説明

ハニカム構造体

【課題】高昇温性能及び高熱容量のいずれをも同時に満足させ、ディーゼルエンジン等から排出される排ガスを効率良く浄化することが可能なハニカム構造体を提供する。
【解決手段】ハニカム構造体10は、セル2の連通する連通方向に垂直な面において、中心軸を含む中心部領域11が第1の厚さを有する第1隔壁1aによって形成されている。また、中心部領域11の外側の外周部領域12が、第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する第2隔壁1bによって形成されている。さらに、外周部領域12の少なくとも一方向のセルピッチが中心部領域11のセルピッチよりも大きい。また、中心部領域11のセル2が正方形セルであり、外周部領域12を構成するセル2が、中心部領域11を構成するセル2の1.00〜1.10倍の開口率を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。さらに詳しくは、高昇温性能及び高熱容量のいずれをも同時に満足させ、ディーゼルエンジン等から排出される排ガスを効率良く浄化することが可能なハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンに関する排ガス規制の強化に伴い、ディーゼルエンジンからの排ガス中に含まれる粒子状物質(PM)の捕集にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を使用する方法が種々提案されている。一般的には、DPFにはPMを酸化する触媒がコートされており、且つDPFの前段には同じく触媒がコートされたハニカム構造体が搭載される。このハニカム構造体で排ガスに含まれるNOをNOとすることで、DPFに堆積したPMを燃焼させたり、エンジン制御によってポストインジェクションを実施し、未燃焼燃料を酸化して排ガス温度を上昇させ、DPFに堆積したPMを燃焼再生させたりする。
【0003】
DPFに堆積したPMを円滑に燃焼再生させる為には上述のハニカム構造体にコートされている触媒が活性化温度に達している時間をできるだけ長くする必要がある。しかしながら、ディーゼルエンジンは排気温度が低く、低負荷状態ではハニカム構造体が触媒活性温度に至らず、或いは高負荷運転後でも急激な低負荷への移行の際には、ハニカム構造体の温度が急速に低下し触媒活性温度以下となる場合があり、PMの燃焼性を阻害させたり、強制再生が完結しないという問題があった。近年ディーゼルエンジンの小型化によっても、排ガス温度が低下し、触媒が活性温度に達しないという問題が発生している。
【0004】
上述の問題に鑑み、ハニカム構造体のセル隔壁を薄くしたり、気孔率を上げる等、ハニカム構造体の熱容量を下げ、基材の昇温特性を向上させる事で、触媒活性化温度に早く到達させる事が一般的に行われてきた。
【0005】
しかしながら、基材の低熱容量化は基材の昇温特性を向上させ、コートされた触媒を早く触媒活性化温度に到達させる事ができるものの、逆に排ガス温度が低下した時には急激に触媒活性化温度以下となる。また、排ガス温度低下時に基材の温度低下を阻止する為に基材の熱容量を上げると昇温特性が悪化してしまい、互いに背反の関係となる。すなわち、単純に基材の隔壁厚さや気孔率を変え、熱容量を変更するだけではハニカム構造体にコートされた触媒が活性化温度に達している時間を延長する事は困難であった。
【0006】
そこで、2種以上の厚さを有する隔壁で構成されたハニカム構造体が開示されている(特許文献1〜2参照)。特許文献1のハニカム構造体は、暖機特性を向上させ、機械的強度を向上させるハニカム構造体である。特許文献2のハニカム構造体は、高昇温性能及び高熱容量のいずれをも同時に満足させることは困難であるという二律背反の問題を解決し、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(PM)を捕集するフィルターの前段に設置する事で、フィルターに捕集されたPMの再生を円滑に完結させたり、排ガスを効率良く浄化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−326035号公報
【特許文献2】特開2007−289924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、隔壁の厚さを変えているが、外周部に排ガスが流れにくくなるという問題点がある。このため、保温性が十分ではなく、さらなる浄化性能の向上が望まれる。また、外周部における圧力損失が上昇する問題もある。特許文献2では、隔壁の厚い部分で熱容量が大であることによる保温性大、薄い部分で熱容量が小であることによる昇温性大の効果があったが、昇温性及び保温性がさらに良好なハニカム構造体が望まれている。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、高昇温性能及び高熱容量のいずれをも同時に満足させ、ディーゼルエンジン等から排出される排ガスを効率良く浄化することが可能なハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、中心部領域の隔壁の厚さよりも、外周部領域の隔壁の厚さを厚くし、外周部領域のセルピッチが中心部領域のセルピッチよりも、少なくとも一方向で大きくなるように構成することにより上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のハニカム構造体が提供される。
