説明

ハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体の製造方法および機能性繊維

【課題】
Ca含有製紙スラッジ焼却灰等からハイドロキシアパタイト複合体等を製造する方法、及びこの製造方法により得られたハイドロシアパタイト複合体等を繊維基材に担持してなる機能性繊維を提供する。
【解決手段】
Ca含有製紙スラッジ焼却灰等にリン酸塩等を加えた混合物、Ca含有製紙スラッジ焼却灰等に酸を加えろ過したろ液にリン酸塩等を加えた混合物、Ca成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等にリン酸塩等を加えた混合物、Ca含有製紙スラッジ焼却灰等に酸を加えろ過したろ液に酸化チタン及びリン酸塩等を加えて得られる混合物、Ca含有製紙スラッジ焼却灰等にリン酸塩等、Si成分及びAl成分を加えて得られる混合物、Ca成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等にリン酸塩等、Si成分及びAl成分を加えて得られる混合物をアルカリで処理することにより、ハイドロキシアパタイト複合体等を製造する方法、並びに、これらの方法により得られたハイドロキシアパタイト複合体等を繊維基材に担持してなる機能性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰から、ハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、及びハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を製造する方法、並びに、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰から、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を製造する方法に関する。
【0002】
また本発明は、繊維基材に、上記製造方法により得られたハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を担持してなる機能性繊維に関する。
【背景技術】
【0003】
製紙スラッジは製紙工程で発生する廃棄物である。従来、製紙スラッジは焼却してその灰(製紙スラッジ焼却灰)を埋立処分していたが、埋立処分場のスペース不足等により近年においては製紙スラッジを再資源化する方法が検討されている。例えば、製紙スラッジには、製紙工程において填料として添加されたケイ酸、アルミナ等が含まれていることから、この製紙スラッジから、ケイ素とアルミニウムの酸化物である人工ゼオライトを製造する研究が行われている(特許文献1)。
【0004】
また、製紙工程において、白色顔料等として酸化チタンが添加される場合があり、この場合には酸化チタンを含有する製紙スラッジが発生する。しかし、この酸化チタンは、紙の劣化を防止するために、粒子径が大きく、その表面がシリカ、アルミナ等の無機物でコーティングされており、そのまま回収しても、光触媒活性を有する酸化チタンを得ることができなかった。
【0005】
ハイドロキシアパタイトは、骨や歯の無機質と組成が近似していることから、バイオセラミックス用の原材料や、たんぱく質、核酸等の高分子物質の分離を目的としたクロマトグラフィー用充填剤として広く用いられている。また、人工的に合成されたハイドロキシアパタイトは、近年、水処理や脱臭、大気汚染浄化など環境浄化材料としての応用も期待されている。
【0006】
製紙スラッジ及び製紙スラッジ焼却灰には、製紙工程の填料のうち、炭酸カルシウム等のカルシウム成分が大量に含まれている。特に近年においては、環境意識の高まりから、古紙再生の重要性が認識されてきている。古紙再生の際填料には安価で比較的白色度の高い炭酸カルシウム等のカルシウム成分が使用される傾向が強く、今後、製紙スラッジ及び製紙スラッジ焼却灰中のカルシウム成分が増加するものと見込まれる。
【0007】
しかしながら、このカルシウム成分は、製紙スラッジ及び製紙スラッジ焼却灰から人工ゼオライトを製造する場合に悪影響を及ぼすため、高品質なゼオライトの合成が困難であった。また、製紙スラッジ焼却灰からゼオライトを合成する際に、填料として添加されたカルシウム成分中のカルシウムとシリカが結合して、ケイ酸カルシウム水和物が生成しシリカ不足となるため、大量のシリカ源を添加する必要があり、収率よくゼオライトを合成することが困難であった。
【0008】
【特許文献1】特開平7−232913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰から、ハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体を製造する方法、並びに、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰からハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を製造する方法を提供することを第1の課題とする。
【0010】
また本発明は、本発明の製造方法により得られた、ハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体を、繊維基材に担持してなる機能性繊維を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示す第1〜7の発明を完成するに至った。
【0012】
かくして本発明の第1によれば、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰にリン酸若しくはリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とする、ハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第2によれば、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液にリン酸若しくはリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイトの製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第3によれば、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰にリン酸若しくはリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とする、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の第4によれば、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液に、リン酸若しくはリン酸塩および酸化チタンを加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第5によれば、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第6によれば、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体の製造方法が提供される。
