説明

ハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料

【課題】炭素繊維の0度方向曲げ強度と90度方向曲げ強度とも単独の炭素繊維強化では得られない高い強度を示し、構造材に適した複合材料を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、繊維径3〜25μm、長さ20mm以上の炭素長繊維(B)80〜250質量部、及び繊維径0.5〜20nm、長さ100〜5000nmの炭素微細繊維(C)0.1〜10質量部を含有することを特徴とするハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料。また、熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂及び/または酸変性ポリプロピレン樹脂であることが好ましい態様であるハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料。また、炭素微細繊維(C)が、カーボンナノチューブ及び/またはカーボンナノファイバーであることがさらに好ましい態様であるハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素長繊維と炭素微細繊維からなるハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料に関する。更に詳しくは、炭素長繊維の軸方向およびこの横方向の機械的強度が、炭素長繊維と炭素微細繊維の相乗効果により、著しく改善されたハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス長繊維強化ポリプロピレン複合材料は知られていた(例えば、非文献1参照)。しかし、かかる従来技術は、ガラス繊維とポリプロピレンの接着性が低く、ガラス繊維の強度や弾性率への補強効果が低く、構造材としての実用性能には不満足であった。
ガラス繊維とポリプロピレンの接着性については、プロピレンを無水マレイン酸のような極性官能基により変性することは有効であると特開平05−001184(特許文献1)や特開平06−279615(特許文献2)に開示されている。さらに特殊なカップリング剤を含む集束剤で処理したガラス繊維を使用することが特開2005−170691(特許文献3)に開示されている。しかし、保安部品のような高強度の構造部材に要求される高い強度や物性の信頼性にははるかに未達であった。また、ガラス繊維より、強度や弾性率の高い炭素繊維を使用した炭素繊維強化ポリプロピレンについても、無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体を使用して接着性を改善した組成物が特開2005−256206(特許文献4)に開示されている。しかし、炭素繊維とポリプロピレンの接着性がまだ低く、炭素繊維の高強度が複合材料に反映されず、構造材としての要求には未達であった。
また、電線被覆法を応用したガラス長繊維強化ポリアミド樹脂複合材料は知られていた(例えば、非特許文献2参照)。しかし、かかる従来技術は、コンパウンド工程や射出成形工程でガラス繊維の折損が著しく、ガラス繊維の強度や弾性率への補強効果が低下し、構造材としての実用性能には不満足であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−001184号公報
【特許文献2】特開平06−279615号公報
【特許文献3】特開2005−170691号公報
【特許文献4】特開2005−256206号公報
【特許文献5】特開2006−117756号公報
【特許文献6】特開2003−135976号公報
【特許文献7】特開2002−105329号公報
【特許文献8】特開2005−200620号公報
【特許文献9】特開2009−138032号公報
【特許文献10】特開2002−97375号公報
【特許文献11】特開2003−286350号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】プラスチックス、Vol.36(7),p103(1985)
【非特許文献2】Composites,July, 150 (1973)
【0005】
一方、体積抵抗率の低下や導電性や電磁波シールド性付与のために、炭素繊維や微細炭素繊維を配合する研究が進められていた。カーボンナノチューブを含むポリアミド複合材料が、特開2006−117756(特許文献5)に開示されている。熱可塑性樹脂に、カーボンナノチューブのような微細炭素繊維を含有することにより、体積抵抗率を安定化することが特開2003−135976(特許文献6)に、ピッチ系炭素繊維ミルドにカーボンナノチューブを混合することが、特開2002−105329(特許文献7)、また、ケッチェンブラックやカーボンナノチューブと気相成長した炭素繊維を組み合わせ効果が、特開2005−200620(特許文献8)にそれぞれ開示されている。さらにカーボンナノチューブと導電ポリマーと併用することが、特開2009−138032(特許文献9)に開示されている。また、熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブと導電性を有する炭素繊維を併用配合することにより、導電性とガスバリア性が改善され、燃料電池セパレーターに適した樹脂組成物が提供されることが、特開2002−97375(特許文献10)に開示されている。また、段階的に希釈したカーボンナノチューブと射出成形を目的として、比較的低配合量の炭素繊維から熱可塑性樹脂組成物が、特開2003−286350(特許文献11)開示されている。しかし、カーボンナノチューブ併用はいずれも導電性の発揮を目的としており、強化については、炭素繊維による強化効果のみ期待されており、要求強度を満たす炭素繊維量が配合されていた。
