説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】電動モータのバッテリの状態を考慮して車両の走行状態の制御を行なうことで、変速時の運転者の加速感の喪失、変速ショックを防止することができるハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】車両の走行時の必要に応じてモータ8を駆動し、アシストトルクを発生させる走行アシスト制御手段24と、変速条件が成立すると、モータ8を駆動し、クラッチ16の切断による駆動輪22に伝達されるエンジントルクの低下に対応してアシストトルクを発生させる変速アシスト制御手段24と、バッテリ6のSOC値を検出するSOC値検出手段48と、SOC値検出手段によって検出されたSOC値が第1所定値以下である場合に、通常モードから走行アシスト制御を禁止し、変速アシスト制御を許容するバッテリ電力温存モードに切替える第1モード切替え手段24を備えていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の走行運動におけるモータ及びエンジンを制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料の燃焼エネルギーによって作動するエンジンと、電気エネルギーで作動する電動モータとを車両走行時の動力源として備えるハイブリッド車両が各種開発されている。ハイブリッド車両は、通常走行時には主として電動モータを動力源とすることで、騒音や大気汚染の問題を回避し、その一方で、電気自動車の持つ欠点、特にバッテリの一充電走行距離が不十分であることや、発生させるトルクが小さいので、急発進、高負荷走行、高速走行等が困難であるという欠点を、燃焼エネルギーによるエンジンを併用することで解消することができるので、近年注目を浴びている。
【0003】
このようなハイブリッド車両においては、運転状態に応じてエンジンと電動モータを使い分けるため、エンジンのみを動力源として走行するエンジン走行モード、電動モータのみを動力源として走行するモータ走行モード、エンジン及び電動モータの両方を動力源として走行するエンジン・モータ走行モードなど、エンジン及び電動モータの作動状態が異なる複数の走行モードを備えており、車速及びアクセル操作量などの運転状態をパラメータとする動力源マップ等の予め定められたモード切替え条件に従って自動的に切り換えられるようになっている。
【0004】
しかしながら、このようなハイブリッド車両においては、一方のエネルギー源が無くなると、それを使う一方の動力源が作動不能になるため、他方の動力源が作動可能であっても、ハイブリッド車両としての走行性能が悪くなる可能性があった。
【0005】
そのため、特許文献1のハイブリッド車両には、エンジン及び電動モータの総エネルギー源残量あるいはエンジンのエネルギー源残量が閾値以下になったか否かを判断する残量判断手段と、該閾値以下となった場合にエンジン及び電動モータの作動状態を走行距離が長くなる走行距離増モードに切り換えるモード切替手段とを設けることが記載されている。
【0006】
また、従来、既存のマニュアルトランスミッションにアクチュエータを取り付け、運転者の意思若しくは車両状態により一連の変速操作(クラッチの断接、ギヤシフトのセレクト)を自動的に行なうオートメーテッド・マニュアル・トランスミッション(以下、AMTという。)が知られている。このAMTでは、変速時にクラッチが切断されている間、エンジンからのトルクが車輪に伝達されていないため、ドライバーが加速を要求している場合でも車両の加速度が0となり、加速感が喪失(トルク抜け)する問題があった。
【0007】
そのため、エンジンと電動モータとを駆動源として備えるハイブリッド車両では、AMTにおけるクラッチの切断時に補助として電動モータの駆動トルクを付与させる変速アシストを実施することで、加速感の喪失等を回避することが行なわれていた。
【0008】
また、車両の走行時に出力できるエンジントルク以上の要求トルクがある場合や、要求トルクが出力できるエンジントルクより小さい場合でも、省エネを図るために、電動モータからの駆動トルクをエンジントルクの補助として付与させることが走行アシストとして実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−28302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に開示された技術は、エネルギー源残量が閾値以下になった場合、エンジン及び電動モータの作動状態を走行距離が長くなる走行距離増モードとするもので、走行アシスト及び変速アシストは継続して実施されてしまう。