【0018】
本発明の第7によれば、本発明の製造方法により得られたハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体、又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体を、繊維基材に担持してなることを特徴とする機能性繊維が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、(a)カルシウム成分を含有する製紙スラッジ若しくは製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩を加えた混合物、(b)カルシウム成分を含有する製紙スラッジ若しくは製紙スラッジ焼却灰に酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液に、リン酸若しくはリン酸塩を加えた混合物、(c)カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ若しくは製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩を加えて得られる混合物、(d)カルシウム成分を含有する製紙スラッジ若しくは製紙スラッジ焼却灰に、酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液に、酸化チタン及びリン酸若しくはリン酸塩を加えて得られる混合物、(e)カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加えて得られる混合物、(f)カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加えて得られる混合物を、アルカリで処理するという簡単な操作により、ハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、及びハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を製造することができる。
【0020】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト含有体は、ハイドロキシアパタイトがもつ優れたイオン置換機能や、アミノ酸、脂質、細菌類、さらに、アルデヒド類、アンモニア、窒素酸化物等の有害ガスの吸着能を有するものであり、有害物質除去効果を有する環境浄化材料としての応用も期待される。
【0021】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体は、ゼオライトの有する吸着・陽イオン交換機能と、ゼオライトが吸着不可能な物質の吸着機能、ゼオライトの有しないアパタイトの陰イオン交換機能との相乗効果により、より強力な吸着・イオン交換材料として有用である。
【0022】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイトは高純度であり、従来のハイドロキシアパタイトと比較して低コスト化が図れると同時に、環境浄化材料に使用可能である。
【0023】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体は、ハイドロキシアパタイトのもつ高吸着能に加えて、酸化チタンのもつ光触媒機能と併せて、脱臭、大気汚染浄化などの環境浄化材料にも応用が可能である。
【0024】
また本発明により得られたハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を、紙や不織布等の繊維基材に担持することで、機能性繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)ハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法
本発明の第1は、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰にリン酸若しくはリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法である。
【0026】
製紙スラッジは一般に製紙工場において紙の製造工程で発生する不要分(沈殿物および懸濁物)、又は製紙工場からの排水中に生じる沈殿物及び懸濁物である。また、製紙スラッジ焼却灰は一般に製紙スラッジを焼却したものである。
【0027】
製紙工場から排出される製紙スラッジの焼却灰の主成分は、ケイ酸(SiO)、アルミナ(Al)、酸化マグネシウム(MgO)等である。これらの成分は、製紙工程で紙原料(パルプ等)に添加される填料に由来する。
【0028】
填料は、上質紙の製紙工程において、印刷インキの吸収性を高めたり、紙の表面を平らにして不透明度を上げるとともに、紙を密にして紙の目方を増やすため等に添加される鉱物質の白色粉末である。填料としては、カオリン、クレー、粘土等の白土;タルク(滑石);炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0029】
これらの鉱物質は製紙スラッジ中に残存し、また焼却しても消失しないため、製紙スラッジ焼却灰中にも残存する。製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰中のこれらの成分の割合は、通常、製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰中の無機成分全体に対して、ケイ酸が10〜40重量%、アルミナが15〜75重量%、酸化マグネシウムが7〜20重量%程度である。
【0030】
また、製紙工程においては、紙の表面に無機顔料等の塗料が塗布される場合がある。用いられる顔料としては、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。これらの顔料等を添加した場合には、製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰中に、これらの顔料由来の成分が含まれることになる。
【0031】
これらの中でも、本発明に用いるカルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰(以下、「製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰」をまとめて「製紙スラッジ焼却灰等」という。)は、製紙工程で填料又は顔料(着色料)として、炭酸カルシウムや酸化カルシウム等を添加した場合に得られる、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等である。
