説明

ハイブリッド構造体の製造方法

【課題】大型のハイブリッド構造体を容易かつ安価に製造できるハイブリッド構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】箱状に形成した鉄皮構造体3の底板7に沿って底部コンクリート層22を形成したのち、鉄皮構造体3の側板10と上板23に沿ってコンクリート層20、21を形成するハイブリッド構造体の製造方法において、底部コンクリート層22を形成するに際し、鉄皮構造体3の底板7を上方に臨ませて位置させ、底板7上にそれぞれ所定の間隔を隔てて櫛歯状にコンクリート層8を打設し、爾後、鉄皮構造体3を上下反転させてコンクリート層8を底部に位置させ、櫛歯状のコンクリート層8間にコンクリートを打設して底部コンクリート層22を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箱状の鉄皮構造体の外面にコンクリート層を設けて形成されるハイブリッド構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浮き桟橋として用いられるハイブリッド構造体は、箱状の鉄皮構造体(鋼殻)の外面にコンクリート層を設けて形成されるものであり、防錆効果が高く、車両の乗り入れにも耐える強度を有することで知られている。従来、このハイブリッド構造体を製造する場合、図7(a)に示すように、箱状の鉄皮構造体30の底板31を上方に向けて底板31上にコンクリートを打設し、このコンクリートが硬化して底部コンクリート層32が形成されたのち、図7(b)に示すように、鉄皮構造体30を工場の吊り設備(図示せず)で吊って上下反転させると共に、四方に側部型枠部33を有する有底筒体状の型枠34内に収容し、型枠34内にコンクリートを注入して鉄皮構造体30の側板35上と上板36上にそれぞれコンクリート層(図示せず)を形成する反転工法を採用していたが、底部コンクリート層32と鉄皮構造体30の重量が吊り設備の能力を超える場合、反転するための起重機(クレーン)を外部から借用しなくてはならず、借用費用がコストアップにつながってしまうという課題があった。特に起重機の借用費用はハイブリッド構造体の製造コストに占める割合が大きく、切実な問題であった。
【0003】
【特許文献1】特開平9−254868号公報
【特許文献2】特開2005−297905号公報
【特許文献3】特開2005−324650号公報
【特許文献4】特開2005−330662号公報
【特許文献5】特開2001−182032号公報
【特許文献6】特開平11−131807号公報
【特許文献7】特開平11−324326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、特許文献1〜4に示すように上記課題を解決するための技術が種々開発されているが、それぞれに一長一短があり、特に幅10mに及ぶ大型のハイブリッド構造体を容易かつ安価に製造できる方法が存在しないという課題があった。
【0005】
具体的には、特許文献1記載の製造方法は、図8に示すように、鉄皮構造体40の底板41に予めスペーサ42を設けておき、このスペーサ42付きの鉄皮構造体40を有底筒体状の型枠43内に収容し、この型枠43内に高流動コンクリートを注入してハイブリッド構造体を製造するものであり、鉄皮構造体40を反転させることなくハイブリッド構造体を製造できるが、高流動コンクリートも長い距離流すと分離してしまうため、この製造方法では実質浮体幅6mを超えるハイブリッド構造体は製造できないという課題があった。特許文献2記載の製造方法は、型枠の底部と鉄皮構造体の底部との間の間隙にコンクリートを加圧注入して底部コンクリート層を形成するものであるため、特許文献1記載の発明より広い幅に渡ってコンクリートを充填することができるが、コンクリート注入位置から離れた位置では圧入圧が逸脱しやすくなるため、幅10mに及ぶ大型のハイブリッド構造体を製造するのは困難であった。特許文献3記載の製造方法は、型枠ごと鉄皮構造体を傾斜させると共に型枠底部と鉄皮構造体の底部との間の間隙にコンクリート打設管を挿入し、このコンクリート打設管を引き抜きながらコンクリート打設管の先端からコンクリートを流出させるものであるため、コンクリートを長い距離に渡って充填するときコンクリート中に気泡が残ることもありうるという課題があった。