説明

バイオセンサおよびバイオセンサチップ、ならびに標的分子を感知するためのバイオセンサチップの製造方法

標的分子を感知するためのバイオセンサチップは、感知用領域のある表面を有している基材と、細胞膜を有しているモリクテス綱を感知用領域の上に固定化するための接着材料とを含んでいる。このチップは、モリクテス綱が感知用領域に属さない基材の表面の部分に固定化されるのを防止するための抗細胞材料を含んでいてもよい。さらに、接着材料は、モリクテス綱の本体部を感知用領域の上に固定化するための第1の接着材料と、モリクテス綱の先端部を基材の表面に固定化するための第2の接着材料とを備えるものでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バイオセンサおよびバイオセンサチップ、ならびに標的分子を感知するためのバイオセンサチップの製造方法に関するものである。
【0002】
先の米国仮出願である、2006年5月1日に提出された第60/796,162号出願および2006年12月22日に提出された第60/871,765号出願の全内容は、引用によってこの明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
バイオセンサのバイオインターフェイスとしてのホールセル(細胞全体)は多くの著者によって提案されてきた。最近の論評については、Biotechnol.Progr.の2003年第19巻の第243〜253ページにおけるT.H.Park氏およびM.L.Shuler氏による論文を参照されたい。この論文によれば、生体内データを感知するための細胞の可能性についての検討に加えて、細胞のマイクロパターン化および表面接合について用いられた技術についての洞察もまたもたらされている。この状況における1つの興味深い取り組みはいわゆる細胞培養類似体(Cell Culture Analogue)(CCA)であり、これは細胞機能を模倣する人工装置である。CCAは、主に薬学的研究を対象にしているが、適切な適応の後には、生体内データを感知するための可能性をも有している。
【0004】
生体内データを感知するための細胞の利用についての1つの重大な局面は、マイクロパターンあるいはナノパターン上への制御されたそれらの接着である。このような技術は、細胞接着、細胞成長、代謝、およびアポトーシスのような細胞生物学における基礎研究のために重要であるのみならず、組織工学、神経科学における適用、およびマンマシン・インターフェイスの開発をさらに目的とする点でも重要である。ナノパターンは、細胞結合箇所の分子画定および多価相互作用が重大であるときに特に有用である〔ChemBioChem.の2003年第4巻の第339〜343ページにおけるS.Svedhem氏らによる論文、Nano Lettersの2006年第6巻の第267〜270ページにおけるCh.Selhuber氏らによる論文〕。しかしながら、これらの研究における接着のために用いられた細胞は、平均直径が通常数十μmから2〜3百μmまでであるメゾスコピックサイズである。文献には、ナノパターン上に接合された細胞が単独でサブミクロンの寸法を有するどのような試みも報告されていない。
【0005】
ホールセルに加えて、細胞膜もまた、活性および高い選択性をバイオセンシングシステムの生物学的認識プロセスに導入するために用いることができる。ここではさらに、天然細胞の表面吸着〔Phys.Chem.Chem.Phys.の2001年第3巻の第4091〜4095ページにおけるM.Tanaka氏らによる論文〕から、細胞膜の代用として人工的に形成された脂質二重層の拡散〔Scienceの1996年第271巻の第43〜48ページにおけるE.Sackmann氏による論文〕までの範囲にわたって、さまざまな方法が適用されてきた。後者の利用は、制御がいっそう単純かつ容易ではあるが、それらは、機械的および化学的な安定性が比較的低く、上記二重層の流動性、とりわけ凍結および解凍のサイクルの適用の後におけるそれが不充分である、という点で不利益を示している。より詳しい情報については、次の論評および論文を参照されたい。Scienceの1996年第271巻の第43〜48ページにおけるE.Sackmann氏によるもの、Scienceの1997年第275巻の第651〜653ページにおけるJ.T.Groves氏らによるもの、Natureの2005年第437巻の第656〜663ページにおけるM.Tanaka氏およびE.Sackmann氏によるもの、Langmuirの2006年第22巻の第7078〜7083ページにおけるO.Worsfold氏らによるもの、J.Am.Chem.Soc.の2004年第126巻の第3257〜3260ページにおけるM.Tanaka氏らによるもの。
【0006】
モリクテス綱(mollicutes)については、それらの寄生的性質によって、特に生体医科学において広範囲に研究されてきた。それらのほとんどは、植物、動物、およびヒトにおけるマイコプラズマ肺炎あるいはマイコプラズマ関節炎などの疾患を引き起こすものである。しかしながら、宿主生物にとって直接的に悪性であるのみでなく、モリクテス綱は、他の病原体、とりわけウイルスにおいて簡潔な侵入手段をもまた与え、侵入後にその宿主の深刻な感染症を引き起こしうる。これらの主題に関する広範囲な論評について、この発明の発明者らは、ニューヨークのKluwer Academic/Plenum Press社のShmuel Razin氏およびRichard Herrmann氏によって編集された書籍である2003〔ISBN 0−306−47287−2〕「マイコプラズマの分子生物学および病原性」(“Molecular Biology and Pathogenicity of Mycoplasmas”)および同主題についてのS.Razin氏らによる論評〔Microbiol.Mol.Bio.Rev.の1998年第62巻の第1094〜1156ページにおけるS.Razin氏らによるもの、Physiol.Rev.の2003年第83巻の第417〜432ページにおけるS.Razin氏によるもの〕を参照している。
【0007】
モリクテス綱が大いに研究された他の科学分野の1つは、細胞膜の性質および機能に関する研究である。このことは、モリクテス綱が外側細胞壁の恒久的欠如を示しているという事実に基づいている。それらには、外側から直接接触可能な、生物学的に活性で充分に機能的な原形質膜が基本的に備わっている。細胞膜二重層の流動性および機能についての今日の知識の大部分は、モリクテス綱に関する研究によって得られたものである。モリクテス綱の細胞膜をバイオセンシングに直接適用することは、これまでのところまったく試みられていないが、この研究分野が有益であることから、この文書において示唆された取り組みの実現可能性が強調されている。さらに別の情報について、この発明者らは、ニューヨークのPlenum Press社のSubcell.Biochem.の1993年第20巻の第1〜314ページにおけるS.Rottem氏およびI.Kahane氏(編集者)による「マイコプラズマ細胞膜」(“Mycoplasma Cell Membranes”)および、例えばProc.Natl.Acad.Sci.の1970年第66巻の第909〜916ページにおけるM.E.Tourtellotte氏らによる論文を参照している。
【0008】
これまでに刊行されたバイオナノテクノロジの大いに進歩している分野へのモリクテス綱の知られた唯一の応用は、バイオセンシングに関するものではなく、分子移送と分子機械の開発とに関するものである。Hiratsuka氏とその協力者らは、マイクロトラックにおける生物学的薬剤についての移送体としての迅速滑走マイコプラズマ(マイコプラズマモバイル)の使用について報告している〔Biochem.Biophys.Res.Comm.の2005年第331巻の第318〜324ページにおけるY.Hiratsuka氏らによる論文〕。
【0009】
ナノバイオセンサの開発は、工業的関連性に加えて学問的な複数の理由によって行われている。明らかなことであるが、センサが小さければ小さいほど、それはより少量の分析対象物を必要とし、信号対雑音比が改善されることが約束され、製造コストがより低くなり、かつ、ますます縮小化されたわれわれの世界において全体としてより良好に適合する。さらに、生物医学的研究および薬学的研究には、例えば1つのバイオチップの上における全ヒトゲノムのスクリーニングの様に、分析対象物の高いスループットスクリーニングが要求される。このような巨大データの処理には、扱いやすくするために小さい形状が厳しく要求される。しかしながら、最も刺激的な局面は、ナノスケールセンサが、われわれのナノ構造型の生物学的世界における寸法に達し、それによって、生物学的プロセスをプロセスの行われるまさにその現場で局所的に検出する機会を開く、という事実に関連している。数多くのナノバイオセンサは、物質移行と生物学的分析対象物の濃度の変化とを局所的に、例えば1つの細胞にわたって追跡するであろう。このような高分解能センシングによれば、基礎科学から、臨床的研究、薬剤開発、組織工学、人工臓器およびインプラント開発、ならびにマンマシン装置までの範囲にわたる多くの相異なる分野で働いている科学者および研究者にとって、全く新しい世界が開かれるであろう。
【0010】
バイオセンサの構成に関する典型的な構想は、所望の分子を標的にする特異的結合用リゲートを支持する充分機能的な生化学的構造を、生物学的事象を機械可読データへ変換するためのトランスデューサとして作用する物理的装置へ組み合わせることである。ナノバイオセンサについては、このことは、生物学的および物理学的複合物の混成がサブミクロン水準で起きる必要があるということを意味する。ナノテクノロジおよび情報処理における急速な進歩により、主に電子的、光学的、あるいは光電子的な、サブミクロン規模の分解能を有するトランスデューサ機構をもたらすさまざまな物理的装置が利用可能である一方で、結果として、そのような装置を充分に作動可能な生化学的構造で機能化することはどちらかというと困難になる。このことは、いっそう驚くべきことであるが、その理由は、特に生物学的状況が、その構造における巨大な階層のために、分子寸法から巨視的規模まで達するとみなされているからである。従って、ナノバイオセンシングが作用する規模は容易に達成することができるであろう。しかしながら、特異的認識プロセスなどの生化学的事象は、事実上、極めて動的であり、また、単一反応よりはむしろ多くの競合的プロセスの微妙な均衡である傾向が強い。従って、この課題は、サブミクロン寸法の範囲内で、関連するすべての基本構成要素から構成された、充分に機能的な生化学的ユニットを提供することである。
【0011】
実際には、標的分子を高い特異性で選択的に結合することのできる生化学的インターフェイスを製造するという課題は、2つの基本的な要件に、すなわち、特定のリゲートの存在と、同じ試料の中に存在するかもしれない複数の他の分子の非特異的結合を抑制する可能性とに狭めることができる。商品化のためにいっそう重要である2番目の要件は、製造プロセスの高い信頼性および再現性に加えて、寿命および保存の問題に関連している。
