説明

バックラッシュを制御した遊星歯車減速装置

【課題】
機械的損失を最小に留めることで 駆動時に於ける高効率化を可能にした遊星歯車減速装置を提供する。
【解決手段】
ギアハウジング外周に変位を加えていくことで、ギアハウジング内に組み込まれた遊星歯車とギアハウジング内歯車とのバックラッシュを最適な状態に調整することが可能となる。また、遊星歯車減速装置の用途に合わせてバックラッシュを調整することができるため、遊星歯車減速装置全体の汎用性の向上という効果をも得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸で回転方向のトルクを変化させる遊星歯車減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工技術の高精度化に伴い、機械部品全体について小型で高精度のデバイスが実用化している。この様なデバイスの代表的な分野としては小型モータがあり、各種製造装置のエンドエフェクタ及び医療用マニピュレータ先端部等に使用されている。本分野に於いては、モータ本体の小型化による出力の低下が課題となっており、小型化と高トルクとを両立する目的で、同軸での動力伝達が可能な遊星歯車減速装置が用いられている。
【0003】
しかしながら、遊星歯車減速装置はその構造上、内部に設けた歯車間に隙間としてバックラッシュを設ける必要がある。これは、バックラッシュを設けないと歯車同士が互いを固定してしまうためで、例えば特公平03−038457(以下特許文献1として記載)では、歯車に駆動源以外の付勢手段を設けることでバックラッシュを最小限に抑え、精密な動作を可能としている。また、実開平05−045294(以下特許文献2として記載)では、歯車表面の並びを歯車の軸に対して傾けた構造を用いており、歯車形状によって遊星ギアに対するバックラッシュ調整機能の付与を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平03−038457
【特許文献2】実開平05−045294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した効果を有している反面、特許文献1記載の遊星ギアはその構造上、歯車に付勢手段を設ける為に、全体の構造を小型化することが難しいという課題を有している。また、特許文献2に記載の構造では、軸方向の長さを確保する必要から、小型で多段構造の遊星歯車減速装置に用いることができない。以上述べた課題に対して、本願記載の発明では、小型化が容易でありながら、バックラッシュの最適化も可能な構造の遊星歯車減速装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的のために本発明に於ける第一の態様に記載の発明は、ギアハウジング内に太陽キャリア及び遊星歯車を組み込んだ後、ギアハウジング外周に応力を加えて変形させるバックラッシュ調整機構を有する構造を用いている。より具体的には、内歯車の組込後にハウジング外周の寸法を縮小していく構造を付加した構成となっている。
【0007】
また、本発明の第二の態様では前記ギアハウジング外周寸法の縮小に際して、コレットチャック構造をギアハウジング外周に設けた構造を用いている。より具体的には、ギアハウジング外周にコレットチャック構造の締め付け部を設けた構成となっている。
【0008】
また、本発明の第三の態様では前記ギアハウジング外周寸法の縮小に際して、バンドを締め付ける構造を用いている。より具体的には、ギアハウジング外周に固定したバンド部材に働く張力を調整することで、ギアハウジングの外周寸法を調整している。
【発明の効果】
【0009】
この様な構造を用いた事で、本発明記載の遊星歯車減速装置は、使用者がその用途に合わせてバックラッシュを調整することが可能になる。また、それぞれの用途に合わせてバックラッシュを最適化したことによる、遊星歯車減速装置の長寿命化という効果をも得ることができる。加えて、用途に合わせたバックラッシュの調整が可能となる為、遊星歯車減速装置単体としての汎用性を高める事ができる。更に、ギアハウジング内に太陽キャリアと遊星歯車を組み込んだ後の状態で調整を行う為、再調整を行う際も容易にバックラッシュを最適化することが可能となる。
【0010】
より具体的には、ギアハウジング外周を縮小していくことで、ギアハウジング内周に形成したギアの間隔を調整し、モータの用途に適した精度での動作を可能にしている。この様な構造を用いたことで、本願記載の遊星歯車減速装置は組込時に於けるバックラッシュの最適化だけではなく、組み込んだ装置に於ける動作設定等の変更に際しても、その都度最適な精度で動作させることができる。
【0011】
また、本発明第二の態様ではコレットチャックを用いて上記効果を得る構造としている。この様な構造を用いたことで、本態様に記載の遊星歯車減速装置は部品点数の少ない構成でバックラッシュの微調整を行うことができる。加えて、コレットチャックを用いてギアハウジング外周に応力をかける為、内歯車に対して均等に変位を与える事が可能となる。
【0012】
また、本発明第三の態様では、ギアハウジング外周をバンドで締め付けることで上記効果を得る構造としている。この様な構造を用いた事で、本態様記載の遊星歯車減速装置はバンドの接触面を介した均等な応力をギアハウジング外周に作用させることができる。加えて、上記本発明第二の態様と比較して更に簡易な構造とすることが可能となるため、既存のモータに対しても本発明の効果を付与することができる。
【0013】
上記述べた効果に加えて、本発明記載の各態様では、バックラッシュを確認しながらギアハウジング外周を調整できる構造となる。この為、遊星歯車減速装置に動力源を取り付けた状態で、駆動時の負荷及び動作の確認とバックラッシュの調整とを並行して行うことが可能となる。また、ギアハウジングの内歯車形状を上記調整機構に適した形状とすることで、より機械的損失の小さい状態で動力を伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に於いて用いる遊星歯車減速装置の全体斜視図
