説明

ノルボルネンラクトンモノマーの製造方法

【課題】より優れた特性を示すポリマーレジスト材料を与える、ラクトン構造を有する高純度モノマー化合物製造方法の提供。
【解決手段】高純度の下記一般式(IV)で表されるモノマー化合物の製造方法。


(R〜Rは水素原子、または直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素数1〜10の炭化水素基であり;RとRの一方は(メタ)アクリロイルオキシ基、他方は−OR13で表される置換基であり;R13は直鎖状、分岐状または環状の炭素数1〜10の炭化水素基である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト材料等としてより優れた特性を有するポリマーを与える、高純度のラクトン構造を有するモノマー化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子や液晶阻止の製造における分野においては、急速に微細加工が進み、それに用いられるレジスト材料にもさまざまな性能が要求されている。微細化の手法として、例えば、一般に露光光源から発せられる照射光の短波長化が進められている。微細化に伴って要求されている性能として、透明性、安定性、疎水性、耐熱性、有機溶媒への適度な溶解性などが挙げられる。このような性能を得るために、近年ラクトン構造を有する化合物の開発が盛んに行われており、例えば、特許文献1および特許文献2には、レジスト材料等として優れた特性を有するモノマー化合物として、ノルボルネン環上にラクトン構造を有する(メタ)アクリレート化合物およびその製造方法が提案されている。
【0003】
ノルボルネン環上にラクトン構造を有する(メタ)アクリレート化合物の製造法として、特許文献1には中間体であるヒドロキシ体を未精製あるいは晶析によって製造した後、蒸留によって目的とするモノマーを製造する方法が開示されている。しかし、重合の危険性の高いモノマー化合物を高温で蒸留しており、工業的に容易な製造法とは言えない。また、特許文献2では、目的とするモノマー化合物の製造・精製方法について詳細な記載はなされていない。
【0004】
【特許文献1】特開2005−23063号公報
【特許文献2】特開2005−60638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、レジスト材料等としてより優れた特性を有するポリマーを与える、ノルボルネン環上にラクトン構造を有する高純度のモノマー化合物の製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、
下記式(IV):
【化1】

で表される化合物(IV)の製造方法であって、
下記式(II):
【化2】

で表される化合物(II)を酸触媒存在下で反応させて、
下記式(V):
【化3】

で表される化合物(V)の含有量が、5モル%以下である下記式(III):
【化4】

で表される化合物(III)を製造する開環工程と;
上記化合物(III)を(メタ)アクリロイル化剤と反応させるエステル化工程;
とを含む化合物(IV)の製造方法が提供される。
【0007】
上式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)において、R〜Rは水素原子、または直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素数1〜10の炭化水素基であり;RとRの一方は(メタ)アクリロイルオキシ基、他方は−OR13で表される置換基であり;RとR10の一方はヒドロキシ基、他方は−OR13で表される置換基であり;R13は直鎖状、分岐状または環状の炭素数1〜10の炭化水素基である。
【0008】
上記製造方法によれば、重合性や物性に影響を及ぼす恐れのある特定の不純物の含有量が大幅に削減されるため、レジスト材料等としてより優れた特性を有するポリマーを与える、ノルボルネン環上にラクトン構造を有する高純度モノマー化合物を製造することができる。
【0009】
また、上記製造方法によれば、上記化合物(IV)を工業的に有利に製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、レジスト材料等としてより優れた特性を有するポリマーを与える、ノルボルネン環上にラクトン構造を有する高純度モノマー化合物の容易な製造方法を提供できる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<用語の説明>
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸またはメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートまたは(メタ)クリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、「アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基」を意味する。
【0012】
<反応スキーム>
本発明の一実施形態にかかる製造方法によれば、下記反応スキームで表すことができる。
【化5】

