説明

ハンチントン病の症状の治療のための3,11B−シス−ジヒドロテトラベナジンの使用

本発明は、患者におけるハンチントン病の1以上の症状、更に詳細には、不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動、並びに歩行悪化から選択される症状の進行を停止または遅らせるのに用いる3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、ハンチントン病の治療におけるジヒドロテトラベナジン(dihydrotetrabenazine)の使用に関する。
【0002】
発明の背景
以前はハンチントン舞踏病として知られるハンチントン病は、現在は不治の遺伝性神経変性疾患である。この疾患は、ハンチンチンと呼ばれるタンパク質の異常型を生成する染色体4pl6.3上に位置したIT15遺伝子におけるCAGトリヌクレオチド反復伸張(HD突然変異と呼ばれる)によって引き起こされる。この異常タンパク質は、多数の種類のニューロン内部の異常タンパク質のクランピングまたは凝集によると思われる脳の線条体領域におけるニューロンを死亡させる過程を誘発する。
【0003】
ハンチントン病(HD)遺伝子は、アミノ酸であるグルタミンをコードするヌクレオチドCAGの反復配列を含むDNAのセグメントを含んでなる。この遺伝子内のCAG反復数が30以下であれば、この遺伝子を有するヒトはHDに罹らないことが分かっている。しかしながら、CAG反復数が40を上回る遺伝子を有するヒトは、この疾患に罹る傾向がある。
【0004】
ハンチントン病は常染色体優性遺伝パターンを介して遺伝するので、HDに冒されている親のそれぞれの子供はその疾患を受け継ぐ50%の可能性がある。ハンチントン病の徴候は典型的には約30−50歳の年齢で現れ、この疾患は通常は10−25年間にわたって進行する。この疾患の特徴としては、個性の変化、鬱病、気分変動、不安定歩行、不随意舞踏病、単収縮性および痙動性運動および振顫、痴呆、不明瞭言語、判断障害、燕下困難、および酩酊外見が挙げられる。
【0005】
ヒトがハンチントン病の徴候を示すようになると、この疾患の経過はおよそ10−30年間継続する可能性がある。典型的には、HDの経過はおおよそ初期、中期および後期段階の3段階に分割することができる。
【0006】
初期段階では、この期の患者は未だ通常の活動のほとんどを行うことができる。患者は、未だ働くことができまた車を運転することもできる。患者は若干制御不能な運動、つまずきやぎこちなさ、集中力の欠如、短期記憶の中断および鬱病、並びに気分変動を見せることがあるが、不随意運動は比較的軽く、話し方は未だ明瞭であり、痴呆はあったとしても軽い。
【0007】
中期段階では、患者は更に無能化し、典型的には習慣的な日常活動の幾つかにも助けを必要とするようになる。転倒、体重減少および燕下困難がこの段階での問題となることがあり、痴呆は外来観察者に更に明瞭になる。更に、制御不能な運動が一層顕著になる。
【0008】
後期段階では、患者は、ほとんど総てに介護を必要とし、かつ多くは病院または介護施設で常時注意する必要がある点まで悪化する。この段階では、患者はもはや歩いたり話すことはできなくなることがあり、幾らかの不随意運動を見せることがあるが、一層硬直することがある。この段階の患者は、食物を燕解することができないことが多い。この段階では、ほとんどの患者は病識を喪失し、明らかに環境に注意しなくなる。患者が最終的に死亡すると、死亡の原因は、通常は栄養不良や肺炎のような他の極度に衰弱した患者を死に導くのと同じ自然な死亡原因に関連付けられる。
【0009】
国立衛生研究所(NIH)の一部門である米国国立神経疾患脳血管障害研究所(NINDS)によれば、ハンチントン病の経過を停止または逆行させる方法は現在はない。
【0010】
HDの治療法を開発するための試みが行われてきており、Karpuj et al, Nature Medicine, February 2002, vol.8, no.2, pp. 143-149による1つの研究は、シスタミンの投与を伴っていた。明らかに、シスタミンは、この疾患の原因であると考えられるハンチンチンタンパク質の凝集塊を生成するのを助ける酵素トランスグルタミナーゼを不活性化する。それにも拘わらず、本出願人らが知る限り、ハンチントン病の進行を治療しまたは抑えるのに一般に利用可能な医薬品は現在のところはない。
【0011】
ハンチントン病の原因となる遺伝子の発見(ハンチントン病共同研究グループによる報告, Cell, Vol. 72, March 26, 1993, p. 971参照)により、発現する遺伝子の突然変異型の存在についての診断試験が可能となった。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてIT−15遺伝子上のCAG反復数を検出する診断試験は、現在広く用いられており、患者がハンチントン病の徴候を発現するかどうかを予測することができる。例えば、M. Hayden et alの総説, Am. J. Hum. Genet. 55:606-617 (1994); S. Herschの報告,「神経遺伝学の精霊: ハンチントン病突然変異の試験(The Neurogenetics Genie: Testing for the Huntington's disease mutation)」 Neurol. 1994; 44:1369-1373、およびR. R. Brinkman et al.の報告(1997年)「特異的なCAGサイズについての特定年齢によるハンチントン病に罹患する可能性(The likelihood of being affected with Huntington disease by a particular age, for a specific CAG size)」, Am. J. Hum. Genet. 60:1202-1210を参照されたい。
【0012】
テトラベナジン(化学名: 1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−9,10−ジメトキシ−3−(2−メチルプロピル)−2H−ベンゾ(a)キノリジン−2−オン)が、1950年代後期から医薬品として用いられてきている。テトラベナジンは、当初は抗精神病薬として開発されたが、現在ではハンチントン病、片側バリスム、老人性舞踏病、チック、遅発性ジスキネジーおよびツレット症候群のような多動運動障害の対症療法に用いられている。例えば、Jankovic et al., Am. J. Psychiatry. (1999) Aug; 156(8): 1279-81およびJankovic et al, Neurology (1997) Feb; 48(2):358-62を参照されたい。
【0013】
テトラベナジンの主要な薬理作用は、ヒト小胞モノアミン輸送体アイソフォーム2 (hVMAT2)を阻害することによって中枢神経系におけるモノアミン(例えば、ドパミン、セロトニンおよびノルエピネフリン)の供給を減少させることである。この薬剤は、シナプス後のドパミン受容体も遮断する。
【0014】
テトラベナジンは様々な多動運動障害の治療に有効かつ安全な薬剤であり、局所神経遮断薬とは対照的に、遅発性ジスキネジーを引き起こすことは明らかにされていない。しかしながら、テトラベナジンは、鬱病、パーキンソニズム、眠気、神経質または不安、不眠症、および稀な場合には、神経弛緩薬性悪性症候群を引き起こすなど多数の用量関連副作用を示す。
【0015】
テトラベナジンの中心的効果はレセルピンのそれに極めて類似しているが、VMAT1輸送体での活性を欠いている点でレセルピンとは異なる。VMAT1輸送体での活性を欠いていることは、テトラベナジンがレセルピンより末梢活性が小さいので低血圧のようなVMAT1関連副作用を生じないことを意味している。
【0016】
テトラベナジンの化学構造は、下図1に示される通りである。
【化1】

図1 テトラベナジンの構造
【0017】
この化合物は3および11b位の炭素原子にキラル中心を有しており、従って、理論上、図2に示されるように総数で4個の異性体形態を示すことができる。
【化2】

図2 可能なテトラベナジン異性体
【0018】
図2では、それぞれの異性体の立体化学はCahn, Ingold and Prelogによって開発された「RおよびS」命名法を用いて定義されている。「Jerry Marchの最新有機化学(Advanced Organic Chemistry by Jerry March)」, 第4版, John Wiley & Sons, ニューヨーク, 1992年, 109-114頁を参照されたい。図2および本特許出願明細書の他の箇所において、「R」または「S」という名称は炭素原子の位置番号の順に付けられている。従って、例えばRSは3R,11bSの省略表記である。同様に、下記のジヒドロテトラベナジンのように3個のキラル中心が存在するときには、「R」または「S」という名称が炭素原子2、3および11bの順に付けられる。従って、2S,3R,11bR異性体は、略記形態ではSRRなどと呼ばれる。
【0019】
市販のテトラベナジンはRRおよびSS異性体の異性体混合物であり、RRおよびSS異性体(3および11b位の水素原子がトランス相対配向を有するので、以後個別的にまたは集合的にトランス−テトラベナジンと呼ぶ)が最も熱力学的に安定な異性体と思われる。
【0020】
テトラベナジンは、バイオアベイラビリティーが幾分乏しくかつ変化しやすい。これは初回通過代謝によって完全に代謝され、未変化テトラベナジンは典型的には尿中にほとんどまたは全く検出されない。主要代謝産物はテトラベナジンの2−ケト基の還元によって形成されるジヒドロテトラベナジン(化学名: 2−ヒドロキシ−3−(2−メチルプロピル)−1,3,4,6,7,11b−ヘキサヒドロ−9,10−ジメトキシ−ベンゾ(a)キノリジン)であり、この薬剤の活性に主として関与していると考えられる(Mehvar et al , Drug Metab. Disp, 15, 250-255 (1987)およびJ. Pharm. Sci., 76, No.6, 461-465 (1987)、およびRoberts et al, Eur. J. Clin. Pharmacol., 29:703-708 (1986)を参照されたい)。
【0021】
4個のジヒドロテトラベナジン異性体は以前に同定され、特性決定されており、それらの総ては親テトラベナジンの更に安定なRRおよびSS異性体から誘導され、3および11b位の水素原子がトランス相対配向である(Kilbourn et al,Chirality, 9:59-62 (1997)およびBrossi et al, Helv. Chim. Acta., vol. XLI, No. 193, pp1793-1806 (1958)を参照されたい)。4個の異性体は(+)−α−ジヒドロテトラベナジン、(−)−α−ジヒドロテトラベナジン、(+)−β−ジヒドロテトラベナジンおよび(−)−β−ジヒドロテトラベナジンである。4種類の既知のジヒドロテトラベナジン異性体の構造は、図3に示される通りであると考えられる。
【化3】

