説明

ノズル遮蔽機構および液体吐出装置

【課題】ノズルの開口形状が円形であることを維持したまま、インクの特性の変動を防止可能なノズル遮蔽機構および液体吐出装置を提供すること。
【解決手段】ノズル開口531から液体を吐出させることが可能な液体吐出ヘッド51と、開口部541を具備し、液体吐出ヘッド51のうちノズル開口531側に取り付けられると共に、液体吐出ヘッド51の温度変化に応じて伸縮することによってノズル開口531を遮蔽または出現させる遮蔽部材54と、を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル遮蔽機構および液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンタにおいては、印刷ヘッドを主走査方向に移動させつつ、紙等の印刷媒体にインク滴を吐出させ、1走査分の紙送りを行って再び同じ動作を繰り返す、いわゆるシリアルタイプのプリンタが主流となっている。このタイプのプリンタでは、使用時の温度上昇等に伴い、インクの粘性等の特性が変動する場合がある。このような特性変動を防止するための試みの一つとしては、特許文献1および特許文献2に示すものがある。特許文献1には、ノズルに形状記憶合金等を取り付けて、ノズルの開口の大きさを、温度変化に合わせて変化させる、という技術内容について開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、ノズルの開口の大きさを変化させるものとして、ノズル径を、例えばピエゾ素子を用いて変化させる、という技術内容について開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−73157号公報
【特許文献2】特開昭61−283555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1に開示されている技術内容によれば、形状記憶合金を用いる関係上、ノズルの開口を円形状にすることが非常に困難となっている。ここで、ノズルが円形状に設けられている場合、インク滴は、比較的安定した状態で飛行する。しかしながら、上述のようにノズルの開口が円形状ではない場合、インク滴の形状およびその飛行が不規則となる(安定しない)、という問題がある。
【0006】
また、特許文献1に開示の構成では、形状記憶合金は立体的に動く状態となっている。この場合、特許文献1の第3図等に示されるように、形状記憶合金の板と、その取り付け部分との間に、当該形状記憶合金の立体的な変形を考慮した隙間が必要となっている。そのため、高さ方向に余分な隙間が必要となる。また、特許文献1に開示の構成では、ノズルの開口部分の遮蔽は、最も遮蔽している状態でも不完全となり勝ちである。
【0007】
なお、特許文献2に開示の構成でも、ノズルの開口が円形状とはならず、インク滴の形状およびその飛行が不規則となる、という問題は解消しない。また、特許文献2に開示の構成は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック等のような複数のノズル列を一体的に有する印刷ヘッドには適用し難い、という問題もある。
【0008】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、ノズルの開口形状が円形であることを維持したまま、インクの特性の変動を防止可能なノズル遮蔽機構および液体吐出装置を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、ノズル開口から液体を吐出させることが可能な液体吐出ヘッドと、開口部を具備し、液体吐出ヘッドのうちノズル開口側に取り付けられると共に、液体吐出ヘッドの温度変化に応じて伸縮し、この伸縮によってノズル開口を遮蔽または出現させる遮蔽部材と、を具備するものである。
【0010】
このように構成する場合、液体吐出ヘッドの温度を変化させると、ノズル開口を遮蔽または出現させることが可能となる。それにより、液体吐出ヘッドの不使用時には、ノズル開口が遮蔽される状態として、液体の特性に変動が生じるのを防止可能となる。また、液体吐出ヘッドの使用時には、ノズル開口が出現(開口)する状態とすることで、吐出対象物に対して液体を良好に付着させることが可能となる。また、上述のように、遮蔽部材によりノズル開口を遮蔽/出現させる構成を採用しているので、ノズル開口を封止するキャップが不要となり、その分だけ、本発明のノズル遮蔽機構が取り付けられる液体吐出装置の小型化を図ることが可能となる。
