パイプ継手
【課題】 内面取りを施したりパイプ端面を真円にしたりすることなく、カットされたままのパイプをスリーブへ円滑に差し込んで接続一体化できるパイプ継手を提供する。
【解決手段】 主部10にスリーブ11を突出形成した継手本体1と、該スリーブの外周面に設けた環状溝11cに装着され、該スリーブに外嵌する接続用パイプ5に密着するパッキン9と、該パイプの外嵌に先立ち該スリーブに遊嵌する筒体であって、その筒内径をパッキン9の外径よりも小さくした小径部42からスリーブ11の奥端側に向け次第に拡径する傾斜部41を設けて、スリーブ11の先端側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブ11の奥端側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材4と、該矯正部材と共にスリーブ11を覆って継手本体1に取着される袋ナット3と、を具備する。
【解決手段】 主部10にスリーブ11を突出形成した継手本体1と、該スリーブの外周面に設けた環状溝11cに装着され、該スリーブに外嵌する接続用パイプ5に密着するパッキン9と、該パイプの外嵌に先立ち該スリーブに遊嵌する筒体であって、その筒内径をパッキン9の外径よりも小さくした小径部42からスリーブ11の奥端側に向け次第に拡径する傾斜部41を設けて、スリーブ11の先端側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブ11の奥端側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材4と、該矯正部材と共にスリーブ11を覆って継手本体1に取着される袋ナット3と、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配水管などの継手として用いられ、樹脂管等のパイプを差し込むだけで接続一体化できるワンタッチのパイプ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂管等のパイプを差し込むだけで一体化するパイプ継手がある。そのパイプ継手は、例えば図14,図15のごとく、継手本体Xに突出形成した筒状スリーブX1に接続用パイプ5を外嵌すると、スリーブ外周面に装着したOリングたるパッキン9がパイプ5に密着してシールすると共に、ロックリングgの爪g1がパイプ5に食い込んで接続一体化する構造になっている。
ここで、上記パイプ5は直径約1m程度に巻き束ねて車両搬送され、施工現場でその巻き束ねられたパイプを真っ直ぐに伸ばした後、必要長さにカットして使用される。ところが、パイプ5を真っ直ぐに伸ばしたつもりでも不十分で、パイプ5が斜めカットされるケースがあった。斜めカットされたパイプ5をそのままスリーブに差し込むと、パッキン9をめくり上げてしまったり傷つけたりした。こうした問題に対して、対策発明が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−314775公報
【0004】
特許文献1の発明は、「…テーパ付リングには、これの内周面の前端部から後方に向かって窄まる前方拡がり状のテーパを備えており、このテーパの最小内径を前記管の基準内径以下に設定していることを特徴とする差込管継手。」とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1には次のような問題があった。まず、その公報記載の従来技術に「テーパ48の最小内径を管Pの基準内径と同一に設定していたが、これでは、図11に示すように、管内径が交差内の最小内径である管Pが挿入されたとき、テーパ付リング35にて弾性シーリング32の外径部が管Pの内径よりも小さく抑えられないため、管Pの内径部が弾性シーリング32の外径部につかえて管Pの挿入性が損なわれるという問題が生じる」とあり、上記「テーパの最小内径を前記管の基準内径以下に設定」しなければならず、厳しい精度が予想された。
そして、テーパ付リングが樹脂成形品であるため、弾性変形の融通性に欠けた。「或る程度斜め切断された管である場合も、テーパ付リングが管Pの斜め切断端面Cに沿って撓む」とするものの、斜めカットされた管といってもあくまで或る程度の範囲であり、その範囲が限定された。また、テーパ付リングを弾性変形可能にすると、その段落0026に記載のごとく「中空軸15は円周に複数の軸方向に沿う切欠部14を円周方向に所定間隔で列設して拡縮変形自在に形成」するので、以下のような不具合を招いた。管Pの一端部をコレットの中空軸に挿入に伴い、「管Pの一端部の切断端面Cでテーパ付リングが管差込み間隙12の内奥方向へ押し込まれ、テーパ付リング22のテーパ24が内筒体5のシーリング溝13から突出している弾性シーリング2の外周部に当接し該リングを圧縮させ」ることができずに、弾性変形可能なテーパ付リングは拡縮変形自在の中空軸15を拡形させ半径外方向へ広がってしまう虞があった。その結果、管Pを弾性シーリング32に突っ掛かることなくスムーズに継手本体へ装着するのが難しくなった。
【0006】
一方、パイプ5をパイプカッターで斜めカットしないよう心掛け、パイプ端面55をパイプ本体51に対しきれいに直角に切断したとしても、やはりスリーブに外嵌する際、悪さをすることが判ってきた。該パイプをスリーブに差し込むと、図13のごとくパイプ筒の内端面551が、時としてパッキン9に突き当たり、シール機能を損なう形91に変形させ、場合によっては、収まっていた環状溝からパッキン9を押し出してしまう不具合を生じさせた。
加えて、最近のパイプ5はアルミニウム等の金属を芯材にし、その内外層に樹脂層を設けた金属複合管が使われる場合があり、パイプカッターでパイプを切断すると、パイプ端面のパイプ径が楕円形に扁平化した。そのままではパイプをスリーブにうまく差し込めないケースも出てきた。
【0007】
上記両問題を解決するのに、今では殆どの施工業者がパイプ面取り機(いわゆるハンドテーパーリーマー)と称する治具を用いている。パイプ面取り機でパイプ端面55を円形に修正し、さらにパイプ端面の内周面を削って、図14のような内面取り59を施した後、図15のごとく該パイプをスリーブX1に差し込む方法を採っている。
【0008】
しかしながら、パイプ面取り機を購入し、且つそれを施工現場に持参し、しかも、施工前に面取り加工作業等を行わねばならなかった。また、図16のごとくパイプ5が角度θで少し大きく斜めカットされてしまうと、パイプ面取り機ではパイプ先端面の下側内周面には内面取りを施せない未加工部分58が残った。この未加工部分58がパッキン9に突き当たって悪さをし、パイプ面取り機を使用しても改善されないこともあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するもので、内面取りを施したりパイプ端面を真円にしたりする面取り機を使用しなくても、またパイプが斜めカットされてしまっても、何ら前加工することなく、カットされたそのままのパイプをスリーブへ円滑に差し込んで接続一体化できるパイプ継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、主部に筒状スリーブを突出形成した継手本体と、該スリーブの外周面に設けた環状溝に装着され、該スリーブに外嵌する接続用パイプに密着してシールするパッキンと、該パイプの外嵌に先立ち該スリーブに遊嵌する筒体であって、その筒体の内径を前記パッキンの外径よりも小さくした小径部と該小径部からスリーブの奥端側に向け次第に拡径する傾斜部を設けて、スリーブの先端側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブの奥端側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材と、該矯正部材と共に前記スリーブを覆って前記継手本体に取着される筒状袋ナットと、を具備し、且つ前記矯正部材が弾性変形可能にして、その硬度を前記パッキンの硬度と等しいか又はこれよりも硬くする一方、該矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、前記袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有して、
該袋ナットに設けた開口部から挿入し前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記矯正部材がスリーブの奥端側へ移動するようにしたことを特徴とするパイプ継手にある。
請求項2の発明たるパイプ継手は、請求項1において、矯正部材のスリーブ奥端側への動きに前記パッキンが前記傾斜部で係止して、該パッキンよりもスリーブの先端側に前記小径部が配設されるようにして、前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記パッキンに係止されていた傾斜部が該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端側へ移動することを特徴とする。請求項3の発明たるパイプ継手は、請求項1又は2で、スリーブの先端部分に、その外径が先端に向けて次第に減少するテーパを設けたことを特徴とする。請求項4の発明たるパイプ継手は、請求項1〜3で、スリーブに遊嵌される前記矯正部パイプ継手材の配設位置よりもスリーブの先端側に位置するスリーブの外周面に周回溝を設け、該周回溝に装着されるロックリングをさらに具備し、該ロックリングの外径を前記小径部の筒内径よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ先端への移動を該ロックリングが係止するようにしたことを特徴とする。
【0011】
請求項1の発明のごとく傾斜部を設けて、スリーブの先端側に配される筒内径よりも傾斜部を介してスリーブの奥端側に配される筒内径の方が大きく、且つ矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、前記袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有していると、スリーブに遊嵌されこれに沿って水平移動する矯正部材がパッキンに当たる時は、必ずその傾斜部が当たり、さらに矯正部材が袋ナットの筒内壁で拡径しないよう規制するので、傾斜部に加えられる外力から派生する分力が、弾性体たるパッキンを環状溝へ押し沈める。従って、パイプの筒内端面がスリーブ上を移動する際、パッキンに突き当たってシール機能を損なう形に変形させていた従来の不具合は解消される。矯正部材を弾性変形可能にするので、パイプが斜めカットされても、それに対応して該矯正部材が弾性変形するので、何の問題もなく、斜めカットされたそのままのパイプをスリーブへ円滑に外嵌することができる。さらに、矯正部材の硬度をパッキンの硬度と等しいかまたはこれよりも硬くして、且つ該矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有しているので、傾斜部に加えられた外力でもって弾性体たるパッキンを環状溝へ有効に押し沈める。
