説明

バイアル用栓体

【課題】簡単な構造でありながら、用時にはシール部材に注射針等を確実に刺通できるようにする。
【解決手段】バイアル(2)上端の開口部(6)を覆うシール部材(8)と、シール部材(8)を開口部(6)周囲の鍔部(7)上面へ押圧する合成樹脂製キャップ(9)とを有する。シール部材(8)は鍔部(7)の上面に載置されるフランジ部(10)を有する。キャップ(9)は、フランジ部(10)の上方に配置した上壁(15)と、上壁(15)の外周縁部から垂下した筒部(16)と、筒部(16)の内方に配置された係止部(18)とを備える。全打栓姿勢に切り換えると係止部(18)は鍔部(7)の下面へ係止される。上壁(15)の下面のうち、開口部(6)の内径よりも大きく、且つフランジ部(10)の外径よりも小さい環状部分に、下方へ突出した受止用突起部(27)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイアルに用いる栓体に関し、更に詳しくは、簡単な構造でありながら、用時にはシール部材に注射針等を確実に刺通できる、バイアル用栓体に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や各種検査用試薬を収容する有底筒状のバイアルに対し、その開口部を密封する栓体としては、アルミ材料からなるプロテクタの上面に、破断部を介して合成樹脂製キャップが固定され、上記のプロテクタの内面にバイアル上面の開口部を密封するシール部材が嵌着されたものがある。上記のバイアル内に収容された薬剤を凍結乾燥する場合は、上記のシール部材を上記の開口部から浮き上がらせた半打栓姿勢にしておき、この状態で上記のバイアルを真空凍結乾燥装置内に収容し、凍結乾燥したのち上記のシール部材を全打栓姿勢に切り換えて上記の開口部を密封し、次いで真空凍結乾燥装置から取り出して、上記のプロテクタの裾部を捲締機で巻き締めする。
【0003】
しかし、上記のアルミ材料製プロテクタを用いたバイアルは、構成材料がガラス、アルミニウム、合成樹脂、ゴムの4種類からなり、廃棄の際に分別が容易でない問題がある。また上記の真空凍結乾燥装置から大気中に取り出したバイアルは内部が減圧状態となっているのに対し、上記のシール部材は、上記のプロテクタが巻き締めされるまでの間、未だ確りと固定されていないためバイアル内の気密性の確保が容易でない問題もある。
【0004】
上記の問題点を解消するため、従来のバイアル用栓体には、合成樹脂製の筒部と上壁とを備えたキャップ内にシール部材を装着してあり、このバイアル用栓体をバイアルに半打栓姿勢で装着しておき、凍結乾燥後にその真空凍結乾燥装置内でバイアル用栓体を全打栓姿勢へ切り換えることで、上記のキャップにより上記のシール部材をバイアルの開口部周縁へ確りと固定する、バイアル用栓体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
即ちこの従来技術は、上記の合成樹脂製キャップが、通針用窓部を設けた上壁と、この上壁の外周縁部から垂下した筒部とを備えており、このキャップ内に、上記の上壁とバイアルの開口部周縁に形成された鍔部の上面との間を密封するシール部材が嵌着してある。また上記の筒部の内面には、上記のキャップとこれに嵌着したシール部材を全打栓姿勢に保持する係止手段が設けてある。
【0006】
上記のバイアル用栓体は、上記のキャップとこれに内嵌した上記のシール部材を真空凍結乾燥装置内で半打栓姿勢から全打栓姿勢に切り換えると、上記の係止手段が上記のバイアルの鍔部の下面に係止し、これにより、このキャップの上壁が上記のシール部材を鍔部の上面へ確りと押圧する状態に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−165252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のバイアル用栓体は、上記の真空凍結乾燥装置内で棚間隔を狭めることにより上方の棚板に押圧されて、半打栓姿勢から全打栓姿勢に切り換えられる。