説明

バイオガス及び浄水の製造方法及び製造装置

【課題】バイオマス資源としての浮き草からバイオガスを製造する際に生じる消化液を排出することなく、さらにこの浮き草を栽培する過程で浄水を製造し、環境保護に貢献することのできる経済性に優れたバイオガス及び浄水の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】本発明のバイオガス及び浄水の製造装置6は、浮き草を導入する導入口と生成されるバイオガスを導出するガス導出口と生成される消化液を導出する消化液導出口とをもち、嫌気性発酵を行う発酵槽7と、雨水を受けかつ蓄積しさらに該消化液を肥料として加えた培養液37を保持し、該浮き草を栽培する栽培槽8と、該培養液の余剰分39を保持して該浮き草を栽培し、該培養液中の該肥料成分を該浮き草に吸収除去させて浄水を得る浄化槽9と、を備えることを特徴とする。前記栽培槽8及び/または前記浄化槽9は海面Sに設けられてもよい。また、前記浮き草はホテイアオイが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオガス及び浄水を製造する方法及び装置に関し、より詳細には浮き草の栽培を応用したバイオガス及び浄水の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や地球温暖化防止の観点から、熱エネルギーや炭酸ガスの排出を抑制することが強く要請されている。また、石油や石炭などの化石資源はエネルギー源及び工業材料として消費され、枯渇への対応は緊急の課題となっている。この2つの課題の解決策として、バイオマス資源(生物資源)を有効活用する方法が精力的に研究され、一部は実用化されている。一例として、特許文献1のバイオガス資源回収方法は、草木及び草木系廃材からバイオガスを効率的に安定して製造する方法を開示している。特許文献1では、原料である草木及び草木系廃材を蒸気または空気により高圧で所定時間保持し圧力を急激に解放して破砕するという「爆砕処理」を施した後、メタン発酵(嫌気性発酵)させ、バイオガスを製造している。
【0003】
しかしながら、上記例をはじめとする嫌気性発酵を利用したバイオガスの回収方法やバイオガスを燃料とする発電装置では、嫌気性発酵により生成される消化液は利用されていなかった。したがって、消化液中に残るリンや窒素などの肥料成分が河川や湖沼、海に排出され、水質が富栄養化してヘドロ発生の原因となる弊害が生じていた。このため、消化液を排出することなく有効に使い切ることのできるバイオガスの製造方法及び装置が必要である。
【0004】
一方、離島など利水の便が限られる地域では、雨水を貯水タンクに蓄積、保存し、必要に応じて浄化設備で浄化して使用している。この貯水タンク及び浄化設備には、設置イニシャルコスト及びランニングコストのかかる難点があった。さらに、浄水の保存期間が長引く場合には、水質低下が懸念されていた。したがって、良質の浄水を長期にわたり安定して供給できる経済的な浄水製造方法及び装置が必要である。
【特許文献1】特開2004−33828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、バイオマス資源としての浮き草からバイオガスを製造する際に生じる消化液を排出することなく、さらにこの浮き草を栽培する過程で雨水を集めて浄水を製造し、環境保護に貢献することのできる経済性に優れたバイオガス及び浄水の製造方法及び製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のバイオガス及び浄水の製造方法は、浮き草を嫌気性発酵させ、メタンガスを含むバイオガスと肥料成分を含む消化液とを得る嫌気性発酵工程と、雨水を集めかつ蓄積しさらに該消化液を肥料として加えた培養液を用いて、該浮き草を栽培する浮き草栽培工程と、該培養液の余剰分を用いて該浮き草を栽培し、該培養液中の該肥料成分を該浮き草に吸収除去させて浄水を得る水浄化工程と、を含むことを特徴とする。前記浮き草栽培工程及び/または前記水浄化工程を海面で行うようにしてもよい。また、前記浮き草はホテイアオイが好ましい。
【0007】
本発明は、嫌気性発酵と浮き草の栽培とを組み合わせることにより、大気中の炭酸ガスを原料としてバイオガスを製造するとともに、副産物として浄水を得る方法を開示する。本発明のバイオガス及び浄水の製造方法は、嫌気性発酵工程と、浮き草栽培工程と、水浄化工程と、を含んでいる。
【0008】
