説明

ノボラック樹脂およびその製造方法

【課題】フェノール類とアルデヒド類とを温和な条件下で反応させて、溶融粘度が低く、低分子量のノボラック樹脂を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】塩化カルシウムおよびシュウ酸またはリン酸である酸を含む触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを反応させた数平均分子量が200〜500であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.3以下で、かつ150℃における溶融粘度が300mPa・s以下であるノボラック樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融粘度が低く、低分子量のノボラック樹脂を高収率で得ることができる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、耐熱性があり様々な分野に使用されている。例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として用いた場合、耐熱性、密着性、電気絶縁性等に優れ、プリント基板用樹脂組成物、プリント基板および樹脂付き銅箔に使用する層間絶縁材料用樹脂組成物、電子部品の封止材用樹脂組成物、レジストインキ、導電ペースト、塗料、接着剤、複合材料等に用いられている。近年の技術革新に伴い、エポキシ樹脂組成物の更なる耐熱性、耐湿性、難燃性等の向上が求められている。
その解決手段の一つとして充填剤の使用量増加がある。充填剤量を多くすることにより成形品の線膨張係数の低減や吸湿率の低減、難燃性の向上が可能となるが、一方で充填量が多くなることにより配合物の流動性が低下し、成形性が悪くなるという問題が生じるため、樹脂成分の低溶融粘度化が必要となる。
ノボラック樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下に付加縮合して製造される。通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比が0.3〜0.9モルの範囲で使用され、モル比を調整することにより、得られる樹脂の分子量を制御している。樹脂の溶融粘度を低くするには高分子量成分をできるだけ少なくする必要があるが、分子量の低いノボラック樹脂を得るためにはモル比を小さくしなければならず、その場合未反応のフェノールモノマーが多く残存することになる。樹脂中の未反応フェノール類モノマーは減圧下で蒸留することにより低減することができるが、モル比の低い樹脂ほど大量のフェノール類モノマーを蒸留により除去する必要があるため、収率の低下が避けられない。一方、樹脂中にフェノール類モノマーが残存した場合、成型物の寸法安定性の低下、ボイドの発生などを引き起こすことから、樹脂中のフェノール類モノマーはできるだけ少ない方が好ましい。
【0003】
このような背景から、ノボラック樹脂の高収率化が検討されてきた(特許文献1および2を参照)。
特許文献1では、フェノール類とパラホルムアルデヒドとをリン酸触媒の存在下で不均一反応する方法が示されている。この方法によるとフェノール類の反応率は向上するものの、触媒がリン酸に限定されるため、パラホルムアルデヒドよりも反応性の低いアルデヒド、例えば、アセトアルデヒドやブチルアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒドやサリチルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドと反応させる場合には十分な反応性が得られない。
特許文献2では、フェノール類とアルデヒド類とを有機ホスホン酸触媒および水溶性の中性塩の存在下で反応する方法が示されており、触媒の存在する水相と樹脂の溶解し易い有機相を形成することによりモノマー反応率を向上させている。しかし、この方法でも触媒が有機ホスホン酸に限定されるため、前述のホルムアルデヒドよりも反応性の低いアルデヒドと反応させる場合には十分な反応性が得られない。また、触媒効率向上には110℃以上の温度が必要であることから、高分子量体の生成は避けられず、低分子量のノボラック樹脂を得るには好ましくない。更に、特許文献2において、中性塩は水相のイオン濃度を上げて有機相と水相とをより明確に分離する目的で使用されている。そのため、中性塩としては水への溶解性の高いことが重要であり、その構成元素は特に重要でない。
アセトアルデヒドやブチルアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒドやサリチルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドとフェノール類とを反応させる場合は、ハロゲン化水素やスルホン酸系化合物など、リン酸や有機ホスホン酸よりも更に強い酸を大量に使用し、かつ高い反応温度が必要となる。このような条件下では、高分子量成分が生成し易くなるため、低分子量のノボラック樹脂を得るのは困難である。
このように、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドよりも反応性の低いアルデヒド類を使用して低分子量のノボラック樹脂を高収率で得ようとする場合、これまでに有効な製造手段はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−339257号公報
【特許文献2】特開2002−128849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、フェノール類とアルデヒド類、特に、炭素数が2以上の脂肪族アルデヒドおよび芳香族アルデヒドとを、温和な条件下で反応させて、溶融粘度の低い、低分子量のノボラック樹脂を効率的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、通常使用される酸と塩化カルシウムを含む触媒を用いることによって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
1.塩化カルシウムおよび酸を含む触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを反応させることを特徴とするノボラック樹脂の製造方法、
2.酸がシュウ酸またはリン酸である上記1に記載のノボラック樹脂の製造方法、
