説明

バイオマスの糖化率予測方法

【課題】糖化処理を実施することなくバイオマスの糖化率を予測する。
【解決手段】バイオマスを固体NMR装置にて測定し、バイオマスを構成する成分に由来するシグナルを含むスペクトルを得る工程と、上記スペクトルに含まれるシグナル強度を糖化率予測式に代入して予測糖化率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のバイオマスを糖化処理に供したときの糖化率を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系バイオマスは、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンによって構成されている。特に、グルコースやキシロースなどの単糖の高分子体であるセルロースやヘミセルロースは、再生可能な炭水化物資源であり、これらを原料として、エタノールや乳酸などに代表されるアルコールや有機酸を製造することが可能であるため、石油代替資源として注目されている。
【0003】
セルロース系バイオマスからアルコールや有機酸を製造するためには、セルロース系バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロース、キシランを構成単糖にまで加水分解(糖化)し、発酵によって単糖をアルコールや有機酸に変換する。一般に、この糖化処理には、セルラーゼ等の糖化酵素が利用される。バイオマスに含まれる多糖類を構成単糖にまで分解する割合、すなわち糖化率を向上させるため、一般的には糖化処理に先立ってバイオマスに対する前処理が施される。
【0004】
前処理工程としては、例えば、粉砕したセルロース系バイオマスを希硫酸溶液やアルカリ溶液、イオン液体に浸漬する処理、水熱処理、微粉砕処理といった処理が挙げられる。これら前処理により、セルロース系バイオマスの糖化率を向上させることができる。また、糖化率に関しては、バイオマスそのものによっても大きく異なることが知られている。すなわち、サトウキビや稲わらをバイオマスとして使用する場合、これらサトウキビや稲の品種、生育条件など依存して糖化率が異なることがある。
【0005】
このように糖化率は、様々な要因に左右され、最適なバイオマスの種類や最適な前処理を十分に検討しなければ、十分に向上を図ることができない。糖化率は、実際に糖化酵素を利用して糖化処理を行い、得られた構成単糖を定量分析することで算出される。糖化処理を行わずして糖化率を予測する技術は知られていない。
【0006】
例えば、非特許文献1〜3には、バイオマスの前処理を検討する際に、X線回折法、走査型電子顕微鏡法、フーリエ変換型赤外分光、溶液NMR法或いは固体NMR法を利用して観察する技術が開示されている。しかし、これらの技術は、バイオマスに含まれるセルロースの結晶を観察するものであり、前処理後のバイオマスを糖化処理したときの糖化率を評価するものではない。
【0007】
例えば、特許文献1(特開2010-035446号公報)には、白色腐朽菌を利用した草本系バイオマスの前処理方法が開示されているものの、糖化率の向上効果は実際に糖化処理を行って判断している。また、特許文献2(特開2010-200624号公報)には、前処理後のバイオマスに含まれるセルロースI型のセルロースIIII型への変換を固体NMR等により確認することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-035446号公報
【特許文献2】特開2010-200624号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bioresource Technology, 101(13), p. 4900-4906, (2009)
【非特許文献2】Biofuels, 1(1)、p. 33-46, (2010)
【非特許文献3】Carbohydrate Research, 345(7), p. 965-970, (2010)
【非特許文献4】Progress in Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy, 40(2), p. 151-174. (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は上述したような実情に鑑み、糖化処理を実施することなくバイオマスの糖化率を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、バイオマスを例えば固体NMR装置にて測定し、得られたスペクトルに含まれるシグナルの強度を所定の糖化率予測式に代入することで当該バイオマスの糖化率を予測できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は以下を包含する。
(1)バイオマスを固体NMR装置にて測定し、バイオマスを構成する成分に由来するシグナルを含むスペクトルを得る工程と、上記スペクトルに含まれるシグナル強度を糖化率予測式に代入して予測糖化率を算出する工程とを含む、バイオマスに関する糖化率の予測方法。
【0013】
(2)上記固体NMR装置における被観察原子は13Cであり、上記スペクトルは13C-NMRスペクトルであることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0014】
