説明

バルブ金属の製造方法およびバルブ金属の製造装置

【課題】 希釈剤のリサイクルが簡便で工業的であるバルブ金属の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のバルブ金属の製造方法は、フッ化カリウムと塩化カリウムとフッ化ナトリウムとを含む希釈剤中に、バルブ金属フッ化物のカリウム塩およびナトリウムを添加し、反応させてバルブ金属を生成させる反応工程と、反応工程で生成したバルブ金属を回収するともに、希釈剤の一部を除去する回収・除去工程と、希釈剤の残部にフッ化カリウムおよび塩化カリウムを補充する補充工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化カリウムと塩化カリウムとを含む希釈剤中でバルブ金属を製造するバルブ金属の製造方法およびバルブ金属の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブ金属である金属タンタルおよび金属ニオブは固体電解質コンデンサの原材料として広く用いられている。金属タンタルの製造方法としては、例えば、フッ化カリウムと塩化カリウムとを含む希釈剤中でフッ化タンタルカリウム(KTaF)をナトリウムで還元する方法が知られている。この方法では、還元反応の後、目的生成物であるタンタルを回収し、残った希釈剤および還元反応時に生成したフッ化ナトリウムを廃棄していた。しかしながら、反応後の希釈剤を廃棄することは環境への負荷が大きいことから望ましいことではなかった。
そこで、特許文献1では、特定の成分割合に調整した希釈剤中にて、フッ化タンタルカリウムをナトリウムで還元してタンタルを得た後、その希釈剤を回収、精製して還元反応に再利用する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2002−60862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、還元反応後の希釈剤に水を添加し、加熱して水溶液化した後、再結晶して精製するので、希釈剤のリサイクルが煩雑で、時間を要する上に、エネルギー消費量が多く、工業的ではなかった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、希釈剤のリサイクルが簡便で工業的であるバルブ金属の製造方法を提供することを目的とする。さらには、希釈剤のリサイクルが容易なバルブ金属の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のバルブ金属の製造方法は、フッ化カリウムと塩化カリウムとフッ化ナトリウムとを含む希釈剤中に、バルブ金属フッ化物のカリウム塩およびナトリウムを添加し、反応させてバルブ金属を生成させる反応工程と、
反応工程で生成したバルブ金属を回収するともに、希釈剤の一部を除去する回収・除去工程と、
希釈剤の残部にフッ化カリウムおよび塩化カリウムを補充する補充工程とを有することを特徴とする。
本発明のバルブ金属の製造方法においては、回収・除去工程における希釈剤の除去量は、回収・除去工程後の希釈剤残部中のフッ化ナトリウム量が、反応工程前と略同等になる量であり、
補充工程におけるフッ化カリウムの補充量および塩化カリウムの補充量は、補充工程後の希釈剤中のフッ化カリウムおよび塩化カリウムの量が、反応工程前と各々略同等になる量であってもよい。
本発明のバルブ金属の製造方法においては、回収・除去工程では、希釈剤が溶融状態にあることが好ましい。
本発明のバルブ金属の製造装置は、フッ化カリウムと塩化カリウムとフッ化ナトリウムとを含む希釈剤中で、バルブ金属フッ化物のカリウム塩とナトリウムとを反応させる反応器と、
反応器を加熱する加熱手段と、
反応器から希釈剤を排出するための排出管とを具備することを特徴とする。
【0005】