カーボンナノチューブ配合による弾性率や強度の向上は、炭素繊維強化が困難な透明フィルム成形品などで開示されているが、その効果は、炭素長繊維による補強効果に比較してたいへん小さく、構造材を目的とした複合材料には、併用効果は全く予想外であり、応用されていなかった。
炭素繊維強化樹脂を構造材は、炭素繊維の長さ方向に引っ張り荷重を受けた場合たいへん強いが、繊維軸に対して横方向の荷重を受けた場合や曲げ荷重を受けた場合、大変弱い。この強度は、炭素繊維の配合量を増やしても改善されず、むしろマイナス効果であった。
炭素繊維配合量の増加では改善できない、曲げ荷重や繊維の軸方向に対して横方向の荷重を受けた場合の強度を改善する要求が設計者から強かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、曲げ荷重や繊維の軸方向に対して横方向の荷重を受けた場合の強度を改善した構造材に適した複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、繊維径3〜25μm、長さ20mm以上の炭素長繊維(B)80〜250質量部、及び繊維径0.5〜20nm、長さ100〜5000nmの炭素微細繊維(C) 0.1〜10質量部を含有することを特徴とするハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である。
2.また、熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂及び/または酸変性ポリプロピレン樹脂であることが好ましい態様であるハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である。
3.また、炭素微細繊維(C)が、カーボンナノチューブ及び/またはカーボンナノファイバーであることがさらに好ましい態様であるハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である。
4.スタンピング成形用ハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である、上記1.〜3.のいずれかのハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、炭素繊維配合量の増加のみでは到達できない非常に高い曲げ強度や炭素繊維の軸方向に対して横方向の荷重を受けた場合の強度が著しく高い、ハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性複合材である。本発明により得られた炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材のプリプレグを成形して得られる成形部品は、自動車のフレーム部品や機械器具の構造部材やスポーツ器具などに使用される。本発明により、高い曲げ強度や繊維軸に対して横方向の高い強度を有するプリプレグが提供される理由は、未だ明確でないが、微細炭素繊維が母相をなす熱可塑性樹脂の圧縮弾性率を高めため、曲げ応力を受けた場合、圧縮側の変形を抑制し、炭素繊維の座屈を抑制することで、圧縮破壊モードを防止することにより炭素繊維の高い引張強度を有効にすることと、微細炭素繊維が炭素繊維の軸方向に対して、配向性が低く、炭素繊維の補強効果が期待できない軸方向に対して横方向の強化作用を有するためと考察される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。
本発明は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、繊維径3〜25μm、長さ20mm以上の炭素長繊維(B)80〜250質量部、及び繊維径0.5〜20nm、長さ100〜5000nmの炭素微細繊維(C) 0.1〜10質量部を含有することを特徴とするハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である。
また熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂及び/または酸変性ポリプロピレン樹脂であることを好ましい態様とするハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である。
