説明

バッテリ状態管理装置

【課題】バッテリの実質的な充電残量を容易に検出する。
【解決手段】劣化度の異なるバッテリ21毎に、スタータ25駆動前の開放電圧値とスタータ25駆動時の放電時電圧値(下限電圧値)との関係を第1の関係情報として予め記憶部17に記憶するとともに、この第1の関係情報に関連する劣化度の異なるバッテリ21毎の第2の関係情報を記憶部17に予め記憶させ、この両関係情報を用いて、新品のバッテリ21を基準とした充電残量(実SOC)を判定するようになっているので、バッテリ21が劣化しても実質的な充電残量を正確に得ることができ、バッテリ21状態を正確に管理することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、図7の如く、エンジン1が回転しているときに、発電機3によってエンジン1の回転力を電流エネルギーに変換し、ここで発生した電力を各種の負荷5に供給するとともに、余剰の電力を用いてバッテリ7の充電を図る。
【0003】
また、自動車のエンジン1は、スタータ9の駆動により始動する。このスタータ9が駆動する際には、突入電流による大きな電圧降下を伴うため、バッテリ7から充分な始動電圧が供給される必要がある。したがって、スタータ9を駆動してエンジン1を始動させることが可能なように、バッテリ7の充電状態(SOC)、即ちそのバッテリ7の充電残量を正確に管理することが重要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、バッテリ7が新品である場合は、バッテリ7の出力電圧によりそのバッテリ7の充電状態を判断することが可能である。
【0005】
しかしながら、バッテリ7の充電状態は、そのバッテリ7の劣化状況によって大きく変化する。バッテリ7の劣化状況としては、格子腐食とサルフェーションが重なった場合など種々のタイプがある。そして、劣化状況によっては実際の内部抵抗とバッテリの開放電圧との相関関係が悪くなり、これによって、実際の内部抵抗と、エンジン始動時のバッテリ出力電圧の降下量との相関関係も悪くなる場合がある。したがって、バッテリ7の出力電圧を検出し、その出力電圧の降下量を用いるだけでは、その充電状態(充電残量)を正確に判断することが困難である。
【0006】
そこで、本発明の解決すべき課題は、バッテリの実質的な充電残量を容易に検出し得るバッテリ状態管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、自動車のバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、劣化度の異なるバッテリ毎に、当該バッテリの実質的に放電が行われていない状態における出力電圧である開放電圧値と、所定放電を行わせた際の前記バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す第1の関係情報を記憶するとともに、劣化度の異なるバッテリ毎に、前記第1の関係情報の前記開放電圧値に関連づけられ、且つ新品のバッテリを基準として、最大負荷状態での当該バッテリの役目を果たせなくなるまでの充電残量を導出するための第2の関係情報を記憶する記憶手段と、実質的に放電が行われていない状態で前記バッテリの前記開放電圧値を前記電圧検出手段を介して検出するとともに、前記所定放電が行われた際の前記バッテリの前記放電時電圧値を前記電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値と前記開放電圧値とから特定される前記バッテリの劣化度に対応した前記第2の関係情報を特定し、当該第2の関係情報において、前記第1の関係情報における前記基準開放電圧値に対応する前記充電残量を導出して、新品のバッテリを基準とした充電残量を判定する判定手段とを備えるものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のバッテリ状態管理装置であって、前記放電時電圧値は、前記所定放電が行われた際における前記バッテリの下限電圧値である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のバッテリ状態管理装置であって、前記所定放電は、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置であって、検出した前記放電時電圧値が所定の判定要否閾値電圧以下になっている場合にのみ、新品のバッテリを基準とした充電残量を判定するものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明のバッテリ状態管理装置は、劣化度の異なるバッテリ毎に、開放電圧値と放電時電圧値との関係を第1の関係情報として