説明

パエシロマイセスバリオッティの検出方法

【課題】パエシロマイセスバリオッティ(Paecilomyces variotii)を特異的、簡便かつ迅速に検出できる方法を提供する。
【解決手段】下記の(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセスバリオッティ(Paecilomyces variotii)の同定を行うパエシロマイセスバリオッティ(Paecilomyces variotii)の検出方法。(a)β−チューブリン遺伝子の特定の部分塩基配列又はその相補配列。(b)特定の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセスバリオッティの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)は自然界に広く分布する不完全真菌である。パエシロマイセス バリオッティは生活環の中で厚膜胞子と呼ばれる二重の細胞壁からなる無性胞子を形成する。パエシロマイセス バリオッティの厚膜胞子はストレス耐性が極めて高いことが知られており、一般的な真菌の熱及び薬剤での殺菌条件でも生存・増殖し、カビの発生原因となることが知られている。従って、パエシロマイセス バリオッティは食品業界やトイレタリー業界において危害菌として重要視されている。このため、防腐・防黴体制の確立において、パエシロマイセス バリオッティの検出・同定が極めて重要であると認識されている。
【0003】
パエシロマイセス バリオッティの検出及び同定法は、培養による形態学的な種分類が主である。この方法は形態学的な特徴が発生するまで培養を続ける必要があるため、最短でも14日以上の長期間を必要とする。また、形態学的な同定には極めて高い専門性を必要とするため、判定者によって同定結果が異なる危険性が否定できず同定結果の信頼性に問題があった。従って、迅速性及び信頼性の問題を解決した検出・同定方法の確立が求められている。
【0004】
菌類の迅速かつ信頼性の高い検出方法としては、遺伝子の特定の塩基配列を標的とした増幅法(たとえばPCR法やLAMP法)が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、パエシロマイセス バリオッティに特異的な遺伝子領域が解明されていない。従って、パエシロマイセス バリオッティを特異的かつ迅速に検出することが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11−505728号公報
【特許文献2】特開2006−61152号公報
【特許文献3】特開2006−304763号公報
【特許文献4】特開2007−174903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食品業界やトイレタリー業界などにおいて危害菌とされているパエシロマイセス バリオッティを特異的、簡便かつ迅速に検出できる方法を提供することを課題とする。また、本発明の課題は、この方法に適用可能なDNA、プライマーセット、オリゴヌクレオチド及び検出キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のようにパエシロマイセス バリオッティの検出を困難にしている一因として、従来の公知のプライマーを用いたPCR法では擬陽性や擬陰性の結果が出る点である。そしてこれは、パエシロマイセス バリオッティの遺伝子のデータベースが現在のところ脆弱であり、パエシロマイセス バリオッティの種レベルで保存されている遺伝子領域が正確にわかっていないために、パエシロマイセス バリオッティを特異的かつ迅速に検出・識別するための高感度のプライマーの設計等が困難となっていることが原因であると考えた。
【0008】
このような課題に鑑み、本発明者等は、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出・識別しうる新たなDNA領域を探索すべく、鋭意検討を行った。その結果、パエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子中に、他の菌類のものとは明確に区別しうる、特異的な塩基配列を有する領域(以下、「可変領域」ともいう)が存在することを見出した。また、この可変領域をターゲットとすることで、上記パエシロマイセス バリオッティを特異的かつ迅速に検出できることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)の同定を行うことを特徴とするパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)の検出方法に関する。
(a)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(b)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセス バリオッティの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【0010】
また、本発明は、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)の検出に用いるための、前記(a)又は(b)の塩基配列で表されるDNAに関する。
【0011】
また、本発明は、前記(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチドに関する。
【0012】
また、本発明は、下記の(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対、下記の(e)及び(f)のオリゴヌクレオチド対、下記の(e)及び(g)のオリゴヌクレオチド対、又は下記の(e)、(f)及び(g)のオリゴヌクレオチド群からなる群より選ばれる少なくとも1対又は1群で示されたパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチド対又はオリゴヌクレオチド群に関する。
(c)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e)配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(g)配列番号9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0013】
また、本発明は、前記オリゴヌクレオチド対又はオリゴヌクレオチド群を含むパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用キットに関する。
【0014】
また、本発明は、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号10に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号14に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号15に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセットに関する。
【0015】
また、本発明は、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号10に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセットに関する。
【0016】
また、本発明は、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号16に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号20に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセットに関する。
【0017】
また、本発明は、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号16に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセットに関する。
【0018】
さらに、本発明は、前記の、LAMP法で検出するのに用いるプライマーセットのいずれかと、
DNAポリメラーゼと、
dATP、dCTP、dGTP及びdTTPを含むdNTPと、
を含むパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出キットに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、食品業界やトイレタリー業界などにおいて危害菌とされているパエシロマイセス バリオッティを特異的、簡便かつ迅速に検出できる方法を提供することができる。また、本発明によれば、この方法に適用可能なDNA、プライマーセット、オリゴヌクレオチド及び検出キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】パエシロマイセス バリオッティIFM40913株のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列における、本発明のプライマーセット1のプライマーが認識する塩基配列の位置関係を示す図である。
【図2】パエシロマイセス バリオッティIFM40913株及びIFM40915株のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列における、本発明のプライマーセット2のプライマーが認識する塩基配列の位置関係を示す図である。
【図3】実施例1における、本発明の(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを用いたPCR産物の電気泳動図である。
【図4】実施例1における、本発明の(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを用いたPCR産物の電気泳動図である。
【図5】実施例2における、リアルタイム濁度法によるパエシロマイセス バリオッティの検出感度を示す図である。1はPaecilomyces variotii IFM40913株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、2はPaecilomyces variotii IFM40915株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、4はByssochlamys nivea IFM51244株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、5はHamigera avellanea IFM42323株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、7はTalaromyces luteus IFM53242株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示す。