【0011】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、液体吐出ヘッドは、複数のノズル開口が列状に配置されるノズル列を、液体貯留部の液種の分だけ有していて、ノズル列は、ノズル開口から吐出される液体が付着する吐出対象物の幅寸法と同等か、または当該幅寸法よりも大きい長さ寸法を有しているものである。
【0012】
このように構成する場合、液体吐出ヘッドは、いわゆるラインヘッドとなり、長手方向における液体吐出ヘッドが、その長手方向に移動する必要がなくなる。そのため、吐出対象物に対して、必要な液体の吐出処理の速度を向上させることが可能となる。
【0013】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、液体吐出ヘッドは、ヘッド本体と、ノズルプレートを具備すると共に、ヘッド本体は、液体が導入される圧力発生室と、この圧力発生室を押圧して液体をノズル開口から吐出させるための圧電素子と、を具備し、ノズルプレートには、ノズル開口が形成されていると共に、このノズル開口は圧力発生室に連通する状態で取り付けられていて、遮蔽部材は、ノズルプレートよりも熱膨張係数が大きな材質から形成されているものである。
【0014】
このように構成する場合、遮蔽部材は、ノズルプレートよりも熱膨張係数が大きい材質から形成されている。このため、遮蔽部材の方が、温度変化における伸縮が大きく、ノズル開口の遮蔽状態と出現状態とを、良好に切り替えることが可能となる。また、ノズル開口の出現状態においては、当該ノズル開口から吐出対象物に向けて、液体を良好に吐出させることが可能となる。
【0015】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、遮蔽部材には、ノズル開口に連通可能な開口部が設けられていると共に、遮蔽部材は、液体吐出ヘッドの長手方向の中央であって短手方向のうちノズル開口と対向する側から離間する一端側においてノズルプレートに取付固定されていて、遮蔽部材には、液体吐出ヘッドの長手方向の両端側に当該遮蔽部材の長手方向における伸縮をガイドするガイド手段が設けられているものである。
【0016】
このように構成する場合、遮蔽部材に温度変化が生じると、遮蔽部材の他端側が一端側に対して接離するように、当該遮蔽部材は伸縮する。ここで、遮蔽部材の短手方向における中央側がノズルプレートに取付固定されている場合と比較して、温度変化における伸縮時の長さ寸法を確保することが可能となり、ノズル開口の遮蔽状態と出現状態との間の切り替えを、良好に実現可能となる。また、ガイド手段が設けられることにより、遮蔽部材の長手方向における伸縮を良好に案内することが可能となる。
【0017】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、開口部は、ノズル開口から離間する液体の吐出側に向かうにつれて、幅広となるテーパ形状に設けられているものである。
【0018】
このように構成する場合、遮蔽部材の温度変化により、当該遮蔽部材がノズル開口の付近を摺動すると、ノズル開口の付近に付着している紙粉等の塵埃を除去することが可能となる。
【0019】
また、他の発明は、上述の各発明に加えて更に、開口部は、ノズル列の列長さと同等またはそれ以上の長さ寸法を有する長孔形状に設けられているものである。
【0020】
このように構成する場合、遮蔽部材に温度変化が生じて伸縮する場合でも、ノズル開口と開口部との間で長手方向における位置ずれが生じるのを防止することが可能となる。
【0021】
また、他の発明は、上述の各発明に係るノズル遮蔽機構を用いると共に、液体吐出ヘッドの温度調整を行うための温度調整機構と、温度調整機構の作動を制御する制御手段と、を具備するものである。
【0022】
