説明

ノロウイルスGIの高感度検出方法

【課題】合成ペプチドに対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体、およびこの抗体を用いるノロウイルスGI感染の検出に関する。
【解決手段】配列:Gly Glu Phe Thr Ile Ser Pro Asn Asn Thr Pro Gly Asp (配列番号1)を含むペプチドに対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体、この抗体を含む、ノロウイルスGIの検出試薬、検出方法、検出キットおよびモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特定の配列からなる合成ペプチドに対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体、この抗体を用いるノロウイルスGI(Norovirus GI)感染の検出試薬、検出方法および検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは従来SRSV(Small Round Structured Virus:小型球形ウイルス)と呼ばれており、また、NLV(Norwalk-like virus:ノーウォーク関連ウイルス)ともいわれるウイルスであり、その遺伝子型によりGI(genogroupI)とGII(genogroup II)に分類される。ノロウイルスは直径30ナノメートル(1ナノは10億分の1)ほどの微小なウイルスでヒトの腸内でしか増殖しない。下痢、嘔吐、腹痛、吐き気、発熱などの症状を伴う食中毒の原因となるウイルスである。汚水の流れ出る河口付近に生息するカキ・二枚貝の内臓に付着している。70℃で1分間加熱すれば予防できるが、これらのものを加熱不十分や生での摂食で食中毒が起きる。最近はウイルス保菌者の排泄物などによるヒトからヒトへの感染も多くなっている。
【0003】
食中毒が発生した場合、被害を最小限にとどめるために、原因究明の検査を患者の糞便や疑われる食品などの検体について行う。細菌の場合はそれぞれ特徴があるのでその細菌にあった培地を用いて目的の菌をみつけることができるが、一般にウイルスは細菌のように合成培地では増殖しないので、生きた細胞を用いることになる。しかしながら、ノロウイルスGIは培養細胞中で増殖させることができない。そこで検査の方法としてはウイルス粒子を電子顕微鏡によって直接見つける方法か、検体から採取したノロウイルスGIの遺伝子のDNAまたはRNAの断片を増幅し、該増幅産物を、電気泳動、分光蛍光光度計を用いて検出する方法が用いられている。
【0004】
最近、モノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法(ELISA)によるノロウイルスGIの検出方法が報告されているが、用いられるモノクローナル抗体は、NVカプシドタンパクをコードするORF2を用いたバキュロウイルス発現システムで発現されたウイルス様中空粒子(Virus-like particles:VLPs)を抗原として作製されたモノクローナル抗体であり、このモノクローナル抗体を用いた検出キットは、ジェノグループI(Genogroup I、GI)とジェノグループII(Genogroup II、GII)をそれぞれ検出することがわかっている(非特許文献1)。
【非特許文献1】「日本臨床」第60巻第6号第1188〜1193頁(2002年)、日本臨床社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子顕微鏡による方法や、遺伝子断片を用いる方法は、検体の処理などの検出可能な試料とするのに熟練した技術と時間がかかる、さらに検出過程にも時間がかかる、そして大量の検体を処理できないなどの欠点がある。しかしながら、被害の拡大や社会的不安の解消のためには早期原因究明が必要であり、ノロウイルスGIに汚染されたカキによる食中毒は微量のウイルスで発症するために、簡便で短時間にかつ高感度のノロウイルスGIの検出方法が待たれていた。これにこたえてモノクローナル抗体を用いるELISAによる方法が開発されつつある。本発明者らは、さらに短時間で処理でき、操作が簡便で多検体を同時に処理できる方法を求めて鋭意検討を重ね本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、抗原に用いる適当な領域として、ノロウイルスGIのジェノタイプ(Genotype)1〜14までのカプシド領域において共通する66番目から78番目のアミノ酸配列を含む下記のアミノ酸配列:
