説明

ハードコート塗料、これを用いてなるハードコート膜、および成形体

【課題】 本発明は、塗膜化した際の塗膜が十分な硬度を有するものであるハードコート塗料を提供する。また、十分な硬度を有するハードコート膜を提供する。また、樹脂成形体の表面に十分な硬度のハードコート膜を有する成形体を提供する。
【解決手段】 本発明のハードコート塗料は、電離放射線硬化型樹脂組成物、および赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含むものである。また、本発明のハードコート膜は、上記ハードコート塗料を塗布、硬化させることにより形成されてなるものである。また、好ましくは、前記ハードコート膜の厚みが0.1μm以上、5μm以下である。また、本発明の成形体は、上記ハードコート膜を樹脂成形体の表面に有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜化した際の塗膜が優れた耐擦傷性を有するハードコート塗料に関し、また、該塗料を用いてなるハードコート膜および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂成形体の表面が傷つくことを防止するため、樹脂成形体の表面に電離放射線硬化型樹脂等からなるハードコート塗料を塗布してハードコート膜を設けたり、樹脂フィルム上にハードコート膜を設けたハードコートフィルムを樹脂成形体に貼着したりして用いられている。
【0003】
このようなものとしては、ディスプレイ表面、タッチパネル表面や機械の表示部等種々の用途で用いられているが、携帯電話のインサート成型(特許文献1参照)や高精細のカラーディスプレイ画面上(特許文献2参照)に用いられる場合などは、ハードコート膜の薄膜化が求められている。
【0004】
携帯電話のインサート成型時にハードコート膜の薄膜化が求められる理由としては、通常のハードコート膜の厚み(5μmを超え、20μm以下程度)で成型した場合は、ハードコート膜に割れが生じやすいので、成型時のハードコート膜に割れを生じないようにするためである。
【0005】
また、高精細のカラーディスプレイ画面上に用いる場合にハードコート膜の薄膜化が求められる理由としては、ニュートンリングの発生を防止したりブロッキングを防止する目的で、ハードコート膜中にシリカや樹脂ビーズなどの微粒子を含有させ表面に凹凸を設けて使用する場合があるが、ハードコート膜中の微粒子が輝点となることによってぎらつき現象が生じるという問題があり、ハードコート膜を薄膜化することができれば、ハードコート膜中に添加する微粒子の大きさを小さくすることができるため、ハードコート膜中の微粒子が輝点となることによって生じるぎらつき現象を緩和することができるためである。
【0006】
しかし、ハードコート膜を薄膜化する場合、塗膜体積に対して表面積が大きくなるため、空気中の酸素による硬化阻害を受けやすくなる。よって、このような硬化阻害を防止するために、窒素ガス等の不活性ガス下で電離放射線の照射が行われているが、このようにして得られたハードコート膜の硬度は、必ずしも十分なものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−288720号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2005−262442号公報(請求項5、段落番号0043)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、塗膜化した際の塗膜が十分な硬度を有するものであるハードコート塗料を提供することを目的とする。また、本発明は、十分な硬度を有するハードコート膜を提供することを目的とする。また、本発明は、樹脂成形体の表面に十分な硬度のハードコート膜を有する成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のハードコート塗料は、電離放射線硬化型樹脂組成物、および赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のハードコート塗料は、前記赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料の含有量が、電離放射線硬化型樹脂組成物100重量部に対し、0.1重量部以上、10重量部以下であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のハードコート塗料は、前記赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料がカーボン微粒子であることを特徴とするものである。また、好ましくは、前記カーボン微粒子の平均粒子径が0.01μm以上、0.5μm以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のハードコート膜は、上記いずれかのハードコート塗料を塗布、硬化させることにより形成されてなることを特徴とするものである。また、好ましくは、前記ハードコート膜の厚みが0.1μm以上、5μm以下である。
【0013】