なお、バルブ金属とは、一般的には、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンなど、陽極酸化により表面にその酸化物の皮膜が形成するもののことであるが、本発明においては、前記金属のうちのタンタルおよびニオブを総称してバルブ金属と称する。また、バルブ金属フッ化物のカリウム塩とは、フッ化タンタルカリウム(KTaF)またはフッ化ニオブカリウム(KNbF)のことである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属タンタルの製造方法では、希釈剤のリサイクルが簡便であり、時間およびエネルギー消費量が少ないため、工業的である。
本発明の金属タンタルの製造装置は、希釈剤を簡便にリサイクルできるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を、金属タンタルの製造を例に挙げて説明する。
図1に、第1の実施形態における金属タンタルの製造装置(以下、製造装置と略す)を示す。この製造装置1は、希釈剤中でフッ化タンタルカリウムとナトリウムとを反応させる反応器10と、反応器10底部に接続され、反応器10内容物を反応器10外に排出するための排出管20と、反応器10および排出管20の外側に設けられ、これらを加熱する加熱手段であるヒータ30と、反応器10に原料を導入する原料導入管40と、反応器10内のガスを導出入するガス導出入管50とを具備している。また、排出管20、原料導入管40およびガス導出入管50には、各々開閉弁21,41,51が設けられている。この製造装置1では、開閉弁21を開放することにより内容物を抜き出せるので合理的である。
【0008】
そして、上記製造装置1を使用して金属タンタルを製造するには、まず、排出管20の開閉弁21を閉じた後、希釈剤調製工程にて、原料導入管40を介して、反応器10内に塩化カリウムとフッ化カリウムとフッ化ナトリウムとを所定量仕込み、混合して希釈剤を調製する。
次に、ガス導出入管50を介して反応器10内の空気を排気した後、アルゴンガスを導入し、ヒータ30により反応器10を加熱して希釈剤を溶融する。次いで、反応工程にて、溶融した希釈剤中に、原料導入管40を介してフッ化タンタルカリウムおよび溶融したナトリウムの所定量を分割して添加する。そして、フッ化タンタルカリウムを溶融したナトリウムで還元して金属タンタルを生成する(下記式1参照)。生成した金属タンタルは希釈剤より比重が大きいので、溶融状態において反応器10下部に沈殿する。
この反応工程では、金属タンタルを生成するだけでなく、フッ化カリウムおよびフッ化ナトリウムが副生する。そのため、反応工程後には、その分だけ希釈剤量が増加する。
【0009】
【化1】

【0010】
次に、回収・除去工程にて、ヒータ30による加熱を継続しながら開閉弁21を開き、排出管20を介して、反応工程で生成して反応器10内に沈殿した金属タンタルを抜き出して回収する。続いて、排出管20を介して希釈剤の一部を反応器10から抜き出して除去する。なお、溶融状態においては、金属タンタルと希釈剤とは比重差が大きく完全に分離しているので、これらを区別して抜き出すことは容易である。また、反応器10から抜き出された希釈剤は、廃棄処理装置にてカルシウム化合物などと反応させてフッ素を取り除いた後に廃棄する。
上記反応工程では、フッ化カリウムとフッ化ナトリウムとが増加するが、フッ化ナトリウムの方がフッ化カリウムより増加量が多いため、フッ化ナトリウムの増加分に応じた量の希釈剤を除去して不足成分を補充すれば、反応器内の希釈剤を反応前と同量かつ同組成に戻すことが可能になる。
上記回収・除去工程にて、フッ化ナトリウム増加分に応じた量の希釈剤を除去すると、反応器内の希釈剤は、塩化カリウム量はもちろんのこと、反応によって増加したフッ化カリウムの量も反応前と比較して少なくなる。
よって、補充工程にて、塩化カリウムだけでなく、フッ化カリウムも、原料導入管40を介して反応器10内の希釈剤の残部に補充して、次の反応に備える。
【0011】
上記製造方法において、希釈剤とフッ化タンタルカリウムとの組成(希釈剤:フッ化タンタルカリウム)は、1:1〜20:1であることが好ましく、金属タンタルの表面積を大きくしたい場合には希釈剤の比率を高めることがより好ましい。
【0012】
反応工程における反応温度は、表面積を大きくする場合にはできるだけ低温であることが好ましいが、反応性を考慮すると、750〜950℃が好ましく、800〜850℃がより好ましい。なお、希釈剤の成分中で最も融点の低い塩化カリウム量の割合を多くすると反応温度を低くできるが、希釈剤の水への溶解性が高い点からフッ化カリウムを添加するのでその添加量に応じて反応温度を適宜選択することが好ましい。
