ハニカム体成形用金型製造用ドリル及びそれを用いたハニカム体成形用金型の製造方法。
【課題】材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することが可能な、刃具寿命の長いハニカム体成形用金型製造用ドリル、及びそれを用いたハニカム体成形用金型の製造方法を提供すること。
【解決手段】ハニカム体成形用金型を製造するに当たって、金型素材の穴成形面に直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの供給穴を形成する穴加工工程を行う際に用いる。超硬製であり、2つの先端切れ刃51と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃52と側面切れ刃52に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部53とを有する刃部5と回転手段のチャックに保持されるシャンク部6とを軸方向に連ねて構成されている。刃部5における芯厚は0.20〜0.32mm、刃部5の長さは供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上20.0mm以下の長さであり、2つの先端切れ刃51のなす角度は110〜120°である。
【解決手段】ハニカム体成形用金型を製造するに当たって、金型素材の穴成形面に直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの供給穴を形成する穴加工工程を行う際に用いる。超硬製であり、2つの先端切れ刃51と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃52と側面切れ刃52に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部53とを有する刃部5と回転手段のチャックに保持されるシャンク部6とを軸方向に連ねて構成されている。刃部5における芯厚は0.20〜0.32mm、刃部5の長さは供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上20.0mm以下の長さであり、2つの先端切れ刃51のなす角度は110〜120°である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム体成形用金型の製造に用いるドリル、及びそれを用いたハニカム体成形用金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の排ガス浄化フィルター等として用いられるコージェライト等を主成分としたセラミック製のハニカム体は、ハニカム体成形用金型(以下、適宜、単に金型という)を用いて、セラミックス原料を含む材料を押出成形することにより製造される。このハニカム体は、隔壁を格子状に設けて多数のセルを構成してなり、そのセル形状としては、四角形、六角形等種々の形状がある。
【0003】
上記金型としては、金型本体に、材料を供給するための多数の供給穴と、その供給穴に連通して格子状に設けられ、材料をハニカム形状に成形するためのスリット溝とが形成されたものを用いる(特許文献1、2)。
上記供給穴は、ドリルを用いて形成される。従来、上記ドリルとしては、優れた高速度工具鋼として多用されているハイス鋼からなるものが使用されてきた。しかしながら、ハイス鋼であっても、上記金型における極細の供給穴を多数形成するをドリルとして用いた場合には、摩耗によって加工面が粗くなったり、供給穴の寸法が不均一になり、原料の流れに悪影響を与えるという問題や、ドリルの刃具寿命が短く、コストが増大するという問題があった。
【0004】
また、供給穴を加工する際には、ドリルのわずかな振れが、穴曲がりやドリルの折れにつながる。
上記供給穴の穴精度にバラつきがあり、面粗さや穴径が異なる場合や、穴曲がりがある場合には、原料の流れ性に影響し、得られるハニカム体の隔壁に挫屈が生じたり、目切れが生じるという問題があった。
また、上記金型の生産性を高めるために、ドリルの交換時間の削減が望まれており、寿命の長いドリルの開発が望まれていた。
【0005】
一方、ハイス鋼よりもさらに硬度が高く耐摩耗性に優れた超硬のドリルを利用することが試みられてきた。しかし、超硬は、ハイス鋼よりも耐摩耗性には優れるものの脆いため、早期に折損してしまい、かえってドリルの寿命が短くなるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特許第3750348号公報
【特許文献2】特許第3814849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することが可能な、刃具寿命の長いハニカム体成形用金型製造用ドリル、及びそれを用いたハニカム体成形用金型の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角形格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造するに当たって、金型素材の穴成形面に、直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程を行う際に用いるドリルであって、
該ドリルは、超硬製であると共に、2つの先端切れ刃と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃と、該側面切れ刃に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部とを有する刃部と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部とを軸方向に連ねて構成されており、
上記刃部における芯厚は、0.20〜0.32mm、
上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上、20.0mm以下の長さであり、
上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°であることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリルに関する(請求項1)。
【0009】
本発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルは、超硬製である。硬く、耐摩耗性の高い超鋼を用いることにより、穴加工工程中にドリルがたわみ難く、直進性を確保することができる。これにより、穴曲がりや、加工面が粗くなることを抑制することができる。
【0010】
上記超硬は、硬く耐摩耗性が高い反面、脆くて折れ易いという性質を有している。このため、前述したごとく、本発明の用途への実用化はできていなかった。ここで、本発明では、上記ドリルの上記刃部における芯厚を0.20〜0.32mmとすることにより、ドリルの剛性が高くなり、超鋼の折れ易さをカバーし、欠けを防ぎ、直進性を確保することができる。
【0011】
また、上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた以上、20.0mm以下の長さである。