さらに、好ましくは、本発明のハードコート膜は、JIS K5600−5−4:1999における鉛筆引っかき値がH以上であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の成形体は、上記いずれかのハードコート膜を樹脂成形体の表面に有することを特徴とするものである。
【0015】
なお、本発明でいうカーボン微粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法により測定した値から算出したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電離放射線硬化型樹脂組成物、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含むハードコート塗料としたことにより、塗膜化した際に、十分な硬度を有する塗膜を得ることができ、樹脂成形体等の被塗布部材を傷等から守ることができる。特に、本発明によって得られたハードコート膜は、厚みが0.1μm以上、5μm以下と薄膜とした場合であっても、十分な硬度を有するものとすることができる。
【0017】
また本発明によれば、樹脂成形体の表面に前記ハードコート塗料から形成されてなる前記ハードコート膜を有するため、当該樹脂成形体を傷等から守ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、各構成要素の実施の形態について説明する。
【0019】
まず、本発明のハードコート塗料について説明する。本発明のハードコート塗料は、電離放射線硬化型樹脂組成物、および赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含むものである。
【0020】
電離放射線硬化型樹脂組成物は、塗膜化した際に、塗膜に耐擦傷性を付与するための樹脂成分として用いられる。このような電離放射線硬化型樹脂組成物としては、電離放射線(紫外線または電子線)の照射によって架橋硬化することができる光重合性プレポリマーを用いることができ、この光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等が使用でき、被塗布部材の種類や用途等に応じて適宜選択することができる。また、これらのアクリル系プレポリマーは単独でも使用可能であるが、架橋硬化性の向上や、硬化収縮の調整等、種々の性能を付与するために、光重合性モノマーを加えることが好ましい。
【0021】
光重合性モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等の単官能アクリルモノマー、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート等の2官能アクリルモノマー、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の多官能アクリルモノマー等の1種若しくは2種以上が使用される。
【0022】
また、本発明のハードコート塗料は、紫外線照射によって硬化させて使用する場合には、上述した光重合性プレポリマー及び光重合性モノマーの他、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を用いることが好ましい。
【0023】
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α−アシルオキシムエステル、チオキサンソン類等があげられる。
【0024】
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合障害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルなどがあげられる。
【0025】
また、樹脂成分としては、以上のような電離放射線硬化型樹脂組成物の他、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、熱可塑性樹脂や熱硬化型樹脂等の他の樹脂を用いてもよい。
【0026】
次に、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料は、電離放射線の照射によって塗膜が硬化する際に、電離放射線硬化型樹脂組成物の重合を促進するために用いられる。このような赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を上記電離放射線硬化型樹脂組成物を含むハードコート塗料中に含有させることにより、電離放射線の照射によって電離放射線硬化型樹脂組成物が重合を促進する理由としては、必ずしも明らかではないが、電離放射線の照射の際に、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料が、光源に含まれる赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光を吸収することによって、熱エネルギーを発生させて、酸素による硬化阻害が生じるよりも速い速度で重合が進むからではないかと考えられる。
【0027】
