説明

バーコード読み取りにおけるウェーブレット変換を伴う信号処理方法

【課題】バーコード信号からホワイトノイズのような広帯域ノイズを除去あるいは低減する。
【解決手段】
バーコード読み取り動作によって得られるデジタル信号にウェーブレット変換を適用するステップを有するデジタル信号処理方法。そのウェーブレット変換の各レベルでのノイズ閾値を、アナログ処理部での総伝達関数から決定し、ウェーブレット係数がノイズ閾値未満の場合はそれをゼロにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バーコード読み取り技術における信号処理方法に関し、より詳しくは、バーコード読み取り動作で得たデジタル信号にウェーブレット変換(wavelet transformation)を適用し、広帯域ノイズを除去(filter)するために、そのウェーブレット変換の各レベルのノイズ閾値を決定するデジタル信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バーコード読み取り動作において、バーコードリーダからバーコードにレーザ光線が照射され、そのバーコードからの反射光が検出器によって受光される。その受光した反射光から、バーコードでコード化された情報を示すアナログ信号が発生される。アナログ処理段階での処理がなされた後に、そのアナログ信号はその後の処理とデコードのためにアナログ・デジタル(A/D)変換器によってデジタル信号に変換される。デジタル処理段階においては、通常1つ以上のバンドパス・デジタルフィルタが、その信号中のノイズを除去するために使用される。CCDやCMOS等のバーコードリーダによるバーコード読み取りに基づく画像に対しても同様である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ホワイトノイズなどの広帯域ノイズが存在すると、信号帯域においてそのノイズをバンドパスフィルタによって除去することができない。そのホワイトノイズは、例えばバーコードが遠くに置かれている場合や解像度が低い場合など、信号のゲインが小さいときに、読取性能を低下させる可能性がある。
そのため、ホワイトノイズのような広帯域ノイズを除去あるいは低減するために、バーコード信号を処理するよい方法が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は上記の目的を実現するため、バーコード読み取り動作で得られるデジタル信号にウェーブレット変換を適用するデジタル信号処理方法を提供する。望ましくは、ウェーブレット係数の各レベルに対して閾値を決定し、その係数が閾値以下の場合はそれをゼロに設定する。
【0005】
上記デジタル信号は、バーコード読み取り動作で得られたアナログ信号から変換され、上記閾値は、アナログ信号がアナログ・デジタル変換される前にアナログ信号処理されるアナログ処理段階で得られた情報から決定されるノイズ閾値であるとよい。そのノイズ閾値は、アナログ処理段階における総伝達関数H(ω)から数1によって計算するのが望ましい。
【数1】

【0006】
ここで、n0はアナログ信号処理段階におけるプリアンプで発生する抵抗熱ノイズであり、Nはデータ数である。
総伝達関数H(ω)は、微分処理工程の伝達関数Hdiff、、AGC増幅工程の伝達関数Hvagc、および周波数フィルタ処理工程の伝達関数Hのうち少なくとも1つの積(product)であり、数2によって算出するとよい。
【数2】

【0007】
上記ウェーブレット変換は、ハール(Haar)ウェーブレット変換が望ましいが、離散(discrete)ウェーブレット変換でもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記あるいは他の特徴や利点は、以下の添付図面を参照したこの発明の好ましい実施例の詳細な説明によって明らかになるであろう。
図1に概略的に示すように、バーコード読み取り動作における信号処理装置は、通常はアナログ処理段階10とデジタル処理段階20とからなる。そのアナログ処理段階10は、通常はプリアンプ11、微分処理部(differential professing stage)12、利得制御増幅部(gain control amplification:GCA)13、周波数フィルタ処理部(LPF)14等からなる。
【0009】
信号がアナログ処理部10で処理された後、そのアナログ信号はアナログ・デジタル変換器(A/D)21によってデジタル信号に変換され、その変換されたデジタル信号は、デジタル的にノイズを除去したり(digitally filter noise)、その信号をデコードするなどのために、適切なアルゴリズムで処理される。
【0010】
この発明によれば、ウェーブレット変換部22は、ノイズのうち特にホワイトノイズのような広帯域ノイズを軽減するためにデジタル信号に適用され、その詳細を以下に説明する。
離散ウェーブレット変換(discrete wavelet transformation:DWT)は数3のように表わせる。
【数3】

【0011】
その離散ウェーブレット係数は数4のW[j,k]である。ここで、jは「レベル」と称される。
【数4】

【0012】
図2に概略的に示すように、信号は各レベルでウェーブレット係数を使用して分解される。
レベルjにおける近似関数fj(t) は数5で表わせる。ここで、sは「スケール関数」と称される。
【数5】

【0013】
信号f0(t) は数6のように拡張できる。ここで、gl(t) はレベル1の「ウェーブレット成分」と称される。
【数6】

【0014】
gl(t) は数7で表わせる。
【数7】

【0015】
従って、信号f0(t) は数8のようにレベルjに拡張できる
【数8】

【0016】
ホワイトノイズはその信号と干渉性(coherency)を有していない。ノイズを軽減するために、ウェーブレット変換の各レベルのノイズ閾値が適切に決定され、ウェーブレット係数がそのノイズ閾値未満の場合にはそれをゼロに設定する。これによりホワイトノイズを含む広帯域ノイズを軽減できる。ノイズ閾値がゼロより大きければ、ノイズ軽減に有効である。しかしながら、ノイズ閾値が大きすぎると、信号にひずみが生じるかもしれない。
【0017】
ノイズ閾値は数9の式で表わせる。ここで、σはノイズの標準偏差値であり、Nはデータ数である。
【数9】