【0013】
上述した実施形態では、反応器底部に排出管が接続された製造装置を用いたが、本発明は製造装置における排出管の接続位置に制限はない。以下の第2の実施形態では、排出管が反応器上部から内部に挿入された製造装置を用いた例について説明する。
【0014】
図2に、金属タンタルの製造装置の第2の実施形態を示す。なお、本実施形態では、図1と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この製造装置2は、反応器10と、ヒータ30と、原料導入管40と、ガス導出入管50と、反応器10上部から内部に挿入された排出管60とを具備している。また、排出管60は、その一端側61が反応器10内の希釈剤中に入り込むように配置されている。また、排出管60の他端側は、切替弁を介して廃棄処理装置および別の反応器に連絡している(いずれも図示せず)。この製造装置2では、高温になる部分にバルブが設けられていないから、バルブの破損が防止され、耐久性に優れる。
【0015】
そして、この製造装置2を用いた金属タンタルの製造方法では、第1の実施形態と同様に、塩化カリウムとフッ化カリウムとフッ化ナトリウムとを含む希釈剤中に、フッ化タンタルカリウムおよび溶融したナトリウムの所定量を添加し、フッ化タンタルカリウムを溶融したナトリウムで還元して金属タンタルを生成する。
次に、回収・除去工程にて、ヒータ30により反応器10および排出管60を加熱しながら、ガス導出入管50よりガスを導入し、反応器10内を加圧して上層の希釈剤の一部を廃棄処理装置に圧送する。続いて、希釈剤の残部を別の反応器に圧送する。次いで、冷却後、反応器10を開放するなどして反応器10内の金属タンタルを回収する。
希釈剤の残部が圧送された反応器では、塩化カリウムおよびフッ化カリウムを補充して次の反応に備える。
【0016】
本発明では、上述した実施形態以外の製造装置を用いることもできる。例えば、排出管にフィルタを設けてもよい。排出管にフィルタを設けた場合には、分散した金属タンタルがフィルタにより通過しなくなるので、回収・除去工程にて、加熱を継続しながら開閉弁を開き、排出管から希釈剤を選択的に抜き出して除去し、その後、反応器上部を開放して金属タンタルを回収する。なお、金属と希釈剤との比重差が小さい場合には、フィルタを設ける方法が適している。
【0017】
本発明では、希釈剤の除去量を、反応器内の希釈剤中のフッ化ナトリウム量が、反応工程におけるフッ化タンタルカリウムおよびナトリウムの添加前と略同等になる量とする。また、補充工程におけるフッ化カリウムおよび塩化カリウムの補充量を、反応器内の希釈剤中のフッ化カリウムおよび塩化カリウムの量が、反応工程におけるフッ化タンタルカリウムおよびナトリウムの添加前と略同等になる量とする。
回収・除去工程における希釈剤の除去量は、反応工程時に生成するフッ化ナトリウム量を予め計算し、その計算結果に基づいて決めてもよいし、反応工程終了後にフッ化ナトリウム量を測定し、その測定結果に基づいて決めてもよい。また、補充工程におけるフッ化カリウムおよび塩化カリウムの補充量も計算結果に基づいて決めてもよいし、測定結果に基づいて決めてもよい。
計算によって求める場合、希釈剤の除去量(抜き出し量)および塩化カリウムとフッ化カリウムの補充量は、以下の計算によって求めることができる。
【0018】
なお、以下の計算において、フッ化タンタルカリウム(KTaF)の仕込み質量をx、塩化カリウム(KCl)の仕込み質量をy、フッ化カリウム(KF)の仕込み質量をz、フッ化ナトリウム(NaF)の仕込み質量をa、抜き出し量をrとする。
【0019】
反応工程では、フッ化タンタルカリウム1モルに対して2モルのフッ化カリウムが生成し、5モルのフッ化ナトリウムが生成する。したがって、反応によって増加するフッ化カリウム質量は
[58.1(フッ化カリウム1モル当たりの質量)×2/392.2(フッ化タンタルカリウム1モル当たりの質量)×x=0.3x (2)
である。また、反応によって増加するフッ化ナトリウムの質量は
