出プリンタにおいては高速化が進み、液滴吐出ヘッドとしては長尺化に伴いノズル数の増加が求められている。
【0005】
また、ノズルプレートのノズル形成方法として、レーザー加工を用いて容易に高精度化、平坦化するノズル加工とするため、ハーフミラーと2枚の並行平板を用いてレーザー加工を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、金属プレートにプレスによる塑性変形と研磨加工でノズル形成を行う技術として、プレス加工の打ち込み側の形状を安定化させるために、第2の金属板を接合した上からプレス加工を行い、その後にその第2金属板を除去するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した一般的な液滴吐出プリンタにおいては、液滴吐出ヘッドで液滴を吐出する際、加圧液室からの圧力が共通液室に伝播し、その圧力が再び加圧液室側へ伝わると、加圧液室の圧力を変動させる要因となり、インク滴を所望の質量及び速度で飛ばすことができなくなり、噴射不良を引き起こす虞があった。特に、同時に多数の加圧液室を作用させてインクを吐出させる場合、多数の加圧液室から共通液室に伝えられる圧力は非常に大きなものとなり、噴射不良を生じやすくなる。このため、加工コストを上げることなく、なるべく高精度な部品加工が求められていた。
【0008】
また、高解像度化が要求されるとノズル加工のピッチも狭くなるため、その狭いノズル間での流路形成部材との平坦な接合領域を十分に確保できる加工法が求められる。すなわち、ノズル加工のピッチを狭くしながらも、流路形成部材との接合領域が変形しないようにすることが求められる。
【0009】
また、上述した特許文献1のものでは、設備投資額が巨額となり、設備の安定稼働に多大な労力を要してしまっていた。また加工されたノズルの内壁には加工痕が残ることがあり、吐出特性として考えると不利な点もあった。
【0010】
また、上述した特許文献2の製造方法では、工数も増加してしまうと共に、第2の金属板のためにプロセスコストが高額となっていた。
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、高解像度化への要求に対応する狭ピッチなノズル加工の場合であっても、低コストで十分な加工精度を実現でき、流路形成部材との接合領域の変形が極めて小さいノズル板、液滴吐出ヘッド、液体カートリッジ、液滴吐出記録装置、およびノズル板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明に係るノズル板は、複数のノズル孔が形成されたノズル板と、ノズル板に接合されて固定される流路形成部材と、流路形成部材内に形成された加圧液室を介してノズル孔から液滴吐出させるための圧力を発生させる圧力発生手段と、を備えた液滴吐出ヘッドに用いられるノズル板であって、ノズル孔は、ノズル板における流路形成部材を接合させる面からのプレス加工を少なくとも含む加工工程により形成され、ノズル板における流路形成部材を接合させる面でのノズル孔の淵部には、リング形状の凹部が形成されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上述した本発明に係るノズル板と、流路形成部材と、圧力発生手段と、圧力発生手段による圧力を加圧液室内の液体に伝達する圧力伝達部を備えた振動板と、を備えた液滴吐出ヘッドであって、流路形成部材は、加圧液室を少なくとも含む流路のためのスペースが形成された流路板であり、振動板は、流路板におけるノズル板に接合される面の反対側の面に接合されて構成されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る液体カートリッジは、上述した本発明に係る液滴吐出ヘッドと、液滴吐出ヘッドに液体を供給するタンクとを備えて構成されたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出記録装置は、上述した本発明に係る液体カートリッジを備え、該液体カートリッジの液滴吐出ヘッドを用いて画像形成を行うよう構成されたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るノズル板の製造方法は、複数のノズル孔が形成されたノズル板と、ノズル板に接合されて固定される流路形成部材と、流路形成部材内に形成された加圧液室を介してノズル孔から液滴吐出させるための圧力を発生させる圧力発生手段と、を備えた液滴吐出ヘッドに用いられるノズル板の製造方法であって、板状部材における流路形成部材を接合させる面にリング状の凹部を形成する凹部形成工程と、板状部材の平面方向におけるリング状の凹部よりも内側