【0011】
[1] 複数の隔壁によって2つの端面間を互いに並行して連通する複数のセルが形成され、前記セルの連通する連通方向に垂直な面において、中心軸を含む中心部領域が第1の厚さを有する第1隔壁によって形成され、前記中心部領域の外側の外周部領域が、前記第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する第2隔壁によって形成され、前記外周部領域の少なくとも一方向のセルピッチが前記中心部領域のセルピッチよりも大きく、前記中心部領域の前記セルが正方形セルであり、前記外周部領域を構成する前記セルが、前記中心部領域を構成する前記セルの1.00〜1.10倍の開口率を有するハニカム構造体。
【0012】
[2] 前記中心部領域と前記外周部領域との間に、前記第1の厚さと前記第2の厚さの中間の厚さの中間隔壁によって形成された遷移領域を有し、前記外周部領域及び前記遷移領域の各領域を構成する前記セルが、前記中心部領域を構成する前記セルの1.00〜1.10倍の開口率を有し、前記開口率の大きさが、中心部領域≦遷移領域≦外周部領域である前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0013】
[3] 前記連通方向に垂直な面において、前記遷移領域の面積は、面全体の5〜35%である前記[2]に記載のハニカム構造体。
【0014】
[4] 前記連通方向に垂直な面において、前記中心部領域、前記遷移領域、及び前記外周部領域が、同心状に形成されている前記[2]または[3]に記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0015】
中心部領域の隔壁の厚さよりも、外周部領域の隔壁の厚さを厚くすることにより、外周部領域において、熱容量を大きくして、保温性を向上させることができる。また、中心部領域において、熱容量を小さくして、昇温性を向上させることができる。これにより、暖まりやすく、冷めにくいハニカム構造体とすることができるため、触媒活性を向上させ、浄化性能を向上させることができる。
【0016】
また、外周部領域のセルピッチが中心部領域のセルピッチよりも、少なくとも一方向で大きくなるように構成することにより、ガスを均一にセル内に流し、外周部領域における圧力損失の上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を示す斜視図である。
【図2】ハニカム構造体の一方の端面の一実施形態を示す一部拡大模式図である。
【図3】ハニカム構造体の一方の端面のセル近傍の拡大模式図である。
【図4】遷移領域が形成されたハニカム構造体の一方の端面の一部拡大模式図である。
【図5】径方向において、遷移領域のセルピッチが変化する実施形態を示す一部拡大模式図である。
【図6】径方向において、遷移領域のセルピッチ及び隔壁の厚さが変化する実施形態を示す一部拡大模式図である。
【図7】中心部領域、遷移領域、及び外周部領域が、同心状に形成されているハニカム構造体の一方の端面を示す一部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0019】
図1は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を示す斜視図であり、図2は図1に示すハニカム構造体における一方の端面Sの実施形態を示す一部拡大模式図である。図1及び図2に示すように、本実施形態のハニカム構造体10は、複数の隔壁1によって2つの端面S,S間を互いに並行して連通する複数のセル2が形成されている。そして、ハニカム構造体10は、セル2の連通する連通方向に垂直な面において、中心軸15を含む中心部領域11が第1の厚さを有する第1隔壁1aによって形成されている。また、中心部領域11の外側の外周部領域12が、第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する第2隔壁1bによって形成されている。さらに、外周部領域12の少なくとも一方向のセルピッチが中心部領域11のセルピッチよりも大きい。つまり、隔壁1の厚さが薄い中心部領域11は、セルピッチが狭く、隔壁1の厚さが厚い外周部領域12では、セルピッチが広い。また、中心部領域11のセル2が正方形セルであり、外周部領域12を構成するセル2が、中心部領域11を構成するセル2の1.00〜1.10倍の開口率を有する。
