説明

パイル編地

【課題】パイル面において淡く朧調をなす深みのある柄模様を現出させて、美麗で雅趣に富んだ外観を呈するパイル編地を提供する。
【解決手段】ポリエステル系繊維の糸を主要構成糸とする基布の片面に、前記基布の主要構成糸とは異種のパイル糸によるパイルを形成したパイル編地で、生地目付が200g/m以下のものにおいて、基布1のパイル側とは反対側の裏面1bに、熱移行性染料を用いる転写捺染法により所定の色柄を呈する染色を施し、この染色柄5を基布及びパイルを透かして前記パイル側表面6に朧調をなす柄模様として現出せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面にパイルが形成されたパイル編地、特にはパイル側表面において朧調の特異な柄模様を現出させたパイル編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばタオルケットや肌ふとん、シーツ等の寝具類その他に使用するパイル編地として、経編編成によりパイル糸を基布となる素地部に編み込んで、その片面にパイルを形成した所謂片面パイル編地が知られている。
【0003】
かかるパイル編地において、パイル側表面に柄模様を現出させる方法として、下記の特許文献1に開示のように、経編編成によりパイルの先端部が基布(素地)の裏面側に突出するように編成した後、この基布の表面側に捺染を施し、その後、基布の表面側へ前記パイルを引き出し起毛することにより、基部が捺染されているとともに、先端部が捺染されていないパイルを形成し、パイル面に直接捺染が施されているものに比して、柄模様の輪郭を明確にして、しかも捺染が施されていないパイル先端部によってぼかし効果のある柄模様を表現するようにしたパイル編地が提案されている。
【0004】
しかしながら、この提案の場合は、その製造上、ある程度以上のパイル長を必要とし、短いパイルやループパイルでは綺麗なぼかし効果を得ることができない上、ぼかし効果が得られるパイル長を有するものでも、パイルの毛割れや倒れ状態によっては部分的に色調に濃淡が生じたりして斑状になり、深みのある綺麗な朧調の柄模様にはならないものである。
【0005】
また、下記の特許文献2のように、回転による遠心力を利用して染色液や脱色液等の浸透をコントロールすることにより、立毛の少なくとも一部を着色又は脱色して基布に対して距離が変化する面に沿って色彩を変化させるようにしたパイル編地も提案されている。
【0006】
この場合、その製造上における染色加工が面倒で手数がかかり、コスト高なものとなる上、やはり外観的な深みに欠けるものである。
【特許文献1】特公平3−46576号公報
【特許文献2】特公昭61−36108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなしたものであり、パイル側表面において均一で綺麗な朧調をなす柄模様を現出させて、美麗で雅趣に富んだ外観を呈するパイル編地を容易にしてコスト安価に提供できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する本発明は、ポリエステル系繊維の糸を主要構成糸とする基布の片面に、前記基布の主要構成糸とは異種のパイル糸によるパイルが形成されてなるパイル編地であって、生地目付が200g/m以下のものにおいて、前記基布のパイル側とは反対側の裏面に、熱移行性染料を用いる転写捺染法により染色が施され、この染色柄が基布及びパイルを透かして前記パイル側表面に朧調をなす柄模様として現出せしめられてなることを特徴とする。
【0009】
このパイル編地によれば、生地目付が200g/m以下のものであって、基布自体の厚みや密度及びパイル密度が適度に抑えられていて、裏面の転写捺染法による染色柄が前記基布及びパイルを透かして前記パイル側表面に朧調に淡く現出せしめられている。そのため、パイル側表面における前記朧調の柄模様によりきわめて深みの有る雅趣に富んだ外観を呈するものとなる。
【0010】
しかも、前記パイル側とは反対側の裏面に対する染色が、特に熱移行性染料による転写捺染法によるものであるので、前記染料が前記基布のパイル側面には殆ど浸透せず、またパイル糸が染まることもない。そのため、前記基布裏面の染色柄が基布及びパイルを透かしてパイル側表面に淡く朧調に現出するものであり、また仮に、パイルに毛割りや倒れが生じても、パイル側表面における朧調の柄模様の状態に乱れが生じたり、濃淡が生じて斑状になったりすることがなく、どのような使用状態においても、全体として均一で綺麗な朧調を呈する柄模様となる。
