説明

バス車両の暖房装置

【課題】乗客の快適性を向上させ、乗客の足もとを均一に暖めることができるバス車両の暖房装置を提供する。
【解決手段】バス車両の暖房装置10は、暖房用の温風を生成するヒータユニット1と、車室の前後方向に延びるように配設され、ヒータユニット1から供給される温風が流れるヒータダクト2と、車室の幅方向に隣接する一対のシート本体12の中間に立設され、ヒータダクト2から分岐して一対のシート本体12に温風を分配する立ち上がりダクト4と、一対のシート本体12のそれぞれの着座部14に埋設され、立ち上がりダクト4から分岐して、吹出口8からシート本体12の前方に向けて温風を吹出す吹出ダクト6とを備える。吹出ダクト6は、シート本体12の背もたれ部16側に設けられる蛇腹構造18と、吹出ダクト6の内側に突出して形成され、立ち上がりダクト4から供給される温風が吹出口8に向って流れるように、温風を整流する少なくとも一つの整流リブ30とを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バス車両の暖房装置に係り、例えば、着座している乗客の足もとを暖める暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バス車両の車室内を暖房するものとして、シート本体に着座している乗客の足もとを暖める暖房装置が一般に使用されている。
バス車両の暖房装置には、エンジンの冷却水の熱を利用して空気を暖めるヒータユニットが設けられている。このヒータユニットで生成される温風は、車室の側壁(窓側)に設けられるヒータダクト(暖房ダクト)を介してシート本体付近まで運ばれ、ヒータダクトに設けられるヒータノズルによって乗客の足もとに供給される。
【0003】
しかし、上述の温風は、車室の側壁(窓側)から供給されるために、窓側に着席している乗客が障害となって、通路側の乗客に温風が行き届かない場合がある。そのため、通路側の乗客は暖房中であっても暖かさが感じられにくい。
そこで、通路側の乗客に対しても温風を供給することができる暖房装置の開発が望まれ、例えば、以下のような装置が提案されている。
【0004】
特許文献1には、温風が流れるヒータダクトと、ヒータダクトによって運ばれる温風を乗客の足もとに吹出す吹出ダクトと、ヒータダクトと吹出ダクトとを連結する立ち上がりダクトとを備えた旅客運送用車両の足もと暖房構造が記載されている。この足もと暖房構造では、立ち上がりダクトが車室側壁に沿って立設される。また、吹出ダクトが2座席一体型となるように隣接するシート本体の座面裏側でシート本体の幅方向に配設される。吹出ダクトには、隣接するシート本体のそれぞれの座面裏側から温風を吹出す吹出口が設けられており、吹出口から後方に着座する乗客の足もとに向って温風が吹出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭60−127211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される足もと暖房構造では、立ち上がりダクトが車室側壁に沿って立設されているので、吹出ダクトから吹出す温風を窓側と通路側とで均等に分配することが難しい。
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、乗客の快適性を向上させ、乗客の足もとを均一に暖めることができるバス車両の暖房装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るバス車両の暖房装置は、車室の前後方向に間隔を空けて多数配列されるシート本体を有するバス車両の暖房装置であって、暖房用の温風を生成するヒータユニットと、前記車室の前後方向に延びるように配設され、前記ヒータユニットから供給される前記温風が流れるヒータダクトと、前記車室の幅方向に隣接する一対の前記シート本体の中間に立設され、前記ヒータダクトから分岐して前記一対のシート本体に前記温風を分配する立ち上がりダクトと、前記一対のシート本体のそれぞれの着座部に埋設され、前記立ち上がりダクトから分岐して、吹出口から前記シート本体の前方に向けて前記温風を吹出す吹出ダクトとを備え、前記吹出ダクトは、前記シート本体の背もたれ部側に設けられる蛇腹構造と、前記吹出ダクトの内側に突出して形成され、前記立ち上がりダクトから供給される前記温風が前記吹出口に向って流れるように、前記温風を整流する少なくとも一つの整流リブとを有することを特徴とする。
【0008】