請求項2の発明のごとく、矯正部材のスリーブ奥端側への動きに、傾斜部が前記パッキンに係止されて、該パッキンよりもスリーブの先端側に前記小径部が配設されるようにして、前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記パッキンに係止されていた傾斜部が該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端側へ移動する構成とすると、パイプを接続する前の未使用状態下では、パッキンが弾性収縮してない負荷のない状態にあり、パイプ継手は組付け品での長期保管も可能になる。
請求項3の発明のごとく、スリーブの先端部分に、外径が先端に向けて次第に減少するテーパを設けると、パイプカッターのパイプ切断によりパイプ端面が扁平化しても、スリーブにパイプを外嵌する過程で、該テーパがパイプ端面を矯正し円形に修正する。
請求項4の発明のごとく、スリーブに遊嵌される矯正部材の配設位置よりもスリーブの先端側の外周面に周回溝を設け、該周回溝に装着されるロックリングをさらに具備し、該ロックリングの外径を小径部の筒内径よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ先端への移動を該ロックリングが係止するようにすると、パイプ継手を組付け品にした場合でも、矯正部材がスリーブから抜け落ちることがなく、保管だけでなく取り扱いやハンドリングも楽になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパイプ継手は、内面取りを施したりパイプ端面を円形修正したりする面取り機による前加工を必要とせず、さらに面取り機では対応できなかった斜めカットされたパイプであっても、該パイプをそのままスリーブへ差し込み、ワンタッチで円滑に接続一体化できるなど極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るパイプ継手について詳述する。図1〜図12は本発明のパイプ継手の一形態を示したもので、図1はその上段を断面表示したパイプ継手の正面図、図2はパイプ継手に接続用パイプが差し込まれて接続一体化した説明断面図、図3は図1の矯正部材周りの断面図、図4は図3の状態からスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、矯正部材が該パッキンを押圧変形する様子を示す断面図、図5は図4の要部拡大図、図6,図7は図3の状態から斜めカットされたパイプをスリーブに差し込む時の矯正部材及びパッキンが変形する様子を示す断面図、図8は矯正部材の斜視図、図9は(イ)がロックリングの平面図、(ロ)が(イ)のIV-IV線矢視図である。図10は図1〜図7とは異なる他態様の矯正部材を用いた図3に対応する断面図、図11は図10の矯正部材がスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、パッキンを押圧変形する様子を示す断面図、図12は図1〜図11とは別態様品で、上段を断面表示したパイプ継手の正面図である。
【0014】
パイプ継手は、継手本体1とパッキン9と矯正部材4とロックリング2と袋ナット3とを具備する(図1)。これらを組み付けたパイプ継手は、袋ナット3の開口部30から接続用パイプ5を挿入しスリーブ11の外周面に嵌める(外嵌する)と、パッキン9が該パイプと該スリーブ間をシールし且つロックリング2の爪22がパイプ5に食い込むことで、パイプ5を接続一体化する。
【0015】
継手本体1はその中央部にあたる主部10に筒状スリーブ11を突出形成した部品で、パイプ継手の主要部になっている(図1)。スリーブ11がある側の主部10には袋ナット3が取着する締結部13が設けられ、反対側には他の継手に接続する連結部15が設けられる。該スリーブの外周面11fにはパッキン9を装着する環状溝11cとロックリング2を装着する周回溝11eが設けられる(図3)。
本実施形態の継手本体1は、工具で把持することのできる角柱状主部10に加え、この一端面が軸方向に突出して、外周に雄ねじ部13aの締結部13を形成する張出部12を延設し、該張出部の端面からさらにスリーブ11を突出形成する。また主部10の他端面が軸方向に突出して、外周に雄ねじ部15aのある連結部15を形成する。パイプ継手として機能するよう、継手本体1にはスリーブ11から張出部12、主部10、連結部15へと軸方向に貫通する導通孔19が設けられ、これら各部は一体加工されている。前記環状溝11cは同形状のものを少し隔てて二個形成し、前記周回溝11eは、両環状溝11cを挟むようにして、スリーブ11の先端11b側と奥端11a側に同形状のものを各一個形成する。そのスリーブ先端11b側に形成する周回溝11eは、スリーブ11に遊嵌される矯正部材4の配設位置よりもスリーブ先端寄りに設けられる。尚、「スリーブの奥端」は、パイプ継手としてパイプ5をスリーブ11に外嵌する際、スリーブ先端11bからスリーブ11の奥へと差し込む視点から用いるが、主部10にスリーブ11を突出形成した視点から眺めれば、「スリーブの奥端」はスリーブ11の基端に該当する。
【0016】
前記環状溝11cはスリーブ外周面11fに等断面形状で周回形成される。その形状はパッキン9の外周部分をスリーブ外周面11fから突出させて、パッキン9を収納保持できる断面凹形状とする。一方、周回溝11eもスリーブ外周面11fに等断面形状で周回形成される。その形状は、図1のごとく、ロックリング2が当初収まる深溝部11e0に加え、該深溝部のスリーブ先端11b側の壁面が、深溝部11e0の底面からスリーブ先端11bに向けて上昇傾斜面の勾配溝部11e1を設けた溝形状とする。ここでの周回溝11eには、さらに勾配部11e1の底部分から筒状先端11bに向かって外径が一定のストレート部11e2が延設される。そして、該ストレート部の筒状部先端11b側の溝壁として、溝底から筒状部の半径外方向に垂直起立する前壁δが設けられる。
また、前記スリーブ11の先端部分には、その外径がスリーブ先端11bに向けて次第に減少するテーパ11dが設けられる。
【0017】
パッキン9は前記環状溝11cに装着され、スリーブ11に外嵌する接続用パイプ5に密着してシールする部材である。ここでのパッキン9はゴム製等からなるOリングとする。環状溝11cに装着されたOリング9は、その外周部が環状溝11cから突出する。Oリング9は袋ナット3の開口部30から挿入しスリーブ11に外嵌するパイプ5へ密着し、パイプ5とスリーブ11との間をシールする(図2)。
【0018】
矯正部材4は、パイプ5のスリーブ11への外嵌に先立ち、該スリーブに遊嵌する筒体である(図8)。その筒内径を前記パッキン9の外径よりも小さくした小径部42と、該小径部からスリーブの奥端11a側に向け次第に拡径する傾斜部41とを設けて、スリーブ11の先端11b側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブの奥端11a側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材4とする。開口部30から挿入しスリーブ11に外嵌するパイプ5からの押圧を受けて、該矯正部材がスリーブの奥端11a側へ移動するよう設定される。
【0019】
本実施形態の矯正部材4は、図8のごとく外径が一定の円筒体で、その外径は袋ナット3の筒内径よりも若干小さい。スリーブ11に遊嵌した矯正部材4が、少なくともパッキン9を装着したスリーブ上を移動する範囲で、該矯正部材は筒状袋ナット3の筒内壁31に近接(又は当接)するよう設定される。ここでは、該矯正部材のスリーブ上の移動可能範囲で、該矯正部材は筒状袋ナット3の筒内壁31に近接(又は当接)するよう設定される。符号40は筒孔を示す。該矯正部材の内径に関しては、図1のごとく内径d42が一定の小径部42を過ぎた傾斜部41のところでその内径が次第に大きくなり、最終的にパッキン9の外径に等しいか又はこれよりも若干大きめの筒内径d43となる。そして、該筒内径を保ったまま延設して大径部43を形成する。大径部43における筒内径d43は、パッキン9の外径に等しいか、或いは大径部43内にパッキン9が収まれば、パッキン9との間に僅かに隙間ができる程度の大きさとする。矯正部材4はスリーブ11の先端側から奥端11a側に向けて小径部42と傾斜部41と大径部43になるが、矯正部材4の大半を該大径部が占める。矯正部材4はスリーブ11に遊嵌し、パイプ継手未使用の状態では、図3のごとくロックリング2に小径部42の端面47が係止される鎖線位置と、Oリング9に傾斜部41が係止される実線位置との間を移動できる。その遊嵌状態にある矯正部材4は、パッキン9が傾斜部41を係止した図3の実線位置で、大径部43が第一,第二のOリング9に被るように設けられる。このとき、大径部43は図3のスリーブ先端側に位置する第一Oリング9を越え、さらにスリーブ奥端11b側の第二Oリング9の頂部を越える長さを有する。ここでは、Oリング9の外径に大径部43の内径d43を略等しくする。第一,第二Oリング9に大径部43が図1のように被った状態にすると、ゴム特性に基づく粘着性あるOリング9と大径部43の接触力で、パイプ継手未使用の状態下、スリーブ11に矯正部材4が遊嵌状態にあるといっても不用意には動かぬようになっている。
【0020】
矯正部材4は、図10に示す別態様品のごとく、内径一定の小径部42を経て、傾斜部41のところでその内径が次第に大きくなり、パッキン9の外径に等しいか又は若干大きめの内径が形成された段階で終わる形状にすることもできる。図1〜図8と図10の両矯正部材4とも、パイプ5の外嵌に先立ち、スリーブ11に遊嵌する筒体であって、袋ナット3に設けた開口部30から挿入しスリーブ11に外嵌するパイプ5からの押圧を受けて、矯正部材4がスリーブの奥端11a側へ移動する。尚、図10の矯正部材4の場合は、パイプ5の外嵌に先立ち、スリーブ11に遊嵌するが、さらに図11のごとく矯正部材4が袋ナット3の筒内壁に拡径を抑制された状態で、パッキン9を押圧変形させて、パッキン9に載る状態とするのがよい。スリーブ先端11b側に配されるロックリング2と第一Oリング9間の距離を小さくするためである。
【0021】
矯正部材4は、弾性変形可能な材質(ここではゴム)で造られ、具体的にはゴム若しくは熱可塑性エラストマー又は発泡体からなる弾性体からなり、その硬度を前記パッキン9の硬度と同等又はこれよりも硬くしている。斜めカットされたパイプ5がスリーブ11に差し込まれた際、パイプ5の斜めカット端面55に応じて矯正部材4が弾性変形して受け止めて、パイプ5のスリーブ11への外嵌を円滑にするためである。矯正部材4とパイプ5の関係は、矯正部材4の小径部内径d42をパイプ5の内径d5に等しくするか又はこれよりも若干小さくする(図1,図2)。パイプ5の外径に対しては矯正部材4の外径D4をパイプ外径D5に略等しくする。
【0022】
図1〜図7のパイプ継手は、パイプ接続前の継手未使用の状態で、矯正部材4のスリーブ奥端11a側への動きにパッキン9が傾斜部41で係止して、該パッキンよりもスリーブ先端11b側に小径部42が配設される。そして、スリーブ11に外嵌するパイプ5からの押圧を受けて、矯正部材4が拡径しないよう袋ナット3の筒内壁31で抑制されていることから、パッキン9に係止されていた傾斜部41(矯正部材4)が、該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブ11の奥端11a側へと移動する構成とする。ここで、前記矯正部材4の硬度をパッキン9の硬度と同等又はこれよりも硬くしたのは、自ら弾性変形しつつも、傾斜部41でパッキン9を確実に押圧変形させるためである。傾斜部41によるパッキン9の押圧変形をより確実に実行させるには、矯正部材4の硬度をパッキン9の硬度よりも硬くするのがより好ましい。