嫌気性発酵工程は、浮き草を原料として嫌気性発酵を行い、バイオガスと消化液とを生成する工程である。嫌気性発酵は、メタン発酵とも呼ばれるプロセスであり、酸素の存在しない条件下でメタンバクテリアなどの微生物の働きにより、有機物からバイオガスを生成することができる。製造されるバイオガスは、通常メタンガスと炭酸ガスとを多く含有している。メタンガスは天然ガスの主成分であり、エネルギー源として利用しやすい形態の燃料である。バイオガスを有効に利用するために、ガス精製を行い成分を調整するようにしてもよい。バイオガスの用途は、発電用に限定されず、一般家庭用の燃料や車両用燃料などにも利用できる。
【0009】
なお、嫌気性発酵に先立ち、加水分解、酸化作用、酢酸形成等の前処理を行うようにすることもできる。この前処理では、メタンバクテリアなどは必要とせず、浮き草自体の有機物としての自己消化作用によりプロセスが進行する。
【0010】
また、嫌気性発酵では、浮き草が消化されてリン化合物や窒素化合物などを含む消化液が生成される。この消化液は液体肥料として有用であり、本発明では浮き草栽培工程に使用する。消化液の成分及び/または濃度を調整し、浮き草栽培工程以外の用途に利用することもできる。
【0011】
浮き草栽培工程は、培養液を用いて浮き草を栽培する工程である。培養液は、例えば栽培用の水槽に雨水を集めかつ蓄積するとともに、前記の消化液を肥料として加えて作る。栽培に際して、適当な日射量や温度などの生育条件を整えることは当然必要である。日本国内の場合、屋外であれば冬場を除いて生育条件は、ほぼ満たされると考えてよい。温室などの方策を用いれば、冬場でも生育条件を満たすことができ、年間を通しての栽培が可能である。また、培養液を加熱することも効果的である。なお、消化液に含まれないかあるいは不足する種類の養分があれば、別途供給するようにしてもよい。また、長期にわたり降雨がない場合に備え、十分な量の雨水を備蓄するようにしてもよい。
【0012】
水浄化工程は、培養液の余剰分を用いて浮き草を栽培し、培養液中の肥料成分を浮き草に吸収除去させ、浄水を生成する工程である。培養液の余剰分は、例えば栽培用の水槽から水浄化用の水槽に取り分ける。この培養液の余剰分には消化液は加えずに、浮き草を栽培する。すると、培養液中の肥料成分は浮き草に可能な限り吸収除去されて浄化され、浄水を得ることができる。水浄化用の水槽で栽培する浮き草の種類は、栽培用の水槽と一緒でもよいし異なってもよい。浄水の製造にはある程度の期間が必要なため、複数の水槽を用いて水浄化工程をずらして行うようにしてもよい。これにより、浄水の製造量を時間的にならすことができる。
【0013】
また、製造した浄水は、用途に応じて加工することもできる。例えば、酸やアルカリの濃度を調整して工業用水とし、あるいは雑菌を殺菌して畜産業用水とすることができる。
【0014】
次に、本発明に用いるバイオマス資源を浮き草とした理由を説明する。ただ単に炭酸同化作用を必要とするのであれば、土壌に生育する一般的な植物でも適用可能である。しかしながら、バイオマス資源には、豊富な量を供給できること、年間を通して安定して供給できることなどの条件を満たす必要があり、短期間で生育しかつ通年栽培できる浮き草が好適である。また、浮き草は株別れにより増殖するので種蒔きや植え替えなどの手間が不要であり、嫌気性発酵で得た消化液を液体肥料として施すことも容易である。さらに、浄水を得ることも容易であり、人件費を含む総合的な経済性の面からも好ましい。特にホテイアオイは繁殖力が強く、短期間で増殖するとともに大きく生育するため、年間を通して継続的に収穫することができ、また水の浄化作用も強く、最適である。
【0015】
本発明の浮き草栽培工程及び/または水浄化工程を海面で行うようにしてもよい。これにより、後述するように経済的に優れた製造装置を実現することができる。
【0016】
本発明では、化石資源の消費により排出され地球温暖化の主因となっている炭酸ガスを、炭酸同化作用により浮き草の植物体内部に有機物として取り込むようにしている。そして、浮き草を嫌気性発酵させることによりバイオガスの形態のエネルギー源にリサイクルすることができる。また、バイオガス製造時に生じる消化液を排出することなく、肥料として浮き草の栽培に用いるようにしている。さらに、雨水に消化液を加えた培養液の肥料成分を浮き草に吸収除去させて、浄水を製造するようにしている。したがって、不要な生成物を排出せずに全てをリサイクルするため、環境保護への貢献は顕著である。さらに、原料費は殆ど不要であり、浮き草の栽培に要する人手は最小限で済み、経済的にも優れている。
【0017】
