説明

ノッキングセンサ

【課題】150℃以上の使用温度でも絶縁特性が良好で、かつノッキングの検出特性に優れたノッキングセンサを提供する。
【解決手段】筒状部11Aおよび鍔部11Bを含む主体金具11、圧電素子14、鍔部11Aとの間に圧電素子14を挟んで配置されたウエイト17、圧電素子14および鍔部11Bの間に配置された鍔部側電極板13、圧電素子14およびウエイト17の間に配置されたウエイト側電極板15、鍔部11Bおよび鍔部側電極板13の間に配置された鍔部側絶縁板12、ウエイト17およびウエイト側電極板15の間に配置されたウエイト側絶縁板17、を有するセンサ本体10と、センサ本体10を被覆すする樹脂製の樹脂成形体30と、を備え、樹脂成形体30はPPSからなり、鍔部側絶縁板12およびウエイト側絶縁板16はエステル結合を含まない樹脂からなり、温度によるセンサ静電容量の変化を抑制し、ノッキング検出の精度低下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を用いたノッキングセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関には、ノッキング現象を検出するノッキングセンサが配置されており、ノッキングセンサから出力された検出信号に応じて、ノッキング現象の発生を抑制する制御が行われている。具体的には、ノッキングセンサの出力信号に応じて、内燃機関における点火プラグの点火時期を変更する遅角制御が行われている。
【0003】
上記したノッキングセンサとしては、種々の構成のものが提案されており、その中で図6、および図7に示す構成のものが知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。このノッキングセンサ101は、内燃機関を構成する部品の一つであるシリンダブロックへ取り付けられるものであり、その中心部にノッキングセンサ101をシリンダブロックに取り付ける際に用いられる取付孔111Dが形成された、いわゆるセンターホール式非共振型のノッキングセンサである。
【0004】
図7の分解図に示すように、ノッキングセンサ101は、筒状部111Aおよび筒状部111Aの下端に形成された鍔部111Bを有する主体金具111と、それぞれ円環状に形成された下側絶縁板112、下側電極板113、圧電素子114、上側電極板115、上側絶縁板116、ウエイト117、及び皿バネ118と、を主に有している。筒状部111Aの外周には、鍔部111B側から順に下側絶縁板112、下側電極板113、圧電素子114、上側電極板115、上側絶縁板116、ウエイト117、及び皿バネ118が嵌め込まれている。
【0005】
なお、下側電極板113及び上側電極板115の径方向外側の端部には、それぞれ電圧を取り出す上側端子115A及び下側端子113Aが径方向外側に向かって片状に延びて設けられている。筒状部111Aの外周面における上側には雄ネジ部111Cが形成され、一方でナット119の内面には、雄ネジ部111Cと噛み合わされる雌ネジ部119Aが形成されている。そして、ナット119の雌ネジ部119Aを筒状部111Aの雄ネジ部111Cに螺合させるとナット119が鍔部111Bに向かって移動し、下側絶縁板112から皿バネ118に至る積層体はナット119によって鍔部111Bに向かって押し付けられて固定される(図6参照。)。このように構成されたセンサ本体110は樹脂成形体130によって被覆されることにより、ノッキングセンサ101として構成される。
【0006】
このような形態のノッキングセンサ101は、主体金具111の鍔部111Bの下面をシリンダブロックに接触させて取り付けられ、この状態で使用に供される。そのため、ノッキングセンサ101の主体金具111は、シリンダブロックと電気的に接続(接触)することになり、また、主体金具111、ナット119、及び、皿バネ118を介して電気的に接続するウエイト117も、結果として、主体金具111を介してシリンダブロックに電気的に接続(接触)することになる。
【0007】
そこで、ノッキングセンサ101では、主体金具111の鍔部111Bと下側絶縁板112とを電気的に絶縁する構成部品として下側絶縁板112を設け、上側電極板115とウエイト117とを電気的に絶縁する構成部品として上側絶縁板116を設けて、圧電素子114と主体金具111との絶縁や、圧電素子114とウエイト117との絶縁を確保している。なお、筒状部111Aの外周面と、下側電極板113、圧電素子114及び上側電極板115との間には円筒状の絶縁スリーブ120が嵌められており、絶縁スリーブ120は下側電極板113、圧電素子114及び上側電極板115が筒状部111Aに電気的に接続するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−322580号公報