【0013】
<化合物(IV)>
本発明の一実施形態によれば、上記反応スキームに従い、下記一般式(IV):
【化6】

で表される化合物を製造することができる。
【0014】
上式中、R〜Rは水素原子、または直鎖状、分岐状もしくは環状の炭化水素基であり、RとRの一方は(メタ)アクリロイルオキシ基であり、他方は−OR13で表される置換基であり、ここで、R13は直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基である。
【0015】
このような炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜10、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基が挙げられる。
【0016】
上記炭化水素基の非限定的な具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。これらの炭化水素基の中で特に好ましい炭化水素基としては現像液および有機溶剤に対する溶解度が高いことからメチル基、エチル基およびイソプロピル基が挙げられる。
【0017】
上記化合物(IV)は、エッチング耐性や基板密着性向上、現像液親和性の向上等に寄与しうるラクトン構造を有しているため、レジスト材料に用いられる樹脂の構成モノマー等として優れた特性を有する化合物である。
【0018】
上記化合物(IV)で表される化合物においては、endo体やexo体あるいは置換基の位置が異なる構造異性体が存在するが、本発明はそれら全ての異性体を包含するものである。
【0019】
必要であればクロマトグラフィー等により各異性体を分離することもできるが、異性体の混合物のままで、モノマーとして使用してもよい。
【0020】
以下、本発明の一実施形態にかかる製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0021】
<エポキシ化工程>
上記反応スキームに示すエポキシ化工程において、下記一般式(I):
【化7】

で表される化合物(I)に、過酸化物等のエポキシ化剤を作用させ、エポキシ化反応を行うことで、下記化合物(II):
【化8】

を製造することができる。
上記式(I)および(II)において、R〜Rは、上記式(IV)において定義される意味と同様の意味を表す。
【0022】
上記エポキシ化反応において、上記エポキシ化剤としては、有機または無機の過酸化物等を用いることができ、単独で用いてもよく、二種以上のエポキシ化剤を混合して用いてもよい。例えば、有機過酸化物としては過酢酸、平衡過酢酸、過蟻酸、トリフルオロ過酢酸およびm−クロロ過安息香酸等が挙げられ、無機過酸化物としては過酸化水素等が挙げられる。また、必要に応じて、ヘテロポリ酸やタングステン酸塩などの触媒を共存させても良い。収率の観点からエポキシ化剤はm−クロロ過安息香酸および過酸化水素が、更に、収率および安価であることの両面からタングステン酸塩共存下での過酸化水素との反応がより好ましい。
【0023】
また、上記エポキシ化剤の使用量としては、例えば、上記化合物(I)1モルに対して1〜10モル当量とすることができる。上記範囲内であれば、反応を通常の時間内で進行させることができ、また副反応を低減または抑制できる。
【0024】
反応溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に限定されないが、具体的には、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の炭化水素類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、水等が挙げられる。上記反応溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
上述した反応溶媒の中でも、反応性や収率等の面から、トルエン、ヘプタンなどの炭化水素類、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水等が好ましい。
【0025】
上記エポキシ化反応の反応温度は、例えば、−50℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃である。上記範囲内であれば、反応を通常の時間内で進行させることができ、また副反応を低減または抑制できる。
【0026】
また、過酸化水素の安定性を向上させるために、反応系内に水に溶解して酸性を示すリン酸や硫酸などの酸性物質、および酸性を示すそれらの塩を添加するのは任意である。
【0027】
<開環工程>
上記反応スキームに示す開環工程において、下記式(II):
【化9】