に、板状部材における凹部形成工程で該凹部が形成された面から、ノズル孔の形状を未貫通のプレス加工で形成するノズル孔プレス工程と、ノズル孔プレス工程により形成された未貫通のノズル孔の板状部材における反対側の面に、該ノズル孔プレス工程により形成された凸部を削除することで該ノズル孔を開口させる削除工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、高解像度化への要求に対応する狭ピッチなノズル加工の場合であっても、低コストで十分な加工精度を実現でき、流路形成部材との接合領域の変形が極めて小さい製品を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態としての液滴吐出ヘッドの分解斜視図である。
【図2】該液滴吐出ヘッドの圧電素子12と支柱部14との配列方向に垂直な方向における縦断面図である。
【図3】該液滴吐出ヘッドの圧電素子12と支柱部14との配列方向おける縦断面図である。
【図4】フレーム15の構成例を示す斜視図である。
【図5】ノズル板3および流路板1の形状を示す平面図および縦断面図である。
【図6】パンチ冶具519による(a)プレス加工前、(b)プレス加工後を示す縦断面図である。
【図7】(a)パンチ冶具520によるプレス加工後、(b)研磨加工後を示す縦断面図である。
【図8】本実施形態によるインクカートリッジの構成例を示す斜視図である。
【図9】本実施形態による液滴吐出記録装置の構成例を説明する斜視説明図である。
【図10】本実施形態による液滴吐出記録装置の構成例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るノズル板、液滴吐出ヘッド、液体カートリッジ、液滴吐出記録装置、およびノズル板の製造方法を適用した一実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
〔液滴吐出ヘッドについて〕
図1〜3に、本発明の一実施形態としての液滴吐出ヘッドの構成例を示す。
図1は分解斜視図であり、図2は、圧電素子12と支柱部14との配列方向に垂直な方向における縦断面図であり、図3は、その配列方向おける縦断面図である。なお、図1の分解斜視図では、流路板1とノズル板3とが接合された状態を示す。
【0021】
液滴吐出ヘッドは、プレス加工法およびウエットエッチング加工法により形成された流路板(流路形成部材)1と、電鋳法により形成されて流路板1に接合されるノズル板3と、電鋳法により形成されて流路板1の反対側に接合される振動板2と、フレーム15とを有し、これらによって、インク滴を吐出するノズル4と、インク流路である加圧液室6と、加圧液室6にインクを供給するためのインク供給口9と、それを介して連通する共通液室8とが設けられた構成となっている。
【0022】
また、図1に示すアライメントマーク61,63は、流路板1にノズル板3および振動板2を接合させる際の位置合わせをするためのマークである。このマークを用いることにより、高精度に接合位置の位置合わせができるようになっている。
【0023】
そして、振動板2におけるフレーム15に接合される面の側(加圧液室と反対面側)に、各加圧液室6に対応して加圧液室6内のインクを加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての積層型圧電素子12が接合される。この圧電素子12は、金属あるいはセラミックスなどの高剛性材料で形成されたベース基板13に接合されている。
【0024】
また、図3に示すように、圧電素子12の間には、加圧液室6と加圧液室6との間に設けられた隔壁部1aの位置に対応して、支柱部14が設けられている。ここでは、圧電素子部材にハーフカットのダイシングによるスリット加工を施すことで櫛歯状に分割して、1つ毎に圧電素子12と支柱部14として形成している。支柱部14も構成は圧電素子12と同じであるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。
【0025】
こうした構成で、圧電素子12に駆動電圧が印加されることにより、振動板2は、圧電素子12の振動による圧力を加圧液室6内の液体に伝達する圧力伝達部として機能する。
【0026】
さらに、振動板2部材の外周部はフレーム部材15に接着剤にて接合している。このフレーム部材15には、共通液室8となる凹部、この共通液室8に外部からインクを供給するための図示しないインク供給穴16(図4参照)を形成している。このフレーム部材15は、例えばエポキシ系樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成している。
【0027】