次に、上述の本発明のバイオガス及び浄水の製造方法を行うための製造装置について説明する。本発明のバイオガス及び浄水の製造装置は、浮き草を導入する導入口と生成されるバイオガスを導出するガス導出口と生成される消化液を導出する消化液導出口とをもち、嫌気性発酵を行う発酵槽と、雨水を受けかつ蓄積sらに該消化液を肥料として加えた培養液を保持し、該浮き草を栽培する栽培槽と、該培養液の余剰分を保持して該浮き草を栽培し、該培養液中の該肥料成分を該浮き草に吸収除去させて浄水を得る浄化槽と、を備えることを特徴とする。前記栽培槽及び/または前記浄化槽は海面に設けられてもよい。また、前記浮き草はホテイアオイが好ましい。
【0018】
発酵槽は、メタンバクテリアなどの微生物の働きにより浮き草をメタンガス及び炭酸ガス等の低分子化合物に消化分解する槽である。このような発酵槽としては従来から公知の装置を使用することができる。発酵温度で20℃程度の低温発酵槽、30℃程度の中温発酵槽及び50〜60℃の高温発酵槽が知られている。発酵温度が高いほど分解速度が速いことが知られている。高温発酵槽は、当然に加熱装置を付属したものになる。
【0019】
発酵槽に投入される浮き草は細かく粉砕されていると消化分解が促進されるので、導入口に粉砕手段を持つものとすることもできる。また、浮き草は発酵の前処理工程として、加水分解、酸化作用、酢酸形成等のプロセスにより一部が分解される。したがって、発酵槽に隣接して、前処理工程を行う前処理槽を設けることもできる。この前処理槽ではメタンバクテリアなどを含んだ発酵液を使用せずとも、浮き草自体の有機物としての自己消化作用によりプロセスが進行する。
【0020】
また、発酵槽の消化液導出口には消化液改質手段を備えることもできる。消化液改質手段では、得られた消化液の成分及び/または濃度を調整し、液体肥料として栽培槽に供給することができる。また、栽培槽以外の外部に供給することもできる。
【0021】
栽培槽は浮き草を栽培する槽であり、雨水を受けかつ蓄積し保持するために、上端が開口したプール状の水槽を用いることができる。栽培槽と発酵槽の消化液導出口とを管路で連通させることができ、雨水に消化液を加えて培養液を作ることができるようになっている。浮き草は、培養液の水面に浮遊し、培養液から肥料成分と水分とを吸収し、大気中の炭酸ガスを吸収して太陽光のエネルギーで炭酸同化作用を行う。これにより浮き草は生育し、また、株別れにより子株、孫株を作って増殖する。
【0022】
栽培槽には、培養液の温度を適正に保つための加熱装置を設けるようにしてもよい。適正な温度は栽培する浮き草の種類に依存するが、例えばホテイアオイでは15℃以上、より好ましくは20℃程度である。加熱装置をもたないと、日本国内では冬場に浮き草を増殖させることができなくなり、年間を通しての栽培が困難になる。また、栽培槽を温室内に設けることもできる。ガラス温室あるいはビニール温室により、空気の温度が高く維持されるため、温度低下による浮き草の増殖速度の低下を抑制することができる。
【0023】
なお、栽培槽には、消化液に含まれないかあるいは不足する種類の養分を別途供給する肥料供給手段を備えるようにしてもよい。また、長期にわたり降雨がない場合に備え、十分な雨水を備蓄することの可能な雨水備蓄槽を備えるようにしてもよい。雨水備蓄槽には、例えば本願出願人の出願による水上貯水タンク及び集水装置(特開2003−138612)を適用することができる。
【0024】
浄化槽は、培養液の余剰分を保持して浮き草を栽培し、培養液中の肥料成分を浮き草に吸収除去させて浄水を得る槽である。浄化槽にも上端が開口したプール状の水槽を用いることができる。浄化槽と栽培槽とを管路で連通させ、培養液の余剰分を容易に取り分けられるようにすることが好ましい。浄化槽では、培養液に消化液を加えずに浮き草を栽培する。すると、培養液中の肥料成分は浮き草に可能な限り吸収除去されて浄化され、浄水を得ることができる。浄化槽の内部を区画し、あるいは複数の浄化槽を備えて、水浄化工程をずらして行うようにしてもよい。これにより、浄水の製造量を時間的にならすことができる。
【0025】
また、製造した浄水を、用途に応じて加工する手段を備えてもよい。例えば、浄水加工手段を設けて酸やアルカリの濃度を調整して工業用水を製造し、あるいは雑菌を取り除き畜産業用水を製造することができる。
【0026】
