説明

バイオフィルム生成抑制方法

【課題】油の存在下でバイオフィルムの生成を抑制する方法を提供する。
【解決手段】下記成分(A)
(A)一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の数を示す。)
で表される化合物、並びに成分(B)アルキルベンゼンスルホン酸塩及び/又は第2級アルキルスルホン酸塩を、油の存在下の微生物に接触させることを特徴とするバイオフィルム生成抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルムの生成を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して様々な産業分野で問題を引き起こす。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ち、製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。更に、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
【0003】
これまでバイオフィルムの生成を抑制する技術として、例えば、一般式:RO−(EO)n−Hで表される化合物(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の整数を示す。)又はこの化合物と界面活性剤を特定比率で含有する組成物を用いるバイオフィルム生成抑制方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−120783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記バイオフィルム生成抑制技術は、通常のバイオフィルムに対する生成抑制効果は優れているが、油汚れ等の油の存在下におけるバイオフィルム生成抑制効果については、更なる向上が必要であることが判明した。
従って、本発明の課題は、油の存在下においても効果が高いバイオフィルム生成抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる実情に鑑み、本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、意外なことに、油汚れ等の油存在下においても、下記成分(A)及び特定の界面活性剤である成分(B)を併用すれば、高いバイオフィルム生成抑制効果が得られることを見出し本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、(A)一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の数を示す。)
で表される化合物、並びに(B)アルキルベンゼンスルホン酸塩及び/又は第2級アルキルスルホン酸塩を、油の存在下の微生物に接触させることを特徴とするバイオフィルム生成抑制方法を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、上記成分(A)及び成分(B)を含有する、油の存在下の微生物用バイオフィルム生成抑制剤組成物をも提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油汚れ等の油の存在下においても、バイオフィルム生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】バイオフィルムの生成(生物の形態)を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法は、特定の一般式(1)で表される化合物(成分(A))に対して、種々の界面活性剤の中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩及び/又は第2級アルキルスルホン酸塩(成分(B))を併用する点に大きな特徴がある。本発明により、油汚れ等の油の存在下においても、長期的にバイオフィルム生成を抑制することができるという格別顕著な効果が奏される。
【0012】
このような格別顕著な効果が発現される理由は定かではないが、成分(B)が、成分(A)の油に対する親和性を適度に低下させる結果、成分(A)が微生物に有効に作用することができることに基づくものと考えられる。
具体的には、(A)成分により、バイオフィルムの生成を指示する、細菌間の情報伝達クオラムセンシングを制御する物質として知られるオートインデューサーの産生が抑制され、結果的にバイオフィルムが生成抑制される。さらに油存在下では(A)成分は親油性が認められるため、油にとられやすく、親水性の菌体に作用しづらくなるが、(B)成分により(A)成分が油にとられることを防ぎ、菌に作用しやすくなり、相乗効果として、油存在下でバイオフィルムの抑制が可能になると考えられる。
【0013】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法に用いる成分(A)は、一般式(1):
RO−(EO)n−H (1)
で表される化合物から成り、Rは炭素数8〜14の炭化水素基であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の数を示す。
【0014】