このように構成する場合、温度調整機構により液体吐出ヘッドの温度調整が為されると共に、制御手段により温度調整機構の作動が制御されるので、この液体吐出ヘッドに取り付けられている遮蔽部材の伸縮具合を、コントロールすることが可能となる。そのため、ノズル開口の遮蔽状態/出現状態の切り替えを良好に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態に係る、液体吐出装置としてのプリンタ10について、図1から図5に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、下方側とは、プリンタ10が設置される側を指し、上方側とは、設置される側から離間する側を指す。また、印刷媒体Pが供給される側を給紙側、印刷媒体Pが排出される側を排紙側として説明する。
【0024】
<プリンタ10の概略構成>
最初に、プリンタ10の構成の概略について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るプリンタ10の概略構成を示す概略図である。本実施の形態のプリンタ10は、紙送り機構20と、インク供給機構30と、制御部40と、ヘッド機構50と、温度調整機構60と、を具備している。
【0025】
紙送り機構20は、紙送りモータ(PFモータ)21と、この紙送りモータ21からの駆動力が伝達される給紙ローラ22等を具備している。また、インク供給機構30は、カートリッジホルダ31と、加圧ポンプ32と、インク供給路33と、インクカートリッジ34(液体貯留部に対応)を具備している。カートリッジホルダ31は、例えば不図示のシャーシに取り付けられていて、このカートリッジホルダ31に着脱自在にインクカートリッジ34が装着されている。そのため、本実施の形態のプリンタ10は、いわゆるオフキャリッジタイプの構成となっている。
【0026】
なお、インク(液体に対応)の供給に際しては、加圧ポンプ32が作動し、インクカートリッジ34の内部に空気を圧送して、インクパックを押し潰すことにより、インク供給路33にインクを押し出すように構成されている。
【0027】
また、制御部40は、制御手段に対応し、不図示のCPU、メモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリ等)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、バス、タイマ、インターフェース等を有している。この制御部40には、各種センサ(温度センサ61を含む)からの信号が入力されると共に、このセンサからの信号に基づいて、制御部40は、紙送りモータ21等のモータ、加圧ポンプ32、不図示の吸引ポンプ、および後述するラインヘッド51、温度調整機構60等の駆動を司る。
【0028】
また、上述のメモリの中のデータ、およびプログラムがCPUで実行され、制御部40の各構成が協働することにより、種々の機能的な構成が実現される。なお、本実施の形態では、メモリには、ペルチエ素子62の駆動を司るためのプログラムおよびデータが記憶されていて、そのプログラムおよびデータを読み出すことにより、ラインヘッド51の温度が設定された温度範囲内に収まるように、ペルチエ素子62に向けて制御部40から制御指令を発し、当該ペルチエ素子62の作動を制御している。
【0029】
また、上述の制御部40は、コネクタ41を介してコンピュータ70に接続されていて、通信を行う。それにより、プリンタ10がコンピュータ70側から印刷信号PSを受け取ると、その印刷信号PSに基づいて、プリンタ10で印刷のための処理が開始される。
【0030】
<ヘッド機構50の詳細>
以下、本発明の要部である、ヘッド機構50について、図2から図5に基づいて説明する。本発明のヘッド機構50は、液体吐出ヘッドとしてのラインヘッド51と、遮蔽部材としての遮蔽板54と、を具備している。これらのうち、ラインヘッド51は、ヘッド本体52と、ノズルプレート53とを具備している。ヘッド本体52は、例えばシリコン基板等をエッチング処理等で適宜加工することにより形成される。このヘッド本体52の内部には、圧力発生室521と、リザーバ522と、連通路523と、圧電素子524と、を具備している。
【0031】
