説明

ハイブリッド車両の制御装置および制御方法

【課題】ハイブリッド車両におけるエンジン始動に際してエンジンの振動が車体に伝達されるのを良好に抑制する。
【解決手段】ハイブリッド自動車の制御装置であるハイブリッドECUは、エンジンと車体との間に介設されるマウントの硬さの変動、すなわちマウント硬化フラグFhやマウント柔化フラグFsの設定状態に応じて運転者のアクセルペダルの踏み込み操作に関連したエンジン始動判定閾値であるエンジン始動トルクやエンジン始動パワーを補正により変化させる(ステップS450)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウントを介して車体に搭載されると共に駆動軸に動力を出力可能なエンジンと、駆動軸に動力を出力可能な電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車両の制御装置として、エンジンの始動に際して当該エンジンをクランキングする第1の電動機によるクランキングトルクの反力を受け持つ第2の電動機のトルクをエンジンと車体との間に介設されたマウント部の変位量に基づいて制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この制御装置は、エンジンの始動時における振動加速度に基づいてマウント部の変位量を間接的に判断すると共に、マウント部の変位量が相対的に大きいほど第2の電動機によるトルクを相対的に低くし、それによりエンジン始動に際してマウント部で受け持つべき反力を低減してエンジンの振動が車体に伝達されることを抑制している。
【0003】
また、エンジンマウントやエンジンフット等に経年劣化が生じても乗り心地を維持し得るアクティブ・エンジン・マウント装置として、エンジンマウントを介してエンジンフットに伝達される振動の伝達特性推定値を予め記憶すると共に当該伝達特性推定値を出力する固定フィルタ手段と、エンジンおよびエンジンマウントからの振動が合成されてエンジンフットに伝達されるエラー振動を検出するエラー振動検出手段と、伝達特性推定値とエラー振動とに基づいて当該エラー振動とは逆位相の駆動信号を生成する適応フィルタ手段と、与えられる駆動信号に応じてエンジンマウントを振動させる加振手段とを備えたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257130号公報
【特許文献2】特開2000−027932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のハイブリッド車両では、エンジンの始動に際して当該エンジンをクランキングする第1の電動機によるクランキングトルクの反力が第2の電動機により受け持たれることから、第2の電動機のトルクを低下させることには限界があり、特にマウントが劣化した際には、エンジン始動に際してエンジンの振動が車体に伝達されるのを良好に抑制し得なくなるおそれがある。また、特許文献2に記載のアクティブ・エンジン・マウント装置をハイブリッド車両に搭載するのは、コスト面で問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、ハイブリッド車両におけるエンジン始動に際してエンジンの振動が車体に伝達されるのを良好に抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるハイブリッド車両の制御装置および制御方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0008】
本発明によるハイブリッド車両の制御装置は、マウントを介して車体に搭載されると共に駆動軸に動力を出力可能なエンジンと、前記駆動軸に動力を出力可能な電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置において、前記マウントの硬さの変動に応じて運転者の駆動力要求操作に関連したエンジン始動判定閾値を変化させることを特徴とする。
【0009】
このハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと車体との間に介設されるマウントの硬さの変動に応じて運転者の駆動力要求操作に関連したエンジン始動判定閾値を変化させるものである。これにより、エンジンの始動に際してマウントに加えられる荷重を周囲温度の影響や劣化等によるマウントの硬さの変動に応じて調整することができるので、ハイブリッド車両におけるエンジン始動に際し、エンジンからの振動をマウントにより良好に吸収して当該振動が車体に伝達されるのを良好に抑制することが可能となる。
【0010】
また、前記制御装置は、前記マウントが柔化した場合、前記エンジン始動判定閾値を小さくするものであってもよい。これにより、マウントのいわゆる底当たりが発生しないようにしながらエンジンを始動させることができるので、ハイブリッド車両におけるエンジン始動に際してエンジンの振動が車体に伝達されるのをより良好に抑制することが可能となる。
【0011】
更に、前記制御装置は、前記マウントが硬化した場合、前記エンジン始動判定閾値を大きくするものであってもよい。すなわち、マウントが硬化した場合、当該マウントの底当たりを発生させる荷重が大きくなり、当該底当たりが比較的発生し難くなることから、運転者により比較的大きな駆動力が要求された段階でエンジンが始動されるように、エンジン始動判定閾値を大きくしてもよい。
【0012】
また、前記マウントは、ゴム材を含むものであってもよく、前記制御装置は、前記マウントの前記ゴム材が温度低下により硬化した場合に、前記ハイブリッド車両が停車状態に維持されるようにすると共に、前記駆動軸にトルクを出力するように前記電動機を制御するものであってもよい。これにより、電動機から駆動軸へのトルクの出力に伴ってマウントに加えられる荷重により、温度低下によって生成されるゴム材の添加剤の結晶を壊してマウントを柔化させることが可能となる。
【0013】
更に、前記制御装置は、前記ハイブリッド車両が停車した状態で前記電動機から前記駆動軸にトルクが出力された際の車両状態の変化に基づいて前記マウントの硬さを判定するものであってもよい。また、前記制御装置は、前記電動機から前記駆動軸にトルクが出力された際の該電動機の電気角変化量、前記マウントの変位および前記ハイブリッド車両の加速度の少なくとも何れかに基づいて前記マウントの硬さを判定するものであってもよい。これにより、マウントの硬さをより適正に判定することが可能となる。
【0014】
そして、前記ハイブリッド車両は、第2の電動機と、前記内燃機関の出力軸に接続される第1要素、前記第2の電動機の回転軸に接続される第2要素、および前記駆動軸に接続される第3要素を有する遊星歯車機構とを更に備えてもよい。
【0015】
本発明によるハイブリッド車両の制御方法は、マウントを介して車体に搭載されると共に駆動軸に動力を出力可能なエンジンと、前記駆動軸に動力を出力可能な電動機とを備えたハイブリッド車両の制御方法において、前記マウントの硬さの変動に応じて運転者の駆動力要求操作に関連したエンジン始動判定閾値を変化させるものである。
【0016】
