説明

バルクハウゼンノイズ検査装置

【課題】 外気温の変動や通電時の発熱等によって励磁コイルと磁気検出センサとを含む検出センサヘッドの温度が変化する場合においても、検査対象物の異常箇所を正確に検出することができるバルクハウゼンノイズ検査装置を提供する。
【解決手段】 バルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物Wを磁化する励磁コイル11と、励磁コイル11により磁化された検査対象物Wが発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイル13からなる磁気検出センサと、励磁コイル11に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源4とを備える。磁気検出センサの温度を測定する温度測定手段7を設け、温度測定手段7により測定された磁気検出センサの温度により、前記磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正するバルクハウゼンノイズ出力補正手段9を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルクハウゼンノイズを利用して金属部品等の非破壊検査を行うバルクハウゼンノイズ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体が磁化する過程において、金属材料中に混在する非磁性体や内部欠陥等にピンニングされて磁壁の移動が不連続性を有することでバルクハウゼンノイズとなって現れる。このバルクハウゼンノイズの大きさは、金属材料の硬度や残留応力等と相関を持つため、バルクハウゼンノイズを測定することで、試料を破壊することなく金属組織の推定に用いることができる情報を得ることが可能となる。例えば、磁性体が磁化する際に発生するバルクハウゼンノイズの大きさと、材料の硬度との間には相関があり、予め材質毎に測定しておいた両者の関係性から、研削焼けによる異常箇所を検出することが可能である(特許文献1)。このバルクハウゼンノイズの実際の利用例として、測定者が手動でプローブを試料に接触させて測定する計器が市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−262958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記バルクハウゼンノイズを利用した装置をセンシング装置として長期に渡り運用する際、外気温の変動や通電時の発熱によってセンサヘッドの温度が変化する。磁気検出センサの温度特性の影響を受けて、バルクハウゼンノイズの大きさが変動する。これにより、測定結果に影響を及ぼす可能性が生じるという問題がある。
【0005】
この発明の目的は、外気温の変動や通電時の発熱等によって励磁コイルと磁気検出センサとを含む検出センサヘッドの温度が変化する場合においても、検査対象物の異常箇所を正確に検出することができるバルクハウゼンノイズ検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明における第1の発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、この励磁コイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルからなる磁気検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、前記磁気検出センサの温度を測定する温度測定手段を設け、この温度測定手段により測定された磁気検出センサの温度により、前記磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正するバルクハウゼンノイズ出力補正手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、電源から供給される交流電流により励磁コイルに交流磁界を発生させ、この励磁コイルにより検査対象物を磁化する。磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを、検出コイルからなる磁気検出センサで検出する。このとき、磁気検出センサの温度が温度測定手段で測定される。バルクハウゼンノイズ出力補正手段は、測定された温度により、磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正する。換言すれば、バルクハウゼンノイズ出力補正手段は、温度による影響を除去するようにバルクハウゼンノイズの出力を補正する。したがって、外気温の変動や、通電時の発熱等によって励磁コイルと磁気検出センサとを含む検出センサヘッドの温度が変化する場合においても、検査対象物の異常箇所を正確に検出することができる。
【0008】