【特許文献2】特開2008−144677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したノッキングセンサ101のセンサ本体110を被覆する樹脂成形体130としては、一般にナイロン等のポリアミド系樹脂から形成されたものが用いられている。このようなノッキングセンサ101における使用温度は130℃程度になっている。ところで近年、内燃機関であるエンジンの燃費向上を図るため、エンジンを高温で運転する傾向が高まっている。ノッキングセンサ101は、エンジンのシリンダブロックと接触して温度が高くなるため、その使用温度を150℃以上にすることが要求されている。
【0010】
ところが、従来のポリアミド系樹脂からなる樹脂成形体130を有するノッキングセンサ101の場合、150℃以上の高温では絶縁抵抗が低下するという問題がある。ここで、本発明者らの検討により、ノッキングセンサ101の絶縁抵抗は、樹脂成形体130の表面抵抗と、下側絶縁板112及び上側絶縁板116の厚み(換言すれば、体積抵抗)によって決まることが判明した。
【0011】
つまり、温度上昇によって、ノッキングセンサ101の絶縁抵抗が低下する現象は、主体金具111の鍔部111Bと下側電極板113との間で着目して考えると、下側絶縁板112自身が導通経路となること(導通経路が下側絶縁板112の内部を厚み方向に延びる。)、及び、樹脂成形体130の内側の表面(より具体的には、樹脂成形体130の内側表面うちの、下側絶縁板112と接する面)が導通経路になること、の少なくともいずれかによって生ずる。なお、樹脂成形体130は肉厚に成形されるため、その表面が導通経路となる。そのため、樹脂成形体130における絶縁特性は、表面抵抗の影響を大きく受けることになる。
【0012】
ここで、樹脂成形体130は、センサ本体110を被覆するものであることから成形性を有することが要求されるため、また、ノッキングセンサ101としての大きさの制約範囲内で成形する必要上、樹脂材料の選定範囲や形状寸法の設定範囲が限定されるため、樹脂成形体130における表面抵抗を高めることは容易ではない。従って、150℃といった高温条件においてノッキングセンサ101の使用を可能とするためには、高温下での樹脂成形体130自身の表面抵抗の値を高くし、ノッキングセンサ101の樹脂成形体130における表面抵抗の値を高めることが重要になる。
【0013】
また、下側絶縁板112及び上側絶縁板116の材料としてしては、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と表記する。)や、ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」と表記する。)が一般的に用いられている。しかしながら、上述のように、樹脂成形体130の材料を高温においても表面抵抗の値が高いものとしても、下側絶縁板112及び上側絶縁板116の材料としてPETやPBT等が用いられていると、高温条件においてノッキングセンサ101におけるセンサ静電容量が変動して、規定の範囲から外れる問題がある。
【0014】
下側絶縁板112及び上側絶縁板116は、高温になると材料であるPETやPBT等が分解することにより、下側絶縁板112及び上側絶縁板116の誘電率が上昇する。ノッキングセンサ101におけるセンサ静電容量Cは以下の式に基づいて求められる。ここで、圧電素子114の静電容量をCe、下側絶縁板112の静電容量をCb、上側絶縁板116の静電容量をCaとしている。
【0015】
C=Ce+1/{(1/Ca)+(1/Cb)}
そのため、下側絶縁板112及び上側絶縁板116の誘電率が上昇して、下側絶縁板112及び上側絶縁板116の静電容量が増加すると、ノッキングセンサ101のセンサ静電容量も増加する。換言すると、下側絶縁板112及び上側絶縁板116の誘電率が乱れると、ノッキングセンサ101におけるセンサ静電容量も乱れ、内燃機関で発生するノッキングの検出精度が低下する問題がある。