【図2】本発明の実施形態に於いて用いる遊星歯車減速装置の分解斜視図
【図3】本発明の実施形態に於いて用いる遊星歯車減速装置の側断面図
【図4】本発明の実施例と同じ技術的見地から提案するバックラッシュ調整部の変更例
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図1、図2、図3、及び図4を用いて、本発明に於ける最良の実施形態を示す。
【0016】
図1に本実施例に於いて用いる遊星歯車減速装置の全体斜視図を図2に分解斜視図を、そして図3に側断面図をそれぞれ示す。図1及び図2から解るように、本実施例に於いて用いる遊星歯車減速装置は、出力軸キャリア本体5と太陽歯車8を固定した太陽キャリア本体それぞれについて、キャリアピン6を介して取り付けた3段の遊星歯車7をギアハウジング10に組み込んで構成している。また、ギアハウジング10の外周に対して、コレット13と、ネジ部s1、s2によって嵌合するコレット受け12及びコレット押さえ14、からなるバックラッシュ調整部を設けた構造となっている。前記バックラッシュ調整部は、コレット押さえ14及びコレット受け12の外周に形成したローレット部rを回すことで、ネジ部s1とs2とが相互に回転し、コレット13の内径寸法を変化させる構造となっている。また、図2から解るように、本実施形態ではコレット13の内周面をギアハウジング10内の歯車を配置した領域gに対応した配置としている。この為、コレット13の内径寸法を変化させることで、ギアハウジング10の外周を変形させ、遊星歯車−ギアハウジング内歯車間のバックラッシュを調整することが可能な構造となっている。
【0017】
この様な構造を用いた事で本実施例記載の遊星歯車減速装置は、遊星歯車減速装置全体の動作を確認しながらバックラッシュの調整を行うことを可能としている。より具体的には、遊星歯車減速装置と駆動源であるモータとを連結して実際に遊星歯車減速装置を駆動させ、トルク異常及び異音の有無等を確認しながらバックラッシュを調整していくことができる。
【0018】
また、本実施例では遊星歯車減速装置のキャリアについて、出力軸キャリア本体5及び太陽キャリア本体9とキャリアピン6とを別部品とした構造となっている。この為、前記バックラッシュ調整部によってギアハウジング10の内径を縮小した場合でも、キャリアピン側で変位を吸収し、キャリア本体の変形を抑えることが可能となった。
【0019】
また、本実施例では出力側カバー4をギアハウジングから突出して設けた構造を用いている。この為、前記バックラッシュ調整部によるギアハウジング10が変形しても、出力側カバーを安定して固定できる構造とすることができた。更に、出力側カバー4をギアハウジング9の内周に嵌合固定したことで、ギアハウジング10に変位を加えても出力軸1がブレにくい構造となっている。
【0020】
また、上記バックラッシュ調整時に於ける出力軸の安定性向上に加えて、本実施例では入力側カバー11を前記出力側カバー4と同様にしてギアハウジング10の内周に嵌合固定した構造を用いている。この為、ギアハウジング10の変形によって生じる出力軸側のブレと入力軸側のブレとの差を最小限に抑えつつ、バックラッシュの調整を行うことができた。
【0021】
また、上記実施形態と同じ技術的見地から、バックラッシュ調整部を図4に示す締め付けバンド構造とすることもできる。図4では、締付バンド15及び締付バンド15に応力を加える締付ボルト16によってバックラッシュ調整部を構成している。この様にバックラッシュ調整部を構成することで、上記コレットチャックを用いたバックラッシュ調整部と比較して、より簡易な構造でバックラッシュの調整を行うことが可能となる。
【0022】
上述した効果について、本実施例に於いて示した遊星歯車減速装置はその構造上、バックラッシュ調整部のみを既存の遊星歯車減速装置に取り付けることも可能となる。この為、一般に用いられている遊星歯車減速装置に対しても上述したバックラッシュ調整部による効果を付与することができる。
【0023】
以上述べた様に、本実施形態に記載の遊星歯車減速装置を用いることで、小型化が容易でありながら、バックラッシュの最適化も可能な構造の遊星歯車減速装置を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0024】
1 出力軸
2 軸止め
3 軸受
4 出力側カバー
5 出力軸キャリア本体
6 キャリアピン
7 遊星歯車
8 太陽歯車
9 太陽キャリア本体
10 ギアハウジング
11 入力側カバー
12 コレット受け
13 コレット
14 コレット押さえ
15 締付バンド
16 締付ボルト
g 歯車配置領域
r ローレット部
s1、s2 ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸方向に回転方向の駆動力を伝達していく遊星歯車減速装置であって、
ギアハウジング内に設けた遊星歯車と、前記ギアハウジング内壁に設けた内歯車とが嵌合している状態で、前記遊星歯車減速装置の出力軸に対して直交方向の応力を前記ギアハウジングの外周に加えて変形させるバックラッシュ調整機構を有する遊星歯車減速装置
【請求項2】
ギアハウジング外周に設けたコレットチャックを介して前記変形を加える請求項1記載の遊星歯車減速装置
【請求項3】
ギアハウジング外周に巻き付けたバンドを締め付ける事で前記変形を加える請求項1記載の遊星歯車減速装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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