説明

ハードコート液、プラスチックレンズ及びこれらの製造方法

【課題】ハードコート液製造でチタニアゾルとジルコニアゾルの凝集を抑え、プラスチックレンズに形成した状態で、黄変を抑制することを目的とする。
【解決手段】プラスチックより成るレンズ基材上に成膜されるハードコート液の製造工程として、ルチル型チタニアゾルか、ジルコニアゾルのうちいずれか一方に、アルミ系触媒を添加する工程と、更に、アルミ系触媒を添加したルチル型チタニアゾル又はジルコニアゾルに、ジルコニアゾル又はルチル型チタニアゾルを添加する工程と、ルチル型チタニアゾル、アルミ系触媒及びジルコニアゾルを含む材料と、有機ケイ素化合物を1種以上含む材料と、を混合する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば眼鏡用のプラスチックレンズ、特に高屈折率のプラスチックレンズに用いて好適なハードコート液、プラスチックレンズ及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡用のプラスチックレンズとして、薄板化を達成するために高屈折率のプラスチックレンズが開発されている。プラスチックレンズはガラスレンズに比べて軽量で且つ加工が容易であり、衝撃にも比較的強いという利点を有するが、硬度が低いため耐擦傷性や耐候性に劣る。このため、特に眼鏡レンズとして提供する場合、ハードコートと呼ばれる硬化膜が施されるのが一般的である。眼鏡レンズの場合は反射防止膜が表面に形成されるが、ハードコートとの間に屈折率差があると干渉縞が発生するので、ハードコートの材料も高屈折率であることが求められる。
【0003】
このような高屈折率を達成するハードコート材料として、金属酸化物と有機ケイ素化合物、いわゆるシランカップリング材とを含むハードコート材が提案されている。例えば下記の特許文献1には、有機ケイ素化合物又はその加水分解物と、酸化チタン、酸化スズ及び酸化ジルコニウムから構成される複合酸化物ゾルとより成るコーティング組成物が開示され、耐擦傷性、表面硬度、耐摩耗性等の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−129102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されているような金属酸化物と有機ケイ素化合物とを含むハードコート材を用いる場合、高屈折率で且つ耐擦傷性に優れたハードコートが得られる。特に、金属酸化物としてチタニア(二酸化チタン、TiO)を用いる場合は、高い屈折率が得られるが、耐候性を考慮すると、ルチル型チタニアを用いることが望ましく、更に、ジルコニア(二酸化ジルコニウム、ZrO)を混合することが望ましい。つまり、ルチル型チタニアとジルコニアとを含む材料とすることで、高屈折率化と高耐候性とを両立して実現できるという効果がある。
【0006】
ところが、これらの材料であるルチル型チタニアゾルとジルコニアゾルとを混合すると、凝集が生じてしまう場合がある。これは各材料のpHが異なるためと思われる。したがって、例えばアミン類等を添加することによって、pHを調整することが考えられる。
しかしながら、アミン類の添加量が多くなると黄変が生じてしまい、すなわち黄色みの指標であるYI(Yellowness Index)値が増加してしまうという問題が生じる。
また、酸化チタンと酸化ジルコニウムから構成される複合酸化物を予め用意する場合、チタニアとジルコニアとの含有量比組成比)を調製内容に合わせて自由に選定しにくい。このため、高屈折率化と耐候性の確保とを考慮して、用途に合わせて容易に組成比を制御できるようにすることが求められている。
【0007】
他に、特許文献1にもあるように、ジルコニアを微量に含んでいるチタニアゾルについて、更にジルコニアの割合を単純に増やすということも考えられるが、複合酸化物ゾル中のジルコニアの割合を単純に増加すると、それにより得られるハードコートの屈折率が低下してしまう場合がある。例えば、屈折率向上に寄与するチタニアが、ジルコニアを含む複合物に覆われるような形で存在する場合は、高い屈折率の維持が難しくなる。したがって、屈折率を挙げる作用をもつチタニアと、耐候性向上を図る作用をもつジルコニアとは、別々の材料として存在していた方がそれぞれの機能を発揮できるという利点を有する。
【0008】
以上の問題に鑑みて、本発明は、ハードコートの高屈折率化と耐候性の向上に寄与するルチル型チタニア及びジルコニアを含む構成としつつ、製造過程での凝集を抑え、またハードコートをプラスチックレンズに形成した状態で、黄変を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によるプラスチックレンズの製造方法は、プラスチックより成るレンズ基材上に成膜されるハードコート液の製造工程として、
(1)ルチル型チタニアゾルと、ジルコニアゾルとを用意する工程と、
(2)ルチル型チタニアゾルか、ジルコニアゾルのうちいずれか一方に、アルミ系触媒を添加する工程と、
(3)更に、前記アルミ系触媒を添加した前記ルチル型チタニアゾル又はジルコニアゾルに、もう一方の前記ジルコニアゾル又はルチル型チタニアゾルを添加する工程と、
(4)前記ルチル型チタニアゾル、前記アルミ系触媒及び前記ジルコニアゾルを含む材料と、有機ケイ素化合物を1種以上含む材料と、を混合する工程と、を含み、
(5)前記ハードコート液を前記レンズ基材上に被着した後硬化する
ものである。
【0010】
また、本発明によるハードコート液の製造方法は、
(1´)ルチル型チタニアゾルと、ジルコニアゾルとを用意する工程と、
(2´)前記ルチル型チタニアゾルか、ジルコニアゾルのうちいずれか一方に、アルミ系触媒を添加する工程と、