(3)上記バイオマスは、糖化処理の前に実施される前処理が施されたものであることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0015】
(4)上記糖化率予測式は、上記スペクトルに含まれるシグナルの強度と糖化率との関係から回帰分析により導かれることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0016】
(5)上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるカルボニル基の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0017】
(6)上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるアセチル基におけるメチル基を構成する炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0018】
(7)上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからリグニンを構成する炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0019】
(8)上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する4位の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0020】
(9)上記糖化率予測式は、キシランに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する2位、3位及び5位の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【0021】
(10)上記糖化率予測式は、キシランに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する-OCH3の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする(1)記載の予測方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る糖化率の予測方法によれば、糖化処理に供されるバイオマス(前処理の有無は問わない)の糖化率を、糖化処理を行う前に予測することができる。本発明に係る糖化率の予測方法により得られた予測糖化率を利用することによって、実際の糖化処理を行うこと無く、例えば、種々のバイオマスについて糖化率の高低を判断でき、種々の前処理について糖化率の向上効果を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例で使用した4種類のイオン液体の構造式を示す模式図である。
【図2】固体NMR装置で測定したバイオマスをのNMRスペクトルであり、aは無処理のバガス粉末のNMRスペクトルであり、bは[Bmim][Ac]で120℃、30分処理した後のバガス粉末のNMRスペクトルであり、cはアルカリ処理した後のバガス粉末のNMRスペクトルであり、dは酸処理した後のバガス粉末NMRスペクトルである。
【図3】試料番号1〜15について糖化率を測定した結果を示す特性図である。
【図4】各シグナルについて、セルロースに関する糖化率との相関係数を折れ線グラフとして示す特性図である。
【図5】各シグナルについて、キシランに関する糖化率との相関係数を折れ線グラフとして示す特性図である。
【図6】セルロースに関する糖化率予測式に使用する変数の数と自由度調整済決定係数との関係を示す特性図である。
【図7】キシランに関する糖化率予測式に使用する変数の数と自由度調整済決定係数との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る糖化率の予測方法を詳細に説明する。
本発明における、セルロース系バイオマスとは、セルロース繊維の結晶構造とヘミセルロース及びリグニンとの複合体を含むバイオマスを意味する。特に、セルロース繊維の結晶構造及びヘミセルロースをセルロース系バイオマスに含まれる多糖類として扱う。セルロース系バイオマスには、間伐材、建築廃材、産業廃棄物、生活廃棄物、農産廃棄物、製材廃材及び林地残材及び古紙等の廃棄物が含まれる。また、セルロース系バイオマスとしては、段ボール、古紙、古新聞、雑誌、パルプ及びパルプスラッジ等も含む。さらに、セルロース系バイオマスとしては、おが屑や鉋屑等の製材廃材、林地残材又は古紙等を粉砕、圧縮し、成型したペレットをも含む。
【0025】
本発明に係る糖化率の予測方法では、上述した各種バイオマスを固体NMR装置により分析する。分析対象のバイオマスは、使用する固体NMR装置に適した形状、状態に加工しても良い。また、分析対象のバイオマスは、何らなの処理が施された後のバイオマスでも良い。一例としては、酵素糖化処理の前段に実施される所謂、前処理が施された後のバイオマスを分析対象とすることができる。また、固体NMR装置による被観察原子は13Cである。
【0026】
