説明

バイオセンサ

【課題】保存状態や測定試料によって標的とする菌(標的菌)を検出する感度が損なわれない安定したバイオセンサを提供するとともに、バイオセンサの基質認識部を生体内に挿入し、体液中に存在する標的菌を直接的に測定すること。
【解決手段】本発明は、菌に結合するアプタマーを基質認識部に備えるバイオセンサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサとは、生体起源の分子認識機構を利用した化学センサの総称であり、酵素センサ、免疫センサ、微生物センサ、イオンチャネルセンサ等が知られている。
【0003】
バイオセンサは、基質認識部に固定された酵素、抗体、微生物又はイオンチャネル等がそれぞれの基質となる被検物質と相互作用することにより生じる変化(例えば、物質変化、色変化、吸発熱、質量変化など)を、信号変換部(電極、受光素子、感熱素子、圧電素子、蛍光異方性など)で検出可能な信号に変換して被検物質を検出するセンサである。
【0004】
例えば、基質認識部にモノクローナル抗体を固定し、被検物質である抗原が抗原抗体反応によりモノクローナル抗体に特異的に結合できるような構造にしておけば、そのセンサは、試料中に挟雑物が多く存在していても、被検物質の濃度に比例した信号が得られることとなる。
【0005】
一方、口腔内では、ミュータンスレンサ球菌と呼ばれる乳酸発酵性細菌がう蝕の発症に深く関与している。このため、ヒトの口腔内で主に検出されるミュータンスレンサ球菌であるStreptococcus mutansを、抗体を用いた免疫学的測定法によって検出し、う蝕の発症を予防することが提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、Streptococcus mutansは、グルコシルトランスフェラーゼを口腔内に分泌することが知られているため、この酵素に特異的に結合する抗体を用いて、この菌を免疫学的測定法によって検出することも提案されている(特許文献2)
【0007】
【特許文献1】特開2003−183299号公報
【特許文献2】特開2002−267673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、目に見えない菌を検出するには、被検試料を採取し、選択培地を用いた培養による同定、若しくは抗体を用いたELISA法又はウェスタンブロッティング法で菌の有無を解析するのが一般的であり、解析結果が出るまでに手間と時間を要するのが現状である。
【0009】
また、基質認識部にモノクローナル抗体を固定したバイオセンサは、ELISA法やウェスタンブロッティング法と比較して、原理的には被検物質を短時間で検出できるものではあるが、基質認識部に固定された抗体は、バイオセンサの保存時や使用時に乾燥やタンパク質分解酵素等の影響を受けやすく、検出感度を著しく低下させることがある。このため、バイオセンサとしての安定性に問題があることが指摘されている。
【0010】
さらに、基質認識部にモノクローナル抗体を固定したバイオセンサは、抗体の安定性保持のために人体に対して有害な物質が使用される場合があるため、口腔内細菌を検出する際、バイオセンサの基質認識部を直接口腔内に入れて測定することはできず、唾液等のサンプルを別容器に採取してから間接的に測定する必要があった。
【0011】
そこで本発明の目的は、保存状態や測定試料によって標的とする菌(標的菌)を検出する感度が損なわれない安定したバイオセンサを提供するとともに、バイオセンサの基質認識部を生体内に挿入し、体液中に存在する標的菌を直接的に測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、菌に結合するアプタマーを基質認識部に備えるバイオセンサを提供する。
【0013】
アプタマーは、抗体等のタンパク質と比べて、酵素的分解や乾燥に強いため、上記のバイオセンサは、バイオセンサ自身の保存状態や測定試料によって標的菌を検出する感度が損なわれない特性を有している。このため、貴重なサンプルに含まれている菌を検出する上でも、基質認識部の状態を考慮することなく、単回測定で菌の有無を判定することができる。
【0014】
上記の菌は、口腔内細菌であることが好ましく、う蝕菌又は歯周病菌であることがさらに好ましい。
【0015】
上記のバイオセンサは、基質認識部にアプタマーが固定されたセンサであるため、抗体の安定性保持のために使用される人体に対して有害な薬剤(例えば、NaN)が基質認識部に含有されておらず、口腔内に基質認識部を直接挿入して、唾液中の口腔内細菌、特に、う蝕菌又は歯周病菌を直接測定できる。
【0016】
また、上記のう蝕菌は、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinus又はLactobacillus acidophilusであることが好ましい。
【0017】