で表される化合物(II)を、酸触媒存在下で反応させて、下記式(V):
【化10】

で表される化合物(V)の含有量が、5モル%以下である下記式(III):
【化11】

で表される化合物(III)が得られる。
【0028】
上式(I)、(II)、(III)および(V)において、R〜Rは上記式(IV)において定義される意味と同様の意味を表し;RとR10の一方はヒドロキシ基、他方は−OR13で表される置換基であり;R13は上記式(IV)において定義される意味と同様の意味を表す。
【0029】
上記開環工程の際に用いることができる酸触媒としては、特に限定されず、液状でも固体でもよく、副反応の低減または抑制の面から、水分を極力含有しないものが好ましい。
【0030】
上記酸触媒には、例えば、酢酸、プロピオン酸または蟻酸等の脂肪族カルボン酸類、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸等のハロゲン化脂肪族カルボン酸類、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類の無水物およびその水和物、硫酸等の酸性物質が挙げられる。
上記酸触媒は単独で用いてもよく、二種以上の酸触媒を混合して用いてもよい。
【0031】
これら酸触媒の使用量は、例えば、上記化合物(II)に対して0.01〜2.0モル当量、好ましくは0.05〜0.2モル当量の割合である。上記範囲内であれば、反応を通常の時間内で進行させることができ、また副反応を低減または抑制できる。
【0032】
また、上記開環反応はアルコールの共存下行われるが、化合物(III)の置換基である−OR13に導入する置換基に応じて、アルコールを選択する必要がある。
上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、tert−ペンタノール、ネオペンタノール基、n−ヘキサノール、イソヘキサノール、n−へプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール等が挙げられる。
これらアルコール類の使用量は上記化合物(II)に対して1〜10倍容量の割合で用いることができる。
【0033】
反応溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に限定されないが、具体的には、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の炭化水素類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。上記反応溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
上述した反応溶媒の中でも、反応性や収率等の面から、トルエン、ヘプタンなどの炭化水素類、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水等が好ましい。
【0034】
反応温度は、例えば、0℃〜150℃、好ましくは40℃〜80℃である。上記範囲内であれば、反応を通常の時間内で進行させることができ、また副反応を低減または抑制できる。
【0035】
<水分量の抑制>
本発明の一実施形態において、上記化合物(V)の含有量が、5モル%以下である上記化合物(III)を製造するために、上記化合物(II)を開環反応させる際に、反応系内に含まれる水分量を低濃度に抑制することが好ましい。
上記反応系内の水分量を低濃度に抑制することにより、開環工程において、副生成物として、上記化合物(III)中に含まれるジヒドロキシ体である化合物(V)の生成を低減または抑制することができる。
【0036】
上記反応系内における好ましい水分量は、上記化合物(II)に対して0.001〜2質量%であり、更に好ましくは0.001〜1質量%であり、特に好ましくは0.001〜0.5質量%の範囲である。
【0037】
上記水分量が、0.001〜2質量%または0.001〜1質量%または0.001〜0.5質量%の範囲であれば、上記ジヒドロキシ体化合物(V)の生成を抑制できるため、エステル化工程後のジエステル体化合物(VI):
【化12】

(R〜Rは上記式(IV)において定義される意味と同様の意味を表し;R11、R12は共に(メタ)アクリロイルオキシ基である)
の生成を低減または抑制することができる。
【0038】
上記水分量の抑制を行うことで、上記化合物(IV)を重合した際に、ポリマー中に、上記ジエステル体である化合物(VI)が組み込まれる可能性を低減または抑制することができるため、レジスト性能の再現性低下など物性への影響を改善することができる。
【0039】
また、上記範囲まで水分量を抑制するために、使用する原料については、脱水処理を施したものが好ましい。
【0040】
上記水分量を抑制するのための脱水操作は、減圧、不活性気体の通気、遠心分離、乾燥剤の使用、溶媒による共沸などが挙げられるが、乾燥させる対象によって選択すべき操作は大きく異なり、特にこれらに限定されるものではない。
【0041】
特に、上記化合物(II)に関しては、エポキシ化工程等の前工程から水を持ち込みやすいため、トルエンやブタノールなど溶媒中での共沸脱水、溶媒に溶解させてからの乾燥剤使用など、一般的に使用される脱水操作を施すことが好ましい。
【0042】
水分量の測定は、一般に使用される任意の分析法を用いてもよい。例えば、カールフィッシャー法、乾燥法、赤外線吸収法、誘電率法などが挙げられるが、試料の状態に応じて分析方法は選択されるべきであり、特に限定されるものではない。
【0043】
なお、上記化合物(II)の開環反応後に、上記化合物(III)を蒸留精製する場合、開環反応の水分量を上記濃度まで抑制することは好ましいが、必ずしも必須ではない。開環反応の際に水分量を抑制しなくとも、開環反応後の蒸留により化合物(V)を除去すれば、続くエステル化工程での化合物(VI)の生成を抑制することができる。
【0044】
<蒸留精製工程>
また、本発明の更なる一実施形態において、上記化合物(V)の含有量が、5モル%以下である上記化合物(III)を製造するために、上記化合物(II)を酸触媒存在下で反応させた後に、蒸留精製工程を更に含むことができる。
【0045】
上記化合物(III)を蒸留にて精製した後に、エステル化を行うことで、上記ジエステル体化合物(VI)等の副生物生成を抑制でき、高純度の上記化合物(IV)を得ることができる。
【0046】
また、蒸留により上記化合物(III)に含まれる不純物量を大幅に削減でき、エステル化後の純度が極めて向上する。また、エステル化工程後に得られる化合物(IV)を蒸留する場合と比べて、重合の危険性が無い状態で金属量を削減できるなど優れた点を有する。
【0047】
特に、上記開環工程において、上記範囲まで水分量を抑制しない場合には、中間体である上記化合物(III)を蒸留精製し、上記化合物(V)などの不純物を除去することが好ましい。
【0048】
蒸留方法は、特に限定されず、溶液をその沸点まで加熱して含まれる揮発性成分を分離する方法であればよい。具体的には、単蒸留、薄膜蒸留、精留塔を用いた精密蒸留など何れの蒸留手法を用いることができる。ただし、高沸点を有する化合物の場合には、低温かつ高真空で蒸留できる単蒸留や薄膜蒸留が好ましく用いられる。
【0049】
なお、上述の通り、本発明にかかる化合物(IV)の製造方法において、上記水分量の抑制と上記蒸留精製は、いずれか一方の手法を任意に選択することができ、例えば、上記開環工程において所定の水分量の抑制を行った場合には、中間体である上記化合物(III)蒸留精製を行わなくてもよい。あるいは、上記双方の手法を併用してもよく、この場合、最終的に得られる化合物(IV)の含まれる不純物の量を更に低減することができる。
【0050】
<エステル化工程>
上記反応スキームに示すエステル化反応は、上記のようにして得られた化合物(III):
【化13】

