バルク第VIII族/第VIB族金属触媒およびその調製方法
第VIII族金属および第VIB族金属を含んでなるバルク金属触媒、およびバルク金属触媒を合成するための方法が提供される。この触媒は、両金属の前駆体を、グリオキシル酸などの少なくとも一種の有機酸と混合および相互作用させ、乾燥し、焼成し、および硫化することによって調製される。この触媒は、炭化水素原料材の水素処理に、特にその水素化脱硫および水素化脱窒素に用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク金属触媒、並びに少なくとも一種の第VIII族金属および少なくとも一種の第VIB族金属を含んでなる、対応する触媒前駆体に関する。この触媒は、第VIII族および第VIB族金属を含む試薬(金属塩など)が、少なくとも一種の有機錯化剤(有機酸など)と混合される方法によって調製される。得られた混合物は、加熱され、硫化される。この触媒は、炭化水素原料材の水素処理、特にその水素化脱硫および水素化脱窒素に用いられることができる。
【背景技術】
【0002】
次第に厳しくなる環境規制により、輸送燃料の硫黄含有量のかなりの低減が求められるであろう。例えば、この十年後までには、留出油燃料の最大硫黄レベルは、欧州および日本で10wppm、および北米で15wppmへ制限されるであろう。これらの超低硫黄の要求を、既存製油所の高価な改造なしに満たすためには、低中圧で、非常に高い脱硫活性を、特に留出油燃料に対して有する新世代の触媒を設計することが、必要であろう。
【0003】
一つの手法では、ヒドロタルサイト関連の化合物の種類(例えば、モリブデン酸アンモニウムニッケル)が調製されている。X線回折分析は、ヒドロタルサイトが、陽荷電されたシート層状相、およびシート間の通路に配置されるイオン交換可能なアニオンから構成されることを示すものの、関連するモリブデン酸アンモニウムニッケルの相は、モリブデン酸塩アニオンを、ニッケルオキシヒドロキシドに結合された層間通路に有する。例えば、非特許文献1を参照されたい。これらの物質の調製はまた、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5に報告されている。
【0004】
他の手法は、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に開示される。これは、硫黄を留出油燃料から除去するためのバルク第VIII族/第VIB族三元金属触媒の種類に関する。好ましい三元金属触媒は、Ni−Mo−Wを含んでなり、種々の触媒前駆体化合物から調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,162,350号明細書
【特許文献2】米国特許第6,652,738号明細書
【特許文献3】米国特許第6,635,599号明細書
【特許文献4】米国特許第6,534,437号明細書
【特許文献5】米国特許第4,557,821号明細書
【特許文献6】米国特許第3,297,563号明細書
【特許文献7】米国特許第2,912,375号明細書
【特許文献8】米国特許第2,700,015号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Levin,D.、Soled,S.L.、およびYing,J.Y.「化学沈殿によって調製されたモリブデン酸アンモニウムニッケルの結晶構造(Crystal Structure of an Ammonium Nickel Molybdate prepared by Chemical Precipitation)」(Inorganic Chemistry、第35巻、第14号、4191〜4197頁、1996年)
【非特許文献2】TeichnerおよびAstier(Appl.Catal.、第72巻、321〜29頁、1991年)
【非特許文献3】TeichnerおよびAstier(Ann.Chim.Fr.、第12巻、337〜43頁、1987年)
【非特許文献4】TeichnerおよびAstier(C.R.Acad.Sci.、第304(II)巻、第11号、563〜6頁、1987年)
【非特許文献5】Mazzocchia(Solid State Ioics、第63〜65号、第731〜35頁、1993年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述される触媒のいくつかは、種々の程度の成功を収めたものの、超低レベルの硫黄を有する輸送燃料を、特に低圧水素処理(例えば、水素分圧500psig未満または1000psig未満)で製造するための更により活性な触媒が、当該技術分野において依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態においては、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機化合物ベースの成分約10wt%〜約60wt%を含み、BETに基づいて、表面積16m2/g以下、好ましくは10m2/g以下を有するバルク金属触媒前駆体組成物が提供される。他の実施形態においては、上記のバルク金属触媒前駆体組成物を硫化することによって形成される硫化触媒が提供される。
【0009】
更に他の実施形態においては、バルク金属第VIII族/第VIB族触媒前駆体を調製するための方法が提供される。本方法には、少なくとも一種の第VIII族金属試薬および少なくとも一種の第VIB族金属試薬を、少なくとも一種の有機錯化剤と共に組合せ、それにより混合物を形成する工程が含まれる。混合物は、温度約250℃〜約450℃へ加熱されて、炭素少なくとも10wt%を含む触媒前駆体が形成される。触媒前駆体は、次いで、硫化条件下に硫化されて、炭素少なくとも10wt%を含む硫化触媒が形成される。
【0010】
更に他の実施形態においては、炭化水素原料材を水素処理するための方法が提供される。本方法には、前記炭化水素原料材を硫化バルク金属触媒と接触させる工程が含まれ、その際硫化バルク金属触媒は、触媒前駆体を硫化することによって形成され、触媒前駆体は、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機化合物ベースの成分約10wt%〜約60wt%を含み、触媒前駆体組成物は、BETに基づいて、表面積16m2/g以下、好ましくは10m2/g以下を有する。
【0011】
更に他の実施形態においては、触媒前駆体組成物が提供され、この触媒前駆体組成物には、第VIII族金属、第VIB族金属、炭素、および酸素が含まれ、炭素含有量は、約10wt%〜約25wt%であり、(第VIII族金属/第VIB族金属)比は、約0.2〜約0.6であり、組成物の表面積は、約10m2/g以下である。
【0012】
更に他の実施形態においては、バルク金属触媒が提供され、このバルク金属触媒は、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機化合物ベースの成分少なくとも約10wt%を含み、その際第VIB族金属の少なくとも一部は、金属硫化物のスタックの形態にあり、スタック高さ約1.2〜約2.0を有する。
【0013】
更に他の実施形態においては、上記される触媒の使用方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のバルクCoMo触媒前駆体、および比較例のCoMo触媒のX線回折(XRD)パターンを示す。
【図2−a】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温酸化(TPO)分析に関するデータを示す。
【図2−b】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温酸化(TPO)分析に関するデータを示す。
【図3−a】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温還元(H2−TPR)分析に関するデータを示す。
【図3−b】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温還元(H2−TPR)分析に関するデータを示す。
【図4】本発明の実施形態の触媒前駆体および硫化触媒について、XRDパターンを示す。
【図5】本発明の実施形態の硫化触媒について、TEMを示す。
【図6−a】本発明の実施形態の硫化触媒について、TEM画像を示す。
【図6−b】本発明の実施形態の硫化触媒について、TEM画像を示す。
【図7】本発明の実施形態の硫化触媒について、TPOの検討に関するデータを示す。
【図8】種々の触媒の水素化脱硫活性のデータを表す。
【図9】種々の触媒の水素化脱窒素活性のデータを表す。
【図10】種々の触媒の水素化脱硫および水素化脱窒素の活性のデータを表す。
【図11】触媒活性を、触媒前駆体を形成するのに用いられる有機錯化剤の量の関数として示す。
【図12】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図13】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図14】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図15】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図16】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図17】種々の加熱プロフィルに従って加熱された触媒前駆体の検討について、拡散反射フーリエ変換赤外分光法の結果を示す。
【図18】種々の加熱プロフィルに従って加熱された触媒前駆体の検討について、拡散反射フーリエ変換赤外分光法の結果を示す。
【図19】種々の雰囲気中で加熱された触媒前駆体について、13CNMRスペクトルを示す。
【図20】本発明の触媒前駆体中の金属について、可能な錯体の形態を示す。
【図21】種々の加熱プロフィルに付された触媒前駆体について、ラマンスペクトルを示す。
【図22】変化する温度で焼成された触媒前駆体のXRDを示す。
【図23】触媒活性を、触媒前駆体を形成するのに用いられた有機錯化剤の量の関数として示す。
【図24】変化する温度で焼成された触媒前駆体の相対活性を示す。
【図25】触媒前駆体、および硫化後の対応する触媒について、13CNMRプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の触媒は、水素化脱硫(HDS)などの水素処理に典型的に用いられる従来の触媒とは異なる。第VIB族および第VIII族の金属を含む触媒(CoMo触媒など)のHDS活性を向上させるための従来の方法は、第VIB族および第VIII族の活性成分を、アルミナ担体上に析出することである。これにより、活性成分の分散が増大され、更なるHDS活性がもたらされることができる。対照的に、本発明の触媒は、バルク触媒粒子の全重量を基準として、第VIII族金属および第VIB族金属約40wt%〜約90wt%を含んでなる触媒前駆体を加熱することによって形成されるバルク触媒である。金属の重量は、金属酸化物として測定される。触媒前駆体重量の残りは、有機化合物ベースの物質である。実施形態においては、第VIB族金属は、MoまたはWである。他の実施形態においては、第VIII族金属は、CoまたはNiである。更に他の実施形態においては、第VIB族金属はMoであり、第VIII族金属はCoである。更に他の実施形態においては、第VIII族金属は、非貴金属である。
【0016】
X線回折に基づいて、加熱後に、触媒前駆体中の第VIII族金属および第VIB族金属は、主に結晶質酸化物である物質に典型的に見出される長距離秩序を有さないと思われる。むしろ、いくつかの実施形態においては、金属は、触媒前駆体中の有機錯化剤によって錯化されると思われる。金属は、金属および錯化剤が一緒に混合された場合に、有機錯化剤によって錯化される。有機錯化剤は、一つ以上の転化または反応を経て、有機化合物ベースの成分が形成され得ることから、錯体の性質は、一つ以上の加熱工程後に変化し得る。別の実施形態においては、触媒前駆体は、有機錯化剤によって錯化される金属の特性を有することに加えて、いくつかの結晶質またはナノ結晶質の特性(XRDに基づく)を有することができる。
【0017】
この出願の図4に示されるX線回折データは、次の条件下でもたらされた。試料のX線粉末回折分析は、PANalytical,Inc.によって製造され、かつX−Cellerator検知器を装備されたPANalytical X−pert PRO MPDを用いて得られた。2θスキャンは、45kVおよび40mAで、Cuターゲットを用いた。回折パターンは、20°〜70°、および20°〜70°の2θで得られた。ステップサイズは、0.2゜であり、時間/ステップは、480秒であった。この出願に示される残りのX線回折データおよびパターンは、次の条件下でもたらされた。試料のX線粉末回折分析は、Bruker AXSによって製造され、かつVantec−1高速検知器が装備されたBruker D4 Endeavorを用いて得られた。2θスキャンは、Cuターゲットを、35kVおよび45mAで用いた。回折パターンは、2°〜70°の2θで得られた。ステップサイズは、0.01794゜であり、(時間/ステップ)は、0.1秒であった。
【0018】
この出願においては、「非晶質」触媒または触媒前駆体は、X線回折スペクトルに、(ピーク強度/バックグラウンドノイズ)比を決定することによるなどで、スペクトルのバックグラウンドノイズと十分に区別されることができるピークを有する長距離秩序または周期性を欠く触媒または触媒前駆体をいう。ナノ結晶質触媒または触媒前駆体は、いくらかの結晶性を有するが、粒径100nm未満を有する触媒または触媒前駆体をいう。この決定は、上記される条件に従ってもたらされたX線回折スペクトルを用いてなされる。X線スペクトルの広がりは、粒径が小さくなるにつれて、ますます生じる。粒径が<100nmである場合には、広がったピークを有するか、または明らかにピークが存在しないXRDパターンがもたらされるなどである。また、非晶質またはナノ結晶質相には、XRDで分解可能な粒径>100nmを有する結晶質相が含まれることができることもあり得る。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、本発明の種々の実施形態の触媒系の高活性は、非晶質および/またはナノ結晶質成分に起因すると考えられる。
【0019】
実施形態においては、本発明のバルク触媒粒子(触媒前駆体粒子の硫化により形成される)は、非晶質物質の固有のX線回折パターンを有することができる。一般に、第VIII族および第VIB族金属酸化物および/または硫化物の結晶質相に典型的に見出される長距離秩序は、本発明に従って形成されたバルク触媒中に存在しないと考えられる。特に、本発明の触媒および触媒前駆体のXRDスペクトルは、CoMo酸化物の結晶質相を示さないか、或いは、結晶質CoMo酸化物特性をほんのわずかに示すかのいずれかである。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、有機錯化剤および/または得られる有機化合物ベースの成分は、第VIB族および第VIII族金属の酸化物の結晶化を妨害または抑制すると考えられる。長距離秩序を有する結晶質酸化物を形成する代わりに、バルク触媒粒子の少なくとも一部は、有機化合物ベースの成分を有するある種の錯体を含み続ける構造を有すると考えられる。この構造は、XRDによって容易に分解されない長さスケールで、非晶質および/または結晶質であってもよい。錯化の性質は、触媒前駆体に存在する錯化と異なってもよい。加えて、触媒中に存在する金属の少なくとも一部は、錯化された金属または非晶質/小結晶金属酸化物とは異なって、金属硫化物の形態であることができる。
【0020】
金属試薬を有機錯化剤と混合し、次いで加熱および/または混合することによって得られた本発明のバルク触媒前駆体組成物は、約16m2/g以下の比較的小さい表面積(Brunauer−Ernett−Teller法、またはBETによって測定される)を有する。他の実施形態においては、バルク触媒前駆体組成物は、表面積(BETによって測定される)約10.0m2/g未満、約9.0m2/g未満、約7.5m2/g未満、約5.0m2/g未満、約4.0m2/g未満、約3.0m2/g未満、または約2.5m2/g未満を有する。更に他の実施形態においては、バルク触媒前駆体組成物は、表面積少なくとも約0.05m2/g、少なくとも約0.1m2/g、または少なくとも約0.25m2/gを有する。好ましい実施形態においては、バルク触媒前駆体組成物は、表面積約0.1m2/g〜約10.0m2/gを有する。
【0021】
(第VIII族金属/第VIB族金属)モル比は、一般に、約1:10〜約10:1の範囲である。分数値として表されて、モル比は、一般に、約0.1〜約10である。好ましくは、(第VIII族金属/第VIB族金属)比は、約3未満、より好ましくは約2未満である。好ましくは、(第VIII族金属/第VIB族金属)比は、約0.33超、より好ましくは約0.5超である。
【0022】
触媒組成物がまた、水素処理触媒中に従来から存在する更なる成分を含むことは、本発明の範囲内である。酸性成分(例えば、リンまたはホウ素化合物)、更なる遷移金属、希土類金属、SiまたはAlなどの主な族金属、若しくはそれらの混合物などである。適切な更なる遷移金属は、例えば、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、クロム、バナジウム、鉄、白金、パラジウム、コバルト、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ニオブ、またはタングステンである。全てのこれらの金属は、触媒組成物が硫化されている場合には、一般に、硫化された形態で存在する。硫化の前に、一種以上の金属の少なくとも一部は、触媒前駆体中の有機化合物ベースの物質によって、錯化されることができる。硫化後には、硫化金属の少なくとも一部は、触媒中の有機化合物ベースの物質(例えば炭素)に、何らかの形で直接に、または間接に結合されると考えられる。
【0023】
本発明のバルク金属触媒は、有機錯化剤を、好ましくは有機酸の形態で用いて錯化された第VIII族および第VIB族前駆体化合物を制御して加熱することによって調製される。好ましくは、有機錯化剤は、金属結合基またはキレート剤である。好ましくは、有機錯化剤は、二座配位子である。好ましくは、有機錯化剤は、溶液中で、金属−配位子錯体を形成するのに適する。
【0024】
触媒前駆体が、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機錯化剤を含む溶液から形成される実施形態においては、第VIII族および第VIB族の両化合物は、適切な所定濃度の水溶性塩であって、上記される所望のモル比が得られることが好ましい。より好ましい第VIII族金属は、CoおよびNiであり、Coが最も好ましい。好ましくは、第VIII族金属は、非貴金属である。より好ましい第VIB族金属は、MoおよびWであり、Moが最も好ましい。適切なCo前駆体化合物の限定しない例には、カルボネート、ナイトレート、スルフェート、アセテート、クロライド、ヒドロキシド、プロピオネート、グリシネート、ヒドロキシカルボネート、アセチルアセテート、アセチルアセトネート、金属Co(0)、Co酸化物、Co水和酸化物、Coカルボキシレート(特にCoグリオキシレート)、Coシトレート、Coグルコネート、Coタルトレート、Coグリシン、Coラクテート、Coナフテネート、Coオキサレート、Coホルメート、およびそれらの混合物が含まれる。これには、上記のアンモニウムまたはアミン形態も含まれる。好ましいモリブデンおよびタングステン前駆体化合物には、アルカリ金属またはアンモニウムモリブデデート(また、ペルオキソ、ジ、トリ、テトラ、ヘプタ、オクタ、またはテトラデカモリブデート)、モリブデン酸、ホスホモリブデン酸、ホスホタングステン酸、Mo−Pヘテロポリアニオン化合物、W−Siヘテロポリアニオン化合物、Co−Mo−Wヘテロポリアニオン化合物、アルカリ金属またはアンモニウムタングステート(また、メタ、パラ、ヘキサ、またはポリタングステート)、アセチルアセトネート、およびそれらの混合物が含まれる。更に他の実施形態においては、いかなる適切な第VIII族または第VIB族金属試薬も、第VIII族または第VIB族金属溶液を調製するのに用いられることができる。
【0025】