【0011】
前記の生地目付が200g/mより大きくなると、基布の厚みが大きくなるか、あるいは基布自体の密度やパイル密度が高くなって、前記裏面の転写捺染による染色柄がパイル側表面に現出し難くなり、柄模様を淡く朧調に現出させる効果が得られなくなる。なお、生地目付は200g/m以下のものであればよいが、前記生地目付が小さくなるほど、パイル編地としての保形強度が低下し実用性に乏しいものとなるので、実施上は前記生地目付を70g/m以上で、200g/m以下の範囲とするのが好ましい。
【0012】
また、前記のパイル編地において、前記パイル長は2〜6mmのものとするのが好ましい。すなわち、前記パイル長が長くなるほど、前記基布裏面の染色柄を視覚し難くなり、染色柄を淡く朧調の柄模様として現出させる効果が得られなくなる。また、前記パイル長が短くなりすぎると、パイルを形成したことによる効果が得られなくなる。
【0013】
特に、転写捺染による裏面の染色柄をパイル側表面に淡く朧調に現出させる効果、及びパイル編地としての実用性の点から、前記生地目付が120〜160g/m、パイル長が2〜4mmであるものとするのが好ましい。
【0014】
前記パイル編地は、どのような編成形態のものであっても良いが、実施上は、経編編成により、編方向に連続して編目形成する主要構成糸としての編糸と、該編糸に対して横振り挿入される挿入糸とにより前記基布が編成されるとともに、該基布にパイル糸が編み込まれて片面にパイルが形成されてなるパイル編地であって、前記編糸には、ポリエステル繊維の糸が使用され、また、前記横振り挿入糸にはポリエステル、ナイロン、綿から選ばれた1種の糸、又はこれらの2種以上の混紡糸が使用され、さらに、前記パイル糸には熱移行性染料では染着しない繊維の糸が使用されてなる。前記パイル糸としては、当触感や風合いのよい綿又はセルロース系繊維の糸がより好ましく使用される。これにより、基布裏面に対して転写捺染による染色を施すことができる。
【0015】
なお、前記転写捺染法は、熱移行性染料を使用して、文字や絵柄等の画像を、コート紙、クラフト紙等の各種の転写シート上にプリント(塗布)し、このプリントされた転写シートのプリント画像を、染色対象の布帛である前記パイル編地の基布の裏面に対して、熱圧により、つまり所要の熱(200℃程度)を加えて圧着することにより転写するものである。
【0016】
この転写捺染法による染色に使用する熱移行性染料は、分散染料の内で昇華性の良い染料で、特に前記基布の主要構成糸である前記ポリエステル繊維の編糸に対しては染着するが、前記パイル糸、特には綿やセルロース系繊維に対しては染着しない染料よりなる。
【発明の効果】
【0017】
上記したように本発明のパイル編地によれば、非パイル面である基布裏面に施した転写捺染法による染色柄が、基布やパイルを透かしてパイル側表面に淡く朧調をなす柄模様として現出し、しかも手で押さえたりして、パイルの毛割りや倒れが生じても、前記朧調の柄模様に濃淡が生じて斑状になったりすることがなく、全体として均一な朧調を確保でき、また、パイル長が比較的短いものやループパイルの場合にも、全体に均一な朧調の柄模様を表現できることになる。そのため、従来にない雅趣に富んだ深みのある意匠的効果を発揮できるものとなる。しかも、転写捺染法により染色できるため、染色加工に要する手数を軽減でき、容易にかつコスト安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明にかかるパイル編地の斜視図を示し、図2は同一部の拡大略示断面図を示し、図3〜図5はパイル編地の転写捺染法による染色加工の説明図である。
【0020】
図において、Aは本発明にかかるパイル編地を示し、ポリエステル系繊維の糸を主要構成糸とする基布1の片面1aに、前記基布1の主要構成糸とは異種のパイル糸3によるパイル3aが形成された、所謂片面パイル編地よりなる。図中の1bは前記基布1の裏面を示している。このパイル編地Aは、好ましくはラッシェル編機やパイル経編機により経編編成されてなるもので、編方向に連続して編目形成、例えば鎖編される主要構成糸としての編糸Y1と、該編糸Y1に対し複数の編目列に渡って横振り挿入される横振り挿入糸Y2とにより前記基布1が編成されるとともに、該基布1の前記編糸Y1による編目4に前記パイル糸3が編み込まれて前記片面1aにおいてパイル3aが形成されている。
【0021】
