説明

バルブステムに対するリテーナ・コッターの取付け装置及び取付け方法

【課題】 バルブステムにリテーナやコッターを組付けるにあたり、熟練度を要さず、誰でも確実に組付けできるようにする。
【解決手段】 振動発生器3が取り付けられる基板2に把持機構5を取り付けて昇降自在にし、この把持機構5を、バルブステムVの軸線に合致してバルブステムV上端面に当接自在なガイドバー6と、このガイドバー6に沿って昇降自在なコッター押圧部材7と、吸着孔8hを備えたリテーナ保持部材8から構成し、予めリテーナRとコッターCが仮組みされるリテーナ・コッターをリテーナ保持部材8で保持し、バルブステムVの上方から把持機構5を降下させつつリテーナ・コッターに振動を与えながら組付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのバルブステムにリテーナ・コッターを取付けるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのバルブはバルブスプリングの力によって閉じられており、給排気のタイミングに合わせてスプリング力に抗して開かれるが、このようなバルブスプリングを受けるバルブステムの部分には、リテーナやコッターが使用されている。このようなリテーナ・コッターの組付け構造の一例は、図7、図8に示すように、バルブステムVの基端部側に設けられた凹部dに、二分割されたコッターの凸部tを嵌合させ、このコッターCの周囲をスプリングS受け用のリテーナRで拘束することで構成されるが、このようなバルブステムVに対してリテーナRやコッターCを組付ける際は、例えば、図6に示すような吸着孔51hを有する把持機構51により、予めリテーナRとコッターCが一体に組み付けられたリテーナ・コッターを把持してバルブステムVの上方から自動的に組み付けるような手順が採られる。しかしながら、この場合にスプリングSを押圧しながらリテーナRを押し下げても、半割り状のコッターCがバルブステムVの上端面xに乗り上げたままとなって解消されず、把持機構51の昇降動を複数回繰り返しても最終的に乗り上げ状態が解消しないため組み付け出来ないという不具合があった。
【0003】
一方、リテーナとコッターが予め一体に組みつけられるサブアッセンブリーをバルブステムに自動的に組付けるような技術として、例えば、バルブステムが斜めに傾斜する状態で、サブアッセンブリーを保持する把持機構をバルブステムの軸線上に位置させ、サブアッセンブリーを軸線方向に対して略直角方向に移動させた後、概ね逆方向に移動させることにより各コッターのセンタリングを行い、その後押し込み動作して組付けるような技術(例えば、特許文献1参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2584484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記技術の場合、コッターをバルブステムに組付ける初動のセンタリングにおいて、コッターの下端部をバルブステムに嵌め込むため把持機構の移動方向を制御する技術であり、その後のバルブステムの凹部とコッターの凸部を嵌合させるまでの一連の工程においては、なんら関係することなく、コッターの確実な組み付けという点では完全ではなかった。
【0006】
そこで本発明は、バルブステムにリテーナやコッターを完全に組付けるにあたり、熟練度を要さず、誰でも確実に組付けできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、エンジンバルブ部品であるリテーナ・コッターをバルブステムに組み付けるための装置において、加振機構を備えた基板と、この基板に取り付けられる把持機構を設け、この基板と把持機構を駆動源によって昇降自在にするとともに、前記把持機構として、バルブステムの軸線に合致してバルブステムの上端部に当接するまで降下することのできるガイドバーと、このガイドバーの周囲に配設され独自の昇降駆動源に連結されて昇降駆動可能なコッター押圧部材と、このコッター押圧部材の周囲に配設され且つリテーナを吸着保持して前記ガイドバーの降下位置よりさらに下方まで降下することのできるリテーナ保持部材から構成した。
【0008】
そして、請求項4のように、予めリテーナとコッターが組み付けられたリテーナ・コッターを把持機構のリテーナ保持部材によって把持した後、把持機構を降下させて把持機構のガイドバーをバルブステムの軸線に合致するようバルブステムの上端部に当接させ、リテーナ・コッターに加振機構から振動を加えながら、リテーナ保持部材をさらに降下させ、さらにコッター押圧部材を所定位置まで降下させることでリテーナ・コッターを組み付けるようにする。
このように、加振機構によってリテーナ・コッターに振動を与えながら最後まで組付けることにより、確実にリテーナ・コッターを組付けることができ、しかもこの際、リテーナがスプリング上に載置されているため、スプリングの作用によって振動が増幅され、コッターとバルブステムの組み付けがスムーズに行われる。また、必要に応じて、請求項5のように、把持機構をバルブステム側に向けて複数回昇降動させることで行うようにすれば、更に確実に組付けることができる。
【0009】