有機酸は、好ましい種類の有機錯化剤である。本明細書で用いるのに適切な有機錯化剤の限定しない例には、ピルビン酸、レブリン酸、2−ケトグロン酸、ケト−グルコン酸、チオグリコール酸、4−アセチル酪酸、1,3−アセトンジカルボン酸、3−オキソプロパン酸、4−オキソブタン酸、2,3−ジホルミルコハク酸、5−オキソペンタン酸、4−オキソペンタン酸、エチルグリオキシレート、グリコール酸、グルコース、グリシン、オキサミド酸、グリオキシル酸2−オキシム、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロ三酢酸、N−メチルアミノ二酢酸、イミノ二酢酸、ジグリコール酸、リンゴ酸、グルコン酸、アセチルアセトン、およびクエン酸が含まれる。好ましい有機酸は、グリオキシル酸、オキサロ酢酸、2−ケトグロン酸、アルファ−ケトグルタル酸、2−ケト酪酸、ピルビン酸、ケト−グルコン酸、チオグルコール酸、およびグリコール酸である。最も好ましくは、グリオキシル酸およびオキサロ酢酸である。
【0026】
他の実施形態においては、有機錯化剤は、−COOH官能基、および少なくとも一種の更なる官能基(カルボン酸−COOH、ヒドロキシメート酸(hydroximate acid)−NOH−C=O、ヒドロキソ−OH、ケト−C=O、アミン−NH2、アミド:−CO−NH2、イミン:−CNOH、エポキシ:=COC=、またはチオール:−SHから選択される)を含む有機酸である。好ましくは、有機錯化剤は、二座配位子である。
【0027】
本発明の触媒を調製するための方法は、複数の工程を含む。第一の工程は、少なくとも一種の第VIII族金属試薬、少なくとも一種の第VIB族金属試薬、および少なくとも一種の有機錯化剤が一緒に組合される混合工程である。実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤の一種以上は、水溶液などの溶液の形態で提供されることができる。他の実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤の一種以上は、スラリーの形態で提供されることができる。更に他の実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤の一種以上は、固体物質の形態で提供されることができる。当業者は、有機錯化剤および金属試薬を提供するという更に他の形態が可能であること、およびいかなる適切な形態(溶液、スラリー、固体等)も、所定の合成で、各個々の試薬および/または有機錯化剤に用いられることができることを理解するであろう。
【0028】
金属試薬および有機錯化剤は、一緒に混合されて、前駆体混合物が形成される。金属試薬または有機錯化剤の一種以上が、溶液またはスラリーとして提供される実施形態においては、混合は、金属試薬および有機錯化剤を単一の槽へ加える工程を含むことができる。金属試薬および有機錯化剤の一種以上が固体として提供される場合には、混合は、有機錯化剤を、錯化剤を溶融するのに十分な温度へ加熱する工程を含むことができる。これは、有機錯化剤が、いかなる固体金属試薬をも溶媒和することを可能にするであろう。
【0029】
混合中の温度は、好ましくは、周囲温度〜溶剤の沸点である。調製は、いかなる適切な方法でも行われることができる。例えば、溶液および/またはスラリーを含む実施形態においては、別個の溶液(またはスラリー)が、触媒成分のそれぞれから調製されることができる。即ち、適切な溶剤中の第VIII族金属化合物および適切な溶剤中の第VIB族金属が形成されることができる。適切な溶剤の限定しない例には、水およびC1〜C3アルコールが含まれる。他の適切な溶剤には、アルコール、エーテル、およびアミンなどの極性溶剤が含まれることができる。水は好ましい溶剤である。また、第VIII族金属化合物および第VIB族化合物は、水溶性であること、およびそれぞれの溶液が形成されるか、または両金属を含む単一の溶液が形成されることが好ましい。有機錯化剤は、適切な溶剤(好ましくは水)中に調製されることができる。三つの溶剤成分は、いかなる順序でも混合されることができる。即ち、三つは全て、同時に一緒に混合されることができるか、またはそれらは、いかなる順番でも順次混合されることができる。実施形態においては、先ず、二種の金属成分を水性媒体中で混合し、次いで有機錯化剤を加えることが好ましい。
【0030】
混合工程中のプロセス条件は、一般的に重要ではない。例えば、全成分を、周囲温度で、その本来のpHで添加することが可能である(懸濁液または溶液が用いられる場合)。一般に、水の沸点(即ち100℃)未満の温度を維持して、混合工程中の成分の容易な処理が確実にされることが好ましい。しかし、所望により、水の沸点超の温度または異なるpH値が用いられることができる。有機錯化剤が共役塩基/酸を有する酸または塩基である実施形態においては、混合物のpHが調整されて、酸/塩基平衡が、所望の形態の方向へ推し進められることができる。例えば、有機錯化剤が酸である場合には、溶液のpHは、平衡を、より多くの共役塩基を形成する方向へ推し進めるように高められることができる。混合工程中の反応が、高められた温度で行われる場合には、混合工程中に加えられる懸濁液および溶液は、好ましくは、実質的に反応温度に等しいことができる、高められた温度へ予熱される。
【0031】
混合工程における金属前駆体および有機錯化剤の量は、加熱後の触媒前駆体中の好ましい(金属/有機化合物ベースの物質)比が達成されるように選択されるべきである。これらの好ましい比率は、高度に活性なバルク触媒をもたらす。例えば、混合溶液(または、金属試薬および有機錯化剤の他の混合物)中の(有機酸/全金属)比は、高度に活性な触媒をもたらす最少のレベルに達するべきである。
【0032】
実施形態においては、混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量は、加熱後に形成される触媒前駆体中に、有機化合物ベースの物質少なくとも約10wt%を提供するのに十分であるべきである。若しくは、少なくとも約20wt%、少なくとも約25wt%、または少なくとも約30wt%である。他の実施形態においては、混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量は、加熱後に形成される触媒前駆体中に、有機化合物ベースの物質約60wt%未満を提供するべきである。若しくは、約40wt%未満、約35wt%未満、または約30wt%未満である。好ましくは、混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量は、得られた触媒前駆体中に、有機化合物ベースの物質約20wt%〜約35wt%を提供するのに十分である。触媒前駆体中の有機化合物ベースの物質の所望の量は、混合溶液における(有機錯化剤/金属)比の量に基づいて、および触媒前駆体を形成するのに用いられる熱活性化条件に基づいて達成されることができる。用語「有機化合物ベースの物質」とは、加熱後の触媒前駆体中または硫化後の触媒中のいずれかに存在する炭素含有化合物をいう。有機化合物ベースの物質は、有機錯化剤から誘導されるが、触媒前駆体を加熱するか、および/または前駆体を硫化して触媒が形成されるかにより、異なってもよい。有機化合物ベースの物質の最終的な形態には、「有機物」として伝統的に考えられない炭素(黒鉛または非晶質炭素など)が含まれてもよいことに注目されたい。本明細書で用いられる用語有機化合物ベースの物質とは、炭素が、触媒前駆体を形成するのに用いられる有機錯化剤および/または他の有機炭素源から本来的に誘導されたことを、単に規定する。
【0033】
本発明について、触媒前駆体中の有機化合物ベースの物質のwt%は、触媒前駆体の昇温酸化を、次の条件下で行うことによって決定された。TGA/MSを用いる昇温酸化は、乾燥および加熱された試料について行われた。TGA/MSデータは、二次電子増倍管を装着された四重極質量分析計とインターフェース接続されたメトラーTGA[Mettler TGA]851熱天秤で収集された。試料20〜25mgが、全圧1気圧のHe中O214.3%の気流(77cc/分)中、周囲温度から700℃まで4℃/分で加熱された。TGA/MS実験においては、流出ガスは、毛管ラインを経てMS装置に運ばれ、18(H2O)、44(CO2)、64(SO2)などの固有m/eフラグメントが、分解生成物、および重量/加熱効果の定性相関に対する標識として分析された。
【0034】
TPO手順中に失われた物質のwt%は、有機化合物ベースの物質のwt%を表す。触媒前駆体中に残留物質は、あるタイプの酸化物の形態の金属であると考えられる。明瞭にするために、触媒前駆体中に存在する金属のwt%は、典型的な酸化物の化学量論の金属酸化物として表される。例えば、コバルトおよびモリブデンの重量は、それぞれ、CoOおよびMoO3として計算される。
【0035】
類似の計算が、硫化後に形成される触媒中の有機化合物ベースの成分のwt%を決定するのに行われることができる。この場合もまた、有機化合物ベースの成分のwt%は、上記される方法に従って、TPOによって決定される。触媒中の残留重量は、ある形態(酸化物、酸硫化物、または硫化物など)の金属に対応する。
【0036】
混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量はまた、反応条件下において、金属−有機錯体を溶液中に形成するのに十分であるべきである。錯化剤が有機酸である実施形態においては、(有機酸のカルボン酸基/金属)比は、少なくとも約1であることができる(ほぼ同数のカルボン酸基および金属原子が存在することを意味する)。若しくは、少なくとも約2、または少なくとも約3である。他の実施形態においては、(カルボン酸基/金属)比は、12以下であることができる。若しくは、10以下、または8以下である。
【0037】
他の実施形態においては、混合溶液中で用いられる(有機錯化剤/金属)モル比は、約6.0以下である。若しくは、約5.5以下、約5.0以下、約4.8以下、または約4.6以下である。他の実施形態においては、混合溶液中で用いられる(有機錯化剤/金属)モル比は、約1.5以上である。若しくは、約2以上、約2.5以上、約3.0以上、または約3.5以上である。
【0038】
好ましい実施形態においては、(第VIII族金属/第VIB族金属)モル比は、少なくとも約0.1である。若しくは、少なくとも約0.2、少なくとも約0.33、または少なくとも約0.5である。他の好ましい実施形態においては、(第VIII族金属/第VIB族金属)モル比は、約0.9以下である。または、約0.6以下である。
【0039】
本発明の触媒を調製するための方法の第二の工程は、加熱工程である。実施形態においては、加熱工程は、水を、混合物から除去するのに用いられる。他の実施形態においては、加熱工程は、触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分を、形成するのに用いられる。有機化合物ベースの成分は、混合溶液中に用いられる有機錯化剤を加熱することによる生成物である。有機錯化剤は、有機化合物ベースの成分に、実質的に類似であってもよいか、または有機化合物ベースの成分は、有機錯化剤のあるタイプの分解生成物を表してもよい。或いは、いかなる特定の理論にも束縛されることなく、有機錯化剤の加熱は、錯化剤の架橋をもたらして、有機化合物ベースの成分が形成されてもよい。
【0040】
加熱および/または乾燥が、加熱プロフィルに従って複数段階において行われることは、本発明の範囲内である。実施形態においては、加熱プロフィルの第一の段階は、部分乾燥段階であり、好ましくは、減圧乾燥オーブン中温度約40℃〜約60℃で、十分な時間量をかけて行われる。有効量の時間は、水を、ゲル形成点まで除去するのに十分な時間に相当する。典型的には、ゲルは、水約80%〜約90%が除去された場合に、形成するであろうと考えられる。金属試薬および有機錯化剤の混合物が、溶液またはスラリーの形態である実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤成分の混合物を、およそ周囲温度で、全成分の実質的な均一性および溶解を、加熱前に確実にするのに効果的な時間撹拌することが好ましい。或いは、有機錯化剤が固体として提供される実施形態においては、当初の加熱段階は、有機錯化剤を溶融するのに用いられる加熱に相当することができる。混合物の温度は、溶融された有機錯化剤が、金属試薬を溶媒和するか、および/またはそれと混和することを可能にするのに効果的な時間量をかけて維持されることができる。
【0041】
実施形態においては、加熱プロフィルにける次の加熱または乾燥段階は、温度を約110℃〜約130℃、好ましくは約110℃〜約120℃へ昇温して、高温加熱が、溶液のふきこぼれおよび液はねを起こさずに行われることができる点へ、更なる水を追出すことである。この点では、ゲルは、凝固物質に変換されるであろう。乾燥された物質を形成するのに効果的な時間量(即ち、ゲル形成から凝固物質まで)は、数秒〜数時間、好ましくは約1分〜数日、より好ましくは約1分〜24時間、更により好ましくは約5分〜約10時間であることができる。ゲルはまた、凝固および室温への冷却時に、黒色のゴム状固体物質の形態をとることができる。ゲルまたは凝固物質は、周囲温度へ導かれ、より高温での将来の加熱のために取り置かれることができる。或いは、ゲルまたは凝固物質は、この段階で、触媒前駆体として用いられることができる。
【0042】
固体物質を、熱活性化の前または後に、粉末へ粉砕することは、本発明の範囲内である。粉砕は、温度約275℃以上のいかなる加熱工程前にも行われることができるか、または粉砕は、約275℃以上へ加熱した後に、行われることができる。いかなる適切な粉砕技術も、固体物質を粉砕するのに用いられることができる。
【0043】
触媒前駆体は、更なる加熱段へ付されて、触媒前駆体内の物質が部分的に分解されることができる。この更なる加熱段は、温度約100℃〜約500℃、好ましくは約250℃〜約450℃、より好ましくは約300℃〜約400℃、更により好ましくは約300℃〜約340℃で、効果的な時間量をかけて行われることができる。この効果的な時間量は、約0.5〜約24時間、好ましくは約1〜約5時間の範囲であろう。他の実施形態においては、加熱は、炉内温度を、1時間で室温から約325℃へ傾斜させることによって、達成されることができる。実施形態においては、加熱(起こりえる分解を含む)は、酸素含有ガス流(空気など)、不活性ガス流(窒素など)、または酸素含有ガスおよび不活性ガスの組合せの存在下に行われることができる。他の実施形態においては、加熱は、加熱プロセスの初めに、加熱炉中に存在する雰囲気で行われることができる。これは、静的条件と呼ばれることができ、そこでは更なるガスの供給は、加熱中、加熱炉へ全く提供されない。静的条件における加熱炉内の雰囲気は、酸素含有ガスまたは不活性ガスであることができる。不活性ガス雰囲気(窒素など)の存在下に加熱を行うことが好ましい。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、この更なる加熱により得られた物質は、有機錯化剤の部分的な分解生成物を意味してもよく、有機化合物ベースの物質または成分によって錯化された金属がもたらされる。
【0044】
前述されるように、加熱工程は、種々の方法で行われることができる。加熱工程は、より低い温度の一つ以上の初期加熱段から始まり、引続いて、温度約275℃以上で加熱されることができる。他の実施形態においては、加熱プロフィルには、単に、約130℃以下の温度のみが含まれることができるか、または加熱プロフィルには、温度を、約275℃以上または約325℃以上へ、直ちに傾斜させることが含まれることができる。好ましくは、調製条件は、混合溶液が、全加熱プロフィル中に、激しい蒸発、吹きこぼれ、または中断が起きないように、制御され、設計されることができる。これらの実施形態には、典型的には、100℃未満の温度での初期加熱が含まれる。しかし、他の実施形態においては、加熱プロフィルには、急速な蒸発をもたらし、一方触媒前駆体は、依然としてかなりの量の水を含む条件が含まれることができる。これは、触媒前駆体を形成するのに用いられる混合物の沸騰または吹きこぼれをもたらすことができる。触媒前駆体を形成するための混合物の沸騰または吹きこぼれは、不都合であるものの、本発明の触媒前駆体は、依然として、これらの条件下で形成されるであろうと考えられる。
【0045】
従来の水素処理触媒(典型的には、少なくとも一種の第VIII族金属および少なくとも一種の第VIB族金属で含浸されたキャリヤーを含んでなる)とは対照的に、本発明の触媒は、バルク触媒である。
【0046】
いかなる特定の理論にも束縛されることなく、有機錯化剤および/または得られた有機化合物ベースの成分は、最終触媒の予想外の高活性の役割を果たすと考えられる。有機錯化剤および/または得られた有機化合物ベースの成分は、金属粒子の安定化を補助するか、および/または金属活性部位と直接に相互作用し、金属が凝集するのを防止するかいずれかであると考えられる。換言すれば、有機錯化剤および/または有機化合物ベースの成分は、活性部位の分散を高める。触媒前駆体が、有機化合物ベースの成分について、所望の範囲未満の量を用いて形成される場合には、得られる触媒の活性はより低い。
【0047】
本発明のバルク粉末触媒前駆体組成物(粉砕および加熱後に得られる)は、所望の触媒最終用途に適切な形状に、直接形成されることができる。或いは、バルク粉末は、従来の結合剤物質と混合され、次いで所望の形状に形成されることができる。結合剤が用いられる場合には、それは、触媒前駆体を形成するのに用いられる混合物の分解(加熱)の前または後のいずれかに導入されてもよい。可能な結合剤の例には、Active Minerals International(Hunt Valley、MD)から入手可能なActigel clay、Nyacol Nano Technologies,Inc.(Ashland、MA)から入手可能なNyacol 2034DI、またはSi−樹脂(Dow Corningから入手可能なQ−2230など)が含まれる。更に他の実施形態においては、結合剤前駆体(ケイ酸、Siアセテート、またはAlアセテートなど)が、触媒前駆体を合成するのに用いられる混合物に添加されてもよい。
【0048】
本発明の触媒の調製における第三の工程は、硫化工程である。硫化は、一般に、触媒前駆体組成物を硫黄含有化合物(元素硫黄、硫化水素、またはポリスルフィドなど)と接触させることによって行われる。硫化はまた、ポリスルフィド(ジメチルジスルフィドをスパイクした炭化水素ストリームなど)および水素の組合せを用いて、液相で行われることができる。硫化は、バルク触媒組成物の調製に引続いて、しかし、用いられる場合には、結合剤の添加前に行われることができる。
【0049】
触媒組成物が、固定床プロセスで用いられる場合には、硫化は、好ましくは、成形工程に引続いて行われる。硫化は、現場外または現場で行われてもよい。現場外の硫化については、硫化は、硫化触媒を水素処理装置に充填する前に、別個の反応器で行われる。現場の硫化が好ましい。現場の硫化については、硫化は、水素処理に用いられるものと同じ反応器内で行われる。
【0050】
実施形態においては、硫化工程は、液体硫化であることができる。これらの実施形態においては、バルク触媒は、触媒を、ジメチルジスルフィド1.36wt%でスパイクされた原料材に暴露することによって硫化されることができる。或いは、ジメチルジスルフィドのスパイクレベルは、0.5〜2.5wt%であることができる。触媒は、圧力500psigにおいて、LHSV1.0および水素流速700scf/Bで原料へ暴露されることができる。好ましくは、触媒は、初期の時間(18時間など)の間、温度425°F(218℃)で原料へ暴露され、引続いて第二の時間(24時間など)の間、温度625°F(329℃)で暴露されることができる。他の実施形態においては、硫化の他の従来の方法が用いられることができる。
【0051】
液体硫化を含む他の実施形態においては、触媒は、予想される最終的な処理条件より過酷な温度および圧力条件を用いて硫化されることができる。例えば、硫化触媒が、原料材を圧力150psigで処理するのに用いられるであろう場合には、硫化は、より高圧で行われて、触媒の硫化を達成するのに必要とされる時間が低減されることができる。
【0052】
種々の実施形態においては、硫化後に形成される触媒は、少なくとも一部は、有機化合物ベースの成分による錯化、または金属とそれとの他の相互作用を含む構造を有すると考えられる。硫化触媒中の有機化合物ベースの成分の性質は、触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分、および触媒前駆体を形成するために初期混合物で用いられる有機錯化剤とは異なってもよい。次の実施例において、硫化触媒中の炭素および硫黄種は、昇温酸化の検討におけるのと類似の時間で、触媒を酸化し、それを出ることが明らかであることに注目されたい。これらのTPOの検討に対する一つの可能な解釈は、錯体(またはある他のタイプの相互作用)が、有機化合物ベースの成分、および触媒構造の少なくとも一部における金属の間に存在することである。
【0053】
実施形態においては、硫化後の触媒の炭素含有量は、少なくとも10wt%、または少なくとも12wt%である。他の実施形態においては、硫化後の触媒の炭素含有量は、25wt%以下、または20wt%以下である。
【0054】