本発明の栽培槽及び/または浄化槽は海面に設けられてもよい。この2つの槽は、例えば、海面を矩形に囲むフレームと、フレーム内の海面を覆うシートと、により形成することができる。このとき、シートの内側に保持される培養液と外側の海水とは力学的に釣り合うため、小さな機械強度で槽を形成することができる。また、設置用地の制約がないので、適切な規模とすることが容易である。この2点で、経済的に優れた製造装置とすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のバイオガス及び浄水の製造方法は、浮き草を嫌気性発酵させてバイオガスと消化液とを得る嫌気性発酵工程と、雨水に消化液を加えた培養液を用いて浮き草を栽培する浮き草栽培工程と、培養液の余剰分中の肥料成分を浮き草に吸収除去させて浄水を得る水浄化工程と、を含む。このため、バイオガス及び浄水を製造する際に消化液を排出することがなく、環境保護に貢献することができる。
【0028】
本発明のバイオガス及び浄水の製造装置は、嫌気性発酵を行う発酵槽と、雨水に消化液を加えた培養液を保持して浮き草を栽培する栽培槽と、培養液の余剰分中の肥料成分を浮き草に吸収除去させて浄水を得る浄化槽と、を備える。このため、原料費は殆ど不要であり、人手も最小限で済み、バイオガス及び浄水を経済的に製造することができる。とりわけ、栽培槽及び/または浄化槽を海面に設けることにより、経済的に優れた製造装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明を実施するための最良の形態を、図1及び図2を参考にして説明する。図1は、本発明の実施例のバイオガス及び浄水の製造方法1を示す工程図である。図1で、各工程は矩形で囲んで示し、原材料や生成物は長円形で囲むとともに、矢印で流れを示している。実施例のバイオガス及び浄水の製造方法1は、嫌気性発酵工程2と付随する前処理工程21及びガス改質工程22及び発電工程23及び消化液改質工程24、浮き草栽培工程3とこれに付随する雨水備蓄工程31、水浄化工程4とこれに付随する浄水加工工程41、の合計3つの主工程と6つの付随工程で構成されている。
【0030】
前処理工程21では、浮き草38、47を原料として、加水分解、酸化作用、酢酸形成等の前処理が行われる。この前処理では、メタンバクテリアなどは必要とせず、浮き草自体の有機物としての自己消化作用によりプロセスが進行する。嫌気性発酵工程2では、前処理工程21を終えた浮き草38、47を原料として、嫌気性発酵が行われ、バイオガス26と消化液27とが生成される。製造されたバイオガス26はそのまま外部に供給してもよいが、ガス改質工程22で用途に適した成分に精製してもよい。精製されたバイオガス26は、発電工程23へ発電用燃料として供給する他、一般家庭用の燃料や車両用燃料などの用途に供給してもよい。発電工程23では、原動機方式や蒸気タービン方式で発電を行い、電力28を生成して外部に供給することができる。一方、製造された消化液27は、浮き草栽培工程3で使用する他、消化液改質工程24で成分及び/または濃度を調整して液体肥料29とし、別の用途に利用することもできる。
【0031】
雨水備蓄工程31では、降雨時に十分な量の雨水36を備蓄する。この雨水36に適宜消化液27が肥料として加えられて培養液37が作られ、浮き草栽培工程3に供給される。浮き草栽培工程3では、適当な日射量や温度などの生育条件が整えられて、浮き草38が栽培される。浮き草栽培工程3には、温室や培養液37の加熱装置などを用いてもよい。なお、消化液27に含まれないかあるいは不足する種類の養分は、別途供給する。浮き草38の栽培には、元となる親株が必要であるが、一旦栽培が始まれば株分かれが進行するため、以降は種蒔きに相当する定期的な作業は不要である。増殖、生育した浮き草38はバイオマス資源として収穫され、前処理工程21に送られ嫌気性発酵の原料となる。また、培養液37の余剰分39は、水浄化工程4で使用される。
【0032】
水浄化工程4では、培養液37の余剰分39を用いて浮き草47を栽培する。培養液37の余剰分39には消化液27は加えない。したがって、浮き草47は培養液37中の肥料成分を可能な限り吸収し、浄水46が製造される。浄水46は、そのまま外部に供給してもよいが、浄水加工工程41で用途に適するように加工し、工業用水48や畜産業用水49などにして供給してもよい。浄水46中では浮き草47の生育は止まるため、生育途中であっても収穫してよいし、他の培養液37に移して栽培を継続してもよい。
【0033】
なお、浮き草栽培工程3で栽培する浮き草38と、水浄化工程4で栽培する浮き草47とは、ともにホテイアオイが好適である。
【0034】
上述の実施例のバイオガス及び浄水の製造方法1によれば、雨水36と大気中の炭酸ガスを原料として、日光により炭酸同化作用を行い、バイオガス26及び浄水46を製造でき、さらには電力28や液体肥料29も生成することができる。一方、浮き草38、47やメタンバクテリアなどの微生物は増殖するため、原料として定期的に供給する必要はなく、原料費は限りなく低廉である。
