説明

ノンハロゲン系絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】十分な難燃性、耐摩耗性、柔軟性、加工性を有し、ハロゲン含有材との協調性に優れた絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体外周に内層、最外層を被覆し、最外層は、厚さ10〜100μm、平均密度0.91g/cm以上となる1種以上のPEを含む組成物、内層は、A)MFR5g/10分以下、密度0.90g/cm以上のPE、B)B1)α−オレフィン(共)重合体、B2)エチレン−ビニルエステル共重合体、B3)エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、B4)スチレン系エラストマーから選ばれる1種以上の重合体を含む樹脂分100重量部に、C)金属水和物30〜250、D)亜鉛系化合物1〜20重量部を含む組成物であって、A)含有率30〜90、B)含有率70〜10重量%、B)の内1種以上が酸変性されている及び/又はE)有機官能性カップリング剤0.3〜10重量部を含む組成物よりなる絶縁電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン系絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、多層構造を有するノンハロゲン系絶縁電線およびこれを用いたワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線の被覆材としては、一般に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物が広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂に、ノンハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウムなどの金属水和物を添加した、いわゆるノンハロゲン系難燃性樹脂組成物への代替が進められている。
【0005】
ところが、基本的にオレフィン系樹脂は燃えやすく、また、ノンハロゲン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比較して難燃化効果に劣る。したがって、ノンハロゲン系難燃性樹脂組成物では、十分な難燃性を確保するため、金属水和物を多量に添加する必要があり、これに起因して耐摩耗性、引張伸び、引張強度などの機械的特性が著しく低下するという欠点があった。
【0006】
そこで、このような欠点を補うため、例えば、特許文献1には、ポリエチレンまたはα−オレフィン共重合体とエチレン共重合体またはゴムとを含む樹脂成分中に、金属水和物、架橋助剤を添加し、さらに特定の官能基を含有させてなる難燃性樹脂組成物が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特許第3280105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来知られる難燃性樹脂組成物を被覆材として用いた絶縁電線は、次のような問題があった。
【0009】
すなわち、特許文献1などに記載されるように、近年、組成物中の樹脂分を種々改良することなどにより、難燃剤を高充填することによる悪影響を緩和させる試みがなされてはいるものの、未だ耐摩耗性などの機械的特性が十分でなく、これをさらに改善する必要があった。
【0010】
一方、次の問題についても合わせて考慮する必要があった。
【0011】
すなわち、例えば、自動車などの車両において絶縁電線を使用する場合、一般に、複数の絶縁電線をひとまとまりに束ねて電線束とし、この電線束の外周に、テープ状、チューブ状またはシート状などの種々の形状からなる保護材を巻回することによりワイヤーハーネスとして使用することが多い。
【0012】
ワイヤーハーネスを構成する絶縁電線は、被覆材としてノンハロゲン系難燃性樹脂組成物を用いたノンハロゲン系絶縁電線に代替が進んできてはいるものの、これまでの実績などから、被覆材としてポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル樹脂組成物を用いた塩化ビニル系絶縁電線も今だに使用されているのが実情である。
【0013】
そのため、ノンハロゲン系絶縁電線と塩化ビニル系絶縁電線との混在を完全に避けるのは困難な状況にある。このような状況の下、ノンハロゲン系絶縁電線が塩化ビニル系絶縁電線などと接触した状態で使用されると、電線束中のノンハロゲン系絶縁電線の被覆材が著しく劣化し、長期耐熱性が低下するという問題(他材料との協調性の問題)があった。
【0014】
さらに、将来的に、ワイヤーハーネスを構成する絶縁電線がノンハロゲン系絶縁電線に完全に切り替わったとしても、電線束に巻回されるワイヤーハーネス保護材の基材には、塩化ビニル樹脂組成物などのハロゲン系難燃性樹脂組成物が使用されていることが多い。そのため、ノンハロゲン系絶縁電線がハロゲンを含有する保護材と接触した状態で使用された場合にも、上記協調性の問題が生じ得る。
【0015】
この原因は、詳細なメカニズムまでは解明されていないが、ノンハロゲン系絶縁電線が、塩化ビニル系絶縁電線やハロゲンを含有する保護材と接触すると、ノンハロゲン系難燃性樹脂組成物からなる被覆材中の酸化防止剤が著しく消費されるか、あるいは、酸化防止剤そのものが塩化ビニル系絶縁電線や保護材中に移行するためではないかと推測されている。いずれにせよ、この種の劣化の問題についても早期に解決する必要があった。
【0016】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、十分な難燃性を有し、耐摩耗性などの機械的特性、柔軟性および加工性に優れるとともに、他材料、特に、ハロゲン含有樹脂材料との協調性にも優れたノンハロゲン系絶縁電線を提供することにある。
【0017】
