説明

ハタケシメジの菌床栽培方法

【課題】本発明の目的は高品質で製品化率が高く、保存性も良好な株状ハタケシメジ子実体を安定的に生産することのできるハタケシメジの菌床栽培方法を提供することにある。
【解決手段】ハタケシメジの菌床栽培方法における子実体原基の生育工程において、相対湿度を段階的に下げることを特徴とするハタケシメジの菌床栽培方法を提供する。例えば、子実体原基の生育工程において相対湿度を90〜120%の範囲内で段階的に下げることが例示される。また更に、前期生育工程として相対湿度110〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、後期生育工程として相対湿度90〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行うことが例示される。本発明により、高品質で製品化率が高く、かつ保存性が良好な株状ハタケシメジ子実体を安定的に生産することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハタケシメジ(学名:Lyophyllum decastes)の菌床栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハタケシメジは、夏から秋にかけて人家の近くや、畑、林地等に広く発生するきのこで、形はホンジメジに良く似ている。味は非常に良く、肉質はホンシメジより固くて歯切れの良いきのこであり、好んで食用とされている。
【0003】
近年、エノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ナメコ等において、主に鋸屑と米糠を混合した培養基を用いて人工的に栽培を行う菌床栽培法が確立され、一年を通して四季に関係なく、安定してきのこが収穫できるようになっている。ハタケシメジについても食用きのことして有用なことから、栽培方法が種々検討されている。ハタケシメジの栽培方法において、子実体の発生工程、すなわち子実体原基形成の芽出し工程及び成熟子実体形成の生育工程は、通常、相対湿度が70〜100%の条件下で行われる。
【0004】
相対湿度が70〜100%の条件下で生育工程が行われた場合、成熟子実体の傘形は野生でよく観察される平らなまんじゅう形が多く発生し、半球形やまんじゅう形を主体としたボリューム感のある傘形の子実体発生は少ない。そこで、特許文献1では、子実体原基形成時の芽出し工程及び/又は成熟子実体形成の生育工程を、相対湿度100%を超える高加湿条件下で行うハタケシメジの栽培方法が開発された。当該特許文献1の方法により、半球形やまんじゅう形を主体とした形状の優れた子実体が得られている。
【0005】
ハタケシメジの菌床栽培では、子実体は通常株状で発生する。したがって、商品化に当たっては、株状のままで採取し、一部を分割したりすることはあっても、基本的にはその形状を維持させて商品化するのが主流である。しかしながら、栽培された株状のハタケシメジ子実体は、傘のまとまりに関して、大きさが不揃いで傘(茎)の方向に統一性がなく、株状のハタケシメジ子実体の特に周縁部の子実体が横方向や下方向に伸張した形態(本願明細書においてはこのような子実体の形態を「アバレ」と称する場合がある)や、茎が徒長した子実体が発生することがある。このような形状のアバレを含む株状子実体は製品として見た目が好ましくなく、著しい商品価値の低下を招く。また株状あるいは分割を施した子実体のトレイへの収納、包装においても、横方向や下方向に伸長したアバレの子実体はトレイに適切に納まらないことから、アバレ子実体部分は切断して製品には使用されないのが現状である。このため栽培されたハタケシメジの子実体に対する製品化率を下げる原因ともなっている。よってアバレの少ない整った株状の高品質なハタケシメジ子実体の菌床栽培方法の開発が求められている。
【0006】
また、ハタケシメジは生鮮食品であることから、鮮度管理は重大な課題である。収穫されたハタケシメジは、鮮度を少しでも長く保つために、低温流通されたり、店頭では冷蔵棚へ陳列されたりしている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−178890号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高品質で製品化率が高く、保存性も良好な株状ハタケシメジ子実体を安定的に生産することのできるハタケシメジの菌床栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ハタケシメジの菌床栽培における諸要素を鋭意検討した結果、栽培環境において、子実体原基の傘の着色が始まるころの環境制御管理がハタケシメジ子実体の発生形態や生産された子実体の保存性に極めて重要であることを見出し、本発明を完成させた。これまで、ハタケシメジの子実体の保存性に栽培環境が影響を与えるという知見も報告もなく、本発明者らにより初めて見出された驚くべき効果である。