硫化後、触媒中の金属の少なくとも一部は、硫化形態であろう。特に、VIB族金属は、MeS2化学量論を有すると考えられる硫化金属のスタックを形成するであろう。ここで、Meは、第VIB族金属を表す。例えば、Moが第VIB族金属である場合には、MoS2のスタックが、形成されるであろう。本発明に従って形成された触媒においては、硫化された第VIB族金属の平均スタック高さは、約1.2〜約2であろう。他の実施形態においては、平均スタック高さは、少なくとも1.2、少なくとも1.3、少なくとも1.4、または少なくとも1.5であろう。更に他の実施形態においては、平均スタック高さは、2.2以下、2.1以下、2.0以下、または1.9以下であろう。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、より低いスタック高さは、間接的に、増大した活性に相当すると考えられる。
【0055】
本発明の触媒組成物は、特に、炭化水素原料を水素処理するのに適切である。水素処理プロセスの例には、不飽和物の水素添加、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱芳香族、および緩やかな水素化分解が含まれる。好ましくは、水素化脱硫および水素化脱窒素である。従来の水素処理条件には、温度約250℃〜450℃、水素圧5〜250バール、液空間速度0.1〜10時−1、水素処理ガス比90〜1780m3/m3(500〜10000SCF/B)が含まれる。
【0056】
本発明が行われることができる原料材は、留出油範囲で沸騰する石油原料ストリームである。この沸点範囲は、典型的には、約140℃〜約360℃であろうし、これには、中間留出油、および軽質ガス油ストリームが含まれる。好ましい留出油ストリームの限定しない例には、ディーゼル燃料、ジェット燃料、および加熱油が含まれる。原料材は、実質量の窒素(例えば、窒素少なくとも10wppm、更には1000wppm超)を、有機窒素化合物の形態で含むことができる。原料材はまた、実質的な硫黄含有量(約0.1wt%〜3wt%以上)を含むことができる。
【0057】
本発明の水素処理にはまた、硫黄および窒素化合物を除去するためのスラリーおよび沸騰床水素化プロセス、および軽質化石燃料(石油中間留出油、特に軽質接触サイクル分解油(LCCO)など)中に存在する芳香族分子の水素添加が含まれる。石油、石炭、ビチューメン、タールサンド、またはシェール油から誘導される留出油は、同様に、適切な原料である。触媒が炭化水素原料との混合物に分散されたスラリーを用いる水素化プロセスは、一般に知られる。例えば、特許文献5(Lopezら)には、循環スラリー触媒を用いる重質油の水素化が開示される。スラリー水素化を開示する他の特許には、特許文献6、特許文献7および特許文献8が含まれる。本発明のスラリー水素処理プロセスは、化石燃料からの中間留出油(軽質接触サイクル分解油(LCCO)など)を含む種々の原料を処理するのに用いられることができる。
【0058】
水素添加条件には、温度範囲約100℃〜約350℃、水素圧力約5気圧(506kPa)〜300気圧(30,390kPa)、例えば、10〜275気圧(1,013kPa〜27,579kPa)での反応が含まれる。一実施形態においては、温度は、180℃〜320℃を含む範囲であり、圧力は、水素15,195kPa〜20,260kPaを含む範囲である。標準条件(25℃、1気圧)下での反応器への(水素/原料)容積比は、典型的には、無色透明樹脂100〜200については、約20〜200の範囲であろう。
【0059】
本明細書に記載される触媒を用いるのに適用可能なプロセス条件は、処理される原料材によって、広く異なってもよい。従って、原料材の沸点が増大するにつれて、条件の過酷度もまた、増大するであろう。次の表(表1)は、原料範囲に対する典型的な条件を示すものである。
【0060】
【表1】
【0061】
本明細書に記載される本発明は、水素化脱窒素に対する活性の増大を示すものの、殆どのHDN触媒はまた、水素化脱硫(HDS)および水素添加の活性を示すであろう。従って、本明細書に記載される触媒およびプロセスは、窒素および硫黄の両者を含む原料に対して有用であろう。これは、特に窒素が高い原料に対して有用であろう。
【0062】
次の実施例は、本発明を説明するものであるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1−触媒前駆体の合成
バルクCoMo触媒を、本発明の実施形態の制御された加熱プロセスによって調製した。1MのMo水溶液を、適切量のヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物(AHM)を蒸留水に溶解することによって調製した。1MのCo水溶液をまた、適切量の酢酸コバルト4水和物を蒸留水に溶解することによって調製した。4.5Mのグリオキシル酸溶液を、50%グリオキシル酸水溶液を、蒸留水で1:1稀釈することによって調製した。
【0064】
混合物を、適切量の上記三つの溶液を一緒に混合することによって調製した。得られた溶液は、赤味色を有した。溶液の(Mo/Co)比は、2:1であった。二つのバルク触媒前駆体混合物を調製した。一つの触媒前駆体混合物は、(グリオキシル酸/(Mo+Co))モル比4.8を有し、これを、触媒前駆体Aと名付けた。触媒前駆体Bと名付けられた第二の触媒前駆体混合物を調製した。これは、(グリオキシル酸/(Mo+Co))モル比6を有した。触媒前駆体混合物を、55℃で約4時間、次いで120℃で更なる約4時間加熱した。各触媒前駆体の結果は、黒色粘稠物質であった。黒色粘稠物質を、次いでそれが凝固する室温へ冷却した。凝固された黒色物質を、粉末へ粉砕し、管状加熱炉に入れた。その際、温度は、約室温から約325℃へ1時間で傾斜された。触媒前駆体組成物を、次いで、空気中、温度約325℃で約4時間加熱した。
【0065】
二つの触媒前駆体粉末の試料を、めのう乳鉢および乳棒を用いて微粉に粉砕した。前駆体粉末の一部を硫化して、触媒粉末が製造された。
【0066】
BET表面積および炭素含有量を、触媒前駆体Aおよび触媒前駆体Bの触媒前駆体組成物について、同様に有機酸を用いることなく、類似に調製されたCoMo触媒前駆体(比較触媒1)について測定した。結果を次の表2に示す。X線回折は、本発明のバルク触媒前駆体の両試料は、性質が非晶質であり、大きな粒子の結晶化相が存在する場合にXRDに典型的に観察される長距離秩序を示さないことを示した。比較触媒1のX線回折パターンは、結晶化MoO3およびCoMoO4を示した。これは、典型的には、水素化プロセスに望ましくない触媒前駆体とみなされる。本発明の触媒前駆体内の残留炭素は、CoMo酸化物の結晶化を阻害し、そのためにCoMo酸化物の結晶はいずれも、存在しないか、または結晶質特性を、XRDスペクトルに殆どまたは全くもたらさない小結晶として存在すると考えられる。
【0067】
【表2】
【0068】
上記の表2から、バルクCoMo−6−GlyおよびCoMo−4.8−Gly触媒前駆体は、比較的低い表面積を有することが理解されることができる。特に、触媒前駆体CoMo−4.8は、表面積1m2/g未満を有する。加熱後、本発明の両触媒前駆体は、かなりの量の炭素約22〜24wt%を含む。本発明の触媒前駆体の炭素含有量は、触媒が経験した加熱条件の関数である。即ち、加熱プロフィルの時間および温度、同様に(グリオキシル酸/(Mo+Co)金属)比である。バルクCoMo触媒前駆体の炭素含有量は、これらの前駆体におけるCoMoの形態、および硫化触媒について、得られた水素化脱硫触媒の活性に影響を与える。
【0069】
実施例1B−更なる触媒前駆体合成例
ヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物および酢酸コバルト4水和物の1M溶液を、更なる触媒前駆体を形成するのに用いた。AHM5.7wt%、酢酸コバルト4.0wt%、およびグリオキシル酸17.3wt%を含む溶液を、適切量の1MのMoおよびCo溶液と、グリオキシル酸25wt%を含む溶液とを混合することによって形成した。(R/(Co+Mo))モル比は、4.8であった。加熱後、固体に対する溶液の収率は、約8.6%であった。
【0070】
別個に、AHM12.8wt%、酢酸コバルト9.1wt%、およびグリオキシル酸39.1wt%を含む溶液を、適切量の1MのMoおよびCo溶液と、グリオキシル酸50wt%を含む溶液とを混合することによって形成した。(R/(Co+Mo))モル比は、4.8であった。加熱後、固体に対する溶液の収率は、約19.4%であった。
【0071】
実施例1C
この実施例は、バルク三元金属NiCoMoの合成に関する。バルク三元金属NiCoMo触媒を、本発明の制御された加熱プロセスによって調製した。200mgのNiO、200mgのCo(OH)2、および1gのH2MoO4を、それぞれ、別容器の水に溶解/懸濁した。50wt%グリオキシル酸溶液を、各容器へ添加し、それにより各容器中の酸濃度は、15wt%であった。Ni、Co、およびMo溶液を組合せ、6mlの30wt%H2O2を組合せ溶液へ添加した。試料を、250℃で4時間加熱して、バルク三元金属NiCoMo触媒前駆体が得られた。
【0072】
実施例2−触媒前駆体の特性化
X線回折(XRD)分析を、本発明の実施形態に従って合成されたCoMoベースの触媒について行った。得られたXRDスペクトルを、図1に示す。図1に示されるように、CoMoベースの触媒前駆体は、非晶質XRDスペクトルを有する。CoMo触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分は、結晶化過程を阻害し、検知可能な結晶質相を有さないCoMo触媒前駆体がもたらされると考えられる。本発明の別の実施形態においては、結晶質相は、触媒前駆体中に、しかし触媒前駆体のほんの一部として検知されてもよく、いくらかの結晶質特性およびいくらかの非晶質特性を有するXRDスペクトルがもたらされる。これは、有機錯化剤を用いることなく調製されたが、他の点では本発明の触媒前駆体と類似に調製されたバルクCoMo物質(比較触媒1)のXRDスペクトルと対照的である。バルク比較CoMo物質のXRDスペクトルは、結晶形態を示し、これには、MoO3およびCoMoO4を表すと思われるピークが含まれる。
【0073】
実施例3−触媒前駆体の昇温酸化
昇温酸化(TPO)の検討を行って、実施例1の触媒Aに対する手順に従って合成された触媒前駆体について、有機化合物ベースの成分の特質が理解された。図2−aには、触媒前駆体は、触媒前駆体が650℃への昇温に付された際に、重量約30wt%を失うことが示される。図2−bには、触媒前駆体の試料から生成された生成物の質量分析特性が、温度の関数として示される。TPOの検討中に生成される主な生成物は、CO2およびH2Oであった。図2−aおよび図2−bに基づいて、650℃では、全ての炭素が、触媒前駆体の試料から除去されていると考えられる。TPOの検討では、実施例4に記載される昇温還元の検討との組合せで、有機化合物ベースの成分は、少なくとも炭素、水素、および酸素から構成されることが示される。
【0074】
実施例4−触媒前駆体の昇温還元
図3には、実施例1の触媒前駆体Aに対する手順に従って合成された触媒前駆体について、昇温還元分析(H2−TPR)からの結果が示される。H2−TPR分析は、5%H2/He雰囲気中、温度変化速度10℃/分で行われた。H2−TPRの検討の結果を、図3−aおよび3−bに示す。図3−aには、熱重量分析によって測定された全重量減が示される。試料が700℃に達する時まで、前駆体試料の重量のほぼ40%が除去された。図3−bに示されるように、この重量損失は、前駆体試料から放出されるH2O、CO2、およびCOの形態にある。試料から放出される種は、有機化合物ベースの成分の除去、および/またはいくらかの金属酸化物のより低い酸化状態への転化を表すと考えられる。
【0075】
また、図2−a、2−b、3−a、および3−bには、有機化合物ベースの成分の除去は、400℃近くの温度が達成されるまで最小であることが示されることに注目されたい。これに基づいて、触媒前駆体の硫化は、これはまた還元環境で生じるが、温度約400℃未満、好ましくは約350℃未満で起こるべきであることが好ましい。例えば、ある好ましい硫化温度は、約325℃である。
【0076】
実施例5−触媒の特性化
触媒前駆体Aに類似の本発明のバルク触媒前駆体を、バルク硫化に付した。高度に活性な物質が得られた。図4には、調製された触媒前駆体のX線回折パターン、硫化後の対応する触媒、並びにAHMおよびH2Sから直接作製されたバルクMoS2の比較スペクトルが示される。図4には、硫化物質は、バルクMoS2の明確な回折ピークに比較して、実質的に非晶質であるか、および/またはXRDの分解能に関して小さな粒子のみを含むことが示される。これは、硫化触媒のTEM顕微鏡写真と一致する。これは、小さな結晶サイズを示す。これらの小さな結晶は、金属硫化物を表し、恐らくはまた金属炭硫化物を含むと考えられる。別の実施形態においては、本発明の硫化触媒の少なくとも一部は、XRDによって検知可能な結晶質特性を有することができる。これらの実施形態においては、得られたXRDスペクトルは、いくらかの結晶質特性およびいくらかの非晶質特性を有してもよい。
【0077】
実施例6−触媒前駆体の硫化
実施例1の手順に従って、触媒前駆体Aに類似の触媒前駆体が生成された。この触媒前駆体を、次いで、本発明の実施形態の液相硫化手順によって硫化した。図5には、得られた硫化触媒のTEM顕微鏡写真およびスタック高さ分析が示される。TEMデータには、硫化触媒のMoS2スタックについて、平均スタック高さ約1.5が示される。
【0078】
図6−aおよび6−bには、二つの更なるタイプの硫化触媒について、TEMデータが示される。図6−aおよび6−bに対応する触媒を、ガス相硫化プロセスを用いて調製して、触媒前駆体Aに類似の方法で調製された触媒前駆体が硫化された。図6−aに対応する触媒は、触媒前駆体を、10%H2S/H2中232℃で18時間硫化し、引続いて321℃で更なる12時間硫化することによって調製された。図6−bに対応する触媒は、10%H2S/H2中600℃で4時間硫化された。
【0079】
ガス相硫化触媒のTEMデータは、図6−aの触媒について、平均測定スタック高さ1.6、および図6−bの触媒については2.2を示す。加えて、図6−aおよび6−bに示されるガス相硫化触媒は、図5に示される試料より不均質であると思われる。この効果は、図6−bの触媒(より高い温度で硫化された)について、より顕著である。
【0080】
実施例7−硫化触媒の昇温酸化
図7には、本発明の実施形態に従って調製された硫化触媒について、TPOの検討からの結果が示される。硫化触媒を、触媒前駆体Aに類似の触媒前駆体の液相硫化によって調製した。CO2およびSO2のピークは、いずれも、温度範囲400〜600℃にあることに注目されたい。いかなる特定の理論にも縛られることなく、この温度範囲においては、バルクCoMoS2は、吸熱的に、SO2を放出してCo酸化物およびMo酸化物へ転化すると考えられる。SO2と同じ温度窓におけるCO2の放出は、炭硫化物相(例えば、CoMoSxCy)の形成と一致する。その際、炭素は、構造的に、硫化物相の一部である。また、H2Oは、高温で放出され、有機化合物ベースの成分の残りの部分または表面SH基のいずれかと結合されてもよいことに注目されたい。
【0081】
実施例8−加熱工程の変型
触媒前駆体を、触媒前駆体Aに類似に調製した。但し、異なる加熱工程を、四種の異なる試料について、四種の異なる雰囲気中−空気、窒素、混成(空気および窒素の混合)、および空気流なし(静的加熱)−で行った。混成雰囲気の加熱においては、加熱炉を、窒素雰囲気中で、約室温から約325℃へ1時間で傾斜させ、窒素下に、325℃で更に2時間保持し、次いで雰囲気を、徐々に、約2時間で空気へ切替えた。最終的な処理を、空気中325℃で、2時間行った。表面積および炭素含有量を、各試料について測定した。結果を、次の表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
上記の表3から、バルクCoMo触媒前駆体は、比較的低い表面積を有することが分かる。空気中で加熱されたバルクCoMo触媒前駆体(表面積10m2/g未満を有する)を除いて、他の触媒前駆体は、表面積1m2/g未満を有する。空気、窒素、混成(空気および窒素の混合物)、および/または空気流なし(静的雰囲気)における加熱の後に、全ての触媒前駆体は、実質量の炭素(約22〜23wt%)を含む。
【0084】
実施例9−水素化脱流および水素化脱窒素
図8には、本発明の実施形態に従って調製されたCoMo触媒、および商業的に入手可能な触媒について、相対水素化脱硫活性が示される。商業的に入手可能な触媒は、Albemarle Catalysts Company LP(Houston、TX.)から入手可能なKetjenfine(登録商標)757(KF−757(商標))触媒である。KF−757(商標)触媒は、アルミナ担体に担持されたCoおよびMoから構成される。本発明のCoMo触媒は、触媒前駆体Aの方法に類似の方法によって調製された触媒前駆体を硫化することによって調製された。しかし、この実施例に用いられた触媒前駆体は、325℃で、空気でなく窒素の存在下に加熱された。図8のデータに対応する水素化脱硫処理は、圧力220psigで行われた。図8に示されるように、本発明のバルク金属触媒の相対活性は、KF−757(商標)触媒の活性のおよそ2倍である。
【0085】
図9には、水素化脱窒素活性について、本発明の触媒およびKF−757(商標)の類似の比較が示される。本発明の触媒はまた、KF−757(商標)に比較して、2倍の水素化脱窒素活性を示す。図9に対応する処理はまた、220psigで行われた。
【0086】
図10には、500psigで行われた水素化処理について、本発明の触媒およびKF−757(商標)の水素化脱硫および水素化脱窒素の両活性の比較が示される。図10に示されるように、このより高い圧力においては、本発明の実施形態の触媒は、500psigにおける水素化脱硫について、KF−757(商標)に比較して、類似の活性評価を示し、また500psigにおける水素化脱窒素については、5倍を示す。
【0087】
更なる実施例においては、低いH2圧力における相対活性を、本発明の触媒(実施例1の触媒Aに対応する)について、KF−757(商標)に対して決定した。水素化された原料材を、三相反応器中、329℃、200psigH2、および700SCF/BのH2で処理した。当初の水素化された原料材、および処理された原料材の特性を、次の表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示されるように、本発明の触媒は、より高いHDSおよびHDN活性を示し、一方芳香族の飽和量は低減される。再度、低減された芳香族飽和は、水素化中の全水素消費を低減するという観点から、有利な特質である。
【0090】
同じタイプの触媒をまた、中圧における水素化について比較した。T95値773゜F(412℃)を有する直留原料材を、三相反応器中、329℃、500psigH2、および700SCF/BのH2で処理した。当初の原料材および処理された原料材に関する更なる詳細を、次の表5に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
表5に示されるように、本発明の触媒は、商業触媒より高いHDSおよびHDN活性を、水素消費の適度な増大のみで示した。
【0093】
実施例10−有機含有量に比較した活性の特性化
図11には、変動量の有機錯化剤を用いてもたられたバルクCoMo触媒の相対活性が示される。図11のデータは、種々の触媒前駆体を、グリオキシル酸を有機錯化剤として用いてもたらすことによって作成された。図11に示されるように、(有機錯化剤/金属)比約2未満:1を有する触媒前駆体は、実質的により低い活性を有する触媒をもたらす。(有機錯化剤/金属)比約2超:1(好ましくは、約3超:1)を有する触媒は、比約2未満:1を有する触媒の活性より、4〜6倍大きな相対活性を示す。
【0094】
実施例11−加熱プロフィルに基づく前駆体組成の変化
図12および13には、グリオキシル酸を用いて調製され、異なる加熱プロフィルに暴露されたバルクCoMo前駆体のTPOの検討が示される。図12においては、試料a)は、空気流中、80℃で14.5時間加熱された。試料b)は、空気流中、250℃で4時間加熱された。試料c)は、空気中、325℃で4時間加熱された。図13においては、試料d)は、N2中、400℃で4時間加熱された。試料e)は、N2中、500℃で4時間加熱された。試料f)は、N2中、600℃で4時間加熱された。
【0095】
