説明

バイオマス材料の処理方法及び熱エネルギー利用方法

【課題】バイオマス材料を極めて低コストで減量化又は炭化させることができる処理方法を提供する。
【解決手段】家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物及び林産廃棄物から選ばれる1種又は2種以上のバイオマス材料を加温及び加圧可能な容器内で減量化又は炭化させる方法であって、前記バイオマス材料を前記容器内に入れた後、該容器内を(a)酸素含有雰囲気、(b)55℃〜80℃、(c)大気圧超〜15気圧、及び(d)一酸化炭素濃度を100ppm以上の全てを満たす初期環境とすることによって、前記バイオマス材料を80℃を超える温度に上昇させ、前記温度上昇が開始した後は、前記容器内を(ア)酸素含有雰囲気、(イ)大気圧超〜15気圧、及び(ウ)一酸化炭素濃度を100ppm以上の全てを満たす継続環境とすることによって、前記バイオマス材料を少なくとも150℃を超える温度に自然上昇させて、該バイオマス材料を減量化又は炭化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス材料の処理方法及び熱エネルギー利用方法に関し、さらに詳しくは、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物、林産廃棄物等のバイオマス材料を極めて低コストで減量化又は炭化させることができる、バイオマス材料の処理方法、及びその処理方法で生じた熱源を利用する熱エネルギー利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物資源の循環利用への意識の高まりとともに、近年、有機性廃棄物の多くが堆肥化され、資源として土壌還元されるようになった。そのなかで、最も堆肥化・資源化が期待される畜産排泄物である家畜ふんや生ゴミ等の食品廃棄物(以下、これらを総称するときは「家畜ふん等」という。)は、発生時点では高水分でいわゆる泥濘状となっている場合が多い。そうした家畜ふん等は、泥濘状になっているために内部に空気(酸素)を取り込みにくく、通常の微生物分解による生化学反応が起きにくく堆肥化しにくいという難点がある。そのため、従来は、含水率を下げ、内部に酸素を取り込み易くする方法が採られている。
【0003】
含水率を下げる一つの手段として、有機性廃棄物に熱エネルギーや送風等を与えて含水率を下げる方法があるが、コストの点で問題があり現実的ではない。また、他の手段として、畜産排泄物である家畜ふんの場合のように、オガクズ、稲藁、籾殻などの農業副産物を有機性廃棄物と混合して水分を下げ、その結果として空気を通り易くして微生物分解による生化学反応を促進する方法があるが、この場合には、前記農業副産物を調達しにくい地域があったり、たとえ調達できたとしても農業副産物の加工作業が加わってコスト増大になったり、また、そうした農業副産物の混合はかえって総処理量が増してコスト増大になったりするという難点がある。
【0004】
有機性廃棄物を堆肥化・資源化せず、減量化して自然界に戻すことも考えられるが、その場合にも、泥濘状の有機性廃棄物は含水率を下げなければならず、上記と同様の問題が起こる。また、泥濘状の有機性廃棄物の含水率を単に下げて乾燥しただけでは微生物分解による堆肥化反応が起こっておらず、乾燥した有機性廃棄物を自然界に再び戻すと元の泥濘状の有機性廃棄物に戻ってしまう。また、人間排泄物と同様の下水処理を行うほどのコストもかけられない。
【0005】
一方、特許文献1には、生ゴミを含有する廃棄物を水蒸気釜で加圧及び加熱(150〜200℃)して廃棄物を炭化、減量化する廃棄物処理方法が提案されている。また、特許文献2には、ガス化炉内で空気を供給しながら都市ごみの部分燃焼で発生する一酸化炭素量が最大となるように前記空気の供給量を制御する方法が提案されている。また、特許文献3では、乾燥装置内部の被乾燥物と接触している雰囲気ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定して、前記一酸化炭素の濃度を10ppm以上100ppm以下の所定の値に維持する有機物等の乾燥方法が記載されている。また、特許文献4には、厨芥を擂潰し下水と混合してスラリ原水をつくり、これを高圧ポンプで加圧すると共に酸素を含む高圧ガス又は高圧空気を圧入し、湿式参加温度まで加熱した後、湿式酸化処理する厨芥の混合処理方法が提案されている。また、特許文献5には、畜産物等の廃棄物を、反応容器と加熱手段と加圧手段とを備えた亜臨界水分解装置を用いて、130〜374℃の反応温度、反応温度の飽和水蒸気圧以上の反応圧力で亜臨界水分解処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−137806号公報
【特許文献2】特開2000−297917号公報
【特許文献3】特開2000−46472号公報
【特許文献4】特開平1−310799号公報
【特許文献5】WO2005/077514(国際公開パンフレット)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜5のいずれにおいても、その処理温度を高温にする必要があり、処理コストが高いという問題がある。具体的には、特許文献1では150〜200℃という高温とすることが必要であり、特許文献2でも450〜900℃の高温とすることが必要であり、特許文献3でも350〜600℃の高温とすることが必要であり、特許文献4でも100〜300℃の高温とすることが必要であり、特許文献5でも130〜374℃の高温とすることが必要である。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的は、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物、林産廃棄物等のバイオマス材料を極めて低コストで減量化又は炭化させることができる、バイオマス材料の処理方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのバイオマス材料の処理方法で生じた熱源を利用する熱エネルギー利用方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、有機性廃棄物を堆肥化して再利用したり、減量化して廃棄したりすることができる効果的な処理方法を研究している過程で、含水率が高く泥濘化している場合でも有機性廃棄物の内部に酸素を効果的に供給して微生物分解による生化学反応を促進して堆肥化を実現できることを見出し、さらに微生物分解による自己発熱が終了する温度(約70℃前後)を超え、100℃、200℃と温度が上昇する現象を見出した(本出願人の未公開先願:特願2008−99985号)。