図3 ジヒドロテトラベナジンの既知異性体の構造
Kilbourn et al.(Eur. J. Pharmacol, 278:249-252 (1995)およびMed. Chem. Res., 5:113-126 (1994)参照)は、意識のあるラット脳における個々の放射能標識したジヒドロテトラベナジン異性体の特異的な結合を検討した。彼らは、(+)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン(2R,3R,11bR)異性体がニューロン膜ドパミン輸送体(DAT)および小胞モノアミン輸送体(VMAT2)が一層高濃度であることと関連した脳の領域に蓄積されることを見出した。しかしながら、本質的に不活性な(−)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン異性体は脳にほぼ均一に分布し、DATおよびVMAT2への特異的な結合が起こっていないことを示唆した。イン・ビボ研究はイン・ビトロ研究と相関し、(+)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン異性体は、(−)−α−[11C]ジヒドロテトラベナジン異性体のKより>2000倍高い[H]メトキシテトラベナジンのkiを示すことを明らかにした。
【0022】
国際特許出願PCT/GB2005/000464号(WO 2005/077946号)には、テトラベナジンの不安定なRSおよびSR異性体(3および11b位の水素原子はシス相対配向を有するので、以後個別的にまたは集合的にシス−テトラベナジンと呼ぶ)から誘導される医薬ジヒドロテトラベナジン異性体の調製および使用が開示されている。
【0023】
発明の概要
本発明者らの先の出願であるPCT/GB2005/000464号に記載のシス−ジヒドロテトラベナジンは、ハンチントン病の症状の少なくとも幾つかの発現を阻止しまたは遅らせる能力を有することを見出した。更に詳細には、ハンチントン病に関連する歩行の低化および不随意運動(例えば、振顫および単収縮)の増加は、本発明のシス−ジヒドロテトラベナジンの投与によって阻止しまたはかなり遅らせることができることを見出した。
【0024】
従って、第一の態様では、本発明は、ハンチントン病の1以上の症状、更に詳細には、不随意舞踏病、振顫(tremors)および単収縮(twitches)のような不随意運動、並びに歩行の悪化から選択される症状の進行を停止させまたは遅らせるのに用いる3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンを提供する。
【0025】
もう一つの態様では、本発明は、ハンチントン病の1以上の症状、更に詳細には、不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動、並びに歩行の悪化から選択される症状の進行を停止させまたは遅らせる医薬を製造するための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの使用を提供する。
【0026】
更にもう一つの態様では、本発明は、ハンチントン病の治療を必要とする患者におけるハンチントン病の1以上の症状、更に詳細には不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動、並びに歩行悪化から選択される症状の進行を停止させるまたは遅らせる方法であって、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの有効治療量の投与を含んでなる方法を提供する。
【0027】
診断試験は、個人が突然変異ハンチントン病遺伝子を有しているかどうかを決定するのに現在利用可能である。この突然変異遺伝子を有するヒトはほとんど必ずハンチントン病を発現するので、恐らくこの疾患を発現する一生の期間中にこの疾患の発症または発現を防止し、阻止しまたは遅らせることができれば有利である。
【0028】
従って、本発明のもう一つの態様では、ハンチントン病に関連する突然変異遺伝子を有することが確認された患者の予防的治療法であって、患者に上記に定義した通りのシス−ジヒドロテトラベナジンをこの疾患の発症または進行を防止または遅らせるのに有効な量で投与することを含んでなる方法が提供される。
【0029】
本発明のもう一つの態様では、ハンチントン病に関連する突然変異体遺伝子を有することが確認された患者の予防的治療法であって、患者に上記に定義した通りのシス−ジヒドロテトラベナジンをこの疾患の無症状進行を防止または遅らせるのに有効な量で投与することを含んでなる方法が提供される。無症状(sub−clinical)進行とは、生化学的検討またはコンピューター連動断層撮影法または磁気共鳴画像法(MRI)のような走査手法を用いる検討に対してこの疾患の症状が臨床的に明らかになる前のこの疾患の発現を意味する。
【0030】
例えば、シス−ジヒドロテトラベナジンは、15−50歳、例えば、20−50歳または25−50歳または30−50歳の年齢のヒトであって、HD遺伝子の突然変異型を有するが、未だその疾患の症状を発現していないヒトに予防的に投与することができる。
【0031】
本願明細書において、ハンチントン病遺伝子の突然変異型または類似表現は、IT−15遺伝子上のCAG反復数が少なくとも35であり、更に典型的には少なくとも40であり、例えば少なくとも45または少なくとも50である遺伝子の型を意味する。幾つかの場合には、CAG反復数が極めて高くなることがあり(例えば、70以上)、このような大きなCAG反復数の遺伝子の突然変異型を有するヒトはこの疾患の若年発症型を発現すると思われる。
【0032】
従って、もう一つの態様では、シス−ジヒドロテトラベナジンを、試験を行ってCAG反復数が60を上回り、更に詳細には少なくとも65であり、好ましくは70以上であるIT−15遺伝子の突然変異型を有することが見出された30歳未満の年齢、例えば10−29歳、更に典型的には15−29歳または20−29歳の年齢のヒトに予防的に投与することができる。
【0033】
本発明で用いられるシス−ジヒドロテトラベナジンは、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンである。
【0034】
本発明で用いられる3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンは、実質的に純粋な形態、例えば異性体純度が90%を上回り、典型的には95%を上回り、更に好ましくは98%を上回ることがある。
【0035】
本発明における「異性体純度」という用語は、ジヒドロテトラベナジンの総ての異性体形態の総量または濃度に対して存在する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの量を意味する。例えば、組成物中に含まれる総ジヒドロテトラベナジンの90%が3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンであれば、異性体純度は90%である。
【0036】
本発明で用いられる11b−シス−ジヒドロテトラベナジンは、3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジンを実質的に含まない、好ましくは5%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジン、更に好ましくは3%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジン、最も好ましくは1%未満の3,11b−トランス−ジヒドロテトラベナジンを含む組成物の形態であることができる。
【0037】
本明細書で用いられる「3,11b−シス」という用語は、ジヒドロテトラベナジン構造の3−および11b−位の水素原子がシス相対配向であることを意味している。従って、本発明の異性体は、式(I)の化合物およびその対掌体(鏡像)である。
【化4】

【0038】
3,11b−シス配置を有するジヒドロテトラベナジンには4個の異性体の可能性があり、これらは2S,3S,11bR異性体、2R,3R,11bS異性体、2R,3S,11bR異性体および2S,3R,11bS異性体である。これら4個の異性体は単離されて特性決定されており、もう一つの態様では、本発明は3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの個々の異性体を提供する。詳細には、本発明は、
(a) 式(Ia)
【化5】

を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2S,3S,11bR異性体、
(b) 式(Ib)
【化6】

を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2R,3R,11bS異性体、
(c) 式(Ic)
【化7】

を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bR異性体、および
(d) 式(Id)
【化8】

を有する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bS異性体
を提供する。
【0039】
本発明の個々の異性体は、それらの分光学的、光学的およびクロマトグラフィー特性によって、またX線結晶学によって決定されるそれらの絶対立体化学配置によっても特性決定することができる。
【0040】
好ましい異性体は、右旋性(+)異性体である。
【0041】
特に好ましい異性体は、異性体(Ia)、すなわち3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの2S,3S,11bR異性体である。
【0042】
何ら特定の絶対配置または立体化学を含むことなく、4種類の新規異性体は下記のように特性決定することができる。
異性体A
ORD(メタノール, 21℃)によって測定した光学活性: 左旋性(−)
IRスペクトル(KBr 固体)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表1に記載した通り。
【0043】
異性体B
ORD(メタノール, 21℃)によって測定した光学活性: 右旋性(+)
IRスペクトル(KBr 固体)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表1に記載した通りであり、およびX線結晶学的特性は実施例4に記載した通り。
【0044】
異性体C
ORD(メタノール, 21℃)によって測定した光学活性: 右旋性(+)
IRスペクトル(KBr 固体)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表2に記載した通り。
【0045】
異性体D
ORD(メタノール, 21℃)によって測定した光学活性: 左旋性(−)
IRスペクトル(KBr 固体)、H−NMRスペクトル(CDCl)および13C−NMRスペクトル(CDCl)は実質的に表2に記載した通り。
【0046】
それぞれの異性体についてのORD値は下記の実施例に示されているが、それらの値は例として挙げられており、異性体の純度や温度変動および残留溶媒分子の影響のような他の変量の影響によって変化することがあることが注目される。
【0047】
鏡像異性体A、B、CおよびDは、それぞれ実質的に鏡像異性体的に純粋な形態でまたは本発明の他の鏡像異性体との混合物として存在することができる。
【0048】
本発明に関連して「鏡像異性体純度」および「鏡像異性体的に純粋な」という用語は、ジヒドロテトラベナジンの総ての鏡像異性体および異性体の形態の総量または濃度に対して存在する3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの所定の鏡像異性体の量を意味する。例えば、組成物に含まれる総ジヒドロテトラベナジンの90%が単一の鏡像異性体の形態であるときには、この鏡像異性体の純度は90%である。
【0049】
一例として、本発明のそれぞれの態様および実施態様では、異性体A、B、CおよびDから選択される個々の鏡像異性体は、少なくとも55%(例えば、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、99.5%または100%)の鏡像異性体純度で存在することができる。
【0050】
本発明の異性体は、異性体A、B、CおよびDの1以上の混合物の形態で存在することもできる。このような混合物は、ラセミ混合物または非ラセミ混合物であってもよい。ラセミ混合物の例としては、異性体Aと異性体Bのラセミ混合物および異性体Cと異性体Dのラセミ混合物が挙げられる。
【0051】
薬学上許容可能な塩
特に断らない限り、本出願明細書におけるジヒドロテトラベナジンおよびその異性体という表現は、その範囲内にジヒドロテトラベナジンの遊離塩基だけでなくその塩、詳細には酸付加塩も包含する。
【0052】
酸付加塩が形成される特定の酸としては、pKa値が3.5未満、更に通常は3未満である酸が挙げられる。例えば、酸付加塩は、pKaが+3.5〜−3.5の範囲である酸から形成することができる。
【0053】
好ましい酸付加塩としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸およびナフタレンスルホン酸等のスルホン酸を用いて形成されるものが挙げられる。
【0054】
酸付加塩を形成することができる1つの特定の酸は、メタンスルホン酸である。
【0055】
酸付加塩は、本明細書に記載の方法または「医薬品塩: 特性、選択および使用(Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use)」, P. Heinrich Stahl (編集者), Camille G. Wermuth (編集者), ISBN: 3-90639-026-8, Hardcover, 388頁, 2002年8月に記載されているような通常の化学的方法によって調製することができる。一般的には、このような塩は、この化合物の遊離塩基形態を適当な塩基または酸と水中または有機溶媒中で、またはこれら2種類の混合物中で反応させることによって調製することができ、一般的にはエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリル等の非水溶媒が用いられる。
【0056】
これらの塩は、典型的には薬学上許容可能な塩である。しかしながら、薬学上許容可能でない塩を中間形態として調製し、次いでこれを薬学上許容可能な塩に転換することもできる。このような薬学上許容可能でない塩形態も、本発明の一部を形成する。
【0057】
ジヒドロテトラベナジン異性体の調製方法
本発明のジヒドロテトラベナジンは、式(II)
【化9】