【0035】
図2は、本発明の別の実施例のバイオガス及び浄水の製造装置6を示す説明図である。実施例の製造装置6は、海面Sから陸地Lにまたがって配設されている。まず、図2を参考にして、海面Sに備えられている栽培槽8、雨水備蓄槽85、及び浄化槽9について説明する。
【0036】
栽培槽8は、上方の開いた底の浅い箱形をしており、側面を形成するフレーム800と底部を形成するシート810とで構成されている。フレーム800は海面S上に浮かび、海面Sを矩形に囲んでいる。フレーム800は、断面矩形の強固な枠体801と、枠体801に内蔵され内部空間を持つ浮体802とで構成され、全体の比重が1未満に形成されている。フレーム800の断面形状は矩形に限らず円形その他でもよく、構成部材も限定されず比重が1未満の木材や中空の樹脂などを用いてもよい。シート810は、フレーム800が囲んだ矩形の海面Sの全面を覆っている。シート810の周縁端部は上方に折り曲げられて箱形とされ、フレーム800の内側上部に固定されている。シート810には、柔軟で水密性のあるゴムシートなどを用いることができる。栽培槽8の箱形のシート810の内部には培養液37が適量保持されている。培養液37の増減により栽培槽8の喫水線は上下するが、シート810の周縁端部は喫水線の上限よりもさらに上側とされ、海水の浸入は阻止されている。
【0037】
また、栽培槽8は内部に培養液37の液面を区画して液路を形成するためのガイド壁830を備えている。ガイド壁830は、培養液37の液面に浮かぶ浮き頭部831と、浮き頭部831より下方に垂れ下がり底部のシート810に固定される壁部832と、からなっている。浮き頭部831には、中空の浮体や発泡スチロールなどを用いることができる。壁部832には、シート810と同じゴムシートなどを用いることができる。なお、壁部832の下部とシート810との間は、密着して固定する必要はなく、培養液37の往来があっても許容される。栽培槽8のさらに詳細な構成や付帯器具は、項を改めて後に詳述する。
【0038】
雨水備蓄槽85は、栽培槽8の水深の深い側に隣接し、海面Sに配設されている。雨水備蓄槽85は、浮き枠体851と側壁部852と底部853とで形成されている。浮き枠体851の比重は1未満で、海面Sを区画しており、木材や中空の樹脂などで形成されている。側壁部852は、上端が浮き枠体851に連結し、筒状で、海中で上下方向に蛇腹状に自在に伸縮し、水密性を有する部材で形成されている。底部853は、側壁部852の下端を塞ぐように一体に、水密性を有する部材で形成されている。側壁部852と底部853とにより、雨水備蓄槽85の機能を果たす水槽が構成されている。
【0039】
降雨があると、浮き枠体851の区画内に落下した雨水36は、この水槽に備蓄されるようになっている。さらに、雨水36の量が増加してくると、蛇腹状の側壁部852は伸張して海中深部にまで達し、十分な量を備蓄できるようになっている。そして、雨水備蓄槽85から栽培槽8へ、雨水管路887及び送水ポンプ888により、適宜雨水36が移送されるようになっている。なお、水槽内の雨水36と外部の海水とは力学的に釣り合っており、比重の小さい雨水36の水面は海面Sよりも高くなる。このため、側壁部852が限界まで伸張して備蓄量が最大になったときにも雨水36が流出しないように、浮き枠体851には十分な高さを持たせてある。
【0040】
浄化槽9は、栽培槽8に隣接した海面Sに配設されている。浄化槽9でも浮き草47を栽培するため、主要部の構成は栽培槽8と同様となっている。そして、栽培槽8から浄化槽9へ、図略の管路及び送水ポンプにより、培養液37の余剰分39が移送されるようになっている。
【0041】
なお、上記海面Sに備えられる栽培槽8、雨水備蓄槽85、及び浄化槽9は、波しぶきを防ぐ防波堤や、特定の地点に繋ぎ止めるための繋留装置、移動のための推進装置などを備えてもよい。
【0042】
次に、図3を参考にして、陸地Lに備えられている発酵槽7、前処理部71、貯留タンク74、及び発電機75について説明する。
【0043】
前処理部71は、発酵槽7に隣接して配設され、乾燥機720と粉砕機730と前処理槽710とで構成されている。乾燥機720は、浮き草38を乾燥させ、水分含有量を適正化するものである。乾燥機720は、乾燥用コンベヤ721、722、723を上下3段に備え、かつ各段は左右に互い違いにずらして配設されている。浮き草38、47は、図略の運搬用コンベヤあるいは運搬船などの手段により栽培槽8及び浄化槽9から運ばれ、まず最上段のコンベヤ721に戴置される。浮き草38、47は、最上段のコンベヤ721によってゆっくり水平に移動しながら乾燥し、図3に破線の矢印で示すように、終端で2段目のコンベヤ722に落下する。2段目のコンベヤ722は浮き草38、47を逆方向に水平移動させながら乾燥させ、最終的には3段で左右に1往復半する工程で乾燥が終了するようになっている。3段目のコンベヤ723の終端の下部には粉砕機730が配設され、乾燥した浮き草38、47を収容できるように配置されている。