Gly Glu Phe Thr Ile Ser Pro Asn Asn Thr Pro Gly Asp (配列番号1)
を選択し、そのアミノ酸配列のN末端にCys残基を付加し、更にそのCys残基にキャリアーとしてKLHを付加し、これを免疫原として作製されたモノクローナルまたはポリクローナル抗体である。この抗体は、ノロウイルスGI、ノロウイルスGIの抗原または抗原性フラグメントを認識またはこれらに結合することができる。ノロウイルスGIとしてはノーウォーク(Norwalk)株、チバ(Chiba)株、サイタマ(Saitama)株等の14のジェノタイプが知られているが、本願発明の抗体はこれらのジェノタイプに関係なくノロウイルスGIを認識し結合し得る。
【0007】
本発明の第2は、上記のモノクローナルまたはポリクローナル抗体を含む、ノロウイルスGI検出試薬である。
【0008】
本発明の検出試薬にはノロウイルスGIに感染している疑いのある患者を診断するための診断薬およびノロウイルスGIに汚染されている疑いのある食材を検査する検査薬が含まれる。
【0009】
本発明の第3は、検体を上記のモノクローナルもしくはポリクローナル抗体または上記の検出試薬と接触させ、ELISAにより検出することを特徴とするノロウイルスGI検出方法である。
【0010】
検体にはノロウイルスGIに感染している疑いのある患者から採取される検体、例えば、便など、またはノロウイルスGIに汚染されている疑いのある食材の一部である検体が含まれる。
【0011】
本発明に用いられるELISAには蛍光ELISAが含まれる。
【0012】
本発明の第4は、上記のノロウイルスGI検出方法の実施に用いられるキットである。特に、ブロッキング剤として1%スキムミルク含み、上記の抗体と連結する酵素およびその酵素の基質としてそれぞれ(1)ペルオキシダーゼおよびo−フェニレンジアミンまたは(2)β-ガラクトシダーゼ-アビジンおよび4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシドを含むキットである。
【0013】
本発明の第5は、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマであり、このハイブリドーマは、平成17年3月16日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号 FERM P−20461のもとに寄託された。
【発明の効果】
【0014】
本発明のモノクローナルまたはポリクローナル抗体は非常に感度が高い。従ってこれを用いるELISA法によれば、迅速、簡便かつ高感度で食品中、例えばカキ等からノロウイルスGIの早期検出が可能であり、被害を最小限にとどめることができる。また、本発明の抗体はジェノタイプに関係なく、ノロウイルスGIを認識し結合し得ることから漏れのない検査が可能である。本発明の検出システムでは、ノロウイルスGIが魚介類に含まれている場合が多いことから、生鮮食品の微生物検査を行う機関などの活用が期待される。また、食品検査だけでなく検便検査としても使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
高感度で正確性の高いイムノアッセイ系を構築するには、質の高い抗体を用いることが必要である。そこで様々なデータベース上で公開されているノロウイルスGIの生物情報より抗体のエピトープとして最適であると考えられるアミノ酸領域を選定し、この領域に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製した。
【0016】
合成ペプチドの設計
ノロウイルスのカプシドはN蛋白という1種類の蛋白が集合しており、N蛋白はP2、P1、Sという3つの領域に分かれる。P1およびP2領域はウイルス粒子表面に露出した領域で抗体と最も反応しやすい領域と考えられるが、この領域は株間で血清学的多様性に富んでいる。一方、S領域はウイルス粒子表面の内側に位置しているが、アミノ酸配列において株間での保存性が比較的高い。できるだけ多くの株と反応できる抗体を作成するため、S領域に存在する株間で最も保存性の高い領域のアミノ酸配列を基に合成ペプチドを作製した。
