説明

ノルボルネン系重合体の製造方法

【課題】耐酸化性や曲げ強度特性に優れたノルボルネン系重合体の効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有する重合性組成物を型内に注入し重合後、該ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上の温度で加熱することを特徴とするノルボルネン系成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、耐酸化性や曲げ強度特性に優れるノルボルネン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性や耐熱性に優れた材料としてノルボルネンなどの環状オレフィン化合物の付加重合体が数多く知られているが、かかる重合体は一般に、フィルムやシートなどへ成形することが困難な上、得られた成形物の靭性が低く、割れやすいなどの欠点があり、取り扱いが難しい。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、反応射出成形法(RIM)により、特定のノルボルネン系モノマーの付加重合と成形を同時に行い、実質的に不飽和結合を含まず、耐候性や耐熱性、機械特性に優れたノルボルネン系ポリマー成形体の製造方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−325329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、フィルムやシートの他、様々な成形体を生産効率良く製造可能であり、重合体中から不飽和結合を排除することで、成形体は耐候性等に優れたものとなるが、成形後にさらに成形体を架橋することが困難であるため、得られる成形体は耐酸化性に優れるが、曲げ強度特性は実用上未だ不充分であることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
本発明の目的は、耐酸化性や曲げ強度特性に優れたノルボルネン系重合体の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、ノルボルネン系モノマーにパラジウムアセチルアセトネート等の第10族遷移金属触媒とラジカル発生剤とを含有させた重合性組成物を金型内に注入して重合した後、特定温度以上で得られた重合体の架橋を行うことにより、所望の特性を有する積層体が得られることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有する重合性組成物を型内に注入し重合後、該ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上の温度で加熱することを特徴とするノルボルネン系成形体の製造方法、が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐酸化性や曲げ強度特性に優れたノルボルネン系重合体を効率的に製造することができる。本発明の製造方法により製造されるノルボルネン系重合体は、前記諸特性に優れることから、様々な成形体の基材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のノルボルネン系成形体の製造方法は、ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有する重合性組成物を型内に注入し重合後、該ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上の温度で加熱することにより行われる。
【0010】
(ノルボルネン系モノマー)
本明細書において「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するモノマーをいう。本発明において、ノルボルネン系モノマーは、通常、ノルボルネン環中に存在する付加重合性の脂肪族炭素−炭素二重結合の他、1以上の架橋性の炭素−炭素不飽和結合を有していてもよい。本明細書において「架橋性の炭素−炭素不飽和結合」とは、付加重合には関与せず、架橋反応に関与可能な炭素−炭素不飽和結合をいう。架橋反応とは橋架け構造を形成する反応をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するノルボルネン系モノマー中、不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される環構造内の他、該環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。
【0011】
ノルボルネン系モノマー中の、架橋性の炭素−炭素不飽和結合の数は特に限定されるものではないが、得られる重合体の機械強度を向上させる観点から、当該数としては、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3である。また、ノルボルネン系モノマーを構成する環構造の数としては、通常、2以上、好ましくは2〜8である。各環構造を構成する炭素数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。さらに、ノルボルネン系モノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基又は酸無水物基などの極性基が置換基として有していてもよいが、極性基を含まない、すなわち、炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーが好ましい。かかるモノマーによれば、誘電正接や吸水性が極めて小さい重合体が得られるため好適である。
【0012】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができる。ノルボルネン系モノマーの好適な例としては、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0013】
ノルボルネン類としては、例えば、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−シクロペンチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、酢酸2−メチル−5−ノルボルネン−2−イル、アクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2,3−ジメタノール、5−ノルボルネン−2,2−ジメタノール、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、5−ノルボルネン−2−カルバルデヒド、5−ノルボルネン−2−カルボキサミド、2−アセチル−5−ノルボルネン、3−メトキシカルボニル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸などが挙げられる。
【0014】
ジシクロペンタジエン類としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン)などが挙げられる。
【0015】