図12および13には、異なる加熱プロフィルで、昇温に暴露された触媒前駆体について、TPO中に除去されることができる物質の減少量が示される。図から分かるように、80℃へ加熱されたCoMo触媒前駆体物質は、重量減およそ70wt%を示す(図12、a)。空気またはN2(図示せず)中250℃で4時間加熱された触媒前駆体試料は、重量減およそ60%を有した(図12、b)。TPOの検討前に、更により高い温度325℃に暴露された試料は、重量減およそ30〜40wt%を示した(図12、c)。更なる温度増大約400〜約600℃は、図13に示されるように、有機物質の更なる減少を導く。図13に示されるように、触媒前駆体を、空気の存在下に、TPO前に550℃以上へ加熱することは、TPOの検討中に重量を減少しない触媒前駆体をもたらした。これは、有機物質の完全な除去が、空気中550℃への加熱中に起こったことを示す。しかし、類似の加熱プロフィル下では、窒素雰囲気に暴露された触媒は、TPOの検討中にいくらかの重量減を示した。窒素雰囲気中600℃で加熱された触媒についてさえ、図13には、有機物質が、完全に除去されなかったことが示される。これは、窒素(他の不活性)雰囲気下での加熱は、有機物質の分解を、より良好に制御することができることを示す。より一般には、TPOの検討に基づいて、触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分の量は、触媒前駆体に付される加熱条件を制御することによって制御されることができると思われる。
【0096】
試料から放出された生成物をまた、図12および13で示されたものに類似のTPOの検討について、質量分析法を用いて特性化した。図14には、検討a)〜c)に類似の条件下で、しかし空気雰囲気の替わりにN2雰囲気を用いて処理されたバルクCoMo触媒前駆体について、TPO中のH2Oシグナルの出現が示される。図15には、同じ試料について、CO2の出現が示される。
【0097】
図14および15には、試料a)に類似に調製された前駆体は、検知可能量の水およびCO2を、200℃未満で放出したことが示される。いかなる特定の理論にも縛られることなく、H2OおよびCO2の放出は、80℃の加熱処理後に、前駆体中に存在する吸着された吸着水分子および過剰のグリオキシル酸に起因されることができると考えられる。N2中250℃での熱処理後には、H2OおよびCO2の放出は、予期されるであろうように、失われる。250℃超においては、観察されるH2OおよびCO2の放出は、80℃の加熱処理を有する試料に対するH2OおよびCO2の放出に類似であった。N2中325℃へ加熱された試料はまた、このパターンに追従した。325℃未満では放出は最小またはゼロであり、残りの温度範囲については他の試料に類似の放出であった。特に、全ての試料によって放出されたCO2の大部分は、600℃近傍の温度におけるものであった。いかなる特定の理論にも縛られることなく、600℃近傍におけるCO2のこの放出(およびH2Oスペクトルの対応するピーク)は、グリオキシル酸または得られるグリオキシル酸ベースの成分の一部が、金属部位との強い相互作用または結合を有したことが考えられる。類似の結果は、空気中で熱処理された試料について観察された。
【0098】
上記のTPOの検討に基づいて、いくつかの実施形態においては、触媒前駆体を、温度約200℃超〜250℃へ暴露することが好ましくてもよい。これらの熱処理は、触媒前駆体からの水および有機物質の初期破烈を除くと考えられる。これは、後の処理または使用に有利であることができる。別の実施形態においては、TPOの検討は、他の有機錯化剤を用いて調製された触媒前駆体について行われることができ、水および有機物質の初期量の出現温度の温度差が同定される。他の実施形態においては、触媒前駆体は、温度約450℃未満で保持されて、強固に相互作用するグリオキシル酸またはその成分の分解が回避されるべきである。当業者には、この温度はまた、選択された有機錯化剤の特質によって異なり得ることが理解されるであろう。
【0099】
図16には、異なる雰囲気(即ち、空気流、静的空気、窒素/空気、および窒素流)中325℃で熱処理した後に、グリオキシル酸を用いて調製されたバルクCoMo触媒前駆体の更に他のTPOが示される。図16には、異なる雰囲気下に得られたバルクCoMo触媒前駆体の重量減(TPO中)は、熱処理が起こる雰囲気によって、強くは影響を及ぼされないことが示される。類似の重量減が、全四種の触媒前駆体について観察された。これは、同じ熱処理温度(325℃)で得られた。温度325℃超では、重量減は、触媒前駆体の加熱中に存在する雰囲気によって影響を及ぼされることができる。
【0100】
一般に、TPOの結果(図12〜16)は、上記の表2に示される炭素分析およびBET表面積測定と一致する。
【0101】
実施例12−更なる触媒前駆体の特性化
図17には、空気およびN2中325℃で熱処理されたバルクCoMoC物質のDRIFTSスペクトルが示される。拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS)スペクトルは、液体N2−冷却MCT検出器を装備されたニコル[Nicolet]670FTIR分光計で収集された。スペクトルは、分解能8cm−1で記録された。バルクCoMoの粉末試料を、ZnSe窓を装着された制御雰囲気のDRIFTSセル(Thermo Spectra Tech)に充填した。セルを、乾燥されたHeおよび他のガス中に原料供給することができるガス系に接続した。プログラム加熱炉を、試料の温度を制御するのに用いた。典型的には、調製されたままの試料を、He中120℃(2℃/分)で処理し、1時間保持して、試料が乾燥された。
【0102】
FTIRによって示されるように、触媒前駆体中に存在する有機化合物ベースの成分は、類似である。アルデヒドおよび酸基のC=O振動特性は、1700〜1900cm−1に観察され、一方カルボキシル基のOCO振動特性は、1400〜1650cm−1に見られることができる。C=O振動のシフトは、金属部位(例えば、Coおよび/またはMo部分)と有機錯化剤(例えば、グリオキシル酸)の官能基(例えば、アルデヒドおよびカルボン酸)との錯化に起因されることができる。脂肪族CH2(1970〜2880cm−1)およびニトリル/イソシアネート(2200〜2191cm−1)などの他の種が明示される。また、芳香族タイプの種=CH(3100cm−1)および−OHタイプの基(3300cm−1)も明示される。種々の表面の種は、有機酸(または錯化剤)と結合され、金属部位との錯体が形成される。新規な表面の種を熱活性化中に製造する化学変換もまた、起こってもよい。例えば、ニトリル/イソシアネートの存在は、グリオキシル酸とのNH3反応によって説明されることができる。NH3は、モリブデン前駆体に存在するアンモニウムカチオンの分解中に形成されることができる。
【0103】
図18には、熱処理の異なる段からのバルクCoMo物質のDRIFTSスペクトルの比較が示される。図17に示されるように、触媒前駆体に観察される重要な特徴は、325℃への全加熱過程を通して存在すると思われる。これは、加熱工程前に有機酸および金属の間に形成された錯体が、試料が325℃で熱処理された際に、安定であるかまたは殆ど保持され、それを通して、H2OおよびCO2の放出(図14および図15に示される)があることを示す。
【0104】
図19には、空気およびN2下に325℃で熱処理されたバルクCoMo触媒前駆体の13CNMRスペクトルが示される。図19に示される13CNMRデータは、有機錯化剤(例えば、グリオキシル酸)と金属との錯化の更なる証拠を示す。13CNMRスペクトルは、マジック角度回転(MAS)の条件下に記録されて、化学シフトの異方性およびいくつかの双極子相互作用が回避された。脂肪族CH2−タイプの炭素は、化学シフト範囲0〜40ppmに現れる。C−N−タイプの炭素はまた、15〜60ppmに観察されることができる。アルデヒド基のC=Oは、190〜220ppmに観察され、一方カルボン酸基のC+Oは、170〜180ppmに観察される。芳香族炭素は、標準的には、120〜160ppmに観察される。加えて、C−OおよびC−N基の炭素は、一般に、およそ40〜80ppmで観察される。これらの結果は、FTIRデータと整合し、金属とグリオキシル酸官能基との錯化によって説明されることができる。
【0105】
図20には、金属が、グリオキシル酸または他のカルボン酸と錯化し得る様子の可能な形態が示される。本発明の有機錯化剤(例えば、グリオキシル酸)は、金属を、一座、二座、または架橋方式で結合してもよい。錯体の構造は、有機錯化剤の特質、および錯化が水溶液中で形成することができる場合には溶液の酸性度(pH)に従って、異なってもよい。図20には、これらの錯体形成の限定された例が示される。
【0106】
図21には、触媒前駆体が、昇温酸化の検討で、より高い温度の加熱処理に暴露された際に、空気中325℃で熱処理されたバルクCoMo触媒前駆体のラマンスペクトルが示される。図21の一番上のスペクトルは、空気の存在下に300℃で暴露されたバルク触媒前駆体に対応する。このスペクトルは、恐らくは、いくつかの無秩序なCoMoO4を示すか、またはさもなければ、結晶質酸化物を全く示さない。次のスペクトルは、450℃に暴露された触媒前駆体を示す。CoMoO4のシグナル強度は、このスペクトルでは、より強い。これは、炭素質のまたは有機化合物ベースの物質の除去によるCoおよびMoの凝集の始まりを表すと考えられる。550℃では、過剰のMoが凝集し始めつつあって、MoO3相が、触媒前駆体内に形成される。これは、前駆体からの炭素質物質の更なる減少によるものと考えられる。最終的に、600℃で、実質的に主要量の炭素質物質が除去されている。この点では、結晶質のMoO3相およびβ−CoMoO4相が、明らかに、スペクトル中に認められる。これは、星印(*)ピークによって示される。
【0107】
このラマンの結果は、図14および図15と一致し、強く相互作用するグリオキシル酸またはその成分は、温度が450℃超である場合に分解し始める。それはまた、図22に示されるX線回折(XRD)の結果と一致する。
【0108】
図22には、バルクCoMo触媒前駆体(空気中325℃での熱処理により形成される)、および同じ試料(空気中600℃で4時間加熱される)の間のXRD結果の比較が示される。325℃へ加熱された触媒前駆体(図面のプロットa)に対応する)については、識別可能な結晶質相は、XRDによって検知されなかった。対照的に、より高温の処理試料(600℃、実質的に主要量の炭素質物質は、触媒前駆体から除去されている)のXRDは、明確な結晶質組織を示す。XRDスペクトルの結晶質ピークは、MoO3(*で明示される)およびCoMoO4結晶質相に起因される。
【0109】
実施例13−(有機/金属)比の変動
実施例1および1Bからの溶液に類似の一連の前駆体溶液を、(R/(Co+Mo))比を変えて形成した。全ての試料を、1MのCo酢酸、1MのAHM、および4.5Mのグリオキシル酸を用いて調製した。次の表に、調製された溶液が、得られた触媒前駆体の特性化データと共に示される。BET表面積の測定については、脱ガス手順を、ヘリウム中200℃で行ったことに注目されたい。熱重量分析(TGA)を、空気中で、室温から600℃以下まで行った(昇温速度10℃/分)。次の表6に示される全ての試料は、非晶質のXRDパターンをもたらした。
【0110】
【表6】
【0111】
上記表の前駆体を、次いで硫化し、相対水素化脱硫活性について比較した。図23には、(グリオキシル酸/金属)比約4以上で形成された前駆体は、対応する硫化触媒でより良好な水素化脱硫活性を示したことが示される。
【0112】
他の有機錯化剤については、向上された反応性を達成するのに必要な有機錯化剤の量は、(有機錯化剤/金属)比0.5以上、1.0以上、2.0以上、3.0以上、4.0以上、または5.0以上であってもよい。
【0113】
実施例14−固体混合物からの調製
請求発明の触媒前駆体はまた、固体混合物から調製されることができる。次の実施例においては、触媒前駆体は、酢酸コバルト、AHM、およびグリオキシル酸一水和物の固体を混合し、粉砕することによって調製された。第一の実施例については、粉砕された混合物を、次いで、325℃で4時間焼成した。これは、XRD分析で、一部が結晶化された相を示した。他の調製においては、粉砕後、混合物を、オートクレーブに、温度80℃または95℃のいずれかで24時間入れた。前駆体を、次いで、325℃で4時間焼成した。得られた触媒前駆体は、主に非晶質のXRDパターンを有した。更に他の調製においては、混合された固体を、水ミストの存在下に粉砕し、次いで焼成した。粉砕中の水ミストは、水概略10wt%を混合された固体へ加えた。これは、実質的に非晶質のXRDパターンを有する前駆体をもたらした。種々の前駆体を、次の表7に記載する。
【0114】
【表7】
【0115】
実施例15−種々の有機物を用いるバルクCoMo−C試料
触媒前駆体を、次の表に示される有機物を、グリオキシル酸の替わりに用いて調製した。或いは、前駆体を、実施例1の方法に従って調製した。(有機物/金属)比は、各実施例で4.8である。但し、第二のケトグルタル酸の例については、比は2.4であった。酢酸およびギ酸は、得られる前駆体の低い炭素含有量により、比較例を表すことに注目されたい。
【0116】
【表8】
【0117】
実施例16−有機酸の混合物からのバルクCoMo−C試料
本発明の酸性触媒前駆体はまた、有機錯化剤の混合物(有機酸の混合物など)を用いて調製されることができる。例としては、触媒前駆体は、有機錯化剤として、グリオキシル酸およびピルビン酸の組合せを、酢酸コバルトおよびAHMと共に用いることによって調製された。混合物を、減圧下60℃で終夜、次いで空気中120℃で、最終的にN2中400℃で4時間乾燥した。Co/Moの相対量は、1:2で保持された。各前駆体の(全有機錯化剤/全金属(Co+Mo))は、4.8であった。混合された有機錯化剤中に用いられた(グリオキシル酸/ピルビン酸)比を表に示す。表に記載される試料はそれぞれ、非晶質のXRDパターンをもたらした。
【0118】
【表9】
【0119】
実施例17−芳香族選択性
4,6−ジエチルジベンゾチオフェン(DEDBT)は、水素化脱硫中に芳香族を保全する選択性を検討するのに用いられることができるモデル化合物である。4,6DEDBTが水素化脱硫された場合には、二つの主な生成物が形成される。
【化1】
【0120】
C4CHB生成物は、形成するのに、より多くのH2を必要とし、従って処理の点からは、あまり望ましくない。C4CHB化合物よりも、C4BP化合物を形成するのに有利な触媒が好ましい。触媒の選択性は、(wt%C4CHB/wt%C4BP)比で表されることができる。
【0121】
本発明に従って作製された触媒の相対的な芳香族選択性を、商業的触媒に対して調査するために、モデル化合物の検討を行った。ドデカンモデル原料材を、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン(4,6DEDBT)1.5wt%でスパイクした。原料材を、三相反応器中で、265℃、250psigH2、およびH2流速650SCF/Bで処理した。原料材を、実施例1の触媒Aに対応する触媒の存在下に、および別に、KF−757(商標)(Albemarle Catalysts Companyによって作製された商業的に入手可能な触媒)の存在下に処理した。原料および生成物を、GC−質量分光法を用いて分析した。本発明に従って処理された原料材は、(C4CHB/C4BP)比9を有し、一方KF−757(商標)で処理された原料材は、比25を有した。これは、本発明の触媒は、直接脱硫(即ち、C4BPの形成)を導く反応経路に対して、より良好な相対活性を示したことを示す。
【0122】
実施例18−触媒前駆体および硫化触媒中の保持炭素
触媒前駆体および硫化触媒中の有機化合物ベースの成分は、触媒の向上された活性を保持するのに重要であると考えられる。図24には、硫化前に種々の温度で焼成された触媒前駆体の相対HDS性能が示される。図24においては、温度775゜F(413℃)で焼成された触媒前駆体は、参照KF−757(登録商標)触媒の活性の概略200%の活性を示す。好ましくは、触媒前駆体は、温度約625゜F(329℃)〜約775゜F(413℃)で焼成されることができる。前駆体の焼成に対する温度825゜F(440℃)超の場合には、炭素含有量は、追出されてもよく、より低い活性(示される)がもたらされる。
【0123】
炭素はまた、硫化後、本発明の触媒中に保持される。次の表には、硫化前の触媒前駆体、およびH2S/H2による液相硫化(500psig)後の触媒について、炭素含有量が示される。
【0124】
【表10】
【0125】
炭素が、硫化後に保持されることの更なる証拠は、触媒前駆体および対応する硫化触媒の13CNMRによって示されることができる。図25には、硫化前後の本発明の触媒について、全体的に類似の13CNMRプロフィルが示される。領域約170〜230ppm(アルデヒドおよび酸の官能性からのC=Oの特性)、および領域約40〜80ppm(C−Oの特性)における13CNMRの変化は、硫化中の硫黄原子による酸素原子の置換と一致することに注目されたい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク金属触媒、並びに少なくとも一種の第VIII族金属および少なくとも一種の第VIB族金属を含んでなる、対応する触媒前駆体に関する。この触媒は、第VIII族および第VIB族金属を含む試薬(金属塩など)が、少なくとも一種の有機錯化剤(有機酸など)と混合される方法によって調製される。得られた混合物は、加熱され、硫化される。この触媒は、炭化水素原料材の水素処理、特にその水素化脱硫および水素化脱窒素に用いられることができる。
【背景技術】
【0002】
次第に厳しくなる環境規制により、輸送燃料の硫黄含有量のかなりの低減が求められるであろう。例えば、この十年後までには、留出油燃料の最大硫黄レベルは、欧州および日本で10wppm、および北米で15wppmへ制限されるであろう。これらの超低硫黄の要求を、既存製油所の高価な改造なしに満たすためには、低中圧で、非常に高い脱硫活性を、特に留出油燃料に対して有する新世代の触媒を設計することが、必要であろう。
【0003】
一つの手法では、ヒドロタルサイト関連の化合物の種類(例えば、モリブデン酸アンモニウムニッケル)が調製されている。X線回折分析は、ヒドロタルサイトが、陽荷電されたシート層状相、およびシート間の通路に配置されるイオン交換可能なアニオンから構成されることを示すものの、関連するモリブデン酸アンモニウムニッケルの相は、モリブデン酸塩アニオンを、ニッケルオキシヒドロキシドに結合された層間通路に有する。例えば、非特許文献1を参照されたい。これらの物質の調製はまた、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5に報告されている。
【0004】
他の手法は、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に開示される。これは、硫黄を留出油燃料から除去するためのバルク第VIII族/第VIB族三元金属触媒の種類に関する。好ましい三元金属触媒は、Ni−Mo−Wを含んでなり、種々の触媒前駆体化合物から調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,162,350号明細書
【特許文献2】米国特許第6,652,738号明細書
【特許文献3】米国特許第6,635,599号明細書
【特許文献4】米国特許第6,534,437号明細書
【特許文献5】米国特許第4,557,821号明細書
【特許文献6】米国特許第3,297,563号明細書
【特許文献7】米国特許第2,912,375号明細書
【特許文献8】米国特許第2,700,015号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Levin,D.、Soled,S.L.、およびYing,J.Y.「化学沈殿によって調製されたモリブデン酸アンモニウムニッケルの結晶構造(Crystal Structure of an Ammonium Nickel Molybdate prepared by Chemical Precipitation)」(Inorganic Chemistry、第35巻、第14号、4191〜4197頁、1996年)
【非特許文献2】TeichnerおよびAstier(Appl.Catal.、第72巻、321〜29頁、1991年)
【非特許文献3】TeichnerおよびAstier(Ann.Chim.Fr.、第12巻、337〜43頁、1987年)
【非特許文献4】TeichnerおよびAstier(C.R.Acad.Sci.、第304(II)巻、第11号、563〜6頁、1987年)