[42(フッ化カリウム1モル当たりの質量)×5/392.2(フッ化タンタルカリウム1モル当たりの質量)×x=0.54x (3)
である。
そして、反応器10内の希釈剤中のフッ化ナトリウム量を、反応工程におけるフッ化タンタルカリウムおよびナトリウムの添加前と略同等にするためには、反応によって生成したフッ化ナトリウムの増加分が除去される量の希釈剤を抜き出せばよい。つまり、生成したフッ化ナトリウム量と抜き出した希釈剤中のフッ化ナトリウム量とが等しい(式4)。
0.54x=[r×(a+0.54x)]/(y+z+a+0.3x+0.54x) (4)
式4を変形すると式5になり、この式5に、始めの仕込み量x,y,z,aを代入することで抜き出し量rを求めることができる。
r=[0.54x×(y+z+a+0.84x)]/(a+0.54x) (5)
【0020】
また、塩化カリウムの補充量は、以下の通りである。
まず、反応器内に残った塩化カリウム量mを、その仕込み量yから抜き出した量を引くことで求める(式6)。
m=y-r(y+0.3x)/(y+z+a+0.84x) (6)
塩化カリウムの補充量pは、始めの仕込み量yから反応器内に残った塩化カリウム量mを引くことで求められる(式7)。
p=y-{y-ry/(y+z+a+0.84x)} (7)
つまり、
p=ry/(y+z+a+0.84x) (8)
である。この式8にx,y,z,a,rを代入することで塩化カリウムの補充量を求めることができる。
【0021】
さらに、フッ化カリウムの補充量は、以下の通りである。
まず、反応器内に残ったフッ化カリウム量nを、その仕込み量zと反応による増加量0.3xの合計から抜き出した量を引くことで求める(式9)。
n=z+0.3x-r(z+0.3x)/(y+z+a+0.84x) (9)
フッ化カリウムの補充量qは、始めの仕込み量zから反応器内に残ったフッ化カリウム量nを引くことで求められる(式10)。
q=z-{z-0.3x-r(z+0.3x)/(y+z+a+0.84x)} (10)
つまり、
q=r(z+0.3x)/(y+z+a+0.84x)-0.3x (11)
である。この式11にx,y,z,a,rを代入することでフッ化カリウムの補充量を求めることができる。
そして、求めた除去量で希釈剤の一部を除去し、求めた補充量で塩化カリウムおよびフッ化カリウムを補充することで、補充工程後の希釈剤を反応前と同量かつ同組成にできる。
【0022】
以上説明した金属タンタルの製造方法では、反応後の希釈剤の一部を除去し、残部を再利用するので、希釈剤廃棄量を削減でき、環境への負荷を小さくできる。しかも、この方法では、再利用する希釈剤を水溶液化や再結晶をせずにそのまま次の反応に利用するから希釈剤のリサイクルが簡便であり、時間およびエネルギー消費量が少なく、工業的である。
特に、回収・除去工程にて、反応後の希釈剤中のフッ化ナトリウム量を反応前の量に戻し、補充工程にて、反応後の希釈剤中のフッ化カリウムおよび塩化カリウム量を反応前の量に戻すことができるので、補充工程後の反応器内の希釈剤の組成を、反応工程前の希釈剤の組成と略同等にできる。したがって、この希釈剤中に前回製造時と同じ量のフッ化タンタルカリウムおよびナトリウムを添加して反応工程を再び行うことで、前回と同じ条件で金属タンタルを製造できる。その結果、希釈剤をリサイクルしつつ同じ特性の金属タンタルを製造できる。
【0023】
また、回収・除去工程には希釈剤が溶融状態にあるから、反応器から抜き出しやすく、時間とエネルギー消費量をより削減できる。ただし、希釈剤は溶融状態で反応器から除去しなくてもよく、冷却後、固化してから削り取るなどして除去してもよい。
なお、上述した実施形態は金属タンタルの製造に関するものであったが、本発明は金属ニオブの製造であってもよい。また、希釈剤中で原料を還元する反応であって、原料から希釈剤に含まれる成分を生成する場合、例えば、塩化カルシウム中で五塩化タンタルをカルシウムで還元する場合などに対しても、本発明に基づけば、金属を製造しつつ希釈剤のリサイクルを可能にする。
【0024】
なお、この製造方法における希釈剤のリサイクル効率は、式12で表されるリサイクル率を指標として検証できる。