【図6】実施例3における、リアルタイム濁度法によるパエシロマイセス バリオッティの検出感度を示す図である。図6(a)において、1はPaecilomyces variotii IFM40913株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、2はPaecilomyces variotii IFM40915株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、3はByssochlamys fluva IFM48421株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、7はNeosartorya ficheri IFM46945株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、8はNeosartorya spinosa IFM46967株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示す。図6(b)において、9はNeosartorya glabra IFM46949株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、10はNeosartorya hiratsukae IFM47036株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、11はAlterraria alternate IFM41348株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、12はAureobasidium pullulans IFM41409株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、14はFusarium oxysporum IFM50002株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示し、15はTrichoderma viride IFM40938株由来のゲノムDNAを用いたサンプルの検出感度を示す。
【図7】実施例4における、本発明の(e)〜(g)のオリゴヌクレオチドを用いたPCR産物の電気泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)のβ−チューブリン遺伝子の特定の部分塩基配列、すなわちパエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子配列中に存在するパエシロマイセス バリオッティに特異的な領域(可変領域)の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティの同定を行い、パエシロマイセス バリオッティを特異的に識別・検出する方法である。ここで、「可変領域」とは、β−チューブリン遺伝子中で塩基変異が蓄積しやすい領域であり、この領域の塩基配列は他の真菌との間で大きく異なる。本発明における「パエシロマイセス バリオッティ」は、糸状不完全菌類のパエシロマイセス(Paecilomyces)に属する。また、「β−チューブリン」とは微小管を構成する蛋白質であり、「β−チューブリン遺伝子」とは、β−チューブリンをコードする遺伝子である。
【0022】
本発明のパエシロマイセス バリオッティの検出方法において、下記(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティの同定を行う。
(a)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(b)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセス バリオッティの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
上記(a)又は(b)の塩基配列で表されるβ-チューブリン遺伝子の可変領域はパエシロマイセス バリオッティ固有の塩基配列であるため、他の通常の菌類のものとは明確に区別しうるものである。従って、本発明のパエシロマイセス バリオッティの検出方法によれば、パエシロマイセス バリオッティを特異的かつ迅速に検出できる。また、上記(a)又は(b)の塩基配列で表されるDNAは、パエシロマイセス バリオッティの検出に用いることができる。
【0023】
パエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を配列番号1及び2に基づき説明する。なお、配列番号1で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM40913株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示し、配列番号2で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM40915株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。また、配列番号1及び2で示されたパエシロマイセス バリオッティIFM40913株及びIFM40915株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列の一部を図2に比較して記載した。配列番号1及び2で示された塩基配列のうち、50位〜100位までの領域、及び280位〜340位までの領域は真菌間で塩基配列の保存性が特に低く、種間によって固有の塩基配列を有することを本発明者らが見出した。本発明は、これらのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列をターゲットとしたものである。
【0024】
さらに、パエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を配列番号3〜4及び22〜33に基づき説明する。
配列番号3で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティEU037073株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号4で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM50293株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号22で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティNBRC4855株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号23で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM52147株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号24で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM52145株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号25で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM51028株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号26で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM51195株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号27で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM55619株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号28で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティNBRC5479株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号29で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM51027株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号30で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティNBRC31967株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号31で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティNBRC31685株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号32で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティSUM3339株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
配列番号33で示された塩基配列は、パエシロマイセス バリオッティIFM50294株のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列を示す。
これらのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列も真菌間で塩基配列の保存性が特に低く、種間によって固有の塩基配列を有することを本発明者らが見出した。本発明は、これらのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列もターゲットとする。
【0025】
本発明の検出方法に用いるパエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列(可変領域の塩基配列)で表される核酸は、配列番号1〜4及び22〜33のいずれか記載の塩基配列又はその相補配列で表される核酸である。
配列番号1〜4及び22〜33に記載の塩基配列及びその相補配列は、それぞれ、パエシロマイセス バリオッティのIFM40913株、IFM40915株、EU037073株、IFM50293株、NBRC4855株、IFM52147株、IFM52145株、IFM51028株、IFM51195株、IFM55619株、NBRC5479株、IFM51027株、NBRC31967株、NBRC31685株、SUM3339株及びIFM50294株から単離、同定されたβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列である。これらの配列はパエシロマイセス バリオッティにおいて相同性が非常に高く、しかもパエシロマイセス バリオッティ以外の菌類とは相同性が低いため、被検体がこれらの塩基配列を有しているか否かを確認することで、パエシロマイセス バリオッティのみを特異的に識別・同定することが可能である。
また、配列番号1〜4及び22〜33に記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基か欠失、置換若しくは付加された塩基配列又はその相補配列で表される核酸を用いても、同様にパエシロマイセス バリオッティのみを特異的に識別・同定することが可能である。
(以下、配列番号1〜4及び22〜33のいずれか記載の塩基配列又はその相補配列並びに配列番号1〜4及び22〜33のいずれか記載の塩基配列若しくはその相補配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセス バリオッティの検出に使用できる塩基配列をまとめて「本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列」ともいう。)
【0026】
上記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティを同定する方法として特に制限はなく、シークエンシング法、ハイブリダイゼンション法、PCR法、LAMP法など通常用いられる遺伝子工学的手法で行うことができる。
【0027】
本発明の検出方法において、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティの同定を行うには、被検体のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を決定し、該遺伝子の塩基配列中に前記(a)又は(b)に記載の核酸の塩基配列が含まれるか否かを確認することが好ましい。すなわち、本発明の検出方法は、被検体の有するβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を解析・決定し、決定した塩基配列と本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列とを比較し、その一致又は相違に基づいてパエシロマイセス バリオッティの同定を行うものである。