ここで、固体NMR装置とは、固体試料についてNMRを測定する装置である。固体NMR装置としては、特に限定されず、異方性情報を消去するために試料を高速回転させる高分解能NMRでも良いし、試料を回転させない広幅NMRでもよい。特に、固体NMR装置としては、マジック角回転(Magic Angle Spinning:MAS)と称される手法により高感度化および高分解能化した装置を使用することが好ましい。なかでも、固体NMR装置としては、交差分極(cross polarization)/マジック角回転と称される手法により高感度化及び高分解能化した装置(CP/MASと称する場合もある)を使用することがより好ましい。
【0027】
固体NMR装置を用いてバイオマスを分析することで、バイオマスを構成する成分に由来するシグナルからなるスペクトル(13C-NMRスペクトル)を得ることができる。ここでバイオマスを構成する成分とは、セルロースやキシラン、ヘミセルロース等の多糖類及びリグニンを意味する。これら成分に含まれる炭素原子についてはそれぞれケミカルシフトを定法に従って予測することができるため、得られたスペクトルに含まれるシグナルの帰属、すなわちどの炭素原子に由来するシグナルであるかを特定することができる。
【0028】
本発明に係る糖化率の予測方法では、得られたスペクトルから所定のシグナルの強度を糖化率予測式に代入して糖化率の予測値を算出する。ここで糖化率予測式とは、糖化率との相関が高いと判断されたシグナルの強度を代入する項を含んでいる。なお、糖化率とシグナル強度との相関は、相関係数により判断できる。相関係数とは、バイオマス糖化率の高低に対してシグナル強度がどの程度相関しているのかを示す係数である。よって、相関が高いとは相関係数の絶対値が高いことと同義である。なお、糖化率とは、バイオマスに含まれるセルロースをセルラーゼにより糖化する場合の糖化率、バイオマスに含まれるキシランをキシラーゼにより糖化する場合の糖化率のいずれか一方を意味する。
【0029】
なお、この相関係数は、所定のシグナルの強度と糖化率との散布図において直線的な関連の程度を示す値である。相関係数(rxy)の計算方法は、特に限定されず、例えば、シグナル強度(x)と糖化率(y)の値から算出できる。すなわち、特定のバイオマス或いは特定の前処理が施されたバイオマスについて13C-NMRスペクトルを測定して各シグナルについてシグナル強度(x)を求めておく。また、当該バイオマスについて糖化処理を施して、実際の糖化率(y)を算出しておく。そして、以下のようにして相関係数を算出することができる。なお、以下の計算方法は、シグナル強度(x)と糖化率(y)のデータセットがn個ある場合を前提としている。
【0030】
【数1】

【0031】
上記式(1)において、Cxyはシグナル強度(x)と糖化率(y)の共分散であり以下の式により算出される。
【0032】
【数2】

【0033】
ここで、Sxyは偏差積和であり、シグナル強度(x)の平均値をxバー、糖化率(y)の平均値をyバーとすると以下の式で算出される。なお、下記式中、iは1〜nのいずれかの整数である。したがって、下記式中Xi及びYiは、それぞれn個のデータセットのうちのi番目のデータセットに含まれるシグナル強度と糖化率を示している。
【0034】
【数3】

【0035】
また、上記式(1)において、Vx及びVyは、それぞれシグナル強度(x)の分散と糖化率(y)の分散である。例としてVxは以下の式により算出される。Vyも以下の式を参照して同様に算出される。
【0036】
【数4】

【0037】
以上のような計算方法により、得られたスペクトルに含まれる全て又は一部のシグナルについて糖化率との相関係数を算出できる。これにより、得られたスペクトルに含まれるシグナルを、糖化率に対する相関係数の高低について評価することができる。
【0038】
また、糖化率予測式は、上述のように糖化率に対する相関係数が算出された全て又は一部のシグナルを利用する。例えば、得られたスペクトルに含まれるシグナルのうち1つのシグナルを使用して糖化率予測式を作成するには、例えば、下記に示すように、当該シグナルと糖化率との散布図から単回帰分析を利用することができる。
【0039】
【数5】

【0040】
また、得られたスペクトルに含まれるシグナルのうち複数のシグナルを使用して糖化率予測式を作成するには重回帰分析を利用することができる。一例として、下記に示すように、2つのシグナルと糖化率との散布図から重回帰分析を利用することで、糖化率予測式を導くことができる。
【0041】
【数6】

【0042】
このように導かれた、複数のシグナルを利用した糖化率予測式について、自由度調整済寄与率(R*2、自由度調整済決定係数ともいう)の値を指標にして、予測の精度を評価することができる。ここで、自由度調整済決定係数とは、単回帰分析や重回帰分析で導かれた式について、どの程度有用であるかを評価する指標を意味する。重回帰分析においては、変数の数(ここではシグナルの数)が増加すると、寄与率(R2、決定係数)は必ず高くなるが、このとき自由度を調整してそのような傾向を排除した係数が、自由度調整済寄与率(R*2、自由度調整済決定係数)である。なお、糖化率予測式は、自由度調整済決定係数の値が1に近いほど予測精度が高いこととなる。また、糖化率予測式は、上述のように単回帰分析や重回帰分析によって求める方法に限定されず、例えばPLS回帰分析等の方法により導出することもできる。
【0043】
本発明に係る糖化率予測方法において、糖化率予測式に使用するシグナルは、バイオマスの糖化率の変化に対する相関係数が高いと判断されたシグナルを利用することが好ましい。これにより、予測精度の高い糖化率予測式を導くことができる。