【非特許文献5】Mazzocchia(Solid State Ioics、第63〜65号、第731〜35頁、1993年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述される触媒のいくつかは、種々の程度の成功を収めたものの、超低レベルの硫黄を有する輸送燃料を、特に低圧水素処理(例えば、水素分圧500psig未満または1000psig未満)で製造するための更により活性な触媒が、当該技術分野において依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態においては、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機化合物ベースの成分約10wt%〜約60wt%を含み、BETに基づいて、表面積16m2/g以下、好ましくは10m2/g以下を有するバルク金属触媒前駆体組成物が提供される。他の実施形態においては、上記のバルク金属触媒前駆体組成物を硫化することによって形成される硫化触媒が提供される。
【0009】
更に他の実施形態においては、バルク金属第VIII族/第VIB族触媒前駆体を調製するための方法が提供される。本方法には、少なくとも一種の第VIII族金属試薬および少なくとも一種の第VIB族金属試薬を、少なくとも一種の有機錯化剤と共に組合せ、それにより混合物を形成する工程が含まれる。混合物は、温度約250℃〜約450℃へ加熱されて、炭素少なくとも10wt%を含む触媒前駆体が形成される。触媒前駆体は、次いで、硫化条件下に硫化されて、炭素少なくとも10wt%を含む硫化触媒が形成される。
【0010】
更に他の実施形態においては、炭化水素原料材を水素処理するための方法が提供される。本方法には、前記炭化水素原料材を硫化バルク金属触媒と接触させる工程が含まれ、その際硫化バルク金属触媒は、触媒前駆体を硫化することによって形成され、触媒前駆体は、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機化合物ベースの成分約10wt%〜約60wt%を含み、触媒前駆体組成物は、BETに基づいて、表面積16m2/g以下、好ましくは10m2/g以下を有する。
【0011】
更に他の実施形態においては、触媒前駆体組成物が提供され、この触媒前駆体組成物には、第VIII族金属、第VIB族金属、炭素、および酸素が含まれ、炭素含有量は、約10wt%〜約25wt%であり、(第VIII族金属/第VIB族金属)比は、約0.2〜約0.6であり、組成物の表面積は、約10m2/g以下である。
【0012】
更に他の実施形態においては、バルク金属触媒が提供され、このバルク金属触媒は、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機化合物ベースの成分少なくとも約10wt%を含み、その際第VIB族金属の少なくとも一部は、金属硫化物のスタックの形態にあり、スタック高さ約1.2〜約2.0を有する。
【0013】
更に他の実施形態においては、上記される触媒の使用方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のバルクCoMo触媒前駆体、および比較例のCoMo触媒のX線回折(XRD)パターンを示す。
【図2−a】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温酸化(TPO)分析に関するデータを示す。
【図2−b】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温酸化(TPO)分析に関するデータを示す。
【図3−a】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温還元(H2−TPR)分析に関するデータを示す。
【図3−b】本発明の実施形態の触媒前駆体について、昇温還元(H2−TPR)分析に関するデータを示す。
【図4】本発明の実施形態の触媒前駆体および硫化触媒について、XRDパターンを示す。
【図5】本発明の実施形態の硫化触媒について、TEMを示す。
【図6−a】本発明の実施形態の硫化触媒について、TEM画像を示す。
【図6−b】本発明の実施形態の硫化触媒について、TEM画像を示す。
【図7】本発明の実施形態の硫化触媒について、TPOの検討に関するデータを示す。
【図8】種々の触媒の水素化脱硫活性のデータを表す。
【図9】種々の触媒の水素化脱窒素活性のデータを表す。
【図10】種々の触媒の水素化脱硫および水素化脱窒素の活性のデータを表す。
【図11】触媒活性を、触媒前駆体を形成するのに用いられる有機錯化剤の量の関数として示す。
【図12】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図13】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図14】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図15】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図16】バルク触媒前駆体の更なるTPOの検討の結果を示す。
【図17】種々の加熱プロフィルに従って加熱された触媒前駆体の検討について、拡散反射フーリエ変換赤外分光法の結果を示す。
【図18】種々の加熱プロフィルに従って加熱された触媒前駆体の検討について、拡散反射フーリエ変換赤外分光法の結果を示す。
【図19】種々の雰囲気中で加熱された触媒前駆体について、13CNMRスペクトルを示す。
【図20】本発明の触媒前駆体中の金属について、可能な錯体の形態を示す。
【図21】種々の加熱プロフィルに付された触媒前駆体について、ラマンスペクトルを示す。
【図22】変化する温度で焼成された触媒前駆体のXRDを示す。
【図23】触媒活性を、触媒前駆体を形成するのに用いられた有機錯化剤の量の関数として示す。
【図24】変化する温度で焼成された触媒前駆体の相対活性を示す。
【図25】触媒前駆体、および硫化後の対応する触媒について、13CNMRプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の触媒は、水素化脱硫(HDS)などの水素処理に典型的に用いられる従来の触媒とは異なる。第VIB族および第VIII族の金属を含む触媒(CoMo触媒など)のHDS活性を向上させるための従来の方法は、第VIB族および第VIII族の活性成分を、アルミナ担体上に析出することである。これにより、活性成分の分散が増大され、更なるHDS活性がもたらされることができる。対照的に、本発明の触媒は、バルク触媒粒子の全重量を基準として、第VIII族金属および第VIB族金属約40wt%〜約90wt%を含んでなる触媒前駆体を加熱することによって形成されるバルク触媒である。金属の重量は、金属酸化物として測定される。触媒前駆体重量の残りは、有機化合物ベースの物質である。実施形態においては、第VIB族金属は、MoまたはWである。他の実施形態においては、第VIII族金属は、CoまたはNiである。更に他の実施形態においては、第VIB族金属はMoであり、第VIII族金属はCoである。更に他の実施形態においては、第VIII族金属は、非貴金属である。
【0016】
X線回折に基づいて、加熱後に、触媒前駆体中の第VIII族金属および第VIB族金属は、主に結晶質酸化物である物質に典型的に見出される長距離秩序を有さないと思われる。むしろ、いくつかの実施形態においては、金属は、触媒前駆体中の有機錯化剤によって錯化されると思われる。金属は、金属および錯化剤が一緒に混合された場合に、有機錯化剤によって錯化される。有機錯化剤は、一つ以上の転化または反応を経て、有機化合物ベースの成分が形成され得ることから、錯体の性質は、一つ以上の加熱工程後に変化し得る。別の実施形態においては、触媒前駆体は、有機錯化剤によって錯化される金属の特性を有することに加えて、いくつかの結晶質またはナノ結晶質の特性(XRDに基づく)を有することができる。
【0017】
この出願の図4に示されるX線回折データは、次の条件下でもたらされた。試料のX線粉末回折分析は、PANalytical,Inc.によって製造され、かつX−Cellerator検知器を装備されたPANalytical X−pert PRO MPDを用いて得られた。2θスキャンは、45kVおよび40mAで、Cuターゲットを用いた。回折パターンは、20°〜70°、および20°〜70°の2θで得られた。ステップサイズは、0.2゜であり、時間/ステップは、480秒であった。この出願に示される残りのX線回折データおよびパターンは、次の条件下でもたらされた。試料のX線粉末回折分析は、Bruker AXSによって製造され、かつVantec−1高速検知器が装備されたBruker D4 Endeavorを用いて得られた。2θスキャンは、Cuターゲットを、35kVおよび45mAで用いた。回折パターンは、2°〜70°の2θで得られた。ステップサイズは、0.01794゜であり、(時間/ステップ)は、0.1秒であった。
【0018】
この出願においては、「非晶質」触媒または触媒前駆体は、X線回折スペクトルに、(ピーク強度/バックグラウンドノイズ)比を決定することによるなどで、スペクトルのバックグラウンドノイズと十分に区別されることができるピークを有する長距離秩序または周期性を欠く触媒または触媒前駆体をいう。ナノ結晶質触媒または触媒前駆体は、いくらかの結晶性を有するが、粒径100nm未満を有する触媒または触媒前駆体をいう。この決定は、上記される条件に従ってもたらされたX線回折スペクトルを用いてなされる。X線スペクトルの広がりは、粒径が小さくなるにつれて、ますます生じる。粒径が<100nmである場合には、広がったピークを有するか、または明らかにピークが存在しないXRDパターンがもたらされるなどである。また、非晶質またはナノ結晶質相には、XRDで分解可能な粒径>100nmを有する結晶質相が含まれることができることもあり得る。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、本発明の種々の実施形態の触媒系の高活性は、非晶質および/またはナノ結晶質成分に起因すると考えられる。
【0019】
実施形態においては、本発明のバルク触媒粒子(触媒前駆体粒子の硫化により形成される)は、非晶質物質の固有のX線回折パターンを有することができる。一般に、第VIII族および第VIB族金属酸化物および/または硫化物の結晶質相に典型的に見出される長距離秩序は、本発明に従って形成されたバルク触媒中に存在しないと考えられる。特に、本発明の触媒および触媒前駆体のXRDスペクトルは、CoMo酸化物の結晶質相を示さないか、或いは、結晶質CoMo酸化物特性をほんのわずかに示すかのいずれかである。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、有機錯化剤および/または得られる有機化合物ベースの成分は、第VIB族および第VIII族金属の酸化物の結晶化を妨害または抑制すると考えられる。長距離秩序を有する結晶質酸化物を形成する代わりに、バルク触媒粒子の少なくとも一部は、有機化合物ベースの成分を有するある種の錯体を含み続ける構造を有すると考えられる。この構造は、XRDによって容易に分解されない長さスケールで、非晶質および/または結晶質であってもよい。錯化の性質は、触媒前駆体に存在する錯化と異なってもよい。加えて、触媒中に存在する金属の少なくとも一部は、錯化された金属または非晶質/小結晶金属酸化物とは異なって、金属硫化物の形態であることができる。
【0020】
金属試薬を有機錯化剤と混合し、次いで加熱および/または混合することによって得られた本発明のバルク触媒前駆体組成物は、約16m2/g以下の比較的小さい表面積(Brunauer−Ernett−Teller法、またはBETによって測定される)を有する。他の実施形態においては、バルク触媒前駆体組成物は、表面積(BETによって測定される)約10.0m2/g未満、約9.0m2/g未満、約7.5m2/g未満、約5.0m2/g未満、約4.0m2/g未満、約3.0m2/g未満、または約2.5m2/g未満を有する。更に他の実施形態においては、バルク触媒前駆体組成物は、表面積少なくとも約0.05m2/g、少なくとも約0.1m2/g、または少なくとも約0.25m2/gを有する。好ましい実施形態においては、バルク触媒前駆体組成物は、表面積約0.1m2/g〜約10.0m2/gを有する。
【0021】
(第VIII族金属/第VIB族金属)モル比は、一般に、約1:10〜約10:1の範囲である。分数値として表されて、モル比は、一般に、約0.1〜約10である。好ましくは、(第VIII族金属/第VIB族金属)比は、約3未満、より好ましくは約2未満である。好ましくは、(第VIII族金属/第VIB族金属)比は、約0.33超、より好ましくは約0.5超である。
【0022】
触媒組成物がまた、水素処理触媒中に従来から存在する更なる成分を含むことは、本発明の範囲内である。酸性成分(例えば、リンまたはホウ素化合物)、更なる遷移金属、希土類金属、SiまたはAlなどの主な族金属、若しくはそれらの混合物などである。適切な更なる遷移金属は、例えば、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、クロム、バナジウム、鉄、白金、パラジウム、コバルト、ニッケル、モリブデン、亜鉛、ニオブ、またはタングステンである。全てのこれらの金属は、触媒組成物が硫化されている場合には、一般に、硫化された形態で存在する。硫化の前に、一種以上の金属の少なくとも一部は、触媒前駆体中の有機化合物ベースの物質によって、錯化されることができる。硫化後には、硫化金属の少なくとも一部は、触媒中の有機化合物ベースの物質(例えば炭素)に、何らかの形で直接に、または間接に結合されると考えられる。
【0023】
本発明のバルク金属触媒は、有機錯化剤を、好ましくは有機酸の形態で用いて錯化された第VIII族および第VIB族前駆体化合物を制御して加熱することによって調製される。好ましくは、有機錯化剤は、金属結合基またはキレート剤である。好ましくは、有機錯化剤は、二座配位子である。好ましくは、有機錯化剤は、溶液中で、金属−配位子錯体を形成するのに適する。
【0024】
触媒前駆体が、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機錯化剤を含む溶液から形成される実施形態においては、第VIII族および第VIB族の両化合物は、適切な所定濃度の水溶性塩であって、上記される所望のモル比が得られることが好ましい。より好ましい第VIII族金属は、CoおよびNiであり、Coが最も好ましい。好ましくは、第VIII族金属は、非貴金属である。より好ましい第VIB族金属は、MoおよびWであり、Moが最も好ましい。適切なCo前駆体化合物の限定しない例には、カルボネート、ナイトレート、スルフェート、アセテート、クロライド、ヒドロキシド、プロピオネート、グリシネート、ヒドロキシカルボネート、アセチルアセテート、アセチルアセトネート、金属Co(0)、Co酸化物、Co水和酸化物、Coカルボキシレート(特にCoグリオキシレート)、Coシトレート、Coグルコネート、Coタルトレート、Coグリシン、Coラクテート、Coナフテネート、Coオキサレート、Coホルメート、およびそれらの混合物が含まれる。これには、上記のアンモニウムまたはアミン形態も含まれる。好ましいモリブデンおよびタングステン前駆体化合物には、アルカリ金属またはアンモニウムモリブデデート(また、ペルオキソ、ジ、トリ、テトラ、ヘプタ、オクタ、またはテトラデカモリブデート)、モリブデン酸、ホスホモリブデン酸、ホスホタングステン酸、Mo−Pヘテロポリアニオン化合物、W−Siヘテロポリアニオン化合物、Co−Mo−Wヘテロポリアニオン化合物、アルカリ金属またはアンモニウムタングステート(また、メタ、パラ、ヘキサ、またはポリタングステート)、アセチルアセトネート、およびそれらの混合物が含まれる。更に他の実施形態においては、いかなる適切な第VIII族または第VIB族金属試薬も、第VIII族または第VIB族金属溶液を調製するのに用いられることができる。
【0025】
有機酸は、好ましい種類の有機錯化剤である。本明細書で用いるのに適切な有機錯化剤の限定しない例には、ピルビン酸、レブリン酸、2−ケトグロン酸、ケト−グルコン酸、チオグリコール酸、4−アセチル酪酸、1,3−アセトンジカルボン酸、3−オキソプロパン酸、4−オキソブタン酸、2,3−ジホルミルコハク酸、5−オキソペンタン酸、4−オキソペンタン酸、エチルグリオキシレート、グリコール酸、グルコース、グリシン、オキサミド酸、グリオキシル酸2−オキシム、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロ三酢酸、N−メチルアミノ二酢酸、イミノ二酢酸、ジグリコール酸、リンゴ酸、グルコン酸、アセチルアセトン、およびクエン酸が含まれる。好ましい有機酸は、グリオキシル酸、オキサロ酢酸、2−ケトグロン酸、アルファ−ケトグルタル酸、2−ケト酪酸、ピルビン酸、ケト−グルコン酸、チオグルコール酸、およびグリコール酸である。最も好ましくは、グリオキシル酸およびオキサロ酢酸である。
【0026】
他の実施形態においては、有機錯化剤は、−COOH官能基、および少なくとも一種の更なる官能基(カルボン酸−COOH、ヒドロキシメート酸(hydroximate acid)−NOH−C=O、ヒドロキソ−OH、ケト−C=O、アミン−NH2、アミド:−CO−NH2、イミン:−CNOH、エポキシ:=COC=、またはチオール:−SHから選択される)を含む有機酸である。好ましくは、有機錯化剤は、二座配位子である。
【0027】
本発明の触媒を調製するための方法は、複数の工程を含む。第一の工程は、少なくとも一種の第VIII族金属試薬、少なくとも一種の第VIB族金属試薬、および少なくとも一種の有機錯化剤が一緒に組合される混合工程である。実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤の一種以上は、水溶液などの溶液の形態で提供されることができる。他の実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤の一種以上は、スラリーの形態で提供されることができる。更に他の実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤の一種以上は、固体物質の形態で提供されることができる。当業者は、有機錯化剤および金属試薬を提供するという更に他の形態が可能であること、およびいかなる適切な形態(溶液、スラリー、固体等)も、所定の合成で、各個々の試薬および/または有機錯化剤に用いられることができることを理解するであろう。
【0028】
金属試薬および有機錯化剤は、一緒に混合されて、前駆体混合物が形成される。金属試薬または有機錯化剤の一種以上が、溶液またはスラリーとして提供される実施形態においては、混合は、金属試薬および有機錯化剤を単一の槽へ加える工程を含むことができる。金属試薬および有機錯化剤の一種以上が固体として提供される場合には、混合は、有機錯化剤を、錯化剤を溶融するのに十分な温度へ加熱する工程を含むことができる。これは、有機錯化剤が、いかなる固体金属試薬をも溶媒和することを可能にするであろう。
【0029】
混合中の温度は、好ましくは、周囲温度〜溶剤の沸点である。調製は、いかなる適切な方法でも行われることができる。例えば、溶液および/またはスラリーを含む実施形態においては、別個の溶液(またはスラリー)が、触媒成分のそれぞれから調製されることができる。即ち、適切な溶剤中の第VIII族金属化合物および適切な溶剤中の第VIB族金属が形成されることができる。適切な溶剤の限定しない例には、水およびC1〜C3アルコールが含まれる。他の適切な溶剤には、アルコール、エーテル、およびアミンなどの極性溶剤が含まれることができる。水は好ましい溶剤である。また、第VIII族金属化合物および第VIB族化合物は、水溶性であること、およびそれぞれの溶液が形成されるか、または両金属を含む単一の溶液が形成されることが好ましい。有機錯化剤は、適切な溶剤(好ましくは水)中に調製されることができる。三つの溶剤成分は、いかなる順序でも混合されることができる。即ち、三つは全て、同時に一緒に混合されることができるか、またはそれらは、いかなる順番でも順次混合されることができる。実施形態においては、先ず、二種の金属成分を水性媒体中で混合し、次いで有機錯化剤を加えることが好ましい。
【0030】
混合工程中のプロセス条件は、一般的に重要ではない。例えば、全成分を、周囲温度で、その本来のpHで添加することが可能である(懸濁液または溶液が用いられる場合)。一般に、水の沸点(即ち100℃)未満の温度を維持して、混合工程中の成分の容易な処理が確実にされることが好ましい。しかし、所望により、水の沸点超の温度または異なるpH値が用いられることができる。有機錯化剤が共役塩基/酸を有する酸または塩基である実施形態においては、混合物のpHが調整されて、酸/塩基平衡が、所望の形態の方向へ推し進められることができる。例えば、有機錯化剤が酸である場合には、溶液のpHは、平衡を、より多くの共役塩基を形成する方向へ推し進めるように高められることができる。混合工程中の反応が、高められた温度で行われる場合には、混合工程中に加えられる懸濁液および溶液は、好ましくは、実質的に反応温度に等しいことができる、高められた温度へ予熱される。