【0017】
その結果66番目から78番目のアミノ酸配列が、ノロウイルスG1の多数の株に保存されており、また、モノクローナル抗体の作製による確認でも、モノクローナル抗体の反応性が最も高かった。そこでその箇所について合成ペプチドを作製し、その作製した合成ペプチドのN末端にCys残基を付加し、更にそのCys残基にキャリアーとしてKLHを付加し、これを免疫原に用いた。合成ペプチドのアミノ酸配列は以下のとおりである。
Gly Glu Phe Thr Ile Ser Pro Asn Asn Thr Pro Gly Asp 配列番号1
そして、Cys残基およびキャリアーKLHを付加したアミノ酸配列は以下のとおりである。
KLH−Cys Gly Glu Phe Thr Ile Ser Pro Asn Asn Thr Pro Gly Asp 配列番号2
【0018】
免疫スケジュール
上記で作製した合成ペプチドを生理食塩水で希釈し、アジュバントと混和する。この抗原液をマウスに腹腔内投与する。さらに追加免疫し、ELISA法にてマウス血清中抗体価の測定し、血中抗体価が64000倍になるまでこの操作を繰り返す。細胞融合の3日前にも合成ペプチドを腹腔内に投与する。
【0019】
細胞融合
最終免疫後、脾臓を摘出し、DMEM培地に個々の細胞に分散させる。遠心後、DMEM培地を加え、脾細胞を浮遊させ、融解緩衝液を添加して赤血球を溶血させる。再度遠心洗浄後DMEM培地中に浮遊させ、細胞数を計測した後、この脾細胞とマウス骨髄腫細胞P3U1株を遠心管内で混合する。遠心分離後、上清を除去し、DMEM培地で洗浄する。再度遠心し上清を完全に除去した後、ポリエチレングリコール(PEG)6000およびDMSOを含むDMEM培地を加える。遠心洗浄を行い、上清を除いた後マウス骨髄腫細胞の数を調整し、ウシ胎児血清(FCS)を含むDMEM培地を加える。37℃1日間培養し、翌日、細胞を回収し洗浄後、マウス骨髄腫細胞数を調整し、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン(HAT)を含む15%FCS・DMEM培地を加える。96ウェルプレートに分注し37℃で10〜14日培養してハイブリドーマのみを増殖させる。ELISA法により目的の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニング後、48ウェルプレートに陽性クローンを移しアミノプテリンを含まない15%FCS/HT/DMEM培地を加え培養を続ける。
【0020】
細胞が十分発育した後、再度ELISAによるスクリーニングを行い、陽性クローンについて限界希釈法を用いたクローニングを行う。このスクリーニングとクローニングを2〜3回行い、単一クローン化する。その結果、ノロウイルスGIに共通のアミノ酸配列に対する抗体を産生するハイブリドーマを得る。
【0021】
モノクローナル抗体の作製法
得られたハイブリドーマを約1週間培養を行う。培養後、培地を遠心し上清を分離後、硫酸アンモニウムを50%飽和濃度となるように加え、塩析を行う。一晩静置後、遠心し、上清を捨て、沈殿をPBSで溶解しPBSで透析する。これをアフィニティークロマトグラフィーで精製しノロウイルスGI株共通のアミノ酸配列に対する精製抗体を得る。
【0022】
上記のモノクローナル抗体をELISAに用いる。通常のELISA(エンザイムイムノアッセイ:酵素免疫測定法、EIAまたはELISA)および蛍光ELISA(FELISA)であってもよい。好ましくは、蛍光ELISAである。ELISAの標識、基質、酵素なとの組合せは適宜決定する。
【0023】
例えば、サンドイッチ蛍光ELISAシステムの検出系として、まずプレートにモノクローナル抗体を固相化する。ブロッキング後、検体を反応させる。その後ビオチン標識をしたマウスモノクローナル抗体又はウサギポリクローナル抗体を反応させ、アビジン標識したガラクトシダーゼまたはペルオキシダーゼを反応させ、最後に基質溶液(例えば、4−メチルウンベリフェリル−β−D−ガラクトシドまたはo−フェニレンジアミン)を加える。これを蛍光ELISAマイクロプレートリーダーで各ウェルの蛍光強度を測定する(図1参照)。ブロッキング剤としては、例えばウシ血清アルブミンやスキムミルクを用いる。また、アビジン−ビオチン結合を介さずにペルオキシダーゼ標識をした抗体を用いることもできる。