また、このノンハロゲン系絶縁電線を含んだワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これら課題を解決するため、本発明に係るノンハロゲン系絶縁電線は、導体の外周に1層以上からなる内層が被覆され、内層の外周に最外層が被覆されたものであって、最外層の厚さは、10〜100μmの範囲内にあり、最外層は、平均した密度が0.910g/cm以上となる1種以上のポリエチレンを含む樹脂組成物よりなり、内層のうち少なくとも1層は、(A)メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下、密度が0.90g/cm以上のポリエチレン、(B)(B1)α−オレフィン(共)重合体、(B2)エチレン−ビニルエステル共重合体、(B3)エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、(B4)スチレン系熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1種の重合体を含む樹脂成分100重量部と、(C)金属水和物30〜250重量部と、(D)亜鉛系化合物1〜20重量部とを含む樹脂組成物であって、樹脂成分中の(A)ポリエチレンの含有率が30〜90重量%、(B)重合体の含有率が70〜10重量%であり、かつ、(B)重合体のうち少なくとも1種が酸により変性されている、および/または、(E)有機官能性カップリング剤0.3〜10重量部をさらに含む樹脂組成物よりなることを要旨とする。
【0019】
ここで、上記(D)亜鉛系化合物は、硫化亜鉛であることが好ましい。
【0020】
また、上記最外層および/または内層は、架橋されていることが好ましい。
【0021】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記ノンハロゲン系絶縁電線を含んでなることを要旨とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るノンハロゲン系絶縁電線は、多層構造を有しており、最外層は、金属水和物などの難燃剤が高充填されていない特定の樹脂組成物よりなっている。そのため、金属水和物などの難燃剤を多量に含んだ難燃性樹脂組成物を1層被覆した従来の絶縁電線に比較して、この最外層を有する分、とりわけ耐摩耗性などの機械的特性に優れる。
【0023】
この際、本発明に係るノンハロゲン系絶縁電線は、最外層の内側に、1層以上からなる内層を有しており、これら内層のうち少なくとも1層が、特定の樹脂組成物よりなっている。
【0024】
そのため、十分な難燃性、耐摩耗性などの機械的特性、柔軟性および加工性を維持しつつ、他材料、特に、ハロゲン含有樹脂材料との協調性にも優れる。
【0025】
さらに、上記(D)亜鉛系化合物が硫化亜鉛である場合には、上記作用効果に一層優れる。また、最外層および/または内層が架橋されている場合には、上記作用効果に優れるとともに、耐熱性などにも優れる。
【0026】
また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記ノンハロゲン系絶縁電線を含んでいるので、電線束中における塩化ビニル系絶縁電線、ハロゲン系ワイヤーハーネス保護材、防水用のゴム栓やグロメットなどと接触する形態(近接する形態も含む)で使用された場合でも、ノンハロゲン系絶縁電線の被覆材が著しく劣化することなく、長期にわたって十分な耐熱性が発揮される。
【0027】
したがって、本発明に係るノンハロゲン系絶縁電線およびワイヤーハーネスを、自動車などに使用すれば、長期にわたり高い信頼性を確保することができる。また、他材料との協調性に優れるため、ノンハロゲン系絶縁電線およびワイヤーハーネスの設計・配策自由度も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下では、本実施形態に係るノンハロゲン系絶縁電線を「本電線」と、本実施形態に係るワイヤーハーネスを「本ワイヤーハーネス」ということがある。
【0029】
1.本電線
本電線は、導体の外周に内層が被覆され、内層の外周に最外層が被覆された多層構造を有している。
【0030】
1.1 導体
上記導体としては、単線の金属線、複数本の金属素線が撚り合わされたもの、複数本の金属素線が撚り合わされ、さらに圧縮されたものなどが挙げられる。また、その導体径や導体の材質などは、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。
【0031】
1.2 最外層
本電線において、最外層は、その厚さが10〜100μmの範囲内にある。好ましくは、15〜60μm、より好ましくは、20〜50μmの範囲内にあると良い。
【0032】
最外層の厚さが10μmよりも薄くなると、十分な耐摩耗性が得られ難くなる傾向が見られ、一方、100μmより厚くなると、十分な難燃性が得られ難くなる傾向が見られる。したがって、最外層の厚さは、これらに留意して決定すると良い。
【0033】
ここで、この最外層は、平均した密度が0.910g/cm以上となる1種以上のポリエチレンを含む外側樹脂組成物よりなっている。
【0034】
この外側樹脂組成物中に含まれるポリエチレンの種類としては、具体的には、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)などが挙げられる。
【0035】
これらは、全体として、平均した密度が0.910g/cm以上あれば、単独で用いても良いし、複数組み合わせて用いても良い。つまり、2種以上ブレンドする場合、ブレンド比率に対する密度平均が0.910g/cm以上あれば、その密度が0.910g/cm未満のポリエチレンを含んでいても良い。
【0036】
また、外側樹脂組成物中には、難燃性、耐摩耗性などの機械的特性、柔軟性、加工性、ハロゲン含有樹脂材料との協調性などを損なわない範囲内で、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリレート共重合体などの樹脂が1種または2種以上含まれていても良い。
【0037】
また、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤、亜鉛系化合物などの各種の添加剤が1種または2種以上含まれていても良い。
【0038】
1.3 内層
本電線において、内層は、1層のみからなっていても良いし、2層以上積層されていても良い。内層が、2層以上からなる場合、それら各層は、その材質、厚さなどがすべて同一であっても良いし、それぞれ異なっていても良い。