【0032】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等中のカルシウム成分の含有量は、無機成分全体に対して、通常1〜50重量%、好ましくは5〜50重量%である。
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に含まれるカルシウム成分の含有量は、X線回折、波長分散型蛍光X線−ガラスビード法等の公知の分析方法により測定することができる。
【0033】
本発明の第1においては、まず、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に、リン酸;又はリン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素カルシウム等のリン酸塩;を加える。これらの中でも、ハイドロキシアパタイトを効率よく生成することができることからリン酸の使用が好ましい。リン酸は通常、液体状態(水溶液)で用いる。リン酸水溶液の濃度は、特に制約はないが、通常0.1〜5規定である。
【0034】
リン酸又はリン酸塩(以下、「リン酸塩等」ということがある)の使用量は、製紙スラッジ焼却灰等中に含まれるカルシウム成分のカルシウムとの比が、モル比で、通常、カルシウム/リン=1〜2、重量比では、カルシウム/リン=1〜3になる量である。
【0035】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等にリン酸塩等を加える方法としては、例えば、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に適当量の水を加え、内容物を攪拌しながら、リン酸塩等を加える方法が挙げられる。
【0036】
リン酸塩等を加えるときの温度は特に制限されず、通常0〜100℃の範囲である。
リン酸塩等を加えた後は、全容を数分から数時間攪拌する。攪拌するときの温度は、通常0〜100℃の範囲である。
【0037】
次に、リン酸塩等を加えて得られた混合物のアルカリ処理を行う。
アルカリ処理は、前記混合物にアルカリを添加し、全容を所定温度で攪拌することにより行われる。
【0038】
用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素化合物;等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0039】
アルカリは通常水溶液の状態で用いるが、固体状態で用いることもできる。後者の場合には、アルカリを加えた後に水を加える。
アルカリ水溶液の濃度は、特に制約はないが、通常0.1〜4.5規定である。
【0040】
アルカリ水溶液の添加量は、処理の規模等によるが、製紙スラッジ焼却灰等の無機成分1重量部に対して、通常1〜50重量部、好ましくは3〜30重量部である。
【0041】
アルカリを添加した後は、加熱・攪拌するのが好ましい。
加熱温度は、通常50℃以上、好ましくは、80〜100℃である。加熱時間は、反応規模にもよるが、通常数十分から数日、好ましくは、1〜24時間である。また、アルカリで処理する反応容器として耐圧密閉可能なものを用いて、より高温・高圧で加熱攪拌処理を行うことにより、処理時間を短縮することができる。
【0042】
アルカリを添加し、加熱・攪拌した後、反応混合物をろ過して、ろ過物を水で洗浄することにより過剰のアルカリを除去し、80〜150℃の乾燥温度で1〜20時間乾燥することにより、目的とするハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体を得ることができる。
【0043】
本発明の製造方法によれば、ハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体のいずれかを得ることができる。一般的には、用いる製紙スラッジ焼却灰等中にケイ酸、アルミナの含有量が少ない場合には、ゼオライトが生成せず、ハイドロキシアパタイト含有体が得られ、用いる製紙スラッジ焼却灰等中にシリカ、アルミナの含有量が多い場合には、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体を得ることができる。後者のハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体を選択的に得たい場合には、後述する本発明の第5のごとく、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に、リン酸若しくはリン酸塩とともに、ケイ素成分、アルミニウム成分を加えればよい。
【0044】
ハイドロキシアパタイトは、Ca10(PO(OH)で表され、生物の骨や歯の構成成分である。ハイドロキシアパタイトは、優れたイオン置換機能を有する。このイオン置換は、陽イオン、陰イオンの両方で起こり得る。また、ハイドロキシアパタイトには、アミノ酸、脂質、細菌類、さらに、アルデヒド類、アンモニア、窒素酸化物等の有害ガスの吸着能があり、環境浄化材料としての応用も期待されている。
【0045】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト含有体は、ハイドロキシアパタイトを含有する混合物である、ハイドロキシアパタイトがもつ優れたイオン置換機能や、アミノ酸、脂質、細菌類、さらに、アルデヒド類、アンモニア、窒素酸化物等の有害ガスの吸着能を有するものであり、環境浄化材料としての応用が期待されている。
【0046】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体は、ハイドロキシアパタイト結晶の空隙にゼオライト結晶が析出していると考えられる。
本発明のハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体は、ハイドロキシアパタイトの機能とゼオライトの機能を兼ね備えており、環境浄化材料として種々の分野での応用が期待できる。
【0047】
ゼオライトは、固有の細孔径を有する多孔質結晶体で、任意の形状に加工できる特性を備え、比表面積が大きく、吸着能、イオン交換能、分離能、固体酸性等の諸特性を有する。
【0048】
ゼオライトには、天然ゼオライトと合成ゼオライトがあるが、合成ゼオライトは、通常、ケイ酸及びアルミニウムを含む無機成分をアルカリ処理等することにより得られ、その吸着能やイオン交換能等は、天然ゼオライトに比べはるかに優れる。尚、ゼオライトには、フォージャサイト、ヒドロキシソーダライト、フィリップサイト、A型ゼオライト等の種々のものが存在する。
【0049】