前記の基布1の編組織は、基布1の片面1aにパイル3aを形成できるものであれば、どのような編組織でもよい。また、経編編成によりパイル3aを形成する手法としては、編成と同時に、前記片面1aにパイル3aを形成する場合のほか、パイル3aの先端部を裏面1bの側に突出させるように編成した後、ブラッシングロールにより前記パイル3aを前記片面1aに引き出すようにして形成してもよい。これらのパイル3aは、図のようにループパイルのままで使用に供するものであっても、またループをカットしたカットパイルであっても、さらに起毛し剪毛したパイルであってもよい。さらに、前後2列の編針列を備えるダブルラッシェル機により、前後の編針列でそれぞれ前後両基布を編成するとともに、前後両基布をパイル糸により連結するように編成し、編成後に、前記両基布間の中間で前記パイル糸をカットすることにより得られるカットパイル編地としたものであってもよい。
【0022】
いずれにしても、本発明における前記パイル編地Aは、その生地目付が200g/m以下、好ましくは70g/m以上で、200g/m以下の範囲のものにおいて、前記基布1におけるパイル側とは反対側の裏面1bに、熱移行性染料を使用する転写捺染法により所定の絵柄の染色が施され、この染色柄5が前記基布1及びパイル3aを透かして前記パイル側表面6に朧調をなす柄模様として現出せしめられている。
【0023】
前記パイル編地Aの編成において、生地目付を前記範囲のものにするために、各構成糸、すなわち基布1の主要構成糸である前記編糸Y1、及び横振り挿入糸Y2、並びにパイル糸Y3の糸使いを、下記のようにして編成するのが望ましい。
【0024】
前記主要構成糸としての前記編糸Y1には、主として、例えば75d〜300d(デニール)、より好ましく100d〜300dのポリエステル繊維のマルチフィラメント糸を使用する。
【0025】
横振り挿入糸Y2としては、75d〜300d(デニール)、より好ましくは100d〜300dのポリエステル又はナイロン繊維のマルチフィラメント糸、あるいはポリエステル、ナイロン及び綿から選ばれたいずれか1種の糸、又はこれらの2種以上の混紡糸で、単糸の場合は10〜40番手(綿番手)の糸を、双糸の場合は20〜80番手の糸を使用する。
【0026】
また、パイル糸3としては、前記基布1に対して転写捺染法により染色を施すための熱移行性染料に対し染着されない繊維の糸で、例えば綿又はセルロース系繊維の糸が好適に使用される。このパイル糸としては、単糸の場合は10〜40番手(綿番手)の糸、双糸の場合は20〜80番手の糸が好ましく用いられる。より好ましくは、綿又はセルロース系繊維の単糸で、16〜30番手の糸が使用される。また、このパイル糸によるパイル3aのパイル長は2〜6mmの範囲が実施上好ましい。より好ましくは、パイル長が2〜4mmであるものである。
【0027】
上記のようなパイル編地Aを得るための製造方法について説明する。
【0028】
パイル編地Aの編成は、例えばシングルラッシェル機によるパイル組織の編成、あるいは編針とは別にポイント針を備えるパイル経編機により、従来同様に編成する。例えば、主要構成糸として編糸Y1により編方向に連続して編目形成しながら、横振り挿入糸Y2を前記編糸Y1による複数の編目列に対し横振り挿入させるようにして、基布1を編成するとともに、これと同時に、パイル糸3を例えば1コースおきにパイルを形成する組織で編成して、基布1の片面1aにパイル3aを形成するように編成する。このとき、前記基布1の編糸Y1および横振り挿入糸Y2、並びにパイル糸3については、それぞれ上述した範囲の糸使いにして、編機ゲージ22〜28、好ましくは24ゲージで編成することにより、生地目付が200g/m以下、好ましくは70g/m以上で200g/m以下の範囲のもの、特に好ましくは120〜160g/mで、パイル長が2〜6mmのパイル編地を得るものとする。
【0029】
次に、前記パイル編地Aに対し、前記基布1の裏面1bに次のように転写捺染法により染色を施す。
【0030】
