説明

ハードコート用樹脂組成物、ハードコート用樹脂組成物の製造方法、及び反射防止コーティング基材

【課題】一回のコーティングで低反射機能とハードコート機能を付与した被膜を形成できるハードコート用樹脂組成物及びその製造方法、並びにハードコート用樹脂組成物を用いた反射防止コーティング基材を提供する。
【解決手段】多疎水鎖多親水基型界面活性剤と、マトリックス形成樹脂と、マトリックス形成樹脂よりも屈折率が低い低屈折率粒子とを含有する。低屈折率粒子の含有量が樹脂組成物の固形分全量に対して10〜40質量%である。また、多疎水鎖多親水基型界面活性剤と低屈折率粒子とを溶媒で混合して分散液を作製した後、前記分散液にマトリックス形成樹脂を混合することによって、ハードコート用樹脂組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低反射被膜を形成するために用いるハードコート用樹脂組成物及びその製造方法、並びにそのハードコート用樹脂組成物を塗装した反射防止コーティング基材に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムやレンズ等のプラスチック透明基材の耐擦傷性を向上するため、基材表面にハードコート膜を形成することが知られている。しかしながら、このハードコート膜は、通常、基材よりも屈折率が高く、光を反射してしまい透明基材の特性を悪化させるという問題があった。そのため、基材表面の反射を低減させる目的で、ハードコート膜の最表面に、さらに低屈折率の被膜(低屈折率層)を形成する技術が知られている。
【0003】
低屈折率層は、例えば、コート法、蒸着法、CVD法等によって、フッ素樹脂、フッ化マグネシウムのような低屈折率の物質の被膜をガラスやプラスチックの基材表面に形成したり、シリカ微粒子等の低屈折率微粒子を含む塗布液を基材表面に塗布したりすることによって得られるものである。そして、このような方法で低屈折率層をハードコート層の上に形成することにより、透明基材に低反射のハードコーティングを行うことができるものである。
【0004】
近年、上記のようなハードコート層を形成した後に、低屈折率層を形成するという方法では、少なくとも二層のコーティングが必要であり工程数が増加するため、より工程を簡略化する目的で、一層のコーティングであたかも二層を形成して低屈折率機能とハードコート機能とを付与するコーティング技術が開発されている(例えば特許文献1〜3)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、表面処理され、電荷量が特定の範囲の微粒子を用いなければならず、この微粒子の調製に手間がかかるものであった。また、特許文献2の技術では、屈折率の異なる二種類の粒子を用いると共に、粒子を層内で偏在化させるために低屈折率の粒子を化学修飾しなければならず、簡単にコーティングをすることができなかった。また、特許文献3の技術では、表面付近に空孔が集中するようにハードコート層を形成しなければならず、簡単にハードコート層を製造することができなかった。
【0006】
このように従来の一回のコーティングにより多機能の被膜を得るという技術では、二層を形成する場合よりもかえって工程が増大したり、手間がかかったり、製造コストが増大したりして、生産性が低下するおそれがあるという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−291174号公報
【特許文献2】特開2007−133236号公報
【特許文献3】特開2008−296421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、一回のコーティングで低反射機能とハードコート機能を付与した被膜を形成できるハードコート用樹脂組成物及びその製造方法、並びにハードコート用樹脂組成物を用いた反射防止コーティング基材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のハードコート用樹脂組成物は、多疎水鎖多親水基型界面活性剤と、マトリックス形成樹脂と、マトリックス形成樹脂よりも屈折率が低い低屈折率粒子とを含有し、低屈折率粒子の含有量が樹脂組成物の固形分全量に対して10〜40質量%であることを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、多疎水鎖多親水基型界面活性剤が低屈折率粒子の自由エネルギーを有効に低下させるので、低屈折率粒子をハードコート層の表面に偏在化させることができ、一回の塗装工程で低反射のハードコート層を形成することができる。