このバス車両の暖房装置では、温風を分配する立ち上がりダクトが隣接する一対のシート本体の中間に立設されているので、温風を窓側と通路側とで均等に分配することができる。そのため、窓側の乗客と通路側の乗客とが温風を均等に享受することができる。よって、乗客の足もとを均一に暖めることができる。
【0009】
また、吹出ダクトには整流リブが設けられているので、効率よく温風を吹出口へ流すことができる。
さらに、整流リブが吹出ダクト内側に突出して形成されているので、乗客から受ける荷重によって吹出ダクトが変形した場合であっても、温風の流路を確保することができる。よって、乗客に対して温風を確実に供給することができる。
【0010】
また、吹出ダクトがシート本体の着座部に埋設されているので、ダクト構造とシート構造とを簡素化できる。
【0011】
しかも、従来のシート本体では、着座部を支持するスプリングのきしみ音が問題になっていたが、本発明のバス車両の暖房装置では、吹出ダクトの蛇腹構造がスプリングとして機能するため、きしみ音の発生を防止することができる。また、スプリングと同様に、着座時の衝撃や車両からの振動を緩和することができ、乗客の快適性を向上させることができる。
【0012】
上記バス車両の暖房装置において、前記少なくとも一つの整流リブは、互いに間隔を空けて配置された複数のリブであり、該複数のリブは前記吹出口に略直交するとともに、前記立ち上がりダクトに向かって湾曲した円弧形状であり、前記複数のリブの高さは、前記吹出ダクトの前記立ち上がりダクトが設けられた側に近い方から順に高くなることが好ましい。
これにより、温風の流路を整流リブによって完全に仕切ることなく、吹出ダクトの立ち上がりダクトが設けられた側に遠い場所まで温風を行き渡らせることができる。よって、吹出口から吹出す温風の配分を均等にすることができ、乗客の快適性を向上させることができる。
【0013】
また、前記吹出ダクトには、前記蛇腹構造の背もたれ部側に前記シート本体と連結されるフック部材が設けられており、前記フック部材に近い側の前記蛇腹構造の谷部に補強リブが設けられ、且つ前記フック部材は、前記吹出ダクトと一体に形成されていることが望ましい。
これにより、着座時に一番荷重がかかりやすい部分(ヒップポイント)の強度を高めることができる。また、吹出ダクトは、組付け部品を一体化したダクトとして用いることができる。このため、シート本体への組付けが簡素化できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、温風を分配する立ち上がりダクトが隣接する一対のシート本体の中間に立設されているので、温風を窓側と通路側とで均等に分配することができる。そのため、窓側の乗客と通路側の乗客とが温風を均等に享受することができる。よって、乗客の足もとを均一に暖めることができる。
【0015】
また、吹出ダクトには整流リブが設けられているので、効率よく温風を吹出口へ流すことができる。
さらに、整流リブが吹出ダクト内側に突出して形成されているので、乗客から受ける荷重によって吹出ダクトが変形した場合であっても、温風の流路を確保することができる。よって、乗客に対して温風を確実に供給することができる。
【0016】
また、吹出ダクトがシート本体の着座部に埋設されているので、ダクト構造とシート構造とを簡素化できる。
【0017】
しかも、従来のシート本体では、着座部を支持するスプリングのきしみ音が問題になっていたが、本発明のバス車両の暖房装置では、吹出ダクトの蛇腹構造がスプリングとして機能するため、きしみ音の発生を防止することができる。また、スプリングと同様に、着座時の衝撃や車両からの振動を緩和することができ、乗客の快適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】バス車両の暖房装置におけるシート本体の組付け状態の一例を示す組立図である。
【図2】バス車両の暖房装置の一例を示す正面図である。
【図3】図2のD−D線断面図である。
【図4】図1の吹出ダクトの詳細を示す底面図である。
【図5】図4のE−E線断面図である。
【図6】図4の蛇腹構造の詳細を示す図であり、(a)は平面図、(b)は右側面図である。
【図7】図6のF部詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0020】
図1は、バス車両の暖房装置におけるシート本体の組付け状態の一例を示す組立図である。図2は、バス車両の暖房装置の一例を示す正面図である。図3は、図2のD−D断面図である。図4は、図1の吹出ダクトの詳細を示す底面図である。図5は、図4のE−E線断面図である。図6は、図4の蛇腹構造の詳細を示す図であり、(a)は平面図、(b)は右側面図である。図7は、図6のF部詳細図である。なお、図2のD’−D’線断面図は、図3に示す図2のD−D線断面図に対し図示対称であるのでその記載を省略する。
