説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物およびそれを用いた電線・ケーブル

【課題】 ハロゲン系難燃剤を含有することなく、PVC電線と同等の難燃性を示し、かつ、機械物性、耐熱性、耐加熱変形性などに優れた被覆層を形成することができると共に加熱巻き付け試験にも適合する難燃性樹脂組成物及びこの難燃性樹脂組成物を被覆層として用いた電線・ケーブルを提供すること。
【解決手段】 樹脂成分100質量部に対して窒素系難燃剤を5〜70質量部含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、前記樹脂成分100質量部中に、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂又はこれらの混合物が20〜50質量部、ポリフェニレンエーテル系樹脂20〜50質量部、及びスチレン系エラストマー30〜60質量部を含有することをことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線などの被覆層として好適に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いた電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタなどのOA機器、電子機器の内部配線では、プリント基板間やプリント基板とセンサー、アクチュエータ、モータ等の電子部品間で給電や信号電送を行うワイヤーハーネスが多量に使用されている。
【0003】
ワイヤーハーネスとは、複数本の電線やケーブルを束ねて端末に挿抜可能なコネクタ等の端子を組み付けしたものである。難燃性、電気絶縁性等の点から、ワイヤーハーネス用の電線には絶縁材料としてポリ塩化ビニル(PVC)を適用したPVC電線が使用されている。PVC電線は柔軟性に優れるので、ワイヤーハーネスとした場合も取り回し性が良く、また充分な強度を有しているので、ワイヤーハーネスの配線中に絶縁体が破れたり摩耗したりする問題が無く、更に端末に取り付ける圧接コネクタの取り付け作業性にも優れている。
【0004】
しかし、PVC電線にはハロゲン元素が含まれるため、使用後のワイヤーハーネスを焼却処理を行う場合に塩化水素系の有毒ガスが発生したり、また焼却条件によってはダイオキシンを発生するという問題があり、環境負荷の低減が求められる中PVCは絶縁材料として好ましい材料とはいえない。
【0005】
近年、環境負荷の低減に対する要求の高まりに応えるために、ポリ塩化ビニル樹脂やハロゲン系難燃剤を含有しない被覆材料を用いたハロゲンフリー電線が開発されている。他方、電子機器の機内配線に使用する絶縁電線や絶縁ケーブルなどの電線には、一般に、UL(Underwriters Laboratories inc.)規格に適合する諸特性を有することが求められている。UL規格には、製品が満たすべき難燃性、加熱変形性、低温特性、被覆材料の初期と熱老化後の引張特性などの諸特性について詳細に規定されている。これらの中でも、難燃性については、VW−1試験と称される垂直燃焼試験に合格する必要があり、UL規格の中で最も厳しい要求項目の1つとなっている。
【0006】
一般に、ハロゲンフリー電線の被覆材料としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂に水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物(金属水和物ともいう)を配合して難燃化した樹脂組成物が使用されている。しかし、垂直燃焼試験VW−1に合格させるためには、ポリオレフィン樹脂中に多量の金属水酸化物を配合する必要がある。その結果、被覆材料の柔軟性や伸びが著しく損なわれてしまうとともに、押出成形等の成形加工性も低下するという問題がある。
【0007】
このため、特開2002−105255号公報(特許文献1)にはポリプロピレン樹脂にエチレンプロピレンゴムやスチレンブタジエンゴム等のエラストマーを配合した熱可塑性樹脂成分に対して、金属水和物を加熱・混練した難燃性樹脂組成物が開示されている。エラストマーを配合することでフィラー受容性を高めることができ、またこれらのエラストマーを動的加硫することで、柔軟性、伸び等の機械的物性と押出加工性及び難燃性のバランスを取ることが検討されている。しかし、このような材料はPVCと比べると耐摩耗性や耐エッジ性が悪く、これらの特性を向上させようとすると柔軟性が低下して特性のバランスを失うという問題があった。
【0008】
一方、特許文献2に記載されているポリフェニレンエーテル樹脂や特許文献3に記載されているポリフェニレンサルファイド樹脂を被覆材料に使用した高強度のノンハロゲン電線も提案されている。これらの樹脂は難燃性と強度の点では優れるが柔軟性に乏しく、また押出加工温度が高いという欠点がある。
【特許文献1】特開2002−105255号公報
【特許文献2】特開平11−189685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の理由から、PVCと同等の難燃性、柔軟性、及び耐摩耗性、耐エッジ性等の機械的強度に優れ、かつ環境負荷の低減に役立つノンハロゲン電線が望まれている。本発明者は、まず、ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物と窒素系難燃剤を組み合わせることで上記課題を解決できることを見いだした。
【0010】