図4は、フレーム15を示す。本実施形態では、共通液室8は長手方向の端部で短手方向の幅が狭くなり深さが浅くなる形状となっている。このような形状によりインクの流れ性と、気泡排出性を良好にすることができる。
【0028】
ここで、流路板1は、例えばステンレス鋼材をプレート状に成形したもので、例えばプレス加工法にて加圧液室6およびインク供給路7となるスペースを形成し、ダンパー室50をウエットエッチング加工法にて、加圧液室6よりも浅くハーフエッチングにより形成したものである。
ダンパー室50は、ノズル板3と振動板2により、矩形の空間となるが大気連通管51を通して大気と連通することにより、エアダンパー効果を持たせる構造としている。
【0029】
振動板2は、金属と樹脂板との積層部材や金属と金属の積層部材(複層構造部材)などを用いて加工した複層構造の振動板である。この他にニッケルの金属プレート状に形成したもので、例えば電鋳法で作製したものであっても構わない。振動板2には樹脂層のみとなるよう金属をエッチングしてダンパー部21を形成している。また、共通液室からの液供給口9を貫通形状で形成した。
【0030】
ノズル板3は各加圧液室6に対応して直径10〜35μmのノズル4を形成している。このノズル板3としては、ステンレス、ニッケルなどの金属、金属とポリイミド樹脂フィルムなどの樹脂との組み合せからなるものを用いてもよい。ここでは、ステンレス材料をプレス加工と研磨加工によりノズル孔を形成している。また、ノズル4の内部形状(内側形状)は、テーパ形状に形成し、このノズル4の穴径はインク滴出口側の直径で約15〜25μmとしている。さらに、各列のノズルピッチは150dpiとした。
【0031】
また、ノズル板3のノズル面(吐出方向の表面:吐出面)には、図示しない撥水性の表面処理を施した撥水処理層を設けている。撥水処理層としては、例えば、オプツール膜、PTFE−Ni共析メッキやフッ素樹脂の電着塗装、蒸発性のあるフッ素樹脂(例えばフッ化ピッチなど)を蒸着コートしたもの、シリコン系樹脂・フッ素系樹脂の溶剤塗布後の焼き付け等、インク物性に応じて選定した撥水処理膜を設けて、インクの滴形状、飛翔特性を安定化し、高品位の画像品質を得られるようにしている。
【0032】
圧電素子12は、厚さ10〜50μm/1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電層と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極層とを交互に積層したものであり、内部電極を交互に端面の端面電極(外部電極)である個別電極、共通電極に電気的に接続し、これらの電極にFPCケーブル17を介して駆動信号を供給するようにしている。この圧電常数がd23である圧電素子12の伸縮により加圧液室6を収縮、膨張させるようになっている。圧電素子12に駆動信号が印加され充電が行われると伸長し、また圧電素子12に充電された電荷が放電すると反対方向に収縮するようになっている。
【0033】
図5は、本実施形態の液滴吐出ヘッドのノズル板3と流路板1との形状図を示しており、ノズル板3に流路板1が接合されている状態を示した平面図と断面図である。流路板1の隔壁1aはノズル板に接合されている必要があり、ノズル板の接合領域部510は平坦性を必要とする。ノズル板3の平面方向におけるノズル孔の斜面515周辺部にリング状の凹部511があることでノズル板の接合領域部510は平坦性が確保されていることを示している。
【0034】
図6、図7は、ノズル板3の製造方法を説明する断面図である。
まず、被加工材料である金属材料の板状部材に対して、図6に示すようなパンチ冶具519を用意してプレス加工を行い、リング状の凹部511を形成する。この時の塑性変形加工深さは10〜30μm程度が望ましい。
【0035】
その後、図7に示すような2つ目のパンチ冶具520を用意してプレス加工を行う。この塑性変形加工では、ノズル孔の元となる形状を加工している。図7(a)に示すように、この加工によりパンチ冶具520の打ち込み側には、ノズル4への液体の入口となる斜面515が形成されると共に、その斜面515周りに大きなダレ部512を生じることとなる。しかし、リング状の凹部511が、このダレ部512を生じさせる変形を吸収することにより、ノズル板の接合領域部510は平坦性が確保される。
またこの加工により、パンチ冶具520の打ち込み側と反対側の面に凸部517が形成されるが、この凸部517を研磨加工により研磨して削除することで、図7(b)に示すように、ノズル4を開口させる。こうしてノズル孔が形成される。
【0036】
こうすることにより、図7に示す2つ目のパンチ冶具520の打ち込みによるプレス加工によっても、ノズル板3における流路板1との接合領域部510は変形することなく、ノズル板3の平面方向に平行な平面をほとんど維持することができる。