【0020】
図2は、端面Sの1/4を示した部分拡大模式図である。図2に示すように、中心部領域11は、中心軸15を含む領域で、セルピッチが外周部領域12よりも小さく、隔壁1の厚さも薄い。一方、外周部領域12は、少なくとも一方のセルピッチが中心部領域11のセルピッチよりも大きい。なお、図2の実施形態では、外周部領域12の他方のセルピッチは、中心部領域11のセルピッチと同じである。
【0021】
領域によって隔壁1の厚さを変えることにより、厚い第2隔壁1bにおいて熱容量が大となり、保温性が向上する。また、薄い第1隔壁1aにおいて熱容量が小となり、昇温性が向上する。つまり、本発明のハニカム構造体10をディーゼルエンジンの排気ガス浄化等に用いると、排ガスによる加熱時には薄い第1隔壁1aの部分が先に加熱され、ハニカム構造体10にコートされている触媒が速やかに活性温度に達する。また、厚い第2隔壁1bとの温度勾配が急峻となって、第2隔壁1bは排ガスからの受熱に加え厚さが薄い第1隔壁1aからの伝熱によって昇温が加速される。排ガス温度の低下時には、上記と反対の現象により、厚い第2隔壁1bの部分の冷却が遅れ、触媒活性温度域に達している時間を延長することが可能となる。また、セルピッチを変化させることにより、中心部領域11と外周部領域12とに、排ガスを均一に流通させることができ、圧力損失の上昇を抑えることができる。
【0022】
さらに、中心部領域11のセル2が正方形セルであり、外周部領域12を構成するセル2が、中心部領域11を構成するセル2の1.00〜1.10倍の開口率を有する。開口率は、1.00〜1.05倍であることがより好ましく、1.00〜1.02倍であることがさらに好ましい。図3は、ハニカム構造体10の一方の端面Sのセル2の近傍の拡大模式図である。開口率(Open Frontal Area)は、(セルピッチ−隔壁の厚さ)/セルピッチである。外周部領域12を構成するセル2が、中心部領域11を構成するセル2の1.00〜1.10倍の開口率であることから、排ガスが流通しにくい外周部領域12のセル2にも排ガスを十分流通させることができる。
【0023】
ハニカム構造体10は、中心部領域11と外周部領域12との間に、第1の厚さと第2の厚さの中間の厚さの中間隔壁1cによって形成された遷移領域13を有することが好ましい。図4に遷移領域13が形成されたハニカム構造体10の端面Sの一部拡大模式図を示す。遷移領域13の中間隔壁1cの厚さは、中心部領域11の隔壁1の厚さより厚く、外周部領域12の隔壁1の厚さより薄い。また、遷移領域13のセルピッチは、中心部領域11のセルピッチよりも大きく、外周部領域12のセルピッチよりも小さい。このような遷移領域13を設けることにより、熱移動が容易になる。中間隔壁1cを設けることにより、第2隔壁1bと第1隔壁1aとが直接接続していない。このため、境界におけるセル2の変形等の発生が防止され、強度が低下することがない。
【0024】
ハニカム構造体10が遷移領域13を有する場合には、外周部領域12及び遷移領域13の各領域を構成するセル2が、中心部領域11を構成するセル2の1.00〜1.10倍の開口率を有し、開口率の大きさが、中心部領域≦遷移領域≦外周部領域であることが好ましい。このような開口率を有することにより、外周部領域12や遷移領域13においても、排ガスの流通を妨げることがなく、これらの領域にも排ガスを流通させることができる。したがって、全体的に均一に排ガスを流通させることができる。これにより、圧力損失を低下させることができる。
【0025】
連通方向に垂直な面において、遷移領域13の面積は、面全体の0〜35%であることが好ましい。さらに好ましくは、5〜30%、最も好ましくは、5〜20%である。連通方向に垂直な面とは、端面Sまたは連通方向に垂直な断面である。また、中心部領域11の面積は、ハニカム構造体10の連通方向に垂直な面全体の35〜55%であり、外周部領域12の面積は、ハニカム構造体10の連通方向に垂直な面全体の15〜50%であることが好ましい。このような範囲に各領域を形成することにより、昇温性、保温性のバランスがよくなり、浄化効率が向上する。
【0026】
ハニカム構造体10の一般的な外径寸法は、100mm〜150mmであり、その場合、連通方向に垂直な面の径方向において、遷移領域13の幅13aは、3mm以上15mm以下であることが好ましい。遷移領域13の幅13aは、径方向において、遷移領域13の開始から終点までの最短距離であり、他領域との境界間の最短距離が、3mm以上15mm以下であることが好ましい。遷移領域の幅13aがこの範囲にあることにより、中心部領域11と外周部領域12との熱伝導が良好となり、昇温性、保温性のバランスがよくなり、浄化効率が向上する。なお、遷移領域13の四隅の他領域との境界は、図4に示す実施形態の他、階段状に形成してもよい。