【0011】
また、多疎水鎖多親水基型界面活性剤は、対応するモノマー型のイオン性界面活性剤よりも吸着膜形成能が100〜1000倍であり、ミセル形成能が10〜100倍である。したがって、従来型の界面活性剤(モノマー型の界面活性剤)と比較して少量の添加量でも高い効果を得ることができる。また、界面活性剤(成膜成分ではない成分)を添加することにより、耐水性や耐磨耗性などの塗膜性能が悪化する可能性が考えられるが、使用量が少なくてすむため塗膜性能の悪化を抑えることができる。
【0012】
上記構成のハードコート用樹脂組成物においては、多疎水鎖多親水基型界面活性剤の含有量が、樹脂組成物の固形分全量に対して0.001〜0.01質量%であることが好ましい。それにより、低屈折率粒子をより確実に表面に偏在化させて、低反射のハードコート層を容易に形成することができる。また、マトリックス形成樹脂の屈折率が1.5〜2.0であることが好ましい。それにより、ハードコート層の耐擦傷性を向上させ、低反射で強度の高いハードコート層を形成することができる。
【0013】
本発明のハードコート用樹脂組成物の製造方法は、上記構成のハードコート用樹脂組成物の製造方法であって、多疎水鎖多親水基型界面活性剤と低屈折率粒子とを溶媒で混合して分散液を作製した後、前記分散液にマトリックス形成樹脂を混合することを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、多疎水鎖多親水基型界面活性剤と低屈折率粒子とをあらかじめ溶媒に混合することにより、低屈折率粒子の自由エネルギーを有効に低下させることができ、低屈折率粒子を偏在化させるハードコート用樹脂組成物を製造することができる。
【0015】
本発明の反射防止コーティング基材は、基材の上に、マトリックス形成樹脂と、マトリックス形成樹脂よりも屈折率が低い低屈折率粒子とを含むハードコート層が形成された反射防止コーティング基材であって、ハードコート層が、多疎水鎖多親水基型界面活性剤を含むと共に基材と反対側の表面に低屈折率粒子が偏在しているものであることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、マトリックス樹脂により強度の高いハードコート層が形成されると共に、低屈折率粒子がこのハードコート層の表面に偏在しているので、低反射で耐擦傷性の優れるハードコート層が形成された反射防止コーティング基材を得ることができる。
【0017】
上記構成の反射防止コーティング基材においては、ハードコート層の最小反射率が0.5%以上3.0%以下であることが好ましい。それにより、透明基材の特性を低下させることなく低反射にすることができ、反射防止性能がより優れた反射防止コーティング基材を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多疎水鎖多親水基型界面活性剤が低屈折率粒子の自由エネルギーを有効に低下させるので、低屈折率粒子をハードコート層の表面に偏在化させることができ、一回の塗装工程で低反射かつ耐擦傷性の優れたハードコート層を形成することができる。
【0019】
また、多疎水鎖多親水基型界面活性剤は、対応するモノマー型のイオン性界面活性剤よりも吸着膜形成能が100〜1000倍であり、ミセル形成能が10〜100倍である。したがって、従来型の界面活性剤(モノマー型の界面活性剤)と比較して少量の添加量でも高い効果を得ることができる。また、界面活性剤(成膜成分ではない成分)を添加することにより、耐水性や耐磨耗性などの塗膜性能が悪化する可能性が考えられるが、使用量が少なくてすむため塗膜性能の悪化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の反射防止コーティング基材の一例を示す断面図である。
【図2】(a)は従来型の界面活性剤、(b)はジェミニ型界面活性剤、(c)はトリメリック型界面活性剤の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のハードコート用樹脂組成物は、多疎水鎖多親水基型界面活性剤と、マトリックス形成樹脂と、低屈折率粒子とを含有するものである。
【0022】