テトラシクロドデセン類としては、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチレンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−プロペニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−メタノール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−オール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボニトリル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルバルデヒド、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボキサミド、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸イミド、9−クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、4−トリメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、9−アセチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどが挙げられる。
【0016】
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明の所望の効果の発現を阻害しない限り、ノルボルネン系モノマーと共重合可能な公知のモノマーを任意に使用してもよい。
【0017】
(第10族遷移金属化合物)
本発明に使用される第10族遷移金属化合物は、長周期型周期表の第10族遷移金属元素を含む化合物である。第10族遷移金属元素としては、ニッケル、パラジウム、及び白金が挙げられ、好ましくはニッケルとパラジウムであり、より好ましくはパラジウムである。第10族遷移金属化合物は、ノルボルネン系モノマーの付加重合において触媒として機能する。
【0018】
かかる第10族遷移金属元素を含む化合物としては、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、過塩素酸ニッケル等のニッケルの無機酸塩;酢酸ニッケル、シュウ酸ニッケル等のニッケルの有機酸塩;ニッケルアセチルアセトネート、ニッケルフタロシアニン等のニッケル錯体;塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム等のパラジウムの無機酸塩;酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジム等のパラジウムの有機酸塩;パラジウムアセチルアセトネート、ビス(アリル)パラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、カルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ジアセトビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、テトラアミンパラジウムナイトレート、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムテトラフルオロボレート、パラジウムビス(2,4−ペンタジオナート)等のパラジウム錯体;塩化白金、ヨウ化白金等の白金の無機酸塩;白金アセチルアセトネート等の白金錯体などが挙げられる。これらの中でも、第10族遷移金属元素を含む化合物としては、パラジウムの無機酸塩と有機酸塩、及びパラジウム錯体が好ましく、パラジウム錯体がより好ましい。
【0019】
これらの第10族遷移金属化合物は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。第10族遷移金属化合物の配合量は、所望により適宜選択すればよいが、配合するノルボルネン系モノマー100モルに対して、通常、0.00001〜1モル、好ましくは0.0001〜0.1モルの範囲である。
【0020】
(ラジカル発生剤)
ラジカル発生剤は、本発明で用いられる重合性組成物の付加重合反応により得られる重合体において架橋反応を誘起する目的で使用される。従って、得られる重合体は、三次元的に架橋され、実質的に脂肪族炭素−炭素不飽和結合を含まない。
【0021】
本発明に使用されるラジカル発生剤としては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができる。例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
【0022】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状パーオキサイド類;が挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、及び環状パーオキサイド類が好ましい。
【0023】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0024】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0025】
ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、所望により適宜選択すればよいが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0026】
これらのラジカル発生剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ラジカル発生剤の配合量は、ノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0027】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物には、上記する、ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を必須成分として、所望により、架橋助剤、重合活性調整剤、充填剤、老化防止剤、及びその他の添加剤を配合することができる。
【0028】
架橋助剤の配合は、得られる重合体の機械強度及び耐クラック性を高度に改善でき好適である。架橋助剤としては、通常、付加重合に関与せず、架橋剤により誘起される架橋反応に関与可能な架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する多官能性架橋助剤が好適に用いられる。かかる架橋性の炭素−炭素不飽和結合は、架橋助剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、中でも、イソプロペニル基やメタクリル基として、特にメタクリル基として存在するのが好ましい。
【0029】
架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を2以上有する多官能性架橋助剤;エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤などを挙げることができる。中でも、架橋助剤としては、メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤が好ましい。メタクリル基を2以上有する多官能性架橋助剤の中では、特に、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を3つ有する多官能性架橋助剤がより好適である。
【0030】
前記架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いる重合性組成物への架橋助剤の配合量としては、配合するノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0031】
本発明においては、第10族遷移金属化合物に重合活性調整剤を配合することで、付加重合反応をより活性化でき好適である。