(3´)更に、前記アルミ系触媒を添加した前記ルチル型チタニアゾル又はジルコニアゾルに、もう一方の前記ジルコニアゾル又はルチル型チタニアゾルを添加する工程と、
(4´)前記ルチル型チタニアゾル、前記アルミ系触媒及び前記ジルコニアゾルを含む材料と、有機ケイ素化合物を1種以上含む材料と、を混合する工程と、を含む
ものである。
【0011】
また、本発明によるプラスチックレンズは、プラスチックより成るレンズ基材上に、少なくともチタニア、ジルコニア、アルミ系触媒及び有機ケイ素化合物を含み、硬化後の例えば一日経過した状態で透明性を有し、且つ、硬化後の例えば一日経過した状態でYI値が2.0未満であるハードコート層が成膜されて成るものである。
【0012】
更に、本発明によるハードコート液は、ルチル型チタニアゾルと、ジルコニアゾルと、アルミ系触媒と、有機ケイ素化合物を含み、硬化1日後に透明性を有し、且つ、硬化1日後のYI値が2.0未満である。
【0013】
本発明においては、上述したように、チタニアとジルコニアとをゾルの状態で混合する際に、どちらか一方の材料に、アルミ系触媒を添加した後、他の材料を混合するものである。
このように、両方の材料を混合した後ではなく、どちらか一方の材料にアルミ系触媒を添加しておくことで、pHを適切に調整することができる。このようなアルミ系触媒としては、Al原子に少なくとも1つの配意結合を有するアルミキレートを用いることができる。したがって、これらの材料を混合したときの凝集を十分に抑制でき、ないしは回避することができる。また、アミン類等の添加量を抑制、ないしは回避できるので、黄変を抑制することが可能となる。
【0014】
そして、本発明によるハードコート液及びこれを成膜して成るプラスチックレンズは、そのハードコートにチタニア及びジルコニアを任意の組成比で含むので、ジルコニアのみを金属酸化物材料に含むハードコートを有する従来のプラスチックレンズと比べて高屈折率のハードコートを有するものとなり、且つ、チタニアのみを金属酸化物材料に含むハードコートを有するプラスチックレンズと比べて耐候性の低下が抑制され、黄変の指標であるYI値は2.0未満となり、すなわち黄変が抑制される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ルチル型チタニアとジルコニアとを含むハードコート液の製造過程において凝集の発生を抑え、また、プラスチックレンズ上にハードコートを形成した状態で、黄変を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態例に係るプラスチックレンズの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態例に係るプラスチックレンズの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明によるハードコート液の製造方法及びプラスチックレンズの製造方法は、眼鏡用のプラスチックレンズに好ましく適用できるが、その他のプラスチックレンズにも適用可能である。例えば眼鏡用のプラスチックレンズに適用する場合は、プラスチックより成るレンズ基材上に、必要に応じて密着性、耐衝撃性を向上させるプライマー層が形成され、その上に、本発明を適用して製造されるハードコート層が形成され、更に、少なくとも反射防止膜が形成されて構成される。
【0018】
本発明のプラスチックレンズに用いるレンズ基材としては、以下の材料を用いることができる。例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体等である。
特にレンズ基材の材料として、屈折率が1.6以上程度の比較的高屈折率な材料を用いてレンズを構成する場合に、本発明を好ましく適用することができる。
【0019】
また、プライマー層をレンズ基材とハードコート層との間に設ける場合、プライマー層の材料としては、レンズ基材とハードコート層との密着性及び耐衝撃性を高め、またレンズ基材を比較的高屈折率材料より構成する場合は、光学特性に影響を及ぼさない材料であればよい。プライマー層の形成方法としては、ディッピング法やスピンコート法、スプレー法等により塗布した後、加熱や光線照射等により硬化して形成することができる。
【0020】
ハードコート層の上に設ける反射防止膜としては、無機材料、有機材料いずれも使用可能であり、レンズ基材を高屈折率材料とする場合はその光学特性に影響を及ぼさない材料であればよい。無機材料より成る場合は真空蒸着法等によって形成し、有機材料より成る場合はディッピング法、スピンコーティング法等により塗布した後、加熱や光線照射等によって硬化して形成することができる。
【0021】
そして、ハードコート層を構成するハードコート液としては、ルチル型チタニアゾルと、ジルコニアゾルとを混合して作製する。なお、これらに加えて他の金属酸化物が添加されていてもよく、Al、Sb、Si、Ce、Fe、In、Sn、Zn、Ti、Zr等の金属のうち1種以上の酸化物、複合酸化物が挙げられる。なお、ルチル型チタニアゾルはZrを含む複合酸化物でもよく、また、ジルコニアゾルはTiを含む複合酸化物であってもよい。特に、CeO、ZnO、SnO、ITO(インジウム−スズ複合酸化物)を添加する場合は、これらを含むハードコート層全体の屈折率を比較的高くすることができるので、高屈折率のレンズ基材を用いる場合に、好適となる。
【0022】
また、この金属酸化物を分散させる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等公知の原料を用いることができる。
【0023】