マトリックス形成樹脂は、ハードコート層を形成するための樹脂である。塗膜の硬度を向上させるためには、反応性硬化性樹脂、すなわち熱硬化型樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方をマトリックス形成樹脂として用いることが好ましい。
【0023】
熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を使用することができ、これらの熱硬化性樹脂に必要に応じて架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、溶剤を加えて使用することもできる。
【0024】
また、電離放射線硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリレート系の官能基を有する樹脂を使用することができる。例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマーを使用することができ、これらの樹脂に反応性希釈剤として、エチル(メタ)アクリレート、エチルへキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、へキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールへキサ(メタ)アクリレート、1,6−へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものを使用することができる。
【0025】
上記の電離放射線硬化型樹脂として紫外線硬化型樹脂を用いる場合は、樹脂組成物中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類などを例示することができる。また、光重合開始剤に加えて光増感剤を配合してもよい。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、チオキサントンなどを例示することができる。
【0026】
ハードコート用樹脂組成物におけるマトリックス形成樹脂の含有量は、樹脂組成物の固形分全量に対して60〜90質量%の範囲であることが好ましい。マトリックス形成樹脂をこの範囲で配合することにより、反射防止性能と耐擦傷性能とを確実に発揮することができる。マトリックス形成樹脂の含有量がこの範囲より少ないと、耐擦傷性が低下するおそれがある。一方、マトリックス形成樹脂の含有量がこの範囲より多いと、反射防止性能が低下するおそれがある。
【0027】
マトリックス形成樹脂の屈折率は1.5〜2.0の範囲であることが好ましい。屈折率がこの範囲より外れると反射防止性能が得られなくなるおそれがある。マトリックス形成樹脂の屈折率は、例えば、エリプソメトリ、分光反射・透過率測定値からのシミュレーションなどにより得ることができる。具体的には、エリプソメトリによる屈折率測定方法では、低屈折率粒子を含まないマトリックス形成樹脂組成物を透明基材にコーティングして形成された層について、エリプソメーターを用いて測定することにより、マトリックス形成樹脂の屈折率を得ることができる。その際に塗装する透明基材の屈折率は、マトリックス樹脂組成物の屈折率と異なる方が望ましい。
【0028】
低屈折率粒子は、マトリックス形成樹脂よりも屈折率が低い粒子である。低屈折率粒子の含有量は、樹脂組成物の固形分全量に対して10〜40質量%である。低屈折率粒子の含有量がこの範囲になることにより、反射防止性能と耐擦傷性能とを確実に発揮することができる。低屈折率粒子の含有量がこの範囲より少ないと、反射防止性能が低下するおそれがある。一方、低屈折率粒子の含有量がこの範囲より多いと、耐擦傷性が低下するおそれがある。
【0029】
また、低屈折率粒子の屈折率としては、1.2〜1.4の範囲であることが好ましい。屈折率がこの範囲になることにより反射防止性能と耐擦傷性能とを確実に発揮することができるものである。低屈折率粒子の屈折率がこの範囲より小さいと、耐擦傷性が低下するおそれがある。一方、低屈折率粒子の屈折率がこの範囲より大きいと、反射防止性能が低下するおそれがある。また、上記のマトリックス形成樹脂と低屈折率粒子の屈折率の差は、0.1〜0.5であることが好ましい。屈折率の差がこの範囲になることにより、反射防止性能と耐擦傷性能とをさらに確実に発揮することができるものである。
【0030】