この方法によれば、エンジンの始動に際してマウントに加えられる荷重を周囲温度の影響や劣化等によるマウントの硬さの変動に応じて調整することができるので、ハイブリッド車両におけるエンジン始動に際し、エンジンからの振動をマウントにより良好に吸収して当該振動が車体に伝達されるのを良好に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明によるハイブリッド車両の制御装置を含むハイブリッド自動車20を示す概略構成図である。
【図2】エンジン22およびトランスアクスル25の支持構造を示す概略構成図である。
【図3】マウント10を示す断面図である。
【図4】マウント10の撓み特性を示す説明図である。
【図5】マウント低温硬化判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】マウント硬さ推定マップの一例を示す説明図である。
【図7】マウント柔化ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】マウント硬さ判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図9】始動判定閾値補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図10】マウント硬さ判定ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【図11】変形例に係るハイブリッド自動車20Bを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明によるハイブリッド車両の制御装置を含むハイブリッド自動車20を示す概略構成図である。同図に示すハイブリッド自動車20は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料を用いて動力を出力するエンジン(内燃機関)22と、エンジン22を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24と、プラネタリギヤ30やモータMG1およびMG2等を有してエンジン22と共に動力出力装置を構成するトランスアクスル25と、モータMG1およびMG2を駆動するためのインバータ41および42と、インバータ41および42に接続されたバッテリ50と、インバータ41および42を介してモータMG1およびMG2を制御するモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52と、摩擦制動力を出力可能な制動装置である電子制御式油圧ブレーキユニット(以下、「ブレーキユニット」という)60と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを含む。
【0020】
エンジンECU24は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。エンジンECU24には、エンジン22のクランクシャフト(出力軸)23の回転位置を検出するクランクシャフトポジションセンサ(図示省略)といったエンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力され、エンジンECU24からは、エンジン22の吸入空気量や燃料噴射量、点火時期等を制御するための制御信号等が出力される。また、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号や上記センサからの信号等に基づいてエンジン22を制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に送信する。
【0021】
トランスアクスル25は、プラネタリギヤ30やモータMG1およびMG2に加えて、エンジン22のクランクシャフト23に接続されたダンパ26や、プラネタリギヤ30に接続された駆動軸35、当該駆動軸35に接続された減速ギヤ機構36、伝達ギヤ機構37を介して駆動軸35に連結されると共にドライブシャフトを介して駆動輪DWに連結されたデファレンシャルギヤ38、パーキングロック機構39、これらの構成要素を収容すると共にエンジン22のケーシングに接続されるトランスアクスルケース27等を含む。図示するように、モータMG2のロータは、減速ギヤ機構36を介して駆動軸35(リングギヤ32)に連結される。また、パーキングロック機構39は、伝達ギヤ機構37に含まれる何れかの回転軸に取り付けられたパーキングギヤ39aと、パーキングギヤ39aとの噛み合いにより駆動軸35等の回転を規制してロック可能なパーキングロックポール39bと、ハイブリッドECU70によって制御されてパーキングロックポール39bを駆動する図示しないパーキングロックアクチュエータとを含む。
【0022】
エンジン22およびトランスアクスル25は、図2に示すように、2体のマウント10および2体のマウント15を介してハイブリッド自動車20の車体(モノコック)に搭載され、クランクシャフト23等の軸方向がハイブリッド自動車20の幅方向に延在するように横置きに配置される。マウント10は、エンジン22およびトランスアクスル25の車両前方側および車両後方側に1体ずつ配置され、主にエンジン22やトランスアクスル25のロールを吸収する役割を果たす。図3は、マウント10を示す断面図である。同図に示すように、マウント10は、固定具16を介して車体に固定される円筒状の外筒部11と、外筒部11の内側に配置(圧入)されたマウントゴム12と、マウントゴム12の中央に配置されるインナー金具14とを有する。マウントゴム12は、インナー金具14が配置される中央部12aと、当該中央部12aの上部と空間を介して対向する上側ストッパ部12bと、中央部12aの下部と空間を介して対向する下側ストッパ部12cとを有する。また、インナー金具14は、エンジン22のケーシングに固定されたブラケットにボルト等を介して連結される。一方、マウント15は、エンジン22およびトランスアクスル25の車両左側および車両右側に1体ずつ配置され、主にエンジン22およびトランスアクスル25を支持する役割を果たす。
【0023】
プラネタリギヤ30は、モータMG1のロータ(回転軸)に接続されるサンギヤ(第2要素)31と、駆動軸35に接続されると共に減速ギヤ機構36を介してモータMG2のロータ(回転軸)に接続されるリングギヤ(第3要素)32と、複数のピニオンギヤ33を支持すると共にダンパ26を介してエンジン22のクランクシャフト23に接続されるプラネタリキャリヤ(第1要素)34とを有する。プラネタリギヤ30は、モータMG1がエンジン22からの動力の少なくとも一部を用いて発電する発電機として機能する際にはプラネタリキャリヤ34に伝達されるエンジン22からの動力をサンギヤ31とリングギヤ32とにそのギヤ比に応じて分配する。また、プラネタリギヤ30は、モータMG1が電動機として機能する際にはプラネタリキャリヤ34に伝達されるエンジン22からの動力とサンギヤ31に伝達されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、駆動軸35や伝達ギヤ機構37、デファレンシャルギヤ38等を介して最終的に駆動輪DWに出力される。
【0024】