【0027】
図5に、遷移領域13のセルピッチが変化する実施形態を示す。図5に示す実施形態では、遷移領域13のセルピッチが2段階に変化している。遷移領域13の幅によっては、セルピッチは、多段階に、または漸次直線的に若しくは非直線的に変化してもよい。また、遷移領域13内において、隔壁1の厚さは、外周部領域12側が中心部領域11側よりも厚くなるように多段階に、または漸次直線的に若しくは非直線的に変化してもよい。
【0028】
図6に、遷移領域13内においてセルピッチ及び隔壁1の厚さが変化する実施形態を示す。外周部領域12側のセル2は、中心部領域11側のセル2に比べ、セルピッチが大きく、隔壁1の厚さが厚くなっている。
【0029】
図7に、連通方向に垂直な面において、中心部領域11、遷移領域13、及び外周部領域12が、同心状に形成されているハニカム構造体の実施形態を示す。図7の実施形態では、同心円状として形成されている。また、同心状とは、同心円に限られず、四角形状や、その他の多角形状であってもよい。円状の場合、四角形状に比べ、中心部領域11と外周部領域12の浄化効率や圧損について均質的な効果が得られる。一方、四角形状の場合、円状に比べ、ハニカム構造体10を押出成形にて作製するときの口金の作製が容易である。
【0030】
以上のようなハニカム構造体10において、第2隔壁1bの第2の厚さは、100〜300μmが好ましい。100μm以上であれば、強度を十分なものとすることができる。300μm以下であれば、熱容量が高すぎず、速く昇温させることができる。これにより、浄化性能を向上させることができる。
【0031】
ハニカム構造体10の第1隔壁1aの第1の厚さは、第2隔壁の第2の厚さの20〜70%であることが好ましい。この範囲とすることにより、強度を十分なものとするとともに、速く昇温させることができる。これにより、浄化性能を向上させることができる。
【0032】
ハニカム構造体10の中間隔壁1cは、第2の厚さと第1の厚さの間の厚さを有する。中間隔壁1cは、第2の厚さと第1の厚さの間の厚さを有すれば、遷移領域内において、一定の厚さであってもよいし、領域内で変化してもよい。ただし、変化する場合は、中心部領域11側が薄く、外周部領域12側が厚く形成されなければならない。この場合、厚さは、段階的に変化してもよいし、連続的に変化してもよい。
【0033】
第1隔壁1a、第2隔壁1bの気孔率は、20〜70%であることが好ましい。より好ましくは、25〜55%である。気孔率をこの範囲とすることにより、昇温性と強度を良くすることができる。
【0034】
本実施の形態において、ハニカム構造体10を構成する隔壁1は、セラミックスを用いて構成されることが好ましく、コージェライト化原料、アルミナ、ムライト及びリチウムアルミノシリケート(LAS)、チタン酸アルミニウム、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、活性炭、ゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一種のセラミックスから構成されることがより好ましい。
【0035】
上述のいずれかに記載のハニカム構造体10(上記実施形態に限定されるわけではない)に触媒をコーティングすることにより触媒コートハニカム構造体を得ることができる。ここで、触媒としては、例えば、酸化触媒、NOx吸蔵還元触媒、SCR触媒等を挙げることができる。触媒コート量は、100〜300g/Lであることが好ましい。
【0036】
また、上述のいずれかに記載のハニカム構造体10又は上述の触媒コートハニカム構造体をフィルターの前段に設置した浄化装置として用いることができる。具体的には、本発明は、ディーゼル車の浄化装置のフィルターの前段に設置される、DOC(Diesel Oxidation Catalyst、ディーゼル用酸化触媒)用途のハニカムとして利用することができる。ディーゼル車の排ガス温度は低く、DOCに付いている触媒が有効に働かないということがある。それを改善する技術として、早期昇温、遅い降温を実現する技術が重要であるが、本発明のハニカム構造体10は、昇温しやすく、保温性も有する。また、ガソリン車に用いられる三元触媒でも、早期昇温、遅い降温を実現することができるため、ガソリン車の浄化装置として用いることにより、更なる排ガスクリーン化が実現可能である。
【0037】
