説明

ノルボルナン骨格を有するカルボン酸およびそのエステルの製造方法

【課題】エキソ体とエンド体との混合物である7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物から、前記エキソ体に対応するカルボン酸のエキソ体又は前記エンド体を高い選択性で効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】前記化合物(7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなど)を、前記エキソ体1モルに対して0.1〜1.5モル当量の塩基性触媒の存在下、加水分解温度−20℃〜50℃で加水分解させる。このような方法では、前記エキソ体又はエンド体に対応するカルボン酸を、カルボン酸全体の80モル%以上の高い選択性で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物から、この化合物に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、および前記化合物のエンド体を効率よく選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
7−オキサノルボルナンカルボン酸、7−オキサノルボルネンカルボン酸などのオキサノルボルナン骨格を有するカルボン酸は、電子材料や医薬の中間体などに用いられている。
【0003】
そして、このようなオキサノルボルナン骨格を有するカルボン酸は、異性体であるエンド体およびエキソ体において、それぞれ物性や生理活性が異なるため、いずれか一方の異性体を選択的に得る技術、例えば、いずれか一方を選択的に製造する技術、異性体混合物からいずれか一方を分離する技術などが求められている。
【0004】
一般的に、高選択的に異性体を分離する方法としては、カラム精製法が広く知られているが、このようなカラム精製法は、工業的規模で行うのには不向きである。そのため、工業的に簡易な方法を用いて、オキサノルボルナン骨格を有するカルボン酸のエンド体又はエキソ体を選択的に製造する方法の開発が急務である。
【0005】
なお、前記オキサノルボルナン骨格を有するカルボン酸に類似の構造を有するノルボルネンカルボン酸類においては、そのエキソ体を選択的に製造する方法の開発が行われつつある。例えば、特開2006−160712号公報(特許文献1)には、5−ノルボルネン−2−カルボン酸であって、このカルボン酸のエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸が開示されている。また、この文献には、同様の化合物として、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルであって、このカルボン酸エステルのエキソ体を30モル%以上含む5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルも開示されている。
【0006】
そして、この文献には、上記のようなエキソ体を含むカルボン酸は、前記カルボン酸のエキソ体およびエンド体の混合物から、エキソ体のエステルを優先的に加水分解(塩基性条件下での加水分解など)する方法により製造できると記載されている。また、この文献には、このような方法により優先的に加水分解できる理由として、カルボキシル基周辺の立体障害が、エキソ体の方がエンド体に比べて小さく、エステルを分解してカルボン酸とする際の反応速度は、エキソ体の方がエンド体に比べて速いためで、エキソ体を優先的に生成させることができると記載されている。しかし、この方法では、エキソ体の生成率を十分に高める(例えば、90%以上とする)ことは困難である。
【0007】
一方、この文献には、前記のようなエキソ体を含むカルボン酸の別の製造方法として、前記カルボン酸のエンド体を、塩基(金属アルコキシドなど)の存在下で、エキソ体に異性化しながら、エキソ体を優先的に分解する方法も例示している。しかし、この方法では、実施例1からも明らかなように、異性化反応の反応性が十分に高いものではなく、エキソ体を十分に多く含むカルボン酸を製造することが困難である。
【特許文献1】特開2006−160712号公報(特許請求の範囲、段落番号[0035]、[0039]、[0040]、[0042]、[0064]、実施例1、実施例3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなど)に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、及び前記化合物のエンド体を効率よく製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、及び前記化合物のエンド体を高い選択性で簡便に製造できる方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、穏和な条件下であっても、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、及び前記化合物のエンド体を製造できる工業的に有利な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を達成するため、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸類のエキソ体を高選択的に得る方法について鋭意検討した結果、エキソ体およびエンド体の異性体(立体異性体)混合物である7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなど)は、類似の化合物である5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルとは大きく異なる特異性を示し、特定された触媒量および温度条件下での加水分解処理により、非常に高い選択性でエキソ体が加水分解されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の製造方法は、塩基性触媒の存在下、エキソ体(A1)とエンド体(A2)との混合物である7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(A)から、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解し、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸(又は前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を高割合で含むカルボン酸)を製造する方法(選択的に製造する方法)であって、塩基性触媒の割合が前記エキソ体(A1)1モルに対して0.1〜1.5モル当量であり、かつ加水分解温度が−20℃〜50℃であるカルボン酸の製造方法である。詳細には、本発明の製造方法は、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解し、加水分解後の反応混合物から反応物(反応生成物、加水分解物、カルボン酸成分)を分離(又は回収)することにより、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を選択的に製造する方法である。
【0013】
また、本発明では、前記方法により得られた加水分解後の反応生成物から、前記エンド体(A2)を選択的に得ることもできる。そのため、本発明には、塩基性触媒の存在下、エキソ体(A1)とエンド体(A2)との混合物である7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(A)から、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解し、加水分解後の反応混合物から前記化合物(A)の未反応物を分離することにより、前記エンド体(A2)を製造する方法(選択的に製造する方法)であって、塩基性触媒の割合が前記エキソ体(A1)1モルに対して0.1〜1.5モル当量であり、かつ加水分解温度が−20℃〜50℃である製造方法も含まれる。
【0014】
前記化合物(A)は、例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル類(例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸アルキルエステル)および7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル類(例えば、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸アルキルエステル)から選択された化合物であってもよい。
【0015】
前記塩基性触媒は、金属水酸化物(アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物など)および金属アルコキシド(アルカリ金属アルコキシドなど)から選択された少なくとも1種であってもよい。また、前記塩基性触媒の割合は、エキソ体(A1)1モルに対して0.5〜1.4モル当量であってもよい。前記加水分解温度は、−25℃〜35℃程度であってもよい。特に、前記加水分解温度は、−25℃〜15℃程度の比較的低温であってもよい。このような温度範囲で加水分解を行うと、選択的な加水分解性をより一層高めることができる。
【0016】
本発明の方法では、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を非常に高い選択性で得ることができる。詳細には、前記加水分解後の反応混合物(又は反応生成物)から生成したカルボン酸を分離し、このカルボン酸からエキソ体(A1)に対応するカルボン酸を選択的に得ることができる。例えば、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を選択的に製造する方法は、加水分解により生成したカルボン酸(又は化合物(A)に対応するカルボン酸)全体(又は全量)に対して、エキソ体(A1)に対応するカルボン酸の割合が80モル%以上であるカルボン酸を製造する方法であってもよい。
【0017】