【0044】
特に、セルロースに関する糖化率予測式に使用するシグナルとしては、バイオマスの糖化率との相関係数が高い順にシグナルを並べたとき、相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるカルボニル基の炭素に由来するシグナル(化学シフト:168.5ppm)までを利用することが好ましい。キシランに含まれるカルボニル基の炭素に由来するシグナルを使用した糖化率予測式は、当該シグナルを使用しないで導いた糖化率予測式と比較すると、自由度調整済決定係数が著しく高い値を示し、予測精度が大幅に向上するためである。
【0045】
さらに、セルロースに関する糖化率予測式に使用するシグナルとしては、バイオマスの糖化率との相関係数が高い順にシグナルを並べたとき、相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるアセチル基におけるメチル基を構成する炭素に由来するシグナル(化学シフト:20.5ppm)までを利用することが好ましい。この場合、糖化率予測式の自由度調整済決定係数をより1に近づけることができ、予測精度を更に向上させることができる。
【0046】
さらにまた、セルロースに関する糖化率予測式に使用するシグナルとしては、バイオマスの糖化率との相関係数が高い順にシグナルを並べたとき、相関係数が最も高いシグナルからリグニンを構成する炭素に由来するシグナル(化学シフト:152.5ppm)までを利用することが好ましい。この場合、糖化率予測式の自由度調整済決定係数を更に1に近づけることができ、予測精度をより一層向上させることができる。
【0047】
さらにまた、セルロースに関する糖化率予測式に使用するシグナルとしては、バイオマスの糖化率との相関係数が高い順にシグナルを並べたとき、相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する4位の炭素に由来するシグナル(化学シフト:87.5ppm)までを利用することが好ましい。この場合、糖化率予測式の自由度調整済決定係数を最も1に近づけることができ、予測精度を最も向上させることができる。
【0048】
以上のようにセルロースに関する糖化率予測式は、セルロースに由来するシグナルのみならず、リグニンやキシランに由来するシグナルを利用することで予測精度を大幅に向上できるといった特徴がある。
【0049】
一方、キシランに関する糖化率予測式に使用するシグナルとしては、特に、相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する2位、3位及び5位の炭素に由来するシグナル(化学シフト:76.5ppm)までを利用することが好ましい。セルロースやキシランを構成する2位、3位及び5位の炭素に由来するシグナルを使用した糖化率予測式は、当該シグナルを使用しないで導いた糖化率予測式と比較すると、自由度調整済決定係数が著しく高い値を示し、予測精度が大幅に向上するためである。
【0050】
また、キシランに関する糖化率予測式に使用するシグナルとしては、特に、相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成するC6の炭素に由来するシグナル(化学シフト:59.5ppm)までを利用することが好ましい。この場合、糖化率予測式の自由度調整済決定係数を最も1に近づけることができ、予測精度を最も向上させることができる。
【0051】
以上のように、キシランに関する糖化率予測式は、キシランやセルロースに由来するシグナルのうち特定のシグナルを利用することで予測精度を大幅に向上できるといった特徴がある。
【0052】
上述のように、本発明に係る糖化率の予測方法では、予測精度の高い糖化率予測式を利用し、固体NMR装置により測定されたバイオマスに関する13C-NMRスペクトルに含まれる特定のシグナルの強度から予測糖化率を算出することができる。同じ糖化率予測式を利用している限り、得られた予測糖化率は互いに比較することができる。
【0053】
例えば、種々のバイオマスについて、特定の糖化率予測式を利用してそれぞれ予測糖化率を算出し、得られた予測糖化率を比較することで、これらバイオマスについて糖化効率を比較することができる。すなわち、本発明に係る糖化率の予測方法を適用することによって、種々のバイオマスのなかから効果効率に優れたバイオマスを選抜することができる。
【0054】
また、例えば、特定のバイオマスを種々の前処理に供しておき、前処理後のバイオマスについて特定の糖化率予測式を利用してそれぞれ予測糖化率を算出し、得られた予測糖化率を比較することで、これら前処理による糖化効率の向上効果を比較・検討することができる。すなわち、本発明に係る糖化率の予測方法を適用することによって、バイオマスに対する前処理の種類や、所定の前処理における処理条件等を、糖化効率の向上効果の面から検討することができる。
【0055】
ここで、バイオマスに対する前処理とは、セルラーゼやキシラーゼ等の糖化酵素を用いた糖化処理に先立って実施される如何なる処理も含む意味である。例えば、前処理としては、バイオマスに対する破砕・粉砕処理、バイオマスをイオン液体に浸漬させる処理、バイオマスをアルカリ溶液に浸漬する処理、バイオマスを硫酸に浸漬する処理、バイオマスと酸とを混合した後に水蒸気に接触させる処理等を挙げることができる。前処理としては、これらの処理を単独で行っても良いし、複数の処理を組み合わせて行っても良い。