このとき、全打栓姿勢に切り換える押圧力は、過剰に高くするとバイアルを破損する虞があり、例えば60N以下に設定される。しかしながら、バイアル全高やシール部材のフランジ部の厚さ、真空凍結乾燥装置の棚板の水平レベル、多段となった棚板間の高さ等に、寸法のバラツキがある。例えば、シール部材のフランジ部の厚さは、寸法公差が例えば±0.3mmに設定される。特にバイアルが硝子製の場合は、その全高の寸法公差が例えば±0.5mmと大きい。このため、例えば6000本などの多数のバイアルに対し、上記の棚板を一定寸法移動させてバイアル用栓体を全打栓姿勢に切り換えようとすると、全てのバイアルについて確実に打栓する、ということができない虞や、キャップの上壁でシール部材を確りと押圧することができない虞がある。
【0009】
一方、上記のバイアルに収容された収容物を取り出す際は、上記のキャップの上壁中央に形成された通針用窓部を通して、注射針がシール部材の上面中央近傍に刺通され、この注射針を介してバイアル内へ溶解液等が注入され、或いは、溶解した収容物の取り出しが行われる。このとき、上記のキャップの上壁で上記のシール部材のフランジ部をバイアルの上面へ確りと押圧できていないと、注射針の刺通の際の押圧力でシール部材の中央部がバイアル内へ逃げるように押し込まれて、このシール部材に注射針を刺通できなくなる虞があり、特に両頭針など太い注射針を用いる場合はその傾向が大きい。また、上記のシール部材の下面に形成された脚部はバイアルの開口部内へ挿入されているが、このシール部材に注射針を斜め方向から刺通すると、その注射針の先端が誤って上記の脚部に突き刺ささることがある。このとき、上記のようにシール部材のフランジ部が確りと押圧できていないと、注射針を押し込むことで、上記の脚部を介してフランジ部がバイアル内へ引き込まれる虞がある。
【0010】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、簡単な構造でありながら、用時にはシール部材に注射針等を確実に刺通できる、バイアル用栓体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するため、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図14に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち本発明はバイアル用栓体に関し、バイアル(2)の上端に開口された開口部(6)を密封するバイアル用栓体であって、上記の開口部(6)の周囲に鍔部(7)が形成してあり、上記の開口部(6)を覆う状態に装着されるゴム弾性を備えたシール部材(8)と、このシール部材(8)を上記の鍔部(7)の上面へ押圧して固定する合成樹脂製キャップ(9)とを有し、上記のシール部材(8)は上記の鍔部(7)の上面に載置されるフランジ部(10)を有し、上記のキャップ(9)は、上記のフランジ部(10)の上方に配置した上壁(15)と、この上壁(15)の外周縁部から垂下した筒部(16)と、この筒部(16)の内方に配置され上記の鍔部(7)の下面へ係止可能な係止部(18)とを備え、上記の上壁(15)の下面のうち、上記の開口部(6)の内径よりも大きく、且つ上記のシール部材(8)のフランジ部(10)の外径よりも小さい環状部分に、下方へ突出した受止用突起部(27)が形成してあることを特徴とする。
【0012】
上記のバイアル用栓体を全打栓姿勢に切り換えると、上記の上壁により、上記のシール部材のフランジ部がバイアルの開口の周囲の上面に押圧される。このとき、このフランジ部の上面に上記の受止用突起部が食い込んだ状態となるため、そのフランジ部は、縮径方向へずれ動くことが阻止され、上記のキャップの上壁とバイアルの上面との間に確りと保持される。この結果、バイアルに収容された収容物を取り出すためシール部材の中央部へ注射針等を刺通する際、その注射針等の押圧力でシール部材がバイアル内へ押し込まれることが防止され、また、注射針の先端が誤ってシール部材の脚部に突き刺さっても、脚部を介してフランジ部がバイアル内へ引き込まれることが防止されるので、シール部材にその注射針等が確実に刺通される。
