説明

バーホルダ及びそれを備える塗布装置

【課題】回転時における塗布厚調整用バーの損傷を防止するとともに、回転している塗布厚調整用バーとの摺接によるバー支持凹部の摩耗を抑制することができるバーホルダ及びそれを備える塗布装置を提供する。
【解決手段】フィルムの表面にフィルムの走行方向に対して順方向又は逆方向に回転されるとともに塗布液17が過剰に塗布された側のフィルムの表面に押し付けられることにより塗布厚を調整する硬質材料製の塗布厚調整用バー22を支持するためのバー支持凹部28を有するバーホルダ27において、バー支持凹部28は、合成樹脂材料で成形されるとともに塗布厚調整用バー22との摺接面において、200℃以下のダイヤモンドライクカーボンコートによって形成される被膜、シリコーン樹脂やフッ素樹脂等によって形成される被膜が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続して走行するポリエステルフィルム等のフィルムに塗布液を塗布するときに用いられるバーホルダ及びそれを備える塗布装置に関するものである。より詳しくは、回転している塗布厚調整用バーの損傷を抑制するとともにバー支持凹部との摩擦低下を抑制させることができるバーホルダ及びそれを備える塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続して走行するポリエステルフィルム等のフィルムの表面に塗布液を塗布する方法としては、バー塗布方法、リバースロール塗布方法、グラビアロール塗布方法、エクストルージョン塗布方法等が挙げられる。これらの中でも、設備が簡単で薄層塗布が可能であるために、バー塗布方法が広く用いられている。
【0003】
従来、バー塗布方法に用いられる塗布装置は、特許文献1に記載されるようにフィルムの表面に塗布された塗布液の塗布厚を調整するための塗布厚調整用バーと、塗布厚調整用バーを支持するためのバー支持凹部を有するバーホルダとを備えている。塗布厚調整用バーは、その表面にハードクロムメッキが施された金属製のステンレス鋼から形成され、フィルムの走行方向に対して逆方向に回転するように構成されている。一方、バーホルダは、塗布厚調整用バーとの間の摩擦抵抗が小さい、例えばフッ素樹脂等の合成樹脂で構成されている。
【0004】
しかしながら、バーホルダをフッ素樹脂等の合成樹脂で構成した場合、金属製の塗布厚調整用バーとの摩擦により摩耗し、バー表面との密着性(密閉性)やバーの保持性等が低下することにより塗布ムラ等の塗布不良の発生を伴う振動が生ずるという問題があった。
【0005】
そこで、従来より、特許文献2に記載されるように塗布厚調整用バーのみならずバーホルダを金属製のステンレス鋼で作成するとともに、さらに塗布厚調整用バーとバーホルダの摩耗を防止するために摺接面をダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の摩耗改質処理を施した塗布装置が知られている。かかる構成により、塗布厚調整用バーとバーホルダの摺動による摩耗を抑制している。
【特許文献1】特開2001−29871号公報
【特許文献2】特開2004−202396号公報(実施例欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、塗布厚調整用バーのみならずバーホルダも金属製のステンレス鋼で作成すると、特に長時間の使用により塗布厚調整用バーの表面が金属製のバーホルダにより損傷を受けるといった問題が発生した。その一方、合成樹脂製のバーホルダを使用する場合、上述した問題の他、ダイヤモンドライクカーボン等の耐摩耗化処理は通常高温処理を伴うため樹脂に対して容易に適用することはできないといった問題があり、従来よりほとんど実用化されていなかった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、回転時における塗布厚調整用バーの損傷を防止するとともに、回転している塗布厚調整用バーとの摺接によるバー支持凹部の摩耗を抑制することができるバーホルダ及びそれを備える塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のバーホルダは、連続して走行するフィルムの表面に、塗布厚が調整された後の塗布量に対して過剰に塗布液が塗布された後、フィルムの走行方向に対して順方向又は逆方向に回転されるとともに塗布液が過剰に塗布された側のフィルムの表面に押し付けられることにより塗布厚を調整する硬質材料製の塗布厚調整用バーを支持するためのバー支持凹部を有するバーホルダにおいて、前記バー支持凹部は、合成樹脂材料で成形されるとともに前記塗布厚調整用バーとの摺接面において、無機材料及び有機材料のうちの少なくとも一種によって被覆処理されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のバーホルダにおいて、前記合成樹脂材料は、ウレタン樹脂であることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のバーホルダにおいて、前記無機材料からなる被膜は、200℃以下のダイヤモンドライクカーボンコートによって形成されることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のバーホルダにおいて、前記有機材料からなる被膜は、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一種によって形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の塗布装置は、連続して走行するフィルムの表面に、塗布厚が調整された後の塗布量に対して過剰に塗布液を塗布するための塗布機構と、過剰に塗布された塗布液の塗布厚を調整するための塗布厚調整機構とを備え、塗布厚調整機構は、フィルムの走行方向に対して順方向又は逆方向に回転されるとともに塗布液が過剰に塗布された側のフィルムの表面に押し付けられる塗布厚調整用バー及び該塗布厚調整用バーを支持するための請求項1から請求項4のいずれか一項記載のバーホルダを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転時における塗布厚調整用バーの損傷を防止するとともに、回転している塗布厚調整用バーとの摺接によるバー支持凹部の摩耗を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(a)に示すように、塗布装置11は、四角板状の基盤12上に塗布機構13と塗布厚調整機構14とが据付けられて構成されている。塗布装置11は、複数の搬送ローラ15によって図1(a)のA矢視線の方向に連続して走行するフィルム16の下方に、塗布機構13が上流側に位置するとともに塗布厚調整機構14が下流側に位置するように配設されている。そして、塗布機構13によってフィルム16の下面に塗布液17を塗布し、塗布厚調整機構14によってフィルム16に塗布された塗布液17の塗布厚を調整する。
【0014】
塗布機構13を構成する第1基台18は、フィルム16の幅方向に延びる四角柱状に形成されるとともに基盤12上に据付けられ、上部には断面略円状の塗布液貯留溝19がフィルム16の幅方向に延びるように凹設されている。第1基台18の上面には、頂面が前方及び後方に向かうに従い低くなるように傾斜する傾斜状に形成されている五角柱状をなす塗布部20が取付けられている。
【0015】
塗布部20の頂縁はフィルム16から若干離間し、そこには開口幅が一定の塗布液噴射溝21がフィルム16の幅方向に延びるように凹設されている。塗布液噴射溝21は、前記塗布液貯留溝19に連通するとともに、頂部に向かうに従い幅狭になるように構成されている。
【0016】
そして、図示しない塗布液貯留タンクから塗布液貯留溝19内に塗布液17が圧入された後、塗布液噴射溝21の上端開口部からフィルム16の下面に向けて塗布液17が噴射されることにより、フィルム16の下面に塗布液17を塗布するように構成されている。フィルム16の下面に塗布される塗布液17の量は、塗布厚調整機構14により塗布厚が調整された後の塗布量に対して過剰に設定されている。フィルム16の下面から垂れ落ちた塗布液17は、塗布部20の頂面を含む外側面沿いに流下される。
【0017】
塗布厚調整機構14を構成する塗布厚調整用バー22(以下、単にバー22ともいう)は、図3に示すように、円柱状をなすバー本体22aの中間部の外周面にワイヤ22bが巻回されることにより形成されている。本実施形態では、バー本体22aは直径が1〜50mmであるとともに長さが0.5〜2.5mであり、ワイヤ22bの直径は50〜150μmである。バー本体22a及びワイヤ22bは硬質材料によりそれぞれ形成され、硬質材料の具体例としては好ましくはステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。尚、図1(a)〜図4においては、ワイヤ22bは、理解を容易にするためにその直径を誇張して大きく描かれている。
【0018】
図4に示すように、ワイヤ22bの表面には、第1密着膜23を介して第1摩耗改質膜24が被覆されている。そして、第1摩耗改質膜24によりワイヤ22bの摩耗を抑制してバー22の耐久性を向上させ、第1密着膜23により第1摩耗改質膜24のワイヤ22bへの密着性を向上させる。図2に示すように、バー22の端部は回転駆動装置25に取付けられ、バー22はフィルム16の走行方向に対して順方向、即ち図2のB矢視線の方向に回転される。
【0019】