【0016】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、150℃以上の使用温度でも絶縁特性が良好で、かつノッキングの検出特性に優れたノッキングセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明のノッキングセンサは、円筒状に形成された筒状部、および、該筒状部における一方の端部から径方向外側に向かって延びる鍔部を含む主体金具、貫通孔に前記筒状部が挿通された環状の圧電素子、貫通孔に前記筒状部が挿通され、前記鍔部との間に前記圧電素子を挟んで配置される環状のウエイト、前記圧電素子および前記鍔部の間に配置された鍔部側電極板、前記圧電素子および前記ウエイトの間に配置されたウエイト側電極板、前記鍔部および前記鍔部側電極板の間に配置され、前記鍔部および前記鍔部側電極板の間を電気的に絶縁する鍔部側絶縁板、前記ウエイトおよび前記ウエイト側電極板の間に配置され、前記ウエイトおよび前記ウエイト側電極板の間を電気的に絶縁するウエイト側絶縁板、を有するセンサ本体と、該センサ本体を被覆する樹脂製の樹脂成形体と、を備えるノッキングセンサであって、前記樹脂成形体は、ポリフェニレンサルファイドからなり、前記鍔部側絶縁板および前記ウエイト側絶縁板は、エステル結合を含まない樹脂からなる。
【0018】
本発明のノッキングセンサでは、樹脂成形体の材料として、ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」と表記する。)を用いると共に、鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板の材料として、エステル結合を含まない樹脂を用いている。エステル結合を含まない樹脂は、エステル結合を含む樹脂と比較して高温時(例えば150℃)において分解しにくいため、エステル結合を含む樹脂からなる鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板と比較して、エステル結合を含まない樹脂からなる鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板は高温時においても誘電率や、厚さなどの特性が変化しにくい。そのため、本発明のノッキングセンサでは、温度によるセンサ静電容量の変化が抑制され、ノッキング検出の精度低下が抑制される。
【0019】
さらに、PPSは、常温(例えば室温)下での表面抵抗率が高く、さらに150℃における表面抵抗率が1.0×1010Ω(またはΩ/q)以上を示す。そのため、本発明のノッキングセンサは、150℃以上の使用温度であっても絶縁特性の低下を抑制できる。
【0020】
エステル結合を含まない樹脂としては、PPS(ガラス繊維によりフィラー強化されたものを含む)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と表記する。)、ポリエーテルサルフォン(以下、「PES」と表記する。)、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」と表記する。)、さらには、融点が250℃以上の樹脂であることが望ましい。
【0021】
上記発明において、少なくとも前記ウエイト側絶縁板は、さらに、ナイロン樹脂よりも密度が高い樹脂からなることが望ましい。
このようにウエイト側絶縁板の材料を、従来、材料として用いられていたナイロン66(以下、「PA66」と表記する。)などのナイロン樹脂よりも密度が高い樹脂とすることで、体積を変化させることなく、ウエイト側絶縁板の重量を増加させることができる。ウエイト側絶縁板は、圧電素子に対してウエイト側、言い換えると上側に配置されるため、ノッキングセンサの出力を大きくするウエイトと同様に働く。つまり、ウエイト側絶縁板の重量が増加させることにより、ノッキングセンサを大型化させることなく、出力を大きくすることができる。
【0022】
なお、ナイロン樹脂よりも密度が高い樹脂を材料とするのはウエイト側絶縁板だけでなく、鍔部側絶縁板もナイロン樹脂よりも密度が高い樹脂を材料としてもよい。このようにすることで、鍔部側絶縁板とウエイト側絶縁板を共通化することができ、ノッキングセンサを構成する部品の品種を削減するとともに、製造コストの低減を図ることができる。
【0023】
上記発明においては、前記鍔部側絶縁板および前記ウエイト側絶縁板は、さらに、ポリフェニレンサルファイドからなることが望ましい。
このように鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板の材料を、樹脂成形体の材料と同じPPSとすることで、常温時の鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板における絶縁抵抗の値を高くすると共に、温度上昇時における絶縁抵抗の値の低下を抑制することができる。
【0024】
また、上記発明においては、前記樹脂成形体は、前記鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板のうち、前記センサ本体から露出する部位に直接接するように設けられていることが望ましい。