【0044】
粉砕機730は、収容した乾燥済みの浮き草38、47を細かく粉砕することにより、次の前処理及び嫌気性発酵を促進するものである。粉砕機730は、管路731により前処理槽710に連通しており、粉砕された浮き草38、47が自動的に移送されるようになっている。前処理槽710は、粉砕機730に隣接して配設されている。前処理槽710では、浮き草38、47の自己消化作用により、加水分解、酸化作用、酢酸形成等の前処理が進行する。前処理槽710は、管路711により発酵槽7に連通しており、前処理を終えた浮き草38、47が自動的に移送されるようになっている。
【0045】
発酵槽7は、前処理槽710に隣接して設けられている。発酵槽7には、化学的に安定し耐候性に優れた例えば金属製の堅牢な密閉タンク700が用いられる。密閉タンク700の側壁下部には浮き草38、47を導入する導入口701が設けられ、前処理槽710からの管路711が連通している。密閉タンク700の側壁上部には生成されるバイオガス26を導出するガス導出口702が設けられ、側壁中間高さには生成される消化液27を導出する消化液導出口703が設けられている。さらに密閉タンク700の底部には排出弁704が設けられている。密閉タンク700の内部には、メタンバクテリアなどを含む発酵液の供給手段が設けられ、生成されるバイオガス26は密閉タンク700の上部に蓄積し、消化液27は浮き草38、47の上側に分離するようになっている。
【0046】
貯留タンク74は、発酵槽7に隣接して配設され、堅牢な密閉タンク740が用いられる。貯留タンク74は、ガス導出管741を介してガス導出口702に連通し、消化液導出管742を介して消化液導出口703に連通している。そして、発酵槽7内のバイオガス26は、圧力差によりガス導出管741内を自然に流れて貯留タンク74に移動し、貯留されるようになっている。また、発酵槽7内の消化液27は、消化液導出口703に近い上澄み液から順に流れ出て、消化液導出管742を通って貯留タンク74に移動し、貯留されるようになっている。
【0047】
一方、貯留タンク74の密閉タンク740の側壁下部には、肥料管路743が設けられ、肥料ポンプ744を介して栽培槽8に連通している。肥料管路743と肥料ポンプ744とにより、消化液27は液体肥料として雨水36に適宜加えられ、培養液37が作られるようになっている。また、密閉タンク740の側壁上部寄りには燃料管路745が設けられて発電機75に連通し、バイオガス26を移送できるようになっている。さらに密閉タンク740の底部には排出弁746が設けられている。本実施例では、貯留タンク74は共通に1基としたが、バイオガス26用と消化液27用にそれぞれ、合計2基設けてもよい。
【0048】
発電機75は、原動機751と、発電機本体752とで構成されている。原動機751には燃料管路745の終端が連通し、バイオガス26が供給されるようになっている。原動機751では、バイオガス26が燃焼し、熱エネルギーが機械的エネルギーに変換される。原動機751と発電機本体752との間は、動力伝達ベルト754あるいは共通シャフトによって連結され、機械的エネルギーが伝達されている。発電機本体752では、機械的エネルギーが電気的エネルギーに変換されて電力28が生成され、出力端子755から出力される。
【0049】
上述の構成による製造装置6では、海面Sで浮き草38、47の栽培及び浄水46の製造を行い、陸地Lで嫌気性発酵によるバイオガス26の製造及びバイオガス26を用いた発電を行うことができる。
【実施例】
【0050】
栽培槽8のさらに詳細な構成及び付帯器具について、図4〜図6を参考にして説明する。図4は、図2に示される海面Sに備えられた栽培槽8を上方から見た鳥瞰図である。栽培槽8は、前述のフレーム800及びシート810及びガイド壁830と、収穫手段870、液管理手段880と、で構成されている。
【0051】
ガイド壁830は、栽培槽8内の培養液37の液面を、所定幅を有し一端821から終端822に延びる屈曲した帯状に区画して液路を形成している。液路は、図3の左下隅を一端821として、右に向かってジグザグ状に延びて右下隅に達した後、右上隅、左上隅を経て、左下隅を終端822としている。一端821と終端822との間には収穫手段870が設けられている。