さらに、炭素微細繊維(C)が、カーボンナノチューブ及び/またはカーボンナノファイバーであることが好ましい態様であるハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である。
さらに、スタンピング成形ハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料であることを好ましい様態とするハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料である。
【0010】
本発明には、重量平均繊維長が20mm以上好ましくは30mm以上、より好ましくは33mm以上、更に好ましくは100mm以上の炭素長繊維や連続繊維が使用される。重量平均繊維長が20mm未満では、構造材としての強度が未達となり、好ましくない。構造材を目的とした複合材料と導電性付与を目的とした複合材料とは、好ましい繊維長は基本的に異なる。本発明の目的とする構造材用複合材料の場合、高い応力や高いひずみ下でも応力伝達ができる繊維長が必要である。繊維のからみ合いや接触した状態では目的は達成できない。機械物性上は連続繊維が好ましいが、スタンピング成形時の金型内における流動性が必要なことからプリプレグとして、補強上十分なアスペクト比を保った長さで流動性を満たす長さに切断されたものが使用されることもある。炭素繊維としては、製造法に特に制限されないが、ポリアクリロニトル繊維やセルロース繊維などの繊維を空気中で200〜300℃にて処理した後、不活性ガス中で1000〜3000℃以上で焼成され炭化製造された引っ張り強度20t/cm以上、引っ張り弾性率200GPa以上の炭素繊維が好ましい。本発明に使用される単繊維径は、特に制限されないが、複合化の製造ライン工程から3〜25μmが好まし;く、特に4〜15μm好ましい。3μm未満では、含浸や脱泡が難しく、25μmを超えると、比表面積が小さくなり、複合化の効果が小さくなり好ましくない。本発明に使用される炭素繊維は、空気や硝酸による湿式酸化、乾式酸化、ヒートクリーニング、ウイスカライジングなどによる接着性改良のための処理されたものが好ましい。また本発明の複合材料製造に使用される炭素繊維は、作業工程の取り扱い性から、100℃以下で軟化する集束剤により集束されていることが好ましい。集束フィラメント数には特に制限ないが、1000〜30000フィラメント、好ましくは、3000〜25000フィラメントが好ましい。
炭素長繊維または連続繊維は、熱可塑性樹脂100質量部当り、80〜250質量部、好ましくは、90〜200質量部含有する。80質量部未満では、構造材としての強度や弾性率が低く好ましくなく、250質量部を超えると、炭素繊維への熱可塑性樹脂の含浸性が難しく、含浸時毛羽の発生やボイドの割合が高くなり好ましくない。
【0011】
本発明に使用される炭素微細繊維は、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーと呼ばれるものであり、炭素層が、炭素六角網面が円筒状に閉じた単層のものや円筒状の炭素層が入れ子状になった多層のものがあり、いずれかに限定されない。含浸中せん断圧力による破損がしにくい曲げ強度の高い多層のカーボンナノチューブが好ましい。単繊維径が、0.5〜20nm、好ましくは5〜15nmで、長さが100〜5000nm,好ましくは150〜3000nmのものである。単繊維径が、0.5nm未満では、熱可塑性樹脂中で分散は難しく、また炭素繊維に含浸中のせん断応力で破損しやすいので好ましくない。また20nmを超えると、微細繊維の特徴である微分散効果が得られず、炭素繊維とのハイブリッド補強効果が得られず好ましくない。また長さが,100nm未満では、補強効果が小さく本発明には好ましくなく、5000nmを超えると樹脂中への分散が難しく好ましくない。長さ(L)を単繊維径(D)で除したアスペクト比(L/D)は10以上が好ましく、50以上がさらに好ましく、100以上が特に好ましい。
本発明に使用されるカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーの製造法は限定されないが、炭素電極間にアーク放電し、放電用電極の陰極表面に成長させる方法や、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して、加熱昇華させる方法、遷移金属触媒を使用して、炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法などで製造される。製造方法により得られるカーボンナノチューブの形状やサイズは異なる。カーボンナノチューブは、繊維軸に対して、黒鉛層はほぼ平行である。一方、気相法により製造される微細炭素繊維には、製造方法により、中空でないものや、繊維軸に対して、黒鉛層が傾いている構造のものと、繊維軸に対してほぼ直角なものや、不鮮明なものがあり、これらはナノファイバーと呼ばれている。本発明には、黒鉛層がほぼ直角なものや不鮮明なものは強化効果が小さく好ましくない。