モータMG1およびMG2は、周知の同期発電電動機として構成されており、それぞれインバータ41または42を介してバッテリ50と電力をやり取りする。インバータ41および42とバッテリ50とを接続する電力ライン45は、インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1およびMG2の一方により発電される電力を他方で消費可能とする。従って、バッテリ50は、モータMG1,MG2により発電または消費される電力に応じて充放電され、モータMG1およびMG2間で電力収支のバランスをとれば充放電されないことになる。
【0025】
モータECU40は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。モータECU40には、モータMG1,MG2のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や、図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流等が入力され、モータECU40からは、インバータ41および42へのスイッチング制御信号等が出力される。また、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいてモータMG1およびMG2のロータの回転数Nm1およびNm2やモータMG1およびMG2の電気角等を算出する。更に、モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号等に基づいてモータMG1およびMG2を制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の状態に関するデータをハイブリッドECU70に送信する。
【0026】
バッテリ50は、例えば200〜300Vの定格出力電圧を有するリチウムイオン二次電池あるいはニッケル水素二次電池として構成されている。また、バッテリ50を管理するバッテリECU52も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。更に、バッテリECU52は、ハイブリッドECU70やエンジンECU24と通信し、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータをハイブリッドECU70等に送信する。そして、バッテリECU52には、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの充放電電圧(端子間電圧)Vb、バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに設置された図示しない電流センサからの充放電電流Ib、バッテリ50に設置された温度センサ51からのバッテリ温度Tb等が入力される。バッテリECU52は、充放電電流Ibの積算値を算出すると共に、当該積算値に基づいてバッテリ50の充電割合を示す残容量SOCを算出したり、残容量SOCに基づいてバッテリ50の目標充放電電力としての充放電要求パワーPb*を算出したりする。更に、バッテリECU52は、残容量SOCとバッテリ温度Tbとに基づいてバッテリ50の充電に許容される電力である許容充電電力としての入力制限Winとバッテリ50の放電に許容される電力である許容放電電力としての出力制限Woutとを算出する。
【0027】
ブレーキユニット60は、マスタシリンダ61や流体圧式(油圧式)のブレーキアクチュエータ62、駆動輪DWや図示しない他の車輪の各々に取り付けられたブレーキディスクを挟持して対応する車輪に摩擦制動力を付与可能なブレーキパッドを駆動するホイールシリンダ63a〜63d、ホイールシリンダ63a〜63dごとに設けられて対応するホイールシリンダの油圧(ホイールシリンダ圧)を検出する図示しないホイールシリンダ圧センサ、ブレーキアクチュエータ62を制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)65等を含む。ブレーキアクチュエータ62は、図示しない油圧発生源としてのポンプやアキュムレータ、マスタシリンダ61とホイールシリンダ63a〜63dとの連通状態を制御するマスタシリンダカットソレノイドバルブ、ブレーキペダル85の踏み込み量に応じてペダル踏力に対する反力を創出するストロークシミュレータ、複数のソレノイドバルブ等を有する。
【0028】
また、ブレーキECU65は、図示しない信号ラインを介して、マスタシリンダ圧を検出する図示しないマスタシリンダ圧センサからのマスタシリンダ圧や、図示しないホイールシリンダ圧センサからのホイールシリンダ圧、駆動輪DW等の車輪速を検出する図示しない車輪速センサからの車輪速、図示しない操舵角センサからの操舵角等を入力すると共に、ハイブリッドECU70等との間で通信により各種信号のやり取りを行う。そして、ブレーキECU65は、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルストロークセンサ86からのブレーキペダルストロークBSや車速V等に基づいてハイブリッド自動車20に作用させるべき制動トルクのうちのブレーキユニット60による分担分に応じた摩擦制動トルクが駆動輪DW等に作用するようにブレーキアクチュエータ62を制御する。そして、ブレーキECU65は、運転者によるブレーキペダル85の踏み込み操作とは無関係に、車輪ごとに制動トルクが独立に作用するようにブレーキアクチュエータ62を制御することもできる。
【0029】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPU72の他に各種プログラムを記憶するROM74、データを一時的に記憶するRAM76、図示しない入出力ポートおよび通信ポート等を有する。ハイブリッドECU70は、上述したようにエンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52、ブレーキECU65等と通信により各種信号やデータのやり取りを行う。更に、ハイブリッドECU70は、ハイブリッド自動車20の運転席近傍に配置された図示しないメータ表示ユニットを制御するメータ用電子制御ユニット(図示省略)と通信し、当該メータ用電子制御ユニットと必要なデータをやり取りする。
【0030】
また、ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)80からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置(シフトポジション)に対応したシフトレンジSRを検出するシフトレンジセンサ82からのシフトレンジSR、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度(アクセル操作量)Acc、車速センサ87からの車速V、外気温センサ88からの外気温度Toa、ソークタイマ89からのソーク時間(イグニッションスイッチ80がオフされてから次にオンされるまでの車両放置時間)ts、ハイブリッド自動車20の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ90からの前後加速度α等が入力ポートを介して入力される。そして、ハイブリッドECU70は、シフトレバー81がパーキングレンジにセットされた際に、パーキングギヤ39aとパーキングロックポール39bとが係合するようにパーキングロックアクチュエータを制御すると共に、シフトレバー81がパーキングレンジから他のレンジへと移動された際に、パーキングギヤ39aとパーキングロックポール39bとの係合が解除されるようにパーキングロックアクチュエータを制御する。
