説明

ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法

【課題】 耐熱性及び透明性に優れる、ノルボルナン骨格を有する新規なポリアミドイミドの製造方法を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体と、ジアミン化合物と、を極性溶媒中で反応させることを特徴とするノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法。
【化1】


(但し、式中Rは塩素又は臭素を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱透明性ポリマーとして有用であるポリアミドイミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光電子機器等に利用される光学部材用樹脂には、電子基板等への実装プロセスや高温動作下での耐熱性や機械特性、又はその汎用性から、エポキシ樹脂が広く使用されてきた。しかし、近年、光電子機器分野でも高強度のレーザー光や青色光、近紫外光の利用が広がり、従来以上に透明性、耐熱性及び耐光性に優れた樹脂が求められている。
【0003】
一般にエポキシ樹脂は、可視光での透明性は高いが、紫外から近紫外域では十分な透明性が得られない。また、脂環族エポキシ樹脂と酸無水物からなる硬化物は、近紫外領域での透明性が比較的高いが、熱や光によって着色し易い等の問題がある。そこで、耐熱、耐紫外線着色性の向上が求められており、様々なエポキシ樹脂が検討されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
一方、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性樹脂は、耐熱性、絶縁性、耐光性や機械的特性に優れており、また、種々の溶媒に可溶で作業性に優れることから、エレクトロニクス分野で半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜等として幅広く使用されている。その中でも、脂環族構造を持つポリアミドが、紫外領域での透明性に優れるため、光電子機器、各種ディスプレイ等の材料として検討され始めている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−308683号公報
【特許文献2】特開2006−131867号公報
【特許文献3】特開2003−171439号公報
【特許文献4】特開2004−75894号公報
【特許文献5】特許第3091784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年の光電子機器、各種ディスプレイ等の技術的進歩に伴い、より一層の耐熱性、透明性等に優れた材料が求められていた。そのため、より一層の耐熱性、透明性等に優れた材料、及びそれを工業的に簡便に得る製造方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものである。具体的には、耐熱性及び透明性に優れる、ノルボルナン骨格を有するポリアミドイミドを工業的に簡便に得る製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明は、下記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体と、ジアミン化合物と、を極性溶媒中で反応させることを特徴とするノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法に関する。
【0010】
【化1】

(但し、式中Rは塩素又は臭素を示す。)
【0011】
また本発明は、上記ジアミン化合物が、下記一般式(II)で表される脂肪族ジアミン化合物又は脂環族ジアミン化合物であることを特徴とする上記ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法に関する。
【0012】
【化2】

(但し、式中Rは、脂肪族基及び脂環族基から選ばれる2価の有機基である。)
【0013】
本発明は、上記ジアミン化合物が、下記一般式(III)で表される芳香族基ジアミン化合物であることを特徴とする上記ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法に関する。
【0014】
【化3】

(但し、式中Rは、2価の芳香族基である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法により得られるノルボルナン骨格を有するポリアミドイミドは、耐熱性及び透明性に優れるため、半導体・液晶に用いられる電子部品、光ファイバー、光学レンズ等に代表される光学材料、さらには、ディスプレイ関連材料、医療用材料として使用することができる。また、本発明の製造方法により、ノルボルナン骨格を有するポリアミドイミドを工業的に有利な条件で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0017】
<1>本発明のノルボルナン骨格を有するポリアミドイミドの製造方法
本発明は、下記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体と、ジアミン化合物と、を極性溶媒中で反応させることを特徴とするノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法に関する。
【0018】
【化4】

(但し、式中Rは塩素又は臭素を示す。)
【0019】
<本発明の製造方法に用いる各原料>
以下、本発明の製造方法で用いる各原料について説明する。
【0020】
(一般式(II)又は一般式(III)で表されるジアミン化合物)
本発明の一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体と反応させるジアミン化合物としては、特に制限は無く、下記一般式(II)で表される脂肪族ジアミン化合物又は脂環族ジアミン化合物、あるいは下記一般式(III)で表される芳香族基ジアミン化合物を使用することができる。
【0021】
【化5】

(但し、式中Rは、脂肪族基及び脂環族基から選ばれる2価の有機基である。)
【0022】
【化6】

(但し、式中Rは、2価の芳香族基である。)
【0023】
脂肪族ジアミンとしては、特に制限は無く、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジアミノシロキサン、4,9−ジオキサドデカン−1,12−ジアミン、4,7,10−トリオキサトリデカン−1,13−ジアミン、主鎖がエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であるジアミン化合物、主鎖がゴムであるジアミン化合物、又は、下記一般式(VII)で表されるポリオキシアルキレンジアミン類が挙げられ、これらは、単独あるいは2種以上を混合して使用することもできる。
【0024】
【化7】