本発明のハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体において、複合体を形成するゼオライトがどの種類のものであるかは、用いる製紙スラッジ焼却灰等の組成、処理温度、処理時間、用いる処理剤の種類等に依存する。
【0050】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体は、ゼオライトの有する吸着・陽イオン交換機能と、ゼオライトが吸着不可能な物質の吸着機能、ゼオライトの有しないアパタイトの陰イオン交換機能との相乗効果により、より強力な吸着・イオン交換材料として有用である。
【0051】
2)ハイドロキシアパタイトの製造方法
本発明の第2は、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液にリン酸塩等を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイトの製造方法である。
【0052】
用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。これらの中でも、高純度のヒドロキシアパタイトが効率よく得られる観点から、硝酸の使用が好ましい。
【0053】
酸は通常、水溶液の形で用いる。酸の濃度は、特に制約はないが、通常、0.1〜4.5規定、好ましくは、0.5〜3.0規定である。
【0054】
酸の添加量は、処理の規模などにもよるが、製紙スラッジ焼却灰等中の無機成分1重量部に対して、水溶液として、通常1〜50重量部、好ましくは3〜40重量部である。
【0055】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等を酸で処理する方法としては、例えば、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に酸の水溶液を添加し、撹拌する方法が挙げられる。
【0056】
以上のようにして、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等を酸で処理することで、製紙スラッジ焼却灰等中のカルシウム成分のカルシウムをろ液として溶出させることができる。
【0057】
次に、前記ろ液にリン酸塩等を加える。カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に酸を加えて得られたろ液にリン酸塩等を添加する方法としては、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に酸を加えて得られたろ液にリン酸塩等を添加し、撹拌する方法が挙げられる。
【0058】
次いで、アルカリ処理を行うことで、効率よく高純度ハイドロキシアパタイトを得ることができる。ここで用いるリン酸塩等、アルカリの種類は、前記本発明の第1である、ハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法の項で説明したのと同様である。
【0059】
リン酸塩等の使用量は、前記ろ液1重量部に対し、通常、0.001〜1重量部であり、アルカリ水溶液の使用量は、前記ろ液1重量部に対し、通常、0.1〜10重量部である。
【0060】
前記ろ液にリン酸塩等を添加した混合物をアルカリ処理した後は、ろ過物を水洗し、乾燥することで、目的とする微小結晶の高純度ハイドロキシアパタイトを得ることができる。
【0061】
さらに、結晶性の高いハイドロキシアパタイトを得るには、得られた微小結晶のハイドロキシアパタイトを800〜1000℃で焼成してもよい。
【0062】
本発明のハイドロキシアパタイトの製造方法によれば、製紙スラッジ焼却灰等に含まれるカルシウム成分をろ液として選択的に溶出させることで、高純度なハイドロキシアパタイトを製造することができる。
【0063】
また、ゼオライト化に悪影響を及ぼすカルシウム成分が流出したことで、酸洗浄後のろ過物は、効率よくゼオライト化することができ、従来廃棄されていた製紙スラッジ焼却灰等の有効活用を図ることができる。
【0064】
本発明の高純度ハイドロキシアパタイトは、製紙スラッジ焼却灰等から、効率よく、かつ低コストで製造でき、バイオセラミックス用の原材料、たんぱく質、核酸等の高分子物質の分離を目的としたクロマトグラフィー用の充填剤、さらには、水処理や脱臭、大気汚染浄化などの環境浄化材料にも応用が可能である。
【0065】
3)ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体、又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法
本発明の第3は、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等にリン酸又はリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とする、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法である。
【0066】
製紙工程においては、白色顔料等として酸化チタンが添加される場合があり、この場合には、酸化チタンを含有する製紙スラッジが発生する。
【0067】
本発明者らは、先の出願(特願2004−213163号)において、製紙スラッジ等の廃棄物の再資源化の一環として、製紙スラッジ焼却灰等に含まれる酸化チタンの光触媒活性を再生する方法、及び酸化チタン−ゼオライト複合体の製造方法を提案している。
【0068】
本発明は、この技術を部分的に利用するものであって、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等から、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体を製造する方法である。
【0069】
本発明で用いる製紙スラッジ焼却灰等は、製紙工程で填料又は顔料(着色料)として炭酸カルシウム等、及び白色顔料(着色料)として酸化チタンを添加した場合に得られる製紙スラッジ焼却灰等である。
【0070】
カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等に含まれるカルシウム成分及び酸化チタンの含有量は、X線回折、波長分散型蛍光X線−ガラスビード法等の公知の分析方法により測定することができる。
【0071】
後者の白色顔料として添加された酸化チタンは、紙の劣化を防止するため粒子径が大きく、シリカやアルミナ等の無機物で表面がコーティングされており、光触媒活性を持たないものである。
【0072】
カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等中のカルシウムの含有量は、無機成分全体に対して、通常1〜50%、好ましくは5〜50重量%である。
【0073】
また、酸化チタンの含有量は、無機成分全体に対して、通常1〜35重量%、好ましくは10〜30重量%である。本発明において、酸化チタンの含有量が少ない場合には、アルカリで処理する前に、製紙スラッジ焼却灰等に所望量の酸化チタンを添加してもよい。