前記温度測定手段により測定された温度と、磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力との関係を記憶する記憶手段を設け、バルクハウゼンノイズ出力補正手段は、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて、温度測定手段により測定された磁気検出センサの温度により、前記磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正するものであっても良い。
前記磁気検出センサは、鉄心およびこの鉄心に巻かれたコイル巻線を有するものであっても良い。
【0009】
前記磁気検出センサに近接して検出センサヘッドと検査対象物のギャップを検出するギャップ検出センサを設けると共に、このギャップ検出センサの温度を測定する温度測定手段を設け、この温度測定手段により測定されたギャップ検出センサの温度により、前記ギャップ検出センサの出力を補正するギャップ検出センサ出力補正手段を設けたものであっても良い。この場合、ギャップ検出センサ出力補正手段は、温度測定手段により測定されたギャップ検出センサの温度により、ギャップ検出センサの出力を補正する。
【0010】
この発明における第2の発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、この励磁コイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルからなる磁気検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、前記励磁コイルの温度を測定する温度測定手段を設け、この温度測定手段により測定された励磁コイルの温度により、前記励磁コイルに流す励磁電流を制御する励磁電流制御手段を設けたことを特徴とする。
【0011】
この構成によると、電源から供給される交流電流により励磁コイルに交流磁界を発生させ、この励磁コイルにより検査対象物を磁化する。磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを、検出コイルからなる磁気検出センサで検出する。このとき励磁コイルの温度が温度測定手段で測定される。励磁電流制御手段は、測定された温度により、励磁コイルに流す励磁電流を制御する。励磁電流制御手段は、例えば、測定された温度を元に、励磁コイルの温度変化に伴う特性変動の影響を除去するよう励磁電流つまり励磁コイルの出力を調整する。これにより、外気温の変動や、通電時の発熱等によって励磁コイルと磁気検出センサとを含む検出センサヘッドの温度が変化する場合においても、検査対象物の異常箇所を正確に検出することができる。
【0012】
前記励磁電流制御手段は、温度測定手段により測定された励磁コイルの温度が閾値以上となったとき励磁コイルに流す励磁電流を遮断するものであっても良い。このように励磁コイルの温度が閾値以上となったとき励磁コイルに流す励磁電流を遮断することで、励磁コイルの熱負荷による損傷を回避することができる。
【0013】
前記検出コイルが検出した信号を処理するセンサ回路と、このセンサ回路により処理した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタとを有するものであっても良い。この場合、必要な検出値を容易に且つ確実に取り出すことができ、品質検査精度の向上をより図ることができる。
【0014】
前記磁気検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を設けたものであっても良い。焼入れにより表面が硬化した検査対象物つまりワークの最終工程での研削時、研削条件が適当でないと、ワークの温度が上昇して再焼入れ若しくは焼戻しがおきる。再焼入れでは硬くて脆い白層が発生し、焼戻しでは表面が軟化する。この現象を「研削焼け」と呼ぶ。部品に研削焼けがおこると、その箇所にクラック等が発生し、部品の品質上大きな問題になる。
【0015】
研削焼けによる焼戻しが発生した箇所では、ワークの硬度が軟化し、残留応力が圧縮力から引張力に変化する。鋼材等のワークでは、その硬度が軟化するとバルクハウゼンノイズが大きくなり、引張力を印加するとバルクハウゼンノイズが大きくなる。そのため、研削焼けによる焼戻しによりバルクハウゼンノイズは正常箇所よりも大きくなる。研削焼けにより再焼入れが起こって、ワークに硬くて脆い白層が発生した場合でも、この白層の下部には焼戻しによる軟化した層が存在する。このため、バルクハウゼンノイズは大きくなる。
前述したようにバルクハウゼンノイズを測定することで、被検査面の研削焼けの有無を検出できる。したがって、検査対象物となる部品を破壊等する必要がなく研削焼けの全数検査または抜取り検査を実施することができる。このように被検査面の研削焼けの有無を検出することで、品質検査精度の向上を図ることができる。
【0016】
前記磁気検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の被検査面の残留応力を検出する残留応力検出手段を設けたものであっても良い。