【0031】
上述のように構成されたハイブリッド自動車20において、ハイブリッドECU70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸35に出力すべき要求トルクTr*を設定すると共に、例えば要求トルクTr*と駆動軸35の回転数との積からバッテリ50の充放電要求パワーPb*を減じた値に損失分Lossを加算することによりハイブリッド自動車20に要求される要求パワーP*を設定する。また、ハイブリッドECU70は、要求パワーP*に基づいてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*を設定すると共に、設定した目標回転数Ne*や目標トルクTe*をエンジンECU24に送信する。更に、ハイブリッドECU70は、要求トルクTr*や目標回転数Ne*や目標トルクTe*に基づいてモータMG1およびMG2のトルク指令Tm1*およびTm2*を設定すると共に、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。そして、エンジンECU24は、回転数指令Ne*と目標トルクTe*とに基づいて吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火時期制御等を実行し、モータECU40は、トルク指令Tm1*に従ってモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*に従ってモータMG2が駆動されるようにインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0032】
また、ハイブリッド自動車20では、走行状態に応じてエンジン22を自動的に停止・始動させるエンジン22の間欠運転が実行され、エンジン22の運転が停止された際には、モータMG2から要求トルクTr*に応じたトルクを駆動軸35に出力することによりハイブリッド自動車20をモータ走行させることができる。そして、ハイブリッド自動車20の停車中あるいはモータ走行中にエンジン22の始動条件が成立すると、エンジン22をクランキングするようにモータMG1が制御されると共に、モータMG1によるエンジン22のクランキングに伴って駆動軸35に作用する駆動トルクに対する反力としてのトルクをキャンセルしつつ要求トルクTr*に応じたトルクを駆動軸35に出力するようにモータMG2が制御される。エンジン22の始動条件は、例えば、運転者による駆動力要求操作としてのアクセルペダル83の踏み込みに関連した要求トルクTr*や要求パワーP*がそれぞれについて予め定められたエンジン始動判定閾値としてのエンジン始動トルクTrefあるいはエンジン始動パワーPref以上になると成立する。更に、ハイブリッド自動車20では、例えば停車状態でエンジン22が始動される前やエンジン22が運転された状態での停車時等に、プラネタリギヤ30や減速ギヤ機構36等のギヤ間のガタを詰めるために駆動軸35に予め定められた値の押し当てトルクを出力するようにモータMG2が制御される。これにより、停車状態でのエンジン22の始動時やエンジン22が運転された状態での停車時等に、エンジン22のトルク脈動に起因してプラネタリギヤ30や減速ギヤ機構36等でギヤ同士の歯打ち音が発生するのを抑制することができる。
【0033】
ここで、エンジン22が運転されている際には、当該エンジン22で燃焼状態の変動によるトルク脈動が発生するが、エンジン22と車体との間に上述のようなマウント10,15を介設することで、当該トルク脈動に起因した振動が車体側に伝達されるのを抑制することができる。また、エンジン22を支持するマウント10の撓み量は、当該マウント10への荷重(ただし、ハイブリッド自動車20が加速する際に車両後方側のマウント10に印加される荷重および撓み量を正とする)に対して基本的に図4において実線で示すように変化する。すなわち、マウント10に対する荷重の絶対値が比較的小さく、マウントゴム12の上側ストッパ部12bおよび下側ストッパ部12cの何れか一方が中央部12aと当接する、いわゆる底当たりが発生していない場合、マウント10の撓み量は荷重の絶対値に概ね比例して増加し、このような場合には、エンジン22からの振動をマウント10等により良好に吸収することができる。
【0034】
これに対して、マウント10の底当たりが発生すると、荷重の絶対値が更に増加してもマウント10の撓み量(絶対値)はさほど増加しなくなり、マウント10(マウントゴム12)の硬さが高まることによりエンジン22からの振動が車体側に伝達されるのをマウント10により良好に抑制し得なくなるおそれがある。また、マウント10のマウントゴム12の特性として、温度低下や劣化等によりマウント10(マウントゴム12)が硬化した場合、図4において一点鎖線で示すように、荷重(絶対値)が増加してもマウント10が撓み難くなることから、エンジン22からの振動が車体側に伝達されるのをマウント10により良好に抑制し得なくなるおそれがある。更に、温度低下によりマウントゴム12に添加されている添加剤が凝固(結晶化)してしまうと、マウントゴム12は更に硬化してしまう。一方、経時劣化によりマウントゴム12の内部の亀裂が増加していくと、マウントゴム12は全体として柔化し、図4において二点鎖線で示すように、マウント10に印加される荷重(絶対値)が小さい段階からマウント10の撓み量が大きくなり、マウント10に印加される荷重がさほど大きくないにも拘わらず、上述の底当たりが発生してしまうおそれがある。そして、マウント10の底当たりが発生している状態でエンジン22を始動させると、エンジン始動時の共振回転数域の通過時や初爆時に比較的大きなショックが発生してしまうおそれがある。
【0035】
このため、ハイブリッド自動車20では、上述のようなマウント10の特性を考慮して、以下に説明するようなマウント10の硬化判定処理や硬さ判定処理、マウント10の柔化処理、更には、マウント10の硬さに応じたエンジン始動判定閾値の補正処理が実行される。
【0036】
図5は、温度低下によりマウント10が硬化したか否かを判定するために実行されるマウント低温硬化判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。図5に示すマウント低温硬化判定ルーチンは、運転者によりイグニッションスイッチ80がオンされてシステム起動がなされた段階でハイブリッドECU70により実行される。
【0037】
マウント低温硬化判定ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70(CPU72)は、外気温センサ88からの外気温度Toaやソークタイマ89からのソーク時間tsといった判定に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS100)。次いで、ハイブリッドECU70は、ステップS100にて入力した外気温度Toaおよびソーク時間tsとからマウント10の硬さHmを取得(推定)する(ステップS110)。本実施形態では、外気温度Toaとソーク時間tsとマウント10の硬さ(硬さの評価値)Hmとの関係が予め実験・解析を経て定められてハイブリッドECU70のROM74にマウント硬さ推定マップとして記憶されている。そして、ステップS110では、当該マウント硬さ推定マップから外気温度Toaおよびソーク時間tsとに対応したマウント10の硬さHmが導出される。図6にマウント硬さ推定マップの一例を示す。図6に例示するマウント硬さ推定マップは、ソーク時間tsが長いほどマウント10の硬さHmを高硬度側の値とすると共に、マウント10の硬さHmを外気温度Toaが低いほど高硬度側の値とするように作成される