【0024】
上記の蛍光ELISAシステムの検出系を適当なキットのパーツとし、キットとして調製する。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、単に説明のためであって、本発明を制限するものではない。
実施例1
抗NVカプシド蛋白モノクローナルおよびポリクローナル抗体の作製
A−1.マウスモノクローナル抗体の作製
合成ペプチドKLH−Cys Gly Glu Phe Thr Ile Ser Pro Asn Asn Thr Pro Gly Asp(配列番号2)を免疫原とし、抗原量をマウス1匹あたり20μg、アジュバントはRIBI Adjuvant System R‐700を用いて腹腔接種により約3週間隔で免疫を行った。抗体価が上昇したマウスの脾細胞とミエローマ細胞をポリエチレングリコールを用いて常法により細胞融合を行った。ELISAによる陽性抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング後、限界希釈法により2〜3回クローニングを行った。クローニングを行った抗体産生ハイブリドーマを無血清培地で大量培養し、アフィニティークロマトグラフィーによりモノクローナル抗体を精製した。一部はビオチン標識を行った。
【0026】
ノロウイルスGI株のエピトープとなりうるアミノ酸配列のうち株特異的領域より設計した合成ペプチドを用いて免疫したマウスにおいては、3回目の免疫後、抗体価が十分上昇したマウスを用いて細胞融合を行った(表1)。
【表1】

【0027】
その結果複数のハイブリドーマを得た。それぞれのハイブリドーマから産生される抗体を合成ペプチドと反応させたところ、認識するクローン1株で最も良好な反応を示した。このクローンを大量培養後、抗体を精製しサンドイッチ蛍光ELISAシステム構築の検討を行うことにした。
【0028】
A−2.ウサギポリクローナル抗体の作製
合成ペプチドを免疫原とし、抗原量をウサギ1羽あたり50μg、アジュバントはRIBI Adjuvant System R−730を用いて皮下接種により約4週間隔で免疫を行った。抗体価が上昇したウサギから全採血を行った。採血後、血清を分離し、カプリル酸法でIgG精製を行い、その一部は下記の実施例2 B−2.に記載のようにビオチン標識を行った。
【0029】
ノロウイルスGI株の共通配列より設計した合成ペプチドを用いて免疫したウサギは4回目の免疫後ブースターを行い、全採血した(表2)。
【表2】

【0030】
実施例2
二次抗体のペルオキシダーゼ標識
B−1.マウスモノクローナル抗体のペルオキシダーゼ標識
実施例1のA−1で作製したマウスモノクローナル抗体0.2ml(1.14mg/ml)をPeroxidase labeling kit-SHを使用してペルオキシダーゼ標識した。
【0031】
ペルオキシダーゼ標識したマウスモノクローナル抗体を約0.2ml(1.3mg/ml)作製した。
【0032】
B−2.ウサギポリクローナル抗体のビオチン標識
実施例1のA−2で作製したウサギポリクローナル抗体1ml(1.39mg/ml)を炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.5)で一晩透析し、Bradford法でタンパク定量を行った。その後、超純水で溶解したEZ-Link-Sulfo-NHS-LC-Biotinを抗体1ml(1.28mg/ml)に128μl(64μg)(50μg ビオチン:1mg 抗体)混和した。氷上で2時間放置後、PBS(pH7.4)で4℃一晩透析した。
【0033】
約60mlの血清よりビオチン標識したウサギポリクローナル抗体を約1ml(0.98mg/ml)作製した。
【0034】
実施例3
抗NV GIマウスモノクローナル抗体、抗NV GIウサギポリクローナル抗体のペプチドとの反応確認