前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を選択的に製造する方法は、代表的には、(1)塩基性触媒が金属水酸化物(特に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物など)および金属アルコキシド(特に、アルカリ金属アルコキシドなど)から選択された少なくとも1種であり、(2)化合物(A)が7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−4アルキルエステルおよび7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−4アルキルエステルから選択された化合物であり、(3)塩基性触媒の割合が、エキソ体(A1)1モルに対して0.8〜1.2モル当量であり、(4)加水分解温度が−25〜35℃(例えば、23℃〜33℃)であり、(5)化合物(A)に対応するカルボン酸全体に対して、エキソ体(A1)に対応するカルボン酸の割合が85モル%以上であるカルボン酸を製造する方法であってもよい。
【0018】
また、本発明の方法では、前記のように、前記エキソ体(A1)を高い選択性で加水分解できる。そして、本発明では、このようなエキソ体(A1)の高選択的な加水分解を利用して、加水分解されることなく残留した未反応物から、同様に高い割合で前記エンド体(A2)を高選択的に得ることができる。例えば、前記エンド体(A2)を選択的に製造する方法では、前記エンド体(A2)の割合が、前記化合物(A)の未反応物全体に対して80モル%以上であってもよい。
【0019】
前記エンド体(A2)を選択的に製造する方法は、代表的には、(1)塩基性触媒がアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ金属アルコキシドから選択された少なくとも1種であり、(2)化合物(A)が7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−4アルキルエステルおよび7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−4アルキルエステルから選択された化合物であり、(3)塩基性触媒の割合が、エキソ体(A1)1モルに対して0.8〜1.2モル当量であり、(4)加水分解温度が−23℃〜33℃であり、(5)エンド体(A2)の割合が、化合物(A)の未反応物全体に対して80モル%以上である製造方法であってもよい。
【0020】
さらに、本発明では、前記方法により得られた前記エキソ体(A1)を利用して、このエキソ体(A2)に対応するカルボン酸を高割合で含むカルボン酸を得ることができる。そのため、本発明には、前記方法(前記エンド体(A2)を製造する方法)により得られた化合物(A)の未反応物を、さらに加水分解し、前記エンド体(A2)に対応するカルボン酸を製造する方法(選択的に製造する方法)も含まれる。このような方法において、エンド体(A2)に対応するカルボン酸の割合は、前記と同様の高割合、例えば、加水分解により生成したカルボン酸全体(又は全量)に対して80モル%以上であってもよい。
【0021】
なお、本明細書において、「7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(A)に対応するカルボン酸」とは、前記化合物(A)のエステル基がカルボキシル基に置換した化合物を意味する。例えば、「7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステルのエキソ体に対応するカルボン酸」とは、「7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸のエキソ体」を意味し、「7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステルのエンド体に対応するカルボン酸」とは、「7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸のエンド体」を意味する。また、本明細書において、化合物名などの「類」とは、「置換基を有さない」場合と「置換基を有する」場合とを含み、「置換基を有していてもよい」ことを意味する場合がある。例えば、「7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル類」とは、置換基を有していてもよい7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステルを意味する。また、本明細書において、生成物としてのカルボン酸は、遊離のカルボキシル基を有するカルボン酸としてのみならず、塩基性触媒との塩(例えば、カルボン酸アルカリ金属塩など)などを含む意味に用いる場合がある。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法では、特定の条件下で反応を行うことにより、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなど)に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、及び前記化合物のエンド体を効率よく製造できる。特に、このような本発明の方法では、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、及び前記化合物のエンド体を高い選択性で簡便に製造できる。そして、このような本発明の方法は、穏和な条件下であっても、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、及び前記化合物のエンド体を製造でき、工業的に有利な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の方法では、塩基性触媒の存在下、特定の条件下で、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(A)を加水分解(加水分解処理)し、前記化合物(A)に対応するカルボン酸を製造する。このような方法において、前記化合物(A)は、エキソ体(A1)およびエンド体(A2)の混合物(異性体混合物)であり、本発明の方法では、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解されるため、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸(カルボン酸(B1)ということがある)が非常に高い選択性で得られる。すなわち、加水分解後の反応混合物から分離(回収)したカルボン酸(又は反応生成物又はカルボン酸成分)には、非常に高い割合でカルボン酸(B1)が含まれている。
【0024】
また、本発明には、このようなエキソ体(A1)の選択的加水分解を利用して、前記エンド体(A2)(さらには、このエンド体(A2)に対応するカルボン酸)を製造する方法、すなわち、前記加水分解後の反応混合物から前記化合物(A)の未反応物を分離することにより、前記エンド体(A2)を製造する方法(選択的に製造する方法)も含まれる。すなわち、前記加水分解後の前記化合物(A)の未反応物には、前記エンド体(A2)が非常に高い割合で含まれており、この未反応物を反応混合物から分離(回収する)ことにより、前記エンド体(A2)を高選択的に製造できる。
【0025】
なお、このような高い選択性で得られる理由としては、エキソ体(A1)の加水分解性がエンド体の加水分解性に比べて高いためであるが、このようなエキソ体の選択的加水分解性は、類似の化合物である5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなどでもやや見られるものの、本発明において見られるような顕著に高い選択性ではない。
【0026】
このような7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物は、通常の加水分解条件下では、5−ノルボルナン−2−カルボン酸エステルなどとも異なり、エキソ体の選択的加水分解性を示さないものの、本発明では、特定の触媒量および特定の温度条件下という極めて特定された条件下で加水分解処理することにより、エキソ体を非常に高い選択性で加水分解できることを見出した。以下に、本発明の方法について詳述する。
【0027】
化合物(A)は、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格(下記式(1))を有している。
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、Rは、エステル形成性基を示す。)
エステル形成性基(又はカルボキシル基の保護基)Rとしては、加水分解によりカルボキシル基を生成可能な基であれば特に限定されず、例えば、炭化水素基{例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、2−シクロヘキシル−2−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基、特にC1−4アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基、1−メチルシクロヘキシル基などのC3−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基)、橋架環式炭化水素基[例えば、デカリニル基(2−メチル−2−デカリニル基など)、アダマンチル基(2−メチル−2−アダマンチル基など)、ノルボルニル基(2−メチル−2−ノルボルニル基など)などのビ又はトリシクロアルキル基]、アリール基(例えば、フェニル基、2,4−ジニトロフェニル基などのC6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、2−ニトロベンジル基、トリフェニルメチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基)など}、複素環基{例えば、オキサシクロアルキル基[例えば、テトラヒドロフラニル基(3−メチルテトラヒドロフラン−3−イル基など)などのオキサC5−8シクロアルキル基]、ラクトン環基[例えば、γ−ブチロラクトン環基(4−メチルテトラヒドロ−2−フラノン−4−イル基など)、δ−バレロラクトン環基(4−メチルテトラヒドロ−2−ピロン−4−イル基など)など]など}、カルバモイル基、N−置換カルバモイル基[例えば、N−アルキルカルバモイル基(例えば、N−メチルカルバモイル、N−エチルカルバモイル基などのN−C1−6アルキル−カルバモイル基、好ましくはN−C1−4アルキル−カルバモイル基)、N−アリールカルバモイル基(例えば、フェニルカルバモイル基などのC6−10アリールカルバモイル基)など]、ホスフィノチオイル基[例えば、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基などのジC1−4アルキルホスフィノチオイル基)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基などのジC6−10アリールホスフィノチオイル基)など]などが含まれる。