よって、塗膜を薄膜化した場合(0.1μm以上、5μm以下程度)であっても、空気中の酸素による硬化阻害を受けるよりも速い速度で電離放射線硬化型樹脂組成物の重合が進行し完了することができるため、高硬度を保つことができる。また、塗膜を薄膜化せず一般的な厚み(5μmを超え、20μm以下程度)とした場合には、電離放射線の照射量を減じても高硬度を保つことができるため、使用エネルギーを低減することができると共に、作業性や生産性を向上させることができる。さらに塗膜を上記一般的な厚みよりも厚膜化した(20μmを超え、30μm以下程度)場合にも、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料によって、電離放射線硬化型樹脂組成物の重合を促進するため、樹脂成分の未硬化による表面硬度の低下を防止することができる。
【0028】
このようなハードコート塗料における赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料の含有量としては、特に限定されず、膜の厚みや電離放射線の照射量によって異なってくるので一概にいえないが、電離放射線硬化型樹脂組成物100重量部に対し、下限として0.1重量部以上、さらには0.5重量部以上とするのが好ましく、上限としては10重量部以下、さらには5重量部以下とするのが好ましい。ハードコート塗料における赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料の含有量を0.1重量部以上とすることにより、塗膜化した際の塗膜に十分な硬度を付与することができ、10重量部以下とすることにより、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料によって、必要以上に膜が着色されるのを防止することができる。
【0029】
このような材料としては、1−Butyl−2−(2−[3−[2−(1−butyl−1H−benzo[cd]indol−2−ylidene)−ethylidene]−2−chloro−cyclohex−1−enyl]−vinyl)−benzo[cd]indolium tetrafluoroborate、1−Butyl−2−(2−[3−[2−(1−butyl−1H−benzo[cd]indol−2−ylidene)−ethylidene]−2−phenyl−cyclopent−1−enyl]−vinyl)−benzo[cd]indolium tetrafluoroborate、N,N,N’,N’−Tetrakis−(p−di−n−butylaminophenyl)−p−benzochinon−bis−immonium hexafluoroantimonate等の色素系有機材料やカーボン微粒子、およびこれらを含む化合物等があげられる。なかでも、経済性、長期安定性、抜き加工時の抜き加工性等の観点から、カーボン微粒子を用いることが好ましい。
【0030】
このようなカーボン微粒子の大きさとしては、平均粒子径で下限として0.01μm以上、さらには0.03μm以上とするのが好ましく、上限として0.5μm以下、さらには0.3μm以下であることが好ましい。平均粒子径を0.01μm以上とすることにより、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)における光の吸収性を保持することができ、0.5μm以下とすることにより、膜としたときの視認性の低下を防止することができる。
【0031】
以上のような本発明のハードコート塗料は、上述した電離放射線硬化型樹脂組成物、および赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を有機溶剤等の希釈溶媒で分散または溶解させて有機溶剤塗料としたり、前記電離放射線硬化型樹脂組成物に前記赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を分散または溶解させて無溶剤塗料としてもよい。
【0032】
またこのような本発明のハードコート塗料は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、必要に応じて、滑剤、着色剤、顔料、染料、蛍光増白剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤、貯蔵安定剤、架橋剤等の添加剤を添加してもよい。
【0033】
このような本発明のハードコート塗料は、上述の電離放射線硬化型樹脂組成物、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料、および必要に応じて添加した希釈溶媒、その他の樹脂成分、添加剤等を混合し溶解または分散してハードコート塗料とすることができる。
【0034】
このような本発明のハードコート塗料は、樹脂成形体などの被塗布部材に塗布し、電離放射線を照射し硬化させることにより、被塗布部材の表面に耐擦傷性の優れた塗膜を形成することができる。
【0035】
次に、本発明のハードコート膜について説明する。本発明のハードコート膜は、被塗布部材に上述の本発明のハードコート塗料を塗布、硬化させることにより形成されてなるものである。
【0036】
また、上記ハードコート塗料から形成される本発明のハードコート膜は、上記ハードコート塗料を従来公知のコーティング方法、例えば、バーコーター、ダイコーター、ブレードコーター、スピンコーター、ロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、ディップコーター、スプレー、スクリーン印刷、刷毛などによって、被塗布部材、例えば樹脂成形体、ガラス板などの耐擦傷性を付与したいものに直接塗布し必要に応じて乾燥させ、電離放射線を照射し硬化させることにより作製することができる。