予め記憶するとともに、この第1の関係情報に関連する第2の関係情報を予め記憶しておき、この両関係情報を用いて、新品のバッテリを基準とした充電残量を判定するようになっているので、バッテリが劣化しても実質的な充電残量を正確に得ることができ、バッテリ状態を正確に管理することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明のバッテリ状態管理装置は、放電時電圧値として、所定放電が行われた際におけるバッテリの下限電圧値が用いられるため、バッテリの特性を有効に表す放電時電圧値を容易かつ確実に取得することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明のバッテリ状態管理装置は、所定放電が、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電であるため、バッテリの充電残量の判定のための特別な放電をバッテリに行わせる必要がないとともに、走行開始前にバッテリの充電残量を検知することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明のバッテリ状態管理装置は、検出した前記放電時電圧値が所定の判定要否閾値電圧以下になっている場合にのみ、新品のバッテリを基準とした充電残量を判定するので、充電残量の判定の信頼性を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<構成>
図1は本発明の一の実施の形態に係るバッテリ状態管理装置を示すブロック図である。このバッテリ状態管理装置は、図1の如く、電流センサ11、電圧センサ(電圧検出手段)13、処理部(判定手段)15、記憶部(記憶手段)17及び出力部19を備えて構成されており、車両に搭載されたバッテリ21の状態を管理する。
【0016】
電流センサ11は、バッテリ21から出力される電流を検出するものであり、例えばシャント抵抗が使用される。電圧センサ13は、バッテリ21の出力電圧を検出する。処理部15は、ROM、RAM及びCPU等を備えて構成されたコンピューティング装置の機能を有した電子制御ユニットであり、バッテリ21の管理のために各種の情報処理動作(制御動作も含む)を行う。記憶部17は、メモリ等により構成され、処理部15が行う各種の情報処理動作に必要な情報等が記憶されている。出力部19は、バッテリ21の状態の判定結果等を出力するためのものである。尚、図1において、符号23はイグニションスイッチ、符号25はスタータを示している。
【0017】
<全体の所定動作>
まず、このバッテリ状態管理装置の全体的な処理動作について、図2を参照して説明する。ステップS1では、イグニッションスイッチ(以下、「IGスイッチ」という)23がオンされる。このとき、処理部15は、バッテリ21の開放電圧値(実質的に放電が行われていない出力電圧)を電圧センサ13を介して測定しておく。この開放電圧値は、次のステップS3での判定動作に利用されるものである。続くステップS2では、スタータ25が駆動されて図示しないエンジンが始動される。
【0018】
そして、処理部15は、ステップS3でエンジン始動時劣化判定動作を行い、次のステップS4で初期充電残量(初期残容量)の検出動作を行う。かかるステップS3及びステップS4の動作は後述する。
【0019】
また、処理部15は、続くステップS5でエンジン始動後劣化判定動作を行う。この始動後劣化判定動作では、エンジン始動後の充電により満充電(又はそれに近い状態)になったバッテリ21への電流流入状況を電流センサ11を介して検出し、その電流流入状況に基づいてバッテリ21の劣化度が判定される。
【0020】
また、処理部15は、続くステップS6でバッテリ21に対する充電制御(バッテリ21の充電残量管理)を行う。この充電制御では、電流センサ11の測定電流値を積算することにより、エンジン始動時等の所定の基準時からバッテリ21から放電された全電流量が逐次検出され、その検出結果に基づいてバッテリ21に対して行うべき充電量を決定するようになっている。これによって、走行中におけるバッテリ21の充電残量が所定範囲内に維持されるようになっている。充電量の制御は、例えば、図示しないオルタネータの発電量(出力電圧等)を制御することにより行われる。
【0021】
このステップS5,S6のエンジン始動後劣化判定動作及び充電制御は、エンジンが停止されるまで繰り返し継続される。
【0022】
<エンジン始動時劣化判定動作>
図2中のステップS3でエンジン始動時劣化判定動作を説明する。
【0023】
尚、図2に示したバッテリ状態管理装置の処理動作に先駆けて、予め所定の基準バッテリ(ここでは、新品のバッテリ21)に対して試験を行い、その試験結果を用いて実際に車両に搭載されたバッテリ21の劣化判定を行うようになっている。