これらのうち、圧力発生室521は、ラインヘッド51の長手方向に沿って多数設けられている。なお、隣り合う圧力発生室521との間には、不図示の隔壁が設けられている。この圧力発生室521は、各ノズル開口531ごとに1つずつ設けられている。なお、ノズル開口531は、各色のインクカートリッジ34ごとに、列状となるように配置されており、この列状の配置により、ノズル列NLが構成されている。
【0032】
また、リザーバ522は、不図示のインク供給路に接続されており、圧力発生室521にインクが導入される前にインクが導入される部分である。また、リザーバ522と圧力発生室521との間には、圧力発生室521よりも幅狭で流路抵抗となる連通路523が設けられている。また、圧力発生室521の側壁の一方側には、圧電素子524が配置されている。この圧電素子524は、圧電体層524aを具備すると共に、この圧電体層524aを挟むように一対の電極膜524b,524cを具備している。なお、この圧電素子524は、各圧力発生室521ごとに1つずつ設けられているため、隣り合う圧電素子524との間には、所定の間隔の隙間が設けられる状態となる。
【0033】
また、ノズルプレート53は、例えばSUS(Stainless Used Steel)を材質として形成されている。このノズルプレート53は、圧力発生室521の下流側に、例えば接着剤や熱溶着フィルム等の接合手段を介して固着されている(図3参照)。このノズルプレート53には、ノズル開口531が穿設されている。ノズルプレート53がヘッド本体52に取り付けられると、ノズル開口531は、各圧力発生室521と連通する。このとき、本実施の形態では、1つの圧力発生室521ごとに、1つのノズル開口531が連通するように設けられている。
【0034】
なお、上述した例では、ノズルプレート53の材質は、SUSとなっている。そのため、線膨張係数は、例えば10〜20[×10-6/℃]となっている。更に詳しくは、例えばオーステナイト系のSUS304における線膨張係数は、0℃〜100℃の範囲では、おおよそ17.3、100℃〜316℃の範囲では、おおよそ17.8、316℃〜538℃の範囲では、おおよそ18.4、538℃〜649℃の範囲では、おおよそ18.7(いずれも[×10-6/℃]を単位とする。)となっている。また、例えばフェライト系のSUS430における線膨張係数は、0℃〜100℃の範囲では、おおよそ10.4、100℃〜316℃の範囲では、おおよそ11.0、316℃〜538℃の範囲では、おおよそ11.3、538℃〜649℃の範囲では、おおよそ11.9、649℃〜816℃の範囲では、おおよそ12.4(いずれも[×10-6/℃]を単位とする。)となっている。さらに、例えばマルテンサイト系のSUS410における線膨張係数は、0℃〜100℃の範囲では、おおよそ9.9、100℃〜316℃の範囲では、おおよそ10.1、316℃〜538℃の範囲では、おおよそ11.5、538℃〜649℃の範囲では、おおよそ11.7(いずれも[×10-6/℃]を単位とする。)となっている。
【0035】
ここで、ノズルプレート53は、上述の例では、SUSを材質として用いている。しかしながら、このノズルプレート53の材質は、SUSに限られるものではなく、後述する遮蔽板54の線膨張係数と比較して十分に小さい値を有するものであれば、どのようなものを用いても良い。なお、SUS以外の材質の例としては、線膨張係数が比較的小さい(例えば300℃以下で、2.5〜4.5[×10-6/℃]等)、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶等が挙げられる。
【0036】
また、ノズルプレート53のうち、ヘッド本体52と反対側には、遮蔽板54が取り付けられている。この遮蔽板54は、上述のノズルプレート53よりも線膨張係数が、はるかに大きな樹脂を材質として形成されている。また、ノズルプレート53と遮蔽板54の線膨張係数は、10倍以上異なることが望ましい。
【0037】