これにより、上記ドリルの強度を低下させることなく、穴加工の際に発生する切り粉を排出し易くすることができる。
【0012】
また、上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°である。
これにより、上記2つの先端切れ刃を金属素材に侵入させる際に真っすぐに入れることができ、直進性を得ることができ、穴曲がりを抑制することができる。
【0013】
すなわち、硬く、耐摩耗性の高い超硬を素材として用いて、上記芯厚、刃部の長さ、2つの先端切れ刃のなす角度という少なくとも3つの寸法的要件の全てを同時に具備する形状を有するドリルにすることにより、長期間にわたって、剛性を維持し、欠けや折れを抑制し、直進性を確保して、金型素材を削り取っていくことができる。これにより、本発明によれば、穴曲がりや、加工面が粗くなることを抑制し、高精度の供給穴を形成することができる。そのため、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することが可能な、刃具寿命の長いハニカム体成形用金型製造用ドリルを提供することができる。
【0014】
第2の発明は、材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造する方法であって、
金型素材の穴成形面に直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程と、
上記金型素材の穴成形面の反対側の面である溝成形面に上記スリット溝を形成する溝加工工程とを有し、
上記穴加工工程は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のドリルを用いて行うことを特徴とするハニカム体成形用金型の製造方法にある(請求項5)。
【0015】
上記製造方法は、上述の第1の発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルを用いて穴加工工程を行うことにより、直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの均一な供給穴を形成し、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することができる。かつ、上記ドリルの寿命が長いので、生産性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルにおいて、上記刃部における芯厚は、0.20〜0.32mmである。
上記ドリルの芯厚が0.2mm未満の場合には、ドリルの破損の原因となるという問題があり、一方、上記芯厚が0.32mmを超える場合には、穴加工の際に発生する切り粉を排出し難いという問題がある。
また、上記芯厚とは、溝部を加工して残るドリル中心部の最小直径である。
【0017】
また、上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上、20.0mm以下の長さである。
上記刃部の長さが、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた長さ未満の場合には、穴加工の際に発生する切り粉を排出し難いという問題がある。一方、上記刃部の長さが、20.0mmを超える場合には、ドリルの強度が弱くなり折れ易くなるという問題がある。
【0018】
また、上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°である。
上記なす角が110°未満の場合には、ドリルの先端に欠けが生じるという問題があり、一方、上記なす角が120°を超える場合には、抵抗により折れが生じ易くなるという問題がある。
【0019】
上記ハニカム体成形用金型製造用ドリルは、上記先端切れ刃は、その先端角部に平坦面を設ける面取り加工を施してあることが好ましい(請求項2)。
これにより、上記ドリルの先端の欠けをより一層抑制することができる。
【0020】
また、上記平坦面は、幅が0.005〜0.020mmであることが好ましい(請求項3)。
この場合には、特に良好に上記ドリルの欠けを抑制することができる。
【0021】
上記平坦面の幅が0.005mm未満の場合には、上記面取りによる欠け防止向上効果が十分に得られないおそれがあり、一方、上記平坦面の幅が0.020mmを超える場合には、先端切れ刃による切削性が低下するおそれがある。
【0022】
また、上記シャンク部は上記刃部よりも径が大きく、該刃部と上記シャンク部との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部が設けられており、該径差部の軸心に対する傾斜角度は15〜30°であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記ドリルの振れやたわみを抑制することができ、径差部での折れを抑制することができる。
【0023】
上記径差部の軸心に対する傾斜角度が15°未満の場合には、ドリルの振れを抑制し難くなり、形成される供給穴の精度が低下するおそれがあり、一方、上記径差部の軸心に対する傾斜角度が30°を超える場合には、応力集中により、その角度起点より折損するおそれがある。
【0024】
第2の発明のハニカム体成形用金型の製造方法において、上記穴加工工程は、1本の上記ドリルにより1000点以上加工することが好ましい(請求項6)。
この場合には、ドリルの交換回数を低減することができ、ドリルの交換時間の削減が可能となり、上記ハニカム体成形用金型の生産性を高めることができる。そして、このような生産性向上効果は、上記第1の発明の優れたドリルの開発に成功したことによってはじめて成し遂げられたのである。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
本例は、本発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルを用いてハニカム体成形用金型を製造する方法に関する実施例について、図1〜図8を用いて説明する。
【0026】
本例では、図1〜図3に示すごとく、材料を供給するための供給穴2と、該供給穴2に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角形格子状のスリット溝3とを有するハニカム体成形用金型1を製造する。また、同図より知られるごとく、上記供給穴2は、スリット溝3の交点の位置に一定間隔で設けられている。
【0027】
本例の製造方法は、金型素材の穴成形面に供給穴を形成する穴加工工程と、上記金型素材の穴成形面の反対側の面である溝成形面に上記スリット溝を形成する溝加工工程とを有する。
以下、これを詳説する。
【0028】
上記ハニカム体成形用金型1を作製するに当たっては、その金型素材として、材質がSKD61の厚みが15.5mmで四角形状の板材を準備する(説明の都合上、この金型素材は、適宜、単に金型1として表現する。)。
まず、図4(a)に示すごとく、金型1における溝形成面12をその周囲よりも突出させるように外周部を切削する外周粗加工を行った。
【0029】
次に、図4(b)に示すごとく、上記外周粗加工を行った面と反対側の面である穴成形面11に、上記穴加工工程を施した。穴加工工程においては、穴形成面11に、ドリルを用いて穴径Rがφ0.9mm、深さ13.5mmの供給穴2を多数形成した。