【0039】
但し、上記内層のうち、少なくとも1層は、特定の内側樹脂組成物よりなっている必要がある。なお、この内側樹脂組成物よりなる内層は、何れの層に位置していても良い。
【0040】
ここで、上記内側樹脂組成物は、
(A)メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下、密度が0.90g/cm以上のポリエチレン、
(B)下記(B1)〜(B4)から選択される少なくとも1種の重合体
(B1)α−オレフィン(共)重合体、(B2)エチレン−ビニルエステル共重合体、(B3)エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、(B4)スチレン系熱可塑性エラストマー、
を含む樹脂成分100重量部に対して、(C)金属水和物30〜250重量部と、(D)亜鉛系化合物1〜20重量部とを含む樹脂組成物であって、樹脂成分中の(A)ポリエチレンの含有率が30〜90重量%、(B)重合体の含有率が70〜10重量%であり、かつ、(B)重合体のうち少なくとも1種が酸により変性されている、および/または、(E)有機官能性カップリング剤0.3〜10重量部をさらに含んでいる。以下、内側樹脂組成物の各成分について説明する。
【0041】
内側樹脂組成物において、(A)成分とは、メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下、密度が0.90g/cm以上のポリエチレンである。具体的には、メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下、密度が0.90g/cm以上の高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらのうち、好ましくは、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などである。
【0042】
この際、メルトフローレイト(MFR)は、5g/10min以下、好ましくは、3g/10min以下、さらに好ましくは、2g/10min以下であることが望ましい。メルトフローレイト(MFR)が5g/10minを越えると、協調性などを満足しなくなる傾向が見られるからである。なお、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K 6760に準拠、または、JIS K 6760と同等の規格に準拠して測定される値である。
【0043】
内側樹脂組成物において、(B)成分とは、(B1)α−オレフィン(共)重合体、(B2)エチレン−ビニルエステル共重合体、(B3)エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体および(B4)スチレン系熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1種の重合体である。
【0044】
上記(B1)α−オレフィン(共)重合体とは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1テトラデセンなどのα−オレフィンの単独もしくは相互共重合体、または、エチレンとそれらα−オレフィンとの共重合体、あるいは、それらの混合物などである。
【0045】
なお、エチレンの単独重合体、すなわち、ポリエチレンを用いる場合、上記(A)成分のポリエチレンのようにメルトフローレイト(MFR)および密度は特に規定されるものではなく、任意のメルトフローレイト(MFR)および密度を有する高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)などを用いることができる。
【0046】
これらのうち、好ましくは、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン−プロピレン共重合体(EPM)などである。
【0047】
上記(B2)エチレン−ビニルエステル共重合体に用いられるビニルエステル単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらのうち、好ましくは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などである。
【0048】
上記(B3)エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体に用いられるα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらのうち、好ましくは、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体(EBA)などである。
【0049】
上記(B4)スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレンとブタジエン(またはスチレンとエチレン−プロピレン)のブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体などが挙げられる。具体的には、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)などが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらのうち、好ましくは、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)などである。
【0050】
上記(B)重合体のうち、少なくとも1種を酸により変性する場合、不飽和カルボン酸やその誘導体などを用いることができる。具体的には、不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸などが挙げられ、また、不飽和カルボン酸の誘導体としては無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、マレイン酸、無水マレイン酸などである。
【0051】