ここで、遮蔽板54の材質である樹脂は、一般的には、上述のSUSやガラスセラミックス、シリコン単結晶よりも、熱膨張係数がはるかに大きい。そのため、種々の樹脂材質を用いて遮蔽板54を形成することが可能である。以下に、代表的な樹脂を列挙すると、ABS樹脂を初めとするアクリル系樹脂、乳酸系を初めとする生分解性樹脂、フッ素系樹脂、フェノール系樹脂、各種のポリアミド系樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタラート)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PC(ポリカーボネート)、中密度ポリエチレン等のようなポリエチレン系樹脂、POM(ポリアセタール)、PP(ポリプロピレン)、(PVC)ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、メラニン樹脂等がある。
【0038】
図4は、遮蔽板54の構成を示す平面図である。この図4に示すように、遮蔽板54には、開口部541が設けられている。この開口部541は、プリンタ10の使用時には、ノズル開口531と連通して、印刷媒体P(吐出対象物に対応)に向けてインク滴を吐出させる部分である。開口部541は、ラインヘッド51と同程度の長手方向の寸法を有している。そのため、後述するように、遮蔽板54が熱膨張する場合であっても、この開口部541がノズル開口531と連通しない状態を防ぐことが可能となっている。図4に示すように、開口部541の幅寸法は、ノズル開口531に対応する大きさL1を有すると共に、一定のマージンL2を有している。このマージンL2は、所定の温度範囲における遮蔽板54の短手方向の寸法変化を考慮して設定されている。
【0039】
ここで、図3に示すように、開口部541の側断面形状は、インク滴の吐出側(下方側)に向かうにつれて幅広となる、テーパ形状に設けられている。特に、この開口部541のテーパ角度は、温度変化による遮蔽板54の摺動によって、ノズル開口531付近に付着する紙粉を良好に掻き取ることが可能な角度に設けられている。その好適な角度としては、図3に示す開口部541のノズルプレート53側の周縁の鋭角部分が15度〜75度とする場合がある。なお、かかる掻き取り動作を実現するために、遮蔽板54は、ノズルプレート53に対して密着する状態に設けられている。
【0040】
また、遮蔽板54は、取付固定部542にて、ノズルプレート53に取付固定されている。この取付固定部542は、例えば遮蔽板54の長手方向の略中央部分であって、短手方向の一端側(図4では、短手方向のうちノズル開口531から離間する側)に設けられている。それにより、遮蔽板54が熱膨張する際に、当該遮蔽板54が短手方向において他端側に向かって伸長するように設けられている。
【0041】
図4に示すように、遮蔽板54の長手方向の両端側には、ガイド手段543が設けられている。このガイド手段543は、長孔543aと、ガイドピン543bと、抜け止め543cと、を具備している。これらのうち、長孔543aは、遮蔽板54の長手方向の両端側において、当該遮蔽板54を長尺状に貫通する部分である。この長孔543aには、ガイドピン543bが挿通されている。ガイドピン543bは、遮蔽板54が熱膨張していない状態(プリンタ10の使用前で温度の低い状態)においては、長孔543aのうち、取付固定部542側から離間する側に位置するように設けられている。しかしながら、遮蔽板54が熱膨張する場合、ガイドピン543bは、取付固定部542側に位置するように、長孔543aの長さ寸法が設定されている。
【0042】
このガイドピン543bは、その一端側がノズルプレート53に取り付けられている。また、ガイドピン543bの他端側には、長孔543aを挿通した後に、長孔543aの幅寸法よりも大きな直径を有する抜け止め543cが取り付けられている。
【0043】
また、図1に示すように、ラインヘッド51には、温度調整機構60が取り付けられている。温度調整機構60は、温度センサ61と、温調手段としてのペルチエ素子62と、を具備している。これらのうち、温度センサ61は、ラインヘッド51の温度を検出し、その検出結果を制御部40に向けて出力する。また、ペルチエ素子62は、熱電素子の一種である例えばペルチエ素子62であり、制御部40からの制御指令に応じて、導通させる電流の大きさおよび向きを制御可能となっている。そして、ラインヘッド51の温度が、予め設定されている温度よりも低いことが、温度センサ61により検出される場合、ペルチエ素子62からラインヘッド51に熱を与える向きの電流を、当該ペルチエ素子62に導通させる。また、これとは逆に、ラインヘッド51の温度が、予め設定されている温度よりも低いことが、温度センサ61により検出される場合、ペルチエ素子62によってラインヘッド51の熱が奪われる向きの電流を、当該ペルチエ素子62に導通させる。