【0025】
本発明のノッキングセンサによれば、鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板のうちでセンサ本体から露出する部位(外面)と樹脂成形体とが空気層を介することなく接するため、主体金具と、鍔部側絶縁板又はウエイト側絶縁板との間に過大な電圧がかかる現象が生じた場合にも、空気層を介して放電が生ずることがなく、主体金具と鍔部側絶縁板又はウエイト側絶縁板との間の絶縁特性をより一層確実なものにすることができる。なお、鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板がポリフェニレンサルファイドからなる場合には、樹脂成形体と両絶縁板とは、同じ材料から構成されることになり熱膨張係数が一致する。そのため、ノッキングセンサに温度変化が生じた場合にも、鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板のうちでセンサ本体から露出する部位(外面)と樹脂成形体との接触状態を維持することができるため、絶縁特性の観点からより好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のノッキングセンサによれば、樹脂成形体をポリフェニレンサルファイドから形成し、鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板を、エステル結合を含まない樹脂から形成することにより、鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板は高温時においても誘電率や、厚さなどの特性が変化しにくくなるため、150℃以上の使用温度でも絶縁特性が良好で、かつ優れたノッキングの検出特性を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るノッキングセンサの構成を説明する軸方向に沿う断面図である。
【図2】図1のセンサ本体の構成を説明する分解図である。
【図3】ノッキングセンサの150℃での絶縁抵抗値を示すグラフである。
【図4】各種樹脂の表面抵抗率を示すグラフである。
【図5】高温環境下に放置した試験における、静電容量の変化を評価した表である。
【図6】従来のノッキングセンサの構成を説明する軸方向に沿う断面図である。
【図7】図6のセンサ本体の構成を説明する分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の一実施形態に係るノッキングセンサ1について、図1から図5を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るノッキングセンサ1の構成を説明する断面図であり、図2は、図1のセンサ本体10の構成を説明する分解図である。
【0029】
本実施形態のノッキングセンサ1を内燃機関におけるノッキング発生を検知するものであり、図1に示すように、内燃機関のシリンダブロックへ取り付けるための取付孔11Dを中心部に有する、いわゆるセンターホール式非共振型のノッキングセンサである。
【0030】
ノッキングセンサ1は、詳しくは後述するセンサ本体10を樹脂成形体30によって被覆して構成され、全体として短寸の円筒状に形成されたものである。さらに、円筒状に形成されたノッキングセンサ1における外周面の一部から、コネクタ部31が径方向外側に向かって突出して形成されている。コネクタ部31の内部には、下側電極板13および上側電極板15からそれぞれ延びる第1端子13A、第2端子15Aが配置されている(図1では第1端子13Aのみを図示している。)。コネクタ部31は、図示しない外部コネクタと接続されるようになっている。
【0031】
そして、図2の分解図に示すように、ノッキングセンサ1は、筒状部11Aおよび筒状部11Aの下端に形成された環状の鍔部11Bを有する金属製の主体金具11と、それぞれ円環状に形成された下側絶縁板(鍔部側絶縁板)12、下側電極板(鍔部側電極板)13、圧電素子14、上側電極板(ウエイト側電極板)15、上側絶縁板(ウエイト側絶縁板)16、ウエイト17、及び皿バネ18と、を主に有している。下側絶縁板12、下側電極板13、圧電素子14、上側電極板15、上側絶縁板16、ウエイト17、及び皿バネ18には、中央に筒状部11Aが挿通される貫通孔が形成されている。筒状部11Aの外周には、鍔部11B側から順に下側絶縁板12、下側電極板13、圧電素子14、上側電極板15、上側絶縁板16、ウエイト17、及び皿バネ18が重ねられている。最も鍔部11B側に配置された下側絶縁板12は、鍔部11Bの上に直接に載置されている。