【0031】
混合工程における金属前駆体および有機錯化剤の量は、加熱後の触媒前駆体中の好ましい(金属/有機化合物ベースの物質)比が達成されるように選択されるべきである。これらの好ましい比率は、高度に活性なバルク触媒をもたらす。例えば、混合溶液(または、金属試薬および有機錯化剤の他の混合物)中の(有機酸/全金属)比は、高度に活性な触媒をもたらす最少のレベルに達するべきである。
【0032】
実施形態においては、混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量は、加熱後に形成される触媒前駆体中に、有機化合物ベースの物質少なくとも約10wt%を提供するのに十分であるべきである。若しくは、少なくとも約20wt%、少なくとも約25wt%、または少なくとも約30wt%である。他の実施形態においては、混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量は、加熱後に形成される触媒前駆体中に、有機化合物ベースの物質約60wt%未満を提供するべきである。若しくは、約40wt%未満、約35wt%未満、または約30wt%未満である。好ましくは、混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量は、得られた触媒前駆体中に、有機化合物ベースの物質約20wt%〜約35wt%を提供するのに十分である。触媒前駆体中の有機化合物ベースの物質の所望の量は、混合溶液における(有機錯化剤/金属)比の量に基づいて、および触媒前駆体を形成するのに用いられる熱活性化条件に基づいて達成されることができる。用語「有機化合物ベースの物質」とは、加熱後の触媒前駆体中または硫化後の触媒中のいずれかに存在する炭素含有化合物をいう。有機化合物ベースの物質は、有機錯化剤から誘導されるが、触媒前駆体を加熱するか、および/または前駆体を硫化して触媒が形成されるかにより、異なってもよい。有機化合物ベースの物質の最終的な形態には、「有機物」として伝統的に考えられない炭素(黒鉛または非晶質炭素など)が含まれてもよいことに注目されたい。本明細書で用いられる用語有機化合物ベースの物質とは、炭素が、触媒前駆体を形成するのに用いられる有機錯化剤および/または他の有機炭素源から本来的に誘導されたことを、単に規定する。
【0033】
本発明について、触媒前駆体中の有機化合物ベースの物質のwt%は、触媒前駆体の昇温酸化を、次の条件下で行うことによって決定された。TGA/MSを用いる昇温酸化は、乾燥および加熱された試料について行われた。TGA/MSデータは、二次電子増倍管を装着された四重極質量分析計とインターフェース接続されたメトラーTGA[Mettler TGA]851熱天秤で収集された。試料20〜25mgが、全圧1気圧のHe中O214.3%の気流(77cc/分)中、周囲温度から700℃まで4℃/分で加熱された。TGA/MS実験においては、流出ガスは、毛管ラインを経てMS装置に運ばれ、18(H2O)、44(CO2)、64(SO2)などの固有m/eフラグメントが、分解生成物、および重量/加熱効果の定性相関に対する標識として分析された。
【0034】
TPO手順中に失われた物質のwt%は、有機化合物ベースの物質のwt%を表す。触媒前駆体中に残留物質は、あるタイプの酸化物の形態の金属であると考えられる。明瞭にするために、触媒前駆体中に存在する金属のwt%は、典型的な酸化物の化学量論の金属酸化物として表される。例えば、コバルトおよびモリブデンの重量は、それぞれ、CoOおよびMoO3として計算される。
【0035】
類似の計算が、硫化後に形成される触媒中の有機化合物ベースの成分のwt%を決定するのに行われることができる。この場合もまた、有機化合物ベースの成分のwt%は、上記される方法に従って、TPOによって決定される。触媒中の残留重量は、ある形態(酸化物、酸硫化物、または硫化物など)の金属に対応する。
【0036】
混合溶液中で用いられる有機錯化剤の量はまた、反応条件下において、金属−有機錯体を溶液中に形成するのに十分であるべきである。錯化剤が有機酸である実施形態においては、(有機酸のカルボン酸基/金属)比は、少なくとも約1であることができる(ほぼ同数のカルボン酸基および金属原子が存在することを意味する)。若しくは、少なくとも約2、または少なくとも約3である。他の実施形態においては、(カルボン酸基/金属)比は、12以下であることができる。若しくは、10以下、または8以下である。
【0037】
他の実施形態においては、混合溶液中で用いられる(有機錯化剤/金属)モル比は、約6.0以下である。若しくは、約5.5以下、約5.0以下、約4.8以下、または約4.6以下である。他の実施形態においては、混合溶液中で用いられる(有機錯化剤/金属)モル比は、約1.5以上である。若しくは、約2以上、約2.5以上、約3.0以上、または約3.5以上である。
【0038】
好ましい実施形態においては、(第VIII族金属/第VIB族金属)モル比は、少なくとも約0.1である。若しくは、少なくとも約0.2、少なくとも約0.33、または少なくとも約0.5である。他の好ましい実施形態においては、(第VIII族金属/第VIB族金属)モル比は、約0.9以下である。または、約0.6以下である。
【0039】
本発明の触媒を調製するための方法の第二の工程は、加熱工程である。実施形態においては、加熱工程は、水を、混合物から除去するのに用いられる。他の実施形態においては、加熱工程は、触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分を、形成するのに用いられる。有機化合物ベースの成分は、混合溶液中に用いられる有機錯化剤を加熱することによる生成物である。有機錯化剤は、有機化合物ベースの成分に、実質的に類似であってもよいか、または有機化合物ベースの成分は、有機錯化剤のあるタイプの分解生成物を表してもよい。或いは、いかなる特定の理論にも束縛されることなく、有機錯化剤の加熱は、錯化剤の架橋をもたらして、有機化合物ベースの成分が形成されてもよい。
【0040】
加熱および/または乾燥が、加熱プロフィルに従って複数段階において行われることは、本発明の範囲内である。実施形態においては、加熱プロフィルの第一の段階は、部分乾燥段階であり、好ましくは、減圧乾燥オーブン中温度約40℃〜約60℃で、十分な時間量をかけて行われる。有効量の時間は、水を、ゲル形成点まで除去するのに十分な時間に相当する。典型的には、ゲルは、水約80%〜約90%が除去された場合に、形成するであろうと考えられる。金属試薬および有機錯化剤の混合物が、溶液またはスラリーの形態である実施形態においては、金属試薬および有機錯化剤成分の混合物を、およそ周囲温度で、全成分の実質的な均一性および溶解を、加熱前に確実にするのに効果的な時間撹拌することが好ましい。或いは、有機錯化剤が固体として提供される実施形態においては、当初の加熱段階は、有機錯化剤を溶融するのに用いられる加熱に相当することができる。混合物の温度は、溶融された有機錯化剤が、金属試薬を溶媒和するか、および/またはそれと混和することを可能にするのに効果的な時間量をかけて維持されることができる。
【0041】
実施形態においては、加熱プロフィルにける次の加熱または乾燥段階は、温度を約110℃〜約130℃、好ましくは約110℃〜約120℃へ昇温して、高温加熱が、溶液のふきこぼれおよび液はねを起こさずに行われることができる点へ、更なる水を追出すことである。この点では、ゲルは、凝固物質に変換されるであろう。乾燥された物質を形成するのに効果的な時間量(即ち、ゲル形成から凝固物質まで)は、数秒〜数時間、好ましくは約1分〜数日、より好ましくは約1分〜24時間、更により好ましくは約5分〜約10時間であることができる。ゲルはまた、凝固および室温への冷却時に、黒色のゴム状固体物質の形態をとることができる。ゲルまたは凝固物質は、周囲温度へ導かれ、より高温での将来の加熱のために取り置かれることができる。或いは、ゲルまたは凝固物質は、この段階で、触媒前駆体として用いられることができる。
【0042】
固体物質を、熱活性化の前または後に、粉末へ粉砕することは、本発明の範囲内である。粉砕は、温度約275℃以上のいかなる加熱工程前にも行われることができるか、または粉砕は、約275℃以上へ加熱した後に、行われることができる。いかなる適切な粉砕技術も、固体物質を粉砕するのに用いられることができる。
【0043】
触媒前駆体は、更なる加熱段へ付されて、触媒前駆体内の物質が部分的に分解されることができる。この更なる加熱段は、温度約100℃〜約500℃、好ましくは約250℃〜約450℃、より好ましくは約300℃〜約400℃、更により好ましくは約300℃〜約340℃で、効果的な時間量をかけて行われることができる。この効果的な時間量は、約0.5〜約24時間、好ましくは約1〜約5時間の範囲であろう。他の実施形態においては、加熱は、炉内温度を、1時間で室温から約325℃へ傾斜させることによって、達成されることができる。実施形態においては、加熱(起こりえる分解を含む)は、酸素含有ガス流(空気など)、不活性ガス流(窒素など)、または酸素含有ガスおよび不活性ガスの組合せの存在下に行われることができる。他の実施形態においては、加熱は、加熱プロセスの初めに、加熱炉中に存在する雰囲気で行われることができる。これは、静的条件と呼ばれることができ、そこでは更なるガスの供給は、加熱中、加熱炉へ全く提供されない。静的条件における加熱炉内の雰囲気は、酸素含有ガスまたは不活性ガスであることができる。不活性ガス雰囲気(窒素など)の存在下に加熱を行うことが好ましい。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、この更なる加熱により得られた物質は、有機錯化剤の部分的な分解生成物を意味してもよく、有機化合物ベースの物質または成分によって錯化された金属がもたらされる。
【0044】
前述されるように、加熱工程は、種々の方法で行われることができる。加熱工程は、より低い温度の一つ以上の初期加熱段から始まり、引続いて、温度約275℃以上で加熱されることができる。他の実施形態においては、加熱プロフィルには、単に、約130℃以下の温度のみが含まれることができるか、または加熱プロフィルには、温度を、約275℃以上または約325℃以上へ、直ちに傾斜させることが含まれることができる。好ましくは、調製条件は、混合溶液が、全加熱プロフィル中に、激しい蒸発、吹きこぼれ、または中断が起きないように、制御され、設計されることができる。これらの実施形態には、典型的には、100℃未満の温度での初期加熱が含まれる。しかし、他の実施形態においては、加熱プロフィルには、急速な蒸発をもたらし、一方触媒前駆体は、依然としてかなりの量の水を含む条件が含まれることができる。これは、触媒前駆体を形成するのに用いられる混合物の沸騰または吹きこぼれをもたらすことができる。触媒前駆体を形成するための混合物の沸騰または吹きこぼれは、不都合であるものの、本発明の触媒前駆体は、依然として、これらの条件下で形成されるであろうと考えられる。
【0045】
従来の水素処理触媒(典型的には、少なくとも一種の第VIII族金属および少なくとも一種の第VIB族金属で含浸されたキャリヤーを含んでなる)とは対照的に、本発明の触媒は、バルク触媒である。
【0046】
いかなる特定の理論にも束縛されることなく、有機錯化剤および/または得られた有機化合物ベースの成分は、最終触媒の予想外の高活性の役割を果たすと考えられる。有機錯化剤および/または得られた有機化合物ベースの成分は、金属粒子の安定化を補助するか、および/または金属活性部位と直接に相互作用し、金属が凝集するのを防止するかいずれかであると考えられる。換言すれば、有機錯化剤および/または有機化合物ベースの成分は、活性部位の分散を高める。触媒前駆体が、有機化合物ベースの成分について、所望の範囲未満の量を用いて形成される場合には、得られる触媒の活性はより低い。
【0047】
本発明のバルク粉末触媒前駆体組成物(粉砕および加熱後に得られる)は、所望の触媒最終用途に適切な形状に、直接形成されることができる。或いは、バルク粉末は、従来の結合剤物質と混合され、次いで所望の形状に形成されることができる。結合剤が用いられる場合には、それは、触媒前駆体を形成するのに用いられる混合物の分解(加熱)の前または後のいずれかに導入されてもよい。可能な結合剤の例には、Active Minerals International(Hunt Valley、MD)から入手可能なActigel clay、Nyacol Nano Technologies,Inc.(Ashland、MA)から入手可能なNyacol 2034DI、またはSi−樹脂(Dow Corningから入手可能なQ−2230など)が含まれる。更に他の実施形態においては、結合剤前駆体(ケイ酸、Siアセテート、またはAlアセテートなど)が、触媒前駆体を合成するのに用いられる混合物に添加されてもよい。
【0048】
本発明の触媒の調製における第三の工程は、硫化工程である。硫化は、一般に、触媒前駆体組成物を硫黄含有化合物(元素硫黄、硫化水素、またはポリスルフィドなど)と接触させることによって行われる。硫化はまた、ポリスルフィド(ジメチルジスルフィドをスパイクした炭化水素ストリームなど)および水素の組合せを用いて、液相で行われることができる。硫化は、バルク触媒組成物の調製に引続いて、しかし、用いられる場合には、結合剤の添加前に行われることができる。
【0049】
触媒組成物が、固定床プロセスで用いられる場合には、硫化は、好ましくは、成形工程に引続いて行われる。硫化は、現場外または現場で行われてもよい。現場外の硫化については、硫化は、硫化触媒を水素処理装置に充填する前に、別個の反応器で行われる。現場の硫化が好ましい。現場の硫化については、硫化は、水素処理に用いられるものと同じ反応器内で行われる。
【0050】
実施形態においては、硫化工程は、液体硫化であることができる。これらの実施形態においては、バルク触媒は、触媒を、ジメチルジスルフィド1.36wt%でスパイクされた原料材に暴露することによって硫化されることができる。或いは、ジメチルジスルフィドのスパイクレベルは、0.5〜2.5wt%であることができる。触媒は、圧力500psigにおいて、LHSV1.0および水素流速700scf/Bで原料へ暴露されることができる。好ましくは、触媒は、初期の時間(18時間など)の間、温度425°F(218℃)で原料へ暴露され、引続いて第二の時間(24時間など)の間、温度625°F(329℃)で暴露されることができる。他の実施形態においては、硫化の他の従来の方法が用いられることができる。
【0051】
液体硫化を含む他の実施形態においては、触媒は、予想される最終的な処理条件より過酷な温度および圧力条件を用いて硫化されることができる。例えば、硫化触媒が、原料材を圧力150psigで処理するのに用いられるであろう場合には、硫化は、より高圧で行われて、触媒の硫化を達成するのに必要とされる時間が低減されることができる。
【0052】
種々の実施形態においては、硫化後に形成される触媒は、少なくとも一部は、有機化合物ベースの成分による錯化、または金属とそれとの他の相互作用を含む構造を有すると考えられる。硫化触媒中の有機化合物ベースの成分の性質は、触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分、および触媒前駆体を形成するために初期混合物で用いられる有機錯化剤とは異なってもよい。次の実施例において、硫化触媒中の炭素および硫黄種は、昇温酸化の検討におけるのと類似の時間で、触媒を酸化し、それを出ることが明らかであることに注目されたい。これらのTPOの検討に対する一つの可能な解釈は、錯体(またはある他のタイプの相互作用)が、有機化合物ベースの成分、および触媒構造の少なくとも一部における金属の間に存在することである。
【0053】
実施形態においては、硫化後の触媒の炭素含有量は、少なくとも10wt%、または少なくとも12wt%である。他の実施形態においては、硫化後の触媒の炭素含有量は、25wt%以下、または20wt%以下である。
【0054】
硫化後、触媒中の金属の少なくとも一部は、硫化形態であろう。特に、VIB族金属は、MeS2化学量論を有すると考えられる硫化金属のスタックを形成するであろう。ここで、Meは、第VIB族金属を表す。例えば、Moが第VIB族金属である場合には、MoS2のスタックが、形成されるであろう。本発明に従って形成された触媒においては、硫化された第VIB族金属の平均スタック高さは、約1.2〜約2であろう。他の実施形態においては、平均スタック高さは、少なくとも1.2、少なくとも1.3、少なくとも1.4、または少なくとも1.5であろう。更に他の実施形態においては、平均スタック高さは、2.2以下、2.1以下、2.0以下、または1.9以下であろう。いかなる特定の理論にも束縛されることなく、より低いスタック高さは、間接的に、増大した活性に相当すると考えられる。
【0055】
本発明の触媒組成物は、特に、炭化水素原料を水素処理するのに適切である。水素処理プロセスの例には、不飽和物の水素添加、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱芳香族、および緩やかな水素化分解が含まれる。好ましくは、水素化脱硫および水素化脱窒素である。従来の水素処理条件には、温度約250℃〜450℃、水素圧5〜250バール、液空間速度0.1〜10時−1、水素処理ガス比90〜1780m3/m3(500〜10000SCF/B)が含まれる。
【0056】
本発明が行われることができる原料材は、留出油範囲で沸騰する石油原料ストリームである。この沸点範囲は、典型的には、約140℃〜約360℃であろうし、これには、中間留出油、および軽質ガス油ストリームが含まれる。好ましい留出油ストリームの限定しない例には、ディーゼル燃料、ジェット燃料、および加熱油が含まれる。原料材は、実質量の窒素(例えば、窒素少なくとも10wppm、更には1000wppm超)を、有機窒素化合物の形態で含むことができる。原料材はまた、実質的な硫黄含有量(約0.1wt%〜3wt%以上)を含むことができる。
【0057】
本発明の水素処理にはまた、硫黄および窒素化合物を除去するためのスラリーおよび沸騰床水素化プロセス、および軽質化石燃料(石油中間留出油、特に軽質接触サイクル分解油(LCCO)など)中に存在する芳香族分子の水素添加が含まれる。石油、石炭、ビチューメン、タールサンド、またはシェール油から誘導される留出油は、同様に、適切な原料である。触媒が炭化水素原料との混合物に分散されたスラリーを用いる水素化プロセスは、一般に知られる。例えば、特許文献5(Lopezら)には、循環スラリー触媒を用いる重質油の水素化が開示される。スラリー水素化を開示する他の特許には、特許文献6、特許文献7および特許文献8が含まれる。本発明のスラリー水素処理プロセスは、化石燃料からの中間留出油(軽質接触サイクル分解油(LCCO)など)を含む種々の原料を処理するのに用いられることができる。
【0058】
水素添加条件には、温度範囲約100℃〜約350℃、水素圧力約5気圧(506kPa)〜300気圧(30,390kPa)、例えば、10〜275気圧(1,013kPa〜27,579kPa)での反応が含まれる。一実施形態においては、温度は、180℃〜320℃を含む範囲であり、圧力は、水素15,195kPa〜20,260kPaを含む範囲である。標準条件(25℃、1気圧)下での反応器への(水素/原料)容積比は、典型的には、無色透明樹脂100〜200については、約20〜200の範囲であろう。
【0059】
本明細書に記載される触媒を用いるのに適用可能なプロセス条件は、処理される原料材によって、広く異なってもよい。従って、原料材の沸点が増大するにつれて、条件の過酷度もまた、増大するであろう。次の表(表1)は、原料範囲に対する典型的な条件を示すものである。
【0060】
【表1】
【0061】
本明細書に記載される本発明は、水素化脱窒素に対する活性の増大を示すものの、殆どのHDN触媒はまた、水素化脱硫(HDS)および水素添加の活性を示すであろう。従って、本明細書に記載される触媒およびプロセスは、窒素および硫黄の両者を含む原料に対して有用であろう。これは、特に窒素が高い原料に対して有用であろう。
【0062】
次の実施例は、本発明を説明するものであるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1−触媒前駆体の合成
バルクCoMo触媒を、本発明の実施形態の制御された加熱プロセスによって調製した。1MのMo水溶液を、適切量のヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物(AHM)を蒸留水に溶解することによって調製した。1MのCo水溶液をまた、適切量の酢酸コバルト4水和物を蒸留水に溶解することによって調製した。4.5Mのグリオキシル酸溶液を、50%グリオキシル酸水溶液を、蒸留水で1:1稀釈することによって調製した。
【0064】