【0012】
特定のリゲートが必要であるという第1の基本的要件は比較的容易に満たされるが、その理由は、自然現象それ自体が特異的認識プロセスに関するロックキー原理の発明者であるからである。従って、上記の全課題は、所望のリゲートが適した宿主生物の中で製造された後におけるこれらの単離および処理へ削減することができる。過去数10年の間に、さまざまな技術、例えば、第2工程において物理センサへ物理的にあるいは化学的に取り付けることのできる単クローン抗体の成長および採取についての技術が開発されている。しかしながら、この挑戦は、非特異的結合事象を抑制することによって高い特異性を保証するためのものである。後者は、物理的トランスデューサ機構が、特異的相互作用あるいは非特異的相互作用のためにセンサへ付着する分子どうしを区別することが一般にできないため、最重要なものであるが、その理由は、関係する力(静電気の、ファン・デル・ワールスの、疎水性の)の性質がこれら両方の種類の相互作用において基本的に同じであるからである。このため、特異性は、センサの生物学的及び物理学的複合物との間におけるインターフェイスとしてのごく選択的に作用する生化学構造によってのみ、導入することができる。
【0013】
非特異的相互作用を抑制するための標準的な方法は、非特異的吸着部位を遮るために、リゲートを保持する生化学的構造をウシ血清アルブミン(BSA)などの他の接着性蛋白質へさらすことに基づいている。しかしながら、この方法の効率は、使用される基材と研究中の生物学的系との両方に左右され、また、溶解している種と表面に結合している種との間で交換プロセスが起きることがある(フローマン効果(Vroman effect))。従って、特定のリゲートを非特異的蛋白質吸着に抵抗するマトリックス材料の中へ一体化するさまざまな試みが近年、行われている。すぐれた蛋白質反発特性の備わった候補マトリックス材料は例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)の薄膜〔ニューヨークのPlenum Press社のJ.M.Harris氏によって編集された1992年のE.W.Merrill氏による「ポリ(エチレンオキサイド)および血液接触」(“Poly(Ethylene Oxide) and Blood Contact”)の第199〜220ページ、ニューヨークのPlenum Press社のJ.M.Harris氏によって編集された1992年のC.G.Golander氏、J.N.Herron氏、K.Lim氏、P.Claesson氏、P.Stenius氏、J.D.Andrade氏による「固定化されたPEG膜の性質および蛋白質との相互作用:実験およびモデル化」(“Properties of Immobilized PEG Films and the Interaction with Proteins:Experiments and Modelling)の第221〜245ページ〕およびオリゴ(エチレングリコール)(OEG)の薄膜〔Scienceの1991年第252巻の第1164〜1167ページにおけるK.L.Prime氏およびG.M.Whitesides氏によるもの;J.Am.Chem.Soc.の1993年第115巻の第10714〜10721ページにおけるK.L.Prime氏およびG.M.Whitesides氏によるもの〕である。
【0014】
しかしながら、簡単な生物学的モデルの流体での実験室規模におけるいくつかの成功の他に、そのような膜を用いる生化学的インターフェイスは、工業的規模での用途に適したものになるであろう充分な安定性および再現性を示すことがなかった。エチレングリコール誘導体の特定の問題は例えば、酸化についてのそれらの不安定性である。
【0015】
これまで言及されなかったこのような人工的生化学的インターフェイスについての別の問題は、特異的結合に使用されるリゲートの活性である。このようなリゲートの製造および採取については問題がないものの、吸着あるいは化学結合による生化学的インターフェイスの中へリゲートを組み込むことによって、リゲートの変質、さらに、そのためリゲートの活性の損失が引き起こされることがある。すべてのこれらの問題、すなわち、バイオセンサの生化学的インターフェイスの不充分な特異性および活性は、リゲートを埋め込むための天然の宿主マトリックスが選択されたときに、克服可能である。例えば、細胞膜には、きわめて複雑な生物学的環境が存在するにもかかわらず、完全に活性であってきわめて特異なままである、相異なった複数の特異的に作用するリゲートが含まれている〔Scienceの1996年第271巻の第43〜48ページにおけるE.Sackmann氏の論文〕。
【0016】
従って、バイオセンシングにおける生化学的インターフェイスとして細胞膜を利用することは道理に適った試みであるように思われる。しかしながら、ヒトあるいは動物の細胞から採取された天然の細胞膜は、特に工業的規模での製造の観点では、利用するのが困難である。第1に、そのような細胞膜は、きわめて複雑であるとともに、バイオセンシングにおいて好ましくない特異的相互作用などの副作用を引き起こすかもしれないさまざまな蛋白質および受容体を含んでいる。さらに、それらの組成における自然の変動によって、信頼性およびプロセス制御が複雑になる。
【0017】
このため、細胞表面モデルとして使用することができるとともにそれぞれの研究のために必要なそれらの分子が富化された人工的な表面支持型細胞膜を製造する多くの試みが行われてきた〔Natureの2005年第437巻の第656〜663ページにおけるM.Tanaka氏およびE.Sackmann氏の論文〕。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
現在の技術によれば、人工的な表面支持型細胞膜を大規模に、すなわち均一表面で製造することが可能になるが、パターン化された細胞膜は、これまでのところミクロン寸法の状況に制限されている。人工細胞膜のナノパターン化は、これまでのところ達成されておらず、また、不充分な安定性のために困難であるように思われる。さらに、そのような小規模での人工細胞膜の機能性は、その細胞膜の流動性がその適切な機能のために最も重要であるため、疑わしい。しかしながら、流動性は、人工細胞膜で達成することが困難であることがわかっている〔Langmuirの2006年第22巻の第7078〜7083ページにおけるO.Worsfold氏、N.H.Voelcker氏、T.Nishiya氏の論文〕。細胞膜の全寸法をサブミクロンの寸法に制限することもまた、この問題をさらに複雑にするだろう。
【0019】
上記のことから、バイオセンシングのために必要であるような一体化型リゲートの高い活性と特異性とが備わっている、完全に作用することのできる生化学的インターフェイスの製造が依然として主要な挑戦のままであることが明らかになる。このことは、上記要件に加えて、良好な保存機能、長い寿命、容易な製造性などのような重要な実際的特性についてのさらに別の要件が必要であるバイオセンサの工業的規模製造に関して特に真実である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、上記の従来技術において生じるであろう上記諸問題を解決するためになされたものである。
【0021】
この発明の1つの態様による標的分子を感知するためのバイオセンサチップは、感知用領域が備わった表面を有す基材と、細胞膜を有すモリクテス綱を上記感知用領域上に固定化するための接着性材料と、を含む。
【0022】
この発明の別の態様による標的分子を感知するためのバイオセンサは、上記バイオセンサチップと、上記感知用領域における質量あるいは屈折率の変化を検出するためのトランスデューサと、上記バイオセンサチップに分析対象物を供給するフローセルと、を含む。
【0023】
この発明の別の観点による標的分子を感知するためのバイオセンサチップの製造方法は、感知用領域が備わった表面を有す基材を用意する工程と、細胞膜を有すモリクテス綱を上記感知用領域上に固定化するために、接着性材料を上記感知用領域上に配置する工程と、を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明のある実施形態による、ナノパターン上にモリクテス綱を固定化するための第1の基本方式を描写している概略図であり、ここで、図1(a)は、基材の上における接着性材料および抗細胞材料によって形成されたナノパターンを示しており、図1(b)は、基材の上における上記接着性材料によって固定化されたモリクテス綱のあるナノパターンを示している。
【0025】
【図2】図2は、本発明の別の実施形態による、ナノパターン上にモリクテス綱を固定化するための第2の基本方式を描写している概略図であり、ここで、図2(a)は、基材上における2つの相異なる接着性材料および上記抗細胞材料によって形成されたナノパターンを示しており、図2(b)は、先端部が基材上における上記接着性材料の一方によって固定化され、本体部が基材上における上記接着性材料の他方によって固定化されたモリクテス綱のあるナノパターンを示している。
【0026】
【図3】図3は、リゲートをモリクテス綱の細胞膜の中へ埋め込むための第1の基本方式を描写している概略図であり、ここで、図3(a)は、脂質分子が細胞膜を組織する前に上記脂質分子へ共有結合的に取り付けられたリゲートを示しており、図3(b)は、細胞膜へと組織化された脂質分子へ取り付けられたリゲートを示している。
【0027】
【図4】図4は、リゲートを遺伝子工学によってモリクテス綱の中へ埋め込むための第2の基本方式を描写している概略図であり、ここで、図4(a)は、天然DNAを有するモリクテス綱を示しており、図4(b)は、異質な配列が上記DNAの中へ挿入されたモリクテス綱を示しており、図4(c)は、その細胞膜における好ましいリゲートの発現の後の変性DNAを有するモリクテス綱を示している。
【0028】
【図5】図5は、モリクテス綱を生化学的インターフェイスとして利用してバイオセンサチップを製造するための基本方式(I)を描写している概略図である。
【0029】
【図6】図6は、基材上に2つの感知用表面があるバイオセンサチップを製造するための基本方式(II)を描写している概略図である。
【0030】
【図7】図7は、モリクテス綱が方位付けられた方式で固定化されたバイオセンサチップを製造するための基本方式(III)を描写している概略図である。
【0031】
【図8】図8は、バイオセンサチップの利用を描写している概略図である。
【0032】
【図9】図9は、バイオセンサチップを利用して標的分子を感知するためのバイオセンサについての一例を描写している概略図である。
【0033】