【0056】
特に、本発明に係る糖化率の予測方法は、対象のバイオマスをイオン液体に浸漬する前処理を行うに際して、イオン液体の種類や処理条件(温度及び処理時間)等を、糖化効率の向上効果の面から比較検討する際に適用することが好ましい。
【0057】
前処理に使用可能なイオン液体としては、特に限定されず、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジン系イオン液体、脂環族アミン系イオン液体及び脂肪族アミン系イオン液体を使用することができる。特に、イミダゾリウム化合物としては、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩を使用することがより好ましい。1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩のなかでも、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドを使用することが最も好ましい。
【0058】
なお、イミダゾリウム化合物としては、1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩及び1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩を挙げることができる。具体的に1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−乳酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩としては、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイドや1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトラフルオロホウ酸塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0059】
また、ピリジニウム系イオン液体としては、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、ヘキシルピリジニウム塩等が挙げられる。具体的には、エチルピリジニウム塩としては、1−エチルピリジニウムブロマイド及び1−エチルピリジニウムクロライドを挙げることができる。ブチルピリジニウム塩としては、1−ブチルピリジニウムブロマイド、1−ブチルピリジニウムクロライド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩及び1−ブチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩等が挙げられる。ヘキシルピリジニウム塩としては、1−ヘキシルピリジニウムブロマイド、1−ヘキシルピリジニウムクロライド、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロホウ酸塩及び1−ヘキシルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0060】
さらに、脂環族アミン系イオン液体としては、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及びN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩等を挙げることができる。
【0061】
また、上述したようにイミダゾリウム系イオン液体、ピリジン系イオン液体、脂環族アミン系イオン液体及び脂肪族アミン系イオン液体において、アニオンは無機アニオン及び有機アニオンのいずれであってもよい。無機アニオンとしては、例えばCl-、Br-、I-、NO3-、BF4-、PF6-、AlCl4-を挙げることができる。また、有機アニオンとしては、CH3SO3-、乳酸イオン、CH3COO-、CH3OSO3-、CF3SO3-、(CF3SO2)2N-、(C2F5SO2)2N-等を挙げることができる。特に、アニオンとしてはCl-を含むイオン液体或いはCH3OSO3-を含むイオン液体を使用することが好ましい。Cl-を含むイオン液体或いはCH3OSO3-を含むイオン液体は木質系バイオマスに含まれるセルロース及び/又はヘミセルロースの溶解速度が非常に速いためである。
【0062】
なお、バイオマスをイオン液体に浸漬させた後に、上述した固体NMR装置にてスペクトルを測定すると、イオン液体に由来するシグナルも検出される場合がある。したがって、イオン液体に浸漬させたバイオマスにいて固体NMR装置によりスペクトルを測定した場合、イオン液体に由来するシグナルを除去しておくことが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定的に解釈されるものではない。
〔実施例1〕バイオマスの前処理調製
バイオマスとしては、カッターミルで破砕処理により粒径250μm程度に調製されたバガス粉末を使用した。バガス粉末について、無処理を合わせて計15種類の条件で前処理を行った。
【0064】