【0021】
図1に示すように、バス車両の暖房装置10は主として、ヒータユニット1と、ヒータダクト2と、立ち上がりダクト4と、吹出ダクト6とにより構成される。
なお、本実施形態の暖房装置10が取り付けられるバス車両は、車室の前後方向(X方向)に間隔を空けて多数配列されるシート本体12を備える。シート本体12は、着座部(シートクッション)14と、背もたれ部16とを有する。
【0022】
ヒータユニット1は、バス車両の任意の位置に設けられ、暖房用の温風を生成するものである。この暖房用の温風は、例えば、エンジンの冷却水の排熱または、ヒートポンプサイクルを利用し冷媒を断熱圧縮させた熱を利用して空気を暖めることによってヒータユニット1で生成される。
【0023】
ヒータダクト2は、図1に示すように、車室の前後方向(X方向)に延びるように配設され、上述のヒータユニット1から供給される温風が流れる。ここでは、ヒータダクト2が床面24で仕切られる床下空間に配設される例を図示している。ヒータダクト2を床下空間に配設することにより、床面24で仕切られる床上空間、すなわち居住空間が広くなるため、居住性が向上する。
【0024】
立ち上がりダクト4は、車室の幅方向(Y方向)に隣接する一対のシート本体12の中間に立設される。
また、立ち上がりダクト4は、図2に示すように、ヒータダクト2から分岐して、一対のシート本体12に温風を分配する。
【0025】
吹出ダクト6は、図2に示すように、上述の一対のシート本体12のそれぞれの着座部14に埋設される。
【0026】
また、吹出ダクト6は、図3および図4に示すように、吹出口8と、整流リブ30と、蛇腹構造18と、フック部材32A、32Bとを有する。
なお、吹出ダクト6は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)等の材質を使用して左右対称形状に成形される。
【0027】
吹出口8は、図3に示すように、立ち上がりダクト4から分岐された温風を、シート本体12の前方に向けて吹出すものである。
この吹出口8から吹出す温風が障害物に遮られることなく乗客に供給されるので、温風が低温の場合であっても暖かさを感じることができる。そのため、乗客の快適性を向上させることができ、プレヒータ(予熱器)の稼働率を抑制することができ、燃料消費を低減できる。
なお、プレヒータとは、エンジンからの排熱が十分供給されない場合に稼働される予備的な加熱装置であって、燃料を燃焼させて温水(エンジン冷却水)を再加熱し、上述のヒータユニット1で用いる温水を供給する。
【0028】
また、吹出ダクト6は、シート本体12の着座部に沿って面状に広がる扁平形状であり、吹出口8は、図3に示すように、シート本体12の下方に向けて開口していてもよい。
これにより、乗客がシート本体12に着座して吹出ダクト6が若干撓んだ場合であっても吹出口8から吹出す温風が乗客に直接接触することを防ぐことができ、低温火傷を引き起こす可能性を低減させる。
【0029】
整流リブ30は、図4に示すように、立ち上がりダクト4から供給される温風が吹出口8に向って流れるように、少なくとも一つ設けられている。ここでは、整流リブ30が3つ設けられている例を図示しており、吹出ダクト6の立ち上がりダクト4が設けられた側に近い方から順に、整流リブ30A、30B、30Cとする。これら整流リブ30A、30B、30Cは、互いに間隔を空けて配置されており、吹出口8に略直交するとともに、立ち上がりダクト4に向かって湾曲した円弧形状のリブである。
【0030】
図5に示すように、整流リブ30(30A、30B、30C)は、吹出ダクト6の内側に突出して形成される。吹出ダクト6では、立ち上がりダクトから供給される温風が図5に示す矢印方向に向かって流れる。整流リブ30は、上述の矢印方向に向かって流れる温風に対して、略垂直方向に設けられる。
【0031】
整流リブ30の高さは、図5に示すように、吹出ダクト6の立ち上がりダクトが設けられた側に近い方から順に高くなることが好ましい。吹出ダクト6の立ち上がりダクトが設けられた側とは、上述した温風の流れの上流側であり、ここでは、整流リブ30A、30B、30Cの順に高くなるように形成された整流リブ30が図示されている。
これにより、温風の流路を整流リブ30によって完全に仕切ることなく、吹出ダクト6の立ち上がりダクトが設けられた側に遠い場所まで温風を行き渡らせることができる。よって、吹出口8から吹出す温風の配分を均等にすることができ、乗客の快適性を向上させることができる。