【図10】図10は、キャビティ表面の見込まれる反射特性を描写している概略図であり、ここで、図10(a)は、非金属キャビティの事例における上記特性を示しており、図10(b)は、金属被覆キャビティの事例における上記特性を示している。
【0034】
【図11】図11は、マイクロキャビティのキャビティモードの波長についての簡易見積を描写している概略図であり、ここで、図11(a)は、金属被覆キャビティについての概算を示しており、図11(b)は、非金属キャビティについての概算を示している。
【0035】
【図12】図12は、異なる成長期間の後にシリコン基材上に固定化されたアコレプラズマ・レイドラウィイ(APL)細胞の、走査型電子顕微鏡(SEM)による顕微鏡写真を示しており、図12(a)は、培地中での2日間の成長後におけるAPL細胞を示しており、図12(b)は、6日間の成長後におけるAPL細胞を示しており、図12(c)は、図12(b)の右上隅のクローズアップである。
【0036】
【図13】図13は、脂質標識化プローブ分子をAPL細胞膜の中へ一体化する実現可能性を実証しており、図13(a)は、脂質標識化蛍光体で染色されたAPL細胞のクラスタの共焦点蛍光画像であり、図13(b)は、その蛍光画像と同時に取得された同一のクラスタの共焦点透過画像である。
【0037】
【図14】図14は、懸濁状態にある脂質−ビオチン標識化APL細胞を使用する生物特異的相互作用に関する実験の結果を示しており、図14(a)は、特異的結合標的分子(ローダミンB検出用にプレートリーダ設定)として蛍光標識化ストレプトアビジンを使用する実験の結果を与え、また図14(b)は、非特異的相互作用標的分子(Alexa Fluor 488検出用にプレートリーダ設定)として蛍光ウシ血清アルブミン(BSA)を使用する結果を示しており、示された蛍光強度は、PBS緩衝剤のみについて同一条件下で測定された強度に対して標準化されている。
【0038】
【図15】図15は、表面が固定化された脂質−ビオチン標識化APL細胞(ローダミンB検出用にプレートリーダ設定)を使用する生物特異的相互作用に関する実験の結果を与え、示された蛍光強度は、PBS緩衝剤のみについて同一条件下で測定された強度に対して標準化されている。
【0039】
【図16】図16は、図15において評価された表面のSEMの顕微鏡写真を示している。図16の顕微鏡写真と同一標示のある図15の結果バーとは互いに対応している。
【0040】
【図17】表面に固定化された脂質−ビオチン標識化APL細胞を使用する生物特異的相互作用に関する実験の結果。(I)ローダミンB標識化ストレプトアビジンに曝露された細胞、ローダミンB検出用にプレートリーダ設定。(II)Alexa Fluor 488標識化BSAに曝露された細胞、Alexa Fluor 488の検出用にプレートリーダ設定。(III)Alexa Fluor 488標識化BSAへ付加的に曝露された後の(I)の細胞、Alexa Fluor 488検出用にプレートリーダ設定。(IV)ローダミンB標識化ストレプトアビジンへ付加的に曝露された後の(II)の細胞、ローダミンB検出用にプレートリーダ設定。示された蛍光強度は、PBS緩衝剤のみについて同一条件下で測定された強度に対して標準化されている。
【0041】
【図18】図15に示された実験のために使用された表面吸着APL細胞のクローズアップを示しているSEMの顕微鏡写真。
【0042】
【図19】ナノパターン化されたAPL細胞のSEMの顕微鏡写真であり、ここで、図19(a)は、公称直径が3μmであるSiパッチ上にパターン化されたAPL細胞を示しており、図19(b)は、培地のみにさらされた3μmのSiパッチの制御パターンを示しており、図19(c)および(d)は、公称直径が約1μmであるSiパッチ上にパターン化されたAPL細胞を示しており、図19(e)は、500nmまでのSiパッチ上にパターン化されたAPL細胞を示している。
【0043】
【図20】−30℃で3日間、凍結された細胞のプローブから成長したAPL細胞。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明に関連する代表的ないくつかの実施形態が、添付図面を参照しながら、以下に詳しく説明される。
【0045】
基本概念
まず、これらの実施形態の基本概念が以下に説明される。上記の知見に基づいて、発明者らは、これらすべての問題点、とりわけサブミクロン寸法の生化学的インターフェイスの製造に関する問題点に対する、驚くほど容易かつ単純な解決法に気付いた。加えて、この解決法によれば、モノクローナル抗体のようなリゲート生産物をもこれらの生化学的インターフェイスの製造の中へ組み入れる可能性がもたらされる。
【0046】
発明者らによる提案は、生化学的インターフェイスとして、マイコプラズマあるいはアコレプラズマのようなモリクテス綱を利用することである。モリクテス綱は、サイズが下に2〜3百ナノメートルまで至ることが知られている最小の自己複製細胞である。それらの小さい寸法のために、それらのゲノムの長さはこれまでに知られていた最も短いものに属している。このため、モリクテス綱は、その生合成能力が制限されてきたうえに、それらの大部分は、それら自体による生存および自己複製のために必要なすべての蛋白質を生産することができない。その代わりに、モリクテス綱は、成熟した植物、動物あるいはヒトの細胞へ膜融合によってドッキングする寄生体として、それらの生涯を費やす(Physiological Reviews の2003年第83巻の第417〜432ページにおけるS.Rottem氏の論文)。より高度に成長した細胞へドッキングされると、これらのモリクテス綱は、それら自体に、必須の蛋白質および生体分子のすべてを宿主細胞から供給する。おそらく、この理由のために、すなわち細胞膜融合のために、モリクテス綱には、植物あるいは動物の細胞のような外側細胞壁が備わっていない(Microbiology and Molecular Biology Reviews の1998年第62巻の第1094〜1156ページにおけるS.Razin氏らによる論文)。それらは脂質膜の二重層によって簡単に閉じ込められる。
【0047】
要するに、モリクテス綱におけるこれらの独自の特性によって、モリクテス綱は、さまざまな研究のためにきわめて魅力あるものになった。ゲノム研究は、自己複生のために必要な最小ゲノムに関心が持たれている。このような状況において、モリクテス綱は、「生命の量子ビット」を有するものと呼ばれる。外側細胞壁がないことから、それらは、細胞膜の研究にとってごく一般的なものである。
【0048】
細胞膜の流動性および物理化学的諸特性に関するわれわれの知識のほとんどすべては、モリクテス綱についての研究に由来している(ニューヨークのPlenum Press社のS.Rottem氏およびI.Kahane氏によって編集されたSubcellular Biochemistryの1993年第20巻の第109〜166ページにおけるL.Rilfors氏らによる「アコレプラズマ・レイドラウィイにおける極性脂質の調整および物理化学的諸特性」(“Regulation and Physiochemical Properties of the Polar Lipids in Acholeplasma Laidlawii”)、およびBiochimica et Biophysica Actaの1984年第779巻第1〜42ページのR.N.McElhaney氏による論文)。最後に、それらの寄生的生活もまた、生物医学的研究にとって興味のあることである。外側細胞壁がないことから、モリクテス綱は、ウイルスによってきわめて容易に侵入される。したがって、成熟した植物、動物あるいはヒトの細胞へドッキングされると、モリクテス綱は、HIV、SARSなどの、宿主細胞を標的とするウイルス感染のための容易な進入口をもたらす。このため、モリクテス綱は、ウイルス性疾患の感染経路において重要な役割を果たすと考えられている(Microbiology and Molecular Biology Reviews の1998年第62巻の第1094〜1156ページにおけるS.Razin氏らによる論文)。
【0049】
バイオセンシングについてのナノスケールの生化学的インターフェイスとしてモリクテス綱を使用するこの発想は、これらの独自の諸特性のいくつかに依存している。ある種のモリクテス綱は成熟細胞にドッキングすることから、それらの細胞膜には、多数の細胞接着分子および受容体が存在している(Physiological Reviews の2003年第83巻の第417〜432ページにおけるS.Rottem氏の論文)。このため、それらは、平坦な表面、すなわち物理的信号のトランスデューサの感知用表面をインテグリンあるいは他の好適なリゲートなどの適切な細胞接着分子でパターン化することによって、ナノパッチ上へきわめて容易に表面吸着され得る。宿主細胞の中への侵入を促進するために、いくつかのモリクテス綱はいわゆる「先端部」をさらに呈示するが、この「先端部」には、それらの本体部には存在していない特定のリゲートが含まれている(例えば、Naturwissenschaftenの2002年第89巻の第453〜458ページにおけるJ.Hegermann氏らによる論文とその中の参考文献、およびPhysiological Reviewsの2003年第83巻の第417〜432ページにおけるS.Rottem氏の論文を参照)。従って、モリクテス綱の先端部および本体部における相異なる種類のリゲートの存在をうまく利用して、方位付けられかつ制御された方式で表面固定化を達成することは、実現可能であるように思われる。
【0050】
モリクテス綱の表面吸着についての基本方式
モリクテス綱は、以下で説明する少なくとも2つの相異なる基本方式によって、基材の表面において固定化することができる。
【0051】
図1は、基材1の表面に形成されたナノパターン上に不揃いな向きで固定化されたモリクテス綱4の固定化についての第1の基本方式を表示している。図1(a)に示すように、当業者に公知の標準的ナノパターン化技術によって適切な基材1上に形成されたナノパターンは、細胞接着材料2と抗細胞材料3とからなる。この細胞接着材料2は、例えば細胞接着分子の存在によってモリクテス綱の接着を促進するためのナノスケールのパッチである。抗細胞材料3は、モリクテス綱4が基材1の表面に接着されるのを防止するためのものである。このため、図1(b)に示すように、モリクテス綱4は、細胞接着材料2上に付着可能だが、抗細胞材料3の上に付着できない。従って、基材1上におけるモリクテス綱4の配置は、この第1の基本方式で達成することができる。
【0052】
図2は、上記第1の方式の概念を拡張する第2の基本方式を表示している。この第2の方式は、それぞれが相異なる細胞接着分子を利用する2つの相異なる接着材料2aおよび2bを含む細胞接着材料2を利用するものである。第1の接着材料2aは、モリクテス綱4の本体部4aを標的としており、第2の接着材料2bは、適切な細胞接着分子によってモリクテス綱4の先端部4bのみに対して特異的である。従って、モリクテス綱4の方位付け固定化は、この第2の基本方式で達成することができる。