そして、本発明においては、ルチル型チタニアゾルとジルコニアゾルとを混合する前に、いずれか一方の材料にアルミ系触媒を添加する。アルミ系触媒としては、特にアルミニウムキレートが好ましい。アルミニウムキレートとしては、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(下記の化1に示す)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)(下記の化2に示す)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(下記の化3に示す)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)(下記の化4に示す)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)(下記の化5に示す)、アルミニウム=モノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート(下記の化6に示す)等が挙げられる。このようなアルミ系触媒、特にアルミニウムキレートを用いる場合は、pH調整機能を有するので、上述したルチル型チタニアゾルとジルコニアゾルとを混合する場合の、pH値が異なることによって生じる凝集を抑制することが可能となる。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
また、有機ケイ素化合物としては、アミノ系、イソシアネート系、エポキシ系、アクリル系、ビニル系、メタクリル系、スチリル系、ウレイド系、メルカプト系のシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を用いる場合に好適である。例えば、下記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物、下記化7に示す一般式(2)で表わされる有機ケイ素化合物及びそれらの加水分解物の中から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0031】
(RSi(OR4−n・・・(1)
【0032】
一般式(1)において、Rは官能基(アミノ基・イソシアネート基・エポキシ基・アクリル基・ビニル基・メタクリル基・スチリル基・ウレイド基・メルカプト基)を有する1価の炭素数3〜20の炭化水素基であり、例えばγ−アミノプロピル基、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、N−フェニル−γ−アミノプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、β−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−アクリロキシプロピル基、ビニル基、γ−メタクリロキシプロピル基、p−スチリル基、γ−ウレイドプロピル基、γ−メルカプトプロピル基などが挙げられる。
【0033】
また一般式(1)においてRは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、又は炭素数2〜10のアシル基である。
前記Rの炭素数1〜8のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられ、アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられ、アシル基としては、例えばアセチル基などが挙げられる。
【0034】
一般式(1)において、nは1又は2の整数を示し、Rが複数ある場合には複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0035】
一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物の具体例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルジメトキシメチルシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルジエトキシメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルジメトキシメチルシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルジエトキシメチルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシメチルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルジメトキシメチルシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルジエトキシメチルシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルジメトキシメチルシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。
【0036】
【化7】

【0037】
一般式(2)において、R及びRは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数2〜4のアシル基であり、同一でも異なっていてもよく、R及びRは、それぞれ官能基を有するもしくは有しない炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。