う蝕の発症を引き起こす菌は多数報告されているが、この中でも、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinus及びLactobacillus acidophilusの3種がヒトのう蝕に深く関与しているとされている。したがって、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinus及び/又はLactobacillus acidophilusを検出するバイオセンサは、ヒトのう蝕の発症リスクを正確かつ簡易に判定でき、う蝕発症の予防に貢献できる。なお、ヒトの口腔内に存在するStreptococcus mutansをアプタマーによって検出する場合は、その検出感度は抗Streptococcus mutans菌抗体を用いて検出するよりも高い。
【0018】
上記アプタマーは、菌体表層物質に結合することが好ましい。
【0019】
菌体表層物質とは、菌体の表層に存在する菌由来のタンパク質であるため、これらの菌体表層物質に結合するアプタマーが基質認識部位に固定されていれば、標的菌を感度よく識別して検出できる。
【0020】
上記アプタマーは、配列表の配列番号1〜15記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質に結合することが好ましい。
【0021】
配列表の配列番号1〜15記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質は、Streptococcus mutansの菌体の表層に特異的に存在するため、これらのタンパク質に結合するアプタマーが基質認識部位に固定されていれば、他の口腔内細菌が存在する状況下においても、Streptococcus mutansを特異的に検出できる。
【0022】
上記アプタマーは、配列表の配列番号16〜21記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質に結合することが好ましい。
【0023】
配列表の配列番号16〜21記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質は、Streptococcus sobrinusの菌体の表層に特異的に存在するため、これらのタンパク質に結合するアプタマーが基質認識部位に固定されていれば、他の口腔内細菌が存在する状況下においても、Streptococcus sobrinusを特異的に検出できる。
【0024】
上記アプタマーは、配列表の配列番号22〜25記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質に結合することが好ましい。
【0025】
配列表の配列番号22〜25記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質は、Lactobacillus acidophilusの菌体の表層に特異的に存在するため、これらのタンパク質に結合するアプタマーが基質認識部位に固定されていれば、他の口腔内細菌が存在する状況下においても、Lactobacillus acidophilusを特異的に検出できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のバイオセンサは、基質認識部が酵素的分解や乾燥に強いため、バイオセンサの保存状態や測定試料によって標的菌を検出する感度が損なわれない特性を有している。また、本発明のバイオセンサは、人体に対して有害な薬剤が基質認識部に含有されておらず、口腔内に基質認識部を直接挿入し、唾液中の口腔内細菌を直接的に測定できる。
【0027】
さらに、本発明のバイオセンサは、配列表の配列番号1〜25記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質に結合するアプタマーを基質認識部に備えているため、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinus又はLactobacillus acidophilusを特異的に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明のバイオセンサは、菌に結合するアプタマーを基質認識部に備えることを特徴としている。
【0030】
「菌」とは、細菌又は糸状菌を意味し、「口腔内細菌」とは、口腔内で生存している常在細菌のことを意味している。
【0031】
「アプタマー」とは、タンパク質や糖など様々な化合物に結合する能力を持つ核酸分子のことである。アプタマーは、抗体と同様に高い特異性と親和力を有するため、上記バイオセンサは、標的菌を高感度に検出することを可能としている。
【0032】
上記バイオセンサは、菌の中でも口腔内細菌に結合するアプタマーを基質認識部に備えることが好ましく、口腔内細菌の中では、特に、う蝕菌又は歯周病菌に結合するアプタマーを基質認識部に備えることがより好ましい。
【0033】