【0044】
なお、本実施の形態では、予め設定されている温度としては、遮蔽板54の熱膨張時に開口部541とノズル開口531とが連通する状態とする温度がある。しかしながら、この連通状態とする温度の他に、ノズル開口531の遮蔽状態を確実にするための温度を、予め設定されている温度としても良い。
【0045】
<ラインヘッド51における温度変化の際の動作>
以上のような構成を有するプリンタ10のラインヘッド51における、温度変化が生じる場合の動作について、以下に説明する。図2は、ラインヘッド51のうち、特定のノズル列NLに係る部分の温度変化の様子を示す断面図である。まず、プリンタ10での印刷を開始する前の状態においては、圧電素子524の駆動のための電流を導通させていないため、ラインヘッド51の温度は低い状態に設けられている。このとき、図2(A)に示すように、ノズル開口531は、遮蔽板54の開口部541とは連通しておらず、外部からは遮蔽された状態となっている。しかしながら、ペルチエ素子62に電流を導通させ、ラインヘッド51を加熱すると、ラインヘッド51の温度が上昇する。すなわち、ヘッド本体52、ノズルプレート53に温度上昇が生じると共に、遮蔽板54にも温度上昇が生じる。
【0046】
すると、上述のように、遮蔽板54の線膨張係数は、ノズルプレート53の線膨張係数よりも大きいため、遮蔽板54の方がノズルプレート53よりも大きく伸長する。そのため、図2(B)に示すように、開口部541とノズル開口531とが連通する。この状態となると、圧力発生室521に導入されているインクを、印刷媒体Pに向けて吐出させることが可能となる。
【0047】
なお、ペルチエ素子62の作動により、設定された温度に到達したことが、温度センサ61で検出されると、以後、その温度を維持するように、制御部40でペルチエ素子62の作動を制御する。かかる温度維持の動作においては、ラインヘッド51の温度が設定された温度よりも高いときは、当該ラインヘッド51を冷却する向きの電流をペルチエ素子62に導通させる。また、ラインヘッド51の温度が設定された温度よりも低いときは、当該ラインヘッド51を加熱する向きの電流をペルチエ素子62に導通させる。このとき、マージンL2の余裕の範囲内に、温度変化による遮蔽板54の短手方向の寸法変化が収まっている場合には、ペルチエ素子62の作動を停止させることが可能となっている。
【0048】
また、プリンタ10の使用停止状態では、電流導通の停止により、ラインヘッド51の温度は、自然に冷却されていく。この自然冷却により、遮蔽板54は取付固定部542に向かって収縮する。このとき、開口部541は、その収縮に際してノズル開口531に付着している紙粉等の塵埃を掻き取り、当該開口部541のテーパ形状に沿わせて、塵埃を排出する。
【0049】
<本発明を適用した場合における効果>
以上のような構成のプリンタ10によれば、ラインヘッド51の温度を変化させると、ノズル開口531を遮蔽または出現させることが可能となる。それにより、ラインヘッド51の不使用時には、ノズル開口531が遮蔽される状態として、インクの特性に変動が生じるのを防止可能となる。また、ラインヘッド51の使用時には、ノズル開口531が出現(開口)する状態とすることで、印刷媒体Pに対してインク滴を良好に付着させることが可能となる。また、上述のように、遮蔽板54によりノズル開口531を遮蔽/出現させる構成を採用しているので、ノズル開口531を封止するキャップが不要となり、その分だけ、プリンタ10の小型化を図ることが可能となる。
【0050】
また、本実施の形態では、長尺状のラインヘッド51を用いているため、当該ラインヘッド51を、その長手方向に移動させる必要がなくなる。そのため、印刷媒体Pに対して、必要なインク滴の吐出処理の速度を向上可能となる。すなわち、印刷速度を向上させることが可能となる。
【0051】