低屈折率粒子としては、シリカ粒子やフッ化物粒子を用いることが好ましく、具体的には、例えば、シリカ微粒子、中空シリカ微粒子、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化力ルシウム、フッ化ナトリウム等のフッ化物微粒子を用いることができる。これらの微粒子を1種類で、もしくは2種類以上を混合して使用することができる。その際、微粒子の少なくとも一つが中空粒子であることが好ましい。
【0031】
中空粒子は、金属酸化物や無機酸化物などから形成された外殻の内部に空洞が形成された粒子である。中空粒子としては、このようなものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、シリカ系無機酸化物からなる外殻(シェル)の内部に空洞を有した中空シリカ微粒子を用いることが好ましい。シリカ系無機酸化物とは、シリカ単一層や、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物の単一層などを包含するものをいう。外殻は細孔を有する多孔質なものであっても、細孔が閉塞されて空洞を密封したものであってもよい。外殻の厚みは、平均粒子径の1/50〜1/5の範囲であることが好ましい。外殻の厚みが1/5の範囲を超えると、中空シリカ微粒子中の空洞の割合が減少して屈折率の低下が不十分となるおそれがある。
【0032】
低屈折率粒子の形状は球状であっても、異形状であってもよい。低屈折率粒子の平均一次粒子径としては100nm未満であることが好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。低屈折率粒子の平均一次粒子径が100nmを超えると、ハードコート層の透明性が低下するおそれがある。粒子径の下限は実質的に20nmである。
【0033】
上記のようなマトリックス形成樹脂と低屈折率粒子とを含む樹脂組成物に、本発明では、さらに多疎水鎖多親水基型界面活性剤を含有するものである。
【0034】
多疎水鎖親水基型界面活性剤とは、1分子内に2以上の疎水基と2以上の親水基を有する界面活性剤である。このうち、2つの疎水基と2つの親水基を有するものがジェミニ型界面活性剤、3つの疎水基と3つの親水基を有するものがトリメリック型界面活性剤、4つの疎水基と4つの親水基を有するものがテトラメリック型界面活性剤と呼ばれている。
【0035】
図2(a)〜(c)は、従来型の界面活性剤1及び多疎水鎖親水基型界面活性剤2の化学構造の一例を示す概略図であり、(a)は従来型の界面活性剤1、(b)はジェミニ型界面活性剤2a、(c)はトリメリック型界面活性剤2bを示している。従来型の界面活性剤1では、親水基3と疎水基4とを有する分子構造となっている。それに対し、多疎水鎖親水基型界面活性剤2では、親水基3と疎水基4とを有する二つの両親媒性分子5(従来型の界面活性剤1と同じ構造)が、親水基3又は親水基3の近くで連結基6によって連結された構造を有している。このうち、ジェミニ型では二つの両親媒性分子5が連結され、トリメリック型では三つの両親媒性分子5が連結されている。
【0036】
親水基3及び疎水基4としては、従来から知られている構造のものを適宜用いることができる。例えば、親水基3としては、陰イオン性、陽イオン性、両性、非イオン性などの親水構造を有するものを用いることができ、また、疎水基4としては、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系などの疎水構造を有するものを用いることができる。
【0037】
多疎水鎖親水基型界面活性剤は、従来型の界面活性剤に比べて臨界ミセル濃度(cmc)が小さい、水の表面張力あるいは油/水界面における界面張力の低下能に優れている、短い連結基のものは粘弾性が極めて高い、水溶液での会合挙動が特異的である、などの特徴を有している。
【0038】
本発明は、ハードコート用樹脂組成物中に多疎水鎖親水基型界面活性剤を配合すれば、低屈折率粒子が効果的に偏在化されることを見出してなされたものである。この偏在化は、多疎水鎖多親水基界面活性剤が樹脂組成物中で低屈折率粒子を中心とするミセル構造を形成するためであると考えられる。このミセル構造は、親水基を低屈折率粒子側に配向し、疎水基を外部に配向したものである。そして、このようにミセル構造が形成された低屈折率粒子は表面自由エネルギーが低下するため、基材と反対側の外部表面に集まりやすくなる。それに加え、ハードコート層の乾燥工程においては、基材に近い側からマトリックス形成樹脂が乾燥して低屈折率粒子を含まない内部層が形成されると共に、この内部層の形成によりハードコート層の外部表面にさらに低屈折率粒子が集められる。このようにして、基材と反対側の表面に低屈折率粒子を集めながら層の内部から順次乾燥されることにより、表面に低屈折率粒子が偏在化したハードコート層を形成できるものである。