次に本発明のハニカム構造体の製造方法について説明する。例えば、コージェライトのハニカム構造体10を得る場合には、焼成後にコージェライトとなるように、タルク、カオリン、アルミナ、シリカ等を所定の配合割合で調合し、バインダー、界面活性剤、水を加え、所定の配合割合で混合して坏土を得る。コージェライト化原料については、粒度、成分等は最終的には気孔率、熱膨脹率に影響するが、適宜、当業者であれば選定することが可能であり、また、バインダー、界面活性剤についても適宜設定することが可能である。得られた坏土を、押出成形機を用いて押出成形する。そして、押出成形されたハニカム構造体(ハニカム成形体)を焼成(1420〜1430℃、10〜30時間)することにより、本発明のハニカム構造体10を得ることができる。
【0038】
なお、本発明のハニカム構造体10となるハニカム成形体を、押出成形機を用いて押出成形するための口金は、例えば、研削加工によってスリット幅を所望の幅に形成することができる。また、隔壁1の厚さを段階的に変化させる場合は、放電加工などにより調整をすることができる。
【0039】
本発明のハニカム構造体10は、触媒をコートし、ハニカム触媒体とすることもできる。触媒としては、例えば、酸化触媒、NOx吸蔵還元触媒、SCR触媒、三元触媒等を挙げることができる。
【0040】
触媒は、例えば、三元触媒(ハニカム構造体に、白金(Pt)とロジウム(Rh)との割合(Pt:Rh)が、5:1〜3:1となるように調製された白金族金属を担持したγアルミナを含む触媒)を、触媒担持量が160〜290g/1000cmとなるように担持し、ハニカム触媒体を製造することができる。なお、担持した触媒の助触媒としては、セリウム(Ce)の酸化物(CeO)とジルコニウム(Zr)の酸化物(ZrO)を用いることができる。また、白金族金属担持量は1〜10g/1000cmとなるように担持した場合、触媒コート量は、50〜300g/1000cmであることが好ましい。50g/1000cm未満では、保温性と昇温性の向上効果を十分に得ることができない。300g/1000cmを超えると、触媒コートにより目詰まりしやすくなる。
【0041】
以上のように構成することにより、ハニカム構造体10(ハニカム触媒体)は、ディーゼル車やガソリン車等の浄化装置として用いると、エンジン始動時、中心部領域11は昇温性に優れ触媒活性温度にすぐ到達することが可能である。また、走行時は外周部領域12が保温性に優れているため、街中走行で頻繁に停止する時も触媒活性領域を維持することが可能である。従って、アイドリング後の運転始動時には、中心部領域11は極めて早く触媒活性温度に達し、外周部領域12は、比較的高温をアイドリング中も維持しているため、通常品に比較して極めて短時間で全ハニカム構造体での機能発揮ができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1〜17)
焼成後にコージェライトとなるように、タルク、カオリン、アルミナ、シリカ等を所定の配合割合で調合し、バインダー、界面活性剤、水を加え、所定の配合割合で混合して坏土を得た。コージェライト化原料については、粒度、成分等は最終的には気孔率、熱膨脹率に影響するが、適宜、当業者であれば選定することが可能であり、また、バインダー、界面活性剤についても適宜設定することが可能である。得られた坏土を、焼成後に表1に示すセル構造となるように乾燥、焼成段階での収縮率を考慮して、スリット幅を調整した口金を付けた押し出し成形機を用いて押し出し成形を行い、乾燥、焼成後に直径が143.8mmで長さが75mmのハニカム構造体10を作製した。
【0044】
なお、作製したハニカム構造体10の各領域は、次の方法で測定した。隔壁1の厚さが最も薄く、隔壁1の厚さが変わる境界までを中心部領域11とし、中心部領域11をノギスなどで測定した。中心部領域11の面積割合を、中心部領域の面積/全体の断面積で求めた。
【0045】
遷移領域13は、隔壁1の厚さが最も薄い値から中間の厚さに変わる境界から、隔壁1の厚さが最も厚くなる境界までをノギスなどで測定した。遷移領域13の面積割合を、遷移領域の面積/全体の断面積で求めた。
【0046】
外周部領域12は、隔壁1の厚さが中間の厚さから隔壁1の厚さが最も厚くなる境界から最外周までの境界をノギスなどで測定した。外周部領域12の面積割合は、外周部領域の面積/全体の断面積で求めた。
【0047】
(比較例1)
実施例と同様にして、すべての領域で隔壁1の厚さが同じ(中心部領域11と外周部領域12の隔壁の厚さが同じ)であるハニカム構造体10を作製した。
【0048】
(比較例2)
実施例と同様にして、遷移領域13を有さず、外周部領域12の開口率が中心部領域11の開口率より小さいハニカム構造体10を作製した。
【0049】
(比較例3)
実施例と同様にして、遷移領域13を有さず、外周部領域12の開口率が中心部領域11の開口率に対して1.15倍のハニカム構造体10を作製した。
【0050】
(比較例4)
外周部領域12における隔壁の厚さが、中心部領域11における隔壁の厚さよりも薄く、外周部領域12におけるセルピッチが中心部領域11におけるセルピッチよりも小さいハニカム構造体10を作製した。
【0051】
(比較例5)