本発明の複合材料には、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、炭素微細繊維(C)を0.1〜10質量部を、好ましくは1〜7質量部含有する。0.1質量部未満では、炭素微細繊維をハイブリッドした効果は発揮できず好ましくない。また10質量部を超えると樹脂の溶融粘度が上昇し、炭素繊維への含浸性が低下するので好ましくない。等質量部の炭素繊維を増加した場合と炭素微細繊維をハイブリッドの場合の差は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、炭素繊維(B)を60質量部、特に100質量部を超えて含有する複合材料で顕著である。炭素繊維含有量がこれを超えて場合、炭素繊維含有量を炭素繊維の長さ方向に対して横方向の曲げ強度(以下90度曲げ強度と表す)は、低下するが、炭素微細繊維をハイブリッドした場合は、90度曲げ強度が増加するという大きな差異がある。また、炭素繊維含有量増に対して、炭素繊維の長さ方向の曲げ強度(以下0度曲げ強度と表す)の増分に対して、炭素繊維の含有量増分を炭素微細繊維に置き換えた場合、その強度増分は2倍以上ある。熱可塑性樹脂(A)100質量部に、炭素繊維5質量部を含有した複合材料の0度曲げ強度に対して、炭素微細繊維5質量部含有した複合材料の0度曲げ強度は、1/2以下であるから、炭素繊維と微細炭素繊維のハイブリッド効果は、全く予想されない驚いた相乗効果である。この効果発現の理由は、未だよく解らないが、長い炭素繊維は引張り側の強化に有効であり、炭素繊維間を埋める微細炭素繊維は、圧縮側の座屈に対する強化に有効な作用をするから、引っ張り変形モードと圧縮変形モードが複合された曲げ強度において、相乗効果を示したものと考察される。
本発明によると、0度曲げ強度が1000MPaを、かつ、90度曲げ強度が95MPa、好ましくは100MPaを超えることができることが特徴である。
【0012】
本発明に使用される熱可塑性樹脂は、特に限定されない。ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂などが例示される。これらの中では、炭素繊維や微細炭素繊維と親和性を有する官能基を含有するものが、繊維との接着性が高く強化効果が発揮できるので好ましい。上記のうちでもポリプロピレン系樹脂及び/またはポリアミド系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂の中でも酸変性ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
本発明で好ましく使用される酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、8万〜20万、好ましくは9万〜18万である。重量平均分子量が、20万を超えると、溶融粘度が高くなり、プリプレグ作製時、含浸性が低く、ボイドを含み易く、本発明が達成されない。また重量平均分子量が8万未満では、強度や伸度が低く、プリプレグから得られる成形品の強度・伸度が低く好ましくない。重合触媒としては、チグラーナッタ触媒より、メタロセン系触媒が好ましい。また酸変性は、有機過酸化物によるラジカルにより、不飽和酸や不飽和無水酸をグラフトすることで得られる。有機過酸化物では、パーオキシジカーボネート系やパーオキシケタール系より、ジアルキルパーオキサイドが好ましい。本発明に使用される酸変性ポリプロピレンの多分散性指数(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)には1.5〜7、好ましくは1.6〜6、特に好ましくは1.7〜5である。多分散指数は、1.5未満の酸変性ポリプロピレンを得るには、分別処理が必要でコスト高となり、好ましくない。また7を超えると、重量平均分子量が、8万〜20万の範囲内あっても、混在する低分子量ポリプロピレンが強度・伸度を低下させるので好ましくない。逆に、混在する高分子量成分は、含浸性や接着性を低下させて好ましくない。多分散性指数が小さいために、比較的低い重量平均分子量品でも、低分子量成分が非常に少なく、酸変性ポリプロピレンの強伸度が高くなったためと考察される。プリプレグ製造時の含浸性は、重量平均分子量に強く依存する、一方機械的性質は低分量成分に依存することが分かった。分子量分布を大変狭く制御することで、低い重量平均分子量と少ない低分子量成分を両立することが可能となる。
重量平均分子量およびその分布は、JISK7252系に準じて、140℃の1,2,4−トリクロロベンゼン溶液について、ゲル浸透クロマトグラフィー法により、140℃の高温カラムを使用して測定される。
【0013】
本発明に使用される酸変性ポリプロピレンは、強化材と高い接着強度を有することが必要であり、赤外吸収スペルトルにおいて、840cm−1の吸光度面積に対して1790cm−1と1710cm−1の吸光度面積の和の比が0.1〜1.2、好ましくは0.2〜1.0である酸変性されている。無水酸変性度が0.1%未満では、プリプレグを成形して得られる成形品の強度が低く好ましくない。また1.2を超えると、熱分解や熱変色が起こり好ましくない。酸成分としては、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸などの無水酸やアクリル酸、メタクリル酸などが例示される。好ましくは、変性のしやすさからマレイン酸、イタコン酸の無水酸である。840cm−1は、ポリプロピレンに由来する赤外線吸収であり、測定した試験片の厚さ補正係数である。また1790cm−1,1710cm−1は、それぞれ無水カルボン酸とカルボン酸に由来する吸収であり、吸水と脱水状態を移行するから総合した変性度で効果は整理される。