ここで、Rで示される炭化水素基であり、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であり、これらは直鎖でも分岐鎖でもよいが、バイオフィルムの生成抑制の観点から、炭素数10〜14のものが好ましく、炭素数10〜14の直鎖アルキル基がより好ましい。EOで示されるエチレンオキシ基の数nは、バイオフィルムの生成抑制の観点から、0〜4がより好ましく、1〜4がさらに好ましい。なお、水への分散性及びバイオフィルムの生成抑制の観点から、nは2〜4が好ましく、3〜4がより好ましく、3がさらに好ましい
【0015】
成分(B)のアルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基としては、油汚れ等の油の存在下においても、長期的にバイオフィルム生成を抑制する観点から好ましくは炭素数8〜22、さらに好ましくは、炭素数10〜18、特に好ましくは、炭素数10〜16のものが挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。具体的には、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0016】
成分(B)の第2級アルキルスルホン酸塩のアルキル基としては、油汚れ等の油の存在下においても、長期的にバイオフィルム生成を抑制する観点から好ましくは炭素数10〜21、さらに好ましくは、炭素数11〜18、特に好ましくは、炭素数12〜16のものが挙げられる。第2級アルキルスルホン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、モノ、ジもしくはトリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。具体的には、例えば、第2級アルキルスルホン酸ナトリウム、2級アルキルスルホン酸カリウム、2級アルキルスルホン酸リチウム等が挙げられ、これらの中でも2級アルキルスルホン酸ナトリウムが好ましい。使用可能な市販品としては、HOSTAPUR SAS 60(Clariant社;炭素数14−17の含有量90質量%以上)、MERSOL80(Bayer社;平均炭素数15)、MARLONシリーズ(SASOL社;PS65、PS60、PS60W、炭素数10−18(炭素数13−17の含有量90質量%以上))などが挙げられ、HOSTAPUR SAS 60、MARLON PS65が好ましい。
【0017】
本発明において、成分(A)と成分(B)の重量比率(A)/(B)は、長期的なバイオフィルム生成抑制効果の点から50/1〜1/1000が好ましく、さらに20/1〜1/100が好ましく、10/1〜1/50がより好ましく、8/1〜1/30がさらに好ましく、6/1〜3/1がさらにより好ましい。
また、本発明の方法に用いる本発明組成物は、成分(A)を好ましくは0.0001〜10重量%、より好ましくは0.001〜10重量%、特に好ましくは0.01〜5重量%含み、そして成分(B)を好ましくは0.0005〜30重量%、より好ましくは0.002〜20重量%含む。
【0018】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法においては、更に成分(B)以外の界面活性剤を使用してもよい。ここで使用できる界面活性剤の種類は特に限定されないが、成分(A)を水系中に安定に存在させることができる界面活性剤が望ましい。特に乳化・分散・可溶化性能の観点から、界面活性剤の中で陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0019】
陰イオン性界面活性剤としては、リグニンスルホン酸塩、上記以外のアルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン(以下、POEと記す)アルキルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、POEアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、POEアルキル硫酸エステル塩、POEアリールフェニルエーテルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、POEトリベンジルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、POEアルキルリン酸塩、POEトリベンジルフェニルエーテルリン酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩(石けん)、POEアルキルエーテル酢酸塩等が挙げられ、中でもアルキル硫酸エステル塩やPOEアルキル硫酸エステル塩、POEアルキルエーテル酢酸塩を用いることがより好ましい。これらの陰イオン性界面活性剤のアルキル炭素数は10〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は0〜10が好ましく、0〜5がより好ましい。
【0020】
非イオン性界面活性剤としては、POEアルキルエーテル(但し、成分(A)を除く)、POEアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン・POE(ブロック又はランダム)アルキルエーテル、POEアリールフェニルエーテル、POEスチレン化フェニルエーテル、POEトリベンジルフェニルエーテル等の1価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド等の多価アルコール誘導体型非イオン性界面活性剤等が挙げられ、中でもPOEアルキルエーテル(但し、成分(A)を除く)、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、ソルビタン脂肪酸エステル、POEソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、特に、POEアルキルエーテル[但し、成分(A)を除く]が好ましい。なかでもPOEアルキルエーテルのHLB(なお、グリフィン法によって求められるHLB)は10以上が特に好ましい。また、POEアルキルエーテルのアルキル炭素数は12〜18が好ましく、エチレンオキシド平均付加モル数は6以上が特に好ましい。