イオン液体処理については、1-Ethyl-3-metylimidazolium diethyl phosphate(以下、[Emim][DEP]と称す)、1-Ethyl-3-metylimidazolium cloride(以下、[Emim][Cl]と称す)、1-Ethyl-3-metylimidazolium acetate(以下、[Emim][Ac]と称す)及び1-Butyl-3-metylimidazolium acetate(以下、[Bmim][Ac]と称す)の4種類のイオン液体を使用した(各イオン液体の構造式を図1に纏めて示した)。各イオン液体1.0gをバイアル瓶に採取し、バガス粉末50mgを加えた。本試料を120℃、静置条件下にて、各時間処理した。処理時間は後の表に記載した。その後、9mlの純水を入れて懸濁し、Filter membraneを用いて純水で洗浄した。
【0065】
【表1】

【0066】
また、本実施例では、前処理としてアルカリ処理も実施した。アルカリ処理については、10%NaOH 500μlをTPXチューブに採取し、バガス粉末50mgを加えた。本試料を70℃、静置条件下にて、90分処理した。その後、Filter membraneを用いて純水で洗浄した(上記表中試料番号:14)。
【0067】
さらに、本実施例では、前処理として酸処理も実施した。酸処理については、2%H2SO41mlをバイアル瓶に採取し、バガス粉末50mgを加えた。本試料を120℃、静置条件下にて、90分オートクレーブ(0.1MPa)処理した。その後、Filter membraneを用いて純水で洗浄した(上記表中試料番号:15)。
【0068】
〔実施例2〕前処理したバガス粉末の固体NMR測定
実施例1に記載した前処理後のバカス粉末を12時間凍結乾燥(凍結乾燥機)し、NMR測定試料とした。乾燥させた試料を固体NMR測定用のローターに入れ、.固体NMR装置(Bruker 800MHz)にて測定を行った。1次元NMR法として、13C CP-MAS(cross polarization magic angle spinning)計測を用いて行った。操作の詳細は付属のプロトコールに従った。CPの設定を1000μs、回転数は12,000Hz、測定時間は約3時間である。なお解析用のソフトとして、NMRPipeを使用した。NMR測定したFlD(Free Induction Decay)をNMRPipeでフーリエ変換させ、NMRスペクトルとした。スペクトルをバケット化(バケット化した数値は1バケットのスペクトルの面積)してテキスト形式にした。そして、テキスト形式にしたファイルを表計算用ソフトウェア(Excel)の形式に変換した。
【0069】
得られた代表的なNMRスペクトルを図2に示した。図2aは無処理のバガス粉末のNMRスペクトルであり、図2bは[Bmim][Ac]で120℃、30分処理した後のバガス粉末のNMRスペクトルであり、図2cはアルカリ処理した後のバガス粉末のNMRスペクトルであり、図2dは酸処理した後のバガス粉末NMRスペクトルである。
【0070】
図2に示すように、無処理のバイオマス、各種前処理後のバイオマスを固体NMR装置にて測定することで、セルロース由来のシグナル、キシラン由来のシグナル、リグニン由来(芳香環を構成する炭素)のシグナル等を含むスペクトルが得られることが明らかとなった。
【0071】
〔実施例3〕前処理したバガス粉末の糖化効率の測定
上述の条件で前処理したバガス粉末の糖化試験を実施した。前処理したバガス粉末試料に、500mMクエン酸緩衝液(pH5.0)1mlを加え、続いてセルラーゼ混合溶液0.1mlを添加し、滅菌水にて全量10mlとした。本試料を40℃,300rpmにて糖化反応を行った。
【0072】
糖化反応におけるセルラーゼ混合溶液は、Trichoderma reesei ATCC26921からなるNovozyme-Celluclast(Sigma-Aldrich社製)と、Aspergillus nigerからなるNovozyme 188(Sigma-Aldrich社製)を5:1の割合で混合させたものを、6FPU/gバイオマスとになるように添加した。24時間糖化反応の試料よりサンプリングし、溶液中のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度の測定には、バイオセンサーBF-5(王子計測機器社製)を用い、操作の詳細は付属のプロトコールに従った。得られたグルコース濃度をもとに、バガス粉末に含まれるセルロースを100とした場合の糖への変化効率、すなわち糖化率を以下の計算式に従って、算出した。上記表1に示した試料番号1〜15について糖化率を測定した結果を図3に示した。
グルコース変化効率(%)=100×[produced glucose]/[glucose units in cellulose]
【0073】
また、本実施例では、別の糖化試験によりキシランの糖化率を測定した。上述した糖化反応によって得られた試料よりサンプリングし、溶液中のキシロース濃度を測定した。キシロース濃度の測定には、高速液体クロマトグラフィーHPLC(島津製作所社製)を用い、操作の詳細は付属のプロトコルに従った。得られたキシロース濃度をもとに、バカス粉末に含まれるヘミセルロースを100とした場合の糖への変化効率、すなわち糖化率を以下の計算式に従って算出した。
キシロース変化効率(%)=100×[produced Xylose]/[Xylose units in hemicellulose]
【0074】
〔実施例4〕NMRシグナルパターンと糖化効率の相関解析