【0038】
マウント10の硬さHmを取得した後、ハイブリッドECU70は、取得した硬さHmが予め定められた基準硬さHref以上であるか否かを判定する(ステップS120)。基準硬さHmは、マウントゴム12に添加されている添加剤が凝固した際のマウント10の硬さ(評価値)に基づいて定められる閾値である。そして、マウント10の硬さHmが基準硬さHm未満である場合、ハイブリッドECU70は、マウントゴム12に添加されている添加剤が凝固していないとみなし、マウント低温硬化フラグFlthをオフ(値0に設定)する(ステップS130)。これに対して、マウント10の硬さHmが基準硬さHm以上である場合、ハイブリッドECU70は、各マウント10のマウントゴム12に添加されている添加剤が凝固しているとみなし、マウント低温硬化フラグFlthをオン(値1に設定)すると共に(ステップS140)。マウント硬化フラグFhをオン(値1に設定)し(ステップS150)、本ルーチンを終了させる。
【0039】
上述のようなマウント低温硬化判定ルーチンの実行によりマウント低温硬化フラグFlthがオンされた場合、ハイブリッドECU70は、図7に示すマウント柔化ルーチンを実行する。マウント柔化ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70(CPU72)は、シフトレンジセンサ82からのシフトレンジSRを入力する(ステップS200)。次いで、ハイブリッドECU70は、入力したシフトレンジSRがパーキングレンジであるか否かを判定し(ステップS210)、シフトレンジSRがパーキングレンジではない場合には、その段階で本ルーチンを終了させる。これに対して、シフトレンジSRがパーキングレンジである場合、ハイブリッドECU70は、ブレーキユニット60からハイブリッド自動車20をより確実に停車状態に維持するのに充分な制動力を出力させるべく、ブレーキECU65に対してブレーキON指令を送信する(ステップS220)。ハイブリッドECU70からブレーキON指令を受信したブレーキECU65は、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれていない場合、予め定められた比較的大きい制動力を出力するようにブレーキアクチュエータ62を制御し、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれている場合には、ハイブリッド自動車20に付与される制動力が当該予め定められた制動力を下回らないようにブレーキアクチュエータ62を制御する。
【0040】
続いて、ハイブリッドECU70は、ブレーキユニット60から充分な制動力が出力された段階で、パーキングギヤ39aとパーキングロックポール39bとの係合、すなわちパーキングロックを解除するようにパーキングロックアクチュエータを制御する(ステップS230)。そして、ハイブリッドECU70は、ブレーキユニット60からの制動力に打ち勝つことがなく、かつ振動やショックを発生させることない範囲内でできるだけ大きく定められた値をモータMG2に対するトルク指令Tm2*として設定すると共に、設定したトルク指令Tm2*をモータECU40に送信し(ステップS240)、本ルーチンを終了させる。ハイブリッドECU70からトルク指令Tm2*を受信したモータECU40は、当該トルク指令Tm2*に応じたトルクがモータMG2から予め定められた比較的短い時間だけ出力されるようにインバータ42のスイッチング素子のスイッチング制御する。
【0041】
これにより、モータMG2から駆動軸35へのトルクの出力によりエンジン22のクランクシャフト23が捩られ、それに伴ってエンジン22(ケーシング)がクランクシャフト23の軸心周りに捩じられることから、一方のマウント10に圧縮荷重が加えられると共に他方のマウント10に引張荷重が加えられる。この結果、モータMG2から駆動軸35へのトルクの出力に伴って各マウント10に加えられる荷重により、温度低下によって生成されるマウントゴム12の添加剤の結晶を壊してマウント10を柔化させることが可能となる。
【0042】
図8は、マウント10の硬化および柔化の度合を判定するために実行されるマウント硬さ判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。図8に示すマウント硬化判定ルーチンは、例えば運転者によりイグニッションスイッチ80がオンされてシステム起動がなされた後の停車時(走行開始前や、走行開始後の停車時)にハイブリッドECU70により実行される。
【0043】
マウント硬化判定ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70(CPU72)は、まず予め定められた比較的小さい値T1をモータMG2に対するトルク指令Tm2*として設定すると共に、設定したトルク指令Tm2*をモータECU40に送信する(ステップS300)。ステップS300にてトルク指令Tm2*として設定される値T1は、シフトレンジSRがパーキングレンジにセットされているか、運転者によりブレーキペダル85が踏み込まれている状態でハイブリッド自動車20を移動させない範囲内の値として定められており、例えば上述の押し当てトルクと同程度の値とされる。
【0044】
ハイブリッドECU70からトルク指令Tm2*を受信したモータECU40は、当該トルク指令Tm2*に応じたトルクがモータMG2から予め定められた比較的短い時間だけ出力されるようにインバータ42のスイッチング素子のスイッチング制御する。更に、モータECU40は、回転位置検出センサ44からの信号に基づいて、当該トルク指令Tm2*に応じたトルクを出力させた間のモータMG2の電気角θ2の変化量(以下「電気角変化量」という)Δθ2を算出する。ここで、ハイブリッド自動車20のシステム起動直後等、上述した押し当てトルクの出力によるプラネタリギヤ30や減速ギヤ機構36のギヤ間のガタ詰めが実行されていない場合、モータECU40は、トルク指令Tm2*に応じたトルクを出力させた間のモータMG2の電気角θ2の変化量から当該ガタ詰めに伴う電気角θ2の変化量(例えば実験・解析を経て予め定められた一定値)を差し引いた値を電気角変化量Δθ2とする。そして、モータECU40は、算出した電気角変化量Δθ2をハイブリッドECU70に送信する。
【0045】
