説明

ノズル装置及び液体試料分析装置

【課題】密閉容器T内にノズル2を貫通させる場合等における圧力影響を受けずに、正確な定量吸引を可能にする。
【解決手段】密閉容器T内に貫通され、当該密閉容器T内の液体を吸引するノズル2と、前記密閉容器Tを大気開放する大気開放機構3と、前記ノズル2の基端部に設けられ、前記ノズル2内の流路に連通する内部流路411及び当該内部流路411の開閉を行う開閉機構を有する開閉構造体4と、前記開閉機構を制御する開閉制御部5と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、密閉容器内の液体を吸引するためのノズル装置及びこのノズル装置を用いた液体試料分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体試料分析装置、特に血液など生体試料を分析する装置においては、密閉容器である検体容器に貫通されるノズルと、ノズルから血液等の液体試料を吸引するためのシリンジなどの吸引機構とが、可撓性を有する弾性チューブにより接続されている。
【0003】
しかしながら、検体容器内にノズルを貫通させると、検体容器内の圧力が弾性チューブ内の圧力(例えば大気圧)よりも大きい場合、検体容器及び弾性チューブが密閉状態のため圧力の逃げ場が無く、検体容器内の圧力と弾性チューブ内に圧力とが平衡状態に移行する過程で、弾性チューブ内の圧力が上昇して加圧状態となる。ここで、弾性チューブは、圧力に抗して容積を一定に保つことができず、膨らんでしまう。そうすると、弾性チューブが膨らんだ分だけ血液がノズル内に入り込んでしまう。そして、その後、検体容器内が大気圧になったとしても、一度ノズルに入り込んだ血液は、ノズル内壁に僅かに付着して残ってしまう。
【0004】
また、ノズル内の流路、弾性チューブ内及びシリンジ内が、希釈液などの液体で満たされている場合には、ノズル内に血液が入り込んだ際に、その液体と混ざってしまい、やはり血液がノズル内に残ることになる。
【0005】
このようなことから、ノズル内の流路及び弾性チューブ内に流路の容積に基づいて定量を行うものの場合には、正確な定量を行うことができないという問題がある。一方、検体容器内が大気圧よりも小さい場合には、逆の現象が起きてしまい、ノズル内が希釈液などの液体で満たされている場合には、ノズルから当該液体が密閉容器内に流出してしまい、血液を希釈してしまう結果、やはり正確な定量を行うことができないという問題がある。
【0006】
このような問題を回避するため、特許文献1に示すように、ノズルに密閉容器内を大気開放する手段を設けているものがある。
【0007】
しかしながら、ノズルを貫通させる瞬間や引き抜く際の急激な圧力変化に対応することができず、依然として上記問題が生じてしまう。
【特許文献1】特開2004−170156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、密閉容器内にノズルを貫通させる場合等における圧力影響を受けずに、正確な定量吸引を可能にすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係るノズル装置は、密閉容器を貫通し、当該密閉容器内の液体を吸引するノズルと、前記密閉容器を大気開放する大気開放機構と、前記ノズルの基端部に接続され、前記ノズル内の流路に連通する内部流路及び当該内部流路の開閉を行う開閉機構を有する開閉構造体と、前記開閉機構を制御する開閉制御部と、を具備することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、ノズルを貫通させる場合等における圧力影響により、弾性チューブが変形することがないので、弾性チューブ内の体積変化による吸引誤差を解消することができる。したがって、正確な定量吸引を可能にすることができる。
【0011】
開閉構造体の構成を簡単にするためには、前記開閉構造体が、前記ノズル内の流路に連通する内部流路を有するマニホールドと、当該マニホールドに設けられる電磁弁とからなることが望ましい。
【0012】