(R〜R10は上述した通りである)
を、アクリロイル化剤と反応させることにより行われる。
【0051】
上記アクリロイル化剤は、例えば、(メタ)アクリル酸クロリドや(メタ)アクリル酸無水物等の(メタ)アクリロイル化剤を挙げることができる。エステル化反応は通常、塩基存在下で行われるが、塩基としては有機塩基が好ましく、反応効率や収率等の面から、特に第3級アミン類が好適に用いられる。
【0052】
具体的にはトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペリジン等の脂肪族アミン類、ピリジン、α−,β−またはγ−ピコリン等の芳香族アミン類等が挙げられる。上記エステル化剤は、単独で用いてもよく、二種類以上のエステル化剤を混合して用いてもよい。
【0053】
上記塩基の使用量は、上記化合物(III)に対して、1.0〜2.0モル当量、好ましくは1.0〜1.5モル当量の割合である。
また、(メタ)アクリロイル化剤等の使用量としては、例えば、上記化合物(III)に対して1.0〜2.0モル当量、好ましくは1.0〜1.5モル当量の割合で用いられる。上記範囲内であれば、反応を通常の時間内で進行させることができ、また副反応を低減または抑制できる。
【0054】
上記エステル化反応の際には溶媒を用いることが好ましい。用いられる溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば特に限定されないが、具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類や、THF、ジメトキシエタン等の環状または非環状のエーテル類等が好ましい溶媒として用いられる。
【0055】
その他、反応効率を高めるために、必要に応じて、例えば、4−ジメチルアミノピリジン等の化合物を添加してもよい。
反応温度は、例えば、−20℃〜100℃で行うことができ、好ましくは0℃〜60℃である。
【0056】
なお、後処理時または精製時の重合を防止するために、重合禁止剤を用いることが好ましく、例えば、ハイドロキノンや4−メトキシフェノールのようなフェノール系化合物、または4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルのようなN−オキシル系化合物を用いることができる。
【0057】
本発明の一実施形態において、上記化合物(III)中に含まれる、下記一般式(V):
【化14】

(R〜Rは上記式(IV)において定義される意味と同様の意味を表す)
で表されるジヒドロキシ体である化合物(V)の含有量は、上記化合物(III)の総量に対して5モル%以下、好ましくは3モル%以下、更に好ましくは1モル%以下である。
【0058】
上記化合物(III)中に含まれる上記ジヒドロキシ体である化合物(V)の含有量が、上記化合物(III)の総量に対して5モル%以下または3モル%以下または1モル%以下であれば、エステル化工程後に、ジエステル体である化合物(VI):
【化15】

(R〜Rは上記式(IV)において定義される意味と同様の意味を表し;R11、R12は共に(メタ)アクリロイルオキシ基である)
を生じる可能性を低減または抑制することができる。
【0059】
上記ジエステル体である化合物(VI)が含まれた上記化合物(IV)を使用すると、重合時にポリマー中に組み込まれ、レジスト性能の再現性が低下するなど、物性に影響を及ぼす恐れがある。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、上記ジエステル体である化合物(VI)の含有量は、最終的に得られる化合物(IV)の総量に対して、4モル%以下であり、好ましくは2モル%以下であり、更に好ましくは1モル%以下である。
【0061】
上記ジエステル体である化合物(VI)の含有量が、4モル%以下または2モル%以下または1モル%以下であれば、上述したようなレジスト性能の再現性の低下等を低減または抑制されることが期待される。
【0062】
<晶析工程>
また、本発明の更なる実施形態において、上記製造方法は、上記エステル化工程により得られる上記化合物(IV)を、晶析により精製する工程を更に含んでよい。
【0063】
晶析方法は、特に限定されず、液相および気相から結晶を析出させ、これにより特定成分を結晶として分離または濃縮する方法であればよい。
上記エステル化工程により得られた未精製の化合物(IV)粗体を、晶析により精製することで高純度の化合物(IV)が得られる。
晶析に使用する溶媒は特に限定されないが、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、トルエンなどの炭化水素類などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、二種以上の溶媒を混合して用いてもよい。また、未精製の化合物(IV)を一旦溶媒に溶解させた後に、溶解度が低い溶媒に対して滴下してもよい。
【0064】
このようにして得られる、上記化合物(IV)の具体例としては、例えば、下記のような化合物が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化16】