【0053】
次に、基材1、細胞接着材料2、抗細胞材料3、あるいはモリクテス綱4として使用可能な材料の詳細が説明される。
【0054】
基材1としては、ナノパターン化することのできる任意の材料を使用することができる。好ましいのは、シリコンウェハ、ガラス、石英、インジウムスズ酸化物、ゲルマニウム、ガリウムヒ素およびこれらに関連した複合半導体、ならびにポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、ポリイミド、およびその他のナノ加工に適したポリマーなどの、マイクロ加工およびナノ加工において確立された材料が使用されることである。さらに、半導体のあるいは絶縁性の基材(例えば、上に記載されたそれらの材料)の上に蒸着された、貨幣金属(金、銀、銅、白金)、アルミニウム、コバルト、ニッケル、鉄、チタニウム、ならびにこれらの酸化物のような、金属およびそれらの薄膜を使用することができる。基材1上に上記接着材料2aおよび2bならびに抗細胞材料3を制御されたやり方で蒸着するためには、基材1は、上記材料の適切な任意の複合物が基材として加工されかつ使用することができるという意味で、例えばナノパターン形成されうる。そして、上記表面へさらされた基材1のそれぞれの構成要素は、細胞接着材料2および抗細胞材料3それぞれのただ1つについて選択的なものである。従って、細胞接着材料2および抗細胞材料3によって、それらの蒸着の後に基材1上に形成されたパターンは、複合基材1のパターンに類似している。
【0055】
一般に、当業者に公知のマイクロ/ナノパターン形成のための他の加工方式は、任意的または配向性を持ったモリクテス綱のパターン形成に適したパターンを加工するために使用することができ、例えばそれらの加工方式は、直接書込リソグラフィ(例えばイービームあるいはディップペンリソグラフィ)を利用することおよび/または反応性イオンエッチングなどの破壊的パターン化プロセスの工程を適用することである。
【0056】
細胞接着材料2aおよび2bとしては、蛋白質、ペプチド、抗体、ヌクレオチド、および受容体などのモリクテス綱へ特異的に結合する任意の種類の生体分子を使用することができる。例えば、直鎖状および環状のRGDおよびPHSRNなどの短いペプチド配列は、インテグリンのような細胞表面の細胞接着分子へ特異的に結合することが知られている。
【0057】
インテグリンに加えて、免疫グロブリン(IgCAM)、セレクチン、カドヘリン、硫酸ヘパリンプロテオグリカン、ADAM(ディスインテグリンおよび金属プロテアーゼを含有している細胞表面蛋白質)、および蛋白チロシンホスファターゼのなどの他のさまざまな細胞接着分子が細胞膜の中に存在しうる。これらは、上記のような特定のリンカー分子の適切な選択によって、特異的に標的にされ得る。例えば、抗体をそれが特に単一型の細胞接着分子を標的とするように設計することができる。単一型のインテグリンを特異的に標的にする抗体はすでに市販されている。さらに、細胞外マトリックス蛋白質、例えばコロニー形成モリクテス綱によって生産されるそれらを、モリクテス綱パターン化に適した表面官能化をもたらすために使用することができる。近年、いくつかのモリクテス綱ゲノムが完全に配列決定された(例えば、アコレプラズマ・レイドラウィイPG−8A:ロシア、モスクワ、Kharkevich InstituteのG.Y.Kovaleva氏らによるもの:NCBI参照番号NC_010163)ので、バイオ形成学および/または遺伝子工学の方法も、モリクテス綱の細胞膜の全体またはその先端部もしくは本体部のみにおけるかのいずれかの適切な表面リンカー分子を特定しおよび/または(過剰)発現するために使用することができる。選択された方法に関係なく、モリクテス綱の先端部および本体部の選択的標的設定は、如かしてモリクテス綱にわたる細胞接着分子の分布、即ち相対濃度によって達成することができる。モリクテス綱の先端部は、その本体部の中に存在しないかあるいはほんの少しの量のみ存在する特定の細胞接着分子を含有することが知られている。
【0058】
抗細胞材料3については、ポリエチレングリコール、BSA、デキストラン、ホスホリルコリン〔Colloids and Surfaces Bの2000年第18巻の第261〜275ページにおけるA.L.Lewis氏の論文〕、N−イソプロピルアクリルアミド〔J.Biomater.Sci.Polym.Ed.の1996年第8巻の第19〜39ページにおけるT.Bohanon氏らによる論文〕およびそれらの誘導体等、任意の種類の公知材料を使用することができる。
【0059】
モリクテス綱4については、公知の最も小さいモリクテス綱の1つはアコレプラズマ・レイドラウィイ(APL)であり、これは、動物の中に認められ、また、例えば畜牛、牛乳および関連製品の中に存在しており、さらに、米国基準培養株収集機関(American Type Culture Collection)によって生物学的安全性レベル1として分類されている。このため、その寄生的性質にもかかわらず、それは病原性のものではなく、また、その利用について特別な注意が必要なものでもない。従って、以下において、発明者らは、一例としてAPLを使用することで、彼らの取り組みについて検討する。しかしながら、現在ほとんど研究されていない他のモリクテス綱によってこの目的が将来いっそう良好に果たされる可能性があるという点について、留意しておくべきである。表面吸着されたAPLの直径は、約350〜1200nmの範囲にあり、それゆえ、サブミクロンの生化学的インターフェイスの要件に合致し得る。さらに、Wieslander氏および協力者らによって概要が説明されたように、APLの寸法は、脂質分子の添加によってこの方式で制御することができる〔The Journal of Biological Chemistryの2003年第278巻の第8420〜8428ページにおけるEdman氏らによる論文〕。APLはきわめて丈夫であり、すなわち、それは、その細胞膜の流動性を、それゆえ活性を損なうことなく、凍結しかつ融解させることができる。さらに、過酷な環境において生存する自然物として、APL(およびモリクテス綱一般)は、それらの細胞膜を変性から防止するために、それらの細胞膜の中に酸化防止剤をもたらす。酸化は実際に、人工細胞膜の利用における主な問題である。
【0060】
リゲートをモリクテス綱の細胞膜の中に埋め込むための方式
特定のリゲートは、以下で説明される少なくとも2つの相異なる方式によって、モリクテス綱の細胞膜の中へ埋め込むことができる。
【0061】
図3は、上記リゲートを埋め込むための第1の方式を示している。この埋め込み用の第1の方式では、特定のリゲート7が、それらを脂質分子6へ付着させることで、APL(あるいは他のモリクテス綱)4の細胞膜4cの中へそのまま埋め込まれる。水溶液の中において、次いで、脂質分子6は、細胞膜4cの中へ侵入し、水溶性リゲート7を外側へ残す。このような技術の例は例えば、Worsfold氏らによる論文〔Biosens.and Bioelectron.の第19巻(2004)の第1505〜1511ページ〕において与えられている。図3(a)に示すように、リゲート7は脂質分子6へ共有結合的に付着される。その後、図3(b)に示すように、リゲート7を有する脂質分子6は、水性環境においてモリクテス綱4の細胞膜4cを組織する。
【0062】
図4は、上記リゲートを埋め込むための第2の方式を示している。この埋め込み用の第2の方式では、特定のリゲート7が、遺伝子工学によってAPL(あるいは他のモリクテス綱)4の細胞膜4cの中へ導入される。マイコプラズマ肺炎などの、いくつかのモリクテス綱のDNA配列は、すでに知られている。DNA配列の挿入および置換についての簡単な切断手法が開発されてきた(例えば、ニューヨークのKluwer Academic/Plenum Press社のShmuel Razin氏およびRichard Herrmann氏によって編集された書籍である2003〔ISBN 0−306−47287−2〕「マイコプラズマの分子生物学および病原性」(“Molecular Biology and Pathogenicity of Mycoplasmas”)およびその中の参考文献を参照のこと)。従って、遺伝子工学による抗体様分子、蛋白質、またはハイブリッド(例えば、Natureの1975年第256巻の第495ページにおけるG.Kohler氏およびC.Milstein氏による論文、Pluckthun氏によるEP0324162号明細書、Inaba氏らによるUS2005/0064557 A1号明細書、Nature Medicineの2003年第9巻の第129〜134ページにおけるP.J.Hudson氏およびC.Souriau氏による論文を参照のこと)の生産と同様に、バイオセンシングに好ましいリゲートの直接的な発現は、実現可能であるように思われる。例えば、図4(a)に示すように、天然DNA4dを有しているモリクテス綱4が調製される。その後、図4(b)に示すように、天然DNA4dは切断されて、外来配列8がモリクテス綱4の中へ挿入される。適切な条件の下では、図4(c)に示すように、モリクテス綱4は、その細胞膜4cの中において上記の所望のリゲート7を発現し始める。さらに、プラスミドあるいはバクテリオファージなどの外来DNAを同一目的のために使用することができる。この方式では、モリクテス綱が、モリクテス綱の細胞膜において生体分子を発現できるように、細胞膜における生体分子の発現に必要な少なくとも1つの配列により内在性DNA配列を変更すること、または、プラスミドもしくはバクテリオファージをモリクテス綱に形質転換することによる方法を含め、リゲートは任意の遺伝子工学的方法によって、モリクテス綱の細胞膜中へ埋め込むことができる。この状況における用語「変更すること」には、内在性DNA配列を生体分子の発現のために必要な配列に置換することと、生体分子の発現のために必要な配列を細胞膜の中へ挿入することとが含まれる。
【0063】
バイオセンサチップを製造するための方式
バイオセンサチップを製造するための簡単な3つの方式が図5〜図7に表示されている。
【0064】
図5に示された第1の方式では、キャビティ10(キャビティ10を画定するための粒子)が、基材(主体材料)1に、その表面のサブミクロンのパッチのみが基材1の表面の外側へ露出されるように埋め込まれている(工程1)。次いで、基材1の表面は抗細胞材料3で被覆され、一方、キャビティ10の露出領域は細胞接着材料2で被覆される(工程2)。細胞接着材料2上へのモリクテス綱4の固定化(工程3)の後に、適切なリゲート7が、外側から細胞膜の中へ埋め込まれるか、あるいはそのDNAの先行する遺伝子工学に基づいてこのモリクテス綱によって生産される(工程4)。抗細胞材料3による被覆はモリクテス綱4の固定化プロセスを通してのみ適切に機能しなければならないことに留意すべきである。特異的相互作用を後に感知するために、抗細胞材料3による被膜上への非特異的吸着は容認することができるが、その理由は光学トランスデューサがこれらの領域では感度がよくないためである。