【0013】
上記の受止用突起部は、上記の上壁の下面のうちの上記の環状部分に形成されておればよく、特定の形状や構造のものに限定されないが、平面視で上記の開口部を取り囲む環状に形成してあると、開口部周囲の全周に亘ってフランジ部を効果的に受け止めることができて好ましい。この場合、上記の開口部を取り囲む環状は、周方向に不連続であってもよいが、周方向に連続した環状であるとさらに好ましい。
【0014】
上記のシール部材のフランジ部の上面に凸部が形成されている場合は、この凸部の径方向内側に上記の受止用突起部が形成してあると、上記の凸部がこの受止用突起部に係止するので、上記の注射針等の押圧力に抗してシール部材のフランジ部をこの受止用突起部に確実に受け止めることができ、好ましい。
【0015】
上記の受止用突起部は、特定の断面形状のものに限定されないが、上記の開口部の中心軸を通過する垂直方向の断面形状が、下端が90度以下となる形状に形成されていると、シール部材のフランジ部の上面に確実に食い込んだ状態となるので好ましい。上記の下端の角度は、好ましくは70度以内に形成されるが、過剰に尖った形状であるとシール部材の表面を損傷したり受止用突起部の強度が低下したりする虞があるので、より好ましくは20〜65度に設定される。なお上記の下端には、例えば半径が0.05mm程度など、小さなアール状の面取り部が形成してあると好ましい。
【0016】
また上記の断面形状は、径方向外側の表面と、下端から上方に延びる垂直線との間に形成される挟角が45度以下であると、中央部側へ引き寄せられるフランジ部を確実に受け止めることができて好ましく、挟角が略0度、即ち外側の表面が垂直状態に形成されているとさらに好ましい。
【0017】
上記の受止用突起部の高さは、特定の値に限定されないが、例えば0.3〜2.0mmであると、中央部側へ引き寄せられるフランジ部を確実に受け止めることができるうえ、シール部材の表面を損傷する虞がなく、好ましい。
【0018】
上記のシール部材は特定の材質のものに限定されないが、例えば合成ゴム材料や熱可塑性エラストマーを主原料とすると、優れたシール性能のシール部材を安定した品質で製造することができて、好ましい。
【0019】
なお、上記のバイアル内に収容される収容物は特定のものに限定されず、例えば粉末製剤や液剤等であってもよいが、真空凍結乾燥装置内でバイアル用栓体を半打栓姿勢から全打栓姿勢へ容易に切換えできるので、特に凍結乾燥製剤であると好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のバイアル用栓体は、上記のように構成され作用するので次の効果を奏する。
【0021】
キャップの下面に受止用突起部を設けるだけの簡単な構造でありながら、全打栓姿勢では、シール部材のフランジ部の上面に上記の受止用突起部が食い込んだ状態となっているので、そのフランジ部が縮径方向へずれ動くことを阻止できる。この結果、用時にシール部材へ注射針等を刺通する際、シール部材の中央部がその注射針等の押圧力を受けても、フランジ部が中央部側へ引き寄せられることがないので、注射針等の押圧力でシール部材がバイアル内へ逃げるように押し込まれることを防止でき、また、注射針の先端が誤ってシール部材の脚部に突き刺さっても、脚部を介してフランジ部がバイアル内へ引き込まれることを防止できるので、シール部材に注射針等を確実に刺通することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態を示し、バイアル用栓体が半打栓姿勢で装着されたバイアルの縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態の、全打栓姿勢に切り換えたバイアル用栓体の断面図である。
【図3】本発明の実施形態の、キャップの一部破断平面図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】本発明の実施形態の、キャップ本体の要部の拡大断面図である。