【0021】
これら成分(B)以外の界面活性剤は単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることができる。これら成分(B)以外の界面活性剤の含有量は、乳化・分散・可溶化性能を高める点から、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.01〜5重量%、更に好ましくは0.01〜3重量%である。
【0022】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物には殺菌剤や抗菌剤を併用することも可能である。一般にバイオフィルムが形成すると殺菌剤が効きにくい状況が起こるが、本発明のバイオフィルム生成抑制剤によってバイオフィルムの形成が抑制されると、殺菌剤の効力を十分に引き出すことが可能になる。すなわち、本発明においては、油存在下において、本発明使用の主成分である(A)成分及び(B)成分が、微生物との接触によって、微生物のバイオフィルム生成能力を抑制する作用を示し、バイオフィルムの形成を抑制することができる為、殺菌剤等を併用した場合、微生物に直接、殺菌剤が作用できるので、殺菌剤の効力を十分に引き出すことが可能となる。
【0023】
上記の殺菌剤や抗菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン等の四級塩、イミダゾールやベンゾイミダゾールなどのイミダゾール類、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニジンなどのビクアニド類、イソプロピルメチルフェノールなどのフェノール類、トリクロサン、トリクロロカルバニリドなどのカルバニリド類、イソチアゾリンやイソチアゾロンなどのチアゾリン化合物、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチルなどのパラベン類、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸などの有機酸およびその塩、ポリリジンなどのカチオンポリマー、抗菌香料、およびカテキン類、天然精油、ヒノキチオール、モウソウチク、クレオソート油、ワサオール、バクテリオシンなどの天然由来、βラクタムなどに代表される各種抗生物質、銀、銅、亜鉛、イオウ、オゾン、塩素化合物(好ましくは次亜塩素酸)、要素化合物、過酸化物(好ましくは過酸化水素)、ホウ酸などの無機系抗菌化合物などが挙げられる。これら殺菌剤や抗菌剤の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.01〜3重量%、更に好ましくは0.02〜2重量%である。
【0024】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物には、その粘度を上昇させて対象物への付着性を向上させるために、増粘剤を用いることも可能である。
【0025】
更に、本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物にはキレート剤を加えてもよい。該キレート剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、コハク酸、サリチル酸、シュウ酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、トリポリリン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸/マレイン酸共重合物及びそれらの塩が挙げられる。これらキレート剤の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%、更に好ましくは0.1〜2重量%である。
【0026】
更に、本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物には溶剤を加えてもよい。該溶剤としては、下記(i)〜(iii)から選ばれる化合物が好ましい。
(i)炭素数1〜3の一級アルコール、
(ii)下記一般式(Solv-1)で示される化合物、
1−(OR2)m−OR3 (Solv-1)
〔式中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜7の炭化水素基であり、R2は炭素数2又は3のアルキレン基であり、mは1〜6の数であり、m個のR2は同一でも異なっていても良い。〕
(iii)炭素数3〜10の1価アルコールにグリシドール及び/又はエピクロルヒドリンを平均1〜5モル付加させたアルキル(ポリ)グリセリルエーテル