【0065】
図6に示された第2の方式では、上記方式の原理は、基材1の中に埋め込まれた第2の光キャビティ11の存在へ拡張される(工程1)。次いで、第2のキャビティ11の露出領域を含む基材1の表面は、抗細胞材料3で被覆され、一方、キャビティ10の露出領域は細胞接着材料2で被覆される(工程2)。細胞接着材料2上へのモリクテス綱4の固定化(工程3)の後に、適切なリゲート7が細胞膜の中へ埋め込まれる(工程4)。第2の光キャビティ11は、生体機能化されるのではなく、媒体の温度あるいは屈折率などにおける変化を明らかにする参照センサとして働く。また、その参照は、抗細胞材料3による被膜上への非特異的吸着の量を測定するものであってよい。
【0066】
最後に、図7に示された第3の方式では、方位付けられたマイコプラズマ吸着の適用が示されている。第1のキャビティ10および第2の光キャビティ11が基材1の中に埋め込まれた(工程1)後に、図2に示された方式と同様に、第1の接着材料2aおよび第2の接着材料2bがナノパターンへ導入される(工程2)。第2接着材料2bはモリクテス綱4の先端部4bを特異的に標的としており、一方、第1接着材料2aはモリクテス綱4の本体部4aのみを特異的に標的としている。従って、モリクテス綱4は方位付けられた方式で接着される(工程3)。その後、リゲート7が細胞膜の中へ埋め込まれる(工程4)。この第3の方式では、例えば、第2の光キャビティ10からもたらされる、モリクテス綱4の好ましくない活性によって引き起こされたあらゆる変化についてのバイオセンサ信号を補正するために、先端部4bが参照キャビティ11へ接着する、ということが例示される。
【0067】
このセンサは保存のために凍結させることができる。解凍の後に、APLは、例えば新鮮なリゲートを生産するためになお生存していてもよく、またはその代わりに、自己再生あるいは他の好ましくない活性を防止するために細胞死を受けてもよい。いずれにせよ、細胞膜の流動性、従って、抗体/抗原あるいはリゲート/リガンド結合についてのその特有の活性および特異性は維持されるであろう。
【0068】
モリクテス綱を使用する利点
以下に、生化学的インターフェイスとしてバイオセンシングにモリクテス綱をサブミクロン寸法で使用する利点の概要を示す。
【0069】
【表1】

【0070】
バイオセンサチップを利用するバイオセンサ
次に、上記のバイオセンサチップを利用して標的分子を感知するバイオセンサが説明される。ここで、基本的な物理的トランスデューサ機構は光マイクロキャビティによる光学的感知に基づいている〔Appl.Phys.Lett.の2002年第80巻の第4057〜4059ページにおけるF.Vollmer氏らによる論文、Optics Lettersの2003年第28巻の第272〜274ページにおけるS.Arnold氏らによる論文〕。さらに、バイオセンサに利用される光学素子の詳細は、上記仮出願第60/796,162号によっている。
【0071】
図8に示すように、キャビティ10には、蛍光物質10bが収容されている非金属コア10aと、この非金属コア10aを包囲している金属被膜10cとが含まれている。基材1は蛍光物質10bの励起および放射波長について透明である。キャビティ10の露出部は、抗細胞材料3(抗蛋白質マトリックス)および細胞接着材料2で被覆されている。モリクテス綱4は細胞接着材料2によって固定化されており、リゲート7はモリクテス綱4の細胞膜へ埋め込まれている。基材1の表面は、キャビティ10の露出された生体機能化表面(すなわちリゲート7)が液体セル12の中に含まれる分析対象物に接するように、液体セル12の中に設置される。蛍光物質10bは、基材1を通って伝播しそれによってキャビティ10をも横断する光ビーム13によって、光学的に励起される。蛍光物質10bから放射されて、キャビティ10の有限Q因子(以下の定義を参照)によってキャビティ10の金属被膜10cを透過する光は、光ファイバ15によってある立体角14の内側に収集される。この立体角14は、ファイバ15の開口数とキャビティ10の中心からのその距離とによって与えられる。1μm未満の直径を有する小さいキャビティ10について、光ファイバ15の先端部15aは、ノイズからの信号の適切な識別をもたらすために、サブ波長分解能が可能になるように製造することができる(光学的近視野の先端部)。典型的には、このような鋭利な先端部は、走査型光学近視野顕微鏡(SNOM)によって制御することができる。代わりに、キャビティによって放射された光は、適切な対物レンズが装備された顕微鏡などの遠視野の設定によって収集することができる。いずれにせよ、光は分析のための検出システムへ導くことができる。
【0072】
固体基材1の中に埋め込まれるか、または支持された粒子あるいは粒子系は、図9に示す以下の設定によってバイオセンサとして機能させ得る。基材1は、潜在的な特異的結合相手が含有されている媒体にリゲート7をさらすことが可能になるように、液体セル12の中へ設置される。蛍光物質10bは、レーザあるいは別の適切な光源20により生成された光ビームによって励起され、一方、キャビティ10からの放射光は、適切な光学系、例えば光ファイバ15によって収集される。次いで、このファイバは、上記の光を、検出した光の強度を波長および時間の関数として記録する光学的分析システム(光学顕微鏡21、スペクトル分離・検出システム22、およびパーソナルコンピュータ23)へ導く。
【0073】
好ましい実施態様において、蛍光物質10bの励起に使用される光源は超短時間パルスレーザであり、一方、検出ユニット22は超短時間信号をノイズから識別することができる。後者は、ボックスカー積分器などの高速処理用電子部品へ接続されたゲートCCDカメラあるいは光電子増倍管によって実施することができる。ナノ秒、ピコ秒、およびフェムト秒範囲の充分に短いパルスを有する超短時間パルスレーザは、市販されている。
【0074】
用語の定義
上記説明の中で使用されている用語の定義が次に記載される。他の用語の定義は上記仮出願第60/796,162号によっている。
【0075】
リゲート:リゲートとは、受容体、抗体、あるいは蛋白質などの、「リガンド」とも呼ばれる標的分子を特異的に結合することのできる(生体)分子である。従って、リゲートは、バイオセンサによってリガンドを検出することができるように、所望のリガンドを捕捉するために、バイオセンサにおいて使用することができる。
【0076】
プローブ分子:リゲートについての同義語として使用される。
【0077】
生体機能的インターフェイス:生体機能的インターフェイスとは、生体事象の検出のために使用される物理的トランスデューサと生体環境との間における、所望の標的分子(リガンド)を特異的に結合することができ、一方で、他の好ましくない非特異的相互作用を抑制することができる表面あるいはインターフェイスである。
【0078】
キャビティ(光学的キャビティ):光学的キャビティとは、電磁スペクトルの紫外線(UV)領域、可視光(vis)領域あるいは赤外線(IR)領域における光に対して高反射性の閉じられた境界区域(キャビティの「表面」)によって制限された閉鎖容積部である。その波長依存性に加えて、この境界区域の反射率はまた、局部的表面の法線に対して衝突する光の入射角に依存する(図10を参照)。光キャビティの内容積は、真空、空気、または、UV、vis、もしくはIRの領域において高い透過率を示す任意の材料から構成することができる。具体的には、透過率は、そのキャビティの表面が高い反射率を示す電磁スペクトルのそれらの領域の少なくとも一部について高いものでなければならない。
【0079】
光学的キャビティは2つのパラメータによって特徴付けられる。第1はその容積Vであり、第2はその線質係数Qである。以下において、用語「光学的キャビティ」は、線質係数Q>1である光学的キャビティを意味している。
【0080】
光学的キャビティの容積:光学的キャビティの容積は、そのキャビティの表面、すなわち高反射性の境界区域によって制限されるそのキャビティ内側の幾何学的容積として定義される。
【0081】
線質係数:光学的キャビティの線質係数(あるいはQ係数)は、光子をそのキャビティの内側に捕捉するポテンシャルの程度である。これは次のように定義される。
【0082】
【数1】

ここで、ωmおよびλmはそれぞれ、キャビティモードmの周波数および波長であり、また、ΔωmおよびΔλmは対応する線幅である。後者の2つの等式は、Q係数とキャビティの内側における光学的モードの位置および線幅とを結び付けている。明らかに、キャビティの蓄積ポテンシャルはその表面の反射率によって決まる。従って、Q係数は波長依存性である。
【0083】
光学的キャビティモード:光学的キャビティモードあるいは単に「キャビティモード」とは、所定のキャビティについての電磁場方程式(マックスウェル方程式)の波動解である。これらのモードは、キャビティ表面における制限的境界条件のために離散的であり、整数mで番号を付けることができる。従って、キャビティの存在下における電磁スペクトルは、許容帯域および禁制帯域に分割することができる。マックスウェル方程式の完全解は、キャビティの内側および外側のそれぞれにおける内部および外部の電磁界からなっている。以下において、用語「キャビティモード」は、特に明記しない限り、キャビティの内側における内部電磁場を意味している。波動解は、境界区域、すなわちキャビティ表面の反射率に加えて、キャビティの形状および容積に依存する。従って、その解は、キャビティのQ係数およびその波長依存性に依存する。
【0084】
球状キャビティについては、波長依存性を容易に予測することのできる、主として2種類の解法が存在する。簡単にするために、これらの予測は以下の検討において用いられる。図11には、これら2つのものの相違が示されている。われわれは、両方の事例において定常波が形成されたということを仮定する。図11(a)では、定常波は半径方向に形成されており、一方、図11(b)では、それは、球と環境との間における内側境界の周縁に沿って形成されている(金属シェルで被覆された球の事例では、定常波は内側シェル境界に沿って形成される)。これらの定常波は、半径方向か方位角方向かのいずれかにおける対向伝播する進行モードの重ね合わせとしてそれぞれ観察することができる。以下において、われわれは、半径方向におけるモードを、ファブリー−ペロー干渉計との類似性に基づき、「ファブリー−ペローモード」(FPM)と呼ぶことにする。球体の周縁に沿って形成されるモードは、ロード・レイリー氏によって発見された音響現象との類似性から、「ささやきの回廊(ウィスパリングギャラリー)モード」(WGM)と呼ばれる。これらのモードの波長依存性の簡単な数学的説明のために、われわれは、以下のような定常波境界条件を用いる(例示のために、図11を参照):FPMについては、
