説明

バッテリ温度検出装置

【課題】バッテリの温度を精度良く検知し、しかも安価で且つ組付けの困難性を解消する。
【解決手段】バッテリの周囲温度を測定するための専用の温度センサーを設けずに、ラジエータの冷却水の温度を計測するための既存の温度センサー43をそのまま流用して、この温度センサー43での計測結果からバッテリ液の温度を精度良く推定する。バッテリ40の筐体に直接に温度センサーを取り付ける場合等に比べて、そのための特別な機構が必要なくなり、部品コストを低減でき、且つ組付け作業の手間を省くことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載されるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、図3の如く、自動車内の電源系統としてバッテリ1とオルタネータ3とが併用されて、負荷5への電源供給が行われる。そして、例えば自動車の始動等においては、バッテリ1から負荷5に電源の供給を行うが、バッテリ1の電力消費を継続すると、当該バッテリ1の残存電力が少なくなってしまい、最終的には自動車の負荷5に電源供給を行うことができなくなる。そこで、エンジンの回転によってオルタネータ3が交流発電を行い、ここで発電された電力をバッテリ1に充電することで、各部の電装品に対して長時間の電源供給を可能にしている。
【0003】
従来においては、バッテリ1の温度、電圧及び出力電流といった各種の状態を検出し、これに基づいて所定の制御部(パワー・ディストリビュート・ユニット)7でレギュレータ9を制御することにより、オルタネータ3から出力される発電電圧を調整することで、バッテリ1の長寿命化、燃費の効率化、及び始動性の確保を図っている。この場合、例えば、バッテリ1の温度は、バッテリ1に取り付けられた温度センサー11によって検知されて制御部7に入力され、バッテリ1の電圧は当該バッテリ1の出力経路13の電圧が制御部7に入力され、バッテリ1からの出力電流はシャント抵抗等の所定の電流センサー15で検知されて制御部7に入力され、制御部7のバッテリ充電状態検知機能21によってバッテリ1の充電状態の判断が行われて、この判断結果に基づいて制御部7がレギュレータ9の制御を行う。
【0004】
この他、自動車の走行速度を検知する車速センサーといった各種センサー17からの情報を制御部7の車両状態検知機能23により分析し、自動車の加速時と減速時によってオルタネータ3及びレギュレータ9からの出力を調整するようなことも行われている。
【0005】
ここで、温度センサー11によりバッテリ1の温度を検知するのは、その温度の変化によって、バッテリ1内の電解液の抵抗や硫酸の拡散速度及び反応速度等に大きく影響を与えるため、バッテリ1の温度に応じてレギュレータ9から出力されるオルタネータ3の出力電圧を調整する必要があるためである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、温度の変化がバッテリ1内の電解液の抵抗や硫酸の拡散速度及び反応速度等に及ぼす影響を推定してレギュレータ9から出力されるオルタネータ3の出力電圧を調整するためには、バッテリ1の温度を精度良く検知する必要がある。
【0007】
従来では、バッテリ1の筐体に直接に温度センサー11を取り付けていた。しかし、この場合は、バッテリ1に直接に温度センサー11を取り付ける機構が必要であり、特にバッテリ1が交換可能な部品である必要があることから、バッテリ1に温度センサー11を取り付ける機構が複雑な構造になってしまうため、部品コストが高くなるとともに、組付け作業に手間がかかるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、バッテリの温度を精度良く検知でき、しかも安価で且つ組付けの困難性を解消し得るバッテリ温度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、自動車に搭載されるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出装置であって、エンジンの冷却水の温度を計測する温度センサーと、前記温度センサーで計測されたエンジンの冷却水の温度に基づいてバッテリ液の温度を推定するバッテリ温度推定部とを備えるものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のバッテリ温度検出装置であって、前記温度センサーが、ラジエータの冷却水の温度を計測するものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のバッテリ温度検出装置であって、前記バッテリ温度推定部が、前記バッテリの各種の状態を検出しこれに基づいてレギュレータを制御する制御部に備えられ、前記制御部が、前記バッテリ温度推定部での計測結果に基づいて、前記バッテリの充電状態を補正するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載のバッテリ温度検出装置は、温度センサーで計測されたエンジンの冷却水の温度に基づいてバッテリ液の温度を推定するので、バッテリの周囲温度を測定するための専用の温度センサーを設けなくても、バッテリ液の温度を精度良く推定できる。したがって、バッテリの筐体に直接に温度センサーを取り付ける場合等に比べて、そのための特別な機構が必要なくなり、部品コストを低減でき、且つ組付け作業の手間を省くことが可能となる。
【0013】
