説明

バイオディーゼル燃料組成物及びその使用方法

【課題】内燃機関用燃料系部品であるゴムシール材に与える影響の幅を小さくしてその品質レベルを整え、システムとして安全に使用することができるバイオディーゼル燃料組成物及びその使用方法を提供すること。
【解決手段】オレイン酸メチルエステル及び/又はリノール酸メチルエステルを1%以上含み、主成分としてC4〜C25の脂肪酸メチルエステルを含むバイオディーゼル燃料に、天然成分や合成成分から成り、脂肪酸メチルエステルに対して0.001%〜5%の酸化防止剤を添加したバイオディーゼル燃料組成物である。
上記バイオディーゼル燃料組成物を、軽油に対し0.1〜100%の容量比で混合して使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオディーゼル燃料組成物及びその使用方法に係り、更に詳細には、バイオディーゼル燃料使用時のゴムシール性が改善されるバイオディーゼル燃料組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオディーゼルとは、菜種油、大豆油、パーム油、ヒマワリ油、牛乳油などの動植物油及びこれらの廃食油を、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いたアルカリ触媒法、リパーゼ酵素を用いる酵素法、超臨界メタノール法などの方法によってメチルエステル化して得られる、脂肪酸メチルエステル組成を有する内燃機関用燃料である。
【0003】
かかるバイオディーゼルは、メチルエステル化処理することにより粘度を下げることが可能となり、そのままの状態又は軽油に混合した状態で内燃機関用燃料として利用することができる。
【0004】
近年、エネルギー源の多様化や地球温暖化防止への対策を目的に、従来の石油を原料とする燃料以外の代替燃料、特にバイオマス燃料利用への動きが高まっている。
バイオマス燃料とは、具体的には、メタン、メタノール、エタノール、MTBE、ETBE、バイオディーゼル、GTL、BTLなどを指し、植物や廃材、廃棄物などを原料として作ることが可能な燃料の総称である。
【0005】
バイオマス燃料は、我々生物のライフサイクルの中で太陽エネルギーにより二酸化炭素と水から光合成された物質であり、燃焼して発生する二酸化炭素は再び植物が吸収してしまうため、いわゆるカーボンニュートラルな燃料といえ、地表圏上の二酸化炭素を増大させることがない。
【0006】
また、従来の鉱物油を原料とする石油や石炭などの化石燃料は、将来的には枯渇する資源として見なされている。
これらの化石燃料は、地下に固定貯蔵されていた炭化水素を燃料として使用することによって地表圏上に二酸化炭素として変換されるため、大気圏や地表圏上の二酸化炭素絶対量を増加させることになる。
この二酸化炭素絶対量の増加が大気圏・地表圏の温度上昇の一因となる。即ち、化石燃料の軽油をバイオディーゼル燃料で代替することによって、地球温暖化防止への寄与が可能となる。
【0007】
一方、内燃機関用燃料系部品のシール材として使用される各種ゴムは、耐熱性、耐油性などを考慮しており、また燃料によって膨潤するため、その膨潤分を含めたシール性においても適切な製品設計がなされている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004‐262968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、バイオディーゼルは、軽油と同じレベル、又は特に軽油でも膨潤しやすいゴムによっては、軽油よりもゴムシールを膨潤させやすく、且つ膨潤の度合がバイオディーゼル燃料の種類や濃度でばらつきやすい傾向がある。
このような現象は、ゴムシール設計上において説明し難い傾向を示しており、シール材の設計にも幅をもたせなければならず、適切な材料を選定し難くする。
また、燃料で膨潤し難い高価なゴムを使用せねばならなくなり、コストも上昇させてしまう。
【0009】
更に、バイオディーゼルは、現在主に欧州、北米において市場で使用されているが、環境保護の観点から日本においても市場導入が検討されている。また、国内一部地域においても100%濃度のバイオディーゼル燃料使用車が自治体などで試験的に導入されており、今後バイオディーゼルが使用可能な車両用燃料系材料の適切な選定が必須課題となる。
日本はどの原料油由来のバイオディーゼルを使用してゆくかも未だ不透明であり、消費者はどの種類のバイオディーゼル燃料を車両で使用するかも選定できない。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関用燃料系部品であるゴムシール材に与える影響の幅を小さくしてその品質レベルを整え、システムとして安全に使用することができるバイオディーゼル燃料組成物及びその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、所定のバイオディーゼル燃料に、酸化防止機能をもつ成分を一定量含めることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、バイオディーゼル燃料に酸化防止剤を添加して成り、
上記バイオディーゼル燃料は、オレイン酸メチルエステル及び/又はリノール酸メチルエステルを1%以上含み、主成分として、炭素数がC4〜C25の脂肪酸メチルエステルを1種類又は2種類以上含んで成り、
上記酸化防止剤は、天然成分及び/又は合成成分から成り、該脂肪酸メチルエステル合計重量に対して0.001%〜5%の割合で添加されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のバイオディーゼル燃料組成物の好適形態は、天然成分から成る酸化防止剤を1種類又は2種類以上含むこと、合成成分から成る酸化防止剤を1種類又は2種類以上含むことを特徴とする。
【0014】