(但し、式中aは0〜20、bは0〜70、cは1〜90である)
【0025】
また、脂環族ジアミンとしては、特に制限は無く、1,2−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロへキシルメタン、ノルボルナンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロへキシルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジシクロへキシルメタン、イソホロジアミン等が挙げられ、これらは、単独又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0026】
また、芳香族ジアミンとしては、特に制限は無く、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2−ビス〔3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2−ビス〔3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2−ビス〔3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス〔3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、1,1−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕シクロヘキサン、1,1−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕シクロペンタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、4,4'−カルボニルビス(p−フェニレンオキシ)ジアニリン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、m−ベンジルアミン、α−(3−アミノフェニル)メチルアミン、α−(3−アミノフェニル)エチルアミン、α−(3−アミノフェニル)プロピルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(アミノフェノキシベンゼン等が挙げられ、これらは、単独又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0027】
本発明で使用される、一般式(VII)で表されるポリオキシアルキレンジアミン類としては、特に制限は無いが、例えば、三井化学ファイン(株)製の商品名:ジェファーミン D−230(a=0、b=0、c=2〜3)、D−400(a=0、b=0、c=5〜6)、D−2000(a=0,b=0,c=約33)、D−4000等のジェファーミンDシリーズ;ジェファーミンED−600(b=9.0、a+c=3.6)、ED−900(b=12.0、a+c=3.6)、ED−2003(b=38.7、a+c=6.0)等のジェファーミンEDシリーズ;等を使用することができ、これらは、単独又は2種以上を混合して使用することもできる。
また、上記脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン及び芳香族ジアミンを2種以上混合して使用することもできる。
【0028】
(一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体)
一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体のカルボン酸ハライドを構成するハロゲンとしては、塩素又は臭素を使用できるが、製造コストの点から、特に、塩素が好ましい。
【0029】
本発明の一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体は、下記工程(1)〜(3)を含む方法で得ることができる。
工程(1):まず、下記一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体とギ酸エステル(HCOOR)とを反応させて、下記一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体とする。
【0030】
【化8】

(但し、式中Rは炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0031】
【化9】

(但し、式中R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0032】
工程(2):次に、得られた上記一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体を、加水分解して、下記一般式(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸を得る。
【0033】
【化10】