請求項2に記載のバッテリ温度検出装置は、ラジエータの冷却水の温度を計測する既存の温度センサーをそのまま流用できるので便利である。
【0014】
請求項3に記載のバッテリ温度検出装置は、制御部が、バッテリ温度推定部で推定されたバッテリ液の温度に基づいて、バッテリの充電状態を補正して判断するので、安価な構成で、バッテリの充電状態に応じて適正且つ精度良くレギュレータからの出力を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<原理>
一般に、自動車に搭載されるバッテリの液温は、バッテリの充電時における自己発熱と、エンジンからの熱伝導の2つの因子によって影響を受けると考えられる。しかしながら、バッテリ液の温度を様々な状況下で実際に計測してみると、バッテリの充電時における自己発熱に比べて、エンジンからの熱伝導の影響が極めて大きいことが判明した。
【0016】
図1は、エンジンをかけたときのバッテリの液温と冷却水の水温との関係を示す図であって、図1中の横軸は時間を、縦軸は温度を意味しており、符号31はバッテリ液の温度変化を示す線、符号33はエンジンの冷却水の温度変化を示す線をそれぞれ示している。
【0017】
もともと、バッテリ液は熱容量が大きいため、図1中の線31のようにエンジンをかけた場合、温度上昇の傾斜は極めて緩やかである。これに対して、エンジンの冷却水の水温は、図1中の線33のように、エンジンが回転し始めてから所定の水冷温度Tc(例えば80℃)まで極めて急激に上昇し、その水冷温度Tcで早期に安定化するといった傾向がある。
【0018】
ここで、本出願人は、エンジンの発熱と、エンジンの冷却水の温度との間には、強い相関があるという知見を得ることができた。
【0019】
そして、自動車には、一般に、エンジンの冷却水の水温を計測するサーミスタ等の温度センサーが設置されている。そこで、この実施の形態のバッテリ温度検出装置では、エンジンの冷却水の温度を検出するための温度センサーで計測された結果に基づいてバッテリ液の温度を推定する。
【0020】
<構成>
図2は本発明の一の実施の形態に係るバッテリ温度検出装置41が組み込まれた自動車を示すブロック図である。
【0021】
このバッテリ温度検出装置41は、自動車のバッテリ40の各種の状態を検出する一貫として使用されるもので、エンジンの冷却水の温度を検出するための温度センサー43と、この温度センサー43で計測されたエンジンの冷却水の温度に基づいてバッテリ液の温度を推定するバッテリ温度推定部45とを備える。
【0022】
温度センサー43は、ラジエータの冷却水の温度を計測するためのもので、一般的に自動車に常用されている既存のサーミスタがそのまま利用される。即ち、この温度センサー43は、内蔵されたシリコン半導体の抵抗値が、温度上昇に応じて低下する特性を有することを利用して、冷却水の温度を計測するようになっている。
【0023】
バッテリ温度推定部45は所定の制御部46内に組み込まれた機能要素であり、温度センサー43での計測結果、即ち、エンジンの冷却水の温度に基づいて、バッテリ液の温度を高精度に推定する。具体的には、バッテリ液は、それ自体が熱容量を有するため、次の(1)式に示した平均化処理を行って、バッテリ液の温度を高精度に推定する。
【0024】
i=Ti-1(n−1)/n+ti/n …(1)
ここで、tiは時系列的に計測されるi番目(iは整数)の冷却水の温度測定値、Tiはi番目の平均化処理後の値、nは予め実験等によって求められた固定値であり、このnとして、例えばバッテリ液の温度変化に関する時定数の値が適用される。尚、Tiの初期値T0は所定の値が適用され、例えばゼロ値が適用される。
【0025】
尚、制御部46は、ROM、RAM及びCPUを備えたコンピューティング装置が使用され、ROM内に予め記憶されたソフトウェアプログラムに従ってCPUが演算処理を行うことで機能する機能要素であり、バッテリ40の各種の状態を検出しこれに基づいてレギュレータ49を制御する。これによりオルタネータ51から出力される発電電圧を調整して、バッテリ40の長寿命化、燃費の効率化、及び始動性の確保を図る。
【0026】
そして、この制御部46には、バッテリ温度推定部45の他に、バッテリ充電状態検知部53と、車両状態検知部55とが併せて内蔵されている。
【0027】
バッテリ充電状態検知部53は、バッテリ40の出力経路57の電圧と、シャント抵抗等の所定の電流センサー59で得られたバッテリ40からの出力電流とを検知して、バッテリの充電状態を判断し、この判断結果に基づいてレギュレータ49を制御するものである。ただし、一般にバッテリ液の温度が変化すると、バッテリ40の内部抵抗が変化して当該バッテリ40の電圧や出力電流の値に影響を与えるため、このバッテリ充電状態検知部53は、バッテリ温度推定部45で推定されたバッテリ液の温度に基づいて、バッテリの充電状態を補正して判断するようになっている。
【0028】
車両状態検知部55は、自動車の走行速度を検知する車速センサーといった各種センサー61からの情報を得て、当該情報に応じて車両の状態を分析し、例えば自動車の加速時と減速時によってオルタネータ51及びレギュレータ49からの出力を調整するなどの制御を行うものである。
【0029】
尚、図2中の符号63は、カーオーディオ装置、カーナビゲーション装置、パワーウィンド装置及びカーエアコン等の負荷を示している。
【0030】
<動作>