塩基配列を解析・決定する方法としては特に限定されず、通常行われているRNA又はDNAシークエンシングの手法を用いることができる。
具体的には、マクサム−ギルバート法、サンガー法等の電気泳動法、質量分析法、ハイブリダイゼーション法等が挙げられる。サンガー法においては、放射線標識法、蛍光標識法等により、プライマー又は、ターミネーターを標識する方法が挙げられる。
【0028】
本発明においては、上記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティを同定し検出を行うために、本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、かつ核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得る検出用オリゴヌクレオチドを用いることができる。
本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス バリオッティの検出に使用できるものであればよい。すなわち、パエシロマイセス バリオッティの検出のための核酸プライマーや核酸プローブとして使用できるものや、ストリンジェントな条件でパエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであれば良い。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
【0029】
本発明の上記検出用オリゴヌクレオチドとしては、前記(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸中の領域であって、配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列又はその相補配列で表されるオリゴヌクレオチドがより好ましい。また、本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列に対して70%以上の相同性を有する塩基配列又はその相補配列で表されるオリゴヌクレオチドであってもよく、相同性が80%以上であることがさらに好ましく、相同性が85%以上であることがさらに好ましく、相同性が90%以上であることがさらに好ましく、相同性が95%以上であることが特に好ましい。また、本発明で用いることができる検出用オリゴヌクレオチドには、配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列又はその相補配列において1又は数個、好ましくは1から5個、より好ましくは1から4個、さらに好ましくは1から3個、よりさらに好ましくは1から2個、特に好ましくは1個の塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾された塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドも包含される。また、配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列又はその相補配列に、適当な塩基配列を付加してもよい。
塩基配列の相同性については、Lipman−Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0030】
上記検出用オリゴヌクレオチドの結合様式は、天然の核酸に存在するホスホジエステル結合だけでなく、例えばホスホロアミデート結合、ホスホロチオエート結合等であってもよい。
【0031】
本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、核酸プライマー及び核酸プローブとして用いることができる。核酸プローブは、前記オリゴヌクレオチドを標識物によって標識化することで調製することができる。前記標識物としては特に制限されず、放射性物質や酵素、蛍光物質、発光物質、抗原、ハプテン、酵素基質、不溶性担体などの通常の標識物を用いることができる。標識方法は、末端標識でも、配列の途中に標識してもよく、また、糖、リン酸基、塩基部分への標識であってもよい。かかる標識の検出手段としては、例えば核酸プローブが放射性同位元素で標識されている場合にはオートラジオグラフィー等、蛍光物質で標識されている場合には蛍光顕微鏡等、化学発光物質で標識されている場合には感光フィルムを用いた解析やCCDカメラを用いたデジタル解析等が挙げられる。
また、前記オリゴヌクレオチドは、固相担体に結合させて捕捉プローブとして用いることもできる。この場合、捕捉プローブと、標識核酸プローブの組み合わせでサンドイッチアッセイを行うこともできるし、標的核酸を標識して捕捉することもできる。
【0032】
本発明の検出法においては、パエシロマイセス バリオッティを同定、検出するために、配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列若しくはその相補配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できるオリゴヌクレオチドを核酸プローブとして用いたハイブリダイゼーションを行うことが好ましく、配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを用いるのがさらに好ましい。
【0033】
被検体中のパエシロマイセス バリオッティを検出するためには、配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列若しくはその相補配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できるオリゴヌクレオチドを標識化して核酸プローブとし、得られた核酸プローブをDNA又はRNAとハイブリダイズさせ、ハイブリダイズしたプローブの標識を適当な検出法により検出すればよい。上記核酸プローブはパエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子の可変領域の一部と特異的にハイブリダイズするので、被検体中のパエシロマイセス バリオッティを迅速かつ簡便に検出することができる。DNA又はRNAとハイブリダイズした核酸プローブの標識を測定する方法としては、通常の方法(FISH法、ドットブロット法、サザンブロット法、ノーザンブロット法等)を用いることができる。
【0034】
さらに、本発明の検出方法において、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティの同定を行うためには、該塩基配列の全部又は一部の領域を含むDNA断片を増幅し、増幅産物の有無を確認することが好ましい。当該領域を含むDNA断片を増幅する方法として特に制限はなく、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-based Amplification)法、RCA(Rolling-circle amplification)法、LAMP(Loop mediated isothermal amplification)法など通常の方法を用いることができる。しかし、本発明においては、PCR法又はLAMP法を用いるのが好ましい。
【0035】
本発明において、PCR法により増幅反応を行いパエシロマイセス バリオッティの検出を行う場合について説明する。
本発明の上記検出用オリゴヌクレオチドからなるプライマーとしては、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列から選択される領域であって、(1)パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む、(2)オリゴヌクレオチドのGC含量がおよそ30%〜80%となる、(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い、(4)オリゴヌクレオチドのTm値(融解温度:melting temperature)がおよそ55℃〜65℃となる、の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドが好ましい。
【0036】
上記(1)において「パエシロマイセス バリオッティに固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域」とは、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の中でも、異なる種間での塩基配列の保存性が特に低く(すなわち、パエシロマイセス バリオッティの特異性が特に高く)、10塩基前後にわたってパエシロマイセス バリオッティに固有の塩基配列が連続して現れる領域を意味する。また、上記(3)において「オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い」とは、プライマーの塩基配列からプライマー同士が結合しないことが予想されることを言う。
【0037】
本発明の検出用オリゴヌクレオチドの塩基数としては、特に限定されないが、13塩基〜30塩基であることが好ましく、18塩基〜23塩基であることがより好ましい。ハイブリダイズ時のオリゴヌクレオチドのTm値は、55℃〜65℃の範囲内であることが好ましく、59℃〜62℃の範囲内であることがより好ましい。オリゴヌクレオチドのGC含量は、30%〜80%が好ましく、45%〜65%がより好ましく、55%前後であることが最も好ましい。
【0038】
また、配列番号1又は2記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセス バリオッティの検出に使用できる塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティの同定を行う場合、配列番号1及び2に記載の塩基配列の一部であって当該塩基配列の50〜100位及び/又は280〜340位の塩基配列の全部又は一部、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列の全部又は一部を増幅することが好ましい。この場合、オリゴヌクレオチドの塩基数としては特に限定されないが、13塩基〜30塩基であることが好ましく、18塩基〜23塩基であることがより好ましい。
PCR法により増幅反応を行い、パエシロマイセス バリオッティを検出するためには、下記の(c)又は(d)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのが好ましく、配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド及び配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを用いるのがさらに好ましい。
(c)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
また、本発明のパエシロマイセス バリオッティ検出用オリゴヌクレオチド対は、前記(c)のオリゴヌクレオチドと前記(d)のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド対である。
配列番号5及び配列番号6で示されるオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子領域に存在し、可変領域の一部分の塩基配列又はその相補配列と同じ塩基配列を持つオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス バリオッティのDNAの一部分に特異的にハイブリダイズすることができる。
前記(c)及び(d)で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号1に記載の塩基配列のうち、それぞれ64位〜85位まで、306位〜325位までの領域に対応する。したがって、前記オリゴヌクレオチドをパエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズさせることによって、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出することができる。