前記R及びRのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられ、炭素数2〜4のアシル基としては、例えばアセチル基などが挙げられる。
【0038】
及びRの炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基及び炭素数2〜5のアルケニル基などが挙げられる。これらは直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などが挙げられ、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基などが挙げられる。
前記炭化水素基の官能基としては、例えば、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基などが挙げられる。
【0039】
一般式(2)において、Yは炭素数2〜20の2価の炭化水素基であり、炭素数2〜10のアルキレン基及びアルキリデン基が好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、エチリデン基、プロピリデン基などが挙げられる。
一般式(2)において、a及びbは、それぞれ0又は1の整数を示し、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよいし、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0040】
一般式(2)で表わされる有機ケイ素化合物の具体例としては、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)オクタンなどが挙げられ、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)エタンが好ましい。
【0041】
以上の材料のうち、本発明のプラスチックレンズの製造方法のハードコート液に用いる有機ケイ素化合物としては、エポキシ系、アクリル系、ビニル系、メタクリル系のシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上含むことが望ましい。
また他の有機ケイ素化合物として、アミノ系、イソシアネート系のシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上含むことが望ましい。
【0042】
これらの化合物の中でも、下記一般式(3)で表わされるアミノ基を有する有機ケイ素化合物及びそれらの加水分解物の中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0043】
(RSi(OR4−n・・・(3)
【0044】
一般式(3)において、Rはアミノ基を有する1価の炭素数1〜20の炭化水素基であり、例えば、γ−アミノプロピル基、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、N−フェニル−γ−アミノプロピル基などが挙げられる。
一般式(3)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、又は炭素数2〜10のアシル基であり、これら各基の例としては、前記Rと同様の例が挙げられる。
また一般式(3)において、nは1又は2の整数を示し、Rが複数ある場合には複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0045】
一般式(3)で表わされる有機ケイ素化合物の具体例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジエトキシメチルシランなどのアミノ系のシランカップリング剤が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルジエトキシメチルシランが好ましく、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシランがさらに好ましい。
【0047】
また、下記一般式(4)で表わされるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物及びそれらの加水分解物の中から選ばれる少なくとも1種以上を用いることが望ましい。
【0048】
(RSi(OR104−n・・・(4)
【0049】
一般式(4)において、Rはイソシアネート基を有する1価の炭素数1〜20の炭化水素基であり、例えば、イソシアネートメチル基、α−イソシアネートエチル基、β−イソシアネートエチル基、α−イソシアネートプロピル基、β−イソシアネートプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基などが挙げられる。
【0050】
一般式(4)において、R10は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、又は炭素数2〜10のアシル基であり、これら各基の例としては、前記Rと同様の例が挙げられる。
また一般式(4)において、nは1又は2の整数を示し、Rが複数ある場合には複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、複数のOR10はたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0051】