その後、さらに検討を進めたところ、同様の温度上昇は、含水率が低い他のバイオマス材料であっても、初期において特定の条件下に置くことにより自然に温度上昇が起こり、従来のような高温加熱を行わなくてもバイオマス材料の減量化又は炭化を行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するための本発明に係るバイオマス材料の処理方法は、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物及び林産廃棄物から選ばれる1種又は2種以上のバイオマス材料を加温及び加圧可能な容器内で減量化又は炭化させるバイオマス材料の処理方法であって、前記バイオマス材料を前記容器内に入れた後、該容器内を(a)酸素含有雰囲気、(b)55℃〜80℃、(c)大気圧超〜15気圧、及び(d)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす初期環境とすることによって、前記バイオマス材料を80℃を超える温度に上昇させ、前記温度上昇が開始した後は、前記容器内を(ア)酸素含有雰囲気、(イ)大気圧超〜15気圧、及び(ウ)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす継続環境とすることによって、前記バイオマス材料を少なくとも150℃を超える温度に自然上昇させて、該バイオマス材料を減量化又は炭化することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、バイオマス材料を容器内に入れた後にその容器内を特定の条件にしてバイオマス材料に温度上昇を生じさせ、その温度上昇が開始した後の容器内を特定の条件に維持することによって、バイオマス材料を高温にまで自然上昇させてバイオマス材料を減量化又は炭化するので、従来のような高温加熱をしなくてもよく、極めて低コストでバイオマス材料の減量化又は炭化を実現できる。
【0012】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、前記バイオマス材料は、酸素に接触して起こる微生物の有機物分解反応によって少なくとも55℃まで上昇する有機性廃棄物を含む。
【0013】
この発明によれば、バイオマス材料が、酸素に接触して起こる微生物の有機物分解反応によって少なくとも55℃まで上昇する有機性廃棄物を含むので、そうしたバイオマス材料は堆肥化(コンポスト化)された後に減量化又は炭化される。その結果、減量化又は炭化された処理物がその後の埋め立て等により再び自然界に戻すことができる。
【0014】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、前記容器内には、前記バイオマス材料と共に、ガラス転移温度が200℃以下のプラスチック材料が投入される。
【0015】
この発明によれば、バイオマス材料と共に、ガラス転移温度が200℃以下のプラスチック材料が投入されるので、そのプラスチック材料は少なくとも150℃を超える温度に上昇するバイオマス材料と共に減量化又は炭化される。
【0016】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、前記容器は、排水弁、加温装置及び加圧装置を少なくとも備え、前記温度上昇にともなって該容器底部に溜まった水分を定期的又は不定期に該排水弁から排水する。
【0017】
この発明によれば、温度上昇にともなって容器底部に溜まった水分を定期的又は不定期に排水することができるので、バイオマス材料の減量化又は炭化の効率を上げることができる。
【0018】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、前記一酸化炭素は、前記バイオマス材料を発生供給源として及び/又は一酸化炭素ボンベを供給源として供給される。
【0019】
この発明によれば、一酸化炭素を、バイオマス材料自身から及び/又は一酸化炭素ボンベから供給して、その濃度を所定の範囲に維持して、バイオマス材料の処理の効率化を図ることができる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明に係る熱エネルギー利用方法は、上記本発明に係るバイオマス材料の処理方法を実施することにより生じた熱を熱源として利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法によれば、バイオマス材料を容器内に入れた後にその容器内を特定の条件にしてバイオマス材料に温度上昇を生じさせ、その温度上昇が開始した後の容器内を特定の条件に維持することによって、バイオマス材料を高温にまで自然上昇させてバイオマス材料を減量化又は炭化するので、従来のような高温加熱をしなくてもよく、極めて低コストでバイオマス材料の減量化又は炭化を実現できる。
【0022】
本発明の熱エネルギーの利用方法によれば、上記本発明の有機性廃棄物の処理方法で生じた熱を熱源として利用するので、熱エネルギーを有効利用することができる。特にこうした熱エネルギーを畜産事業等のエネルギー源として利用することにより、事業コストの節約を図り、競争力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るバイオマス材料の処理方法で適用される容器の一例を示す構成図である。
【図2】容器内に空気と一酸化炭素のみを入れたときの温度変化の結果を示すグラフである。
【図3】乾燥させた乳牛ふんを50℃〜70℃の範囲で加温した後、1MPaに加圧した時の温度変化を示したグラフである。
【図4】乳牛ふん以外のドライ系バイオマス(木材チップ、玄米)の1MPaでの温度変化を示したグラフである。
【図5】プラスチック材料が混入したバイオマス材料の温度変化及びその反応過程における定期的排水時の容器内圧力変化を示したグラフである。
【図6】実験開始前のバイオマス材料の形態と、実験開始後の減量化乃至炭化したバイオマス材料の形態の写真である。