【0011】
また、前記AMTを用いたハイブリッド車両においては、電動モータのエネルギー源の残量(バッテリのSOC値)が減少してしまった場合に、変速の際におけるクラッチの切断時に、電動モータによる駆動トルクを付与するアシスト(変速アシスト)ができなくなるため、変速段の切替時のフィーリングが著しく悪化(加速感の喪失、変速ショック等)するという問題があった。
【0012】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、電動モータのバッテリのSOC値が小さくなった場合に走行アシストを禁止することで、変速アシストができなくなるのを防ぎ、変速時の運転者の加速感の喪失、変速ショックを防止することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ハウジングに軸線方向に軸承されるとともに車両に搭載されたエンジンのエンジントルクによって回転駆動される入力軸と駆動輪に回転連結された出力軸とを異なる変速比で回転連結可能な複数の歯車対と、前記歯車対のうちの1つを選択して前記入力軸と前記出力軸とに回転連結する切替え装置を備えた自動変速装置と、前記自動変速装置の変速動作を制御する変速動作制御手段と、前記エンジンのアウトプットシャフトと前記自動変速装置の前記入力軸とを回転連結する接続状態と連結解除する切断状態とにクラッチ駆動装置によって切り換えられるクラッチと、前記駆動輪に回転連結されたモータと、前記車両の走行時の必要に応じて前記モータを駆動し、アシストトルクを発生させる走行アシスト制御手段と、変速条件が成立すると、前記モータを駆動し、前記クラッチの切断による前記駆動輪に伝達される前記エンジントルクの低下に対応してアシストトルクを発生させる変速アシスト制御手段と、前記バッテリのSOC値を検出するSOC値検出手段と、前記SOC値検出手段によって検出されたSOC値が第1所定値以下である場合に、前記走行アシスト制御及び前記変速アシスト制御を行う通常モードから前記走行アシスト制御を禁止し、前記変速アシスト制御を許容するバッテリ電力温存モードに切替える第1モード切替え手段を備えていることである。
【0014】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記SOC値が前記第1所定値より小さい第2所定値以下である場合に、前記バッテリ温存モードから、前記走行アシスト制御及び前記変速アシスト制御を禁止するアシスト禁止モードに切替える第2モード切替え手段を備えていることである。
【0015】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、前記アシスト禁止モードに移行することを搭乗者に知らせる警告手段を備えていることである。
【0016】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項2又は3において、前記変速アシスト制御が禁止された場合に、前記変速中のトルク抜けに伴うトルク変動を緩和する変速フィーリング悪化防止手段を備えていることである。
【0017】
請求項5の係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項において、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、前記バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリの温度が所定温度以下の場合には、前記走行アシスト制御及び前記変速アシスト制御を禁止するアシスト禁止モードに切替える第3モード切替え手段を備えていることである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によると、モータに電力を供給するバッテリSOC値が第1所定値以下である場合に、バッテリ電力温存モードに切替えて通常モードで実施されていた走行アシストを停止することで、走行アシストのために持ち出されていた電力分の温存をおこなう。これによって、バッテリの電力消費を減少させることで、車両の変速時の変速アシストを引き続き行うことを可能にし、AMT搭載車両における変速時のトルク変動によるフィーリングの悪化を防止する。