この際、前記基板に把持機構を複数取り付けるようにすれば、複数のバルブステムに対するリテーナ・コッターの組付けを同時に行うことができて作業の効率化が図られ、また、把持機構を、基板に対して着脱可能に取り付けることにより、機種が異なった場合には、それに合わせて簡単に適切な把持機構に取り替えることができる。
【発明の効果】
【0010】
バルブステムにリテーナ・コッターを組付けるにあたり、加振機構によりリテーナ・コッターに振動を与えながら組付けることで、コッターをバルブステムの外周に確実に位置させることができ、途中で引っ掛かるような不具合を防止できる。この際、把持機構をバルブステム側に向けて複数回昇降動させれば、より確実に組付け可能である。
この際、把持機構を基板に複数設けることで、複数のバルブステムに同時に複数のリテーナ・コッターを組付けることができて作業効率が向上し、また、把持機構を基板に対して着脱自在にすることで、バルブステムの機種が異なった場合でも容易に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るバルブステムに対するリテーナ・コッターの取付け装置の要部を示す説明図である。
【図2】本発明に係る把持機構により保持したリテーナ・コッターの下端部をバルブステムの上端部に接触させた状態図である。
【図3】図2の状態から把持機構を降下させ、ガイドバーの下端部をバルブステム上端部に当接させた状態の説明図である。
【図4】図3の状態からリテーナ保持部材とコッター押圧部材を更に降下させた状態の説明図である。
【図5】バルブステムの凹部とコッターの凸部が嵌合し、かつコッター押圧部材が降下した状態を示す説明図である。
【図6】加振機構のない装置でリテーナ・コッターを組付けるときの状態を示す説明図である。
【図7】バルブステムにリテーナとコッターが組み付けられた状態の説明図である。
【図8】リテーナとコッターが結合される前の状態を示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
本発明に係るバルブステムに対するリテーナ・コッターの組付け装置は、加振機構によりリテーナ・コッターを振動させながらバルブステムに組付けることを特徴としている。
【0013】
すなわち、図1に示すように、本組付け装置1は、基板2に取り付けられる加振機構としての振動発生器3と、この基板2に対してネジ部4により着脱自在に取り付けられる把持機構5を備えており、この把持機構5は、以下に述べるリテーナRとコッターCを一体化したリテーナ・コッターを把持できるようにされるとともに、これら基板2と把持機構5からなる組付け装置1は、不図示の駆動源によって昇降自在にされている。
【0014】
リテーナRとコッターCは、予めリテーナRの中心孔に半割り状のコッターCが一対挿入されて一体化され、不図示の容器内に収納されている。
【0015】
前記把持機構5は、図2にも示すように、中央部に配設されるガイドバー6と、このガイドバー6の周囲に配設され、且つ独自の昇降駆動源によって独自に昇降自在なコッター押圧部材7と、このコッター押圧部材7の周囲に配設されるリテーナ保持部材8を備えており、このリテーナ保持部材8には、リテーナRを吸着保持するための吸着孔8hが円周方向に沿って複数設けられている。
【0016】
そして、前記ガイドバー6をバルブステムVの軸線に合わせた状態で、把持機構5を昇降させる駆動源によって把持機構5全体を降下させると、前記ガイドバー6はバルブステムVの上端面に当接してそれ以上降下しないが、リテーナ保持部材8やコッター押圧部材7は更に下方まで降下できるようにされている。
【0017】
以上のような組付け装置1によるリテーナ・コッターの組付け方法について説明する。
図1に示すように、リテーナRとコッターCが一体化されたものを把持機構5のリテーナ保持部材8で吸着保持し、バルブステムVの軸線にガイドバー6の軸線を合致させて位置決めする。
この際、リテーナ保持部材8でリテーナ・コッターを把持した時点から振動発生器3が駆動されてリテーナ・コッターに振動が伝達されている。
【0018】
次に、把持機構5は不図示の駆動源によって降下を始め、図2に示すように、リテーナRの周縁近傍の下端部がバルブスプリングSに当接するとともに、コッターCの下端部がバルブステムVの上端部に当接し始める。この際、振動発生器3からリテーナ・コッターに伝達される振動は、スプリング3の作用によって増幅され、半割り状のコッターCはリテーナR内で微動すると同時に、場合によっては中心孔内で僅かに回転しながらバルブステムVに当接する。
【0019】
更に、リテーナ保持部材8がスプリングSを押し縮めながら把持機構5が降下すると、図3に示すように、ガイドバー6の下端部がバルブステムVの上端面に当接した状態になるとともに、コッターCの下端側の一部が、バルブステムVとリテーナRの中心孔との隙間に入り込み、リテーナRの上面より僅かに上方に飛び出た状態になる。そして、このコッターCの下端側の一部がバルブステムVとリテーナRの中心孔との隙間に入り込む作用は、リテーナRやコッターCに微振動が付加されていることによってスムーズに行われ、コッターCがバルブステムVの上端部に引っ掛かるような不具合がない。
【0020】
更に把持機構5が降下すると、ガイドバー6はそのままの位置を保持しているが、リテーナ保持部材8やコッター押圧部材7は下方に降下し、図4に示すように、コッターCも自重で下方に降下する。この降下の際も、コッターCやリテーナRに微振動が与えられているため、コッターCはスムーズに降下する。