ELISAプレートにPBSで1μg/mLに調製した合成ペプチドを37℃2時間固相化した。ブロッキング剤として1%スキムミルクを用いて4℃で一晩ブロッキングした。ノロウイルス患者便からのウイルス抽出液をサンプルとして用いた。ペルオキシダーゼ標識抗NV GIマウスモノクローナル抗体及び、ビオチン標識抗NV GIウサギポリクローナル抗体をPBSで5μg/mLから2.5、1.25、0.63、0.32、0.16、0.08、0.04、0.02、0.01となるように希釈し37℃で2時間反応させた。ビオチン標識抗NV GIウサギポリクローナル抗体を反応させたプレートにはアビジン標識ペルオキシダーゼを37℃1時間反応させた。基質(o−フェニレンジアミン)を37℃30分反応させ、マイクロプレートリーダーで測定した。
【0035】
結果
ペルオキシダーゼ標識抗NV GIマウスモノクローナル抗体は、0.01μg/mLまで良好な結果が得られた。ビオチン標識抗NV GIウサギポリクローナル抗体は0.32μg/mLまで反応が見られた(図2)。
【0036】
ノロウイルスGI検出ELISA
ELISAプレートに抗NV GIマウスモノクローナル抗体をPBSで5μg/mlに調製し、4℃で一晩固相化した。ブロッキング剤として1%スキムミルクを用いて、37℃2時間で反応を行った。サンプルとして、ノロウイルス患者便からのウイルス抽出液をPBSでウイルス量が10、102、103、104、105/wellとなるように調製したものを用いた。37℃で2時間反応させた。PBSで500ng/mLに調製したペルオキシダーゼ標識抗NV GIマウスモノクローナル抗体、又はビオチン標識抗NV GIウサギポリクローナル抗体を37℃2時間反応させた。ビオチン標識抗NV GIウサギポリクローナル抗体を反応させたプレートにはアビジン標識ペルオキシダーゼを37℃1時間反応させた。基質(o−フェニレンジアミン)を37℃30分反応させた後、プレートリーダーで測定した。
【0037】
結果
検出抗体に抗NV GIマウスモノクローナル抗体、抗NV GIウサギポリクローナル抗体を使用した場合、共に105粒子/wellで吸光度の値が高く検出された(図3)。
【0038】
抗NV GIマウスモノクローナル抗体、抗NV GIウサギポリクローナル抗体とジェノタイプとの反応確認
ELISAプレートに5μg/mLに調製した抗NV GIマウスモノクローナル抗体を4℃一晩固相化した。1%スキムミルクを37℃1時間反応させブロッキングした。ノロウイルスGIのジェノタイプが判っている患者便抽出ウイルス液をサンプルとしてGI/1、GI/9、GI/12の3種を105粒子/wellに調製し、37℃2時間反応させた。対照としてGII患者便抽出ウイルス液を同様に反応させた。次に500ng/mLに調製したペルオキシダーゼ標識抗NV GIマウスモノクローナル抗体又はビオチン標識抗NV GIウサギポリクローナル抗体を37℃2時間反応させた。ビオチン標識抗NV GIウサギポリクローナル抗体を反応させたプレートにはアビジン標識ペルオキシダーゼを37℃1時間反応させた。基質(o−フェニレンジアミン)を反応させた後マイクロプレートリーダーで測定した。
【0039】
結果
検出抗体に抗NV GIマウスモノクローナル抗体、抗NV GIウサギポリクローナル抗体を反応させた場合共に対照として反応させたGIIの吸光度は低く検出された。サンプルとして反応させたノロウイルスGIの各ジェノタイプは発色も見られ、明らかに反応しているのが確認された(図4)。この抗体はノロウイルスGIカプシド領域のアミノ酸配列で共通部分を合成ペプチドとして作製し、それを免疫原として作製した抗体であるため、ジェノタイプに関係なくノロウイルスGIと反応することを確認することができた(図4)。
【0040】
ノロウイルスGI検出ELISAと蛍光ELISAの比較
ELISAプレートに抗NV GIマウスモノクローナル抗体をPBSで5μg/mlに調製し、4℃で一晩固相化した。ブロッキング剤は1%スキムミルクを用いて、1時間37℃で行い、サンプルは患者便ウイルス抽出液をPBSでウイルス量が10、102、103、104、105/wellとなるように調製し、37℃で2時間反応させた。対照としてGII患者便抽出ウイルス液を同様に反応させた。ビオチン標識抗体はマウスモノクローナル抗体を500ng/mlに調製し37℃で2時間反応させた。酵素はβ-ガラクトシダーゼ-アビジン、基質は4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシドを用いて検討を行った。
【0041】
結果