【0010】
すなわち、本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、ハタケシメジの菌床栽培方法における子実体原基の生育工程において、相対湿度を段階的に下げることを特徴とするハタケシメジの菌床栽培方法に関する。本発明の第1の発明の態様において、相対湿度を90〜120%の範囲内で段階的に下げることが好ましい。また、前期生育工程として相対湿度110〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、及び後期生育工程として相対湿度90〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行なうことが好適である。更に、前期生育工程を110〜115%の範囲内又は115〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、後期生育工程を90〜100%の範囲内又は95〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行なう事が好適である。また、後期生育工程において、相対湿度95〜105%の範囲内の加湿条件下で生育を行った後、更に相対湿度90〜100%の範囲内の加湿条件下で相対湿度を段階的に下げて生育を行ってもよい。本発明の第1の発明の別の態様として、芽出し工程での子実体原基形成を相対湿度115〜120%の範囲内の加湿条件下、子実体原基の前期生育工程を相対湿度110〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、及び後期生育工程を相対湿度90〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行うことが好ましい。更に、前期生育工程を110〜115%の範囲内又は115〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、後期生育工程を90〜100%の範囲内又は95〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行なうことが好ましい。また、後期生育工程において、相対湿度95〜105%の範囲内の加湿条件下で生育を行った後、更に相対湿度90〜100%の条件下で相対湿度を段階的に下げて生育を行なってもよい。芽出し工程は15〜17℃で9〜12日間、前期生育工程は14〜17℃で3〜10日間、及び後期生育工程は14〜17℃で3〜10日間で行うことが好ましい。さらに、芽出し工程のCO濃度は1500ppm以下、前期生育工程及び後期生育工程のCO濃度を1000〜2000ppmの環境条件下で行うことが好ましい。更に、仕込み時の菌床栽培用培養基の培地pHとしては、6.6〜8.0に維持することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ボリューム感のある半球形の良好な子実体形状を有し、傘のまとまりが良く製品化率の高く、保存性も良いハタケシメジ子実体を安定的に生産することのできるハタケシメジの菌床栽培方法が提供される。本発明は、商業的大規模の栽培において、特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の菌床栽培方法に好適なハタケシメジの菌株の例としては、ハタケシメジK−3303株(FERM BP−4347)、ハタケシメジK−3304株(FERM BP−4348)、ハタケシメジK−3305株(FERM BP−4349)、ハタケシメジF−623株(FERM P−13165)、ハタケシメジF−1154株(FERM P−13166)、ハタケシメジF−1488株(FERM P−13167)、及びこれらの変異株等があるが、本発明で使用できる菌株はこれらの菌株に限られるものではない。
【0013】
本願明細書において、相対湿度が100%を超える高加湿条件は、飽和水蒸気量以上に加湿を行い、水が霧として漂う状態を指す。本願明細書では、このような高加湿状態を数値化するために、測定に(株)鷺宮製作所製の装置(商品名:ヒューミアイ100)を用いた。該装置は、空気中の水分を加熱によって下げ、湿度センサーで検出後、加熱による低下分を補正する方法を用いている。このため、本装置が示す数値は、100%以下では、相対湿度と同じであるが、100%を超えると、空気中に含まれる水分量を水蒸気に換算して飽和水蒸気量との比で現した数値となる。すなわち、本発明において、相対湿度100%を超える高加湿条件下は、該装置により測定し、相対湿度100%に相当する表示数値100%を超える条件下を意味する。
【0014】