の化合物を、式(II)の化合物における2,3−二重結合の水和に適している試薬または試薬類と反応させた後、必要ならば所望のジヒドロテトラベナジン異性体形態を分離して単離することを含んでなる方法によって調製することができる。
【0058】
2,3−二重結合の水和は、ジボランまたはボラン−エーテル(例えば、ボラン−テトラヒドロフラン(THF))のようなボラン試薬を用いるヒドロホウ素化によって中間体アルキルボラン付加物を得た後、アルキルボラン付加物の酸化および塩基の存在下での加水分解によって行うことができる。ヒドロホウ素化は、典型的にはエーテル(例えば、THF)のような乾燥した極性の非プロトン性溶媒中で非高温、例えば室温で行われる。ボラン−アルケン付加物は、典型的には水酸化アンモニウムまたはアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムのような水酸化物イオンの供給源を提供する塩基の存在下にて過酸化水素のような酸化剤で酸化される。方法Aの反応をヒドロホウ素化−酸化−加水分解の順序で行うことによって、典型的には2−および3−位の水素原子がトランス相対配向を有するジヒドロテトラベナジン異性体が得られる。
【0059】
式(II)の化合物は、テトラベナジンを還元してジヒドロテトラベナジンを得た後、このジヒドロテトラベナジンの脱水によって調製することができる。テトラベナジンの還元は、水素化アルミニウムリチウムのような水素化アルミニウム試薬、または水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムまたは水素化ホウ素誘導体、例えばトリ第二ブチル水素化ホウ素リチウムのようなアルキル水素化ホウ素などの水素化ホウ素試薬を用いて行うことができる。あるいは、還元工程を、例えばラネーニッケルまたは酸化白金触媒上での接触水素化を用いて行うことができる。還元工程を行うのに適する条件は、下記に更に詳細に説明しており、または米国特許第2,843,591号明細書(Hoffmann-La Roche)およびBrossi et al, Helv. Chim. Acta., vol. XLI, No. 193, ppl793-1806 (1958)に見出すことができる。
【0060】
還元反応の出発材料として用いられるテトラベナジンは、典型的にはRRとSS異性体の混合物(すなわち、トランス−テトラベナジン)であるので、還元工程によって形成されたジヒドロテトラベナジンは3および11b位について同じトランス配置を有し、上記図3に示されている既知のジヒドロテトラベナジン異性体の1以上の形態をとる。従って、方法Aは、ジヒドロテトラベナジンの既知異性体をとり、それらを脱水してアルケン(II)を形成した後、本発明の求める新規なシスジヒドロテトラベナジン異性体を生じる条件を用いてアルケン(II)を「再水和する」ことを含むことがある。
【0061】
ジヒドロテトラベナジンのアルケン(II)への脱水は、アルコールを脱水してアルケンを形成するための様々な標準的条件を用いて行うことができ、例えばJ. March (上記引用), 389−390頁およびそこに引用されている文献を参照されたい。このような条件の例としては、ハロゲン化リンまたはオキシハロゲン化リンのようなリンを基剤とする脱水剤、例えばPOClおよびPClの使用が挙げられる。直接脱水法に代わるものとしては、ジヒドロテトラベナジンのヒドロキシル基をハロゲン(例えば、塩素または臭素)のような脱離基Lに転換した後、H−Lを除去するための条件(例えば、塩基の存在)に付することができる。ヒドロキシル基のハロゲン化物への転換は、熟練化学者には周知の方法を用いて、例えばトリフェニルホスフィンまたはトリブチルホスフィンのようなトリアルキルまたはトリアリールホスフィンの存在下で四塩化炭素または四臭化炭素と反応させることによって行うことができる。
【0062】
ジヒドロテトラベナジンを得る還元のための出発材料として用いられるテトラベナジンは、商業的に得ることができ、または米国特許第2,830,993号(Hoffmann-La Roche)に記載の方法によって合成することができる。
【0063】
本発明のジヒドロテトラベナジンを調製するためのもう一つの方法(方法B)は、式(III)
【化10】

の化合物を、式(III)の化合物における2,3−エポキシド基を開環する条件に付した後、必要ならば所望のジヒドロテトラベナジン異性体形態を分離して単離することを含んでなる。
【0064】
開環は、エポキシド開環の既知の方法によって行うことができる。しかしながら、エポキシドの開環の現在好ましい方法は、ボラン−THFのような還元剤を用いて行うことができる還元的開環である。ボラン−THFとの反応は、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン)のような極性の非プロトン性溶媒中で通常は周囲温度で行い、このようにして生成したボラン複合体を次に水と塩基の存在下にて溶媒の還流温度で加熱することによって加水分解することができる。方法Bは、典型的には2−および3−位の水素原子がシス相対配向を有するジヒドロテトラベナジン異性体を生じさせる。
【0065】
式(III)のエポキシド化合物は、上記式(II)のアルケンエポキシ化によって調製することができる。エポキシ化反応は、熟練化学者には周知の条件および試薬を用いて行うことができ、例えばJ. March (上記引用), 826-829頁およびそこに引用されている文献を参照されたい。典型的には、メタクロロ過安息香酸(MCPBA)のような過酸または過酸と過塩素酸のような別の酸化剤との混合物を用いて、エポキシ化を行うことができる。
【0066】
上記方法AおよびBの出発材料が鏡像異性体の混合物であるときには、これらの方法の生成物は典型的には鏡像異性体の対、例えば、可能であれば、ジアステレオ異性体不純物とのラセミ混合物となる。好ましくないジアステレオ異性体はクロマトグラフィー(例えば、HPLC)のような手法によって除去することができ、個々の鏡像異性体は熟練化学者に知られている様々な方法によって分離することができる。例えば、それらは
(i) キラルクロマトグラフィー(キラル支持体上でのクロマトグラフィー)、または
(ii) 光学的に純粋なキラル酸と塩を形成し、2種類のジアステレオ異性体の塩を分別結晶によって分離した後、その塩からジヒドロテトラベナジンを放出すること、または
(iii) 光学的に純粋なキラル誘導剤(例えば、エステル化剤)を用いて誘導体(例えば、エステル)を形成し、生成されるエピマーを(例えば、クロマトグラフィーによって)分離した後、この誘導体をジヒドロテトラベナジンに転換すること
によって分離することができる。
【0067】
方法AおよびBのそれぞれから得られる鏡像異性体の対を分離する1つの方法であって、特に有効であることが見出された方法は、ジヒドロテトラベナジンのヒドロキシル基をモッシャーの酸(Mosher’s acid)の光学活性形態、例えば下記に示されるR(+)異性体
【化11】

またはその活性形態でエステル化することである。
【0068】
ジヒドロベナジンの2つの鏡像異性体の生成されるエステルはクロマトグラフィー(例えば、HPLC)によって分離することができ、分離したエステルをメタノールのような極性溶媒中でアルカリ金属水酸化物(例えば、NaOH)のような塩基を用いて加水分解して個々のジヒドロベナジン異性体を得ることができる。
【0069】
方法AおよびBにおいて出発材料として鏡像異性体の混合物を用いた後、続いて鏡像異性体を分離する方法の代替法として、方法AおよびBをそれぞれ単一の鏡像異性体出発材料について行うことで単一鏡像異性体が優勢である生成物を生じることができる。アルケン(II)の単一鏡像異性体は、RR/SSテトラベナジンにトリ第二ブチル水素化ホウ素リチウムを用いて立体選択的還元を行ってジヒドロテトラベナジンのSRRおよびRSS鏡像異性体の混合物を得て、鏡像異性体を(例えば、分別結晶によって)分離した後、ジヒドロテトラベナジンの分離した単一鏡像異性体を脱水し、式(II)の化合物の単一鏡像異性体を優勢にまたは独占的に得ることによって調製することができる。
【0070】
方法AおよびBを、それぞれスキーム1および2で更に詳細に説明する。
【化12】

【0071】
スキーム1は、2−および3−位に結合している水素原子がトランス相対配向で配列されている2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS配置を有する個々のジヒドロテトラベナジン異性体の調製を示す。この反応スキームは、上記で定義した工程Aを包含する。
【0072】
スキーム1における反応の順序についての出発点は、テトラベナジンのRRおよびSS光学異性体のラセミ混合物である市販のテトラベナジン(IV)である。RRおよびSS異性体のそれぞれにおいて、3−および11b−位の水素原子はトランス相対配向に配列されている。市販の化合物を用いる代わりに、テトラベナジンを米国特許第2,830,993号に記載の手順に従って合成することができる(詳細には、実施例11を参照)。
【0073】
RRおよびSSテトラベナジンのラセミ混合物を水素化ホウ素還元剤トリ第二ブチル水素化ホウ素リチウム(「L−セレクトリド」)を用いて還元すると、ジヒドロテトラベナジンの既知の2S,3R,11bRおよび2R,3S,11bS異性体(V)の混合物が得られるが、便宜上2S,3R,11bR異性体のみが示されている。水素化ホウ素ナトリウムよりも立体的要求の厳しいL−セレクトリドを水素化ホウ素還元剤として用いることによって、ジヒドロテトラベナジンのRRRおよびSSS異性体の形成は最小限になるかまたは抑制される。
【0074】
ジヒドロテトラベナジン異性体(V)を、塩素化炭化水素(例えば、クロロホルムまたはジクロロメタン、好ましくはジクロロメタン)のような非プロトン性溶媒中で五塩化リンのような脱水剤と反応させて、不飽和化合物(II)を鏡像異性体の対として形成させるが、スキームにはそのR−鏡像異性体のみが示されている。脱水反応は、典型的には室温より低い温度、例えば約0−5℃で行われる。
【0075】
次に、不飽和化合物(II)を立体選択的再水和に供し、ジヒドロテトラベナジン(VI)およびその鏡像または対掌体(図示せず)であって、3−および11b−位の水素原子がシス相対配向に配列されており、かつ2−および3−位の水素原子がトランス相対配向に配列されているものを生成する。立体選択的再水和は、テトラヒドロフラン(THF)中でボラン−THFを用いるヒドロホウ素化手順によって行って中間体ボラン複合体(図示せず)を形成させた後、水酸化ナトリウムのような塩基の存在下にて過酸化水素で酸化する。
【0076】
次に、最初の精製工程を(例えば、HPLCによって)行って、再水和反応順序の生成物(V)を2S,3S,11bRおよび2R,3R,11bS異性体の混合物として得ることができるが、工程図には2S,3S,11bR異性体のみが示されている。異性体を分離するため、混合物をジクロロメタン中で塩化オキサリルおよびジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下でR(+)モッシャーの酸で処理して、ジアステレオ異性体エステル(VII)の対(1個のジアステレオ異性体のみが示されている)を得て、これを次にHPLCを用いて分離することができる。次いで、個々のエステルを水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解して、単一異性体(VI)を得ることができる。
【0077】
スキーム1に示されている工程の順序の変形では、RR/SSテトラベナジンの還元の後に生成するジヒドロテトラベナジン(V)の鏡像異性体の混合物を分離して、個々の鏡像異性体を得ることができる。分離は、(+)または(−)カンファースルホン酸のようなキラル酸で塩を形成し、生成されたジアステレオ異性体を分別結晶によって分離し、単一鏡像異性体の塩を得た後、その塩から遊離塩基を取り出すことによって行うことができる。
【0078】
分離したジヒドロテトラベナジン鏡像異性体を脱水して、アルケン(II)の単一鏡像異性体を得ることができる。次いで、アルケン(II)の再水和により、シス−ジヒドロテトラベナジン(VI)の単一鏡像異性体が優勢にまたは独占的に得られる。この変形の利点は、モッシャーの酸のエステルの形成を含まないので、モッシャーの酸のエステルを分離するのに典型的に用いられるクロマトグラフィー分離を行う必要がないことである。
【0079】
スキーム2は、2−および3−位に結合した水素原子がシス相対配向で配列されている2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS配置を有する個々のジヒドロテトラベナジン異性体の調製を示している。この反応スキームは、上記で定義した工程Bを含む。
【化13】