【0030】
これらの基Rのうち、加水分解処理により容易にカルボキシル基を生成(又は脱離)可能な基、例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)などが好ましく、特に、メチル基、エチル基などの低級アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、好ましくはC1−2アルキル基)が好ましい。
【0031】
なお、化合物(A)は、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有している限り、不飽和結合や置換基を有していてもよい。不飽和結合(二重結合)としては、7−オキサノルボルネンカルボン酸エステル骨格の適当な部位、例えば、2位、5位などが挙げられる。代表的な不飽和結合を有する化合物(A)には、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル骨格(下記式(2))を有する化合物などが含まれる。
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、Rは前記と同じ。)
置換基としては、通常、塩基性触媒に対する反応性基(例えば、カルボキシル基、酸無水物基、スルホ基、リン酸基、これらの基を含む基などの酸基)でない置換基(非反応性基)、例えば、炭化水素基{例えば、脂肪族炭化水素基[アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−10アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基など)などの飽和脂肪族炭化水素基(例えば、C1−20飽和脂肪族炭化水素基);アルケニル基(例えば、ビニル基などのC2−20アルケニル基など)などの不飽和脂肪族炭化水素基(例えば、C1−20不飽和脂肪族炭化水素基)など]、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−18アリール基、好ましくはC6−10アリール基)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの芳香族炭化水素基など}、エーテル基[又は置換ヒドロキシル基、例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基などのC1−20アルコキシ基、好ましくはC1−10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)など]、チオエーテル基[又は置換メルカプト基、例えば、アルキルチオ基(メチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−20アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−10アルキルチオ基など)など]、アシル基(ホルミル基、アセチル基などのC1−20アシル基、好ましくはC1−10アシル基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、ニトロ基、ニトリル基(シアノ基)、アミノ基、置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)、アミド基(又はアミド含有基、例えば、カルバモイル基)、ヒドロキシル基(又はヒドロキシル基含有基)などが挙げられる。
【0034】
代表的な置換基には、炭化水素基(例えば、C1−20脂肪族炭化水素基、C6−18芳香族炭化水素基)、ニトリル基、アミノ基、アミド基、ハロゲン原子、アシル基(ホルミル基など)、ヒドロキシル基などが含まれる。なお、炭化水素基は、置換基(例えば、上記例示の置換基のうち、炭化水素基以外の置換基)を有していてもよい。
【0035】
化合物(A)は、これらの置換基を単独で又は2種以上組み合わせて有していてもよい。化合物(A)に置換する置換基の数は、例えば、1〜3、好ましくは1〜2程度であってもよい。なお、置換基の置換位置は、特に限定されないが、通常、7−オキサノルボルネンカルボン酸骨格の3位、5位、及び/又は6位であってもよい。
【0036】
また、置換基には、化合物(A)の2位に置換するエステル基(−COOR)と同様のエステル基も含まれる。すなわち、化合物(A)は、2位のエステル基(−COOR)に加えて、他のエステル基(カルボン酸エステル基)を有していてもよい。このような他のエステル基の数は、例えば、1〜3、好ましくは1〜2程度である。他のエステル基は、2位に置換するエステル基と同じ基であってもよく、Rの種類において異なるエステル基であってもよい。通常、他のエステル基は、2位のエステル基と同一である場合が多い。なお、このようなエステル基の置換位置は、通常、7−オキサノルボルネンカルボン酸骨格の3位、5位、及び/又は6位であってもよい。
【0037】
なお、本明細書では、化合物(A)が上記のような複数のエステル基を有している場合において、「エンド体」とは、特に断りのない限り、2位のエステル基が「エンド体」である化合物を意味するものとする。例えば、2位のエステル基がエンド体であり、5位のエステル基がエキソ体(エキソ付加体)である場合には、化合物(A)のエンド体という。なお、2位のエステル基がエンド体(エンド付加)である場合、通常、3位のエステル基もまたエンド体(エンド付加)であり、2位のエステル基がエキソ体(エキソ付加)である場合、通常、3位のエステル基もまたエキソ体(エキソ付加)である。
【0038】
具体的な化合物(A)としては、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル類、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル類などが含まれる。
【0039】
7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル類(又は7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸エステル類)としては、例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル{例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸アルキルエステル[例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチル、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エチル、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸t−ブチルなどの7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−10アルキルエステル、好ましくは7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−6アルキルエステル、さらに好ましくは7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−4アルキルエステル]などの前記式(1)においてRが炭化水素基である化合物など}、置換基を有する7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル{例えば、アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸アルキルエステル[例えば、5−メチル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチル、5−エチル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチル、5−ブチル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチル、5−ヘキシル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチル、5−メチル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エチル、2−メチル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチルなどのC1−20アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−10アルキルエステル、好ましくはC1−10アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−6アルキルエステル、さらに好ましくはC1−8アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−4アルキルエステルなど]、シクロアルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸アルキルエステル[例えば、5−シクロヘキシル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチルなどのC5−10シクロアルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−10アルキルエステルなど]、アリール−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸アルキルエステル[例えば、5−フェニル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸メチルなどのC6−10アリール−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−10アルキルエステルなど]などの炭化水素基を有する7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステルなど}などが挙げられる。