しかし電線に求められる特性は更に厳しくなっており、UL規格のみでなくCSA(Canadian Standards Association)規格にも適合する諸特性を有することが求められている。CSA規格の試験項目として加熱巻き付け試験があり、電線を2倍径の丸棒に巻き付けて高温で放置した際に被覆層にクラック発生が起こらないということが必要であるが、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物では加熱巻き付け試験でクラックが発生し、CSA規格に適合しない場合がある。
【0011】
本発明は、PVCと同等の難燃性、柔軟性、及び耐摩耗性、耐エッジ性等の機械的強度に優れ、かつ環境負荷の低減に役立つと共に、さらに加熱巻き付け試験にも適合するノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びこの難燃性樹脂組成物を被覆層として用いた電線・ケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、樹脂成分100質量部に対して窒素系難燃剤を5〜70質量部含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、前記樹脂成分100質量部中に、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂又はこれらの混合物が20〜50質量部、ポリフェニレンエーテル系樹脂20〜50質量部、及びスチレン系エラストマー30〜60質量部を含有することをことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物である(請求項1)。
【0013】
ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物は、常温において弾性率が高く硬いポリフェニレンエーテル系樹脂を島に、伸びが大きく柔らかいスチレン系エラストマーを海とする海島構造を持つポリマーアロイであると推定される。異なる特性を持つ樹脂をアロイ化することで、耐摩耗性、耐エッジ性等の機械的強度と柔軟性を両立することができる。
【0014】
ポリフェニレンエーテル系樹脂はガラス転移温度が200℃以上の非晶性材料であり、ガラス転移温度より低い温度では弾性率を保った(硬い)状態である。これに対し、スチレン系エラストマーのポリスチレンブロックはガラス転移温度が90℃〜100℃の非晶性材料であり、ガラス転移温度以上では溶融状態となる。このため、この非晶性2成分のポリマーアロイは、温度約100℃〜200℃では溶融状態の海の中に硬い島が分散した状態と推定され、この状態で伸張されると容易に破断する。この温度範囲内で加熱巻き付け試験を行うと、材料の高温伸びが失われているため、電線表面にクラックが発生すると推定される。
【0015】
ここにポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂又はこれらの混合物を更に添加すると3成分以上のポリマーアロイとなる。ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂のガラス転移温度は概ね20℃〜80℃であり、加熱巻き付け試験温度である121℃よりも低い。しかし共に結晶性樹脂であるため、ガラス転移温度以上の温度であっても適度な弾性率を保ち、柔軟性、伸張性を保持することができる。また、スチレン系エラストマーとの相溶性が比較的高く、スチレン系エラストマー中に均一に分散させることができれば全体として高温伸び、強度が発現する。その結果、スチレン系エラストマーのガラス転移温度より高温での加熱巻き付け試験におけるクラック発生を防止できる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記スチレン系エラストマーが、スチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。スチレン系エラストマーがスチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーであることにより、押出加工性に優れる樹脂組成物が得られる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂を使用することで、押出加工性が向上する。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の荷重たわみ温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。ポリフェニレンエーテル系樹脂の荷重たわみ温度が130℃以上であることにより機械強度の大きい電線の被覆層が得られる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記スチレン系エラストマーの一部として、官能基を持つスチレン系エラストマーを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。官能基を持つスチレン系エラストマーは相溶化剤として働く。相溶化剤を加えることにより、前記ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂とスチレン系エラストマーとが良好に混合し、高温伸び特性が向上する。特にポリアミド樹脂は相溶化剤との併用が望ましい。
【0020】
請求項6に記載の発明は、前記窒素系難燃剤がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。