【図6】本発明の実施形態の、シール部材の平面図である。
【図7】図6のVII−VII線矢視断面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線矢視断面図である。
【図9】本発明の実施形態の変形例1を示す、キャップの要部の拡大断面図である。
【図10】本発明の実施形態の変形例2を示す、係止部材の平面図である。
【図11】本発明の実施形態の変形例3を示し、図11(a)はシール部材の平面図、図11(b)はシール部材の縦断面図である。
【図12】本発明の実施形態の変形例4を示し、図12(a)はシール部材の平面図、図12(b)はシール部材の縦断面図である。
【図13】本発明の実施形態の変形例5を示し、図13(a)はシール部材の平面図、図13(b)はシール部材の縦断面図である。
【図14】本発明の実施形態の変形例6を示し、図14(a)はシール部材の平面図、図14(b)はシール部材の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1から図8は本発明の実施形態を示し、図1はバイアル用栓体(1)が半打栓姿勢(Y)で装着されたバイアル(2)の縦断面図である。このバイアル(2)は、有底筒状の胴部(3)を備え、その胴部(3)内に収容部(4)が形成してある。医薬品などの収容物はこの収容部(4)内に収容される。上記の胴部(3)の上方には首部(5)が延設してあり、この首部(5)の上端に開口部(6)が形成してある。この開口部(6)の周囲には、径方向外側へ膨出した鍔部(7)が形成してある。
【0024】
上記のバイアル用栓体(1)は、上記の開口部(6)を覆う状態に装着される、例えばブチルゴム製などのゴム弾性を備えた合成ゴム製シール部材(8)と、このシール部材(8)へ被せた状態に装着される合成樹脂製キャップ(9)とを有する。
【0025】
上記のシール部材(8)は、上記の鍔部(7)の上面に載置される円板状のフランジ部(10)と、そのフランジ部(10)の下面中央部から垂下した円筒状の脚部(11)とを備える。この脚部(11)には、下端から上下方向の中間部まで切欠部(12)が形成してある。この切欠部(12)の上端は、図1に示す半打栓姿勢(Y)では上記の開口部(6)よりも上方に位置しており、上記の収容部(4)内はこの開口部(6)と切欠部(12)との間を介して外部空間に連通している。この脚部(11)の外径は上記の開口部(6)の内径よりも僅かに大径であり、やや圧縮されてその開口部(6)に挿入される。
【0026】
上記のキャップ(9)は、キャップ本体(13)とその上方に固定した蓋部(14)とを備える。このキャップ本体(13)は、上記のフランジ部(10)の上方に配置した上壁(15)とその外周縁部から垂下した筒部(16)と、この筒部(16)の内面に装着した環状の係止部材(17)とを備えている。この係止部材(17)の上端には係止部(18)が形成してあり、また、上記の上壁(15)の中央部には通針用窓部(19)が開口してある。上記の蓋部(14)の下面中央部には、円筒状の封止部(20)が上記の通針用窓部(19)へ挿通する状態に垂下してある。
【0027】
上記のバイアル用栓体(1)は、バイアル(2)内の収容物が真空凍結乾燥されたのち、上方から押圧され、図2に示す全打栓姿勢(X)に切り換わる。この全打栓姿勢(X)では、キャップ(9)の上壁(15)により、シール部材(8)のフランジ部(10)がバイアル(2)の開口部(6)の周囲の上面に確りと押圧され、これにより上記の開口部(6)が密封される。このとき、上記の係止部(18)がバイアル(2)の上記の鍔部(7)の下面へ係止されるので、上記のキャップ(9)が全打栓姿勢(X)に保持される。また上記の封止部(20)の下端は、上記のシール部材(8)の上面へ食い込み、これによりこのシール部材(8)の上面中央部が外部空間から気密状に遮断される。
【0028】