【0019】
請求項2に係る発明によると、バッテリのSOC値が第1所定値より小さい第2所定値以下である場合に、アシスト禁止モードによりエンジン出力軸に対するアシスト制御をすべて禁止することで、バッテリからの電力の持出しを停止する。このように、バッテリの電力消費を停止させることで、バッテリの過放電を防止することができる。
【0020】
請求項3に係る発明によると、警告手段によりアシスト禁止モードに移行することを搭乗者に知らせることで、変速時のフィーリングの変化による搭乗者の驚きや不安感の発生を防止することができる。
【0021】
請求項4に係る発明によると、自動変速装置による変速動作を、変速フィーリング悪化防止モードに切り替えることで、モータによる変速アシストができないことに基づくトルク抜けや変速ショック等による搭乗者のフィーリング悪化を防止することができる。
【0022】
請求項5に係る発明によると、SOC値が高くバッテリの充電状態が良い場合でも、バッテリの温度が極めて低い場合には、電気を発生させる化学反応が進まないことから、バッテリからの電力供給が減少してしまう。そのため、このような低い温度である場合にも、アシスト禁止モードによりエンジン出力軸に対するアシスト制御をすべて禁止することで、バッテリからの電力の持出しを停止する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制御装置を使用したハイブリッド車両の概要を示す図である。
【図2】変速の前後における変速動作のタイムチャートである。
【図3】クラッチトルクとアクチュエータ作動量の関係を示すクラッチトルクマップである。
【図4】エンジン出力制御量一定時におけるエンジントルク―エンジン回転数のグラフである。
【図5】本実施形態におけるフローチャートである。
【図6】バッテリの状態に応じての走行アシスト、変速アシスト及び変速フィーリング悪化防止手段の実施を表わす表である。
【図7】走行アシストをする場合のモータトルクを表すグラフである。
【図8】変速段を切替える際の変速線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
本発明が適用されたハイブリッド車両の実施形態を図に基づいて以下に説明する。
ハイブリッド車両2の構成の概要は、図1に示すように、エンジン4と、バッテリ6に蓄積された電力により駆動されるモータ8という2種類の原動機が並列に配置され、各原動機により車輪が駆動される。なお、このモータ8は、ジェネレータ(MG,モータジェネレータ)としても使用される。
【0025】
エンジン4の出力軸(アウトプットシャフト)10の下流側には自動変速装置12が設けられている。自動変速装置12の入力軸14とエンジン4の出力軸10との間にはクラッチ装置(クラッチ)16が設けられ、エンジン4の出力軸10と自動変速装置12の入力軸14との係脱を行なって自動変速装置12へのエンジントルクTeの伝達を制御可能としている。そして、差動装置(ディファレンシャル)18と、駆動軸20と駆動輪22とを備えている。
【0026】
さらに、ハイブリッド車両2は、車両全体の制御を行なうHV/ECU(Hybrid Vehcle Electronic Control Unit)24と、モータ8に駆動又は回生を司令するMG/ECU26と、モータ8にバッテリ6の直流電流を交流電流に変換して供給するインバータ28と、エンジン4の停止および燃焼を制御するENG/ECU30と、自動変速装置12に組み込まれたクラッチアクチュエータ32、シフトアクチュエータ34及びセレクトアクチュエータ36と接続され、各アクチュエータ32,34,36を制御して最適な変速を実施させる変速動作制御手段としてのAMT/ECU38と、インバータ28と接続されたバッテリ6の充電状態を管理するバッテリECU40とを備えている。なお、シフトアクチュエータ34及びセレクトアクチュエータ36により切替え装置が構成される。
【0027】
また、MG/ECU26,ENG/ECU30,AMT/ECU38,及びバッテリECU40は、HV/ECU24によって管理・制御されている。
【0028】
各ECU24,26,30,38,40は、それぞれ制御部(図略)を備えており、演算を行なうCPUと、ROM,RAM及びバックアップ電源なしでデータの保存が可能なEEPROM等を備えて構成される(いずれも図略)。制御部はCPUによってROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。ROMには、各種制御プログラムやこれらのプログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。RAMは、制御部での演算結果や外部から入力されるデータ等を一時的に記憶し、EEPROMは、記憶されたデータ等を保存する不揮発性のメモリからなる。