【0024】
その試験では、新品を含む種々の劣化状況のバッテリ21に対して、その充電残量を種々に変化させ、その充電残量の異なる各状態において、バッテリ21に対してエンジン始動時放電(所定放電)を行わせて、バッテリ21の放電前及び放電中の出力電圧を計測した。そして、劣化状況の異なる各バッテリ21の異なる各充電残量状態における各エンジン始動時放電を行う前の開放電圧値(実質的に放電が行われていない出力電圧)と、エンジン始動時放電が行われた際の下限電圧値(放電時電圧値)との関係を調べた。ここで、エンジン始動時放電とは、スタータ25が駆動されてエンジンが始動される際に行われる放電(あるいはそれと同等な放電)である。また、下限電圧値とは、エンジン始動時放電に伴ってバッテリ21の出力電圧が低下した際のその最低値のことである。なお、エンジン始動時放電の際に検出するバッテリ21の出力電圧値(放電時電圧値)としては、上記の出力電圧の最低値の他に、エンジン始動時放電が行われている期間中における放電開始から所定時間経過後の出力電圧値を検出して判定に用いるようにしてもよい。
【0025】
図3はその試験結果をグラフ化したものであり、予め記憶部17内にデータテーブルまたは近似式等の形式で格納されている。図3の横軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電開始前のバッテリ21の開放電圧値に対応し、縦軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電中のバッテリ21の下限電圧値に対応している。また、図3中の曲線G1は新品のバッテリ21についての測定結果に基づいて描いたものであり、曲線G2〜G5は使用により劣化したバッテリ21についての測定結果に基づいて描いたものである。曲線G1〜G5は互いに劣化状況が異なったバッテリ21に対する試験の結果得られたものである。このうち、曲線G2〜G4は通常の使用状態に近い態様で充放電が繰り替えされたバッテリ21に対応し、各曲線G2,G3,G4の順にバッテリ21の使用期間が長くなり劣化が進んでいる。また、曲線G5は頻繁に過充電状態とされたバッテリ21に対応している。曲線G4,G5は劣化状況(劣化の要因)が異なるが、劣化の程度(劣化度)はほぼ同等である。
【0026】
具体的には、新品のバッテリ21が対応する曲線G1に着目した場合、開放電圧値が約12.9V(ほぼ満充電状態)のときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約9.7Vであり、開放電圧値が約12.1Vのときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約8.1Vであることを示している。また、劣化が進んだバッテリ21が対応する曲線G4に着目した場合、開放電圧値が約12.5Vのときにエンジン始動時放電を行った際の下限電圧値は約8.1Vであることを示している。
【0027】
図3のグラフより、バッテリ21の劣化が進むにつれて対応する曲線G1〜G5がグラフの概ね右方向(又は右下方向)にシフトしていることが分かった。特に、下限電圧値が所定の基準レベル(例えば、9V)以下の領域では、曲線G1を基準とした曲線G2〜G5の右方向へのシフト量が対応するバッテリ21の劣化の進みに応じて増加する傾向にあることが分かった。
【0028】
そこで、この実施の形態では、エンジン始動時放電を行った際のバッテリ21の開放電圧値及び下限電圧値により定まる図3のグラフ上の点P1(VO,VL)が、新品のバッテリ21が対応する曲線G1上の対応する点P2(VN,VL)を基準として、横軸右方向にシフトしているシフト量Dを用いてバッテリ21の劣化度を判定する。
【0029】
この判定を行うためには、まず基準となる新品のバッテリ21に対する曲線G1に関する情報(すなわち、開放電圧値(基準開放電圧値)VNと下限電圧値VLとの関係を表す第1の関係情報)を記憶部17に予め記憶させておく。その具体的手段としては、曲線Gを下限電圧値VLを変数とした関数として近似的に表現した関係式を記憶部17に記憶させておき、その関係式に測定値である下限電圧値VLを代入して対応する基準開放電圧値VNを導出する構成と、所定の数値間隔で設けられた複数の下限電圧値VLとそれに対応する複数の基準開放電圧値VNとを関連付けてデータテーブルとして記憶部17に記憶させておき、測定した下限電圧値VLに対応する基準開放電圧値VNをそのデータテーブルを利用して導出する構成とが考えられる。この実施の形態では、例えば前者の構成が採用される。なお、基準バッテリとして必ずしも新品のバッテリ21を用いる必要はなく、新品と同等の能力を有するバッテリ21を基準バッテリとして用いてもよい。尚、上記説明ではデータテーブルを例に挙げたが、近似式等の情報を記憶部17に記憶させておいても差し支えない。