【0014】
本発明に使用されるポリプロピレン(A)としては、プリプレグ作製時の含浸性から分岐構造が殆どなく、物性的には高い弾性率を有する、95モル%以上がプロピレン繰り返し単位からなるホモタイプのポリプロピレンで、アイソタクチックスやシンジオタクチックスの立体規則性分率の高いものが好ましい。特にアイソタクチックス分率の高いものが好ましい。また、本発明に使用されるポリプロピレンの重合触媒は、特に限定されないが、立体規則性や分子量分布がシャープなポリプロピレンが提供できるメタロセン系触媒が好ましい。
【0015】
本発明の酸変性ポリプロピレン樹脂及び組成物は、出発原料や製造条件は制限されないが、メルトフローレート0.1〜4dg/minであるポリプロピレン(A)100質量部に対して、無水マレイン酸0.01〜5質量部、半減期が1分となる温度が170〜185℃の範囲にある有機過酸化物0.05〜3質量部を溶融混練して得られることが好ましい態様である。
ポリプロピレン(A)に不飽和ジカルボン酸化合物と有機過酸化物を作用させて酸変性する方法が、工業的には好ましいが、この方法による変性時、ポリプロピレン(A)の分子鎖はラジカルで切断される副反応が伴う。この反応を制御するには、有機過酸化物のラジカル発生特性が適合することが必要である。半減期が1分となる温度が170〜185℃、好ましくは、172〜183℃である有機過酸化物が好ましい。170℃未満では、低分子量のポリプロピレンのみ溶融した状態からラジカル発生を開始するから低分量のポリプロピレンが発生しやすく、多分散性指数が高くなり好ましくない。また185℃を超えると、滞留時間が2分以下の押出機で変性反応を行う場合、230℃以上の高温が必要となり、熱分解や熱変色を伴いやすく、品質安定性の面から好ましくない。半減期が1分となる温度が、170〜185℃である有機過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキシド(182℃)、t−ブチルハイドロパーオキシド(179℃)、ジクミルパーオキシド(172℃)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)、nーブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート(173℃)などが例示される。これらの中では、t−ブチルハイドロパーオキシド(179℃)、ジクミルパーオキシド(172℃)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)が活性酸素量も高く好ましい。ポリプロピレン100質量部に対して、無水マレイン酸0.01〜5質量部をグラフト変性する場合、活性酸素の必要量から、有機過酸化物は0.05〜3質量部、好ましくは、0.1〜1質量部使用される。
0.05質量部未満では、反応不足となりやすく好ましくない。3質量部を超えると低分子量ポリプロピレンにもラジカルの作用が起こりやすく好ましくない。
【0016】
本発明に好ましく使用されるポリアミド樹脂は、特に限定されないが、複合化して構造材として使用されるから、融点が100℃以上、曲げ弾性率が2GPa以上のポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド610、ポリアミド46などの脂肪族ポリアミドやポリアミドMXD6,ポリアミド9T、ポリアミド6T、ポリアミド4Tやこれらの共重合体やポリマーアロイなどが挙げられる。本発明の効果を発揮するには、主ポリアミドが70モル%未満のポリアミド共重合体は、結晶化速度が遅いことや、融点が低下し耐熱性が低いことや剛性が低いことから好ましくない。
本発明に使用されるポリアミド樹脂の分子量は特に限定されないが、25℃において測定した98質量%硫酸の0.05g/l濃度における相対粘度が1.8〜2.8、より好ましくは1.9〜2.6の範囲にある。やや低分子量のものが、炭素繊維への含浸性から好ましい。相対粘度が1.8未満では樹脂が脆く、本発明の効果を発揮しにくい。また2.8を超えると、溶融粘度が高くなり、炭素繊維への含浸性が低下するので好ましくない。
【0017】
本発明の複合材料は、プリプレグとして、スタンピング成形して使用される。本発明で言うプリプレグとは、予め強化繊維に樹脂を含浸して得られる板状・シート状・テープ状の予備成形材料である。この予備成形体であるプリプレグを更にスタンピング成形して、実用の形状をした成形品が得られる。プリプレグ作製やスタンピング成形は、溶融加工であり、一般に融点より、20〜100℃、好ましくは30〜80℃高温に加熱して使用される。
【0018】