【0052】
収穫手段870は、図4に示されるように、栽培槽8の左下隅に設けられ、ガイド壁830により形成された液路の終端822に誘導される浮き草38を収穫できるように配置されている。図5は、収穫手段870の垂直断面図である。図5に示されるように、収穫手段870は、箱体871、下部ローラ872、上部ローラ873、図略の駆動源、エンドレスベルト874、移送コンベヤ875、とで構成されている。
【0053】
箱体871は、培養液37の液路の終端822に連通し海水に対して水密性を持つ箱状の部材である。箱体871は、収穫手段870を構成する各部材を支持するとともに、後述の液管理手段880の主要部を内蔵している。下部ローラ872は箱体871内の培養液37中に配設され、上部ローラ873は下部ローラ872の斜め上方の大気中に配設されている。エンドレスベルト874は、2つのローラ872、873間に傾斜して張設されている。そして、図略の駆動源が上部ローラ873を駆動すると、上部ローラ873は図中右回転して、エンドレスベルト874もローラ872、873間をコンベヤの如く図中右回転する。なお、駆動源は連続使用、定期的な間欠使用、任意の操作による使用、のいずれにも対応できるようになっている。
【0054】
エンドレスベルト874は、一面に孔を有するメッシュ状の部材で形成されるとともに、多数の起立するピン876を備えている。移送コンベヤ875は物品を移送する一般的なベルトコンベヤであり、箱体871の上面に配置され、一方877が上部ローラ873の下側に、他方878がフレーム800よりも外側にまで懸架されている。
【0055】
収穫手段870により、液路の終端822に誘導された浮き草38はピン876に引っ掛かり、エンドレスベルト874及び移送コンベヤ875によって移送され、収穫されるる。次いで、浮き草38は、図略の運搬用コンベヤあるいは運搬船により陸地Lまで運搬され、乾燥機720に投入される。
【0056】
液管理手段880は、培養液37の取り込み口881、培養液ポンプ882、送液管883、肥料手段890、液誘導手段895、で構成されている。図6は、液管理手段880の主要部を示す説明図である。取り込み口881は、収穫手段870または液路の終端822の底部に連通しており、培養液37を取り込むことができる。培養液ポンプ882は、取り込み口881から培養液37を取り込み、送液管883に圧送するものである。培養液ポンプ882から出た送液管883の途中には三方弁の送液バルブ885が設けられ、圧送先を液誘導手段895と排出口886とに切り替えられるようになっている。排出口886は、降雨などが流入して過剰となった培養液37を排出するためのものである。
【0057】
肥料供給手段890は、肥料タンク891と肥料バルブ892とで構成されている。肥料タンク891には、消化液27では補給できない養分を濃い濃度で含む液体肥料が貯蔵されている。肥料バルブ892は肥料タンク891と送液管883との間を開閉するものであり、開くことにより液体肥料が培養液37中に流入するようになっている。
【0058】
送液管883の途中には、雨水備蓄槽85からの雨水管路887が送水ポンプ888を介して連通している。したがって、この雨水管路887により、雨水備蓄槽85に備蓄された雨水36を栽培槽8に移送することができる。さらに、雨水管路887の途中には、貯留タンク74からの肥料管路743が肥料ポンプ744を介して合流している。したがって、この肥料管路743により、貯留タンク74内の消化液27を雨水36に加えて培養液37を作ることができる。
【0059】
送液バルブ885及び肥料バルブ892の開閉操作と、培養液ポンプ882及び送水ポンプ888及び肥料ポンプ744の入り切り操作とは、人手で行ってもよく、また電気的な制御装置により行うこともできる。電気的な制御装置を用いる場合には、各バルブ885、892は電磁弁とし、液面検出部、液質検出部、流れ検出部などを付属するのが好ましい。これらの検出部により、培養液37の液面レベルや養分含有濃度、流れの状態を検出することができ、自動制御によって培養液37を適正な栽培条件に管理することができる。なお、栽培条件に関与する気温なども検出して参照し、制御条件に反映するようにしてもよい。
【0060】
液誘導手段895には、培養液37を噴出するノズルが用いられる。液誘導手段895は、図4に示されるようにガイド壁830により形成される液路の屈曲部に複数設けられ、培養液ポンプ882から圧送される培養液37を図中矢印方向の液中または気中に噴出すように構成されている。これにより、培養液37は全体として液路の一端821から他端822に向かって流れ、浮き草38を収穫手段870へと誘導することができる。