混合物を、適切量の上記三つの溶液を一緒に混合することによって調製した。得られた溶液は、赤味色を有した。溶液の(Mo/Co)比は、2:1であった。二つのバルク触媒前駆体混合物を調製した。一つの触媒前駆体混合物は、(グリオキシル酸/(Mo+Co))モル比4.8を有し、これを、触媒前駆体Aと名付けた。触媒前駆体Bと名付けられた第二の触媒前駆体混合物を調製した。これは、(グリオキシル酸/(Mo+Co))モル比6を有した。触媒前駆体混合物を、55℃で約4時間、次いで120℃で更なる約4時間加熱した。各触媒前駆体の結果は、黒色粘稠物質であった。黒色粘稠物質を、次いでそれが凝固する室温へ冷却した。凝固された黒色物質を、粉末へ粉砕し、管状加熱炉に入れた。その際、温度は、約室温から約325℃へ1時間で傾斜された。触媒前駆体組成物を、次いで、空気中、温度約325℃で約4時間加熱した。
【0065】
二つの触媒前駆体粉末の試料を、めのう乳鉢および乳棒を用いて微粉に粉砕した。前駆体粉末の一部を硫化して、触媒粉末が製造された。
【0066】
BET表面積および炭素含有量を、触媒前駆体Aおよび触媒前駆体Bの触媒前駆体組成物について、同様に有機酸を用いることなく、類似に調製されたCoMo触媒前駆体(比較触媒1)について測定した。結果を次の表2に示す。X線回折は、本発明のバルク触媒前駆体の両試料は、性質が非晶質であり、大きな粒子の結晶化相が存在する場合にXRDに典型的に観察される長距離秩序を示さないことを示した。比較触媒1のX線回折パターンは、結晶化MoO3およびCoMoO4を示した。これは、典型的には、水素化プロセスに望ましくない触媒前駆体とみなされる。本発明の触媒前駆体内の残留炭素は、CoMo酸化物の結晶化を阻害し、そのためにCoMo酸化物の結晶はいずれも、存在しないか、または結晶質特性を、XRDスペクトルに殆どまたは全くもたらさない小結晶として存在すると考えられる。
【0067】
【表2】
【0068】
上記の表2から、バルクCoMo−6−GlyおよびCoMo−4.8−Gly触媒前駆体は、比較的低い表面積を有することが理解されることができる。特に、触媒前駆体CoMo−4.8は、表面積1m2/g未満を有する。加熱後、本発明の両触媒前駆体は、かなりの量の炭素約22〜24wt%を含む。本発明の触媒前駆体の炭素含有量は、触媒が経験した加熱条件の関数である。即ち、加熱プロフィルの時間および温度、同様に(グリオキシル酸/(Mo+Co)金属)比である。バルクCoMo触媒前駆体の炭素含有量は、これらの前駆体におけるCoMoの形態、および硫化触媒について、得られた水素化脱硫触媒の活性に影響を与える。
【0069】
実施例1B−更なる触媒前駆体合成例
ヘプタモリブデン酸アンモニウム4水和物および酢酸コバルト4水和物の1M溶液を、更なる触媒前駆体を形成するのに用いた。AHM5.7wt%、酢酸コバルト4.0wt%、およびグリオキシル酸17.3wt%を含む溶液を、適切量の1MのMoおよびCo溶液と、グリオキシル酸25wt%を含む溶液とを混合することによって形成した。(R/(Co+Mo))モル比は、4.8であった。加熱後、固体に対する溶液の収率は、約8.6%であった。
【0070】
別個に、AHM12.8wt%、酢酸コバルト9.1wt%、およびグリオキシル酸39.1wt%を含む溶液を、適切量の1MのMoおよびCo溶液と、グリオキシル酸50wt%を含む溶液とを混合することによって形成した。(R/(Co+Mo))モル比は、4.8であった。加熱後、固体に対する溶液の収率は、約19.4%であった。
【0071】
実施例1C
この実施例は、バルク三元金属NiCoMoの合成に関する。バルク三元金属NiCoMo触媒を、本発明の制御された加熱プロセスによって調製した。200mgのNiO、200mgのCo(OH)2、および1gのH2MoO4を、それぞれ、別容器の水に溶解/懸濁した。50wt%グリオキシル酸溶液を、各容器へ添加し、それにより各容器中の酸濃度は、15wt%であった。Ni、Co、およびMo溶液を組合せ、6mlの30wt%H2O2を組合せ溶液へ添加した。試料を、250℃で4時間加熱して、バルク三元金属NiCoMo触媒前駆体が得られた。
【0072】
実施例2−触媒前駆体の特性化
X線回折(XRD)分析を、本発明の実施形態に従って合成されたCoMoベースの触媒について行った。得られたXRDスペクトルを、図1に示す。図1に示されるように、CoMoベースの触媒前駆体は、非晶質XRDスペクトルを有する。CoMo触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分は、結晶化過程を阻害し、検知可能な結晶質相を有さないCoMo触媒前駆体がもたらされると考えられる。本発明の別の実施形態においては、結晶質相は、触媒前駆体中に、しかし触媒前駆体のほんの一部として検知されてもよく、いくらかの結晶質特性およびいくらかの非晶質特性を有するXRDスペクトルがもたらされる。これは、有機錯化剤を用いることなく調製されたが、他の点では本発明の触媒前駆体と類似に調製されたバルクCoMo物質(比較触媒1)のXRDスペクトルと対照的である。バルク比較CoMo物質のXRDスペクトルは、結晶形態を示し、これには、MoO3およびCoMoO4を表すと思われるピークが含まれる。
【0073】
実施例3−触媒前駆体の昇温酸化
昇温酸化(TPO)の検討を行って、実施例1の触媒Aに対する手順に従って合成された触媒前駆体について、有機化合物ベースの成分の特質が理解された。図2−aには、触媒前駆体は、触媒前駆体が650℃への昇温に付された際に、重量約30wt%を失うことが示される。図2−bには、触媒前駆体の試料から生成された生成物の質量分析特性が、温度の関数として示される。TPOの検討中に生成される主な生成物は、CO2およびH2Oであった。図2−aおよび図2−bに基づいて、650℃では、全ての炭素が、触媒前駆体の試料から除去されていると考えられる。TPOの検討では、実施例4に記載される昇温還元の検討との組合せで、有機化合物ベースの成分は、少なくとも炭素、水素、および酸素から構成されることが示される。
【0074】
実施例4−触媒前駆体の昇温還元
図3には、実施例1の触媒前駆体Aに対する手順に従って合成された触媒前駆体について、昇温還元分析(H2−TPR)からの結果が示される。H2−TPR分析は、5%H2/He雰囲気中、温度変化速度10℃/分で行われた。H2−TPRの検討の結果を、図3−aおよび3−bに示す。図3−aには、熱重量分析によって測定された全重量減が示される。試料が700℃に達する時まで、前駆体試料の重量のほぼ40%が除去された。図3−bに示されるように、この重量損失は、前駆体試料から放出されるH2O、CO2、およびCOの形態にある。試料から放出される種は、有機化合物ベースの成分の除去、および/またはいくらかの金属酸化物のより低い酸化状態への転化を表すと考えられる。
【0075】
また、図2−a、2−b、3−a、および3−bには、有機化合物ベースの成分の除去は、400℃近くの温度が達成されるまで最小であることが示されることに注目されたい。これに基づいて、触媒前駆体の硫化は、これはまた還元環境で生じるが、温度約400℃未満、好ましくは約350℃未満で起こるべきであることが好ましい。例えば、ある好ましい硫化温度は、約325℃である。
【0076】
実施例5−触媒の特性化
触媒前駆体Aに類似の本発明のバルク触媒前駆体を、バルク硫化に付した。高度に活性な物質が得られた。図4には、調製された触媒前駆体のX線回折パターン、硫化後の対応する触媒、並びにAHMおよびH2Sから直接作製されたバルクMoS2の比較スペクトルが示される。図4には、硫化物質は、バルクMoS2の明確な回折ピークに比較して、実質的に非晶質であるか、および/またはXRDの分解能に関して小さな粒子のみを含むことが示される。これは、硫化触媒のTEM顕微鏡写真と一致する。これは、小さな結晶サイズを示す。これらの小さな結晶は、金属硫化物を表し、恐らくはまた金属炭硫化物を含むと考えられる。別の実施形態においては、本発明の硫化触媒の少なくとも一部は、XRDによって検知可能な結晶質特性を有することができる。これらの実施形態においては、得られたXRDスペクトルは、いくらかの結晶質特性およびいくらかの非晶質特性を有してもよい。
【0077】
実施例6−触媒前駆体の硫化
実施例1の手順に従って、触媒前駆体Aに類似の触媒前駆体が生成された。この触媒前駆体を、次いで、本発明の実施形態の液相硫化手順によって硫化した。図5には、得られた硫化触媒のTEM顕微鏡写真およびスタック高さ分析が示される。TEMデータには、硫化触媒のMoS2スタックについて、平均スタック高さ約1.5が示される。
【0078】
図6−aおよび6−bには、二つの更なるタイプの硫化触媒について、TEMデータが示される。図6−aおよび6−bに対応する触媒を、ガス相硫化プロセスを用いて調製して、触媒前駆体Aに類似の方法で調製された触媒前駆体が硫化された。図6−aに対応する触媒は、触媒前駆体を、10%H2S/H2中232℃で18時間硫化し、引続いて321℃で更なる12時間硫化することによって調製された。図6−bに対応する触媒は、10%H2S/H2中600℃で4時間硫化された。
【0079】
ガス相硫化触媒のTEMデータは、図6−aの触媒について、平均測定スタック高さ1.6、および図6−bの触媒については2.2を示す。加えて、図6−aおよび6−bに示されるガス相硫化触媒は、図5に示される試料より不均質であると思われる。この効果は、図6−bの触媒(より高い温度で硫化された)について、より顕著である。
【0080】
実施例7−硫化触媒の昇温酸化
図7には、本発明の実施形態に従って調製された硫化触媒について、TPOの検討からの結果が示される。硫化触媒を、触媒前駆体Aに類似の触媒前駆体の液相硫化によって調製した。CO2およびSO2のピークは、いずれも、温度範囲400〜600℃にあることに注目されたい。いかなる特定の理論にも縛られることなく、この温度範囲においては、バルクCoMoS2は、吸熱的に、SO2を放出してCo酸化物およびMo酸化物へ転化すると考えられる。SO2と同じ温度窓におけるCO2の放出は、炭硫化物相(例えば、CoMoSxCy)の形成と一致する。その際、炭素は、構造的に、硫化物相の一部である。また、H2Oは、高温で放出され、有機化合物ベースの成分の残りの部分または表面SH基のいずれかと結合されてもよいことに注目されたい。
【0081】
実施例8−加熱工程の変型
触媒前駆体を、触媒前駆体Aに類似に調製した。但し、異なる加熱工程を、四種の異なる試料について、四種の異なる雰囲気中−空気、窒素、混成(空気および窒素の混合)、および空気流なし(静的加熱)−で行った。混成雰囲気の加熱においては、加熱炉を、窒素雰囲気中で、約室温から約325℃へ1時間で傾斜させ、窒素下に、325℃で更に2時間保持し、次いで雰囲気を、徐々に、約2時間で空気へ切替えた。最終的な処理を、空気中325℃で、2時間行った。表面積および炭素含有量を、各試料について測定した。結果を、次の表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
上記の表3から、バルクCoMo触媒前駆体は、比較的低い表面積を有することが分かる。空気中で加熱されたバルクCoMo触媒前駆体(表面積10m2/g未満を有する)を除いて、他の触媒前駆体は、表面積1m2/g未満を有する。空気、窒素、混成(空気および窒素の混合物)、および/または空気流なし(静的雰囲気)における加熱の後に、全ての触媒前駆体は、実質量の炭素(約22〜23wt%)を含む。
【0084】
実施例9−水素化脱流および水素化脱窒素
図8には、本発明の実施形態に従って調製されたCoMo触媒、および商業的に入手可能な触媒について、相対水素化脱硫活性が示される。商業的に入手可能な触媒は、Albemarle Catalysts Company LP(Houston、TX.)から入手可能なKetjenfine(登録商標)757(KF−757(商標))触媒である。KF−757(商標)触媒は、アルミナ担体に担持されたCoおよびMoから構成される。本発明のCoMo触媒は、触媒前駆体Aの方法に類似の方法によって調製された触媒前駆体を硫化することによって調製された。しかし、この実施例に用いられた触媒前駆体は、325℃で、空気でなく窒素の存在下に加熱された。図8のデータに対応する水素化脱硫処理は、圧力220psigで行われた。図8に示されるように、本発明のバルク金属触媒の相対活性は、KF−757(商標)触媒の活性のおよそ2倍である。
【0085】
図9には、水素化脱窒素活性について、本発明の触媒およびKF−757(商標)の類似の比較が示される。本発明の触媒はまた、KF−757(商標)に比較して、2倍の水素化脱窒素活性を示す。図9に対応する処理はまた、220psigで行われた。
【0086】
図10には、500psigで行われた水素化処理について、本発明の触媒およびKF−757(商標)の水素化脱硫および水素化脱窒素の両活性の比較が示される。図10に示されるように、このより高い圧力においては、本発明の実施形態の触媒は、500psigにおける水素化脱硫について、KF−757(商標)に比較して、類似の活性評価を示し、また500psigにおける水素化脱窒素については、5倍を示す。
【0087】
更なる実施例においては、低いH2圧力における相対活性を、本発明の触媒(実施例1の触媒Aに対応する)について、KF−757(商標)に対して決定した。水素化された原料材を、三相反応器中、329℃、200psigH2、および700SCF/BのH2で処理した。当初の水素化された原料材、および処理された原料材の特性を、次の表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示されるように、本発明の触媒は、より高いHDSおよびHDN活性を示し、一方芳香族の飽和量は低減される。再度、低減された芳香族飽和は、水素化中の全水素消費を低減するという観点から、有利な特質である。
【0090】
同じタイプの触媒をまた、中圧における水素化について比較した。T95値773゜F(412℃)を有する直留原料材を、三相反応器中、329℃、500psigH2、および700SCF/BのH2で処理した。当初の原料材および処理された原料材に関する更なる詳細を、次の表5に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
表5に示されるように、本発明の触媒は、商業触媒より高いHDSおよびHDN活性を、水素消費の適度な増大のみで示した。
【0093】
実施例10−有機含有量に比較した活性の特性化
図11には、変動量の有機錯化剤を用いてもたられたバルクCoMo触媒の相対活性が示される。図11のデータは、種々の触媒前駆体を、グリオキシル酸を有機錯化剤として用いてもたらすことによって作成された。図11に示されるように、(有機錯化剤/金属)比約2未満:1を有する触媒前駆体は、実質的により低い活性を有する触媒をもたらす。(有機錯化剤/金属)比約2超:1(好ましくは、約3超:1)を有する触媒は、比約2未満:1を有する触媒の活性より、4〜6倍大きな相対活性を示す。
【0094】
実施例11−加熱プロフィルに基づく前駆体組成の変化
図12および13には、グリオキシル酸を用いて調製され、異なる加熱プロフィルに暴露されたバルクCoMo前駆体のTPOの検討が示される。図12においては、試料a)は、空気流中、80℃で14.5時間加熱された。試料b)は、空気流中、250℃で4時間加熱された。試料c)は、空気中、325℃で4時間加熱された。図13においては、試料d)は、N2中、400℃で4時間加熱された。試料e)は、N2中、500℃で4時間加熱された。試料f)は、N2中、600℃で4時間加熱された。
【0095】
図12および13には、異なる加熱プロフィルで、昇温に暴露された触媒前駆体について、TPO中に除去されることができる物質の減少量が示される。図から分かるように、80℃へ加熱されたCoMo触媒前駆体物質は、重量減およそ70wt%を示す(図12、a)。空気またはN2(図示せず)中250℃で4時間加熱された触媒前駆体試料は、重量減およそ60%を有した(図12、b)。TPOの検討前に、更により高い温度325℃に暴露された試料は、重量減およそ30〜40wt%を示した(図12、c)。更なる温度増大約400〜約600℃は、図13に示されるように、有機物質の更なる減少を導く。図13に示されるように、触媒前駆体を、空気の存在下に、TPO前に550℃以上へ加熱することは、TPOの検討中に重量を減少しない触媒前駆体をもたらした。これは、有機物質の完全な除去が、空気中550℃への加熱中に起こったことを示す。しかし、類似の加熱プロフィル下では、窒素雰囲気に暴露された触媒は、TPOの検討中にいくらかの重量減を示した。窒素雰囲気中600℃で加熱された触媒についてさえ、図13には、有機物質が、完全に除去されなかったことが示される。これは、窒素(他の不活性)雰囲気下での加熱は、有機物質の分解を、より良好に制御することができることを示す。より一般には、TPOの検討に基づいて、触媒前駆体中の有機化合物ベースの成分の量は、触媒前駆体に付される加熱条件を制御することによって制御されることができると思われる。
【0096】
試料から放出された生成物をまた、図12および13で示されたものに類似のTPOの検討について、質量分析法を用いて特性化した。図14には、検討a)〜c)に類似の条件下で、しかし空気雰囲気の替わりにN2雰囲気を用いて処理されたバルクCoMo触媒前駆体について、TPO中のH2Oシグナルの出現が示される。図15には、同じ試料について、CO2の出現が示される。
【0097】
図14および15には、試料a)に類似に調製された前駆体は、検知可能量の水およびCO2を、200℃未満で放出したことが示される。いかなる特定の理論にも縛られることなく、H2OおよびCO2の放出は、80℃の加熱処理後に、前駆体中に存在する吸着された吸着水分子および過剰のグリオキシル酸に起因されることができると考えられる。N2中250℃での熱処理後には、H2OおよびCO2の放出は、予期されるであろうように、失われる。250℃超においては、観察されるH2OおよびCO2の放出は、80℃の加熱処理を有する試料に対するH2OおよびCO2の放出に類似であった。N2中325℃へ加熱された試料はまた、このパターンに追従した。325℃未満では放出は最小またはゼロであり、残りの温度範囲については他の試料に類似の放出であった。特に、全ての試料によって放出されたCO2の大部分は、600℃近傍の温度におけるものであった。いかなる特定の理論にも縛られることなく、600℃近傍におけるCO2のこの放出(およびH2Oスペクトルの対応するピーク)は、グリオキシル酸または得られるグリオキシル酸ベースの成分の一部が、金属部位との強い相互作用または結合を有したことが考えられる。類似の結果は、空気中で熱処理された試料について観察された。
【0098】
上記のTPOの検討に基づいて、いくつかの実施形態においては、触媒前駆体を、温度約200℃超〜250℃へ暴露することが好ましくてもよい。これらの熱処理は、触媒前駆体からの水および有機物質の初期破烈を除くと考えられる。これは、後の処理または使用に有利であることができる。別の実施形態においては、TPOの検討は、他の有機錯化剤を用いて調製された触媒前駆体について行われることができ、水および有機物質の初期量の出現温度の温度差が同定される。他の実施形態においては、触媒前駆体は、温度約450℃未満で保持されて、強固に相互作用するグリオキシル酸またはその成分の分解が回避されるべきである。当業者には、この温度はまた、選択された有機錯化剤の特質によって異なり得ることが理解されるであろう。
【0099】
図16には、異なる雰囲気(即ち、空気流、静的空気、窒素/空気、および窒素流)中325℃で熱処理した後に、グリオキシル酸を用いて調製されたバルクCoMo触媒前駆体の更に他のTPOが示される。図16には、異なる雰囲気下に得られたバルクCoMo触媒前駆体の重量減(TPO中)は、熱処理が起こる雰囲気によって、強くは影響を及ぼされないことが示される。類似の重量減が、全四種の触媒前駆体について観察された。これは、同じ熱処理温度(325℃)で得られた。温度325℃超では、重量減は、触媒前駆体の加熱中に存在する雰囲気によって影響を及ぼされることができる。
【0100】
一般に、TPOの結果(図12〜16)は、上記の表2に示される炭素分析およびBET表面積測定と一致する。
【0101】
実施例12−更なる触媒前駆体の特性化
図17には、空気およびN2中325℃で熱処理されたバルクCoMoC物質のDRIFTSスペクトルが示される。拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS)スペクトルは、液体N2−冷却MCT検出器を装備されたニコル[Nicolet]670FTIR分光計で収集された。スペクトルは、分解能8cm−1で記録された。バルクCoMoの粉末試料を、ZnSe窓を装着された制御雰囲気のDRIFTSセル(Thermo Spectra Tech)に充填した。セルを、乾燥されたHeおよび他のガス中に原料供給することができるガス系に接続した。プログラム加熱炉を、試料の温度を制御するのに用いた。典型的には、調製されたままの試料を、He中120℃(2℃/分)で処理し、1時間保持して、試料が乾燥された。