【0023】
ロックリング2は、金属製棒材をロックリング用の爪になる尖端22を形成した後、C字状の割りリングにした金属加工品である(図9)。パイプ5の内周面53に食い込むことのできる尖端22を、断面視で一箇所設けた加工棒材が、その尖端22を外周側に配してC字状割りリングに成形されたロックリングになっている。尖端22が平面視C字状の割りリングの外周縁になるにようにして、該尖端がパイプ5に食い込む爪22の役割を担えるロックリング2とする。該尖端の爪22が、スリーブ11に外嵌したパイプに対し、その内周面に食い込み且つ係止して、パイプ5の継手本体1からの引抜き移動を阻止する。二個の前記周回溝11eに同形のロックリング2が用いられる。
【0024】
本実施形態は、図9(ロ)の鎖線で示す縦断面円形の金属製丸棒から、プレス加工の剪断加工によって、実線で示した1/4円弧よりも小さく分離形成したロックリングとする。1/4円弧よりも小さく分離形成した加工棒材は、1/4円孔のカット品よりも鋭角の尖端22を有する長手方向にわたって等しい断面形状を有する製品になる。鋭角になることでパイプ内周面53に、尖端22が爪としてより食い込み易くなる。その後、該尖端が設けられた加工棒材を、同図(イ)のごとく尖端22が峰続きの外周縁となるよう割りリングに成形する。C字状割りリングのロックリング2としている。同図(ロ)のごとく、尖端22を外周側に配し、平らな底部23が内周側に配するようにしてC字状割りリングのロックリング2とする。
ロックリング2は、図1のごとく底部23を深溝部11e0の底部分αに対向させ、円弧形曲面の前面部分21をスリーブ先端11b側に配して周回溝11eに装着される。割りリングの口を広げ弾性変形させて、周回溝11eの深溝部11e0にロックリング2が装着される。装着されたロックリング2は、その割りリング外径D2をパイプ5の内径d5よりも大きくして、スリーブ11に外嵌するパイプ5に爪22が食い込んでパイプ5を接続一体化する(図2,図9)。ここで、装着されるロックリング2の外径D2は、通常ほぼ楕円形になるが、その長軸長さがパイプ内径d5よりも大きければよい。長軸長さ部分にある爪22がパイプ5の内面へ食い込み、パイプ5をパイプ継手に接続一体化できるからである。また、ロックリング2の長軸長さは小径部42の筒内径d42よりも大きければ、矯正部材4のスリーブ先端11bへの移動を該ロックリングが係止できる。スリーブ11にOリング9,ロックリング2を装着し、さらにスリーブ11に遊嵌した矯正部材4を覆って継手本体1に袋ナット3を螺着一体化してなるパイプ継手の組付け品は、スリーブ11からの矯正部材4の抜け落ちを防ぐことができる。尚、矯正部材4に所定外力を加えれば、弾性変形可能な矯正部材4はロックリング2を乗り越えることができるが、通常の保管や搬送等の取扱い状況下ではそのようなことは起こらない。
【0025】
袋ナット3は内周面に設けた雌ねじ部34が前記継手本体1の雄ねじ部13aに螺合する金属製品である(図1)。スリーブ11に装着したOリング9,ロックリング2と、スリーブ11に遊嵌した矯正部材4と共に、該スリーブを覆って前記継手本体1に取着できる大きさの袋ナット3とする。ナット頭に接続用パイプ5を差し込むための円孔形の開口部30が形成され、袋ナット3は、パイプのスリーブへの差込により、矯正部材4が少なくともパッキン9を装着したスリーブ11上を移動する範囲は、該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有する筒状体になっている。さらにここでは、矯正部材4がスリーブ11上を移動する全範囲で、袋ナット3は、該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有する筒状体になっている。符号35は袋ナット3の通孔を示す。
本実施形態の袋ナット3は筒外径及び筒内径が略一定の円筒形状とするが、その筒内径は一端側の開口部30に向けて口を大きくし、接続用パイプ5を本パイプ継手に差込み易くする。また、開口部30と反対の他端側の筒内面に、締結部13の雄ねじ部13aと螺合する雌ねじ部34を設ける。袋ナット3がパイプ継手として組み付けられた段階で、スリーブ先端11b側に装着のロックリング2からスリーブ奥端11aまでの袋ナット3の筒内径は一定で、矯正部材4の外径D4よりも僅かに大きく設定する。符号37は透孔を示し、パイプ継手に差し込まれる接続用パイプ5が所定位置まで差し込まれているかどうかを確認する覗き孔になっている。
【0026】
また、本パイプ継手の構成部品でないが、これに使用される接続用パイプ5について述べる。接続用パイプ5は、合成樹脂製の樹脂管だけでなく、合成樹脂と金属との複合品も適用できる。具体的には、機械的強度に優れたアルミニウム等の金属を芯材とし、内外層に耐熱性に優れた架橋ポリエチレンで構成された金属複合架橋ポリエチレン管などである。これらの接続用パイプ5も、外層に樹脂層が存在し、スリーブ11に導入され外嵌する接続用パイプ5の内周面53に、ロックリング2の爪22が弾性的に食い込むようにして、樹脂管と同様、本発明の作用,効果が得られるからである。図中、符号50はパイプ孔、符号51はパイプ本体、符号52はパイプ外周面を示す。
【0027】
次に、図1〜図9の前記構成部品からなる本パイプ継手の一使用要領及び作用について説明する。まず、継手本体1のスリーブ11に設けた環状溝11cに第一,第二Oリング9を装着し、またスリーブ奥端11a側の周回溝11eにロックリング2を装着する。次いで、スリーブ11に矯正部材4を嵌め、該スリーブに遊嵌する。続いて、該矯正部材の傾斜部41を第一Oリング9側へ寄せた後、スリーブ先端11b側の周回溝11eにロックリング2を装着する。しかる後、袋ナット3の雌ねじ部34を継手本体1の外周に設けた前記雄ねじ部13aに螺着する。これで、本パイプ継手が完成する。
【0028】
このパイプ継手は、接続用パイプ5を袋ナット3の開口部30を通じてスリーブ11に差し込むだけで、パイプ5が該パイプ継手に接続一体化される。しかも、パイプ5はパイプ端面55を円形に変形したり、パイプ端面55の内周面を削って内面取りを施したりせず、必要長さにカットされたままのパイプ5であっても、スリーブ11へ円滑に差し込むことができる。
詳しくは、接続用パイプ5を開口部30から挿入すると、パイプ5はスリーブに導入されて、該スリーブに外側から嵌る。パイプ5の切り口端面55がカッター等によって楕円形に扁平化してもテーパ11dによって矯正され、円形に補修される。そして、パイプ先端54がロックリング2を乗り越える(図4)。ロックリング2に爪22を形成するが、スリーブ11に差し込む段階では、スリーブにパイプ5を差し込む方向がロックリング2を深溝部11e0へ押し込む方向であり、且つロックリング2の円弧形前面部分21をスリーブ先端11b側に配して周回溝11eに装着されているので、パイプ5はここを滑るようにしてスリーブ奥端11aへと向かう。パイプ先端54が矯正部材4に達すると、パイプ端面55が矯正部材4の端面47に当接してこれを押す。弾性変形可能な矯正部材4は、その端面47がパイプ端面55に順応変形し当接する。パイプ5からの押圧を受けて、図4のごとく矯正部材4の傾斜部41がOリング9をなでるようにして押圧変形させていく。弾性変形可能な矯正部材4は、袋ナット3の筒内壁31に規制されているので、半径外方向へ拡がることなくOリング9を押圧する。該Oリングは、矯正部材4からの押圧を受けて、断面円形から断面が楕円化する。図中、符号ASはパイプ5からの押圧を受けてOリング9を押す傾斜部41の圧接部分を示す。パイプ5の奥端11a側への押圧進行に伴い、傾斜部41が第一Oリング9を滑るようにして該Oリングを図3から図4の状態へと弾性変形させて押し潰し、これを乗り越えていく。さらに図5で詳しく説明すると、パイプ5からスリーブ奥端11a方向へ加えられる力Fの分力F1が働いて、Oリング9を弾性変形させて環状溝11cに沈めるようにして、傾斜部41が前進(紙面右方向)する。かくして、いままでパイプ内面の内面取り59をしなければ、パイプ内端面551がOリング9に突き当たり、シール機能を損なう形91に変形させ(図13)、場合によっては、収まっていた環状溝11cからパッキン9を押し出してしまうような不具合を解消する。矯正部材4がOリング9を文字通り矯正して環状溝11cに押しとどめる。スリーブ奥端側に位置する第二Oリング9においても、第一Oリング9と同様に弾性変形させて押し潰し、該Oリングを乗り越えていく。さらにいえば、パッキン9が傾斜部41を係止した図3の実線位置にあって、大径部43は第一Oリング9をカバーし、さらに第二Oリング9の頂部までカバーする長さを有している。そのため、第一,第二Oリング9が何らかの原因で環状溝11cから浮き立つのも抑えることが可能で、シール機能を損なうあらゆる変形が確実に防止される。
【0029】
その後、パイプ5はスリーブ奥端11a側のロックリング2を、前記スリーブ先端側のロックリング2と同じく、滑るように通過していく。そうして、パイプ先端が図2のごとく矯正部材4を介してスリーブの奥端11aへ到達する。この時点になると、弾性変形させて環状溝11cに沈められていたOリング9は、その弾性復元力でパイプ内面53に密着してシールする(図2)。また、ロックリング2がパイプ5を継手本体1に一体化させる。スリーブ11に外嵌されたパイプ5を引き抜こうとすれば、ロックリング2が深溝部11e0から勾配溝部11e1を上ってその割りリング外径を拡大し、爪22がパイプ内面に一層食い込むこととなり、パイプ5のパイプ継手への接続一体化がより強力になる。かくのごとくして、パイプ5の本パイプ継手へのワンタッチ接続がなされる。
【0030】
また、パイプ5が斜めカットされるケースにあっても、斜めカットされたパイプ5をそのままスリーブ11に差し込むことができる。まず、パイプ先端54がロックリング2を乗り越える。パイプ先端54が矯正部材4に達すると、パイプ端面55が矯正部材4に突き当たり、続いて、模式的に描けば図6のように、該パイプが弾性変形可能な該矯正部材4を弾性変形させてこれに当接にし、押す格好になる。矯正部材4は弾性変形しても、その外径は袋ナット3の規制を受けて大きくならない。従って、スリーブ奥端11aへと向かうパイプ5の押圧力で、図6でいえばパイプ先端54が突き出る上側に位置する傾斜部41がまずOリング9を滑るようにして、弾性変形で押し潰し、該Oリングを傾斜部41,小径部42が乗り越えていく。遅れて、図7のごとくパイプ端面55の下側に位置する傾斜部41がOリング9を滑るようにして、弾性変形で押し潰し、これを傾斜部41,小径部42が乗り越えていく。後は、パイプ端面55をパイプ5に対し直角にカットした前記パイプ5のパイプ継手への接続と同様の作用を経て接続が完了する。斜めカットされたパイプ5の本パイプ継手へのワンタッチ接続が達成される。
【0031】