図3と図4に示すように、上記のキャップ本体(13)の上面には、2か所に射出成型用ゲートのための凹部(21)が形成してあり、また、上記の通針用窓部(19)を取り囲む状態に、環状の凹溝(22)が形成してある。一方、上記の蓋部(14)の下面には4か所に接合突起(23)が突設してあり、この接合突起(23)の先端を上記の凹溝(22)の内面に溶着することで、この蓋部(14)をキャップ本体(13)の上面に固定してある。
【0029】
図4に示すように、上記の係止部材(17)は、上記の筒部(16)の内周面に形成された嵌合突条(24)に嵌着してある。この係止部材(17)には、上記の係止部(18)が複数、所定間隔をあけて、縮径方向の斜め上方に向けて突設してある。各係止部(18)は基部にヒンジ(25)が形成してあり、上端を拡径方向へ偏移可能に構成してある。上記の係止部材(17)の内周面には、各係止部(18)間に通気溝(26)が形成してある。図1に示す上記の半打栓姿勢(Y)では、上記の開口部(6)と切欠部(12)との間と、上記の通気溝(26)とを順に介して、上記の収容部(4)内が外部空間に連通している。
【0030】
図2や図4に示すように、上記のキャップ本体(13)の上壁(15)下面には、上記の開口部(6)の内径よりも大きく、且つ上記のシール部材(8)のフランジ部(10)の外径よりも小さい環状部分に、下方へ突出した受止用突起部(27)が形成してある。この受止用突起部(27)は、平面視で上記の開口部(6)を取り囲む、連続した環状に形成してある。この受止用突起部(27)の、開口部(6)の中心軸(28)を通過する垂直方向の断面形状は、図5に示すように、下端が90度以下に、例えば45度となるように形成してある。またこの断面形状は、径方向外側の表面が上記の中心軸(28)と平行な垂直に形成してある。この受止用突起部(27)の高さ(L)は、例えば0.5mmに設定してある。
【0031】
一方、上記のシール部材(8)は、図6から図8に示すように、上記のフランジ部(10)の上面に、平面視でそのフランジ部(10)の外周縁と接し、且つこの外周縁に沿った環状に、圧縮用凸部(29)が形成してある。この圧縮用凸部(29)は、平面視でフランジ部(10)の外周縁と接する状態に形成してあるので、例えば図7や図8に示すように、フランジ部(10)の周側面は上下方向に長い。この結果、図1に示す半打栓姿勢(Y)でキャップ(9)をシール部材(8)の外側に装着する際、キャップ(9)の筒部(16)がこのフランジ部(10)の上下に長い周側面で案内され、筒部(16)の中心軸が垂直方向となった適正な姿勢でキャップ(9)が装着される。
【0032】
上記の圧縮用凸部(29)には、周方向の4か所に不連続部(30)が形成してあり、圧縮用凸部(29)で囲まれた空間がこの不連続部(30)を介して外部と連通している。このため、このシール部材(8)を半打栓姿勢(Y)でバイアル(2)に装着する場合や、それまでのハンドリングや洗浄、滅菌等の処理の際に、装着手段やハンドリング装置、各種処理装置、或いはその他の他物へ、このシール部材(8)があたかも吸盤のように吸着されることを効果的に防止できる。なお、上記のフランジ部(10)の上面には、中央部分に刺通用凹部(31)が凹設してある。また上記の実施形態では、上記の不連続部(30)を圧縮用凸部(29)の周方向の4か所に形成した。しかし本発明ではこの不連続部を、周方向の3か所以下に形成してもよく、或いは5か所以上に形成してもよい。
【0033】
図1に示すように、上記の受止用突起部(27)はこの圧縮用凸部(29)の径方向内側に形成してあり、シール部材(8)が径方向内側へずれ動こうとしたり、変形したりしようとすると、上記の受止用突起部(27)で上記の圧縮用凸部(29)を受け止めるようにしてある。この圧縮用凸部(29)の高さ(h)は、例えば0.8mmに設定してあり、上記の圧縮用凸部(29)が形成されていない部位でのフランジ部(10)の厚さ(t)が、例えば3.5mmであると、このフランジ部(10)の厚さ(t)の約23%の寸法に設定されている。
【0034】