【0034】
工程(3):得られた上記式(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸の2位と3位のカルボン酸を脱水閉環するとともに、5位のカルボン酸を酸ハライド化することによって、上記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体を得ることができる。
【0035】
各工程及び各工程で用いる原料について、以下に説明する。
工程(1):上記一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体を得る工程
工程(1)で用いる下記一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体は、通常の方法、即ち、ジシクロペンタジエン又はシクロペンタジエンと、マレイン酸又はそのジエステル化合物と、のディールス・アルダー反応で直接合成する方法、ジシクロペンタジエン又はシクロペンタジエンと、マレイン酸と、をディールス・アルダー反応させてノルボルネンジカルボン酸誘導体を得た後、触媒存在下、アルコール中で加熱すること等によってジエステル化する方法により得ることができる。
【0036】
製造装置の簡略化、コスト等を考慮すると、ジシクロペンタジエンをシクロペンタジエンに分解した後、マレイン酸又はそのジエステル化合物とディールス・アルダー反応させる方法が好ましい。
【0037】
ジシクロペンタジエンのシクロペンタジエンへの分解は、例えば、Org.Syn,1963,Vol.4,P238、Org.Syn,1962,Vol.42,P50、有機合成ハンドブック,1990,P501等に記載されている方法を使用することができる。具体的には、スニーダー又はビグリュー分溜管を取り付けたフラスコにジシクロペンタジエンを投入し、150〜170℃に加熱することによって、42〜46℃で流出するシクロペンタジエンを回収する方法を使用することができる。
【0038】
シクロペンタジエンと、マレイン酸又はそのジエステル化合物と、のディールス・アルダー反応方法は、特に制限は無いが、フラスコ内にマレイン酸又はそのジエステル化合物を仕込んだ後、シクロペンタジエンを滴下する方法が好ましい。
【0039】
シクロペンタジエンと、マレイン酸又はそのジエステル化合物と、のディールス・アルダー反応方法は、特に溶媒を用いることなく進行させることができる。しかし、必要に応じて、溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒は、原料として使用する化合物を溶解できればよく、特に限定されない。好適に使用できる溶媒の具体例として、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、エチルベンゼン、クメン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラリン等が挙げられる。
【0040】
シクロペンタジエンと、マレイン酸又はそのジエステル化合物と、のディールス・アルダー反応の反応温度は、20〜50℃が好ましく、20〜40℃がより好ましく、30〜40℃が特に好ましい。反応温度が20℃未満だと、反応時間が長くなる傾向がある。また、50℃を超えると、シクロペンタジエンの2量化等の副反応が起こる可能性がる。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件により適宜選択することができる。
【0041】
使用するマレイン酸ジエステル化合物としては、特に制限は無く、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジアミル、マレイン酸ジオクチル等を使用できるが、製造コスト、加水分解性等を考慮すると、マレイン酸ジメチルが好ましい。
【0042】
上記工程(1)で用いるギ酸エステル(HCOOR)としては、特に制限は無く、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、ギ酸アリル、ギ酸ビニル、ギ酸ベンジル等から適宜選択して使用することができる。コスト及び反応性の観点から、ギ酸メチル、ギ酸エチル等の直鎖状のアルキルギ酸エステルが好ましく、ギ酸メチルがより好適である。
なお、ギ酸エステルのエステル部分(R)は、上記式(V)中のRに対応する。
【0043】
本発明における一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体とギ酸エステル(HCOOR)との反応は、80℃〜200℃の温度範囲で実施することが好ましい。上記反応は、100℃〜160℃の温度範囲で実施することがより好ましい。80℃よりも高い温度で反応を実施することによって、反応速度が速まり、反応を効率よく進めやすくなる。その一方で、反応温度を200℃以下に制御することによって、原料として使用するギ酸エステル(HCOOR)の分解を抑制することができる。ギ酸エステル(HCOOR)が分解すると、一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体に対するエステル基の付加が達成されなくなるため、高すぎる反応温度は望ましくない。
【0044】
反応温度が、原料として使用する一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体又はギ酸エステル(HCOOR)のいずれかの沸点を超える場合には、耐圧容器内で反応を行う必要がある。反応の終結は、ガスクロマトグラフ、NMR等周知の分析技術を用いて確認することができる。
【0045】
また、一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体とギ酸エステル(HCOOR)との反応の際、ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩と、を含む触媒系の存在下で行うことが好ましい。
なお、ここで「触媒系」とは、触媒そのものだけでなく、触媒の作用を助ける添加剤、増感剤等も含むものである。
【0046】
上記ルテニウム化合物は、ルテニウムを含むものであればよく、特に制限はない。好適なルテニウム化合物の具体例として、[Ru(CO)Cl、[Ru(CO)Cl、[Ru(CO)Cl、[Ru(CO)11Cl]、[Ru(CO)13Cl]等の、分子内にカルボニル配位子とハロゲン配位子とを合わせ持つルテニウム化合物等が挙げられ、なかでも、反応率向上の観点から、[Ru(CO)Cl、[Ru(CO)Cl等がより好ましい。
【0047】
上記ルテニウム化合物は、RuCl、Ru(CO)12、RuCl(C12)、Ru(CO)(C)、Ru(CO)(C12)、及びRu(C10)(C12)等を前駆体化合物として使用し、上記一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体を得る反応前又は反応中に、上記ルテニウム化合物を上記前駆体化合物から調製して、反応系に導入してもよい。
【0048】
上記ルテニウム化合物の使用量は、原料である一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体に対して、好ましくは1/10000〜1当量、より好ましくは1/1000〜1/50当量である。製造コストを考えるとルテニウム化合物の使用量はより少ないほうが好ましいが、1/10000当量未満の場合は反応が極端に遅くなる傾向にある。
【0049】