【0085】
【数2】

であって、これは、内側粒子表面における電場が、例えば金属被膜のあるキャビティについての事例のように、いつも消滅しなければならない、ということを説明している。WGMについては、上記の定常波条件は、
【0086】
【数3】

になる。WGMについて、この等式は、波動が完全な周回の後に同位相に戻らなければならない、ということを基本的に説明している。両方の数式において、「m」は整数であって、モードの番号付けのためにも用いられており、Rは球半径であり、また、ncavはキャビティの内側における反射率である。
【0087】
キャビティモードのモード容積:キャビティモードのモード容積は、そのモードの場の強度が消滅していないその幾何学的容積としてとして定義される。一般に、この場は指数関数的に減衰するため、実際的には「ゼロ強度」を定義するあるカットオフ値が設定されなければならない。例えば、そのカットオフ値は最大場強度の0.1%に固定することができる。
【0088】
バイオセンサチップを利用する一般的バイオセンサ
上記のバイオセンサに加えて、バイオセンサチップへの特異的な結合を感知することができるあらゆる種類のバイオセンサを適用することができる。上記のセンサはナノスケールの方位分解能で感知することができ、すなわち、その感知区域がサブミクロン寸法を有して1つのモリクテスを含みうるものではあるが、そのような高い分解能は要求されない。低い方位分解能の場合、すなわち、マイクロメートルまたは更にミリメートルの寸法の感知区域である場合には、バイオセンサチップは、大スケール表面に互いに適切な間隔を以って、それぞれが1つあるいはいくつかのモリクテスを含んでいる上記のような多くのサブミクロン感知用区域を置くことによって、それぞれのスケールに応じて作ることができる。ひいては、センサは、複数の個々のサブミクロン感知区域への特異的結合度を平均して測定する。上記のようなバイオセンサとの唯一の相違点は、この大スケール表面における非特異的結合を防止するために特別な注意を払う必要があるということであるが、その理由は、非特異的結合が上記大スケール表面にわたる低い方位分解能のバイオセンサによって測定された平均信号に影響を及ぼすからである。
【0089】
低い方位分解能(すなわち、ミクロンあるいはミリメートル領域の分解能)を有する適切なセンサの例は、ファイバセンサおよび表面プラズモンセンサ(SPR;例えばビアコアシステム、http://www.biacore.com を参照)などのエバネッセントフィールドセンサ;反射率計および偏光解析器などの反射率計センサ;ホログラフィーおよび干渉に基づいたセンサ(例えば、Smart Holograms社によって開発されたような表面ホログラム、http://www.smartholograms.com を参照);水晶微量天秤のような質量感知用センサ(例えば、Q感知システム、http://www.q-sense.com を参照)および関連する音波センサである。
【0090】
高い方位分解能がある、すなわち、わずか1つのモリクテスを含んでいる単一のサブミクロン感知区域を感知することのできる適切なセンサの例は、原子間力顕微鏡法(AFM)、近視野光学顕微鏡法(SNOM)、電子・X線顕微鏡法および局所表面プラズモンセンサなどの走査用プローブ技術である。
【0091】
実施例
【0092】
実施例1:アコレプラズマ・レイドラウィイ(APL)の成長
バイオセンシングのために用いることのできるサブミクロン寸法のモリクテス綱の一例として、アコレプラズマ・レイドラウィイ(APL)が選択された。APLを用いる特別な利点は、流動性および接触性の観点におけるその細胞膜の特有の性質(Biochimica et Biophysica Actaの1984年第779巻の第1〜42ページにおけるR.N.McElhaneyの論文、ニューヨークのPlenum Press社のS.Rottem氏およびI.Kahane氏によって編集されたSubcellular Biochemistry の1993年第20巻の第109〜166ページにおけるL.Rilfors氏らによる「アコレプラズマ・レイドラウィイにおける極性脂質の調整および物理化学的諸特性」(“Regulation and Physiochemical Properties of the Polar Lipids in Acholeplasma Laidlawii”)、Critical Reviews in Microbiologyの1989年第17巻の第32ページにおけるR.N.McElhaney氏による論文)、培養の容易性(The Yale Journal of Biology and Medicineの1983年第56巻の第729〜735ページにおけるE.B.Stephens氏らによる論文)、ならびに遺伝子工学についてのその可能性(アメリカ合衆国、ニュージャージー州、トトワのHumana Press社のR.J.Miles氏およびR.A.J.Nicolas氏によって編集された書籍であるMycoplasma ProtocolsにおけるMethods in Molecular Biologyの第104巻第247〜258ページにおけるT.K.Jarhede氏およびAke Wieslander氏による論文)に関連する。この例では、APLを培養し、かつ成長させるための手順が、走査型電子顕微鏡(SEM)によってそれらの形状および外観を研究するために表面吸着細胞を固定するための方法とともに説明されている。
【0093】
実験
アコレプラズマ・レイドラウィイの培地調製
17.5gのハート・インフュージョン・ブイヨン(HIB(BD 238400))を700mlのミリMilliQ(MQ)水中に溶解した。HIB溶液の38mlの分別量を、加圧滅菌し、必要になるまで4℃で保存した。マイコプラズマ培地(MycoM(アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)培地243))を、このHIB分別量に5.5mlの酵母エキス溶液(Gibco 18180−059)と11mlのウマ血清(加熱不活性化されたもの)(Gibco 26050−070)とを添加することにより調製した。
【0094】
アコレプラズマ・レイドラウィイの成長
−80℃に維持されたアコレプラズマ・レイドラウィイの菌株A(APL(ATCC 14089))のグリセロール貯蔵物を、伸長フィルターチップを用いた1mlのギルソンピペットで穿刺し、次いで、ブンゼン炎の上にかざしたねじ込みキャップ付きの200ml円錐ビンの中にあるMycoMの溶液に接種するために使用した。APL培養物を、わずかにゆるめられた蓋のあるビン中に、37℃に設定された水浴(IWAKI,SHK−101B)の中において80回転/分で振盪しつつ、必要になるまで放置した。
【0095】
走査型電子顕微鏡のための表面におけるアコレプラズマ・レイドラウィイの固定化
APL培養物を、1mlのエッペンドルフ中に分取し、次いで、10,000gで20分間、遠心分離(KUBOTA 3740)した。このMycoMの上澄みを廃棄し、次いで、それぞれのチューブ中のAPLを1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)の中に再懸濁した。これらのチューブを、前と同じように再度遠心分離した。PBSの清浄物を棄却し、次いで、APLを所望容積のPBSの中に再懸濁した。次いで、260nmに設定された分光光度計(Beckman)を用いてAPL溶液の吸光度を測定し、およそ2.0の読取値が得られた。次いで、APL懸濁液を、6穴プレート(353046,Falcon)のウエルの中においてシリコンチップへ添加し、そして2時間放置した。次いでこれらのチップを、PBSの4%グルタルアルデヒドの中へそのまま1時間浸漬した。固定化の後、これらのチップを洗浄ビンからのMQ水にて洗浄し、次いで、加圧シリンダからの窒素で乾燥させた。次いで、表面を約4×10−5ヘクトパスカル(hPa)の窒素圧力にてエバポレータを使用することにより、10nmの金で被覆し、細胞および表面を金にて等方的に被覆した。これらのチップを次いで、SEM(Hitachi S−4200)を使用して観察した。
【0096】
結果
図12は、2日間の成育後(図12(a))および6日間の成育後(図12(b)および図12(c))の細胞を示している。これらの細胞はブドウ状のコロニーを形成しているように見える。培養物中には2つの主要寸法を認めることができる。大きい方の寸法は1つの細胞について直径が約1.2μmであり、小さい方の寸法は直径が300〜500nmである。このことは、図12(c)に示された図12(b)のクローズアップにおいてよくわかる。これら2つの寸法は、例えば、1つの細胞からの異なった外延の生体機能的インターフェイスを調製するために使用することができる。
【0097】
実施例2:アコレプラズマ・レイドラウィイの細胞膜の接触性
モリクテス綱はそれらの外側細胞壁の恒久的欠如を呈するので、脂質膜は、直接接触することができ、また、例えば図3に示されたように膜を自己組織化する脂質あるいは脂肪酸分子へそれらを結合することによって、特異的プローブ分子の組み込みのために、容易に使用することができる。
【0098】
実験:一例として、APLを成長させ、2日後に洗浄し、次いで、実施例1に記述したようにPBS中に再懸濁した。その後、DMSO中の、蛍光体標識付き脂肪酸、4,4−ジフロロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカン酸(BODIPY 558/568 C12;D3835,分子プローブ)を上記APL懸濁液へ0.01ミリモル(mM)にて添加し、次いで、1時間緩やかに振盪しつつ放置した。その後、これらのチューブを前に説明したように遠心分離し、上澄みを廃棄して、細胞を1mlのPBSの中に再懸濁した。この最後の工程を、細胞膜へ付着していないすべての色素分子が上記懸濁液から除去されることを保証するために、繰り返した。次いで、この細胞懸濁液を、6穴プレートのプレート穴へ添加し、PBSを加えて3mlとし、LUMPlan Fl 60x/0.90 Wの対物レンズがあるOlympus Fluoview 1000を使用して、レーザ自動読取共焦点顕微鏡法および光透過顕微鏡法によって観察した。
【0099】
結論
図13は、蛍光体標識付き脂肪酸による染色後のAPL細胞のクラスタにおける同時に得られた共焦点の蛍光像および透過像を示している。明らかなことであるが、色素分子は細胞を完全に、すなわちその外側細胞表面をすべて染色した。われわれは、細胞膜の中へ組み込まれる以外は細胞と反応しないことが知られている脂肪酸分子を使用しているので、膜組み込みプローブ分子を介する生体機能的インターフェイスとしてAPL細胞膜を使用する実現可能性が、この実施例で実証されている。
