説明

バスシステムの作動方法、バスシステムおよびバス加入者

マスタ(10)として実現されている1つのバス加入者および少なくとも2つのそれぞれスレーブ(20a,20b,20c,20d)として実現されているバス加入者がバス(15)を介して交信し、かつマスタがスレーブに配属されている識別コード(ID)を送信することによって、当該スレーブがマスタ(10)によりデータ(DATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4)の送信を要求される、バスシステムの作動方法に関する。本発明によればマスタ(10)は、複数のスレーブに配属されているマルチ識別コード(MID)を送信し、これに基づいて複数のスレーブがデータを前記マルチ識別コード(MID)に依存して送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来の技術
本発明は、マスタとして実現されている1つのバス加入者および少なくとも2つのそれぞれスレーブとして実現されているバス加入者がバスを介して交信しかつマスタがスレーブに配属されている識別コードを送信することによって、当該スレーブがマスタによりデータの送信を要求される、バスシステムの作動方法に関する。
【0002】
本発明は更に、請求項9の上位概念に記載のバスシステム並びにバス加入者に関する。
【0003】
冒頭に述べた形式の作動方法が使用される従来のバスシステムの例は所謂LIN(Local Interconnect Network)である。LINネットワークではそれぞれのスレーブが当該スレーブに個々に配属されている識別コードを有し、該識別コードによりスレーブはLINネットワークのマスタに呼び掛けることができる。その際マスタは、例えばスレーブの1つからデータを要求するために、まず同期情報を、それから引き続いて相応のスレーブに配属されている識別コードをメッセージの形において送信する。LINネットワークに存在しているスレーブはマスタから送信されるデータを絶えず監視し、かつマスタから送信される識別コードと自分の識別コードが一致するスレーブがマスタから送信されるデータに続いて自分の方からデータを送信する。
【0004】
別のスレーブからデータを要求するために、マスタは新たに、この別のスレーブに配属されている少なくとも1つの識別コードもしくは相応のメッセージを送信しなければならず、これに基づいてこの別のスレーブは上述した仕方および手法で自分のデータを送信することによって応答することができる。LINネットワークに関する詳細はインテーネットでアクセスできる使用を挙げる(http::www.LIN-SUBBUS.org/.参照)。
【0005】
バスシステムに対する従来の作動方法についての上の説明から、種々それぞれのスレーブの問い合わせのためにその都度別個のメッセージもしくは識別コードをマスタからバスを介して送信する必要性に基づいて、膨大なプロトコル・オーバヘッドが生じていることが分かる。従来の手法で個々にかつ順位マスタによって問い合わされる複数のスレーブを備えているバスシステムでは殊に、所定のスレーブの問い合わせの際のサイクル時間、すなわちマスタによる同一のスレーブの2つの連続する問い合わせ間に発生する待ち時間は比較的大きくなる可能性があり、これによりそれぞれのバスシステムの利用効率は低減される。
【0006】
従って本発明の課題は、冒頭に述べた形式の方法を、多数のスレーブの場合にも、バスシステムによる効率のよいデータ伝送が可能であるように改善することである。
【0007】
この課題は冒頭に述べた形式の方法において本発明により、マスタが、複数のスレーブに配属されているマルチ識別コードを送信し、かつ複数のスレーブがデータをこのマルチ識別コードに依存して送信することによって解決される。
【0008】
発明の利点
本発明のマルチ識別コードを使用することで、マスタは僅か1つの識別コードで同時に多数の種々のスレーブにそれぞれのデータを送信するように促すことが可能になる。これにより、バス上で交信のための相応のプロトコル・オーバヘッドが著しく低減される。例えば5つの異なるスレーブのデータの、バスを介しての問い合わせもしくは交換のために本発明によれば、それぞれ種々異なるバス加入者の全部で僅か6つのメッセージもしくはバスアクセスが必要であり、一方従来の方法はそれぞれ種々異なるバス加入者の少なくとも10個のメッセージもしくはバスアクセスが必要である。
【0009】
本発明の課題の別の解決法として、請求項9に記載のバスシステム並び請求項10に記載のバス加入者が提供される。
【0010】
本発明の有利な実施形態は従属請求項の対象である。
【0011】
その他の利点、特徴および詳細は、図面を参照した、本発明の種々の実施例に示されている以下の説明から明らかである。その際特許請求の範囲および発明の詳細な説明に記載の特徴はそれぞれ単独でも任意の組み合わせにおいても本発明に属している。
【0012】
図面
図中:
図1は本発明のバスシステムを示し、
図2aは従来のデータ伝送の時間的な経過を示し、
