説明

バイオマス処理システム及び方法

【課題】固体酸触媒を用いて木質系バイオマスからグルコースを生成する場合において、固液分離後の固体物から固体酸触媒を分離する工程を省略或いは簡略化でき、固体酸触媒の再利用を容易とする。
【解決手段】木質系バイオマスの前処理として前記木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行い、前記前処理後の木質系バイオマスと固体酸触媒との混合物を加水分解処理することでグルコースを含む加水分解処理物を生成し、前記加水分解処理物を固液分離することで前記グルコースを含む糖溶液と前記固体酸触媒を含む固体物とに分離し、前記固体物を回収して前記加水分解処理に再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス処理システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油等の化石資源の代替資源としてカーボンニュートラル資源であるバイオマスが注目されている。このようなバイオマスの利用の1つとして、木質系バイオマスに含まれるセルロースを糖化・加水分解することでグルコースを生成し、さらに、このグルコースをアルコール発酵させることでバイオエタノールを生成する技術が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
従来では、下記特許文献1にも記載されているように、木質系バイオマスに硫酸を加えて加水分解処理を行うことによりグルコースを生成することが一般的であるが、後工程においてグルコースと酸の分離や、酸の回収及び中和を行う必要があり、製造コストが高いという課題があった。
【0004】
これに対して、近年では、硫酸の代替触媒である固体酸触媒と木質系バイオマスとを混合して加水分解処理を行うことでグルコースを生成し(このグルコースは固体酸触媒やバイオマス残渣の表面に付着している)、このグルコースを含む加水分解処理物を固液分離することで固体酸触媒やバイオマス残渣などの固体物とグルコースとを分離し(実際にはグルコースは水に溶かした糖溶液として分離する)、さらに、上記の固液分離によって得られる固体物を固体酸触媒とバイオマス残渣とに分離し、これにより回収された固体酸触媒を上記の加水分解処理に再利用する技術が開発されている。このように硫酸の代わりに固体酸触媒を用いることで、グルコースと酸の分離や、酸の回収及び中和などのプロセスを簡略化することができ、製造コストの削減を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−75007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように固体酸触媒を利用する場合、固液分離後の固体物から固体酸触媒を分離・回収する必要がある。ここで、木質系バイオマスには主にセルロース、ヘミセルロース及びリグニンが含まれており、セルロース及びヘミセルロースは酸により分解可能であるが、リグニンの大部分は酸に溶解しないため、リグニンと固体酸触媒との分離が必要となり、その分離工程が複雑化するという新たな課題が発生する。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、固液分離後の固体物から固体酸触媒を分離する工程を省略或いは簡略化でき、固体酸触媒の再利用を容易とすることが可能なバイオマス処理システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るバイオマス処理システムは、木質系バイオマスの前処理として前記木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行う前処理装置と、前記前処理後の木質系バイオマスと固体酸触媒との混合物を加水分解処理することでグルコースを含む加水分解処理物を生成する分解装置と、前記加水分解処理物を固液分離することで前記グルコースを含む糖溶液と前記固体酸触媒を含む固体物とに分離し、前記固体物を回収して前記分解装置に供給する固液分離装置とを備えることを特徴とする。
また、本発明に係るバイオマス処理システムにおいて、前記前処理装置は、前記木質系バイオマスの前処理として前記リグニンの除去処理の他、前記分解装置における前記グルコースの生成反応を促進させるような前処理を行うことを特徴とする。
また、本発明に係るバイオマス処理システムは、前記固液分離装置から得られる前記糖溶液を発酵させることでバイオエタノールを生成する発酵装置をさらに備えることを特徴とする。