前記検査対象物が、転動装置または転動装置部品であっても良い。転動装置は、ボールやころ等の転動体とこの転動体が接触する部品を有する機械部品であり、転がり軸受、ボールねじ、ボールジョイント等が該当する。転動装置部品は、前記転動装置を構成する部品であり、転動体が接する軌道面を有する部品や転動体等である。
【発明の効果】
【0017】
この発明における第1の発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、この励磁コイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルからなる磁気検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、前記磁気検出センサの温度を測定する温度測定手段を設け、この温度測定手段により測定された磁気検出センサの温度により、前記磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正するバルクハウゼンノイズ出力補正手段を設けたため、外気温の変動や通電時の発熱等によって励磁コイルと磁気検出センサとを含む検出センサヘッドの温度が変化する場合においても、検査対象物の異常箇所を正確に検出することができる。
【0018】
この発明における第2の発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、検査対象物を磁化する励磁コイルと、この励磁コイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルからなる磁気検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、前記励磁コイルの温度を測定する温度測定手段を設け、この温度測定手段により測定された励磁コイルの温度により、前記励磁コイルに流す励磁電流を制御する励磁電流制御手段を設けたため、外気温の変動や通電時の発熱等によって励磁コイルと磁気検出センサとを含む検出センサヘッドの温度が変化する場合においても、検査対象物の異常箇所を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図2】同バルクハウゼンノイズ検査装置の品質検査手段のブロック図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図5】この発明のいずれかの実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の一使用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の基本構造について説明する。以下の説明は、バルクハウゼンノイズ検査方法についての説明をも含む。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行う装置であって、図1に示すように、試料励磁部1および磁気検出部2を有するバルクハウゼンノイズ検出センサヘッド3(「検出センサヘッド3」と称す)と、電源4および制御装置5を有する電流制御部6と、温度測定手段7と、出力信号処理部8と、バルクハウゼンノイズ出力補正手段9と、図2に示す性状検出手段10とを備えている。
【0021】
図1に示すように、検出センサヘッド3は、この例では、試料励磁部1と磁気検出部2とが、共通の外装体Hs内に互いに固定状態に一体化して設けられる。検出センサヘッド3は、例えば、筒状のハウジングからなる外装体Hs内に、試料励磁部1および磁気検出部2が所定位置に配置されてモールド剤等で固定状態に一体化されてなる。前記外装体Hsは、例えば、アルミニウムなどの非磁性金属や樹脂等の非磁性体からなる。この検出センサヘッド3うち試料励磁部1は、検査対象物Wを磁化する励磁コイル11、およびこの励磁コイル11が巻かれる磁性体コアとなる鉄心12を有する。この鉄心12は凹形状に形成される。
磁気検出部2は、磁化された前記検査対象物Wが発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイル13からなる磁気検出センサと、この検出コイル13が巻かれる棒状の磁性体コアとなる鉄心14とを有する。前記各鉄心12,14は、例えば、フェライト等の磁性酸化物や積層ケイ素鋼板等の磁性材料からなる。前記凹形状の鉄心12の両端、および棒状の鉄心14の一端は同一平面上に配置される。すなわち、検出センサヘッド3の検出面は、検査対象物Wの表面に対向させる平坦面とされる。鉄心12,14は検出センサヘッド3の外装体Hs内に配置される。鉄心12,14は、検出センサヘッド3の検出面で外装体Hsから露出して外装体Hsの表面と同一平面であっても良く、また、検出面から引込んだ位置にあっても、あるいは外装体Hsで覆われていても良い。
【0022】
検出センサヘッド3の外部入出力構成として、前記出力信号処理部8と前記電流制御部6とが設けられている。