う蝕菌としては、例えば、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinus、Lactobacillus casei、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus acidophilus等が挙げられ、歯周病菌としては、Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythensis、Treponema denticora、Prevotella intermedia、Actinobacillus actinomycetemcomitans、Fusobacterium nucleatum、Eikenella corrodens、Capnocytophaga sp.、Campylobacter rectus、Prevotella denticola、Actinomyces viscosus、Actinomyces naeslundii、Veillonella parvula等が挙げられる。
【0034】
上記バイオセンサは、上記のう蝕菌の中では、Streptococcus mutans、Streptococcus sobrinus又はLactobacillus acidophilusに結合するアプタマーを基質認識部に備えることがより好ましい。
【0035】
上記バイオセンサは、アプタマーが、菌体表層物質に結合することを特徴としており、う蝕菌の菌体表面に特異的に存在する菌体表層物質としては、高分子タンパク質抗原、PAc様タンパク質、抗原A(III)、グルカン結合タンパク質、リポタイコ酸及びグルコシルトランスフェラーゼ等を例示できる。
【0036】
Streptococcus mutansの菌体表面に特異的に存在する菌体表層物質としては、cell surface antigen SpaP(配列番号1及び26)、Cell wall−associated protein precursor WapA(配列番号2及び27)、Glucan−binding protein A, GbpA(配列番号3及び28)、Glucan−binding protein C, GbpC(配列番号4及び29)、Glucosyltransferase−I(配列番号5及び30)、Glucosyltransferase−S(配列番号6及び31)、Glucosyltransferase−SI(配列番号7及び32)、S.mutans glucan−binding protein (gbp)(配列番号8及び33)、S.mutans GS−5 scrB(配列番号9及び34)、S.mutans sr(配列番号10及び35)、S.mutans wall−associated protein (wapA)(配列番号11及び36)、S.mutans spaP(配列番号12及び37)、Streptococcus mutans pac(配列番号13及び38)、Mutacin IV NlmA(配列番号14及び39)、Mutacin IV NlmB(配列番号15及び40)が好ましい。
【0037】
Streptococcus sobrinusの菌体表面に特異的に存在する菌体表層物質としては、Glucosyltransferase−I(配列番号16及び41)、Glucosyltransferase−S1(配列番号17及び42)、Glucosyltransferase−S2(配列番号18及び43)、Dei(配列番号19及び44)、Surface protein antigen PAg(配列番号20及び45)、S.sobrinus spaA(配列番号21及び46)が好ましい。
【0038】
Lactobacillus acidophilusの菌体表面に特異的に存在する菌体表層物質としては、Acidocin.A(配列番号22及び47)、Acidocin.B(配列番号23及び48)、Acidocin.M(配列番号24及び49)、Acidocin8912(配列番号25及び50)が好ましい。
【0039】
上記アプタマーは、当業者が行う一般的な方法によって目的とする塩基配列の核酸を化学合成し、標的菌の菌体表面に特異的に存在する菌体表層物質に特異的に結合する作用を指標にスクリーニングすることにより取得できる。具体的には、以下の方法を例示できる。
【0040】
まず、標的菌の菌体表面に特異的に存在する菌体表層物質を選択し、その菌体表層物質のアミノ酸配列をコードする塩基配列をコンピューター内進化プログラムで処理して10世代の塩基配列をコンピューター上に発生させ、これらの塩基配列を標的菌に結合するアプタマーの候補とする。なお、コンピューター内進化プログラムは、Ikebukuroらの文献(Nucleic Acids Res.、2005年、33巻、e108)を参照し、通常利用されている遺伝的アルゴリズムを用いて、visual basicで作成できる。
【0041】
その後、上記の処理によって候補として挙げられた複数の塩基配列からなるオリゴDNAを化学合成し、実際に標的菌と反応させて結合性の高いものをアプタマーとして回収し、これを鋳型にPCRで増幅することによって、標的菌と結合するアプタマーを大量に取得できる。