【0032】
主体金具11における筒状部11Aの外周面の上部には雄ネジ部11Cが形成されている。一方でナット19の内面には、雄ネジ部11Cと噛み合わされる雌ネジ部19Aが形成されている。そして、ナット19の雌ネジ部19Aを筒状部11Aの雄ネジ部11Cに螺合させ、ナット19を回転させるとナット19が鍔部11Bに向かって移動する。下側絶縁板12、下側電極板13、圧電素子14、上側電極板15、上側絶縁板16、ウエイト17、及び皿バネ18は、ナット19によって主体金具11の鍔部11Bに向かって押し付けられて固定される。センサ本体10はこのように主体金具11に固定された下側絶縁板12、下側電極板13、圧電素子14、上側電極板15、上側絶縁板16、ウエイト17、皿バネ18、及びナット19から構成されている。
【0033】
なお、筒状部11Aの外周面と、下側絶縁板12、下側電極板13、圧電素子14、上側電極板15、及び上側絶縁板16の間には、円筒状に形成された絶縁スリーブ20が配置されている。絶縁スリーブ20は、下側電極板13、圧電素子14及び上側電極板15が筒状部11Aに電気的に接続(接触)するのを防止するものである。
【0034】
下側絶縁板12は、主体金具11における鍔部11Bと下側電極板13との間に配置され、鍔部11Bと下側電極板13との電気的な接続(導通)を防止するための部材である。同様に、上側絶縁板16は、上側電極板15とウエイト17との間に配置され、上側電極板15とウエイト17との電気的な接続(導通)を防止するための部材である。本実施形態では、上側絶縁板16及び下側絶縁板12は、PPSから形成されている例に適用して説明する。なお、上側絶縁板16及び下側絶縁板12を構成する材料としては、エステル結合を含まない樹脂(例えば、PPS,PTFE,PES,PEEKなど)から形成されたものが好ましく、より好ましくは、ナイロン樹脂よりも密度が高い樹脂であることが望ましい。
【0035】
樹脂成形体30は、成形性に優れるPPSから構成されている。PPSは、150℃における表面抵抗率が1.0×1010Ω以上であり、かつ、180℃における表面抵抗率が1.0×1010Ω以上の値を示す(後述する図4参照。)。そのため、PPSによって樹脂成形体30を構成することで、150℃以上といった高温下にさらされた場合にも、ノッキングセンサ1の絶縁抵抗の低下を抑制することができる。なお、樹脂成形体30は射出成形により形成されるものであり、本実施形態では射出成形の条件等を適宜設定することで、樹脂成形体30は、エステル結合を含まない樹脂(具体的にはPPS)から構成される下側絶縁板12及び上側絶縁板16のうち、センサ本体10の外部に露出する部位に直接接するように設けられている。例えば、樹脂成形体30は、下側絶縁板12及び上側絶縁板16の外周面と直接に接するように設けられている。
【0036】
図3は、種々の樹脂材料から構成した樹脂成形体30を有するノッキングセンサ1を製作し、絶縁抵抗を測定した結果を示す。なお、上側絶縁板16及び下側絶縁板12は、厚み0.35mm、内径14.72mm、外径23.10mmのPETから構成されたものを用いた。
【0037】
まず、150℃における絶縁抵抗をみると、樹脂成形体30として従来のナイロン樹脂(PA66)を用いたノッキングセンサ(図3の●で示されたグラフ)は10MΩ未満であるのに対し、樹脂成形体30として本発明のPPSを用いたノッキングセンサ(図3の○および◇で示されたグラフ)は10MΩ以上となった。
【0038】
さらに、温度が150℃を超えて180℃に達すると、樹脂成形体30としてPPSを用いたノッキングセンサにおいて、上側絶縁板16及び下側絶縁板12としてPETを用いたもの(図3の◇で示されたグラフ)と、PPSを用いたもの(図3の○で示されたグラフであり、本実施形態)とを比較すると、上側絶縁板16及び下側絶縁板12をPPSから形成した本実施形態のノッキングセンサ1は、上側絶縁板16及び下側絶縁板12をPETから形成したものよりも、絶縁抵抗の値が高くなっている。言い換えると、温度上昇による絶縁抵抗の低下幅が小さくなっている。
【0039】
図4は、各種樹脂の表面抵抗率を示す。絶縁抵抗が10MΩ未満であるナイロン樹脂(図4のPA66)の場合、150℃における表面抵抗率が1.0×1010Ω未満であった。一方、絶縁抵抗が10MΩ以上であるポリフェニレンサルファイド(図4のPPS)の場合、150℃における表面抵抗率が1.0×1010Ω以上となった。このことより、150℃以上における表面抵抗率が1.0×1010Ω以上の樹脂成形体を用いることで、150℃以上で絶縁特性を維持しつつノッキングセンサを使用できることがわかる。
【0040】