上記コバルト化合物は、コバルトを含むものであればよく、特に制限はない。好適なコバルト化合物の具体例として、Co(CO)、Co(CO)、Co(CO)12等カルボニル配位子を持つコバルト化合物;酢酸コバルト、プロピオン酸コバルト、安息香酸コバルト、クエン酸コバルト等のカルボン酸化合物を配位子に持つコバルト化合物;リン酸コバルト等が挙げられる。なかでも、反応率向上の観点から、Co(CO)、酢酸コバルト、クエン酸コバルト等がより好ましい。
【0050】
上記コバルト化合物の使用量は、上記ルテニウム化合物に対して1/100〜10当量、好ましくは1/10〜5当量である。上記ルテニウム化合物に対する上記コバルト化合物の比率が1/100より低くても、また10より高くても、上記一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体(以下、「エステル化合物」ともいう)の生成量は著しく低下する傾向にある。
【0051】
上記ハロゲン化物塩は、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオン等のハロゲンイオンと、カチオンと、から構成される化合物であればよく、特に限定されない。上記カチオンは、無機物イオン及び有機物イオンのいずれであってもよい。また、上記ハロゲン化物塩は、分子内に1以上のハロゲンイオンを含んでもよい。
【0052】
ハロゲン化物塩を構成する無機物イオンは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種の金属イオンであってもよい。具体例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム等のイオンが挙げられる。
【0053】
また、有機物イオンは、有機化合物から誘導される1価以上の有機基であってよい。一例として、アンモニウム、ホスホニウム、ピロリジニウム、ピリジウム、イミダゾリウム、及びイミニウム等のイオンが挙げられ、これらイオンの水素原子はアルキル基及びアリール基等の炭化水素基によって置換されていてもよい。特に限定するものではないが、好適な有機物イオンの具体例として、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、ブチルメチルピロリジニウム、オクチルメチルピロリジニウム、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウム等のイオンが挙げられる。なかでも、反応率向上の観点から、ブチルメチルピロリジニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムアイオダイト、リオクチルメチルアンモニウムクロリド等の四級アンモニウム塩のイオンがより好ましい。
【0054】
本発明で使用するハロゲン化物塩は、固体の塩である必要はなく、室温付近又は100℃以下の温度領域で液体となる、ハロゲン化物イオンを含むイオン性液体を用いてもよい。このようなイオン性液体に用いられるカチオンの具体例として、1−エチル3−メチルイミダゾリウム、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ペンチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘプチル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチルピリジニウム、1−ブチルピジリニウム、1−ヘキシルピリジニウム、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ブチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ペンチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ヘキシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ヘプチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−オクチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等の有機物イオンが挙げられる。
本発明では、上述のハロゲン化物塩を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。
【0055】
上述のハロゲン化物塩のうち、好適なハロゲン化物塩は、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩であり、カチオンが有機物イオンである。特に限定するものではないが、本発明において好適なハロゲン化物塩の具体例として、ブチルメチルピロリジニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムアイオダイト、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0056】
ハロゲン化物塩の添加量は、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜50当量である。1当量を超える添加量とすることによって、反応速度を効果的に高めることができる。一方、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0057】
本発明における一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体とギ酸エステル(HCOOR)との反応によるヒドロエステル化では、上記のルテニウム化合物とコバルト化合物とハロゲン化物塩とを含む触媒系に、必要に応じて、塩基性化合物、フェノール化合物及び有機ハロゲン化合物のいずれか1種又は2種以上を追加することによって、上記触媒系による反応促進の効果をより高めることが可能である。
【0058】
本発明で使用する塩基性化合物としては、無機化合物であっても、有機化合物であってもよい。塩基性の無機化合物の具体例として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物塩、アルコキシド等が挙げられる。塩基性の有機化合物の具体例として、一級アミン化合物、二級アミン化合物、三級アミン化合物、ピリジン化合物、イミダゾール化合物、キノリン化合物等が挙げられる。
【0059】
上述の塩基性化合物のなかでも、反応促進効果の観点から、三級アミン化合物が好適である。本発明に使用可能である好適な三級アミン化合物の具体例として、トリアルキルアミン、N−アルキルピロリジン、キヌクリジン及びトリエチレンジアミン等が挙げられる。
【0060】
塩基性化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは、2〜200当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現がより顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0061】
本発明で使用するフェノール化合物としては、特に限定されない。使用可能なフェノール化合物の具体例として、フェノール、クレゾール、アルキルフェノール、メトキシフェノール、フェノキシフェノール、クロルフェノール、トリフルオロメチルフェノール、ヒドロキノン及びカテコール等が挙げられる。
【0062】
フェノール化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは、2〜200当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現がより顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0063】