電流制御部6は、励磁コイル11に電気的に接続される。この電流制御部6のうち電源4は、励磁コイル11に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する。電流制御部6のうちの制御装置5は、電源4の出力を調整可能に構成されている。
出力信号処理部8は、検出コイル13に電気的に接続される。この出力信号処理部8は、検出コイル13の出力を処理するセンサ回路15と、このセンサ回路15で処理された信号からバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16とを有する。前記センサ回路15は、例えば、検出コイル13の出力信号を増幅する増幅回路からなる。出力信号処理部8の次段に、後述のバルクハウゼンノイズ出力補正手段9が設けられる。
【0023】
前記温度測定手段7は、前記磁気検出センサの温度を測定するものであって、感温素子17と、外部処理回路18と、温度計算手段19とを有する。感温素子17は、検出センサヘッド3内における検出コイル13の上部、この例では棒状の鉄心14の他端に配置される。感温素子17として、特にサーミスタを使用しているが、測音抵抗体、熱電対などを使用しても良い。サーミスタは、外部処理回路18にて定電圧の抵抗分圧回路を形成し、温度変化に伴うサーミスタの電気抵抗の変化による電圧変動を測定する。温度計算手段19は、前記電圧変動から磁気検出センサの温度を推定する。具体的に温度計算手段19は、サーミスタの電気抵抗の変化による電圧変動と、検出コイル13からなる磁気検出センサの温度との関係を演算式またはテーブル等で設定した設定手段に照らして、電圧変動に見合う磁気検出センサの温度を計算し出力する。前記外部処理回路18および温度計算手段19は、いずれも検出センサヘッド3とは別体に設けられる。
【0024】
バルクハウゼンノイズ出力補正手段9は、測定された磁気検出センサの温度により、検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正するものである。このバルクハウゼンノイズ出力補正手段9は、温度計算手段19およびバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16に電気的に接続されている。バルクハウゼンノイズ出力補正手段9は、演算手段9Aと記憶手段9Bとを有する。記憶手段9Bには、温度測定手段7により測定された磁気検出センサの温度とバルクハウゼンノイズの測定値との関係が設定された関係設定手段、およびバルクハウゼンノイズの補正係数が書換え可能に記憶されている。前記関係設定手段は、前記温度とバルクハウゼンノイズの測定値との関係を演算式またはテーブル等で設定したものであり、例えば、マイクロコンピュータのリードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ等に設けられる。前記演算手段9Aは、関係設定手段に照らして温度による影響を除去する補正係数を用いて、バルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16から出力されるバルクハウゼンノイズの比較演算を行う。このようにバルクハウゼンノイズ出力補正手段9は、温度による影響を除去するように補正されたバルクハウゼンノイズを出力する。
【0025】
図2に示すように、このバルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズ出力補正手段9で補正され出力されたバルクハウゼンノイズから検査対象物Wの検出目的の性状を検出する性状検出手段10を設けている。この性状検出手段10は、バルクハウゼンノイズ出力補正手段9に電気的に接続されている。前記検出目的の性状とは、例えば研削加工時や切削加工時に検査対象物Wの表面に生じる研削焼けまたは残留応力である。性状検出手段10として研削焼け検出手段20および残留応力検出手段21が設けられる。これら研削焼け検出手段20および残留応力検出手段21は、それぞれ、バルクハウゼンノイズ出力補正手段9で補正されたバルクハウゼンノイズの大きさ等を、設定値と比較して研削焼けの有無、所定値以上の残留応力の有無を判定するものであっても、また研削焼けの深さや平面範囲、残留応力の大きさを測定するものであっても良い。
【0026】
ここで、研削焼けによる焼戻しが発生した箇所では、検査対象物Wの硬度が軟化し、残留応力が圧縮力から引張力に変化する。鋼材等の検査対象物Wでは、その硬度が軟化するとバルクハウゼンノイズが大きくなり、引張力を印加するとバルクハウゼンノイズが大きくなる。そのため、研削焼けによる焼戻しによりバルクハウゼンノイズは正常箇所よりも大きくなる。
研削焼けにより再焼入れが起こって、検査対象物Wに硬くて脆いいわゆる白層が発生した場合でも、この白層の下部には焼戻しによる軟化した層が存在する。このため、バルクハウゼンノイズは大きくなる。したがって、バルクハウゼンノイズを測定することで、検査対象物Wの研削焼けを検出することが可能である。