なお、加湿を行う方法は、超音波加湿器、蒸気式加湿器、噴霧式加湿器などの加湿器を用いるのが簡便である。これら加湿に用いる方法や加湿器は相対湿度を上記ヒューミアイ100の表示値として、90〜100%、95〜105%、110〜115%又は115〜120%の範囲内でそれぞれ制御することが可能な方法や装置であればよいが、これら範囲内での制御に限定されるものではなく、相対湿度90〜120%の範囲内で任意の加湿が制御可能であれば、用いる方法や装置に特に限定はない。
【0015】
本願明細書において「相対湿度を段階的に下げる」とは、例えば、ある相対湿度又は相対湿度の範囲を保った状態で一定期間子実体原基の生育を行い、その後、相対湿度又は相対湿度の範囲を下げ、当該相対湿度を下げた条件を保った状態で一定期間子実体原基の生育を行うことをいう。また、相対湿度を連続的に下げながら子実体原基の生育を行った場合においても、本願明細書で言う「相対湿度を段階的に下げる」に包含される。相対湿度を下げる条件の段階(回数)に特に限定はなく連続的に行ってもよいが、1〜2回が好適である。例えば、子実体原基の生育工程において、まず相対湿度110〜120%の範囲内の加湿条件下で生育を行い(前期生育工程)、次に前期生育工程の加湿条件より相対湿度を下げた条件、例えば相対湿度90〜105%の範囲内の加湿条件下で生育を行う(後期生育工程)。この場合、相対湿度を1段階下げたことを意味する。また、前期生育工程を相対湿度110〜120%の範囲内の加湿条件下で行い、後期生育工程において、まず相対湿度95〜105%の加湿条件下で生育を行った後、更に相対湿度を90〜100%に下げた加湿条件下で生育を行った場合、子実体原基の生育工程において、相対湿度を2段階下げたことを意味する。
【0016】
本発明のハタケシメジの菌床栽培方法としては、ビン栽培、袋栽培、箱栽培等を適用することができる。一例としてビン栽培による本発明のハタケシメジの菌床栽培方法について述べると、その方法とは培地調製、ビン詰め、殺菌、接種、培養、必要に応じて菌掻き、芽出し、生育、収穫の各工程からなる。次にこれらを具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
培地調製とは、菌床栽培に用いる各種基材を計量、攪拌し、加水して菌床栽培に適した水湿潤状態になるように水分調整する工程をいう。ハタケシメジの菌床栽培用培養基(培地ともいう)の組成はハタケシメジ子実体の形成が良好な組成であればよく、例えば、鋸屑等の培地基材、腐葉土やバーク堆肥等の腐植性基材、及び米糠、フスマ等の栄養材の組合せや、鋸屑等の培地基材、米糠、フスマ等の栄養材、及び特開平5−192035号公報記載の発生率向上剤、すなわち下記(1)〜(4)からなる群から選択される1以上の材料(1)アルミニウム、(2)アルミニウム化合物、(3)アルカリ土類金属化合物、(4)オカラの組合せ、更には鋸屑等の培地基材、米糠等の栄養材、前出の特開平5−192035号公報記載の発生率向上剤、及び特開平7−303419号公報記載の菌廻り改善剤、すなわちクエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、アルギン酸、イタコン酸、ケイ酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、及び乳酸からなる群から選択される酸などを適宜培地に混合して使用することができる。なお、本発明に使用される鋸屑としては特に限定はなく、針葉樹や広葉樹由来の鋸屑が使用でき、例えばスギ鋸屑が使用できる。培地仕込み時のpHは、良好なハタケシメジ菌糸の培養を実施、培養日数を短縮化する観点から、6.6〜8.0に調整することが好ましい。
【0018】
ビン詰めとは、培地をビン容器に詰める工程である。通常、800〜1300mL容、好ましくは1100mL容の耐熱性広口培養ビンに、調製した培地を700〜900g、好ましくは約800g圧詰し、中央に1〜3cm程度の穴を開け、打栓する工程をいう。
【0019】
殺菌とは、実質的に培地中のすべての微生物を死滅させる工程である。通常、常圧殺菌では95〜110℃、4〜12時間、高圧殺菌では101〜125℃、好ましくは120℃、30〜120分間行われる。
【0020】
接種とは、放冷された培地に種菌を植えつける工程である。種菌として液体種菌を使用する場合は、ハタケシメジ菌株をPGY等の液体培地で18〜28℃、好ましくは20〜25℃、3〜18日間、三角フラスコでの培養の場合、好ましくは10〜18日間、ジャーファーメンターでの培養の場合、好ましくは3〜6日間培養したものを用い、前記ビン詰めされた培地1ビン当り10〜50mLほどを無菌的に植えつける。また、種菌として固体種菌を使用する場合は、前記液体種菌接種済みの培養基を、18〜28℃、好ましくは20〜25℃で30〜90日間培養し、培養基全体にハタケシメジの菌糸が蔓延したものを固体種菌として用いることができ、前記ビン詰めされた培地1ビン当り20〜50gほど無菌的に植えつける。
【0021】