この際、前記のパイル編地の基布の主要構成糸である編糸に使用したポリエステル系繊維の糸に対しては好染着性で、かつ前記の綿もしくはセルロース系繊維の糸よりなるパイル糸に対しては非染着性の熱移行性染料として、分散染料の内で昇華性の良い染料〔例えば、ダイスタージャパン社製の商品名:ダイアニックス(登録商標)〕を用い、先ず、図3のように、転写シート11上に所望の絵柄や文字等の色柄をスクリーン捺染等の方法によりプリントする。12はそのプリント部を示す。そして、図4のように、前記転写シート11の前記プリント部12の上に前記パイル編地Aの基布1の裏面1b側を対接させるように重ね合わせ、この状態で、例えば200℃程度の熱を加えながらプレス装置により数十秒間押圧することにより、つまり熱圧することにより、前記転写シート11上の前記プリント部12の染料を熱により軟化させて基布1側に熱移行させ、該染料による色柄をそのまま基布1の裏面1bに転写する。これにより、図5のように、転写された染料が基布1をパイル3a側つまり表面側にまで浸透することなく前記裏面1bに染着して、所定の色柄の染色が施されることになる。
【0031】
こうして転写捺染された裏面側の染色柄5は、染料自体はパイル3a側にまで浸透していないものの、パイル編地A自体の目付が200g/m以下で、かつパイル長が2〜6mmとされ、生地密度やパイル密度が抑えられているため、基布1の繊維の隙間等を透かして前記染色柄5が全面に渡ってパイル3a側に淡く朧調に現出するとともに、さらにパイル3aの隙間を透かしてパイル側表面6に現出し、深みのある淡い朧調の柄模様として視覚されることになる。
【0032】
このため、前記のようにして製造されたパイル編地Aは、そのパイル面には捺染が施されておらず無色であるにも拘わらず、図1のように裏面側の転写捺染による染色柄5が基布1及びパイル3aを透かしてパイル側表面6に現出しており、従来にない深みのある淡い朧調をなす柄模様を表現できる。また、前記朧調の柄模様は、仮にパイル3aに押圧による毛割れや倒れが生じても、朧調の淡い色柄に濃淡が生じたり斑状になったりすることがなく、常に均一な色調の外観を呈するものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、タオルケットや肌ふとん、シーツ等の寝具類その他の従来寄り片面パイル編地を使用している各種の分野に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例のパイル編地を例示する略示斜視図である。
【図2】同上のパイル編地の一部の拡大略示断面図である。
【図3】パイル編地に対する転写捺染法による染色加工状態の説明図である。
【図4】パイル編地に対する転写捺染法による染色加工状態の説明図である。
【図5】パイル編地に対する転写捺染法による染色加工状態の説明図である。
【符号の説明】
【0035】
A…パイル編地、Y1…編糸、Y2…挿入糸、1…基布、1a…片面、1b…裏面、3…パイル糸、3a…パイル、4…編目、5…染色柄、6…パイル側表面、11…転写シート、12…プリント部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維の糸を主要構成糸とする基布の片面に、前記基布の主要構成糸とは異種のパイル糸によるパイルが形成されてなるパイル編地であって、
生地目付が200g/m以下のものにおいて、前記基布のパイル側とは反対側の裏面に、熱移行性染料を用いる転写捺染法により染色が施され、この染色柄が基布及びパイルを透かして前記パイル側表面に朧調をなす柄模様として現出せしめられてなることを特徴とするパイル編地。
【請求項2】
前記パイルのパイル長が2〜6mmである請求項1に記載のパイル編地。
【請求項3】
生地目付が120〜160g/m、パイル長が2〜4mmである請求項1に記載のパイル編地。
【請求項4】
経編編成により、編方向に実質的に連続して編目形成する主要構成糸としての編糸と、該編糸に対して横振り挿入される挿入糸とにより前記基布が編成されるとともに、該基布にパイル糸が編み込まれて片面にパイルが形成されてなるパイル編地であって、前記編糸にはポリエステル系繊維の糸が使用され、また、前記横振り挿入糸にはポリエステル、ナイロン、綿から選ばれた1種の糸又はこれらの2種以上の混紡糸が使用され、さらに、前記パイル糸には熱移行性染料では染着しない繊維の糸が使用されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のパイル編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−31902(P2007−31902A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219541(P2005−219541)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000206772)大津毛織株式会社 (1)
【Fターム(参考)】