【0039】
また、本発明において、PCR法により増幅反応を行いパエシロマイセス バリオッティを検出するためには、下記(e)のオリゴヌクレオチド、並びに(f)のオリゴヌクレオチド及び/又は(g)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのが好ましく、配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、並びに配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド及び/又は配列番号9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを用いるのがさらに好ましく、配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド及び配列番号9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを用いるのが特に好ましい。
(e)配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(g)配列番号9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0040】
また、本発明のパエシロマイセス バリオッティ検出用オリゴヌクレオチド対(オリゴヌクレオチド群)は、前記(e)のオリゴヌクレオチドと前記(f)のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド対、前記(e)のオリゴヌクレオチドと前記(g)のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド対、及び前記(e)のオリゴヌクレオチドと前記(f)のオリゴヌクレオチドと前記(g)のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド群である。
【0041】
配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子領域に存在し、可変領域の一部分の塩基配列又はその相補配列と同じ塩基配列を持つオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、パエシロマイセス バリオッティのDNAの一部分に特異的にハイブリダイズすることができる。
前記(e)及び(f)で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号22に記載の塩基配列のうち、それぞれ98位〜116位まで、266位〜285位までの領域に対応する。(e)及び(g)で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号28に記載の塩基配列のうち、92位〜110位まで、261位〜280位の領域に対応する。したがって、前記オリゴヌクレオチドをパエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズさせることによって、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出することができる。
【0042】
本発明におけるPCR反応の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。PCRの反応条件の好ましい一例としては、例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を95〜98℃で10〜60秒間行い、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を約59℃で約60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を約72℃で約60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約30〜35サイクル行う。
【0043】
本発明において、PCR法により増幅した遺伝子断片の確認は通常の方法で行うことができる。例えば増幅反応時に放射性物質などで標識されたヌクレオチドを取り込ませる方法、PCR反応産物について電気泳動を行い増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法、PCR反応産物の塩基配列を解読する方法、増幅したDNA2本鎖の間に蛍光物質を入り込ませ発光させる方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、遺伝子増幅処理後に電気泳動を行い、増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法が好ましい。
検体にパエシロマイセス バリオッティが含まれる場合、本発明のオリゴヌクレオチド対をプライマーセットとして使用してPCR反応を行い、得られたPCR反応産物について電気泳動を行うと、これらの菌類に特異的なDNA断片の増幅が認められる。具体的には、前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いた場合は約250bpのDNA断片の増幅が認められ、下記(e)のオリゴヌクレオチド、並びに(f)のオリゴヌクレオチド及び/又は(g)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いた場合は約200bpのDNA断片の増幅が認められる。この操作を行うことにより、検体にパエシロマイセス バリオッティが含まれているかを確認することができる。
【0044】
本発明において可変領域を含むDNA断片をLAMP法によって増幅させる場合、周期的な温度変化制御が不要となるため、等温での相補鎖合成反応が可能である。このため、検体中に含まれる特定の菌類を簡便かつ迅速に検出できる。
【0045】
LAMP法は、PCR法で不可欠とされる周期的な温度変化制御が不要なループ媒介等温増幅法(国際公開第00/28082号パンフレット)であって、鋳型となるヌクレオチドにプライマーの3’側をアニールさせて相補鎖合成の起点とすると共に、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能にする。このLAMP法では、鋳型となる核酸の6つの塩基配列領域を認識する少なくとも4つのプライマーが必要とされる。これらのプライマーは、3’側が常に鋳型となるヌクレオチドにアニールするように設計されるため、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能することになり、高感度でかつ特異性の高い核酸の増幅反応が可能となる。
【0046】
LAMP法に用いられるプライマーが認識する6つの塩基配列領域は、鋳型となるヌクレオチドの5’側から順にF3、F2、F1と呼び、3’側から順にB3c、B2c、B1cと呼び、さらに、F1、F2、F3の相補的な塩基配列をそれぞれF1c、F2c、F3cと呼び、B1c、B2c、B3cの相補的な塩基配列をそれぞれB1、B2、B3と呼ぶ。
上記6つの塩基配列領域は、下記のように選定することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
対象となる菌種遺伝子の塩基配列のアライメントを行い、Primer Explorer V4(栄研化学HP)等のソフトウエアを用いて、複数のプライマーを設計する。それらを合成し、実際にLAMP反応を行い、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出することができるプライマーを採用した。
詳細には、
1. Clustal Xなどのアラインメントソフトを用いて対象となる菌種の標的領域の塩基配列情報のアライメントファイルを作成する。
2. アライメントファイル中の情報をもとにPrimer Explorer V4(栄研化学HP)を用いてプライマーを設計する。
3. 設計されたプライマーセットの候補の中からより安定(dimer構造をとりにくい)で、伸長方向の先端に変異(種特異的な変異)を多く含むプライマーセットを選択する。特にインナープライマーの伸長方向に多くの変異を含んでいると近縁な種とも区別ができる可能性が高まる。プライマーセットの候補ができない場合には、Tm値やプライマーの塩基数についての設定をゆるく幅を持たせるようにし設計する。
4. 実際に選択したプライマーセットを用いて試験を行い、有効性を確認する。有効性が確認された後、ループプライマーを設計し、より反応時間が短くなるようにする。
【0047】
LAMP法に用いられるプライマーの設計は、まず、標的領域の塩基配列から上記の6つの塩基配列領域を決定し、その後、後述するインナープライマーF及びB並びにアウタープライマーF及びBを設計する。
【0048】
LAMP法に用いられる「インナープライマー」とは、標的塩基配列上のある特定のヌクレオチド配列領域を認識し、かつ合成起点を与える塩基配列を3’側に有し、同時にこのプライマーを起点とする核酸合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を5’側に有するオリゴヌクレオチドのことをいう。このうち、前記F2領域を3’側に有し、前記F1c領域を5’側に有する塩基配列を含むプライマーをインナープライマーF(以下、FIP)と呼び、前記B2領域を3’側に有し、前記B1c領域を5’側に有する塩基配列を含むプライマーをインナープライマーB(以下、BIP)と呼ぶ。このインナープライマーは、F2領域とF1c領域の間、又はB2領域とB1c領域の間に、塩基数0〜50のいずれかの長さの任意の塩基配列を有していてもよい。
一方、「アウタープライマー」とは、標的塩基配列上の『「ある特定のヌクレオチド配列領域」(例えば前記F2領域又はB2領域)の5'末端側に存在するある特定のヌクレオチド配列領域』を認識かつ合成起点を与える塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであり、F3領域より選ばれた塩基配列を含むプライマー及びB3領域より選ばれた塩基配列を含むプライマーが挙げられる。ここで、F3領域より選ばれた塩基配列を含むプライマーをアウタープライマーF(以下、F3プライマー)、B3領域より選ばれた塩基配列を含むプライマーをアウタープライマーB(以下、B3プライマー)と呼ぶ。
ここで、各プライマーにおけるFとは、標的塩基配列のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供することを意味するプライマー表示であり、各プライマーにおけるBとは、標的塩基配列のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供することを意味するプライマー表示である。
【0049】
LAMP法における核酸の増幅では、インナープライマー及びアウタープライマーに加え、さらにループプライマー(以下、LF、LB)を好ましく用いることができる。ループプライマーは、LAMP法による増幅生成物の同一鎖上に生じる相補的配列が互いにアニールしてループを形成するとき、このループ内の配列に相補的な塩基配列をその3’側に含むプライマー(二本鎖を構成する各々について1つずつ)のことをいう。すなわち、ダンベル構造の5’側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つプライマーである。このプライマーを用いれば、核酸合成の起点が増加するため、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる(国際公開第02/24902号パンフレット)。
ループプライマーの塩基配列は、上記ダンベル構造の5’側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的であれば、標的領域の塩基配列又はその相補鎖から選択されてもよく、他の塩基配列でもよい。また、ループプライマーは1種類であっても、2種類であってもよい。