培養とは、菌糸を生育、熟成させる工程である。通常、接種済みの菌床栽培用培養基を温度18〜28℃、湿度40〜80%において菌糸を蔓延させ、更に熟成をさせる。この工程は通常50〜120日間、好ましくは80日間前後行われる。菌掻きとは、培養基表面の種菌部分と培養基表面をかき取り、原基形成を促す工程で、通常菌掻き後は直ちにビン口まで水を入れ、直後〜5時間後に排水するが、この加水操作は省略することもできる。
【0022】
芽出しとは、子実体原基を形成させる工程である。本発明の目的である半球形を主体とした、高品質な子実体を得るためには、温度10〜20℃、好ましくは15〜17℃、更に好適には15.5℃〜16.5℃、115〜120%の相対湿度下、照度1000ルクス以下、好適には10〜100ルクスで芽出しを行う。良好な芽出しを実施する観点からは、CO濃度は1500ppm以下にすることが好ましく、特に大規模栽培においては、CO濃度が1500ppmを超える環境となった場合、芽出し不良の危険率が高くなる。CO濃度は外気導入、例えば熱交換器と排気扉を併用することにより調節可能である。芽出しに要する日数としては、特に限定はないが、好適には9〜12日間が好ましい。また、高加湿で結露水が発生しやすいため、濡れを防ぐ目的で、菌床面を有孔ポリシートや波板等で覆ってもよく、また栽培ビンを倒立させて芽出しを実施してもよい。また、赤玉土や鹿沼土などの適当な覆土材を菌床面に添加してもよい。
【0023】
生育とは、子実体原基から成熟子実体を形成させる工程である。本発明においては、相対湿度を90〜120%の範囲内で段階的に下げる環境下で実施される。例えば、前期生育工程と後期生育工程に分けて、後期生育工程では前期生育工程より相対湿度の範囲を下げた条件とすることにより、それぞれ異なった環境下で実施するのがよい。
【0024】
前期生育工程は、温度10〜20℃、好ましくは14〜17℃、更に好適には14.5〜16.5℃、115〜120%、好ましくは115超〜120%の相対湿度下、照度200〜1000ルクスで3〜10日間、更に好ましくは5〜10日間、また更に好ましくは5〜7日間行われる。より形態の良いハタケシメジ子実体を得るためには、CO濃度を1000〜2000ppmに調節することが好ましく、特に大規模栽培においては、CO濃度が1000ppmより低い環境であった場合、茎の矮小化が発生する危険性が高くなり、また逆に2000ppmを超える環境であった場合、アバレや茎が徒長する危険性が高くなるため、いずれも製品化における歩留まり低下の原因となる。前期生育工程では結露水による濡れの影響を受けにくいので、被覆は施さない方が好ましい。
【0025】
後期生育工程は、相対湿度95〜105%、温度10〜20℃、好ましくは14〜17℃、更に好適には14.5〜16.5℃、照度200〜1000ルクスで3〜10日間、更に好ましくは6〜10日間、また更に好ましくは6〜9日間行われる。このように後期生育工程の相対湿度を前期生育工程より下げた環境とすることで、よりボリューム感のある半球形の良好な子実体形状を有し、アバレの発生しにくい、かつ保存性の高いハタケシメジを得ることができる。更に、より形態の良好なハタケシメジ子実体を得るためには、前述の前期生育工程と同様にCO濃度を1000〜2000ppmに調節することが好ましい。また、後期生育工程では結露水による濡れの影響を受けにくいので、被覆は施さない方が好ましい。なお、前期生育工程から後期生育工程への移行時期については、生長した小子実体の傘の着色が始まったころを基準にして決定することもできる。
【0026】
また、上記後期生育工程において、段階的に相対湿度を下げる工程としてもよい。例えば、後期生育工程1として相対湿度95〜105%、温度10〜20℃、好ましくは14〜17℃、更に好適には14.5〜16.5℃、照度200〜1000ルクスで3〜7日間生育を行う。その後、後期生育工程2として相対湿度90〜100%、温度10〜20℃、好ましくは14〜17℃、更に好適には14.5〜16.5℃、照度200〜1000ルクスで3〜7日間生育を行う。この場合、後期生育工程1と後期生育工程2の期間は、合計で3〜10日間とすることが好ましく、更に好ましくは6〜10日間、また更に好ましくは6〜9日とすることがよい。
【0027】
以上の工程により、傘の形状が半球形主体で、アバレの発生の少ない株状で、かつ保存性の良いハタケシメジ成熟子実体を得ることができ、収穫を行って栽培の全工程は終了する。なお、本発明をビン栽培方法により説明したが、本発明は上記ビン栽培に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
以下に本発明によるハタケシメジの菌床栽培方法を、実施例をもって更に具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0029】
実施例