本発明で使用する有機ハロゲン化合物としては、特に限定されない、使用可能な有機ハロゲン化合物の具体例として、ハロゲン化メチル、ジハロゲンメタン、ジハロゲンエタン、トリハロゲンメタン、テトラハロゲン炭素、ハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。
【0064】
有機ハロゲン化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは、2〜200当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現がより顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0065】
本発明における一般式(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体とギ酸エステル(HCOOR)との反応では、特に溶媒を用いることなく進行させることができる。
【0066】
しかし、必要に応じて、溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒は、原料として使用する化合物、ノルボルネンモノカルボン酸誘導体ジシクロペンタジエンとギ酸エステル(HCOOR)等を溶解できればよく、特に限定されない。
【0067】
好適に使用できる溶媒の具体例として、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、エチルベンゼン、クメン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラリン等が挙げられる。
【0068】
工程(1)により得られる、一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体は、必要により蒸留等で単離して、下記工程(2)の加水分解工程の原料とすることができる。
【0069】
工程(2):上記一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体の加水分解工程
上記一般式(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体を加水分解して、上記一般式(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸とする方法には、特に制限は無く、例えば、特許第2591492号、特開2008−31406号公報等に記載されている酸加水分解、アルカリ加水分解等を使用することができる。又は、酸成分あるいはアルカリ成分を加えること無しに、耐熱容器内で水分存在下、140℃以上の高温で加熱することによっても加水分解することができる。
【0070】
工程(3):上記一般式(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸の脱水閉環及び酸ハライド化工程
上記式(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸の2位と3位のカルボン酸の脱水閉環と、5位のカルボン酸の酸ハライド化は、同時に行ってもよく、又は脱水閉環した後に酸ハライド化することもできる。コスト等を考慮すると、同時に行った方が好ましい。
上記一般式(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸の2位と3位のカルボン酸を脱水閉環する方法としては、特に制限は無いが、例えば、無水酢酸、五酸化リン等の脱水剤を使用して無触媒又は塩基性触媒の存在下で脱水閉環する化学閉環法、無触媒又は酸性触媒存在下、溶媒中で加熱還流する熱閉環法等を用いることができるが、量産性を考慮すると、熱閉環法が好ましい。
【0071】
上記一般式(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸の5位のカルボキシル基を酸クロリド化する方法としては、例えば、特開2008−31406号公報に記載されている、塩化チオニルを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリド等の、他の酸クロリドを使用する方法を用いることができる。
また、酸ブロミドを経由する場合は、臭化チオニル、オキザリルブロミド、三臭化リン、安息香酸ブロミド等を使用して、同様に実施することができる。
【0072】
<本発明の製造方法における反応条件>
本発明における上記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体と一般式(II)及び/又は、一般式(III)で表されるジアミン化合物との使用量は、ノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体のカルボン酸ハライド基及び酸無水物基のモル数の合計に対するアミン基のモル数を0.7〜2.0とすることが好ましく、0.8〜1.7とすることがより好ましく、0.9〜1.5とすることがさらに好ましく、0.95〜1.3とすることが特に好ましい。
0.7未満又は2.0を超えると、得られるポリアミドイミドの分子量を大きくすることが困難になり、機械特性、耐熱性等が低下する傾向がある。
【0073】
反応温度は、0〜250℃とすることが好ましく、40〜220℃とすることがより好ましく、60〜200℃とすることが特に好ましい。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件により適宜選択することができる。
上記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体と一般式(II)及び/又は、一般式(III)で表されるジアミン化合物との反応には、極性溶媒を使用する。使用可能な極性溶媒は、原料として使用する化合物を溶解できればよく、特に限定されない。
【0074】
好適に使用できる極性溶媒の具体例として、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン等の含窒素系溶媒;
ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;
ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の含硫黄系溶媒;
γ−ブチロラクトン、酢酸セロソルブ等のエステル系溶媒;
シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;等を使用することができる。
【0075】
極性溶媒の使用量は、上記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体と一般式(II)及び/又は、一般式(III)で表されるジアミン化合物との総量100質量部に対して、20〜500質量部とすることが好ましく、30〜300質量部にすることがより好ましく、50〜200質量部にすることが特に好ましい。
【0076】
使用量が20質量部未満だと、原料が十分に溶解せず、反応速度が遅くなる傾向があり、500質量部を超えても、1バッチ当りのポリアミイミドの収量が低下するだけで、特に利点は無い。
【0077】
<2>本発明で得られるポリアミドイミド
なお、本発明の製造方法で得られるポリアミドイミドは、下記一般式(a)で表されるノルボルナン骨格を有するポリアミドイミドである。
【0078】
【化11】