モータECU40からの電気角変化量Δθ2を受信すると(ステップS310)、ハイブリッドECU70は、当該電気角変化量Δθ2が予め定められた下限閾値θl以上であるか否かを判定する(ステップS320)。ここで、モータMG2から上記トルク指令Tm2*(トルクT1)が出力される間の電気角変化量Δθ2は、モータMG2から駆動軸35へのトルクの出力に伴って加えられる荷重(圧縮荷重または引張荷重)によって生じる各マウント10の撓み量(変位)に概ね比例する。また、ステップS320にて用いられる下限閾値θlは、各マウント10が正常である際(劣化が進んでおらず、添加剤の凝固が発生していないとき)にモータMG2からトルクT1が出力されたことにより生じる各マウント10の撓み量の下限値に対応した電気角変化量として定められる。このため、ステップS320にて電気角変化量Δθ2が下限閾値θl未満であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、各マウント10の撓み量がモータMG2からのトルクに応じた量に達しておらず、各マウント10が硬化しているとみなし、マウント硬化フラグFhをオン(値1に設定)し(ステップS330)、本ルーチンを終了させる。
【0046】
また、ステップS320にて電気角変化量Δθ2が下限閾値θl以上であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、ステップS310にて入力した電気角変化量Δθ2が予め定められた上限閾値θuを上回っているか否かを判定する(ステップS340)。上限閾値θuは、各マウント10が正常である際にモータMG2からトルクT1が出力されたことにより生じる各マウント10の撓み量の上限値に対応した電気角変化量として定められる。このため、ステップS320にて電気角変化量Δθ2が上限閾値θu以下であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、各マウント10の撓み量がモータMG2からのトルクに応じた範囲内にあって各マウント10が正常であるとみなし、本ルーチンを終了させる。
【0047】
これに対して、ステップS340にて電気角変化量Δθ2が上限閾値θuを上回っていると判断した場合、ハイブリッドECU70は、ステップS310にて入力した電気角変化量Δθ2が予め定められた劣化判定閾値θd以上であるか否かを判定する(ステップS350)。劣化判定閾値θdは、上述の上限閾値θuよりも大きく、経時劣化によりマウント10の交換を要する程度にまでマウントゴム12の内部の亀裂が増加している際にモータMG2からトルクT1が出力されたことにより生じる各マウント10の撓み量に対応した電気角変化量として定められる。このため、ステップS350にて電気角変化量Δθ2が劣化判定閾値θd未満であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、各マウント10が交換の必要はないものの柔化しているとみなし、マウント柔化フラグFsをオン(値1に設定)し(ステップS360)、本ルーチンを終了させる。また、ステップS350にて電気角変化量Δθ2が劣化判定閾値θd以上であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、少なくとも何れか一方のマウント10の交換が必要であるとみなし、マウント劣化フラグFhをオン(値1に設定)し(ステップS370)、本ルーチンを終了させる。
【0048】
このように、ハイブリッド自動車20が停車した状態でモータMG2から駆動軸35にトルクT1が出力された際の車両状態の変化、すなわちモータMG2の電気角変化量Δθ2と下限閾値θl、上限閾値θuおよび劣化判定閾値θdとを比較することにより、マウント10の硬さをより適正に判定することが可能となる。ただし、各マウント10に変位計が設けられている場合には、図8のマウント硬化判定ルーチンにおいて、電気角変化量Δθ2の代わりに、当該変位計により計測される各マウント10の実際の撓み量(変位)を用いてもよい。この場合には、下限閾値θlの代わりに、マウント10が正常である際にモータMG2からトルクT1が出力されたことにより生じる各マウント10の撓み量の下限値を用いればよく、上限閾値θuの代わりに、各マウント10が正常である際にモータMG2からトルクT1が出力されたことにより生じる各マウント10の撓み量の上限値を用いればよく、劣化判定閾値θdの代わりに、経時劣化によりマウント10の交換を要する程度にまでマウントゴム12の内部の亀裂が増加している際にモータMG2からトルクT1が出力されたことにより生じる各マウント10の撓み量を用いればよい。
【0049】
図9は、マウント10の硬さに応じてエンジン始動判定閾値を補正するために実行される始動判定閾値補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。図9に示す始動判定閾値補正ルーチンは、例えば上述のマウント硬さ判定ルーチンの実行後にハイブリッドECU70により実行される。
【0050】
始動判定閾値補正ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70は、上述のマウント劣化フラグFd、マウント硬化フラグFhおよびマウント柔化フラグFsの値を入力する(ステップS400)。次いで、ハイブリッドECU70は、マウント劣化フラグFdがオフされているか否か(値0であるか否か)を判定する(ステップS410)。マウント劣化フラグFdがオンされている場合、ハイブリッドECU70は、運転者に対してマウント10の交換を推奨すべく、所定の警告表示を上述のメータ表示ユニットの予め定められた表示領域に表示させるための表示指令を設定し、設定した表示指令をメータECUに送信する(ステップS420)。
【0051】
また、ステップS410にてマウント劣化フラグFdがオフされていると判断した場合、ハイブリッドECU70は、マウント硬化フラグFhがオフされているか否かを判定する(ステップS430)。マウント硬化フラグFhがオンされており各マウント10が硬化していると判定されている場合、ハイブリッドECU70は、運転者による駆動力要求操作としてのアクセルペダル83の踏み込みに関連したエンジン始動判定閾値であるエンジン始動トルクTrefおよびエンジン始動パワーPrefに対して例えばそれぞれについて予め定められた比較的小さい正の補正値を加算することにより、エンジン始動トルクTrefおよびエンジン始動パワーPrefを増加側に補正し(ステップS450)、本ルーチンを終了させる。すなわち、各マウント10が硬化している場合、駆動軸35に対して比較的大きなトルクが出力されてもマウント10の底当たりが発生するおそれは少ない。このため、マウント硬化フラグFhがオンされている場合、エンジン22の運転停止中に運転者によって要求される要求トルクTr*や当該要求トルクTr*に基づく要求パワーP*がより大きくなった段階でエンジン22が始動されるように、エンジン始動トルクTrefおよびエンジン始動パワーPrefがそれぞれ補正前よりも大きな値に再設定される。
【0052】
一方、ステップS430にて、マウント硬化フラグFhがオフされており各マウント10が硬化していないと判定されている場合、ハイブリッドECU70は、マウント柔化フラグFsがオフされているか否かを判定する(ステップS440)。マウント柔化フラグFsがオフされており各マウント10が硬化も柔化もしていないと判定されている場合、ハイブリッドECU70は、エンジン始動トルクTrefおよびエンジン始動パワーPrefを補正することなく、本ルーチンを終了させる。
【0053】