【0080】
スキーム2において、不飽和化合物(II)をテトラベナジンを還元して生成させてジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bRおよび2R,3S,11bS異性体(V)を得て、スキーム1に上記した方法でPClを用いて脱水する。しかしながら、化合物(II)をヒドロホウ素化に供す代わりに、2,3−二重結合をメタクロロ過安息香酸(MCPBA)と過塩素酸と反応させることによってエポキシドに転換する。エポキシ化反応は、メタノールのようなアルコール溶媒中で、典型的には室温附近で好都合に行われる。
【0081】
次に、エポキシド(VII)に、ボラン−THFを親電子性還元剤として用いて還元的開環を行って中間体ボラン複合体(図示せず)を得て、これを次に水酸化ナトリウムのようなアルカリの存在下にて過酸化水素で酸化して開裂させ、ジヒドロテトラベナジン(VIII)を2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS異性体の混合物として得ることができるが、便宜上2R,3S,11bRのみが示されている。異性体(VIII)の混合物をジクロロメタン中で塩化オキサリルとジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下にてR(+)モッシャーの酸で処理すると、エピマーエステル(IX)の対(スキームには、1つのエピマーのみが示されている)が得られ、これを次にクロマトグラフィーによって分離し、スキーム1に関して上記した方法でメタノール中にて水酸化ナトリウムで加水分解することができる。
【0082】
生物学的特性および治療用途
テトラベナジンは、脳における小胞モノアミン輸送体VMAT2を阻害し、かつシナプス前およびシナプス後のドパミン受容体を両方とも阻害することによってその治療効果を発揮する。
【0083】
本発明の新規なジヒドロテトラベナジン異性体もVMAT2の阻害薬であり、異性体CおよびBは高度の阻害を生じさせる。テトラベナジンと同様に、本発明の化合物は、末梢組織および幾つかの内分泌細胞に見られるVMATアイソフォームであるVMAT1に対する親和性は極めて低いので、それらはレセルピンに関連した副作用を生じないことを示唆している。化合物CおよびBは、カテコールO−メチルトランスフェラーゼ(COMT)、モノアミンオキシダーゼアイソフォームAおよびB、並びに5−ヒドロキシトリプタミンアイソフォーム1dおよび1bに対しても阻害活性を示さない。
【0084】
意外なことには、異性体CおよびBはまた、VMAT2との結合に極めて活性であるにも拘わらず、これらの化合物はドパミン受容体結合活性がごく弱いかまたは全くなくかつドパミン輸送体(DAT)結合活性を欠いている点で、VAMT2とドパミン受容体活性の顕著な分離を示す。実際に、これらの異性体のいずれも、有意なDAT結合活性を示さない。このことは、これらの化合物が、テトラベナジンによって生じるドパミン作動性の副作用を欠く可能性があることを示唆している。異性体CおよびBはまた、アドレナリン作動性受容体の阻害薬としての活性が弱いかまたは不活性であり、これは、これらの化合物がテトラベナジンで頻繁に見られるアドレナリン作動性の副作用を欠く可能性があることを示唆している。実際に、ラットで行った運動試験では、テトラベナジンは用量関連鎮静作用を示したが、本発明のジヒドロテトラベナジン異性体BおよびCの投与後には鎮静作用は見られなかった。
【0085】
更に、異性体Cおよび異性体Bはいずれも、セロトニン輸送体タンパク質SERTの強力な阻害薬である。SERTの阻害は、フルオキセチン(Prozac(登録商標))のような抗鬱薬がその治療効果を発揮する1つの機構である。従って、異性体CおよびBがSERTを阻害する能力は、これらの異性体は抗鬱薬として作用することがあり、鬱病がよく知られている副作用であるテトラベナジンと顕著な対比を示している。
【0086】
異性体Bをハンチントン病のトランスジェニックマウスモデルで試験し、不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動、並びに歩行の低化などのハンチントン病の多くの症状の進行を阻止することが示された。これまでに行った検討に基づいて、本発明のシス−ジヒドロテトラベナジン化合物はハンチントン病の治療、特にこの疾患の進行を阻止し、もしくは遅らせること、またはこの疾患の発現を防止するための予防的方法での使用、に有用となることが考えられる。
【0087】
これらの化合物は、一般にその投与を必要としている対象、例えばヒトまたは動物患者、好ましくはヒトに投与される。
【0088】
これらの化合物は、典型的には治療上または予防上有用でありかつ通常は毒性がない量で投与される。しかしながら、ある状況では、本発明のジヒドロテトラベナジン化合物の投与の利益があらゆる毒性作用または副作用の不利益に優ることがあり、このような場合には、化合物をある程度の毒性と関連した量で投与することが望ましいと考えられる。
【0089】
化合物の局所日量は1000mg/日までとすることができ、例えば0.01mg〜10mg/kg体重、より普通には0.025mg〜5mg/kg体重、例えば3mg/kg体重まで、更に典型的には0.15mg〜5mg/kg体重の範囲とすることができるが、必要であれば、更に高いまたは低い用量を投与することができる。
【0090】
一例として、12.5mgの初期開始用量を、1日に2〜3回投与することができる。投薬量は、医師によって決定されたように個体について最大許容および有効用量に達するまで、3〜5日毎に12.5mg/日ずつ増加させることができる。最後には、投与される化合物の量は、治療を行う疾患の性質または生理学的条件および治療利益、および所定の投薬養生法によって生じる副作用の有無に見合った、医師の裁量によるものである。
【0091】
医薬処方物
ジヒドロテトラベナジン化合物は、典型的には医薬組成物の形態で投与される。
【0092】
医薬組成物は、経口、非経口、局所、鼻内、気管支内、眼、耳、直腸、膣内、または経皮投与に適する任意の形態とすることができる。組成物を非経口投与使用とする場合には、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下投与用に、または注射、輸液または他の送達手段によって標的器官または組織へ直接送達する目的で処方することができる。
【0093】
経口投与に適する医薬の剤形としては、錠剤、カプセル、キャブレッツ、ピル、ロゼンジ、シロップ、溶液、スプレー、散剤、顆粒、エリキシルおよび懸濁液、舌下錠、スプレー、カシェ剤、またはパッチおよびバッカルパッチが挙げられる。
【0094】
本発明のジヒドロテトラベナジン化合物を含有する医薬組成物は、既知手法によって処方することができ、例えば「レミントン薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」, Mack Publishing Company, イーストン, ペンシルバニア, 米国を参照されたい。
【0095】
例えば、錠剤組成物は、単位投薬量の活性化合物を、糖または糖アルコール、例えば、ラクトース、スクロース、ソルビトールまたはマンニトールのような不活性希釈剤またはキャリヤー、および/または炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウムのような糖以外から誘導した希釈剤、またはメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トウモロコシ澱粉のような澱粉などのセルロースまたはその誘導体と共に含むことができる。錠剤は、ポリビニルピロリドンのような結合および造粒剤、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースのような膨潤性の架橋ポリマー)、滑沢剤(例えば、ステアレート)、防腐剤(例えば、パラベン)、酸化防止剤(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、リン酸またはクエン酸緩衝剤)、クエン酸/重炭酸塩混合物のような起泡剤などの標準的成分を含むこともできる。このような賦形剤は周知であり、本明細書で詳細に説明する必要はない。
【0096】
カプセル処方物は硬質ゼラチンまたは軟質ゼラチンの種類であることがあり、活性成分を固体、半固体または液体形態で含むことができる。ゼラチンカプセルは、動物ゼラチンまたはその合成または植物由来の同等なものから形成することができる。
【0097】
固体剤形(例えば、錠剤、カプセルなど)はコーティングを行ってもよく、またはコーティングを行わなくてもよいが、典型的にはコーティング、例えば保護フィルムコーティング(例えば、ワックスまたはワニス)または放出制御コーティングを有する。コーティング(例えば、Eudragit(登録商標)型ポリマー)は、消化管内の所望な部位で活性成分を放出するようにデザインすることができる。従って、コーティングは、消化管内の一定のpH条件下で崩壊させることによって化合物を胃、または回腸、または十二指腸に選択的に放出するように選択することができる。
【0098】
コーティングの代わりに、または加えて、薬剤は、放出制御剤、例えば消化管での変化する酸性またはアルカリ性の条件下で化合物を選択的に放出するのに適合させることができる放出遅延剤、を含んでなる固体マトリックスで提示することができる。あるいは、マトリックス材料または放出遅延コーティングは、剤形が消化管を通過するときに実質的に連続的に侵食される侵食性ポリマー(例えば、無水マレイン酸ポリマー)の形態をとることができる。
【0099】
局所使用の組成物としては、軟膏、クリーム、スプレー、パッチ、ゲル、液滴およびインサート(例えば、眼内インサート)が挙げられる。このような組成物は、既知の方法によって処方することができる。
【0100】
非経口投与用の組成物は、典型的には滅菌水性または油性溶液または微細懸濁液として提示され、または注射用滅菌水でその場で作製するための細かく分割された滅菌粉末形態で提供することができる。
【0101】
直腸または膣内投与用の処方物の例としては、例えば、活性化合物を含む成形可能なまたはワキシー材料から形成することができる膣座薬または座薬が挙げられる。
【0102】
吸入投与用の組成物は、吸入可能な粉末組成物または液体もしくは粉末スプレーの形態をとることができ、粉末吸入装置またはエアゾール調剤装置を用いて標準的形態で投与することができる。このような装置は周知である。吸入による投与には、粉末化処方物は、典型的には活性化合物をラクトースのような不活性固体の粉末化希釈剤と共に含んでなる。
【0103】
本発明の化合物は一般的には単位剤形で提示され、それ自体は所望なレベルの生物学的活性を提供するのに十分な化合物を含む。例えば、経口投与を目的とする処方物は、活性成分を2mg〜200mg、より普通には10mg〜100mg、例えば12.5mg、25mgおよび50mg含むことができる。
【0104】
活性化合物は、それを必要とする患者(例えば、ヒトまたは動物患者)に所望な治療効果を得るのに十分な量で投与される。
【0105】
実施例
下記の非制限的実施例により、本発明のジヒドロテトラベナジン化合物の合成および特性を説明する。
【実施例1】
【0106】
実施例1
ジヒドロテトラベナジンの2S,3S11bRおよび2R,3R11bS異性体の調製
1A. RR/SSテトラベナジンの還元
【化14】