このように構成したパイプ継手は、いままでのようにパイプ面取り機を用いなくても、必要長さにカットしたパイプ5をそのままスリーブ11に差し込むことができる。パイプ5の内面取りを施さなくても、パイプ5をスリーブ11に差し込むと、パイプ先端面55が矯正部材4に当接して、両者が連結したような格好になり、該矯正部材4の傾斜部41が内面取りの役割を担う。パイプ端面54がOリング9に直接突き当たるのでなく、該Oリングには矯正部材4の傾斜部41が当接する。パイプ5から矯正部材4へスリーブ軸方向に押圧力Fが加えられるが、Oリング9に接する傾斜部41にて、該押圧力の分力F1がOリング9を弾性変形で環状溝11c内へ押し沈めるので、傾斜部41が該Oリングを容易に乗り越える。該傾斜部41に続く小径部42、パイプ5も該Oリングを容易に通過することができる。その後、図2のようにパイプ先端54が矯正部材4を介してスリーブの奥端11aに達すれば、環状溝11cへ押し沈められたOリング9は弾性復元力によってパイプ内周面に密着してシールする。と同時に、周回溝11eに装着されたロックリング2の爪22がスリーブ11に外嵌するパイプ5の内周面に食い込んでパイプ5を接続一体化する。パイプ5を引き抜こうとすれば、ロックリング2が深溝部11e0から勾配溝部11e1を上ってその径を拡大し、爪22がパイプ内面により深く食い込むので、パイプ5のパイプ継手への接続一体化が一段と強化される。本パイプ継手へのパイプ5のワンタッチ接続が円滑且つ確実になされる。
また、パイプカッターでパイプ5を切断した際、パイプ端面55のパイプ径d5が楕円形に扁平化しても、スリーブ11の先端部分にテーパ11dを設けるので、スリーブ11へパイプ5を差込みさえすれば、パイプ5の差込み進行と共にパイプ5を円形へと矯正できる。
パイプ面取り機を購入するコスト増、またこれを施工現場に持参し、さらに施工前に内面取り及び真円加工等の前加工をしなければならなかった作業等の問題を解消する。
【0032】
さらに、端面55が斜めカットされたパイプ5のパイプ継手への接続は、従来、面取り機を使用しても困難であったが、本パイプ継手を用いれば、パイプ5の斜めカット端面55に矯正部材4が弾性変形で追従して、難なく接続一体化できる。斜めカットされたパイプ5がスリーブ11に差し込まれて矯正部材4に当たると、パイプ5を差し込む押圧が弾性体からなる矯正部材4を弾性変化させる。斜めカットされたパイプ先端面55の形状に合わせて小径部42の端面47が弾性変形する。スリーブ11に外嵌する斜めカットされたパイプ5からの押圧を受けて、例えば図6でいえば、まず上方側の傾斜部41が第一Oリング9を押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端11a側へと移動する。遅れて、図7のごとく、下方側の傾斜部41が第一Oリング9を押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブ11の奥端11aへと移動する。スリーブ奥端側の第二Oリング9、スリーブ奥端側のロックリング2に対しても同様の動きをして、斜めカットパイプ5をスリーブ11へ円滑に外嵌できる。矯正部材4は弾性変形するものの、その硬度を前記パッキン9の硬度と等しいか又はこれよりも硬くしているので、矯正部材4でOリング9を確実に押圧変形させることができる。ここで、矯正部材4の弾性変形で該矯正部材の筒外周面45が広がろうとしても、円筒状袋ナット3の規制を受ける。かくして、袋ナット3の筒内壁とスリーブとで造る環穴Kを矯正部材4が円滑に進むことになる。
矯正部材4は以下の更なる効果を発揮する。継手本体1に取着された袋ナット3は、少なくともスリーブ先端11b側に装着されるロックリング2からスリーブ奥端11aまで筒内径が一定であり、該矯正部材が少なくともパッキン9を装着したスリーブ11上を移動する範囲で、袋ナット3が該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有している。さらにここでは、矯正部材4のスリーブ11上の移動範囲で、該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有している。従って、パイプ継手へのパイプ5の差込みで、パイプ5の差込み圧力を受けた矯正部材4は、半径外方向への拡径が袋ナット3の筒内壁31によって制限されているので、半径内方向へと向かう。該矯正部材が半径内方向に向かい延びる傾向にあるので、パッキン9を押付け、これを乗り越えるだけでなく、特許文献1のごとく「テーパ(本発明でいう傾斜部)の最小内径をパイプの基準内径以下に設定」せずとも、矯正部材に続くパイプを、うまく同伴させてスリーブ奥端側へ円滑移動できる。
さらにいえば、パイプ継手へのパイプの差込みで、矯正部材4がスリーブの奥端11a側に配したロックリング2を通過するとき、該矯正部材はゴム等の弾性変形部材からなり自ら変形するので、該ロックリングの領域も楽に通過できる長所を有する。
【0033】
加えて、スリーブ11に遊嵌される矯正部材4の配設位置よりもスリーブ11の先端側にロックリング2を装着し、且つ該ロックリングの外径を小径部42の筒内径d42よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ11への移動を該ロックリングが係止する構成であるので(図3)、継手本体1にOリング9,ロックリング2,矯正部材4,袋ナット3を組付けたパイプ継手の一体組付け品にできる。保管が楽で且つ各部品を別々に保管して、一パーツを失ってしまうような事態も起こらない。矯正部材4がスリーブ11から抜け落ちないので取扱いなども頗る便利になる。
また、図1〜図7や図10のようなパイプ継手は、その使用前の状態で、矯正部材4のスリーブ奥端11a側への動きにパッキン9が当たって係止するが、パッキン9そのものに押圧負荷はかかっていないので、パッキンに歪みやへたりが生じることなく、本パイプ継手が未使用状態であれば長期保管できる長所を有する。
【0034】
また、図2のごとくパイプ先端54が矯正部材4を介してスリーブ11の奥端11aへ達して、パイプ継手に接続一体化されるパイプ5は、矯正部材4を介して継手本体1の張出部12に当接するので、パイプ5に金属複合管を使用しても電蝕の問題は起こらない。金属複合管にはアルミニウムが通常用いられ、継手本体1には通常真鍮が使用されることから、両者が接すれば電蝕の問題が生じる。そのため、金属複合管を用いる場合は、これまで非電導性のゴム等のスペーサを介在させて両者の接触を回避する対策を講じている。本発明では矯正部材4に電気特性に優れる非電導性のゴムや熱可塑性エラストマー等が用いられるので、スペーサを別途準備するコストやこの取付け作業を削減できる更なるメリットもある。
このように、本パイプ継手は数々の優れた効果を発揮する。
【0035】
尚、本発明においては、前記実施例に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。継手本体1,ロックリング2,袋ナット3,矯正部材4,パッキン9等の形状,大きさ,個数などは用途に応じて適宜選択できる。例えば、図12に示すパイプ継手とすることができる。同図の継手本体1は連結部15をナット部材16とする。該ナット部材は主部10から取り外し可能にし、主部10に設けた外鍔10aにナット部材16の内鍔16aを係止させて用いられる。該ナット部材の雌ねじ部16bを螺合部にして、他の継手に接続される連結部15としている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のパイプ継手の一形態で、その上段を断面表示したパイプ継手の正面図である。
【図2】図1のパイプ継手に接続用パイプが差し込まれて接続一体化した説明断面図である。
【図3】図1の矯正部材周りの断面図である。
【図4】図3の状態からスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、矯正部材が該パッキンを押圧変形する様子を示す断面図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】図3の状態から斜めカットされたパイプをスリーブに差し込む時の矯正部材及びパッキンが変形する様子を示す断面図である。
【図7】図3の状態から斜めカットされたパイプをスリーブに差し込む時の矯正部材及びパッキンが変形する様子を示す断面図である。
【図8】矯正部材の斜視図で、(イ)がスリーブ奥端側から見た斜視図、(ロ)がスリーブ先端側から見た斜視図である。
【図9】(イ)がロックリングの平面図、(ロ)が(イ)のIV-IV線矢視図である。
【図10】図1〜図7とは異なる他態様の矯正部材を用いた図3に対応する断面図である。
【図11】図10の矯正部材がスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、パッキンを押圧変形する様子を示す断面図である。
【図12】図1〜図11とは別態様品で、上段を断面表示したパイプ継手の正面図である。
【図13】従来技術の説明断面図である。
【図14】従来技術の説明断面図である。
【図15】従来技術の説明断面図である。
【図16】従来技術の説明断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 継手本体
10 主部
11 スリーブ
11a スリーブの奥端
11b スリーブの先端
11c 環状溝
11d テーパ
11e 周回溝
2 ロックリング
3 袋ナット
30 開口部
4 矯正部材
41 傾斜部
42 小径部
5 接続用パイプ(パイプ)
9 パッキン(Oリング)
d42 スリーブの先端側に配される矯正部材の筒内径(小径部内径)
d43 スリーブの奥端側に配される矯正部材の筒内径(大径部内径)
【技術分野】
【0001】
本発明は、配水管などの継手として用いられ、樹脂管等のパイプを差し込むだけで接続一体化できるワンタッチのパイプ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂管等のパイプを差し込むだけで一体化するパイプ継手がある。そのパイプ継手は、例えば図14,図15のごとく、継手本体Xに突出形成した筒状スリーブX1に接続用パイプ5を外嵌すると、スリーブ外周面に装着したOリングたるパッキン9がパイプ5に密着してシールすると共に、ロックリングgの爪g1がパイプ5に食い込んで接続一体化する構造になっている。
ここで、上記パイプ5は直径約1m程度に巻き束ねて車両搬送され、施工現場でその巻き束ねられたパイプを真っ直ぐに伸ばした後、必要長さにカットして使用される。ところが、パイプ5を真っ直ぐに伸ばしたつもりでも不十分で、パイプ5が斜めカットされるケースがあった。斜めカットされたパイプ5をそのままスリーブに差し込むと、パッキン9をめくり上げてしまったり傷つけたりした。こうした問題に対して、対策発明が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−314775公報
【0004】
特許文献1の発明は、「…テーパ付リングには、これの内周面の前端部から後方に向かって窄まる前方拡がり状のテーパを備えており、このテーパの最小内径を前記管の基準内径以下に設定していることを特徴とする差込管継手。」とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1には次のような問題があった。まず、その公報記載の従来技術に「テーパ48の最小内径を管Pの基準内径と同一に設定していたが、これでは、図11に示すように、管内径が交差内の最小内径である管Pが挿入されたとき、テーパ付リング35にて弾性シーリング32の外径部が管Pの内径よりも小さく抑えられないため、管Pの内径部が弾性シーリング32の外径部につかえて管Pの挿入性が損なわれるという問題が生じる」とあり、上記「テーパの最小内径を前記管の基準内径以下に設定」しなければならず、厳しい精度が予想された。