更に、本発明のバイオディーゼル燃料組成物の使用方法は、上記バイオディーゼル燃料組成物の使用方法であって、
該バイオディーゼル燃料組成物を、軽油に対し0.1〜100%の容量比で混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
所定のバイオディーゼル燃料に、酸化防止機能をもつ成分を一定量含めることとしたため、内燃機関用燃料系部品であるゴムシール材に与える影響の幅を小さくしてその品質レベルを整え、システムとして安全に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のバイオディーゼル燃料組成物について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「%」は特記しない限り質量百分率を示す。
【0017】
上述の如く、本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、バイオディーゼル燃料に酸化防止剤を添加して成る。
また、上記バイオディーゼル燃料は、オレイン酸メチルエステル、リノール酸メチルエステルのいずれか一方又は双方を1%以上含める。主成分は、炭素数がC4〜C25の脂肪酸メチルエステルを1種類又は2種類以上含むものとする。
更に、上記酸化防止剤は、天然成分、合成成分のいずれか一方又は双方から成り、該脂肪酸メチルエステル合計重量に対して0.001%〜5%の割合で添加される。
【0018】
本発明のバイオディーゼル燃料組成物は、このような構成とすることにより、バイオディーゼル燃料の特性を発揮させるとともに、更にバイオディーゼル燃料によるゴムの膨潤率を著しく改善する。
上記「ゴム」とは、天然ゴムの他、SBR、NBR、CR、IIR、BR、IR等のジエン系ゴムや、EPM、EPDM、ハイパロン、ウレタンゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の非ジエン系ゴムなどを示す。
【0019】
ここで、上記バイオディーゼル燃料について説明する。
一般的な動植物油をメチルエステル化して作られるバイオディーゼル燃料(A)は、軽油と同等程度、又は軽油以上にゴムを膨潤させやすいことが分かっている。
動植物油は、種類によって平均分子量の異なるトリグリセリドを主成分とし、このトリグリセリドを加水分解して得られる脂肪酸メチルエステルは、その動植物油の種類によって異なるものの、それぞれの脂肪酸メチルエステルの種類と組成比はほぼ知られている。
【0020】
それゆえ、各脂肪酸を適する組成比で混合しメチルエステル化して製造したバイオディーゼル燃料(B)が得られるはずである。
また、各脂肪酸メチルエステルを適する比率で混合すれば、もとの動植物油と同等程度の特性を有するバイオディーゼル燃料(C)が得られるはずである。
【0021】
しかし、動植物油から製造されるバイオディーゼル燃料(A)と比較し、酸混合体から製造したバイオディーゼル燃料(B)や、脂肪酸メチルエステル混合体から製造したバイオディーゼル燃料(C)は、著しくゴムを膨潤させる。
【0022】
本発明では、かかるバイオディーゼル燃料(A)、(B)、(C)に対して、天然成分や合成成分である酸化防止剤を0.001〜5%の重量比で添加する。
これにより、バイオディーゼル燃料(B)及び(C)は、バイオディーゼル燃料(A)と同程度にゴムシール性に与える影響が改善される。また、バイオディーゼル燃料(A)は、当該酸化防止剤の添加以前よりゴムの膨潤が抑えられ、ゴムシール性に与える影響が改善される。
【0023】
なお、バイオディーゼル(A)は、天然油から製造するため、各自微量の酸化安定剤を保有しており、当該酸化安定剤の有無がバイオディーゼル燃料の特性に寄与し、更にバイオディーゼルの特性の変化がゴムの膨潤率を著しく改善する。
また、酸化防止剤をバイオディーゼル燃料に5%を超えて添加しても、ゴムの膨潤度はあまり変化しないか、更に膨潤させてしまうこととなるため、添加率を上げることは特性上及び経済性の面から有効ではない。
【0024】
本発明のバイオディーゼル燃料組成物においては、上記酸化防止剤に、上記天然成分から成る酸化防止剤、上記合成成分から成る酸化防止剤を1種類又は2種類以上含むことが好適である。
このときは、ゴムの種類などに応じて自由に組成を選択でき、ゴムの膨潤度をより低減できる。
【0025】
上記天然成分から成る酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、アスコルビン酸パルミテート、ビタミンE(トコフェノール)、トコトリエノール、クェルセチン、セザモール、エトキシキン、又はこれらを任意に組合せたものを含むことが好適である。
【0026】
また、上記合成成分から成る酸化防止剤としては、tert−ブチルヒドロキシアニソール(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノール又は3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール又は2,6−ジ−t−ブチル−パラクレゾール、BHT)、N,N−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N−ジサリチリデン−1,2−プロパンジアミン、N,N−ジサリチリデン−2−シクロヘキサンジアミン、フェニル−a−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンベンゾトリアゾール、又はこれらを任意に組合せたものを含むことが好適である。
【0027】
次に、本発明のバイオディーゼル燃料組成物の使用方法について詳細に説明する。
本発明は、上述のバイオディーゼル燃料組成物を、軽油に対し0.1〜100%の容量比で混合することを特徴とする。
これにより、バイオディーゼル燃料を有効に使用できるとともに、ゴムシール性の改善を図ることが可能となる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