上記(B)重合体に酸を導入する方法としては、グラフト法や直接(共重合)法などが挙げられる。また、酸変成量としては、重合体に対して0.1〜20重量%、好ましくは、0.2〜10重量%、さらに好ましくは、0.2〜5重量%が望ましい。酸変性量が0.1重量%未満であると、耐摩耗性が低下する傾向が見られ、また、20重量%を越えると、成形加工性が悪化する傾向が見られるからである。
【0052】
上記(C)金属水和物は、難燃剤として用いるもので、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水和珪酸マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基または結晶水を有する化合物などが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらのうち、好ましくは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどである。難燃効果、耐熱効果が高く、経済的にも有利だからである。
【0053】
この際、用いる金属水和物の粒径は、種類によって異なるが、上記水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの場合、平均粒径(d50)が0.1〜20μm、好ましくは、0.2〜10μm、さらに好ましくは、0.3〜5μmの範囲内にあることが望ましい。平均粒径が0.1μm未満では、粒子同士の二次凝集が起こり、機械的特性が低下する傾向が見られるからであり、平均粒径が20μmを越えると、機械的特性が低下し、被覆材として用いた場合に、外観荒れなどが生じる傾向が見られるからである。
【0054】
また、粒子表面はカップリング剤(アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、アクリルシランなどのシラン系もしくはチタネート系など)または脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸など)などの表面処理剤により表面処理が施されていても良い。また、そのような表面処理を施さなくても、例えばインテグラルブレンド(配合剤として樹脂混合時に同時添加する)を行っても良く、特に限定されるものではない。なお、カップリング剤は1種または2種以上併用しても良い。
【0055】
上記(D)亜鉛系化合物としては、具体的には、硫化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛などが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらのうち、好ましくは、硫化亜鉛である。協調性に対する効果に優れるからである。
【0056】
なお、協調性は、主として、特定のメルトフローレイト(MFR)および密度により規定される(A)成分のポリエチレンと、(D)成分の亜鉛系化合物とを使用することにより発揮される。例えば、(A)成分のポリエチレンに代えて、同じポリオレフィンである、ポリプロピレンを使用しても、協調性が全くないか、十分な協調性を得ることはできない。
【0057】
上記(E)有機官能性カップリング剤としては、ビニルシラン、アクリルシラン、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤などが挙げられる。これらは1種または2種以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、ビニルシラン、アクリルシランである。
【0058】
内側樹脂組成物において、(A)成分と(B)成分とを含む樹脂成分100重量部中における(A)成分と(B)成分のそれぞれの含有率は、(A)成分が30〜90重量%、(B)成分が70〜10重量%の範囲内にあり、好ましくは、(A)成分が40〜90重量%、(B)成分が60〜10重量%の範囲内、さらに好ましくは、(A)成分が50〜80重量%、(B)成分が50〜20重量%の範囲内にあると良い。
【0059】
(A)成分の含有率が30重量%未満、(B)成分の含有率が70重量%を越えると、耐摩耗性などが低下する傾向が見られ、(A)成分の含有率が90重量%を越え、(B)成分の含有率が10重量%未満になると、柔軟性、加工性などが低下する傾向が見られるからである。
【0060】
内側樹脂組成物において、上記(C)金属水和物の含有量は、(A)成分と(B)成分とを含む樹脂成分100重量部に対して、30〜250重量部、好ましくは、50〜200重量部、さらに好ましくは、60〜180重量部である。
【0061】
(C)金属水和物の含有量が、30重量部未満になると、難燃性などが低下する傾向が見られ、250重量部を越えると、柔軟性、加工性などが低下する傾向が見られるからである。
【0062】
内側樹脂組成物において、(E)有機官能性カップリング剤をさらに含有させる場合、その含有量は、(A)成分と(B)成分とを含む樹脂成分100重量部に対して、0.3〜10重量部、好ましくは、0.4〜8重量部、さらに好ましくは、0.5〜4重量部である。
【0063】
(E)有機官能性カップリング剤の含有量が、0.3重量部未満になると、耐摩耗性が向上せず、10重量部を越えると、有機官能性カップリング剤のブリードアウトなどが発生したり、加工性などが低下したりする傾向が見られるからである。
【0064】
以上、内側樹脂組成物における各成分について説明したが、この内側樹脂組成物中には、必要に応じて、一般に添加される添加剤、例えば、熱安定剤(酸化防止剤、老化防止剤など)、金属不活性剤(銅害防止剤など)、滑剤〔脂肪酸系、脂肪酸アマイド系、金属せっけん系、炭化水素系(ワックス系)、エステル系、シリコン系など〕、光安定剤、造核剤、帯電防止剤、着色剤、難燃助剤(シリコン系、窒素系、ホウ酸亜鉛など)、カップリング剤(シラン系、チタネート系など)、柔軟剤(プロセスオイルなど)、架橋剤、架橋助剤(多官能モノマーなど)などが1種または2種以上添加されていても良い。
【0065】
なお、内側樹脂組成物は、架橋助剤を必須成分として含有していない。これは、架橋助剤を含有していなくとも架橋が可能であるためである。もっとも、架橋性を高める観点から、架橋助剤を含有させることが望ましいといえる。
【0066】
また、内層が2層以上からなる場合、内側樹脂組成物よりなる内層以外の内層には、本電線の必要物性を損なわない範囲内の物性を有するノンハロゲン系難燃性樹脂組成物などを用いることができる。