蛍光ELISAでは対照として反応させたGIIの蛍光強度は若干高く測定されたが、患者便抽出ウイルス液を反応させたwellでは104粒子/wellから対照と差が見られた(図5)。
【0042】
考察
サンドイッチ蛍光ELISAシステムの検出系として、まずプレートにモノクローナル抗体を固相化する。ブロッキング後、サンプルとなるウイルス抽出液を反応させる。その後ビオチン標識をしたマウスモノクローナル抗体又はウサギポリクローナル抗体を反応させ、アビジン標識ガラクトシダーゼを反応させる。最後に基質溶液である4-メチルウンベリフェリルβ-D-ガラクトシドを加える。これを蛍光ELISAマイクロプレートリーダーで各wellの蛍光強度を測定する。通常のELISAと蛍光ELISAを比較してわかるように、蛍光ELISAの方が感度がよく、ウイルスが低濃度でも検出が可能ということがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のモノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いるELISA法によれば、迅速、簡便かつ高感度で食品からノロウイルスGIを検出することができ、食中毒の被害を最小限にとどめることができる。本発明の検出システムは、ノロウイルスGIが魚介類に含まれている場合が多いことから、生鮮食品の微生物検査を行う機関などでの活用でき、また、食品検査だけでなく検便検査としても使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は本発明の方法で用いられるサンドイッチ蛍光ELISAシステムの検出系の一例を示した。
【図2】図2は抗体と合成ペプチドとの反応確認のグラフを示した(実施例3)。
【図3−1】図3は抗体(モノ)とノロウイルス患者便からのノロウイルスGIとの反応確認のグラフを示した(実施例3)。
【図3−2】図3は抗体(ポリ)とノロウイルス患者便からのノロウイルスGIとの反応確認のグラフを示した(実施例3)。
【図4−1】図4は抗体(マウスモノクローナル)とGI/1、GI/9およびGI/12との反応確認のグラフを示した(実施例3)。
【図4−2】図4は抗体(ウサギポリクローナル)とGI/1、GI/9およびGI/12との反応確認のグラフを示した(実施例3)。
【図5】図5はノロウイルスGI検出蛍光ELISA(F-ELISA)のグラフを示した(実施例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の配列:
Gly Glu Phe Thr Ile Ser Pro Asn Asn Thr Pro Gly Aspを含むペプチドに対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体。
【請求項2】
ノロウイルスGI、ノロウイルスGIの抗原または抗原性フラグメントを認識または結合する、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体である、請求項1または2記載の抗体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体を含むことを特徴とするノロウイルスGI検出試薬。
【請求項5】
ノロウイルスGIを含む疑いのある検体を請求項1〜3のいずれかに記載の抗体または請求項4に記載の試薬と接触させ、ELISAにより検出することを特徴とするノロウイルスGI検出方法。
【請求項6】
請求項5に記載のノロウイルスGIの検出方法を行うためのノロウイルスGI検出キット。
【請求項7】
請求項3に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項8】
受託番号 FERM P−20461である、請求項8記載のハイブリドーマ。
【請求項9】
請求項9のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−145775(P2007−145775A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344365(P2005−344365)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(304026652)株式会社ファルコライフサイエンス (1)
【Fターム(参考)】