そして、テーパ付リングが樹脂成形品であるため、弾性変形の融通性に欠けた。「或る程度斜め切断された管である場合も、テーパ付リングが管Pの斜め切断端面Cに沿って撓む」とするものの、斜めカットされた管といってもあくまで或る程度の範囲であり、その範囲が限定された。また、テーパ付リングを弾性変形可能にすると、その段落0026に記載のごとく「中空軸15は円周に複数の軸方向に沿う切欠部14を円周方向に所定間隔で列設して拡縮変形自在に形成」するので、以下のような不具合を招いた。管Pの一端部をコレットの中空軸に挿入に伴い、「管Pの一端部の切断端面Cでテーパ付リングが管差込み間隙12の内奥方向へ押し込まれ、テーパ付リング22のテーパ24が内筒体5のシーリング溝13から突出している弾性シーリング2の外周部に当接し該リングを圧縮させ」ることができずに、弾性変形可能なテーパ付リングは拡縮変形自在の中空軸15を拡形させ半径外方向へ広がってしまう虞があった。その結果、管Pを弾性シーリング32に突っ掛かることなくスムーズに継手本体へ装着するのが難しくなった。
【0006】
一方、パイプ5をパイプカッターで斜めカットしないよう心掛け、パイプ端面55をパイプ本体51に対しきれいに直角に切断したとしても、やはりスリーブに外嵌する際、悪さをすることが判ってきた。該パイプをスリーブに差し込むと、図13のごとくパイプ筒の内端面551が、時としてパッキン9に突き当たり、シール機能を損なう形91に変形させ、場合によっては、収まっていた環状溝からパッキン9を押し出してしまう不具合を生じさせた。
加えて、最近のパイプ5はアルミニウム等の金属を芯材にし、その内外層に樹脂層を設けた金属複合管が使われる場合があり、パイプカッターでパイプを切断すると、パイプ端面のパイプ径が楕円形に扁平化した。そのままではパイプをスリーブにうまく差し込めないケースも出てきた。
【0007】
上記両問題を解決するのに、今では殆どの施工業者がパイプ面取り機(いわゆるハンドテーパーリーマー)と称する治具を用いている。パイプ面取り機でパイプ端面55を円形に修正し、さらにパイプ端面の内周面を削って、図14のような内面取り59を施した後、図15のごとく該パイプをスリーブX1に差し込む方法を採っている。
【0008】
しかしながら、パイプ面取り機を購入し、且つそれを施工現場に持参し、しかも、施工前に面取り加工作業等を行わねばならなかった。また、図16のごとくパイプ5が角度θで少し大きく斜めカットされてしまうと、パイプ面取り機ではパイプ先端面の下側内周面には内面取りを施せない未加工部分58が残った。この未加工部分58がパッキン9に突き当たって悪さをし、パイプ面取り機を使用しても改善されないこともあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するもので、内面取りを施したりパイプ端面を真円にしたりする面取り機を使用しなくても、またパイプが斜めカットされてしまっても、何ら前加工することなく、カットされたそのままのパイプをスリーブへ円滑に差し込んで接続一体化できるパイプ継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、主部に筒状スリーブを突出形成した継手本体と、該スリーブの外周面に設けた環状溝に装着され、該スリーブに外嵌する接続用パイプに密着してシールするパッキンと、該パイプの外嵌に先立ち該スリーブに遊嵌する筒体であって、その筒体の内径を前記パッキンの外径よりも小さくした小径部と該小径部からスリーブの奥端側に向け次第に拡径する傾斜部を設けて、スリーブの先端側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブの奥端側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材と、該矯正部材と共に前記スリーブを覆って前記継手本体に取着される筒状袋ナットと、を具備し、且つ前記矯正部材が弾性変形可能にして、その硬度を前記パッキンの硬度と等しいか又はこれよりも硬くする一方、該矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、前記袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有して、
該袋ナットに設けた開口部から挿入し前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記矯正部材がスリーブの奥端側へ移動するようにしたことを特徴とするパイプ継手にある。
請求項2の発明たるパイプ継手は、請求項1において、矯正部材のスリーブ奥端側への動きに前記パッキンが前記傾斜部で係止して、該パッキンよりもスリーブの先端側に前記小径部が配設されるようにして、前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記パッキンに係止されていた傾斜部が該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端側へ移動することを特徴とする。請求項3の発明たるパイプ継手は、請求項1又は2で、スリーブの先端部分に、その外径が先端に向けて次第に減少するテーパを設けたことを特徴とする。請求項4の発明たるパイプ継手は、請求項1〜3で、スリーブに遊嵌される前記矯正部パイプ継手材の配設位置よりもスリーブの先端側に位置するスリーブの外周面に周回溝を設け、該周回溝に装着されるロックリングをさらに具備し、該ロックリングの外径を前記小径部の筒内径よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ先端への移動を該ロックリングが係止するようにしたことを特徴とする。
【0011】
請求項1の発明のごとく傾斜部を設けて、スリーブの先端側に配される筒内径よりも傾斜部を介してスリーブの奥端側に配される筒内径の方が大きく、且つ矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、前記袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有していると、スリーブに遊嵌されこれに沿って水平移動する矯正部材がパッキンに当たる時は、必ずその傾斜部が当たり、さらに矯正部材が袋ナットの筒内壁で拡径しないよう規制するので、傾斜部に加えられる外力から派生する分力が、弾性体たるパッキンを環状溝へ押し沈める。従って、パイプの筒内端面がスリーブ上を移動する際、パッキンに突き当たってシール機能を損なう形に変形させていた従来の不具合は解消される。矯正部材を弾性変形可能にするので、パイプが斜めカットされても、それに対応して該矯正部材が弾性変形するので、何の問題もなく、斜めカットされたそのままのパイプをスリーブへ円滑に外嵌することができる。さらに、矯正部材の硬度をパッキンの硬度と等しいかまたはこれよりも硬くして、且つ該矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有しているので、傾斜部に加えられた外力でもって弾性体たるパッキンを環状溝へ有効に押し沈める。
請求項2の発明のごとく、矯正部材のスリーブ奥端側への動きに、傾斜部が前記パッキンに係止されて、該パッキンよりもスリーブの先端側に前記小径部が配設されるようにして、前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記パッキンに係止されていた傾斜部が該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端側へ移動する構成とすると、パイプを接続する前の未使用状態下では、パッキンが弾性収縮してない負荷のない状態にあり、パイプ継手は組付け品での長期保管も可能になる。
請求項3の発明のごとく、スリーブの先端部分に、外径が先端に向けて次第に減少するテーパを設けると、パイプカッターのパイプ切断によりパイプ端面が扁平化しても、スリーブにパイプを外嵌する過程で、該テーパがパイプ端面を矯正し円形に修正する。
請求項4の発明のごとく、スリーブに遊嵌される矯正部材の配設位置よりもスリーブの先端側の外周面に周回溝を設け、該周回溝に装着されるロックリングをさらに具備し、該ロックリングの外径を小径部の筒内径よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ先端への移動を該ロックリングが係止するようにすると、パイプ継手を組付け品にした場合でも、矯正部材がスリーブから抜け落ちることがなく、保管だけでなく取り扱いやハンドリングも楽になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパイプ継手は、内面取りを施したりパイプ端面を円形修正したりする面取り機による前加工を必要とせず、さらに面取り機では対応できなかった斜めカットされたパイプであっても、該パイプをそのままスリーブへ差し込み、ワンタッチで円滑に接続一体化できるなど極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るパイプ継手について詳述する。図1〜図12は本発明のパイプ継手の一形態を示したもので、図1はその上段を断面表示したパイプ継手の正面図、図2はパイプ継手に接続用パイプが差し込まれて接続一体化した説明断面図、図3は図1の矯正部材周りの断面図、図4は図3の状態からスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、矯正部材が該パッキンを押圧変形する様子を示す断面図、図5は図4の要部拡大図、図6,図7は図3の状態から斜めカットされたパイプをスリーブに差し込む時の矯正部材及びパッキンが変形する様子を示す断面図、図8は矯正部材の斜視図、図9は(イ)がロックリングの平面図、(ロ)が(イ)のIV-IV線矢視図である。図10は図1〜図7とは異なる他態様の矯正部材を用いた図3に対応する断面図、図11は図10の矯正部材がスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、パッキンを押圧変形する様子を示す断面図、図12は図1〜図11とは別態様品で、上段を断面表示したパイプ継手の正面図である。
【0014】
パイプ継手は、継手本体1とパッキン9と矯正部材4とロックリング2と袋ナット3とを具備する(図1)。これらを組み付けたパイプ継手は、袋ナット3の開口部30から接続用パイプ5を挿入しスリーブ11の外周面に嵌める(外嵌する)と、パッキン9が該パイプと該スリーブ間をシールし且つロックリング2の爪22がパイプ5に食い込むことで、パイプ5を接続一体化する。
【0015】
継手本体1はその中央部にあたる主部10に筒状スリーブ11を突出形成した部品で、パイプ継手の主要部になっている(図1)。スリーブ11がある側の主部10には袋ナット3が取着する締結部13が設けられ、反対側には他の継手に接続する連結部15が設けられる。該スリーブの外周面11fにはパッキン9を装着する環状溝11cとロックリング2を装着する周回溝11eが設けられる(図3)。