【0050】
上記の少なくとも4種以上のプライマーを用いて標的領域を含むDNA断片を増幅すれば、当該DNA断片を特異的かつ効率的に検出可能な量まで増幅することが可能である。このため、増幅産物の有無を確認することによって、特定の菌類を検出することができる。
【0051】
LAMP法に用いることができるプライマーは、15塩基以上であることが好ましく、20塩基以上であることがさらに好ましい。また、各プライマーは、単一の塩基配列のオリゴヌクレオチドであってもよく、複数の塩基配列のオリゴヌクレオチドの混合物であってもよい。
【0052】
また、LAMP法に用いることができるアウタープライマーは、標的領域を含むDNA断片を増幅するためにPCR法にも使用できる。PCR法では、上記プライマーを用いて、検体中のβ−チューブリン遺伝子を鋳型に耐熱性のDNAポリメラーゼでPCRを行えば、目的とするDNA断片を増幅させることが可能である。
【0053】
次に、パエシロマイセス バリオッティをLAMP法により検出する場合に好ましく用いられるプライマーセットについて説明する。パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出するために、下記のプライマーセット(プライマーセット1)を用いるのがより好ましい。

パエシロマイセス バリオッティ検出用プライマーセット1
LPae1F3プライマー:ACGATCCTATAGGCAGACCA(配列番号10)
LPae1B3プライマー:CCAGCGGCCTATTTATTGGT(配列番号11)
LPae1FIPプライマー:CGTCTCTCTCGATTCCGTGTCGCCTTGACGGCTCTGGTGT(配列番号12)
LPae1BIPプライマー:CTCCGACCTTCAGCTCGAGCGGAGCGTTCCTCTTGGGAT(配列番号13)

パエシロマイセス バリオッティを検出するために、上記プライマーに加えてループプライマーを用いるのが好ましい。ループプライマーとしては、下記のプライマーを用いるのが好ましい。

パエシロマイセス バリオッティ検出用ループプライマー
LPae1LFループプライマー:TCCCCAGATATCGTGTACTTAC(配列番号14)
LPae1LBループプライマー:ACTTCAACGAGGTAGTTGTTG(配列番号15)

図1に、パエシロマイセス バリオッティIFM40913株のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列における、上記プライマーが認識する塩基配列の位置関係を示す。
【0054】
本発明においては、下記のプライマーセット(プライマーセット2)を用いてパエシロマイセス バリオッティをLAMP法により検出することも好ましい。

パエシロマイセス バリオッティ検出用プライマーセット2
LPae2F3プライマー:CGATATCTGGGGATGCTTCG(配列番号16)
LPae2B3プライマー:CGTCCATGGTACCAGGCT(配列番号17)
LPae2FIPプライマー:ATGCGCTCGAGCTGAAGGTCCGGAATCGAGAGAGAGACGACT(配列番号18)
LPae2BIPプライマー:TGATCCCAAGAGGAACGCCCCACGAGGAACGTACTTCTTGCC(配列番号19)

パエシロマイセス バリオッティを検出するために、上記プライマーに加えてループプライマーを用いるのが好ましい。ループプライマーとしては、下記のプライマーを用いるのが好ましい。

パエシロマイセス バリオッティ検出用ループプライマー
LPae2LFループプライマー:GGAGGAGCCATTGTAGCTAA(配列番号20)
LPae2LBループプライマー:GAGCTCACCAATAAATAGGCC(配列番号21)

図2に、パエシロマイセス バリオッティIFM40913株及びIFM40915株のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列における、上記プライマーが認識する塩基配列の位置関係を示す。
【0055】
本発明のパエシロマイセス バリオッティ検出用プライマーセットは、LAMP法で検出するのに用いるプライマーセットであって、配列番号10に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと、配列番号11に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと、配列番号12に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと、配列番号13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーとを含むことを特徴とし、このプライマーセットは、配列番号14及び配列番号15に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーをさらに含むことが好ましい。
また、本発明の別のパエシロマイセス バリオッティ検出用プライマーセットは、LAMP法で検出するのに用いるプライマーセットであって、配列番号16に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと、配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと、配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーと、配列番号19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーとを含むことを特徴とし、このプライマーセットは、配列番号20及び配列番号21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーをさらに含むことが好ましい。
上記プライマーセットを用いることにより、パエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子の標的領域を含むDNA断片をLAMP法により特異的、迅速かつ高感度に増幅することができる。このため、当該DNA断片の増幅が確認された場合には、検体中にパエシロマイセス バリオッティが存在すると判断できる。
【0056】
また、本発明のパエシロマイセス バリオッティ検出用オリゴヌクレオチドは、β−チューブリン遺伝子の塩基配列から選択される標的領域の5’側から、塩基配列領域としてF3、F2及びF1を選択し、前記標的領域の3’側から、塩基配列領域としてB3c、B2c及びB1cを選択し、前記B3c、B2c及びB1cの相補的塩基配列を、それぞれB3、B2及びB1とし、前記F3、F2及びF1に相補的な塩基配列を、それぞれF3c、F2c及びF1cとしたとき、下記の(a’)〜(f’)のいずれかに該当する塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
(a’)前記B2領域を3’側に有し、前記B1c領域を5’側に有する塩基配列
(b’)前記B3領域を有する塩基配列
(c’)前記F2領域を3’側に有し、前記F1c領域を5’側に有する塩基配列
(d’)前記F3領域を有する塩基配列
(e’)前記B1領域と前記B2領域の間の部分と相補的な配列を有する塩基配列
(f’)前記F1領域と前記F2領域の間の部分と相補的な配列を有する塩基配列
本発明のオリゴヌクレオチドは、LAMP法で用いられるプライマーとしてだけではなく、PCR法等のプライマー、核酸検出用プローブなどとしても用いることができる。
【0057】
標的領域を含むDNA断片をLAMP法により増幅させる場合に用いられる酵素は、通常用いられるものであれば特に制限はないが、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素が好ましい。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられ、好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。本発明に用いることができる酵素は、ウイルスや細菌等から精製されたものでもよく、遺伝子組換え技術によって作製されたものでもよい。またこれらの酵素はフラグメント化やアミノ酸の置換等の改変をされたものでもよい。
【0058】
標的領域を含むDNA断片をLAMP法により増幅させるときの温度に特に制限はないが、55〜68℃が好ましく、60〜65℃がより好ましい。
【0059】
標的領域を含むDNA断片の増幅は通常の方法により確認することができる。前記標的領域を含むDNA断片をLAMP法によって増幅させる場合には、例えば、増幅された塩基配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドをプローブに用いてハイブリダイゼーションを行ったり、蛍光性インターカレーター法(特開2001−242169号公報)で検出したり、あるいは、反応終了後の反応液をそのままアガロースゲルで電気泳動してバンドとして検出することもできる。アガロースゲル電気泳動では、LAMP増幅産物は、塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。
また、LAMP法では核酸の合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸イオンが、共存するマグネシウムイオンと反応してピロリン酸マグネシウムが算出される。ピロリン酸マグネシウムが算出されると、反応液が肉眼で確認できる程度にまで白濁する。この白濁を指標として、反応終了後あるいは反応中の濁度上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器を用いて検出できる。例えば、分光光度計を用いて400nmにおける吸光度の変化を確認することによって、核酸の増幅反応を検出することができる(国際公開第01/83817号パンフレット)。
【0060】
本発明において、標的領域を含むDNA断片の増幅のために用いられるプライマーは、設計した配列を基にして化学合成したり、試薬メーカーから購入することができる。具体的には、オリゴヌクレオチド合成装置等を用いて合成することができる。また、合成後、吸着カラム、高速液体クロマトグラフィーや電気泳動法を用いて精製したものを用いることもできる。また、1ないし数個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドについても、公知の方法を使用して合成できる。
【0061】
本発明において使用される検体としては特に制限はなく、飲食品自体、飲食品の原材料、単離菌体、培養菌体等を用いることができる。
検体からDNAを調製する方法としては、パエシロマイセス バリオッティの検出を行うのに十分な精製度及び量のDNAが得られるのであれば特に制限されず、未精製の状態でも使用できるが、さらに分離、抽出、濃縮、精製等の前処理をして使用することもできる。例えば、フェノール及びクロロホルム抽出を行って精製したり、市販の抽出キットを用いて精製して、核酸の純度を高めて使用することができる。また、被検体中のRNAを逆転写して得られるDNAを用いることもできる。
【0062】
本発明のプライマーを用いて標的領域を含むDNA断片の増幅を行う際に必要な各種の試薬類は、予めパッケージングしてキット化することができる。