【0029】
制御部のCPU、ROM,RAM及びEEPROMは、それぞれバスを介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース、及び出力インターフェース(いずれも図略)と接続される。
【0030】
HV/ECU24には、エンジン回転数センサ44、バッテリ温度検出手段としてのバッテリ温度センサ46、バッテリSOC値検出手段としてのSOC値検出センサ48等の各種センサが各ECU26,30,38及び40を介して接続されている。
【0031】
エンジン4は、吸入空気量を調節し、エンジン4の出力を制御するスロットルバルブ50と、スロットルバルブ50の開度(スロットル開度)を検出するスロットルセンサ52と、スロットルバルブ50を開閉するスロットル用アクチュエータ54とを備えている。スロットルセンサ52及びスロットル用アクチュエータ54は、ENG/ECU30に接続されている。なお、ENG/ECU30は、スタータ42を駆動してエンジン4を始動させる。
【0032】
エンジン4の出力軸10の近傍には出力軸10の回転数を検出するエンジン回転数センサ44が設けられている。また、アクセルペダル55にはアクセルペダル55の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ57が設けられ、検出されるアクセル開度により駆動輪22に要求される駆動トルクが定められる。運転者がアクセルペダル55を踏み込むとアクセル開度センサ57からアクセル開度信号がHV/ECU24に送信され、HV/ECU24はエンジン4が作動状態である場合において、送信されたアクセル開度信号の値に応じてENG/ECU30に駆動トルクによる指令値を送信する。ENG/ECU30は指令値に基づきスロットル用アクチュエータ54を作動させてスロットルバルブ50を開閉させ、エンジン回転数センサ44によって出力軸10の回転数を監視しながらエンジン4の出力及びエンジン回転数Neを制御する。このエンジン回転数Neは、アクセルペダルの踏み込み量とは関係なくHV/ECU24からの要求によっても、スロットル用アクチュエータ54を作動させて制御可能に構成される。
【0033】
HV/ECU24は、前記駆動輪22に要求される駆動トルクをエンジントルクTeに換算したドライバ要求トルクTdrvとして、ENG/ECU30に指令する。駆動トルクの大きさは、自動変速装置12の入力軸14側と出力軸15側との間の変速比などに依存して変わるので、エンジン4の出力軸10を基準位置として換算を行い、ドライバ要求トルクTdrvを指示する。以降では、モータ8を駆動する発電トルクやモータ8が発生するアシストトルクも基準位置における値に統一して説明する。
【0034】
クラッチ装置16は、エンジン4の出力軸10に固定されたフライホイール(図略)、自動変速装置12の入力軸14とスプライン連結され一体的に回転するクラッチディスク(図略)、前記フライホイールに固定されるクラッチアッセンブリ等で構成される。クラッチ装置16は、フライホイールに対するクラッチディスクの圧着荷重を変化させることで、フライホイール及びクラッチディスク間の回転伝達量が増減可能となっており、クラッチトルクTcをHV/ECU24が車両運転状態に応じて要求する目標クラッチトルクに制御可能にしている。目標クラッチトルクはHV/ECU24からの指令によって制御されるAMT/ECU38が、クラッチ装置16を作動させるクラッチアクチュエータ32のアクチュエータ作動量が、図3に示すクラッチトルク―アクチュエータ作動量マップに基づいて制御されることで実現される。クラッチアクチュエータ32によりクラッチ駆動装置が構成される。
【0035】
自動変速装置12は、既存のマニュアルトランスミッションに対し、クラッチアクチュエータ32の作動によって係脱を制御されるクラッチ装置16を取り付けて変速動作を自動化したいわゆるAMTである。自動変速装置12は、例えば前進5段・後進1段の平行軸歯車式変速機であって、入力軸14及び出力軸15を備えるとともに、複数の歯車対33を備えている。また、複数の歯車対33の1つを選択的に噛合結合する切替え装置としてシフトアクチュエータ34及びセレクトアクチュエータ36を有している。シフトアクチュエータ34及びセレクトアクチュエータ36の駆動方法については公知であるので、詳細な説明は省略する(例えば、特開2004−176894を参照)。