【0067】
以上、本電線の基本的構成について説明した。本電線は、導体径や被覆材全体の厚さなど、特に限定されるものではないが、通常、電線外径は、φ5mm以下、好ましくは、φ4mm以下、内層および最外層を合わせた被覆材の厚さは、0.8mm以下、好ましくは、0.7mm以下とし、細径、薄肉化電線として好適に用いることができる。
【0068】
また、上記最外層および/または内層は、耐熱性をより向上させるなどの観点から、放射線、過酸化物、シラン系架橋剤などにより架橋されていても良い。
【0069】
また、本電線において、最外層は、内層の外周に直接被覆されていても良いし、内層と最外層との間に、他の中間部材、例えば、編組や金属箔などのシールド導体などが介在され、この介在物の外周に被覆されていても良い。
【0070】
2.本電線の製造方法
本電線の製造方法としては、一般に知られる手法を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、先ず、各成分と、必要に応じて他の成分や添加剤など任意に配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、もしくは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散し、外側樹脂組成物および内側樹脂組成物を作製する。
【0071】
次いで、例えば、導体の外周に、押出成形機を用いて、内側樹脂組成物を任意の厚さで被覆し、この内層の外周に、外側樹脂組成物を規定の厚さとなるように被覆すれば、本電線を得ることができる。また、得られた本電線に対し、任意で放射線などを照射するなどすれば、被覆材中に架橋を形成することができる。
【0072】
3.本ワイヤーハーネス
本ワイヤーハーネスは、本電線単独からなる単独電線束または本電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束が、ワイヤーハーネス保護材により被覆されてなる。
【0073】
ここで、塩化ビニル系絶縁電線は、塩化ビニル樹脂組成物を被覆材の材料として用いたものである。ここで、塩化ビニル樹脂とは、塩化ビニル単量体を主成分とする樹脂をいい、この樹脂は、塩化ビニルの単独重合体であっても良いし、他の単量体との共重合体であっても良い。具体的な塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル、エチレン塩化ビニル共重合体、プロピレン塩化ビニル共重合体などが挙げられる。
【0074】
なお、塩化ビニル系絶縁電線の被覆材以外の構成や電線の製造方法については、上述した本電線とほぼ同様であるので説明は省略する。
【0075】
また、上記単独電線束とは、本電線のみがひとまとまりに束ねられた電線束をいう。一方、混在電線束とは、本電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含み、これら電線が混在状態でひとまとまりに束ねられた電線束をいう。この際、単独電線束および混在電線束に含まれる各電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0076】
また、上記ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。
【0077】
このワイヤーハーネス保護材を構成する基材として、ノンハロゲン系樹脂組成物、塩化ビニル樹脂組成物または当該塩化ビニル樹脂組成物以外のハロゲン系樹脂組成物などを好適に用いることができる。
【0078】
ノンハロゲン系樹脂組成物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリオレフィンに、ノンハロゲン系難燃剤などの各種添加剤を添加してなるポリオレフィン系難燃性樹脂組成物などが挙げられる。
【0079】
また、塩化ビニル樹脂組成物としては、上述した塩化ビニル系絶縁電線材料として説明したものなどが挙げられる。
【0080】
また、塩化ビニル樹脂組成物以外のハロゲン系樹脂組成物としては、上記ポリオレフィンにハロゲン系難燃剤などの各種添加剤を添加したものなどが挙げられる。
【0081】
なお、基材に用いられるこれらの樹脂組成物は、必要に応じて、シラン系架橋剤などの架橋剤や電子線照射などにより架橋されていても良い。
【0082】
また、このワイヤーハーネス保護材の形態としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどが挙げられ、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0083】
ここで、本ワイヤーハーネスは、上述した電線束の種類とワイヤーハーネス保護材の種類により、次のような組み合わせのワイヤーハーネスを含んでいる。
【0084】
すなわち、本ワイヤーハーネスは、本電線単独からなる単独電線束を塩化ビニル系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、本電線単独からなる単独電線束をノンハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、本電線単独からなる単独電線束をハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、本電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束を塩化ビニル系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、本電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束をノンハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネス、本電線と塩化ビニル系絶縁電線とを少なくとも含んでなる混在電線束をハロゲン系ワイヤーハーネス保護材により被覆したワイヤーハーネスを含んでいる。
【実施例】
【0085】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0086】