例えば、本発明のキットには、LAMP法に用いることができる上記プライマーセット(好ましくは、配列番号10〜13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを含むプライマーセット、配列番号10〜15に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを含むプライマーセット、配列番号16〜19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを含むプライマーセット、又は配列番号16〜21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを含むプライマーセット)と、DNAポリメラーゼと、dATP、dCTP、dGTP及びdTTPを含むdNTPとを含有する。好ましくは、前記プライマーセット、ループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド(好ましくは配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー)、核酸合成の基質となる4種類のdNTP(dATP、dCTP、dGTP及びdTTP)、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素などのDNAポリメラーゼと、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液、補助因子としての塩類(マグネシウム塩又はマンガン塩等)、酵素や鋳型を安定化する保護剤、さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして含有される。本発明のキットには、本発明のプライマーによってLAMP反応が正常に進行することを確認するための陽性対照(ポジティブコントロール)を含んでいてもよい。陽性対照としては、例えば、本発明の方法により増幅される領域を含んだDNAが挙げられる。
また、本発明のパエシロマイセス バリオッティ検出用キットは、前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対、前記の(e)及び(f)のオリゴヌクレオチド対、前記の(e)及び(g)のオリゴヌクレオチド対、又は前記の(e)、(f)及び(g)のオリゴヌクレオチド群からなる群より選ばれる少なくとも1対又は1群で示された検出用オリゴヌクレオチド対又はオリゴヌクレオチド群を核酸プライマーとして含有するものである。このキットは、PCR法によりパエシロマイセス バリオッティを検出する方法に好ましく用いることができる。本発明のキットは、前記核酸プライマーの他に、目的に応じ、標識検出物質、緩衝液、核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酵素基質(dNTP,rNTP等)等、菌類の検出に通常用いられる物質を含有する。本発明のキットには、本発明のプライマーによってPCR反応が正常に進行することを確認するための陽性対照(ポジティブコントロール)を含んでいてもよい。陽性対照としては、例えば、本発明の方法により増幅される領域を含んだDNAが挙げられる。
【0063】
本発明の方法によれば、検体の調製工程から菌類の検出工程までを約60〜120分という短時間で行うことが可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0065】
実施例1 PCR法によるパエシロマイセス バリオッティの検出
(1)標的遺伝子の解析
下記の方法によりパエシロマイセス バリオッティのβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を決定した。
ポテトデキストロース寒天斜面培地にて供試菌を25℃で7日間、暗所培養した。菌体からGenとるくんTM(タカラバイオ(株)社製)を使用し、DNAを抽出した。目的とする部位のPCR増幅は、PuRe TaqTM Ready-To-Go PCR Beads(GE Health Care UK LTD製)を用いて、プライマーとしてBt2a(5'-GGTAACCAAATCGGTGCTGCTTTC-3'、配列番号34)、Bt2b(5'-ACCCTCAGTGTAGTGACCCTTGGC-3'、配列番号35)(Glass and Donaldson,Appl Environ Microbiol 61:1323−1330,1995)を使用した。増幅条件は、βチューブリン部分長は変性温度95℃、アニーリング温度59℃、伸長温度72℃、35サイクルで実施した。PCR産物は、Auto SegTM G−50(Amersham Pharmacia Biotech社製)を使用し精製した。PCR産物は、BigDye(登録商標)terminator Ver. 1.1(Applied Biosystems社製)を使用してラベル化し、ABI PRISM 3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)で電気泳動を実施した。電気泳動時の蛍光シグナルからの塩基配列の決定には、ソフトウエアー“ATGC Ver.4”(Genetyx社製)を使用した。
【0066】
(2)プライマーの調製
上記で得られたパエシロマイセス バリオッティのβチューブリン配列、同様にして決定したハミゲラ アベラネラ(Hamigera avellanea)、タラロマイセス フラバス(Talaromyces flavus)、タラロマイセス ルテウス(Talaromyces luteus)、タラロマイセス トラキスパーマム(Talaromyces trachyspermus)、ビソクラミス ニベア(Byssochlamys nivea)、ビソクラミス フルバ(Byssochlamys fulva)のβチューブリン配列及び各種菌類の公知のβチューブリン配列をもとに、DNA解析ソフトウェア(Clustal W)を用いてアライメント解析を行い、パエシロマイセス バリオッティに特異的な塩基配列領域を決定した(配列番号1〜4及び22〜33)。決定した領域のうち、3’末端側でパエシロマイセス バリオッティの特異性が特に高い領域から、1)種固有の塩基配列が数塩基前後存在している、2)GC含量が概ね30%〜80%となる、3)自己アニールの可能性が低い、4)Tm値が概ね55〜65℃程度となる、の4つの条件を満たす部分領域の検討を行った。この塩基配列を基にして配列番号5及び6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを含む5組のプライマー対を設計し、シグマ アルドリッチ ジャパン社に合成依頼し(脱塩性製品、0.02μmolスケール)、購入した。
【0067】
(3)検体の調製
設計したプライマーの有効性の評価に用いる真菌類、すなわちパエシロマイセス バリオッティとその他の耐熱性菌及び一般カビとしては、表1及び表2に記載の菌を使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて一般カビは25℃、耐熱性菌は30℃で7日間培養した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
(4)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製PrepMan ultra(商品名))を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0071】
(5)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Pae1Fプライマー)等のフォワードプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Pae1Rプライマー)等のリバースプライマー(20pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)98℃、10秒間の熱変性反応、(ii)63℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを30サイクル行った。
【0072】
(6)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から10μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、紫外線下で蛍光を検出することにより増幅されたDNA断片の有無を確認した。その結果5組設計したプライマーセットのうち配列番号5及び6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対を用いた場合、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを含む試料では、設計したプライマー対から予想されるサイズに遺伝子断片の増幅が確認された。一方、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。配列番号5及び6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対を用いた場合のアガロースゲルの電気泳動図を図3及び図4に示す。なお、図3は表1に示す菌類の試料についての電気泳動図を示し、図4は表2に示す菌類の試料についての電気泳動図を示す。図中の番号は表記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。
その結果パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを含む試料では、約250bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。
【0073】
以上の結果から、配列番号5及び6記載の本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出できることがわかる。さらに、本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列を基にして、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るパエシロマイセス バリオッティ検出用オリゴヌクレオチドを容易に設計できることがわかる。
【0074】
実施例2 LAMP法によるパエシロマイセス バリオッティの検出
(1)プライマーの設計及び合成
上記実施例1で特定したパエシロマイセス バリオッティに特異的な塩基配列領域(配列番号1〜4及び22〜33)をもとに、配列番号10〜15に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを設計し、E Genome order(株式会社富士通システムソリューションズ、配列番号10及び11;5pmolスケール、配列番号12及び13;40pmolスケール、配列番号14及び15:20pmolスケール;全てカラム精製品)に合成依頼し、購入した。
【0075】
(2)検体の調製
設計したプライマーの有効性の評価に用いる真菌類、すなわちパエシロマイセス バリオッティとその他の耐熱性菌としては、表3に記載の菌類を使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて30℃で7日間培養した。
【0076】
【表3】

【0077】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(商品名 PrepMan ultra、アプライドバイオ社製)を用いて、菌体からゲノムDNA溶液を調製した。具体的には、各培地から数個のコロニーを採取し、キットの付属試薬200μlに菌体を懸濁し、100℃、10分間の加熱処理で菌体を溶解させ、14800rpmで5分間遠心分離した後、上清を回収した。得られたゲノムDNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。このゲノムDNA溶液を鋳型DNAとして、下記のLAMP反応に用いた。
【0078】
(4)LAMP反応のための反応液調製
2x Reaction Mix(Tris−HCl(pH8.8) 40mM、KCl 20mM、MgSO 16mM、(NHSO 20mM、0.2%Tween20、Betaine 1.6M、dNTPs 2.8mM:栄研化学株式会社;Loopamp DNA増幅試薬キット)12.5μl、配列番号10に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae1F3プライマー:5pmol/μl)1μl、配列番号11に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae1B3プライマー:5pmol/μl)1μl、配列番号12に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae1FIPプライマー:40pmol/μl)1μl、配列番号13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae1BIPプライマー:40pmol/μl)1μl、配列番号14に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae1LFループプライマー:20pmol/μl)1μl、配列番号15に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae1LBループプライマー:20pmol/μl)1μl、Bst DNA Polymerase(8U/25μL、栄研化学株式会社製)1μl、及び上記で調製した鋳型DNA 1μlを混合し、蒸留水を加えて全量25μlの反応液とした。