【0036】
自動変速装置12の入力軸14は、クラッチ装置16を介してエンジン4の出力軸10に係脱可能に連結され、出力軸15は車両の駆動軸20に差動装置(ディファレンシャル)18を介して動力が伝達可能に連結されている(図1参照)。これによりエンジントルクTeは、自動変速装置12の変速段で増減され、差動装置18を経由して駆動輪22に伝達されて車両2を駆動させる。
【0037】
前記差動装置18にはモータ8が連結され、このモータはハイブリッド車両で一般的に使用される、例えば三相交流同期モータである。モータ8の図略のロータシャフトは減速機構を介して差動装置18の入力側に回転連結されている。モータ8のロータシャフトは、自動変速装置12の出力軸15と駆動輪22の両方に回転連結されることとなる。モータ8にはインバータ28及びバッテリ6が接続されている。インバータ28は入出力端子として、いずれも図略の交流端子及び直流端子を有し、交流端子はモータ8の電源端子(図略)に接続され、直流端子はバッテリ6の端子(図略)に接続されている。インバータ28はバッテリ6から出力される直流電流を周波数可変の交流電流に変換してモータ8に供給する直流/交流変換機能、及びモータ8で発電した交流電力を直流電力に変換してバッテリ6を充電する交流/直流変換機能の両方を具備している。MG/ECU26は、インバータ28を制御することでモータ8を駆動させ、駆動軸20に対するトルクアシストを行なう。また、モータ8がジェネレータとして使用されたときには、発生した回生エネルギを充電する。バッテリ6にはSOC値検出センサ48が設けられ、SOC値検出センサ48から検出されるSOC値によりバッテリECU40がバッテリ6の充電状態の管理を行う。
【0038】
AMTにおける変速動作は、一般に図2のタイムチャートで示すように実施される。
タイムチャートは、例えば1速から2速への変速を示すタイムチャートで、横軸は時間を示しており、各縦軸は図2中上から、変速段、変速中フラグ、変速段切替え、エンジン回転数(入力軸回転数)、クラッチトルクTc、エンジントルクTe(ドライバ要求トルクTdrv)、モータトルクTm、車両の加速度である。
【0039】
変速は時刻t1から開始され時刻t4で終了する。なお、このタイムチャートは運転者が加速の意思を示しており、アクセルペダルが変速中一定に踏まれていた場合のタイムチャートである。
【0040】
まず、AMT/ECU38は各変速段毎に設定された変速線(図8参照)を有している。各変速段において自動変速装置12の出力軸回転数Noが、変速線が示す回転数に達すると、AMT/ECU38からの指令によりHV/ECU24には変速中である旨のフラグが立ち変速動作の制御を開始する。AMT/ECU38の指令により自動変速装置12は、時刻t1においてクラッチアクチュエータ32を作動させる。クラッチアクチュエータ32は、時刻t2までにクラッチ装置16のフライホイールとクラッチディスクとの係合を切断する。時刻t2から時刻t3まではクラッチが完全切断中である。
【0041】
時刻t2において、AMT/ECU38は、シフトアクチュエータ34、セレクトアクチュエータ36を適宜駆動させて自動変速装置12の変速段の切替えを実施する。時刻t3において、ENG/ECU30はスロットル用アクチュエータ54を駆動してスロットルバルブ50を作動させ、エンジン回転数Neを、変速後の変速段及びその時点での車速に応じた自動変速装置の入力軸回転数Niに適合したエンジン回転数Neにする。このとき、クラッチ装置16はクラッチアクチュエータ32を駆動することによってクラッチトルクTcを徐々に増加させていってエンジン回転数Neと、変速後の変速段での入力軸回転数Niとが良好に適合できるよう半クラッチ状態を作り出しながら、最終的にクラッチを完全係合させ変速動作を時刻t4において終了する。
【0042】
また、変速が開始されクラッチの切断が開始された時刻t1で、MG/ECU26が、モータ8を駆動させてアシストトルクを発生させ始め、AMT/ECU38の要求に基づいて、エンジントルクTeは減少されるとともに、MG/ECU26は、モータ8を駆動してエンジントルクTeの減少分に対応するアシストトルクを発生させる。このアシストトルクはドライバ要求トルクTdrvを越えない範囲で、ドライバ要求トルクTdrvからエンジン4による駆動トルクを差し引いた差分となる。その後エンジン4による駆動トルクの増加に応じて(時刻t3からt4の間)アシストトルクの発生を徐々に減少させて終了させる。この間にモータ8により発生したアシストトルクは、差動装置18を介して駆動輪22に伝達される。これによりHV/ECU24MG/ECU26及びAMT/ECU38による変速動作の制御を終了する。