図2bは本発明のデータ伝送の時間的な経過を示している。
【0013】
図1は、1つのマスタと、1つの共通のバス15を介して該マスタ10に接続されている複数のスレーブ20a,20b,20c,20dを有しているバスシステム100を示している。バスシステム100は例えば、それ自体従来より公知のLINネットワークである。
【0014】
バスシステム100は自動車においてセンサをネットワーク化するために使用される。これらセンサは、センサとしての機能に対して付加的にスレーブ20a,20b,20c,20dの機能性を用意して、バス15を介して相互にもしくはマスタ10と交信し、その際データ、例えばセンサデータを交換するようになっている。
【0015】
まず、図2aに基づいて、図1のバスシステム100に対する従来の作動方法について説明する。このために図2aは3つの異なった時間軸を含んでいる。これら時間軸は図2aにおいて上下に図示されておりかつそれぞれマスタ10もしくはスレーブ20a,20bに配属されている。
【0016】
第1のセンサもしくはスレーブ20aからデータを問い合わせるために、マスタ10はまず、第1のスレーブ20aに配属されている識別コードID_1をバス15(図1)を介して送信し、これに基づいてスレーブ20aは識別コードID_1に続いて直接そのデータDATA_1をバス15を介して送信する。
【0017】
引き続いてマスタ10は同じ手法で別のスレーブ20bに配属されている識別コードID_2を送信し、これに基づいてスレーブ20bは次いで自分のデータDATA_2をバス15を介して送信する。
【0018】
図2aから明らかであるように、従来の方法によりバスシステム100を作動するために必要なプロトコル・オーバヘッドは種々のスレーブ20a,20bの数が多い場合殊に、非常に大きい。というのは、それぞれ個々のスレーブ20a,20bのデータDATA_1,DATA_2…の要求のために、相応の識別コードID_1,ID_2もしくはメッセージがマスタ10から別個に送信されなければならないからである。
【0019】
更に、バス15へアクセスする際、例えば2つの連続するメッセージの送信の間にある程度の待ち時間が厳守されなければならず、その上、付加的に、有利には周期的に、図2aに図示されていない同期情報がバス15を介して送信され、これら同期情報は同様に有効データの伝送に対してバス15を阻止する。これに応じて、従来の作動方法を使用した場合の有効データ効率は比較的僅かである。
【0020】
これらの欠点は、図2bに図示されている本発明の作動方法の適用により回避される。図2bにも図2aと類似して、それぞれマスタ10もしくはスレーブ20a,20b,20c,20dに配属されている時間軸が図示されている。参照番号15によって図2bにおいて、バス15上の全体のデータトラヒックを示している時間軸が示されている。
【0021】
本発明によればマスタ10は図2bの時点t_0から−従来技術において唯一のスレーブ20a,20bに割り当てられている識別コードID_1,ID_2(図2a参照)とは異なって−同期情報Sync−break,Syncに対して付加的に、複数のスレーブ20a,20b,20c,20dに配属されているマルチ識別コードMIDを送信する。
【0022】
この本発明のマルチ識別コードはスレーブ20a,20b,20c,20dに一方において、すべて4つのスレーブ20aないし20dがマルチ識別コードMIDの受信後それぞれのデータDATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4をバス15(図1)に送信してよいことをシグナリングする。他方において、本発明のマルチ識別コードMIDは、どんな手法で個々のスレーブ20aないし20dからデータDATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4を送信してもよいかを確定しかつこれにより同時に種々のスレーブ20a,20b,20c,20dの相互同期のために用いられる。
【0023】
図2bに使用のマルチ識別コードMIDにおいて例えば、第1のスレーブ20aがマルチ識別コードMIDの続いて直接、すなわち時点t_1から2つの有効データバイトDATA_1を送信することが許されるものと決められている。つまりスレーブ20aのこの有効データバイトDATA_1の送信は時点t_1と時点t_2との間に行われる。
【0024】
更にマルチ識別コードMIDによって、時点t_2後、すなわちスレーブ20aがDATA_1を送信したした後で、有効データDATA_2を送信することが許されるものと決められている。この送信は時点t_3までに行われる。
【0025】
別のスレーブ20c,20dの有効データDATA_3およびDATA_4の送信はマルチ識別コードMIDにより規定されておりかつ図2bに図示されている。
【0026】