図1(a)及び(b)に示すように、塗布厚調整機構14を構成する第2基台26はフィルム16の幅方向に延びる四角柱状に形成され、基盤12上に据付けられている。第2基台26の上面には、バー22を支持するための略半円柱状をなすバーホルダ27が取付けられている。
【0020】
バーホルダ27は、合成樹脂材料により形成され、上端部には断面半円状のバー支持凹部28が幅方向に延びるように凹設されている。合成樹脂材料としては、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等を挙げることができる。これらの中で、バー22に対する保持性、シール性に優れるとともに耐摩耗性に優れるウレタン樹脂が好ましい。バーホルダ27が合成樹脂により成形されるため、回転時において金属製のバー22を傷つけるおそれがない。バー支持凹部28の内面には第2密着膜29を介して無機材料又は有機材料によって形成される被膜としての第2摩耗改質膜30が被覆される。第2密着膜29は第2摩耗改質膜30のバー支持凹部28表面に対する接着性を向上させるために被覆される。
【0021】
バー支持凹部28に支持されているバー22が、フィルム16に下方から押し付けられて回転されることにより、フィルム16を押し上げるとともに過剰分の塗布液17がバー22によって掻き落とされて塗布量が計量され、塗布厚が調整される。
【0022】
バー支持凹部28の内面には略円孔状の洗浄溝31が複数、本実施形態では一対凹設され、各洗浄溝31の内部には水等の洗浄液が流れている。この洗浄液によって第1摩耗改質膜24の表面が洗浄され、フィルム16とバー22との摺接による摩擦熱によって加熱された第1摩耗改質膜24、ワイヤ22b等が冷却される。第1基台18の上流側の側面と、各基台18,26の間とには、塗布部20の頂面から流下した塗布液17又はバー22によってフィルム16から掻き落とされた塗布液17を回収するための受皿状をなす回収トレー32がそれぞれ配設されている。
【0023】
無機材料で形成される第2摩耗改質膜30は、例えば200℃以下の低温ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コートによる被覆処理によって形成される硬質炭素膜等が挙げられる。有機材料で形成される第2摩耗改質膜30は、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂による被覆処理によって形成される耐摩耗性樹脂膜等が挙げられる。これらの硬質材料によって形成される被膜は、低摩擦特性、耐摩耗特性を有し、合成樹脂製のバーホルダ27に対し滑り性、耐摩耗性等の効果を付与する。かかる第2摩耗改質膜30により、回転しているバー22との摺接による合成樹脂製のバー支持凹部28の摩耗が抑制される。第2摩耗改質膜30の材質の中でも、耐摩耗効果の高いDLCコートが好ましい。
【0024】
DLCコートによって形成される被膜は、炭素間のSP結合を主体としたアモルファな炭素膜で、高硬度、高耐摩耗性等の特性を有する硬質炭素膜である。DLC被膜を樹脂フィルム上に形成する方法の一例として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相成長法)法が挙げられる。バー支持凹部28に被覆されるDLC被膜の膜厚は、好ましくは50〜3000nm、より好ましくは100〜500nmである。DLC被膜の膜厚が50nm未満であるとバー支持凹部28の耐摩耗性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、DLC被膜の膜厚が3000nmを超えると製造コストの上昇を招くおそれがある。
【0025】
DLCによる被覆処理は200℃以下の低温プラズマによる低温DLC処理が用いられることが好ましい。DLCによる被覆処理が200℃を超える雰囲気下で行なわれると被覆処理される合成樹脂製のバー支持凹部28が熱で変形するおそれがあるとともに、樹脂の弾性が失われるおそれがある。
【0026】
シリコーン樹脂コートによる第2摩耗改質膜30の形成は、公知の方法を用いてシリコーン樹脂をバー支持凹部28の表面に塗布・硬化させることにより行なうことができる。シリコーン樹脂コートに用いられる樹脂は、好ましくは硬化型シリコーンとしてアクリルシリコーンを挙げることができる。その他シリコーン樹脂コートは、シリコーンエマルションとしてジメチルシロキサンや、(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン)メチルポリシロキサン等の共重合型のシリコーンエマルジョンを用いて塗布・硬化させることにより形成することができる。また、シリコーン樹脂からなるシートを用いて公知の方法によりバー支持凹部28の表面に被覆・接着させることにより形成してもよい。