【0030】
この穴加工工程は、具体的には、上記ドリルとして、図5〜図8に示す超硬製のドリル4を使用した。このドリル4は、図5に示すように、2つの先端切れ刃51と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃52と、該側面切れ刃52に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部53とを有する長さ17.5mmの刃部5と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部6とを軸方向に連ねて構成されている。
【0031】
また、図6に示すように、上記刃部5における芯厚Tは、0.30mmである。
また、図7に示すように、上記2つの先端切れ刃51のなす角度αは、120°である。
また、図8に示すように、上記先端切れ刃51は、軸心Oの垂直方向対して15°の傾斜βを有する第1傾斜面512と、該第1傾斜面512に連なり、軸心Oの垂直方向に対して30°の傾斜γを有する第2傾斜面513とを有している。先端角部514は、上記第1傾斜面512と上記溝部53とにより形成される部分であり、その先端角部514には、幅Uが0.020mmの平坦面511を設ける面取り加工を施してある。
【0032】
また、上記シャンク部6は上記刃部5よりも径が大きく、該刃部5と上記シャンク部6との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部56が設けられており、該径差部56の軸心に対する傾斜角度は15°である。
また、上記穴加工工程において、1本のドリルにより1000点以上の供給穴を加工することができた。
【0033】
続いて、熱処理工程において、上記金型1を、上記金型素材を1030℃で保持して焼き入れ処理を行った後、600℃で焼き戻し処理を行った(図示略)。
【0034】
次に、金型1の外周面や基準穴等の仕上げ加工を行った後、上記溝加工工程を行った。図4(c)に示すごとく、溝加工工程では、金型1の穴成形面11の反対側の面である溝成形面12に、図示しない円盤状の研削砥石を用いてスリット溝3を一本ずつ多数形成し、四角形格子状とした。スリット溝3のサイズは、図3に示すごとく、溝巾wが0.06〜0.3mm、溝深さhが3.5〜5.5mmの範囲内とした。
次に、図4(d)に示すごとく、溝加工面12の外周形状を所望の円形状に整える段付き加工を行って金型1の加工工程を完了させた。
【0035】
次に、図4(e)に示すごとく、上記金型調整工程を行った。具体的には、金型1をシリンダ101の先端に当接させて、これを固定リング102によって固定した調整装置10を用いた。具体的には、シリンダ101内に、研磨用の材料103としてSiC砥粒流体研磨材を入れ、ピストン104によって押圧することにより、金型1の供給穴2に材料103を供給すると共にスリット溝3を通過させて溝形成面11から押し出すという作業により金型調整を実施した。
【0036】
以上のようにして得られた金型1(試料E1とする)は、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型とすることができる。
これは、特に、穴加工工程において、上述のハニカム体成形用金型製造用ドリルを積極的に採用したことにある。上記ドリルによる穴加工工程の実施により、供給穴を精度が良く形成することができる。
また、本例において、上記スリット溝は四角格子状としたが、六角のスリット溝を形成した場合であっても同様の効果を得ることができる。
【0037】
(比較例1)
本例は、本発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルにかかる比較例について説明する。
本発明は、実施例1のドリルを、SKH−51からなるハイスドリルに変更した例である。
上記ハイスドリルは、図9に示すように、2つの先端切れ刃81と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃82と、該側面切れ刃に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部83とを有する長さ15mmの刃部84と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部85とを軸方向に連ねて構成されている。
また、上記刃部84における芯厚は、0.3mmである。また、上記2つの先端切れ刃81のなす角度ωは、130°である。
また、上記シャンク部85は上記刃部84よりも径が大きく、該刃部84と上記シャンク部85との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部86が設けられており、該径差部86の軸心に対する傾斜角度は15°である。
その他は、実施例1と同様にして行った。
本例では、穴加工工程において、1本のドリルにより加工できた供給穴の数は、およそ200点であった。
本例において得られた金型を試料C1とする。
【0038】
(実験例1)
実施例1及び比較例1において作製したハニカム成形体成形用金型(試料E1及び試料C1)について、供給穴の真直度(うねり)、穴径、穴曲がり、面粗さを測定することにより、供給穴の加工精度を評価した。
図10(a)は、試料E1の供給穴部分の断面を示し、図10(b)は試料C1の供給穴部分の断面を示す図面代用写真である。
【0039】
本発明の実施例である試料E1は、供給穴2の真直度(うねり)は0.005〜0.008mm/13mmであり、穴径は0.9mm±10μmであり、穴曲がりは0.005〜0.040mm/13mmであり、供給穴の面粗さは6〜9μmRyであった。
本発明の比較例としての試料C1は、図10(b)から知られるように、E1の場合よりも供給穴208のうねりが大きいことが目視により観察される。具体的には、給穴208の真直度(うねり)は0.007〜0.040mm/13mmであり、穴径は0.9mm±30μmであり、穴曲がりは0.005〜0.080mm/13mmであり、供給穴の面粗さは6〜27μmRyであった。
これにより、本発明によれば、高い加工精度で供給穴を形成できることがわかる。
【0040】
(実験例2)
次に、上記試料E1を用いてハニカム体を作製した。
具体的には、少なくとも原料粉末と水とを混練してなるセラミック原料を図11に示す押出成形装置9を用いて押出成形することによりハニカム成形体を得る押出成形工程と、上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、熱処理を行ってハニカム体を得る熱処理工程を行った。
【0041】
得られるハニカム体は、外皮と、該外皮内にハニカム状に配設された隔壁と、該隔壁内に区画されていると共に両端に貫通するよう軸方向に沿って形成された多数のセルとを有する。
また、ハニカム体のサイズは、直径がφ103mm、高さが130mm、隔壁厚さが0.09mm、セルピッチすなわち一辺の長さが1.27mmである。なお、本例により得られるハニカム体のサイズは一例であり、これに限定されるものではない。
【0042】