また、特許文献4記載の発明は、鉄皮構造体の底部を長手方向に分割してなる下部パネル部材を形成し、これら下部パネル部材にコンクリート層を形成したのち、下部パネル部材同士をコンクリート層を下にした状態で溶接すると共に下部パネル部材に側板部、上板部等を溶接し、側板部、上板部にコンクリートを打設するものであるため、大型のハイブリッド構造体を製造できるが、溶接に手間とコストがかかるという課題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、大型のハイブリッド構造体を容易かつ安価に製造できるハイブリッド構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、箱状に形成した鉄皮構造体の底板に沿って底部コンクリート層を形成したのち、鉄皮構造体の側板と上板に沿ってコンクリート層を形成するハイブリッド構造体の製造方法において、上記底部コンクリート層を形成するに際し、上記鉄皮構造体の底板を上方に臨ませて位置させ、この底板上にそれぞれ所定の間隔を隔てて櫛歯状にコンクリート層を打設し、爾後、上記鉄皮構造体を上下反転させて上記コンクリート層を底部に位置させ、これら櫛歯状のコンクリート層間にコンクリートを打設して底部コンクリート層を形成するものである。
【0008】
上記櫛歯状にコンクリート層を打設するとき、これらコンクリート層がそれぞれ上記側板に沿って所定長さ延びるようにコンクリート層を延長して形成するとよい。
【0009】
櫛歯状のコンクリート層間にコンクリートを打設するとき、これらコンクリート層を底盤型枠部上に載置すると共にこの底盤型枠部に上記コンクリート層間の間隙に臨んで開口するコンクリート注入口を形成し、このコンクリート注入口から上記間隙にコンクリートを圧入して底部コンクリート層を形成するとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大型のハイブリッド構造体を容易かつ安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好適実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【0012】
ハイブリッド構造体を製造する場合、まず、図1(a)に示すように、鉄骨1と鋼板2とで箱状の鉄皮構造体3を形成する。このとき、鉄皮構造体3は、全面を液密に塞がれた中空に形成すると共に、隅部にハンチ(面取り部)4を形成し、さらに、図3に示すように、全面に複数のスタットボルト5を設けると共に鉄筋6を格子状に張り巡らす。鉄筋6は、スタットボルト5間に掛け渡して設けることで容易に格子状に張ることができる。
【0013】
この後、図1(b)、図4及び図5に示すように、鉄皮構造体3の底板7を上方に臨ませて位置させ、この底板7上にそれぞれ所定の間隔を隔てて櫛歯状にコンクリート層(櫛歯状コンクリート層)8を打設する。このとき、櫛歯状コンクリート層8は、それぞれ鉄皮構造体3の短手方向に延びるように形成し、櫛歯状コンクリート層8間の間隙9の長さが最短となるようにする。櫛歯状コンクリート層8の厚さは15cm程度とし、櫛歯状コンクリート層8の配列方向の寸法、数、間隔は、全ての櫛歯状コンクリート層8が硬化したときの総重量と鉄皮構造体3の重量の合計が自前の吊り設備(図示せず)の能力を超えないように決定する。また、櫛歯状コンクリート層8は、それぞれ側板10に沿って所定長さ延びる延長部11が形成されるように下方に延長して形成する。これにより、後の工程で櫛歯状コンクリート層8間にコンクリートを圧入して充填するとき、延長部11の上端からコンクリートが溢れるまでコンクリートを充填することで確実かつ容易に櫛歯状コンクリート層8間にコンクリートを充填することができる。延長部11は、上下方向の長さを30〜50cm程度に形成するとよい。櫛歯状のコンクリート層8は、図3に示すように、鉄皮構造体3上にコンクリート成型用の型枠板12を組み付けて型枠13を形成したのち、型枠13内にコンクリートを流し込むことで形成する。このとき、鉄皮構造体3の底板7上に取り付ける型枠板12は、図3(b)に示すように、鉄筋6を交わすための切欠14を有するものを用い、底板7上に組み付けた後で切欠14をパテ等で塞いでコンクリートが流出しないようにする。また、予め型枠板12に目荒し用の薬剤を塗布しておき、のちに櫛歯状コンクリート層8に隣接して打設するコンクリートが櫛歯状コンクリート層8に馴染むようにしておく。
【0014】