【図7】実験1のバイオマス材料を用いた場合における1MPaでの温度と一酸化炭素濃度との変化を示すグラフである。
【図8】実験6で用いた装置の概略構成図である。
【図9】実験6において、1MPaでの実験試料温度の経時変化を示すグラフである。
【図10】図9の結果とともに、実験1のバイオマス材料(乳牛ふん)について空気(酸素)雰囲気、50℃、1MPaを初期環境条件として開始した例、及び、実験6の実験試料(厨芥)について空気(酸素)雰囲気、40℃、1MPaを初期環境条件として開始した例、を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るバイオマス材料の処理方法及び熱エネルギー利用方法について図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の好ましい例であって、その実施形態に限定解釈されるものではない。
【0025】
[バイオマス材料の処理方法]
本発明に係るバイオマス材料の処理方法は、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物及び林産廃棄物から選ばれる1種又は2種以上のバイオマス材料を加温及び加圧可能な容器内で減量化又は炭化させる方法である。そして、その特徴は、第1に、バイオマス材料を前記容器内に入れた後、該容器内を(a)酸素含有雰囲気、(b)55℃〜80℃、(c)大気圧超〜15気圧、及び(d)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす初期環境とすることによって、前記バイオマス材料を80℃を超える温度に上昇させる。第2に、前記温度上昇が開始した後は、前記容器内を(ア)酸素含有雰囲気、(イ)大気圧超〜15気圧、及び(ウ)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす継続環境とすることによって、前記バイオマス材料を少なくとも150℃を超える温度に自然上昇させ、バイオマス材料を減量化又は炭化する。
【0026】
以下、本発明の構成について詳しく説明する。なお、以下において、特に断らない限り「%」は「重量%(質量%)」である。
【0027】
(バイオマス材料)
バイオマス材料は、食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物及び林産廃棄物から選ばれる1種又は2種以上の廃棄物である。具体的には、生ゴミ等の食品廃棄物(食品残滓)、牛、豚、馬等の家畜排泄物(糞尿)、余剰生産品、選別排除品、加工副産物(米ぬか等)等の農産廃棄物、過剰水揚品、加工ゴミ等の水産廃棄物、木くず、木材チップ、加工ゴミ等の林産廃棄物等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独であってもよいし、複数の種類を混合したものであってもよい。
【0028】
こうしたバイオマス材料は、その含水率は関係なく、泥濘体であっても乾燥体であってもよいし、また、既に堆肥化されたものであってもなくてもよい。一例としては、含水率が高く、静置した状態では酸素が内部に浸透しにくく微生物による生化学反応が起きにくいバイオマス材料;全体として又は局部的に泥濘化して通気性が悪いバイオマス材料;含水率が低い(0%も含む。)乳牛ふん、木材チップ、玄米等のような炭素を基質に持つドライ系のバイオマス材料;既に堆肥化されたバイオマス材料;等を適用できる。
【0029】
このうち、堆肥化されたバイオマス材料とは、酸素に接触して起こる微生物の有機物分解反応によって少なくとも55℃まで上昇して堆肥化されたものである。このバイオマス材料は、堆肥化(コンポスト化)された後に本発明の処理方法に適用されて減量化又は炭化されることになるので、その後の埋め立て等により再び自然界に戻すことができる。
【0030】
バイオマス材料の含水率が家畜排泄物(糞尿)や農産廃棄物等のように全体として80%以上であるか、全体では多くないが局部的に80%以上であるものは、泥濘状になっているが、本発明の処理方法では寧泥状のバイオマス材料でも問題なく使用できる。ただし、寧泥状のバイオマス材料は、後述する酸素がその表面から内部に入り込みにくいため、微生物による生化学反応や発熱を伴う化学反応が進みにくい。そのため、バイオマス材料の内部に酸素を供給する手段として、強制加圧手段を適用する。強制加圧手段とは、ボンベから空気や酸素等を注入して密閉容器内の圧力を上昇させることである。一方、全体の又は局部的な含水率が80%未満である場合は、酸素がバイオマス材料の内部に入りにくい現象はやや弱まるので、そのバイオマス材料の内部に酸素を強制供給する必要性は弱まり、自然加圧手段でも内部に酸素を供給することができる。もちろん強制加圧手段を適用してもよい。自然加圧手段とは、加温状態の密閉容器内で自然に圧力が増していくことである。
【0031】
また、バイオマス材料が生ゴミ等の食品廃棄物である場合は、その含水率は、そのバイオマス材料全体として40%以上であるか、全体では多くないが局部的に40%以上である。上記した家畜排泄物(糞尿)や農産廃棄物等のように繊維質を多く含むものである場合は全体又は局部的な含水率が80%以上で泥濘化するが、繊維質をそれほど多く含まない生ゴミ等では80%未満でも泥濘化し、通常40%以上で泥濘化する傾向がある。そのため、こうした食品廃棄物においても、上記同様、その内部に酸素を強制加圧手段又は自然加圧手段により供給する。含水率が「全体として」とは、バイオマス材料に水分が均等に又は比較的均等に含まれている場合における割合を指している。一方、含水率が「局部的に」とは、バイオマス材料全体としては80%未満(例えば畜産排泄物等の場合)又は40%未満(例えば生ゴミ等の食品廃棄物の場合)であっても、部分的に見れば80%以上又は40%以上の泥濘状になっている部分がある場合を指している。
【0032】
バイオマス材料全体の含水率の測定は、ある程度の量のバイオマス材料を試料として採取し、その試料の乾燥前後の質量測定で評価できる。一方、バイオマス材料の局部的な含水率は、局部的に少量の試料を採取し、その乾燥前後の質量測定により評価できる。
【0033】