上記押出成形装置9は、図11に示すごとく、上方に設けた混練機91に対面した投入口92を有していると共に、その下方には上段スクリュー93、押出スクリュー部94、上記上段スクリュー93と押出スクリュー部94との間に真空室95と噛込ローラ96とを備えている。上記押出スクリュー部94は、円形状のスリーブ97と、該スリーブ97内においてセラミック原料を混練すると共に前進させるスクリュー98とを備えている。
【0043】
上記押出スクリュー部94の前方には、該押出スクリュー部94から押し出される上記セラミック原料が通過する断面積を徐々に減少させる抵抗管99が設けてある。更にその前方には、抵抗管99から押し出される上記セラミック原料をハニカム形状に成形するための、ハニカム体成形用金型1(試料E1)が配設してある。ハニカム体成形用金型1には、ガイドリング90が配設してある。
また、本例の押出成形装置9は、上段スクリュー93と押出スクリュー部94とを有するが、上段スクリュー93と押出スクリュー部94との間に、更に、中段スクリューを設けても良い。
【0044】
次に、ハニカム体の製造方法について説明する。
まず、原料粉末と、水とを、混練機91により混練してセラミック原料とした。その後、上記混練機91から原料投入口92に、上記セラミック原料を投入し、これを、上段スクリュー93の回転による推進力によって、真空室95及び噛込ローラ96を介して押出スクリュー部94に送り込んだ。
【0045】
その後、上記セラミック原料を上記押出スクリュー部94から押し出し、上記抵抗管99において通過断面積を徐々に減少させ、ハニカム体成形用金型1より押し出し、ガイドリング90を通過させることによってハニカム成形体を成形した。
次に、上記ハニカム成形体を所定長さに切断する。そして、分離された個々のハニカム成形体は、そのまま1時間放置し、乾燥工程を行った。
乾燥工程が終了した後、ハニカム成形体を焼成炉内に運搬し、焼成を行った。焼成は、1400℃の温度に5時間保持する条件で行い、ハニカム体が得られた。
【0046】
次に、上記試料C1を用いてハニカム体を作製した。
上記ハニカム体成形用金型1(試料E1)を試料C1に変更して行った。その他は、試料E1の場合と同様にして行った。
【0047】
図12に、試料E1及び試料C1を用いてハニカム体7を作製した際の、ハニカム成形体71の出始め状態(押出成形を開始して金型から押出された先頭面Sの状態)を示す。
図12(a)は、試料E1を用いた場合のハニカム成形体71の出始め状態を示し、図12(b)は、試料C1を用いた場合のハニカム成形体71の出初め状態を示す図面代用写真である。
図12より知られるごとく、本発明の実施例としての試料E1を用いて作製した場合は、本発明の比較例としての試料C1を用いて作製した場合と比較して、出始め状態(先頭面S)の凹凸が少ない。そのため、本発明によれば、ハニカム体成形用金型の材料流れ性が良好であり、材料の供給量が安定することが分かる。
【0048】
また、図13に、得られたハニカム体7の製品内部を軸方向に光透過させて観察した状態を示す。
図13(a)は、試料E1を用いて作製されたハニカム体7の製品内部を示し、図13(b)は、試料C1を用いて作製されたハニカム体7の製品内部を示す図面代用写真である。
図13より知られるごとく、本発明の実施例としての試料E1を用いて作製した場合は、本発明の比較例としての試料C1を用いて作製した場合と比較すると、くもり79が少ないことがわかる。これにより、本発明によれば、供給穴の精度が良好であり、ハニカム体7を変形なく製造できることが分かる。
【0049】
これにより、本発明によれば、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することが可能な、刃具寿命の長いハニカム体成形用金型製造用ドリルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1における、ハニカム体成形用金型を示す説明図。
【図2】実施例1における、ハニカム体成形用金型を示す上面図。
【図3】実施例1における、ハニカム体成形用金型を示す断面図。
【図4】実施例1における、ハニカム体成形用金型の製造方法を示す説明図。
【図5】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルを示す説明図。
【図6】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルの先端面を示す正面図。
【図7】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルの先端部を示す拡大図。
【図8】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルの先端切れ刃を示す断面図。
【図9】比較例1における、ハイスドリルを示す説明図。
【図10】実験例1における、ハニカム体成形用金型の供給穴を示す図面代用写真。
【図11】実験例1における、ハニカム体の押出成形装置を示す説明図。
【図12】実験例1における、ハニカム成形体の出始め状態を示す図面代用写真。
【図13】実験例1における、ハニカム体の製品内部を示す図面代用写真。
【符号の説明】
【0051】
4 ハニカム体成形用金型製造用ドリル
5 刃部
51 先端切れ刃
52 側面切れ刃
53 溝部
6 シャンク部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム体成形用金型の製造に用いるドリル、及びそれを用いたハニカム体成形用金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の排ガス浄化フィルター等として用いられるコージェライト等を主成分としたセラミック製のハニカム体は、ハニカム体成形用金型(以下、適宜、単に金型という)を用いて、セラミックス原料を含む材料を押出成形することにより製造される。このハニカム体は、隔壁を格子状に設けて多数のセルを構成してなり、そのセル形状としては、四角形、六角形等種々の形状がある。
【0003】
上記金型としては、金型本体に、材料を供給するための多数の供給穴と、その供給穴に連通して格子状に設けられ、材料をハニカム形状に成形するためのスリット溝とが形成されたものを用いる(特許文献1、2)。
上記供給穴は、ドリルを用いて形成される。従来、上記ドリルとしては、優れた高速度工具鋼として多用されているハイス鋼からなるものが使用されてきた。しかしながら、ハイス鋼であっても、上記金型における極細の供給穴を多数形成するをドリルとして用いた場合には、摩耗によって加工面が粗くなったり、供給穴の寸法が不均一になり、原料の流れに悪影響を与えるという問題や、ドリルの刃具寿命が短く、コストが増大するという問題があった。
【0004】
また、供給穴を加工する際には、ドリルのわずかな振れが、穴曲がりやドリルの折れにつながる。
上記供給穴の穴精度にバラつきがあり、面粗さや穴径が異なる場合や、穴曲がりがある場合には、原料の流れ性に影響し、得られるハニカム体の隔壁に挫屈が生じたり、目切れが生じるという問題があった。
また、上記金型の生産性を高めるために、ドリルの交換時間の削減が望まれており、寿命の長いドリルの開発が望まれていた。
【0005】