【0065】
上記化合物(IV)は、ラクトン構造とアルコキシ基を同一分子内に有する(メタ)アクリレート化合物であるが故に、耐熱性や適度な極性、エッチング耐性を有すると共に、現像液および有機溶剤に対する溶解性に優れている。
【0066】
また、得られる重合体も、同様に、8位または9位にアルコキシ基を導入したことに起因して優れた溶媒溶解性を有することが期待される。
【0067】
また、重合性の不純物化合物(VI)の混入量が低濃度に抑制されるため、重合時にポリマー中に取り込まれることによるレジスト性能への影響、例えば再現性低下等を低減または抑制することができる。
【0068】
上記製造方法によれば、エステル化反応後に上記化合物(VI)を初めとする不純物の生成が抑制され、晶析による高純度の精製が容易になる。
【0069】
上述の通り、本発明によれば、重合の危険性の高いモノマー化合物を高温で蒸留精製することなく、温和な条件で高純度の化合物(IV)を製造できるため有利であり、本発明のもたらす工業的意義は著大である。
【0070】
該重合体をベース樹脂として用いたレジスト材料は、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー等の遠紫外線や電子線等による微細加工に有用であり、半導体製造時により高精細なパターンが形成できる。
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、水分量測定には、電量滴定水分測定装置CA−06型(ダイヤインスツルメンツ社製)を使用した。測定時には測定可能範囲に収まるように、含有する水分量に応じてサンプル量を調整した。
【0072】
ガスクロマトグラフ(GC)測定には、GC−14B(島津製作所社製)を使用し、カラムにはDB−5(アジレントテクノロジー社製)を用いた。分析条件は以下に示す。
インジェクション温度250℃、ディテクター温度280℃、カラム温度は50℃で5分間保持した後に、10℃/分で温度を上昇させ、最後に280℃で2分間保持して測定した。また必要に応じて溶媒で希釈して分析した。
【0073】
なお、各々の化合物の含有量は、GCにより検出された全ての有機化合物のピーク面積に対する対応する化合物のピーク面積の比(モル%)から算出した。
【実施例1】
【0074】
<エポキシ化工程>
下記構造式:
【化17】