上述のバケット化した各前処理NMRシグナルとセルロースに関する糖化率とで相関係数を表計算ソフトで算出した。なお、相関係数は上述した手法により計算した。求めた相関係数を折れ線グラフとして図4に示した。また、同様に、キシランに関する糖化率の結果から相関係数を算出し、折れ線グラフとして図5に示した。
【0075】
図4及び5に示すように、多くの領域で高い負の相関係数が検出された。また、バガス試料のシグナルではないと考えられる領域で正の相関係数が検出された。これは、洗浄でイオン液体が除去しきれずにNMRシグナルとして検出されたと考えられる。
【0076】
また、図4及び5には、算出した相関係数の高さ(絶対値の大きさ)で順位付けし、各シグナルに対して順位を記入した。このように相関係数が最も高かったシグナルから13番目までのシグナルを特定した。そして、これら相関係数が最も高かったシグナルを使用して単回帰分析により糖化率予測式を導き、以後、相関係数の高い順にシグナルの数を増やしていき重回帰分析により糖化率予測式を導いた。そして、得られた13種類の糖化率予測式について自由度調整済決定係数(R*2)を算出した。
【0077】
なお、本実施例で導いたセルロースに関する13種類の糖化率予測式を下記表2に纏めた。
【0078】
【表2】

【0079】
また、本実施例で導いたキシランに関する13種類の糖化率予測式を下記表3に纏めた。
【0080】
【表3】

【0081】
セルロースに関する糖化率から算出された相関係数及び自由度調整済決定係数を下記表4に纏め、キシランに関する糖化率から算出された相関係数及び自由度調整済決定係数を下記表5に纏めた。
【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
また、セルロースに関する糖化率予測式について算出された自由度調整済決定係数を図6に示した。同様にキシランに関する糖化率予測式について算出された自由度調整済決定係数を図7に示した。
【0085】
図6及び表4から判るように、相関係数の最も大きかったシグナルから相関係数が3番目に大きかったシグナルまでの3つのシグナルを利用した糖化率予測式では、自由度調整済決定係数が0.825117であった。これに対して、相関係数の最も大きかったシグナルから相関係数が4番目に大きかったシグナルまでの4つのシグナルを利用した糖化率予測式は0.873954であった。図6に示されるように、この相関係数が4番目に大きかったシグナルを利用することで、自由度調整済決定係数が著しく向上することが判明した。この相関係数が4番目に大きかったシグナルは、図4に示したように、キシランに含まれるカルボニル基の炭素に由来するシグナルである。この結果から、セルロースに関する糖化率予測式は、相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるカルボニル基の炭素に由来するシグナルまでを利用したものを使用することで予測精度が大幅に向上することが示された。
【0086】
また、図6に示すように、相関係数が5番目に大きかったシグナルまでを利用することで、自由度調整済決定係数が更に向上することが判明した。この相関係数が5番目に大きかったシグナルは、図4に示したように、キシランに含まれるアセチル基におけるメチル基を構成する炭素に由来するシグナルである。この結果から、セルロースに関する糖化率予測式は、相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるアセチル基におけるメチル基を構成する炭素に由来するシグナルまでを利用したものを使用することで予測精度が更に向上することが示された。
【0087】
さらに、図6に示すように、相関係数が8番目に大きかったシグナルまでを利用することで、自由度調整済決定係数が更に向上することが判明した。この相関係数が8番目に大きかったシグナルは、図4に示したように、リグニンを構成する炭素に由来するシグナルである。この結果から、セルロースに関する糖化率予測式は、相関係数が最も高いシグナルからリグニンを構成する炭素に由来するシグナルまでを利用したものを使用することで予測精度が更に向上することが示された。
【0088】
さらにまた、図6に示すように、相関係数が12番目に大きかったシグナルまでを利用することで、自由度調整済決定係数が更に飛躍的に向上することが判明した。この相関係数が12番目に大きかったシグナルは、図4に示したように、セルロースやキシランを構成する4位の炭素に由来するシグナルである。この結果から、セルロースに関する糖化率予測式は、相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する4位の炭素に由来するシグナルまでを利用したものを使用することで予測精度が最も向上することが示された。
【0089】
以上のように、図6に示した結果から、糖化率予測式を導く際に使用するシグナルの種類は、糖化率との相関係数が大きい高い順により多くのシグナルを使用すればよいという単純な関係にはないことがわかった。特に、図6に示したように、特定のシグナルを利用することで糖化率予測式の自由度調整済決定係数が顕著に向上するといった事実は、驚くべき結果である。また、セルロースに関する糖化率予測式であっても、例えばリグニンやキシランの由来するシグナルを使用する方が糖化率予測式の自由度調整済決定係数が顕著に向上するといった事実についても驚くべき結果であると言える。