【0040】
7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル類(又は7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エステル類)としては、前記7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル類に対応する化合物、例えば、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル{例えば、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸アルキルエステル[例えば、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸t−ブチルなどの7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−10アルキルエステル、好ましくは7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−6アルキルエステル、さらに好ましくは7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−4アルキルエステル]などの前記式(2)においてRが炭化水素基である化合物など}、置換基を有する7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル{例えば、アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸アルキルエステル[例えば、2−メチル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルなどのC1−20アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−10アルキルエステル、好ましくはC1−10アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−6アルキルエステル、さらに好ましくはC1−8アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−4アルキルエステルなど]などの炭化水素基を有する7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなど}などが挙げられる。
【0041】
代表的な化合物(A)には、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル[例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸アルキルエステル(7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−2アルキルエステルなど)など]、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル[例えば、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸アルキルエステル(例えば、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−2アルキルエステル)など]などが含まれる。
【0042】
化合物(A)は、前記のように、エキソ体(A1)とエンド体(A2)との混合物(異性体混合物)である。このような化合物(A)の異性体混合物において、エキソ体(A1)の割合は、例えば、5〜70モル%、好ましくは10〜65モル%、さらに好ましくは20〜60モル%程度であってもよい。本発明の方法では、異性体混合物中に含まれるエキソ体(A1)の割合が小さくても、高い選択性で対応するカルボン酸のエキソ体を製造できる。
【0043】
なお、化合物(A)は、市販品を用いてもよく、公知又は慣用の方法により合成したものを用いてもよい。
【0044】
本発明の方法で用いる塩基性触媒としては、化合物(A)(化合物(A)のエステル基)の加水分解触媒として作用できればよく、例えば、金属水酸化物[例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウムなど)など]、金属アルコキシド[例えば、アルカリ金属アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属C1−4アルコキシドなど)、アルカリ金属フェノキシド、これらに対応するアルカリ土類金属アルコキシドなど]、金属水素化物[アルカリ金属水素化物(例えば、水素化ナトリウムなど)など]、炭酸金属塩[例えば、炭酸アルカリ金属塩(例えば、炭酸ナトリウムなど)、炭酸アルカリ土類金属塩(例えば、炭酸カルシウムなど)など]、炭酸水素金属塩[例えば、炭酸水素アルカリ金属塩(例えば、炭酸水素ナトリウムなど)など]、強アルカリ性イオン交換樹脂などが挙げられる。これらの塩基性触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0045】
好ましい塩基性触媒には、金属水酸化物、金属アルコキシドなどの金属含有塩基触媒が含まれる。なかでも、経済性の観点からは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが好ましい。このような触媒は、本発明におけるエキソ体の高選択的な加水分解触媒として優れているとともに、安価であり、経済的にも極めて有利である。
【0046】
金属含有触媒の使用により、選択的加水分解性を向上できる理由は定かではないが、金属含有塩基触媒の金属が、化合物(A)の7位に位置する酸素原子(オキサ基)およびエキソ体のエステル基の酸素原子(カルボニル酸素)に二座配位しやすいという立体的な要因により、選択的な加水分解をより一層促進するものと考えられる。このような立体的な要因は、類似化合物である5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなどには見られないものであり、このような相違も、特定の条件下における反応とともに、本発明における非常に高いエキソ体の選択的加水分解を実現できる要因であることが推定される。なお、本発明における特定条件下で5−ノルボルナン−2−カルボン酸エステルを加水分解しても、エキソ体の加水分解の選択性に顕著な特異性は見られない。
【0047】
塩基性触媒の割合は、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解するという観点から、通常、前記エキソ体(A1)(又はエキソ体(A1)のエステル基)1モル(又はエキソ体(A1)のエステル基)に対して、0.1〜1.5モル当量の範囲から選択でき、例えば、0.5〜1.4モル当量、好ましくは0.6〜1.3モル当量、さらに好ましくは0.7〜1.2モル当量(例えば、0.8〜1.2モル当量)、特に1.1モル当量以下(例えば、0.75〜1.05モル当量)であってもよい。なお、上記割合は、前記化合物(A)が、2位以外にもエステル基を有する化合物である場合には、エステル基の総量1モルに対する割合であってもよい。上記のような割合で塩基性触媒を使用することにより、後述の特定の温度条件下において、非常に高い選択性でエキソ体(A1)を加水分解することができる。塩基性触媒の割合が多すぎると(例えば、エキソ体(A1)モルに対して1.5モル当量を超える割合)、エンド体(A2)の加水分解も進行し、生成するカルボン酸中のエンド体の含量が増大する(すなわち、反応選択性が低下する)ため、好ましくない。
【0048】
なお、反応系に対する塩基性触媒の混合(添加)方法は、特に限定されず、一括添加、連続添加、逐次添加など種々の添加方法を適用できるが、反応スケールが大きくなるにつれ、発熱などにより温度制御が難しくなる場合などにおいては、連続添加、逐次添加が好ましい場合がある。
【0049】
加水分解(加水分解処理)は、塩基性触媒に加えて、通常、溶媒の存在下で行うことができる。このような溶媒は、通常、加水分解のため、少なくともプロトン性溶媒で構成してもよい。プロトン性溶媒としては、特に限定されず、水、アルコール類[例えば、アルカノール(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのC1−6アルカノール、好ましくはC1−4アルカノール)、シクロアルカノール(シクロペンタノール、シクロヘキサノールなど)、アラルキルアルコール(ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなど)などのモノオール類;アルカンジオール(エチレングリコールなどのC2−6アルカンジオールなど)、グリセリンなどのポリオール類]などのヒドロキシル基含有溶媒が含まれる。これらのプロトン性溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0050】
これらのプロトン性溶媒のうち、水、アルカノールが好ましい。なかでも、経済性の観点からは、水、メタノールが好ましい。
【0051】
なお、溶媒は、前記のように少なくともプロトン性溶媒で構成されていれば、プロトン性溶媒のみで構成してもよく、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒とで構成してもよい。非プロトン性溶媒としては、特に限定されないが、通常、プロトン性溶媒と混和可能な溶媒、例えば、ケトン類(アセトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)などが挙げられる。