【0027】
以上説明したバルクハウゼンノイズ検査装置によると、電源4から供給される交流電流により励磁コイル11に交流磁界を発生させ、この励磁コイル11により検査対象物Wを磁化する。磁化された検査対象物Wが発するバルクハウゼンノイズを、磁気検出部2で検出する。このとき、磁気検出センサの温度が温度測定手段7で測定される。つまり温度測定手段7のうち外部処理回路18が、温度変化に伴うサーミスタの電気抵抗の変化による電圧変動を測定する。温度計算手段19は、前記電圧変動から磁気検出センサの温度を推定する。
【0028】
バルクハウゼンノイズ出力補正手段9は、温度計算手段19で推定された温度により、バルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16で抽出したバルクハウゼンノイズの出力を補正する。ここで、バルクハウゼンノイズ出力補正手段9の演算手段9Aは、関係設定手段に照らして温度による影響を除去する補正係数を用いて、バルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16から出力されるバルクハウゼンノイズの比較演算を行う。バルクハウゼンノイズ出力補正手段9は、温度による影響を除去するように補正されたバルクハウゼンノイズを出力する。
したがって、外気温の変動や、通電時に発熱等によって検出センサヘッド3の温度が変化する場合においても、検査対象物Wの異常箇所を正確に検出することができる。
【0029】
バルクハウゼンノイズ検査装置は出力信号処理部8を有し、この出力信号処理部8は、検出コイル13が検出した信号を処理するセンサ回路15と、このセンサ回路15により処理した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16とを有するため、必要な検出値を容易に且つ確実に取り出すことができ、品質検査精度の向上をより図ることができる。
【0030】
バルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズ出力補正手段9で補正され出力されたバルクハウゼンノイズから検査対象物Wの研削焼けまたは残留応力を、検査対象物Wを破壊等することなく検査できるため、歩留まりの向上を図りながら品質検査精度の向上を図ることができる。
【0031】
この発明の他の実施形態について説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0032】
図3に示すバルクハウゼンノイズ検査装置は、温度測定手段7により測定された励磁コイル11の温度により、前記励磁コイル11に流す励磁電流を制御する励磁電流制御手段22を設けている。図3では、図1におけるバルクハウゼンノイズ出力補正手段9が設けられていない。感温素子17は、この例では励磁コイル11の外周部に配置している。
【0033】
励磁電流制御手段22は、電流制御部6の制御装置5、温度計算手段19にそれぞれ電気的に接続されている。この励磁電流制御手段22は、温度計算手段19により推定された励磁コイル11の温度を元に、励磁コイル11の温度変化に伴う特性変動の影響を除去するように励磁電流を制御する。具体的に、励磁電流制御手段22は、演算手段22Aと記憶手段22Bとを有する。この記憶手段22Bには、温度測定手段7により測定された励磁コイル11の温度と励磁電流との関係が設定された関係設定手段が書換え可能に記憶されている。
【0034】
前記関係設定手段は、前記温度と励磁電流との関係を演算式またはテーブル等で設定したものであり、例えば、マイクロコンピュータのリードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ等に設けられる。前記演算手段22Aは、推定された励磁コイル11の温度を元に、関係設定手段に照らして温度変化に伴う特性変動の影響を除去するように励磁電流つまり励磁コイル11の出力を制御する。
これにより、外気温の変動や、通電時の発熱等によって励磁コイル11と磁気検出センサとを含む検出センサヘッド3の温度が変化する場合においても、バルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16から出力されるバルクハウゼンノイズにより、検査対象物Wの異常箇所を正確に検出することができる。
また、励磁電流制御手段22は、温度測定手段7により測定された励磁コイル11の温度が閾値以上となったとき励磁コイル11に流す励磁電流を遮断するものとしても良い。この場合、励磁コイル11の熱負荷による損傷を回避することができる。
【0035】