重合活性調整剤としては、例えば、ホスフィン化合物、有機アルミニウム化合物及び有機ホウ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることができる。
【0032】
ホスフィン化合物としては、未置換又は炭素数1〜20のアルキル置換のシクロペンチル基又はシクロヘキシル基を少なくとも2つ有するホスフィン化合物が好ましく、具体的には、トリシクロペンチルホスフィン、ジシクロペンチル(シクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロペンチル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロペンチル(s-ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(t−ブチル)ホスフィン、ジシクロペンチル(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシル(シクロペンチル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(3−メチルシクロヘキシル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(2−メチルフェニル)ホスフィンなどが挙げられる。これらのホスフィン化合物の中では、炭素数5〜12のアルキル置換のトリシクロペンチルホスフィンが特に好ましい。
【0033】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)アルミナート、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルアルミナートなどのイオン性有機アルミニウム化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、トリス(3,5−フルオロフェニル)アルミニウム、トリス〔3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕アルミニウム、三フッ化アルミニウム、ジエチルエーテル錯体、エチルアルミニウムジフロライド、エチルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジブロマイド、ジエチルアルミニウムフロライド、3,5−ジメチルフェニルアルミニウムジフロライドなどのルイス酸性有機アルミニウム化合物;メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、ブチルアルモキサンなどのアルキルアルモキサン化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、などのトリアルキルアルミニウム化合物;ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルキルアルミニウムヒドリド化合物;などが挙げられる。
【0034】
有機ホウ素化合物としては、例えば、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(p-トリル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル(メチル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ジフェニル)メチルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルホスフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジフェニルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、などのイオン性有機ホウ素化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、トリス(3,5−フルオロフェニル)ホウ素、トリス〔3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル〕ホウ素、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素・ジブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素・トリエチルアミン錯体、などのルイス酸性有機ホウ素化合物などが挙げられる。
【0035】
これらの重合活性調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合活性調整剤の配合量は、第10族遷移金属化合物1モル当たり、通常、0.1〜100モル、好ましくは0.5〜10モルの範囲である。
【0036】
充填剤の配合は、得られる重合体において曲げ強度特性を高度に向上させることができ、好適である。充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機充填剤や有機充填剤のいずれも用いることができるが、好適には無機充填剤である。
【0037】
無機充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。
【0038】
有機充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、各種エラストマー、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。
【0039】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、配合するノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、10〜1,000重量部、好ましくは30〜750重量部、より好ましくは50〜500重量部の範囲である。
【0040】
また、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を配合することは、架橋反応を阻害しないで、得られる重合体の耐熱性を高度に向上させることができ、好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、所望により適宜選択されるが、配合するノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0041】
本発明の重合性組成物には、その他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤などを用いることができる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0042】
本発明に用いる重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にノルボルネン系モノマーやラジカル発生剤などの必須成分、及び所望によりその他の配合剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に該触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0043】
(ノルボルネン系重合体の製造方法)
本発明のノルボルネン系重合体の製造方法は、上記重合性組成物を型内に注入し重合後、前記ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上の温度で加熱して、得られた重合体を架橋することにより行なわれる。
【0044】