【0079】
(5)LAMP反応
上記で調製した反応液を、リアルタイム濁度測定装置Loopamp RT−160C(栄研化学株式会社製)にて、63±2℃で60分間DNAの増幅反応を行った。同時に反応液の濁度を測定した(波長:400nm)。
【0080】
(6)DNA増幅確認
DNAの増幅の有無は、反応液の濁度が上昇しているかによって判断した。反応液の濁度の測定結果を、図5に示す。
その結果、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを鋳型とした系のみで、反応開始23分前後から濁度の上昇、すなわちDNAの合成・増幅反応が認められた。
一方、その他の菌類のゲノムDNAを用いた系では、反応開始後40分までの間、反応液の濁度の上昇は認められなかった。なお、反応開始45分前後から、パエシロマイセス バリオッティ以外のゲノムDNAを用いた系においても反応液の濁度上昇が観察されたが、これは経時的にプラマー同士の非特異的な反応が発生したため、あるいは反応時間が長いと、ターゲット以外の部分にも少数のプライマーが反応してしまったためと考えられる。
【0081】
実施例3 LAMP法によるパエシロマイセス バリオッティの検出
(1)プライマーの設計及び合成
上記実施例1で特定したパエシロマイセス バリオッティに特異的な塩基配列領域(配列番号1〜4及び22〜33)をもとに、配列番号16〜21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを設計し、E Genome order(株式会社富士通システムソリューションズ、配列番号16及び17;5pmolスケール、配列番号18及び19;40pmolスケール、配列番号20及び21:20pmolスケール;全てカラム精製品)に合成依頼し、購入した。
【0082】
(2)検体の調製
設計したプライマーの有効性の評価に用いる真菌類、すなわちパエシロマイセス バリオッティとその他の耐熱性菌及び一般カビとしては、表4に記載の菌類を使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて一般カビは25℃、耐熱性菌は30℃で7日間培養した。
【0083】
【表4】

【0084】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(商品名 PrepMan ultra、アプライドバイオ社製)を用いて、菌体からゲノムDNA溶液を調製した。具体的には、各培地から数個のコロニーを採取し、キットの付属試薬200μlに菌体を懸濁し、100℃、10分間の加熱処理で菌体を溶解させ、14800rpmで5分間遠心分離した後、上清を回収した。得られたゲノムDNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。このゲノムDNA溶液を鋳型DNAとして、下記のLAMP反応に用いた。
【0085】
(4)LAMP反応のための反応液調製
2x Reaction Mix(Tris−HCl(pH8.8) 40mM、KCl 20mM、MgSO 16mM、(NHSO 20mM、0.2%Tween20、Betaine 1.6M、dNTPs 2.8mM:栄研化学株式会社;Loopamp DNA増幅試薬キット)12.5μl、配列番号16に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae2F3プライマー:5pmol/μl)1μl、配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae2B3プライマー:5pmol/μl)1μl、配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae2FIPプライマー:40pmol/μl)1μl、配列番号19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae2BIPプライマー:40pmol/μl)1μl、配列番号20に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae2LFループプライマー:20pmol/μl)1μl、配列番号21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(LPae2LBループプライマー:20pmol/μl)1μl、Bst DNA Polymerase(8U/25μL、栄研化学株式会社製)1μl、及び上記で調製した鋳型DNA 1μlを混合し、蒸留水を加えて全量25μlの反応液とした。
【0086】
(5)LAMP反応
上記で調製した反応液を、リアルタイム濁度測定装置Loopamp RT−160C(栄研化学株式会社製)にて、63±2℃で60分間DNAの増幅反応を行った。同時に反応液の濁度を測定した(波長:400nm)。
【0087】
(6)DNA増幅確認
DNAの増幅の有無は、反応液の濁度が上昇しているかによって判断した。反応液の濁度の測定結果を、図6に示す。
その結果、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを鋳型とした系のみで、反応開始20分前後から濁度の上昇、すなわちDNAの合成・増幅反応が認められた。
一方、その他の菌類のゲノムDNAを用いた系では、反応開始後50分までの間、反応液の濁度の上昇は認められなかった。なお、反応開始60分前後から、パエシロマイセス バリオッティ以外のゲノムDNAを用いた系においても反応液の濁度上昇が観察されたが、これは経時的にプラマー同士の非特異的な反応が発生したため、あるいは反応時間が長いと、ターゲット以外の部分にも少数のプライマーが反応してしまったためと考えられる。
【0088】
実施例4 PCR法によるパエシロマイセス バリオッティの検出
(1)プライマーの調製
上記実施例1で特定したパエシロマイセス バリオッティに特異的な塩基配列領域(配列番号1〜4及び22〜33)のうち、3’末端側でパエシロマイセス バリオッティの特異性が特に高い領域から、1)種固有の塩基配列が数塩基前後存在している、2)GC含量が概ね30%〜80%となる、3)自己アニールの可能性が低い、4)Tm値が概ね55〜65℃程度となる、の4つの条件を満たす部分領域の検討を行った。この塩基配列を基にして配列番号7〜9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを含む5組のプライマー対を設計し、シグマ アルドリッチ ジャパン社に合成依頼し(脱塩精製品、0.02μmolスケール)、購入した。
【0089】
(2)検体の調製
設計したプライマーの有効性の評価に用いる真菌類、すなわちパエシロマイセス バリオッティとその他の耐熱性菌としては、表5に記載の菌を使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて30℃で7日間培養した。
【0090】
【表5】

【0091】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製PrepMan ultra(商品名))を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0092】
(4)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)15μl、無菌蒸留水11μlを混合し、配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Pae4Fプライマー、20pmol/μl)1μl、配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Pae4R-1プライマー、20pmol/μl)1μl及び配列番号9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー(Pae1R-2プライマー、20pmol/μl)1μlを加え、30μlのPCR反応液を調製した。その他4組のプライマー対についても同様にPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)95℃、1分間の熱変性反応、(ii)59℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0093】
(5)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2.5μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、紫外線下で蛍光を検出することにより増幅されたDNA断片の有無を確認した。その結果、5組のプライマーセットのうち配列番号7〜9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いた場合、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを含む試料では、設計したプライマー対から予想されるサイズに遺伝子断片の増幅が確認された。一方、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。配列番号7〜9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いた場合のアガロースゲルの電気泳動図を図7に示す。図中の番号は表5記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。
その結果、パエシロマイセス バリオッティのゲノムDNAを含む試料では、約200bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、上記パエシロマイセス バリオッティの菌株のゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。
【0094】
以上の結果から、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出できることがわかる。さらに、本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列を基にして、パエシロマイセス バリオッティを特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るパエシロマイセス バリオッティ検出用オリゴヌクレオチドを容易に設計できることがわかる。
【0095】
実施例1〜4の結果から、本発明の方法によれば、簡便、迅速かつ特異的にパエシロマイセス バリオッティを検出することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸を用いてパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)の同定を行うことを特徴とするパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)の検出方法。
(a)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(b)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセス バリオッティの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【請求項2】