【0037】
このため、平面性が維持された接合領域部510により、流路板隔壁部1aを確実に接合させることが可能となり、高い接合強度を得ることができる。
【0038】
このことにより、それぞれの加圧液室への圧力が十分伝達され安定した吐出特性を持ったインクジェットヘッドを提供することが可能となる。
【0039】
本実施形態では、金属材料の板状部材を用いて、ノズル板3の部品加工を行っているが、好ましくはステンレス鋼を用いることで、様々な種類の液体に対応することが可能であり、さらに材料コストを抑えることが可能となる。ただし、ステンレス鋼に限らず、様々な金属材料でも本実施形態による部品形成は可能である。
【0040】
また、ノズル板3の平面方向におけるノズル孔の重心(ノズル孔が円形であれば円の中心)をこのリング状の凹部511の中心とするよう、リング状の凹部511を形成すると、図7に示す2つ目のパンチ冶具520の打ち込みによるプレス加工によっても、接合領域部510の平坦性をより確実に確保することができる。
【0041】
〔インクカートリッジについて〕
図8に示すインクカートリッジについての説明を行う。
このインクカートリッジは、ノズル70等を有する上述した実施形態による液滴吐出ヘッド71と、この液滴吐出ヘッド71に対してインクを供給するインクタンク72とを一体化したものである。
【0042】
このようにインクタンク一体型のヘッドの場合、ヘッドの歩留まり不良は直ちにインクカートリッジ全体の不良につながるので、上述したように液滴吐出特性の向上は、ヘッド一体型インクカートリッジの信頼性向上化を図れる。
【0043】
〔液滴吐出記録装置について〕
次に、上述した実施形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出記録装置の一例について図9及び図10を参照して説明する。なお、図9は同記録装置の斜視説明図、図10は同記録装置の機構部の側面説明図である。
【0044】
この液滴吐出記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明を実施した液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部82等を収納し、装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
【0045】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向(図9で紙面垂直方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドからなるヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ93にはヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0046】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0047】
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モーター97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0048】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83をヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0049】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115,116とを配設している。
【0050】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0051】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0052】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0053】
以上のように、上述した本発明の実施形態では、複数のノズルを形成したノズル板と、ノズルが連通する加圧液室を形成した流路板と、液滴吐出のための圧力を加圧液室に伝搬させる変形可能なダイアフラム部を圧力伝達部として備えた振動板と、上記ノズル板と流路板と振動板を保持するためのフレームと、液滴吐出のための圧力を発生させる圧力発生手段と、を備えた液滴吐出ヘッドについて、上記ノズル板の上記流路板を接合する面側よりプレス加工により打ち込まれて形成されたノズル孔の淵部に、リング形状の凹部を備えるようにしたノズル板としている。