【0042】
上記のアプタマーは、製造の容易さと安定性の面からは、DNAアプタマーであることが好ましく、塩基長は、10〜200塩基が好ましく、20〜100塩基がより好ましい。
【0043】
以下に、本発明のバイオセンサの実施形態について説明する。
【0044】
本発明のバイオセンサの第一の実施形態としては、標的菌に特異的に結合する上記のアプタマーを酵素又は蛍光色素で標識し、これらを基板上に基質認識部として固定化したセンサを例示できる。
【0045】
図1は、本発明のバイオセンサの第一の実施形態を示す斜視図である。
【0046】
図1に示すバイオセンサ10は、基板1と、基板1上に設けられた基質認識部3とを備え、基質認識部3には、酵素7又は蛍光色素7で標識されたアプタマー5が結合している。
【0047】
第一の実施形態に係るバイオセンサ10では、基質認識部3に被検試料(例えば、唾液、体液)を滴下したり、基質認識部3を口に含んで唾液と接触させたりして、アプタマー5に標的菌を結合させると、アプタマー5に結合した酵素7の酵素反応により反応基質の吸光度が変化したり、又は蛍光色素7の蛍光異方性が変化するため、この変化を検出し、これにより標的菌を検出できる。
【0048】
アプタマー5の基板1表面への結合方法は特に制限はなく、当該技術分野で通常に使用されている方法を使用できる。例えば、基板1表面をポリ−L−リジンで処理し、そこに目的量のアプタマー5を含む溶液をスポッティングして、ポリ−L−リジンとアプタマー5を共有結合させることによって行うことができる。また、アプタマー5の末端に官能基等を予め導入しておき、その官能基等を通じて基板1表面上の官能基等と共有結合させることもできる。
【0049】
アプタマー5を標識する酵素7としては、Horseradish peroxidase(HRP)、β−D−Galactosidase、Alkaline phosphatase、Glucose oxidase、Glucose−6−phosphate dehydrogenaseを例示きる。
【0050】
Horseradish peroxidase(HRP)の基質としては、例えば、3,3’−Diaminobenzidine tetra hydrochloride(DAB)、3−Amino−9−ethyl carbazole(AEC)、5−Aminosalitylic acid、2,2’−Azinobis(3−ethylbenzothiazoline−6−sulfonic acid(ABTS)、o−Phenylenediamine(o−PDA)、Tetramethyl benzidine(TMB)、Tyramine、3−(p−hydroxyphenyl)−propionic acid(HPPA)が挙げられる。β−D−Galactosidaseの基質としては、例えば、o−Nitrophenyl−β−D−galactoside、4−Methylumbelliferyl−β−D−galactosideが挙げられる。Alkaline phosphataseの基質としては、例えば、Bromo choro indole phosphate/nitro blue tetrazolium、p−Nitrophenylphospate、4−Methylumbelliferylphosphateが挙げられる。Glucose oxidaseの基質としては、例えば、β−D−Glucoseが挙げられ、この酵素の場合は、さらに上記のHRPとその基質とを共存させることで発色又は発光が得られる。Glucose−6−phosphate dehydrogenaseの基質としては、例えば、Glucose−6−phosphateが挙げられ、この酵素の場合は、さらにNADPを共存させることで、NADPが還元されて生じるNADPHの吸光度を測定することが可能となる。
【0051】
また、蛍光色素7としては、TEXAS RED(テキサスレッド;励起波長590nm、蛍光波長615nm)、RITC(ローダミン;励起波長520nm、蛍光波長580nm)、FITC(fluorescein isothiocyanate;励起波長495nm、蛍光波長520nm)、PE(フィコエリスリン;励起波長488nmと545nm、蛍光波長580nm)、Cy2(励起波長489nm、蛍光波長505nm)、Cy3(励起波長552nm、蛍光波長565nm)、Cy3.5(励起波長581nm、蛍光波長596nm)、Cy5(励起波長650nm、蛍光波長667nm)、Cy5.5(励起波長678nm、蛍光波長703nm)、AMCA(7−アミノ−4−メチルクマリン−3−酢酸;励起波長350nm、蛍光波長450nm)、APC(アロフィコシアニン;励起波長633nmと635nm、蛍光波長670nm)、FAM(カルボキシフルオレセイン;励起波長494nm、蛍光波長518nm)、HEX(ヘキセクロロフルオレセイン;励起波長535nm、蛍光波長556nm)、TAMRA(カルボテトラメチルローダミンン;励起波長521nm、蛍光波長536nm)、TET(カルボテトラクロロフルオレセイン;励起波長555nm、蛍光波長580nm)、GFP(グリーンフルオレッセンスプロテイン;励起波長488nm、蛍光波長460nm)を例示できる。なお、酵素7又は蛍光色素7によるアプタマー5の標識方法は特に制限はなく、当該技術分野で通常に使用されている標識方法が利用できる。