テトラヒドロフラン中の1M L−セレクトリド(登録商標)(135 ml, 135ミリモル, 2.87当量)を、30分間かけてテトラベナジンRR/SSラセミ体(15 g, 47ミリモル)のエタノール(75 ml)とテトラヒドロフラン(75 ml)の攪拌溶液に0℃で徐々に加えた。添加を完了した後、混合物を0℃で30分間攪拌し、次いで室温まで温度を上昇させた。
【0107】
混合物を粉砕氷(300 g)上に空けて、水(100 ml)を加えた。溶液をジエチルエーテル(2x200 ml)で抽出し、合わせたエーテル抽出物を水(100 ml)で洗浄し、無水炭酸カリウム上で部分乾燥した。無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥を完了し、濾過した後、溶媒を減圧留去し(遮光, 槽温度 <20℃)、淡黄色固形物を得た。
【0108】
固体を石油エーテル(30〜40℃)でスラリー状にし、濾過して、白色粉末状固形物(12 g, 80%)を得た。
【0109】
1B. 還元テトラベナジンの脱水
【化15】

五塩化リン(32.8 g, 157.5ミリモル, 2.5当量)を、30分間かけて実施例1Aからの還元テトラベナジン生成物(20 g, 62.7ミリモル)のジクロロメタン(200 ml)の攪拌溶液に0℃で分割して加えた。添加を完了した後、反応混合物を0℃で更に30分間攪拌し、溶液を粉砕氷を含む2M炭酸ナトリウム水溶液(0℃)に徐々に空けた。初期の酸ガス発生が止んだら、混合物を固形炭酸ナトリウムを用いて塩基性(約pH12)にした。
【0110】
アルカリ性溶液を酢酸エチル(800 ml)を用いて抽出し、合わせた有機抽出物を無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して褐色油状生成物を得て、これをカラムクロマトグラフィー(シリカ、酢酸エチル)によって精製し、半純粋アルケンを黄色固形物として得た(10.87 g, 58%)。
【0111】
1C. 実施例1Bからの粗アルケンの水和
【化16】

実施例1Bからの粗アルケン(10.87 g, 36.11ミリモル)を乾燥THF(52 ml)に室温で溶解したものに、1Mボラン−THF(155.6 ml, 155.6ミリモル, 4.30当量)を滴加して処理した。反応を2時間攪拌し、水(20 ml)を加え、溶液を30%水酸化ナトリウム水溶液でpH12の塩基性にした。
【0112】
30%過酸化水素水溶液(30 ml)を攪拌アルカリ性反応混合物に加え、溶液を加熱して1時間還流した後、放冷した。水(100 ml)を加え、混合物を酢酸エチル(3x250 ml)で抽出した。有機抽出物を合わせて、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、溶媒を減圧留去して黄色油状生成物(9 g)を得た。
【0113】
油状生成物を調製用HPLC(カラム: Lichrospher Si60, 5μm, 250x21.20 mm, 移動相: ヘキサン:エタノール:ジクロロメタン (85:15:5); UV 254 nm, 流速: 10 ml分−1)を用いて350 mg/注入で精製した後、目的とする画分を真空濃縮した。生成された油状物を次にエーテルに溶解し、再度真空濃縮して、上記に示したジヒドロテトラベナジンラセミ体を黄色フォーム(5.76 g, 50%)として得た。
【0114】
1D. モッシャーエステル誘導体の調製
【化17】

R−(+)−α−メトキシ−α−トリフルオロメチルフェニル酢酸(5 g, 21.35ミリモル)、塩化オキサリル(2.02 ml)およびDMF(0.16 ml)を無水ジクロロメタン(50 ml)に加え、溶液を室温で45分間攪拌した。溶液を減圧濃縮し、残渣を再度無水ジクロロメタン(50 ml)に溶解した。生成された溶液を氷−水槽を用いて冷却し、ジメチルアミノピリジン(3.83 g, 31.34ミリモル)を加えた後、実施例1Cの固体生成物(5 g, 15.6ミリモル)を予備乾燥した(4Å篩上)無水ジクロロメタンに溶解したものを加えた。室温で45分間攪拌した後、水(234 ml)を加え、混合物をエーテル(2x200 ml)で抽出した。エーテル抽出物を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、シリカのパッドを通し、生成物をエーテルを用いて溶出させた。
【0115】
集めたエーテル溶出物を減圧濃縮して油状生成物を得て、カラムクロマトグラフィー(シリカ, ヘキサン:エーテル(10:1))を用いて精製した。集めた目的のカラム画分を蒸発させて溶媒を減圧で留去したところ、固形物を得て、カラムクロマトグラフィー(シリカ, ヘキサン:酢酸エチル(1:1))を用いて更に精製し、3つの主成分が得られ、これらを部分的にモッシャーエステルピーク1および2に分割した。
【0116】
300 mgの装填量での3成分の調製用HPLC(カラム: 2 x Lichrospher Si60, 5μm, 250x21.20 mm, 移動相: ヘキサン:イソプロパノール(97:3), UV 254 nm; 流速: 10 ml分−1)の後、目的画分を真空濃縮したところ、純粋なモッシャーのエステル誘導体を得た。
ピーク1 (3.89 g, 46.5%)
ピーク2 (2.78 g, 33%)
【0117】
2つのピークに対応する画分に加水分解を施し、異性体AおよびBとして同定され特性決定された個々のジヒドロテトラベナジン異性体を遊離した。異性体AおよびBは、それぞれ下記の構造の1つを有すると思われる。
【化18】

【0118】
更に具体的には、異性体Bは、下記の実施例4に記載のX線結晶学実験に基づいて2S,3S,11bR絶対配置を有すると思われる。
【0119】
1E. ピーク1の加水分解による異性体Aの生成
20%水酸化ナトリウム水溶液(87.5 ml)をモッシャーのエステルピーク1(3.89 g, 7.27ミリモル)をメタノール(260 ml)に溶解したものに加え、混合物を攪拌加熱して150分間還流させた。室温まで冷却した後、水(200 ml)を加え、溶液をエーテル(600 ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、減圧濃縮した。
【0120】
残渣を酢酸エチル(200 ml)を用いて溶解し、溶液を水(2x50 ml)で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、減圧濃縮し、黄色フォームを得た。この材料を、カラムクロマトグラフィー(シリカ, 酢酸エチル:ヘキサン(1:1)−酢酸エチルの勾配溶出)によって精製した。目的の画分を合わせて、溶媒を減圧留去した。残渣をエーテルに溶解させ、溶媒を再度減圧留去し、異性体Aを灰白色フォーム(1.1 g, 47%)として得た。
【0121】
2R,3R,11bS配置を有すると思われる(絶対立体化学は決定しなかった)異性体Aを、H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析法、キラルHPLCおよびORDによって特性決定した。異性体AのIR、NMRおよびMSデータを表1に示し、キラルHPLCおよびORDデータを表3に示す。
【0122】
1F. ピーク2の加水分解による異性体Bの生成
20%水酸化ナトリウム水溶液(62.5 ml)をモッシャーのエステルピーク2(2.78 g, 5.19ミリモル)をメタノール(185 ml)に溶解したものに加え、混合物を攪拌加熱して150分間還流させた。室温まで冷却した後、水(142 ml)を加え、溶液をエーテル(440 ml)で抽出し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、減圧濃縮した。
【0123】
残渣を酢酸エチル(200 ml)を用いて溶解させ、溶液を水(2x50 ml)で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、減圧濃縮した。石油エーテル(30〜40℃)を残渣に加え、溶液を再度真空濃縮し、異性体Bを白色フォーム(1.34 g, 81%)として得た。
【0124】
2S,3S,11bR配置を有すると思われる異性体Bを、H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析法、キラルHPLC、ORDおよびX線結晶学によって特性決定した。異性体BのIR、NMRおよびMSデータは表1に示し、キラルHPLCおよびORDデータ表3に示す。X線結晶学データは、実施例4に示す。
【実施例2】
【0125】
実施例2
ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS異性体の調製
2A. 2,3−デヒドロテトラベナジンの調製
テトラヒドロフラン中にRRおよびSSテトラベナジン鏡像異性体のラセミ混合物(15 g, 47ミリモル)を含む溶液を実施例1Aの方法によってL−セレクトリド(登録商標)を用いて還元し、ジヒドロテトラベナジンの2S,3R,11bRおよび2R,3S,11bS鏡像異性体の混合物を白色粉末状固形物(12 g, 80%)として得た。次に、部分精製したジヒドロテトラベナジンを実施例1Bの方法に従ってPClを用いて脱水し、2,3−デヒドロテトラベナジン11bRおよび11bS異性体の半純粋混合物(その11bR鏡像異性体を下記に示す)を黄色固形物(12.92 g, 68%)として得た。
【化19】

【0126】
2B. 実施例2Aからの粗アルケンのエポキシ化
【化20】

実施例2Aからの粗アルケン(12,92 g, 42.9ミリモル)をメタノール(215 ml)に攪拌溶解したものに70%過塩素酸(3.70 ml, 43ミリモル)をメタノール(215 ml)に溶解したものに加えた。77% 3−クロロ過安息香酸(15.50 g, 65ミリモル)を反応に加え、生成された混合物を室温遮光下で18時間攪拌した。
【0127】
反応混合物を飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(200 ml)に空けて、水(200 ml)を加えた。クロロホルム(300 ml)を生成エマルションに加え、混合物を飽和重炭酸ナトリウム水溶液(400 ml)で塩基性にした。
【0128】
有機層を集めて、水相を追加のクロロホルム(2x150 ml)で洗浄した。合わせたクロロホルム層を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、溶媒を減圧留去して、褐色油状物(14.35 g, 収率>100% 溶媒が生成物に残っていると思われる)を得た。この材料を、更に精製することなく用いた。
【0129】
2C. 2Bからのエポキシドの還元的開環
【化21】