【0052】
なお、溶媒(プロトン性溶媒など)は、前記塩基性触媒の溶液として反応系に混合してもよく、塩基性触媒とは別に反応系に混合してもよく、これらを組み合わせて反応系に混合してもよい。混合方法は、前記塩基性触媒の場合と同様である。
【0053】
加水分解において使用するプロトン性溶媒の使用量は、化合物(A)1重量部に対して、例えば、0.1〜30重量部、好ましくは0.2〜10重量部、更に好ましくは0.5〜5重量部程度であってもよい。
【0054】
加水分解において、反応温度(加水分解温度)は、50℃以下(例えば、−20℃〜50℃程度)の範囲から選択でき、例えば、−15℃〜40℃、好ましくは−10℃〜30℃、さらに好ましくは0〜25℃程度であってもよく、通常0℃〜室温(例えば、20℃)程度であってもよい。特に、加水分解において、反応温度(加水分解温度)は、−30℃〜50℃、好ましくは−27℃〜40℃(例えば、−25℃〜35℃)、さらに好ましくは−23℃〜33℃(例えば、−22℃〜32℃)程度であってもよく、20℃以下(例えば、−25℃〜15℃、好ましくは−22℃〜12℃、さらに好ましくは−20℃〜10℃)程度の比較的低い温度であってもよい。
本発明では、前記特定量の塩基性触媒に加えて、反応温度を上記のような特定の範囲とすることにより、高選択的にエキソ体(A1)を効率よく加水分解できる。上記のような温度範囲は、過度に加温や冷却することなく調整可能であるため、本発明では、穏和な条件で高選択的な加水分解を行うことができる。なお、反応温度が高すぎる(例えば、50℃を超える温度)と、エンド体(A2)の加水分解も進行しやすくなり、好ましくない。また、反応温度が低すぎると、反応速度(加水分解速度)が低下し、経済性の面から好ましくない。また、特に溶媒を水とする場合において、反応系がシャーベット状になり極端に反応が進行しにくくなるため望ましくない。
【0055】
なお、加水分解は、常圧下、加圧下又は減圧下のいずれでの圧力下で行ってもよい。また、反応系の雰囲気は特に限定されず、空気雰囲気などの酸化性雰囲気下であってもよく、窒素雰囲気、希ガス雰囲気(アルゴン雰囲気など)などの非酸化性雰囲気下であってもよい。
【0056】
また、加水分解反応は、バッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行ってもよい。
【0057】
加水分解後の反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0058】
以上のようにして、前記化合物(A)に対応するカルボン酸(B)(又は加水分解により生成したカルボン酸)が得られ、このようなカルボン酸(B)には、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸(B1)が多く含まれている。すなわち、前記加水分解後の反応生成物(又は反応混合物)から、未反応物(化合物(A)の未反応物)を分離又は回収することにより、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸(B1)を多く含むカルボン酸が得られる。詳細には、前記加水分解後の反応混合物から分離されたカルボン酸には、カルボン酸(B1)が多く含まれている。なお、前記未反応物には、前記エンド体(A1)が多く含まれている。
【0059】
カルボン酸(B)としては、前記化合物(A)に対応するカルボン酸、例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸類、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸類などが含まれる。
【0060】
7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸類(又は7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸類)としては、例えば、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸、置換基を有する7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸{例えば、アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸[例えば、5−メチル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸、2−メチル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸などのC1−20アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸、好ましくはC1−10アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸、さらに好ましくはC1−8アルキル−7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸など]などの炭化水素基を有する7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸など}などが挙げられる。
【0061】
7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸類(又は7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸類)としては、例えば、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸、置換基を有する7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸{例えば、アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸[例えば、2−メチル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸などのC1−20アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸、好ましくはC1−10アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸、さらに好ましくはC1−8アルキル−7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸など]などの炭化水素基を有する7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸など}などが挙げられる。
【0062】
このようなカルボン酸(B)は、前記のように、非常に高い割合でエキソ体(B1)を含んでいる。例えば、カルボン酸(B)(又は加水分解により生成したカルボン酸)のうち、エキソ体(A1)に対応するカルボン酸[カルボン酸(B)のエキソ体(B1)]の割合は、カルボン酸(B)(又は加水分解により生成したカルボン酸)全体に対して75モル%以上(例えば、78〜100モル%)、好ましくは80モル%以上(例えば、83〜99.9モル%)、さらに好ましくは85モル%以上(例えば、88〜99.8モル%)、特に90モル%以上(例えば、92〜99.5モル%)であってもよい。特に、本発明では、加水分解温度を前記のような比較的低い温度(例えば、−25℃〜15℃程度)にした場合などにおいて、カルボン酸(B)のうち、エキソ体(A1)に対応するカルボン酸の割合を、カルボン酸(B)全体に対して、93モル%以上(例えば、94〜100モル%)、好ましくは95モル%以上(例えば、95〜100モル%)、さらに好ましくは96モル%以上(例えば、96〜100モル%)の非常に高い割合とすることも可能である。
【0063】
なお、本発明の方法において、カルボン酸は、カルボン酸と塩基性触媒との塩(例えば、カルボン酸アルカリ金属塩など)との形態で得てもよい。このような塩は、中和処理に供することにより、簡便にカルボン酸とすることができる。中和処理は、カルボン酸よりも酸性度の高い酸(例えば、塩化水素(又は塩酸)などのハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸などの無機酸;スルホン酸類、トリフルオロ酢酸などのハロアルカンカルボン酸などの有機酸)などを用いて慣用の方法により行うことができる。
【0064】
なお、上記のように、本発明の方法では、前記エキソ体(A2)に対応するカルボン酸(B1)を得ることができるが、このカルボン酸(B1)を利用して、カルボン酸(B1)の誘導体(例えば、前記エキソ体(A2)など)を得ることもできる。例えば、カルボン酸(B1)(又は加水分解により生成したカルボン酸)をエステル化することにより、エキソ体(A2)(又はエキソ体(A2)を多く含む異性体混合物)を製造することもできる。エステル化方法としては、エステル基に対応する化合物(例えば、アルカノールなどのアルコール類など)を用いて、慣用の方法を利用できる。
【0065】
なお、本発明の方法では、加水分解生成物としてのカルボン酸においては、高選択的にエキソ体を含んでいるが、前記化合物(A)の未反応物(すなわち、エステル)には、前記のように、多くのエンド体を含んでいる。このため、このような未反応物を用いて、高選択的にエンド体を得ることもできる。
【0066】
すなわち、本発明では、加水分解後の反応混合物から分離した未反応物(すなわち、エンド体(A2)を多く含む前記化合物(A)の一部)からエンド体(A2)(さらには、後述するエンド体(A2)に対応するカルボン酸(B2))を選択的に製造してもよい。
以下に、エンド体(A2)を製造する方法について詳述する。
【0067】
エンド体は、前記加水分解後の反応混合物から、前記化合物(A)の未反応物を分離することにより製造(選択的に製造)できる。反応混合物からの未反応物の分離は、反応混合物から直接的に行ってもよく、反応混合物から生成したカルボン酸を分離(前記方法などにより分離)した後行ってもよい。通常、反応混合物から、未反応物を分離(回収)するか、又はカルボン酸を除去(分離)することにより、直接的に又は間接的に未反応物を得ることができる。なお、未反応物は、未反応物そのものの形態で分離してもよく、未反応物に加えて、溶媒などを含む混合物(例えば、液状混合物)の形態で分離してもよい。