公知の被覆方法としては、例えば、カバーフィルムを使用するラミネート方式、ディップコート法、ナチュラルコート法、リバースコート法、カンマコーター法、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバー法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法、グラビアコート法等が挙げられる。シリコーン樹脂コートによって形成される被膜の膜厚は、好ましくは0.05〜50μm、より好ましくは0.1〜10μmである。被膜の膜厚が0.05μm未満であるとバー支持凹部28の耐摩耗性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、被膜の膜厚が50μmを超えると製造コストの上昇を招くおそれがある。
【0027】
フッ素樹脂コートによる第2摩耗改質膜30の形成は、公知の方法を用いてフッ素樹脂をバー支持凹部28の表面に塗布・硬化させることにより行なうことができる。フッ素樹脂コートに用いられる樹脂は、好ましくは主鎖としてフルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)及び側鎖としてパーフルオロアクリル樹脂との共重合体を挙げることができる。その他フッ素樹脂コートに用いられる樹脂として、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレン−プロピレンコポリマー、ポリ三フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。フッ素樹脂コートによって形成される被膜の膜厚は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは1〜50μmである。被膜の膜厚が0.1μm未満であるとバー支持凹部28の耐摩耗性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、被膜の膜厚が100μmを超えると製造コストの上昇を招くおそれがある。
【0028】
前記第2密着膜29の材質の具体例としては、シランカップリング剤等が挙げられる。ここで、シランカップリング剤は一分子中に有機官能基と加水分解性基とを有している。そして、バー支持凹部28と第2密着膜29との界面においてバーホルダ27を形成する合成樹脂材料と有機官能基とが結合し、第2密着膜29と第2摩耗改質膜30との界面において第2摩耗改質膜30を形成する材料と加水分解性基とが結合する。
【0029】
第2密着膜29の厚みは好ましくは0.1〜0.3μmである。第2密着膜の厚みが0.1μm未満では、バー支持凹部28の内面に第2密着膜29を均一に被覆するのが困難になる。一方、0.3μmを超えると、第2密着膜29を厚くするためにその形成に時間がかかり、製造効率が低下する。
【0030】
第1摩耗改質膜24はDLCの他、ハードクロム、炭化チタン等の硬質材料により形成され、その厚みは好ましくは2.0μm以下、より好ましくは0.5〜1.0μmである。第1摩耗改質膜24と第2摩耗改質膜30は、同じ材質で形成した方が互いの摩耗を抑制するため、DLCによりそれぞれ形成するのが好ましい。第1密着膜23は、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)等により形成される。Si等は、ワイヤ22bの表面に加熱蒸着されるとワイヤ22bを形成する金属材料と化合物を形成する。そして、第1密着膜23上に加熱蒸着される第1摩耗改質膜24を形成する材料と化合物を形成する。第1密着膜23の厚みは好ましくは0.1〜0.3μmである。各摩耗改質膜24,30及び各密着膜23,29の被覆方法としては、スパッタリング法、プラズマ化学蒸着法(プラズマCVD)等がそれぞれ挙げられ、被膜対象が金属である第1摩耗改質膜24はさらにメッキ法等を適用することができる。
【0031】
前記フィルム16の材質の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルが挙げられる。塗布液17の組成は表面に塗布膜が被覆されたフィルム16の用途によって決定され、例えば表面に塗布膜が被覆されたフィルム16が印刷用の下地フィルムとして用いられるときには、塗布液は酸化チタン(TiO2 )粒子等の顔料を含有する。塗布液17は、乾燥するときに蒸発した溶媒を排出しても環境に影響を与えないために、水性塗布液として構成されるのが好ましい。
【0032】