一方、本発明に係るバイオマス処理方法は、木質系バイオマスの前処理として前記木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行い、前記前処理後の木質系バイオマスと固体酸触媒との混合物を加水分解処理することでグルコースを含む加水分解処理物を生成し、前記加水分解処理物を固液分離することで前記グルコースを含む糖溶液と前記固体酸触媒を含む固体物とに分離し、前記固体物を回収して前記加水分解処理に再利用することを特徴とする。
また、本発明に係るバイオマス処理方法は、前記木質系バイオマスの前処理として前記リグニンの除去処理の他、前記グルコースの生成反応を促進させるような前処理を行うことを特徴とする。
また、本発明に係るバイオマス処理方法は、前記加水分解処理物の固液分離によって得られる前記糖溶液を発酵させることでバイオエタノールを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、予め木質系バイオマスの前処理として前記木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行うため、木質系バイオマスに含まれるセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの内、酸に溶けやすいセルロース及びヘミセルロースが後工程に送られることになり、前処理後の木質系バイオマスと固体酸触媒との混合物を加水分解処理し、その加水分解処理物を固液分離することで前記グルコースを含む糖溶液と前記固体酸触媒を含む固体物とに分離すると、その固体物は主に固体酸触媒によって占められることになる。
つまり、本発明によると、固液分離後の固体物を固体酸触媒とバイオマス残渣(リグニン)とに分離する工程を省略して固液分離後に得られる固体物(固体酸触媒)をそのまま回収して加水分解処理に再利用することができる。
また、仮に固液分離後の固体物中にバイオマス残渣(リグニン)がある程度残っていたとしても、その割合は小さいため、固液分離後の固体物を固体酸触媒とバイオマス残渣(リグニン)とに分離する工程を簡略化することができる。
このように、本発明によると、固体酸触媒を用いて木質系バイオマスからグルコースを生成する場合において、固液分離後の固体物から固体酸触媒を分離する工程を省略或いは簡略化でき、固体酸触媒の再利用を容易とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るバイオマス処理システムAのブロック図である。
【図2】前処理装置1におけるリグニンの除去処理として、アルカリ処理、炭酸水処理を行った実験結果である。
【図3】図2の各方法により前処理を行った試料について、カーボン系固体酸触媒を用いて加水分解処理を行った実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るバイオマス処理システムAのシステム構成を示すブロック図である。この図1に示すように、本実施形態に係るバイオマス処理システムAは、バイオマスの一種である木材チップや廃建材など、主成分としてセルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含む木質系バイオマスを原料としてバイオエタノールを生成する化学プラントシステムであり、前処理装置1、分解装置2、固液分離装置3及びバイオリアクター(発酵装置)4から構成されている。
【0012】
なお、木質系バイオマスに含まれるセルロースとは、周知のように化学式(C10で表される多糖類であり、炭素原子6個を含むグルコース(単糖類)のみが重合した高分子化合物である。また、ヘミセルロースとは、上記グルコースだけではなく、キシロースやガラクトースなどの単糖類が重合したセルロースを除く多糖類の高分子化合物である。また、リグニンとは、三次元木目構造を有し、上記セルロース及びヘミセルロースを取り囲むことで木質を形成する高分子化合物である。
【0013】
前処理装置1は、原料として供給される木質系バイオマスの前処理として木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行う他、木質系バイオマスに含まれるセルロース繊維の切断または非結晶化、ヘミセルロースの分解など、後述する分解装置2におけるグルコースの生成反応(セルロースの糖化反応)を促進させるような前処理を行う。
【0014】
例えば、上記の前処理装置1にて行われるリグニンの除去処理として、以下の2つのいずれかを採用することができる。
(1)アルカリ処理
木質系バイオマスにNaOHやアンモニアなどを用いてアルカリ処理を行うことで、木質系バイオマスに含まれるリグニンを可溶化及び分離する。