本発明に使用される型としては、従来公知の成形型を格別な限定なく用いることができる。例えば、割型構造、すなわち、コア型とキャビティー型を有する成形型などを用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を充填した後に付加重合させて任意の成形体を得ることができる。コア型とキャビティー型は、ノルボルネン系重合体を基材とした、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入することにより、シート状又はフィルム状の成形体を得ることができる。
【0045】
重合性組成物を成形型のキャビティー内に注入する際の注入圧は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。型締圧力は、通常、0.01〜10MPaの範囲内である。
重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であって、かつ通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から60分間、好ましくは20分間以内である。得られた重合体の加熱温度は、ラジカル発生剤により架橋反応が誘起される温度以上である。通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5〜50℃高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10〜30℃高い温度である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、1〜120分間、好ましくは2〜60分間、より好ましくは5〜20分間である。
かくして得られる本発明のノルボルネン系重合体は、耐酸化性や曲げ強度特性に優れるため、基材として広範囲の成形体に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0047】
実施例及び比較例における各特性は、以下の方法に従い測定、評価した。
(1)耐酸化性
得られた板状成形体(ノルボルネン系重合体)を120℃のオーブンに72時間放置した後の表面の状態を観察し、以下の基準で評価した。
◎:変色、形状くずれのいずれも認められない
×:変色、形状くずれ等が認められる
(2)曲げ強度特性
得られた板状成形体(ノルボルネン系重合体)をR12cmの試験機に押し付け、変形したのちの成形体を観察し、以下の基準で評価した。
◎:クラックの発生が認められない
×:クラックの発生が認められる
【0048】
実施例1
パラジウムアセチルアセトネートの110.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液(溶液A)を調製した。
テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチルの0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、ジ−t−ブチルペルオキシド(化薬アクゾ製 カヤブチルD:1分間半減期温度186℃)を前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して1重量部を添加して(溶液B)を調製した。窒素中で溶液A及び溶液Bを1:1の割合で混合し重合性組成物を調製しながら、金型内に圧送した。ここで、金型として、1.0mm×120mm×120mmの平板成形用で、ヒーター付きクロームメッキ鉄板にコ字型スペーサーを挟んだものを用いた。金型温度は、片面は50℃、もう一方の面は50℃にセットした。重合性組成物を金型内に圧送した後5分間で重合し、金型温度を片面は280℃、もう一方の面は280℃にセットし、15分間加熱した後に脱型し、平板を取り出した。この平板(板状成形体)を用いて、耐酸化性と曲げ強度特性を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0049】
実施例2
パラジウムアセチルアセトネートの0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、スチレン(前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して、15重量部)を加えた溶液(溶液A)を調製した。
テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチルの0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、ジ−t−ブチルペルオキシド(化薬アクゾ製 カヤブチルDを前記ノルボルネン系モノマー100重量部に対して1重量部)(溶液B)を調製した。窒素中で溶液A及び溶液Bを1:1の割合で混合し重合性組成物を調製しながら、金型内に圧送した。ここで、金型として、1mm×120mm×120mmの平板成形用で、ヒーター付きクロームメッキ鉄板にコ字型スペーサーを挟んだものを用いた。金型温度は、片面は50℃、もう一方の面は50℃にセットした。重合性組成物を金型内に圧送した後5分間で重合し、金型温度を片面は280℃、もう一方の面は280℃にセットし、15分間加熱した後に脱型し、平板を取り出した。
この平板(板状成形体)を用いて、耐酸化性と曲げ強度特性を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0050】
実施例3
触媒をパラジウムビス(2,4−ペンタジオナート)とし、この触媒の0.001mol%ノルボルネン(NB)/テトラシクロドデセン(TCD)の9/1重量比のノルボルネン系モノマー溶液に、スチレン(前記ノルボルエン系モノマー100重量部に対して、10重量部)を加えた溶液(溶液A)を調製した以外は実施例1と同様に行ない平板を作製した。得られた平板の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
実施例4
金型内にガラスクロス(旭シュエーベル社製 厚み90μm 品番2116)を金型内に平行になるよう挿入し、実施例2と同様に平板を作製した。得られた平板の各特性を評価してその結果を表1に示した。
【0052】
比較例1
ジ−t−ブチルペルオキシドを配合しない以外は実施例1と同様に平板を作製した。得られた平板の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
比較例2
金型の温度を20℃にした以外は実施例1と同様にして板状成形体を得た。得られた板状成形体の各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜4で得られた積層体はいずれも耐酸化性及び曲げ強度特性に優れていた。一方、重合性組成物にジ−t−ブチルペルオキシドを配合しなかった比較例1で得られた積層体では曲げ強度特性の点で劣り、重合体の架橋を行わなかった比較例2で得られた積層体では耐酸化性及び曲げ強度特性の点で劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系モノマー、第10族遷移金属化合物、及びラジカル発生剤を含有する重合性組成物を型内に注入し重合後、該ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上の温度で加熱することを特徴とするノルボルネン系成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−84073(P2010−84073A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256684(P2008−256684)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】