次に、バー支持凹部28の内面に例えばDLCにより形成されている第2摩耗改質膜30を被覆するコーティング方法について説明する。従来DLCは金属材料を対象として耐摩耗性向上のために300〜400℃の高温プラズマで表面処理することにより被覆されていた。したがって、一定の膜厚のDLCを形成するためには、処理温度が高温になるとともに処理設備が大がかりになるため合成樹脂材料に対してはほとんど実用化されていなかった。一方、本実施形態では、200℃以下の低温プラズマによるDLCコーティングを適用することにより、従来よりも被覆対象物への負担を軽減するとともに設備規模を小さくすることができる。
【0033】
DLCを被覆するための装置として例えば図5に示される被覆装置が用いられる。図5に示されるように、被覆装置33を構成する真空槽34は箱状に形成され、その内部には有底筒状の反射電極35が配設されている。反射電極35の内部には、通電加熱されて熱電子を放出するフィラメント36が内奥側に配設されるとともに、開口側にアノード37が配設されている。反射電極35の底壁には原料ガス供給管38が貫通支持され、反射電極35内に原料ガスを供給するように構成されている。原料ガスとして、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンなどのアルカン類、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ブタジエンなどのアルケン類、アセチレンなどのアルキン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタリンなどの芳香族炭化水素類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン類、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィン類、一酸化炭素、二酸化炭素、メチルアルコール、エチルアルコールなどの含酸素炭素化合物、メチルアミン、エチルアミン、アニリンなどの含窒素炭素化合物などを使用することができる。前記原料ガスは、前記各化合物を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。また、原料ガスをアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等の希ガスで希釈して使用してもよい。
【0034】
反射電極35の上方にはカソード39が配設されている。反射電極35及びアノード37はモリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)等によりそれぞれ形成され、フィラメント36はW、Ta等により形成されている。カソード39はステンレス鋼等によって形成されている。反射電極35、フィラメント36、アノード37及びカソード39には電源40がそれぞれ接続され、アノード37の電位を基準としたときには、反射電極35、フィラメント36及びカソード39が負電位となるように構成されている。ここで、反射電極35の電位はカソード39の電位よりも高く設定され、フィラメント36の電位は反射電極35の電位よりも高く設定されている。尚、図5において、反射電極35内の電気力線36aを2点鎖線で示す。
【0035】
フィラメント36は通電加熱によって熱電子を放出し、放出された熱電子の一部が反射電極35によって反射されることにより、フィラメント36及びアノード37の間、並びに反射電極35及びアノード37の間に放電が発生する。反射電極35内に供給された燃料ガスは放電によってプラズマ化されて炭素イオンを生成し、この炭素イオンはカソード39の負電位によってカソード39方向に電気的に吸引される。そして、バーホルダ27を、バー支持凹部28が反射電極35側に向くようにカソード39と反射電極35との間に配設したときには、カソード39方向に電気的に吸引される炭素イオンがバー支持凹部28の内面に衝突付着し、第2摩耗改質膜30を被覆するように構成されている。
【0036】
バー支持凹部28の内面に第2摩耗改質膜30を被覆するときには、まずバー支持凹部28の内面に第2密着膜29を被覆する。次いで、バーホルダ27を、バー支持凹部28が反射電極35側に向くようにカソード39と反射電極35との間に配設した後、真空ポンプによって真空槽34内の圧力を低下させる。このとき、バーホルダ27のバー支持凹部28以外の箇所の表面は、第2摩耗改質膜30が被覆されるのを防止するために、アルミニウムフィルム等によって被覆するのが好ましい。そして、反射電極35、フィラメント36、アノード37及びカソード39に電圧を印加するとともに、原料ガス供給管38により反射電極35内に原料ガスを供給する。原料ガスのプラズマ化によって生成された炭素イオンは、バー支持凹部28の内面に第2密着膜29を介して衝突付着し、第2摩耗改質膜30を形成する。
【0037】
続いて、フィルム16への塗布液17の塗布方法について説明する。