【0054】
このため、上述した実施形態によれば、高解像度化に対応できる狭ピッチなノズル加工であっても、ノズル板へのプレス加工時における流路形成部材との接合エリアの変形を小さくすることが可能となる。このため、ノズル板における平坦な接合エリアを十分に確保でき、十分な接合強度でノズル板3と流路板1とが接合された液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0055】
さらに、上記リング形状の凹部により、ノズル板3と流路板1との接合時の余剰接着剤がノズル内に流入することを防止できるため、接合強度を向上させると共に、吐出性能を安定化させることができ、高画質な液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0056】
また、上記リング形状の凹部は、上記ノズル板の平面方向における上記ノズル孔の重心を該リング形状の中心とするよう形成される。そして、上記流路板を接合する面側よりプレス加工により打ち込まれてノズル孔の形状が形成されることで、ノズル板3の平面方向における上記リング状の凹部よりも内側は、その凹部側から見て、ノズル孔側へダレた傾斜形状となる。このため、液滴の流体抵抗を低くでき、十分なリフィル効果と安定した吐出特性が得られる液滴吐出ヘッドを提供できる。
【0057】
また、上記流路板を接合する面側におけるノズル孔の淵部に配置された上記リング形状の凹部よりも外側に配置された流路板接合領域は、液滴吐出面の平面方向と平行な略平面となるよう形成される。このため、流路板との接合領域の平坦部を十分に確保でき、十分な接合強度でノズル板3と流路板1とが接合された液滴吐出ヘッドを提供することができる。このため、吐出特性を安定させることが可能となる。
【0058】
また、上記ノズル板は金属プレートであり、ステンレス材料であることを特徴としたことで、安価に部品製作することが可能となる。
【0059】
また、上述した実施形態の液滴吐出ヘッドと、液体を格納するタンクとを一体形成したので高速印刷と高画質化を両立できる液体カートリッジを得ることができる。
【0060】
また、上述した実施形態の液滴吐出ヘッド或いは液体カートリッジを搭載したので、高速印刷と高画質化を両立できる画像形成装置を得ることができる。
【0061】
また、上記ノズル孔は、プレス加工を少なくとも含む工程により形成されており、2工程の未貫通の深絞り加工後に研磨加工によりノズル形状を形成させている。
より詳述すると、板状部材における上記流路板を接合させる面にリング状の凹部を形成する凹部形成工程と、上記板状部材の平面方向における上記リング状の凹部よりも内側に、上記板状部材における上記凹部形成工程で該凹部が形成された面から、上記ノズル孔の形状を未貫通のプレス加工で形成するノズル孔プレス工程と、上記ノズル孔プレス工程により形成された未貫通のノズル孔の上記板状部材における反対側の面に、該ノズル孔プレス工程により形成された凸部を削除することで該ノズル孔を開口させる削除工程と、を有する製造方法により、ノズル板の上記ノズル孔が形成される。
このため、安価で、幅広いヘッドに対応できるノズル板を加工できるプレス加工法を提供することができる。
【0062】
なお、上述した各実施形態は本発明の好適な実施形態であり、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々変形して実施することが可能である。
【0063】
例えば、本発明は金属もしくは樹脂材に微細な形状を形成するための加工技術、特に液滴吐出式記録ヘッドに使用する液室部を構成する金属もしくは樹脂材の加工技術および加工形状に関するものであり、上述した実施形態に限定されず、例えば液滴吐出技術を用いたカラーフィルタ製造装置や、金属配線製造装置、染色装置、DNAチップ製造装置などの工業用製造装置にも同様に適用可能である。
【0064】
また、上述した実施形態では、液滴吐出記録装置の構成例として、インクジェットプリンタの例で説明したが、インクジェットコピー、インクジェットファックス、あるいはそれらの複合型記録装置であっても本発明は同様に適用することができる。
【0065】
また、インクジェット記録装置に限定されず、インクジェット技術を用いたカラーフィルタ製造装置、金属配線製造装置、捺染装置、DNAチップ製造装置などの工業用製造装置についても本発明は同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 流路板
1a 隔壁部
2 振動板
3 ノズル板
4 ノズル孔
6 加圧液室