【0037】
電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100nm〜400nm、好ましくは200nm〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、または走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。また、電離放射線の照射する量は、電離放射線硬化型樹脂組成物の種類やハードコート膜の厚みによって異なってくるので一概にいえないが、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含有させないハードコート塗料の場合と比較すると、1/2〜2/3の照射量で電離放射線硬化型樹脂組成物の重合を完了させることができる。
【0038】
ハードコート膜の厚みは、特に限定されないが、0.1μm以上、30μm以下程度である。さらに、本発明のハードコート膜においては、0.1μm以上、10μm以下、さらには0.1μm以上、5μm以下程度の薄膜とすることも可能である。ハードコート膜の厚みを0.1μm以上とすることにより、十分な硬度を有する塗膜とすることができる。またハードコート膜の厚みは30μmを超えてもそれ以上塗膜の硬度が向上するわけではないので、経済性や、膜の収縮によるカール防止性の観点から30μm以下とすることが好ましい。
【0039】
このようなハードコート膜は、JIS K5600−5−4:1999における鉛筆引っかき値がH以上、さらには2H以上であることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の成形体について説明する。本発明の成形体は、上述の本発明のハードコート膜を樹脂成形体の表面に有するものである。
【0041】
樹脂成形体の形状としては、「フィルム」、「シート」、「プレート」等のいかなる厚みのものであっても良く、また例えば表面に凹凸を有するものや、三次元曲面を有する立体的な形状のものであっても良い。
【0042】
樹脂成形体の樹脂の種類は、特に限定されないが、フィルムやシートの場合は、例えば、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、アセチルセルロース、シクロオレフィン等の樹脂からなるものがあげられ、プレート等の場合は、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等の樹脂からなるものがあげられる。樹脂成形体の表面には、本発明のハードコート塗料との接着性を向上させるため、プラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理、下引き易接着層の形成等の易接着処理を施してもよい。また、これらの樹脂成形体には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、顔料や紫外線吸収剤をはじめ、上述のハードコート塗料に記載した添加剤と同様の添加剤を含有するものであってもよい。
【0043】
本発明の成形体は、このような樹脂成形体上に、上記本発明のハードコート塗料を、上述と同様にして本発明のハードコート膜を形成することにより作製することができる。
【0044】
以上のように、本発明によれば、電離放射線硬化型樹脂組成物、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含むハードコート塗料としたことにより、塗膜化した際に、十分な硬度を有する塗膜を得ることができ、樹脂成形体等の被塗布部材を傷等から守ることができる。また、本発明によって得られたハードコート膜は、厚みが0.1μm以上、5μm以下の薄膜とした場合であっても、十分な硬度を有するものとすることができるため、携帯電話のインサート成型や、高精細のカラーディスプレイ等で好適に用いることができる。
【0045】
また本発明によれば、樹脂成形体の表面に前記ハードコート塗料から形成されてなる前記ハードコート膜を有するため、当該樹脂成形体を傷等から守ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本実施例において「部」、「%」は、特に示さない限り重量基準である。
【0047】
[実施例1]
下記実施例1の処方のハードコート塗料を混合し、実施例1のハードコート塗料を作製した。次に、樹脂成形体として厚み125μmのポリエステルフィルム(コスモシャインA4300:東洋紡績社)の一方の面に、前記実施例1のハードコート塗料をバーコーター法によりそれぞれ塗布、乾燥した後、高圧水銀灯で紫外線を照射し(照射量200mJ/cm2)、厚み0.5μmの実施例1のハードコート膜を形成し、実施例1のハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0048】