【0061】
実施例の栽培槽8では、ガイド壁830により一端821から終端822に延びる屈曲した液路が形成されている。さらに、液誘導手段895により培養液37に流れが形成され、栽培槽8全体で均一化された良好な栽培条件が得られるようになっている。これにより、浮き草38を効率的に自動で栽培するとともに、スムーズに収穫手段870に誘導することができる。また、収穫手段870を備えることにより、栽培だけでなく収穫作業までも自動で行え、生産性は極めて高い。さらに、栽培槽8は海面Sに備えられて内側の培養液37と外側の海水とが力学的に釣り合うため、小さな機械強度で形成することができる。また、設置用地の制約がないので、適切な規模とすることが容易である。このように多くの点で優れた栽培槽8となっている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例のバイオガス及び浄水の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の別の実施例のバイオガス及び浄水の製造装置を示す説明図である。
【図3】図2の実施例の製造装置のうち、陸地に備えられている範囲を示す説明図である。
【図4】図2の実施例の製造装置のうち、栽培槽のさらに詳細な構成及び付帯器具を示す説明図である。
【図5】図4における収穫手段を示す垂直断面図である。
【図6】図4における液管理手段の主要部を示す説明図である。
【符号の説明】
【0063】
1:バイオガス及び浄水の製造方法
2:嫌気性発酵工程
21:前処理工程 22:ガス改質工程 23:発電工程
24:消化液改質工程
26:バイオガス 27:消化液 28:電力 29:液体肥料
3:浮き草栽培工程
31:雨水備蓄工程
36:雨水 37:培養液 38:浮き草 39:余剰分
4:水浄化工程
41:浄水加工工程
46:浄水 47:浮き草 48:工業用水 49:畜産業用水
6:バイオガス及び浄水の製造装置
7:発酵槽
71:前処理部
710:前処理槽 720:乾燥機 730;粉砕機
74:貯留タンク 75:発電機
8:栽培槽
800:フェンス 810:シート 830:ガイド壁
870:収穫手段 880:液管理手段 890:肥料供給手段
895:液誘導手段
9:浄化槽
S:海面 L:陸地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮き草を嫌気性発酵させ、メタンガスを含むバイオガスと肥料成分を含む消化液とを得る嫌気性発酵工程と、
雨水を集めかつ蓄積しさらに該消化液を肥料として加えた培養液を用いて、該浮き草を栽培する浮き草栽培工程と、
該培養液の余剰分を用いて該浮き草を栽培し、該培養液中の該肥料成分を該浮き草に吸収除去させて浄水を得る水浄化工程と、
を含むことを特徴とするバイオガス及び浄水の製造方法。
【請求項2】
前記浮き草栽培工程及び/または前記水浄化工程を海面で行う請求項1記載のバイオガス及び浄水の製造方法。
【請求項3】
前記浮き草はホテイアオイである請求項1または2記載のバイオガス及び浄水の製造方法。
【請求項4】
浮き草を導入する導入口と生成されるバイオガスを導出するガス導出口と生成される消化液を導出する消化液導出口とをもち、嫌気性発酵を行う発酵槽と、
雨水を受けかつ蓄積しさらに該消化液を肥料として加えた培養液を保持し、該浮き草を栽培する栽培槽と、
該培養液の余剰分を保持して該浮き草を栽培し、該培養液中の該肥料成分を該浮き草に吸収除去させて浄水を得る浄化槽と、
を備えることを特徴とするバイオガス及び浄水の製造装置。
【請求項5】
前記栽培槽及び/または前記浄化槽は海面に設けられる請求項4記載のバイオガス及び浄水の製造装置。
【請求項6】
前記浮き草はホテイアオイである請求項4または5記載のバイオガス及び浄水の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−7582(P2007−7582A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193000(P2005−193000)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年4月11日 財団法人2005年日本国際博覧会協会開催の「2005年日本国際博覧会・南太平洋共同館」に出品
【出願人】(593016237)
【Fターム(参考)】