窒素系難燃剤としてメラミンシアヌレートを使用することにより混合時の熱安定性が向上し、また難燃性も向上する。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆層として用いたことを特徴とする電線・ケーブルである。本発明により、難燃性、柔軟性、機械的特性及び高温特性に優れたノンハロゲン絶縁電線が得られる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、前記被覆層の厚みが0.3mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の電線・ケーブルである。絶縁被覆層の厚みが0.3mm以下と薄い場合には、耐摩耗性、耐エッジ性等の機械的特性において、従来技術による電線との差が顕著となり、優れた効果を発揮する。
【0023】
請求項9に記載の発明は、前記被覆層が電離放射線の照射により架橋されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の電線・ケーブルである。被覆層が架橋されていることで、耐熱性や機械的強度が向上する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、PVCと同等の難燃性、柔軟性及び耐摩耗性や耐エッジ性等の機械的強度に優れ、かつ環境負荷の低減に役立つと共に、さらに加熱巻き付け試験にも適合するノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びこれを用いた電線・ケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に本発明を実施するための最良の形態について説明する。ポリフェニレンエーテルは、メタノールとフェノールを原料として合成される2,6−キシレノールを酸化重合させて得られるエンジニアリングプラスチックである。またポリフェニレンエーテルの成形加工性を向上させるため、ポリフェニレンエーテルにポリスチレンを溶融ブレンドした材料が変性ポリフェニレンエーテル樹脂として各種市販されている。本発明に用いるポリフェニレンエーテル系樹脂としては、上記のポリフェニレンエーテル樹脂単体、及びポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂のいずれも使用することができる。また無水マレイン酸等のカルボン酸を導入したものを適宜ブレンドして使用することもできる。
【0026】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としてポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂を使用すると、スチレン系エラストマーとの溶融混合時の作業性が向上し好ましい。ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂はスチレン系エラストマーとの相溶性に優れるため、押出加工時の樹脂圧が低減し、押出加工性が向上する。
【0027】
このようなポリフェニレンエーテル系樹脂においては、ポリスチレンのブレンド比率に応じて加重たわみ温度が変化するが、荷重たわみ温度が130℃以上のものを使用すると電線被膜の機械的強度が大きくなり、また熱変形特性が優れるため好ましい。なお荷重たわみ温度はISO75−1、2の方法により、荷重1.80MPaで測定した値とする。
【0028】
ポリフェニレンエーテル系樹脂としてポリスチレンをブレンドしていないポリフェニレンエーテル樹脂も使用できる。この場合、低粘度のポリフェニレンエーテル樹脂を使用すると、機械的強度を保持しつつ押出加工時の樹脂圧を低減することができる。ポリフェニレンエーテル系樹脂の固有粘度としては0.1〜0.6dl/gが好ましく、更に好ましい範囲は0.3〜0.5dl/gである。
【0029】
本発明に使用するスチレン系エラストマーとしては、スチレン・エチレンブテン・スチレン共重合体、スチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体、スチレン・ブチレン・スチレン共重合体等が挙げられ、これらの水素添加ポリマーや部分水素添加ポリマーを例示できる。また無水マレイン酸等のカルボン酸を導入したものを適宜ブレンドして使用することもできる。
【0030】
この中でも、スチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーを使用すると、押出加工性が向上することに加え、引張破断伸びが向上し、また耐衝撃性が向上するなどの点で好ましい。またブロック共重合体として、水素化スチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体やスチレン・イソブチレン・スチレン系共重合体等のトリブロック型共重合体、及びスチレン・エチレン共重合体、スチレン・エチレンプロピレン等のジブロック型共重合体を使用することができ、スチレン系エラストマー中トリブロック成分が50重量%以上含まれていると、電線被膜の強度及び硬度が向上するため好ましい。
【0031】
またスチレン系エラストマー中に含まれるスチレン含有量が20重量%以上のものが機械特性、難燃性の点から好適に使用できる。スチレン含有量が20重量%より少ないと硬度や押出加工性が低下する。またスチレン含有量が50重量%を超えると引張破断伸びが低下するため好ましくない。
更に、分子量の指標となるメルトフローレート(「MFR」と略記;JIS K 7210に従って、230℃×2.16kgfで測定)が0.8〜15g/10minの範囲であることが好ましい。メルトフローレートが0.8g/10minより小さいと押出加工性が低下し、また15g/10minを超えると機械強度が低下するからである。