(i)の化合物の具体例としては、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが挙げられ、(ii)の化合物の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレン(m1=2〜3)ポリオキシプロピレン(m2=2〜3)グリコールジメチルエーテル(m1及びm2はそれぞれ平均付加モル数を示す)、ポリオキシエチレン(m3=1〜5)グリコールフェニルエーテル、フェニルカルビトール、フェニルセロソルブ、ベンジルカルビトールを挙げることができる。また、(iii)の化合物の具体例としては、2−エチルヘキシルグリセリルエーテル、アミルグリセリルエーテル等の炭素数4〜10のアルキルモノグリセリルエーテル、アルキルジグリセリルエーテル等が挙げられる。
本発明では、溶剤として、特にエタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−エチルヘキシルグリセリルエーテル、アミルグリセリルエーテルが好ましい。これら溶剤の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%、更に好ましくは0.1〜3重量%である。
【0027】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は液状、ペースト、粉末、タブレットなど、用途に応じて様々な形態をとることが可能である。バイオフィルム生成抑制剤組成物は全ての成分が混在した1剤型でも良いが、使い勝手によってはそれをいくつかの分割パッケージにしてもよい。
【0028】
本発明において、油とは、動物や植物、鉱物などからとれる水と混じらない可燃性の物質を言い、例えば、ラード、バター、魚油等の動物油脂、サラダ油、コーン油、大豆油、菜種油、ヤシ油等の植物油、ワセリン、パラフィン等の鉱物油、皮脂などが挙げられる。これらの油のなかでは、本発明の課題が発生し易いような調理関係で使用される動物油脂、植物油の存在下おいて、本発明の方法を好ましく適用することができる。
また、油の存在下とは、上記油が、調理時などにおいて飛散して、レンジ周辺、壁、床、食品加工機械、コンテナ、ザル等に油汚れとして付着した状態、洗い流した油が排水口やグリーストラップに油汚れとして残る状態や、皮脂がお風呂などに油汚れとして残る状態が挙げられ、本発明は、このような油汚れ等の油の存在下においても、長期的にバイオフィルム生成を抑制することができる。
【0029】
本発明のバイオフィルム生成抑制剤組成物は水希釈系で用いるのが効果的である。本発明方法としては、該組成物の水希釈物を一定量溜めて対象物を浸漬する方法が挙げられる。また、対象物が広範に亘る場合には、スプレー機器を用いてミストを吹き付けたり、発泡機を用いて泡状にしたものを吹き付けたりしてもよい。又、該組成物の水希釈液を流したり、はけ等により塗布してもよい。その他、タオルなどに該水希釈液を含浸させて、対象物を拭き取っても良い。微生物と接触させる条件が満足されるならば、微生物が存在しうる表面に該組成物の水希釈液を付着させたり、塗り付けたりすることも可能である。該組成物の水希釈液は、その使用時の成分(A)の重量濃度が1〜10,000ppmとなる
のが好ましく、5〜10,000ppmとなるのがより好ましく、10〜1,000ppmとなるのがさらに好ましく、50〜500ppmとなるのがさらにより好ましい。
また、対象物によっては水希釈系にせず、クリーム状や軟膏にして塗り広げることも可能である。この場合、成分(A)は適切な溶媒に溶解、分散、乳化された形状で提供され、使用時の成分(A)の重量濃度が1〜10,000ppmとなるのが好ましく、5〜10
,000ppmとなるのがより好ましく、10〜1,000ppmとなるのがさらに好ましく、50〜500ppmとなるのがさらにより好ましい。
【0030】
本発明は、バイオフィルム生成抑制剤組成物を微生物と接触させてバイオフィルムの生成を抑制する方法であるが、バイオフィルム生成抑制剤組成物と微生物との接触は連続して行うのが好ましい。
また、本発明は、バイオフィルム生成抑制剤組成物と微生物との接触が長期的であることが好ましく、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、4時間以上がさらに好ましく、6時間以上がさらにより好ましく、12時間以上が特に好ましく、24時間以上が最も好ましい。
【0031】
本発明のバイオフィルム生成抑制方法は、バイオフィルムの危害が懸念される広い分野に適用することが可能である。例えば菌汚染リスクの高い食品又は飲料製造プラント等の製造設備や製造器具、レストラン厨房に適用することができる。また、バイオフィルムが形成しやすい医療機器、例えば内視鏡や人工透析機等にも適用でき、更に、循環式浴槽設備や、紙製造設備に適用できる。特に、油汚れが想定される、食品を扱う場所においての使用が効果的である。
【0032】
本発明におけるバイオフィルムとは、微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものである。より具体的には、微生物と、微生物が排出する細胞外ポリマー(主に多糖やタンパク質、核酸などが含まれる)からなる、微生物の集合体のことであり、更にこれらが油や有機物を含む汚れ等が共に存在する場合がある。
また、バイオフィルムを形成し易い微生物としては、シュードモナス属、アシネトバクター属、スフィンゴモナス属、大腸菌等のグラム陰性菌、バチルス属菌やスタフィロコッカス属などのグラム陽性菌等が挙げられ、これらの中では、特にシュードモナス属、アシネトバクター属がバイオフィルムをより形成し易いが、本発明の方法では、これらの菌由来のバイオフィルムに対して、より効果を発現することができる。特に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)には高い効果を示す。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例及び比較例:バイオフィルム生成抑制度合いの検定