実施例2Bからの粗エポキシド(14.35 g, 42.9ミリモル, 100%収率と仮定)を乾燥THF(80 ml)に攪拌溶解したものを、1Mボラン/THF(184.6 ml, 184.6ミリモル)で15分間かけて徐々に処理した。反応を2時間攪拌し、水(65 ml)を加えて、溶液を攪拌加熱により30分間還流した。
【0130】
冷却後、30%水酸化ナトリウム溶液 (97 ml)を反応混合物に加えた後、30%過酸化水素溶液(48.6 ml)を加え、反応を攪拌および加熱により更に1時間還流した。
【0131】
冷却した反応混合物を無水硫酸マグネシウム上で乾燥した酢酸エチル(500 ml)で抽出し、濾過した後、溶媒を減圧留去し、油状物を得た。ヘキサン(230 ml)を油状物に加え、溶液を再度減圧濃縮した。
【0132】
油状残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカ、酢酸エチル)によって精製した。目的の画分を合わせて、溶媒を減圧留去した。残渣を、カラムクロマトグラフィー(シリカ, 勾配, ヘキサン−エーテル)を用いて再度精製した。目的の画分を合わせて、溶媒を減圧留去し、淡黄色固形物(5.18 g, 38%)を得た。
【0133】
2D. ジヒドロテトラベナジンの2R,3S,11bRおよび2S,3R,11bS異性体のモッシャーエステル誘導体の調製
【化22】

R−(+)−α−メトキシ−α−トリフルオロメチルフェニル酢酸(4.68 g, 19.98ミリモル)、塩化オキサリル(1.90 ml)およびDMF(0.13 ml)を無水ジクロロメタン(46 ml)に加え、溶液を室温で45分間攪拌した。溶液を減圧濃縮し、残渣を再度無水ジクロロメタン(40 ml)に溶解した。生成する溶液を氷−水槽を用いて冷却し、ジメチルアミノピリジン(3.65 g, 29.87ミリモル)を加えた後、実施例2C (4.68 g, 14.6ミリモル)の固体生成物を予備乾燥した(4Å篩上)無水ジクロロメタン(20 ml)に溶解したものを加えた。室温で45分間攪拌した後、水(234 ml)を加えて、混合物をエーテル(2x200 ml)で抽出した。エーテル抽出物を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、シリカのパッドを通し、生成物をエーテルを用いて溶出させた。
【0134】
集めたエーテル溶出物を減圧濃縮して、油状物を得て、これをカラムクロマトグラフィー(シリカ, ヘキサン:エーテル(1:1))を用いて精製した。集めた目的のカラム画分を蒸発させて溶媒を減圧で留去したところ、淡紅色固形物(6.53 g)を得た。
【0135】
100 mgの装填量での固形物の調製用HPLC(カラム: 2xLichrospher Si60, 5μm, 250x21.20 mm, 移動相: ヘキサン:イソプロパノール(97:3), UV 254 nm; 流速: 10 ml分−1)の後、目的画分を真空濃縮したところ、固形物が得られ、これを石油エーテル(30〜40℃)でスラリー状にして、濾過によって集め、純粋なモッシャーのエステル誘導体を得た。
ピーク1 (2.37 g, 30%)
ピーク2 (2.42 g, 30%)
【0136】
2つのピークに対応する画分を加水分解して、異性体CおよびDとして同定され特性決定された個々のジヒドロテトラベナジン異性体を遊離した。異性体CおよびDは、それぞれ下記の構造
【化23】

を有すると思われる。
【0137】
2F. ピーク1の加水分解による異性体Cの生成
20%水酸化ナトリウム水溶液 (53 ml)を、モッシャーエステルピーク1 (2.37 g, 4.43ミリモル)をメタノール(158 ml)に攪拌溶解したものに加え、混合物を還流温度で150分間攪拌した。冷却後、水(88 ml)を反応混合物に加え、生成する溶液をエーテル(576 ml)で抽出した。有機抽出物を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、溶媒を減圧留去した。酢酸エチル(200 ml)を残渣に加え、溶液を水(2x50 ml)で洗浄した。有機溶液を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、溶媒を減圧留去した。
【0138】
この残渣を石油エーテル(30〜40℃)で処理し、生成する懸濁固形物を濾過によって集めた。濾液を減圧濃縮し、懸濁固形物の第二のバッチを濾過によって集めた。両方の集めた固形物を合わせて、減圧乾燥し、異性体C (1.0 g, 70%)を得た。
【0139】
2R,3S,11bRまたは2S,3R,11bS配置(絶対立体化学は決定しなかった)のいずれかを有すると思われる異性体Cを、H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析法、キラルHPLCおよびORDによって特性決定した。異性体CについてのIR、NMRおよびMSデータは表2に示し、キラルHPLCおよびORDデータは表4に示す。
【0140】
2G. ピーク2の加水分解による異性体Dの生成
20%水酸化ナトリウム水溶液(53 ml)を、モッシャーのエステルピーク2 (2.42 g, 4.52ミリモル)をメタノール(158 ml)に攪拌溶解したものに加え、混合物を還流温度で150分間攪拌した。冷却後、水(88 ml)を反応混合物に加え、生成された溶液をエーテル(576 ml)で抽出した。有機抽出物を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、溶媒を減圧留去した。酢酸エチル(200 ml)を残渣に加え、溶液を水(2x50 ml)で洗浄した。有機溶液を無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過した後、溶媒を減圧留去した。
【0141】
この残渣を石油エーテル(30〜40℃)で処理し、生成された懸濁橙色固形物を濾過によって集めた。この固形物を酢酸エチル:ヘキサン(15:85)に溶解し、カラムクロマトグラフィー(シリカ, 勾配: 酢酸エチル:ヘキサン(15:85)−酢酸エチル)によって精製した。目的の画分を合わせて、溶媒を減圧留去した。残渣を石油エーテル(30〜40℃)でスラリー状にし、生成する懸濁液を濾過によって集めた。集めた固形物を減圧乾燥し、異性体Dを白色固形物(0.93 g, 64%)として得た。
【0142】
2R,3S,11bRまたは2S,3R,11bS配置(絶対立体化学は決定しなかった)のいずれかを有すると思われる異性体Dを、H−NMR、13C−NMR、IR、質量分析法、キラルHPLCおよびORDによって特性決定した。異性体DについてのIR、NMRおよびMSデータは表2に示し、キラルHPLCおよびORDデータは表4に示す。
【0143】
表1および2において、赤外スペクトルはKBrディスク法を用いて決定した。H NMRスペクトルは、Varian Gemini NMR分光計(200 MHz.)を用いて重水素化クロロホルムの溶液について測定した。13C NMRスペクトルは、Varian Gemini NMR分光計(50MHz)を用いて重水素化クロロホルムの溶液について測定した。質量スペクトルは、Micromass Platform II (ES条件)分光計を用いて得た。表3および4において、旋光分散曲線は、Optical Activity PolAAr 2001装置を用いてメタノール溶液中で24℃で得た。HPLC保持時間は、UV検出器を備えたHP 1050 HPLCクロマトグラフィー装置を用いて測定した。
【0144】
表1および2: 分光データ
【表1】