一方、ハイス鋼よりもさらに硬度が高く耐摩耗性に優れた超硬のドリルを利用することが試みられてきた。しかし、超硬は、ハイス鋼よりも耐摩耗性には優れるものの脆いため、早期に折損してしまい、かえってドリルの寿命が短くなるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特許第3750348号公報
【特許文献2】特許第3814849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することが可能な、刃具寿命の長いハニカム体成形用金型製造用ドリル、及びそれを用いたハニカム体成形用金型の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角形格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造するに当たって、金型素材の穴成形面に、直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程を行う際に用いるドリルであって、
該ドリルは、超硬製であると共に、2つの先端切れ刃と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃と、該側面切れ刃に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部とを有する刃部と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部とを軸方向に連ねて構成されており、
上記刃部における芯厚は、0.20〜0.32mm、
上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上、20.0mm以下の長さであり、
上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°であることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリルに関する(請求項1)。
【0009】
本発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルは、超硬製である。硬く、耐摩耗性の高い超鋼を用いることにより、穴加工工程中にドリルがたわみ難く、直進性を確保することができる。これにより、穴曲がりや、加工面が粗くなることを抑制することができる。
【0010】
上記超硬は、硬く耐摩耗性が高い反面、脆くて折れ易いという性質を有している。このため、前述したごとく、本発明の用途への実用化はできていなかった。ここで、本発明では、上記ドリルの上記刃部における芯厚を0.20〜0.32mmとすることにより、ドリルの剛性が高くなり、超鋼の折れ易さをカバーし、欠けを防ぎ、直進性を確保することができる。
【0011】
また、上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた以上、20.0mm以下の長さである。
これにより、上記ドリルの強度を低下させることなく、穴加工の際に発生する切り粉を排出し易くすることができる。
【0012】
また、上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°である。
これにより、上記2つの先端切れ刃を金属素材に侵入させる際に真っすぐに入れることができ、直進性を得ることができ、穴曲がりを抑制することができる。
【0013】
すなわち、硬く、耐摩耗性の高い超硬を素材として用いて、上記芯厚、刃部の長さ、2つの先端切れ刃のなす角度という少なくとも3つの寸法的要件の全てを同時に具備する形状を有するドリルにすることにより、長期間にわたって、剛性を維持し、欠けや折れを抑制し、直進性を確保して、金型素材を削り取っていくことができる。これにより、本発明によれば、穴曲がりや、加工面が粗くなることを抑制し、高精度の供給穴を形成することができる。そのため、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することが可能な、刃具寿命の長いハニカム体成形用金型製造用ドリルを提供することができる。
【0014】
第2の発明は、材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造する方法であって、
金型素材の穴成形面に直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程と、
上記金型素材の穴成形面の反対側の面である溝成形面に上記スリット溝を形成する溝加工工程とを有し、
上記穴加工工程は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のドリルを用いて行うことを特徴とするハニカム体成形用金型の製造方法にある(請求項5)。
【0015】
上記製造方法は、上述の第1の発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルを用いて穴加工工程を行うことにより、直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの均一な供給穴を形成し、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することができる。かつ、上記ドリルの寿命が長いので、生産性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルにおいて、上記刃部における芯厚は、0.20〜0.32mmである。
上記ドリルの芯厚が0.2mm未満の場合には、ドリルの破損の原因となるという問題があり、一方、上記芯厚が0.32mmを超える場合には、穴加工の際に発生する切り粉を排出し難いという問題がある。
また、上記芯厚とは、溝部を加工して残るドリル中心部の最小直径である。
【0017】
また、上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上、20.0mm以下の長さである。
上記刃部の長さが、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた長さ未満の場合には、穴加工の際に発生する切り粉を排出し難いという問題がある。一方、上記刃部の長さが、20.0mmを超える場合には、ドリルの強度が弱くなり折れ易くなるという問題がある。
【0018】
また、上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°である。
上記なす角が110°未満の場合には、ドリルの先端に欠けが生じるという問題があり、一方、上記なす角が120°を超える場合には、抵抗により折れが生じ易くなるという問題がある。
【0019】
上記ハニカム体成形用金型製造用ドリルは、上記先端切れ刃は、その先端角部に平坦面を設ける面取り加工を施してあることが好ましい(請求項2)。
これにより、上記ドリルの先端の欠けをより一層抑制することができる。
【0020】
また、上記平坦面は、幅が0.005〜0.020mmであることが好ましい(請求項3)。
この場合には、特に良好に上記ドリルの欠けを抑制することができる。
【0021】