【0039】
また、多疎水鎖多親水基型界面活性剤は、対応するモノマーイオン性界面活性剤よりも吸着膜形成能が100〜1000倍であり、ミセル形成能が10〜100倍である。すなわち、図2(b)及び(c)のような多疎水鎖親水基型界面活性剤2は、親水基3及び疎水基4として同じ構造を有する従来型の界面活性剤1と比較した場合、格段に吸着膜形成能及びミセル形成能が優れている。したがって、従来型の界面活性剤1のような通常のモノマー型の界面活性剤と比較して、少量の添加量でも高い効果を得ることができる。また、界面活性剤(成膜成分ではない成分)を添加することにより、耐水性や耐磨耗性などの塗膜性能が悪化する可能性が考えられる。しかしながら、多疎水鎖多親水基型界面活性剤を用いることによって界面活性剤の使用量が少なくてすむため、このような塗膜性能の悪化を抑えることができる。
【0040】
多疎水鎖多親水基界面活性剤の含有量は、樹脂組成物の固形分全量に対して0.001〜0.01質量%であることが好ましい。多疎水鎖多親水基界面活性剤の含有量がこの範囲になることにより低屈折率粒子を確実に偏在化させることができる。多疎水鎖多親水基界面活性剤の含有量がこの範囲より少ないと、低屈折率粒子を偏在化させることができなくなり、反射防止性能を得られなくなるおそれがある。多疎水鎖多親水基界面活性剤の含有量がこの範囲を超えても、それ以上の効果を見込めなくなるおそれがあるのと共に、かえってハードコート層の耐水性や耐擦傷性を低下させるおそれがある。
【0041】
多疎水鎖多親水基界面活性剤としては、図2(b)のような二疎水鎖二親水基型であるジェミニ型界面活性剤を好ましく用いることができる。二疎水鎖二親水基型はその他の型よりも比較的調製が容易である。このうち二つのアルキル基がジカルボン酸に結合した下記の化学構造式(1)の化合物(nは2以上の整数)を好ましく用いることができ、その中でも特に、アルキル基がラウリル基である下記の化学構造式(2)の化合物を用いることができる。
【0042】
【化1】

【0043】
ハードコート用樹脂組成物は、通常、上記の成分が溶媒によって溶解又は分散されて混合されたものである。溶媒としては、特に限定されるものではないが、溶解・分散性能を有し、乾燥により蒸発しやすいものであることが好ましく、例えば、MIBK(メチルイソブチルケトン)、MEK(メチルエチルケトン)、IPA(イソプロパノール)、エタノール、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0044】
また、ハードコート用樹脂組成物には、上記の成分以外にも適宜の成分を配合することができる。そのような成分としては、例えば、硬化剤、硬化促進剤、充填材、着色剤などを例示することができる。
【0045】
ハードコート用樹脂組成物の調製法としては、上記の成分を適宜混合することにより行うことができるが、好ましくは、多疎水鎖多親水基型界面活性剤と低屈折率粒子とを溶媒で混合して分散液を作製し、その後、この分散液にマトリックス形成樹脂を混合することにより調製するものである。このように、あらかじめ多疎水鎖多親水基型界面活性剤と低屈折率粒子とを溶媒にて分散して混合すれば、低屈折率粒子を核とする多疎水鎖多親水基型界面活性剤のミセル構造を確実に形成することができるので、低屈折率粒子の自由エネルギーを低下させることができ、ハードコート層において低屈折率粒子を容易に偏在化させることができる。
【0046】
本発明の反射防止コーティング基材は、上記のようなハードコート用樹脂組成物を基材に塗布し、必要に応じて加熱や光照射で硬化することによって得ることができる。
【0047】
基材としては、特に限定されるものではないが、反射防止性能が十分に活用されるために透明基材であることが好ましく、例えば、ガラスに代表される無機系基材、ポリエステル、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートに代表される有機系基材を用いることができる。また、基材の形状としては、フィルムやシート、フラットな板状の基材、凹凸のある曲面状(レンズ)などを例示することができる。また、上記の樹脂組成物によりハードコート層が形成される前に、基材の表面にすでに一層以上の層が形成されたものであってもよい。