なお、下記処方中のカーボン微粒子aは、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料として、平均粒子径0.2μmのカーボン微粒子を用いた。
【0049】
<実施例1のハードコート塗料の処方>
・電離放射線硬化型樹脂組成物(固形分100%)100部
(ビームセット575:荒川化学工業社)
・カーボン微粒子a(平均粒子径0.2μm) 10部
・光重合開始剤 3部
(イルガキュア651:チバスペシャリティケミカルズ社)
・イソプロピルアルコール 230部
【0050】
[実施例2]
実施例1のハードコート塗料で、カーボン微粒子aの添加量を5部に変更し、ハードコート膜の厚みを1.5μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例2のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0051】
[実施例3]
実施例1のハードコート塗料で、カーボン微粒子aの添加量を3部に変更し、ハードコート膜の厚みを3μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例3のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0052】
[実施例4]
実施例1のハードコート塗料で、カーボン微粒子aの添加量を1部に変更し、ハードコート膜の厚みを10μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例4のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0053】
[実施例5]
実施例1のハードコート塗料で、カーボン微粒子aの添加量を0.5部に変更し、ハードコート膜の厚みを25μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例5のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0054】
[実施例6]
実施例4のハードコート塗料を用いて、ハードコート膜の厚みを1.5μmとした以外は実施例4と同様にして、実施例6のハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0055】
[実施例7]
実施例6のハードコート塗料で、紫外線吸収剤(TINUVIN400:チバスペシャリティケミカルズ社)3部を添加した以外は実施例6と同様にして、実施例7のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0056】
[実施例8]
実施例1のハードコート塗料で、カーボン微粒子aを色素系有機材料bとして1−Butyl−2−(2−[3−[2−(1−butyl−1H−benzo[cd]indol−2−ylidene)−ethylidene]−2−chloro−cyclohex−1−enyl]−vinyl)−benzo[cd]indolium tetrafluoroborate(S0734:FEW CHEMICALS社)に変更して添加量を4部とし、ハードコート膜の厚みを1.5μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例8のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0057】
[実施例9]
実施例6のハードコート塗料で、カーボン微粒子aをカーボン微粒子cとして平均粒子径0.8μmのカーボン微粒子に変更した以外は実施例6と同様にして、実施例9のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0058】
[実施例10]
実施例1のハードコート塗料で、下記実施例10の処方に変更し、ハードコート膜の厚みを1.5μmとした以外は実施例1と同様にして、実施例10のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0059】
なお、下記処方中のカーボン微粒子aの含有量は、電離放射線硬化型樹脂組成物100部に対し2部とした。
【0060】
<実施例10のハードコート塗料の処方>
・電離放射線硬化型樹脂組成物 46.5部
(固形分100%)
(ビームセット575:荒川化学工業社)
・カーボン微粒子a(平均粒子径0.2μm) 0.9部
・アクリル系樹脂ビーズ(平均粒子径2μm) 0.4部
・光重合開始剤 1.4部
(イルガキュア651:チバスペシャリティケミカルズ社)
・イソプロピルアルコール 200部
【0061】
[比較例1]
実施例1のハードコート塗料で、カーボン微粒子aを添加しなかったものを比較例1のハードコート塗料とした。次に、実施例1〜5と同様にして、厚み0.5μm、1.5μm、3μm、10μm、25μmの比較例1のハードコート膜A〜Eを形成し、比較例1のハードコートフィルム(成形体)A〜Eを作製した。
【0062】
また、上記の比較例1のハードコート塗料を、ポリエステルフィルム上に塗布、乾燥した後、高圧水銀灯で紫外線を上記の2倍照射し(照射量400mJ/cm2)、厚み0.5μm、1.5μm、3μm、10μm、25μmの比較例1のハードコート膜F〜Jを形成し、比較例1のハードコートフィルム(成形体)F〜Jを作製した。