開閉構造体の具体的な実施の態様としては、前記開閉構造体の内部流路が、大気圧と前記密閉容器内の圧力との差圧により変形しないものであることが望ましい。
【0013】
大気開放機構により密閉容器が大気開放され、大気圧と密閉容器内の圧力との差圧を無くすため、及びその大気開放過程における圧力影響を受けないようにするためには、前記開閉制御部が、前記ノズルが前記密閉容器を貫通するとき及び、前記密閉容器を貫通してから所定時間が経過するまで、前記内部流路を閉塞するように前記開閉機構を制御するものであることが望ましい。
【0014】
ノズルを密閉容器から抜脱する際に生じる圧力変位による影響を受けないようにするためには、前記開閉制御部が、前記ノズルを前記密閉容器から抜脱するときに、前記内部流路を閉塞するように前記開閉機構を制御するものであることが望ましい。
【0015】
また、本発明に係る液体試料分析装置は、上記ノズル装置、又は上記ノズル装置、前記開閉構造体に接続され、前記密閉容器から液体を吸引するための吸引機構及び前記吸引機構を制御する吸引制御部を有する試料吸引装置を備えている。
【0016】
この構成において、密閉容器が大気開放された後に吸引を行い、正確な定量吸引を可能にするためには、前記吸引制御部が、前記ノズルが前記密閉容器に貫通されてから所定時間経過後に、前記密閉容器から液体を吸引するものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、密閉容器内にノズルを貫通させる場合等における圧力影響を受けずに、正確な定量吸引を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係るノズル装置を用いた液体試料吸引装置1の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態に係る液体試料吸引装置1の模式的構成図ある。
【0019】
<装置構成>
【0020】
本実施形態に係る液体試料吸引装置1は、生体試料の分析を行う液体試料分析装置のうち、例えば血液分析装置に用いられるものであり、密閉容器T内の血液を、その密閉容器T内の圧力の影響を受けることなく、定量吸引することができるものである。
【0021】
血液分析装置としては、電気抵抗法により、WBC(白血球数)、RBC(赤血球数)、PLT(血小板数)、MCV(赤血球容積)、Hct(ヘマトクリット値)を測定し、またシアンメトヘモグロビン法における吸光光度法によりHgb(ヘモグロビン濃度)等を測定するものである。
【0022】
具体的にこのものは、図1に示すように、密閉容器Tを貫通し、当該密閉容器T内の液体を吸引するノズル2と、前記ノズル2に設けられ、前記密閉容器Tに貫通された際に、前記密閉容器Tを大気開放する大気開放機構3と、前記ノズル2の基端部に設けられ、前記ノズル2内の流路に連通する内部流路411、412及び当該内部流路411、412の開閉を行う開閉機構を有する開閉構造体4と、前記開閉機構を制御する開閉制御部5と、前記開閉構造体4に接続され、前記密閉容器Tから液体を吸引するための弾性チューブ61及びシリンジ62からなる吸引機構6と、前記吸引機構6を制御する吸引制御部7と、を具備する。なお、本実施形態の密閉容器Tは、樹脂製の円筒形状をなし、上部の開口が、例えば樹脂製の蓋(キャップ)によって閉塞されている。
【0023】
以下、各部2〜7について説明する。
【0024】
ノズル2は、図示しないノズル駆動機構により水平方向及び鉛直方向に移動されて、密閉容器Tである検体容器を貫通するものである。本実施形態のノズル2は、先端部に液体流入口を有し、基端部に液体流出口を有する内管と、当該内管の外側に所定間隙を開けて設けられ、先端部及び基端部に開口を有する外管とからなる二重管構造をなすものである。なお、ノズル2の内管は、後述する内部流路411、412、弾性チューブ61及びシリンジ62とともに、希釈液などの液体により満たされている。
【0025】
そして、外管の先端部及び基端部に設けた開口及び内管及び外管からなる空間により、ノズル2を検体容器に貫通する際に、検体容器Tを大気開放する大気開放機構3が構成される。
【0026】