【0048】
また、透明性を確保するなどの目的で、あらかじめ基材に光学的に変化を与えない程度で、表面の改質処理等を行なってもよい。表面の改質処理法としては、プラズマ放電処理、コロナ処理、フレーム処理、UV処理のような物理的な表面処理や、カップリング剤、酸、アルカリによる化学的な表面処理を使用することができる。
【0049】
基材の表面にハードコート用樹脂組成物を塗布する方法としては、適宜の方法を使用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコート)、スピンコート等の通常の各種塗装方法から選択される方法を使用して、上記の成分が配合されたハードコート用樹脂組成物を塗装することにより行うことができる。塗装後、常温で又は加熱して塗布層を乾燥させることにより、上述した多疎水鎖多親水基型界面活性剤の作用によって低屈折率粒子が基材と反対側の表面に偏在化して、未硬化の状態でハードコート層が形成される。その後、マトリックス形成樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合は加熱することにより、また、紫外線硬化型樹脂を用いた場合は紫外線照射することにより、塗布層を硬化させてハードコート層を形成することができる。
【0050】
ハードコート層の厚みは、使用用途や目的に応じて適宜設定されるものであり、特に制限されるものではないが、2〜8μmであることが好ましい。ハードコート層の厚みがこの範囲になることにより、粒子を確実に偏在化させて低反射性能を得ることができ、また透明性の高いハードコート層を得ることができる。また、ハードコート層の最小反射率は0.5%以上3.0%以下であることが好ましい。ハードコート層の最小反射率がこの範囲であることにより、透明性の高いハードコート層にすることができる。
【0051】
図1は、上記ハードコート用樹脂組成物により形成された反射防止コーティング基材Aの一例を示す断面図である。基材11の表面には、マトリックス樹脂により形成されたハードコート層12が形成され、ハードコート層12の内部では、基材11と反対側の表面に低屈折率粒子13が偏在している様子が示されている。
【0052】
このように、本発明によれば、一回の塗装工程で低屈折率粒子を偏在化させて、耐擦傷性と反射防止性能に優れるハードコート層を形成することができるものである。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
ハードコート用樹脂組成物の成分としては次のものを使用した。低屈折率粒子として、中空シリカMIBK分散ゾル(固形分20重量%、平均一次粒子径約50nm、外殻厚み約8nm、屈折率1.30、触媒化成工業(株)製)を使用した。多疎水鎖多親水基型界面活性剤として、ジェミニ型界面活性剤であるGemsurf α142(中京油脂(株)製)を使用した。マトリックス形成樹脂として、アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化エ業製「セイカビームPET−HC15」有効成分60%、屈折率1.50)を用いた。また、溶媒として、MIBKを使用した。
【0054】
ハードコート層を形成する基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績製「A4100」(188μm厚))を用いた。基材には、コロナ放電処理にて表面の改質処理を施した。コロナ放電処理は、コロナ出力0.5kW、ラインスピード10m/minの条件にて実施した。
【0055】
まず、上記の低屈折率粒子の分散ゾルに、ジェミニ型界面活性剤のMIBK溶液を、ジェミニ型界面活性剤の量が樹脂組成物の固形分全量に対して0.005重量%になるように加え、この混合液を20℃恒温槽中で3時間撹拌して、分散液(低屈折率ゾル)を得た。この分散液をマトリックス形成樹脂のMIBK溶液に加え、低屈折率粒子の含有量が樹脂組成物の固形分全量に対して20質量%になるように調整して、ハードコート用樹脂組成物を得た。
【0056】
得られたハードコート用樹脂組成物をワイヤーバーコーターで上記のPETフィルム表面に塗布し、80℃、1分間乾燥させた後、UV照射(600mJ/cm)により樹脂を硬化させて、基材の上にハードコート層(膜厚3.1μm)を形成し、反射防止コーティング基材を得た。
【0057】
(実施例2)