なお、従来の上側絶縁板116及び下側絶縁板112を形成していた材料であるPETの場合、温度の上昇に伴い表面抵抗率が急激に低下し、160℃前後において表面抵抗率が1.0×1010Ω未満となった。言い換えると、PETは、PA66やPPS等の他の樹脂と比較して、温度変化に伴う特性変化、特に150℃以上の高温領域における特性変化が大きい。
【0041】
この表面抵抗率は、JIS K6911に沿って求めたものであり、樹脂成形体30を構成する材料にてバルク体を形成し、そのバルク体の表面上に複数の円環状の電極を設けた試料体を準備して求めた。
【0042】
ここで、ノッキングセンサの絶縁抵抗は、主体金具11と上側電極板15との間の絶縁抵抗、主体金具11と下側電極板13との間の絶縁抵抗、上側電極板15と下側電極板13との間の絶縁抵抗、及び上側電極板15とウエイト17との間の絶縁抵抗をそれぞれ測定し、それらのうち最も値の低い抵抗値として採用した。
【0043】
次に、本実施形態のノッキングセンサ1における樹脂成形体30、下側絶縁板12及び上側絶縁板16の材料が、ガラス繊維でフィラー強化したPPSである場合における、ノッキングセンサ1の静電容量の変化について説明する。図5は、本実施形態のノッキングセンサ1と、比較形態のノッキングセンサを200℃の高温環境下に放置した試験における、静電容量の変化を評価した表である。
【0044】
比較形態のノッキングセンサは、下側絶縁板12および上側絶縁板16の材料がPETである点が、本実施形態のノッキングセンサ1と異なっており、樹脂成形体を含むその他の構成要素は、材料および形状において本実施形態のノッキングセンサ1と同一のものである。
【0045】
また、評価における合格(表中の○)、不合格(表中の×)の判定は、高温環境下に放置する前のノッキングセンサの静電容量を基準として、高温環境下に放置後のノッキングセンサの静電容量における基準からの変化量が、基準に対して±10%を超えるか否かにより判定される。つまり、変化量が±10%以内であれば合格(○)であり、±10%を超えると不合格(×)である。
【0046】
200℃の高温環境下に、比較形態のノッキングセンサ、及び、本実施形態のノッキングセンサ1(図5においては「本願発明」と表記している。)を100時間放置した場合、比較形態のノッキングセンサも、本実施形態のノッキングセンサ1も、静電容量の変化量は、基準に対して±10%以内の合格(○)であった。その一方で、高温環境下に放置する時間を300時間に延長すると、従来のノッキングセンサでは、静電容量の変化量が基準に対して±10%を超えて不合格(×)となったが、本実施形態のノッキングセンサ1は変化量が±10%以内となり合格(○)のままであった。
【0047】
上記の構成のノッキングセンサ1によれば、樹脂成形体30の材料としてPPSを用いると共に、下側絶縁板12および上側絶縁板16の材料として、エステル結合を含まない樹脂であるPPSを用いているため、本実施形態のノッキングセンサ1では、温度によるセンサ静電容量の変化を抑制することができ、ノッキング検出の精度低下を抑制することができる。具体的には、エステル結合を含まない樹脂は、エステル結合を含む樹脂と比較して高温時(例えば150℃)において分解しにくいため、エステル結合を含む樹脂からなる下側絶縁板12および上側絶縁板16と比較して、エステル結合を含まない樹脂からなる下側絶縁板12および上側絶縁板16は高温時においても誘電率や、厚さなどの特性が変化しにくい。そのため、本実施形態のノッキングセンサ1では、ノッキング検出の精度低下を抑制することができる。
【0048】
さらに、樹脂成形体30、下側絶縁板12及び上側絶縁板16を構成するPPSは、常温(例えば室温)下での表面抵抗率が高く、さらに150℃における表面抵抗率が1.0×1010Ω(またはΩ/q)以上を示す。そのため、本実施形態のノッキングセンサ1は、150℃以上の使用温度であっても絶縁特性の低下を抑制することができる。
【0049】
上側絶縁板16の材料を、従来、材料として用いられていたPA66などのナイロン樹脂よりも密度が高い樹脂であるPPSとすることで、体積を変化させることなく、上側絶縁板16の重量を増加させることができる。上側絶縁板16は、圧電素子14に対してウエイト17側、言い換えると上側に配置されるため、ノッキングセンサ1の出力を大きくするウエイト17と同様に働く。つまり、上側絶縁板16の重量が増加させることにより、ノッキングセンサ1を大型化させることなく、出力を大きくすることができる。
【0050】
なお、PPSを材料とするのは上側絶縁板16だけでなく、下側絶縁板12もPPSを材料としてもよい。このようにすることで、下側絶縁板12と上側絶縁板16を共通化することができ、ノッキングセンサ1を構成する部品の品種を削減するとともに、製造コストの低減を図ることができる。