【0052】
本発明のバイオセンサの第二の実施形態としては、標的菌に特異的に結合する上記のアプタマーを酵素7又は蛍光色素7で標識することなく、基板上に基質認識部として固定化したセンサを例示できる。
【0053】
図2は、本発明のバイオセンサの第二の実施形態を示す斜視図である。
【0054】
図2に示すバイオセンサ20は、基板1と、基板1上に設けられた基質認識部3とを備え、基質認識部3には、アプタマー5が結合している。
【0055】
第二の実施形態に係るバイオセンサ20では、まず、基質認識部3に被検試料(例えば、唾液、体液)を滴下したり、基質認識部3を口に含んで唾液と接触させたりして、アプタマー5に標的菌を結合させ、その後、基質認識部3をバッファー中で十分に洗浄し、酵素又は蛍光色素で標識した標的菌を特異的に認識する抗体又はアプタマーを含む溶液に基質認識部3を接触させることにより、アプタマー5に結合した標的菌に上記の抗体又はアプタマーを結合させる。その後、基質認識部3を十分に洗浄することにより非特異的な結合を排除し、上記の抗体又はアプタマーに標識されている酵素の活性又は蛍光色素が発する蛍光を検出し、これにより標的菌を検出できる。
【0056】
アプタマー5の基板1の表面への結合及び蛍光色素の例示は、本発明のバイオセンサの第一の実施形態のところで記載した通りである。
【0057】
本発明のバイオセンサの第三の実施形態としては、標的菌に特異的に結合する上記のアプタマーと、アルカンチオールと、フェロセンとを電極上に固定した作用極と、参照極とを備える2電極式電気化学セルに電解液を入れたセンサが挙げられる。但し、このセンサは、作用極、対極及び参照極の3電極を備えた3電極系であってもよい。
【0058】
図3は、本発明のバイオセンサの第三の実施形態を示す斜視図である。
【0059】
図3に示すバイオセンサ30は、絶縁性基板2と、絶縁性基板2上に形成された作用極11及び参照極13と、これらに接続されたリード線15を備えている。作用極11には、アルカンチオール21が結合し、アルカンチオール21にはフェロセン23が結合し、フェロセン23にはアプタマー5が結合している。バイオセンサ30の絶縁性基板2上には、作用極11、参照極13、アルカンチオール21及びフェロセン23を取り囲むようにして、堰部6が形成されており、堰部6で取り囲まれた内部が、被検試料を保持するための反応部17となる。また、作用極11、参照極13、アルカンチオール21、フェロセン23及び堰部6が全体として基質認識部3となる。
【0060】
第三の実施形態に係るバイオセンサでは、作用極11と参照極13の間に一定の電圧をかけて、電流が定常になった後に、反応部17に被検試料(例えば、唾液、体液)を加え、電流値の変化を測定することにより標的菌を検出できる。なお、標準濃度の標的菌を含有する溶液により作製した標準曲線に従えば、標的菌の濃度を計算することもできる。
【0061】
電極材料としては、作用極11に金電極を用い、参照極13にはAg/AgCl電極を用いる構成を例示できる。
【0062】
標的菌に特異的に結合する上記のアプタマー5と、アルカンチオール21と、フェロセン23とを電極上に固定する方法としては、まず、ビオチン標識したアルカンチオール21を作用極11に結合し、ビオチン−アビジン反応を介して、アビジン標識したフェロセン23をアルカンチオール21に結合させ、さらに、ビオチン標識したアプタマー5をフェロセン23に結合させる方法を例示できる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1):Streptococcus mutansに特異的に結合するアプタマーのスクリーニング
Streptococcus mutansに特異的に存在する菌体表層物質として、Streptococcus mutans pac(配列番号13)を選択し、このタンパク質に特異的に結合するアプタマーをスクリーニングした。
【0065】
まず、アプタマーの認識部位として、配列表の配列番号13に示されるStreptococcus mutans pacの塩基配列をコンピューター内進化プログラムで処理して10世代の塩基配列をコンピューター上に発生させ、これらの塩基配列をStreptococcus mutansに結合するアプタマーの候補とした。なお、コンピューター内進化プログラムは、Ikebukuroらの文献(Nucleic Acids Res.、2005年、33巻、e108)を参照し、通常利用されている遺伝的アルゴリズムを用いて、visual basicで作成した。
【0066】