【0043】
また、上記変速動作の制御において、クラッチ装置16におけるクラッチアクチュエータ32の制御量とクラッチトルクTcの対応関係が必要である。これは、例えば図3に示すように、アクチュエータ作動量(クラッチアクチュエータ32の制御量)SaとクラッチトルクTcとの対応関係を示すマップをROMに記憶させておくことで制御に使用する。
【0044】
また、モータ8による走行アシストは、例えば推定エンジントルクTeを、図4に示すスロットル開度及びエンジン回転数を示すマップより求め、図7に示すように運転者より要求される要求トルクと推定エンジントルクの差分をアシストトルクとして差動装置18を介して駆動輪22に伝達する。
【0045】
次に、上記のように構成されたハイブリッド車両のバッテリ状態を考慮したアシスト制御について、図5及び図6に基づいて以下に説明する。
まず、HV/ECU24は、バッテリ6の温度についてバッテリ温度センサ46からの検出信号により所定温度以下であるか否かを判断する(ステップ1「以下S1と略記載する」)。所定温度は、バッテリの種類・容量・特性等を考慮して定められ、例えば−15℃と設定してHV/ECU24のROMに予め記憶させておく。
【0046】
所定温度以下である場合には、バッテリ内部の化学反応が鈍くなり充放電の効率が低下し、充電状態が高いSOC値にある場合でも十分な電力の供給ができないため、まず、バッテリ6の温度を検出する。
【0047】
バッテリ6の温度が所定温度以下の場合には、HV/ECU24は、アシスト禁止モードに切替え(S2)、MG/ECU26にモータ8に対する電力の供給を停止する指令を伝達し、モータ8によるエンジントルクへの走行アシスト及び変速アシストを禁止する(S3)。図6において、極低温の場合には×印を付して走行アシスト及び変速アシストが禁止されている。なお、ステップ2において、HV/ECU24によりアシスト禁止モードに切替える第3モード切替手段が構成される。
【0048】
次に、変速アシストが行われない旨の警告表示を行い、運転者に注意喚起する(S4)。警告表示手段として、例えば特定マークランプの点滅表示等が挙げられる。変速時のエンジントルクの変動に対応するアシストが行われない場合には、特に運転者がそれまでと異なる違和感を生じ、場合により不安感を生じるのでこれを防止することができる。
【0049】
次に、変速フィーリング悪化防止手段を実施する(S5)。図6において、極低温の場合に○印を付してフィーリング悪化防止手段が実施されることを示している。変速フィーリング悪化防止手段として、例えば次の変速段に切替える時間T(シフト時間)を短くする。これにより、クラッチ(クラッチ装置16)が切断された状態に感じるトルク抜けの時間を短くすることができる。
【0050】
また、切断されたクラッチを接続する際にトルクダウンされた状態の復帰を滑らかにする。例えば、AMT/ECU38の指令により、図2におけるクラッチトルクが現す接合側の線SLの傾斜を緩やかにする。これにより、急激な加速度変化を緩やかにして切断されたクラッチが再び接合される際の変速ショックを緩和することができる。
【0051】
また、変速段の切替をおこなう変速点(各変速段毎に設定された変速線)を上昇させる。これにより変速のタイミングが遅くなって、変速時のエンジン回転数が上昇する。その際、図4に示すように、スロットル開度一定ではエンジン回転数が一定以上上昇すると、エンジン回転数の上昇に伴いエンジントルクは低下する。その結果、変速時のエンジントルクを低下させることで駆動輪22に伝えられるトルク(加速度)の上昇を抑え、トルクの変動を小さくすることができる。
【0052】
これらの変速フィーリング悪化防止手段の少なくとも1つを実施することにより、モータとして使用されたモータ8によるアシストの有無でフィーリング差が大きいハイブリッドAMTで、搭乗者に不快な思いをさせることを抑え快適に車両を使用させることが可能となる。
【0053】