【0068】
このような反応混合物からの未反応物の分離方法は、特に限定されず、例えば、抽出、晶析、蒸留、再結晶、再沈殿、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィーなど)などを利用できる。これらのうち、好ましい分離方法としては、抽出、晶析、カラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。これらの分離方法は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0069】
代表的な方法では、加水分解により生成した反応混合物(通常、反応混合液)を、上記方法(抽出、晶析、クロマトグラフィーなど)により分離精製処理することにより、未反応物を得ることができる。抽出において、抽出溶媒としては、未反応物を溶解でき、カルボン酸(カルボン酸と塩基性触媒との塩を含む)を溶解しない溶媒であれば特に限定されず、慣用の溶媒[例えば、有機溶媒(酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなど)]を使用できる。カルボン酸と塩基性触媒との塩は、水溶性である場合が多いため、有機溶媒としては、特に、水と混和しない溶媒を好適に用いてもよい。また、晶析において、晶析溶媒としては、カルボン酸に対する良溶媒であって、未反応物に対する貧溶媒であればよく、反応混合物の溶媒の種類などに応じて適宜選択できる。
【0070】
なお、溶媒を含む混合液などの形態で未反応物を得た場合には、さらに必要に応じて、溶媒を濃縮などにより除去してもよい。
【0071】
上記のようにして、エンド体(A2)を得ることができる。なお、未反応物から得られるエンド体(A2)の割合は、前記加水分解生成物としてのエキソ体に対応するカルボン酸(B1)の割合と同様であり、非常に高い。例えば、エンド体(A2)の割合は、前記化合物(A)の未反応物全体に対して、75モル%以上(例えば、78〜100モル%)、好ましくは80モル%以上(例えば、83〜99.9モル%)、さらに好ましくは85モル%以上(例えば、88〜99.8モル%)、特に90モル%以上(例えば、92〜99.5モル%)であってもよい。また、前記と同様に、加水分解温度を前記のような比較的低い温度(例えば、−25℃〜15℃程度)にした場合などにおいては、エンド体(A2)の割合を、前記化合物(A)の未反応物全体に対して、93モル%以上(例えば、94〜100モル%)、好ましくは95モル%以上(例えば、95〜100モル%)、さらに好ましくは96モル%以上(例えば、96〜100モル%)の非常に高い割合とすることも可能である。
【0072】
以上のようにして得られた化合物(A)の未反応物は、前記のようにエンド体(A2)を高い割合で含んでおり、このような未反応物を利用して、高割合でエンド体(A2)に対応するカルボン酸(カルボン酸(B2))を得ることができる。すなわち、カルボン酸(B)のエンド体(又はエンド体(A2)に対応するカルボン酸)は、前記未反応物を加水分解処理して簡便に得ることができる。そのため、本発明には、前記方法(前記エンド体(A2)を製造する方法)により得られた化合物(A)の未反応物を、さらに加水分解(加水分解処理)し、前記エンド体(A2)に対応するカルボン酸を製造する方法(選択的に製造する方法)も含まれる。
【0073】
前記未反応物の加水分解処理としては、前記と同様の方法のみならず、慣用の方法を利用できる。すなわち、前記のような特定の条件によらなくても、慣用の加水分解処理により、カルボン酸(B2)(又はカルボン酸(B2)を高割合で含むカルボン酸)を選択的に得ることができる。なお、前記と同様に、カルボン酸は、カルボン酸と塩基性触媒との塩(例えば、カルボン酸アルカリ金属塩など)などの塩の形態で得てもよい。このような塩は、中和処理に供することにより、簡便にカルボン酸とすることができる。例えば、前記未反応物を、塩基性触媒の存在下で加水分解し、必要に応じて、中和処理(前記カルボン酸よりも酸性の高い酸を用いた中和処理など)することにより、カルボン酸(B2)(又はカルボン酸(B2)を多く含むカルボン酸)を得てもよい。
【0074】
未反応物から得られるエンド体(A2)に対応するカルボン酸(B2))の割合は、前記加水分解生成物としてのカルボン酸(B2)の割合と同様である。例えば、エンド体(A2)に対応するカルボン酸(B2)の割合は、化合物(A)の未反応物の加水分解により生成したカルボン酸全体に対して、75モル%以上(例えば、78〜100モル%)、好ましくは80モル%以上(例えば、83〜99.9モル%)、さらに好ましくは85モル%以上(例えば、88〜99.8モル%)、特に90モル%以上(例えば、92〜99.5モル%)であってもよい。また、前記と同様に、加水分解温度を前記のような比較的低い温度(例えば、−25℃〜15℃程度)にした場合などにおいては、エンド体(A2)に対応するカルボン酸(B2)の割合を、化合物(A)の未反応物の加水分解により生成したカルボン酸全体に対して、93モル%以上(例えば、94〜100モル%)、好ましくは95モル%以上(例えば、95〜100モル%)、さらに好ましくは96モル%以上(例えば、96〜100モル%)の非常に高い割合とすることも可能である。
【0075】
なお、本発明では、カルボン酸(B1)、エンド体(A2)又はカルボン酸(B2)を選択的に製造できるが、これらの製造方法を組み合わせることにより、これらの少なくとも2成分を選択的に得てもよい。例えば、本発明の方法では、塩基性触媒の存在下、前記化合物(A)から、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解し、加水分解後の反応混合物から反応生成物を分離することにより、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を製造するとともに、加水分解後の反応混合物から前記化合物(A)の未反応物を分離することにより、前記エンド体(A2)を製造してもよい。また、塩基性触媒の存在下、前記化合物(A)から、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解し、加水分解後の反応混合物から反応生成物を分離することにより、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を製造するとともに、加水分解後の反応混合物から前記化合物(A)の未反応物を分離し、得られた化合物(A)の未反応物を加水分解し、前記エンド体(A2)に対応するカルボン酸を製造してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の方法では、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル、7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステルなど)に対応するカルボン酸のエキソ体(又はエンド体)、及び前記化合物のエンド体を、簡便なプロセスであるにもかかわらず、高い選択性で効率よく製造できる。しかも、本発明の方法は、穏和な反応条件を適用でき、安価な塩基性触媒を使用可能であるため、工業的にも非常に有用性が高い方法である。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0078】
(合成例1)7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド:エキソ=50:50)の合成方法
窒素置換した3Lの四つ口フラスコに、塩化メチレン900g、塩化アルミニウム88.1g、アクリル酸メチル570gを添加し、10℃まで冷却した。反応温度が15℃以下であることを確認しながら、フラン1200gを1時間かけて連続添加した。フラン添加後、15℃で1時間熟成したのち、10%塩酸300gを20℃以下を保持して滴下しながら加えた。その後、分液し、下層を抜き取り、10mmHg、30℃以下で濃縮した。濃縮後の液を、ガスクロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析したところ、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド:エキソ=50:50)が510g(収率50%)生成していた。
【0079】
(合成例2)7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸メチルエステル(endo:exo=50:50)の合成方法
窒素置換した3Lの四つ口フラスコに、メタノール200g、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド:エキソ=50:50)50g、パラジウム触媒[Pd/C(Pd含量:5重量%)を水に濡らしたもの]2gを添加し、液体窒素により凍結させ、真空ポンプによって脱気した。その後、反応系内を水素で置換した。反応器を室温に戻し、3時間攪拌した後、パラジウム触媒をろ過し、10torr(mmHg)、30℃以下を保持して濃縮した。濃縮後に反応液をガスクロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析したところ、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド:エキソ=50:50)が50.1g(収率99%)生成していた。
【0080】
(実施例1)再沈法