【0021】
そして、把持機構5が更に降下すると、最終的に図5に示すように、コッターCの凸部tがバルブステムVの凹部dに嵌合し、正規の組み付け状態となる。
なお、このときの組付けの細部について説明すると、リテーナRは、図5の状態より更に下方に降下する。このため、コッターCもその凸部tがバルブステムVの凹部dに嵌合しないで、下降し過ぎた状態になることもある。そして、リテーナRが最下降端まで降下した時点で、コッター押圧部材7が不図示の昇降駆動源によって所定位置まで降下する。
【0022】
リテーナ・コッターが下降し過ぎた場合は、把持機構5が僅かに上昇すると、スプリングSの復元力によってリテーナRとコッターCも上昇し、最終的に図5に示す状態で、コッターCの凸部tがバルブステムVの凹部dに嵌合する。また、この際、コッターCの凸部tがバルブステムVの凹部dから外れて更に上昇しようとしても、コッター押圧部材7によってそれが阻止される。
そして組み付けが完了すると、把持機構5は上昇する。
【0023】
ところで、本実施例では、以上のような把持機構5の1回の降下で組み付けができなかった場合、把持機構5の昇降動を複数回繰り返すようにしている。
このような繰り返しによって、確実に組付けることができる。
【0024】
ところで、以上のような把持機構5は、基板2に対して複数取り付けられている。このため、複数のバルブステムVに対して、同時に複数のリテーナRやコッターCを組付けることができる。
また、把持機構5がネジ部4により基板2に着脱自在に取り付けられているため、例えば、取り扱う機種が変更になった場合でも把持機構5を取り替えるだけで対応でき便利である。
【0025】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。例えば、本実施例ではリテーナ・コッターに対する振動の付加を把持機構5によって把持した時点から初めているが、図2に示すように、コッターCがバルブステムVに当接した時点から振動を与えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
バルブステムに対してリテーナやコッターを組付ける際、特に熟練度がなくても確実に組み付けできるため、エンジンの組立工程等において広い普及が期待される。
【符号の説明】
【0027】
1…組付け装置、2…基板、3…振動発生器、5…把持機構、6…ガイドバー、7…コッター押圧部材、8…リテーナ保持部材、8h…吸着孔、V…バルブステム、d…凹部、C…コッター、t…凸部、R…リテーナ、S…スプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンバルブ部品であるリテーナ・コッターをバルブステムに組み付けるための装置であって、加振機構を備えた基板と、この基板に取り付けられる把持機構を備え、この基板と把持機構は駆動源によって昇降自在にされるとともに、前記把持機構は、バルブステムの軸線に合致してバルブステムの上端部に当接するまで降下することのできるガイドバーと、このガイドバーの周囲に配設され独自の昇降駆動源に連結されて昇降駆動可能なコッター押圧部材と、このコッター押圧部材の周囲に配設され且つリテーナを吸着保持して前記ガイドバーの降下位置よりさらに下方まで降下することのできるリテーナ保持部材から構成されることを特徴とするバルブステムに対するリテーナ・コッターの組付け装置。
【請求項2】
前記把持機構は、前記基板に複数取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のバルブステムに対するリテーナ・コッターの組付け装置。
【請求項3】
前記把持機構は、前記基板に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバルブステムに対するリテーナ・コッターの組付け装置。
【請求項4】
エンジンバルブ部品であるリテーナ・コッターをバルブステムに組み付けるための方法であって、予めリテーナとコッターが組み付けられたリテーナ・コッターを把持機構のリテーナ保持部材によって把持した後、把持機構を降下させて把持機構のガイドバーをバルブステムの軸線に合致するようバルブステムの上端部に当接させ、リテーナ・コッターに加振機構から振動を加えながら、リテーナ保持部材をさらに降下させ、さらにコッター押圧部材を所定位置まで降下させることでリテーナ・コッターを組み付けることを特徴とするバルブステムに対するリテーナ・コッターの組付け方法。
【請求項5】
前記バルブステムに対するリテーナ・コッターの組付けは、把持機構をバルブステム側に向けて複数回昇降動させることで行われることを特徴とする請求項4に記載のバルブステムに対するリテーナ・コッターの組付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−91252(P2012−91252A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239331(P2010−239331)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】