これに対して、ステップS440にて、マウント柔化フラグFsがオフされていると判断した場合、ハイブリッドECU70は、運転者による駆動力要求操作としてのアクセルペダル83の踏み込みに関連したエンジン始動判定閾値であるエンジン始動トルクTrefおよびエンジン始動パワーPrefから例えばそれぞれについて予め定められた比較的小さい正の補正値を差し引くことにより、エンジン始動トルクTrefおよびエンジン始動パワーPrefを減少側に補正し(ステップS450)、本ルーチンを終了させる。すなわち、各マウント10が柔化している場合、駆動軸35に出力されるトルクがさほど大きくないにも拘わらずマウント10の底当たりが発生してしまうおそれがある。このため、マウント柔化フラグFsがオンされている場合、エンジン22の運転停止中に運転者によって要求される要求トルクTr*や当該要求トルクTr*に基づく要求パワーP*が比較的小さいうちにエンジン22が始動されるように、エンジン始動トルクTrefおよびエンジン始動パワーPrefがそれぞれ補正前よりも小さい値に再設定される。
【0054】
以上説明したように、ハイブリッド自動車20の制御装置であるハイブリッドECU70は、エンジン22と車体との間に介設されるマウント10の硬さの変動に応じて運転者のアクセルペダル83の踏み込み操作に関連したエンジン始動判定閾値であるエンジン始動トルクTrefやエンジン始動パワーPrefを補正により変化させる(図9のステップS450)。これにより、特にハイブリッド自動車20の加速中のエンジン22の始動に際して各マウント10に加えられる荷重を周囲温度の影響や劣化等によるマウント10の硬さの変動に応じて調整することができるので、ハイブリッド自動車20におけるエンジン22の始動に際し、エンジン22からの振動をマウント10により良好に吸収して当該振動が車体に伝達されるのを良好に抑制することが可能となる。
【0055】
すなわち、マウント10が柔化した場合には、エンジン始動トルクTrefやエンジン始動パワーPrefを小さくすることにより、マウント10の底当たりが発生しないようにしながらエンジン22を始動させることができるので、ハイブリッド自動車20におけるエンジン22の始動に際して当該エンジン22の振動が車体に伝達されるのをより良好に抑制することが可能となる。また、マウント10が硬化した場合には、当該マウント10の底当たりを発生させる荷重が大きくなり、当該底当たりが比較的発生し難くなることから、運転者によって要求される要求トルクTr*や当該要求トルクTr*に基づく要求パワーP*がより大きくなった段階でエンジン22が始動されるように、エンジン始動トルクTrefやエンジン始動パワーPrefを大きくするとよい。
【0056】
更に、上述のマウント10は、マウントゴム12を含むものであり、マウント10のマウントゴム12が温度低下により硬化したことによりマウント低温硬化フラグFlthがオンされた場合には、ブレーキユニット60からの制動力の出力によりハイブリッド自動車20車両が停車状態に維持されるようにしながら、駆動軸35にトルクを出力するようにモータMG2が制御される(図7参照)。これにより、モータMG2から駆動軸35へのトルクの出力に伴ってマウント10に加えられる荷重により、温度低下によって生成されるマウントゴム12の添加剤の結晶を壊してマウント10を柔化させることが可能となる。
【0057】
そして、ハイブリッド自動車20が停車した状態でモータMG2から駆動軸35にトルクT1が出力された際の車両状態の変化、すなわちモータMG2の電気角変化量Δθ2あるいは各マウント10の実際の撓み量(変位)と閾値と比較することにより、マウント10の硬さをより適正に判定することが可能となる。ただし、マウント10の硬さは、ハイブリッド自動車20が停車した状態でモータMG2から駆動軸35にトルクが出力された際の前後加速度αに基づいて判定されてもよい。図10に、ハイブリッド自動車20の前後加速度αに基づいてマウント10の硬さを判定するためのマウント硬さ判定ルーチンを例示する。図10のマウント硬さ判定ルーチンは、例えば停車中あるいはモータ走行中にモータMG2から瞬間的(パルス的)に比較的大きなトルクを出力してもハイブリッド自動車20の走行状態に大きな影響を与えないタイミングでハイブリッドECU70により実行されるものである。
【0058】
図10のマウント硬化判定ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70(CPU72)は、まず予め定められた比較的大きい値T2をモータMG2に対する付加トルクTaddとして設定すると共に、設定した付加トルクTaddをモータECU40に送信する(ステップS500)。ハイブリッドECU70から付加トルクTaddを受信したモータECU40は、その段階でのトルク指令Tm2*に付加トルクTaddを加算し、当該付加トルクTaddが加算されたトルク指令Tm2*に応じたトルクがモータMG2から予め定められた比較的短い時間だけ出力されるようにインバータ42のスイッチング素子のスイッチング制御する。次いで、ハイブリッドECU70は、モータECU40に付加トルクTaddを送信した後に前後Gセンサ90に検出された前後加速度αのピーク値を取得し(ステップS510)、予め求められている各マウント10が正常である際の同一条件下での前後加速度αのピーク値とステップS510にて取得したピーク値との差分に基づいてマウント10の硬さHmを取得する(ステップS520)。なお、上記ピーク値の差分とマウント10の硬さHmとの関係は、予め実験・解析を経てマウント硬さ推定マップとして予め定められる。
【0059】
マウント10の硬さHmを取得した後、ハイブリッドECU70は、取得した硬さHmが予め定められた上限硬さHu以下であるか否かを判定する(ステップS530)。硬さHmが上限硬さHuを上回っている場合、ハイブリッドECU70は、各マウント10が硬化しているとみなし、マウント硬化フラグFhをオン(値1に設定)し(ステップS540)、本ルーチンを終了させる。また、ステップS530にてマウント10の硬さHmが上限硬さHu以下であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、当該硬さHmが予め定められた下限硬さHl未満であるか否かを判定する(ステップS550)。マウント10の硬さHmが下限硬さHl以上である場合、ハイブリッドECU70は、各マウント10が正常であるとみなし、本ルーチンを終了させる。
【0060】
これに対して、ステップS550にてマウント10の硬さHmが下限硬さHl未満であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、当該硬さHmが予め定められた劣化硬さHd以下である否かを判定する(ステップS560)。マウント10の硬さHmが劣化硬さHdを上回っている場合、ハイブリッドECU70は、各マウント10が交換の必要はないものの柔化しているとみなし、マウント柔化フラグFsをオン(値1に設定)し(ステップS570)、本ルーチンを終了させる。また、ステップS560にてマウント10の硬さHmが劣化硬さHd以下であると判断した場合、ハイブリッドECU70は、少なくとも何れか一方のマウント10の交換が必要であるとみなし、マウント劣化フラグFhをオン(値1に設定)し(ステップS580)、本ルーチンを終了させる。このような変形例に係るマウント硬化判定ルーチンによっても、マウント10の硬さを適正に判定することが可能となる。
【0061】