の化合物(4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカン−8−エン-3−オン)300.34g(2.00mol)、NaWO ・2HO13.19g(2mol%)、85%HPO2.30g(0.020mol)、NaHSO・HO 13.8g(0.100mol)およびトルエン300gをフラスコに仕込み、氷浴下でしばらく攪拌した後、30%H340.1g(3.00mol)を30℃以下で滴下した。滴下後、50℃にて1日攪拌を行ない、トルエン1120gを加えた後冷却し、水1500gに溶解させた亜硫酸ナトリウム282.3gを20℃以下にて滴下した。有機層を分液し、水洗を2回行った後、有機層を濃縮すると、白色固体のエポキシ体216gが得られた。(収率65%)
【0075】
<開環工程>
続いて、得られたエポキシ体を用いて開環反応を行った。エポキシ体166g(1.00mol)をトルエン330gとメタノール830gに溶解させた後、メタンスルホン酸9.6g(0.10mol)を加えて、50℃で加熱撹拌した。この時の反応中の水分量はエポキシ体に対して3.1質量%であった。加熱撹拌を継続して、GCで原料消費を確認後、減圧下で溶媒留去した。トルエン溶液600gを添加した後に、炭酸ナトリウム水溶液で中和した。その際に生じた塩をろ過により取り除き、トルエンにより共沸脱水を行ったところ、白色固体の未精製ヒドロキシ体181gを得た(収率85%)。なお、ジヒドロキシ体の含有量は5.2モル%であった。
【0076】
<蒸留精製工程>
得られた未精製のヒドロキシ体50gを60℃まで加熱して溶解させ、その後の減圧蒸留により、精製したヒドロキシ体を41g取得した(蒸留時の減圧度30Pa、内温130℃)。なお、ジヒドロキシ体の含有量は0.5モル%以下であった。
【0077】
<エステル化工程>
得られたヒドロキシ体28.4g(0.14mol)を含むトルエン溶液110gに、4−ジメチルアミノピリジン0.87g(0.007mol)を加え、メタクリル酸無水物25.4g(0.16mol)を室温で滴下した。更にトリエチルアミン17.4g(0.17mol)を室温で滴下し、10時間程攪拌後、メタノール4.8gを加えて10℃以下に冷却し、10%硫酸水84.2gを加えた。しばらく攪拌した後、有機層を分液し、更に水洗を行った。有機層に20%炭酸カリウム水溶液60.6gを加えて洗浄し、更に水洗を行った。有機層を濃縮した後にヘプタンにて晶析したところ、白色固体23.0gが得られた(収率59%)。なお、ジエステル体の含有量は0.5モル%以下であった。蒸留精製でジヒドロキシ体を除去したことにより、ジエステル体を低濃度に抑制し、高純度の目的物を製造することが可能であった。
【実施例2】
【0078】
<脱水工程>
実施例1で得られたエポキシ体をトルエン溶解させ、共沸脱水を行った。脱水後の水分量はエポキシ体に対して0.5質量%であった。脱水後のエポキシ体16.6g(0.10mol)をトルエン33gとメタノール83gに溶解させた後、メタンスルホン酸0.96g(0.01mol)を加え50℃にて攪拌し、減圧下で溶媒留去後、トルエン溶液60gを添加し、炭酸ナトリウム水溶液で中和した。その際、生じた塩をろ過により取り除き、トルエンにより共沸脱水を行った。なお、ジヒドロキシ体の含有量は0.5モル%以下であった。
【0079】
<エステル化および晶析工程>
続いて、反応収率100%と仮定して、得られたヒドロキシ体を精製せず、エステル化を行った。エステル化の操作は実施例1と同様に行った。エステル化後にヘプタン中で晶析したところ、白色固体13.8gが得られた(収率51%)。なお、ジエステル体の含有量は0.5モル%以下であった。開環工程前に脱水工程を経たことで、ジエステル体を低濃度に抑制し、高純度の目的物を製造することが可能であった。
<比較例1>
【0080】
実施例1で得られたヒドロキシ体(ジヒドロキシ体の含有量は5.2モル%)を蒸留せず、実施例1と同様にエステル化反応を行った。エステル化後にヘプタン中で晶析したところ、白色固体14.4gが得られた(収率44%)。なお、ジエステル体の含有量は4.2モル%であった。開環工程前の脱水処理やヒドロキシ体の蒸留精製を行わなかったため、ジエステル体が高濃度で混入し、目的物の純度が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、重合性や物性に影響を及ぼす影響の高い特定の不純物の含有量が大幅に削減された高純度のモノマー化合物、および該化合物を工業的に有利に製造する方法であるため、レジスト材料等としてより優れた特性を有するポリマーのベース材料の分野おいて好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(IV):
【化1】

で表される化合物(IV)の製造方法であって、
下記式(II):
【化2】

で表される化合物(II)を酸触媒存在下で反応させて、
下記式(V):
【化3】

で表される化合物(V)の含有量が、5モル%以下である下記式(III):
【化4】

で表される化合物(III)を製造する開環工程と;
前記化合物(III)を(メタ)アクリロイル化剤と反応させるエステル化工程;
とを含む化合物(IV)の製造方法。
(上式中、R〜Rは水素原子、または直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素数1〜10の炭化水素基であり;RとRの一方は(メタ)アクリロイルオキシ基、他方は−OR13で表される置換基であり;RとR10の一方はヒドロキシ基、他方は−OR13で表される置換基であり;R13は直鎖状、分岐状または環状の炭素数1〜10の炭化水素基である)
【請求項2】
前記開環工程における反応系内の水分量が、前記化合物(II)に対して0.001〜2質量%の範囲である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記開環工程が、前記化合物(II)を酸触媒存在下で反応させた後に、蒸留精製工程を更に含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(IV)を、晶析により精製する工程を更に含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造法。

【公開番号】特開2010−37243(P2010−37243A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200377(P2008−200377)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】