本実施形態において、フィルム16は未延伸フィルムとして形成されるとともに縦延伸工程と横延伸工程とを連続して施す逐次二軸延伸工程が施され、フィルム16への塗布工程は縦延伸工程と横延伸工程との間に施される。
【0038】
フィルム16は、まず溶融押出ししたポリエステル原料を回転冷却ドラム上で冷却することにより、非晶質の未延伸フィルムとして形成される。続いて、縦延伸工程としてフィルム16の前後方向、即ち縦方向に対して直交方向に延びるように配設される一対のロールを用いてフィルム16をその縦方向に延伸(縦延伸)する。
【0039】
続いて、図1(a)に示すように、塗布工程として、フィルム16を複数の搬送ローラ15によって連続して走行させる。このとき、フィルム16は一般的には幅が0.3〜2.5mであり厚さが8〜1200μmである。その後、フィルム16の下面に、塗布機構13により塗布厚が調整された後の塗布量に対して過剰に塗布液17を塗布した後、塗布厚調整機構14のバー22により過剰分の塗布液17を掻き落として塗布厚を調整し、フィルム16の下面に塗布液17を塗布する。
【0040】
このとき、バー22は回転駆動装置25により図2のB矢視線の方向に回転されている。ここで、回転しているバー22との摺接により第2摩耗改質膜30が摩耗してバー支持凹部28が露出し、バー支持凹部28が摩耗するのを抑制するために、バー22と第2摩耗改質膜30とが弱く摺接するのが好ましい。このため、バー22のバー支持凹部28への接圧は好ましくは4.9〜29.4N/m(0.5〜3.0kgf/m)に設定されている。バー22のバー支持凹部28への接圧が4.9N/m未満では、バー22のフィルム16への接圧が低い、即ちバー22がフィルム16を押し上げる力が弱いために、過剰分の塗布液17を十分に掻き落とすことができない。一方、29.4N/mを超えると、バー22のバー支持凹部28への接圧が高すぎるために、バー22と第2摩耗改質膜30とが強く摺接し、第2摩耗改質膜30が摩耗するおそれがある。
【0041】
続いて、横延伸工程として、塗布厚が調整された状態で塗布液が塗布されたフィルム16を図示しないクリップで保持し、フィルム16の縦方向に対して直交方向に延伸(横延伸)して二軸延伸フィルムを得る。ここで、例えば幅が1〜2.5mのフィルム16を8mの幅にまで横延伸する。そして、二軸延伸フィルムを熱処理することにより、表面に塗布膜が被覆されたフィルム16が製造される。
【0042】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)本実施形態では、合成樹脂でバーホルダ27(バー支持凹部28)を構成した。したがって、使用時において金属等の硬質材料製のバー22の損傷を防止することができる。
【0043】
また、金属製のバーホルダに比べ、合成樹脂製のバーホルダは弾力性を有するため、バー22を全幅において十分に保持することができ、バー22は安定して回転することができる。
【0044】
また、バー支持凹部28とバー22との摺接面の密着性(密閉性)を向上させることができ、バー支持凹部28に形成されている略円孔状の洗浄溝31からの洗浄液の漏れ防止効果を向上させることができる。尚、洗浄液に摺接面からの液漏れは、塗布筋の発生や未塗布部に洗浄液が付着してフィルムが破断する等の問題を発生させる。本実施形態によれば、塗布筋の発生やフィルムの破断等の発生を防止することができる。
【0045】
(2)本実施形態では、バー22との摺接面であるバー支持凹部28において、無機材料又は有機材料からなる被膜(第2摩耗改質膜30)を設けた。したがって、合成樹脂で構成されるバー支持凹部28において、バー22の回転に対する耐摩耗性及び滑り性を向上させることができる。
【0046】
(3)本実施形態では、バー22との摺接面であるバー支持凹部28において、DLCコート、シリコーン樹脂コート及びフッ素樹脂コート等の被覆処理によって形成される第2摩耗改質膜30を設けた。したがって、バー支持凹部28の使用時における耐摩耗性を向上させることができる。また、バー22の回転に対する滑り性を向上させることができ、バー22の回転に伴う振動・異音の発生を防止することができる。
【0047】
また、公知の方法を用いて、被膜形成を行なうことができるため安価に作成することができる。
(4)本実施形態では、被覆処理温度が200℃以下の低温ダイヤモンドライクカーボンコートを採用した。したがって、被覆対象である合成樹脂製のバーホルダ27の熱による変性・硬化等の劣化を防止することができる。
【0048】
(5)本実施形態において、バーホルダ27は特に好ましくはウレタン樹脂が適用される。したがって、他の合成樹脂に比べ、バー支持凹部28とバー22との摺接面の密着性(密閉性)を向上させることができるとともに、バー22の保持性に優れ、安定したバー22の回転に寄与する。