ステップ1において、バッテリ6が所定温度を超えていると判断された場合には、HV/ECU24は、SOC値検出センサ48の検出信号によりバッテリ6のSOC値が第1所定値以下であるか否かを判断する(S6)。第1所定値は、バッテリの種類・容量・特性等を考慮して定められ、例えばSOC値が50%であることを第1所定値として設定してHV/ECU24のROMに予め記憶させておく。
【0054】
ステップ6において第1所定値を超えると判断した場合には、HV/ECU24は、通常モードであることをMG/ECU26に指令し(S7)、MG/ECU26は、車両の走行状態に応じて行う走行アシスト制御と、変速時に行う変速アシスト制御とを行う電力を、インバータ28を制御することでモータ8に供給することを許容する(S8)。
【0055】
ステップ6において第1所定値以下であると判断した場合には、HV/ECU24は、第1所定値よりも低い第2所定値以下であるか否かを判断する(S9)。第2所定値は、バッテリの種類・容量・特性等を考慮して定められ、例えば第2所定値としてSOC値が40%であることを設定してHV/ECU24のROMに予め記憶させておく。
【0056】
ステップ9において第2所定値を超えると判断した場合には、HV/ECU24はバッテリ温存モードに切替え(S10)、走行アシスト時のモータ8に対する電力の供給を停止するとともに、変速アシスト時のモータ8に対する電力の供給を許容する指令をMG/ECU26に伝達する。MG/ECU26は、モータ8によるエンジントルクへの走行アシスト制御を禁止するとともに、変速時に行う変速アシスト制御を許容する(S11)。図6において、バッテリ温度が「高」であり、SOC値が「中」である場合であり、走行アシストが×印で禁止され、変速アシストが○印で実施が許容されることを示している。 なお、ステップ10において、HV/ECU24によりバッテリ温存モードに切替える第1モード切替え手段が構成される。
【0057】
ステップ9において、第2所定値以下であると判断した場合には、HV/ECU24はアシスト禁止モードに切替え(S2・第2モード切替え手段)、バッテリ温度が所定温度以下の場合と同様な制御が実施され、ハイブリッド車両のバッテリ状態を考慮したアシスト制御が終了する。なお、ステップ2において、HV/ECU24により第2所定値以下でアシスト禁止モードに切替える第2モード切替え手段が構成される。図6において、SOC値が「小」の場合であり、走行アシスト及び変速アシストが×印で共に禁止され、変速フィーリング悪化防止手段が実施されることが示されている。
【0058】
上記のように構成されたハイブリッド車両の制御装置によると、モータ8に電力を供給するバッテリ6のSOC値が第1所定値以下である場合に、バッテリ電力温存モードに切替えて通常モードで実施されていた走行アシストを停止することで、走行アシストのために持ち出されていた電力分の温存をおこなう。これによって、バッテリ6の電力消費を減少させて、車両の変速時の変速アシストを引き続き行うことで、AMT搭載車両における変速時のトルク変動によるフィーリングの悪化を防止する。
【0059】
また、バッテリ6のSOC値が第1所定値より小さい第2所定値以下である場合に、アシスト禁止モードによりエンジン出力軸10に対するアシスト制御をすべて禁止することで、バッテリ6からの電力の持出しを停止する。このように、バッテリ6の電力消費を停止させることで、その後の過放電を防止することができる。
【0060】
また、警告手段によりアシスト禁止モードに移行することを搭乗者に知らせることで、変速時のフィーリングの変化による搭乗者の驚きや不安感の発生を防止することができる。
【0061】
また、自動変速装置12による変速動作を、変速フィーリング悪化防止モードに切り替えることで、モータ8による変速アシストができないことによるトルク抜けや変速ショックによる搭乗者のフィーリング悪化を防止することができる。
【0062】
また、SOC値が高くバッテリの充電状態が良い場合でも、バッテリ6の温度が極めて低い場合には、電気を発生させる化学反応が鈍くなることから、バッテリ6からの電力供給が減少してしまうが、このような低い温度である場合にも、アシスト禁止モードによりエンジン出力軸10に対するアシスト制御をすべて禁止することで、バッテリ6からの電力の持出しを停止する。
【0063】
なお、上記実施形態において、モータ8は、自動変速装置12の出力軸15に差動装置18を介して回転連結されるものとしたが、これに限定されず、例えば自動変速装置12の入力軸14に回転連結されるものでもよい。
【0064】