【0032】
ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂としては、6−ナイロン樹脂、12−ナイロン樹脂、6,6−ナイロン樹脂、6−12ナイロン樹脂、MXD−6樹脂(半芳香族ナイロン)、脂肪族ナイロン/6−Tナイロン樹脂(半芳香族ナイロン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂等が好ましく使用できる。特に6−ナイロン樹脂、PBT樹脂は融点がポリフェニレンエーテルのガラス転移温度に近く、押出加工性が良いため好ましく使用できる。これらの樹脂は単独で添加しても良いが、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂のポリマーアロイとして市販されている樹脂を使用することもできる。
【0033】
ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂又はこれらの混合物、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系エラストマー、及びポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂は任意の比率で溶融混合することが可能であるが、電線の可撓性やハーネスとしての取り回し性の点から、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂又はこれらの混合物は樹脂成分全体の20〜50質量部、ポリフェニレンエーテル系樹脂は樹脂成分全体の20〜50質量部、スチレン系エラストマーは樹脂成分全体の30〜60質量部とすることが好ましい。ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が50質量部を超えると押出加工性が低下し、また20重量部より少ないと機械的強度や難燃性が低下する。ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂又はこれらの混合物のさらに好ましい含有量は、25質量部〜40質量部である。
【0034】
さらに、相溶化剤として、官能基を持つスチレン系エラストマーを含有すると、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂とスチレン系エラストマーの密着力が向上して高温特性を向上することができる。官能基としてはエポキシ基、オキサゾリン基、酸無水物基、カルボキシル基等が例示され、樹脂の種類に合わせて適宜選択できる。相溶化剤の含有量は樹脂成分100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、さらに好ましい範囲は1〜10重量部である。
【0035】
さらに樹脂成分としては、本発明の趣旨を損なわない範囲でポリプロピレン、ポリエチレン等の各種樹脂を混合することが可能である。ポリエチレン及びランダムポリプロピレンを混合した樹脂組成物は、加速電子線やガンマ線等の電離放射線の照射により架橋することができるため、耐熱性の向上が必要な場合に好適である。
【0036】
本発明に使用する窒素系難燃剤としては、メラミン樹脂、メラミンシアヌレート等を例示できる。窒素系難燃剤は使用後に焼却処理してもハロゲン化水素等の有毒ガスが発生せず、環境負荷の低減を図ることができる。窒素系難燃剤としてメラミンシアヌレートを使用すると混合時の熱安定性や難燃性向上効果の面で好ましい。
【0037】
メラミンシアヌレートは、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤で表面処理して使用することも可能である。表面処理したメラミンシアヌレートと、カルボン酸を導入したポリフェニレンエーテル系樹脂やスチレン系エラストマーとを組み合わせることにより、耐摩耗性や機械的強度を向上させることができる。
【0038】
前記窒素系難燃剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して5〜70質量部とすることが好ましい。5質量部を下回ると絶縁電線の難燃性が不充分であり、また70質量部を超えると伸びや押出加工性が低下するからである。窒素系難燃剤の含有量は10〜40質量部がさらに好ましい。
【0039】
また本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物はリン系難燃剤を実質的に含まないことが好ましい。リン系難燃剤を実質的に含まないことにより、河川の富栄養化等の環境負荷を低減することができる。なお、実質的に含まない、とはリン酸エステル等の難燃剤を積極的に添加しないことを意味し、原料樹脂や添加剤に由来する微量のリン成分が含まれているものを本発明の範囲から排除するものではない。
【0040】
更に本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物には架橋助剤を添加することができる。架橋助剤としてはトリメチロールプロパントリメタクリレートやトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の分子内に複数の炭素−炭素二重結合を持つ多官能性モノマーが好ましく使用できる。また架橋助剤は常温で液体であることが好ましい。液体であるとポリフェニレンエーテル系樹脂やスチレン系エラストマーとの混合がしやすいからである。更に架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを使用すると、樹脂への相溶性が向上し、好ましい。