【0049】
(6)本実施形態では、バー支持凹部28と第2摩耗改質膜30との間には第2密着膜29が形成されている。このため、第2摩耗改質膜30の耐久性及びバー支持凹部28表面に対する接着性を向上させることができる。
【0050】
尚、上記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・上記実施形態において、第2密着膜29を省略し、バー支持凹部28の内面に第2摩耗改質膜30を直接被覆してもよい。同様に、第1密着膜23を省略し、ワイヤ22bの表面に第1摩耗改質膜24を直接被覆してもよい。
【0051】
・上記実施形態において、バー22をフィルム16の走行方向に対して逆方向に回転させてもよい。
・上記実施形態において、塗布液17の種類・粘度及びフィルム16の種類・厚み等は目的に応じ適宜設定することができ、特に限定されない。
【0052】
・上記実施形態において、バー22は円柱状をなすバー本体22aの中間部の外周面にワイヤ22bが巻回されることにより形成した。しかしながら、円柱表面を切削することによりバー22の表面形状を成形してもよい。
【0053】
・上記実施形態において、バーホルダ27の全体を合成樹脂材料により構成した。しかしながら、バー22と摺接するバー支持凹部28付近を合成樹脂で成形すれば上記効果を得ることができるため、バーホルダ27の全体を合成樹脂材料により構成する必要なはい。
【実施例】
【0054】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜3、比較例1〜3)
実施例1においては、合成樹脂材料としてウレタン樹脂を用いてバーホルダ27を成形した。バー支持凹部28の内面に、第2摩耗改質膜30を前記コーティング方法を用いて1.0μmの厚さでDLCコートを被覆し、バーホルダ27を形成した。
【0055】
塗布厚調整用バー22は、周面を構成するワイヤ22bの表面において、DLCにより第1摩耗改質膜24を1.0μmの厚さで被覆することにより形成した。バー本体22a及びワイヤ22bはステンレス鋼としてのSUS−304によりそれぞれ形成し、バー本体22aは直径を10mmとするとともに長さを1.5mとした。ワイヤ22bは、直径を80μmとした。
【0056】
実施例2は、第2摩耗改質膜30の材質を表1に示すように、シリコーン樹脂(アクリルシリコーン)を用いたシリコーンコート(膜厚3.0μm)へ変更した以外は、実施例1と同様にしてバーホルダ27及びバー22を形成した。
【0057】
実施例3は、第2摩耗改質膜30の材質を表1に示すように、フッ素樹脂(主鎖としてフルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)と側鎖としてパーフルオロアクリル樹脂との共重合体)を用いたフッ素コート(膜厚3.0μm)へ変更した以外は、実施例1と同様にしてバーホルダ27及びバー22を形成した。
【0058】
比較例1は、合成樹脂材料としてウレタン樹脂を用いてバーホルダ27を成形し、表面被覆処理しないものを使用した。比較例2は、ステンレス鋼を使用してバーホルダ27を成形し、表面被覆処理しないものを使用した。比較例3は、ステンレス鋼を使用してバーホルダ27を成形し、表面処理として1.0μmの厚さでDLCコートすることによりバーホルダ27を形成した。
【0059】
各実施例及び各比較例の各バーホルダ27を図1に示す塗布装置11の第2基台26の上面に取付けた後、バー22をバー支持凹部28にそれぞれ支持した。続いて、各塗布装置11を用いて、PETにより形成されるとともに幅が1.5mのフィルム16に塗布液17を塗布した。ここで、塗布液17は粘度が3000mPa・sの比較的低粘度のゼラチン溶液として構成した。さらに、バーの回転数を40rpmとするとともに回転時間を72時間とし、バー22のバー支持凹部28への接圧を9.8N/mとした。そして、バー22表面に対する密着性(密閉性)、バー22の保持性、バー22の損傷、滑り性、耐摩耗性について評価し、それらの結果を表1に示す。
【0060】
<密着性(密閉性)>
バーホルダにバーを装着して回転使用した際、洗浄溝31からの洗浄液の液漏れ量について、○:液漏れなし、△:塗布作業に影響のない微量の液漏れ、×:フィルムの破断等の塗布作業に影響を与える液漏れ、の各評価を行なった。
【0061】
<保持性>
バーホルダにバーを装着して回転使用した際、バーがバーホルダ上において安定して回転するかについて、○:バーの回転軸が振れずに安定した回転が得られる、△:ときどきバーの回転軸が振れる、×:バーの回転軸が不安定でバーがバーホルダから外れるおそれがある、の各評価を行なった。
【0062】
<バーの損傷>