一般式(4)で表わされる化合物の例としては、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルジエトキシメチルシランなどのイソシアネート系シランカップリング剤が挙げられ、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリアルコキシシランが好ましい。
【0052】
更に、有機ケイ素化合物の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ダイアセトンアルコール、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等を用いることが望ましい。
【0053】
また、ハードコート液には、反応を促進するために他の硬化触媒、レンズ基材への塗布時の濡れ性を向上させ、平滑性を向上させる目的で各種の有機溶剤や界面活性剤(レベリング剤)を含有させることもできる。さらに、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等もハードコート層の物性に影響を与えない限り添加することができる。
【0054】
硬化触媒としては、特に限定されないが、アリルアミン、エチルアミンなどのアミン類、またルイス酸やルイス塩基を含む各種酸や塩基、例えば有機カルボン酸、クロム酸、次亜塩素酸、ホウ酸、過塩素酸、臭素酸、亜セレン酸、チオ硫酸、オルトケイ酸、チオシアン酸、亜硝酸、アルミン酸、炭酸などを有する塩又は金属塩、さらにジルコニウム、チタニウムを有する金属アルコキシド又はこれらの金属キレート化合物などが挙げられる。
【0055】
このようにして作製したハードコート液をレンズ基材上にディッピング法、スピンコート法、スプレー法等により成膜した後、加熱や光線照射等によって硬化して、レンズ基材上にハードコート層が形成される。
【0056】
次に、図1を参照して、本発明の実施の形態例に係るプラスチックレンズの製造方法を説明する。この例においては、ルチル型チタニアゾル及びジルコニアゾルを用いた2種の金属酸化物に、有機ケイ素化合物を含む材料を混合してハードコート液を作製する例を示す。
【0057】
図1に示すように、先ず、ルチル型チタニアゾル、ジルコニアゾルを、別々の容器内に用意する(ステップS11)。次に、一方のゾル、この場合ジルコニアゾルにアルミ系触媒を添加する(ステップS12)。更に、他方のゾル、この場合ルチル型チタニアゾルを添加する。その後、別の容器において用意しておいた有機ケイ素化合物を混合する(ステップS14)。なお、複数の有機ケイ素化合物を混合して用いる場合は、数回に分けて有機ケイ素化合物を添加してもよい。または、予め他の容器において複数の有機ケイ素化合物を混合してから添加してもよい。そして、レベリング剤等の他の添加剤を添加して、これによりハードコート液の調製が完成する(ステップS15)。
【0058】
次に、成形等によって作製し、表面の洗浄等の処理を施したプラスチックレンズを別途用意し、プラスチックレンズ基材の表面にハードコート液を塗布、浸漬等により被着する(ステップS16)。なお、レンズとハードコート層との間に、密着性、耐衝撃性を高めるためにプライマー層等を設ける場合は、レンズ基材の表面にこのプライマー層等を被着した後、ハードコート液を被着する。その後、加熱、紫外線照射等によってハードコート液を硬化する(ステップS17)。図示しないが、更にその上に反射防止膜等を成膜して、プラスチックレンズの製造工程が終了する。
【0059】
なお、ルチル型チタニアゾル、ジルコニアゾル、アルミ系触媒を混合する順番は、図1に示される例のみではなく、図2に示すように、ルチル型チタニアゾルにアルミ系触媒を添加し、その後、ジルコニアゾルを添加してもよい。この例においては、先ず、ルチル型チタニアゾル、ジルコニアゾルを用意する(ステップS21)。そして、ルチル型チタニアゾルにアルミ系触媒を添加する(ステップS22)。その後、ジルコニアゾルを添加する(ステップS23)。更に、別途用意しておいた有機ケイ素化合物を含む材料を混合する(ステップS24)。そして、レベリング剤等の添加剤を更に添加して(ステップS25)、これによりハードコート液の調製が完成する。その後、別途用意しておいたプラスチックレンズ基材に、ハードコート液を被着し(ステップS26)、ハードコート液を硬化する(ステップS27)。この後、図示しないが反射防止膜等を更に形成して、プラスチックレンズの製造工程が終了する。
【0060】
次に、ルチル型チタニアゾルとジルコニアゾルの2つの金属酸化物材料を用い、3種の有機ケイ素化合物と混合させて試料を作成した実施例及び比較例について説明する。実施例においては、有機ケイ素化合物の材料や混合比を変え、比較例においては触媒を添加する順番などの条件を変えてハードコート液を調製した。調製後に、プラスチックレンズ基材の表面に被着して硬化し、プラスチックレンズを製造した。そして、調製中のハードコート液中の凝集の有無、レンズ製造後における透明性、YI値、耐擦傷性、耐衝撃性についてそれぞれ評価を行った。
【0061】
[1]実施例1
先ず、有機ケイ素化合物の調製を下記の要領で行った。室温以下の温度条件、この場合30℃として、第1の容器に、有機ケイ素化合物の溶媒として、DAA(ダイアセトンアルコール)を用意した。ここに、先ず第1の有機ケイ素化合物として、γ−APS(γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名A−1110)を添加し、撹拌を開始した。その後、他の有機ケイ素化合物として、γ−IPS(γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名Y−5187)を滴下し、撹拌を続けた。数時間撹拌して、これらの材料の反応を終了させた後、他の有機ケイ素化合物として、γ−GPS(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名KBM403)を添加し、反応が終了するまで撹拌を続け、有機ケイ素化合物材料を完成した。