【0100】
実施例3:脂質固定化プローブ分子を使用する特異的相互作用
APLの脂質細胞膜への接触の実現可能性の実証の後、次の工程は、細胞膜をその細胞膜の中へ人為的に組み込まれたプローブ分子を使用して標的分子の特異的認識のために使用することができることを示す。特異的に相互作用する対として、ビオチン/ストレプトアビジンが選択された。ビオチンは、脂質へ共有結合状に付着され、一方でストレプトアビジンは、成功裏の結合事象の追跡を可能にするために蛍光体標識が付けられた。
【0101】
実施例2に記述したように、PBS中にAPL懸濁液を調製した。エタノール中の2mg/mlの脂質−ビオチン(LiB)(16:0 Biotinyl Cap PE(870277,Avanti Polar Lipids,Inc.))、あるいは1mg/mlの脂質(16:0 PE(850705P,Avanti Polar Lipids,Inc.))、もしくはビオチン(Sigma)、または何ら添加しないものを10分間超音波処理し、そして、エッペンドルフ中に0.04mMで3個組にて所望の容積をもってAPL溶液へ添加する前に、簡単にボルテックス処理された。この溶液はその後、1時間の緩やかな振盪に供した。
【0102】
1時間後に、上記脂質−ビオチン標識付きAPL(APL−LiB)の溶液および対照を前に説明したように遠心分離し、溶液を廃棄し、APL−LiBおよび対照を1mlのPBSの中に再懸濁した。APL−LiBおよび対照の懸濁液を前に説明したように遠心分離し、また、細胞を、所望容積のPBS中に再懸濁し、貯蔵した。
【0103】
ストレプトアビジン−ローダミンB(SRB)(S871,Molecular Probes社)をエッペンドルフ中の200μlのAPL−LiBおよび対照へ0.0001mMにて添加し、1時間の緩やかな振盪に供した。次いで、先に説明されたように、チューブを遠心分離にかけた。100μlの上澄みを96穴プレートのウエルへ添加し(353072,Falcon)。この上澄みの残りを廃棄却し、また、APLを1mlのPBSの中での再懸濁によって洗浄した。その後、この細胞懸濁液を前に説明したように遠心分離した。次いで、この洗浄液の100μlを、96穴プレートのウエルへ添加し、残りを廃棄した。APLを元々の体積のPBS中に再懸濁し、96穴プレートのウエルへ添加した。その後、それぞれのウエルにおける相対蛍光度をプレートリーダ(SAFIRE,TECAN)を使用して測定した。
【0104】
非特異的感知についての試験として、SRBの代わりに、Alexa Fluor 488 標識BSA(BSA488)(A13100、Molecular Probes社)を使用したことを除き上記段落で説明されたのと同一のプロトコルに従って実施した。
【0105】
結果:
図14は、このプレートリーダ測定の結果を示している。上澄みおよび洗浄液の信号は、最大信号および最小信号についての推定値として観察することができ、すなわち、それらはおおよその測定範囲を表示している。従って、残るほとんどの信号はこれら2つの結果の間にあった。図14(a)からわかるように、残る信号は、脂質結合ビオチンにて標識されたそれらのAPL細胞を除いて、洗浄液と同一の強度、すなわち最小強度を基本的に有していた。純粋な脂質も純粋なビオチンも、あるいは上記対照の他のものも、顕著な蛍光強度を達成することができなかった。これは、ストレプトアビジンが、APLの細胞膜の中へ挿入された上記ビオチンへ特異的に結合することを表わしている。上記相互作用が実際に、特異的であるということは、脂質−ビオチン標識細胞が、ストレプトアビジンの代わりに、蛍光BSA分子へさらされた場合の図14(b)からわかる。しかしながら、上記洗浄液によって表示されたようにバックグラウンドより高い蛍光強度の増大は観察することができなかった。このことは、細胞が、ストレプトアビジンを特異的相互作用により、それらの脂質細胞膜の中へ挿入された脂質固定ビオチンと結合したことを立証している。従って、APLの脂質細胞膜の中へ人為的に導入されたプローブ分子による特異的認識の実現可能性が、首尾よく実証された。
【0106】
実施例4:表面固定化アコレプラズマ・レイドラウィイおよび脂質固定化プローブ分子を使用する特異的相互作用
実施例3は、APLが、細胞膜組み込みプローブ分子を使用する特異的相互作用のための基体として使用することができることを示している。オンチップバイオセンサの開発のためには、表面固定化モリクテス綱もまた同一目的のために使用できるということを実証することが重要である。それゆえ、実施例3において提示された実験を、表面吸着型APL細胞を用いて以下の通り繰り返す。
【0107】
実験:
APLを、実施例3において説明したように、LiBで標識した。同一の対照もまた含めた。この標識付け工程の間に、100μlの上澄み、洗浄液および最終APL懸濁液を維持し、ポリ−D−リジンの96穴プレート(354461、Becton Dickinson)のウエルへ添加し、2時間、維持した。この溶液を次いで、それぞれのウエルから除去し、100μlのPBSを添加した。その後、PBS洗浄液を除去し、それぞれのウエルへ200μlのPBS1%BSA(A−7030,Sigma)を添加し、緩やかに振盪しつつ2時間放置した。次いで、BSA遮断緩衝剤を除去し、100μlのPBSを添加した。その後、PBS洗浄液を除去し、0.0002mMのSRBが含有する100μlのPBSをそれぞれのウエルへ添加し、緩やかに振盪しつつ1時間放置した。次いで、この溶液を除去し、将来の参照のために別の96穴プレートへ添加した。その後、100μlのPBS洗浄液をそれぞれのウエルへ添加した。このプレートを軽くたたき、また、この洗浄液を、次いで除去し、将来の参照のために別の96穴プレートへ添加した。その後、100μlのPBS洗浄液をこれらのウエルへ添加し、また、そのプレートは、前述のようにプレートリーダを使用して読み取った。
【0108】
プレートの読み取りの後に、上記表面におけるAPLを、それぞれのウエルの中の溶液を除去し、100μlのPBS4%グルタルアルデヒドを添加し、1時間維持することによって、固定した。1時間後に、その固定剤を除去し、ウエルをMQ水で数回洗浄し、次いで、空気乾燥に付した。ウエルの底部を、ダイアモンド刃が備え付けられた小型丸鋸で切り離し、10nmの金をウエルの底部上に蒸着した(実施例1を参照)。その後、これらの表面をSEMを使用して観察した。
【0109】
図17に示されたように、非特異的相互作用に関する試験のために、同一のプロトコルを実行したが、以下のことを含めた:今回は、対照を含めてAPL標識付けを3つ組物の2つのロットにおいて遂行した。3つ組物の上澄み、洗浄液および最終APL懸濁液を、ポリ−D−リジンの96穴プレートの等しい半分へ添加した。このプレートの第1の半分に0.0002mMのSRBを含む100μlのPBSを加え、更に上記プレートの第2の半分へ0.0002mMのBSA488を含む100μlのPBSを添加した。第1プレートの読み取りの後に、それぞれの蛍光体をプレートへ再度添加したが、今回はは逆に行った。すなわち、0.0002mMのBSA488を含む100μlのPBSを上記プレートの第1の半分へ添加し、また、0.0002mMのSRBを含む100μlのPBSを上記プレートの第2の半分へ添加した。第2プレートの読み取りを行った。
【0110】
結果:
図15はプレートリーダ実験の結果を示している。前述の通り、上澄み液および洗浄液の読取値は、同実験の感度範囲についての大まかな指針として使用することができる。残余は、表面固定化APL細胞に対して、それらの脂質細胞膜の中に組み込まれた脂質−ビオチンプローブを介して付着されたストレプトアビジンの蛍光を表わしている。前と同様に、脂質−ビオチンを保持する細胞の場合にのみ、洗浄液の信号により示されるバックグラウンドを越えた蛍光強度の増大を観察することができた。これは、ストレプトアビジンを表面固定化APL細胞へ結合するためには脂質−ビオチンが必要であることを示している。上記対照は、ストレプトアビジンが上記表面において非特異的に吸着せず、しかして該相互作用が本来的に特異的であるという結論をさらに裏付ける証拠を与える。脂質−ビオチンのみを使用すると、表面における蛍光強度のいくらかの増大を観察することができるが、このことは、その表面のBSA不動態化が蛋白質について最もよく機能するとともに小さい分子の場合には機能しないために生じる、その表面における脂質−ビオチンの非特異的吸着によって説明することができる。その為、該細胞は、膜結合ビオチンのみがその表面に存在することを保証するために、表面固定化に先行してビオチン化された。
【0111】
これらの知見が実際に表面吸着細胞に関連するということの確証を得るべく、プレートリーダ実験の後に、該細胞培養プレートの底部を、SEMによって分析した。これに関して、細胞を、実施例1に詳細に説明しように、まず固定した。次いで、プレート底部を、切り出し、10nmの金を蒸着し、その表面をSEMによって分析した。図16は、相異なる表面から得られた像を示している。番号標識は、像が図15の何れのプレートリーダ結果に対応するものであるかを表わしている。細胞ではなく脂質−ビオチンのみを使用する対照実験であった最後の像(図16(v))を除き、すべての像はAPL細胞の高い密度を示している。
【0112】
ビオチン標識APL細胞に結合しているストレプトアビジンの特異性の更なる検証として、ひいては、生体機能的インターフェイスとしてのAPL細胞の有用性の更なる実証として、上記実験を反復したが、今度は、BSA488を利用する非特異的相互作用試験を含めた。図17はこの実験の結果を表示している。図17(I)においては、表面吸着型APL細胞が、図15にすでに示されたようにSRBへさらされている。前述のように、脂質標識付きビオチンをそれらの膜の中に保持する細胞のみが、そのバックグラウンドを越える蛍光の増大を示しており、従って、結合されたSRBを表わしている。図17(II)においては、同一の操作により調製した表面固定細胞がBSA488にさらされた。しかしながら、今度は、蛍光の増大を観察されず、BSA488が、脂質−ビオチン標識APL細胞に非特異的に吸着しないことを示している。第2の工程では、まずSRBへさらされたそれらの細胞をBSA488にさらし、また、その逆の操作を行った。図17(III)からわかるように、SRBの結合の後であっても、表面固定化APL細胞は、BSA488の非特異的結合に関して不活性のまま残り、それによって、表面吸着型APL細胞の細胞膜の流動性および機能性が示されている。これに対して、図17(IV)に示されたように、まずBSA488へさらされたそれらの表面吸着型APL細胞は、なおもSRBを特異的に結合することができ、如かして、表面吸着型APL細胞膜の高い選択性が実証されている。使用されたこれら2つの蛍光性色素は相異なる励起波長域を有し、BSA488についての適切な設定で得られた図17(III)における脂質−ビオチン標識細胞についての低い蛍光反応は、先に結合されたストレプトアビジンがその表面に残されることを示唆するものではないことに留意すべきである。実際に、SRBの検出のために適切に設定された上記プレートリーダによるこの試料の読み取りは、図17(I)に示されたようにBSA488曝露に先立つ第1の読み取りにおいて得られたのと同一の結果を与えた(図示略)。それゆえ、結局のところこの実験は、高度に特異的な生体機能性インターフェイスとして表面吸着型APL細胞を利用する実現可能性がきわめて良好に実証している。