図1に示す半打栓姿勢(Y)で上記のバイアル用栓体(1)を装着したバイアル(2)は、図示しない真空凍結乾燥装置内に収容され、減圧下で凍結乾燥されたのち、棚板で上方から押圧されて、バイアル用栓体(1)が図2に示す全打栓姿勢(X)に切り換わる。このとき、上記のシール部材(8)は、キャップ本体(13)の上壁(15)により、最初に上記の圧縮用凸部(29)が押圧されて圧縮され、この圧縮用凸部(29)が偏平化されたのち、その他の部位のフランジ部(10)が押圧され圧縮される。このとき、上記の受止用突起部(27)は、図2に示すように、上記のフランジ部(10)の上面に食い込んだ状態となっており、従って、フランジ部(10)は縮径方向へずれ動くことが阻止され、上記のキャップ(9)の上壁(15)とバイアル(2)の上面との間に確りと保持される。
【0035】
上記の圧縮用凸部(29)はフランジ部(10)全体の一部に過ぎないので、低い押圧力で容易に圧縮され、この圧縮用凸部(29)を介してその下方のフランジ部(10)がバイアル(2)の開口部(6)の周囲の上面に押圧される。この圧縮用凸部(29)はフランジ部(10)の外周縁に沿った環状に形成されているので、上記のバイアル(2)上面へのフランジ部(10)の押圧により、上記の開口部(6)が外部空間に対し密封される。またこの圧縮用凸部(29)は、各部材の寸法公差に基づくバラツキがあっても、そのバラツキが充分に緩和できる高さに設定してあり、例えば1本あたり30N程度の低い押圧力で打栓しても、バイアル(2)の開口部(6)が確実に密封される。
【0036】
上記の圧縮用凸部(29)は、平面視でフランジ部(10)の外周縁と接する状態に形成してあり、フランジ部(10)上面で最も広い範囲に形成されていることから、上記のキャップ(9)による押圧力が良好に分散され、フランジ部(10)が均一に押圧される。しかも、キャップ(9)の上壁(15)で押圧される際、シール部材(8)の上面が水平状態に安定良く維持され、このシール部材(8)が適正な姿勢でバイアル(2)の開口部(6)へ打栓される。
【0037】
上記のバイアル用栓体(1)で密封されたバイアル(2)からは、用時に次の手順で収容物が取り出される。
最初に、上記のキャップ(9)の蓋部(14)が、上記の接合突起(23)の破断によりキャップ本体(13)から取り外され、シール部材(8)の刺通用凹部(31)が上記の通針用窓部(19)から外方に露出される。次いで、この刺通用凹部(31)に注射針が刺通され、溶解液等がバイアル(2)の収容部(4)内へ注入されて収容物が液状にされたのち、注射針を介してその収容物が取り出される。
【0038】
このとき、上記の受止用突起部(27)がシール部材(8)のフランジ部(10)の上面に食い込んでおり、また、上記の圧縮用凸部(29)がこの受止用突起部(27)に受け止められているので、上記のフランジ部(10)が縮径方向へずれ動くことがない。この結果、上記の注射針を上記の刺通用凹部(31)へ刺通する際に、シール部材(8)が開口部(6)からバイアル(2)内へ押し込まれることが防止され、また、注射針の先端が誤ってシール部材の脚部に突き刺さっても、脚部を介してフランジ部がバイアル内へ引き込まれることが防止されるので、このシール部材(8)に上記の注射針を確実に刺通することができる。
【0039】
上記の実施形態では、上記の受止用突起部(27)の断面形状は、径方向外側の表面が上記の開口部(6)の中心軸(28)と平行な垂直方向に形成してある。しかし、本発明の受止用突起部の断面は特定の形状に限定されない。
例えば図9に示す変形例1では、受止用突起部(27)の、開口部の中心軸を通過する垂直方向の断面形状は、下端の角度を約60度に設定してある。また、径方向外側の表面と、上記の下端から上方に延びる垂直線との間に形成される挟角(α)が、例えば30度など、45度以下に設定してある。
【0040】
図10は本発明の実施形態の変形例2を示し、上記の係止部材(17)の内周面のうち、上記の係止部(18)間の通気溝(26)に、姿勢安定用リブ(32)が上下方向に形成してある。この姿勢安定用リブ(32)の内端を結ぶ仮想円の直径は、上記のバイアル(2)の鍔部(7)の外径と略同径であるか、僅かに小径に設定してある。このため、この係止部材(17)を備えたキャップ(9)を上記のバイアル(2)に装着すると、筒部(16)の中心軸がバイアル(2)の開口部(6)の中心軸(28)と一致した、適正な半打栓姿勢(Y)でバイアル(2)に装着される。