3.分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.3以下で、かつ150℃における溶融粘度が300mPa・s以下であるノボラック樹脂を得る、上記1または2に記載のノボラック樹脂の製造方法
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩化カルシウムおよび酸を含む触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを反応させることによって、低分子量かつ溶融粘度の低いノボラック樹脂を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1におけるノボラック樹脂のGPCチャートである。
【図2】比較例3におけるノボラック樹脂のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のノボラック樹脂の製造方法は、塩化カルシウムおよび酸を含む触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類を反応させるものである。本発明方法に使用されるフェノール類としては、一般的なフェノール樹脂の製造に使用されるものであれば良く、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、キシレノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、トリメチルフェノール、ビスフェノールA、カテコール、レゾシノール、ハイドロキノン、ナフトールおよびピロガロールなどを、単独又は2種以上を混合して使用することができる。これらのうち、フェノールやクレゾール類が実用上好ましい。
【0011】
一方、フェノール類と反応させるアルデヒド類としては、フェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、パラホルムアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、グリオキザール、クロトンアルデヒドおよびグルタルアルデヒドなどを、単独もしくは2種以上を混合して使用することができる。
上記アルデヒド類の使用量は、フェノール類の合計量1モルに対して、0.3〜1.0モル、好ましくは0.4〜0.9モルの割合で用いるのが望ましい。アルデヒド類の使用量が0.3モル未満であると、残存するフェノール類モノマーが多くなるため効率的でない。一方、アルデヒド類の使用量が1.0モルを超えると、得られる樹脂の分子量が高くなるため好ましくない。
【0012】
本発明方法に使用される酸としては、一般的なノボラック樹脂の製造に使用されるものであれば良く、例えば、シュウ酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸および塩酸などが挙げられ、単独若しくは2種類以上を混合して使用することができる。反応設備への腐食などを考慮すると、シュウ酸またはリン酸が好ましい。
酸の使用量は、フェノール類100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜5重量部の割合で用いるのが望ましい。
【0013】
本発明では、更に塩化カルシウムを触媒成分として使用する。塩化カルシウムは、結晶水を有するものと無水物とがあるが、無水物が好ましい。塩化カルシウムの使用量は、フェノール類100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは2〜10重量部の割合で用いるのが良い。塩化カルシウムの使用量が1質量部未満では、フェノール類とアルデヒド類の反応率が低下するため好ましくなく、20質量部を越えると反応率向上の効果がほとんどなくなるため、実用的でない。
【0014】
本発明の製造方法で得られるノボラック樹脂は、数平均分子量が200〜500であり、好ましくは250〜400、より好ましくは250〜350である。
数平均分子量が上記範囲内であると、ノボラック樹脂の溶融粘度を低くすることができ、エポキシ樹脂の硬化剤として十分な効果を発揮する。
また、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.3以下であり、好ましくは1.2以下である。
分散度が1.3以下であることは、ノボラック樹脂中の多核体が少ないことを意味する。ノボラック樹脂の溶融粘度を低くするためには、多核体の含有量をできるだけ少なくする必要がある。
更に、150℃における溶融粘度が300mPa・s以下であり、好ましくは250mPa・s以下である。
溶融粘度が300mPa・s以下であると、エポキシ樹脂の硬化剤として使用した場合、配合物の流動性が向上するため成形性に優れた配合物が得られる。
【0015】
フェノール類とアルデヒド類とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えば、フェノール類、アルデヒド類、塩化カルシウムおよび酸を一括で仕込み反応させる方法、またはフェノール類、塩化カルシウムおよび酸を仕込み、所定の反応温度においてアルデヒド類を添加する方法が挙げられる。このとき反応温度は、30〜120℃の範囲で行うのが良い。30℃未満であると反応の進行が遅く、かつ未反応のフェノール類が残存するため好ましくなく、また120℃を超える温度では高分子量成分の生成が促進されるため好ましくない。反応時間には特に制限はなく、アルデヒド類、塩化カルシウムおよび酸の量、反応温度により調整すればよい。反応の際、有機溶剤を使用することももちろん可能である。
有機溶媒としては、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、1,4−ジオキサン等のエーテル類等が単独で、若しくは2種以上を併用して使用できる。
前記有機溶媒は、フェノール類100質量部に対して、0〜1,000質量部、好ましくは10〜100質量部程度となるように使用することができる。但し、溶媒として水は使用しない方が良い。塩化カルシウムは水溶性が高いため、系内に水が存在すると直ちに溶解し、塩化カルシウムが水溶液になると反応の効率が下がるため好ましくない。また、フェノール類とアルデヒド類の反応により縮合水が生成するため、反応の進行に伴い塩化カルシウムが徐々に水を吸着して溶融状態になるが、完全に透明になるような状態でなければ特に問題ない。しかし、塩化カルシウムへの水分の吸着を防ぐ目的で、硫酸カルシウム、シリカゲル、モレキュラーシーブなどの乾燥剤を使用することも可能である。前記乾燥剤はフェノール類化合物100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは0〜10質量部程度となるように使用することができる。