PGY液体培地(組成:グルコース2.0%、ペプトン0.2%、酵母エキス0.2%、KHPO0.05%、及びMgSO・7HO0.05%、pH6.0)100mLにハタケシメジK−3304(FERM BP−4348)を接種して、三角フラスコで25℃で14日間培養し液体種菌とした。一方、ポリプロピレン製の広口培養ビン(1100mL)に、1ビン当たりの培地組成が鋸屑(スギ材)134g、米糠130g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム〔富士化学工業(株)製、商品名ノイシリンFH〕2.6g、炭酸カルシウム〔ナカライテスク(株)製、試薬一級〕6.5g、クエン酸一水塩〔ナカライテスク(株)製、試薬一級〕3.9g、水分含量63%となるように各種基材を良く混合し湿潤状態にしたものを圧詰して、中央に直径1cm程度の穴を開け、打栓後118℃、90分間高圧蒸気殺菌を行い、放冷して固形培養基としたものを準備した。これに上記の液体種菌約30mLを接種し、温度25℃、湿度55%の条件の下、培養基に見掛け上菌糸が廻るまで約60日間培養し、固体種菌を作成した。
【0030】
次に、中央の穴を直径3cmにした以外は、上記の種菌作成時と同様にして、固形培養基を112個準備した。準備後培地のpHを測定したところ、7.9であった。培地pHは、100mLビーカーに培地約40mLを分取し、蒸留水で100mLにフィルアップ後、スターラーにて3分間攪拌、1分間静置した上澄について測定した。これに、上記固体種菌約35gを接種し、暗黒下で85日間培養・熟成させた。次に、菌掻きにより培養基の上部から約1cmほどの菌糸層を除いてから、水道水をビン口まで加え、その後ただちに排水し、芽出し工程に供した。芽出し工程は、照度50ルクス、温度16℃、加湿はヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値として115〜120%の範囲内に制御し、炭酸ガス濃度は1000〜1500ppmの範囲に制御した。また、結露水を避けるため、ビンは倒置し、11日間培養を続け、子実体原基を形成させた。
【0031】
原基が形成された培養基は、反転・正置し、照度500ルクス、温度16℃、炭酸ガス濃度は1000〜2000ppmの生育工程へ移行させた。なお、前期生育工程は1区分、後期生育工程は2つに区分し、それぞれの日数、湿度を表1のとおり設定した。各試験区16個づつの培養基を供し、それぞれの試験区で成熟子実体を得た。
【0032】
【表1】

【0033】
収穫されたハタケシメジの成熟子実体について、一ビン当たりの収量、一ビン当りの直径1cm以上の傘の数、一ビン当りの傘の形の分布を測定した。また、得られた子実体について、所定量(120g)をPETトレイ(特開2006−240698号公報)に盛り、厚さ25μmの防曇OPPフイルム〔グンゼ(株)製シルファンKVW2タイプ〕でピロー包装したのち、専門のパネラー5名で目視による商品性評価を行った。商品性評価は、5を最高評価とする1〜5の5段階で、下記表2の評価基準により傘の大きさの揃い、子実体の茎の長さ、伸長方向の統一性〔特に、周縁部の子実体が横方向や下方向に伸長した形態(アバレ状態)の有無〕を総合評価し、5名の平均値を算出した。包装に用いた所定量の残余で、子実体水分の測定を行った。
【0034】
【表2】

【0035】
また、ピロー包装した商品については、25℃で加速保存試験を行った。加速保存試験結果の評価も目視によって行い、傘の陥没、水潤化、ぬめりの発生等を総合的に評価して、商品価値がなくなるまでの日数(保存可能日数)で表現した。以上の結果を表3に示す。表3は栽培した16個の栽培ビンから得られた結果の平均を示す。表3中、「傘のまとまり状態」とは、子実体の大きさや傘の伸長方向の統一性を元に評価した。特に周縁部の子実体が横方向や下方向に伸長した状態や、茎が徒長した子実体が発生していないかにより、きわめて良好、良好、やや良好、ややアバレ(子実体の伸長方向がやや不統一)で表示した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3より明らかなように、本発明の方法により栽培されたハタケシメジの成熟子実体は、比較例と比べて、直径1cm以上の傘数に占める半球形の傘数の割合が高く、その結果ボリューム感に優れたものであり、また株の各子実体の伸長方向の統一のとれ、そのまとまりについても良好で商品性総合評価の高いものであった。また加速保存試験においても、本発明の方法で得られたハタケシメジの成熟子実体は良好な保存性を示した。なお、上記保存試験は25℃での加速試験であり、実際の商品流通、店頭での陳列は冷蔵で行われるため、本願実施例記載の保存日数が比較例に対して1日長いという結果は、実際の商品対応においては極めて顕著な差となることはいうまでもない。また、25℃で加速保存試験において比較例1とほぼ同等の保存日数であった実施例6について、20℃で同様の加速保存試験を行ったところ、比較例1が7日であったのに対し、実施例6は8日という結果が得られた。