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、10℃まで冷却した。そして、ナトリウムメトキシド(NaOCH)を28重量%の割合で含むメタノール溶液20.3g(ナトリウムメトキシド:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、エバポレーターを用い、30℃、10torrで留出液が出なくなるまで濃縮した。濃縮液を室温で、攪拌した酢酸エチル100g中に滴下すると白い粉が析出した。滴下後にろ過を行い、エバポレーターを用い30℃、10torrでろ液を濃縮すると15.2gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析したところ、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが、収率50%で得られ、エンド体:エキソ体=95:5(モル比、他も同じ)であった。また、乾燥後のろ物を液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが48%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=5:95であった。そして、得られたろ物に、5規定の塩酸100mLを少しずつ添加し、ろ過を行うと、エンド体:エキソ体=5:95で、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸が定量的に得られた。
【0081】
(実施例2)抽出
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、10℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液14.0g(NaOH:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加して10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用いて、30℃、10torrで有機層を濃縮すると、15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率49%で得られ、エンド体:エキソ体=90:10であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが49%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=10:90であった。
【0082】
(実施例3)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例2で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、10℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液14.0g(NaOH:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加し10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用い30℃、10torrで有機層を濃縮すると15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸メチルエステルが収率49%で得られ、エンド体:エキソ体=91:9であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸ナトリウムが50%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=9:91であった。
【0083】
(実施例4)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、10℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液11.2g(NaOH:0.084mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加し10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用い30℃、10torrで有機層を濃縮すると15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率59%で得られ、エンド体:エキソ体=78:22であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが40%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=10:90であった。
【0084】
(比較例1)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、60℃まで加熱した。そして、30重量%のNaOH水溶液14.0g(NaOH:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加し10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用い30℃、10torrで有機層を濃縮すると15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率49%で得られ、エンド体:エキソ体=55:45であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが49%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=45:55であった。
【0085】
(実施例5)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、10℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液16.8g(NaOH:0.126mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加し10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用い30℃、10torrで有機層を濃縮すると15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率39%で得られ、エンド体:エキソ体=99:1であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが60%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=18:82であった。
【0086】
(比較例2)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.23mol)、メタノール15gを添加し、10℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液28.0g(NaOH:0.21mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加し10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用い30℃、10torrで有機層を濃縮すると15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルはほとんど得られなかった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが99%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=50:50であった。
【0087】
(比較例3)(ノルボルネン)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1と同様な方法により合成したノルボルナン−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、10℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液14.0g(NaOH:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加し10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用い30℃、10torrで有機層を濃縮すると15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、ノルボルナン−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率49%で得られ、エンド体:エキソ体=74:26であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、ノルボルナン−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが49%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=26:74であった。
【0088】
(実施例6)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、0℃まで冷却した。そして、ナトリウムメトキシド(NaOCH)を28重量%の割合で含むメタノール溶液20.3g(NaOCH:0.105mol)を0℃で30分で滴下し、1時間熟成した。その後、エバポレーターを用い、30℃、10torrで留出液が出なくなるまで濃縮した。濃縮液を室温で、攪拌した酢酸エチル100g中に滴下すると白い粉が析出した。滴下後にろ過を行い、エバポレーターを用い30℃、10torrでろ液を濃縮すると15.2gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率50%で得られ、エンド体:エキソ体=96:4であった。また、ろ物を乾燥した後、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが48%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=4:96であった。
【0089】