(供試材料および製造元など)
本実施例において使用した供試材料を製造元、商品名、物性値などとともに示す。
【0087】
(最外層)
・ポリエチレン<1>(PE<1>)[日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックHD HY530」、密度ρ=0.959g/cm
・ポリエチレン<2>(PE<2>)[日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックLL UF840」、密度ρ=0.930g/cm
・ポリエチレン<3>(PE<3>)[日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックLD ZF33」、密度ρ=0.920g/cm
・ポリエチレン<4>(PE<4>)[デュポン ダウ エラストマー ジャパン(株)製、商品名「エンゲージ8003」、密度ρ=0.885g/cm
・架橋助剤[新中村化学工業(株)製、商品名「TMPTMA」]
・フェノール系酸化防止剤[チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名「Irganox1010」]
【0088】
(内層)
(A)成分
・高密度ポリエチレン<1>(HDPE<1>)[日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックHD HY331」、MFR=1.0g/10min(JIS K 6760)、密度ρ=0.950g/cm
・直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)[日本ユニカー(株)製、商品名「DFDJ7540」、MFR=0.8g/10min(JIS K 6760)、密度ρ=0.930g/cm
【0089】
(B)成分
(B1)成分
・高密度ポリエチレン<2>(HDPE<2>)[日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックHD HJ381」、MFR=11g/10min(JIS K 6760)、密度ρ=0.950g/cm
・超低密度ポリエチレン(VLDPE)[デュポン ダウ エラストマー ジャパン(株)製、商品名「エンゲージ8003」、MFR=1.0g/10min(ASTM D−1238)、密度0.890g/cm
・変性高密度ポリエチレン(変性HDPE)[三井化学(株)製、商品名「アドマーHE040」]
・変性直鎖状低密度ポリエチレン(変性LLDPE)[三井化学(株)製、商品名「アドマーNF558」]
・変性超低密度ポリエチレン(変性VLDPE)[三井化学(株)製、商品名「アドマーXE070」]
・エチレン−プロピレン共重合体(EPM)[JSR(株)製、商品名「EP961SP」]
・変性エチレン−プロピレン共重合体(変性EPM)[JSR(株)製、商品名「T7741P」]
【0090】
(B2)成分
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「EVAFLEX EV360」]
・変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(変性EVA)[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「HPR VR103」]
【0091】
(B3)成分
・エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「EVAFLEX−EEA A−714」]
【0092】
(B4)成分
・スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)[旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「タフテックH1041」]
・スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)[(株)クラレ製、商品名「セプトン2004」]
・変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(変性SEBS)[旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「タフテックM1913」]
【0093】
(C)成分
・水酸化マグネシウム[マーティンスベルグ(株)製、商品名「マグニフィンH10」、平均粒径約1.0μm]
【0094】
(D)成分
・硫化亜鉛<1>[和光純薬工業(株)製、試薬]
・硫化亜鉛<2>[Sachtleben製、商品名「Sachtolith HD」]
【0095】
(E)成分
・アクリルシラン系カップリング剤[GE東芝シリコーン(株)製、商品名「TSL8370」]
・ビニルシラン系カップリング剤[信越化学工業(株)製、商品名「KBM1003」]
【0096】
その他の成分
・フェノール系酸化防止剤[チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名「Irganox1010」]
・イオウ系酸化防止剤[シプロ化成(株)製、商品名「Seenox412S」]
・リン系酸化防止剤[チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名「Irgafos168」]
・金属不活性剤[旭電化工業(株)製、商品名「CDA−1」]
・架橋助剤[新中村化学工業(株)製、商品名「TMPTMA」]
【0097】
比較成分
・高密度ポリエチレン<2>(HDPE<2>)[日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックHD HJ381」、MFR=11g/10min(JIS K 6760)、密度ρ=0.950g/cm
・ポリプロピレン(PP)[日本ポリプロ(株)製、商品名「ノバテックEC9」、MFR=0.5g/10分(JIS K 6758)、密度0.90g/cm
・酸化亜鉛[ハクスイテック(株)製、商品名「亜鉛華2種」]
・アクリル酸亜鉛[川口化学工業(株)製、商品名「アクターZA」]
・ホウ酸亜鉛[BOLAX(株)製、商品名「ファイヤーブレイクZB」]