【0062】
次に、5℃雰囲気下で、第2の容器に、金属酸化物を含む材料として粒子状のZrOを含む材料を用意した。この材料としては、日産化学工業株式会社製の商品名HZ−407MHを、メタノールに40重量%分散させたゾル状の材料(ZrOゾル)を用いた。この材料のpH値は7程度である。
そしてこの第2の容器に蒸留水を添加し、更に、アミン系材料としてDIBA(ジイソブチルアミン)を添加した。
キレートによるpH調整の際、2番目に入れるゾルの前に蒸留水を添加しておいたほうが、よりゾルの分散安定性が優れている。また、ゾルに水を添加する際、分散溶媒として添加したメタノールと水が、混合時に熱の発生を伴うため、この段階での温度制御が重要となってくる。
室温(30℃程度)より高い状態で混合を行なった場合、ゾルの分散安定性が不安定になり、プラスチックレンズ表面に被着、硬化した際、クモリを生じやすい。したがって、室温以下、具体的には30℃以下の温度で、ルチル型チタニアゾル又はジルコニアゾルを含む材料に対して後述するようにアルミ系触媒を添加することが好ましいといえる。また、0℃未満に冷却しても特に効果は得られず、むしろコスト面で不利となる。したがって、アルミ系触媒を添加する工程の温度としては、0℃以上30℃以下とすることが望ましい。
【0063】
このジルコニアゾル材料に、硬化用のアルミ系触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトネート(川研ファインケミカル株式会社製、商品名アルミキレートA(W))を添加した。これにより、材料のpH値が8〜11程度となる。
【0064】
次に、ルチル型チタニアゾル(R−TiOゾル)として、触媒化成工業株式会社製の商品名オプトレイク2120Zを、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)に分散させたゾル状の材料を添加した。なお、PGMを用いる場合は、PGMの粘性が比較的高いので、ハードコート層の膜厚を厚く形成することが可能となるという利点を有する。
【0065】
上述したルチル型チタニアゾルのpHは3.5〜4.5程度であるが、弱アルカリまで分散安定性は良好なので、上述したようにpH8〜11程度とした溶液に添加しても凝集が殆ど生じない。ルチル型チタニアゾルを添加した結果、第2の容器内の材料のpHは6程度となる。なお、アルミ系触媒を添加することなくルチル型チタニアゾルを添加すると、pHが4〜5程度となってしまい、ジルコニアゾルが凝集してしまう。しかしながら、このように、一方の金属酸化物ゾルに予めアルミ系触媒を添加し、その後に他方の金属酸化物ゾルを添加することによって、凝集の発生を十分抑制ないしは回避することができる。
【0066】
そして、第1の容器において混合した有機ケイ素化合物を含む材料を、第2の容器内で混合した、金属酸化物を含む材料に混合する。第2の容器にて混合した材料は、適量の水が添加された弱酸性溶液なので、第1の容器において混合した有機ケイ素化合物を含む材料を混合することにより、徐々に加水分解が進行する。
【0067】
最後に、表面の平滑性を良好にするために、レベリング剤を添加した。この例では、レベリング剤として東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名Y7006をPGMで希釈した材料を用いた。なお、溶媒として一般的な材料であるアルコール系溶媒は揮発性が高く、液粘度が非常に低いので、膜を3μm以上とすることが困難であったが、PGMを用いることで、3μm以上の膜厚を含め所望の膜厚に形成することが可能となる。
以上の材料を、適切な時間(例えば3〜14日間、本例では8日間)かけて徐々に加水分解し、ハードコート液を調製した。
【0068】
なお、下記の表1に、この実施例1を含む各実施例、比較例における各材料の混合比率(重量%)を示す。
【0069】
【表1】

【0070】
このハードコート液を、チオウレタン及びエピチオ樹脂(HOYA(株)製、商品名EYRY、屈折率1.70)より成るレンズ基材の表面にディッピング法により塗布し、110℃、1時間の熱硬化を行ってハードコート層を形成し、更に反射防止膜を真空蒸着法により成膜して、ハードコート層を設けたプラスチックレンズを作製した。なお、反射防止膜は、SiO及びTaを交互に積層した積層膜より構成した。
【0071】
[2]実施例2
この例においては、実施例1と同様の材料を用いたが、上記表1中の実施例2の欄に示すように、上述の有機ケイ素化合物に含まれるγ−APS(γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)及びγ−IPS(γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン)の混合比のみを変えてハードコート液を調製した。そしてこのハードコート液を用いてハードコート層を有するプラスチックレンズを作製した。
【0072】
[3]実施例3