(実施例7)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、30℃に保持した。そして、ナトリウムメトキシド(NaOCH)を28重量%の割合で含むメタノール溶液20.3g(ナトリウムメトキシド:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、エバポレーターを用い、30℃、10torrで留出液が出なくなるまで濃縮した。濃縮液を室温で、攪拌した酢酸エチル100g中に滴下すると白い粉が析出した。滴下後にろ過を行い、エバポレーターを用い30℃、10torrでろ液を濃縮すると15.2gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析したところ、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが、収率50%で得られ、エンド体:エキソ体=88:12であった。また、乾燥後のろ物を液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが49%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=12:88であった。
【0090】
(実施例8)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、−10℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液14.0g(NaOH:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加して10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用いて、30℃、10torrで有機層を濃縮すると、15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率50%で得られ、エンド体:エキソ体=97:3であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが49%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=3:97であった。
【0091】
(実施例9)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、合成例1で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=50:50)30g(0.21mol)、メタノール15gを添加し、−20℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液14.0g(NaOH:0.105mol)を30分で滴下し、1時間熟成した。その後、その反応液に酢酸エチルを添加して10分間攪拌した後に、分液ロートに移液し、分液した。エバポレーターを用いて、30℃、10torrで有機層を濃縮すると、15.1gの黄色透明液が得られた。得られた液を液体クロマトグラフィーおよびH−NMRにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステルが収率50%で得られ、エンド体:エキソ体=97:3であった。また、水層を濃縮し乾燥し、液体クロマトグラフィーにて分析すると、7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ナトリウムが49%の収率で得られ、エンド体:エキソ体=3:97であった。
【0092】
(実施例10)
窒素置換した300mLの四つ口フラスコに、実施例2で得られた7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルエステル(エンド体:エキソ体=90:10)22g(0.144mol)、および水11gを添加し、6℃まで冷却した。そして、30重量%のNaOH水溶液24.9g(0.19mol)を、同温度付近に保持しつつ滴下し、さらに約1時間熟成した。その後、酢酸エチルと水を添加して抽出し、有機層を除去した。そして、水層に35%塩酸を滴下し、水層のpH1にしたところ、白色の固体が析出し、この析出物をヌッチェ濾過し、1.6gの7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(エンド体:エキソ体=100:0)を得た。一方、ろ液をさらに酢酸エチルで抽出して水層を除去した後、酢酸エチル層を濃縮し、ヘキサンを加えて晶析した。引き続き、濾過、ヘキサンによるリンス、乾燥を行い、14.3gの7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(エンド体:エキソ体=90:10)(0.14mol)を収率97%で得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性触媒の存在下、エキソ体(A1)とエンド体(A2)との混合物である7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(A)から、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解し、前記エキソ体(A1)に対応するカルボン酸を選択的に製造する方法であって、塩基性触媒の割合が前記エキソ体(A1)1モルに対して0.1〜1.5モル当量であり、かつ加水分解温度が−30℃〜50℃であるカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
塩基性触媒の存在下、エキソ体(A1)とエンド体(A2)との混合物である7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル骨格を有する化合物(A)から、前記エキソ体(A1)を選択的に加水分解し、加水分解後の反応混合物から前記化合物(A)の未反応物を分離することにより、前記エンド体(A2)を選択的に製造する方法であって、塩基性触媒の割合が前記エキソ体(A1)1モルに対して0.1〜1.5モル当量であり、かつ加水分解温度が−30℃〜50℃である製造方法。
【請求項3】
化合物(A)が、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸エステル類および7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エステル類から選択された化合物である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
化合物(A)が、7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸アルキルエステルおよび7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸アルキルエステルから選択された化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
塩基性触媒が、金属水酸化物および金属アルコキシドから選択された少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
塩基性触媒の割合が、エキソ体(A1)1モルに対して0.5〜1.4モル当量である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
加水分解温度が、−25℃〜35℃である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
加水分解温度が、−25℃〜15℃である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
加水分解により生成したカルボン酸全体に対して、エキソ体(A1)に対応するカルボン酸の割合が80モル%以上であるカルボン酸を選択的に製造する請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
(1)塩基性触媒がアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ金属アルコキシドから選択された少なくとも1種であり、(2)化合物(A)が7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−4アルキルエステルおよび7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−4アルキルエステルから選択された化合物であり、(3)塩基性触媒の割合が、エキソ体(A1)1モルに対して0.8〜1.2モル当量であり、(4)加水分解温度が−23℃〜33℃であり、(5)加水分解により生成したカルボン酸全体に対して、エキソ体(A1)に対応するカルボン酸の割合が85モル%以上であるカルボン酸を選択的に製造する請求項1又は9記載の製造方法。
【請求項11】
エンド体(A2)の割合が、化合物(A)の未反応物全体に対して80モル%以上である請求項2記載の製造方法。
【請求項12】
(1)塩基性触媒がアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ金属アルコキシドから選択された少なくとも1種であり、(2)化合物(A)が7−オキサ−2−ノルボルナンカルボン酸C1−4アルキルエステルおよび7−オキサ−5−ノルボルネン−2−カルボン酸C1−4アルキルエステルから選択された化合物であり、(3)塩基性触媒の割合が、エキソ体(A1)1モルに対して0.8〜1.2モル当量であり、(4)加水分解温度が−23℃〜33℃であり、(5)エンド体(A2)の割合が、化合物(A)の未反応物全体に対して80モル%以上である請求項2又は11記載の製造方法。
【請求項13】
請求項2記載の方法により得られた化合物(A)の未反応物を、さらに加水分解し、エンド体(A2)に対応するカルボン酸を選択的に製造する方法。

【公開番号】特開2009−167161(P2009−167161A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187102(P2008−187102)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】