同定を行うために、被検菌のβ‐チューブリン遺伝子領域の塩基配列を決定し、該領域の塩基配列中に前記(a)又は(b)の塩基配列が含まれるか否かを確認することを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
同定を行うために、前記(a)又は(b)の塩基配列の全部又は一部を増幅し、増幅産物の有無を確認することを特徴とする請求項1又は2記載の検出方法。
【請求項4】
前記増幅反応をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって行う請求項3記載の検出方法。
【請求項5】
前記(a)又は(b)に記載の塩基配列で表される核酸中の領域であって、下記の(1)〜(4)の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを、核酸プライマーとして用いて遺伝子増幅反応を行うことを特徴とする請求項4記載の検出方法。
(1)パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む
(2)オリゴヌクレオチドのGC含量が30%〜80%となる
(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い
(4)オリゴヌクレオチドのTm値が55℃〜65℃となる
【請求項6】
下記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて前記ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を行う請求項4又は5記載の検出方法。
(c)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項7】
下記(e)のオリゴヌクレオチド、並びに(f)のオリゴヌクレオチド及び/又は(g)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて前記ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を行う請求項4又は5記載の検出方法。
(e)配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(g)配列番号9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項8】
前記増幅反応をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法によって行う請求項3記載の検出方法。
【請求項9】
配列番号10〜13又は配列番号16〜19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを含むプライマーセットを用いる請求項8記載の検出方法。
【請求項10】
請求項8記載の検出方法であって、配列番号10〜13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを含むプライマーセットを用い、さらに配列番号14に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー及び/又は配列番号15に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを用いる請求項8記載の検出方法。
【請求項11】
請求項8記載の検出方法であって、配列番号16〜19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用い、さらに配列番号20に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー及び/又は配列番号21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを用いる請求項8記載の検出方法。
【請求項12】
パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)の検出に用いるための、下記(a)又は(b)の塩基配列で表されるDNA。
(a)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(b)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセス バリオッティの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【請求項13】
下記(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチド。
(a)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列又はその相補配列
(b)配列番号1〜4及び22〜33のいずれかに記載の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつパエシロマイセス バリオッティの検出に使用できる塩基配列、又はその相補配列
【請求項14】
前記オリゴヌクレオチドが(a)又は(b)の塩基配列で表される核酸中の領域であって、前記配列番号5〜21のいずれかに記載の塩基配列若しくはその相補配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できるオリゴヌクレオチドである請求項13記載のパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチド。
【請求項15】
パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列から選択される標的領域の配列の5’側から順に、塩基配列領域としてF3、F2及びF1を選択し、
前記標的領域の3’側から順に、塩基配列領域としてB3c、B2c及びB1cを選択し、
前記F3、F2及びF1の相補的塩基配列を、それぞれF3c、F2c及びF1cとし、
前記B3c、B2c及びB1cに相補的な塩基配列を、それぞれB3、B2及びB1としたとき、
下記の(a’)〜(f’)のいずれかに該当する塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドである請求項13又は14記載のパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチド。
(a’)前記B2領域を3’側に有し、前記B1c領域を5’側に有する塩基配列
(b’)前記B3領域を有する塩基配列
(c’)前記F2領域を3’側に有し、前記F1c領域を5’側に有する塩基配列
(d’)前記F3領域を有する塩基配列
(e’)前記B1領域と前記B2領域の間の部分と相補的な配列を有する塩基配列
(f’)前記F1領域と前記F2領域の間の部分と相補的な配列を有する塩基配列
【請求項16】
前記オリゴヌクレオチドが核酸プライマーであることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか記載のパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチド。
【請求項17】
前記検出用オリゴヌクレオチドが、前記(a)又は(b)に記載の塩基配列で表される核酸中の領域であって、下記の(1)〜(4)の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項13〜16のいずれか記載のパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチド。
(1)パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む
(2)オリゴヌクレオチドのGC含量が30%〜80%となる
(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い
(4)オリゴヌクレオチドのTm値が55℃〜65℃となる
【請求項18】
下記の(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対、下記の(e)及び(f)のオリゴヌクレオチド対、下記の(e)及び(g)のオリゴヌクレオチド対、又は下記の(e)、(f)及び(g)のオリゴヌクレオチド群からなる群より選ばれる少なくとも1対又は1群で示されたパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出用オリゴヌクレオチド対又はオリゴヌクレオチド群。
(c)配列番号5に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号6に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e)配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(g)配列番号9に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項19】
請求項18記載のオリゴヌクレオチド対又はオリゴヌクレオチド群を含むパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出キット。
【請求項20】
パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号10に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号14に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号15に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセット。
【請求項21】
パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号10に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号13に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセット。
【請求項22】
パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号16に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号20に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号21に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセット。
【請求項23】
パエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)をLoop mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出するのに用いるプライマーセットであって、
配列番号16に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、
配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー、及び
配列番号19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー
を含むプライマーセット。
【請求項24】
請求項20〜23のいずれか記載のプライマーセットと、
DNAポリメラーゼと、
dATP、dCTP、dGTP及びdTTPを含むdNTPと、
を含むパエシロマイセス バリオッティ(Paecilomyces variotii)検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−4881(P2010−4881A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130744(P2009−130744)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】