【0030】
具体的には、処理部15が、IGスイッチ23がオンされた際(エンジンの始動が行われる直前)のバッテリ21の開放電圧値VOを電圧センサ13を介して測定するとともに、エンジン始動時放電が行われているときのバッテリ21の下限電圧値VLを電圧センサ13を介して測定し、その測定値VO,VLを劣化判定のための次式(1)(評価式)に代入して評価値Qを算出し、その評価値Qを用いてバッテリ21の劣化度を判定する。
【0031】
【数1】

【0032】
ここで、式(1)中のVNは測定値である下限抵抗値VLの関数として与えられた新品のバッテリ21の開放電圧値VNである。この式(1),(2)に関する情報も記憶部17に予め記憶されており、これを用いて処理部15による劣化判定処理が行われる。
【0033】
式(1)において、VOとVNとの差分値(D)をR(VL)で割り算しているのは、劣化度が同一の場合であっても、下限電圧値VLが高くなるにつれて差分値(D)が小さくなってゆくため、差分値(D)を関数値R(VL)で割り算して修正することにより、下限電圧値VLの値によらずに実質的に劣化度のみによって変化する評価値Qを導出できるようにしたものである。なお、ここでは、劣化度が同一とした場合における下限電圧値VLが変化した場合の差分値(D)の変化態様をVLの2次関数で近似することとし、関数値R(VL)の設定を行っている(上式(2)参照)。より具体的には、例えば、式(2)中の係数C1,C2,C3は、C1=0.088,C2=−1.36,C3=4.94に設定される。
【0034】
なお、この実施の形態では、差分値Dを関数値R(VL)で割り算した値で値eを累乗したものを評価値Qとして使用するようにしたが、差分値Dを関数値R(VL)で割り算した値をそのまま劣化判定に用いたり、他の評価関数に代入するようにしてもよい。例えば、上式(1)を1次又は2次までべき級数展開したものを評価関数として用いるようにしてもよい。
【0035】
評価値Qの具体例としては、例えば、図3の曲線G1が対応する新品のバッテリ21の場合はQ=1.0となり、曲線G2が対応するバッテリ21の場合はQ=0.6となり、曲線G3が対応するバッテリ21の場合はQ=0.4となり、曲線G4,G5が対応するバッテリ21の場合はQ=0.3となる。そして、例えば評価値Qが所定値以下になった場合に、バッテリ21が劣化していると判定される。
【0036】
図4は、処理部15による劣化判定処理に関するフローチャートである。前述の図2のステップS2でスタータ25が駆動されるの伴って、処理部15は、ステップS3にて図4に示す手順で始動時劣化判定処理を行うようになっている。
【0037】
すなわち、処理部15は、エンジン始動時放電が行われているときのバッテリ21の下限電圧値VLを電圧センサ13を介して測定し(ステップS11)、その測定した下限電圧値VLが所定の基準レベル(例えば、9V)以下であるか否かを判断し(ステップS12)、基準レベル以下である場合にはステップS13に進んで劣化判定処理を行う一方、基準レベルを上回っている場合には劣化判定処理を行うことなく次の処理(図2のステップS4)に移行する。
【0038】
ステップS13の劣化判定処理では、前述の図2のステップS1で測定した開放電圧値VOと、ステップS11で測定した下限電圧値VLとが上式(1)に代入されて評価値Qが算出され、その評価値Qに基づいてバッテリ21の劣化度の判定が行われる。
【0039】
<初期充電残量の検出原理>
次の図2中のステップS4における初期充電残量(SOC)の検出原理を説明する。尚、ここでは、初期充電残量(SOC)の定義が、新品で且つ満充電から最大負荷状態でのバッテリ21の役目を果たせなくなるまでの容量であるものとして取り扱う。
【0040】
図5は、初期充電残量の検出原理を示す図であって、このうちの図5(A)は、図2中のステップS3の工程(エンジン始動時劣化判定動作)で使用された図3のグラフと同様の図であり、その横軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電開始前のバッテリ21の開放電圧値に対応し、縦軸は各放電試験におけるエンジン始動時放電中のバッテリ21の下限電圧値に対応している。また、図5(A)中の曲線G1は新品のバッテリ21についての測定結果に基づいて描いたものであり、曲線G2は使用により半分ほど劣化したバッテリ21についての測定結果に基づいて、また曲線G3は使用により残り30%まで劣化したバッテリ21についての測定結果に基づいてそれぞれ描いたものである。さらに、図5(A)中の領域ArXは、スタータ25の駆動(即ち、エンジンの再始動)が不可能な再始動不可領域であり、線Vth1は、初期充電残量が充分なために判定が不要である閾値(判定要否閾値電圧)を示しており、線Vth2は、再始動不可領域ArXを考慮してスタータ25の駆動(即ち、エンジンの再始動)が可能か否かを判定するための再始動判定ライン(閾値)を示している。この図5(A)は、記憶部17内にデータテーブルまたは近似式等の形式で格納されている。尚、図5(A)では、3つの曲線G1〜G3のみが描かれているが、実際には、G1〜G3以外に多くの曲線が併せて描かれる。