さらに、遮蔽板54は、ノズルプレート53よりも熱膨張係数が大きい材質から形成されている。このため、遮蔽板54の方が、温度変化における伸縮が大きく、ノズル開口531の遮蔽状態と出現状態とを、良好に切り替えることが可能となる。また、ノズル開口531の出現状態においては、当該ノズル開口531から印刷媒体Pに向けて、インクを良好に吐出させることが可能となる。
【0052】
また、本実施の形態では、遮蔽板54は、取付固定部542を介してノズルプレート53に取り付けられている。このため、遮蔽板54に温度変化が生じると、遮蔽板54のうち、取付固定部542から離間する他端側が、取付固定部542に対して接離するように、当該遮蔽板54は伸縮する。ここで、遮蔽板54の短手方向における中央側がノズルプレート53に取付固定されている場合と比較して、温度変化における伸縮時の長さ寸法を確保することが可能となり、ノズル開口531の遮蔽状態と出現状態との間の切り替えを、良好に実現可能となる。また、ガイド手段543が設けられることにより、遮蔽板54の長手方向における伸縮を良好に案内することが可能となる。
【0053】
さらに、本実施の形態では、開口部541は、インク滴の吐出側に向かうにつれて、幅広となるテーパ形状に設けられている。このため、遮蔽板54の温度変化により、当該遮蔽板54がノズル開口531の付近を摺動すると、ノズル開口531の付近に付着している紙粉等の塵埃を除去することが可能となる。
【0054】
また、本実施の形態では、開口部541は、ノズル列NLの列長さと同等またはそれ以上の長さ寸法を有する長孔形状に設けられている。このため、遮蔽板54に温度変化が生じて伸縮する場合でも、ノズル開口531と開口部541との間で長手方向における位置ずれが生じるのを防止することが可能となる。
【0055】
また、本実施の形態では、温度調整機構60によりラインヘッド51の温度調整が為されると共に、制御部40により温度調整機構60の作動が制御されるので、遮蔽板54の伸縮具合を、コントロールすることが可能となる。そのため、ノズル開口531の遮蔽状態/出現状態の切り替えを良好に行うことが可能となる。
【0056】
<本発明の変形例>
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0057】
上述の実施の形態では、遮蔽板54の開口部541は、1つのノズル列NLにつき、1つの長尺状の開口部541が設けられるように構成されている。しかしながら、開口部541は、かかる長尺状に限られるものではなく、各ノズル開口531に対応させて、1つずつ設けるようにしても良い。その例を、図6に示す。なお、図6に示されるものでは、開口部541Aは、長孔形状に設けられているが、各ノズル開口531ごとに、独立した開口部541Aが設けられている。また、この開口部541Aは、熱膨張の際に、矢示A方向に移動するように設けられている。
【0058】
また、上述の実施の形態においては、液体吐出ヘッドとしては、紙送り方向と直交する方向に移動しない、ラインヘッド51を具備するタイプとなっている。しかしながら、液体吐出ヘッドは、ラインヘッド51に限られるものではなく、モータの駆動により紙送り方向と直交する方向に移動するタイプであっても良い。
【0059】
また、上述の実施の形態では、温調手段としてペルチエ素子62を用いる場合について説明している。しかしながら、温調手段は、ペルチエ素子62に限られるものではなく、例えばヒートポンプ、ヒータ、チラー等のような他の温調手段を用いるようにしても良い。また、ペルチエ素子62以外の熱電素子、熱電変換素子を用いるようにしても良い。
【0060】
また、紙送り方向と直交する方向に移動しないラインヘッド51としては、長尺状のものには限られず、比較的短い印刷ヘッドを、互い違いとなる状態(印刷ヘッドの紙送り方向と直交する方向における配置が、紙送り方向において交互に位置変化する状態)で配置するようにしても良い。
【0061】
また、上述の実施の形態では、液体吐出装置として、プリンタ10に関して説明している。しかしながら、液体吐出装置は、プリンタ10には限られるものではなく、例えばコピー機能を備える複写機に本発明を適用しても良い。また、その他の液体吐出装置としては、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等の製造に用いられる、液体を噴射する装置等がある。また、液体は、インク以外の液体であっても良く、たとえば液晶ディスプレイ、ELディスプレイに用いられる液体を噴射する装置においては、色材、電極材が液体となる。また、液体は、脱気インクには限られず、気泡が所定だけ溶解しているインク(飽和しているインク等)を用いても良い。なお、飽和しているインクを用いる場合、加圧または冷却等の別途の作業が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプリンタの概略構成を示す図である。