また、実施例及び比較例で用いた脂肪酸メチルエステルの配合比は表2に示す。
【0029】
(実施例1)
ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸を各容量比で1:40:4:43:12:0.2の割合で合計が約100%になるように混合し、酸混合液体を得た(配合例1)。
この配合比は、天然のパーム油を加水分解し、酸とグリセリンに分解した際に含まれる一般的な酸成分比を模している。
【0030】
上記酸混合液体を、水酸化カリウムを用いたアルカリ触媒法によりメチルエステル化し、バイオディーゼル燃料を得た。
このバイオディーゼル燃料の質量比に対し0.1%のビタミンC(酸化防止剤)を攪拌混合して、バイオディーゼル燃料組成物を得た。
【0031】
(実施例2)
配合例1の酸成分混合体を、水酸化カリウムを用いたアルカリ触媒法によりメチルエステル化し、この質量比に対し0.15%のBHA(酸化防止剤)を攪拌混合して、バイオディーゼル燃料組成物を得た。
【0032】
(実施例3)
実施例1の酸成分混合体を配合例1に代えて配合例2とし、この質量比に対し0.1%のトコフェノール(酸化防止剤)を攪拌混合して、バイオディーゼル燃料組成物を得た。
【0033】
(実施例4)
パーム油を、水酸化カリウムを用いたアルカリ触媒法によりメチルエステル化し、バイオディーゼル燃料を得た。
このバイオディーゼル燃料の質量比に対し0.1%のビタミンC(酸化防止剤)を攪拌混合して、バイオディーゼル燃料組成物を得た。
【0034】
(実施例5)
菜種油を、水酸化カリウムを用いたアルカリ触媒法によりメチルエステル化し、バイオディーゼル燃料を得た。
このバイオディーゼル燃料の質量比に対し0.15%のBHA(酸化防止剤)を攪拌混合して、バイオディーゼル燃料組成物を得た。
【0035】
(実施例6)
実施例5の燃料組成物に対し、1対1の容量比で国内JIS2号軽油を攪拌混合して、バイオディーゼル燃料組成物を得た。
【0036】
(比較例1)
配分比1の酸成分混合液体を、水酸化カリウムを用いたアルカリ触媒法を用いてメチルエステル化したものを用いた。
【0037】
(比較例2)
菜種油を、水酸化カリウムを用いたアルカリ触媒法を用いてメチルエステル化したものを用いた。
【0038】
(比較例3)
比較例2の燃料組成物に対し、1対1の容量比で国内JIS2号軽油を攪拌混合したものを用いた。
【0039】
(参考例)
国内JIS2号軽油を用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
<評価試験>
実施例1〜6、比較例1〜3及び参考例の各燃料組成物に対し、ゴムシール材NBR(NOK社製、A305)を1×2×0.2mmのサイズに裁断したテストピースを浸漬させ、120℃一定温度の下、最長1000時間の加温試験を行った。
【0043】
テストピースは体積膨潤率より評価した。体積膨潤率については、浸漬試験前後テストピースの空気中の重量及び水中の重量を測定し、浸漬試験前後のテストピース体積を算出し、体積膨潤率を求めた。
【0044】
表1から明らかなように、本発明に係る実施例1〜6の燃料組成物は、天然成分又は合成成分である酸化防止剤を添加することにより、明らかにゴムの膨潤率が小さくなり、ゴムシール性が改善されたと言える。
この現象は動植物油をメチルエステル化して得られたバイオディーゼル燃料、各脂肪酸を適する組成比で混合してメチルエステル化して得られたバイオディーゼル燃料、又は各脂肪酸メチルエステルを適する比率で混合して得られたバイオディーゼル燃料の全てにおいて生じており、ゴムシール性の改良に大いに貢献できている。
特に、実施例4〜6では、表1から明らかなように、ゴムシール性が一段と向上していることが分かる。
【0045】
以上、本発明を若干の好適実施例により詳細に説明したが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。
例えば、実施例1,2では、配合例1のものに代えて各種酸の配合比を変更した配合例2〜4のものを用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料に酸化防止剤を添加したバイオディーゼル燃料組成物であって、
上記バイオディーゼル燃料は、オレイン酸メチルエステル及び/又はリノール酸メチルエステルを1%以上含み、主成分として、炭素数がC4〜C25の脂肪酸メチルエステルを1種類又は2種類以上含んで成り、
上記酸化防止剤は、天然成分及び/又は合成成分から成り、該脂肪酸メチルエステル合計重量に対して0.001%〜5%の割合で添加されることを特徴とするバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項2】
天然成分から成る酸化防止剤を1種類又は2種類以上含むことを特徴とする請求項1に記載のバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項3】
合成成分から成る酸化防止剤を1種類又は2種類以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオディーゼル燃料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のバイオディーゼル燃料組成物の使用方法であって、
該バイオディーゼル燃料組成物を、軽油に対し0.1〜100%の容量比で混合することを特徴とするバイオディーゼル燃料組成物の使用方法。

【公開番号】特開2007−16089(P2007−16089A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197046(P2005−197046)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】