図4に示すバルクハウゼンノイズ検査装置は、前記磁気検出センサに近接して検出センサヘッド3と検査対象物Wの表面とのギャップを検出するギャップ検出センサ26を設けている。ギャップ検出センサ26は、検出コイル13と兼用の鉄心14と、この鉄心14に巻かれるギャップ検出用コイル27とで構成されている。図4の例では、ギャップ検出用コイル27を検出コイル13の外径側にこれと同軸に配置している。したがって、ギャップ検出センサ26は、検出センサヘッド3に一体化して設けられる。温度測定手段7は、前記ギャップ検出センサ26の温度を測定するものとしている。図1と同様に、鉄心14の他端に配置された感温素子17によりギャップ検出センサ26の温度を測定する。さらにこのバルクハウゼンノイズ検査装置は、位置検出手段28、記憶手段29、および、ギャップ検出センサ出力補正手段30を有する。
【0036】
ギャップ検出センサ出力補正手段30は、前記温度測定手段7により測定されたギャップ検出センサ26の温度により、前記ギャップ検出センサ26の出力を補正する。このギャップ検出センサ出力補正手段30は、図示外の演算手段と記憶手段とを有し、前記記憶手段には、温度測定手段7により測定されたギャップ検出センサ26の温度とバルクハウゼンノイズの測定値との関係が設定された関係設定手段、およびバルクハウゼンノイズの補正係数が書換え可能に記憶されている。前記演算手段は、関係設定手段に照らして温度による影響を除去する補正係数を用いて、バルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ16から出力されるバルクハウゼンノイズの比較演算を行う。ギャップ検出センサ出力補正手段30は、このように温度による影響を除去するように補正されたバルクハウゼンノイズであって、後述の位置検出手段28で出力されたギャップに応じたバルクハウゼンノイズを出力する。
【0037】
位置検出手段28は、ギャップ検出センサ26の検出信号からギャップ検出用コイル27と検査対象物Wとの間のギャップを出力する。記憶手段29には、予め測定されたギャップ検出センサ26の出力(ギャップ)と、温度による影響を除去するように補正されたバルクハウゼンノイズとの関係が記憶されると共に、ギャップに対するバルクハウゼンノイズの補正係数も記憶されている。すなわち、定性的に言えば、例えば、ギャップ検出センサ26の検出するギャップが定められた値より大きい値のとき、これに対応して定められた値より小さい値のバルクハウゼンノイズが記憶され、この場合の補正係数として実際のバルクハウゼンノイズ測定値に温度による影響を除去したバルクハウゼンノイズを増加側に補正する値が記憶される。逆に、ギャップ検出センサ26の検出するギャップが定められた値より小さい値のとき、これに対応して定められた値より大きい値のバルクハウゼンノイズが記憶され、この場合の補正係数として実際のバルクハウゼンノイズ測定値に温度による影響を除去したバルクハウゼンノイズを減少側に補正する値が記憶される。
【0038】
したがって、ギャップ検出センサ出力補正手段30は、記憶手段29の前記の関係に照らしてギャップに応じたバルクハウゼンノイズを出力する。この出力されたバルクハウゼンノイズは、温度による影響をも除去するように補正された値である。
記憶手段29に記憶される前記の関係は、例えば、このバルクハウゼンノイズ検査装置の実用化よりも前に、試験として測定された関係である。なお、ギャップ検出センサ26を、検出センサヘッド3と測定対象物Wのギャップを一定に制御するために使用してもよい。ギャップ変動にともなうセンサ出力変動を小さくすることで、研削やけなどの測定精度を高めることができる。
【0039】
図5は、前記いずれかのバルクハウゼンノイズ検査装置を使用して行う非破壊検査の一例を示す。ここでは、検査対象物である測定ワークとしてころ軸受の内輪W1を用い、この内輪W1の転走面Waの研削焼けの有無等を検査する。ワーク固定軸23の小径部に内輪W1が嵌合され、このワーク固定軸23は図示外の駆動源により軸線L1回りに回転可能に構成されている。センサヘッド位置決め用アクチュエータ24のロッド先端部に、検出センサヘッド3を固定する固定部材25が設けられる。この固定部材25に固定された検出センサヘッド3は、内輪W1の転走面Waに対し垂直に接近させられ適当な押し付け力で押し付けられる。検出センサヘッド3は、アクチュエータ24の駆動により軸線L1方向に平行に移動可能に構成される。前記アクチュエータ24として、流体圧シリンダや、モータとボールねじ機構から成るもの等を適用し得る。
【0040】
検出センサヘッド3を転走面Waに押し付け、ワーク固定軸23を回転させつつ検出センサヘッド3をアクチュエータ24により移動させる。これにより、内輪W1の転走面Waの全周面に検出センサヘッド3を摺動させて周上全ての箇所または複数箇所の焼入れ硬度分布を検出し得る。この場合、検査対象物の焼入れ硬度分布を簡単かつ正確に全数検査または抜取り検査できる。したがって、品質保証能力を高めることができる。なお、アクチュエータ24、固定部材25等を設けることなく、検出センサヘッド3を例えば手動により軸線L1方向に平行に移動させて、検査対象物の研削焼けの有無を検査しても良い。
【0041】