【0063】
[比較例2]
実施例7のハードコート塗料で、カーボン微粒子aを添加しなかった以外は実施例7と同様にして、比較例2のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0064】
[比較例3]
実施例10のハードコート塗料で、カーボン微粒子aを添加しなかった以外は実施例10と同様にして、比較例3のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0065】
[比較例4]
比較例3のハードコート塗料で平均粒子径2μmのアクリル系樹脂ビーズを平均粒子径9μmのアクリル樹脂ビーズに変更し、厚み7μmのハードコート層とした以外は、比較例3と同様にして、比較例4のハードコート塗料、ハードコート膜、およびハードコートフィルム(成形体)を作製した。
【0066】
実施例1〜9、および比較例1、2で得られたハードコートフィルムについて、鉛筆硬度、耐擦傷性、透明性(全光線透過率、ヘーズ)について評価した。評価結果を表1に示す。また、実施例10および比較例3、4で得られたハードコートフィルムについては、上記と同様に鉛筆硬度、耐擦傷性、透明性(全光線透過率、ヘーズ)について評価すると共に、カラーディスプレイ画面上に使用した際のぎらつき防止性について評価した。結果を表2に示す。
【0067】
なお、表1、2中の微粒子aはカーボン微粒子a、有機材料bは色素系有機材料b、微粒子cはカーボン微粒子cを意味する。また、赤外線波長領域の光に吸収帯を持つ材料の含有量とは、電離放射線硬化型樹脂組成物100部に対する赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料の含有量を意味する。
【0068】
(1)鉛筆硬度の評価
実施例、および比較例のハードコートフィルムの鉛筆硬度を評価するため、JIS K5600−5−4:1999の鉛筆引っかき値の試験機法に基づいてすり傷の測定を行った。評価は、測定値が2H以上であったものを「◎」、Hであったものを「○」、Hより低かったものを「×」とした。
【0069】
(2)耐擦傷性の評価
実施例、および比較例で得られたハードコートフィルムのハードコート膜を有する面を、#0000のスチールウールを用いて、面積1cm2を300g荷重で10往復し、目視にてキズが確認されなかったものを「○」、キズが若干確認されたものを「△」、キズがはっきりと確認されたものを「×」とした。
【0070】
(3)透明性(全光線透過率、ヘーズ)の評価
実施例、および比較例のハードコートフィルムの全光線透過率を、JIS−K7361−1:2000に基づいて、ヘーズメーター(NDH2000:日本電飾社)を用いて測定し、測定値が90%以上であったものを「○」とした。なお、光を入射させる面はハードコート膜を有する面とした。
【0071】
また、実施例1のポリエステルフィルムのヘーズをJIS K7136:2000に基づきヘーズメーター(NDH2000:日本電色社)を用いて測定した。次に実施例、および比較例で得られたハードコートフィルムのヘーズを測定し、前記ポリエステルフィルムのヘーズとの差が5%未満であったものを「○」、5%以上10%未満であったものを「△」、10%以上であったものを「×」とした。なお、各ハードコートフィルムの光を入射させる面はハードコート膜を有する面とした。
【0072】
(4)カラーディスプレイ画面上でのぎらつき防止性の評価
実施例10および比較例3、4のハードコートフィルムについて、CRTディスプレイの表示画面をグリーン100%に画像表示させ、ディスプレイの表示画面に密着させて、目視にて評価した。評価は、ぎらつきがほとんどないものを「○」、ぎらつきが多量にあるものを「×」とした。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
表1、2の結果より、実施例のハードコートフィルムは、ハードコート膜が電離放射線硬化型樹脂組成物、および赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含むハードコート塗料から形成されたものであるため、十分な硬度を有するハードコート膜が得られた。
【0076】
特に、実施例1〜3、6〜10のハードコートフィルムは、ハードコート膜の厚みが0.1μm以上、5μm以下と薄膜のものであったが、ハードコート塗料中に赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を有することにより、空気中の酸素による硬化阻害を受けるよりも速い速度で電離放射線硬化型樹脂組成物の重合が進行し完了することができたため、十分な硬度を有するハードコート膜となった。
【0077】
また、実施例4のハードコートフィルムは、ハードコート膜の厚みが10μmと一般的な厚み(5μmを超え、20μm以下程度)のものであったが、ハードコート塗料中に赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を有するため、紫外線照射量が比較例1Iの半分であるにもかかわらず十分な硬度を有するハードコート膜となった。
【0078】