スレーブ20aがマルチ識別コードMIDにより有効データをバス15に送信するのが許されない時間において、すなわち第1のスレーブ20aがt>t_2にあるとき、スレーブ20aはパッシブにある。つまり、LINネットワーク使用に相応するデータ表示において値FF16進法「FFh」を有するデータバイトの送信に相応している。別のスレーブ20b,20c,20dはこれらに割り当てられている送信時間間隔害では同じような状態にあり、その結果スレーブ20aないし20dはバス15上でのデータの送信の際に相互に干渉しない。
【0027】
この手法でそれぞれのスレーブ20a,20b,20c,20dの全部のデータDATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4は唯一のフレームに収容することができるので、4つのスレーブ20aないし20dのデータの問い合わせのために従来技術とは異なって、バス15におけるマスタ10の唯一のメッセージしか必要でない。このメッセージはマルチ識別コードMIDの他に同期情報も含んでいる(図2bのt=t_1ないしt=_1の時間領域参照)。全体として、つまりこれまで説明してきた本発明のデータ伝送に対して種々のバス加入者10,20a,20b,20c,20dの5つのバスアクセスしか必要でなく、一方従来の作動方法ではマスタ10からの少なくとも4つの異なったメッセージもしくはバスアクセスおよび付加的にそれぞれのスレーブ20aないし20dの4つのメッセージもしくはバスアクセスが必要だったということになる。
【0028】
マルチ識別コードMIDの本発明の原理はLINネットワークへ使用する際、それぞれのデータフレーム当たり僅か最大でも8個のデータバイトによって制限されている。数多くの自動車用途において使用される、同時にスレーブ20aないし20dとして実現されているが通例はただのセンサデータは例えば12ビットプラス4つのステータスビットの分解能で、すなわち全部で2バイトを供給するので、この手法において本発明によれば4つのセンサないしスレーブ20aないし20dの有効データが唯一のデータフレームに収容され、これにより従来の方法と比べてプロトコル・オーバヘッドは低減されかつ有効データ効率は上昇する。センサ当たり僅か1バイトのデータを伝送する場合、8つまでのセンサを統合することができる(例えば操作フィールド/キー/スイッチ)。
【0029】
本発明のマルチ識別コードMIDの別の利点は、マルチ識別コードMIDを用いた複数のスレーブ20aないし20dの統合により、バスシステム100(図1)において予め定めた数のスレーブに対して使用される識別コードの数を低減することができ、これにより全体としてバスシステム当たりより多くのスレーブを使用可能であるということである。
【0030】
故障したもしくは存在していないセンサもしくはスレーブ20aないし20dの識別は、それぞれのスレーブ20aないし20dに割り当てられているデータバイトDATA_1,…,DATA_4を探すことによって可能である。例えばセンサもしくはスレーブの誤機能または故障は、これらに割り当てられているデータバイトが空である、すなわち例えば値FFhを有していることで識別することができる。
【0031】
更に、バスシステム100への新しいセンサの簡単化された組み入れが可能である。この場合センサもしくはスレーブ20c(図2b)はバス15上での交信を監視しかつ該センサもしくはスレーブ20cにデータDATA_3の伝送のために割り当てられている、データフレーム内のポジションt_3<t<t_4を、相応の時間空間において他のスレーブ20a,20b,20dがバス15上にデータを送信していないことによって識別する。
【0032】
本発明の方法の別の有利な実施形態において、スレーブ20aないし20dの少なくとも1つはデータフレームのデータの予め定めることができる部分を介してチェックサムCSを形成しかつ引き続いて該チェックサムCSを時点t_5(図2b)においてバス15に送信することによってデータフレームに付加する。更に、図2bの説明してきた例においてすべて4つのスレーブ20aないし20dがそれぞれチェックサムCSを形成しかつこれらを時点t_5でバス15に送信して、データフレームが完全化されるようにする。
【0033】
この本発明のチェックサム形成は、スレーブ20aないし20dその自体はデータをバス15に送信しないときにも行うことができる。
【0034】
相互同期のために、スレーブ20aないし20dは例えばバス15に送信されたデータバイトDATA_1,…,DATA_4の始めに存在しているスタートビットを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のバスシステムの略図
【図2a】従来のデータ伝送の時間的な経過を示す略図
【図2b】本発明のデータ伝送の時間的な経過を示略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ(10)として実現されている1つのバス加入者および少なくとも2つのそれぞれスレーブ(20a,20b,20c,20d)として実現されているバス加入者がバス(15)を介して交信し、かつ