【0074】
次いでアルカリ処理を行うことで、目的とするハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を得ることができる。ここで用いるリン酸若しくはリン酸塩、アルカリの種類及びそれらの使用量は、前記第1の発明である、ハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法の項で説明したのと同様である。
【0075】
本発明の製造方法によれば、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体のいずれかを得ることができる。一般的には、用いる製紙スラッジ焼却灰等中にシリカ、アルミナの含有量が少ない場合には、ゼオライトが生成せず、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体が得られ、用いる製紙スラッジ焼却灰等中にシリカ、アルミナの含有量が多い場合には、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を得ることができる。後者のハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を選択的に得たい場合には、後述する本発明の第6のごとく、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等に、リン酸若しくはリン酸塩とともに、ケイ素成分、アルミニウム成分を加えればよい。
【0076】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体は、ハイドロキシアパタイト及びゼオライトのもつ高吸着能に加えて、酸化チタンのもつ光触媒機能を併せもち、脱臭、大気汚染浄化などの環境浄化材料にも応用が可能である。また、本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体は、ハイドロキシアパタイトのもつ高吸着能に加えて、酸化チタンのもつ光触媒機能を併せもち、脱臭、大気汚染浄化などの環境浄化材料にも応用が可能である、
【0077】
4)ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法
本発明の第4は、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液に、リン酸塩等および酸化チタンを加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法である。
【0078】
本発明の製造方法は、前記第1の発明であるハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、又はハイドロキシアパタイト含有体の製造方法において、リン酸塩等に代えて、リン酸塩等及び酸化チタンを添加することで、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体を製造するものである。
【0079】
添加する酸化チタンの形状、状態等は特に制約はなく、光触媒活性を有していないものであってもよいが、アナターゼ型のものを用いるのが好ましい。
【0080】
酸化チタンの添加量は、製紙スラッジ焼却灰等中に既に存在する酸化チタンの含有量にもよるが、製紙スラッジ焼却灰等中の無機成分1重量部に対して、通常0.05〜2重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部である。
なお、ここで用いる酸、リン酸塩等、アルカリの種類、及びその使用量は、前記本発明の第2で説明したのと同様である。
【0081】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体は、ハイドロキシアパタイト及び酸化チタンを高純度に含有するものであり、ハイドロキシアパタイトのもつ高吸着能に加えて、酸化チタンのもつ光触媒機能と併せて、脱臭、大気汚染浄化などの環境浄化材料にも応用が可能である。
【0082】
5)ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法
本発明の第5は、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に、リン酸塩等、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法である。
【0083】
この製造方法は、前記第1の発明であるハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパアタイト−ゼオライト複合体の製造方法において、リン酸塩等の添加に代えて、リン酸塩等、ケイ素成分及びアルミニウム成分を添加することで、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体を高選択的に製造するものである。
【0084】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等中には、製紙スラッジを焼却する過程で、製紙スラッジ中のケイ酸、アルミナとカルシウム成分が反応し生成したゲーレナイトが10〜70重量%含まれることがある。
【0085】
製紙スラッジ焼却灰等中にゲーレナイトが含まれる場合、ゼオライト合成のために必要不可欠なケイ酸、アルミナが、ゲーレナイト中に取り込まれ、高品質・低コストゼオライトの生成が困難である。
【0086】
本発明によれば、カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰等に、リン酸塩等、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加えることにより、効率よくハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体を製造することができる。
【0087】
アルミニウム成分としては、アルミナ、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0088】
ケイ素成分は、製紙スラッジ等に含まれるケイ素分を補い、ゼオライトを生成させるための補助剤として添加されるものである。
【0089】
ケイ素成分としては、ケイ素酸化物やケイ酸塩等を用いることができる。
ケイ素酸化物は、一般に式:SiOx(xは1〜2を表す。)で表され、ケイ酸塩は、式:xMO・ySiO(x及びyは自然数を表し、MはAl,Fe,Ca,Mg,Na,K等の金属原子を表す。)で表される化合物である。
【0090】
添加するケイ素成分としては特に制約はないが、入手容易性から、ケイ酸ナトリウム;ケイ砂、ケイ酸ガラス、カリ石灰ガラス、鉛ガラス、バリウムガラス、ホウ酸ケイ酸ガラス、シラス等のケイ素酸化物又はケイ酸塩を多量に含有する物質;等が挙げられる。