こうしたバイオマス材料とともに、他の廃棄物を混入させてもよい。他の廃棄物としては、例えば家庭からの生ゴミと一緒に廃棄されやすいプラスチック材料(バラン、ヒトツバ、ボトルキャップ、ストロー、輪ゴム、包装材等)、紙製品、木製品(割り箸、爪楊枝等)等が挙げられる。なお、プラスチック材料は種類によって耐熱性が異なるので、ここでは、ガラス転移温度が200℃以下のプラスチック材料、特に150℃以下のプラスチック材料、例えばポリエチレンナフタレート(ガラス転移温度:120℃)、ポリブチレンテレフタレート(75℃)、ポリエチレンテレフタレート(75℃)、ポリフェニレンサルファイド(90℃)、ポリエーテルエーテルケトン(143℃)、ポリカーボネート(145℃)からなるものを挙げることができる。これらの廃棄物をバイオマス材料とともに混入することにより、少なくとも150℃を超える温度に上昇するバイオマス材料と共に減量化又は炭化することができる。
【0034】
(処理容器)
図1は、本発明に係るバイオマス材料の処理方法で適用される容器の一例を示す構成図である。容器1は、図1に示すように、容器本体2と蓋4とで密閉可能で且つ加温及び加圧可能になっており、バイオマス材料10は蓋4を開けた材料投入口3から投入される。蓋4は、容器上部に設けられたいわゆる蓋であってもよいし、容器側壁に設けられた扉であってもよく特に限定されない。容器の材質も特に限定されないが、バイオマス材料に対して耐腐食性があり、また、耐熱性のある材質からなるものであればよく、例えばステンレス鋼等を例示できる。
【0035】
本発明では、この容器内を特定の条件とすることによってバイオマス材料10に温度上昇を生じさせ、さらにその温度上昇が開始した後の容器内をさらに特定の条件に維持することによって、バイオマス材料10を高温にまで自然上昇させてバイオマス材料10を減量化又は炭化する。
【0036】
容器1の加温は、少なくとも容器本体2に設けられた加温装置7によって行われる。容器の加温は電熱ヒータ等で行うことができるが特に限定されない。また、加温装置7の周りは断熱材で覆われている。容器1には、耐熱被覆された熱電対等の温度計が設けられている。その温度計は容器内に設けられ、好ましくはバイオマス材料10が充填される部位に設けられていることが好ましく、容器内でのバイオマス材料10の温度を正確に測定することができる。
【0037】
容器内の加圧は、加圧装置(装置自体は図示しない。)で行われる。具体的には、容器1に設けられたガス流入弁8から酸素、空気、一酸化炭素の1種又は2種以上を必要に応じて流入させて、容器内部が加圧される。なお、これらガスは、容器内でバイオマス材料10の燃焼に作用する。いずれのガスを流入させるかは、容器内部のガス濃度をセンサーで検出する等して制御することができる。一酸化炭素濃度は100ppm程度と低いので、所定の圧力値を担うのは、通常、圧縮酸素又は圧縮空気、或いは、圧縮ポンプ又はコンプレッサー等の圧力印加手段が適用される。また、各ガスはそれぞれのボンベから単独又は混合して注入される。容器1には、大気圧〜20気圧程度の圧力を測定できる圧力計が設けられている。圧力計としては、市販のものを適用でき特に限定されない。
【0038】
容器1には、バイオマス材料10の内部に、酸素、空気、一酸化炭素の1種又は2種以上を直接注入させるためのガス注入弁9を設けてもよい。ガス注入弁9は、バイオマス材料10の通常の充填量より低い位置に孔11aを有する注入管11に接続する。本発明では容器内部を加圧状態にして処理を行うので、図1に示すように、容器本体2の上部に設けられたガス流入弁8からガスを流入した場合であっても、バイオマス材料10の内部にガスを浸入させてバイオマス材料10の発熱反応を生じさせることができるが、さらにこのようなガス注入弁9及び注入管11を設けることにより、バイオマス材料10の内部へのガスの浸入をより直接的に行うことができ、バイオマス材料10の発熱反応をより効果的に行うことができる。特に、ガス注入弁9からは酸素を注入し、バイオマス材料10の内部に酸素を直接注入することが好ましく、発熱反応をより効果的に行うことができる。
【0039】
容器1には、一酸化炭素計が設けられていることが好ましい。この一酸化炭素計は、容器内部の一酸化炭素濃度を測定し、発熱反応の進行状況等の確認に便利である。一酸化炭素計は、市販のものを用いることができ、その取付場所も任意である。
【0040】
容器1の底部13は、処理中にバイオマス材料10から排出された水分が底板12(水分通過孔を有する仕切板のこと。)を通って溜まる部分であるが、その底部13に設けられた排水弁6は、そうした水分を定期的に又は不定期に排出するための弁である。排水弁の制御は、手動でも自動でもよい。また、定期的とは、例えば一定時間毎に排水弁6を作動させる場合等であり、不定期とは、例えば一定時間毎ではないが、容器内部が所定圧力又は所定温度に到達したときに排水弁6を作動させる場合等である。
【0041】
容器1には、内圧を調整するリーク弁5が設けられていてもよい。リーク弁5は、処理の終了時に用いられるが、容器内部が所定圧力に到達したときに自動的に作動する弁であってもよい。なお、図1では、リーク弁5、ガス流入弁8、ガス注入弁9等が容器本体2に設けられているが、その設置箇所は図1の例に限定されず、例えば蓋4等に設けられていてもよい。
【0042】
こうした容器は、あまり高い圧力で用いないので、高価な圧力容器を採用する必要がなく、低コストなものを適用できる。
【0043】
(初期環境)
本発明に係る処理方法においては、第1に、バイオマス材料10を容器1内に入れた後、その容器内を、(a)酸素含有雰囲気、(b)55℃〜80℃、(c)大気圧超〜15気圧、及び(d)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす初期環境とする。こうした特定条件とすることによって、バイオマス材料10を80℃を超える温度に上昇させることができる。
【0044】
(a)酸素は、必須の雰囲気ガスとして容器内に含まれる。この酸素はバイオマス材料10の炭素と反応して発熱反応に寄与する。バイオマス材料10内への酸素の供給は、図1に示すように、容器内を加圧状態(大気圧超〜15気圧)にすることによってバイオマス材料10の内部に浸入させることができる。また、より効果的な酸素の浸入は、図1に示すガス注入弁9に接続されたガス注入弁9で直接的に行うことができる。酸素は、酸素ガスそのものであってもよいし、酸素と他のキャリアガスとを混合したガスであってもよいが、通常は、酸素を約20%程度含む一般的な空気が用いられる。
【0045】