【0145】
【表2】

【0146】
表3および4: クロマトグラフィーおよびORDデータ
【表3】

【0147】
【表4】

【実施例3】
【0148】
実施例3
異性体Bの調製およびメシレート塩の調製の代替法
3A. RR/SS テトラベナジンの還元
【化24】

【0149】
1M L−セレクトリド(登録商標)をテトラヒドロフランに溶解したもの(52 ml, 52ミリモル, 1.1当量)を、テトラベナジンラセミ体(15 g, 47ミリモル)をテトラヒドロフラン(56 ml)に攪拌溶解して冷却したもの(氷槽)に30分間かけて徐々に加えた。添加を完了した後、混合物を室温まで温度上昇させ、更に6時間攪拌した。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)は、出発材料が極めて微量しか残っていないことを示していた。
【0150】
混合物を、粉砕氷(112 g)、水(56 ml)および氷酢酸(12.2 g)の攪拌混合物に空けた。生成される黄色溶液をエーテル(2x50 ml)で洗浄し、固形炭酸ナトリウム(約13 g)を徐々に加えて塩基性にした。石油エーテル(30〜40℃)(56 ml)を混合物に攪拌しながら加え、粗β−DHTBZを濾過によって白色固形物として集めた。
【0151】
粗固形物をジクロロメタン(約150 ml)に溶解し、生成される溶液を水(40 ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、濾過して、約40 mlまで減圧濃縮した。白色固形物の粘稠な懸濁液が、形成された。石油エーテル(30〜40℃)(56 ml)を加え、懸濁液を実験室温度で15分間攪拌した。生成物を濾過によって集め、フィルター上で石油エーテル(30〜40℃)(40〜60 ml)を用いて純白になるまで洗浄した後、室温で風乾し、β−DHTBZ(10.1 g, 67%)を白色固形物として得た。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)は、1成分のみを示していた。
【0152】
3B. ラセミβ−DHTBZのカンファースルホン酸塩の調製および分別結晶
実施例3Aの生成物と1当量の(S)−(+)−カンファー−10−スルホン酸を、最小限の量のメタノールに加熱しながら溶解した。生成される溶液を冷却した後、生成される固形物沈澱の形成が完了するまでエーテルで徐々に希釈した。生成される白色結晶性固形物を濾過によって集め、エーテルで洗浄した後、乾燥した。
【0153】
カンファースルホン酸塩(10 g)を、高温絶対エタノール(170 ml)およびメタノール(30 ml)の混合物に溶解した。生成される溶液を、攪拌して冷却した。2時間後、形成された沈澱を、白色結晶性固形物(2.9 g)として濾過によって集めた。結晶性材料の試料を、過剰の飽和炭酸ナトリウム水溶液およびジクロロメタンと共に分液漏斗中で振盪した。有機相を分離し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。残渣を石油エーテル(30〜40℃)を用いて磨砕し、有機溶液を再度濃縮した。この塩のChirex (S)−VALおよび(R)−NEA 250x4.6mmカラム、およびヘキサン:エタノール(98:2)溶離剤を流速が1ml/分で用いるキラルHPLC分析では、単離したβ−DHTBZは一方の鏡像異性体が豊富であった(e.e.約80%)。
【0154】
豊富なカンファースルホン酸塩(14 g)を高温の絶対エタノール(140 ml)に溶解し、プロパン−2−オール(420 ml)を加えた。生成される溶液を攪拌し、1分以内に沈澱が形成し始めた。混合物を室温まで冷却し、1時間攪拌した。形成された沈澱をを濾過によって集め、エーテルで洗浄し、乾燥して、白色結晶性固形物(12 g)を得た。
【0155】
結晶性材料を、過剰量の飽和炭酸ナトリウム水溶液とジクロロメタンと共に分液漏斗中で振盪した。有機相を分離し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。残渣を石油エーテル(30〜40℃)を用いて磨砕し、有機溶液を再度濃縮し、(真空乾燥後に)(+)−β−DHTBZ (6.6 g, ORD +107.8°)を得た。単離された鏡像異性体はe.e.>97%である。
【0156】
3C. 異性体Bの調製
五塩化リン(4.5 g, 21.6ミリモル, 1.05当量)をジクロロメタン(55 ml)に溶解したものを、実施例3Bの生成物(6.6 g, 20.6ミリモル)をジクロロメタン(90 ml)に溶解して攪拌冷却したもの(氷水槽)に一定速度で10分間かけて加えた。添加を完了したならば、生成される黄色溶液を更に10分間攪拌した後、炭酸ナトリウム(15 g)を水(90 ml)および粉砕氷(90 g)に混合攪拌したものに素早く空けた。混合物を更に10分間攪拌した後、分液漏斗に移した。
【0157】
相を分離したならば、褐色ジクロロメタン層を採りだし、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過し、減圧濃縮して、粗アルケン中間体を褐色油状物(約6.7 g)として得た。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)は、(+)−β−DHTBZが粗生成物に残っていないことを示していた。
【0158】
粗アルケン(乾燥窒素雰囲気中)を無水テトラヒドロフラン(40 ml)に溶解し、ボランをTHFに溶解したもの(1 M溶液, 2.5当量, 52 ml)を攪拌しながら15分間かけて加えた。反応混合物を、次に室温で2時間攪拌した。TLC分析(シリカ,酢酸エチル)は、アルケン中間体が反応混合物に残っていないことを示していた。
【0159】
水酸化ナトリウム(3.7 g)を水(10 ml)に溶解したものを攪拌反応混合物に加えた後、過酸化水素水溶液(50%, 約7 ml)を加え、形成された二相混合物を還流温度で1時間攪拌した。この時点での有機相のTLC分析(シリカ,酢酸エチル)は、異性体Bについて予想したRfを有する生成物の出現を示していた。特徴的な無極性成分も見られた。
【0160】
反応混合物を室温まで冷却し、分液漏斗に空けた。上部の有機層を採りだして減圧濃縮し、大半のTHFを除去した。残渣をエーテル(安定化(BHT), 75 ml)に溶解し、水(40 ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過して、減圧濃縮し、淡黄色油状物(8.1 g)を得た。
【0161】
黄色油状物をカラムクロマトグラフィー(シリカ, 酢酸エチル:ヘキサン(80:20), 100%酢酸エチルまで増加)を用いて精製し、所望なカラム画分を集め、合わせて、減圧濃縮し、青白色油状物を得て、これをエーテル(安定化, 18 ml)で処理し、減圧濃縮し、異性体Bを淡黄色固形フォーム(2.2 g)として得た。
【0162】
実施例3Bに示した条件を用いるキラルHPLCにより、異性体Bは97%を上回る鏡像異性体過剰量(e.e.)で生成したことが明らかになった。
【0163】
旋光度をBellingham Stanley ADP220旋光計を用いて測定し、[α] +123.5°を得た。
【0164】
3D. 異性体Bのメシレート塩の調製
異性体Bのメタンスルホン酸塩は、実施例3Cからの1当量の異性体Bと1当量のメタンスルホン酸の混合物を最小限の量のエタノールに溶解した後、ジエチルエーテルを加えることによって調製した。形成される白色沈澱を濾過によって集め、真空乾燥して、メシレート塩を収率約85%および純度(HPLCによる)約96%で得た。
【実施例4】
【0165】
実施例4
異性体BについてのX線結晶学的検討
異性体Bの(S)−(+)−カンファー−10−スルホン酸塩を調製し、単結晶について下記の条件下でX線結晶学的検討を行った。
回折計: Nonius KappaCCD領域検出器(t/iスキャンおよびOJスキャンによる非対称性ユニットを満たす)
セル決定(Cell determination): DirAx (Duisenberg, A.J.M.(1992). J. Appl. Cryst. 25, 92-96.)
データ収集: Collect (Collect: Data collection software, R. Hooft, Nonius B. V5 1998)
データー還元およびセル微細化(refinement): Demo (Z. Otwinowski & W. Minor, Methods in Enzymology (1997) Vol. 276: Macromolecular Crystallography, part A, pp. 307- 326; C. W. Carter, Jr & R. M. Sweet, Eds., Academic Press).
吸収補正: Sheldrick, G. M. SADABS − Bruker Nonius領域検出器スケーリングおよび吸収補正 − V2.\0
構造説明: SHELXS97 (G. M. Sheldrick, Acta Cryst. (1990) A46 467-473).
構造精製: SHELXL97 (G. M. Sheldrick (1997), University of Goettingen, Germany)
グラフィック: Cameron − A Molecular Graphics Package (D. M. Watkin, L. Pearce and C K. Prout, Chemical Crystallography Laboratory, University of Oxford, 1993)
特殊な詳細: 総ての水素原子は、ディファレンス・マップに置かれ、レストレイント(restraints)を用いて微細化したNHおよびOHの水素原子を除き、理想化位置に置き、ライディングモデルを用いて微細化した。キラリティー: NI=R, CI2=S, CI3=S, CI5=R, C21=S, C24=R
【0166】
検討の結果を、表A、B、C、DおよびEに示す。
【0167】
表において、RUS0350というラベルは異性体Bを表す。
【0168】
【表5】

【0169】
【表6】

【0170】
【表7】


【0171】
【表8】

【0172】
【表9】

【0173】
【表10】

【化25】

30%の確率水準で描いた熱振動楕円体
【0174】
上記のデーターに基づいて、異性体Bは2S,3S,11bR配置を有し、式(Ia)
【化26】

に対応していると思われる。
【実施例5】
【0175】
実施例5
ハンチントン病のトランスジェニックマウスモデルにおける異性体Bの効果の分析
B6CBA−Tg(HDexonl)62Gpb/1Jトランスジェニック(R6/2)マウスは(CAG)115−(CAG)150反復伸張を有するヒトHD遺伝子の5末端についてのトランスジェニックである。R6/2トランスジェニックマウスは、舞踏病様運動、不随意定型運動、振顫およびてんかん発作などのハンチントン病の特徴の多くに類似した進行性の神経学的表現型を示す。それらは、頻繁に排尿し、疾患の経過中に体重の損失を示す。これらの症状は、6〜8週齢で見られる。
【0176】
このハンチントン病のトランスジェニックマウスモデルにおける異性体Bの効果を評価する目的で、一連の行動試験における動物を評価することによって検討を行った。
【0177】
方法
雌のB6CBa−Tg(HDexon 1)62Gpb/1Jトランスジェニックマウス(Jackson Laboratory, 米国)を、12時間−12時間(午前7.00に点灯、午後7.00に消灯)の明−暗サイクル下、21±2℃の温度および50±15%の湿度での多刺激環境で5匹/ケージで収容した。マウスは、市販のマウス食餌(マウス/レイト・ブリーディング(rate breeding), 製品番号9341 Provimi Kliba, スイス)および水道水を摂取した。
【0178】
異性体Bをトウモロコシ油に溶解したものを、10週齢マウスに日に1回ずつ4日間反復投与した(5 mg/kg i.p)。
【0179】
試験日には、プロトコルの項に記載のプロトコルを用いて、動物に下記の試験を行った。
【0180】
1. 簡略アーウィン試験
観察の2時間前に、動物を個々のケージに入れた。測定は、最初個々のケージで行った。動物の痙攣(convulsions)、振顫−単収縮、常同行動(stereotypies)および発声を記録した。次いで、動物を6cmの縁のある58.5x68.5cmのオープンフィールドに入れ、約3分間観察した。歩行特性を等級付けした。痙攣または振顫−単収縮および常同行動を、再度記録した。3分間経過したら、糞便ボーラス(boluses)の数と尿量を記録した。次いで、マウスを試験後に個々のケージに戻した。
【0181】
2. 運動活性
マウスを、低照明強度(最大20ルックス)の部屋の床面積が30x30cmの透明なプラスチック箱に入れた。ビデオイメージ分析装置(Videotrack, View Point, リオン, フランス)を用いて、運動活性を10分間にわたって測定した。歩行運動の回数、距離および平均速度を測定した。試験後、マウスを元のケージに戻した。
【0182】
3. ロータロッド
最初の投与前の2連続日に、動物をロータロッドを使用して訓練を行い、加速するロータロッド(Ugo Basile, イタリア)に最長時間450秒間で入れた。動物に、4rpmで300秒間から開始し、次に40rpmで150秒間持続する2回の訓練期間を行った。2回の訓練期間は、1時間間隔で行った。試験の日には、それぞれの動物に、上記条件下で1回の試験を受けさせた。それぞれの試験は、マウスが落下するか、またはロータロッド上に450秒間留まったときに終了した。試験後、マウスを元のケージに戻した。
【0183】
試験の結果を、表5〜9に示す。
【0184】
実験プロトコル
実験群のサイズ: 10
群1: ビヒクルを1日1回ずつ4日間(0日−3日)腹腔内投与で処理したヘミ接合体トランスジェニックB6CBA−Tg(HDexon l)62Gpb/1Jマウス
群2: 試験品目5mg/kgを1日1回ずつ4日間(0日−3日)腹腔内投与で処理したヘミ接合体トランスジェニックB6CBA−Tg(HDexon l)62Gpb/1Jマウス
【0185】
試験プロトコル
10週齢で、投与前(0日)および投与後の3日間のそれぞれの日に、動物に下記の試験を次のようにして行った。
−2日目
ロータロッド訓練、1時間間隔で2回の訓練期間。
−1日目
ロータロッド訓練、1時間間隔で2回の訓練期間。
0日目
・簡略アーウィン試験
・簡略アーウィン試験直後の運動活性試験
・運動活性試験直後のロータロッド試験
・ロータロッド試験の1時間後に、試験品目の投与
・投与40分後に、簡略アーウィン試験
・簡略アーウィン試験の直後に、運動活性
1日目
・試験品目投与
・投与の40分後に、簡略アーウィン試験
・簡略アーウィン試験の直後に、ロータロッド試験
2日目
・試験品目投与
・投与の40分後に、簡略アーウィン試験
・簡略アーウィン試験の直後に、ロータロッド試験
3日目
・試験品目投与
・投与の40分後に、簡略アーウィン試験
・簡略アーウィン試験の直後に、運動活性試験。
【0186】
統計分析
簡略アーウィンスコアは、ノンパラメトリックのマン−ホイットニーU検定法を用いて分析した。運動活性データは、ダンネットt検定を用いて分析した。ロータロッドスコアは、ノンパラメトリックのマン−ホイットニーU検定法を用いて分析した。統計分析は、ソフトウェアStatview SE+グラフィックスソフトウェア, Brain Powerを用いて行った。
【0187】
【表11】