【0051】
また、下側絶縁板12および上側絶縁板16の材料を、樹脂成形体30の材料と同じPPSとすることで、常温時の下側絶縁板12および上側絶縁板16における絶縁抵抗の値を高くすると共に、温度上昇時における絶縁抵抗の値の低下を抑制することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、PPSからなる樹脂成形体30は、エステル結合を含まない樹脂(具体的にはPPS)から構成される下側絶縁板12および上側絶縁板16のうち、センサ本体10の外部に露出する部位(外面)に直接接するように設けられている。そのため、本実施の形態のノッキングセンサ1では、下側絶縁板12および上側絶縁板16の外面(主に側面)と樹脂成形体30とは空気層を介することなく接することになり、主体金具11と下側絶縁板12又は上側絶縁板16との間に過大な電圧がかかる現象が偶発的に生じた場合にも、空気層を介して放電が生ずることがなく、主体金具11と、下側絶縁板12又は上側絶縁板16との間の絶縁特性をより一層確実なものにすることができる。
【0053】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、上述の実施形態では、ナット19および皿バネ18を用いてウエイト17を保持する構成を採用したが、皿バネ18を省略してナット19のみで保持してもよい。さらに、ウエイト17およびナット19を一体化した一部材、言い換えると、内周面に雌ネジ部19Aを形成したウエイト17を用いてナット19を省略してもよい。
【0054】
また、ナット19は、主体金具11に螺合にて固定する必要はなく、主体金具11の上部に対して溶接によって固着させてもよい。さらに、上述の実施形態では、樹脂成形体30にコネクタ部31を一体化させた構成を採用したが、コネクタ部31を樹脂成形体から離間させると共に、ケーブルを介して両者を接続し、離間したコネクタ部31から圧電素子14の出力を取り出すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…ノッキングセンサ、10…センサ本体、11…主体金具、11A…筒状部、11B…鍔部、12…下側絶縁板(鍔部側絶縁板)、13…下側電極板(鍔部側電極板)、14…圧電素子、15…上側電極板(ウエイト側電極板)、16…上側絶縁板(ウエイト側絶縁板)、17…ウエイト、30…樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成された筒状部、および、該筒状部における一方の端部から径方向外側に向かって延びる鍔部を含む主体金具、
貫通孔に前記筒状部が挿通された環状の圧電素子、
貫通孔に前記筒状部が挿通され、前記鍔部との間に前記圧電素子を挟んで配置される環状のウエイト、
前記圧電素子および前記鍔部の間に配置された鍔部側電極板、
前記圧電素子および前記ウエイトの間に配置されたウエイト側電極板、
前記鍔部および前記鍔部側電極板の間に配置され、前記鍔部および前記鍔部側電極板の間を電気的に絶縁する鍔部側絶縁板、
前記ウエイトおよび前記ウエイト側電極板の間に配置され、前記ウエイトおよび前記ウエイト側電極板の間を電気的に絶縁するウエイト側絶縁板、を有するセンサ本体と、
該センサ本体を被覆する樹脂製の樹脂成形体と、
を備えるノッキングセンサであって、
前記樹脂成形体は、ポリフェニレンサルファイドからなり、
前記鍔部側絶縁板および前記ウエイト側絶縁板は、エステル結合を含まない樹脂からなるノッキングセンサ。
【請求項2】
少なくとも前記ウエイト側絶縁板は、さらに、ナイロン樹脂よりも密度が高い樹脂からなる請求項1記載のノッキングセンサ。
【請求項3】
前記鍔部側絶縁板および前記ウエイト側絶縁板は、さらに、ポリフェニレンサルファイドからなる請求項1または2に記載のノッキングセンサ。
【請求項4】
前記樹脂成形体は、前記鍔部側絶縁板およびウエイト側絶縁板のうち、前記センサ本体から露出する部位に直接接するように設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載のノッキングセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−237717(P2012−237717A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108393(P2011−108393)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】