(但し、式中、nは1〜1000の整数である。R又はRは、上記一般式(II)又は(III)のR、Rと同じである。)
上記式中のR又はRは、上記一般式(II)又は(III)で表されるジアミン化合物の中のR又はRと同じである。
また、上記式中、nは1〜1000の整数である。
【0079】
本発明の製造方法で得られる、ノルボルナン骨格を有するポリアミドイミドは、数平均分子量(GPC法で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出)を2,000〜250,000とすることが好ましく、3,000〜220,000とすることがより好ましい。数平均分子量が、2,000未満では、耐熱性等が低下する傾向があり、250,000を超えると、溶媒への溶解性が低下する傾向がある。
【0080】
なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以降、「GPC」と略記する)を用いて、下記条件で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出する。
装 置:(株)日立製作所製、L6000型
カラム:昭和電工(株)製、Shodex KD−806M×1本
溶離液:N−メチル−2−ピロリドン 1.0ml/min
検出器:UV(280nm)
ノルボルナン骨格を有するポリアミドの数平均分子量を上記範囲とするには、本願の製造方法により製造すればよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0082】
<(IV)で表されるノルボルネンジカルボン酸誘導体の合成>
(合成例1)〔シクロペンタジエンの生成〕
【0083】
【化12】

【0084】
撹拌機、温度計及び塔頂に分溜塔、温度計及び冷却管を備えたスニーダー型分溜管(7段)を備えた1リットルフラスコに、ジシクロペンタジエンを700g仕込み、オイルバスで加熱した。フラスコ内の温度が158℃に達したところで、分溜塔頂からシクロペンタジエンが留出してきたので、受器を氷冷しながら約6時間かけて回収した。この際の留出温度は41〜48℃で、回収量は609gだった(回収率:87%)。得られたシクロペンタジエンをガスクロマトグラフィーで分析したところ、純度は100%であった。
【0085】
(合成例2)〔ノルボルネンジカルボン酸メチルの合成〕
【0086】
【化13】