マスタ(10)がスレーブ(20a,20b,20c,20d)に配属されている識別コード(ID)を送信することによって、当該スレーブ(20a,20b,20c,20d)がマスタ(10)によりデータ(DATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4)の送信を要求される、
バスシステムの作動方法において、
マスタ(10)が、複数のスレーブ(20a,20b,20c,20d)に配属されているマルチ識別コード(MID)を送信し、かつ
複数のスレーブ(20a,20b,20c,20d)がデータ(DATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4)を前記マルチ識別コード(MID)に依存して送信する
ことを特徴とするバスシステムの作動方法。
【請求項2】
マスタ(10)が同期情報(Sync−break,Sync)および識別コード(ID)またはマルチ識別コード(MID)を送信する
請求項1記載の方法。
【請求項3】
マルチ識別コード(MID)に基づいて複数のスレーブ(20a,20b,20c,20d)によって送信されるデータ(DATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4)の順序および/または最大長はマルチ識別コード(MID)によって決められている
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
データはデータフレームの形において伝送され、データフレームは有利にはマスタ(10)から送信される同期情報(Sync−break,Sync)および識別コード(ID)またはマルチ識別コード(MID)を有しており、並びに有利には1つのスレーブ(20a,20b,20c,20d)もしくは複数のスレーブ(20a,20b,20c,20d)から送信されるデータ(DATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4)を有している
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
スレーブ(20a,20b,20c,20d)の少なくとも1つおよび/またはマスタ(10)はバス(15)上に送信される(DATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4)を読み込むもしくは監視する
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
スレーブ(20a,20b,20c,20d)の少なくとも1つはチェックサム(CS)を(DATA_1,DATA_2,DATA_3,DATA_4)の予め定めることができる部分を介して形成し、かつ
チェックサム(CS)はバス(15)上に送信されもしくは1つのデータフレーム/前記データフレームに、有利にはデータフレームの終わりに付加される
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
同一のマルチ識別コード(MID)が配属されているスレーブ(20a,20b,20c,20d)は送信されるデータバイトの始めに存在しているスタートビットを同期のために使用する
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
バスシステム(100)はLIN(Local Interconnect Network)として実現されている
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
マスタ(10)として実現されている1つのバス加入者と、それぞれスレーブ(20a,20b,20c,20d)として実現されている少なくとも2つのバス加入者と、バス加入者(10,20a,20b,20c,20d)が交信するようになっているバス(15)とを備えたバスシステム(100)において、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法を実施するのに適している
ことを特徴とするバスシステム。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法を実施するためのバス加入者(10,20a,20b,20c,20d)。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2008−546293(P2008−546293A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514053(P2008−514053)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062297
【国際公開番号】WO2006/128787
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】