リン酸塩等及びアルカリの種類や使用量は、本発明の第1で説明したのと同様である。
【0091】
ケイ素成分及びアルミニウム成分の添加量は、特に制約はなく、用いる製紙スラッジ焼却灰等中の、ケイ素成分及びアルミニウム成分含有量により決定すればよい。通常、処理する製紙スラッジ焼却灰等中の無機成分1重量部に対して、それぞれ0.1〜3重量部、好ましくは0.3〜2重量部である。
【0092】
添加するケイ素成分及びアルミニウム成分は、粉末として用いても、水溶液にして用いてもよい。
またこの場合、アルカリで処理する前において、所望により酸化チタンを添加してもよい。
【0093】
本発明のハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体において、複合体を形成する人工ゼオライトがどの種類のものであるかは、用いる製紙スラッジ焼却灰等又は廃棄物の焼却灰等の組成、処理温度、処理時間、用いる処理剤の種類等に依存する。例えば、ゼオライトA、フィリップサイト、ヒドロキシソーダライト等が形成される。
【0094】
本発明の製造方法によれば、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体を選択的に得ることができる。
【0095】
本発明のハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体は、ハイドロキシアパタイト結晶とゼオライト結晶がそれぞれ単独に析出していると考えられる。
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体は、ゼオライトの有する吸着・陽イオン交換機能と、ゼオライトが吸着不可能な物質の吸着機能、ゼオライトの有しないアパタイトの陰イオン交換機能との相乗効果により、より強力な吸着・イオン交換材料として有用である。
【0096】
6)ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体の製造方法
本発明の第6は、カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰等に、リン酸塩等、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体の製造方法である。
【0097】
この製造方法は、前記本発明の第3であるハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体、又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法において、リン酸若しくはリン酸塩に代えて、リン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分を添加することで、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体するものである。
【0098】
本発明に用いるリン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分としては、本発明の第5と同様のものが使用でき、また、添加量も前述と同様である。
【0099】
反応終了後は、例えば、過剰のアルカリを水洗除去した後に乾燥する等の通常の後処理操作を行うことにより、目的物であるハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を得ることが出来る。
【0100】
本発明のハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体は、ハイドロキシアパタイト結晶体中及びゼオライト結晶体中に、光触媒活性を有する酸化チタンが分散してなる構造を有していると考えられる。
【0101】
本発明のハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体は、ハイドロキシアパタイトの機能とゼオライトの機能に光触媒活性を有する酸化チタンの機能を兼ね備えており、環境浄化材料として種々の分野での応用が期待できる。
【0102】
本発明の製造方法によれば、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を選択的に得ることができる。
【0103】
本発明の製造方法により得られるハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体は、ハイドロキシアパタイト及びゼオライトのもつ高吸着能に加えて、酸化チタンのもつ光触媒機能と併せて、脱臭、大気汚染浄化などの環境浄化材料に応用が可能である。
また、ゼオライトの有する吸着・陽イオン交換機能と、ゼオライトが吸着不可能な物質の吸着機能、ゼオライトの有しないアパタイトの陰イオン交換機能との相乗効果により、より強力な吸着・イオン交換材料として有用である。
【0104】
7)機能性繊維
本発明の第7は、本発明の製造方法により得られた、ハイドロキシアパタイト含有体、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、ハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体(以下、これらをまとめて「ハイドロキシアパタイト類」ということがある)を、繊維基材に担持してなることを特徴とする機能性繊維である。
【0105】
本発明で用いる繊維基材としては、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBPK)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、リンターパルプ等の天然繊維基材;レーヨン、ビニロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル等のような人工繊維基材;等が挙げられる。
【0106】
本発明の機能性繊維は、本発明の製造方法により得られた、ハイドロキシアパタイト類を、繊維基材に対し、所定量となるように繊維基材と混合することにより得ることができる。例えば、繊維基材として紙基材を用いる場合、ハイドロキシアパタイト類を紙を抄紙するときに混合する(混抄)ことにより、紙基材にハイドロキシアパタイト類を担持することができる。
【0107】
ハイドロキシアパタイト類の混合量は、特に限定されないが、機能性繊維中のハイドロキシアパタイト類の含有量が1〜80重量%となる量が好ましく、5〜50重量%となる量が特に好ましい。
【0108】
本発明の機能性繊維の形状は特に制限されず、シート状、フィルム状等、従来公知の紙製品や繊維製品の形状と同様のものが挙げられる。米坪量は、特に限定されないが、通常、30〜300g/mである。
【実施例】
【0109】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各成分の含有量は、蛍光X線分析装置(PW2400,日本フィリップス(株)製)を用いて、ガラスビード法により測定した。