【0113】
実施例5:アコレプラズマ・レイドラウィイのナノパターン化
APL細胞のナノパターン化の実現可能性を実証するために、ナノパターンを次のように調製した。
【0114】
実験:
異なった寸法(500nm−10μm)のポリスチレン(PS)ビーズを、清浄なシリコンウェハピースの上にドロップコーティング法によって付着させた。これらのPSビーズを、引続くSiウェハピースの上への50nmの金蒸着におけるコロイド状マスクとして使用した。5nmのCrを定着剤として使用さした。エバポレータから取り出した後に、コロイド状マスクを、純クロロホルム中における10分間の超音波処理により、除去し、連続する50nmの金薄膜中にコロイド粒子の直径のSiパッチを残した。この無機パターンを、10分間のUVオゾンプラズマ処理によってさらに清浄化し、次いで、アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS,CAS−no.13822−56−5)に対して、液相からの蒸着によるか、あるいは2mMのAPTMS/トルエン溶液からの吸着によるかのいずれかにより、直ちにさらした。純クロロホルム中における更なる10分間の清浄化処理の後に、EDC/NHSカップリングによって、Siパッチ上のAPTMSにビオチンを結合させた。次いで、これらの試料を、金薄膜に抗細胞性を付与すべく、PEG−チオール溶液の中に浸漬した。その後、Siパッチ上の表面固定化ビオチンにストレプトアビジンを結合させ、これによって、ビオチン標識APL細胞のための固定部位を与えた。将来のバイオセンサでは、マイコプラズマ細胞膜の中へ挿入されたそのようなビオチン標識は、更にその細胞膜中へのリゲートの組み込みのために使用され得る。
【0115】
APL−LiB細胞懸濁液を、実施例3において説明したように調製した。ナノパターンを、6穴プレートまたは24穴プレート(353504,Falcon)のいずれかのウエル中のAPL−LiB懸濁液にそれらを添加することによってAPL−LiBにさらし、37℃で一晩(O/N)、維持した。翌日、これらのチップを、洗浄ビンからのPBSで洗浄し、次いで、PBS4%のグルタルアルデヒド中に1時間、浸漬した。固定化の後に、これらのチップを、洗浄ビンからのMQ水で洗浄し、次いで、加圧シリンダからの窒素で乾燥させた。その後、これらの表面を、実施例1に記述したように10nmの金で被覆した。
【0116】
別法において(その結果は図19(c)および(d)に示される)、APTMS被覆SiパッチとPEG被覆金とからなるナノパターンを、最初に異なった電荷の水溶性高分子電解質溶液(第1層がポリ(スチレンスルホン酸エステル)であり、第2層がポリ(アリルアミンハイドロクロライド))にさらし、Siパッチ上に高密度のアミノ基を付与した。次いで、EDC/NHS活性化APL細胞の懸濁液を、上記パッチへの細胞の直接結合のために、上記パターン上に載せた。
【0117】
結果:
図19はパターン化実験のいくつかの結果を示している。非パターン化表面の曝露は、典型的には細胞のクラスタの固定化を引き起こす(図12,16および18を参照)が、ナノパターン化は主として、個々の細胞の吸着をもたらす。この傾向は、図19(d)および19(e)に示された知見によって示されるように、パターン化パッチの実際の寸法にいくぶん依存していないように見える。後者の像では、Siパッチの寸法(公称直径が500nm)と同一である1つの細胞は、そのパッチを取り巻いている金構造体によって維持されかつ中心化されているように見えるが、図19(d)における細胞は、約1μmというそのパッチのいっそう大きい寸法のために、必ずしも金構造体に接触していない。吸着細胞の密度は、例えば懸濁液中の非クラスタ化細胞の割合を増加させることによって、さらに改善することができる。また、接着プロトコルは将来、最適化される必要があろう。いずれにしても、表面のPEG被覆金領域では細胞吸着が観察されていないので、現在の結果によって、Siパッチの上へのAPL細胞吸着についての表面の選択性が実証されており、それによって、単一のAPL細胞をパターン化することによって、サブミクロン寸法のバイオセンシングのための生体機能的インターフェイスを生成する方法の実現可能性が証明されている。
【0118】
実施例6:アコレプラズマ・レイドラウィイの凍結および解凍
この実施形態の実際の用途について、バイオセンシングのために調製された生体機能的インターフェイスの寿命および諸特性の持続性は、長い保存時間の後においても最高に重要なものである。以下に、われわれは、APL培養物をその生命力を失うことなく数日間、凍結することができる、ということを示す。従って、これらの細胞は、バイオセンシングのためにもまた必要である、特異性および流動性などのすべての細胞膜機能をもまたもたらし、そのような諸特性は、増殖および成長などのいっそう高い細胞機能のために必要である。
【0119】
実験:
MycoMにおける3日間APL培養物を37℃の水浴から取り出し、−30℃の冷凍庫の中に置いた。3日後、その凍結培養物の最小部分を取得し、実施例1に説明されたように、MycoMに植菌するために使用した。2日後、その培養物を、実施例2の第1段落に説明されたように処理した。OD260nmでおよそ2.0の吸収度のある細胞懸濁液をシリコンチップへ添加し、37℃で2時間、維持した後、PBS4%のグルタルアルデヒドの中へのそのまま移送した。このチップはその後、10nmの金で被覆され、次いでSEMによって観察された。
【0120】
結果:
図20は、このようにして得られた培養物のSEM像を示している。これらの細胞には、成長の前に凍結されなかった培養物(図12)の場合と同じ外観があるので、MycoM培養基における凍結は細胞機能へのどのような不都合も引き起こさない、と結論付けることができる。
【0121】
これまで、この発明は上記実施形態を参照して説明されている。しかしながら、さまざまな変更および改善をこれらの実施形態へ適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感知領域のある表面を有す基材と、
細胞膜を有すモリクテス綱を前記感知領域上に固定化するための接着材料と、
を有してなる標的分子を感知するためのバイオセンサチップ。
【請求項2】
前記感知領域に属さない前記基材の前記表面の部分上に前記モリクテス綱が固定化されるのを防止するための抗細胞材料、
をさらに有してなる請求項1に記載のバイオセンサチップ。
【請求項3】
前記接着材料が、前記モリクテス綱の本体部を前記感知領域上に固定化するための第1の接着材料および前記モリクテス綱の先端部を前記基材の前記表面に固定化するための第2の接着材料、
を有してなる請求項1に記載のバイオセンサチップ。
【請求項4】
前記接着材料で前記感知領域上に固定化された前記モリクテス綱、
を有してなる請求項1に記載のバイオセンサチップ。
【請求項5】
前記モリクテス綱の前記細胞膜中へ埋め込まれた、特異的認識を行うことのできる生体分子、
を有してなる請求項4に記載のバイオセンサチップ。
【請求項6】
複数の感知領域が前記基材中へ埋め込まれ、
前記接着材料が、前記複数の感知用領域の一部のみに配置されている、
請求項1に記載のバイオセンサチップ。
【請求項7】
前記基材が、光学的キャビティを画定するための表面を有し、共鳴再循環により光を該粒子の該表面内に封ずる粒子を備え、および
該粒子の該表面の一部が、該基材の該表面の外側へ露出されて該粒子の該表面の前記一部によって前記感知領域を構成する、
請求項1に記載のバイオセンサチップ。
【請求項8】
請求項5に記載のバイオセンサチップと、
該感知領域における質量または屈折率の変化を検出するためのトランスデューサと、
前記バイオセンサチップに分析対象物を供給するフローセルと、
を有してなる標的分子を感知するためのバイオセンサ。
【請求項9】
感知領域のある表面を有す基材を調製する工程、および
細胞膜を有すモリクテス綱を前記感知領域上に固定化するために前記感知領域上に接着材料を配置する工程と、
を有してなる標的分子を感知するためのバイオセンサチップの製造方法。
【請求項10】
前記感知領域に属さない前記基材の前記表面の一部に、前記モリクテス綱が前記基材の前記表面の一部に固定化されるのを防止するための抗細胞材料を配置する工程、
をさらに有してなる請求項9に記載のバイオセンサチップの製造方法。
【請求項11】
前記接着材料が、前記モリクテス綱の本体部を前記感知領域上に固定化するための第1の接着材料および前記モリクテス綱の先端部を前記基材の前記表面上に固定化するための第2の接着材料と、
を有してなる請求項9に記載のバイオセンサチップの製造方法。
【請求項12】
前記モリクテス綱を前記接着材料で前記感知領域上に固定化する工程
を備える請求項9に記載のバイオセンサチップの製造方法。
【請求項13】
特異的認識を行うことのできる生体分子を、脂質分子がモリクテス綱の細胞膜中に組織化され得るように該生体分子を該脂質分子に結合させることにより、該モリクテス綱の該細胞膜中に埋め込む工程、
を有してなる請求項12に記載のバイオセンサチップの製造方法。
【請求項14】
特異的認識を行うことのできる生体分子を、モリクテス綱が該モリクテス綱の細胞膜中に該生体分子を発現させ得るように、該細胞膜中の該生体分子の発現に必要な少なくとも1つの配列によって内在性DNA配列を変更するが、または、プラスミドもしくはバクテリオファージにて前記モリクテス綱を形質転換することによって、前記モリクテス綱の前記細胞膜中へ埋め込む工程、
を有してなる請求項12に記載のバイオセンサチップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2010−512731(P2010−512731A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525831(P2009−525831)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/JP2007/075345
【国際公開番号】WO2008/078831
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】