櫛歯状コンクリート層8が全て硬化したら、櫛歯状コンクリート層8の周りの型枠13を全て取り外し、それぞれの櫛歯状コンクリート層8を水洗して目荒し用の薬剤を洗い流すと共に、櫛歯状コンクリート層8付きの鉄皮構造体3を自前の吊り設備で吊り上げつつ上下反転させ、図1(c)及び図6に示すように、櫛歯状コンクリート層8を下にして後述する底盤型枠部15上に載置する。
【0015】
底盤型枠部15は、平板状の板材からなり、底盤型枠部15上に鉄皮構造体3を櫛歯状コンクリート層8を下にして載置したとき、櫛歯状コンクリート層8間の間隙9の下端を塞いで間隙9を角筒状に区画するようになっている。底盤型枠部15には、鉄皮構造体3の前後左右の側板10に沿ってコンクリート層を形成するための側部型枠部16、17が起立して設けられている。また、底盤型枠部15には、間隙9に臨んで開口するコンクリート注入口24がそれぞれの間隙9ごとに形成されると共に、コンクリート注入口24を開閉自在に塞ぐシャッタバルブ18がコンクリート注入口24のそれぞれに設けられている。コンクリート注入口24は、鉄皮構造体3の短手方向の両端に沿う側部型枠部16間の略中央に位置するように形成されており、コンクリート注入口24から間隙9を経て側部型枠部16に到るまでの距離が短くなるように設定されている。
【0016】
底盤型枠部15上に櫛歯状コンクリート層8付きの鉄皮構造体3を載置したら、シャッタバルブ18に、コンクリートポンプ(図示せず)に接続されたコンクリート打設管19を接続し、シャッタバルブ18を開いて櫛歯状コンクリート層8間の間隙9にコンクリートを圧入する。このとき圧入するコンクリートには、例えば呼び強度24N/mm2、スランプフロー約60〜70cm、最大粗骨材寸法20mm、空気量3〜5%の流動性の良いコンクリートを用いると、特にバイブレータ等を用いる必要がなく、容易に間隙9内で流動させることができる。また、コンクリートの圧入は、全ての間隙9に対して行い、全ての間隙9にコンクリートを充填する。間隙9に圧入されたコンクリートは、櫛歯状コンクリート層8に流路を規制されつつ、間隙9の中央から充填される。間隙9内の空気はコンクリートに押されて間隙9の両端から抜け出るため、コンクリート中に残ることはない。また、コンクリート注入口24は、間隙9の中央に位置されているため、コンクリート注入口24から間隙9の両端までの距離は鉄皮構造体3の幅寸法の約半分(鉄皮構造体3の幅が10mの場合、間隙9内でコンクリートが流れる距離は約5m)であり、コンクリートが分離することもない。図2(d)に示すように、圧入中のコンクリートが櫛歯状コンクリート層8の延長部11の上端から溢れたら、コンクリートポンプを停止すると共にシャッタバルブ18を閉じる。延長部11の上端縁は鉄皮構造体3の底板7よりも30〜50cm高い位置にあるため、延長部11の上端縁から溢れるまでコンクリートを注入することで確実に間隙9内をコンクリートで満たすことができる。そして、全ての間隙9にコンクリートを充填し、これらコンクリートが硬化したとき、底部コンクリート層が完成されることとなる。
【0017】
全ての間隙9にコンクリートが充填されたら、図2(e)に示すように、これらコンクリートが完全に硬化する前に、側部型枠部16、17と鉄皮構造体3との間に側部コンクリート層20を形成するためのコンクリートを注入し、図2(f)に示すように、このコンクリートが完全に硬化する前に、鉄皮構造体3の上板23上に上部コンクリート層21を形成するためのコンクリートを注入する。これにより、鉄皮構造体3の外周面が全てコンクリートで覆われることとなる。コンクリートが全て硬化すると、鉄皮構造体3の外周面に沿って側部コンクリート層20、上部コンクリート層21及び底部コンクリート層22が形成され、ハイブリッド構造体が完成する。
【0018】
このように、底部コンクリート層22を形成するに際し、鉄皮構造体3の底板7を上方に臨ませて位置させ、この底板7上にそれぞれ所定の間隔を隔てて複数の櫛歯状コンクリート層8を打設し、爾後、鉄皮構造体3を上下反転させて櫛歯状コンクリート層8を底部に位置させ、これら櫛歯状コンクリート層8間にコンクリートを打設して底部コンクリート層22を形成するものとしたため、鉄皮構造体3の底板7を上方に臨ませた状態で形成する底部コンクリート層22の重量を調節することができ、幅10mに及ぶ大型のハイブリッド構造体であっても容易かつ安価に製造できる。
【0019】
また、櫛歯状コンクリート層8を打設するとき、櫛歯状コンクリート層8がそれぞれ鉄皮構造体3の側板10に沿って所定長さ延びるように延長して形成するため、櫛歯状コンクリート層8間の間隙9に、延長部11の上端縁からコンクリートが溢れるまでコンクリートを充填することで確実に間隙9にコンクリートを充填することができる。