【0110】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰として、酸化物換算で以下の成分比からなるサンプルを用いた。
サンプル(1)
SiO:33.3重量% Al:21.1重量% MgO:8.4重量% CaO:35.1重量% その他:2.1重量%
サンプル(2)
SiO:36.1重量% Al:25.3重量% MgO:12.6重量% CaO:17.1重量% TiO:7.0重量% その他:1.9重量%
サンプル(3)
SiO:28.5重量% Al:26.4重量% MgO:7.5重量% CaO:32.8重量% その他:4.8重量%
サンプル(4)
SiO:35.5重量% Al:23.5重量% MgO:12.4重量% CaO:18.0重量% TiO:8.3重量% その他:2.3重量%
【0111】
実施例1
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰のサンプル(1)5gを200mlの三角フラスコに入れ、1規定のリン酸水溶液21ml(リン酸1.03g含有)を加え30分撹拌した。得られた混合物に3規定の水酸化ナトリウム水溶液50gを加え、還流冷却管を取り付けて、内容物を撹拌機能付きホットスターラー上、80〜100℃で2時間加熱撹拌し、アルカリ処理を行った。内容物をガラス製ロートでろ取し、蒸留水で過剰の水酸化ナトリウムを洗浄除去した後、105℃で2時間乾燥し、粉末(1)を7gを得た。
得られた粉末(1)のX線回折測定をX線回折試験機(RINT2000、理学電器(株)製)を使用して行った。測定結果を図1に示す(図中、1)。
図1中、縦軸は強度(cps)を、横軸はX線入射方向からの偏移角2θ(°)を表す。以下同様である。
【0112】
実施例2
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰のサンプル(1)5gを100mlのビーカーに入れ、1規定の硝酸50gを加えた。内容物を30分撹拌後、ガラス製ロートでろ過し、ろ液25gを得た。このろ液を200mlの三角フラスコに入れ、リン酸水素二アンモニウム〔(NHHPO〕1.4g、3規定の水酸化ナトリウム水溶液50gを加えた。この三角フラスコに還流冷却管を取り付けて、内容物を撹拌機能付きホットスターラー上、80〜100℃で2時間加熱撹拌し、アルカリ処理を行った。内容物をガラス製ロートでろ取し、蒸留水で過剰の水酸化ナトリウムを洗浄除去した後、105℃で2時間乾燥し、粉末(2)2gを得た。
得られた粉末(2)のX線回折測定をX線回折試験機(RINT2000、理学電器(株)製)を使用して行った。測定結果を図1に示す(図中、2)。
【0113】
実施例3
カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジのサンプル(2)5gを200mlの三角フラスコに入れ、1規定のリン酸水溶液18ml(リン酸0.88g含有)を加え30分撹拌した。得られた混合物に3規定の水酸化ナトリウム水溶液50gを加え、還流冷却管を取り付けて、内容物を撹拌機能付きホットスターラー上、80〜100℃で2時間加熱撹拌し、アルカリ処理を行った。内容物をガラス製ロートでろ取し、蒸留水で過剰の水酸化ナトリウムを洗浄除去した後、105℃で2時間乾燥し、粉末(3)を7gを得た。
得られた粉末(3)のX線回折測定をX線回折試験機(RINT2000、理学電器(株)製)を使用して行った。測定結果を図1に示す(図中、3)。
【0114】
実施例4
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰のサンプル(1)5gを100mlのビーカーに入れ、1規定の硝酸50gを加えた。内容物を30分撹拌後、ガラス製ロートでろ過し、ろ液25gを得た。このろ液を200mlの三角フラスコに入れ、リン酸水素二アンモニウム〔(NHHPO〕1.4g、3規定の水酸化ナトリウム水溶液50g、及びアナターゼ型の酸化チタン(FA−55W、古川機械金属(株)製)1gを加えた。
この三角フラスコに還流冷却管を取り付けて、内容物を撹拌機能付きホットスターラー上、80〜100℃で2時間加熱撹拌し、アルカリ処理を行った。内容物をガラス製ロートでろ取し、蒸留水で過剰の水酸化ナトリウムを洗浄除去した後、105℃で2時間乾燥し、粉末(4)を3g得た。
得られた粉末(4)のX線回折測定をX線回折試験機(RINT2000、理学電器(株)製)を使用して行った。測定結果を図1に示す(図中、4)。
【0115】
実施例5
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰のサンプル(3)5gを200mlの三角フラスコに入れ、1規定のリン酸水溶液20ml(リン酸0.98g含有)を加え、30分撹拌した。得られた混合物に3規定の水酸化ナトリウム水溶液50g、ケイ素成分としてケイ酸ナトリウム(SiO/NaO=3.17、三ツ輪化学工業(株)製)5g、及びアルミニウム成分として水酸化アルミニウム2gを加え、還流冷却管を取り付けて、内容物を撹拌機能付きホットスターラー上、80〜100℃で2時間加熱撹拌し、アルカリ処理を行った。内容物をガラス製ロートでろ取し、蒸留水で過剰の水酸化ナトリウムを洗浄除去した後、105℃で2時間乾燥し、粉末(5)を7g得た。
得られた粉末(5)のX線回折測定をX線回折試験機(RINT2000、理学電器(株)製)を使用して行った。測定結果を図1に示す(図中、5)。
【0116】
実施例6
カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ焼却灰であるサンプル(4)10gを200mlの三角フラスコに入れ、1規定のリン酸水溶液22ml(リン酸1.08g含有)を加え30分撹拌した。得られた混合物に3規定の水酸化ナトリウム水溶液100g、ケイ素成分としてケイ酸ナトリウム(SiO/NaO=3.17、三ツ輪化学工業(株)製)10g、及びアルミニウム成分として水酸化アルミニウム4gを加え、還流冷却管を取り付けて、内容物を撹拌機能付きホットスターラー上、80〜100℃で2時間加熱撹拌し、アルカリ処理を行った。内容物をガラス製ロートでろ取し、蒸留水で過剰の水酸化ナトリウムを洗浄除去した後、105℃で2時間乾燥し、粉末(6)を14g得た。
得られた粉末(6)のX線回折測定をX線回折試験機(RINT2000、理学電器(株)製)を使用して行った。測定結果を図1に示す(図中、6)。
【0117】
実施例7
自動角型シートマシン(No.2557、熊谷理機工業(株)製)にて、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)絶乾3gに実施例1で得られた粉末(1)0.5gを混抄し、米秤量50g/mのシート(1)を作製した。
【0118】
比較例