この例においては、実施例1及び2において用いた有機ケイ素化合物γ−APS(γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)及びγ−IPS(γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン)に換えて、γ−APS(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名_A−1100)及びγ−IPS(γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名_A−1310)を用いてハードコート液を調製した。なお、その他の材料及び混合する順番等は実施例1及び2と同様とした。混合比は、上記表1の実施例3の欄に示す通りである。
【0073】
[4]実施例4
この例においては、実施例3と同様の材料を用いたが、上記表1中実施例4の欄に示すように、γ−APSとγ−IPSの混合比を変え、その他の材料、混合比及び混合する順番等は実施例1〜3と同様として、ハードコート液を調製した。
【0074】
[5]実施例5
この例においては、実施例1と同様の材料を用いたが、上記表1中実施例5の欄に示すように、DIBAを用いずに、その他の材料、蒸留水以外の混合比及び混合する順番等は実施例1と同様として、ハードコート液を調製した。
【0075】
[6]比較例1
この例においては、実施例1及び2と同様の材料を用いたが、上記表1中比較例1欄に示すように、DIBAの添加量を、0.10質量%に増加して、ハードコート液を調製した。増加量に対応して蒸留水の混合比を減少し、その他の材料の混合割合や、混合する順番は実施例1と同様とした。
【0076】
[7]比較例2
この例においては、実施例1と同様の材料、混合割合としたが、アルミ系触媒を添加する工程を、ジルコニアゾルにルチル型チタニアゾルを添加した後に行った。その他の製造工程は実施例1と同様として、ハードコート液を調製した。
[8]比較例3
この例においては、実施例1と同様の材料、混合割合としたが、室温(30℃)以下でアルミ系触媒を添加する工程を、50℃にて行った。その他の製造工程は実施例1と同様として、ハードコート液を調製した。
【0077】
[9]比較例4
この例においては、実施例1のジルコニアゾルの代わりに、ルチル型チタニアゾルを同量添加した以外は実施例1と同様とし、ハードコート液を、調製した。
【0078】
このようにして作製した実施例1〜5、比較例1〜4によるハードコート液、及びこれを用いて作製したハードコート層を備えるプラスチックレンズに対して、下記の通りの評価を行った。
【0079】
<評価方法>
1.混合液の凝集の有無
ハードコート液の調製工程において、ルチル型チタニアゾルを添加した状態で、凝集の有/無についての評価を目視にて確認した。
【0080】
2.透明性確認
作製して1日が経過したプラスチックレンズにおいて、目視にてレンズのクモリ、異物の有無を確認した。評価は下記の通りとした。
○:クモリ、異物がなく製品上問題ない。
×:クモリ、異物が確認できる。
【0081】
3.YI値
熱硬化工程1日経過後のレンズに対して、YI値を分光光度計((株)日立製作所製)にて測定し、レンズの黄色変化の程度を調べた。黄色変化の評価としては、YI値を基に4段階に分類し、下記の通りとした。
◎:2.0未満
〇:2.0以上2.5未満
△:2.5以上3.0未満
×:3.0以上
【0082】
4.スクラッチ試験
スチールウール(#0000)を使用して、4kg荷重状態でプラスチックレンズ表面を20往復擦過し、レンズ表面の擦傷状態を目視にて確認した。評価は下記の通りである。
◎:ほとんど傷がつかない。
○:10本未満の傷が入る。
△:10本以上〜30本未満の傷が入る。
×:30本以上の傷が入る。
【0083】
5.耐衝撃性
レンズ中心部厚さが1.0mm又は2.0mm(CTと記載する)で、レンズ度数パワ−が0.00D(ディオプター)のレンズを作製して、アメリカ食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)で定められているドロップボールテストを行い、以下の基準で評価した。
○:合格
×:不合格
【0084】
なお、ボ−ルの重さは16gであった。合格の基準は、ドロップボールテスト後、レンズの皹(ヒビ)または割れが生じたものを不合格、ドロップボールテスト前とレンズの外観が変わらないものを合格とした。
【0085】
6.耐候性
硬化膜を有するプラスチックレンズをキセノンロングライフウェザーメーター(スガ試験機(株)製)中に200時間照射を行い、外観の変化を目視で調べた。
○:異状なし
×:クラック有り
【0086】
以上の評価結果を下記の表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2の結果から、実施例1〜5においては、ハードコート液の製造過程における凝集を確実に抑制できることがわかる。また、透明性は十分良好であり、黄変の度合いを示すYI値も2.0未満に抑制でき、すなわち黄変を確実に抑制することができる。また、耐擦傷性に優れ、耐衝撃性もFDAで定める基準に合格することがわかる。
【0089】
一方、比較例1においては、ハードコート液製造中に凝集は見られないものの、DIBAすなわちアミン系材料を多くしたためYI値が2.5以上となり、黄変が生じることがわかる。また、耐擦傷性においても良好な結果が得られない。
更に、比較例2においては、アルミ系触媒を、ジルコニアゾルとチタニアゾルとを混合した後に添加するため、チタニアゾルを添加した時点で凝集が生じることがわかる。透明性も不十分であり、耐擦傷性についても、実用上問題が有る結果が得られた。
【0090】
また、比較例3においては、30℃を超える温度でアルミ系触媒を混合したところ、透明性が損なわれるという結果が得られた。これに対し、実施例1〜5においては、30℃程度の室温以下とすることで良好な結果となった。したがって、室温以下、具体的には30℃以下でアルミ系触媒を添加することが望ましいことがわかる。