上記平坦面の幅が0.005mm未満の場合には、上記面取りによる欠け防止向上効果が十分に得られないおそれがあり、一方、上記平坦面の幅が0.020mmを超える場合には、先端切れ刃による切削性が低下するおそれがある。
【0022】
また、上記シャンク部は上記刃部よりも径が大きく、該刃部と上記シャンク部との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部が設けられており、該径差部の軸心に対する傾斜角度は15〜30°であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記ドリルの振れやたわみを抑制することができ、径差部での折れを抑制することができる。
【0023】
上記径差部の軸心に対する傾斜角度が15°未満の場合には、ドリルの振れを抑制し難くなり、形成される供給穴の精度が低下するおそれがあり、一方、上記径差部の軸心に対する傾斜角度が30°を超える場合には、応力集中により、その角度起点より折損するおそれがある。
【0024】
第2の発明のハニカム体成形用金型の製造方法において、上記穴加工工程は、1本の上記ドリルにより1000点以上加工することが好ましい(請求項6)。
この場合には、ドリルの交換回数を低減することができ、ドリルの交換時間の削減が可能となり、上記ハニカム体成形用金型の生産性を高めることができる。そして、このような生産性向上効果は、上記第1の発明の優れたドリルの開発に成功したことによってはじめて成し遂げられたのである。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
本例は、本発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルを用いてハニカム体成形用金型を製造する方法に関する実施例について、図1〜図8を用いて説明する。
【0026】
本例では、図1〜図3に示すごとく、材料を供給するための供給穴2と、該供給穴2に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角形格子状のスリット溝3とを有するハニカム体成形用金型1を製造する。また、同図より知られるごとく、上記供給穴2は、スリット溝3の交点の位置に一定間隔で設けられている。
【0027】
本例の製造方法は、金型素材の穴成形面に供給穴を形成する穴加工工程と、上記金型素材の穴成形面の反対側の面である溝成形面に上記スリット溝を形成する溝加工工程とを有する。
以下、これを詳説する。
【0028】
上記ハニカム体成形用金型1を作製するに当たっては、その金型素材として、材質がSKD61の厚みが15.5mmで四角形状の板材を準備する(説明の都合上、この金型素材は、適宜、単に金型1として表現する。)。
まず、図4(a)に示すごとく、金型1における溝形成面12をその周囲よりも突出させるように外周部を切削する外周粗加工を行った。
【0029】
次に、図4(b)に示すごとく、上記外周粗加工を行った面と反対側の面である穴成形面11に、上記穴加工工程を施した。穴加工工程においては、穴形成面11に、ドリルを用いて穴径Rがφ0.9mm、深さ13.5mmの供給穴2を多数形成した。
【0030】
この穴加工工程は、具体的には、上記ドリルとして、図5〜図8に示す超硬製のドリル4を使用した。このドリル4は、図5に示すように、2つの先端切れ刃51と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃52と、該側面切れ刃52に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部53とを有する長さ17.5mmの刃部5と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部6とを軸方向に連ねて構成されている。
【0031】
また、図6に示すように、上記刃部5における芯厚Tは、0.30mmである。
また、図7に示すように、上記2つの先端切れ刃51のなす角度αは、120°である。
また、図8に示すように、上記先端切れ刃51は、軸心Oの垂直方向対して15°の傾斜βを有する第1傾斜面512と、該第1傾斜面512に連なり、軸心Oの垂直方向に対して30°の傾斜γを有する第2傾斜面513とを有している。先端角部514は、上記第1傾斜面512と上記溝部53とにより形成される部分であり、その先端角部514には、幅Uが0.020mmの平坦面511を設ける面取り加工を施してある。
【0032】
また、上記シャンク部6は上記刃部5よりも径が大きく、該刃部5と上記シャンク部6との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部56が設けられており、該径差部56の軸心に対する傾斜角度は15°である。
また、上記穴加工工程において、1本のドリルにより1000点以上の供給穴を加工することができた。
【0033】
続いて、熱処理工程において、上記金型1を、上記金型素材を1030℃で保持して焼き入れ処理を行った後、600℃で焼き戻し処理を行った(図示略)。
【0034】
次に、金型1の外周面や基準穴等の仕上げ加工を行った後、上記溝加工工程を行った。図4(c)に示すごとく、溝加工工程では、金型1の穴成形面11の反対側の面である溝成形面12に、図示しない円盤状の研削砥石を用いてスリット溝3を一本ずつ多数形成し、四角形格子状とした。スリット溝3のサイズは、図3に示すごとく、溝巾wが0.06〜0.3mm、溝深さhが3.5〜5.5mmの範囲内とした。
次に、図4(d)に示すごとく、溝加工面12の外周形状を所望の円形状に整える段付き加工を行って金型1の加工工程を完了させた。
【0035】
次に、図4(e)に示すごとく、上記金型調整工程を行った。具体的には、金型1をシリンダ101の先端に当接させて、これを固定リング102によって固定した調整装置10を用いた。具体的には、シリンダ101内に、研磨用の材料103としてSiC砥粒流体研磨材を入れ、ピストン104によって押圧することにより、金型1の供給穴2に材料103を供給すると共にスリット溝3を通過させて溝形成面11から押し出すという作業により金型調整を実施した。
【0036】
以上のようにして得られた金型1(試料E1とする)は、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型とすることができる。
これは、特に、穴加工工程において、上述のハニカム体成形用金型製造用ドリルを積極的に採用したことにある。上記ドリルによる穴加工工程の実施により、供給穴を精度が良く形成することができる。
また、本例において、上記スリット溝は四角格子状としたが、六角のスリット溝を形成した場合であっても同様の効果を得ることができる。
【0037】
(比較例1)
本例は、本発明のハニカム体成形用金型製造用ドリルにかかる比較例について説明する。
本発明は、実施例1のドリルを、SKH−51からなるハイスドリルに変更した例である。
上記ハイスドリルは、図9に示すように、2つの先端切れ刃81と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃82と、該側面切れ刃に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部83とを有する長さ15mmの刃部84と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部85とを軸方向に連ねて構成されている。