(2)漂白処理
木質系バイオマスに塩素、二酸化炭素あるいは次亜塩素酸ナトリウムなどを用いて漂白処理を行うことで、木質系バイオマスに含まれるリグニンを分解する。
【0015】
前処理装置1は、以上のような前処理を行った後、その前処理後の木質系バイオマス(以下、前処理済バイオマスと称す)を分解装置2に供給する。なお、このように前処理装置1から分解装置2に供給される前処理済バイオマスには、前処理前の木質系バイオマスに含まれるセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの内、酸に溶けやすいセルロース及びヘミセルロースが主に含まれることになる。
【0016】
分解装置2は、前処理装置1から供給される前処理済バイオマスと、固液分離装置3から供給される固体酸触媒とを混合し、その混合物を加水分解処理する。この加水分解処理によって前処理済バイオマスに含まれるセルロースの糖化反応が起こり、セルロースは六単糖の一種であるグルコースに分解される。ここで、固体酸触媒とは、硫酸に匹敵する触媒性能を有する固体酸であり、従来から様々な種類の固体酸触媒が開発されている。本出願人は、植物、砂糖などの安価な原料から、従来の固体酸触媒のセルロース糖化性能を上回る、カーボンをベースとした固体酸触媒の開発に成功しており、このようなカーボン系固体酸触媒を用いることにより、セルロースから高効率でグルコースを生成することができる。
【0017】
なお、前処理済バイオマスと固体酸触媒とは両方とも固体であるため、セルロースの糖化反応を促進させるためには、前処理済バイオマスと固体酸触媒とを充分に攪拌・混合して両者を接触させる必要がある。よって、分解装置2としては、特願2008−28358で提示する撹拌装置、ニーダー、ブレンダー、流動床反応装置といった固体同士を混練させる装置を用いることが望ましい。また、加水分解処理を行うために、外部から熱及び水を供給する機構を分解装置2は備えている。
分解装置2は、上記のようにグルコースを含む加水分解処理物(グルコースは固体酸触媒の表面に付着している)を生成して固液分離装置3に供給する。
【0018】
固液分離装置3は、上記の分解装置2から供給される加水分解処理物を固液分離することでグルコースを含む糖溶液と固体酸触媒を含む固体物とに分離し、固体物を回収して上記の分解装置2に供給する(再利用する)一方、グルコースを含む糖溶液をバイオリアクター4に供給する。このような固液分離装置3としてはタンク・デカンタ装置を用いることができる。このタンク・デカンタ装置のタンクには水が貯められており、分解装置2によって生成される加水分解処理物はその水中に供給され、固体酸触媒の表面に付着しているグルコースが水に溶解する。固体物である固体酸触媒はタンク下部に堆積するため、バルブの開閉によりこれら固体物を分解装置2に供給する。
【0019】
また、固液分離の手法としては、加水分解処理物に水を噴霧して洗浄し、グルコースが水に溶解して得られる糖溶液を回収してバイオリアクター4に供給する一方、残りの固体物はコンベアやフィーダーなどの搬送装置で分解装置2に供給する手法を採用しても良い。
【0020】
バイオリアクター4は、上記の固液分離装置3から供給される糖溶液に、酵母等のエタノール発酵微生物と、窒素、リン等の栄養源とを添加し、適切な温度、pH等の条件下で微生物を培養して糖溶液をアルコール発酵させることでバイオエタノールを生成する。エタノール発酵微生物としては、サッカロミセス属酵母などの公知の各種微生物を用いることができる。
【0021】
上述した本実施形態に係るバイオマス処理システムAでは、前処理装置1によって予め木質系バイオマスの前処理として木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行うため、木質系バイオマスに含まれるセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの内、酸に溶けやすいセルロース及びヘミセルロースが後工程に送られる。そして、分解装置2によって、前処理後の木質系バイオマス(前処理済バイオマス)と固体酸触媒との混合物を加水分解処理してグルコースを含む加水分解処理物を生成し、さらに、固液分離装置3によって、加水分解処理物を固液分離してグルコースを含む糖溶液と固体酸触媒を含む固体物とに分離すると、その固体物は主に固体酸触媒によって占められることになる(バイオマス残渣(リグニン)はほとんどない)。
【0022】