その後、候補として挙げられた複数の塩基配列からなるオリゴDNAを化学合成し、Streptococcus mutansに対して特異的な結合が認められたものをアプタマーとして回収し、これを鋳型にPCRを行うことによって、Streptococcus mutansに特異的に結合するアプタマー(以下、S. mutans結合用アプタマー)を大量に調製した。
【0067】
こうして得られたS. mutans結合用アプタマーは、末端をビオチンで標識して、以下の実験で使用した。
【0068】
(実施例2):アプタマーによるStreptococcus mutansの検出
S. mutans結合用アプタマーを抗Streptococcus mutans菌抗体の代わりに用いたELISA法で、Streptococcus mutansの検出を試みた。
【0069】
まず、Streptococcus mutansをPBSに懸濁し、各濃度の菌懸濁液(1×10、1×10、1×10、1×10、1×10及び1×10CFU/mL)を調製した。調製した菌懸濁液は、ポリ−L−リジンコートした96穴プレートの各ウェルに100μLずつ加え、一定時間静置することにより、ウェルの底に菌を固定した。
【0070】
菌が固定された各ウェルには、実施例1で調製したビオチン標識S. mutans結合用アプタマーを50μg加え、25℃で1時間静置し、PBSで洗浄することにより菌に結合しなかったビオチン標識S. mutans結合用アプタマーを取り除いた。
【0071】
引き続き、各ウェルにHRP標識ストレプトアビジンを加え、25℃で1時間静置し、PBSで各ウェルを十分に洗浄した後に、発光基質であるo−PDAを各ウェルに加え、15分間反応させた。その後、6N硫酸を加えることにより反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで492nmの吸光度を測定した。
【0072】
その結果、ビオチン標識S. mutans結合用アプタマーは、1×10CFU/mLのStreptococcus mutansを感度良く検出できることが明らかとなった(図4の実線のグラフ)。
【0073】
(比較例1):抗Streptococcus mutans菌抗体によるStreptococcus mutansの検出
抗Streptococcus mutans菌抗体を用いたELISA法で、Streptococcus mutansの検出を試み、実施例2におけるS. mutans結合用アプタマーを用いたELISA法での検出感度と比較した。
【0074】
実施例2と同様に、まず、Streptococcus mutansをPBSに懸濁し、各濃度の菌懸濁液(1×10、1×10、1×10、1×10、1×10及び1×10CFU/mL)を調製した。調製した菌懸濁液は、ポリ−L−リジンコートした96穴プレートの各ウェルに100μLずつ加え、一定時間静置することにより、ウェルの底に菌を固定した。
【0075】
菌が固定された各ウェルには、50倍希釈液した抗Streptococcus mutans菌抗体(ウサギ抗Streptococcus mutans IgG抗体)を100μL加え、25℃で1時間静置し、PBSで洗浄することにより菌に結合しなかったウサギ抗Streptococcus mutans IgG抗体を取り除いた。
【0076】
その後、各ウェルに1%スキムミルクを加えてブロッキング処理を行い、そこにビオチン標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を加えて、25℃で1時間静置し、PBSで各ウェルを十分に洗浄した。
【0077】
引き続き、各ウェルにHRP標識ストレプトアビジンを加え、25℃で1時間静置し、PBSで各ウェルを十分に洗浄した後に、発光基質であるo−PDAを各ウェルに加え、15分間反応させた。その後、6N硫酸を加えることにより反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで492nmの吸光度を測定した。
【0078】
その結果、ウサギ抗Streptococcus mutans IgG抗体は、1×105CFU/mL以下の濃度のStreptococcus mutansを検出することができず、1×10CFU/mL以上の濃度で検出可能となることが明らかとなった(図4の点線のグラフ)。
【0079】
以上の結果より、S. mutans結合用アプタマーは、ウサギ抗Streptococcus mutans IgG抗体よりも、少なくとも100倍検出感度が高いことが判明し、検出感度の観点から、アプタマーの方が抗体よりも菌を検出するのに適していることが示唆された。
【0080】
(実施例3):S. mutans結合用アプタマーを基質認識部に有するバイオセンサによるStreptococcus mutansの検出(電気化学的方法)
S. mutans結合用アプタマーと、アルカンチオールと、フェロセンとを電極上に固定した作用極と、対極と、参照極とを備える3電極式電気化学セルに電解液を入れたセンサを構築し、被検試料に含まれるStreptococcus mutansの検出を試みた。