【0188】
【表12】

【0189】
【表13】

【0190】
【表14】

【0191】
【表15】

【0192】
これらの結果は、対照マウスおよび異性体Bで処理したマウスはいずれも投与後の最初の3日間はハンチントン病の典型的な症状が幾分進行したが、異性体Bで処理したマウスは、投与後の17〜24日の期間中は対照マウスより悪化が有意に小さかった。特に、歩行の低化はこの期間には実質的に阻止されまたは遅くなり、異性体B処理マウスでの不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動の発生率は21日後には異性体Bの投与前より悪化していなかった。適当な間隔で異性体Bの投与を繰り返すことによって(これは試験では行わなかった)、症状の伸展を阻止しまたは更に遅らせることができると思われる。
【0193】
従って、これらの結果は、異性体Bはハンチントン病に関連した症状の発症を防止し、またはその伸展を遅らせる上で有用であることを示している。
【実施例6】
【0194】
実施例6
テトラベナジン並びにジヒドロテトラベナジン異性体BおよびCの鎮静特性の比較
本発明のジヒドロテトラベナジン異性体が沈静特性を有するかどうか決定する目的で、ラットで検討を行った。ラットの自発運動活性に対する異性体の効果を、下記に示す方法を用いてテトラベナジンおよびハロペリドールによって生じる効果を比較した。結果を表10に示す。
【0195】
方法
検討開始時の体重が200−250gの雄のSprague−Dawleyラット(Charles River Laboratories, Saint−Germain/L’Arbresle, フランス)を用いて、検討を行った。ラットは、下記の環境条件を設定した室内でマクロロンIII型ケージに2または3匹/ケージずつ収容した。温度20±2℃、湿度: 最低でも45%、換気:>12回/時間、12時間/12時間の明/暗サイクル[午前7:00点灯]。ラットを、検討開始前の少なくとも5日間その条件に順応させた。ラットは、食餌(Dietex, Vigny, フランス, 製品番号 811002)および水(水ボトルの水道水)を自由に摂取した。
【0196】
それぞれの試験化合物をトウモロコシ油に溶解したものは、実験の当日に新たに調製した。ハロペリドールは、ヒドロキシエチルセルロースで調製し、0.5%脱イオン水溶液とした。ビヒクルまたは試験化合物は、1回用量として投与した(0.3、1、3および10 mg/kg, 2 ml/kg i.p.)。参照化合物ハロペリドール(1 mg/kg)は、腹腔内投与した(2 ml/kg)。
【0197】
動物を、低照明強度(最大50ルックス)の部屋でビデオカメラ下にてプレキシグラスケージに入れた。投与の45分および3時間後に、ビデオイメージ分析装置(Videotrack, View Point, フランス)を用いて運動活性を20分間測定した。運動活性を、参照群(ハロペリドール)で投与1時間後に記録した。歩行運動の回数および時間、および無活動の時間を測定した。運動活性の測定終了時(45分および3時間後)に、眼瞼の閉鎖および覚醒を、プレキシグラスケージで下記の方法でスコアを付けた。
眼瞼閉鎖:
0: (正常)目蓋は大きく開いている
1: 目蓋が若干下垂する
2: 眼瞼下垂、目蓋は約半分下垂する
3: 目蓋が完全に閉じる
覚醒:
1: 非常に低く、昏迷、昏睡、ほとんどまたは全く反応なし
2: 低い、幾分昏迷、「鈍感」、幾らか頭または身体の動き
3: 幾らか低く、若干昏迷、不動期間を伴う幾らかの診査動作
4: 正常の、警戒、診査動作/ゆっくり停止
5: 幾分高い若干の興奮、緊張、突然の移動または停止
6: 極めて高い過度の警戒、ランニングまたは身体動作の興奮した突然の発作
【0198】
歩行(大きい)運動の発生回数および時間(秒)、および無活動の時間(秒)を、ビデオイメージ分析装置(Videotrack, ViewPoint, リヨン, フランス)を用いて2回20分間(投与の45分および3時間後)測定した。プレキシグラスケージ上に設置したビデオカメラを用いてイメージトラッキングを行い、全運動活性を記録した。ビデオカメラに記録したイメージをデジタル化し、デジタルイメージスポットの重心の変位を下記の方法を用いて追跡して、分析した。スポットの重心の変位の速度を測定し、2つの閾値、閾値1(高速)および閾値2(低速)を設定して、運動の種類を定義した。動物が動き、スポットの重心の変位速度が閾値1を上回るときには、運動は歩行運動と考えられた。動物が無活動のままのときには、速度は閾値2を下回り、運動は無活動と考えられた。
【0199】
結果は、12の個別値の平均値±SEMとして表した。統計分析は、ANOVA (一方向)およびダンネットt検定を用い、沈静評価についてはクルスカル−ウォーリスのノンパラメトリック検定に続いてマン−ホイットニーU検定を用いて行った。p<0.05のp値を、有意性を示すものとした。
【0200】
プロトコル
群の大きさ n=12
群1: 参照、ハロペリドール (1 mg/kg i.p.)
群2: ビヒクル対照群(2 ml/kg i.p.)
群3: テトラベナジン(0.3 mg/kg i.p)
群4: テトラベナジン(1 mg/kg i.p)
群5: テトラベナジン(3 mg/kg i.p)
群6: テトラベナジン(10 mg/kg i.p)
群7: 異性体C (0.3 mg/kg i.p)
群8: 異性体C (1 mg/kg i.p)
群9: 異性体C (3 mg/kg i.p)
群10: 異性体C (10 mg/kg i.p)
群11: 異性体B (0.3 mg/kg i.p)
群12: 異性体B (1 mg/kg i.p)
群13: 異性体B (3 mg/kg i.p)
群14: 異性体B (10 mg/kg i.p)
【0201】
結果
【表16】


【0202】
これらの結果は、テトラベナジンが投与の45分および3時後に用量依存性鎮静作用を生じるのに対して、異性体Cは投与の3時間後に若干かつ非有意な過剰運動効果示すが、異性体Bおよび異性体Cはいずれの時間にも鎮静作用を示さないことを示している。
【実施例7】
【0203】
実施例7
医薬組成物
(i) 錠剤処方物I
本発明のジヒドロテトラベナジンを含む錠剤組成物は、ジヒドロテトラベナジン50mgを希釈剤としてのラクトース(BP)197mgおよび滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム3mgと混合し、既知の方法で圧縮して錠剤を生成することによって調製される。
【0204】
(ii) 錠剤処方物II
本発明のジヒドロテトラベナジンを含む錠剤組成物は、化合物(25 mg)を酸化鉄、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、白色トウモロコシ澱粉およびタルクと混合し、既知の方法で圧縮して錠剤を生成することによって調製される。
【0205】
(iii)カプセル処方物
カプセル処方物は、本発明のジヒドロテトラベナジン100mgをラクトース100mgと混合し、生成される混合物を標準の不透明な硬質ゼラチンカプセルに充填することによって調製される。
【0206】
同等物
上記の本発明の具体的態様に対して本発明の基礎となる原理から離反することなく多数の改質および代替物を作製することができることは、容易に明らかであろう。このような改質物および代替物は総て、本願発明に包含されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のハンチントン病の1以上の症状、より詳細には、不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動、並びに歩行悪化から選択される症状、の進行を停止させるまたは遅らせることに用いられる、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項2】
ハンチントン病に関与する突然変異遺伝子を有すると判定された患者の予防的治療に用いられる、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項3】
HD遺伝子の突然変異型を有するが未だこの疾患の症状を発現していない15〜50歳の患者の予防的治療に用いられ、予防的治療がハンチントン病に関連した症状の発症を防止するまたは遅らせるためのものである、3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項4】
3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンが、実質的に純粋な形態、例えば異性体純度が90%を上回り、典型的には95%を上回り、更に好ましくは98%を上回る、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用のための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項5】
3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンが、(+)−異性体形態である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用のための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項6】
3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンが、式(Ia)
【化1】

を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用のための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項7】
ジヒドロテトラベナジンが、酸付加塩の形態である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用のための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項8】
塩が、メタンスルホン酸塩である、請求項7に記載の使用のための3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジン。
【請求項9】
ハンチントン病の1以上の症状、より詳細には、不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動、並びに歩行悪化から選択される症状、の進行を停止させるまたは遅らせる医薬の製造のための請求項1〜8のいずれか一項に記載の3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの使用。
【請求項10】
ハンチントン病に関与する突然変異遺伝子を有すると判定された患者の予防的治療のための医薬を製造するための請求項1〜9のいずれか一項に記載の3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの使用。
【請求項11】
HD遺伝子の突然変異型を有するが未だこの疾患の症状を発現していない15〜50歳の患者の予防的治療のための医薬を製造するためであって、予防的治療がハンチントン病に関連した症状の発症を防止するまたは遅らせるためのものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの使用。
【請求項12】
ハンチントン病の治療を必要とする患者におけるハンチントン病の1以上の症状、より詳細には、不随意舞踏病、振顫および単収縮のような不随意運動、並びに歩行悪化から選択される症状、の進行を停止させるまたは遅らせる方法であって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の3,11b−シス−ジヒドロテトラベナジンの有効治療量を投与することを含んでなる、方法。
【請求項13】
ハンチントン病に関与する突然変異遺伝子を有すると判定された患者の予防的治療の方法であって、患者に請求項1〜12のいずれか一項に記載のシス−ジヒドロテトラベナジンをこの疾患の発症または進行を防止するまたは遅らせるのに有効な量で投与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
シス−ジヒドロテトラベナジンを投与される患者が、IT−15遺伝子上のCAG反復数が少なくとも35であり、更に典型的には少なくとも40であり、例えば少なくとも45であるかまたは少なくとも50である遺伝子の突然変異型を有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用のための化合物、方法または使用。
【請求項15】
ハンチントン病に関与する突然変異遺伝子を有すると鑑定された患者の予防的治療の方法であって、患者に請求項1〜14のいずれか一項に記載のシス−ジヒドロテトラベナジンをこの疾患の無症状進行を防止するまたは遅らせるのに有効な量で投与することを含んでなる、方法。
【請求項16】
実施例に関連して本明細書に実質的に記載されている、使用のための化合物、方法または使用。

【公表番号】特表2009−501202(P2009−501202A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520952(P2008−520952)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002593
【国際公開番号】WO2007/007105
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(506270488)ケンブリッジ、ラボラトリーズ、(アイルランド)、リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE LABORATORIES (IRELAND) LIMITED
【Fターム(参考)】