つまり、本実施形態によると、従来のような固液分離後の固体物を固体酸触媒とバイオマス残渣(リグニン)とに分離する工程を省略することができ、固液分離後に得られる固体物(固体酸触媒)をそのまま回収して加水分解処理に再利用することが可能となる。
また、仮に固液分離後の固体物中にバイオマス残渣(リグニン)がある程度残っていたとしても、その割合は小さいため、固液分離後の固体物を固体酸触媒とバイオマス残渣(リグニン)とに分離する工程を簡略化することができる。
このように、本実施形態によると、固体酸触媒を用いて木質系バイオマスからグルコースを生成する場合において、固液分離後の固体物から固体酸触媒を分離する工程を省略或いは簡略化でき、固体酸触媒の再利用を容易とすることが可能となる。
【0023】
(実施例)
上記の前処理装置1におけるリグニンの除去処理として、アルカリ処理、炭酸水処理を行った実験結果を図2に示す。図2(a)は、アルカリ処理(1%NaOHaq.)による木質含有成分の減少率を示している。図2(b)は、アルカリ処理(5%NaOHaq.)による木質含有成分の減少率を示している。図2(c)は、炭酸水処理による木質含有成分の減少率を示している。なお、図2において、各処理時間は20分である。
図2の実験結果から、アルカリ処理(5%NaOHaq.)(温度220°C、処理時間20分)の条件においてリグニンの除去ならびにセルロース成分の低分子化が最も効率良く行えることがわかった。
【0024】
続いて、上記の各方法により前処理を行った試料について、カーボン系固体酸触媒を用いて加水分解処理を行った実験結果を図3に示す。なお、図3において、加水分解処理の条件は、反応温度:373K、触媒量:3g、カラマツ:1g、水量:3.4ml、撹拌速度:370rpmである。
図3の実験結果から、前処理を行わない試料(図3中の「粉砕のみ」)と比較して、前処理を行った試料(特に図3中の「アルカリ処理(5%NaOHaq.)」)では、約1.7倍もの大幅な触媒活性の向上を確認することができた。
【符号の説明】
【0025】
A…バイオマス処理システム、1…前処理装置、2…分解装置、3…固液分離装置、4…バイオリアクター(発酵装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマスの前処理として前記木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行う前処理装置と、
前記前処理後の木質系バイオマスと固体酸触媒との混合物を加水分解処理することでグルコースを含む加水分解処理物を生成する分解装置と、
前記加水分解処理物を固液分離することで前記グルコースを含む糖溶液と前記固体酸触媒を含む固体物とに分離し、前記固体物を回収して前記分解装置に供給する固液分離装置と、
を備えることを特徴とするバイオマス処理システム。
【請求項2】
前記前処理装置は、前記木質系バイオマスの前処理として前記リグニンの除去処理の他、前記分解装置における前記グルコースの生成反応を促進させるような前処理を行うことを特徴とする請求項1記載のバイオマス処理システム。
【請求項3】
前記固液分離装置から得られる前記糖溶液を発酵させることでバイオエタノールを生成する発酵装置をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のバイオマス処理システム。
【請求項4】
木質系バイオマスの前処理として前記木質系バイオマスに含まれるリグニンの除去処理を行い、
前記前処理後の木質系バイオマスと固体酸触媒との混合物を加水分解処理することでグルコースを含む加水分解処理物を生成し、
前記加水分解処理物を固液分離することで前記グルコースを含む糖溶液と前記固体酸触媒を含む固体物とに分離し、前記固体物を回収して前記加水分解処理に再利用する、
ことを特徴とするバイオマス処理方法。
【請求項5】
前記木質系バイオマスの前処理として前記リグニンの除去処理の他、前記グルコースの生成反応を促進させるような前処理を行うことを特徴とする請求項4記載のバイオマス処理方法。
【請求項6】
前記加水分解処理物の固液分離によって得られる前記糖溶液を発酵させることでバイオエタノールを生成することを特徴とする請求項4または5に記載のバイオマス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−101608(P2011−101608A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257078(P2009−257078)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(509311218)
【出願人】(509311229)
【Fターム(参考)】