(b)容器内の温度は、55℃〜80℃に設定される。温度をこの範囲にすることによって、バイオマス材料10に発熱反応を生じさせることができ、80℃を超える温度に上昇させることができる。温度は、容器1に設けられた加温装置7で前記温度内に調整される。この温度は初期環境での範囲であるので、容器内のバイオマス材料10の温度が80℃を超えて後述する「継続環境」に移行した後においては、そのままの温度で容器を保温してもよいし、加温装置7のスイッチを切ってもよい。
【0046】
(c)容器内の圧力は、大気圧超〜15気圧である。この範囲の圧力とすることにより、上述した酸素をバイオマス材料内に容易に注入することができる。なお、この圧力は、ガスをガス流入弁8から密閉容器内に注入することによって行うことができる。バイオマス材料10への酸素供給の観点からは、2気圧以上10気圧以下であることが好ましく、さらに、より低廉な容器の観点からは、2気圧以上5気圧以下であることがより好ましい。
【0047】
容器内の圧力は、常に一定になるように制御されていてもよいし、上記所定の圧力範囲内であれば任意に変動するものであってもよい。前者の圧力の一定制御は、圧力計とリーク弁5とガス流入弁8との制御で実行することができる。後者の場合は、上限の圧力を設定しておき、その圧力が超えないようにリーク弁5を作動させるようにすればよい。なお、この初期環境下では、水分を排出する必要性が少ないので、排水弁6は開かない。
【0048】
(d)一酸化炭素の濃度は、100ppm以上である。一酸化炭素は、バイオマス材料を発生供給源として及び/又は一酸化炭素ボンベを供給源として供給される。バイオマス材料10から生じる一酸化炭素は、バイオマス材料が酸素と不完全に反応して生成される。バイオマス材料10の種類によっては、バイオマス材料自体からの発生量で100ppm以上となる場合もある。また、バイオマス材料自体からの発生量が100ppm以上とならない場合には、ガス流入弁8から所定量の一酸化炭素を流入させることにより、容器内部の一酸化炭素濃度を100ppm以上とすることができる。また、バイオマス材料自体がほとんど一酸化炭素を発生しない場合には、ガス流入弁8から所定量の一酸化炭素を流入させることにより、容器内部の一酸化炭素濃度を100ppm以上とすることができる。
【0049】
一酸化炭素濃度を100ppm以上とすることにより、酸素と共にバイオマス材料10の発熱反応を生じさせることができる。一酸化炭素の濃度が100ppm未満では、100ppm以上存在する場合に比べて発熱反応がやや不十分で温度もあまり上がらないことがあり、バイオマス材料の減量化や炭化の進行が鈍くなるおそれがある。なお、一酸化炭素濃度の必要十分な濃度は100ppm〜500ppmの範囲であり、それ以上の濃度であっても発熱反応は阻害されない(後述の図7参照)。
【0050】
以上、特定の初期環境とすることによって、バイオマス材料を80℃を超える温度に上昇させることができる。具体的には、例えば生ゴミ等の食品廃棄物を容器内に投入した場合においては、容器を上記(a)〜(d)の初期環境に設定することにより、食品廃棄物は、容器内の100ppm以上の一酸化炭素と酸素とで発熱反応を生じて80℃を超える温度に上昇する。また、例えばドライ系バイオマス材料である木材チップを容器内に投入した場合においては、容器を上記(a)〜(d)の初期環境に設定することにより、木材チップは、容器内の100ppm以上の一酸化炭素と酸素とで発熱反応を生じて80℃を超える温度に上昇する。
【0051】
(継続環境)
本発明に係る処理方法においては、第2に、上記初期環境下で温度上昇が開始した後は、容器内を、(ア)酸素含有雰囲気、(イ)大気圧超〜15気圧、及び(ウ)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす継続環境とすることによって、前記バイオマス材料を少なくとも150℃を超える温度に自然上昇させ、バイオマス材料を減量化又は炭化する。こうした特定条件とすることによって、前記した初期環境で生じさせた発熱反応を維持し、その温度を少なくとも150℃を超える高温にまで上昇させることができる。なお、この継続環境は、温度要件を除いて前記した初期環境とほぼ同じである。
【0052】
(ア)酸素は、この継続環境においても必須の雰囲気ガスとして容器内に含まれる。上記した初期環境の場合と同様、酸素はバイオマス材料10の炭素と反応して発熱反応に寄与する。バイオマス材料10内への酸素の供給は、図1に示すように、容器内を加圧状態(大気圧超〜15気圧)にすることによってバイオマス材料10の内部に浸入させることができる。また、より効果的な酸素の浸入は、図1に示すガス注入弁9に接続されたガス注入弁9で直接的に行うことができる。酸素は、酸素ガスそのものであってもよいし、酸素と他のキャリアガスとを混合したガスであってもよいが、通常は、酸素を約20%程度含む一般的な空気が用いられる。
【0053】
(イ)容器内の圧力も上記した初期環境と同様、大気圧超〜15気圧(1.5MPa)である。この範囲の圧力とすることにより、上述した酸素をバイオマス材料内に容易に注入することができる。なお、この圧力は、ガスをガス流入弁8から密閉容器内に注入することによって行うことができる。バイオマス材料10への酸素供給の観点からは、2気圧(0.2MPa)以上10気圧(1MPa)以下であることが好ましく、さらに、より低廉な容器の観点からは、2気圧(0.2MPa)以上5気圧(0.5MPa)以下であることがより好ましい。
【0054】
この継続環境下では、バイオマス材料10中の水分が容器底部13に溜まってくるので、定期的又は不定期に排水弁6を開く。その結果、容器内部の圧力が一時的に大気圧に開放されるが、直ぐに再び排水弁6を閉じるので、バイオマス材料10中の水分が水蒸気に気化して内圧が上がり、所定の大気圧超の雰囲気に容易に戻る。また、排水弁6を閉じた後にガス流入弁8からガスを流入させることにより、所定の内圧に調整してもよい。こうした定期的又は不定期な排水は、バイオマス材料10の乾燥を速めることができる点で有利である。本発明におけるこの継続環境では、こうした排水弁6を開く工程を含むので、一時的に圧力が大気圧〜15気圧以外の大気圧になることがあり、さらに一酸化炭素濃度も希釈されて100ppm未満になったりすることがあるが、この「継続環境」は、一時的に大気圧〜15気圧以外の圧力になった場合や、一酸化炭素濃度が100ppm未満になる場合を含む。本発明の継続環境下では、上記(ア)〜(ウ)の全てを満たすと共に、この排水工程を含むことが好ましい。