開閉構造体4は、ノズル2と弾性チューブ61との間に設けられるものであり、ノズル2内の流路に連通する内部流路411、412を有するマニホールド41と、当該マニホールド41に設けられる電磁弁42とからなる。
【0027】
マニホールド41は、ノズル2内の流路と連通して、側面に開口する第1の内部流路411と、当該側面に開口し、弾性チューブ61が接続される接続ポートに開口する第2の内部流路412と、を備えている。そして、第1の内部流路411及び第2の内部流路412が開口している側面に電磁弁42が設けられている。
【0028】
具体的には、マニホールド41は、その内部流路411、412が、大気圧と密閉容器T内の圧力との差圧において変形しない硬質材料からなるものである。より詳細には、マニホールド41は、樹脂製の蓋により密閉した検体容器T内で生じ得る圧力、つまり、大気圧に対して密閉容器T内の圧力の差圧が±100kPaの範囲内において、内部流路411、412の容量が実質的に一定となるものである。つまり、マニホールド41は、前記差圧において、変形しないものである。その材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、アクリル樹脂等のプラスチックが考えられる。
【0029】
開閉制御部5は、電磁弁42を制御することにより、内部流路411、412を開放又は閉塞するものである。
【0030】
具体的には、開閉制御部5は、ノズル2を密閉容器Tに貫通させる際及び密閉容器Tに貫通されてから所定時間が経過するまで、つまり、貫通された後、大気開放機構3により密閉容器Tが大気開放されて、その圧力が大気圧に安定するまで、電磁弁42により内部流路411を閉塞する。これにより、密閉容器Tの大気開放過程において、ノズル2内に血液が流入又はノズル2内から希釈液が流出することを防止することができる。
【0031】
さらに、開閉制御部5は、ノズル2を密閉容器Tから抜脱する際に、電磁弁42により内部流路411を閉塞する。これにより、ノズル2を抜脱する際に生じる密閉容器T内の圧力変化により、吸引した血液がノズル2から流出することを防止することができる。
【0032】
吸引機構6は、詳細には、一端が前記マニホールド41に接続された可撓性を有する弾性チューブ61と、当該弾性チューブ61の他端に接続されたシリンジなどの吸引手段62とからなる。この吸引手段62は、吸引制御部7により制御される。
【0033】
吸引制御部7は、吸引手段62を制御することにより、ノズル2から吸引される血液量を定量するものである。例えば、吸引制御部7は、シリンジ62の駆動時間により制御する時間制御又はシリンジ62のストローク量により制御するストローク量制御を行う。具体的には、吸引制御部7は、ノズル2が密閉容器Tに貫通されて所定時間経過後、つまり、ノズル2が貫通された後、密閉容器T内の圧力が大気圧で安定した後に、吸引手段62を制御することにより、血液を定量して吸引する。
【0034】
上述した開閉制御部5及び吸引制御部7は、情報処理装置の内部メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいて情報処理装置のCPUやその周辺機器等が作動することにより構成されている。
【0035】
<本実施形態の動作>
【0036】
次にこのように構成した液体試料吸引装置1の吸引動作について説明する。
【0037】
まず、開閉制御部5は、電磁弁42を作動させて、マニホールド41内の内部流路411を閉塞する。そして、ノズル駆動部によりノズル2を密閉容器T内に貫通させて、ノズル2の先端部を液面下まで下ろす。そうすると、ノズル2に設けられた大気開放機構3により、密閉容器T内の圧力が大気圧になる。所定時間経過後、開閉制御部5は、電磁弁42を作動させて、内部流路411を開放する。
【0038】
次に、吸引制御部7は、シリンジ(吸引手段62)を作動させて、液体を吸引する。所定量の吸引後、開閉制御部5は、電磁弁42を作動させて、内部流路411を閉塞する。その後、ノズル駆動部により、ノズル2を密閉容器Tから抜脱する。このようにして、大気圧と密閉容器T内の圧力との不均衡により生じる不具合を生じさせることなく、一定量の血液を吸引することができる。