また、本実施形態では、ハイブリッド車両の制御装置を、いわゆるパラレル式ハイブリッドに適用するものとしたが、これに限定されず、例えばシリーズパラレル式ハイブリッドの車両にも適用できる。
【0065】
斯様に、上記した実施の形態で述べた具体的構成は、本発明の一例を示したものにすぎず、本発明はそのような具体的構成に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の態様を採り得るものである。
【符号の説明】
【0066】
2…ハイブリッド車両、4…エンジン、8…モータ、10…アウトプットシャフト(出力軸)、12…自動変速装置、14…入力軸、15…出力軸、16…クラッチ(クラッチ装置)、24…走行アシスト制御手段・変速アシスト制御手段・第1モード切替え手段・第2モード切替え手段・第3モード切替え手段・変速フィーリング悪化防止手段(HV/ECU)、26…走行アシスト制御手段・変速アシスト制御手段(MG/ECU)、32…クラッチ駆動装置(クラッチアクチュエータ)、34…切替え装置(シフトアクチュエータ)、36…切替え装置(セレクトアクチュエータ)、38…変速動作制御手段(AMT/ECU)、46…バッテリ温度検出手段(バッテリ温度センサ)、48…バッテリSOC値検出手段(SOC値検出センサ)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに軸線方向に軸承されるとともに車両に搭載されたエンジンのエンジントルクによって回転駆動される入力軸と駆動輪に回転連結された出力軸とを異なる変速比で回転連結可能な複数の歯車対と、前記歯車対のうちの1つを選択して前記入力軸と前記出力軸とに回転連結する切替え装置を備えた自動変速装置と、
前記自動変速装置の変速動作を制御する変速動作制御手段と、
前記エンジンのアウトプットシャフトと前記自動変速装置の前記入力軸とを回転連結する接続状態と連結解除する切断状態とにクラッチ駆動装置によって切り換えられるクラッチと、
前記駆動輪に回転連結されたモータと、
前記車両の走行時の必要に応じて前記モータを駆動し、アシストトルクを発生させる走行アシスト制御手段と、
変速条件が成立すると、前記モータを駆動し、前記クラッチの切断による前記駆動輪に伝達される前記エンジントルクの低下に対応してアシストトルクを発生させる変速アシスト制御手段と、
前記バッテリのSOC値を検出するSOC値検出手段と、
前記SOC値検出手段によって検出されたSOC値が第1所定値以下である場合に、前記走行アシスト制御及び前記変速アシスト制御を行う通常モードから前記走行アシスト制御を禁止し、前記変速アシスト制御を許容するバッテリ電力温存モードに切替える第1モード切替え手段を備えているハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記SOC値が前記第1所定値より小さい第2所定値以下である場合に、前記バッテリ温存モードから、前記走行アシスト制御及び前記変速アシスト制御を禁止するアシスト禁止モードに切替える第2モード切替え手段を備えているハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2において、前記アシスト禁止モードに移行することを搭乗者に知らせる警告手段を備えているハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記変速アシスト制御が禁止された場合に、前記変速中のトルク抜けに伴うトルク変動を緩和する変速フィーリング悪化防止手段を備えているハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項において、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、
前記バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリの温度が所定温度以下の場合には、前記走行アシスト制御及び前記変速アシスト制御を禁止するアシスト禁止モードに切替える第3モード切替え手段を備えているハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−71551(P2013−71551A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211133(P2011−211133)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】