所定時間回転使用した際、バーの損傷について、○:100時間以上使用してもバーの表面に傷が入らない、△:使用時間24〜100時間の間にバーの表面に傷が入る、×:使用時間24時間以内にバーの表面に傷が入る、の各評価を行なった。
【0063】
<滑り性>
バーのバーホルダの摺動面について、○:振動・異音を発生することなくスムーズに回転する、△:ときどき振動・異音を発生する、×:振動・異音を発生し、塗布面にムラが生じる、の各評価を行なった。
【0064】
<耐摩耗性>
バー支持凹部の表面をナイロンスポンジで擦った際の界面の摩耗状態について、○:表面に傷等の摩耗後がほとんど見られない、△:表面に傷等の摩耗後が少し見られるが、使用の際、塗布不良又は回転不良を生じさせない、×:表面に傷等の摩耗後が見られ、使用の際、塗布不良又は回転不良を生じさせる、の各評価を行なった。
【0065】
【表1】

実施例1〜3に示されるように、合成樹脂材料を使用してバーホルダ27を作成した場合、ステンレス鋼を使用してバーホルダを作成した比較例2,3に比べてバー22に対する密着性、保持性を向上させることができる。また、回転使用時におけるバー22の損傷を防止することができる。
【0066】
また、比較例1に示されるように合成樹脂材料を使用してバーホルダ27を作成し、表面コーティングしない場合、滑り性が悪く振動・異音に伴う塗布ムラが発生した。また、実施例1〜3に示されるように表面コーティングの中でもDLCコートを用いた方が耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0067】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(a)前記バー支持凹部の内面と摩耗改質膜とは、摩耗改質膜のバー支持凹部表面に対する接着性を向上させるための密着膜を介して設けられているバーホルダ。この構成によれば、摩耗改質膜のバー支持凹部への接着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)は本実施形態の塗布装置を示す概念図、(b)は塗布装置を示す要部断面図。
【図2】塗布厚調整用バーを示す平面図。
【図3】塗布厚調整用バーを示す部分破断側面図。
【図4】塗布厚調整用バーを示す要部断面図。
【図5】被覆装置を示す概念図。
【符号の説明】
【0069】
11…塗布装置、13…塗布機構、14…塗布厚調整機構、16…フィルム、17…塗布液、22…塗布厚調整用バー、27…バーホルダ、28…バー支持凹部、30…第2摩耗改質膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して走行するフィルムの表面に、塗布厚が調整された後の塗布量に対して過剰に塗布液が塗布された後、フィルムの走行方向に対して順方向又は逆方向に回転されるとともに塗布液が過剰に塗布された側のフィルムの表面に押し付けられることにより塗布厚を調整する硬質材料製の塗布厚調整用バーを支持するためのバー支持凹部を有するバーホルダにおいて、
前記バー支持凹部は、合成樹脂材料で成形されるとともに前記塗布厚調整用バーとの摺接面において、無機材料及び有機材料のうちの少なくとも一種からなる被膜が設けられていることを特徴とするバーホルダ。
【請求項2】
前記合成樹脂材料は、ウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1記載のバーホルダ。
【請求項3】
前記無機材料からなる被膜は、200℃以下のダイヤモンドライクカーボンコートによって形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のバーホルダ。
【請求項4】
前記有機材料からなる被膜は、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一種によって形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のバーホルダ。
【請求項5】
連続して走行するフィルムの表面に、塗布厚が調整された後の塗布量に対して過剰に塗布液を塗布するための塗布機構と、過剰に塗布された塗布液の塗布厚を調整するための塗布厚調整機構とを備え、塗布厚調整機構は、フィルムの走行方向に対して順方向又は逆方向に回転されるとともに塗布液が過剰に塗布された側のフィルムの表面に押し付けられる塗布厚調整用バー及び該塗布厚調整用バーを支持するための請求項1から請求項4のいずれか一項記載のバーホルダを備えることを特徴とする塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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