次に、バッテリ温度検出装置41を使用した自動車内での電源系統の動作を説明する。自動車内の電源系統においては、バッテリ40とオルタネータ51とが併用されて負荷63への電源供給が行われる。そして、例えば自動車の始動等においては、バッテリ40から負荷63に電源の供給を行うが、バッテリ40の電力消費を継続すると、当該バッテリ40の残存電力が少なくなってしまい、最終的には自動車の負荷63に電源供給を行うことができなくなる。そこで、エンジンの回転によってオルタネータ51が交流発電を行い、ここで発電された電力をバッテリ40に充電することで、各部の電装品に対して長時間の電源供給を可能にする。
【0031】
この際、制御部46は、バッテリ40の温度、電圧及び出力電流といった各種の状態を検出し、これに基づいてレギュレータ49を制御することで、オルタネータ51から出力される発電電圧を調整し、バッテリの長寿命化、燃費の効率化、及び始動性の確保を図る。
【0032】
具体的に、バッテリ温度検出装置41の温度センサー43が、ラジエータの冷却水の温度を計測し、この計測結果に基づいて、バッテリ温度推定部45が上述の(1)式により対応する時間におけるバッテリ液の温度を推定する。このように、(1)式を用いてバッテリ液の温度を推定しているので、実験等により予めnを求めておけば、エンジンの冷却水の温度に基づいて、バッテリ液の温度を精度良く推定することが可能となる。このnの値としては、例えばバッテリ液のエンジン温度に対する影響についての「時定数」、または「時定数÷サンプリング時間」で算出される値を適用すればよい。
【0033】
そして、制御部46のバッテリ充電状態検知部53は、バッテリ40の出力経路57の電圧と、シャント抵抗等の所定の電流センサー59で得られたバッテリ40からの出力電流とを検知して、バッテリ40の充電状態を判断する。この際、バッテリ充電状態検知部53は、バッテリ温度推定部45で推定されたバッテリ液の温度に基づいて、バッテリの充電状態を補正して判断する。そして、この判断結果に基づいてレギュレータ49を制御する。
【0034】
また、制御部46の車両状態検知部55は、車速センサー等の各種センサー61からの情報を得て、当該情報に応じて車両の状態を分析し、例えば自動車の加速時と減速時によってオルタネータ51及びレギュレータ49からの出力を調整するなどの制御を行う。
【0035】
これにより、バッテリ40の充電状態を適正に調整しながら、自動車内での負荷63等の駆動を適切に管理できる。
【0036】
そして、バッテリの周囲温度を測定するための専用の温度センサーを設けなくても、ラジエータの冷却水の温度を計測するための既存の温度センサー43をそのまま流用しながら、バッテリ液の温度を精度良く推定できるので、バッテリ40の筐体に直接に温度センサーを取り付ける場合等に比べて、そのための特別な機構が必要なくなり、部品コストを低減でき、且つ組付け作業の手間を省くことが可能となる。即ち、バッテリ40の内部のバッテリ液の温度を精度良く検知でき、しかも安価で且つ組付けの困難性を解消し得る利点がある。
【0037】
そして、バッテリ充電状態検知部53が、バッテリ温度推定部45で推定されたバッテリ液の温度に基づいて、バッテリ40の充電状態を補正して判断するので、安価な構成で、バッテリ40の充電状態に応じて適正且つ精度良くレギュレータ49からの出力を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】バッテリの自己発熱と冷却水の水温との関係を示す図である。
【図2】本発明の一の実施の形態に係るバッテリ温度検出装置が適用された自動車の電源制御系を示すブロック図である。
【図3】自動車における一般的な電源制御系を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0039】
40 バッテリ
41 バッテリ温度検出装置
43 温度センサー
45 バッテリ温度推定部
46 制御部
49 レギュレータ
51 オルタネータ
53 バッテリ充電状態検知部
55 車両状態検知部
57 出力経路
59 電流センサー
61 各種センサー
63 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載されるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出装置であって、
エンジンの冷却水の温度を計測する温度センサーと、
前記温度センサーで計測されたエンジンの冷却水の温度に基づいてバッテリ液の温度を推定するバッテリ温度推定部と
を備えるバッテリ温度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ温度検出装置であって、
前記温度センサーが、ラジエータの冷却水の温度を計測することを特徴とするバッテリ温度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバッテリ温度検出装置であって、
前記バッテリ温度推定部が、前記バッテリの各種の状態を検出しこれに基づいてレギュレータを制御する制御部に備えられ、
前記制御部が、前記バッテリ温度推定部での計測結果に基づいて、前記バッテリの充電状態を補正することを特徴とするバッテリ温度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142899(P2006−142899A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333024(P2004−333024)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】