低屈折率粒子の含有量を、樹脂組成物の固形分全量に対して40質量%にした。それ以外は、実施例1と同様の材料・方法により、ハードコート用樹脂組成物、及び反射防止コーティング基材を得た。
【0058】
(比較例1)
低屈折率粒子の含有量を、樹脂組成物の固形分全量に対して60質量%にした。それ以外は、実施例1と同様の材料・方法により、ハードコート用樹脂組成物、及び反射防止コーティング基材を得た。
【0059】
(比較例2)
低屈折率粒子を配合しなかった。それ以外は、実施例1と同様の材料・方法により、ハードコート用樹脂組成物、及び反射防止コーティング基材を得た。
【0060】
(比較例3)
多疎水鎖多親水基型界面活性剤(ジェミニ型界面活性剤)を配合しなかった。それ以外は、実施例1と同様の材料・方法により、ハードコート用樹脂組成物、及び反射防止コーティング基材を得た。
【0061】
(評価)
上記により得られた各反射防止コーティング基材について、目視外観、反射率、耐擦傷性を評価した。評価方法及び評価基準は次の通りである。結果を表1に示す。
【0062】
[目視外観]
目視にて各反射防止コーティング基材のハードコート層表面を観察し、レベリング、ヘーズ、干渉ムラ等の状態により評価した。
【0063】
[反射率]
反射率は、(株)日立ハイテクノロジーズ製、分光光度計U−4100を用い、JIS R−3106に基づき、サンプル裏面を黒塗りしたあとに、5度の正反射で測定した。評価基準は次の通りである。
【0064】
○: 0.5%以上3.0%以下
×: 3.0%を超える
【0065】
[耐擦傷性]
硬化被膜層の表面に、スチールウール#0000を100g荷重で10往復(速度1cm/sec)摺動させ、硬化被膜に発生するキズ発生レベルで機械的強度を判定した。そして、次の基準で評価した。
【0066】
○: キズが発生しない
△: キズがわずかに発生する
×: キズが発生する、あるいは剥離
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、本発明により得られた反射防止コーティング基材は目視外観、反射率、耐擦傷性において、比較例のものよりも優れていた。
【符号の説明】
【0069】
2 多疎水鎖多親水基型界面活性剤
11 基材
12 ハードコート層
13 低屈折率粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多疎水鎖多親水基型界面活性剤と、マトリックス形成樹脂と、マトリックス形成樹脂よりも屈折率が低い低屈折率粒子とを含有し、低屈折率粒子の含有量が樹脂組成物の固形分全量に対して10〜40質量%であることを特徴とするハードコート用樹脂組成物。
【請求項2】
多疎水鎖多親水基型界面活性剤の含有量が、樹脂組成物の固形分全量に対して0.001〜0.01質量%であることを特徴とする請求項1に記載のハードコート用樹脂組成物。
【請求項3】
マトリックス形成樹脂の屈折率が1.5〜2.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコート用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコート用樹脂組成物の製造方法であって、
多疎水鎖多親水基型界面活性剤と低屈折率粒子とを溶媒で混合して分散液を作製した後、前記分散液にマトリックス形成樹脂を混合することを特徴とするハードコート用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
基材の上に、マトリックス形成樹脂と、マトリックス形成樹脂よりも屈折率が低い低屈折率粒子とを含むハードコート層が形成された反射防止コーティング基材であって、ハードコート層が、多疎水鎖多親水基型界面活性剤を含むと共に基材と反対側の表面に低屈折率粒子が偏在しているものであることを特徴とする反射防止コーティング基材。
【請求項6】
ハードコート層の最小反射率が0.5%以上3.0%以下であることを特徴とする請求項5に記載の反射防止コーティング基材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195901(P2010−195901A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41535(P2009−41535)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】