(リサイクル率)=(0.84x+y+z+a−r)/(0.84x+y+z+a)×100 (12)
この式に、各仕込み量y,z,aおよびr(式5)を代入することで、フッ化タンタルカリウムの仕込み質量x(kg)に対する希釈剤のリサイクル率を求めることができる。
図3に、y=z=100kgとした場合の、フッ化ナトリウムの仕込み質量a(kg)毎のリサイクル率を示す。
この図によれば、希釈剤中に添加しておくフッ化ナトリウム量を多くしておけばリサイクル率を高くできることが判る。また、フッ化タンタルカリウムの質量が少ないほど、つまり、フッ化タンタルカリウムの濃度が低いほどリサイクル率が高くなることが判る。そして、反応時のフッ化タンタルカリウムの濃度を低くした場合には、表面積が大きいタンタルが得られるから、上記製造方法は高性能の金属タンタルを製造する場合に特に適することが判る。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
図1に示す製造装置1を使用し、まず、排出管20の開閉弁21を閉じた後、原料導入管40を介して、反応器10内に、塩化カリウム100kg、フッ化カリウム100kg、フッ化ナトリウム40kgとを仕込んで希釈剤を調製した。
次に、ガス導出入管50を介して反応器10内の空気を排気した後、アルゴンガスを導入し、ヒータ30により反応器10を加熱して希釈剤を溶融した。次いで、溶融した希釈剤中に、原料導入管40を介してフッ化タンタルカリウム100kgおよび溶融したナトリウム29kgを40分割で添加した。そして、フッ化タンタルカリウムを溶融したナトリウムで還元して金属タンタル46kgを生成した。また、その反応において、フッ化カリウムおよびフッ化ナトリウムを副生したため、反応後の希釈剤の組成は、塩化カリウム100kg、フッ化カリウム129kg、フッ化ナトリウム94kgとなった。
【0026】
次に、ヒータ30による加熱を継続しながら開閉弁21を開き、排出管20を介して反応工程で生成して反応器10内に沈殿した金属タンタルを抜き出すとともに、希釈剤を抜き出した。この際、反応器10内の希釈剤中のフッ化ナトリウム量が40kgになるように抜き出したので、希釈剤の抜き出し量は185kg(塩化カリウムの抜き出し量57kg、フッ化カリウムの抜き出し量74kg、フッ化ナトリウムの抜き出し量54kg)であった。希釈剤を抜き出した結果、反応器10内の希釈剤中の塩化カリウム量は43kg、フッ化カリウム量は55kgになったので、原料導入管を介して塩化カリウム57kgおよびフッ化カリウム45kgを補充した。このようにして、希釈剤を塩化カリウム100kg、フッ化カリウム100kg、フッ化ナトリウム40kgに戻した。なお、この例では、塩化カリウム43kg、フッ化カリウム55kg、フッ化ナトリウム40kgをリサイクルしており、リサイクル率は58%であった。
そして、希釈剤を溶融し、再びフッ化タンタルカリウム100kgと溶融したナトリウム29kgを添加して反応させた。
【0027】
(実施例2)
図1に示す製造装置1を使用し、まず、排出管20の開閉弁21を閉じた後、原料導入管40を介して、反応器10内に、塩化カリウム20kg、フッ化カリウム20kg、フッ化ナトリウム4kgとを仕込んで希釈剤を調製した。
次に、ガス導出入管50を介して反応器10内の空気を排気した後、アルゴンガスを導入し、ヒータ30により反応器10を加熱して希釈剤を溶融した。次いで、溶融した希釈剤(810℃)中に、原料導入管40を介してフッ化タンタルカリウム5kgおよび溶融したナトリウム1.5kgを20分割で添加した。そして、フッ化タンタルカリウムを溶融したナトリウムで還元して金属タンタル2.3kgを生成した。反応後の希釈剤の組成は、塩化カリウム20kg、フッ化カリウム21.5kg、フッ化ナトリウム6.7kgとなった。
【0028】