また、実施例5のハードコートフィルムは、ハードコート膜の厚みが25μmと一般的な厚みよりも厚膜化した(20μmを超え、30μm以下程度)ものであったが、ハードコート塗料中に赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を有することにより、電離放射線硬化型樹脂組成物の重合を促進することができたため、樹脂成分の未硬化による表面硬度の低下を防止することができた。
【0079】
また、実施例7のハードコート塗料は、紫外線吸収剤を有するものであったが、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を有することにより、電離放射線硬化型樹脂組成物の重合を促進することができたため、十分な硬度を有するハードコート膜となった。
【0080】
一方、比較例1A〜E、比較例2のハードコートフィルムは、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含まないハードコート塗料であったため、実施例と比べて表面硬度の劣るハードコート膜となった。
【0081】
特に、比較例1A〜C、F〜Hのハードコート膜は、ハードコート膜の厚みが0.1μm以上、5μm以下と薄膜のものであったため、空気中の酸素による硬化阻害を受けるよりも速い速度で電離放射線硬化型樹脂組成物の重合を進行させることができず、十分な硬度を有するハードコート膜を得ることができなかった。特に、比較例1F〜Hは、紫外線照射量を実施例の2倍としたが、実施例の1〜3よりも表面硬度の劣るものとなった。
【0082】
また、比較例1Iのハードコートフィルムは、紫外線照射量を実施例4の2倍としたため、実施例4と同様に表面硬度の優れたものとなったが、使用エネルギーを低減することができず、実施例4よりも作業性や生産性の劣るものとなった。
【0083】
また、比較例1E、Jのハードコートフィルムは、ハードコート膜の厚みが25μmと一般的な厚みよりも厚膜化した(20μmを超え、30μm以下程度)ものであったため、樹脂成分の未硬化により、十分な硬度を有するハードコート膜を得ることができなかった。また、比較例1Jは紫外線照射量を実施例の2倍としたが、実施例の5よりも表面硬度の劣るものとなった。
【0084】
また、実施例10および比較例3、4のハードコートフィルムについて、カラーディスプレイ画面上でのハードコート膜中の樹脂ビーズが輝点となることによって生じるぎらつき現象について評価したところ、実施例10、比較例3はハードコート膜を薄膜化させ、ぎらつき現象の原因となる樹脂ビーズの大きさを小さくすることができたため、ぎらつき防止性の良好なものとなったが、比較例3は、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含まないハードコート塗料であったため、実施例10と比べて、表面硬度の劣るものとなった。
【0085】
また、比較例4はハードコート膜を薄膜化せずに、ぎらつき現象の原因となる樹脂ビーズの大きさが9μmと実施例10よりも大きいものであったため、ぎらつき現象の生じるものとなった。また、赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含まないハードコート塗料であったため、実施例10と比べて、表面硬度の劣るものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線硬化型樹脂組成物、および赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料を含むことを特徴とするハードコート塗料。
【請求項2】
前記赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料の含有量は、電離放射線硬化型樹脂組成物100重量部に対し、0.1重量部以上、10重量部以下であることを特徴とする請求項1記載のハードコート塗料。
【請求項3】
前記赤外線波長領域(800nm〜2000nm)の光に吸収帯を持つ材料がカーボン微粒子であることを特徴とする請求項1または2記載のハードコート塗料。
【請求項4】
前記カーボン微粒子の平均粒子径は0.01μm以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求項3記載のハードコート塗料。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項記載のハードコート塗料を塗布、硬化させることにより形成されてなることを特徴とするハードコート膜。
【請求項6】
厚みが0.1μm以上、5μm以下である請求項5記載のハードコート膜。
【請求項7】
JIS K5600−5−4:1999における鉛筆引っかき値がH以上であることを特徴とする請求項5または6記載のハードコート膜。
【請求項8】
請求項5から7いずれか1項記載のハードコート膜を樹脂成形体の表面に有することを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2008−81688(P2008−81688A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266278(P2006−266278)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】