【0041】
上記のシール部材(8)に形成した圧縮用凸部(29)は、例えば図11から図14に示す変形例のように、必要に応じて様々な形状に形成することができる。
即ち図11に示す変形例3では、圧縮用凸部(29)を切れ目のない連続した環状に形成してある。なお、この圧縮用凸部(29)の複数個所には、他の部位よりも低い低位部(33)が形成してあり、圧縮用凸部(29)で囲まれた空間がこの低位部(33)の上方を介して、外部と連通できるように構成し、このシール部材(8)が他物へ吸着されることを防止してある。
【0042】
図12に示す変形例4では、上記の変形例3と同様、圧縮用凸部(29)を切れ目のない連続した環状に形成してあるが、変形例3の低位部(33)に代えて、他物への付着を防止するための付着防止用凸部(34)が、圧縮用凸部(29)の上面に形成してある。圧縮用凸部(29)で囲まれた空間は、この付着防止用凸部(34)の周囲の空間を介して、外部と連通することができる。
【0043】
図13に示す変形例5では、圧縮用凸部(29)を平面視で環状に並べた点状に形成してあり、この圧縮用凸部(29)よりも低い環状部(35)で、この圧縮用凸部(29)を互いに連結してある。
【0044】
図14に示す変形例6では、圧縮用凸部(29)をフランジ部(10)の外周縁に沿って複数形成してあり、各圧縮用凸部(29)は平面視で径方向内側に延びる長円状に形成してある。この変形例6の場合は、キャップの上壁で圧縮されると、その下方のフランジ部(10)が広い範囲に亘ってバイアルの上面に押圧される。
【0045】
上記の実施形態や変形例で説明したバイアル用栓体は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部の形状や寸法、材質などを、この実施形態や変形例のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0046】
例えば上記の実施形態や変形例では、上記のシール部材の上面のうち、平面視でフランジ部の外周縁と接する状態に上記の圧縮用凸部を形成した。しかし本発明では、この凸部は圧縮用のものに限定されず、例えば、ハンドリング時の他物への付着を防止する凸部など、他の用途の凸部であってもよく、その形成位置も、上記の受止用突起部よりも外側であれば、フランジ部の外周縁から内方へ離隔した位置に形成したものであってもよい。さらに本発明では、上記の受止用突起部がフランジ部の上面に食い込むことで、このフランジ部の縮径方向への移動・変形を充分に阻止できれば、上記の凸部を省略することも可能である。
【0047】
また、上記の実施形態では、上記の係止部を筒部とは別体の係止部材に形成した。しかし本発明ではこの係止部を、上記の筒部に一体に形成したものであってもよい。さらにこの筒部には、バイアルの収容部内を外部空間に連通する通気孔やスリットを形成したものであってもよい。
【0048】
上記の実施形態では、上記のキャップ本体の上壁に設けた針通用窓部を上記の蓋部で蓋し、接合突起を破断することでこの蓋部を取り外すように構成したので、開封済みのバイアルと未開封のバイアルとを容易に峻別することができる。しかし本発明ではこの針通用窓部を、例えば再シール不能な封止用フィルムなどで覆い、上記の蓋部を省略することも可能である。
【0049】
また上記の実施形態では、例えばブチルゴムなどの合成ゴム材料を用いた。しかし本発明では他の合成ゴムや熱可塑性エラストマーなどを主原料とする材料で形成したものであってもよい。
さらに上記の実施形態では、収容物を真空凍結乾燥する場合について説明した。しかし本発明を用いるバイアルには、粉末製剤や液剤など、他の収容物を、真空凍結乾燥することなく収容するものであってもよい。
また上記のバイアル内は、真空状態や減圧状態以外に陽圧状態であってもよく、窒素ガスなど、収容物に対し不活性なガスを充填したものであってもよい。