また、上記刃部84における芯厚は、0.3mmである。また、上記2つの先端切れ刃81のなす角度ωは、130°である。
また、上記シャンク部85は上記刃部84よりも径が大きく、該刃部84と上記シャンク部85との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部86が設けられており、該径差部86の軸心に対する傾斜角度は15°である。
その他は、実施例1と同様にして行った。
本例では、穴加工工程において、1本のドリルにより加工できた供給穴の数は、およそ200点であった。
本例において得られた金型を試料C1とする。
【0038】
(実験例1)
実施例1及び比較例1において作製したハニカム成形体成形用金型(試料E1及び試料C1)について、供給穴の真直度(うねり)、穴径、穴曲がり、面粗さを測定することにより、供給穴の加工精度を評価した。
図10(a)は、試料E1の供給穴部分の断面を示し、図10(b)は試料C1の供給穴部分の断面を示す図面代用写真である。
【0039】
本発明の実施例である試料E1は、供給穴2の真直度(うねり)は0.005〜0.008mm/13mmであり、穴径は0.9mm±10μmであり、穴曲がりは0.005〜0.040mm/13mmであり、供給穴の面粗さは6〜9μmRyであった。
本発明の比較例としての試料C1は、図10(b)から知られるように、E1の場合よりも供給穴208のうねりが大きいことが目視により観察される。具体的には、給穴208の真直度(うねり)は0.007〜0.040mm/13mmであり、穴径は0.9mm±30μmであり、穴曲がりは0.005〜0.080mm/13mmであり、供給穴の面粗さは6〜27μmRyであった。
これにより、本発明によれば、高い加工精度で供給穴を形成できることがわかる。
【0040】
(実験例2)
次に、上記試料E1を用いてハニカム体を作製した。
具体的には、少なくとも原料粉末と水とを混練してなるセラミック原料を図11に示す押出成形装置9を用いて押出成形することによりハニカム成形体を得る押出成形工程と、上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、熱処理を行ってハニカム体を得る熱処理工程を行った。
【0041】
得られるハニカム体は、外皮と、該外皮内にハニカム状に配設された隔壁と、該隔壁内に区画されていると共に両端に貫通するよう軸方向に沿って形成された多数のセルとを有する。
また、ハニカム体のサイズは、直径がφ103mm、高さが130mm、隔壁厚さが0.09mm、セルピッチすなわち一辺の長さが1.27mmである。なお、本例により得られるハニカム体のサイズは一例であり、これに限定されるものではない。
【0042】
上記押出成形装置9は、図11に示すごとく、上方に設けた混練機91に対面した投入口92を有していると共に、その下方には上段スクリュー93、押出スクリュー部94、上記上段スクリュー93と押出スクリュー部94との間に真空室95と噛込ローラ96とを備えている。上記押出スクリュー部94は、円形状のスリーブ97と、該スリーブ97内においてセラミック原料を混練すると共に前進させるスクリュー98とを備えている。
【0043】
上記押出スクリュー部94の前方には、該押出スクリュー部94から押し出される上記セラミック原料が通過する断面積を徐々に減少させる抵抗管99が設けてある。更にその前方には、抵抗管99から押し出される上記セラミック原料をハニカム形状に成形するための、ハニカム体成形用金型1(試料E1)が配設してある。ハニカム体成形用金型1には、ガイドリング90が配設してある。
また、本例の押出成形装置9は、上段スクリュー93と押出スクリュー部94とを有するが、上段スクリュー93と押出スクリュー部94との間に、更に、中段スクリューを設けても良い。
【0044】
次に、ハニカム体の製造方法について説明する。
まず、原料粉末と、水とを、混練機91により混練してセラミック原料とした。その後、上記混練機91から原料投入口92に、上記セラミック原料を投入し、これを、上段スクリュー93の回転による推進力によって、真空室95及び噛込ローラ96を介して押出スクリュー部94に送り込んだ。
【0045】
その後、上記セラミック原料を上記押出スクリュー部94から押し出し、上記抵抗管99において通過断面積を徐々に減少させ、ハニカム体成形用金型1より押し出し、ガイドリング90を通過させることによってハニカム成形体を成形した。
次に、上記ハニカム成形体を所定長さに切断する。そして、分離された個々のハニカム成形体は、そのまま1時間放置し、乾燥工程を行った。
乾燥工程が終了した後、ハニカム成形体を焼成炉内に運搬し、焼成を行った。焼成は、1400℃の温度に5時間保持する条件で行い、ハニカム体が得られた。
【0046】
次に、上記試料C1を用いてハニカム体を作製した。
上記ハニカム体成形用金型1(試料E1)を試料C1に変更して行った。その他は、試料E1の場合と同様にして行った。
【0047】
図12に、試料E1及び試料C1を用いてハニカム体7を作製した際の、ハニカム成形体71の出始め状態(押出成形を開始して金型から押出された先頭面Sの状態)を示す。
図12(a)は、試料E1を用いた場合のハニカム成形体71の出始め状態を示し、図12(b)は、試料C1を用いた場合のハニカム成形体71の出初め状態を示す図面代用写真である。
図12より知られるごとく、本発明の実施例としての試料E1を用いて作製した場合は、本発明の比較例としての試料C1を用いて作製した場合と比較して、出始め状態(先頭面S)の凹凸が少ない。そのため、本発明によれば、ハニカム体成形用金型の材料流れ性が良好であり、材料の供給量が安定することが分かる。
【0048】
また、図13に、得られたハニカム体7の製品内部を軸方向に光透過させて観察した状態を示す。
図13(a)は、試料E1を用いて作製されたハニカム体7の製品内部を示し、図13(b)は、試料C1を用いて作製されたハニカム体7の製品内部を示す図面代用写真である。
図13より知られるごとく、本発明の実施例としての試料E1を用いて作製した場合は、本発明の比較例としての試料C1を用いて作製した場合と比較すると、くもり79が少ないことがわかる。これにより、本発明によれば、供給穴の精度が良好であり、ハニカム体7を変形なく製造できることが分かる。
【0049】
これにより、本発明によれば、材料の押し出し量が均一であるハニカム体成形用金型を製造することが可能な、刃具寿命の長いハニカム体成形用金型製造用ドリルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1における、ハニカム体成形用金型を示す説明図。
【図2】実施例1における、ハニカム体成形用金型を示す上面図。
【図3】実施例1における、ハニカム体成形用金型を示す断面図。
【図4】実施例1における、ハニカム体成形用金型の製造方法を示す説明図。
【図5】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルを示す説明図。
【図6】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルの先端面を示す正面図。