【0055】
容器内の圧力は、常に一定になるように制御されていてもよいし、上記所定の圧力範囲内であれば任意に変動するものであってもよい。前者の圧力の一定制御は、圧力計とリーク弁5とガス流入弁8との制御で実行することができる。後者の場合は、上限の圧力を設定しておき、その圧力を超えないようにリーク弁5を作動させるようにすればよい。
【0056】
(ウ)この継続環境でも一酸化炭素の濃度は100ppm以上である。一酸化炭素は、バイオマス材料を発生供給源として及び/又は一酸化炭素ボンベを供給源として供給される。バイオマス材料10から生じる一酸化炭素は、バイオマス材料が酸素と不完全に反応して生成される。バイオマス材料10の種類によっては、バイオマス材料自体からの発生量で100ppm以上となる場合もある。また、バイオマス材料自体からの発生量が100ppm以上とならない場合には、ガス流入弁8から所定量の一酸化炭素を流入させることにより、容器内部の一酸化炭素濃度を100ppm以上とすることができる。また、バイオマス材料自体がほとんど一酸化炭素を発生しない場合には、ガス流入弁8から所定量の一酸化炭素を流入させることにより、容器内部の一酸化炭素濃度を100ppm以上とすることができる。
【0057】
一酸化炭素の濃度が100ppm未満では、100ppm以上存在する場合に比べて発熱反応がやや不十分で温度もあまり上がらないことがあり、バイオマス材料の減量化や炭化の進行が鈍くなるおそれがある。一酸化炭素濃度を100ppm以上とすることにより、酸素と共にバイオマス材料10の発熱反応を生じさせることができる。なお、一酸化炭素濃度の必要十分な濃度は100ppm〜500ppmの範囲であり、それ以上の濃度であっても発熱反応は阻害されない(後述の図7参照)。
【0058】
この継続環境では、初期環境の場合のように温度を加えない。その理由は、雰囲気を上(ア)〜(ウ)の範囲内としてバイオマス材料自体の発熱反応を継続的に起こしているからである。なお、温度は、初期環境と同じ温度をそのまま加えて保温してもよいし、加温装置7のスイッチを切ってもよい。
【0059】
以上、特定の継続環境とすることによって、バイオマス材料の発熱反応をより促進して維持することができ、少なくとも150℃を超え、200℃以上の温度まで上昇させることができる。その結果、バイオマス材料10の減量化と炭化を行うことができる。特にこの継続環境では、従来のような高温加熱をしなくてもよいので、電気エネルギーを著しく削減でき、ひいては二酸化炭素削減目標の実現のための一部分を担うものと期待される。
【0060】
なお、本発明に係る処理方法でのバイオマス材料10の発熱反応の詳細は十分には明らかではないが、バイオマス材料に酸素が反応して二酸化炭素を発生させるときの発熱反応と、バイオマス材料に酸素が反応して一酸化炭素を発生させる発熱反応と、一酸化炭素と酸素とが反応して二酸化炭素を発生させる発熱反応とを、少なくとも1以上含む反応であると考えられる。
【0061】
以上、初期環境と継続環境を含む本発明に係るバイオマス材料の処理方法において、バイオマス材料が少なくとも150℃を超える温度になるまでの時間(期間)は、処理対象であるバイオマス材料の種類や含水率等の状況にもよるが、3日以上、14日以下程度である。したがって、バイオマス材料の処理量との関係で、処理容器乃至後述の処理装置を複数台準備して行うことが好ましい。
【0062】
[熱エネルギーの利用方法]
本発明に係る熱エネルギーの利用方法は、上記本発明に係るバイオマス材料の処理方法の発熱原理を活用して生じた熱を熱源として利用する方法である。
【0063】
具体的な利用方法としては、容器内でバイオマス材料の処理を行い、その容器内で発生した水蒸気を熱源として熱交換する方法を挙げることができる。この場合は、熱交換器が用いられるが、その熱交換器は、容器から高温水蒸気を導入して高温側熱源として外部に熱エネルギーを供給するように、容器に直接又は配管を介して設けられる。また、容器内でバイオマス材料の処理を行い、その容器内で発生した水蒸気を冷媒用熱源として用いて冷暖房に利用する方法も挙げることができる。
【0064】
温度が例えば150℃を超える高温に到達するまでの日数としては、3日以上、14日以下程度であるので、化学反応で生じる熱を熱源として利用する場合には、例えば図1に示す処理装置を複数台併設し、バイオマス材料の投入時期を順次ずらして運転することにより、連続的な熱源として利用することができる。
【0065】
こうした利用においては、熱交換機で冷却された水蒸気を再度処理容器内に還流させて水分を循環利用することが好ましい。こうすることにより、バイオマス材料の炭化を抑制し、バイオマス材料を発熱用原料として比較的長時間持続的に利用することができる。
【実施例】
【0066】
次に、具体的な実験例を示して本発明に係るバイオマス材料の処理方法についてさらに詳しく説明する。
【0067】
(実験1)
実験試料として、宇都宮大学農学部附属農場から採取した「乳牛ふん」をバイオマス材料として用い、これを約50〜60%w.b.の含水率に調整し、約15時間30℃で静置した後に実験に供した。実験装置は、図1に示したのと同様の構造形態からなる容器を用い、1Lの反応槽に試料220g(含水率:51.6w.b.%)を入れた。容器内にはガス流入弁8から空気を送り、容器内の圧力を1MPaに維持した。容器内の一酸化炭素濃度は、ガス検知器(GASTEC、Japan)を使用して計測した。1MPaでは、1Lのガス採取袋でガスを採取したのち測定し、大気圧では、容器内で直接測定した。
【0068】
図2は、容器内に空気と一酸化炭素のみを入れたときの温度変化の結果を示すグラフである。本発明に係る処理方法で起こる発熱反応が、一酸化炭素を中心としたガスのみに因る反応であるならば、容器内に空気と一酸化炭素のみを充填するだけで温度は上昇するはずである。容器内に空気と一酸化炭素を充填し、容器内の温度を62℃〜80℃の範囲に強制的に加温した結果、0.1MPa(大気圧)でも1MPaでも空気と一酸化炭素のみで温度が上昇することが確認された。特に1MPaの方が温度上昇は速かった。対照区として空気のみを充填した1MPaの加圧環境では、温度は上昇しなかった。
【0069】