【0087】
撹拌機、温度計、滴下ロート及び冷却管を備えた1リットルフラスコに、マレイン酸ジメチル432g(3.0モル)を仕込み、フラスコを水冷して撹拌しながら、合成例1で得られたシクロペンタジエン198g(3.0モル)を、フラスコ内の温度が30〜40℃に保持されるように注意しながら滴下した。滴下終了後、反応温度を維持しながら6時間反応させ、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、原料であるマレイン酸ジメチルとシクロペンタジエンは完全に消失し、ノルボルネンジカルボン酸ジメチルの選択率が99.2%の反応液を得た(ジシクロペンタジエンが0.8%生成)。
【0088】
<(V)で表されるノルボルナントリカルボン酸誘導体の合成>
(合成例3)〔ノルボルナントリカルボン酸メチルの合成〕
【0089】
【化14】

【0090】
室温下、内容積500mlのステンレス製加圧反応装置内で、ルテニウム化合物として[Ru(CO)Clを0.25mmol、コバルト化合物としてCo(CO)を0.25mmol、ハロゲン化物塩としてトリオクチルメチルアンモニウムクロリド5mmol、塩基性化合物としてトリエチルアミン20mmol、フェノール化合物としてp−クレゾールを5mmol混合した触媒系に、合成例2で得られたノルボルネンジカルボン酸メチル(未精製)を100mmol、ギ酸メチルを50mL加えたのち、窒素ガス0.5MPaで反応容器をパージし、120℃で8時間保持した。その後反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて分析した。
【0091】
分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナントリカルボン酸メチルは90.3mmol(ノルボルナントリカルボン酸メチル基準で収率90.3%)であった。得られたノルボルナントリカルボン酸メチルを減圧蒸留で単離した。
【0092】
得られたノルボルナントリカルボン酸メチルを、H−NMRで分析した結果、ノルボルナン(トリシクロデカン)のメチレン及びメチン基のピークが1.1〜3.0ppm付近に、カルボン酸メチルに起因するメチル基のピークが3.6ppm付近に確認でき、その積分強度比が9.00/8.99(理論値:9/9)であった。
【0093】
<(VI)で表されるノルボルナントリカルボン酸の合成>
(合成例4)〔ノルボルナントリカルボン酸の合成〕
冷却管を取り付けた1リットル成す型フラスコに、合成例3で得られたノルボルナントリカルボン酸メチル30g及びメタノール200gを投入して均一溶液とした後、10%水酸化ナトリウム溶液200gを仕込み、100℃のオイルバスに入れ、6時間加熱還流した。その後、反応液量が140gになるまでメタノールを留去し、これに36%塩酸48mlを加え、pHを1としたところ、白色粉末が沈殿した。この白色粉末をろ過、水洗、乾燥し、ノルボルナントリカルボン酸22gを得た。得られたノルボルナントリカルボン酸を、H1−NMRで分析した結果、ノルボルナン(トリシクロデカン)のメチレン及びメチン基のピークが1.1〜3.0ppm付近に、カルボン酸に起因する水酸基のピークが12.4ppm付近に確認でき、その積分強度比が9.00/3.03(理論値:9/3)であった。
【0094】
<(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体の合成>
(合成例5)〔無水ノルボルナントリカルボン酸クロリドの合成〕
【0095】
【化15】