次に、ヒータ30による加熱を継続しながら開閉弁21を開き、排出管20を介して反応工程で生成して反応器10内に沈殿した金属タンタルを抜き出すとともに、希釈剤を抜き出した。この際、反応器10内の希釈剤中のフッ化ナトリウム量が4kgになるように抜き出したので、希釈剤の抜き出し量は19.1kg(塩化カリウムの抜き出し量7.9kg、フッ化カリウムの抜き出し量8.5kg、フッ化ナトリウムの抜き出し量2.7kg)であった。希釈剤を抜き出した結果、反応器10内の希釈剤中の塩化カリウム量は12.1kg、フッ化カリウム量は13.0kgになったので、原料導入管を介して塩化カリウム7.9kgおよびフッ化カリウム7.0kgを補充した。このようにして、希釈剤を塩化カリウム20kg、フッ化カリウ20kg、フッ化ナトリウム4kgに戻した。なお、この例では、塩化カリウム12.1kg、フッ化カリウム13.0kg、フッ化ナトリウム4kgをリサイクルしており、リサイクル率は66%であった。
そして、希釈剤を溶融し、再びフッ化タンタルカリウム5kgと溶融したナトリウム1.5kgを添加して反応させた。
【0029】
図3に示す製造装置1を使用し、まず、原料導入管40を介して、反応器10内に、塩化カリウム200kg、フッ化カリウム200kg、フッ化ナトリウム40kgとを仕込んで希釈剤を調製した。
次に、ガス導出入管50を介して反応器10内の空気を排気した後、アルゴンガスを導入し、ヒータ30により反応器10を加熱して希釈剤を溶融した。次いで、溶融した希釈剤中に、原料導入管40を介してフッ化タンタルカリウム20kgおよび溶融したナトリウム9kgを20分割で添加して金属タンタルを生成させた。
次に、ヒータ30による加熱を継続しながら、ガス導出入管50を介して0.02MPaのアルゴンを反応器10内に導入し、希釈剤357kg(塩化カリウム156kg、フッ化カリウム161kg、フッ化ナトリウム40kg)を圧送し、これを排出管20を介して抜き出した。次いで、反応器10内の残部より金属タンタル9kgを回収した。
次いで、抜き出した希釈剤357kgに塩化カリウム44kg、フッ化カリウム39kgを加えて、次の反応の希釈剤として再利用した。この反応におけるリサイクル率は81%であった。
【0030】
実施例1〜3の製造方法では、希釈剤廃棄量を削減できる上に、時間およびエネルギー消費量を大幅に増やすことなく、希釈剤を再利用したので、工業的であった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の金属タンタルの製造装置を示す模式図である。
【図2】本発明に係る第2の実施形態の金属タンタルの製造装置を示す模式図である。
【図3】フッ化タンタルカリウムの仕込み質量に対する希釈剤のリサイクル率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1,2 金属タンタルの製造装置(バルブ金属の製造装置)
10 反応器
20,60 排出管
30 ヒータ(加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化カリウムと塩化カリウムとフッ化ナトリウムとを含む希釈剤中に、バルブ金属フッ化物のカリウム塩およびナトリウムを添加し、反応させてバルブ金属を生成させる反応工程と、
反応工程で生成したバルブ金属を回収するともに、希釈剤の一部を除去する回収・除去工程と、
希釈剤の残部にフッ化カリウムおよび塩化カリウムを補充する補充工程とを有することを特徴とするバルブ金属の製造方法。
【請求項2】
回収・除去工程における希釈剤の除去量は、回収・除去工程後の希釈剤残部中のフッ化ナトリウム量が、反応工程前と略同等になる量であり、
補充工程におけるフッ化カリウムの補充量および塩化カリウムの補充量は、補充工程後の希釈剤中のフッ化カリウムおよび塩化カリウムの量が、反応工程前と各々略同等になる量であることを特徴とする請求項1に記載のバルブ金属の製造方法。
【請求項3】
回収・除去工程では、希釈剤が溶融状態にあることを特徴とする請求項1または2に記載のバルブ金属の製造方法。
【請求項4】
フッ化カリウムと塩化カリウムとフッ化ナトリウムとを含む希釈剤中で、バルブ金属フッ化物のカリウム塩とナトリウムとを反応させる反応器と、
反応器を加熱する加熱手段と、
反応器から希釈剤を排出するための排出管とを具備することを特徴とするバルブ金属の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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