【0102】
FTIRによって示されるように、触媒前駆体中に存在する有機化合物ベースの成分は、類似である。アルデヒドおよび酸基のC=O振動特性は、1700〜1900cm−1に観察され、一方カルボキシル基のOCO振動特性は、1400〜1650cm−1に見られることができる。C=O振動のシフトは、金属部位(例えば、Coおよび/またはMo部分)と有機錯化剤(例えば、グリオキシル酸)の官能基(例えば、アルデヒドおよびカルボン酸)との錯化に起因されることができる。脂肪族CH2(1970〜2880cm−1)およびニトリル/イソシアネート(2200〜2191cm−1)などの他の種が明示される。また、芳香族タイプの種=CH(3100cm−1)および−OHタイプの基(3300cm−1)も明示される。種々の表面の種は、有機酸(または錯化剤)と結合され、金属部位との錯体が形成される。新規な表面の種を熱活性化中に製造する化学変換もまた、起こってもよい。例えば、ニトリル/イソシアネートの存在は、グリオキシル酸とのNH3反応によって説明されることができる。NH3は、モリブデン前駆体に存在するアンモニウムカチオンの分解中に形成されることができる。
【0103】
図18には、熱処理の異なる段からのバルクCoMo物質のDRIFTSスペクトルの比較が示される。図17に示されるように、触媒前駆体に観察される重要な特徴は、325℃への全加熱過程を通して存在すると思われる。これは、加熱工程前に有機酸および金属の間に形成された錯体が、試料が325℃で熱処理された際に、安定であるかまたは殆ど保持され、それを通して、H2OおよびCO2の放出(図14および図15に示される)があることを示す。
【0104】
図19には、空気およびN2下に325℃で熱処理されたバルクCoMo触媒前駆体の13CNMRスペクトルが示される。図19に示される13CNMRデータは、有機錯化剤(例えば、グリオキシル酸)と金属との錯化の更なる証拠を示す。13CNMRスペクトルは、マジック角度回転(MAS)の条件下に記録されて、化学シフトの異方性およびいくつかの双極子相互作用が回避された。脂肪族CH2−タイプの炭素は、化学シフト範囲0〜40ppmに現れる。C−N−タイプの炭素はまた、15〜60ppmに観察されることができる。アルデヒド基のC=Oは、190〜220ppmに観察され、一方カルボン酸基のC+Oは、170〜180ppmに観察される。芳香族炭素は、標準的には、120〜160ppmに観察される。加えて、C−OおよびC−N基の炭素は、一般に、およそ40〜80ppmで観察される。これらの結果は、FTIRデータと整合し、金属とグリオキシル酸官能基との錯化によって説明されることができる。
【0105】
図20には、金属が、グリオキシル酸または他のカルボン酸と錯化し得る様子の可能な形態が示される。本発明の有機錯化剤(例えば、グリオキシル酸)は、金属を、一座、二座、または架橋方式で結合してもよい。錯体の構造は、有機錯化剤の特質、および錯化が水溶液中で形成することができる場合には溶液の酸性度(pH)に従って、異なってもよい。図20には、これらの錯体形成の限定された例が示される。
【0106】
図21には、触媒前駆体が、昇温酸化の検討で、より高い温度の加熱処理に暴露された際に、空気中325℃で熱処理されたバルクCoMo触媒前駆体のラマンスペクトルが示される。図21の一番上のスペクトルは、空気の存在下に300℃で暴露されたバルク触媒前駆体に対応する。このスペクトルは、恐らくは、いくつかの無秩序なCoMoO4を示すか、またはさもなければ、結晶質酸化物を全く示さない。次のスペクトルは、450℃に暴露された触媒前駆体を示す。CoMoO4のシグナル強度は、このスペクトルでは、より強い。これは、炭素質のまたは有機化合物ベースの物質の除去によるCoおよびMoの凝集の始まりを表すと考えられる。550℃では、過剰のMoが凝集し始めつつあって、MoO3相が、触媒前駆体内に形成される。これは、前駆体からの炭素質物質の更なる減少によるものと考えられる。最終的に、600℃で、実質的に主要量の炭素質物質が除去されている。この点では、結晶質のMoO3相およびβ−CoMoO4相が、明らかに、スペクトル中に認められる。これは、星印(*)ピークによって示される。
【0107】
このラマンの結果は、図14および図15と一致し、強く相互作用するグリオキシル酸またはその成分は、温度が450℃超である場合に分解し始める。それはまた、図22に示されるX線回折(XRD)の結果と一致する。
【0108】
図22には、バルクCoMo触媒前駆体(空気中325℃での熱処理により形成される)、および同じ試料(空気中600℃で4時間加熱される)の間のXRD結果の比較が示される。325℃へ加熱された触媒前駆体(図面のプロットa)に対応する)については、識別可能な結晶質相は、XRDによって検知されなかった。対照的に、より高温の処理試料(600℃、実質的に主要量の炭素質物質は、触媒前駆体から除去されている)のXRDは、明確な結晶質組織を示す。XRDスペクトルの結晶質ピークは、MoO3(*で明示される)およびCoMoO4結晶質相に起因される。
【0109】
実施例13−(有機/金属)比の変動
実施例1および1Bからの溶液に類似の一連の前駆体溶液を、(R/(Co+Mo))比を変えて形成した。全ての試料を、1MのCo酢酸、1MのAHM、および4.5Mのグリオキシル酸を用いて調製した。次の表に、調製された溶液が、得られた触媒前駆体の特性化データと共に示される。BET表面積の測定については、脱ガス手順を、ヘリウム中200℃で行ったことに注目されたい。熱重量分析(TGA)を、空気中で、室温から600℃以下まで行った(昇温速度10℃/分)。次の表6に示される全ての試料は、非晶質のXRDパターンをもたらした。
【0110】
【表6】
【0111】
上記表の前駆体を、次いで硫化し、相対水素化脱硫活性について比較した。図23には、(グリオキシル酸/金属)比約4以上で形成された前駆体は、対応する硫化触媒でより良好な水素化脱硫活性を示したことが示される。
【0112】
他の有機錯化剤については、向上された反応性を達成するのに必要な有機錯化剤の量は、(有機錯化剤/金属)比0.5以上、1.0以上、2.0以上、3.0以上、4.0以上、または5.0以上であってもよい。
【0113】
実施例14−固体混合物からの調製
請求発明の触媒前駆体はまた、固体混合物から調製されることができる。次の実施例においては、触媒前駆体は、酢酸コバルト、AHM、およびグリオキシル酸一水和物の固体を混合し、粉砕することによって調製された。第一の実施例については、粉砕された混合物を、次いで、325℃で4時間焼成した。これは、XRD分析で、一部が結晶化された相を示した。他の調製においては、粉砕後、混合物を、オートクレーブに、温度80℃または95℃のいずれかで24時間入れた。前駆体を、次いで、325℃で4時間焼成した。得られた触媒前駆体は、主に非晶質のXRDパターンを有した。更に他の調製においては、混合された固体を、水ミストの存在下に粉砕し、次いで焼成した。粉砕中の水ミストは、水概略10wt%を混合された固体へ加えた。これは、実質的に非晶質のXRDパターンを有する前駆体をもたらした。種々の前駆体を、次の表7に記載する。
【0114】
【表7】
【0115】
実施例15−種々の有機物を用いるバルクCoMo−C試料
触媒前駆体を、次の表に示される有機物を、グリオキシル酸の替わりに用いて調製した。或いは、前駆体を、実施例1の方法に従って調製した。(有機物/金属)比は、各実施例で4.8である。但し、第二のケトグルタル酸の例については、比は2.4であった。酢酸およびギ酸は、得られる前駆体の低い炭素含有量により、比較例を表すことに注目されたい。
【0116】
【表8】
【0117】
実施例16−有機酸の混合物からのバルクCoMo−C試料
本発明の酸性触媒前駆体はまた、有機錯化剤の混合物(有機酸の混合物など)を用いて調製されることができる。例としては、触媒前駆体は、有機錯化剤として、グリオキシル酸およびピルビン酸の組合せを、酢酸コバルトおよびAHMと共に用いることによって調製された。混合物を、減圧下60℃で終夜、次いで空気中120℃で、最終的にN2中400℃で4時間乾燥した。Co/Moの相対量は、1:2で保持された。各前駆体の(全有機錯化剤/全金属(Co+Mo))は、4.8であった。混合された有機錯化剤中に用いられた(グリオキシル酸/ピルビン酸)比を表に示す。表に記載される試料はそれぞれ、非晶質のXRDパターンをもたらした。
【0118】
【表9】
【0119】
実施例17−芳香族選択性
4,6−ジエチルジベンゾチオフェン(DEDBT)は、水素化脱硫中に芳香族を保全する選択性を検討するのに用いられることができるモデル化合物である。4,6DEDBTが水素化脱硫された場合には、二つの主な生成物が形成される。
【化1】
【0120】
C4CHB生成物は、形成するのに、より多くのH2を必要とし、従って処理の点からは、あまり望ましくない。C4CHB化合物よりも、C4BP化合物を形成するのに有利な触媒が好ましい。触媒の選択性は、(wt%C4CHB/wt%C4BP)比で表されることができる。
【0121】
本発明に従って作製された触媒の相対的な芳香族選択性を、商業的触媒に対して調査するために、モデル化合物の検討を行った。ドデカンモデル原料材を、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン(4,6DEDBT)1.5wt%でスパイクした。原料材を、三相反応器中で、265℃、250psigH2、およびH2流速650SCF/Bで処理した。原料材を、実施例1の触媒Aに対応する触媒の存在下に、および別に、KF−757(商標)(Albemarle Catalysts Companyによって作製された商業的に入手可能な触媒)の存在下に処理した。原料および生成物を、GC−質量分光法を用いて分析した。本発明に従って処理された原料材は、(C4CHB/C4BP)比9を有し、一方KF−757(商標)で処理された原料材は、比25を有した。これは、本発明の触媒は、直接脱硫(即ち、C4BPの形成)を導く反応経路に対して、より良好な相対活性を示したことを示す。
【0122】
実施例18−触媒前駆体および硫化触媒中の保持炭素
触媒前駆体および硫化触媒中の有機化合物ベースの成分は、触媒の向上された活性を保持するのに重要であると考えられる。図24には、硫化前に種々の温度で焼成された触媒前駆体の相対HDS性能が示される。図24においては、温度775゜F(413℃)で焼成された触媒前駆体は、参照KF−757(登録商標)触媒の活性の概略200%の活性を示す。好ましくは、触媒前駆体は、温度約625゜F(329℃)〜約775゜F(413℃)で焼成されることができる。前駆体の焼成に対する温度825゜F(440℃)超の場合には、炭素含有量は、追出されてもよく、より低い活性(示される)がもたらされる。
【0123】
炭素はまた、硫化後、本発明の触媒中に保持される。次の表には、硫化前の触媒前駆体、およびH2S/H2による液相硫化(500psig)後の触媒について、炭素含有量が示される。
【0124】
【表10】
【0125】
炭素が、硫化後に保持されることの更なる証拠は、触媒前駆体および対応する硫化触媒の13CNMRによって示されることができる。図25には、硫化前後の本発明の触媒について、全体的に類似の13CNMRプロフィルが示される。領域約170〜230ppm(アルデヒドおよび酸の官能性からのC=Oの特性)、および領域約40〜80ppm(C−Oの特性)における13CNMRの変化は、硫化中の硫黄原子による酸素原子の置換と一致することに注目されたい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第VIII族金属、第VIB族金属および有機化合物ベースの成分10wt%〜60wt%を含み、BETに基づく表面積が16m2/g以下であることを特徴とするバルク金属触媒前駆体組成物。
【請求項2】
前記第VIII族金属は、ニッケルまたはコバルトであり、前記第VIB族金属はモリブデンまたはタングステンであることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項3】
硫化されて、触媒が形成されることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項4】
前記触媒は、平均1.2〜2.5のスタック高さを有するMeS2(Meは第VIB族金属を表す)領域を含むことを特徴とする請求項3に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項5】
表面積が10m2/g未満であることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項6】
表面積が少なくとも0.1m2/gであることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項7】
前記有機化合物ベースの成分は、有機酸に基づくことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項8】
炭素12wt%〜25wt%を含むことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項9】
前記第VIII族金属および前記第VIB族金属は、カルボネート、ナイトレート、スルフェート、アセテート、クロライド、ヒドロキシド、ヒドロキシカルボネート、アセチルアセテート、アセチルアセトネート、グリシン、ナフテネート、オキシド、水和オキシド、カルボキシレート、ホルメート、オキサレート、タルトレート、ラクテート、プロピオネート、シトレート、グリオキシレート、グルコネート、グリコレート、若しくはアンモニウムまたはそれらのアミン形態から選択される塩の形態で提供されることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項10】
前記有機化合物ベースの成分は、−COOH官能基および少なくとも一種の更なる官能基を含む有機酸に基づき、
前記更なる官能基は、カルボン酸;−COOH、ヒドロキシメート酸;−NOH−C=O、ヒドロキソ;−OH、ケト;−C=O、アミン;−NH2、アミド;−CO−NH2、イミン;−CNOH、エポキシ;=COC=またはチオール;−SHから選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項11】
前記有機化合物ベースの成分は、有機錯化剤に基づき、
前記有機錯化剤は、ピルビン酸、レブリン酸、4−アセチル酪酸、1,3−アセトンジカルボン酸、3−オキソプロパン酸、4−オキソブタン酸、2,3−ジホルミルコハク酸、5−オキソペンタン酸、4−オキソペンタン酸、チオグリコール酸、エチルグリオキシレート、グリコール酸、グルコース、グルコン酸、グリセリン、オキサミド酸、グリオキシル酸、グリオキシル酸2−オキシム、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、N−メチルアミノジ酢酸、イミノジ酢酸、クエン酸、シュウ酸、2−ケトグルコン酸、ケト−グルコン酸、アルファ−ケトグルタル酸、2−ケト酪酸、アセチルアセトンおよびオキサロ酢酸よりなる群から選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項12】
原料材を、請求項1に記載の触媒の存在下に、水素を用いて処理する工程を含むことを特徴とする水素処理方法。
【請求項13】
原料材を、請求項3に記載の触媒の存在下に、水素を用いて処理する工程を含むことを特徴とする水素処理方法。
【請求項1】
第VIII族金属、第VIB族金属および有機化合物ベースの成分10wt%〜60wt%を含み、BETに基づく表面積が16m2/g以下であることを特徴とするバルク金属触媒前駆体組成物。
【請求項2】
前記第VIII族金属は、ニッケルまたはコバルトであり、前記第VIB族金属はモリブデンまたはタングステンであることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項3】
硫化されて、触媒が形成されることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項4】
前記触媒は、平均1.2〜2.5のスタック高さを有するMeS2(Meは第VIB族金属を表す)領域を含むことを特徴とする請求項3に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項5】
表面積が10m2/g未満であることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項6】
表面積が少なくとも0.1m2/gであることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項7】
前記有機化合物ベースの成分は、有機酸に基づくことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項8】
炭素12wt%〜25wt%を含むことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項9】
前記第VIII族金属および前記第VIB族金属は、カルボネート、ナイトレート、スルフェート、アセテート、クロライド、ヒドロキシド、ヒドロキシカルボネート、アセチルアセテート、アセチルアセトネート、グリシン、ナフテネート、オキシド、水和オキシド、カルボキシレート、ホルメート、オキサレート、タルトレート、ラクテート、プロピオネート、シトレート、グリオキシレート、グルコネート、グリコレート、若しくはアンモニウムまたはそれらのアミン形態から選択される塩の形態で提供されることを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項10】
前記有機化合物ベースの成分は、−COOH官能基および少なくとも一種の更なる官能基を含む有機酸に基づき、
前記更なる官能基は、カルボン酸;−COOH、ヒドロキシメート酸;−NOH−C=O、ヒドロキソ;−OH、ケト;−C=O、アミン;−NH2、アミド;−CO−NH2、イミン;−CNOH、エポキシ;=COC=またはチオール;−SHから選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項11】
前記有機化合物ベースの成分は、有機錯化剤に基づき、
前記有機錯化剤は、ピルビン酸、レブリン酸、4−アセチル酪酸、1,3−アセトンジカルボン酸、3−オキソプロパン酸、4−オキソブタン酸、2,3−ジホルミルコハク酸、5−オキソペンタン酸、4−オキソペンタン酸、チオグリコール酸、エチルグリオキシレート、グリコール酸、グルコース、グルコン酸、グリセリン、オキサミド酸、グリオキシル酸、グリオキシル酸2−オキシム、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、N−メチルアミノジ酢酸、イミノジ酢酸、クエン酸、シュウ酸、2−ケトグルコン酸、ケト−グルコン酸、アルファ−ケトグルタル酸、2−ケト酪酸、アセチルアセトンおよびオキサロ酢酸よりなる群から選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の触媒前駆体組成物。
【請求項12】
原料材を、請求項1に記載の触媒の存在下に、水素を用いて処理する工程を含むことを特徴とする水素処理方法。
【請求項13】
原料材を、請求項3に記載の触媒の存在下に、水素を用いて処理する工程を含むことを特徴とする水素処理方法。
【図1】
【図2−a】
【図2−b】
【図3−a】
【図3−b】
【図4】
【図5】
【図6−a】
【図6−b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2−a】
【図2−b】
【図3−a】
【図3−b】
【図4】
【図5】
【図6−a】
【図6−b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2010−510044(P2010−510044A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532443(P2009−532443)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/021870
【国際公開番号】WO2008/045551
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/021870
【国際公開番号】WO2008/045551
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】
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