【図2】ラインヘッドの構成の一部分を示す側断面図である。
【図3】ラインヘッドのノズル開口付近の構成を拡大して示す側断面図である。
【図4】遮蔽板の構成を示す平面図である。
【図5】ラインヘッドに対する遮蔽板の取り付け状態を示す平面図である。
【図6】遮蔽板の構成の変形例を示す部分的な平面図である。
【符号の説明】
【0063】
10…プリンタ、20…紙送り機構、30…インク供給機構、40…制御部(制御手段に対応)、50…ヘッド機構、51…ラインヘッド(液体吐出ヘッドに対応)、52…ヘッド本体、524…圧電素子、53…ノズルプレート、531…ノズル開口、54…遮蔽板(遮蔽部材に対応)、541…開口部、542…取付固定部、543…ガイド手段、60…温度調整機構、61…温度センサ、62…ペルチエ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口から液体を吐出させることが可能な液体吐出ヘッドと、
開口部を具備し、上記液体吐出ヘッドのうち上記ノズル開口側に取り付けられると共に、上記液体吐出ヘッドの温度変化に応じて伸縮し、この伸縮によって上記ノズル開口を遮蔽または出現させる遮蔽部材と、
を具備することを特徴とするノズル遮蔽機構。
【請求項2】
前記液体吐出ヘッドは、複数の前記ノズル開口が列状に配置されるノズル列を、液体貯留部の液種の分だけ有していて、
上記ノズル列は、前記ノズル開口から吐出される液体が付着する吐出対象物の幅寸法と同等か、または当該幅寸法よりも大きい長さ寸法を有している、
ことを特徴とする請求項1記載のノズル遮蔽機構。
【請求項3】
前記液体吐出ヘッドは、ヘッド本体と、ノズルプレートを具備すると共に、
上記ヘッド本体は、液体が導入される圧力発生室と、この圧力発生室を押圧して上記液体を前記ノズル開口から吐出させるための圧電素子と、を具備し、
上記ノズルプレートには、前記ノズル開口が形成されていると共に、このノズル開口は上記圧力発生室に連通する状態で取り付けられていて、
前記遮蔽部材は、上記ノズルプレートよりも熱膨張係数が大きな材質から形成されていることを特徴とする請求項2記載のノズル遮蔽機構。
【請求項4】
前記遮蔽部材には、前記ノズル開口に連通可能な開口部が設けられていると共に、
前記遮蔽部材は、前記液体吐出ヘッドの長手方向の中央であって短手方向のうち前記ノズル開口と対向する側から離間する一端側において前記ノズルプレートに取付固定されていて、
前記遮蔽部材には、前記液体吐出ヘッドの長手方向の両端側に当該遮蔽部材の長手方向における伸縮をガイドするガイド手段が設けられている、
ことを特徴とする請求項3記載のノズル遮蔽機構。
【請求項5】
前記開口部は、前記ノズル開口から離間する前記液体の吐出側に向かうにつれて、幅広となるテーパ形状に設けられていることを特徴とする請求項4記載のノズル遮蔽機構。
【請求項6】
前記開口部は、前記ノズル列の列長さと同等またはそれ以上の長さ寸法を有する長孔形状に設けられていることを特徴とする請求項4または5記載のノズル遮蔽機構。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のノズル遮蔽機構を用いると共に、
前記液体吐出ヘッドの温度調整を行うための温度調整機構と、
前記温度調整機構の作動を制御する制御手段と、
を具備することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−302643(P2008−302643A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153643(P2007−153643)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】