軸受内輪のうち内輪内径面、内輪端面、内輪外径面の研削焼けの有無、または残留応力の検出を行っても良い。軸受外輪のうち外輪転走面、外輪外径面、外輪端面、外輪内径面の研削焼けの有無、または残留応力の検出を行っても良い。その他軸受の転動体の転走面や端面等の研削焼けの有無、または残留応力の検出を行っても良い。軸受以外の転動装置およびその転動装置部品を検査対象としても良い。
【符号の説明】
【0042】
4…電源
7…温度測定手段
9…バルクハウゼンノイズ出力補正手段
9B…記憶手段
11…励磁コイル
13…検出コイル
14…鉄心
15…センサ回路
16…バルクハウゼンノイズ抽出用フィルタ
20…研削焼け検出手段
21…残留応力検出手段
22…励磁電流制御手段
26…ギャップ検出センサ
30…ギャップ検出センサ出力補正手段
W…検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を磁化する励磁コイルと、この励磁コイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルからなる磁気検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、
前記磁気検出センサの温度を測定する温度測定手段を設け、
この温度測定手段により測定された磁気検出センサの温度により、前記磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正するバルクハウゼンノイズ出力補正手段を設けたことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記温度測定手段により測定された温度と、磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力との関係を記憶する記憶手段を設け、バルクハウゼンノイズ出力補正手段は、前記記憶手段に記憶されたデータを用いて、温度測定手段により測定された磁気検出センサの温度により、前記磁気検出センサにより検出されたバルクハウゼンノイズの出力を補正するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記磁気検出センサは、鉄心およびこの鉄心に巻かれたコイル巻線を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記磁気検出センサに近接して検出センサヘッドと検査対象物のギャップを検出するギャップ検出センサを設けると共に、このギャップ検出センサの温度を測定する温度測定手段を設け、
この温度測定手段により測定されたギャップ検出センサの温度により、前記ギャップ検出センサの出力を補正するギャップ検出センサ出力補正手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項5】
検査対象物を磁化する励磁コイルと、この励磁コイルにより磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルからなる磁気検出センサと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源とを備え、
前記励磁コイルの温度を測定する温度測定手段を設け、
この温度測定手段により測定された励磁コイルの温度により、前記励磁コイルに流す励磁電流を制御する励磁電流制御手段を設けたことを特徴とするバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項6】
請求項5において、前記励磁電流制御手段は、温度測定手段により測定された励磁コイルの温度が閾値以上となったとき励磁コイルに流す励磁電流を遮断するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記検出コイルが検出した信号を処理するセンサ回路と、このセンサ回路により処理した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するバルクハウゼンノイズ抽出用フィルタとを有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記磁気検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記磁気検出センサで検出されたバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の被検査面の残留応力を検出する残留応力検出手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記検査対象物が、転動装置または転動装置部品であるバルクハウゼンノイズ検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−8057(P2012−8057A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145740(P2010−145740)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】