【0020】
櫛歯状コンクリート層8間の間隙9にコンクリートを打設するとき、櫛歯状コンクリート層8を底盤型枠部15上に載置すると共に底盤型枠部15に櫛歯状コンクリート層8間の間隙9に臨んで開口するコンクリート注入口24を形成し、コンクリート注入口24から間隙9にコンクリートを圧入して底部コンクリート層22を形成するため、櫛歯状コンクリート層8と底盤型枠部15とでコンクリートの流路を規制でき、コンクリートの圧入圧が逸脱するのを防ぐことができ、コンクリートを間隙9に沿って長い距離に渡って行き渡らすことができる。
【0021】
なお、上述のハイブリッド構造体の製造は、進水ドック内で行い、底盤型枠部15は予め進水ドックの底面に所定の高さをもって固定しておくとよい。進水ドック内に海水を入れることで、ハイブリッド構造体が浮上し、底盤型枠部15からハイブリッド構造体を容易に取り外すことができる。また、進水ドック内からハイブリッド構造体を曳航することで所定の係留位置に容易に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の好適実施の形態を示すハイブリッド構造体の製造手順を示す説明図であり、(a)は鉄皮構造体の斜視図であり、(b)は鉄皮構造体の底板上に櫛歯状のコンクリート層を形成した状態の斜視図であり、(c)は櫛歯状のコンクリート層間にコンクリートを打設する状態の斜視図である。
【図2】図1の続きの製造手順を示す説明図であり、(d)は底部コンクリート層が完成された状態の正面断面図であり、(e)は鉄皮構造体の側板に沿って側部コンクリート層を形成した状態の正面断面図であり、(f)は鉄皮構造体の上板上に上部コンクリート層を形成した状態の正面断面図である。
【図3】(a)は鉄皮構造体の底板上に櫛歯状のコンクリート層を形成するときの鉄皮構造体の平面図であり、(b)は櫛歯状のコンクリート層を形成するときに用いる型枠の概略正面図である。
【図4】底板上に櫛歯状のコンクリート層を形成した鉄皮構造体の側面図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】櫛歯状のコンクリート層間にコンクリートを打設している状態の鉄皮構造体の側面図である。
【図7】従来のハイブリッド構造体の製造方法を示す説明図であり、(a)は底板上にコンクリート層を形成した鉄皮構造体の正面図であり、(b)は鉄皮構造体の側板及び上板にコンクリート層を形成する状態の正面図である。
【図8】従来の他のハイブリッド構造体の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0023】
3 鉄皮構造体
7 底板
8 櫛歯状コンクリート層(コンクリート層)
9 間隙
10 側板
15 底盤型枠部
20 側部コンクリート層(コンクリート層)
21 上部コンクリート層(コンクリート層)
22 底部コンクリート層
23 上板
24 コンクリート注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱状に形成した鉄皮構造体の底板に沿って底部コンクリート層を形成したのち、鉄皮構造体の側板と上板に沿ってコンクリート層を形成するハイブリッド構造体の製造方法において、上記底部コンクリート層を形成するに際し、上記鉄皮構造体の底板を上方に臨ませて位置させ、この底板上にそれぞれ所定の間隔を隔てて櫛歯状にコンクリート層を打設し、爾後、上記鉄皮構造体を上下反転させて上記コンクリート層を底部に位置させ、これら櫛歯状のコンクリート層間にコンクリートを打設して底部コンクリート層を形成することを特徴とするハイブリッド構造体の製造方法。
【請求項2】
上記櫛歯状にコンクリート層を打設するとき、これらコンクリート層がそれぞれ上記側板に沿って所定長さ延びるようにコンクリート層を延長して形成する請求項1記載のハイブリッド構造体の製造方法。
【請求項3】
櫛歯状のコンクリート層間にコンクリートを打設するとき、これらコンクリート層を底盤型枠部上に載置すると共にこの底盤型枠部に上記コンクリート層間の間隙に臨んで開口するコンクリート注入口を形成し、このコンクリート注入口から上記間隙にコンクリートを圧入して底部コンクリート層を形成する請求項1又は2記載のハイブリッド構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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