なお、上記高密度ポリエチレン<2>(HDPE<2>)は、本発明における(A)成分から見れば比較成分であるが、(B)成分から見れば、(B1)成分に該当する。
【0098】
(外側および内側樹脂組成物ならびに絶縁電線の作製)
初めに、二軸押出機を用いて、後述する表に示す各成分を混練し、実施例および比較例に係る絶縁電線に用いる、外側樹脂組成物、内側樹脂組成物のコンパウンド(ペレット)を作製した。
【0099】
次いで、得られた各ペレットを乾燥させた後、押出成形機により、サイズ0.50fmm(19/0.19)の導体の外周に内側樹脂組成物を1層被覆して内層を形成し、さらにこの内層の外周に外側樹脂組成物を被覆して最外層を形成した。この際、内層および最外層を合わせた被覆厚さは0.28mmとした。また、最外層の厚さは、後述する表に記載の通りである。また、各電線の外径はφ1.53mmである。
【0100】
次いで、得られた各絶縁電線に電子線照射を施し、本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線および比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線を作製した。なお、上記電子線の照射量は80kGyとした。
【0101】
(試験方法)
以上のように作製した本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線および比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線について、難燃性試験、耐摩耗性試験<1>、耐摩耗性試験<2>、柔軟性試験、加工性試験および協調性試験を行った。以下に各試験方法および評価方法について説明する。
【0102】
(難燃性試験)
JASO D611に準拠して行った。すなわち、本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線、比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線を300mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、各試験片を鉄製試験箱に入れて水平に支持し、口径10mmのブンゼンバーナーを用いて還元炎の先端を試験片中央部の下側から30秒以内で燃焼するまで当て、炎を静かに取り去った後の残炎時間を測定した。この残炎時間が15秒以内のものを合格とし、15秒を超えるものを不合格とした。
【0103】
(耐摩耗性試験<1>)
JASO D611に準拠し、ブレード往復法により行った。すなわち、本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線、比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、25℃の室温下にて、台上に固定した試験片の被覆材の表面を軸方向に10mmの長さにわたってブレードを往復させ、被覆材の摩耗によってブレードが導体に接触するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかける荷重は7Nとし、ブレードは毎分50回の速度で往復させた。次いで、試験片を100mm移動させて、時計方向に90℃回転させ、上記の測定を繰り返した。この測定を同一試験片について合計3回行い、最低値が300回以上のものを合格とし、300回未満のものを不合格とした。
【0104】
(耐摩耗性試験<2>)
本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線、比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線をそれぞれコルゲートチューブに挿通し、周波数30Hz、加速度44.0m/s、温度100℃、240時間の条件下にて、振動を加えた。このとき、被覆材が摩耗して導体が露出しなかったものを合格とし、導体が露出したものを不合格とした。
【0105】
(柔軟性試験)
本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線、比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線を手で折り曲げた際の手感触により判断した。すなわち、触感が良好のものを合格とし、良好でないものを不合格とした。
【0106】
(加工性試験)
本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線または比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線の端末部分の被覆材を皮剥した際に、ヒゲが形成されるか否かを確認した。ヒゲが形成されなかったものを合格とし、ヒゲが形成されたものを不合格とした。
【0107】
(協調性試験)
以下の条件A、条件Bの試験を行い、両条件ともに合格の場合に、協調性試験合格とした。
<条件A>
被覆材としてポリ塩化ビニル(PVC)を導体の外周に押出被覆してなるPVC電線10本と、本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線または比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線3本とをランダムに束ねて混在電線束とした。次いで、この混在電線束の外周に、ワイヤーハーネス保護材としてのPVCシートを被覆した後、さらにこのPVCシートの端部に、ワイヤーハーネス保護材としてのPVCテープを5回巻き付け、ワイヤーハーネスを作製した。次いで、このワイヤーハーネスを130℃×480時間の条件下で老化させた後、混在電線束中より本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線または比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線を取り出し、自己径巻き付けにより3本とも被覆材に亀裂が生じないものを合格とし、3本のうち1本でも亀裂が生じたものを不合格とした。
<条件B>