このことから実施例6においても、実際の商品対応において極めて顕著な差となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、ボリューム感のある半球形の良好な子実体形状を有し、かつ傘のまとまりが良く、製品化率が高く、かつ保存性が良いハタケシメジ子実体を安定的に生産することが可能なハタケシメジの菌床栽培方法が提供される。本発明の方法は、きのこの栽培、経営において極めて有用な方法であり、本発明の方法により得られたハタケシメジの子実体は、従来採用されてきた低温流通や店頭での冷蔵棚へ陳列等に施すことで、より一層長期間ハタケシメジの鮮度を維持することができることから、製品流通管理においても極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハタケシメジの菌床栽培方法における子実体原基の生育工程において、相対湿度を段階的に下げることを特徴とするハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項2】
子実体原基の生育工程において、相対湿度を90〜120%の範囲内で段階的に下げる請求項1記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項3】
子実体原基の生育工程において、前期生育工程として相対湿度110〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、及び後期生育工程として相対湿度90〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行う請求項2記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項4】
子実体原基の前期生育工程を相対湿度110〜115%の範囲内又は115〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、後期生育工程を相対湿度90〜100%の範囲内又は95〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行う請求項3記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項5】
子実体原基の後期生育工程において、相対湿度95〜105%の範囲内の加湿条件下で生育を行った後、さらに相対湿度90〜100%の範囲内の加湿条件下で相対湿度を段階的に下げて生育を行なう請求項3記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項6】
14〜17℃で3〜10日間の前期生育工程及び14〜17℃で3〜10日間の後期生育工程で行う請求項3〜5記載のいずれか1項に記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項7】
子実体原基の生育工程をCO濃度1000〜2000ppmの環境条件下で行う請求項1〜6のいずれか1項に記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項8】
芽出し工程での子実体原基形成を相対湿度115〜120%の範囲内の加湿条件下、子実体原基の前期生育工程を相対湿度110〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、及び後期生育工程を相対湿度90〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行う請求項2記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項9】
子実体原基の前期生育工程を相対湿度110〜115%の範囲内又は115〜120%の範囲内の加湿条件下での生育、後期生育工程を相対湿度90〜100%の範囲内又は95〜105%の範囲内の加湿条件下での生育を行う請求項8記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項10】
子実体原基の後期生育工程において、相対湿度95〜105%の範囲内の加湿条件下で生育を行った後、さらに相対湿度90〜100%の範囲内の加湿条件下で相対湿度を段階的に下げて生育を行なう請求項8記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項11】
15〜17℃で9〜12日間の芽出し工程、14〜17℃で3〜10日間の前期生育工程、及び14〜17℃で3〜10日間の後期生育工程で行う請求項8〜10のいずれか1項に記載のハタケシメジの菌床栽培方法。
【請求項12】
芽出し工程をCO濃度1500ppm以下の環境条件下、前期生育工程及び後期生育工程をCO濃度1000〜2000ppmの環境条件下で行う請求項8〜11のいずれか1項に記載のハタケシメジの菌床栽培方法。