【0090】
一方、キシランの糖化率予測式については、図7及び表5に示すように、相関係数の最も大きかったシグナルから相関係数が2番目に大きかったシグナルまでの2つのシグナルを利用した糖化率予測式では、自由度調整済決定係数が0.47642であった。これに対して、相関係数の最も大きかったシグナルから相関係数が3番目に大きかったシグナルまでの3つのシグナルを利用した糖化率予測式は0.806114であった。この相関係数が3番目に大きかったシグナルは、図5に示したように、セルロースやキシランを構成する2位、3位及び5位の炭素に由来するシグナルである。この結果から、キシランに関する糖化率予測式は、相関係数が最も高かったシグナルからセルロースやキシランを構成する2位、3位及び5位の炭素に由来するシグナルを利用したものを使用することで、予測精度を大幅に向上できることが明らかとなった。
【0091】
また、キシランの糖化率予測式については、図7及び表5に示すように、相関係数が12番目に大きかったシグナルまでを利用することで、自由度調整済決定係数が最も1に近づくことが判明した。言い換えると、相関係数が13番目に大きかったシグナルを利用すると、キシランに関する糖化率予測式は予測精度が低下することとなる。なお、この相関係数が12番目に大きかったシグナルは、図5に示したように、セルロースやキシランを構成する-OCH3の炭素に由来するシグナルである。この結果から、キシランに関する糖化率予測式は、相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する-OCH3の炭素に由来するシグナルまでを利用したものを使用することで予測精度が最も向上することが示された。
【0092】
以上のように、キシランに関する糖化率予測式についても、糖化率予測式を導く際に使用するシグナルの種類は、糖化率との相関係数が大きい高い順により多くのシグナルを使用すればよいという単純な関係にはなかった。特に、図7に示したように、特定のシグナルを利用することで糖化率予測式の自由度調整済決定係数が顕著に向上するといった事実は、驚くべき結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを固体NMR装置にて測定し、バイオマスを構成する成分に由来するシグナルを含むスペクトルを得る工程と、
上記スペクトルに含まれるシグナル強度を糖化率予測式に代入して予測糖化率を算出する工程とを含む、バイオマスに関する糖化率の予測方法。
【請求項2】
上記固体NMR装置における被観察原子は13Cであり、上記スペクトルは13C-NMRスペクトルであることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項3】
上記バイオマスは、糖化処理の前に実施される前処理が施されたものであることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項4】
上記糖化率予測式は、上記スペクトルに含まれるシグナルの強度と糖化率との関係から回帰分析により導かれることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項5】
上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるカルボニル基の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項6】
上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからキシランに含まれるアセチル基におけるメチル基を構成する炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項7】
上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからリグニンを構成する炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項8】
上記糖化率予測式は、セルロースに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する4位の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項9】
上記糖化率予測式は、キシランに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する2位、3位及び5位の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項10】
上記糖化率予測式は、キシランに関する糖化率を予測するものであって、糖化率との相関係数が最も高いシグナルからセルロースやキシランを構成する-OCH3の炭素に由来するシグナルまでのシグナル強度を代入する項を含む式であることを特徴とする請求項1記載の予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−24590(P2013−24590A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156812(P2011−156812)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】