【図7】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルの先端部を示す拡大図。
【図8】実施例1における、ハニカム体成形用金型製造用ドリルの先端切れ刃を示す断面図。
【図9】比較例1における、ハイスドリルを示す説明図。
【図10】実験例1における、ハニカム体成形用金型の供給穴を示す図面代用写真。
【図11】実験例1における、ハニカム体の押出成形装置を示す説明図。
【図12】実験例1における、ハニカム成形体の出始め状態を示す図面代用写真。
【図13】実験例1における、ハニカム体の製品内部を示す図面代用写真。
【符号の説明】
【0051】
4 ハニカム体成形用金型製造用ドリル
5 刃部
51 先端切れ刃
52 側面切れ刃
53 溝部
6 シャンク部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角形格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造するに当たって、金型素材の穴成形面に、直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程を行う際に用いるドリルであって、
該ドリルは、超硬製であると共に、2つの先端切れ刃と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃と、該側面切れ刃に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部とを有する刃部と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部とを軸方向に連ねて構成されており、
上記刃部における芯厚は、0.20〜0.32mm、
上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上、20.0mm以下の長さであり、
上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°であることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項2】
請求項1において、上記先端切れ刃は、その先端角部に平坦面を設ける面取り加工を施してあることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項3】
請求項2において、上記平坦面は、幅が0.005〜0.020mmであることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記シャンク部は上記刃部よりも径が大きく、該刃部と上記シャンク部との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部が設けられており、該径差部の軸心に対する傾斜角度は15〜30°であることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項5】
材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造する方法であって、
金型素材の穴成形面に直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程と、
上記金型素材の穴成形面の反対側の面である溝成形面に上記スリット溝を形成する溝加工工程とを有し、
上記穴加工工程は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のドリルを用いて行うことを特徴とするハニカム体成形用金型の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、上記穴加工工程は、1本の上記ドリルにより1000点以上加工することを特徴とするハニカム体成形用金型の製造方法。
【請求項1】
材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角形格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造するに当たって、金型素材の穴成形面に、直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程を行う際に用いるドリルであって、
該ドリルは、超硬製であると共に、2つの先端切れ刃と、その外周端から螺旋状に形成された2本の側面切れ刃と、該側面切れ刃に沿って形成された切り屑排出用の螺旋状の溝部とを有する刃部と、回転手段のチャックに保持されるシャンク部とを軸方向に連ねて構成されており、
上記刃部における芯厚は、0.20〜0.32mm、
上記刃部の長さは、上記供給穴の深さにその直径の2倍の長さを加えた値以上、20.0mm以下の長さであり、
上記2つの先端切れ刃のなす角度は、110〜120°であることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項2】
請求項1において、上記先端切れ刃は、その先端角部に平坦面を設ける面取り加工を施してあることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項3】
請求項2において、上記平坦面は、幅が0.005〜0.020mmであることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記シャンク部は上記刃部よりも径が大きく、該刃部と上記シャンク部との間には両者を繋ぐテーパ状の径差部が設けられており、該径差部の軸心に対する傾斜角度は15〜30°であることを特徴とするハニカム体成形用金型製造用ドリル。
【請求項5】
材料を供給するための供給穴と、該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するための多角格子状のスリット溝とを有するハニカム体成形用金型を製造する方法であって、
金型素材の穴成形面に直径0.7〜1.3mm、深さ13.5〜14.5mmの上記供給穴を形成する穴加工工程と、
上記金型素材の穴成形面の反対側の面である溝成形面に上記スリット溝を形成する溝加工工程とを有し、
上記穴加工工程は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のドリルを用いて行うことを特徴とするハニカム体成形用金型の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、上記穴加工工程は、1本の上記ドリルにより1000点以上加工することを特徴とするハニカム体成形用金型の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−188701(P2008−188701A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24552(P2007−24552)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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