反応終了後は、蒸留により縮合水を除去したり、また、必要に応じて、水洗して塩化カルシウムおよび酸を除去しても良い。更に、減圧蒸留或いは水蒸気蒸留を行って未反応のフェノール類や未反応アルデヒド類を除去しても良い。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明の製造方法によるノボラック樹脂の実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、フェノール100g、ベンズアルデヒド56g、塩化カルシウム5gおよびシュウ酸1gを仕込み、50℃で3時間反応させた。次いで、純水100gで3回洗浄を行い、塩化カルシウムおよびシュウ酸を除去した。次いで、180℃、50mmHgの減圧下で溜出分を除去し、ノボラック樹脂A98gを得た。図1に、樹脂Aのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャートを示す。なお、横軸は溶出時間(分)を示す。図1から樹脂Aは、低分子量の2核体が主生成物であることが分かる。
【0017】
実施例2
シュウ酸の代わりにリン酸1gを使用した以外は、実施例1と同様に行い、ノボラック樹脂B98gを得た。
【0018】
実施例3
アルデヒド類としてイソブチルアルデヒド38gを使用した以外は、実施例1と同様に行い、ノボラック樹脂C90gを得た。
【0019】
実施例4
フェノール類としてオルソクレゾール100g、アルデヒド類としてイソブチルアルデヒド33gを使用した以外は、実施例1と同様に行い、ノボラック樹脂D89gを得た。
【0020】
比較例1
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、オルソクレゾール100g、ベンズアルデヒド49gおよびシュウ酸1gを仕込み、100℃で8時間反応させたところ、反応が進行せず樹脂は得られなかった。
【0021】
比較例2
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、オルソクレゾール100g、ベンズアルデヒド49g、塩化ナトリウム5gおよびシュウ酸1gを仕込み、100℃で8時間反応させたところ、反応が進行せず樹脂は得られなかった。
【0022】
比較例3
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、フェノール100g、ベンズアルデヒド56gおよびパラトルエンスルホン酸10gを仕込み、100℃で8時間反応させた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、純水100gで5回洗浄を行い生成塩を除去した。次いで、180℃、50mmHgの減圧下で溜出分を除去し、ノボラック樹脂E83gを得た。図2に、樹脂Eのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャートを示す。なお、横軸は溶出時間(分)を示す。図2から樹脂Eは、2核体以外に相当量の多核体が生成していることが分かる。
【0023】
比較例4
フェノール類としてオルソクレゾールを使用した以外は、比較例3と同様に反応を行い、ノボラック樹脂F77gを得た。
【0024】
実施例1〜3で得られたノボラック樹脂、比較例3および4で得られたノボラック樹脂について下記分析方法で測定した値を表1に示す。樹脂の分析方法は以下の通りである。
(1)数平均分子量、重量平均分子量、分散度
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
カラム構成は昭和電工(株)製のKF−804を2本用い、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1ml/分で測定した。
分子量はポリスチレン換算、含有率は全ピーク面積中の百分率で算出した。
分散度は重量平均分子量/数平均分子量で算出した。
(2)軟化点
エレックス科学製気相軟化点測定装置EX−719PDを用いて昇温速度2.5℃/分で測定した。
(3)溶融粘度
リサーチ・イクウィップ社製ICI粘度計を用い、150℃で測定した。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のノボラック樹脂は、溶融粘度が低いため流動性が高く、エポキシ樹脂の硬化剤として使用した熱硬化性樹脂組成物は、成形時の流動性が著しく向上する。本発明のノボラック樹脂を半導体封止材用として使用した場合、充填剤量を多くすることにより成形品の線膨張係数の低減や吸湿率の低減、難燃性の向上が可能となる。また、その硬化物は、良好な耐熱性、耐湿性、機械的特性、電気絶縁性、金属との接着性などを有し、従って、高信頼性を必要とする電子材料用途に非常に有効である。具体的には、電子部品の封止材用樹脂組成物、プリント基板用樹脂組成物、プリント基板および樹脂付き銅箔に使用する層間絶縁材料用樹脂組成物、レジストインキ、導電ペースト(導電性充填剤含有)、塗料、接着剤、複合材料等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化カルシウムおよび酸を含む触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを反応させることを特徴とするノボラック樹脂の製造方法。
【請求項2】
酸がシュウ酸またはリン酸である請求項1に記載のノボラック樹脂の製造方法。
【請求項3】
数平均分子量が200〜500であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.3以下で、かつ150℃における溶融粘度が300mPa・s以下であるノボラック樹脂を得る、請求項1または2に記載のノボラック樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−159362(P2010−159362A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3353(P2009−3353)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】