【0039】
<本実施形態の効果>
【0040】
このように構成した本実施形態の液体試料吸引装置1によれば、弾性チューブ61とノズル2との間に開閉構造体4を設けており、ノズルを貫通させる場合等における圧力影響で弾性チューブ61が変形することがないので、弾性チューブ61内の体積変化による吸引誤差を解消することができる。したがって、正確な定量吸引を可能にすることができる。
【0041】
<その他の変形実施形態>
【0042】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0043】
例えば、大気開放機構に関して言うと、二重管により構成するものの他、ノズルが、吸引用管と大気開放用管とを並列に接続したものであっても良いし、ノズルの外側周面に設けられ、密閉容器Tに貫通される際に密閉容器内の空間と外部空間とを連通する溝であっても良い。また、大気開放機構は、ノズルに設けられるものに限られず、ノズルとは別体に設けるようにしても良い。
【0044】
開閉機構に関して言うと、前記実施形態の電磁弁を用いたものの他に、電磁弁以外の開閉弁を用いても良い。
【0045】
前記実施形態の開閉構造体は、マニホールドと電磁弁からなるものであったが、一端がノズルに接続され、他端が弾性チューブに接続される管状部材と、当該管状部材に設けられ、その内部流路の開閉を行う電磁弁などの開閉機構と、を備えるものであっても良い。なお、管状部材は、大気圧と密閉容器T内の圧力との差圧において変形しないものであり、その材質は、前記実施形態のマニホールドと同様である。
【0046】
また、前記実施形態の液体試料吸引装置は、血液分析装置の他、密閉容器内に収容された生体試料などの液体試料を処理する装置に用いることができる。
【0047】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体試料吸引装置の模式的構成図。
【符号の説明】
【0049】
1・・・液体試料吸引装置
T・・・密閉容器
2・・・ノズル
3・・・大気開放機構
4・・・開閉構造体
411、412・・・内部流路
41・・・マニホールド
42・・・開閉機構(電磁弁)
5・・・開閉制御部
6・・・吸引機構
7・・・吸引制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器を貫通し、当該密閉容器内の液体を吸引するノズルと、
前記密閉容器を大気開放する大気開放機構と、
前記ノズルの基端部に接続され、前記ノズル内の流路に連通する内部流路及び当該内部流路の開閉を行う開閉機構を有する開閉構造体と、
前記開閉機構を制御する開閉制御部と、を具備するノズル装置。
【請求項2】
前記開閉構造体が、前記ノズル内の流路に連通する内部流路を有するマニホールドと、当該マニホールドに設けられる電磁弁とからなる請求項1記載のノズル装置。
【請求項3】
前記開閉構造体の内部流路が、大気圧と前記密閉容器内の圧力との差圧により変形しないものである請求項1又は2記載のノズル装置。
【請求項4】
前記開閉制御部が、前記ノズルが前記密閉容器を貫通するとき及び、前記密閉容器を貫通してから所定時間が経過するまで、前記内部流路を閉塞するように前記開閉機構を制御するものである請求項1、2又は3記載のノズル装置。
【請求項5】
前記開閉制御部が、前記ノズルを前記密閉容器から抜脱するときに、前記内部流路を閉塞するように前記開閉機構を制御するものである請求項1、2、3又は4記載のノズル装置。
【請求項6】
請求項1乃至6のいずれかに記載のノズル装置、又は請求項1乃至6のいずれかに記載のノズル装置、前記開閉構造体に接続され、前記ノズルから前記密閉容器内の液体を吸引するための吸引機構、及び前記吸引機構を制御する吸引制御部を有する液体試料吸引装置を備える液体試料分析装置。
【請求項7】
前記吸引制御部が、前記ノズルが前記密閉容器に貫通されてから所定時間経過後に、前記密閉容器から液体を吸引するものである請求項6記載の液体試料分析装置。

【図1】
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