【0041】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物には、必要に応じて酸化防止剤、加工安定剤、着色剤、重金属不活性化材、発泡剤、多官能性モノマー等を適宜混合することができ、これらの材料を短軸押出型混合機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等の既知の溶融混合機を用いて混合して作成することができる。
【0042】
更に本発明は、上記のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆層として用いた電線・ケーブルを提供する。本発明にかかる電線・ケーブルは、導体と、導体を被覆する被覆層とから成り、導体上に被覆層を形成するには、既知の押出成形機を用いることができる。
【0043】
被覆層の厚みは、導体径に応じて適宜選択することができるが、被覆層の厚みを0.3mm以下とすると、機械的強度の面で好ましい。従来技術によるハロゲンフリー電線では、被覆層の厚みが0.3mm以下の場合、耐摩耗性や耐エッジ性において性能が著しく低下するが、本発明によると被覆層の厚みが0.3mm以下でも優れた性能が得られ、従来技術による電線との差が顕著に現れる。また圧接用電線においては、コネクタとの嵌合性の点から被覆層厚みが0.3mm以下の電線が好ましく使用される。
【0044】
更に被覆層が電離放射線の照射により架橋されていると、機械的強度が向上する点で好ましい。電離放射線源としては、加速電子線やガンマ線、X線、α線、紫外線等が例示できるが、線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度など工業的利用の観点から加速電子線が最も好ましく利用できる。
【0045】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0046】
[実施例1〜27]
(ノンハロゲン難燃性樹脂組成物ペレットの作成)
表1、表2に示す配合処方で各成分を溶融混合した。二軸混合機(45mmφ、L/D=42)を使用し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混合し、ストランド状に溶融押出し、次いで、溶融ストランドを冷却切断してペレットを作製した。
【0047】
(絶縁電線の作製)
単軸押出機(30mmφ、L/D=24)を用いて、導体上に押出被覆する方法で絶縁電線を製造した。導体には単線の錫めっき銅線(外径0.8mm)を用い、被膜厚みは0.125mmとした。押出条件は、導体予熱温度を120℃とし、シリンダー温度230℃、ダイス温度240℃に設定し、ライン線速300mm/分とした。また実施例27の絶縁電線には照射量が60kGrayになるように加速電子線を照射した。
【0048】
(被覆層の評価:引張特性)
作製した電線から導体を抜き取り、被覆層の引張試験を行った。試験条件は引張速度=50mm/分、標線間距離=25mm、温度=23℃とし、引張強さと引張破断伸びを各3点の試料で測定し、それらの平均値を求めた。引張強さが10.3MPa以上かつ引張破断伸び100%以上のものを「合格」と判定した。
【0049】
(被覆層の評価:セカンドモジュラス)
上記引張試験と同様のサンプルを用いて、引張速度=50mm/分、標線間距離=25mm、温度=23℃で引張試験を行った後、応力−伸び曲線から伸びが2%となる点の弾性率を計算した。
【0050】
(絶縁電線の評価:難燃性試験)
ULStandard1581、1080項に記載のVW−1垂直難燃試験に10点の試料を提供し、10点とも合格した場合に「合格」と判定した。その判定基準は、各試料に15秒着火を5回繰り返した場合に、60秒以内に消火し、下部に敷いた脱脂綿が燃焼落下物によって類焼せず、試料の上部に取り付けたクラフト紙が燃えたり、焦げたりしないものを合格とした。
【0051】
(絶縁電線の評価:高温巻き付け試験)
作成した電線を1.2mm、及び2.1mmの棒に巻き付けて恒温槽内で121℃1時間加熱した後、恒温槽から取り出し、クラック発生の有無を観察した。3点の試料で評価し、クラックが発生した電線の数を評価した。以上の結果を表1、2に示す。
【0052】
[比較例1〜14]
表3に示す配合処方を持つ樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1〜27と同様に電線を作製し、一連の評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
(脚注)
(*1)固有粘度0.47dl/gのポリフェニレンエーテル樹脂
(*2)固有粘度0.38dl/gのポリフェニレンエーテル樹脂
(*3)荷重たわみ温度58℃の6−ナイロン樹脂 融点220℃
(*4)荷重たわみ温度65℃の6−ナイロン樹脂 融点225℃
(*5)旭化成(株)製:ザイロン(登録商標)A1400
(*6)旭化成(株)製:タフテック(登録商標)M1913
(*7)日本触媒(株)製:エポクロス(登録商標)RPS−1005
(*8)ダイセル化学工業(株)製:エポフレンド(登録商標)AT501
(*9)スチレン含量30wt%、MFR=2.4g/10minの水素添加SEPS
(*10)日産化学工業(株)製 MC6000
(*11)ポリブチレンテレフタレート樹脂 融点223℃
(*12)ポリブチレンテレフタレート樹脂 融点185℃
(*13)三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製:レマロイ(登録商標)EX700A