なお、上記ハイブリッド自動車20は、モータMG1の回転軸に接続されるサンギヤ31と、駆動輪DWに連結される駆動軸35に接続されるリングギヤ32と、エンジン22のクランクシャフト23に接続されるプラネタリキャリヤ34とを有するプラネタリギヤ30を含むものであるが、本発明の適用対象は、これに限られるものではない。すなわち、プラネタリギヤ30の回転要素に対して上述のようにエンジン22やモータMG1およびMG2を接続する代わりに、プラネタリギヤ30のサンギヤ31にモータMG2の回転軸を接続し、リングギヤ32にモータMG1の回転軸およびエンジン22のクランクシャフト23を接続し、かつプラネタリキャリヤ34に駆動輪DWに連結される駆動軸を接続してもよい。また、本発明が適用されるハイブリッド車両は、エンジン22と、エンジン22のクランクシャフト23に接続されたモータMGと、モータMGの回転軸に接続される入力軸131(プライマリシャフト)を有すると共にデファレンシャルギヤ38を介して駆動輪DWに連結される出力軸(セカンダリシャフト)135とを有する機械式の無段変速機(例えばベルト式CVT)130と、インバータ49を介してモータMGと電力をやり取りするバッテリ50とを備えた図10に例示するハイブリッド自動車20Bのような、いわゆる1モータ式のハイブリッド車両であってもよい。更に、上述のハイブリッド自動車20において、減速ギヤ機構36の代わりに、例えば複数のプラネタリギヤを含むと共にHi,Loの2段の変速段あるいは3段以上の変速段を有し、モータMG2の回転数を変速して駆動軸35に伝達する変速機が採用されてもよい。
【0062】
ここで、上記実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施形態では、マウント10が「マウント」に相当し、駆動軸35に動力を出力可能なエンジン22が「エンジン」に相当し、駆動軸に動力を出力可能なモータMG,MG2が「電動機」に相当し、ハイブリッド自動車20,20Bが「ハイブリッド車両」に相当し、図5および図7〜図10のルーチンを実行するハイブリッドECU70や、当該ハイブリッドECU70とモータECU40との組み合わせが「制御装置」に相当する。ただし、上記実施形態における主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、上記実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ハイブリッド車両の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
10,15 マウント、11 外筒部、12 マウントゴム、12a 中央部、12b 上側ストッパ部、12c 下側ストッパ部、14 インナー金具、20,20B ハイブリッド自動車、22 エンジン、23 クランクシャフト、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、25 トランスアクスル、26 ダンパ、27 トランスアクスルケース、30 プラネタリギヤ、31 サンギヤ、32 リングギヤ、33 ピニオンギヤ、34 プラネタリキャリヤ、35 駆動軸、36 減速ギヤ機構、37 伝達ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39 パーキングロック機構、39a パーキングギヤ、39b パーキングロックポール、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,49 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、45 電力ライン、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、60 ブレーキユニット、61 マスタシリンダ、62 ブレーキアクチュエータ、63a,63b,63c,63d ホイールシリンダ、65 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトレンジセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルストロークセンサ、87 車速センサ、88 外気温センサ、89 ソークタイマ、90 前後Gセンサ、130 無段変速機、131 入力軸、135 出力軸、DW 駆動輪、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウントを介して車体に搭載されると共に駆動軸に動力を出力可能なエンジンと、前記駆動軸に動力を出力可能な電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記マウントの硬さの変動に応じて運転者の駆動力要求操作に関連したエンジン始動判定閾値を変化させることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記マウントが柔化した場合、前記エンジン始動判定閾値を小さくすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記マウントが硬化した場合、前記エンジン始動判定閾値を大きくすることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記マウントは、ゴム材を含み、
前記マウントの前記ゴム材が温度低下により硬化した場合に、前記ハイブリッド車両が停車状態に維持されるようにすると共に、前記駆動軸にトルクを出力するように前記電動機を制御することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両が停車した状態で前記電動機から前記駆動軸にトルクが出力された際の車両状態の変化に基づいて前記マウントの硬さを判定することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記電動機から前記駆動軸にトルクが出力された際の該電動機の電気角変化量、前記マウントの変位および前記ハイブリッド車両の加速度の少なくとも何れかに基づいて前記マウントの硬さを判定することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両は、第2の電動機と、前記内燃機関の出力軸に接続される第1要素、前記第2の電動機の回転軸に接続される第2要素、および前記駆動軸に接続される第3要素を有する遊星歯車機構とを更に備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
マウントを介して車体に搭載されると共に駆動軸に動力を出力可能なエンジンと、前記駆動軸に動力を出力可能な電動機とを備えたハイブリッド車両の制御方法において、
前記マウントの硬さの変動に応じて運転者の駆動力要求操作に関連したエンジン始動判定閾値を変化させる、ハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−107512(P2013−107512A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254263(P2011−254263)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】