本実施形態の継手本体1は、工具で把持することのできる角柱状主部10に加え、この一端面が軸方向に突出して、外周に雄ねじ部13aの締結部13を形成する張出部12を延設し、該張出部の端面からさらにスリーブ11を突出形成する。また主部10の他端面が軸方向に突出して、外周に雄ねじ部15aのある連結部15を形成する。パイプ継手として機能するよう、継手本体1にはスリーブ11から張出部12、主部10、連結部15へと軸方向に貫通する導通孔19が設けられ、これら各部は一体加工されている。前記環状溝11cは同形状のものを少し隔てて二個形成し、前記周回溝11eは、両環状溝11cを挟むようにして、スリーブ11の先端11b側と奥端11a側に同形状のものを各一個形成する。そのスリーブ先端11b側に形成する周回溝11eは、スリーブ11に遊嵌される矯正部材4の配設位置よりもスリーブ先端寄りに設けられる。尚、「スリーブの奥端」は、パイプ継手としてパイプ5をスリーブ11に外嵌する際、スリーブ先端11bからスリーブ11の奥へと差し込む視点から用いるが、主部10にスリーブ11を突出形成した視点から眺めれば、「スリーブの奥端」はスリーブ11の基端に該当する。
【0016】
前記環状溝11cはスリーブ外周面11fに等断面形状で周回形成される。その形状はパッキン9の外周部分をスリーブ外周面11fから突出させて、パッキン9を収納保持できる断面凹形状とする。一方、周回溝11eもスリーブ外周面11fに等断面形状で周回形成される。その形状は、図1のごとく、ロックリング2が当初収まる深溝部11e0に加え、該深溝部のスリーブ先端11b側の壁面が、深溝部11e0の底面からスリーブ先端11bに向けて上昇傾斜面の勾配溝部11e1を設けた溝形状とする。ここでの周回溝11eには、さらに勾配部11e1の底部分から筒状先端11bに向かって外径が一定のストレート部11e2が延設される。そして、該ストレート部の筒状部先端11b側の溝壁として、溝底から筒状部の半径外方向に垂直起立する前壁δが設けられる。
また、前記スリーブ11の先端部分には、その外径がスリーブ先端11bに向けて次第に減少するテーパ11dが設けられる。
【0017】
パッキン9は前記環状溝11cに装着され、スリーブ11に外嵌する接続用パイプ5に密着してシールする部材である。ここでのパッキン9はゴム製等からなるOリングとする。環状溝11cに装着されたOリング9は、その外周部が環状溝11cから突出する。Oリング9は袋ナット3の開口部30から挿入しスリーブ11に外嵌するパイプ5へ密着し、パイプ5とスリーブ11との間をシールする(図2)。
【0018】
矯正部材4は、パイプ5のスリーブ11への外嵌に先立ち、該スリーブに遊嵌する筒体である(図8)。その筒内径を前記パッキン9の外径よりも小さくした小径部42と、該小径部からスリーブの奥端11a側に向け次第に拡径する傾斜部41とを設けて、スリーブ11の先端11b側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブの奥端11a側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材4とする。開口部30から挿入しスリーブ11に外嵌するパイプ5からの押圧を受けて、該矯正部材がスリーブの奥端11a側へ移動するよう設定される。
【0019】
本実施形態の矯正部材4は、図8のごとく外径が一定の円筒体で、その外径は袋ナット3の筒内径よりも若干小さい。スリーブ11に遊嵌した矯正部材4が、少なくともパッキン9を装着したスリーブ上を移動する範囲で、該矯正部材は筒状袋ナット3の筒内壁31に近接(又は当接)するよう設定される。ここでは、該矯正部材のスリーブ上の移動可能範囲で、該矯正部材は筒状袋ナット3の筒内壁31に近接(又は当接)するよう設定される。符号40は筒孔を示す。該矯正部材の内径に関しては、図1のごとく内径d42が一定の小径部42を過ぎた傾斜部41のところでその内径が次第に大きくなり、最終的にパッキン9の外径に等しいか又はこれよりも若干大きめの筒内径d43となる。そして、該筒内径を保ったまま延設して大径部43を形成する。大径部43における筒内径d43は、パッキン9の外径に等しいか、或いは大径部43内にパッキン9が収まれば、パッキン9との間に僅かに隙間ができる程度の大きさとする。矯正部材4はスリーブ11の先端側から奥端11a側に向けて小径部42と傾斜部41と大径部43になるが、矯正部材4の大半を該大径部が占める。矯正部材4はスリーブ11に遊嵌し、パイプ継手未使用の状態では、図3のごとくロックリング2に小径部42の端面47が係止される鎖線位置と、Oリング9に傾斜部41が係止される実線位置との間を移動できる。その遊嵌状態にある矯正部材4は、パッキン9が傾斜部41を係止した図3の実線位置で、大径部43が第一,第二のOリング9に被るように設けられる。このとき、大径部43は図3のスリーブ先端側に位置する第一Oリング9を越え、さらにスリーブ奥端11b側の第二Oリング9の頂部を越える長さを有する。ここでは、Oリング9の外径に大径部43の内径d43を略等しくする。第一,第二Oリング9に大径部43が図1のように被った状態にすると、ゴム特性に基づく粘着性あるOリング9と大径部43の接触力で、パイプ継手未使用の状態下、スリーブ11に矯正部材4が遊嵌状態にあるといっても不用意には動かぬようになっている。
【0020】
矯正部材4は、図10に示す別態様品のごとく、内径一定の小径部42を経て、傾斜部41のところでその内径が次第に大きくなり、パッキン9の外径に等しいか又は若干大きめの内径が形成された段階で終わる形状にすることもできる。図1〜図8と図10の両矯正部材4とも、パイプ5の外嵌に先立ち、スリーブ11に遊嵌する筒体であって、袋ナット3に設けた開口部30から挿入しスリーブ11に外嵌するパイプ5からの押圧を受けて、矯正部材4がスリーブの奥端11a側へ移動する。尚、図10の矯正部材4の場合は、パイプ5の外嵌に先立ち、スリーブ11に遊嵌するが、さらに図11のごとく矯正部材4が袋ナット3の筒内壁に拡径を抑制された状態で、パッキン9を押圧変形させて、パッキン9に載る状態とするのがよい。スリーブ先端11b側に配されるロックリング2と第一Oリング9間の距離を小さくするためである。
【0021】
矯正部材4は、弾性変形可能な材質(ここではゴム)で造られ、具体的にはゴム若しくは熱可塑性エラストマー又は発泡体からなる弾性体からなり、その硬度を前記パッキン9の硬度と同等又はこれよりも硬くしている。斜めカットされたパイプ5がスリーブ11に差し込まれた際、パイプ5の斜めカット端面55に応じて矯正部材4が弾性変形して受け止めて、パイプ5のスリーブ11への外嵌を円滑にするためである。矯正部材4とパイプ5の関係は、矯正部材4の小径部内径d42をパイプ5の内径d5に等しくするか又はこれよりも若干小さくする(図1,図2)。パイプ5の外径に対しては矯正部材4の外径D4をパイプ外径D5に略等しくする。
【0022】
図1〜図7のパイプ継手は、パイプ接続前の継手未使用の状態で、矯正部材4のスリーブ奥端11a側への動きにパッキン9が傾斜部41で係止して、該パッキンよりもスリーブ先端11b側に小径部42が配設される。そして、スリーブ11に外嵌するパイプ5からの押圧を受けて、矯正部材4が拡径しないよう袋ナット3の筒内壁31で抑制されていることから、パッキン9に係止されていた傾斜部41(矯正部材4)が、該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブ11の奥端11a側へと移動する構成とする。ここで、前記矯正部材4の硬度をパッキン9の硬度と同等又はこれよりも硬くしたのは、自ら弾性変形しつつも、傾斜部41でパッキン9を確実に押圧変形させるためである。傾斜部41によるパッキン9の押圧変形をより確実に実行させるには、矯正部材4の硬度をパッキン9の硬度よりも硬くするのがより好ましい。
【0023】
ロックリング2は、金属製棒材をロックリング用の爪になる尖端22を形成した後、C字状の割りリングにした金属加工品である(図9)。パイプ5の内周面53に食い込むことのできる尖端22を、断面視で一箇所設けた加工棒材が、その尖端22を外周側に配してC字状割りリングに成形されたロックリングになっている。尖端22が平面視C字状の割りリングの外周縁になるにようにして、該尖端がパイプ5に食い込む爪22の役割を担えるロックリング2とする。該尖端の爪22が、スリーブ11に外嵌したパイプに対し、その内周面に食い込み且つ係止して、パイプ5の継手本体1からの引抜き移動を阻止する。二個の前記周回溝11eに同形のロックリング2が用いられる。
【0024】
本実施形態は、図9(ロ)の鎖線で示す縦断面円形の金属製丸棒から、プレス加工の剪断加工によって、実線で示した1/4円弧よりも小さく分離形成したロックリングとする。1/4円弧よりも小さく分離形成した加工棒材は、1/4円孔のカット品よりも鋭角の尖端22を有する長手方向にわたって等しい断面形状を有する製品になる。鋭角になることでパイプ内周面53に、尖端22が爪としてより食い込み易くなる。その後、該尖端が設けられた加工棒材を、同図(イ)のごとく尖端22が峰続きの外周縁となるよう割りリングに成形する。C字状割りリングのロックリング2としている。同図(ロ)のごとく、尖端22を外周側に配し、平らな底部23が内周側に配するようにしてC字状割りリングのロックリング2とする。
ロックリング2は、図1のごとく底部23を深溝部11e0の底部分αに対向させ、円弧形曲面の前面部分21をスリーブ先端11b側に配して周回溝11eに装着される。割りリングの口を広げ弾性変形させて、周回溝11eの深溝部11e0にロックリング2が装着される。装着されたロックリング2は、その割りリング外径D2をパイプ5の内径d5よりも大きくして、スリーブ11に外嵌するパイプ5に爪22が食い込んでパイプ5を接続一体化する(図2,図9)。ここで、装着されるロックリング2の外径D2は、通常ほぼ楕円形になるが、その長軸長さがパイプ内径d5よりも大きければよい。長軸長さ部分にある爪22がパイプ5の内面へ食い込み、パイプ5をパイプ継手に接続一体化できるからである。また、ロックリング2の長軸長さは小径部42の筒内径d42よりも大きければ、矯正部材4のスリーブ先端11bへの移動を該ロックリングが係止できる。スリーブ11にOリング9,ロックリング2を装着し、さらにスリーブ11に遊嵌した矯正部材4を覆って継手本体1に袋ナット3を螺着一体化してなるパイプ継手の組付け品は、スリーブ11からの矯正部材4の抜け落ちを防ぐことができる。尚、矯正部材4に所定外力を加えれば、弾性変形可能な矯正部材4はロックリング2を乗り越えることができるが、通常の保管や搬送等の取扱い状況下ではそのようなことは起こらない。
【0025】