(*14)荷重たわみ温度170℃の変性ポリフェニレンエーテル樹脂
(*15)その他配合剤:チバスペシャリティケミカルズ(株)製Irganox1010、旭電化工業(株)製アデカスタブCDA−1、日本化成(株)製、スリパックスO
【0057】
実施例1〜12は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びスチレン系エラストマーの3成分のポリマーアロイを樹脂成分としたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁被覆層として用いた電線の評価結果である。被覆層の引張強さ、引張破断伸び、セカンドモジュラス、高温巻き付け試験及び難燃性の評価結果は全て合格レベルであった。
【0058】
実施例13〜27は、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート)、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びスチレン系エラストマーの3成分のポリマーアロイを樹脂成分としたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁被覆層として用いた電線の評価結果である。実施例1〜12と同様に、評価結果は全て合格レベルであった。
【0059】
比較例1〜5、10、11はポリフェニレンエーテル系樹脂及びスチレン系エラストマーの2成分のポリマーアロイを樹脂成分としたノンハロゲン難燃性樹脂組成物を絶縁被覆層として用いた電線の評価結果である。被覆層の引張強さ、引張破断伸びは実施例1〜25と同等で合格レベルであるが、高温巻き付け試験ではクラックが発生し、合格レベルに達しなかった。比較例11では架橋助剤を添加しているが、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂のような効果は得られず、高温巻き付け試験でクラックが発生している。また比較例3は難燃剤が入っておらず、難燃性試験にも不合格であった。
【0060】
比較例6〜9はポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びスチレン系エラストマーの3成分のポリマーアロイを使用しているが、ポリアミド樹脂の含有量が樹脂成分100質量部に対して15質量部と少ないため、ポリアミド樹脂の効果が少なく高温巻き付け試験でクラックが発生し合格レベルに達しなかった。
【0061】
比較例12はポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート)の含有量を15質量部としたものである。ポリアミド樹脂と同様に、含有量が少ないと高温特性向上効果が出ず、高温巻き付け試験でクラックが発生した。
【0062】
比較例13、14は照射架橋を行ったものであるが、照射架橋による高温伸びの向上効果は限定的で、高温巻き付け試験でのクラック発生を完全に防ぐことはできない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の活用例としては、複写機、プリンタ等の電子機器の内部配線のハイヤーハーネスが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分100質量部に対して窒素系難燃剤を5〜70質量部含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、前記樹脂成分100質量部中に、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂又はこれらの混合物が20〜50質量部、ポリフェニレンエーテル系樹脂20〜50質量部、及びスチレン系エラストマー30〜60質量部を含有することをことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系エラストマーが、スチレンとゴム成分のブロック共重合エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリスチレンを溶融ブレンドしたポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の荷重たわみ温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマーの一部として、官能基を持つスチレン系エラストマーを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記窒素系難燃剤がメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を被覆層として用いたことを特徴とする電線・ケーブル。
【請求項8】
前記被覆層の厚みが0.3mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の電線・ケーブル。
【請求項9】
前記被覆層が電離放射線の照射により架橋されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の電線・ケーブル。

【公開番号】特開2008−169234(P2008−169234A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−891(P2007−891)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】