本発明の複合材料には、上記の必須成分の他に物性改良・成形性改良、耐久性改良を目的として、結晶核剤・離型剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤などが配合できる。
本発明の複合材料の製造法は特に限定されない。好ましくは、熱可塑性樹脂(A)に微細炭素繊維(C)を微分散し後、炭素繊維に含浸する方法である。熱可塑性樹脂に微細炭素繊維を微分散する方法としては、樹脂の融点以上に温度調節されたスクリュータイプ押出機のホッパーに熱可塑性樹脂(A)と微細炭素繊維(C)を所定割合に予備混合して供給する。溶融混練されたストランドを水冷後ペレタイズする方法や、熱可塑性樹脂(A)を上流のホッパーに供給し、微細炭素繊維を下流のサイドフィーダーから供給し、溶融混練されたストランドを水冷後ペレタイズする方法などが挙げられる。また、予め高濃度の微細炭素繊維を熱可塑性樹脂に溶融混練して、得られた微細炭素繊維のマスターバッチに、熱可塑性樹脂をブレンドして、溶融混練して、微細炭素繊維を希釈して、所定濃度の微細炭素繊維を含有するペレットを得るも使用される。また逆に、低濃度の微細炭素を溶融混練してえられた熱可塑性樹脂ペレットに、微細炭素繊維を追加溶融混練して、微細炭素繊維をより高濃度にしていく濃縮する方法も使用される。
希釈法や濃縮法の場合、一段目の熱可塑性樹脂と二段目以降の熱可塑性樹脂は、同樹脂か異樹脂かは限定されない。ただ、一段目の熱可塑性樹脂と二段目の熱可塑性樹脂は相溶性がよくナノ分散性があることが好ましい。一段目の熱可塑性樹脂は、二段目の熱可塑性樹脂より、低粘度の方が微細炭素繊維を微分散する上で好ましい。
炭素繊維に微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂を溶融し、ダイ内やロール間で含浸して本発明の複合材料からなるプリプレグが製造される。
【0019】
本発明の複合材プリプレグは、赤外線加熱や高周波加熱により、樹脂を加熱溶融して、圧縮成形機の金型に供給して、賦形冷却後脱型して構造材の部品が成形される。
本発明の複合材から得られた成形部品は、自動車のフレーム、バンパーフェースバーサポート材、シャシーシェル、座席フレーム、サスペンジョン支持部、サンルーフフレーム、バンパービーム、2輪車のフレーム、農機具のフレーム、OA機器のフレーム、機械部品など高い強度と剛性の必要な部品に利用される。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例 1〜8
ポリプロピレン、ポリアミド樹脂、無水マレイン酸、有機過酸化物、微細炭素繊維、微細炭素繊維マスターバッチを表1に示した質量部に配合して、ポリプロピレンの場合は、シリンダー温度が200℃に、ポリアミド樹脂の場合は270℃に温度調節されたスクリュー式ニ軸押出機(池貝鉄工社製PCM30)のホッパーに投入した。スクリュウ回転数100rpmにて溶融混練し、水冷しペレタイズされた。
得られた微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂のペレットは、80℃にて1時間乾燥した後、アルミラミの防湿袋にとり、絶乾状態で保管された。
微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂ペレットをスクリュー式押出機のホッパーに投入し、可塑化した樹脂をギアポンプにより計量し、含浸装置の含浸台に供給した。一方、炭素繊維のロービングを一定速度で拡張開繊して押出機のダイヘッドに供給し、表2に示した混合比になるように、押出機より供給される熱可塑性樹脂量を調節した。幅10mm・高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを水槽に浸漬して固化した後、枷に巻き取った。
テープ状プリプレグを内寸200mm×150mmの金属製枠に繊維軸を平行になるように12層重ねて固定した。IRヒータにより、200℃〜260℃に予熱した後、表面温度120〜180℃のある温度に温度調節された200mm×150mmの金型にセットして、5分間30MPa圧縮保持した。その後、金型を開いて成形品を取り出した。
【0021】
評価や分析は、次の方法で行った。
・微細炭素繊維の寸法測定
本発明により得られた厚さ約2mmのプリプレグテープの横方向の側面から幅0.5mm長さ3mmサンプリングした。これからウルトラミクロトームを使用して厚さ50〜200nm,好ましくは、80〜150nmの超薄切片を得た。超破薄切片について透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社)を使用して、5〜50万倍にて観察し透過像写真を得た。微細繊維約30本になるように視野を変えて透過像写真を得た。この透過像写真の限定視野内にあるすべての微細炭素繊維について、繊維径と長さを測定して、長さ方向に径は均一である仮定で、複合材料中の重量平均の平均繊維長を求めた。
透過型写真では、厳密には、超薄切片内の平面への投影像であり、投影長さや繊維径であり、実際より、小さい寸法として観察されるが、本発明では、超薄切片の厚さ50〜200nmの範囲で得られる投影寸法をもって微細炭素繊維の寸法と定義した。
・炭素長繊維の繊維径測定