袋ナット3は内周面に設けた雌ねじ部34が前記継手本体1の雄ねじ部13aに螺合する金属製品である(図1)。スリーブ11に装着したOリング9,ロックリング2と、スリーブ11に遊嵌した矯正部材4と共に、該スリーブを覆って前記継手本体1に取着できる大きさの袋ナット3とする。ナット頭に接続用パイプ5を差し込むための円孔形の開口部30が形成され、袋ナット3は、パイプのスリーブへの差込により、矯正部材4が少なくともパッキン9を装着したスリーブ11上を移動する範囲は、該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有する筒状体になっている。さらにここでは、矯正部材4がスリーブ11上を移動する全範囲で、袋ナット3は、該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有する筒状体になっている。符号35は袋ナット3の通孔を示す。
本実施形態の袋ナット3は筒外径及び筒内径が略一定の円筒形状とするが、その筒内径は一端側の開口部30に向けて口を大きくし、接続用パイプ5を本パイプ継手に差込み易くする。また、開口部30と反対の他端側の筒内面に、締結部13の雄ねじ部13aと螺合する雌ねじ部34を設ける。袋ナット3がパイプ継手として組み付けられた段階で、スリーブ先端11b側に装着のロックリング2からスリーブ奥端11aまでの袋ナット3の筒内径は一定で、矯正部材4の外径D4よりも僅かに大きく設定する。符号37は透孔を示し、パイプ継手に差し込まれる接続用パイプ5が所定位置まで差し込まれているかどうかを確認する覗き孔になっている。
【0026】
また、本パイプ継手の構成部品でないが、これに使用される接続用パイプ5について述べる。接続用パイプ5は、合成樹脂製の樹脂管だけでなく、合成樹脂と金属との複合品も適用できる。具体的には、機械的強度に優れたアルミニウム等の金属を芯材とし、内外層に耐熱性に優れた架橋ポリエチレンで構成された金属複合架橋ポリエチレン管などである。これらの接続用パイプ5も、外層に樹脂層が存在し、スリーブ11に導入され外嵌する接続用パイプ5の内周面53に、ロックリング2の爪22が弾性的に食い込むようにして、樹脂管と同様、本発明の作用,効果が得られるからである。図中、符号50はパイプ孔、符号51はパイプ本体、符号52はパイプ外周面を示す。
【0027】
次に、図1〜図9の前記構成部品からなる本パイプ継手の一使用要領及び作用について説明する。まず、継手本体1のスリーブ11に設けた環状溝11cに第一,第二Oリング9を装着し、またスリーブ奥端11a側の周回溝11eにロックリング2を装着する。次いで、スリーブ11に矯正部材4を嵌め、該スリーブに遊嵌する。続いて、該矯正部材の傾斜部41を第一Oリング9側へ寄せた後、スリーブ先端11b側の周回溝11eにロックリング2を装着する。しかる後、袋ナット3の雌ねじ部34を継手本体1の外周に設けた前記雄ねじ部13aに螺着する。これで、本パイプ継手が完成する。
【0028】
このパイプ継手は、接続用パイプ5を袋ナット3の開口部30を通じてスリーブ11に差し込むだけで、パイプ5が該パイプ継手に接続一体化される。しかも、パイプ5はパイプ端面55を円形に変形したり、パイプ端面55の内周面を削って内面取りを施したりせず、必要長さにカットされたままのパイプ5であっても、スリーブ11へ円滑に差し込むことができる。
詳しくは、接続用パイプ5を開口部30から挿入すると、パイプ5はスリーブに導入されて、該スリーブに外側から嵌る。パイプ5の切り口端面55がカッター等によって楕円形に扁平化してもテーパ11dによって矯正され、円形に補修される。そして、パイプ先端54がロックリング2を乗り越える(図4)。ロックリング2に爪22を形成するが、スリーブ11に差し込む段階では、スリーブにパイプ5を差し込む方向がロックリング2を深溝部11e0へ押し込む方向であり、且つロックリング2の円弧形前面部分21をスリーブ先端11b側に配して周回溝11eに装着されているので、パイプ5はここを滑るようにしてスリーブ奥端11aへと向かう。パイプ先端54が矯正部材4に達すると、パイプ端面55が矯正部材4の端面47に当接してこれを押す。弾性変形可能な矯正部材4は、その端面47がパイプ端面55に順応変形し当接する。パイプ5からの押圧を受けて、図4のごとく矯正部材4の傾斜部41がOリング9をなでるようにして押圧変形させていく。弾性変形可能な矯正部材4は、袋ナット3の筒内壁31に規制されているので、半径外方向へ拡がることなくOリング9を押圧する。該Oリングは、矯正部材4からの押圧を受けて、断面円形から断面が楕円化する。図中、符号ASはパイプ5からの押圧を受けてOリング9を押す傾斜部41の圧接部分を示す。パイプ5の奥端11a側への押圧進行に伴い、傾斜部41が第一Oリング9を滑るようにして該Oリングを図3から図4の状態へと弾性変形させて押し潰し、これを乗り越えていく。さらに図5で詳しく説明すると、パイプ5からスリーブ奥端11a方向へ加えられる力Fの分力F1が働いて、Oリング9を弾性変形させて環状溝11cに沈めるようにして、傾斜部41が前進(紙面右方向)する。かくして、いままでパイプ内面の内面取り59をしなければ、パイプ内端面551がOリング9に突き当たり、シール機能を損なう形91に変形させ(図13)、場合によっては、収まっていた環状溝11cからパッキン9を押し出してしまうような不具合を解消する。矯正部材4がOリング9を文字通り矯正して環状溝11cに押しとどめる。スリーブ奥端側に位置する第二Oリング9においても、第一Oリング9と同様に弾性変形させて押し潰し、該Oリングを乗り越えていく。さらにいえば、パッキン9が傾斜部41を係止した図3の実線位置にあって、大径部43は第一Oリング9をカバーし、さらに第二Oリング9の頂部までカバーする長さを有している。そのため、第一,第二Oリング9が何らかの原因で環状溝11cから浮き立つのも抑えることが可能で、シール機能を損なうあらゆる変形が確実に防止される。
【0029】
その後、パイプ5はスリーブ奥端11a側のロックリング2を、前記スリーブ先端側のロックリング2と同じく、滑るように通過していく。そうして、パイプ先端が図2のごとく矯正部材4を介してスリーブの奥端11aへ到達する。この時点になると、弾性変形させて環状溝11cに沈められていたOリング9は、その弾性復元力でパイプ内面53に密着してシールする(図2)。また、ロックリング2がパイプ5を継手本体1に一体化させる。スリーブ11に外嵌されたパイプ5を引き抜こうとすれば、ロックリング2が深溝部11e0から勾配溝部11e1を上ってその割りリング外径を拡大し、爪22がパイプ内面に一層食い込むこととなり、パイプ5のパイプ継手への接続一体化がより強力になる。かくのごとくして、パイプ5の本パイプ継手へのワンタッチ接続がなされる。
【0030】
また、パイプ5が斜めカットされるケースにあっても、斜めカットされたパイプ5をそのままスリーブ11に差し込むことができる。まず、パイプ先端54がロックリング2を乗り越える。パイプ先端54が矯正部材4に達すると、パイプ端面55が矯正部材4に突き当たり、続いて、模式的に描けば図6のように、該パイプが弾性変形可能な該矯正部材4を弾性変形させてこれに当接にし、押す格好になる。矯正部材4は弾性変形しても、その外径は袋ナット3の規制を受けて大きくならない。従って、スリーブ奥端11aへと向かうパイプ5の押圧力で、図6でいえばパイプ先端54が突き出る上側に位置する傾斜部41がまずOリング9を滑るようにして、弾性変形で押し潰し、該Oリングを傾斜部41,小径部42が乗り越えていく。遅れて、図7のごとくパイプ端面55の下側に位置する傾斜部41がOリング9を滑るようにして、弾性変形で押し潰し、これを傾斜部41,小径部42が乗り越えていく。後は、パイプ端面55をパイプ5に対し直角にカットした前記パイプ5のパイプ継手への接続と同様の作用を経て接続が完了する。斜めカットされたパイプ5の本パイプ継手へのワンタッチ接続が達成される。
【0031】
このように構成したパイプ継手は、いままでのようにパイプ面取り機を用いなくても、必要長さにカットしたパイプ5をそのままスリーブ11に差し込むことができる。パイプ5の内面取りを施さなくても、パイプ5をスリーブ11に差し込むと、パイプ先端面55が矯正部材4に当接して、両者が連結したような格好になり、該矯正部材4の傾斜部41が内面取りの役割を担う。パイプ端面54がOリング9に直接突き当たるのでなく、該Oリングには矯正部材4の傾斜部41が当接する。パイプ5から矯正部材4へスリーブ軸方向に押圧力Fが加えられるが、Oリング9に接する傾斜部41にて、該押圧力の分力F1がOリング9を弾性変形で環状溝11c内へ押し沈めるので、傾斜部41が該Oリングを容易に乗り越える。該傾斜部41に続く小径部42、パイプ5も該Oリングを容易に通過することができる。その後、図2のようにパイプ先端54が矯正部材4を介してスリーブの奥端11aに達すれば、環状溝11cへ押し沈められたOリング9は弾性復元力によってパイプ内周面に密着してシールする。と同時に、周回溝11eに装着されたロックリング2の爪22がスリーブ11に外嵌するパイプ5の内周面に食い込んでパイプ5を接続一体化する。パイプ5を引き抜こうとすれば、ロックリング2が深溝部11e0から勾配溝部11e1を上ってその径を拡大し、爪22がパイプ内面により深く食い込むので、パイプ5のパイプ継手への接続一体化が一段と強化される。本パイプ継手へのパイプ5のワンタッチ接続が円滑且つ確実になされる。
また、パイプカッターでパイプ5を切断した際、パイプ端面55のパイプ径d5が楕円形に扁平化しても、スリーブ11の先端部分にテーパ11dを設けるので、スリーブ11へパイプ5を差込みさえすれば、パイプ5の差込み進行と共にパイプ5を円形へと矯正できる。
パイプ面取り機を購入するコスト増、またこれを施工現場に持参し、さらに施工前に内面取り及び真円加工等の前加工をしなければならなかった作業等の問題を解消する。
【0032】
さらに、端面55が斜めカットされたパイプ5のパイプ継手への接続は、従来、面取り機を使用しても困難であったが、本パイプ継手を用いれば、パイプ5の斜めカット端面55に矯正部材4が弾性変形で追従して、難なく接続一体化できる。斜めカットされたパイプ5がスリーブ11に差し込まれて矯正部材4に当たると、パイプ5を差し込む押圧が弾性体からなる矯正部材4を弾性変化させる。斜めカットされたパイプ先端面55の形状に合わせて小径部42の端面47が弾性変形する。スリーブ11に外嵌する斜めカットされたパイプ5からの押圧を受けて、例えば図6でいえば、まず上方側の傾斜部41が第一Oリング9を押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端11a側へと移動する。遅れて、図7のごとく、下方側の傾斜部41が第一Oリング9を押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブ11の奥端11aへと移動する。スリーブ奥端側の第二Oリング9、スリーブ奥端側のロックリング2に対しても同様の動きをして、斜めカットパイプ5をスリーブ11へ円滑に外嵌できる。矯正部材4は弾性変形するものの、その硬度を前記パッキン9の硬度と等しいか又はこれよりも硬くしているので、矯正部材4でOリング9を確実に押圧変形させることができる。ここで、矯正部材4の弾性変形で該矯正部材の筒外周面45が広がろうとしても、円筒状袋ナット3の規制を受ける。かくして、袋ナット3の筒内壁とスリーブとで造る環穴Kを矯正部材4が円滑に進むことになる。