PVC電線3本と、本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線または比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線10本とをランダムに束ねて混在電線束とした。次いで、この混在電線束の外周に、ワイヤーハーネス保護材としてのPVCシートを被覆した後、さらにこのPVCシートの端部に、ワイヤーハーネス保護材としてのPVCテープを5回巻き付け、ワイヤーハーネスを作製した。次いで、このワイヤーハーネスを130℃×480時間の条件下で老化させた後、混在電線束中より本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線または比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線を取り出し、自己径巻き付けにより10本とも被覆材に亀裂が生じないものを合格とし、10本のうち1本でも亀裂が生じたものを不合格とした。
【0108】
以下の表1〜4に、本実施例に係るノンハロゲン系絶縁電線、比較例に係るノンハロゲン系絶縁電線における最外層、内層用の樹脂組成物の成分配合および評価結果を示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
上記表3および4によれば、比較例に係るノンハロゲン系電線およびワイヤーハーネスは、難燃性、耐摩耗性<1>、耐摩耗性<2>、柔軟性、加工性および協調性の評価項目のうち、何れかに難点があることが分かる。
【0114】
すなわち、より具体的には、比較例1は、最外層の厚さが規定値よりも薄い(最外層が全くない場合も同様)、(A)成分および(B)成分の割合が規定範囲内にないので、耐摩耗性<1>、<2>を満足しない。
【0115】
また、比較例2は、最外層の厚さが規定値よりも厚い、(A)成分および(B)成分の割合が規定範囲内にないので、難燃性、柔軟性、加工性を満足しない。
【0116】
また、比較例3および比較例4は、(C)成分の金属水和物の割合が規定範囲内にないので、難燃性、もしくは、柔軟性および加工性を満足しない。
【0117】
また、比較例5は、(B)成分の重合体がいずれも酸により変性されておらず、かつ、(E)成分として有機官能性カップリング剤を全く含んでいないので、耐摩耗性<1>、<2>を満足しない。
【0118】
また、比較例6および比較例7は、(E)成分として有機官能性カップリング剤を含んでいるものの、その割合が規定範囲内にないので、耐摩耗性<1>、もしくは、加工性を満足しない。
【0119】
また、比較例8〜比較例14は、(D)成分として適切な亜鉛系化合物を含んでいないか、もしくは、その割合が規定範囲内にないので、協調性を満足しない。
【0120】
また、比較例15〜比較例17は、(D)成分として適切な亜鉛系化合物を用いていないので、協調性を満足しない。
【0121】
また、比較例18は、(A)成分として、MFRが5g/10min以下、密度が0.90g/cm以上のポリエチレンを用いていないので、協調性を満足しない。
【0122】
また、比較例19および比較例20は、(A)成分として、MFRが5g/10min以下、密度が0.90g/cm以上のポリエチレンを用いず、代わりにポリプロピレンを用いており、(D)成分として適切な亜鉛系化合物を含んでいないので、協調性を満足しない。
【0123】
また、比較例21および比較例22は、(D)成分として適切な亜鉛系化合物を含んでいるが、比較例19および比較例20と同様に、(A)成分としてポリプロピレンを用いているので、協調性を満足しない。
【0124】
これらに対して、上記表1および2によれば、本実施例に係るノンハロゲン系電線およびこれを用いたワイヤーハーネスは、難燃性、耐摩耗性<1>、<2>、柔軟性、加工性および協調性の全てに優れることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に1層以上からなる内層が被覆され、前記内層の外周に最外層が被覆されたノンハロゲン系絶縁電線であって、
前記最外層の厚さは、10〜100μmの範囲内にあり、
前記最外層は、平均した密度が0.910g/cm以上となる1種以上のポリエチレンを含む樹脂組成物よりなり、
前記内層のうち少なくとも1層は、
(A)メルトフローレイト(MFR)が5g/10min以下、密度が0.90g/cm以上のポリエチレン、
(B)下記(B1)〜(B4)から選択される少なくとも1種の重合体
(B1)α−オレフィン(共)重合体、(B2)エチレン−ビニルエステル共重合体、(B3)エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、(B4)スチレン系熱可塑性エラストマー、
を含む樹脂成分100重量部と、
(C)金属水和物30〜250重量部と、
(D)亜鉛系化合物1〜20重量部とを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂成分中の(A)ポリエチレンの含有率が30〜90重量%、(B)重合体の含有率が70〜10重量%であり、かつ、
前記(B)重合体のうち少なくとも1種が酸により変性されている、および/または、(E)有機官能性カップリング剤0.3〜10重量部をさらに含む樹脂組成物よりなることを特徴とするノンハロゲン系絶縁電線。
【請求項2】
前記(D)亜鉛系化合物は、硫化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン系絶縁電線。
【請求項3】
前記最外層および/または前記内層は、架橋されていることを特徴とする請求項1または2に記載のノンハロゲン系絶縁電線。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載のノンハロゲン系絶縁電線を含んでなることを特徴とするワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2006−310093(P2006−310093A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131341(P2005−131341)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】