【0032】
蛇腹構造18は、シート本体12の背もたれ部16側に設けられ、着座時の衝撃や車両からの振動を緩和する。
【0033】
図6(a)、(b)に示すように、吹出ダクト6には、上述の蛇腹構造18の背もたれ部16側(図1参照)に、シート本体12と連結されるフック部材32Aが設けられている。
【0034】
さらに、吹出ダクト6は、図6および図7に示すように、フック部材32Aに近い側の蛇腹構造18の谷部36に補強リブ34が設けられていて、さらにフック部材32A、32Bは、吹出ダクト6に一体に形成されていてもよい。
これにより、着座時に一番荷重がかかりやすい部分(図3のヒップポイント15付近)の強度を高めることができる。
【0035】
また、吹出ダクト6は、蛇腹構造18およびフック部材32A、32Bを備えることにより、組付け部品を一体化したダクトとして用いることができる。このため、シート本体12への組付けが簡素化できる。
【0036】
上記構成のバス車両の暖房装置10では、温風を分配する立ち上がりダクトが隣接する一対のシート本体の中間に立設されているので、温風を窓側と通路側とで均等に分配することができる。そのため、窓側の乗客と通路側の乗客とが温風を均等に享受することができる。よって、乗客の足もとを均一に暖めることができる。
【0037】
また、吹出ダクト6には整流リブ30が設けられているので、効率よく温風を吹出口へ流すことができる。
さらに、整流リブ30が吹出ダクト6内側に突出して形成されているので、乗客から受ける荷重によって吹出ダクト6が変形した場合であっても、温風の流路を確保することができる。よって、乗客に対して温風を確実に供給することができる。
【0038】
また、吹出ダクトがシート本体の着座部に埋設されているので、ダクト構造とシート構造とを簡素化できる。
【0039】
しかも、吹出ダクト6の蛇腹構造18がスプリングとして機能するため、きしみ音の発生を防止することができる。また、スプリングと同様に、着座時の衝撃や車両からの振動を緩和することができ、乗客の快適性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ヒータユニット
2 ヒータダクト
4 立ち上がりダクト
6 吹出ダクト
8 吹出口
10 暖房装置
12 シート本体
14 着座部(シートクッション)
16 背もたれ部
18 蛇腹構造
30 整流リブ
32A、32B フック部材
34 補強リブ
36 谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前後方向に間隔を空けて多数配列されるシート本体を有するバス車両の暖房装置であって、
暖房用の温風を生成するヒータユニットと、
前記車室の前後方向に延びるように配設され、前記ヒータユニットから供給される前記温風が流れるヒータダクトと、
前記車室の幅方向に隣接する一対の前記シート本体の中間に立設され、前記ヒータダクトから分岐して前記一対のシート本体に前記温風を分配する立ち上がりダクトと、
前記一対のシート本体のそれぞれの着座部に埋設され、前記立ち上がりダクトから分岐して、吹出口から前記シート本体の前方に向けて前記温風を吹出す吹出ダクトとを備え、
前記吹出ダクトは、前記シート本体の背もたれ部側に設けられる蛇腹構造と、前記吹出ダクトの内側に突出して形成され、前記立ち上がりダクトから供給される前記温風が前記吹出口に向って流れるように、前記温風を整流する少なくとも一つの整流リブとを有することを特徴とするバス車両の暖房装置。
【請求項2】
前記少なくとも一つの整流リブは、互いに間隔を空けて配置された複数のリブであり、該複数のリブは前記吹出口に略直交するとともに、前記立ち上がりダクトに向かって湾曲した円弧形状であり、
前記複数のリブの高さは、前記吹出ダクトの前記立ち上がりダクトが設けられた側に近い方から順に高くなることを特徴とする請求項1に記載のバス車両の暖房装置。
【請求項3】
前記吹出ダクトには、前記蛇腹構造の背もたれ部側に前記シート本体と連結されるフック部材が設けられており、前記フック部材に近い側の前記蛇腹構造の谷部に補強リブが設けられ、且つ前記フック部材は、前記吹出ダクトと一体に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバス車両の暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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