外周部領域12の開口率が中心部領域11の開口率に対して0.79倍で、開口率の大きさが、中心部領域>遷移領域>外周部領域であるハニカム構造体10を作製した。
【0052】
(比較例6)
実施例と同様にして、外周部領域12の開口率が中心部領域11の開口率に対して0.97倍のハニカム構造体10を作製した。
【0053】
(比較例7)
実施例と同様にして、外周部領域12の開口率が中心部領域11の開口率に対して0.96倍のハニカム構造体10を作製した。
【0054】
(圧力損失の測定方法)
エンジン(8L/6気筒)を用いて試料(ハニカム構造体10)に排気ガスを通し、試料の前段および後段の排気ガス圧力を測定、圧力損失を算出した。表1に比較例1を基準とした圧力損失比を示す。圧力損失比(圧損比)が1より小さくなれば、比較例1に比べ、圧力損失が低下したことを示す。
【0055】
(浄化率測定方法)
得られたハニカム構造体について、排気量2.0Lのガソリンエンジンの排気管にキャニングした。排ガス規制モード(JC−08)走行時に、排気管と接続したパイプから、排ガスをサンプリングし、バッグと呼ばれる袋に貯めた後、走行終了後に、溜まった排ガスを分析計に通すことで、HCエミッションを測定した(JC−08の規定による)。浄化性能は、そのHCエミッションの逆数の比として求めた。表1に比較例1を基準とした浄化性能比を示す。浄化性能比が1より大きくなれば、比較例1に比べ、浄化性能が向上したことを示す。
【0056】
【表1】

【0057】
(結果)
実施例1,2は、遷移領域13を有していないが、外周部領域12の隔壁の厚さが厚く、セルピッチも大きいため、圧力損失が比較例1よりも低下し、浄化性能が向上した。遷移領域13を有する実施例3〜17のうち遷移領域が5〜30%である実施例5〜16は浄化性能比が向上し、圧損比もより好ましかった。遷移領域が5〜20%である実施例5〜13はさらに浄化性能比が向上し圧損比も向上した。そのうち遷移領域が10〜20%である実施例8〜13は浄化性能比が特によかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のハニカム構造体は、比較的排ガス温度が低いディーゼルエンジンの排気ガス浄化に特に有効であり、DPF前段用のハニカム構造体の他、排ガス中のNOx浄化のためのSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒用の基材、ディーゼル酸化触媒としても有効に利用することが可能である。また、比較的高温の排ガスとなるガソリンエンジンにおいても、排気対応としては有効に利用される。
【符号の説明】
【0059】
1:隔壁、1a:第1隔壁(薄壁)、1b:第2隔壁(厚壁)、1c:中間隔壁、2:セル、10:ハニカム構造体、11:中心部領域、12:外周部領域、13:遷移領域、13a:遷移領域の幅、15:中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の隔壁によって2つの端面間を互いに並行して連通する複数のセルが形成され、
前記セルの連通する連通方向に垂直な面において、中心軸を含む中心部領域が第1の厚さを有する第1隔壁によって形成され、
前記中心部領域の外側の外周部領域が、前記第1の厚さよりも厚い第2の厚さを有する第2隔壁によって形成され、
前記外周部領域の少なくとも一方向のセルピッチが前記中心部領域のセルピッチよりも大きく、
前記中心部領域の前記セルが正方形セルであり、前記外周部領域を構成する前記セルが、前記中心部領域を構成する前記セルの1.00〜1.10倍の開口率を有するハニカム構造体。
【請求項2】
前記中心部領域と前記外周部領域との間に、前記第1の厚さと前記第2の厚さの中間の厚さの中間隔壁によって形成された遷移領域を有し、
前記外周部領域及び前記遷移領域の各領域を構成する前記セルが、前記中心部領域を構成する前記セルの1.00〜1.10倍の開口率を有し、前記開口率の大きさが、中心部領域≦遷移領域≦外周部領域である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記連通方向に垂直な面において、前記遷移領域の面積は、面全体の5〜35%である請求項2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記連通方向に垂直な面において、前記中心部領域、前記遷移領域、及び前記外周部領域が、同心状に形成されている請求項2または3に記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200625(P2012−200625A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64877(P2011−64877)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】