(実施例)
成分(A) RO−(EO)n−H
(A−1)C12アルコールエチレンオキサイド3モル付加物〔NIKKOL BL−3SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3〕
(A−2)C12アルコールエチレンオキサイド4モル付加物〔NIKKOL BL−4SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=4〕
【0035】
成分(B) アルキルベンゼンスルホン酸塩,第2級アルキルスルホン酸塩
(B−1)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 〔ネオペレックスG−15、花王(株)製〕
(B−2) 第2級アルキルスルホン酸塩 〔アルキルは、C12−14の混合品〕
【0036】
成分(D) 油
(D−1)菜種油 〔山桂産業(株)製〕
【0037】
(比較例)
成分(A) RO−(EO)n−H
(A−1)C12アルコールエチレンオキサイド3モル付加物〔NIKKOL BL−3SY、日光ケミカルズ(株)製、R=C12アルキル、n=3〕
【0038】
成分(C) 界面活性剤
(C−1)ラウリル硫酸ナトリウム〔エマール0、花王(株)製〕
(C−2)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム〔花王(株)製〕
(C−3)アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム〔ペレックスNB-L、花王(株)製〕
(C−4)アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム〔ペレックスSS-L、花王(株)製〕
(C−5)ラウリル硫酸アンモニウム〔ラムテルAD−25、花王(株)製〕
(C−6)ラウリル硫酸トリエタノールアミン〔エマールTD、花王(株)製〕
(C−7)ラウリル硫酸ナトリウム〔エマール0、花王(株)製〕
【0039】
成分(D) 油
(D−1)菜種油 〔山桂産業(株)製〕
【0040】
バイオフィルム生成抑制度合いの検定方法
(1)培地の準備及び培養
200ml滅菌スクリューコップ〔栄研化学(株)製〕内にMueller Hinton Broth培地(Difco 製)を100ml入れ、ここに表1に示す組成物(成分(A)、(B)または(C)を含む)を100分の1量になるように添加し、また油汚れとして成分(D)を1g添加、さらにP.aeruginosa(ATCC15692)をLB培地(Difco製)にて培養した培養液を1%の割合で添加し、撹拌した後、蓋をした状態で48時間静置にて培養を行った。写真撮影を行い、液面に発生するバイオフィルムの生成量を下記判定基準により判定した。結果を表1に示す。
表中の数字はバイオフィルム生成抑制度合いを示す。
【0041】
判定基準
バイオフィルム生成量
1 :バイオフィルムが生成されていない。
2 :小さな断片として若干バイオフィルムが生成されている。
3〜5 :大きな断片として若干バイオフィルムが生成されている。
6〜8 :気液界面にバイオフィルムがリング状に生成している。
9〜10 :気液界面から下に垂れ下がる程大量にバイオフィルムが生成している、
※ 数値が大きくなるほどバイオフィルムの生成量が多いことを示している。
なお、バイオフィルム生成量において、それぞれ判定基準が、1、6、10における写真を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
以上の結果から、本発明によれば、油などの汚れ存在下において長期的にバイオフィルムの生成が抑制できていることがわかる(組成物23〜24,35,36)。一方、成分(A)及び成分(B)以外の他の界面活性剤との組み合わせにおいては、油が存在しない場合はバイオフィルム生成抑制効果に優れるが(組成物14〜20)、油の存在下ではバイオフィルム生成抑制効果に劣ることが判る(組成物25〜31)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の数を示す。)
で表される化合物、並びに(B)アルキルベンゼンスルホン酸塩及び/又は第2級アルキルスルホン酸塩を、油の存在下の微生物に接触させることを特徴とするバイオフィルム生成抑制方法。
【請求項2】
成分(A)及び成分(B)の重量比率が、(A)/(B)=50/1〜1/1000である、請求項1記載のバイオフィルム生成抑制方法。
【請求項3】
(A)一般式(1)
RO−(EO)n−H (1)
(式中、Rは炭素数8〜14の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは0〜5の数を示す。)
で表される化合物、並びに(B)アルキルベンゼンスルホン酸塩及び/又は第2級アルキルスルホン酸塩を含有する、油の存在下の微生物用バイオフィルム生成抑制剤組成物。
【請求項4】
前記組成物中における成分(A)の含有量が、0.0001〜10重量%である請求項3記載のバイオフィルム生成抑制剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−168372(P2010−168372A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292827(P2009−292827)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】