【0041】
また、図5(B)は、初期充電残量(SOC)、即ち、新品で且つ満充電のバッテリ21を基準として、劣化度の異なるバッテリ21毎に、最大負荷状態でのバッテリ21の役目を果たせなくなるまでの充電残量の変化を示す情報(第2の関係情報)の図であって、横軸は新品のバッテリ21の初期充電残量(SOC)、縦軸は実質的な初期充電残量(SOC:以下「実SOC」と称す)を意味しており、横軸及び縦軸のいずれも百分率(%)の値として示される。
【0042】
この図5(B)に示した第2の関係情報も、図5(A)に示した第1の関係情報と同様に、記憶部17内にデータテーブルまたは近似式等の形式で予め格納されるものである。図5(B)の考え方を示す。
【0043】
まず、図5(A)に配置された全ての曲線G1〜G3と、再始動判定ラインVth2との交点P01〜P03が求められる。例えば、新品且つ満充電状態のバッテリ21に対応する曲線G1については、この曲線G1と再始動判定ラインVth2との交点は点P01である。したがって、その横軸上の位置をそのまま図5(B)の横軸上の位置に適用し、また図5(B)の縦軸がゼロ値である点P11をプロットする。この点P11の座標は、図5(B)における原点(0,0)となる。
【0044】
また、例えば、他の曲線G2,G3についても、この各曲線G2,G3と再始動判定ラインVth2との交点P02,P03を求め、それぞれの横軸上の位置をそのまま図5(B)の横軸上の位置に適用し、また図5(B)の縦軸がゼロ値である点P12,P13をプロットする。
【0045】
次に、ほぼ新品のバッテリ21がほぼ満充電状態の開放電圧値(約12.9V)を、そのまま図5(B)の横軸上の位置に適用し、この点の座標を(100,0)とする。
【0046】
そして、図5(B)における座標(100,100)を点P21とし、この点P21と、点P11を結ぶ直線L1を求める。同様に、例えば劣化度が半分(50%)の曲線G2に関して、座標(100,50)の点をP22とし、例えば劣化度が30%の曲線G3に関して、座標(100,30)の点をP23とし、点P22と点P12とを結ぶ直線L2及び点P23と点P13とを結ぶ直線L3をそれぞれ求める。かかる図5(B)の各直線L1〜L3は、記憶部17内にデータテーブルまたは近似式等の形式で予め格納される。尚、上述のように、図5(A)において3つの曲線G1〜G3以外に多くの曲線が併せて描かれているため、これらの他の曲線についても、それぞれ対応する直線が図5(B)に求められる。
【0047】
<初期充電残量の検出動作>
このように、図5(A)の第1の関係情報及び図5(B)の第2の関係情報が、劣化状況の異なるバッテリ21毎の情報として記憶部17内に格納されていることを前提として、図2中のステップS4における初期充電残量(SOC)の検出動作を実行する。
【0048】
まず、上記のステップS11で測定された下限電圧値が、所定の判定要否閾値電圧Vth1を超えている場合は、バッテリ21が充分に充電されている状態であり、この下限電圧値と開放電圧値だけでは、バッテリ21の劣化状態が識別しにくい状態であるため、処理部15は、以後の初期充電残量の検出動作を行わずに、充分な充電状態である旨を判定する。
【0049】
一方、上記のステップS11で測定された下限電圧値が、所定の判定要否閾値電圧Vth1以下である場合は、下限電圧値と開放電圧値とからバッテリ21の劣化状態を識別できるため、処理部15は、以下の初期充電残量の検出動作を実行する(ステップS13)。
【0050】
ここでは、ステップS3で判定されたバッテリ21の劣化状況の曲線がそのまま適用される。例えば、ステップS3の処理において曲線G2が適用された場合であって、図5(A)において開放電圧値と下限電圧値とから点Pxが得られた場合、この点Pxの横軸上の位置をそのまま図5(B)の横軸上の位置に対応させて、曲線G2に対応する直線L2上の点Pyを求める。そして、この点Pyの縦軸(実SOC)上の位置の値αを、バッテリ21の初期充電残量(SOC)とする。この値αは、バッテリ21が新品で且つ満充電であると仮定した場合に、最大負荷状態でのバッテリ21の役目を果たせなくなるまでの容量を意味する。したがって、バッテリ21が劣化している場合でも、新品のバッテリ21を基準とした充電残量を得ることができる。