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ焼却灰であるサンプル(1)5gを200mlの三角フラスコに入れ、3規定の水酸化ナトリウム水溶液、及びケイ酸ナトリウム(SiO/NaO=3.17、三ツ輪化学工業(株)製)30gを加え、還流冷却管を取り付けて、内容物を撹拌機能付きホットスターラー上、80〜100℃で2時間加熱撹拌し、アルカリ処理を行った。内容物をガラス製ロートでろ取し、蒸留水で過剰の水酸化ナトリウムを洗浄除去した後、105℃で2時間乾燥し、粉末(7)6gを得た。
得られた粉末(7)のX線回折測定をX線回折試験機(RINT2000、理学電器(株)製)を使用して行った。測定結果を図1に示す(図中、7)。
図1中、記号は以下の意味を示す。
【0119】
【化1】

【0120】
図1より、実施例1、5では、ハイドロキシアパタイト、及び、ゼオライトA又はフィリップサイトのピークが観測され、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体が生成したことがわかる。実施例2では、ハイドロキシアパタイトのピークが確認され、高純度ハイドロキシアパタイトが得られたことがわかる。実施例3、6では、ハイドロキシアパタイト、ゼオライトA、酸化チタンのピークが観測され、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体が生成したことがわかる。また実施例4では、ハイドロキシアパタイト、酸化チタンのピークが観測され、ハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体が生成したことがわかる。
【0121】
一方、サンプル(1)にケイ酸ソーダ及び水酸化ナトリウム水溶液を加え、人工ゼオライト化処理を行った比較例では、サンプル(1)に存在しているカルシウム成分を含むため、フィリップサイトのピークは観測されるが、大量のシリカ源(ここではケイ酸ナトリウム)を添加したにも拘わらず、目的とするハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体は得られなかった。
【0122】
アセトアルデヒド吸着試験
石英製のカバーを有する体積200mlのステンレス反応容器に、実施例1〜6で得られた粉末(1)〜(6)、製紙スラッジ焼却灰のサンプル(1)〜(3)をそれぞれ0.3g入れ、反応容器内にマイクロシリンジで、250ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、1時間経過後の反応容器内のアセトアルデヒドの濃度を測定した。
【0123】
また、サンプル(2)については、紫外線ランプ(UVGL−25、MINERALIGHT社製)により10cmの高さから、波長365nm、4ワットの紫外線を粉末(2)に1時間照射し、1時間後の反応容器内のアセトアルデヒドの濃度を測定した。
【0124】
同様に実施例7で得られたシート(1)125cm(粉末(1)0.1g相当)を石英製のカバーを有する体積200mlのステンレス反応容器に入れ、反応容器内にマイクロシリンジで、250ppmになるようにアセトアルデヒドガスを注入し、1時間後の反応容器内のアセトアルデヒドの濃度を測定した。
測定結果を第1表に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
第1表より、実施例1〜7については、サンプル1〜3と比較して、アセトアルデヒド濃度がより減少していることがわかった。このことから、実施例1〜7においては優れた吸着性能を有するハイドロキシアパタイトおよびハイドロキシアパタイト複合体が得られたことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】実施例1〜6および比較例で得られた粉末(1)〜(7)のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とする、ハイドロキシアパタイト含有体又はハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法。
【請求項2】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液に、リン酸若しくはリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項3】
カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とする、ハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体又はハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法。
【請求項4】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に酸を加えた混合物をろ過して得られるろ液に、リン酸若しくはリン酸塩および酸化チタンを加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体の製造方法。
【請求項5】
カルシウム成分を含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体の製造方法。
【請求項6】
カルシウム成分及び酸化チタンを含有する製紙スラッジ又は製紙スラッジ焼却灰に、リン酸若しくはリン酸塩、ケイ素成分及びアルミニウム成分を加え、アルカリ処理を行うことを特徴とするハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法により得られたハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体若しくはハイドロキシアパタイト含有体、請求項2に記載の製造方法により得られたハイドロキシアパタイト、請求項3に記載の製造方法により得られたハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体、若しくはハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、請求項4に記載の製造方法により得られたハイドロキシアパタイト−酸化チタン複合体、請求項5に記載の製造方法により得られたハイドロキシアパタイト−ゼオライト複合体、又は請求項6に記載の製造方法により得られたハイドロキシアパタイト−ゼオライト−酸化チタン複合体を、繊維基材に担持してなることを特徴とする機能性繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2007−15874(P2007−15874A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196433(P2005−196433)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】