矯正部材4は以下の更なる効果を発揮する。継手本体1に取着された袋ナット3は、少なくともスリーブ先端11b側に装着されるロックリング2からスリーブ奥端11aまで筒内径が一定であり、該矯正部材が少なくともパッキン9を装着したスリーブ11上を移動する範囲で、袋ナット3が該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有している。さらにここでは、矯正部材4のスリーブ11上の移動範囲で、該矯正部材に近接又は当接する筒内壁31を有している。従って、パイプ継手へのパイプ5の差込みで、パイプ5の差込み圧力を受けた矯正部材4は、半径外方向への拡径が袋ナット3の筒内壁31によって制限されているので、半径内方向へと向かう。該矯正部材が半径内方向に向かい延びる傾向にあるので、パッキン9を押付け、これを乗り越えるだけでなく、特許文献1のごとく「テーパ(本発明でいう傾斜部)の最小内径をパイプの基準内径以下に設定」せずとも、矯正部材に続くパイプを、うまく同伴させてスリーブ奥端側へ円滑移動できる。
さらにいえば、パイプ継手へのパイプの差込みで、矯正部材4がスリーブの奥端11a側に配したロックリング2を通過するとき、該矯正部材はゴム等の弾性変形部材からなり自ら変形するので、該ロックリングの領域も楽に通過できる長所を有する。
【0033】
加えて、スリーブ11に遊嵌される矯正部材4の配設位置よりもスリーブ11の先端側にロックリング2を装着し、且つ該ロックリングの外径を小径部42の筒内径d42よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ11への移動を該ロックリングが係止する構成であるので(図3)、継手本体1にOリング9,ロックリング2,矯正部材4,袋ナット3を組付けたパイプ継手の一体組付け品にできる。保管が楽で且つ各部品を別々に保管して、一パーツを失ってしまうような事態も起こらない。矯正部材4がスリーブ11から抜け落ちないので取扱いなども頗る便利になる。
また、図1〜図7や図10のようなパイプ継手は、その使用前の状態で、矯正部材4のスリーブ奥端11a側への動きにパッキン9が当たって係止するが、パッキン9そのものに押圧負荷はかかっていないので、パッキンに歪みやへたりが生じることなく、本パイプ継手が未使用状態であれば長期保管できる長所を有する。
【0034】
また、図2のごとくパイプ先端54が矯正部材4を介してスリーブ11の奥端11aへ達して、パイプ継手に接続一体化されるパイプ5は、矯正部材4を介して継手本体1の張出部12に当接するので、パイプ5に金属複合管を使用しても電蝕の問題は起こらない。金属複合管にはアルミニウムが通常用いられ、継手本体1には通常真鍮が使用されることから、両者が接すれば電蝕の問題が生じる。そのため、金属複合管を用いる場合は、これまで非電導性のゴム等のスペーサを介在させて両者の接触を回避する対策を講じている。本発明では矯正部材4に電気特性に優れる非電導性のゴムや熱可塑性エラストマー等が用いられるので、スペーサを別途準備するコストやこの取付け作業を削減できる更なるメリットもある。
このように、本パイプ継手は数々の優れた効果を発揮する。
【0035】
尚、本発明においては、前記実施例に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。継手本体1,ロックリング2,袋ナット3,矯正部材4,パッキン9等の形状,大きさ,個数などは用途に応じて適宜選択できる。例えば、図12に示すパイプ継手とすることができる。同図の継手本体1は連結部15をナット部材16とする。該ナット部材は主部10から取り外し可能にし、主部10に設けた外鍔10aにナット部材16の内鍔16aを係止させて用いられる。該ナット部材の雌ねじ部16bを螺合部にして、他の継手に接続される連結部15としている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のパイプ継手の一形態で、その上段を断面表示したパイプ継手の正面図である。
【図2】図1のパイプ継手に接続用パイプが差し込まれて接続一体化した説明断面図である。
【図3】図1の矯正部材周りの断面図である。
【図4】図3の状態からスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、矯正部材が該パッキンを押圧変形する様子を示す断面図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】図3の状態から斜めカットされたパイプをスリーブに差し込む時の矯正部材及びパッキンが変形する様子を示す断面図である。
【図7】図3の状態から斜めカットされたパイプをスリーブに差し込む時の矯正部材及びパッキンが変形する様子を示す断面図である。
【図8】矯正部材の斜視図で、(イ)がスリーブ奥端側から見た斜視図、(ロ)がスリーブ先端側から見た斜視図である。
【図9】(イ)がロックリングの平面図、(ロ)が(イ)のIV-IV線矢視図である。
【図10】図1〜図7とは異なる他態様の矯正部材を用いた図3に対応する断面図である。
【図11】図10の矯正部材がスリーブに差し込むパイプからの押圧を受けて、パッキンを押圧変形する様子を示す断面図である。
【図12】図1〜図11とは別態様品で、上段を断面表示したパイプ継手の正面図である。
【図13】従来技術の説明断面図である。
【図14】従来技術の説明断面図である。
【図15】従来技術の説明断面図である。
【図16】従来技術の説明断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 継手本体
10 主部
11 スリーブ
11a スリーブの奥端
11b スリーブの先端
11c 環状溝
11d テーパ
11e 周回溝
2 ロックリング
3 袋ナット
30 開口部
4 矯正部材
41 傾斜部
42 小径部
5 接続用パイプ(パイプ)
9 パッキン(Oリング)
d42 スリーブの先端側に配される矯正部材の筒内径(小径部内径)
d43 スリーブの奥端側に配される矯正部材の筒内径(大径部内径)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主部に筒状スリーブを突出形成した継手本体と、該スリーブの外周面に設けた環状溝に装着され、該スリーブに外嵌する接続用パイプに密着してシールするパッキンと、該パイプの外嵌に先立ち該スリーブに遊嵌する筒体であって、その筒体の内径を前記パッキンの外径よりも小さくした小径部と該小径部からスリーブの奥端側に向け次第に拡径する傾斜部を設けて、スリーブの先端側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブの奥端側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材と、該矯正部材と共に前記スリーブを覆って前記継手本体に取着される筒状袋ナットと、を具備し、且つ前記矯正部材が弾性変形可能にして、その硬度を前記パッキンの硬度と等しいか又はこれよりも硬くする一方、該矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、前記袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有して、
該袋ナットに設けた開口部から挿入し前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記矯正部材がスリーブの奥端側へ移動するようにしたことを特徴とするパイプ継手。
【請求項2】
矯正部材のスリーブ奥端側への動きに前記パッキンが前記傾斜部で係止して、該パッキンよりもスリーブの先端側に前記小径部が配設されるようにして、前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記パッキンに係止されていた傾斜部が該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端側へ移動する請求項1記載のパイプ継手。
【請求項3】
前記スリーブの先端部分に、その外径が先端に向けて次第に減少するテーパを設けた請求項1又は2に記載のパイプ継手。
【請求項4】
前記スリーブに遊嵌される前記矯正部材の配設位置よりもスリーブの先端側に位置するスリーブの外周面に周回溝を設け、該周回溝に装着されるロックリングをさらに具備し、該ロックリングの外径を前記小径部の筒内径よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ先端への移動を該ロックリングが係止するようにした請求項1乃至3のいずれか一項に記載のパイプ継手。
【請求項1】
主部に筒状スリーブを突出形成した継手本体と、該スリーブの外周面に設けた環状溝に装着され、該スリーブに外嵌する接続用パイプに密着してシールするパッキンと、該パイプの外嵌に先立ち該スリーブに遊嵌する筒体であって、その筒体の内径を前記パッキンの外径よりも小さくした小径部と該小径部からスリーブの奥端側に向け次第に拡径する傾斜部を設けて、スリーブの先端側に配される筒内径よりも該傾斜部を介してスリーブの奥端側に配される筒内径の方を大きくした矯正部材と、該矯正部材と共に前記スリーブを覆って前記継手本体に取着される筒状袋ナットと、を具備し、且つ前記矯正部材が弾性変形可能にして、その硬度を前記パッキンの硬度と等しいか又はこれよりも硬くする一方、該矯正部材が少なくとも前記パッキンを装着した前記スリーブ上を移動する範囲で、前記袋ナットが該矯正部材に近接又は当接する筒内壁を有して、
該袋ナットに設けた開口部から挿入し前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記矯正部材がスリーブの奥端側へ移動するようにしたことを特徴とするパイプ継手。
【請求項2】
矯正部材のスリーブ奥端側への動きに前記パッキンが前記傾斜部で係止して、該パッキンよりもスリーブの先端側に前記小径部が配設されるようにして、前記スリーブに外嵌するパイプからの押圧を受けて、前記パッキンに係止されていた傾斜部が該パッキンを押圧変形させ、これを乗り越え、スリーブの奥端側へ移動する請求項1記載のパイプ継手。
【請求項3】
前記スリーブの先端部分に、その外径が先端に向けて次第に減少するテーパを設けた請求項1又は2に記載のパイプ継手。
【請求項4】
前記スリーブに遊嵌される前記矯正部材の配設位置よりもスリーブの先端側に位置するスリーブの外周面に周回溝を設け、該周回溝に装着されるロックリングをさらに具備し、該ロックリングの外径を前記小径部の筒内径よりも大きくして、該矯正部材のスリーブ先端への移動を該ロックリングが係止するようにした請求項1乃至3のいずれか一項に記載のパイプ継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−101477(P2010−101477A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276183(P2008−276183)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(508321823)株式会社イノアック住環境 (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(508321823)株式会社イノアック住環境 (22)
【Fターム(参考)】
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