7 インク供給路
8 共通液室
12 圧電素子
13 ベース基板
14 支柱部
15 フレーム
16 インク供給孔
50 ダンパー室
51 大気連通管
510 接合領域部
515 斜面
511 凹部
517 凸部
519、520 パンチ治具
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】
【特許文献1】特開2006−334619号公報
【特許文献2】特開2009−226586号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル孔が形成されたノズル板と、
前記ノズル板に接合されて固定される流路形成部材と、
前記流路形成部材内に形成された加圧液室を介して前記ノズル孔から液滴吐出させるための圧力を発生させる圧力発生手段と、を備えた液滴吐出ヘッドに用いられるノズル板であって、
前記ノズル孔は、前記ノズル板における前記流路形成部材を接合させる面からのプレス加工を少なくとも含む加工工程により形成され、
前記ノズル板における前記流路形成部材を接合させる面での前記ノズル孔の淵部には、リング形状の凹部が形成されたことを特徴とするノズル板。
【請求項2】
前記リング形状の凹部は、前記ノズル板の平面方向における前記ノズル孔の重心を該リング形状の中心とするよう形成されたことを特徴とする請求項1記載のノズル板。
【請求項3】
前記ノズル板における前記流路形成部材と接合される接合領域は、該接合面における前記リング形状の凹部よりも外側に配置され、該接合領域は、該ノズル板の平面方向に平行な略平面となるよう形成されたことを特徴とする請求項1または2記載のノズル板。
【請求項4】
前記ノズル板は、ステンレス材料からなる板状部材であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のノズル板。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のノズル板と、
前記流路形成部材と、
前記圧力発生手段と、
前記圧力発生手段による圧力を前記加圧液室内の液体に伝達する圧力伝達部を備えた振動板と、を備えた液滴吐出ヘッドであって、
前記流路形成部材は、加圧液室を少なくとも含む流路のためのスペースが形成された流路板であり、
前記振動板は、前記流路板における前記ノズル板に接合される面の反対側の面に接合されて構成されたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5記載の液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドに液体を供給するタンクとを備えて構成されたことを特徴とする液体カートリッジ。
【請求項7】
請求項6記載の液体カートリッジを備え、該液体カートリッジの前記液滴吐出ヘッドを用いて画像形成を行うよう構成されたことを特徴とする液滴吐出記録装置。
【請求項8】
複数のノズル孔が形成されたノズル板と、
前記ノズル板に接合されて固定される流路形成部材と、
前記流路形成部材内に形成された加圧液室を介して前記ノズル孔から液滴吐出させるための圧力を発生させる圧力発生手段と、を備えた液滴吐出ヘッドに用いられるノズル板の製造方法であって、
板状部材における前記流路形成部材を接合させる面にリング状の凹部を形成する凹部形成工程と、
前記板状部材の平面方向における前記リング状の凹部よりも内側に、前記板状部材における前記凹部形成工程で該凹部が形成された面から、前記ノズル孔の形状を未貫通のプレス加工で形成するノズル孔プレス工程と、
前記ノズル孔プレス工程により形成された未貫通のノズル孔の前記板状部材における反対側の面に、該ノズル孔プレス工程により形成された凸部を削除することで該ノズル孔を開口させる削除工程と、を有することを特徴とするノズル板の製造方法。
【請求項9】
前記削除工程では、前記ノズル孔プレス工程により形成された凸部を研磨することで削除し、前記ノズル孔を開口させることを特徴とする請求項8記載のノズル板の製造方法。
【請求項10】
前記凹部形成工程では、前記板状部材における前記流路形成部材を接合させる面からの未貫通のプレス加工により前記リング状の凹部を形成することを特徴とする請求項8または9記載のノズル板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−254531(P2012−254531A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127330(P2011−127330)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】