また、容器内に空気と「乳牛ふんの微高圧(1MPa)反応後のガス(図2中に「Finish gas」と表記)」を混合した結果、一酸化炭素濃度が100ppmのときは温度が上昇したが、一酸化炭素濃度が25ppm未満の時は温度が低下した。温度を上昇させるには最低限の一酸化炭素濃度が必要であると推察された。また、処理を62℃〜約70℃の範囲からスタートさせたものと、約70℃〜80℃の範囲からスタートさせたものとを比べると、後者のほうが温度上昇が速かった。
【0070】
一方、空気と一酸化炭素の反応を常温から行った場含、大気圧(0.1MPa)でも1MPaでも温度の上昇は観察されなかった。よって、空気と一酸化炭素の反応を開始させて温度上昇を生じさせるには、ある程度の温度が必要であると考えられる。以上のことから、本発明に係る処理方法で起こる発熱反応は、気体による化学反応であり、一酸化炭素が関与していることが実証された。加えて、反応を開始させるには、最低限の温度と一酸化炭素濃度が必要であることも明らかになった。
【0071】
(実験2)
図3は、乾燥させた乳牛ふんを50℃〜70℃の範囲で加温した後、1MPaに加圧した時の温度変化を示したグラフである。55℃〜70℃の範囲に強制的に加温した結果、含水率が0%w.b.〜63.5%w.b.の場合でさえも温度は上昇した。よって、乳牛ふんの含水率は発熱反応には直接的に関与しないことが確認された。一方、大気圧で開始した対象区(含水率69.5%w.b.、70℃スタート)のときは、温度が低下した。これは、温度上昇を伴う発熱反応に必要な一酸化炭素濃度が、大気圧下において、バイオマス材料を発生源として十分に供給されなかったためと思われる。それゆえ、圧力は、バイオマス材料から一酸化炭素を発生させやすい効果を持つと推察される。
【0072】
また、1MPaでの実験開始温度を55℃に設定した場合も温度の上昇が確認されたが、実験開始温度を50℃で開始した場合は温度上昇は確認されなかった。そのため、一酸化炭素を中心とした気体による発熱反応は、最低55℃以上で反応が開始されると考えられる。
【0073】
(実験3)
図4は、乳牛ふん以外のドライ系バイオマス(木材チップ、玄米)の1MPaでの温度変化を示したグラフである。1MPaでの実験開始温度を約70℃に設定した場合、木材チップ、玄米ともに温度は上昇した。これは、一酸化炭素を発生させるための有機物(Cを含むもの)さえ存在すれば、温度を上昇させることが可能であることを意味する。一方、木材チップを用い、1MPaでの実験開始温度を53℃に設定した場合は温度が低下した。これは、乾燥させた乳牛ふんと同様、発熱反応は、55℃未満では生じにくいという結果を補完する。
【0074】
(実験4)
家庭から出た生ゴミをバイオマス材料として用い、さらに、ペットボトルのキャップ(ポリプロピレン)、ティーバッグ、爪楊枝、ストロー、バラン(寿司詰めに入っているもの)、ビニールキャップ、輪ゴム、各種プラスチック包装材(醤油入れ等)を混ぜたものを容器内に投入した。初期環境として、容器内に空気を充填し、75℃に加温、1MPa、一酸化炭素濃度約100ppm、の条件で実験を開始した。図5は、プラスチック材料が混入したバイオマス材料の温度変化及びその反応過程における定期的排水時の容器内圧力変化を示したグラフである。バイオマス材料は温度が上昇し、直ぐに80℃を超えた。直ぐに加温を停止したが温度は上昇を続け、140℃に達した時点で排水弁を開けて1回目の排水Aを行った。一時的に約100℃・大気圧になったが、その後直ぐに温度上昇と圧力上昇が起こった。このときの圧力上昇はバイオマス材料中の水分が気化して容器の内圧が高まったためである。なお、実験中の一酸化炭素濃度はいずれも100ppmを超えていた。
【0075】
その後、図5に示すように、排水B,C,D,E,Fを行った。その都度一時的に温度が低下し且つ大気圧になったが、排水Aと同様、その後直ぐに温度上昇と圧力上昇した。各排水時において、バイオマス材料から出た排水量、残水量、残水率を表1に示した。排水の都度、残水率が低下しているのが確認された。排水Fの後に実験を停止した。図6は、実験開始前のバイオマス材料の形態と、実験開始後のバイオマス材料の形態の写真である。
【0076】
この実験4より、初期環境から継続環境に移行させた後においては、定期的又は不定期な排水を行うことが好ましく、その継続環境条件としては、酸素含有雰囲気且つ100〜500ppmの一酸化炭素濃度環境下で、容器内圧が1.5MPa(15気圧)好ましくは1MPa(10気圧)に到達するたびに排水弁を開く動作を行うことが好ましい。こうした排水動作を行うことにより、バイオマス材料の乾燥を速めることができ、効率的な減量化乃至炭化を図る点で有利である。
【0077】
【表1】

【0078】
(実験5)
図7は、実験1のバイオマス材料を用いた場合における1MPaでの温度と一酸化炭素濃度との変化を示すグラフである。一酸化炭素濃度は、温度の上昇とともに増加し、約78℃以上での一酸化炭素の上昇が顕著であった。このように一酸化炭素の存在は発熱反応に基づいた温度上昇を生じさせており、一酸化炭素濃度が100ppmよりも高い濃度(例えば、500,1000,1500,2000,2500ppm)であっても温度上昇を伴う発熱反応を阻害しないことが分かった。
【0079】
(実験6)
実験4と同様、家庭から出た生ゴミ(厨芥)485g(含水率77.8%w.b.)をバイオマス材料として用い、さらに、ペットボトルのキャップ(ポリプロピレン)、ストロー、バラン(寿司詰めに入っているもの)、ビニールキャップ、プラスチック包装材(醤油入れ等)等のプラスチックゴミ15gを混ぜてなる、合計500gの実験試料を用いた。その実験試料を、図8に示す実験装置の密閉型耐圧ステンレス容器(有効容量:0.93L)内に投入した。容器は、断熱型チャンバー内に静置し、T型熱電対を用いて±1℃以内の温調制御を行った。容器内に実験試料を投入した後、非密閉環境で加温し、実験試料が80℃に到達した時点で加温を停止し、その時点でボンベから空気を容器内に供給し、3回パージして容器内の気相条件を均一化させた。容器内の圧力は、排気バルブを閉めた後、再度ボンベから空気のみを容器内に供給し、圧力ゲージが1MPa(約10気圧)を示した時点で供給バルブを閉めることにより、容器内の圧力を一定(1MPa)にした。CO濃度はガス検知器(GASTEC、Japan)を用いて調べた。この実験では、一酸化炭素ガスをボンベから供給していない。
【0080】
図9は、実験試料温度の経時変化を示すグラフである。空気(酸素)雰囲気、80℃、1MPaの初期環境条件下の実験試料は、数時間は温度がそのままであったが、その後上昇を続け、4日後には100℃に達し、さらにその後も温度上昇した(なお、110℃で実験を中止した。)。