【0096】
撹拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた1リットルフラスコに、合成例4で得られたノルボルナントリカルボン酸41.04g(0.18モル)、N,N−ジメチルホルムアミド0.0657g(0.0009モル)及びトルエン205.2gを仕込み、窒素を吹き込みながら加熱、撹拌した。反応温度が75℃に達したところで、塩化チオニル64.26g(0.54モル)を投入して2時間還流した。還流終了後、ヘプタン330gを投入したところ、白色結晶が析出した。この白色結晶をろ過、水洗、乾燥し、無水ノルボルナントリカルボン酸クロリド35gを得た。得られた無水ノルボルナントリカルボン酸クロリドを、H1−NMRで分析した結果、12.4ppm付近のカルボン酸ピークが消失していた。
【0097】
(実施例1)〔ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミド(PAI−1)の合成〕
攪拌機、温度計、窒素導入管及び油水分離機付き冷却管を備えた500mlフラスコに、窒素気流下、1,6−ジアミノヘキサン47.33g(0.408モル)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン207.49gを加えて溶解した。次に20℃を超えない様に冷却しながら、合成例5で得られた無水ノルボルナントリカルボン酸クロリド91.00g(0.400モル)を加えた。室温で1時間撹拌した後、20℃を超えない様に冷却しながらトリエチルアミン48.48g(0.480モル)を加え、室温で3時間反応させてポリアミド酸ワニスを製造した。
【0098】
得られたポリアミド酸ワニスを更に190℃で脱水反応を6時間行い、ポリアミドイミド樹脂のワニスを製造した。このポリアミドイミド樹脂のワニスを水に注いで得られる沈殿物を分離、粉砕、乾燥して、数平均分子量が98,000のノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末を得た。
【0099】
得られたノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末をN−メチル−2−ピロリドンに溶解してノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−1)を得た。
【0100】
ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−1)をテフロン(登録商標)基板上に塗布し、250℃で加熱して、有機溶媒を乾燥させて、膜厚30μmの塗膜を形成した。この塗膜のガラス転移温度(Tg)及び熱分解開始温度(5%重量減少温度、Td)を下記条件で測定した。結果を表1に示す。
【0101】
(1)ガラス転移温度(Tg)
熱機械分析装置(セイコー電子(株)製、5200型 TMA)で測定した。
測定モード:エクステンション
測定スパン:10mm
荷重:10g
昇温速度:5℃/min
雰囲気:空気
【0102】
(2)熱分解開始温度(5%質量減少温度、Td
示差熱天秤(セイコー電子(株)製、5200型 TG−DTA)で測定した。
昇温速度:5℃/min
雰囲気:空気
【0103】
(3)光線透過率
また、得られたノルボルナン骨格を有するポリアミドイミド(PAI−1)の各波長における光線透過率を、日本分光(株)製 V−570型UV/VISスペクトロフォトメーターで測定した。
【0104】
(実施例2)〔ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの合成〕
攪拌機、温度計、窒素導入管及び油水分離機付き冷却管を備えた500mlフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジシクロへキシルメタン64.26g(0.306モル)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン198.77gを加えて溶解した。次に20℃を超えない様に冷却しながら、合成例5で得られた無水ノルボルナントリカルボン酸クロリド68.25g(0.300モル)を加えた。室温で1時間撹拌した後、20℃を超えない様に冷却しながらトリエチルアミン36.36g(0.360モル)を加え、室温で3時間反応させてポリアミド酸ワニスを製造した。
【0105】
得られたポリアミド酸ワニスを更に190℃で脱水反応を6時間行い、ポリアミドイミド樹脂のワニスを製造した。このポリアミドイミド樹脂のワニスを水に注いで得られる沈殿物を分離、粉砕、乾燥して、数平均分子量が99,000のノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末を得た。
【0106】
得られたノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末をN−メチル−2−ピロリドンに溶解してノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−2)を得た。
得られたノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−2)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0107】
(実施例3)〔ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの合成〕
攪拌機、温度計、窒素導入管及び油水分離機付き冷却管を備えた500mlフラスコに、窒素気流下、イソホロンジアミン79.63g(0.357モル)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン210.47gを加えて溶解した。次に20℃を超えない様に冷却しながら、合成例5で得られた無水ノルボルナントリカルボン酸クロリド79.63g(0.357モル)を加えた。室温で1時間撹拌した後、20℃を超えない様に冷却しながらトリエチルアミン42.42g(0.420モル)を加え、室温で3時間反応させてポリアミド酸ワニスを製造した。
【0108】
得られたポリアミド酸ワニスを更に190℃で脱水反応を6時間行い、ポリアミドイミド樹脂のワニスを製造した。このポリアミドイミド樹脂のワニスを水に注いで得られる沈殿物を分離、粉砕、乾燥して、数平均分子量が95,000のノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末を得た。
【0109】
得られたノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末をN−メチル−2−ピロリドンに溶解してノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−3)を得た。
得られたノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−3)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0110】
(実施例4)〔ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの合成〕
攪拌機、温度計、窒素導入管及び油水分離機付き冷却管を備えた500mlフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジフェニルメタン60.59g(0.306モル)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン193.26gを加えて溶解した。次に20℃を超えない様に冷却しながら、合成例5で得られた無水ノルボルナントリカルボン酸クロリド68.25g(0.300モル)を加えた。室温で1時間撹拌した後、20℃を超えない様に冷却しながらトリエチルアミン36.36g(0.360モル)を加え、室温で3時間反応させてポリアミド酸ワニスを製造した。得られたポリアミド酸ワニスを更に190℃で脱水反応を6時間行い、ポリアミドイミド樹脂のワニスを製造した。このポリアミドイミド樹脂のワニスを水に注いで得られる沈殿物を分離、粉砕、乾燥して、数平均分子量が102,000のノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末を得た。
【0111】
得られたノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの粉末をN−メチル−2−ピロリドンに溶解してノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−4)を得た。
得られたノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドワニス(PAI−4)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0112】
(比較例1)〔芳香族ポリアミドイミドの合成〕
攪拌機、温度計、窒素導入管及び油水分離機付き冷却管を備えた500mlフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジフェニルメタン60.59g(0.306モル)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン185.61gを加えて溶解した。次に20℃を超えない様に冷却しながら、トリメリット酸クロリド63.15g(0.300モル)を加えた。室温で1時間撹拌した後、20℃を超えない様に冷却しながらトリエチルアミン36.36g(0.360モル)を加え、室温で3時間反応させてポリアミド酸ワニスを製造した。得られたポリアミド酸ワニスを更に190℃で脱水反応を6時間行い、ポリアミドイミド樹脂のワニスを製造した。このポリアミドイミド樹脂のワニスを水に注いで得られる沈殿物を分離、粉砕、乾燥して、数平均分子量が108,000の芳香族ポリアミドイミドの粉末を得た。
得られた芳香族ポリアミドイミドの粉末をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して芳香族ポリアミドイミドワニス(PAI−5)を得た。
得られた芳香族ポリアミドイミドワニス(PAI−5)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0113】
(比較例2)〔ポリアミドイミドの合成〕
攪拌機、温度計、窒素導入管及び油水分離機付き冷却管を備えた500mlフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジシクロへキシルメタン64.26g(0.306モル)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン191.12gを加えて溶解した。次に20℃を超えない様に冷却しながら、トリメリット酸クロリド63.15g(0.300モル)を加えた。室温で1時間撹拌した後、20℃を超えない様に冷却しながらトリエチルアミン36.36g(0.360モル)を加え、室温で3時間反応させてポリアミド酸ワニスを製造した。得られたポリアミド酸ワニスを更に190℃で脱水反応を6時間行い、ポリアミドイミド樹脂のワニスを製造した。このポリアミドイミド樹脂のワニスを水に注いで得られる沈殿物を分離、粉砕、乾燥して、数平均分子量が94,000のポリアミドイミドの粉末を得た。
得られたポリアミドイミドの粉末をN−メチル−2−ピロリドンに溶解してポリアミドイミドワニス(PAI−6)を得た。
得られたポリアミドイミドワニス(PAI−5)の特性を実施例1と同様に評価した。結果をまとめて表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
以上の通り、本発明の製造方法によれば、ノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドを効率良く製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の製造方法から成るノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドは、耐熱性、絶縁性、耐光性や機械的特性に優れるため、半導体・液晶に用いられる電子部品、光ファイバー、光学レンズ等に代表される光学材料、さらには、ディスプレイ関連材料、医療用材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるノルボルナントリカルボン酸ハライド誘導体と、ジアミン化合物と、を極性溶媒中で反応させることを特徴とするノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法。
【化1】

(但し、式中Rは塩素又は臭素を示す。)
【請求項2】
前記ジアミン化合物が、下記一般式(II)で表される脂肪族ジアミン化合物又は脂環族ジアミン化合物であることを特徴とする請求項1記載のノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法。
【化2】

(但し、式中Rは、脂肪族基及び脂環族基から選ばれる2価の有機基である。)
【請求項3】
前記ジアミン化合物が、下記一般式(III)で表される芳香族基ジアミン化合物であることを特徴とする請求項1記載のノルボルナン骨格を含有するポリアミドイミドの製造方法。
【化3】

(但し、式中Rは、2価の芳香族基である。)

【公開番号】特開2013−49780(P2013−49780A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188149(P2011−188149)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】