【0051】
そして、その充電残量の判定結果は、例えば図6に示す出力態様で、出力部19を介して出力される(ステップS14)。例えば、出力部19に設けられた表示部31において、バッテリ21の実SOC(実質的な充電残量)を表示するための表示領域32が形成され、ゲージ状等の所定の方式で実SOCが表示される。また、ステップS3で判定したバッテリ21の劣化状態についても、表示領域33,35に表示される。例えば、バッテリ21の劣化状況が良好な場合には表示領域33が点灯され、バッテリ21が一定レベル以下に劣化している場合には表示領域35が点灯される。
【0052】
以上のように、この実施の形態では、バッテリ21の様々な劣化状況及び充電状態について図5(A)から図5(B)を予め求めておき、スタータ25の動作時に、開放電圧値と下限電圧値とから図5(B)を用いて実SOC、即ち、新品のバッテリ21を基準とした充電残量を得ることができるので、バッテリ21が劣化しても実質的な充電残量を正確に得ることができる。したがって、バッテリ状態を正確に管理できるバッテリ状態管理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一の実施の形態に係るバッテリ状態管理装置を示すブロック図である。
【図2】バッテリ状態管理装置の全体的な処理動作を示すフローチャートである。
【図3】劣化状況及び充電残量の異なるバッテリについて開放電圧値とエンジン始動時の下限電圧値とを試験により測定した測定結果を示すグラフである。
【図4】劣化判定処理に関するフローチャートである。
【図5】本発明の一の実施の形態に係るバッテリ状態管理装置における初期充電残量の検出動作を説明するための原理図である。
【図6】バッテリの判定結果の出力例を示す図である。
【図7】一般的な自動車の電源系統を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0054】
11 電流センサ
13 電圧センサ
15 処理部
17 記憶部
19 出力部
21 バッテリ
23 スイッチ
25 スタータ
31 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のバッテリの状態を管理するバッテリ状態管理装置であって、
前記バッテリの出力電圧を検出する電圧検出手段と、
劣化度の異なるバッテリ毎に、当該バッテリの実質的に放電が行われていない状態における出力電圧である開放電圧値と、所定放電を行わせた際の前記バッテリの出力電圧である放電時電圧値との関係を示す第1の関係情報を記憶するとともに、劣化度の異なるバッテリ毎に、前記第1の関係情報の前記開放電圧値に関連づけられ、且つ新品のバッテリを基準として、最大負荷状態での当該バッテリの役目を果たせなくなるまでの充電残量を導出するための第2の関係情報を記憶する記憶手段と、
実質的に放電が行われていない状態で前記バッテリの前記開放電圧値を前記電圧検出手段を介して検出するとともに、前記所定放電が行われた際の前記バッテリの前記放電時電圧値を前記電圧検出手段を介して検出し、その放電時電圧値と前記開放電圧値とから特定される前記バッテリの劣化度に対応した前記第2の関係情報を特定し、当該第2の関係情報において、前記第1の関係情報における前記基準開放電圧値に対応する前記充電残量を導出して、新品のバッテリを基準とした充電残量を判定する判定手段と
を備えるバッテリ状態管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ状態管理装置であって、
前記放電時電圧値は、前記所定放電が行われた際における前記バッテリの下限電圧値であることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバッテリ状態管理装置であって、
前記所定放電は、スタータによりエンジンが始動される際に行われる放電であることを特徴とするバッテリ状態管理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のバッテリ状態管理装置であって、
検出した前記放電時電圧値が所定の判定要否閾値電圧以下になっている場合にのみ、新品のバッテリを基準とした充電残量を判定することを特徴とするバッテリ状態管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−172783(P2006−172783A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360817(P2004−360817)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】