本発明により得られた厚さ約2mmのプリプレグテープについて、エポキシ樹脂で包埋して、ミクロトームを使用して成形品の断面について、薄片を切り出し、走査型電子顕微鏡S3500N型(日立ハイテクノロジー社)を使用し、真空下において1000倍で視野を変えて10個観察して、繊維径を測定した。それらの平均径を求めた。
・炭素長繊維長さ
本発明により得られたプリプレグテープ100mmについて、キーエンス社マイクロスコープを使用して、50倍にて観察して、炭素繊維30本の単糸の長さを測定し、重量平均を求めた。毛玉や単糸切れが観察されない場合は、プリプレグテープの長さ100mmとした。
・微細炭素繊維の含有量(A
微細炭素繊維と熱可塑性樹脂を、溶融混練する場合のそれぞれの仕込み質量から、(1)式により、微細炭素繊維含有量(A)を算定した。
=W/(W+W) (1)
ここで、WN:仕込み微細炭素繊維質量、WT:仕込み熱可塑性樹脂質量
・炭素繊維量
プリプレグテープについて、550℃にて5時間加熱して、その質量減少率から熱可塑性樹脂分率を求め、得られた熱可塑性樹脂分率から(4)で求めた微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂分率を算定して、(2)式により全体から微細炭素繊維分率を差し引いて炭素繊維量とした。

C=1−(1+A)B (2)
ここで、C:炭素繊維分率、 B:熱可塑性樹脂分率、
:微細炭素繊維含有熱可塑性樹脂中の微細炭素繊維含有率
(5)物性評価
得られた厚さ約2mmの平板状成形品から、炭素繊維の長さ方向(0度)およびこれと直角方向(90度)について、それぞれ15mm×100mmの試験片各5本切削した。これをデシケータ中で23℃にて48時間保管後、ISO178に準じて、3点曲げ試験機(オリエンテック社製テンシロン4L型)を使用して、スパン長80mm・クロスヘッド速度1mm/minとして曲げ強度を測定した。
【0022】
比較例1〜7
炭素長繊維、微細炭素繊維、熱可塑性樹脂の種類と配合比を表3に示したように変更した以外は、実施例と全く同様にプリプレグを作製した後、スタンピング成形により、平板を成形して、平板からテストピースを切削した。得られた試験片について,実施例と全く同様に0度曲げ強度と90度曲げ強度を測定した。得られた試験データを表3に合わせて示した。
実験に使用した原料と記号
PP1:未変性ポリプロピレン(プライムポリマー社製、E111G、MFR 0.5dg/min)
PP2:未変性ポリプロピレン(プライムポリマー社製、J136、MFR20dg/min)
PA6:ポリアミド6(東洋紡績社製T802、相対粘度2.5)
MAH:粉末状無水マレイン酸(日油社製)
25B:有機過酸化物2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)、(日油社製、パーヘキサ25B)1分半減期温度 179.8℃
CF:東邦テナックス社製炭素繊維、IMS40(単繊維径6.4μm、6000フィラメント)
CNT1:多層カーボンナノチューブ(昭和電工社製VGCF、単繊維系18nm,長さ2800nm)
CNTM:カーボンナノチューブ/ポリプロピレン20%マスターバッチ(Hyperion Catalysis international, Inc. 製FIBRIL MB3020-01)
【0023】
【表1】

【表2】

【表3】

【産業上の利用可能性】
【0024】
炭素長繊維と微細炭素繊維のハイブリッドによる相乗強化効果を有する本発明の複合材料から得られるスタンピング成形品は、炭素繊維の単独強化では到底得られない非常に高い0度方向曲げ強度と90度方向曲げ強度を有する。この複合材料により、構造部材の樹脂化が可能となり、軽量化や省エネルギーの面から産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、繊維径3〜25μm、長さ20mm以上の炭素長繊維(B)80〜250質量部、及び繊維径0.5〜20nm、長さ100〜5000nmの炭素微細繊維(C) 0.1〜10質量部を含有することを特徴とするハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂及び/または酸変性ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料
【請求項3】
炭素微細繊維(C)が、カーボンナノチューブ及び/またはカーボンナノファイバーであることを特徴とする請求項1、または請求項2記載のハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料
【請求項4】
スタンピング成形用ハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料。

【公開番号】特開2011−213797(P2011−213797A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81444(P2010−81444)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】