【0081】
まず、金電極の表面にビオチン標識したアルカンチオールを結合させ、PBSで金電極を洗浄した後に、ビオチン−アビジン反応を介して、アビジン標識したフェロセンをアルカンチオールに結合させ、PBSで金電極を洗浄した後に、再び、ビオチン−アビジン反応を介して、実施例1で調製したビオチン標識S. mutans結合用アプタマーをフェロセンに結合させ作用極(基質認識部)を作製した。
【0082】
その後、得られた作用極と、対極(Au)と、参照極(Ag/AgCl)とを備える3電極式電気化学セルを完成させ、セルにPBSを入れたバイオセンサを構築した。
【0083】
こうしてできたバイオセンサの作用極に一定の電圧をかけ、電流が定常になった後に、セルに各濃度のStreptococcus mutansの懸濁液(1×10、1×10、1×10、1×10、1×10及び1×10CFU/mL)を加え、電流値の変化を測定した。
【0084】
図5は、S. mutans結合用アプタマーを基質認識部に有するバイオセンサで、電気化学的方法によって、Streptococcus mutansの検出を行った結果である。
【0085】
その結果、S. mutans結合用アプタマーを基質認識部に有するバイオセンサによって、1×10CFU/mL以上の濃度のStreptococcus mutansを検出できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明のバイオセンサの第一の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明のバイオセンサの第二の実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明のバイオセンサの第三の実施形態を示す斜視図である。
【図4】抗Streptococcus mutans菌抗体を用いたELISA法と、抗Streptococcus mutans菌抗体の代わりにS. mutans結合用アプタマーを用いたELISA法とで、Streptococcus mutansの検出を試み、検出感度を比較した図である。
【図5】S. mutans結合用アプタマーを基質認識部に有するバイオセンサで、電気化学的方法によって、Streptococcus mutansの検出を行った図である。
【符号の説明】
【0087】
1・・・基板、2・・・絶縁性基板、3・・・基質認識部、5・・・アプタマー、6・・・堰部、7・・・酵素又は蛍光色素、10,20,30・・・バイオセンサ、11・・・作用極、13・・・参照極、15・・・リード線、17・・・反応部、21・・・アルカンチオール、23・・・フェロセン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌に結合するアプタマーを基質認識部に備える、バイオセンサ。
【請求項2】
前記菌は、口腔内細菌である、請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記口腔内細菌は、う蝕菌又は歯周病菌である、請求項2記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記う蝕菌は、Streptococcus mutansである、請求項3記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記う蝕菌は、Streptococcus sobrinusである、請求項3記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記う蝕菌は、Lactobacillus acidophilusである、請求項3記載のバイオセンサ。
【請求項7】
前記アプタマーは、菌体表層物質に結合する、請求項1〜6のいずれか一項記載のバイオセンサ。
【請求項8】
前記アプタマーは、配列表の配列番号1〜15記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質に結合する、請求項4記載のバイオセンサ。
【請求項9】
前記アプタマーは、配列表の配列番号16〜21記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質に結合する、請求項5記載のバイオセンサ。
【請求項10】
前記アプタマーは、配列表の配列番号22〜25記載のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質に結合する、請求項6記載のバイオセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−85619(P2009−85619A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252148(P2007−252148)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】