【0091】
更に、比較例4においては、ジルコニアゾルを用いることなくチタニアゾルのみを用いてハードコート液を調製したところ、耐候性において問題となることがわかった。したがって、良好な耐候性を得るためにはジルコニアゾルをある程度添加する必要があることがわかる。本発明の製造方法を利用することで、チタニアゾルとジルコニアゾルとを混合するにあたり凝集を防ぎ、良好な光学的特性を保持したハードコート液の調製が可能となる。
【0092】
またその添加割合は、耐候性の向上を図るためには全体量に対して4質量%以上とすることが好ましい。一方、ジルコニアゾルの割合が多くなりすぎると屈折率が上がらず、目的とする高屈折率のハードコート層が得られなくなってしまう。このため、ジルコニアゾルの添加量としては全体量に対して50質量%以下とすることが好ましい。すなわち、良好な光学特性と耐候性、耐擦傷性及び耐衝撃性を得るためには、ハードコート調製液中のジルコニアゾルの割合を4質量%以上50質量%以下とすることが好ましいといえる。
【0093】
また、実施例1〜5及び比較例1〜3と、比較例4との結果から、チタニアゾルとジルコニアゾルとの混合比を50:50に近くすることで耐候性が確実に良好に得られることがわかる。チタニアゾル中のチタニアの含有量、ジルコニアゾル中のジルコニア含有量や、目的とする屈折率にもよるが、調製中の凝集を確実に抑え、且つ、より確実に好ましい耐候性を得るには、少なくともジルコニアゾルの添加量として、チタニアゾルとジルコニアゾルの混合量を100としたときに20%を超え、80%未満とすることが好ましい。
【0094】
以上の結果から、本発明のハードコート液の製造方法による場合は、製造過程で凝集の発生を確実に抑制できることがわかる。また、本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、透明性が十分であり、またYI値が2.0未満となって黄変を十分抑制できる。更に、耐擦傷性及び耐衝撃性においても良好な特性が得られることがわかる。
【0095】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックより成るレンズ基材上に成膜されるハードコート液の製造工程として、
ルチル型チタニアゾルと、ジルコニアゾルとを用意する工程と、
前記ルチル型チタニアゾルか、ジルコニアゾルのうちいずれか一方に、アルミ系触媒を添加する工程と、
更に、前記アルミ系触媒を添加した前記ルチル型チタニアゾル又はジルコニアゾルに、もう一方の前記ジルコニアゾル又はルチル型チタニアゾルを添加する工程と、
前記ルチル型チタニアゾル、前記アルミ系触媒及び前記ジルコニアゾルを含む材料と、有機ケイ素化合物を1種以上含む材料と、を混合する工程と、を含み、
前記ハードコート液を前記レンズ基材上に被着した後硬化する
プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記アルミ系触媒として、アルミキレートを用いる請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記アルミキレートは、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウム=モノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテートのうちいずれか1種以上である請求項2に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記アルミ系触媒を添加する工程を、室温以下で行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記アルミ系触媒に加え、脂肪族アミンを添加する請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物が、アミノ系、イソシアネート系、エポキシ系、アクリル系、ビニル系、メタクリル系、スチリル系、ウレイド系、メルカプト系のシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項7】
ルチル型チタニアゾルと、ジルコニアゾルとを用意する工程と、
前記ルチル型チタニアゾルか、ジルコニアゾルのうちいずれか一方に、アルミ系触媒を添加する工程と、
更に、前記アルミ系触媒を添加した前記ルチル型チタニアゾル又はジルコニアゾルに、もう一方の前記ジルコニアゾル又はルチル型チタニアゾルを添加する工程と、
前記ルチル型チタニアゾル、前記アルミ系触媒及び前記ジルコニアゾルを含む材料と、有機ケイ素化合物を1種以上含む材料と、を混合する工程と、を含む
ハードコート液の製造方法。
【請求項8】
プラスチックより成るレンズ基材上に、少なくともチタニア、ジルコニア、アルミ系触媒及び有機ケイ素化合物を含み、硬化後に透明性を有し、且つ、硬化後のYI値が2.0未満であるハードコート層が成膜されて成る
プラスチックレンズ。
【請求項9】
ルチル型チタニアゾルと、ジルコニアゾルと、アルミ系触媒と、有機ケイ素化合物を含み、
硬化後に透明性を有し、且つ、硬化後のYI値が2.0未満である
ハードコート液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−33044(P2010−33044A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150235(P2009−150235)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】