【0018】
この発明によれば、標準偏差値σは、数10によって算出され、ウェーブレット変換部へのノイズ入力ninと等しく設定するのが望ましい。
【数10】

【0019】
ここで、n0は、通常主たるノイズの発生源であるプリアンプ11における抵抗熱ノイズであり、H(ω)は、アナログ処理段階におけるプリアンプ11からウェーブレット変換部22の間の総伝達関数である。
その抵抗熱ノイズは数11によって算出できる。ここで、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、Roはプリアンプ11における抵抗値である。
【数11】

【0020】
総伝達関数H(ω)は数2に示すように、微分処理部の伝達関数Hdiff、AGC増幅部の伝達関数Hvagc、および周波数フィルタ処理部の伝達関数Hのうちの少なくとも1つの数2による積であるとよい。
【数2】

【0021】
図1に示すバーコードリーダシステムにおいては、GCA増幅部13の伝達関数Hvagcのみが可変関数(variable function)であり、伝達関数Hdiff及びHは、CPU23により算出される固定又は既知の関数である。
従って、上述から結論すると、最適なノイズ閾値は数1で表わすことができる。ここで、H(ω)は上記数2による。
【数1】

【0022】
上述したこの発明の好ましい実施例は、この発明の要旨から外れることなく、種々の適用、修正及び変更が可能であることが当業者には分かるであろう。例えば、ウェーブレット変換はハール(Haar)ウェーブレット変換あるいは他のウェーブレット変換でもよい。適切であれば、伝達関数Hdiff、Hvagc、Hのうちの1つ以上をH(ω)の算出において除外してもよい。従って、この発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定されるだけである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明によるバーコード読み取り動作における信号処理方法を実施する信号処理装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】この発明による信号処理方法においてデジタル信号に適用されるウェーブレット・ノイズフィルタを概略的に示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーコード読み取り動作によって得られたデジタル信号にウェーブレット変換を適用するステップを有するデジタル信号処理方法。
【請求項2】
前記ウェーブレット変換における各レベルの係数に対する閾値を決定するステップ、および前記閾値未満の場合は前記係数をゼロに設定するステップとを有する請求項1に記載のデジタル信号処理方法。
【請求項3】
前記デジタル信号は、前記バーコード読み取り動作で得られるアナログ信号のアナログ・デジタル変換によって得られ、前記閾値は、前記アナログ信号を処理するアナログ処理段階における総伝達関数H(ω)に基づいて算出される請求項2に記載のデジタル信号処理方法。
【請求項4】
前記閾値は、前記アナログ処理段階におけるプリアンプで発生する抵抗熱ノイズをn、データ数をNとして、数1の式によって算出される請求項3に記載のデジタル信号処理方法。
【数1】

【請求項5】
前記総伝達関数H(ω)は、微分処理工程の伝達関数をHdiff、AGCによる増幅工程の伝達関数をHvagc、周波数フィルタ処理工程の伝達関数をHとして、数2に示す積である請求項4に記載のデジタル信号処理方法。
【数2】

【請求項6】
前記ウェーブレット変換は、ハールウェーブレット変換である請求項1に記載のデジタル信号処理方法。
【請求項7】
前記ウェーブレット変換は、離散ウェーブレット変換である請求項1に記載のデジタル信号処理方法。
【請求項8】
前記ウェーブレット変換は、連続ウェーブレット変換である請求項1に記載のデジタル信号処理方法。
【請求項9】
前記アナログ信号をデジタル信号に変換する工程と、
前記デジタル信号にウェーブレット変換を適用する工程と、
前記ウェーブレット変換における各レベルのノイズ閾値を決定する工程と、
前記ノイズ閾値未満の場合は前記ウェーブレット変換の係数をゼロに設定する工程と、を有するバーコード読み取り動作で得られるアナログ信号からのホワイトノイズ低減方法。
【請求項10】
前記ノイズ閾値を、前記アナログ信号を処理するアナログ処理段階で得られる情報に基づいて決定する請求項9に記載のホワイトノイズ低減方法。
【請求項11】
前記ノイズ閾値は、前記アナログ処理段階におけるプリアンプで発生する抵抗熱ノイズをn、データ数をNとして、数1の式によって算出される請求項10に記載のホワイトノイズ低減方法。
【数1】

【請求項12】
前記総伝達関数H(ω)は、微分処理工程の伝達関数Hdiff、AGCによる増幅工程の伝達関数Hvagc、および周波数フィルタ工程の伝達関数Hのうち少なくとも一つの積であり、数2によって算出される請求項11に記載のホワイトノイズ低減方法。
【数2】


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−512093(P2009−512093A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536709(P2008−536709)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/040299
【国際公開番号】WO2007/047550
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(391062872)株式会社オプトエレクトロニクス (70)
【出願人】(592252968)オプチコン インコーポレイテッド (31)
【Fターム(参考)】