【0081】
この実験6では、一酸化炭素ガスをボンベから供給していないにもかかわらず、温度上昇が見られた。その理由は、80℃に到達した後に数時間ほど温度が上昇しない間に、実験試料から一酸化炭素が発生し、その一酸化炭素濃度が容器内で少なくとも100ppm以上に到達したのであろうと考えられる。このことは、実験5において、乳牛ふんから発生する一酸化炭素は温度が高いほど多い、ということからも説明できる。また、60ppmの一酸化炭素を含有させた空気を容器内に供給して、この実験6と同様の対比実験を行った結果、図9中に破線で示したように、80℃に到達した後に温度が停滞する時間は短く、比較的スムーズに温度が上昇しているのが確認された。これからも、80℃に到達した後に数時間ほど温度が上昇しない間に、実験試料から一酸化炭素が発生し、その一酸化炭素濃度が容器内で少なくとも100ppm以上に到達したのであろうと考えられる。なお、図9中に示した2本の曲線に係る試料において、110℃の時点での一酸化炭素濃度はいずれも2000ppm超(使用したCO濃度検知管の測定可能範囲を超えていた)であった。
【0082】
なお、図10は、図9の結果とともに、実験1のバイオマス材料(乳牛ふん)について空気(酸素)雰囲気、50℃、1MPaを初期環境条件として開始した例、及び、実験6の実験試料(厨芥)について空気(酸素)雰囲気、40℃、1MPaを初期環境条件として開始した例、を示したものである。この結果より、一酸化炭素を発生しやすい乳牛ふん又は厨芥を用いれば、徐々に温度を上昇させることができるものの、その時間は80℃に達するまでに25日以上を要し、極めて長期間を要する。したがって、本発明における初期環境条件下に実験試料をおくことは、極めて迅速な温度上昇を実現でき、バイオマス材料の効率的な減量化乃至炭化を図る点で有利である。
【0083】
以上の各実験結果から、(1)バイオマス材料を容器内に入れた後の実験開始時においては、容器内を酸素含有雰囲気、55℃〜80℃(好ましくは70〜80℃)、大気圧超〜15気圧、一酸化炭素濃度が100ppm以上の全てを満たす初期環境とすることによって、バイオマス材料を80℃を超える温度に上昇させることができること、(2)その温度上昇が開始した後は、容器内を酸素含有雰囲気、大気圧超〜15気圧、一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす継続環境とすることによって、バイオマス材料を少なくとも150℃を超える温度に自然上昇させて、バイオマス材料を減量化又は炭化できること、が分かった。こうした処理方法では、バイオマス材料の含水率に依存せず、また、炭素を基質に持つ材料であればどのようなものでも温度を上昇させることができる可能性を示している。そして、こうした発熱反応は、C+O=CO+94.1kcal(394.3kJ)、C+1/2O=CO+26.4kcal(110.6kJ)、CO+1/2O=CO+67.6kcal(283.7kJ)、であろうと推察される。応用例としては、超臨界反応への応用、亜臨界反応への応用も有望である。
【符号の説明】
【0084】
1 容器
2 容器本体
3 材料投入口
4 蓋
5 リーク弁
6 排水弁
7 加温装置
8 ガス流入弁
9 ガス注入弁
10 バイオマス材料
11 注入管
11a 孔
12 容器底板
13 容器底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品廃棄物、家畜排泄物、農産廃棄物、水産廃棄物及び林産廃棄物から選ばれる1種又は2種以上のバイオマス材料を加温及び加圧可能な容器内で減量化又は炭化させるバイオマス材料の処理方法であって、
前記バイオマス材料を前記容器内に入れた後、該容器内を(a)酸素含有雰囲気、(b)55℃〜80℃、(c)大気圧超〜15気圧、及び(d)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす初期環境とすることによって、前記バイオマス材料を80℃を超える温度に上昇させ、
前記温度上昇が開始した後は、前記容器内を(ア)酸素含有雰囲気、(イ)大気圧超〜15気圧、及び(ウ)一酸化炭素濃度が100ppm以上、の全てを満たす継続環境とすることによって、前記バイオマス材料を少なくとも150℃を超える温度に自然上昇させて、該バイオマス材料を減量化又は炭化することを特徴とするバイオマス材料の処理方法。
【請求項2】
前記バイオマス材料は、酸素に接触して起こる微生物の有機物分解反応によって少なくとも55℃まで上昇する有機性廃棄物を含む、請求項1に記載のバイオマス材料の処理方法。
【請求項3】
前記容器内には、前記バイオマス材料と共に、ガラス転移温度が200℃以下のプラスチック材料が投入される、請求項1又は2に記載のバイオマス材料の処理方法。
【請求項4】
前記容器は、排水弁、加温装置及び加圧装置を少なくとも備え、前記温度上昇にともなって該容器底部に溜まった水分を定期的又は不定期に該排水弁から排水する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオマス材料の処理方法。
【請求項5】
前記一酸化炭素は、前記バイオマス材料を発生供給源として及び/又は一酸化炭素ボンベを供給源として供給される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオマス材料の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオマス材料の処理方法を実施することにより生じた熱を熱源として利用することを特徴とする熱エネルギー利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−98330(P2011−98330A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294439(P2009−294439)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【特許番号】特許第4538595号(P4538595)
【特許公報発行日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(509293165)
【Fターム(参考)】