上記の受止用突起部や圧縮用凸部の断面形状や寸法等は、上記の実施形態のものに限定されないことは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のバイアル用栓体は、簡単な構造でありながら、用時にはシール部材に注射針等を確実に刺通できるので、真空凍結乾燥製剤を収容したバイアルを密封する栓体として特に好適であるが、他の収容物を収容したバイアルにも好適である。
【符号の説明】
【0051】
1…バイアル用栓体
2…バイアル
6…開口部
7…鍔部
8…シール部材
9…キャップ
10…フランジ部
15…上壁
16…筒部
18…係止部
27…受止用突起部
28…開口部(6)の中心軸
29…凸部(圧縮用凸部)
L…受止用突起部(27)の高さ
α…受止用突起部(27)の径方向外側の表面と、その下端から上方に延びる垂直線との間に形成される挟角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアル(2)の上端に開口された開口部(6)を密封するバイアル用栓体であって、
上記の開口部(6)の周囲に鍔部(7)が形成してあり、
上記の開口部(6)を覆う状態に装着されるゴム弾性を備えたシール部材(8)と、このシール部材(8)を上記の鍔部(7)の上面へ押圧して固定する合成樹脂製キャップ(9)とを有し、
上記のシール部材(8)は上記の鍔部(7)の上面に載置されるフランジ部(10)を有し、
上記のキャップ(9)は、上記のフランジ部(10)の上方に配置した上壁(15)と、この上壁(15)の外周縁部から垂下した筒部(16)と、この筒部(16)の内方に配置され上記の鍔部(7)の下面へ係止可能な係止部(18)とを備え、
上記の上壁(15)の下面のうち、上記の開口部(6)の内径よりも大きく、且つ上記のシール部材(8)のフランジ部(10)の外径よりも小さい環状部分に、下方へ突出した受止用突起部(27)が形成してあることを特徴とする、バイアル用栓体。
【請求項2】
上記の受止用突起部(27)が平面視で上記の開口部(6)を取り囲む環状に形成してある、請求項1に記載のバイアル用栓体。
【請求項3】
上記のフランジ部(10)の上面に凸部(29)が形成されており、この凸部(29)の径方向内側に上記の受止用突起部(27)が形成してある、請求項1または請求項2に記載のバイアル用栓体。
【請求項4】
上記の受止用突起部(27)の、上記の開口部(6)の中心軸(28)を通過する垂直方向の断面形状は、下端が90度以下に形成されている、請求項1から3のいずれかに記載のバイアル用栓体。
【請求項5】
上記の受止用突起部(27)の、上記の開口部(6)の中心軸(28)を通過する垂直方向の断面形状は、径方向外側の表面と、下端から上方に延びる垂直線との間に形成される挟角(α)が45度以下である、請求項1から4のいずれかに記載のバイアル用栓体。
【請求項6】
上記の受止用突起部(27)の高さ(L)が0.3〜2.0mmである、請求項1から5のいずれかに記載のバイアル用栓体。
【請求項7】
上記のシール部材(8)は、合成ゴム材料と熱可塑性エラストマーとの少なくともいずれかを主原料とする、請求項1から6のいずれかに記載のバイアル用栓体。
【請求項8】
上記のバイアル(2)内に収容される収容物が、凍結乾燥製剤と粉末製剤と液剤とのいずれかである、請求項1から7のいずれかに記載のバイアル用栓体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−229844(P2011−229844A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105547(P2010−105547)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(500232123)大和特殊硝子株式会社 (6)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】